説明

粒子物性測定装置

【課題】粒子の各種物性の測定に不慣れな者であっても、視覚を介して直接的かつ容易に測定結果を理解することが可能な粒子物性測定装置を提供する。
【解決手段】液体試料中に分散している粒子の形状物性値を求める形状物性値測定機構と、該粒子の粒径を測定する粒径測定機構と、該粒子のゼータ電位を測定するゼータ電位測定機構と、を少なくとも備えた粒子物性測定装置であって、前記形状物性値測定機構及び前記粒径測定機構における測定結果データに基づき、粒子表面形状と粒子の大きさを画像として表示するための粒子画像データと、前記ゼータ電位測定機構における測定結果データに基づき、粒子のゼータ電位を該粒子の粒子表面からの層の大きさ及び/又は粒子表面からの層の色として表示するためのゼータ電位画像データと、を作成する画像データ作成部を更に備えているようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、アスペクト比や凝集度等の形状物性値、粒径、及び、ゼータ電位等を測定することができる粒子物性測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近時、多様な形状を有するナノ粒子に対する産業界の需要が高まり、ナノ粒子の粒径や他の物性を詳細に計測することへの市場のニーズが高まっている。
【0003】
従来のナノ粒子の物性は、アスペクト比や凝集度等の形状物性値は走査型電子顕微鏡(SEM)等の電子顕微鏡又は光学顕微鏡の観察により、粒径は動的光散乱法により、分散度はゼータ電位を測定することにより、それぞれ別個の分析装置を用いて測定されている。
【0004】
そして、電子顕微鏡又は光学顕微鏡を用いた場合は、画像処理結果として形状物性値や粒径が算出され、粒径分布測定装置を用いた場合の測定結果は、粒径が数値として、粒径分布がヒストグラムとして提示され、ゼータ電位測定装置を用いた場合は、ゼータ電位が数値又は分布として提示される。ゼータ電位とは、溶液中の微粒子の表面電荷であり、すなわち、溶液中の微粒子の周りに形成する電気二重層中の、液体流動が起こり始める「すべり面」の電位である。微粒子の場合、ゼータ電位の絶対値が増加すれば、粒子間の反発力が強くなり、粒子の安定性は高くなる。逆に、ゼータ電位がゼロに近くなると、粒子は凝集しやすくなる。すなわち、粒子の帯電量(荷電状態)によって、粒子の分散状態の安定性は左右されるため、溶液中の微粒子の凝集・分散制御及び特性評価に際して、ゼータ電位測定の重要度は高まってきている。
【0005】
しかし、これらの測定結果は、装置の原理に熟知した測定者であれば容易に解釈することができるが、測定に不慣れな者にとっては、得られた数値や分布の持つ意味の解釈が難しいことがあった。
【特許文献1】特開2004−317123
【特許文献2】特開2004−271287
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで本発明は、粒子の各種物性の測定に不慣れな者であっても、視覚を介して直接的かつ容易に測定結果を理解することが可能な粒子物性測定装置を提供すべく図ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち本発明に係る粒子物性測定装置は、液体試料中に分散している粒子のアスペクト比や凝集度等を求める形状物性値測定機構と、該粒子の粒径を測定する粒径測定機構と、該粒子のゼータ電位を測定するゼータ電位測定機構と、を少なくとも備えた粒子物性測定装置であって、前記形状物性値測定機構及び前記粒径測定機構における測定結果データに基づき、粒子表面形状と粒子の大きさを画像として表示するための粒子画像データと、前記ゼータ電位測定機構における測定結果データに基づき、粒子のゼータ電位を該粒子の粒子表面からの層の大きさ及び/又は粒子表面からの層の色として表示するためのゼータ電位画像データと、を作成する画像データ作成部を更に備えていることを特徴とする。
【0008】
このようなものであれば、数値等として得られた形状物性値や粒径等の測定結果に基づき、液中における粒子の画像が作成されるので、具現化された測定結果から液中の粒子の状態を立体的かつ感覚的に把握することが可能となり、測定に不慣れな者であっても容易に測定結果を理解することができる。また、前記電場を表す画像は層として表示されて、ゼータ電位の測定結果に応じて、電場を表す層の大きさや色が異なって表示されるので、ゼータ電位の測定結果を一目で容易に把握することができ、理解度が向上する。形状物性値や粒径等の測定結果に基づいて得られた粒子画像データの粒子周囲(外縁)に、ゼータ電位測定結果に基づいて得られた電場データ(ゼータ電位画像データ)を表示するので、測定に不慣れな者にとっても、溶液中での微粒子の状態を理解しやすい。更に、これらの各種物性の測定は液中で行なわれるので、SEM等の電子顕微鏡による乾燥状態の観察画像では分からなかった液中での粒子の状態が具体的に把握できる。
