説明

粉状塗料

【課題】 水への再分散性に優れ且つ形成塗膜の耐水性等に優れた粉状塗料を提供すること。
【解決手段】 (I) 平均重合度50〜4000及び平均ケン化度80〜99.5%のポリビニルアルコール系保護コロイド(A)の存在下で、カルボニル基含有モノマー(a)0.1〜30重量%及びその他の重合性不飽和モノマー(b)70〜99.9重量%を含有するモノマー混合物(B)を乳化重合させることにより得られるエマルション(C)及び水溶性添加剤(D)を含んでなる混合液(E)を乾燥・粉末化することにより得られる再分散性粉末、及び(II) 粉末状ヒドラジン系化合物を含有することを特徴とする粉状塗料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水への再分散性に優れ且つ形成塗膜の耐水性等に優れた粉状塗料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保全、省資源、作業性などの観点から、コーティング材料や各種添加剤等に用いられる合成樹脂は、溶剤系樹脂より水分散型樹脂や水溶性樹脂等の水性合成樹脂に移行しつつある。この水性合成樹脂のうち、水を加えて攪拌混合することにより容易に水に分散する粉末状の樹脂は、再分散性樹脂粉末あるいは易水分散性樹脂粉末と呼ばれ、輸送や保管、廃棄処理等の容易さから、従来、土木用、紙用、接着剤用、塗料用等のバインダー、セメントやモルタルへの混入剤などとして利用されている。
【0003】
従来、上記の樹脂粉末は、合成樹脂エマルションを噴霧乾燥する等の手段によって製造されており、この樹脂粉末の製造に使用される合成樹脂エマルションには、通常、再分散性確保などの観点から、乳化重合時に用いられる保護コロイドとして、ポリビニルアルコールやセルロース誘導体等の水溶性高分子が使用されるため、得られる被膜の耐水性に劣るという欠点があった。かかる欠点を克服するため、保護コロイドとしてアセトアセチル化ポリビニルアルコールや重合性乳化剤による親水性重合物等を用いるなどの手法が提案されている(例えば特許文献1、2参照)。しかしながら、これらの手法によって得られる樹脂粉末を用いても、十分に満足することのできる耐水性をもつ被膜を形成せしめることはできない。
【特許文献1】特開平7−53730号公報
【特許文献2】特開平7−157565号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、水への再分散性に優れ且つ形成塗膜の耐水性等に優れた粉状塗料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明によれば、
(I) 平均重合度50〜4000及び平均ケン化度80〜99.5%のポリビニルアルコール系保護コロイド(A)の存在下で、カルボニル基含有モノマー(a)0.1〜30重量%及びその他の重合性不飽和モノマー(b)70〜99.9重量%を含有するモノマー混合物(B)を乳化重合させることにより得られるエマルション(C)及び水溶性添加剤(D)を含んでなる混合液(E)を乾燥・粉末化することにより得られる再分散性粉末、及び
(II) 粉末状ヒドラジン系化合物
を含有することを特徴とする粉状塗料が提供される。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、特定の架橋反応性基を有する特定の再分散性粉末(I)と、該架橋反応性基と反応し得る架橋反応性基を有する架橋剤としての粉末状ヒドラジン系化合物(II)とを用いることによって、水への再分散性と得られる塗膜の耐水性の両方に優れた粉状塗料が得られる。
【0007】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0008】
本発明において用いられる再分散性粉末(I)は、ポリビニルアルコール系保護コロイド(A)の存在下で、カルボニル基含有モノマー(a)及びその他の重合性不飽和モノマー(b)を含有するモノマー混合物(B)を乳化重合することにより得られるエマルション(C)及び水溶性添加剤(D)を含んでなる混合液(E)を乾燥・粉末化することにより得られるものである。
【0009】
上記のポリビニルアルコール系保護コロイド(A)としては、平均重合度が50〜4000、好ましくは300〜2000の範囲内にあり且つ平均ケン化度が80〜99.5%、好ましくは87〜99.5%の範囲内にあるものを使用することができる。平均重合度及び/又は平均ケン化度が上記の範囲から外れると、一般に、得られる樹脂粉末の水への再分散性が低下する傾向が見られる。保護コロイドとして用いられるポリビニルアルコールは、それ自体既知の重合方法、例えば、酢酸ビニルをアルコール系有機溶媒中で溶液重合してポリ酢酸ビニルを製造し、これをケン化する等の方法により製造することができるが、これに限られるものではない。
