説明

粒子線治療装置の位置決めシステム及び粒子線治療システム

【課題】オペレータが視認できる患者照射領域の模擬画像を作成することにより、安全性向上を図ることのできる粒子線治療装置の位置決めシステム及び粒子線治療システムを提供する。
【解決手段】 準備段階にて粒子線拡大起点位置21をX線線源位置22と想定して計画したDDR患者画像36を、ステップ110にて算出した患者位置誤差量の分、シフトし(画像シフト演算42)、ステップ105におけるコリメータX線撮像画像35から、コリメータ領域を抽出し、更にこのコリメータ領域が粒子線拡大起点位置21で撮影した画像となるように補正演算を行い(コリメータ領域抽出及び補正演算43)、補正されたコリメータ領域を画像シフト演算42の演算結果である画像に重ねて描画する(追加描画演算44)。これにより、模擬X線画像38が作成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線治療装置の位置決めシステム及び粒子線治療システムに係わり、特にX線線源位置が粒子線拡大起点位置と異なるX線撮像システムを備える粒子線治療装置の位置決めシステム及び粒子線治療システムに関する。
【背景技術】
【0002】
放射線における癌治療において、特に陽子線や炭素線等を用いた粒子線治療では、患者患部に高い線量を集中させることができるため、正常細胞に比較的損傷を与えずに、治療することができる。また、正確な治療を行う為、照射野を形成するコリメータの位置や患者位置等は、治療用の粒子線とは別に、X線による撮像システムを用いて確認を行っている。
【0003】
この粒子線治療では、粒子線を患者患部の形状に合わせて、細径のビームをビーム軸垂直方向に散乱又は走査により拡大し照射野を形成する。この拡大の起点位置を、粒子線拡大起点位置と呼ぶ。例えば、二重散乱体方式ノズルの場合、ビームの拡大起点は、ビーム飛程を調整するレンジモジュレーションホイールと第2散乱体の間に仮想的におかれる。またビーム走査方式ノズルの場合、ビームの拡大起点は、Y軸走査電磁石とX軸走査電磁石の間に仮想的におかれる。この際、患者患部において、ビーム軸にできるだけ平行な粒子線を得るために、粒子線拡大起点位置から患者患部の照射基準であるアイソセンタまでの距離(以降SAD、Source Axis Distance)を大きくとることが一般的である。
【0004】
粒子線治療に用いられる拡大された粒子線は、一部をコリメータにより遮蔽され、遮蔽されなかった領域が、患部への照射領域となる。
【0005】
粒子線治療装置に用いられるX線撮像システムにおけるX線の線源位置は、X線撮像画像にて患者患部の照射領域とコリメータの非遮蔽領域が重なるように、粒子線拡大起点位置と同じくすることが理想的である。しかし、粒子線のSADは一般的なX線撮像時のSADに比べて大きく、X線の線源位置を粒子線拡大起点位置と同じくすると、X線管や高電圧発生装置といったX線撮像システム構成部品の性能を上げねばならない。したがって粒子線のSADとX線のSADを一致させることが経済的、技術的に難しいため、X線線源位置を粒子線拡大起点位置のビーム軸下流に置き、X線SADを粒子線のSADに比べて短くした構造がとられている。
【0006】
粒子線治療において、X線撮像画像を使って行う確認作業には、コリメータ位置の確認、患者位置の確認、患者照射領域の確認の三項目が考えられる。
【0007】
例えば特許文献1では、コリメータ位置の確認について、X線撮像装置により撮像されたX線コリメータ画像と、治療計画装置により、実際のX線線源位置をX線線源位置と想定して作成された計画コリメータ輪郭形状とを比較することにより、行っている。
【0008】
また、患者位置の確認について、X線撮像装置により撮像されたX線患者画像と、治療計画装置により、実際のX線線源位置をX線線源位置と想定して作成された再構成画像とを比較することにより、行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2007−61438号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一方、患者照射領域の確認については、下記のような課題があった。撮像したX線画像は、X線線源がよりコリメータに近づくことで、実際の患者照射領域よりも広い範囲を撮像とすることとなるため、コリメータと患者との相対関係が不明確であり、比較できない。したがって、上記コリメータ位置の確認及び患者位置の確認を介して、コリメータと患者との相対関係すなわち患者照射領域を推定しており、患者照射領域の直接の確認はできず、最終的にオペレータが視認したいという要望や、エビデンスとして記憶したいという要望に、応えることができなかった。