【0009】
なお、本発明において色が変化するとは、色相、明度、彩度のいずれかの属性だけが変化してもよく、これらの色の三属性が組み合わさって変化してもよい。
【0010】
ゼータ電位の測定結果に応じて、前記電場を表す層の大きさや色が変化するためには、前記ゼータ電位測定機構における測定結果データと、前記粒子表面からの層の大きさ及び/又は前記粒子表面からの層の色とを関連付けているテーブルを格納するテーブル格納部を更に備えていることが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
このような本発明によれば、各種物性の測定結果が数値や分布と併せて画像として表示されることにより、粒子の各種物性を初めて測定する者や、あまり測定する機会のない者にとっても、液中における粒子の存在状態が具体的なイメージとして把握できるので、各種物性の測定結果の理解度が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態を図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本実施形態に係る粒子物性測定装置1の構成の概要を示すものである。本実施形態に係る粒子物性測定装置1は、形状物性値測定機構、粒径測定機構、分子量測定機構、及び、ゼータ電位測定機構を備えているものであって、図1に示すように、透明な石英ガラス等からなり、粒子群を水等の分散媒に分散させてなる液体試料を収容するセル2と、前記液体試料にレーザ光Lを照射するレーザ3と、前記レーザ光Lを照射された液体試料中の粒子群から発される散乱光Sを受光し、その光子数に応じたパルス信号又は光強度のゆらぎに応じた電気信号を出力する光電子倍増管からなる受光部41、42と、レーザ3から発射されるレーザ光Lの一部を分岐するハーフミラー51、ミラー52、53、及び、ミラー53からの参照光Rと散乱光Sとを混合するハーフミラー54からなる参照光学系5と、情報処理装置6と、を備えている。
【0014】
以下に各測定機構の構成について説明する。
アスペクト比や凝集度等を測定する形状物性値測定機構は、図2に示すように、レーザ3と、偏光子11、14と、1/4波長板12、13と、受光部41と、から構成される。偏光子11はレーザ3から射出されたレーザ光Lの偏光方向を固定するために使用されているが、1/4波長板12、13は光軸を中心に回転可能であり、1/4波長板12で直線偏光を楕円偏光に変換し、1/4波長板13と、偏光子14で楕円偏光を直線偏光に戻す。
【0015】
形状物性値を測定するには、米国特許第6721051号に記載の方法を用い、まず、セル2中の液体試料のレーザ光Lの透過率を測定する。次いで、1/4波長板12、13及び偏光子14を光軸を中心に回転させながらレーザ光Lを発射して、複数態様の偏光パターンにおいて、受光部41の位置(角度)を変化させながら、所定散乱角度での散乱光Sの強度を測定する。そして、得られた透過率と散乱光強度比とに所定の演算処理を行うことにより、アスペクト比及び/又は凝集度を算出する。
【0016】
粒径測定機構は、図3に示すように、レーザ3と、受光部41と、コリレータ15と、から構成される。粒径(粒径分布)を測定するには、動的光散乱法を用い、レーザ光Lをセル2中の液体試料に照射して、液体試料中の粒子群から発した散乱光Sを受光部41で受光し、その光子数に応じたパルス信号を受光部41から受信したコリレータ15で、そのパルス数の時系列データから自己相関データを生成し、当該自己相関データに基づいて所定の演算処理を行うことにより前記粒子群の粒径分布を算出する。なお、本実施形態では光子数に応じたパルス信号より演算する方法について詳述したが、光強度のゆらぎに応じた電気信号より演算することも可能であるのはいうまでもない。
【0017】
図3に示す実施形態では、受光部41はレーザ光Lと直交する光路の散乱光Sを受光しているが、粒径(粒径分布)を測定する際の受光部41の好適な位置(角度)は、液体試料の濃度によって変わり、形状物性値を測定する際に測定された液体試料のレーザ光透過率に従い、透過率が高い(液体試料の濃度が低い)ときはレーザ光Lと直交する光路(散乱角度90°)の散乱光Sを受光し、透過率が低い(液体試料の濃度が高い)ときはレーザ光Lと合致する光路(散乱角度180°)の散乱光Sを受光するように、受光部41の位置(角度)が調節される。
【0018】
