説明

粒子帯電量分布測定装置

【課題】 集合としての帯電粒子の帯電量分布を低コストで広範囲且つ高精度に測定できる粒子帯電量分布測定装置を構成する。
【解決手段】 略鉛直面を成す一対の平行平板電極1,2と、この平行平板電極1,2間に電圧を印加する電源11,12と、平行平板電極1,2で挟まれる測定空間の上面部に、帯電粒子であるトナーpを測定空間に流入させる帯電粒子導入口8とを備え、粒子捕集板5または平行平板電極1,2に付着した帯電粒子の位置と量によって帯電量分布を測定する。
測定空間の上面部である上面板3には、平行平板電極1,2に対して略平行に配置された複数の線状電極と、これらの線状電極の各位置での電位が、平行平板電極1,2によって形成される空間電位と略同電位となるように線状電極にそれぞれ電圧を印加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電子写真方式のトナーなど粒子の帯電量分布を測定する粒子帯電量分布測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子写真技術で用いられるトナー粒子の帯電量は、印字濃度やかぶり等の印字品質に密接な関係があり、従来、単位質量あたりの平均帯電量を求める各種の帯電量測定装置が提案・実用化され、平均帯電量により管理されてきている。
【0003】
トナーの平均帯電量を求める方法として、最も良く知られるものにファラデーケージ法(例えば非特許文献1参照。)がある。この方法は、帯電したトナーの総電荷量と質量から平均帯電量を求めるものであり、トナーを入れる容器の静電容量をC[F]とし、その容器の電位V[V]を計測すると、帯電トナーの全電荷によって誘導される電荷Q[C]は、次式で計算できる。
【0004】
Q=CV
さらに、試料の重さM[kg]を測定すると、単位質量当たりのトナーの帯電量q/mは、次式で表される。
【0005】
q/m=Q/M
また、簡便で精度の高い測定法として、ブローオフ法(同じく非特許文献1参照。)が知られている。
【0006】
この方法では、金網を張った金属円筒からなるファラデーケージ内に、トナーとキャリアからなる二成分現像剤を入れ、他端から圧縮ガスを吹き付けて、トナーとキャリアを分離する。
【0007】
金網の目は、トナーは通過できるが、キャリアは通過できない大きさになっている。分離したトナーは、金網の目を通してケージ外に吹き飛ばされるが、キャリアは金網の中に残る。ケージ内のキャリアには帯電トナーが持ち去ったと等量で逆極性の電荷Q[C]が残り、ケージに接続した静電容量C[F]のコンデンサを充電する。コンデンサ両端の電圧V[V]を測定すると、ファラデーケージ法と同様にトナー比帯電量が求まるわけである。
【0008】
しかし、電子写真方式の画像形成装置においてトナーの平均帯電量が規格範囲内であっても、平均帯電量だけでは説明できない現象として、いわゆる「かぶり」などの画像劣化が発生する。そこで、トナー個々の帯電量を測定し、それを帯電量分布として取り扱うトナー帯電量分布測定法の検討が進められている。
【0009】
トナーの帯電量分布を測定するトナー帯電量分布測定装置として代表的なものに、アーカンソ大学とホソカワミクロン株式会社との共同開発により製品化されている「イースパートアナライザー」がある。これは、測定セルの中に一定周波数で音波振動する平行平板電極間にトナー粒子を通過させるとともに、粒子の位相遅れと偏向量をレーザードップラー法によって測定するものであり、粒子径と帯電量とを同時に求めることができる。
【0010】
また、特許文献1には、帯電粒子の静電偏向によって帯電量分布を測定するものが開示されている。この測定装置は、一定の直流電圧を印加した一対の平行平板電極の内部に設置されている測定空間に、上部に設けた粒子導入ドームの導入口から帯電粒子を落下させ、その帯電粒子を、平行平板電極によって形成される電界によって偏向させ、粒子付着体に付着した微粒子の位置と付着量から帯電粒子の帯電量分布を測定するものである。
【特許文献1】特開平5−45275号公報
【非特許文献1】電子写真学会誌 第30巻 第2号(1991)p.168〜174
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