【0011】
本発明の目的は、オペレータが視認できる患者照射領域の模擬画像を作成することにより、安全性向上を図ることのできる粒子線治療装置の位置決めシステム及び粒子線治療システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
(1)上記目的を達成するために、本発明は、スノートに設置されるコリメータを位置決め制御するスノート制御装置と、患者を支持する支持台を位置決め制御する支持台制御装置と、前記スノート制御装置に出力する前記コリメータの位置決め情報及び前記支持台制御装置に出力する支持台の位置決め情報を生成する画像処理システムとを備えた粒子線治療装置の位置決めシステムにおいて、前記画像処理システムは、患者のCT画像に基づいて、粒子線拡大起点位置から前記患者を撮影したと想定できる第1再構成画像(第1DRR患者画像)を作成し、この第1再構成画像を患者位置誤差に基づき画像シフトした第2再構成画像(第2DRR患者画像)を作成する画像シフト演算部と、X線線源位置からX線撮影した第1コリメータ画像を、前記粒子線拡大起点位置から撮影したと想定できる第2コリメータ画像に補正する補正演算部と、前記第2再構成画像と前記第2コリメータ画像を重ね合わせた模擬画像を作成する追加描画演算部を有するものとする。
【0013】
このように画像処理システムが画像シフト演算部と補正演算部と追加描画演算部を有することにより、粒子線拡大起点位置でX線撮像した画像したと想定できる模擬画像を作成することができる。模擬画像によりオペレータは患者照射領域を視覚的に確認することができる。これにより、粒子線治療装置の位置決めの安全性向上を図ることができる。
【0014】
(2)上記(1)において、好ましくは、前記画像処理システムは更に、前記模擬画像を表示する表示装置を有するものとする。
【0015】
これにより、オペレータは患者照射領域の模擬画像を視認できる。
【0016】
(3)上記(1)において、好ましくは、前記画像処理システムは更に、前記模擬画像を記憶する記憶装置を有するものとする。
【0017】
これにより、模擬画像を記憶することで、エビデンスとすることができる。
【0018】
(4)上記(1)において、前記画像処理システムは更に、前記模擬画像を前記患者位置誤差に基づき逆シフトする模擬画像逆シフト演算部と、前記模擬画像逆シフト演算部の演算結果に含まれる補正コリメータ領域と粒子線拡大起点位置をX線線源位置と想定して作成されたコリメータ領域の再構成画像(DRRコリメータ領域)とを比較して、患者照射領域誤差を算出する誤差演算部とを有するものとする。
【0019】
これにより、患者照射領域の誤差を算出し、患者照射領域を数値的に確認することで、更に安全性向上を図ることができる。
【0020】
(5)また、上記目的を達成するために、本発明は、スノートに設置されるコリメータを位置決め制御するスノート制御装置と、患者を支持する支持台を位置決め制御する支持台制御装置と、前記スノート制御装置に出力する前記コリメータの位置決め情報及び前記支持台制御装置に出力する支持台の位置決め情報を生成する画像処理システムとを備えた粒子線治療装置の位置決めシステムにおいて、前記画像処理システムは、X線線源位置からX線撮影した第1コリメータ画像を、粒子線拡大起点位置から撮影したと想定できる第2コリメータ画像に補正する補正演算部と、前記第2コリメータ画像を患者位置誤差に基づき逆シフトするコリメータ領域逆シフト演算部と、粒子線拡大起点位置をX線線源位置と想定して作成された患者画像の再構成画像(DRR患者画像)と逆シフトした前記第2コリメータ画像を重ね合わせた比較用模擬画像を作成する追加描画演算部と、前記比較用模擬画像に含まれる補正コリメータ領域と粒子線拡大起点位置をX線線源位置と想定して作成されたコリメータ領域の再構成画像(DRRコリメータ領域)とを比較して、患者照射領域誤差を算出する誤差演算部とを有するものとする。
【0021】
このように画像処理システムが補正演算部とコリメータ領域逆シフト演算部と追加描画演算部とを有することにより、比較用模擬画像を作成することができる。比較用模擬画像は、DRRコリメータ領域との比較を目的に作成されているため、粒子線拡大起点位置にてX線撮像した場合の画像を正確に模擬している訳ではないが、コリメータと患者との相対関係は反映されており、オペレータは患者照射領域の誤差を視覚的に確認することができる。これにより、粒子線治療装置の位置決めの安全性向上を図ることができる。