分子量測定機構は、図4に示すように、レーザ3と、受光部41と、から構成される。分子量を測定するには、静的光散乱法を用い、濃度を変えた複数種類の液体試料を用い、受光部41の位置(角度)を変化させながら、セル2中の液体試料にレーザ光Lを照射して、当該液体試料中の粒子群から発した散乱光Sの光強度の角度分布を計測する。そして、液体試料の濃度と散乱角度変化による散乱光量変化から、Zimmプロットを行い、粒子の分子量を算出する。形状物性値測定機構及び粒径測定機構に加え、分子量測定機構における測定結果データに基づいて粒子表面形状と粒子の大きさを画像として表示するデータを作成することもできる。
【0019】
ゼータ電位測定機構は、図5に示すように、レーザ3と、白金等からなる一対の電極16と、参照光学系5と、受光部42と、から構成される。ゼータ電位を測定するには、電気泳動法を用い、セル2に挿入した電極16に直流又は交流電圧を印加して、液体試料中の粒子に電界をかけながらレーザ光Lを照射して、所定角度で散乱される散乱光Sを受光し、散乱光Sと参照光Rとの振動数の差(干渉現象)を測定することにより、液体試料中の粒子の移動速度を算出する。更に、得られた移動速度に所定の演算処理を行うことによりゼータ電位を算出する。
【0020】
このような各測定機構において受光部41、42から出力された信号は、情報処理装置6に送信される。
【0021】
情報処理装置6は、CPUの他に、メモリ、キーボード等の入力手段、ディスプレイ等の出力手段等を備えた汎用乃至専用のものであり、メモリに所定のプログラムを格納し、当該プログラムに従ってCPUやその周辺機器を協働動作させることによって、演算処理部61、画像データ作成部62、テーブル格納部63、画像表示部64等としての機能を発揮するように構成してある。
【0022】
演算処理部61は、各測定機構において受光部41、42から発したパルス信号又は光強度信号を直接又はコリレータ15を介して受信し、所定の演算処理を行ない測定結果を算出する。
【0023】
画像データ作成部62は、演算処理部61から各測定機構における測定結果データを取得し、前記粒子と、前記粒子の周囲に形成された電場とを、各種物性の測定結果に基づき画像として表示する画像データを作成するものである。ここで前記電場を表す層の大きさ又は色はゼータ電位の測定結果に応じて変化する。
【0024】
画像データ作成部62より作成される画像は、図6にその一例を示すように、前記粒径測定機構により測定された一次粒子の平均粒径を有する球体Sの周囲(外縁)に、前記ゼータ電位測定機構によるゼータ電位の測定結果から一次粒子の平均帯電量を求め、当該帯電量に基づき色等を変えて電場Eを層として表示するものである。この画像と同時に、ゼータ電位の測定結果に対応する色見本Mも合わせて表示される。また、一次粒子やそれが凝集してなる二次粒子が棒状である場合は、図7に示すように、形状物性値測定結果から得られた平均短径及び平均長径を、当該形状物性値に従い作成された楕円体や円柱等の棒状体Bとともに表示する。更に、図8に示すように、一次粒子が凝集して二次粒子Aを形成している場合は、既に粒径が判明している一次粒子が何個集まって二次粒子Aを形成しているか、どのようなフラクタル形状に凝集しているか等の凝集状態を3次元的に表示する。このような場合においても、棒状なる一次粒子Bや、凝集結果として棒状となった二次粒子Aの周囲に、前記ゼータ電位測定結果から平均帯電量を求め、当該帯電量に基づき色等を変えて電場Eを層として表示する。すなわち、粒子画像データの粒子表面形状と、粒子の大きさのデータと、ゼータ電位の測定結果に基づくゼータ電位画像データとより、粒子表面に層として電場を表示できるようにしている。
【0025】
テーブル格納部63は、ゼータ電位の測定結果と、前記電場を表す層の大きさ又は色と、が関連付けられているテーブルを格納しているものである。
【0026】
画像表示部64は、画像データ作成部62により作成された画像データを取得して、各種物性の測定結果を具現化して画像として表示するものである。
【0027】
次に、各測定機構で測定された結果を画像として表示する手順を図9のフローチャートを参照して説明する。
【0028】
まず、演算処理部61が受光部41、42から発した信号を直接又はコリレータ15等を介して受信して、所定の演算処理を行ない、各種物性の測定結果を算出する(ステップS1)。
【0029】
次いで、画像データ作成部62が、演算処理部61から各種物性の測定結果データを取得する(ステップS2)。
【0030】
続いて、画像データ作成部62は、テーブル格納部63から、ゼータ電位の測定結果と前記粒子の周囲に形成された電場を示す画像の大きさ又は色とが対になっているテーブルを取得して、ゼータ電位の測定結果に対応する画像の大きさや色を選び出す(ステップS3)。
