説明

粒子線治療システム

【課題】患者の不安を和らげ、安心感を与えることができる粒子線治療システムを提供する。
【解決手段】荷電粒子ビームを設定されたエネルギーまで加速する加速器1と、加速器1から出射されたビームを照射室2a又は2bに輸送するビーム輸送系3と、照射室2aに設置され患者4aの患部にビーム照射する照射装置6aと、照射室2bに設置され患者4bの患部にビーム照射する照射装置6bとを備えた粒子線治療システムにおいて、患者4aへのビーム照射準備中及びビーム照射中の進捗情報を取得する情報提供システム15aと、情報提供システム15aで取得した進捗情報を患者4aに提供する表示装置16a及びアナウンス装置17aと、患者4bへのビーム照射準備中及びビーム照射中の進捗情報を取得する情報提供システム15bと、情報提供システム15bで取得した進捗情報を患者4bに提供する表示装置16b及びアナウンス装置17bとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビームを患者の患部に照射して治療する粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
癌などの患者の患部に、陽子及び重イオンなどの荷電粒子ビームを照射する治療方法が知られている。この治療に用いる治療システムの大規模なものは、シンクロトロン等の加速器、ビーム輸送系、及び複数の照射室を備えている。加速器で設定されたエネルギーとなるまで加速した荷電粒子ビームを、ビーム輸送系で選択した一つの照射室に供給し、照射装置でビーム照射範囲を患部形状に合わせて整形し、治療ベッドに固定された患者の患部に照射する。
【0003】
この粒子線治療では、患者の患部に対し一方向若しくは複数の方向からビーム照射を行う。一方向のビーム照射に掛かる時間は、患部の位置等にもよるが15〜30分程度であり、その内訳は、ビーム照射準備(詳細には、例えば患者の位置決め、加速器及びビーム輸送系の準備、並びに照射装置の準備等)の時間が10分〜25分程度、ビーム照射の時間が5分程度である。また、ビーム照射準備中又はビーム照射中の照射室とは別室の照射室においては、次に治療を受ける予定の患者が準備して待つ必要がある。このように患者は治療ベッドに固定された状態で過ごさなくてはならない。
【0004】
そこで、例えば監視カメラ、モニタ装置、マイク、及びスピーカを設置した照射室が開示されている(例えば、特許文献1参照)。この従来技術では、医師等が自身をモニタ装置に映し出しつつ患者とコミュニケーションを図り、BGMを流すようになっている。
【0005】
【特許文献1】特開平10−71213号公報(第4−第5頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来技術には以下のような改善の余地があった。
上記特許文献1には明確に記載されていないが、例えば、医師等は、ビーム照射準備が完了したことを確認してビーム照射を開始させるときに、ビーム照射を開始する旨を患者にアナウンスしたり、或いはビーム照射中にBGMを流したりする。ところが、ビーム照射準備中或いはビーム照射中の進捗状況は知らされず、患者によっては不安になる可能性があった。
【0007】
本発明の目的は、患者の不安を和らげ、安心感を与えることができる粒子線治療システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、荷電粒子ビームを設定されたエネルギーとなるまで加速する加速器と、前記加速器から出射された荷電粒子ビームを照射室に輸送するビーム輸送系と、前記照射室に設置され、荷電粒子ビームを患者の患部に照射する照射装置とを備えた粒子線治療システムにおいて、ビーム照射準備中及びビーム照射中のうち少なくとも一方の進捗情報を取得する情報収集手段と、前記情報収集手段で取得した進捗情報を患者に提供する情報提供手段とを備える。
【0009】
本発明においては、ビーム照射準備中及びビーム照射中のうち少なくとも一方の進捗情報を情報収集手段で取得し、その取得した進捗情報を表示装置や音出力装置等の情報提供手段により患者に提供する。これにより、患者に進捗情報を知らせることができ、患者の不安感を和らげ、安心感を与えることができる。
【0010】
(2)上記(1)において、好ましくは、患者の位置決めの進捗情報、前記加速器及び前記ビーム輸送系の準備の進捗情報、並びに前記照射装置の準備の進捗情報を含む。