【0022】
更に、患者照射領域の誤差を算出し、患者照射領域を数値的に確認することで、安全性向上を図ることができる。
【0023】
(6)上記目的を達成するために、本発明は、粒子線発生装置と、この粒子線発生装置からの粒子線を患部形状に形成して照射野を形成するコリメータと、このコリメータが設置されるスノートと、患者を支持する支持台とを有する粒子線照射装置と、前記粒子線発生装置の粒子線拡大起点位置の下流にX線線源が位置するX線撮像システムと、前記スノートを駆動して前記コリメータを位置決め制御するスノート制御装置と、前記支持台を駆動しての支持台を位置決め制御する支持台制御装置と、前記スノート制御装置に出力する前記コリメータの位置決め情報及び前記支持台制御装置に出力する支持台の位置決め情報を生成する画像処理システムとを備えた粒子線治療システムにおいて、前記画像処理システムは、患者のCT画像に基づいて、粒子線拡大起点位置から前記患者を撮影したと想定できる第1再構成画像(第1DRR患者画像)を作成し、この第1再構成画像を患者位置誤差に基づき画像シフトした第2再構成画像(第2DRR患者画像)を作成する画像シフト演算部と、X線線源位置からX線撮影した第1コリメータ画像を、前記粒子線拡大起点位置から撮影したと想定できる第2コリメータ画像に補正する補正演算部と、前記第2再構成画像と前記第2コリメータ画像を重ね合わせた模擬画像を作成する追加描画演算部を有するものとする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、オペレータが視認できる患者照射領域の模擬画像を作成することにより、安全性向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の第1実施形態である粒子線治療装置の位置決めシステムを粒子線治療装置の全体構成とともに示す構成図である。
【図2】(A)二重散乱体方式の粒子線照射装置とX線撮像システムの構成図である。(B)ビーム走査方式の粒子線照射装置とX線撮像システムの構成図である。
【図3】画像処理システムの演算処理を示す機能ブロック図である。
【図4】画像処理システムの演算処理を示す制御フローである。
【図5】本発明の第2実施形態における画像処理システムの演算処理を示す機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、発明を実施するための形態を、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
<第1実施形態>
図1は、本発明の第1実施形態である粒子線治療装置の位置決めシステムを粒子線治療装置の全体構成とともに示す構成図である。この図1に示すように、本実施形態は、回転ガントリーを備えた粒子線治療装置に用いられるものを想定している。
【0028】
この図1において粒子線治療装置は、粒子線照射装置2とX線撮像システム6とスノート制御装置10と支持台制御装置12と画像処理システム7とを備えている。
【0029】
粒子線照射装置2は、回転ガントリー3と、粒子線発生装置(照射ノズル8)と、コリメータ5と、照射ノズル8の先端に設けられ内部にコリメータ5が設置されるスノート9と、患者4を支持する支持台19とを有している。
【0030】
X線撮像システム6は、患者4の位置及びコリメータ5の位置を確認するためのもので、X線撮像装置(撮影装置)16と、2組のX線管装置17と、2組のX線受像装置18(照射ビーム方向及びこれと90°の角度をなす方向から撮影可能なように設置されている。)を有しており、これらの装置は回転ガントリー3の回転と共にアイソセンタを中心に回転する。
【0031】
画像処理システム7は、モニタ(表示装置)13aを有する演算装置13と、キーボード及びマウス等の入力装置14と、位置決めに使用される画像が記憶される医療画像サーバ(記憶装置)15とを有している。
【0032】
スノート制御装置10は、演算装置13の演算結果に基づきスノート9を駆動してコリメータ5を位置決め制御する。支持台制御装置12は、演算装置13の演算結果に基づき支持台19を駆動しての患者4を位置決め制御する。
【0033】
なお、医療画像サーバ15は治療計画装置1と接続されている。治療計画装置1は、患者ごとに粒子線の照射計画(治療計画と称する)を作成し、治療計画情報を医療画像サーバ15に記憶する。
