粒子状物質検出センサ
【課題】粒子状物質を構成するSootとSOFとを精度良く分離して検出でき、且つ低廉な粒子状物質検出センサを提供する。
【解決手段】内燃機関から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を検出するための検出センサであって、前記粒子状物質を燃焼させる酸化能を有する第1測定素子11と、前記粒子状物質を燃焼させる酸化能が前記第1測定素子11より低い第2測定素子12と、前記第1測定素子11及び前記第2測定素子12のそれぞれに接続され、前記粒子状物質の燃焼熱により起電力を発生する第1熱起電力発生部材13及び第2熱起電力発生部材14と、前記第1熱起電力発生部材13で発生した熱起電力と前記第2熱起電力発生部材14で発生した熱起電力との差に基づいて、前記粒子状物質の量を検出する検出手段15と、を備える。
【解決手段】内燃機関から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を検出するための検出センサであって、前記粒子状物質を燃焼させる酸化能を有する第1測定素子11と、前記粒子状物質を燃焼させる酸化能が前記第1測定素子11より低い第2測定素子12と、前記第1測定素子11及び前記第2測定素子12のそれぞれに接続され、前記粒子状物質の燃焼熱により起電力を発生する第1熱起電力発生部材13及び第2熱起電力発生部材14と、前記第1熱起電力発生部材13で発生した熱起電力と前記第2熱起電力発生部材14で発生した熱起電力との差に基づいて、前記粒子状物質の量を検出する検出手段15と、を備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質(Particulate Matter、以下PMという)を検出するためのセンサに関し、特に、自動車のリーンバーンエンジンから排出される排ガスに含まれるPMや、工場等の排煙に含まれるPMの検出に利用されるセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等のリーンバーンエンジンから排出される排ガス中に含まれるPMは、大気汚染等の原因物質とされており、その排出量の低減が課題となっている。その対応として、燃焼改善によるPM排出量の低減技術や、ディーゼル微粒子フィルタ(Diesel Particulate Filter、以下DPFという)が提案されており、PM排出量の大幅な低減が可能となってきている。
【0003】
DPFは、セラミック製又は金属製の多孔質フィルタであり、PMを含んだ排ガスを通過させることにより、排ガス中からPMを分離して捕集する。DPFに捕集されたPMは、一定量が堆積した段階で、エンジン制御等により排ガス温度を上昇させて燃焼除去される。DPF上に堆積したPM量は、走行距離や時間、エンジン情報(エンジン回転数やトルク等)に基づいて推定される。また、堆積したPM量は、DPF上下流の圧力差を計測し、PMの堆積に起因するDPFの圧力損失の上昇度合いから推定される。
【0004】
一方、排ガス中のPMを直接的に検出し、DPFへのPM堆積量を推定する手法も提案されている。その方式としては、光学方式、電気抵抗方式、電荷方式、マイクロ波方式等が挙げられる。これらのうち、光学方式については、既に排ガスのスモーク測定用として市販されている。また、振動型質量検出方式の提案もなされている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0123059号明細書
【特許文献2】米国特許第6786075号明細書
【特許文献3】特開2006−208123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来から提案されているPM検出センサ(以下、PMセンサという)は、コスト高であったり、性能保証の面で課題を有している。例えば、光学式PMセンサの場合、排ガス中では光学レンズがPMの付着等により汚染される。このため、PM検出感度や精度が低下するのを回避すべく、定期的なメンテナンスが必要である等、長期間の連続的な使用が困難である。
【0006】
また、PMは、主として固体状カーボンからなる煤(以下Sootという)と可溶性有機物(Soluble Organic Fraction、以下SOFという)から構成されており、主にSootがDPFに捕集される。従って、DPF上のPM堆積量の推定精度を高めるためには、PMを構成するSootとSOFとを分離して検出できることが望ましい。しかしながら、従来から提案されているPMセンサでは、SootとSOFとを分離して検出することはできなかった。
【0007】
従って、PMを構成するSootとSOFとを精度良く分離して検出でき、且つ低廉なPMセンサの開発が求められており、本発明の目的は、係る要求を満たすPMセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、PMを燃焼させる酸化能を有する第1測定素子と、PMを燃焼させる酸化能が第1測定素子より低い第2測定素子と、を備えたPMセンサによれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
請求項1記載の発明は、内燃機関から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を検出するための検出センサであって、前記粒子状物質を燃焼させる酸化能を有する第1測定素子と、前記粒子状物質を燃焼させる酸化能が前記第1測定素子より低い第2測定素子と、前記第1測定素子及び前記第2測定素子のそれぞれに接続され、前記粒子状物質の燃焼熱により起電力を発生する第1熱起電力発生部材及び第2熱起電力発生部材と、前記第1熱起電力発生部材で発生した熱起電力と前記第2熱起電力発生部材で発生した熱起電力との差に基づいて、前記粒子状物質の量を検出する検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るPMセンサを内燃機関の排気流路内に設置すると、第1測定素子及び第2測定素子に排ガス中のPMが付着する。PMを燃焼させる酸化能を有する第1測定素子は、PMが自然燃焼する温度である600℃よりも低い温度でPMを燃焼する。これに対して、第2測定素子は第1測定素子よりも酸化能が低く、第1測定素子上ではPMが燃焼し、第2測定素子上ではPMは燃焼しないような温度下では、両者間にPM燃焼熱の差が生じる。発生したPM燃焼熱は、第1測定素子及び第2測定素子のそれぞれに接続されている第1熱起電力発生部材及び第2熱起電力発生部材に作用し、それぞれ異なる熱起電力が発生する。これらの熱起電力の差はPM量に比例することから、この熱起電力差を捉えることにより、精度良くPM量を検出することができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の粒子状物質検出センサにおいて、前記検出手段は、前記粒子状物質を構成する煤は燃焼しないが可溶性有機物が燃焼する第1燃焼領域、並びに前記煤及び前記可溶性有機物が燃焼する第2燃焼領域の各領域における、前記第1熱起電力発生部材で発生した熱起電力と前記第2熱起電力発生部材で発生した熱起電力との差に基づいて、前記煤及び前記可溶性有機物それぞれの量を検出することを特徴とする。
【0012】
PMを構成するSootとSOFとでは、その燃焼温度に差があり、有機成分であるSOFに比して固体状カーボンからなるSootの方が燃焼温度が高い。このため、PM酸化能を有する測定素子の温度がSootを燃焼できない温度、即ち第1燃焼領域にあるときには、SOFのみが燃焼してSOFの燃焼熱に比例する熱起電力が発生する。これに対して、温度が上昇し、Sootが燃焼可能な温度、即ち第2燃焼領域にあるときには、SOFの燃焼熱とSootの燃焼熱のトータルに比例する熱起電力が発生する。従って、第1燃焼領域及び第2燃焼領域の各領域において、第1熱起電力発生部材で発生した熱起電力と第2熱起電力発生部材で発生した熱起電力との差を検出する検出手段を備えた本発明によれば、第1燃焼領域における熱起電力差と、第2燃焼領域における熱起電力差との差分に基づいて、PM中のSOFとSootとを精度良く分離して検出することができる。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の粒子状物質検出センサにおいて、前記第1測定素子及び前記第2測定素子は、同一の多孔質体上に設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明のPMセンサでは、同一の多孔質体上に第1測定素子及び第2測定素子が設けられている。このため、本発明によれば、センサを小型化でき、レイアウト上有利であるとともに、材料費を削減できる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1から3いずれか記載の粒子状物質検出センサにおいて、前記第1測定素子及び前記第2測定素子は、少なくともAl2O3、SiO2、MgO、及びCaOを含む天草陶土から形成された多孔質体であることを特徴とする。