【0011】
(3)上記(2)において、好ましくは、前記ビーム照射準備中の進捗情報は、患者の認証情報を含む。
【0012】
(4)上記(1)において、好ましくは、前記ビーム照射中の進捗情報は、目標照射線量値に対する積算照射線量値の割合を表す照射経過情報を含む。
【0013】
(5)上記(1)において、好ましくは、前記ビーム照射中の進捗情報は、患部へのビーム照射時を表すビーム照射情報を含む。
【0014】
(6)上記(1)において、好ましくは、前記ビーム照射中の進捗情報は、前記加速器、前記ビーム輸送系、及び前記照射装置の動作状況が正常であるかどうかを表すシステム動作情報を含む。
【0015】
(7)上記(1)〜(6)のいずれか1つにおいて、好ましくは、複数の進捗情報項目のうちのいずれかを選択可能な設定手段を備え、前記情報提供手段は、前記設定手段で選択した項目の進捗情報を患者に提供する。
【0016】
(8)上記(1)において、好ましくは、前記情報提供手段は、前記情報収集手段で取得した進捗情報を表示する表示装置を有する。
【0017】
(9)上記(1)において、好ましくは、前記情報提供手段は、前記情報収集手段で取得した進捗情報に基づき予め設定記憶された音を出力する音出力装置を有する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、患者の不安を和らげ、安心感を与えることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の粒子線治療システムの一実施形態の全体構成を表す概略図である。なお、本実施形態の粒子線治療システムでは、1つの加速器に対し2つの照射室を備えた場合を例にとって説明する。
【0020】
この図1において、粒子線治療システムは、荷電粒子ビームを設定されたエネルギーとなるまで加速する加速器1と、この加速器1から出射された荷電粒子ビームを照射室2a,2bのうちの選択した一方に輸送するビーム輸送系3と、照射室2aに設置され患者4aを位置決め固定する治療ベッド5aと、この治療ベッド5aに固定された患者4aの患部に荷電粒子ビームを照射する照射装置6aと、照射室2bに設置され患者4bを位置決め固定する治療ベッド5bと、この治療ベッド5bに固定された患者4bの患部に荷電粒子ビームを照射する照射装置6bとを備えている。
【0021】
加速器1は、詳細を図示しないが、例えばイオン源と、このイオン源で発生した荷電粒子を所定エネルギーまで加速する前段加速器と、この前段加速器からの荷電粒子ビームをさらに加速するシンクロトロン(又はサイクロトロンでもよい)とで構成されている。シンクロトロンは、ビーム周回軌道上の高周波加速空胴にて荷電粒子ビームを加速させ、設定エネルギー(例えば70〜250MeV)まで高めるようになっている。そして、設定エネルギーまで高めた荷電粒子ビームを周回軌道から離脱させ、ビーム輸送系3に出射するようになっている。
【0022】
ビーム輸送系3は、加速器1から荷電粒子ビームが入射されるビーム経路7aと、このビーム経路7aに切替え電磁石(偏向電磁石)8aを介し接続され、荷電粒子ビームを照射装置6aに輸送するビーム経路9aと、ビーム経路7aに接続されたビーム経路7bと、このビーム経路7bに切替え電磁石(偏向電磁石)8bを介し接続され、荷電粒子ビームを照射装置6bに輸送するビーム経路9bとで構成されている。そして、例えばビーム経路7aの電磁石(図示せず)、切替え電磁石8a、及びビーム経路9aの電磁石(図示せず)を励磁することにより、荷電粒子ビームを照射装置6aに輸送するようになっている。また。例えばビーム経路7aの電磁石、ビーム経路7bの電磁石(図示せず)、切替え電磁石8b、及びビーム経路9bの電磁石(図示せず)を励磁し、切替え電磁石8aを励磁しないことにより、荷電粒子ビームを照射装置6bに輸送するようになっている。
【0023】
照射装置6a(又は6b、この段落における括弧内の対応同じ)は、ビーム経路9a(又は9b)の一部とともに回転ガントリー(図示せず)に設置されており、この回転ガントリーによって患者4a(又は4b)の周囲を回転して、任意の方向から患者4a(又は4b)の患部へビーム照射するようになっている。このとき、照射装置6a(又は6b)は、例えば、散乱体(図示せず)を用いてビームの照射線量分布を一様に拡大し、患者4aの患部形状に合わせて形成された患者固有の治具を用いてビームの照射範囲を整形するようになっている。また、照射装置6a(又は6b)には、患者4a(又は4b)の位置決めの際に患部を撮像するためのX線撮像部(図示せず)、前述した治具の装着有無を検出するための検出部(図示せず)、及びビームの照射線量を計測する線量モニタ10a(又は10b)等が設けられている。