ところが、前記「イースパートアナライザー」の測定方法では、装置が複雑で非常に大掛かりであるため、全体に大きな空間を必要とし、高価でもあった。また、測定に利用したトナー粒子は外部に排出されるため、帯電量毎にトナー粒子の状態を評価することができない、という問題があった。
【0012】
また、特許文献1に記載の方法では、トナー粒子のような小粒径の粒子を用いた場合に、一対の平行平板電極で作られる電界によって、高帯電の粒子である程、その粒子が帯電粒子導入口の近傍で偏向し始め、一対の平行平板電極で挟まれる空間に正規の進入角度で粒子が導入されない。そのため、高精度な帯電量分布の測定ができない、という問題があった。また、高帯電の粒子である程、その帯電粒子が帯電粒子導入口付近に付着しやすくなるため、低帯電の粒子しか測定できない、という問題もあった。
【0013】
さらに、前記平行平板電極により生じる電界により、下面に設置された粒子捕集板等が帯電することにより、前記空間内の電界が歪むので、帯電量の比較的少ない粒子についても、その測定精度が低い、という問題があった。
【0014】
この発明は上述の問題点を解決するためになしたものであり、その目的は、集合としての帯電粒子の帯電量分布を低コストで広範囲且つ高精度に測定できる粒子帯電量分布測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
(1)この発明の粒子帯電量分布測定装置は、略鉛直面を成す一対の平行平板電極と、この一対の平行平板電極間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記一対の平行平板電極で挟まれる空間の上面部に、帯電粒子を前記平行平板電極間に流入させる帯電粒子導入口とを備え、帯電粒子の偏向量に基づいて帯電量分布を測定するものであって、
前記上面部の前記帯電粒子導入口を挟む両側の位置に前記平行平板電極に対して略平行に配置された少なくとも2本の線状電極と、これらの線状電極の各位置での電位が、前記平行平板電極によって形成される空間電位と略同電位となるように前記線状電極にそれぞれ電圧を印加する電圧印加手段とを備えたことを特徴としている。
【0016】
(2)この発明の粒子帯電量分布測定装置は、(1)において、一対の平行平板電極で挟まれる空間からみて、前記線状電極の配置位置より外側に平面状電極を配置したことを特徴としている。
【0017】
(3)この発明の粒子帯電量分布測定装置は、略鉛直面を成す一対の平行平板電極と、この一対の平行平板電極間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記一対の平行平板電極で挟まれる空間の上面部に、帯電粒子を前記平行平板電極間に流入させる帯電粒子導入口とを備え、帯電粒子の偏向量に基づいて帯電量分布を測定するものであって、
前記一対の平行平板電極で挟まれる空間の下面部に前記平行平板電極に対して略平行に配置された少なくとも2本の線状電極と、これらの線状電極の各位置での電位が、前記平行平板電極によって形成される空間電位と略同電位となるように前記線状電極にそれぞれ電圧を印加する電圧印加手段とを備えたことを特徴としている。
【0018】
(4)この発明の粒子帯電量分布測定装置は、(1)〜(3)のいずれかにおいて、一対の平行平板電極で挟まれる空間の、平行平板に略垂直な側面部に、平行平板電極に対して略平行に配置された少なくとも2本の線状電極と、これらの線状電極の各位置での電位が、前記平行平板電極によって形成される空間電位と略同電位となるように線状電極に電圧を印加する電圧印加手段とを備えたことを特徴としている。
【0019】
(5)この発明の粒子帯電量分布測定装置は、(1)〜(4)のいずれかにおいて、前記帯電粒子導入口に最も近い2つの前記線状電極を同電位とすることを特徴としている。
【0020】
(6)この発明の帯電量分布測定装置は、(1)〜(5)のいずれかにおいて、微細管ノズルからの圧縮空気の噴射を用いて、前記帯電粒子導入口へ被測定試料粒子を落下させるタイミングにおいて、圧縮空気の噴射停止時間を噴射時間の2倍以上とする間欠的な噴射とすることを特徴としている。
【発明の効果】
【0021】