【0016】
天草陶土から形成された多孔質体による測定素子は、排ガス流路での使用に際し、排ガスで想定される温度域(最高で800℃)において、十分な耐熱性及び機械的強度を有する。機械的強度に関しては、天草陶土に含まれるSiO2がバインダー的な役割を担い、排ガス流路での使用に耐え得る強度を発現するためであると考えられる。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の粒子状物質検出センサにおいて、前記第1測定素子及び前記第2測定素子は、孔形成剤としてポリビニルアルコールを用いて形成された多孔質体であることを特徴とする。
【0018】
天草陶土を原料として多孔質体を形成するには、孔形成剤を所定量添加して混合するのが有効である。具体的には、天草陶土粉末に、孔形成剤としてポリビニルアルコール(以下PVAという)を所定量添加して混合し、成型した後、焼成することにより、PVAが揮散して気孔が形成される。即ち、第1測定素子及び第2測定素子を形成する際に、孔形成剤としてPVAを用いることにより、排ガス中のPMとガス成分を分離してガス成分を透過するのに十分な気孔を有する多孔質体が得られる。従って、本発明によれば、排ガス中のPMとガス成分とを分離してガス成分を透過させることができる測定素子を用いていることから、PMを精度良く検出できる。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項1から5いずれか記載の粒子状物質検出センサにおいて、前記第1測定素子は、少なくともAgを含むことを特徴とする。
【0020】
高いPM酸化能を付与すべく、第1測定素子を構成する多孔質体にAgを担持させると、PMが自然燃焼を始める温度(600℃)よりも低い温度でPMを酸化燃焼することができる。これは、多孔質体上に担持されたAgの最表面が酸化されて活性な酸素原子で覆われた状態となり、そこにPMが接触する結果、低温でのPMの酸化燃焼が可能になると考えられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、PMを構成するSootとSOFとを精度良く分離して検出でき、且つ低廉なPMセンサを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
本発明の実施形態に係るPMセンサの全体構成を図1に示す。図1に示されるように、PMセンサ10は、内燃機関(図示せず)の排気流路20内に設置され、内燃機関から排出される排ガス中に含まれるPMを検出するためのセンサである。PMセンサ10は、PMを燃焼させる酸化能を有する第1測定素子11と、PMを燃焼させる酸化能が第1測定素子11より低い第2測定素子12と、第1測定素子11及び第2測定素子12のそれぞれに接続され、PMの燃焼熱により起電力を発生する第1熱起電力発生部材13及び第2熱起電力発生部材14と、第1熱起電力発生部材13で発生した熱起電力と第2熱起電力発生部材14で発生した熱起電力との差に基づいて、PM量を検出する検出手段15と、を備える。
【0024】
[測定素子]
第1測定素子11及び第2測定素子12としては、多孔質体であることが好ましく、本実施形態では、少なくともAl2O3、SiO2、MgO、及びCaOを含む天草陶土から形成された多孔質体が用いられている。天草陶土は、天草地方で産出される陶器の原料である。天草陶土を用いて形成された多孔質体は、排ガス流路での使用に際し、排ガスで想定される温度域(最高で800℃)において、十分な耐熱性及び機械的強度を有する。これは、天草陶土に含まれるSiO2がバインダー的な役割を担い、排ガス流路での使用に耐え得る強度を発現するためであると考えられる。
【0025】
具体的には、この天草陶土の粉末を用い、多孔質体とするために、孔形成剤としてPVAを所定量添加して混合し、成型した後、焼成することにより、有機物のPVAが揮散して気孔が形成される。PVAの添加量としては、天草陶土:PVA=2:1〜4:1(重量比)とすることが好ましい。PVAを用いて形成された多孔質体について、水銀ポロシメーターにより気孔の大きさを測定すると、0.5μm〜6.0μmである。また、そのガス透過性を測定すると、30mL・cm・cm2/秒/atm以上であり、排ガス中のPMとガス成分とを分離してガス成分を透過するのに十分なガス透過性を有する。
【0026】
本実施形態の第2測定素子は、上記の天草陶土から形成された多孔質体そのものが用いられている。本実施形態のように、第2測定素子としては、PM酸化能を有さない素子が好ましく使用される。一方、第1測定素子は、第2測定素子よりも高いPM酸化能を有していればよく、本実施形態では、上記の天草陶土から形成された多孔質体に、Agを担持させたものが用いられている。具体的には、天草陶土から形成された多孔質体を、硝酸銀水溶液中に浸漬させるディップコート法により、Agを担持させたものが用いられている。Agの担持量としては、天草陶土から形成された多孔質体に対して、5〜30重量%であることが好ましい。Agは低温でのPM燃焼活性に優れるため、Agを担持させることにより、第1測定素子上において低温下でのPMの酸化燃焼が可能となる。
【0027】
ここで、「酸化能」とは、PMを酸化燃焼させる能力を表し、酸化能が高い測定素子は、酸化能が低い測定素子に比して、低温で効率良くPMを酸化燃焼することができる。また、「PM酸化能を有さない」とは、PMを構成するSoot及びSOFのいずれに対しても酸化燃焼する能力が無いことを意味する。
【0028】
[熱起電力発生部材]
第1熱起電力発生部材13及び第2熱起電力発生部材14を構成する部材は、PMの燃焼により生じる熱により起電力を発生するものであればよく、本実施形態では、一般的な熱起電力発生部材である熱電対が用いられている。また、第1熱起電力発生部材13と第2熱起電力発生部材14とでは、同一の材質からなる熱電対が用いられている。
【0029】
[検出手段]
検出手段15では、第1熱起電力発生部材13で発生した熱起電力と第2熱起電力発生部材14で発生した熱起電力との差に基づいて、PM量が検出される。各熱起電力発生部材で生じた熱起電力は、各測定素子で発生したPM燃焼熱に比例することから、両熱起電力の差分を求めることにより、PM量を検出することができる。
また、検出手段15では、PMを構成するSootを燃焼させずにSOFを燃焼させる第1燃焼領域、並びにSoot及びSOFを燃焼させる第2燃焼領域それぞれにおいて、第1熱起電力発生部材13で発生した熱起電力と、第2熱起電力発生部材14で発生した熱起電力の差分を求め、それら差分に基づいて、Soot及びSOFそれぞれの量を検出することができる。PM、Soot、及びSOFそれぞれの量を検出可能な理由の詳細については、後述する。
【0030】
以上のような構成を備えたPMセンサ10によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態に係るPMセンサ10を内燃機関の排気流路20内に設置すると、第1測定素子11及び第2測定素子12に排ガス中のPMが付着する。PMを燃焼させる酸化能を有する第1測定素子11は、PMが自然燃焼する温度である600℃よりも低い温度でPMを燃焼する。これに対して、第2測定素子12は第1測定素子11よりも酸化能が低く、図2に示されるように、第1測定素子11上ではPMが燃焼し、第2測定素子12上ではPMは燃焼しないような温度下では、両者間にPM燃焼熱の差が生じる。発生したPM燃焼熱は、第1測定素子11及び第2測定素子12のそれぞれに接続されている第1熱起電力発生部材13及び第2熱起電力発生部材14に作用し、それぞれ異なる熱起電力が発生する。具体的には、第1熱起電力発生部材13で発生する熱起電力Aは、第2熱起電力発生部材14で発生する熱起電力Bよりも大きい。これらの熱起電力の差はPM量に比例することから、この熱起電力差A−Bを捉えることにより、精度良くPM量を検出することができる。
【0031】