【0034】
図2は、粒子線照射装置2とX線撮像システム6の構成図である。本発明の前提である、粒子線拡大起点位置21のビーム下流にX線線源22が位置する構成について図2を用いて説明する。
【0035】
図2(A)に示す二重散乱体方式の場合、ビーム飛程を調整するレンジモジュレーションホイール24と第二散乱体25が照射ノズル8内に設置されており、粒子線拡大起点位置21は、ビーム飛程を調整するレンジモジュレーションホイール24と第二散乱体25の間に仮想的におかれる。
【0036】
粒子線治療に使用される粒子線は、粒子線拡大起点位置21より放射状に広がり、コリメータ5により不要な粒子線が遮られて、照射の基準となるアイソセンタ23を基準に、患者4の患部を照射する。一方、コリメータ5位置、患者4位置等の確認に用いられるX線は、同じく照射ノズル8内に位置するX線線源位置22より放射状に広がり、コリメータ5により不要なX線が遮られて、患者4を通過し、X線受像装置18に入射する。
【0037】
ここでX線線源位置22が粒子線拡大起点位置21のビーム下流にあり、線源近くに位置するものほど広がって見えるため、X線撮像画像では、患者の見かけの大きさが、粒子線拡大起点位置21をX線線源位置と想定した場合に比べて大きくなり、コリメータ開口部は更に広がって見えることとなる。
【0038】
図2(B)に示すビーム走査方式の場合、Y軸走査電磁石26とX軸走査電磁石27が照射ノズル8内に設置されており、粒子線拡大起点位置21は、Y軸走査電磁石26とX軸走査電磁石27の間に仮想的におかれる。この構成においても上記の課題が生じる。
【0039】
図3は画像処理システム7の演算装置13による演算処理を示す機能ブロック図である。また、図4は画像処理システム7の演算装置13による演算処理を示す制御フローである。以下、この図3及び図4を用いて本実施形態の位置決めシステムにより行われる患者4及びコリメータ5の位置決め手順について説明する。なお、このフローはオペレータからの適宜の位置決め開始指示(例えば入力装置14からの指示入力)があった際に開始される。
【0040】
まず、事前の準備として、治療計画を決定するために患者をX線CTにて撮影する。治療計画では、このX線CT断層画像31を用いて、照射する患部の位置や大きさを把握し、照射方向や照射線量等を決定する。また、この治療計画の作成時に、X線撮影画像を、治療計画装置1上でCT画像からシミュレーション画像として作成する。このシミュレーション画像は、CT画像から生成されるX線撮像画像(以下DRR(Digital Reconstructed Radiograph)画像)である。このDRR画像は治療計画装置1から画像処理システム7に送信され、医療画像サーバ15に記憶される。
【0041】
ここで、従来作成されるDRR画像は、実際のX線線源位置22と同じ位置をX線線源位置として、再構成した場合の画像である。この画像には計画されたコリメータ輪郭形状情報も含まれ、DRR画像から、DRR患者画像32及びDRRコリメータ画像33を別々に表示することもできる。
【0042】
本発明では更に、粒子線拡大起点位置21をX線線源位置22と想定した場合の画像を作成する。この画像にも同様に、粒子線拡大起点位置21をX線線源位置22と想定して計画されたコリメータ輪郭形状情報が含まれ、DDR患者画像36及びDDRコリメータ画像37を別々に表示することができる。
【0043】
このDRR画像36,37は、前述のDRR画像32,33とともに、医療画像サーバ15に記憶される。
【0044】
以上の準備が完了してから図4の制御フロー手順を開始する。
【0045】
最初にコリメータ5の位置決めを開始する(ステップ101)。まず、コリメータ5をスノート9に設置する。このときコリメータが正しく設置されたかどうかをセンサ等により判定する。(ステップ102)。
【0046】
次にオペレータが画像処理システム7における入力装置14を用いてX線撮像開始の指示入力を行うと、X線撮像装置16によりコリメータ5の輪郭が写り込んだアパーチャ画像が位置決め画像として撮影される。撮影が終了すると、この撮影された位置決め画像(コリメータX線撮像画像35)をX線撮像装置16から画像処理システム7における医療画像サーバ15に記憶する(ステップ103)。
【0047】
次に、医療画像サーバ15からDRRコリメータ画像33を読み込み、モニタ13aに表示する。また医療画像サーバ15から上記ステップ103で記憶されたコリメータX線撮像画像35を読み込み、モニタ13aに表示する。更に、両画像33,35を比較し、コリメータ位置誤差量を算出する(コリメータ誤差演算40)(ステップ104)。