(1)前記上面部の帯電粒子導入口を挟む両側の位置に平行平板電極に対して略平行に少なくとも2本の線状電極を配置し、これらの線状電極の各位置での電位が、前記平行平板電極によって形成される空間電位と略同電位となるように前記線状電極にそれぞれ電圧を印加するようにしたので、平行平板電極によって形成される電界が、帯電粒子導入口及び上面部より外部へ漏れる(膨らむ)のが抑制され、帯電粒子導入口や上面板への帯電粒子の不要な付着が少なくなる。そのため、従来、帯電粒子導入口や上面板へ付着していた帯電量の大きな帯電粒子についても測定可能となる。また、一対の平行平板電極で挟まれる空間内に形成される電界の歪みが抑制され、平行平板電極間の空間に一様な電界が形成されるため、粒子の帯電量分布の測定を高精度に行うことができる。
【0022】
(2)前記一対の平行平板電極で挟まれる空間からみて、前記線状電極の配置位置より外側に平面状電極を配置したことにより、平行平板電極によって形成される電界の帯電粒子導入口外部への漏れがより効果的に抑制され、測定装置外へ電界が漏れることによる悪影響を受けることなく高精度に測定できる。また、略無電界状態で外部から帯電粒子導入口へ帯電粒子が導入されることになるので、帯電粒子をより正確に鉛直方向に前記空間内に導入できる。
【0023】
(3)前記一対の平行平板電極で挟まれる空間の下面部に前記平行平板電極に対して略平行に少なくとも2本の線状電極を配置し、これらの線状電極の各位置での電位が、前記平行平板電極によって形成される空間電位と略同電位となるように前記線状電極にそれぞれ電圧を印加するようにしたので、前記下面部を構成する部材の帯電による、前記空間に形成される電界の歪みが抑制される。このため、平行平板電極間に一様な電界が形成されて、粒子の帯電量分布の測定を高精度に行える。
【0024】
(4)前記一対の平行平板電極で挟まれる空間の、前記平行平板に略垂直な側面部に、平行平板電極に対して略平行に配置された少なくとも2本の線状電極と、これらの線状電極の各位置での電位が、前記空間電位と略同電位となるように線状電極に電圧を印加するようにしたので、前記一対の平行平板電極で挟まれる空間に形成される電界の前記側面部付近での歪みが抑制される。そのため、平行平板電極間に一様な電界が形成されて、粒子の帯電量分布の測定を高精度に行えるようになる。
【0025】
(5)前記帯電粒子導入口に最も近い2つの前記線状電極を同電位としたことにより、帯電微粒子を帯電粒子導入口から、一対の平行平板電極で挟まれる空間内に流入させるとき、帯電粒子導入口付近での空間電位の乱れがより少なくなるので、帯電粒子が導入口の壁面に付着することもない。そのため、帯電量のより大きな帯電粒子についても測定可能となる。また、帯電粒子導入口の中央から少し外れた位置から導入された場合でも、帯電粒子が導入口の壁面に付着せずに前記空間内に導入されるので、測定に寄与する帯電粒子の数が高まり、測定効率が向上する。
【0026】
(6)前記帯電粒子導入口へ帯電粒子を落下させるには、微細管ノズルから噴射される圧縮空気が用いられる。通常帯電粒子はゴム製のローラ表面や磁性金属粉の粒子表面に付着した状態で搬送される。この時、帯電粒子と搬送媒体とは静電的付着力や液架橋力、分子間力などの力で強固に付着している。帯電粒子を搬送媒体から噴射剥離するには、前述の付着力に打ち勝つ圧縮空気の噴射が必要となる。また、帯電粒子の帯電量は大小の分布を有しているのが常であり、十分に強い噴射圧力が確保できない場合は帯電量の小さな粒子だけが噴射剥離される事となり、正しい帯電量の計測が不可能となる。
【0027】
微細管ノズルからの圧縮空気の噴射は強ければ強いほど、帯電粒子の剥離もれも少なく理想的となる一方で、圧縮空気の噴射圧が帯電量測定装置にまで達すると、帯電粒子の重力沈降に影響が生じるために、正しい帯電量の計測が不可能となる。
【0028】
故に圧縮空気の噴射圧は、剥離位置から帯電量測定装置の粒子導入口までの間に緩和されなければならない。
【0029】
以上の点を満足するために、被測定試料粒子を前記帯電粒子導入口へ落下させるタイミングにおいて、圧縮空気の噴射を間欠駆動とし、噴射停止時間を噴射時間の2倍以上とする駆動周期を用いることで、帯電粒子の飛散効率が良く、粒子帯電量分布測定装置内部への噴射気流の影響が少ない帯電粒子の導入が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0030】