ところで、PMを構成するSootとSOFとでは、その燃焼温度に差があり、有機成分であるSOFに比して固体状カーボンからなるSootの方が燃焼温度が高い。SootとSOFの燃焼領域を表した図を図3に示す。図3は、PM酸化能を有さない多孔質体(第2測定素子)、及びPM酸化能を有する多孔質体(第1測定素子)のそれぞれに、PMの代替物としてカーボンブラック(以下、CBという)を担持させたときのCB重量減少率を、PM減少率に置き換えて表したものである。また、図3の燃焼曲線は、後述する試験例と同様の測定により得られたものである。
【0032】
ここで、図3において、CB(PM)重量減少が10%を超えたときの温度は、Soot燃焼開始温度と呼ばれ、PM酸化能を有さない多孔質体上のCB10%減少温度(600℃)以上の領域は、PM(Soot)自然燃焼領域と呼ばれる。また、PM酸化能を有する多孔質体上のCB10%減少温度(T0)〜600℃の領域は、PM(Soot)酸化燃焼領域と呼ばれ、PM酸化能を有する多孔質体上のCB10%減少温度(T0)以下の領域は、SOF酸化燃焼領域と呼ばれる。このように、PMを構成するSootとSOFとでは、その燃焼領域に大きな差があることから、その差を利用することにより、SootとSOFとの分離検出が可能となる。
例えば、SOFの検出は、T0以下の領域で、HCを十分に酸化できる温度(T1:300℃程度)で検出でき、PMの検出は、T0以上の領域でCB50%減少温度(T2:500℃程度)で検出できる。ここで、CB50%減少としたのは、CB減少率が50%のときにPM燃焼速度が最も大きいからである。
【0033】
PM酸化能を有する第1測定素子の温度がSootを燃焼できないSOF酸化燃焼領域、即ち第1燃焼領域にあるときには、SOFのみが燃焼してSOFの燃焼熱に比例する熱起電力が発生する。第1燃焼領域にあるときのPMセンサ10のメカニズムを図4に示す。SOFの燃焼が生じる第1熱起電力発生部材13の熱起電力A1と、SOFの燃焼が生じていない第2熱起電力発生部材14の熱起電力B1との差分C1は、SOFの燃焼熱に比例する。
【0034】
また、温度が上昇し、Sootが燃焼可能なPM(Soot)酸化燃焼領域、即ち第2燃焼領域にあるときには、SOFの燃焼熱とSootの燃焼熱のトータルに比例する熱起電力が発生する。第2燃焼領域にあるときのPMセンサ10のメカニズムを図5に示す。SOF及びSootの燃焼が生じる第1熱起電力発生部材13の熱起電力A2と、SOF及びSootいずれの燃焼も生じない第2熱起電力発生部材14の熱起電力B2との差分C2は、PM(Soot+SOF)の燃焼熱に比例する。
【0035】
従って、図6に示されるように、第1燃焼領域(SOF酸化燃焼領域)及び第2燃焼領域(PM(Soot)酸化燃焼領域)の各領域において、第1熱起電力発生部材13で発生した熱起電力と第2熱起電力発生部材14で発生した熱起電力との差を検出する検出手段15を備えた本実施形態によれば、第1燃焼領域(SOF酸化燃焼領域)における熱起電力差と、第2燃焼領域(PM(Soot)酸化燃焼領域)における熱起電力差との差分に基づいて、PM中のSOFとSootとを精度良く分離して検出することができる。
【0036】
また、天草陶土から形成された多孔子質体を利用した測定素子は、排ガス流路20内での使用に際し、排ガスで想定される温度域(最高で800℃)において、十分な耐熱性及び機械的強度を有する。これは、天草陶土に含まれるSiO2がバインダー的な役割を担い、排ガス流路20での使用に耐え得る強度を発現するためであると考えられる。また、天草陶土から形成された多孔子質体は、十分なガス透過性を有するため、排ガス中に含まれるPMを効率良く検出できる。
【0037】
孔形成剤としてポリビニルアルコール(PVA)を用いて形成された多孔質体からなる第1測定素子11及び第2測定素子12によれば、排ガス中のPMとガス成分とを分離してガス成分を透過させることができる。このため、PVAを用いて形成された多孔質体を利用した第1測定素子11及び第2測定素子12は、排ガス中のPMとガス成分を分離してガス成分を透過するのに十分な気孔を有し、PMを精度良く検出できる。
【0038】
また、第1測定素子11を構成する多孔質体にAgが担持されているため、PMが自然燃焼を始める温度(600℃)よりも低い温度でPMを酸化燃焼できる。これは、多孔質体上に担持されたAgの最表面が酸化されて活性な酸素原子で覆われた状態となり、そこにPMが接触する結果、低温でのPMの酸化燃焼が可能になると考えられる。
【0039】
以上のことから、本実施形態に係るPMセンサ10によれば、AgによるPMの低温酸化燃焼により発生する燃焼熱を熱起電力として検出することにより、廉価で、且つSootとSOFの分離検出が可能な高精度PMセンサを提供できる。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
例えば、同一の多孔質体上に第1測定素子11及び第2測定素子12を設けることができる。具体的には、天草陶土から形成された多孔質体の一部を、硝酸銀水溶液中に浸漬させることにより、一部にAgを担持させることができ、第1測定素子11及び第2測定素子12を同一の多孔質体上に設けることができる。この変形例によれば、PMセンサを小型化でき、レイアウト上有利であるとともに、材料費を削減できる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
<試験例1>
天草陶土から形成した多孔質体からなる素子(以下、セラミックス多孔質体素子という)、及びこれにAgを担持させた素子(以下、Ag担持セラミックス多孔質体素子という)について、従来よりPM燃焼活性を有する多孔質体として知られているLa0.9K0.1CoO3多孔質体(以下、LKC多孔質体素子という)とのPM燃焼活性の比較を行った。各素子の作製、及び評価方法は以下の通りとした。
【0043】
[素子の作製]
天草陶土粉末に、孔形成剤としてPVAを所定量添加して混合した。混合粉末を、錠剤成型器を用いて、20MPaで10分間の成型処理を行った。成型後、800℃で焼成することにより、PVAが揮発して形成された気孔を有するセラミックス多孔質体素子を得た。
また、得られたセラミックス多孔質体素子を、硝酸銀水溶液に浸漬(ディップコート法)させることにより、Agを5重量%担持させ、Ag担持セラミックス多孔質体素子を得た。
【0044】
また、LKC多孔質体を構成するLa、K、Coを所定量含み、蒸発乾固法により調製されたLKC前駆体粉末に、孔形成剤としてPVAを所定量添加して混合した。混合粉末を、錠剤成型器を用いて、20MPaで10分間の成型処理を行った。成型後、1100℃で焼成することにより、PVAが揮発して形成された気孔を有するLKC多孔質体素子を得た。
【0045】
[評価方法]
作製した各素子に対して、PMの代替物としてCBを5.0重量%担持させた。CBを担持させた各素子について、以下の条件でTG測定を行い、それらの熱重量変化を比較することにより、PM燃焼活性の評価を行った。なお、評価に際しては、スパチュラを用いて一定時間、素子にCBを振りかけて付着させるLC法(loose contact法)により、排ガス中でのPMと素子との接触状態を模擬的に再現した。
【0046】
測定装置:島津製作所製「DTG−60H」
サンプル:5.0重量%CB/素子(約10mg)
雰囲気:空気中
昇温速度:10℃/分で800℃まで
接触状態:スパチュラで一定時間混合(loose contact、以下LCという)
【0047】
TG測定の結果得られたTGチャートを図7に示す。各素子について、CBの燃焼による重量減少が最も大きかった温度(以下、Tmaxという)を比較すると、最も温度が高かったのがセラミックス多孔質体素であり、次いで高かったのがLKC多孔質体素子であった。これらの素子では、Tmaxが600℃前後であったのに対して、Ag担持セラミックス多孔質体素子のTmaxは、500℃を下回っていた。この結果から、天草陶土から形成した多孔質体からなる素子にAgを担持させた素子は、従来に比して低温でPMを酸化燃焼でき、PM燃焼活性が高いことが確認された。
【0048】
<実施例1>
本発明の効果を、市販のディーゼル発電機から排出される排ガスを用いて検証した。検証には、図8に示されるテスト装置50を用いた。具体的には、ディーゼル発電機60から排出される排ガスの全量を、テスト装置50に取り込み、PM検出テストを実施した。テスト部は、石英ガラス管61内(内径φ50mm)で、その外側に電気ヒータ56を設置し、雰囲気温度を所定の温度に調節した。温度は、上述したように図3を参考にして設定した。
【0049】