【0024】
そして、加速器1及びビーム輸送系3を制御する加速・輸送制御システム11と、照射室2aに対応し、照射装置6a及び治療ベッド5aを制御する照射制御システム12aと、照射室2bに対応し、照射装置6b及び治療ベッド5bを制御する照射制御システム12bと、患者の照射カルテ情報(詳細には、予め撮像された患部画像に基づいて策定された患者の治療計画情報であり、患者の識別番号や名前等の患者情報と、ビームエネルギー、ビーム照射方向、及び照射線量等のシステム設定情報との組み合わせ)を管理する治療管理システム13と、この治療管理システム13から患者の照射カルテ情報を取得するとともに、加速・輸送制御システム11及び照射制御システム12a,12bを統括して制御する全系制御システム14とが備えられている。
【0025】
加速・輸送制御システム11は、全系制御システム14からの指令信号に基づき加速器1及びビーム輸送系3を制御運転し、その運転情報を全系制御システム11に出力するようになっている。照射制御システム12a(又は12b、この段落における括弧内の対応同じ)は、医師等が操作可能な操作装置(図示せず)及び表示装置(図示せず)を有し、全系制御システム11からの指令信号及び医師の操作指示に応じて照射装置6a(又は6b)や治療ベッド5a(又は5b)を制御運転し、その運転情報を全系制御システム11に出力するようになっている。
【0026】
全系制御システム14は、照射室2a,2bの照射スケジュールを決定し、この照射スケジュールに基づいて患者の照射カルテ情報を順次選択するようになっている。そして、例えば照射室2a又は2bに入室する患者の識別番号が読み取られ、その識別番号が照射カルテ情報の識別番号に合致すると認証された場合、その照射室2a又は2b及び照射カルテ情報に基づいた指令信号を加速・輸送制御システム11及び照射制御システム12a又は12bに出力し、ビーム照射準備を行わせるようになっている。また、例えば加速・輸送制御システム11及び照射制御システム12a又は12bから入力した運転情報に基づき、ビーム照射準備が完了したことを確認した場合は、その表示信号を照射制御システム12a又は12bに出力し、その後の医師のビーム照射開始の操作指示により加速・輸送制御システム11及び照射制御システム12a又は12bに指令信号を出力し、ビーム照射を行わせるようになっている。また、ビーム照射中においては、照射制御システム12a又は12bを介し線量モニタ10a又は10bの測定信号を入力して照射線量を積算し、目標照射線量に対する積算照射線量の割合を演算する。また、積算照射線量が目標照射線量に達したかどうかを判定し、目標照射線量に達した場合は、指令信号を出力してビーム照射を停止させるようになっている。また、システムの動作状況(詳細には、加速器1、ビーム輸送系3、及び照射装置6a又は6bが正常に動作しているどうか)を確認し、例えば異常を検出した場合は、指令信号を出力してビーム照射を一時停止させるようになっている。
【0027】
ここで本実施形態の大きな特徴として、照射室2aに対応し、ビーム照射準備中の進捗情報(詳細には、患者4aの認証情報、患者4aの位置決めの進捗情報、加速器1及びビーム輸送系3の準備の進捗情報、並びに照射装置6aの準備の進捗情報)及びビーム照射中の進捗情報(詳細には、照射経過情報、ビーム照射情報、及びシステム動作情報)を全系制御システムから取得する情報提供システム15aと、この情報提供システム15aで取得した進捗情報を表示する表示装置16aと、情報提供システム15aで取得した進捗情報に基づき予め設定記憶された音声アナウンス(あるいは効果音やBGM等でもよい)を出力するアナウンス装置17a(音出力装置)とが備えられている。また同様に、照射室2bに対応し、ビーム照射準備中の進捗情報(詳細には、患者4bの認証情報、患者4bの位置決めの進捗情報、加速器1及びビーム輸送系3の準備の進捗情報、並びに照射装置6bの準備の進捗情報)及びビーム照射中の進捗情報(詳細には、ビーム照射経過情報、ビーム照射情報、及びシステム動作情報)を全系制御システム14から取得する情報提供システム15bと、この情報提供システム15bで取得した進捗情報を表示する表示装置16bと、情報提供システム15bで取得した進捗情報に基づき予め設定記憶された音声アナウンス(あるいは効果音やBGM等でもよい)を出力するアナウンス装置17b(音出力装置)とが備えられている。