【0048】
算出したコリメータ位置誤差量が、許容範囲であることをオペレータが確認し、終了操作をすることで、次のステップへ進むが、許容範囲外であれば、オペレータはコリメータ位置を修正した上で確認を終了する。コリメータ位置修正は、特に回転方向に対して、スノート制御装置10にて行う。ここで場合によっては、コリメータ形状を修正する場合もある。コリメータ形状の修正方法は、コリメータのブロックを手動で修正する他、マルチリーフコリメータがある場合は、電動にてリーフ位置を修正する等場合によって異なる。更に再度ステップ103に戻り、コリメータ画像の取得から始め再度算出した誤差量が、許容範囲であることをオペレータが確認し、終了操作をする。この場合前回取得のデータは破棄し、最終的な画像データをコリメータX線撮像画像35とし、このときの誤差量をコリメータ位置誤差量とする(ステップ105)。
【0049】
コリメータ5の位置確認が終了すると、コリメータ5が取り外されたかどうかを判定する(ステップ106)。これは、後述する患者4の位置決めにおけるX線撮像の際にコリメータ5が写り込まないように一時的に照射野から退避させる必要があるからである。オペレータによりスノート9のコリメータ取付部からコリメータ5が取り外されたことが検出されたら、コリメータの位置決めを終了する(ステップ107)。
【0050】
次に患者4の位置決めを開始する(ステップ108)。
まず、患者4の支持台19に対する固定及びレーザマーカー(図示せず)等による粗位置決めを行う。このレーザマーカーによる位置決めは、CT撮影時に壁等に取付けられたレーザ発生器(図示せず)から患者4にレーザを照射してその位置にマーキングをしておき、治療時にレーザ発生器をマーキングしたときの照射ポイントに固定して、固定具で患者の体を固定した状態でマーキングした位置がレーザに重なるように患者4(支持台19)を移動させることにより行われる大雑把な粗位置決めである。この粗位置決めが終了した後、オペレータからのX線撮像の指示により、X線撮像装置16により支持台19上に固定された患者4の位置決め画像が撮影され、この患者X線撮像画像34を医療画像サーバ15に記憶する(ステップ109)。
【0051】
次に、医療画像サーバ15からDRR患者画像32を読み込み、モニタ13aに表示する。また、医療画像サーバ15から上記ステップ109で記憶された患者X線撮像画像34を読み込み、モニタ13aに表示する。更に、両画像32,34を比較し、患者位置誤差量を算出する(患者位置誤差演算41)(ステップ110)。
【0052】
算出した患者位置誤差量が、許容範囲であれば確認を終了し次のステップへ進むが、許容範囲外であれば、患者位置を修正した上で確認を終了する。更に、再度ステップ109に戻り、患者X線画像の取得から始め、再度算出した誤差量が、許容範囲であることをオペレータが確認し、確認作業を終了する。この場合前回取得のデータは破棄し、最終的な画像データを患者X線撮像画像34とし、このときの誤差量を患者位置誤差量とする(ステップ111)。
【0053】
患者4の位置確認が終了すると、コリメータ5が再び設置されたかどうかを判定する(ステップ112)。これは、X線撮像の際に一時的に照射野から退避したコリメータを復帰し、照射の準備をする必要があるからである。
【0054】
オペレータによりスノート9のコリメータ取付部にコリメータ5が設置されたことが検出されたら、患者の位置決めを終了する(ステップ113)。
【0055】
以上は、従来のコリメータ5の位置決め及び患者4の位置決めに関する制御フローと同様の制御フローであるが、以下、本発明による、患者照射領域の確認に関する制御フローを説明する。図3中、太線で示した部分が本発明による処理機能であり、図4中、太線で示した部分が本発明による制御フロー手順である。
【0056】
患者照射領域の確認を開始する(ステップ114)。 本発明の特徴は、粒子線拡大起点位置22にX線線源をおいたと想定できる模擬X線画像38を作成する(ステップ115)ことにある。この画像作成手順を、主に図3を用いて説明する。
【0057】
まず、準備段階にて粒子線拡大起点位置21をX線線源位置22と想定して計画したDDR患者画像36を、ステップ110にて算出した患者位置誤差量の分、シフトする(画像シフト演算42)。これにより、模擬的に粒子線拡大起点位置21をX線線源位置22と想定した患者X線撮像画像を作成する。