石英ガラス管61中に、PM酸化能を有する多孔質体からなるセンサ素子51と、PM酸化能を有さない多孔質体からなる参照素子52と、をガス流に対して垂直に配置し、それぞれに、熱電対からなる熱起電力発生部材53、54を接続し、その出力端の電圧を計測した。なお、ガス温度を計測するために、両素子の間に熱電対からなるガス温度センサ(図示せず)を設置した。
【0050】
センサ素子51及び参照素子52の形状は、φ20mm×5mm厚さのタブレット形状とし、その側面に孔を形成し、その孔に熱電対を挿入して素子を形成した。素子となる多孔質体は、以下の手順で作製した。
原料は、天草地方で産出された陶器の原料となる天草陶土粉末を用いた。多孔質体とするために、孔形成剤としてPVAを天草陶土に対して体積比で1:3となるように添加した。添加後、混練し、該粉末を金型に充填して20MPaで10分間、一軸加圧成型した。成型体を空気中で800℃×5時間の焼成を行い、多孔質体を作製した。センサ素子51とする多孔質体については、さらに硝酸銀水溶液に浸漬してAgを担持させた。Agの担持量は5重量%とした。
【0051】
PM検出テストは、以下の手順で実施した。
石英ガラス管61内に、センサ素子51及び参照素子52を設置し、電気ヒータ56で温度を500℃に安定させた。次いで、無負荷の状態でディーゼル発電機60を起動し、排ガスをテスト部に導入した。一定時間、排ガスを流通させた後、ディーゼル発電機60を停止した。その間、センサ素子51及び参照素子52からの熱起電力出力をモニターし、その差分を計算した。なお、排ガス中のPM濃度は、テストラインから一定流量のガスをポンプ57で取り出し、そのガスをテフロン(登録商標)フィルタ58に通してPMを濾過し、フィルタの前後重量差からPM濃度を算出した。
【0052】
<比較例1>
電気ヒータ56の設定温度を、500℃ではなく350℃に設定した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0053】
<実施例2>
ディーゼル発電機60に、定格出力の31%に相当する抵抗を接続した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0054】
<実施例3>
ディーゼル発電機60に、定格出力の44%に相当する抵抗を接続した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0055】
実施例1の結果について考察する。
実施例1のPM検出テストにおける時間と熱起電力差との関係を図9に、時間とセンサ温度との関係を図10に示す。
図9及び10に示されるように、ディーゼル発電機60の始動前は、センサ素子51及び参照素子52からの熱起電力が同じであるため、熱起電力の差分は発生しない。ディーゼル発電機60を始動し、排ガスをテスト部に導入すると、センサ素子51に付着したPM(SOF+Soot)が酸化燃焼するため、参照素子52との熱起電力差が生じる。時間の経過とともに熱起電力差は減少し、あるところで一定になる。これは、電気ヒータ56で500℃に加温しているものの、それよりも温度の低い排ガスが流入することによりテスト部の温度が低下し、センサ温度が250℃程度で安定した結果、PM中のSOFのみが酸化燃焼して生じた熱起電力の差を示しているためである。
その後、ディーゼル発電機60を停止すると、再び熱起電力差が上昇してピークを迎えた後、減少に転じ、熱起電力差が消失する。これは、排ガスが流入しなくなったため電気ヒータ56により再び500℃に加温される結果、排ガス流入中に酸化燃焼できずに堆積したSootが酸化燃焼されることにより、熱起電力差が生じたためである。従って、センサ温度を所定の温度に制御することにより、PM中のSootとSOFとを分離して検出することができることが分かった。
【0056】
比較例1の結果について考察する。
比較例1のPM検出テストにおける時間と熱起電力差との関係を図11に、時間とセンサ温度との関係を図12に示す。
図11及び12に示されるように、ディーゼル発電機60の始動前は、センサ素子51及び参照素子52からの熱起電力が同じであるため、熱起電力の差分は発生しない。ディーゼル発電機60を始動して排ガスをテスト部に導入すると、電気ヒータ56の設定温度が350℃であることから、センサ素子51にPMが付着するときの温度も350℃と低いため、SOFのみが燃焼し、その差分の熱起電力差が生じる。しかしながら、排ガス流入によりセンサ温度が200℃以下まで下がるため、SOFも酸化燃焼できなくなり、参照素子52との熱起電力差は生じない。
その後、ディーゼル発電機60を停止し、テスト部へ排ガスが流入しなくなると、電気ヒータ56により加温されても、付着したSootの酸化燃焼が生じないため、熱起電力差は発生しない。この結果から、センサ温度を、Sootを酸化燃焼できる温度で制御しないと、正確なPM検出を行うことができないことが分かった。
【0057】
実施例2及び3の結果について考察する。
実施例1〜3のPM検出テストにおける時間と熱起電力差との関係を図13に、時間とセンサ温度との関係を図14に、発生したPM濃度と熱起電力差との関係をプロットした図を図15に示す。また、ディーゼル発電機60始動直後(図13のPの部分)におけるPM濃度と熱起電力差を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
実施例2及び3では、実施例1に対して、ディーゼル発電機60の負荷を変更することにより、PMの発生量を変化させたものである。図13〜15及び表1に示されるように、ディーゼル発電機60に負荷を与えてPM発生量を減少させた実施例2及び3は、実施例1に比して熱起電力差が減少することが分かった。また、その減少度合いは、ディーゼル発電機60に与えた負荷に比例することも分かった。従って、この結果から、熱起電力差とPM濃度との間には、良好な相関性があることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のPMセンサの全体構成を示す図である。
【図2】本発明のメカニズムを説明するための図である。
【図3】SootとSOFの燃焼温度を関係を示す図である。
【図4】第1燃焼領域にあるときのPMセンサのメカニズムを示す図である。
【図5】第2燃焼領域にあるときのPMセンサのメカニズムを示す図である。
【図6】本発明のメカニズムを説明するための図である。
【図7】試験例1の結果得られたTGチャートを示す図である。
【図8】テスト装置の全体構成を示す図である。
【図9】実施例1の時間と熱起電力差との関係を示す図である。
【図10】実施例1の時間とセンサ温度との関係を示す図である。
【図11】比較例1の時間と熱起電力差との関係を示す図である。
【図12】比較例1の時間とセンサ温度との関係を示す図である。
【図13】実施例1〜3の時間と熱起電力差との関係を示す図である。
【図14】実施例1〜3の時間とセンサ温度との関係を示す図である。
【図15】PM濃度と熱起電力差との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
10 PMセンサ
11 第1測定素子
12 第2測定素子
13 第1熱起電力発生部材
14 第2熱起電力発生部材
15 検出手段
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子状物質(Particulate Matter、以下PMという)を検出するためのセンサに関し、特に、自動車のリーンバーンエンジンから排出される排ガスに含まれるPMや、工場等の排煙に含まれるPMの検出に利用されるセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジン等のリーンバーンエンジンから排出される排ガス中に含まれるPMは、大気汚染等の原因物質とされており、その排出量の低減が課題となっている。その対応として、燃焼改善によるPM排出量の低減技術や、ディーゼル微粒子フィルタ(Diesel Particulate Filter、以下DPFという)が提案されており、PM排出量の大幅な低減が可能となってきている。
【0003】
DPFは、セラミック製又は金属製の多孔質フィルタであり、PMを含んだ排ガスを通過させることにより、排ガス中からPMを分離して捕集する。DPFに捕集されたPMは、一定量が堆積した段階で、エンジン制御等により排ガス温度を上昇させて燃焼除去される。DPF上に堆積したPM量は、走行距離や時間、エンジン情報(エンジン回転数やトルク等)に基づいて推定される。また、堆積したPM量は、DPF上下流の圧力差を計測し、PMの堆積に起因するDPFの圧力損失の上昇度合いから推定される。
【0004】