【0028】
表示装置16a,16bは、患者の見やすい位置にそれぞれ設置されており、これら表示装置16a,16bに表示される画面上の文字等は、治療ベッドに固定された患者が認識しやすいような大きさとすることが好ましく、その表示色に関しても、色覚障害を持った患者が認識しやすい色を選択することが好ましい。また、アナウンス装置17a,17bは、視力が弱い患者や眼を治療する患者に対し進捗情報を提供するためのものであり、患者の聞き取りやすい位置にそれぞれ設置されているものとする。
【0029】
図2は、表示装置16aに表示される進捗情報画面を一例として表す図である。なお、表示装置16bに表示される進捗情報画面については、同様の構成であるため、説明を省略する。
【0030】
この図2において、進捗情報画面20は、患者情報表示領域21と、照射準備進捗情報表示領域22と、照射進捗情報表示領域23とで構成されている。患者情報表示領域21は、識別番号(ID)表示領域21aと、名前表示領域21bと、認証表示領域21cとを有している。認証表示領域21cは、例えば患者4aの認証前は“未認証”と表示し、例えば患者4aの認証後は背景色が変わるとともに“認証済”と表示するようになっている。
【0031】
照射準備進捗情報表示領域22は、患者位置決めの進捗情報表示領域22aと、加速器準備の進捗情報表示領域22bと、照射装置準備の進捗情報表示領域22cとを有している。これら進捗情報領域22a〜22cは、各準備の到達度(進捗具合)を棒グラフで表示するようになっている。具体的に説明すると、患者位置決めの進捗情報表示領域22aは、例えば照射装置6aのX線撮像部による照射部位の撮像や治療ベッド5aの位置制御等の準備項目が終了したかどうかにより、段階的に表示するようになっている。加速器準備の進捗情報表示領域22bは、例えば加速器1の設定エネルギーの切替え準備やビーム輸送系3のコース切替え等の準備項目が終了したかどうかにより、段階的に表示するようになっている。なお、加速器1及びビーム輸送系3が別の照射室4bに専有されている場合は、0%を表示するようになっている。照射装置準備の進捗情報表示領域22cは、例えば照射装置6aの治具装着や照射角度の切替え等の準備項目が終了したかどうかにより、段階的に表示するようになっている。
【0032】
照射進捗情報表示領域23は、照射経過情報表示領域23aと、ビーム照射情報表示領域23bと、システム動作状況表示領域23cとを有している。照射経過情報表示領域23aは、一方向のビーム照射における目標照射線量に対する積算照射線量の割合(到達度)を棒グラフで表示するようになっている。照射情報表示領域23bは、間欠的に行われるビーム照射(詳しくは、例えば全系制御システムから加速・輸送制御システムへのビーム出射指令)のタイミングに応じて点灯表示するようになっている。システム動作状況表示領域23cは、システムの動作状況が正常である場合は“正常”と表示し、異常が検出されてビーム照射を一時停止した場合は“機器調整中”と表示するようになっている。
【0033】
そして、例えば一方向のビーム照射が終了して患者4aの治療が終了した場合、進捗情報画面20上の患者情報表示領域21、照射準備進捗情報表示領域22、及び照射進捗情報表示領域23がクリアされるようになっている。また、例えば一方向のビーム照射が終了したものの、他方向のビーム照射を続けて行う場合は、進捗情報画面20上の患者情報表示領域21、及び照射準備進捗情報表示領域22の患者位置決めの進捗情報表示領域22aはそのままの表示が維持され、加速器準備の進捗情報表示領域22b、照射装置の進捗情報表示領域22c、及び照射進捗情報表示領域23がクリアされるようになっている。
【0034】
なお、上記において、情報提供システム15a,15bは、特許請求の範囲記載のビーム照射準備中及びビーム照射中のうち少なくとも一方の進捗情報を取得する情報収集手段を構成し、表示装置16a,16b及びアナウンス装置17a,17bは、特許請求の範囲記載の情報収集手段で取得した進捗情報を患者に提供する情報提供手段を構成する。