【0010】
上記ポリビニルアルコールは変性されていてもよく、例えば、アセトアセチル化変性、カルボキシル変性、スルホン酸変性、エチレン変性、メルカプト変性などの変性ポリビニルアルコールを使用することもできる。本発明では、重合安定性などの観点から、アセトアセチル化変性ポリビニルアルコールを使用することが好ましい。
【0011】
ポリビニルアルコール系保護コロイド(A)には、耐水性などの観点から、カルボニル基を含有せしめることができる。その導入は、特に限定されるものではなく、それ自体既知の方法、例えば、アセトアセチル化変性法により行うことができ、その他に、酢酸ビニルをアルデヒド類やケトン類等の連鎖移動剤の共存下で重合させてからケン化するか、またはカルボニル基含有モノマーと酢酸ビニルを共重合させてからケン化するなどの方法によって行なうことができる。該カルボニル基の導入量は、通常、0.01〜3モル%、好ましくは0.05〜1モル%程度が好適である。
【0012】
上記のモノマー混合物(B)を構成するカルボニル基含有モノマ−(a)としては、1分子中に少なくとも1個のカルボニル基と少なくとも1個の重合性不飽和結合を有する化合物、例えば、アクロレイン、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミド、アセトアセトキシエチルメタクリレ−ト、ホルミルスチロ−ル、4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えば、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルブチルケトン)等が挙げられる。これらのうち特にダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタクリルアミドが好適である。
【0013】
カルボニル基含有モノマ−(a)と共重合させうるその他の重合性不飽和モノマ−(b)としては、通常の乳化重合に使用可能なものであれば特に制限なく使用することができ、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸n−、i−もしくはt−ブチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸イソボルニルなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸1,2,2,6,6−ペンタメチルピペリジル、(メタ)アクリル酸2,2,6,6−テトラメチルピペリジニル、2−(2′−ヒドロキシ−5′−メタクリルオキシフェニル)−2H−ベンゾトリアゾール;スチレン、ビニルトルエンなどのビニル芳香族化合物;N−ビニルピロリドン、エチレン、ブタジエン、クロロプレン、プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベオバ(シェル化学社の商標:バーサティック酸のビニルエステル)、(メタ)アクリロニトリルなどが挙げられ、これらは得られる重合体に所望される性能などに応じてそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。本発明では、耐水性、耐久性、耐薬品性などの観点から、(メタ)アクリル酸アルキルエステルをその他の重合性不飽和モノマ−(b)の主成分とすることが好ましい。
【0014】
また、その他の重合性不飽和モノマ−(b)として、親水性基である酸基や水酸基を有するモノマ−も使用可能であり、塗膜の透水量に悪影響を及ぼさない範囲内で使用することができる。かかる親水性基を有するモノマ−としては、例えば、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、β−カルボキシエチルアクリレ−ト、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸ナトリウム、スルホエチルメタクリレ−ト及びそのナトリウム塩やアンモニウム塩など;(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレ−ト、さらにグリシジル(メタ)アクリレ−トとアミン類との付加物など;ポリオキシエチレン鎖を有する(メタ)アクリレ−トなど;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレ−ト、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレ−トなどの(メタ)アクリル酸の炭素数2〜8のヒドロキシアルキルエステル等が挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0015】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」は、「アクリルまたはメタクリル」を表す。