一方、排ガス中のPMを直接的に検出し、DPFへのPM堆積量を推定する手法も提案されている。その方式としては、光学方式、電気抵抗方式、電荷方式、マイクロ波方式等が挙げられる。これらのうち、光学方式については、既に排ガスのスモーク測定用として市販されている。また、振動型質量検出方式の提案もなされている(例えば、特許文献1〜3参照)。
【特許文献1】米国特許出願公開第2003/0123059号明細書
【特許文献2】米国特許第6786075号明細書
【特許文献3】特開2006−208123号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来から提案されているPM検出センサ(以下、PMセンサという)は、コスト高であったり、性能保証の面で課題を有している。例えば、光学式PMセンサの場合、排ガス中では光学レンズがPMの付着等により汚染される。このため、PM検出感度や精度が低下するのを回避すべく、定期的なメンテナンスが必要である等、長期間の連続的な使用が困難である。
【0006】
また、PMは、主として固体状カーボンからなる煤(以下Sootという)と可溶性有機物(Soluble Organic Fraction、以下SOFという)から構成されており、主にSootがDPFに捕集される。従って、DPF上のPM堆積量の推定精度を高めるためには、PMを構成するSootとSOFとを分離して検出できることが望ましい。しかしながら、従来から提案されているPMセンサでは、SootとSOFとを分離して検出することはできなかった。
【0007】
従って、PMを構成するSootとSOFとを精度良く分離して検出でき、且つ低廉なPMセンサの開発が求められており、本発明の目的は、係る要求を満たすPMセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、PMを燃焼させる酸化能を有する第1測定素子と、PMを燃焼させる酸化能が第1測定素子より低い第2測定素子と、を備えたPMセンサによれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0009】
請求項1記載の発明は、内燃機関から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を検出するための検出センサであって、前記粒子状物質を燃焼させる酸化能を有する第1測定素子と、前記粒子状物質を燃焼させる酸化能が前記第1測定素子より低い第2測定素子と、前記第1測定素子及び前記第2測定素子のそれぞれに接続され、前記粒子状物質の燃焼熱により起電力を発生する第1熱起電力発生部材及び第2熱起電力発生部材と、前記第1熱起電力発生部材で発生した熱起電力と前記第2熱起電力発生部材で発生した熱起電力との差に基づいて、前記粒子状物質の量を検出する検出手段と、を備えることを特徴とする。
【0010】
本発明に係るPMセンサを内燃機関の排気流路内に設置すると、第1測定素子及び第2測定素子に排ガス中のPMが付着する。PMを燃焼させる酸化能を有する第1測定素子は、PMが自然燃焼する温度である600℃よりも低い温度でPMを燃焼する。これに対して、第2測定素子は第1測定素子よりも酸化能が低く、第1測定素子上ではPMが燃焼し、第2測定素子上ではPMは燃焼しないような温度下では、両者間にPM燃焼熱の差が生じる。発生したPM燃焼熱は、第1測定素子及び第2測定素子のそれぞれに接続されている第1熱起電力発生部材及び第2熱起電力発生部材に作用し、それぞれ異なる熱起電力が発生する。これらの熱起電力の差はPM量に比例することから、この熱起電力差を捉えることにより、精度良くPM量を検出することができる。
【0011】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の粒子状物質検出センサにおいて、前記検出手段は、前記粒子状物質を構成する煤は燃焼しないが可溶性有機物が燃焼する第1燃焼領域、並びに前記煤及び前記可溶性有機物が燃焼する第2燃焼領域の各領域における、前記第1熱起電力発生部材で発生した熱起電力と前記第2熱起電力発生部材で発生した熱起電力との差に基づいて、前記煤及び前記可溶性有機物それぞれの量を検出することを特徴とする。
【0012】
PMを構成するSootとSOFとでは、その燃焼温度に差があり、有機成分であるSOFに比して固体状カーボンからなるSootの方が燃焼温度が高い。このため、PM酸化能を有する測定素子の温度がSootを燃焼できない温度、即ち第1燃焼領域にあるときには、SOFのみが燃焼してSOFの燃焼熱に比例する熱起電力が発生する。これに対して、温度が上昇し、Sootが燃焼可能な温度、即ち第2燃焼領域にあるときには、SOFの燃焼熱とSootの燃焼熱のトータルに比例する熱起電力が発生する。従って、第1燃焼領域及び第2燃焼領域の各領域において、第1熱起電力発生部材で発生した熱起電力と第2熱起電力発生部材で発生した熱起電力との差を検出する検出手段を備えた本発明によれば、第1燃焼領域における熱起電力差と、第2燃焼領域における熱起電力差との差分に基づいて、PM中のSOFとSootとを精度良く分離して検出することができる。
【0013】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載の粒子状物質検出センサにおいて、前記第1測定素子及び前記第2測定素子は、同一の多孔質体上に設けられていることを特徴とする。
【0014】
本発明のPMセンサでは、同一の多孔質体上に第1測定素子及び第2測定素子が設けられている。このため、本発明によれば、センサを小型化でき、レイアウト上有利であるとともに、材料費を削減できる。
【0015】
請求項4記載の発明は、請求項1から3いずれか記載の粒子状物質検出センサにおいて、前記第1測定素子及び前記第2測定素子は、少なくともAl2O3、SiO2、MgO、及びCaOを含む天草陶土から形成された多孔質体であることを特徴とする。
【0016】
天草陶土から形成された多孔質体による測定素子は、排ガス流路での使用に際し、排ガスで想定される温度域(最高で800℃)において、十分な耐熱性及び機械的強度を有する。機械的強度に関しては、天草陶土に含まれるSiO2がバインダー的な役割を担い、排ガス流路での使用に耐え得る強度を発現するためであると考えられる。
【0017】
請求項5記載の発明は、請求項4記載の粒子状物質検出センサにおいて、前記第1測定素子及び前記第2測定素子は、孔形成剤としてポリビニルアルコールを用いて形成された多孔質体であることを特徴とする。
【0018】
天草陶土を原料として多孔質体を形成するには、孔形成剤を所定量添加して混合するのが有効である。具体的には、天草陶土粉末に、孔形成剤としてポリビニルアルコール(以下PVAという)を所定量添加して混合し、成型した後、焼成することにより、PVAが揮散して気孔が形成される。即ち、第1測定素子及び第2測定素子を形成する際に、孔形成剤としてPVAを用いることにより、排ガス中のPMとガス成分を分離してガス成分を透過するのに十分な気孔を有する多孔質体が得られる。従って、本発明によれば、排ガス中のPMとガス成分とを分離してガス成分を透過させることができる測定素子を用いていることから、PMを精度良く検出できる。
【0019】
請求項6記載の発明は、請求項1から5いずれか記載の粒子状物質検出センサにおいて、前記第1測定素子は、少なくともAgを含むことを特徴とする。
【0020】
高いPM酸化能を付与すべく、第1測定素子を構成する多孔質体にAgを担持させると、PMが自然燃焼を始める温度(600℃)よりも低い温度でPMを酸化燃焼することができる。これは、多孔質体上に担持されたAgの最表面が酸化されて活性な酸素原子で覆われた状態となり、そこにPMが接触する結果、低温でのPMの酸化燃焼が可能になると考えられる。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、PMを構成するSootとSOFとを精度良く分離して検出でき、且つ低廉なPMセンサを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0023】
本発明の実施形態に係るPMセンサの全体構成を図1に示す。図1に示されるように、PMセンサ10は、内燃機関(図示せず)の排気流路20内に設置され、内燃機関から排出される排ガス中に含まれるPMを検出するためのセンサである。PMセンサ10は、PMを燃焼させる酸化能を有する第1測定素子11と、PMを燃焼させる酸化能が第1測定素子11より低い第2測定素子12と、第1測定素子11及び第2測定素子12のそれぞれに接続され、PMの燃焼熱により起電力を発生する第1熱起電力発生部材13及び第2熱起電力発生部材14と、第1熱起電力発生部材13で発生した熱起電力と第2熱起電力発生部材14で発生した熱起電力との差に基づいて、PM量を検出する検出手段15と、を備える。