【0058】
ついで、ステップ105におけるコリメータX線撮像画像35から、コリメータ領域を抽出する。更にこのコリメータ領域が粒子線拡大起点位置21で撮影した画像となるように補正演算を行う(コリメータ領域抽出及び補正演算43)。
【0059】
最後に、補正されたコリメータ領域を画像シフト演算42の演算結果である画像に重ねて描画する(追加描画演算44)。これにより、模擬X線画像38が作成される。
【0060】
この際、実際に撮像されたコリメータ領域を透過なし、また補正されたコリメータ領域を透過処理した色で描画することにより、患者照射領域をより視覚的に分かりやすく表示することができる。
【0061】
更に作成した模擬X線画像38に基づいて、患者照射領域の確認を行う (ステップ116)。この確認では、オペレータによる視覚的な確認を行う。模擬X線画像38を作成したことにより、実際に位置決めされたコリメータ及び患者位置を反映した、患者照射領域を視覚的に確認することができる。
【0062】
また必要があれば、照射した際のコリメータ5と患者4の位置関係を示すエビデンスとして、模擬X線画像38を医療画像サーバ15に記憶する。
【0063】
一方で、準備段階にて粒子線拡大起点位置21をX線線源位置22と想定して計画したDDRコリメータ画像37(計画コリメータ)と、模擬X線画像38を逆シフトした模擬X線画像39を比較し、患者照射領域の誤差を算出することもできる。より具体的には、補正したコリメータ領域を含む模擬X線画像38全体を、シフト演算42で行った患者位置誤差量のシフト分だけ元に戻す(逆シフト演算42a)。これにより、シフトしたX線画像は元の位置に戻り、この模擬X線画像39に含まれる補正したコリメータ領域とDDRコリメータ画像37とを比較することにより、患者照射領域の誤差を算出することができる(患者照射領域誤差演算45)。
【0064】
算出した患者照射領域誤差量が、許容範囲であればオペレータの操作により確認を終了し(ステップ117)、全ての確認が終了する(ステップ118)。許容範囲外であった場合は、模擬X線画像38からコリメータ位置と患者位置のどちらが要因かを判断した上で、再度コリメータ位置決め開始(ステップ101)又は患者位置決め開始(ステップ108)に戻り、制御フロー手順を繰り返す。
【0065】
以上において、画像シフト演算42の演算処理機能は、DRR患者画像36を患者位置誤差に基づき画像シフトした第2再構成画像を作成する画像シフト演算部を構成し、コリメータ領域抽出及び補正演算43の演算処理機能は、X線線源位置22からX線撮影したコリメータX線撮像画像35を、前記粒子線拡大起点位置21から撮影したと想定できる第2コリメータ画像に補正する補正演算部を構成し、追加描画演算44の演算処理機能は、第2再構成画像と第2コリメータ画像を重ね合わせた模擬X線画像38を作成する追加描画演算部を構成する。
【0066】
更に、逆シフト演算42aの演算処理機能は、模擬X線画像38を前記患者位置誤差に基づき逆シフトする模擬画像逆シフト演算部を構成し、患者照射領域誤差演算45の演算処理機能は、逆シフト後の模擬X線画像39に含まれる補正コリメータ領域と粒子線拡大起点位置21をX線線源位置22と想定して作成されたコリメータ領域の再構成画像(DDRコリメータ画像37)とを比較して、患者照射領域誤差を算出する誤差演算部を構成する。
【0067】
以上説明した本実施形態の粒子線治療装置の位置決めシステムによれば、以下の効果を奏する。模擬X線画像38を作成することにより患者照射領域を視覚的に確認することができる。これにより、粒子線治療装置の位置決めの安全性向上を図ることができる。また、模擬X線画像38を医療画像サーバ15に記憶することにより、エビデンスとすることができる。更に、患者照射領域の誤差を算出することにより、患者照射領域を数値的に確認することができる。
【0068】
<第2実施形態>
本発明の他の実施形態を図5を用いて説明する。図5は画像処理システム7Aの演算装置13A(図示せず)による演算処理を示す機能ブロック図である。
【0069】
第1実施形態では、模擬X線画像38を作成し、模擬X線画像38を逆シフトした模擬X線画像39とDDRコリメータ画像37とを比較し、患者照射領域の誤差を算出したが、本実施形態では、模擬X線画像38を作成せず、直接、比較用の模擬X線画像39を作成し、模擬X線画像39とDDRコリメータ画像37とを比較し、患者照射領域の誤差を算出する。なお、図5に示すもののうち図3に示したものと同等のものに対しては同じ符号を付している。