【0016】
モノマー混合物(B)を構成するカルボニル基含有重合性不飽和モノマー(a)とその他の重合性不飽和モノマー(b)の使用割合は、一般に、モノマー(a)が0.1〜30重量%、好ましくは0.5〜10重量%、モノマー(b)が70〜99.9重量%、好ましくは90〜99.5重量%の範囲内とすることができる。モノマーの使用割合がこの範囲を外れると、重合が不安定となり、また得られるエマルションが不均一となる可能性がある。
【0017】
上記のモノマー混合物(B)の乳化重合は、それ自体既知の方法により行うことができ、その際、ポリビニルアルコール系保護コロイド(A)は、必要に応じて分散安定性向上のため、アニオン性乳化剤、カチオン性乳化剤、ノニオン性乳化剤などと併用してもよい。アニオン性乳化剤としては、特に限定されるものではなく、例えば、スルホン酸基、リン酸基等を有する乳化剤を用いることができる。ノニオン性乳化剤としては、例えば、ポリエチレングリコール型、多価アルコール型、アマイド系等のノニオン性乳化剤を用いることができ、一般にはHLBが5〜20のものが使用される。カチオン性乳化剤としては、例えば、アンモニウム塩、スルホニウム塩、ホスホニウム塩などのカチオン性基を有するものを使用することができる。これらのアニオン性、カチオン性及びノニオン性の乳化剤は、ラジカル反応性不飽和基を有する反応性乳化剤であってもよい。
【0018】
モノマー混合物(B)を乳化重合する際のポリビニルアルコール系保護コロイド(A)の使用量は、重合安定性や得られる粉末樹脂の水再分散性などの観点から、モノマー混合物(B)100重量部あたり、固形分量で1〜20重量部、好ましくは5〜15重量部の範囲内が好適である。
【0019】
また、乳化重合において、レドックス系重合開始剤や水溶性の過酸化物系開始剤、アゾ系開始剤などの従来公知の重合開始剤を使用することができる。乳化重合時の反応温度は、通常、30〜95℃の範囲内が好ましい。
【0020】
乳化重合によって得られるエマルション(C)は、水溶性添加剤(D)と混合することにより混合液(E)が調製される。水溶性添加剤(D)は、エマルション(C)の乾燥・粉末化時の融着防止や得られる樹脂粉末の水再分散性付与などのために添加されるものであり、該水溶性添加剤(D)としては、通常保護コロイドとして使用される水溶性高分子が適宜使用でき、特に、平均重合度50〜4000、好ましくは300〜2000及び平均ケン化度80〜99.5%、好ましくは87〜99.5%のポリビニルアルコールが好適である。
【0021】
上記水溶性添加剤(D)の添加量は、得られる樹脂粉末の水再分散性や形成塗膜の耐水性などの観点から、モノマー混合物(B)100重量部あたり、固形分で1〜20重量部、好ましくは5〜15重量部の範囲内が適当である。
【0022】
上記混合液(E)には、必要に応じて、さらに添加剤を加えてもよい。そのような添加剤としては、例えば、pH調整剤、消泡剤、防腐剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤などが挙げられる。
【0023】
混合液(E)は、また、上記の各成分に加えてさらに、着色顔料(G)を含む顔料分散液(H)の形態であってもよい。
【0024】
上記着色顔料(G)としては、特に制限はなく、従来から塗料分野で使用されているものを同様に使用することができ、例えば、チタン白、チタンイエロー、ベンガラ、カーボンブラック、黄鉛等の無機着色顔料;アゾ系、キナクリドン系、シアニンブルー、シアニングリーン、ベンゾイミダゾロン系、イソインドリン系、キノフタロン系等の有機着色顔料などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。特に、着色顔料(G)の少なくとも一部としてチタン白を含むものが好適に使用できる。
【0025】