【0035】
次に、本実施形態の動作及び作用効果を説明する。
【0036】
例えば照射スケジュールに基づいて患者4aの治療を実施する場合について説明する。まず、患者4aが照射室2a内に入室して治療ベッド5aに固定される。このとき、表示装置16aの進捗情報画面20の識別番号表示領域21a及び名前表示領域21bには、患者4aの識別番号及び名前が表示される。そして、患者4aの認証が行われると、進捗情報画面20の認証表示領域21cには“認証済”が表示される。したがって、医師はもとより、患者4a自身が認証されたことを確認できる。
【0037】
そして、医師は、照射装置6aの照射点(アイソセンタ)を患者4aの患部に位置合わせるため、照射装置6aのX線撮像部で得られる画像に基づき治療ベッド5aの位置を調整する。これにより、表示装置16aの進捗情報画面20の患者位置決めの進捗情報表示領域22aに表示される到達度が100%となる。アナウンス装置17aは、例えば「位置決めの準備が完了しました」といった音声アナウンスを発する。その後、医師は、照射装置6aに患者4a用の治具を設置し、照射装置6aの照射角度を調整する。これにより、表示装置16aの進捗情報画面20の照射装置準備の進捗情報表示領域22cに表示される到達度が100%となる。アナウンス装置17aは、例えば「照射装置の準備が完了しました」といった音声アナウンスを発する。
【0038】
また、上述した患者aの位置決め及び照射装置6aの準備と平行して、加速器1の設定エネルギーの切替え準備、及びビーム輸送系3の照射室4aへのコース切替えが行われる。これにより、表示装置16aの進捗情報画面20の加速器準備の進捗情報表示領域22bに表示される到達度が100%となる。アナウンス装置17aは、例えば「加速器の準備が完了しました」といった音声アナウンスを発する。そして、表示装置16aの進捗情報画面20のビーム照射準備の進捗情報表示領域22における全ての進捗情報表示領域22a〜22cに表示される到達度が100%になると、アナウンス装置17aは「照射準備が完了しました」といった音声アナウンスを発する。
【0039】
このようにして、患者4aはビーム照射準備中の進捗状況を把握することができる。なお、例えば加速器の進捗情報表示領域22bに表示される到達度が0%のまま維持されれば、加速器1及びビーム輸送系3が別の照射室2bに専有されていることも把握できる。
【0040】
ビーム照射準備が完了した後、医師はビーム照射開始を操作指示すると、加速器1が運転制御されてビーム照射が開始される。これにより、アナウンス装置17aは、「照射が開始されました」といった音声アナウンスを発する。表示装置16aの進捗情報画面20のビーム照射情報表示領域23bには、ビーム照射時が点灯表示される。したがって、患者4aは実際にビーム照射が行われているかどうかを確認できる。また、進捗情報画面20の照射経過情報表示領域23aには、一方向のビーム照射における目標照射線量に対する積算照射線量の割合が表示される。また、ビーム照射情報表示領域23bに表示される割合が所定値に達したとき、アナウンス装置17aは、「照射線量が…%に達しました」といった音声アナウンスを発する。したがって、患者4aは一方向のビーム照射による治療の進捗状況を把握できる。
【0041】
また、例えばシステム動作状況に異常が検出されビーム照射が一時停止した場合、表示装置16aの進捗情報画面20のビーム照射情報表示領域23bは消灯し、システム動作状況表示領域23cには“機器調整中”が表示される。また、アナウンス装置17aは、「機器の調整中です。そのまま待機してください」といった音声アナウンスを発する。これにより、患者4aは、ビーム照射が一時的な停止状態にあり、待機すればよいことを確認することができる。
【0042】
以上のように本実施形態においては、情報提供システム15a,15bは、ビーム照射準備中及びビーム照射中の進捗情報を取得し、その取得した進捗情報を表示装置16a,16bやアナウンス装置17a,17bにより患者4a,4bに提供する。これにより、患者4a,4bに進捗情報を知らせることができ、患者4a,4bの不安感を和らげ、安心感を与えることができる。また、患者4a,4bからの情報提示要求(すなわちアカウンタビリティ)に容易に対応することが可能となる。