第1の実施形態に係る粒子帯電量分布測定装置について、図1〜図4を基に説明する。
図1は、その粒子帯電量分布測定装置本体の断面図である。この粒子帯電量分布測定装置100は、帯電粒子であるトナーを電界により偏向させるための鉛直に置かれた一対の平行平板電極1,2、取り外し可能な2枚の上面板3,3、閉じた測定空間を形成するための2枚の側面板(そのうち一方の側面板を符号6で示している。)、下面板4、トナー粒子捕集板5、および一対の平行平板電極1,2間に電圧を印加する電源11,12から構成している。前記2枚の上面板3,3同士によるスリット状の間隙部分で帯電粒子導入口8を構成している。
【0031】
前記上面板3と粒子捕集板5はそれぞれガラス板から成る。また、側面板6と下面板4はそれぞれアクリル板から成る。これらの平行平板電極1,2、側面板6、上面板3,3、および下面板4によって略直方体状の空間(以下、「測定空間」という。)を構成している。
【0032】
上面板3,3の下面(内面)には、平行平板電極1,2に対して平行な複数の線状電極30(31〜38)を形成している。また、上面板3,3の上面(外面)には平面状電極9をそれぞれ形成している。
【0033】
複数の線状電極31〜38のそれぞれには所定の電圧を印加する。その印加電圧は、各線状電極の位置での電位が、平行平板電極1,2によって形成される空間電位と略同電位となるように設定している。但し、帯電粒子導入口8近傍の2本の線状電極34,35は同電位とする。
【0034】
前記平面状電極9,9には電圧を印加せず、それらを電位的にフローティング状態にしている。
【0035】
2枚の上面板3,3は厚み10[mm]のガラス板であり、帯電粒子導入口8のスリット幅は1[mm]としている。この帯電粒子導入口8は測定空間の中間位置となるように配置している。
【0036】
上面板3,3としては、アクリル、ABS(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン)などの樹脂であってもよいが、帯電しにくいガラスが適している。上面板3,3の帯電によって、帯電粒子が付着したり、測定空間内の電界を乱したりしないからである。
【0037】
粒子帯電量分布測定装置100内の帯電粒子導入口8から導入したトナーは重力と平行平板電極1,2間の電界によりクーロン力を受けて移動するため、帯電量の大きな粒子は電界による水平方向への移動量が大きく、平行平板電極1,2の上部に付着し、帯電量の小さな粒子は平行平板電極の下部または粒子捕集板5に付着する。
【0038】
そのため、この付着位置と付着量を計測することで、帯電粒子の帯電量分布を測定できる。
【0039】
ここで、平行平板電極1,2により作られる、重力の作用方向と直交する電界中でのトナーの終末沈降速度[m/s]は
水平方向
Vx=Cc×q×E/(3π×μ×Dp)+Ux …(1)
鉛直方向
Vy=Cc×mp×g/(3π×μ×Dp)+Uy …(2)
で表せる。
【0040】
但し、
Cc:カニンガムの補正係数
q:トナー粒子一個の電荷量[C]
E:平行平板間の電界[V/m]
μ:空気の粘度[Pa×s]
Dp:トナー粒子の直径(顕微鏡法による円相当径で表したもの)[m]
mp:トナー粒子の質量[kg]
g:重力加速度[m/s2
Ux:気流のx方向(電界の方向)の速度成分
Uy:気流のy方向(重力の方向)の速度成分
である。
【0041】
静止気流中での粒子の運動を考えると、気流の速度成分Ux,Uyは、共に0である。
【0042】
また、0.2μm以上の粒子ではカニンガム係数Ccは、ほぼ1であるので、測定空間の上部中央から重力沈降した帯電粒子の付着位置(x,y)は、
x/y=Vx/Vy=q×E/(mp×g) …(3)
の関係で表される。
上記(1)〜(3)式を用いて、付着位置と付着量から帯電量分布を求める。
【0043】
次に、図2を参照しながら、電子写真用トナー粒子の帯電量分布を測定する場合について説明する。