上記着色顔料(G)の使用量は、一般に、混合液(E)の樹脂固形分100重量部あたり、1〜200重量部、好ましくは1〜100重量部の範囲内とすることができる。
【0026】
顔料水分散液(H)は、形成塗膜の仕上り性などの観点から、上記着色顔料(G)に顔料分散剤及び水を加え、分散処理することにより得られる顔料ペーストを、エマルション(C)及び水溶性添加剤(D)と混合することにより調製することが望ましい。
【0027】
上記顔料水分散液(H)には、エマルション(C)、水溶性添加剤(D)及び着色顔料(G)以外に、必要に応じて、例えば、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、クレー、珪酸アルミニウム、シリカ、タルク、アルミナホワイトなどの体質顔料;軽量骨材、石膏、セメント、消石灰粉末などの充填剤を適宜選択して添加することができる。これら体質顔料や充填剤は、乾燥後の粉状塗料に添加することも可能である。
【0028】
再分散性粉末(I)は、上記の如くして得られる混合液(E)を乾燥・粉末化することにより製造することができる。乾燥・粉末化は、特に制限されるものではなく種々の方法で行うことができ、例えば、噴霧乾燥法、凍結乾燥法、減圧乾燥法等によって行うことができるが、特に噴霧乾燥が好適である。また、乾燥した粉状エナメルは、フィルタ砕解機等を介して、特定の粒度以下をカットすることでダストを少なくすることが可能である。
【0029】
噴霧乾燥を行う場合、上記混合液(E)を抗粘結剤の存在下に噴霧して乾燥させることが望ましい。抗粘結剤としては、微粒子の無機粉末が好ましく、例えば、炭酸カルシウム、クレー、無水珪酸、珪酸アルミニウム、シリカ、タルク、アルミナホワイト等を使用することができる。抗粘結剤の量は特に限定されないが、再分散性粉末(I)100重量部あたり20重量部以下、好ましくは0.1〜20重量部の範囲内が適当である。
【0030】
他方、本発明に従い再分散性粉末(I)と組み合わせて用いられる粉末状ヒドラジン系化合物(II)は、主に再分散性粉末(I)成分の硬化剤として、また、ホルマリンキャッチャーとしての役割を果たすものである。
【0031】
粉末状ヒドラジン系化合物(II)としては、例えば、カルボヒドラジド;コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ドデシル酸ジヒドラジド、蓚酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、クエン酸トリヒドラジド等の脂肪族ポリカルボン酸のポリヒドラジド類;フタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、ピロメリット酸のジ、トリ及びテトラヒドラジド、2,6−ナフトエ酸ジヒドラジド等の芳香族ポリカルボン酸のポリヒドラジド類;炭酸ジヒドラジド;一般式 NH2−NH−CO−NHRNH−CO−NHNH2[式中、Rは例えばo−、m−もしくはp−フェニレン基、トルイレン基、シクロヘキシリデン基、メチルシクロヘキシリデン基等を示す]で表される脂環式又は芳香族のビスセミカルバジド類;トリカルボン酸のジ−もしくはトリ−ヒドラジド類、ビス(ヒドラジンスルホニル)ベンゼン等のジスルホン酸のジヒドラジド類;トリスルホン酸のジ−もしくはトリヒドラジド類;ポリアクリル酸ポリヒドラジド;ニトリロ酢酸トリヒドラジド;エチレンジアミンテトラ酢酸テトラヒドラジド;「アミキュアVDH」(味の素社製、商品名、1,3−ビス(ヒドラジノカルボノエチル)−5−イソプロピルヒダントイン)などが挙げられ、これらはそれぞれ単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。これらのうち、水への溶解性などの観点から、特にアジピン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジドなどが好適である。
【0032】
上記の粉末状ヒドラジン系化合物(II)は、前記再分散性粉末(I)中に含まれるカルボニル基1モルあたり、粉末状ヒドラジン系化合物(II)中のヒドラジド基が少なくとも0.01モル、好ましくは0.1〜1モルの範囲内となるような割合で配合することが望ましい。また、粉末状ヒドラジン系化合物(II)は、通常、本発明の粉状塗料中に、0.01〜20重量%、特に0.1〜10重量%の範囲内で含有させることが望ましい。
【0033】
本発明の粉末塗料は、以上に述べた再分散性粉末(I)と粉末状ヒドラジン系化合物(II)とを混合することにより製造することができる。粉末状ヒドラジン系化合物(II)は乾燥・粉末化後の再分散性粉末(I)に添加し均一に混合することが望ましい。