【0024】
[測定素子]
第1測定素子11及び第2測定素子12としては、多孔質体であることが好ましく、本実施形態では、少なくともAl2O3、SiO2、MgO、及びCaOを含む天草陶土から形成された多孔質体が用いられている。天草陶土は、天草地方で産出される陶器の原料である。天草陶土を用いて形成された多孔質体は、排ガス流路での使用に際し、排ガスで想定される温度域(最高で800℃)において、十分な耐熱性及び機械的強度を有する。これは、天草陶土に含まれるSiO2がバインダー的な役割を担い、排ガス流路での使用に耐え得る強度を発現するためであると考えられる。
【0025】
具体的には、この天草陶土の粉末を用い、多孔質体とするために、孔形成剤としてPVAを所定量添加して混合し、成型した後、焼成することにより、有機物のPVAが揮散して気孔が形成される。PVAの添加量としては、天草陶土:PVA=2:1〜4:1(重量比)とすることが好ましい。PVAを用いて形成された多孔質体について、水銀ポロシメーターにより気孔の大きさを測定すると、0.5μm〜6.0μmである。また、そのガス透過性を測定すると、30mL・cm・cm2/秒/atm以上であり、排ガス中のPMとガス成分とを分離してガス成分を透過するのに十分なガス透過性を有する。
【0026】
本実施形態の第2測定素子は、上記の天草陶土から形成された多孔質体そのものが用いられている。本実施形態のように、第2測定素子としては、PM酸化能を有さない素子が好ましく使用される。一方、第1測定素子は、第2測定素子よりも高いPM酸化能を有していればよく、本実施形態では、上記の天草陶土から形成された多孔質体に、Agを担持させたものが用いられている。具体的には、天草陶土から形成された多孔質体を、硝酸銀水溶液中に浸漬させるディップコート法により、Agを担持させたものが用いられている。Agの担持量としては、天草陶土から形成された多孔質体に対して、5〜30重量%であることが好ましい。Agは低温でのPM燃焼活性に優れるため、Agを担持させることにより、第1測定素子上において低温下でのPMの酸化燃焼が可能となる。
【0027】
ここで、「酸化能」とは、PMを酸化燃焼させる能力を表し、酸化能が高い測定素子は、酸化能が低い測定素子に比して、低温で効率良くPMを酸化燃焼することができる。また、「PM酸化能を有さない」とは、PMを構成するSoot及びSOFのいずれに対しても酸化燃焼する能力が無いことを意味する。
【0028】
[熱起電力発生部材]
第1熱起電力発生部材13及び第2熱起電力発生部材14を構成する部材は、PMの燃焼により生じる熱により起電力を発生するものであればよく、本実施形態では、一般的な熱起電力発生部材である熱電対が用いられている。また、第1熱起電力発生部材13と第2熱起電力発生部材14とでは、同一の材質からなる熱電対が用いられている。
【0029】
[検出手段]
検出手段15では、第1熱起電力発生部材13で発生した熱起電力と第2熱起電力発生部材14で発生した熱起電力との差に基づいて、PM量が検出される。各熱起電力発生部材で生じた熱起電力は、各測定素子で発生したPM燃焼熱に比例することから、両熱起電力の差分を求めることにより、PM量を検出することができる。
また、検出手段15では、PMを構成するSootを燃焼させずにSOFを燃焼させる第1燃焼領域、並びにSoot及びSOFを燃焼させる第2燃焼領域それぞれにおいて、第1熱起電力発生部材13で発生した熱起電力と、第2熱起電力発生部材14で発生した熱起電力の差分を求め、それら差分に基づいて、Soot及びSOFそれぞれの量を検出することができる。PM、Soot、及びSOFそれぞれの量を検出可能な理由の詳細については、後述する。
【0030】
以上のような構成を備えたPMセンサ10によれば、以下の効果が奏される。
本実施形態に係るPMセンサ10を内燃機関の排気流路20内に設置すると、第1測定素子11及び第2測定素子12に排ガス中のPMが付着する。PMを燃焼させる酸化能を有する第1測定素子11は、PMが自然燃焼する温度である600℃よりも低い温度でPMを燃焼する。これに対して、第2測定素子12は第1測定素子11よりも酸化能が低く、図2に示されるように、第1測定素子11上ではPMが燃焼し、第2測定素子12上ではPMは燃焼しないような温度下では、両者間にPM燃焼熱の差が生じる。発生したPM燃焼熱は、第1測定素子11及び第2測定素子12のそれぞれに接続されている第1熱起電力発生部材13及び第2熱起電力発生部材14に作用し、それぞれ異なる熱起電力が発生する。具体的には、第1熱起電力発生部材13で発生する熱起電力Aは、第2熱起電力発生部材14で発生する熱起電力Bよりも大きい。これらの熱起電力の差はPM量に比例することから、この熱起電力差A−Bを捉えることにより、精度良くPM量を検出することができる。
【0031】
ところで、PMを構成するSootとSOFとでは、その燃焼温度に差があり、有機成分であるSOFに比して固体状カーボンからなるSootの方が燃焼温度が高い。SootとSOFの燃焼領域を表した図を図3に示す。図3は、PM酸化能を有さない多孔質体(第2測定素子)、及びPM酸化能を有する多孔質体(第1測定素子)のそれぞれに、PMの代替物としてカーボンブラック(以下、CBという)を担持させたときのCB重量減少率を、PM減少率に置き換えて表したものである。また、図3の燃焼曲線は、後述する試験例と同様の測定により得られたものである。
【0032】
ここで、図3において、CB(PM)重量減少が10%を超えたときの温度は、Soot燃焼開始温度と呼ばれ、PM酸化能を有さない多孔質体上のCB10%減少温度(600℃)以上の領域は、PM(Soot)自然燃焼領域と呼ばれる。また、PM酸化能を有する多孔質体上のCB10%減少温度(T0)〜600℃の領域は、PM(Soot)酸化燃焼領域と呼ばれ、PM酸化能を有する多孔質体上のCB10%減少温度(T0)以下の領域は、SOF酸化燃焼領域と呼ばれる。このように、PMを構成するSootとSOFとでは、その燃焼領域に大きな差があることから、その差を利用することにより、SootとSOFとの分離検出が可能となる。
例えば、SOFの検出は、T0以下の領域で、HCを十分に酸化できる温度(T1:300℃程度)で検出でき、PMの検出は、T0以上の領域でCB50%減少温度(T2:500℃程度)で検出できる。ここで、CB50%減少としたのは、CB減少率が50%のときにPM燃焼速度が最も大きいからである。
【0033】
PM酸化能を有する第1測定素子の温度がSootを燃焼できないSOF酸化燃焼領域、即ち第1燃焼領域にあるときには、SOFのみが燃焼してSOFの燃焼熱に比例する熱起電力が発生する。第1燃焼領域にあるときのPMセンサ10のメカニズムを図4に示す。SOFの燃焼が生じる第1熱起電力発生部材13の熱起電力A1と、SOFの燃焼が生じていない第2熱起電力発生部材14の熱起電力B1との差分C1は、SOFの燃焼熱に比例する。
【0034】
また、温度が上昇し、Sootが燃焼可能なPM(Soot)酸化燃焼領域、即ち第2燃焼領域にあるときには、SOFの燃焼熱とSootの燃焼熱のトータルに比例する熱起電力が発生する。第2燃焼領域にあるときのPMセンサ10のメカニズムを図5に示す。SOF及びSootの燃焼が生じる第1熱起電力発生部材13の熱起電力A2と、SOF及びSootいずれの燃焼も生じない第2熱起電力発生部材14の熱起電力B2との差分C2は、PM(Soot+SOF)の燃焼熱に比例する。
【0035】
従って、図6に示されるように、第1燃焼領域(SOF酸化燃焼領域)及び第2燃焼領域(PM(Soot)酸化燃焼領域)の各領域において、第1熱起電力発生部材13で発生した熱起電力と第2熱起電力発生部材14で発生した熱起電力との差を検出する検出手段15を備えた本実施形態によれば、第1燃焼領域(SOF酸化燃焼領域)における熱起電力差と、第2燃焼領域(PM(Soot)酸化燃焼領域)における熱起電力差との差分に基づいて、PM中のSOFとSootとを精度良く分離して検出することができる。
【0036】
また、天草陶土から形成された多孔子質体を利用した測定素子は、排ガス流路20内での使用に際し、排ガスで想定される温度域(最高で800℃)において、十分な耐熱性及び機械的強度を有する。これは、天草陶土に含まれるSiO2がバインダー的な役割を担い、排ガス流路20での使用に耐え得る強度を発現するためであると考えられる。また、天草陶土から形成された多孔子質体は、十分なガス透過性を有するため、排ガス中に含まれるPMを効率良く検出できる。