図2において、現像装置101は、電子写真方式の複写機に代表される画像形成装置に用いる現像装置であって、トナーを貯蔵した現像槽16、トナーの供給ローラ14,現像ローラ13、および現像ローラ13表面へのトナーの付着量を規制するトナー規制ブレード15を備えている。本実施例で現像槽16に充填されたトナーは、平均粒径8.5μmの粉砕トナーである。現像ローラ13の近傍には、ブローオフノズル17を配置している。現像ローラ13と供給ローラ14との間、および現像ローラ13とトナー規制ブレード15との間にはバイアス電圧を印加する。このことによって、トナーの帯電を行うとともに、現像ローラ13の表面に一定膜厚のトナーを形成する。
【0044】
そして、現像ローラ13上に形成したトナー層に対して、ブローオフノズル17から圧縮空気を噴射させることにより、現像ローラ13からトナーpを分離させ、略鉛直方向に落下させる。その際、現像ローラ13は一定速度で、図中の矢印方向に回転させる。
【0045】
ここで、もしブローオフノズル17からの単位時間あたりの空気の流量が多いと、粒子帯電量分布測定装置100の内部の気流を乱すので測定の信頼性を損なう。そこで、ブローオフノズル17は孔径φ0.3[mm]の先の細いノズルとし、そのノズルの先端はできるだけ現像ローラに近づけるように設置する。ノズル径を細く且つ現像ローラ13に近づけることによって、流量400ml/minでトナーpを吹き飛ばすことができる。また、圧縮空気は連続的に噴射しても良いが、図示されない電磁弁を用いて間欠的に噴射すれば、粒子帯電量分布測定装置100の内部への気流の影響が少なくなるため、より好ましい。この場合、圧縮空気の噴射時間を0.5秒、噴射停止時間を3.5秒とした駆動周期にすることで、帯電トナーの飛散効率が良く、粒子帯電量分布測定装置内部への噴射気流の影響が少ないトナーの導入を実現している。
【0046】
以下に、噴射圧力と噴射方法とがトナーの測定結果に与える影響について、実験結果を元に説明する。
【0047】
図8は、微細管ノズルから噴射される圧力が弱く、トナーが搬送媒体から完全に噴射剥離出来ていない状態での測定結果を示している。この時の圧縮空気の流量は、200ml/minである。本来測定されるべき位置にトナー比電荷量はなく、ゼロ帯電の領域に多量の帯電粒子を得ている。トナー搬送媒体から、トナーの拘束力の弱い低比電荷トナーだけが剥離された結果と考えられる。
【0048】
図9は、微細管ノズルから噴射される圧力を強くし、かつ連続噴射でトナーを剥離した時に得られた測定結果を示している。この時の圧縮空気の流量は、800ml/minである。図8に比べて比電荷量の大きなトナーも測定される一方で、噴射圧力により重力沈降が一様にならず、分布にばらつきも生じている。噴射による気流の乱れがトナーの重力沈降に影響を与えた結果と考えられる。
【0049】
図10は、微細管ノズルからの噴射を間欠動作としたときに得られた比電荷量分布である。図9と比べて、噴射圧力の影響である分布のばらつきがなくなっている。この結果は流量250〜650ml/minの範囲で再現良く得られた。
【0050】
測定対象となるトナー粒子径が異なった場合の、トナー粒子の噴射条件と測定結果の良否を以下の表を元にまとめる。
【0051】
【表1】

【0052】
表中の○印はトナーの帯電量分布が正しく測定された事を意味し、×印はトナー噴射が重力沈降に影響を与えてしまい、トナーの帯電量分布が正しく測定されなかった事を意味する。
【0053】
以上の結果から、条件Cのトナーでは噴射停止時間を噴射時間の2倍、条件Bのトナーでは噴射停止時間を噴射時間の3.6〜6倍、条件Aのトナーでは噴射停止時間を噴射時間の6〜15倍として、正しい測定が可能となることが分かる。
【0054】
よってトナー粒子の噴射・剥離タイミングは、圧縮空気の噴射停止時間を噴射設定時間の2倍以上に設定することを最低条件としなければならない。
【0055】
現像ローラ13から分離されたトナーpは粒子帯電量分布測定装置100の帯電粒子導入口から効率的に装置内部へ導入するには、上記条件を満足するトナー剥離方法を用いと良い。
【0056】