【0043】
なお、上記一実施形態では、表示装置16a,16bに表示される進捗情報画面20は、図2に示す形態を例にとって説明したが、これに限られない。このような変形例を、図3及び図4により説明する。
【0044】
図3は、第1の変形例による進捗情報画面を表す図である。なお、この図3において、上記一実施形態と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0045】
第1の変形例では、進捗情報画面20Aは、患者情報表示領域21と、照射準備進捗情報表示領域24と、照射進捗情報表示領域23とで構成されている。照射準備進捗情報表示領域24は、患者位置決めの進捗情報表示領域24aと、加速器準備の進捗情報表示領域24bと、照射装置準備の進捗情報表示領域24cとを有し、これら進捗情報領域24a〜24cは、各準備が完了したときに背景色が変わるようになっている。このような第1の変形例においても、上記一実施形態同様の効果を得ることができる。
【0046】
図4は、第2の変形例による進捗情報画面を表す図である。なお、この図4において、上記一実施形態及び第1の変形例と同等の部分には同一の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0047】
第2の変形例では、進捗情報画面20Bは、患者情報表示領域21と、照射準備進捗情報表示領域24と、照射進捗情報表示領域23と、照射治療進捗情報表示領域25とで構成されている。照射治療進捗情報領域25は、例えば複数の方向からのビーム照射を実施する場合に、各ビーム照射方向の目標照射線量を合算した全体目標照射線量に対する、各ビーム照射方向の積算照射量を合算した全体積算照射の割合(到達度)を棒グラフで表示するようになっている。このような第2の変形例においても、上記一実施形態同様の効果を得ることができる。また、本変形例においては、患者は複数方向のビーム照射による治療全体の進捗状況を把握できる。
【0048】
なお、上記一実施形態においては、粒子線治療システムは、1つの加速器1に対し2つの照射室2a,2bを備えた構成を例にとって説明したが、これに限られず、例えば1つの加速器に対し1つの照射室を備えた構成、若しくは1つの加速器に対し3つ以上の照射室を備えた構成としてもよい。また、上記一実施形態においては、全系制御システム14が照射スケジュールを決定する場合を例にとって説明したが、これに限られず、例えば照射スケジュールを決定するスケジュール管理システムを別途備えさせてもよい。また、上記一実施形態においては、照射室2a,2bにそれぞれ対応する照射制御システム12a,12bを備えた構成を例にとって説明したが、これに限られず、例えば複数の照射室を統括する照射制御システムを備えた構成としてもよい。また、上記一実施形態においては、照射室2a,2bにそれぞれ対応する情報提供システム15a,15bを備えた構成を例にとって説明したが、これに限られず、例えば複数の照射室を統括する情報提供システムを備えた構成としてもよいし、また例えば情報提供システムの機能を全系制御システムに持たせた構成としてもよい。これらの場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【0049】
また、上記一実施形態においては、情報提供システム15a,15bは、ビーム照射準備中の進捗情報及びビーム照射中の進捗情報をともに取得し、その進捗情報を表示装置16a,16b及びアナウンス装置17a,17bにより患者に提供する構成を例にとって説明したが、これに限られない。すなわち、例えば、情報提供システムは、ビーム照射準備中の進捗情報のみを収集し、その進捗情報を表示装置及びアナウンス装置により患者に提供する構成としてもよい。また、例えば、情報提供システムは、ビーム照射中の進捗情報のみを収集し、その進捗情報を表示装置及びアナウンス装置により患者に提供する構成としてもよい。
【0050】
また、例えば、情報提供システムは、複数の進捗情報項目(上述した患者の認証情報、患者位置決めの進捗情報、加速器及びビーム輸送系の準備の進捗情報、照射装置の準備の進捗情報、照射経過情報、ビーム照射情報、並びにシステム動作情報等)のうちいずれかを選択可能な設定装置(図示せず)を有し、この設定装置で選択した項目の進捗情報を表示装置及びアナウンス装置により提供するようにしてもよい。このような場合も、上記同様の効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の粒子線治療システムの一実施形態の全体構成を表す概略図である。