【0037】
孔形成剤としてポリビニルアルコール(PVA)を用いて形成された多孔質体からなる第1測定素子11及び第2測定素子12によれば、排ガス中のPMとガス成分とを分離してガス成分を透過させることができる。このため、PVAを用いて形成された多孔質体を利用した第1測定素子11及び第2測定素子12は、排ガス中のPMとガス成分を分離してガス成分を透過するのに十分な気孔を有し、PMを精度良く検出できる。
【0038】
また、第1測定素子11を構成する多孔質体にAgが担持されているため、PMが自然燃焼を始める温度(600℃)よりも低い温度でPMを酸化燃焼できる。これは、多孔質体上に担持されたAgの最表面が酸化されて活性な酸素原子で覆われた状態となり、そこにPMが接触する結果、低温でのPMの酸化燃焼が可能になると考えられる。
【0039】
以上のことから、本実施形態に係るPMセンサ10によれば、AgによるPMの低温酸化燃焼により発生する燃焼熱を熱起電力として検出することにより、廉価で、且つSootとSOFの分離検出が可能な高精度PMセンサを提供できる。
【0040】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
例えば、同一の多孔質体上に第1測定素子11及び第2測定素子12を設けることができる。具体的には、天草陶土から形成された多孔質体の一部を、硝酸銀水溶液中に浸漬させることにより、一部にAgを担持させることができ、第1測定素子11及び第2測定素子12を同一の多孔質体上に設けることができる。この変形例によれば、PMセンサを小型化でき、レイアウト上有利であるとともに、材料費を削減できる。
【実施例】
【0041】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0042】
<試験例1>
天草陶土から形成した多孔質体からなる素子(以下、セラミックス多孔質体素子という)、及びこれにAgを担持させた素子(以下、Ag担持セラミックス多孔質体素子という)について、従来よりPM燃焼活性を有する多孔質体として知られているLa0.9K0.1CoO3多孔質体(以下、LKC多孔質体素子という)とのPM燃焼活性の比較を行った。各素子の作製、及び評価方法は以下の通りとした。
【0043】
[素子の作製]
天草陶土粉末に、孔形成剤としてPVAを所定量添加して混合した。混合粉末を、錠剤成型器を用いて、20MPaで10分間の成型処理を行った。成型後、800℃で焼成することにより、PVAが揮発して形成された気孔を有するセラミックス多孔質体素子を得た。
また、得られたセラミックス多孔質体素子を、硝酸銀水溶液に浸漬(ディップコート法)させることにより、Agを5重量%担持させ、Ag担持セラミックス多孔質体素子を得た。
【0044】
また、LKC多孔質体を構成するLa、K、Coを所定量含み、蒸発乾固法により調製されたLKC前駆体粉末に、孔形成剤としてPVAを所定量添加して混合した。混合粉末を、錠剤成型器を用いて、20MPaで10分間の成型処理を行った。成型後、1100℃で焼成することにより、PVAが揮発して形成された気孔を有するLKC多孔質体素子を得た。
【0045】
[評価方法]
作製した各素子に対して、PMの代替物としてCBを5.0重量%担持させた。CBを担持させた各素子について、以下の条件でTG測定を行い、それらの熱重量変化を比較することにより、PM燃焼活性の評価を行った。なお、評価に際しては、スパチュラを用いて一定時間、素子にCBを振りかけて付着させるLC法(loose contact法)により、排ガス中でのPMと素子との接触状態を模擬的に再現した。
【0046】
測定装置:島津製作所製「DTG−60H」
サンプル:5.0重量%CB/素子(約10mg)
雰囲気:空気中
昇温速度:10℃/分で800℃まで
接触状態:スパチュラで一定時間混合(loose contact、以下LCという)
【0047】
TG測定の結果得られたTGチャートを図7に示す。各素子について、CBの燃焼による重量減少が最も大きかった温度(以下、Tmaxという)を比較すると、最も温度が高かったのがセラミックス多孔質体素であり、次いで高かったのがLKC多孔質体素子であった。これらの素子では、Tmaxが600℃前後であったのに対して、Ag担持セラミックス多孔質体素子のTmaxは、500℃を下回っていた。この結果から、天草陶土から形成した多孔質体からなる素子にAgを担持させた素子は、従来に比して低温でPMを酸化燃焼でき、PM燃焼活性が高いことが確認された。
【0048】
<実施例1>
本発明の効果を、市販のディーゼル発電機から排出される排ガスを用いて検証した。検証には、図8に示されるテスト装置50を用いた。具体的には、ディーゼル発電機60から排出される排ガスの全量を、テスト装置50に取り込み、PM検出テストを実施した。テスト部は、石英ガラス管61内(内径φ50mm)で、その外側に電気ヒータ56を設置し、雰囲気温度を所定の温度に調節した。温度は、上述したように図3を参考にして設定した。
【0049】
石英ガラス管61中に、PM酸化能を有する多孔質体からなるセンサ素子51と、PM酸化能を有さない多孔質体からなる参照素子52と、をガス流に対して垂直に配置し、それぞれに、熱電対からなる熱起電力発生部材53、54を接続し、その出力端の電圧を計測した。なお、ガス温度を計測するために、両素子の間に熱電対からなるガス温度センサ(図示せず)を設置した。
【0050】
センサ素子51及び参照素子52の形状は、φ20mm×5mm厚さのタブレット形状とし、その側面に孔を形成し、その孔に熱電対を挿入して素子を形成した。素子となる多孔質体は、以下の手順で作製した。
原料は、天草地方で産出された陶器の原料となる天草陶土粉末を用いた。多孔質体とするために、孔形成剤としてPVAを天草陶土に対して体積比で1:3となるように添加した。添加後、混練し、該粉末を金型に充填して20MPaで10分間、一軸加圧成型した。成型体を空気中で800℃×5時間の焼成を行い、多孔質体を作製した。センサ素子51とする多孔質体については、さらに硝酸銀水溶液に浸漬してAgを担持させた。Agの担持量は5重量%とした。
【0051】
PM検出テストは、以下の手順で実施した。
石英ガラス管61内に、センサ素子51及び参照素子52を設置し、電気ヒータ56で温度を500℃に安定させた。次いで、無負荷の状態でディーゼル発電機60を起動し、排ガスをテスト部に導入した。一定時間、排ガスを流通させた後、ディーゼル発電機60を停止した。その間、センサ素子51及び参照素子52からの熱起電力出力をモニターし、その差分を計算した。なお、排ガス中のPM濃度は、テストラインから一定流量のガスをポンプ57で取り出し、そのガスをテフロン(登録商標)フィルタ58に通してPMを濾過し、フィルタの前後重量差からPM濃度を算出した。
【0052】
<比較例1>
電気ヒータ56の設定温度を、500℃ではなく350℃に設定した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0053】
<実施例2>
ディーゼル発電機60に、定格出力の31%に相当する抵抗を接続した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0054】
<実施例3>
ディーゼル発電機60に、定格出力の44%に相当する抵抗を接続した以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0055】
実施例1の結果について考察する。
実施例1のPM検出テストにおける時間と熱起電力差との関係を図9に、時間とセンサ温度との関係を図10に示す。
図9及び10に示されるように、ディーゼル発電機60の始動前は、センサ素子51及び参照素子52からの熱起電力が同じであるため、熱起電力の差分は発生しない。ディーゼル発電機60を始動し、排ガスをテスト部に導入すると、センサ素子51に付着したPM(SOF+Soot)が酸化燃焼するため、参照素子52との熱起電力差が生じる。時間の経過とともに熱起電力差は減少し、あるところで一定になる。これは、電気ヒータ56で500℃に加温しているものの、それよりも温度の低い排ガスが流入することによりテスト部の温度が低下し、センサ温度が250℃程度で安定した結果、PM中のSOFのみが酸化燃焼して生じた熱起電力の差を示しているためである。
その後、ディーゼル発電機60を停止すると、再び熱起電力差が上昇してピークを迎えた後、減少に転じ、熱起電力差が消失する。これは、排ガスが流入しなくなったため電気ヒータ56により再び500℃に加温される結果、排ガス流入中に酸化燃焼できずに堆積したSootが酸化燃焼されることにより、熱起電力差が生じたためである。従って、センサ温度を所定の温度に制御することにより、PM中のSootとSOFとを分離して検出することができることが分かった。