図2において、抵抗R1,R2,R3,R4の直列回路、および抵抗R5,R6,R7,R8の直列回路はそれぞれ抵抗分圧回路を構成している。抵抗R1,R2,R3,R4の直列回路は、電源11の正電圧を抵抗分圧して、高電位側から順に線状電極31,32,33,34に印加するように回路を構成している。また、抵抗R5,R6,R7,R8の直列回路は、電源12の負電圧を抵抗分圧して、絶対値が低電位である側から順に線状電極35,36,37,38に印加するように回路を構成している。各抵抗R1〜R8の抵抗値は等しく、線状電極31〜38の間隔、線状電極31と平行平板電極1との間隔、および線状電極38と平行平板電極2との間隔はそれぞれ略等しくしている。このことによって、線状電極31〜38の各位置での電位が、平行平板電極1,2によって形成される空間電位と略同電位となるように、各線状電極に電圧が印加されることになる。
【0057】
図3は前記線状電極30(31〜38)の有無による電界の強度分布を示している。(A)は前記線状電極31〜38に対して、これらの線状電極の各位置での、空間電位と略同電位の電圧をそれぞれ印加した場合の電界の強度分布を電気力線で表した図である。また、(B)は前記線状電極31〜38を設けなかった場合の電界の強度分布を電気力線で表した図である。図中Eで示す複数の、片方矢じり付き直線または曲線は、電気力線の形状を模式的に表している。
【0058】
線状電極31〜38を設けなかった場合、この図3の(B)で電気力線ELiやELjで示すように、上面板3,3の上部空間(外部)にも電界が漏洩する。そのため、帯電量の大きなトナーは粒子帯電量分布測定装置100内部に流入する前に、上面板3,3の上面USや帯電粒子導入口8の壁面WSに付着する。そのため、このような高帯電のトナーは測定できなくなる。
【0059】
これに対して、図3の(A)に示すように、線状電極31〜38を設けるとともに、これらの線状電極の各位置での電位が、平行平板電極1,2によって形成される空間電位と略同電位となるようにそれぞれの線状電極31〜38に電圧を印加する。このことによって、帯電粒子導入口8の壁面WSや上面板3,3の上面USには電界が殆ど生じなくなり、帯電量の大きなトナーが粒子帯電量分布測定装置100内部に流入する前に、上面板3,3の上面USや帯電粒子導入口8の壁面WSに付着せずに流入する。そのため、高帯電のトナーであっても、そのトナーを測定対象とすることができる。また、粒子帯電量分布測定装置100内部の測定空間の上面板3,3の近傍での電界強度分布の歪みが少なくなるので、帯電量の測定精度が向上する。
【0060】
なお、帯電粒子導入口8を挟む直近の線状電極34,35への印加電圧は等しくしている(共に接地電位にしている)ので、線状電極34,35間の電界は殆ど0になっている。そのため、帯電粒子導入口8から内部へ流入しようとするトナーに初めからクーロン力を与えることがなく、帯電粒子を測定空間内へ正しく鉛直方向に落下させることができる。
【0061】
しかも、上面板3,3の上面に設けた、電位的にフローティング状態の平面状電極9,9が存在しているため、測定空間は平面状電極9,9により静電遮蔽されて、測定空間内外で電界の出入りが抑制される。そのため、帯電粒子導入口8近傍の電界がさらに抑えられ、帯電粒子導入口8から内部へトナーを鉛直方向に、より正しく落下させることができる。
【0062】
一定時間または一定量のトナーを帯電粒子導入口8から内部へ導入させた後、粒子帯電量分布測定装置100の上面板3,3をはずし、平行平板電極1,2または粒子捕集板5を外部に取り出す。そして、それらに付着したトナーを撮像し、トナーの付着位置と量を画像解析することによってトナーの帯電量分布の測定を行う。すなわち、付着位置によって、トナー粒子の帯電量q/mは異なるため、付着した位置と粒子の個数を画像解析装置を用いてカウントすることで帯電量分布データを得る。
【0063】
図4は、前記線状電極の有無に応じたトナー粒子帯電量分布の測定結果を示す図である。ここで、測定条件は次のとおりである。
【0064】
平行平板電極1,2間の距離:30[mm]
平行平板電極1,2への印加電圧:40[V](−20[V],+20[V])
線状電極30の数:10(本)
図4の横軸は帯電量q/m[μC/g]、縦軸はトナー粒子のカウント数である。図中の曲線Aは線状電極30を設けた場合の帯電量分布を、曲線Bは線状電極30を設けなかった場合の帯電量分布を、それぞれ包絡線で示している。