【0031】
そして、画像データ作成部62は、前記粒子と、前記粒子の周囲に形成された電場とを、測定された物性に基づき画像として表示する画像データを作成する(ステップS4)。ここで前記電場を表す層の大きさ又は色はゼータ電位の測定結果に応じて変化する。
【0032】
画像表示部64は、画像データ作成部62で作成された画像データを取得して、
各測定機構により測定された結果を画像として出力する(ステップS5)。
【0033】
このように構成した本実施形態に係る粒子物性測定装置1によれば、数値等として得られた形状物性値や粒径等の測定結果に基づき、液中における粒子の画像が作成されるので、具現化された測定結果から液中の粒子の状態を立体的かつ感覚的に把握することが可能となり、測定に不慣れな者であっても容易に測定結果を理解することができる。また、前記電場を表す層は、ゼータ電位の測定結果に応じて、大きさや色が異なって表示されるので、ゼータ電位の測定結果を一目で容易に把握することができ、理解度が向上する。アスペクト比や凝集度等の形状物性値や粒径等の測定結果に基づいて得られた粒子画像データの粒子周囲(外縁)に、ゼータ電位測定結果に基づいて得られた電場データ(ゼータ電位画像データ)を表示するので、測定に不慣れな者にとっても、溶液中での微粒子の状態を理解しやすい。更に、これらの各種物性の測定は液中で行なわれるので、SEM等の電子顕微鏡による乾燥状態の観察画像では分からなかった液中での粒子の状態が具体的に把握できる。
【0034】
なお、本発明は前記実施形態に限られるものではない。
【0035】
例えば、図6〜8では、前記電場を表す層はゼータ電位の測定結果に応じて色が変化するようにしてあるが、ゼータ電位の測定結果に応じて前記電場を表す層の大きさが変化するように、すなわち、粒子S、A、B又はBの外縁に層として表示してもよく、大きさと色とはいずれか一方又は両方を選択可能であってもよい。
【0036】
本発明に係る粒子物性測定装置は、粒子物性測定装置1に備わっている全ての測定機構を有していなくともよく、例えば、分子量測定機構を備えていなくともよい。
【0037】
その他、本発明はその趣旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能であるのは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明の一実施形態に係る粒子物性測定装置の概要を示す模式的全体図。
【図2】同実施形態における形状物性値測定機構を示す模式的構成図。
【図3】同実施形態における粒径測定機構を示す模式的構成図。
【図4】同実施形態における分子量測定機構を示す模式的構成図。
【図5】同実施形態におけるゼータ電位測定機構を示す模式的構成図。
【図6】同実施形態における測定結果を表示した画像を示す概念図。
【図7】同実施形態における測定結果を表示した画像を示す概念図。
【図8】同実施形態における測定結果を表示した画像を示す概念図。
【図9】同実施形態における画像作成方法を示すチャート。
【符号の説明】
【0039】
1・・・粒子物性測定装置
62・・・画像データ作成部
S、B、A・・・粒子
E・・・電場

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体試料中に分散している粒子の形状物性値を求める形状物性値測定機構と、該粒子の粒径を測定する粒径測定機構と、該粒子のゼータ電位を測定するゼータ電位測定機構と、を少なくとも備えた粒子物性測定装置であって、
前記形状物性値測定機構及び前記粒径測定機構における測定結果データに基づき、粒子表面形状と粒子の大きさを画像として表示するための粒子画像データと、
前記ゼータ電位測定機構における測定結果データに基づき、粒子のゼータ電位を該粒子の粒子表面からの層の大きさ及び/又は粒子表面からの層の色として表示するためのゼータ電位画像データと、を作成する画像データ作成部を更に備えていることを特徴とする粒子物性測定装置。
【請求項2】
前記ゼータ電位測定機構における測定結果データと、前記粒子表面からの層の大きさ及び/又は前記粒子表面からの層の色とを関連付けているテーブルを格納するテーブル格納部を更に備えていることを特徴とする請求項1記載の粒子物性測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−78468(P2010−78468A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−247413(P2008−247413)
【出願日】平成20年9月26日(2008.9.26)
【出願人】(000155023)株式会社堀場製作所 (638)