【0056】
比較例1の結果について考察する。
比較例1のPM検出テストにおける時間と熱起電力差との関係を図11に、時間とセンサ温度との関係を図12に示す。
図11及び12に示されるように、ディーゼル発電機60の始動前は、センサ素子51及び参照素子52からの熱起電力が同じであるため、熱起電力の差分は発生しない。ディーゼル発電機60を始動して排ガスをテスト部に導入すると、電気ヒータ56の設定温度が350℃であることから、センサ素子51にPMが付着するときの温度も350℃と低いため、SOFのみが燃焼し、その差分の熱起電力差が生じる。しかしながら、排ガス流入によりセンサ温度が200℃以下まで下がるため、SOFも酸化燃焼できなくなり、参照素子52との熱起電力差は生じない。
その後、ディーゼル発電機60を停止し、テスト部へ排ガスが流入しなくなると、電気ヒータ56により加温されても、付着したSootの酸化燃焼が生じないため、熱起電力差は発生しない。この結果から、センサ温度を、Sootを酸化燃焼できる温度で制御しないと、正確なPM検出を行うことができないことが分かった。
【0057】
実施例2及び3の結果について考察する。
実施例1〜3のPM検出テストにおける時間と熱起電力差との関係を図13に、時間とセンサ温度との関係を図14に、発生したPM濃度と熱起電力差との関係をプロットした図を図15に示す。また、ディーゼル発電機60始動直後(図13のPの部分)におけるPM濃度と熱起電力差を表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
実施例2及び3では、実施例1に対して、ディーゼル発電機60の負荷を変更することにより、PMの発生量を変化させたものである。図13〜15及び表1に示されるように、ディーゼル発電機60に負荷を与えてPM発生量を減少させた実施例2及び3は、実施例1に比して熱起電力差が減少することが分かった。また、その減少度合いは、ディーゼル発電機60に与えた負荷に比例することも分かった。従って、この結果から、熱起電力差とPM濃度との間には、良好な相関性があることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明のPMセンサの全体構成を示す図である。
【図2】本発明のメカニズムを説明するための図である。
【図3】SootとSOFの燃焼温度を関係を示す図である。
【図4】第1燃焼領域にあるときのPMセンサのメカニズムを示す図である。
【図5】第2燃焼領域にあるときのPMセンサのメカニズムを示す図である。
【図6】本発明のメカニズムを説明するための図である。
【図7】試験例1の結果得られたTGチャートを示す図である。
【図8】テスト装置の全体構成を示す図である。
【図9】実施例1の時間と熱起電力差との関係を示す図である。
【図10】実施例1の時間とセンサ温度との関係を示す図である。
【図11】比較例1の時間と熱起電力差との関係を示す図である。
【図12】比較例1の時間とセンサ温度との関係を示す図である。
【図13】実施例1〜3の時間と熱起電力差との関係を示す図である。
【図14】実施例1〜3の時間とセンサ温度との関係を示す図である。
【図15】PM濃度と熱起電力差との関係を示す図である。
【符号の説明】
【0061】
10 PMセンサ
11 第1測定素子
12 第2測定素子
13 第1熱起電力発生部材
14 第2熱起電力発生部材
15 検出手段
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を検出するための検出センサであって、
前記粒子状物質を燃焼させる酸化能を有する第1測定素子と、
前記粒子状物質を燃焼させる酸化能が前記第1測定素子より低い第2測定素子と、
前記第1測定素子及び前記第2測定素子のそれぞれに接続され、前記粒子状物質の燃焼熱により起電力を発生する第1熱起電力発生部材及び第2熱起電力発生部材と、
前記第1熱起電力発生部材で発生した熱起電力と前記第2熱起電力発生部材で発生した熱起電力との差に基づいて、前記粒子状物質の量を検出する検出手段と、を備えることを特徴とする粒子状物質検出センサ。
【請求項2】
前記検出手段は、前記粒子状物質を構成する煤は燃焼しないが可溶性有機物が燃焼する第1燃焼領域、並びに前記煤及び前記可溶性有機物が燃焼する第2燃焼領域の各領域における、前記第1熱起電力発生部材で発生した熱起電力と前記第2熱起電力発生部材で発生した熱起電力との差に基づいて、前記煤及び前記可溶性有機物それぞれの量を検出することを特徴とする請求項1記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項3】
前記第1測定素子及び前記第2測定素子は、同一の多孔質体上に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項4】
前記第1測定素子及び前記第2測定素子は、少なくともAl2O3、SiO2、MgO、及びCaOを含む天草陶土から形成された多孔質体であることを特徴とする請求項1から3いずれか記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項5】
前記第1測定素子及び前記第2測定素子は、孔形成剤としてポリビニルアルコールを用いて形成された多孔質体であることを特徴とする請求項4記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項6】
前記第1測定素子は、少なくともAgを含むことを特徴とする請求項1から5いずれか記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項1】
内燃機関から排出される排ガス中に含まれる粒子状物質を検出するための検出センサであって、
前記粒子状物質を燃焼させる酸化能を有する第1測定素子と、
前記粒子状物質を燃焼させる酸化能が前記第1測定素子より低い第2測定素子と、
前記第1測定素子及び前記第2測定素子のそれぞれに接続され、前記粒子状物質の燃焼熱により起電力を発生する第1熱起電力発生部材及び第2熱起電力発生部材と、
前記第1熱起電力発生部材で発生した熱起電力と前記第2熱起電力発生部材で発生した熱起電力との差に基づいて、前記粒子状物質の量を検出する検出手段と、を備えることを特徴とする粒子状物質検出センサ。
【請求項2】
前記検出手段は、前記粒子状物質を構成する煤は燃焼しないが可溶性有機物が燃焼する第1燃焼領域、並びに前記煤及び前記可溶性有機物が燃焼する第2燃焼領域の各領域における、前記第1熱起電力発生部材で発生した熱起電力と前記第2熱起電力発生部材で発生した熱起電力との差に基づいて、前記煤及び前記可溶性有機物それぞれの量を検出することを特徴とする請求項1記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項3】
前記第1測定素子及び前記第2測定素子は、同一の多孔質体上に設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項4】
前記第1測定素子及び前記第2測定素子は、少なくともAl2O3、SiO2、MgO、及びCaOを含む天草陶土から形成された多孔質体であることを特徴とする請求項1から3いずれか記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項5】
前記第1測定素子及び前記第2測定素子は、孔形成剤としてポリビニルアルコールを用いて形成された多孔質体であることを特徴とする請求項4記載の粒子状物質検出センサ。
【請求項6】
前記第1測定素子は、少なくともAgを含むことを特徴とする請求項1から5いずれか記載の粒子状物質検出センサ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−78378(P2010−78378A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−244883(P2008−244883)
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月24日(2008.9.24)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【Fターム(参考)】
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