【0034】
本発明の粉末塗料には、さらに必要に応じて、例えば、粘性改良剤、増粘剤、顔料分散剤、安定剤、消泡剤、抗菌剤、有機溶剤、抗粘結剤等を含有せしめることができる。これらの添加剤は、その添加剤の形態に応じて、乾燥前の混合液(E)に添加してもよく、混合液(E)を乾燥する際に同時に噴霧してもよく、あるいは乾燥後の粉状塗料に添加してもよい。
【0035】
本発明の粉状塗料は、前述の再分散性粉末(I)及び粉末状ヒドラジン系化合物(II)ならびに必要に応じて使用される他の粉末状成分をそれぞれ計量混合し、そのまま容器詰めして製造することができる。
【0036】
容器としては、例えば、紙パック(防水紙袋や防水箱等)、金属缶、プラスチック缶、プラスチックパック(スタンディングパウチ等)など特に制限なく使用可能であり、容量は用途や必要量などに応じて適宜選択可能である。各粉末成分は、製品としての容器内に計量配合することが可能である。
【0037】
粉状塗料の容器への充填量は、容器容量の10〜80%の範囲内となるように各粉末成分を計量配合することが望ましい。これによって、使用時に、水性媒体を該容器内に添加し攪拌混合して液状化することができ、その結果、塗装現場で飛沫化の心配もなく利便性が高まる。ここで「使用時」とは、塗装に供する使用直前であっても、塗装までの一定期間前であってもよい。本発明の粉状塗料は、水性媒体を添加して液状化した状態で一定期間放置しておくこともできる。
【0038】
上記製品としての容器内の各粉末成分を均一に攪拌混合する手段としては、従来公知の攪拌装置が使用可能であり、通常、塗料容器を閉蓋して該塗料容器自体の回転や振動などに供する装置、例えば、ジャイロミキサーなどによって均一攪拌することができるが、原材料がすべて粉状であって上記で述べた方法にて計量詰めされたものであれば、塗装現場で、必要量の水を入れ液状の塗料とする際の攪拌により均一な混合が可能であるから、塗料充填後の攪拌を除くことが可能となる。これによって製品としてそのまま出荷もしくは使用に供し得る容器入り粉末塗料が得られる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、これら実施例のみに限定されるものではない。なお、「部」及び「%」はそれぞれ「重量部」及び「重量%」を示す。
【0040】
混合液(E)の製造
製造例1(E−1)(比較例用)
攪拌機及び還流冷却器を備えたセパラブルフラスコに、水123重量部と平均重合度500及び平均ケン化度86.5〜89%のポリビニルアルコール(ゴーセノールGL05 日本合成化学工業株式会社製)10重量部とを仕込み、加熱して80℃で溶解する。次に、フラスコの温度を70℃に保ち、ブチルアクリレート2.5重量部、酢酸ビニル5重量部及びベオバ10(シェル化学製)2.5重量部をフラスコに添加し、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを添加して初期反応を1時間行った。続いて、ブチルアクリレート22.5重量部、酢酸ビニル45重量部及びベオバ10 22.5重量部をフラスコに4時間にわたり滴下し、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを加えながら滴下重合を進行させた。滴下終了後1時間熟成し、ポリビニルアルコール(ゴーセノールGL05)の20重量%水溶液20重量部を添加し充分に撹拌した。これにより濃度約44%の混合液(E−1)を得た。
【0041】
製造例2(E−2)(比較例用)
攪拌機及び還流冷却器を備えたセパラブルフラスコに、水123重量部と平均重合度400及び平均ケン化度97%以上のアセトアセチル化ポリビニルアルコール(ゴーセファイマーZ900 日本合成化学工業株式会社製)10重量部とを仕込み、加熱して90℃で溶解する。次に、フラスコの温度を70℃に保ち、ブチルアクリレート5.5重量部及びメチルメタクリレート4.5重量部をフラスコに添加し、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを添加して初期反応を1時間行った。続いて、ブチルアクリレート49.5重量部及びメチルメタクリレート40.5重量部をフラスコに4時間にわたり滴下し、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを加えながら滴下重合を進行させた。滴下終了後1時間熟成し、平均重合度500の部分ケン化ポリビニルアルコール(ゴーセノールGL05 日本合成化学社製)の20重量%水溶液20重量部を添加し充分に撹拌した。これにより濃度約44%の混合液(E−2)を得た。