【0065】
線状電極30を設けなかった場合、帯電量分布のピーク位置が−2μC/gであり、約−5μC/g〜1μC/gの分布幅を示している。これに対して、線状電極30を設けた場合には、帯電量分布のピーク位置は、線状電極を設けなかった場合と同じく、−2μC/gであるが、その分布の幅が−10μC/g〜1μC/gとなっている。
【0066】
このように、−10μC/g〜−5μC/gの帯電量の大きなトナーについても、測定できるようになる。線状電極を設けなかった場合には、−10μC/g〜−5μC/gのような帯電量の大きなトナーは上面板3,3の上面USや帯電粒子導入口8の壁面WSに付着して測定対象にならなかったわけである。
【0067】
次に、第2の実施形態に係る粒子帯電量分布測定装置について、図5を基に説明する。
第1の実施形態では、上面板の下面に複数の線状電極を設けたが、この第2の実施形態では、下面板4の上面に複数の線状電極40(41〜48)を形成している。これらの線状電極41〜48の印加電圧は、各線状電極の位置での電位が、平行平板電極1,2によって形成される空間電位と略同電位となるように設定している。但し、帯電粒子導入口8に最も近い位置(中央部)の2本の線状電極44,45は同電位としている。
【0068】
下面板4は平行平板電極1,2に対する電圧印加によって、または帯電粒子の付着によって、通常なら粒子捕集板5が不均一に帯電(チャージアップ)されてしまう。粒子捕集板5が帯電すると、その電荷による電界によって測定空間内の電界に歪みが生じる。
【0069】
しかし、下面板4の上面に複数の線状電極41〜48を形成し、各線状電極41〜48に上記電圧を印加することにより、各線状電極位置での電位が、平行平板電極1,2によって形成される空間電位と略同電位となるので、粒子捕集板5の帯電による上記電界の歪みが緩和される。そのため、粒子帯電量分布の測定を正確に行えるようになる。
【0070】
次に、第3の実施形態に係る粒子帯電量分布測定装置について、図6を基に説明する。
この実施形態では、測定空間の手前の側面部に、平行平板電極1,2に対して略平行に複数の線状電極70(71〜78)を配置している。同様に、測定空間の後方の側面部にも、平行平板電極1,2に対して略平行に複数の線状電極を配置している。
【0071】
具体的には、手前の側面板7の内面に線状電極70(71〜78)を形成し、後方の側面板(図1に示した側面板6)の内面に線状電極を形成している。
【0072】
このように、粒子帯電量分布測定装置100の測定空間の側部に線状電極を配置するとともに、これらの線状電極の各位置での電位が、空間電位と略同電位となるように、各線状電極に電圧を印加する。このことにより、測定空間の側面部付近の電界の歪みが緩和され、帯電粒子導入口8の側面部寄りの位置から内部へ流入したトナーについても、帯電量分布の測定を正確に行える。
【0073】
次に、第4の実施形態に係る粒子帯電量分布測定装置について、図7を基に説明する。
この実施形態では、上面板3の内面、下面板4の上面、側面板6,7の内面にそれぞれ平行平板電極1,2に対して略平行な複数の線状電極を配置している。この構成は第1〜第3の実施形態を合わせたものに等しい。このようにして測定空間の上面部、下面部、側面部の合計四面に複数の線状電極を配置し、線状電極の各位置での電位が、空間電位と略同電位となるように、各線状電極に電圧を印加する。このことによって、第1〜第3の実施形態で示した作用効果を奏し、高帯電の粒子についても測定でき、また高精度な測定が可能となる。
【0074】
なお、以上に示した各実施形態では、上面板3、下面板4、側面板6,7といった板状の面に線状電極を設けたが、測定空間の上面部、下面部、側面部に線状電極を設ければよいので、それらの線状電極は板状の面に形成するのではなく、測定空間の上面部、下面部、側面部に張設してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0075】
【図1】第1の実施形態に係る粒子帯電量分布測定装置の断面図
【図2】同装置を用いたトナーの帯電量分布の測定状態を示す図
【図3】線状電極の有無による電界の強度分布の違いを示す図