【図2】本発明の粒子線治療システムの一実施形態を構成する表示装置の進捗情報画面を一例として表す図である。
【図3】本発明の粒子線治療システムの第1の変形例による表示装置の進捗情報画面を表す図である。
【図4】本発明の粒子線治療システムの第2の変形例による表示装置の進捗情報画面を表す図である。
【符号の説明】
【0052】
1 加速器
2a,2b 照射室
3 ビーム輸送系
4a,4b 患者
6a,6b 照射装置
15a,15b 情報提供システム(情報収集手段)
16a,16b 表示装置(情報提供手段)
17a,17b アナウンス装置(音出力装置、情報提供手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
荷電粒子ビームを設定されたエネルギーとなるまで加速する加速器と、前記加速器から出射された荷電粒子ビームを照射室に輸送するビーム輸送系と、前記照射室に設置され、荷電粒子ビームを患者の患部に照射する照射装置とを備えた粒子線治療システムにおいて、
ビーム照射準備中及びビーム照射中のうち少なくとも一方の進捗情報を取得する情報収集手段と、
前記情報収集手段で取得した進捗情報を患者に提供する情報提供手段とを備えたことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項2】
請求項1記載の粒子線治療システムにおいて、前記ビーム照射準備中の進捗情報は、患者の位置決めの進捗情報、前記加速器及び前記ビーム輸送系の準備の進捗情報、並びに前記照射装置の準備の進捗情報を含むことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項3】
請求項2記載の粒子線治療システムにおいて、前記ビーム照射準備中の進捗情報は、患者の認証情報を含むことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項4】
請求項1記載の粒子線治療システムにおいて、前記ビーム照射中の進捗情報は、目標照射線量に対する積算照射線量の割合を表す照射経過情報を含むことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項5】
請求項1記載の粒子線治療システムにおいて、前記ビーム照射中の進捗情報は、患部へのビーム照射時を表すビーム照射情報を含むことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項6】
請求項1記載の粒子線治療システムにおいて、前記ビーム照射中の進捗情報は、前記加速器、前記ビーム輸送系、及び前記照射装置の動作状況が正常であるかどうかを表すシステム動作情報を含むことを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項記載の粒子線治療システムにおいて、複数の進捗情報項目のうちのいずれかを選択可能な設定手段を備え、前記情報提供手段は、前記設定手段で選択した項目の進捗情報を患者に提供することを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項8】
請求項1記載の粒子線治療システムにおいて、前記情報提供手段は、前記情報収集手段で取得した進捗情報を表示する表示装置を有することを特徴とする粒子線治療システム。
【請求項9】
請求項1記載の粒子線治療システムにおいて、前記情報提供手段は、前記情報収集手段で取得した進捗情報に基づき予め設定記憶された音を出力する音出力装置を有することを特徴とする粒子線治療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−136707(P2008−136707A)
【公開日】平成20年6月19日(2008.6.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−326636(P2006−326636)
【出願日】平成18年12月4日(2006.12.4)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】