【0042】
製造例3(E−3)(実施例用)
攪拌機及び還流冷却器を備えたセパラブルフラスコに、水130重量部と平均重合度400及び平均ケン化度97%以上のアセトアセチル化ポリビニルアルコール(ゴーセファイマーZ900 日本合成化学工業株式会社製)10重量部とを仕込み、加熱して90℃で溶解する。次に、フラスコの温度を70℃に保ち、ブチルアクリレート5重量部、メチルメタクリレート5重量部及びダイアセトンアクリルアミド0.5重量部をフラスコに添加し、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを添加して初期反応を1時間行った。続いて、ブチルアクリレート45重量部、メチルメタクリレート45重量部及びダイアセトンアクリルアミド4.5重量部をフラスコに4時間にわたり滴下し、重合開始剤として過硫酸アンモニウムを加えながら滴下重合を進行させた。滴下終了後1時間熟成し、平均重合度500の部分ケン化ポリビニルアルコール(ゴーセノールGL05 日本合成化学社製)の20重量%水溶液20重量部を添加し充分に撹拌した。これにより濃度約44%の混合液(E−3)を得た。
【0043】
顔料ペーストの製造
容器に下記表1の組成に示す各成分を順次仕込み、ディスパーで30分間均一になるまで攪拌、分散処理し、各顔料ペースト(G−1)〜(G−3)を得た。なお、表1中の(注1)〜(注9)は以下のとおりである。
(注1)「スラオフ72N」:商品名、武田薬品社製、防腐剤
(注2)「ノプコサントK」:商品名、サンノプコ社製、顔料分散剤
(注3)「BYK190」:商品名、ビックケミー社製、顔料分散剤
(注4)「SNデフォーマーA−70」:商品名、サンノプコ社製、消泡剤
(注5)「BYK024」:商品名、ビックケミー社製、消泡剤
(注6)「チタンJR−605」:商品名、テイカ社製、チタン白
(注7)「タンカル300」:商品名、竹原化学工業社製、炭酸カルシウム
(注8)「特号クレーW」:商品名、竹原化学工業社製、クレー
(注9)「ベンガラ335R」:戸田カラー社製、ベンガラ
【0044】
【表1】

【0045】
顔料水分散液(H)の製造
容器に顔料ペースト(G−1)〜(G−3)をそれぞれ仕込み、次いで混合液(E−2)又は(E−3)を表2に示す組合せで加えてディスパーで30分間均一になるまで攪拌し、各水分散液(H−1)〜(H−5)を得た。
【0046】
【表2】

【0047】
粉状塗料の作成
実施例1〜6及び比較例1〜5
上記各製造例で得た混合液(E−1)〜(E−3)及び顔料水分散液(H−1)〜(H−5)を、それぞれ、140℃の熱風中に噴霧して乾燥し、各再分散性粉末を得た。混合液(E−1)〜(E−3)は、不揮発分を調整した後、抗粘結剤(商品名:ハイドロカルブ(プルス−スタウファ(PLUSS‐STAUFER)社(スイス)製、炭酸カルシウム))の存在下で噴霧乾燥を行なった。
【0048】
密封可能な内面コート缶の中に、得られた各再分散性粉末、粉末状ヒドラジン系化合物及び他の添加剤を、表3に示す配合組成で、各々秤量して順次加えた。添加後、容器を密閉して、軽く容器を手で振って目的の各粉状塗料を得た。なお、表3中の(注10)及び(注11)は以下のとおりである。
(注10)「SNデフーマー14HP」:商品名、サンノプコ社製、消泡剤
(注11)「ベガールPM450」:商品名、高圧ガス化学社製、再分散性樹脂粉末。
【0049】
粉状塗料の水溶解性評価
各塗料容器の蓋を開け、実施例及び比較例の粉状塗料各60部に対してそれぞれ水を40部の比率で加え、塗料用ミキサーなどの簡単な攪拌機で攪拌して、塗料の水分散状態を下記の基準で評価した。結果を表3に示す。
【0050】
評価基準 ◎:1〜2分の攪拌で、ブツが見られず通常の水性塗料の状態と同じになる

○:3〜4分の攪拌で、ブツが見られず通常の水性塗料の状態と同じになる

△:5分の攪拌で、全体は溶解するがややブツが見られる、
×:5分の攪拌では、不溶解物が多く見られる。
【0051】
塗装作業性評価
上記の評価で得た各液状塗料を、「EPシーラー白」(関西ペイント社製、シーラー)を塗布したスレート板に、刷毛で約100g/m2の塗布量で塗装し、1分経過後に一部を指で5回転するように擦り、ラビング部を作成した。翌日、塗面の外観評価と、刷毛塗装面とラビング面との色の違いを下記の基準で評価した。結果を表3に示す。
【0052】
評価基準 ◎:塗膜表面にブツが見られず、ラビング面との色の違いもない、