【図4】第1の実施形態に係る粒子帯電量分布測定装置と従来の粒子帯電量分布測定装置を用いて測定したトナーの帯電量分布測定結果を示す図
【図5】第2の実施形態に係る粒子帯電量分布測定装置の断面図
【図6】第3の実施形態に係る粒子帯電量分布測定装置の斜視図
【図7】第4の実施形態に係る粒子帯電量分布測定装置の斜視図
【図8】噴射圧が弱い条件でのトナー帯電量分布測定結果を示す図
【図9】噴射圧が強く、連続噴射時におけるトナー帯電量分布測定結果を示す図
【図10】噴射圧が強く、間欠噴射時におけるトナー帯電量分布測定結果を示す図
【符号の説明】
【0076】
1,2−平行平板電極
3−上面板
4−下面板
5−粒子捕集板
6,7−側面板
9−平面状電極
11,12−電源(電圧印加手段)
8−帯電粒子導入口
30(31〜38)−線状電極
40(41〜48)−線状電極
70(71〜78)−線状電極
100−粒子帯電量分布測定装置
101−現像装置
p−トナー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
略鉛直面を成す一対の平行平板電極と、この一対の平行平板電極間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記一対の平行平板電極で挟まれる空間の上面部に、帯電粒子を前記平行平板電極間に流入させる帯電粒子導入口とを備え、帯電粒子の偏向量に基づいて帯電量分布を測定する粒子帯電量分布測定装置において、
前記上面部の前記帯電粒子導入口を挟む両側の位置に前記平行平板電極に対して略平行に配置された少なくとも2本の線状電極と、これらの線状電極の各位置での電位が、前記平行平板電極によって形成される空間電位と略同電位となるように前記線状電極にそれぞれ電圧を印加する電圧印加手段とを備えたことを特徴とする粒子帯電量分布測定装置。
【請求項2】
前記一対の平行平板電極で挟まれる空間からみて、前記線状電極の配置位置より外側に平面状電極を配置したことを特徴とする請求項1に記載の粒子帯電量分布測定装置。
【請求項3】
略鉛直面を成す一対の平行平板電極と、この一対の平行平板電極間に電圧を印加する電圧印加手段と、前記一対の平行平板電極で挟まれる空間の上面部に、帯電粒子を前記平行平板電極間に流入させる帯電粒子導入口とを備え、帯電粒子の偏向量に基づいて帯電量分布を測定する粒子帯電量分布測定装置において、
前記一対の平行平板電極で挟まれる空間の下面部に前記平行平板電極に対して略平行に配置された少なくとも2本の線状電極と、これらの線状電極の各位置での電位が、前記平行平板電極によって形成される空間電位と略同電位となるように前記線状電極にそれぞれ電圧を印加する電圧印加手段とを備えたことを特徴とする粒子帯電量分布測定装置。
【請求項4】
前記一対の平行平板電極で挟まれる空間の、前記平行平板に略垂直な側面部に、前記平行平板電極に対して略平行に配置された少なくとも2本の線状電極と、これらの線状電極の各位置での電位が、前記平行平板電極によって形成される空間電位と略同電位となるように前記線状電極にそれぞれ電圧を印加する電圧印加手段とを備えたことを特徴とする請求項1〜3のうちいずれか1項に記載の粒子帯電量分布測定装置。
【請求項5】
前記帯電粒子導入口に最も近い2つの前記線状電極は同電位とすることを特徴とする請求項1〜4のうちいずれか1項に記載の粒子帯電量分布測定装置。
【請求項6】
微細管ノズルからの圧縮空気の噴射を用いて、前記帯電粒子導入口へ被測定試料粒子を落下させるタイミングにおいて、圧縮空気の噴射停止時間を噴射時間の2倍以上とする間欠的な噴射とすることを特徴とする請求項1〜5のうちいずれか1項に記載の粒子帯電量分布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−47281(P2006−47281A)
【公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−149566(P2005−149566)
【出願日】平成17年5月23日(2005.5.23)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【出願人】(504263956)
【出願人】(504263901)
【Fターム(参考)】