○:塗膜表面にわずかにブツは見られるが、ラビング面との色の違いはない

△:塗膜表面のブツが目立つ、ラビング面との色の違いもはっきりと判る、
×:ブツのため塗装時、筋になって塗装できない。
【0053】
貯蔵安定性
実施例及び比較例の各粉状塗料をブリキの密閉容器にて40℃で6ヶ月貯蔵した。この貯蔵後の粉状塗料を使用し、上記の方法で水溶解性及び塗装作業性の評価を行った。いずれの評価においても貯蔵前後で結果に違いが生じない場合を○、いずれかの評価において異常が認められる場合を×とした。結果を表3に示す。
【0054】
形成塗膜の性能評価
JIS K 5600−1−4に規定する表面調整を行った繊維強化セメント板(150×70×3mm)の上に、「EPシーラー白」(関西ペイント社製、シーラー)を塗布したものを被塗板として使用した。該被塗板上に、実施例及び比較例の各粉状塗料60部に対して各々水を40部の比率で添加し、塗料用ミキサー等で攪拌して得られた各水性塗料を、刷毛で約100g/m2の塗布量で2回塗装した。気温20℃・相対湿度60%の条件下で7日間乾燥させて、各試験塗板を作成した。これらを下記性能試験に供した。結果を表3に示す。
(*1)仕上り性:試験塗板の塗膜表面を目視で観察して下記基準で評価した。
評価基準 ○:塗膜表面にザラツキがほとんどなく、シッシング(残泡)がない、
△:塗膜表面にザラツキがほとんどなく、シッシングが見られる、
×:塗膜表面のザラツキが認められる。
(*2)耐水性:上記試験塗板を水中に4日間浸漬した後、引き上げてその塗面の状態を目視で評価した。塗面にフクレ、軟化等の劣化が認められない場合を○、認められる場合を△とし、塗膜の溶出・剥落が見られるものを×とした。
(*3)光沢(60度グロス):上記試験塗板の光沢をJIS K 5600 4−7 鏡面光沢度の試験方法に準じて測定した。
(*4)耐洗浄性:JIS K 5663に準じて試験した。洗浄回数が300回以上を○、300回以下を×とした。
【0055】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(I) 平均重合度50〜4000及び平均ケン化度80〜99.5%のポリビニルアルコール系保護コロイド(A)の存在下で、カルボニル基含有モノマー(a)0.1〜30重量%及びその他の重合性不飽和モノマー(b)70〜99.9重量%を含有するモノマー混合物(B)を乳化重合させることにより得られるエマルション(C)及び水溶性添加剤(D)を含んでなる混合液(E)を乾燥・粉末化することにより得られる再分散性粉末、及び
(II) 粉末状ヒドラジン系化合物
を含有することを特徴とする粉状塗料。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系保護コロイド(A)がアセトアセチル化されたものである請求項1に記載の粉状塗料。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系保護コロイド(A)の使用量がモノマー混合物(B)100重量部あたり固形分量で1〜20重量部である請求項1又は2に記載の粉状塗料。
【請求項4】
水溶性添加剤(D)が平均重合度50〜4000及び平均ケン化度80〜99.5%のポリビニルアルコールである請求項1に記載の粉状塗料。
【請求項5】
混合液(E)がさらに混合液(E)の樹脂固形分100重量部あたり1〜200重量部の着色顔料(G)を含む顔料水分散液(H)である請求項1に記載の粉状塗料。
【請求項6】
顔料水分散液(H)が、着色顔料(G)に顔料分散剤及び水を加え、分散処理することにより得られる顔料ペーストを、エマルション(C)及び水溶性添加剤(D)と混合することにより得られるものである請求項5に記載の粉状塗料。
【請求項7】
着色顔料(G)の少なくとも一部がチタン白である請求項5又は6に記載の粉状塗料。
【請求項8】
粉末状ヒドラジン系化合物(II)を、再分散性粉末(I)中に含まれるカルボニル基1モルあたり、粉末状ヒドラジン系化合物(II)中のヒドラジド基が少なくとも0.01モルとなるような割合で含有する請求項1に記載の粉状塗料。

【公開番号】特開2006−143857(P2006−143857A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−334623(P2004−334623)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【出願人】(000113148)ニチゴー・モビニール株式会社 (24)
【Fターム(参考)】