【0070】
まず、コリメータX線撮像画像35からコリメータ領域を抽出し、このコリメータ領域が粒子線拡大起点位置21で撮影した画像となるように補正演算を行う(コリメータ領域抽出及び補正演算43)。次いで、患者位置誤差量の分、補正演算43の演算結果を逆シフトする(コリメータ領域逆シフト演算54)。最後に、逆シフトされたコリメータ領域を準備段階にて粒子線拡大起点位置21をX線線源位置22と想定して計画したDDR患者画像36に重ねて描画する(追加描画演算55)。これにより、比較用の模擬X線画像39が作成される。
【0071】
模擬X線画像39は、DDRコリメータ画像37(計画コリメータ)との比較を目的に作成されているため、粒子線拡大起点位置21にてX線撮像した場合の画像を正確に模擬している訳ではないが、コリメータ5と患者4との相対関係は反映されており、患者照射領域の誤差を視覚的に確認することができる。
【0072】
また、第1実施形態と同様に、模擬X線画像39を医療画像サーバ15に記憶することにより、エビデンスとすることができ、模擬X線画像39に含まれるコリメータ領域とDDRコリメータ画像37とを比較することにより、患者照射領域の誤差を算出することができる(患者照射領域誤差演算45)。
【0073】
以上において、コリメータ領域抽出及び補正演算43の演算処理機能は、X線線源位置22からX線撮影したコリメータX線撮像画像35を、前記粒子線拡大起点位置21から撮影したと想定できる第2コリメータ画像に補正する補正演算部を構成し、コリメータ領域逆シフト演算54の演算処理機能は、前記補正コリメータ領域を患者位置誤差に基づき逆シフトするコリメータ領域逆シフト演算部を構成し、追加描画演算55の演算処理機能は、粒子線拡大起点位置をX線線源位置と想定して作成された患者画像の再構成画像(DRR患者画像36)と逆シフトした第2コリメータ画像を重ね合わせた比較用模擬画像39を作成する追加描画演算部を構成し、患者照射領域誤差演算45の演算処理機能は、比較用模擬X線画像39に含まれる補正コリメータ領域と粒子線拡大起点位置21をX線線源位置22と想定して作成されたコリメータ領域の再構成画像(DDRコリメータ画像37)とを比較して、患者照射領域誤差を算出する誤差演算部を構成する。
【0074】
以上のように本実施の形態においても、第1の実施の形態と同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0075】
1 治療計画装置
2 粒子線照射装置
3 回転ガントリー
4 患者
5 コリメータ
6 X線撮像システム
7 画像処理システム
8 照射ノズル
9 スノート
10 スノート制御装置
12 支持台制御装置
13 演算装置
13a 表示装置
14 入力装置
15 医療画像サーバ
16 X線撮像装置(撮影装置)
17 X線管装置
18 X線受像装置
19 支持台
21 粒子線拡大起点位置
22 X線線源位置
23 アイソセンタ
24 レンジモジュレーションホイール
25 第二散乱体
26 Y軸走査電磁石
27 X軸走査電磁石

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スノートに設置されるコリメータを位置決め制御するスノート制御装置と、
患者を支持する支持台を位置決め制御する支持台制御装置と、
前記スノート制御装置に出力する前記コリメータの位置決め情報及び前記支持台制御装置に出力する支持台の位置決め情報を生成する画像処理システムとを備えた粒子線治療装置の位置決めシステムにおいて、
前記画像処理システムは、
患者のCT画像に基づいて、粒子線拡大起点位置から前記患者を撮影したと想定できる第1再構成画像(第1DRR患者画像)を作成し、この第1再構成画像を患者位置誤差に基づき画像シフトした第2再構成画像(第2DRR患者画像)を作成する画像シフト演算部と、
X線線源位置からX線撮影した第1コリメータ画像を、前記粒子線拡大起点位置から撮影したと想定できる第2コリメータ画像に補正する補正演算部と、
前記第2再構成画像と前記第2コリメータ画像を重ね合わせた模擬画像を作成する追加描画演算部を有することを特徴とする粒子線治療装置の位置決めシステム。
【請求項2】
請求項1記載の粒子線治療装置の位置決めシステムにおいて、
前記画像処理システムは更に、
前記模擬画像を表示する表示装置を有することを特徴とする粒子線治療装置の位置決めシステム。
【請求項3】
請求項1記載の粒子線治療装置の位置決めシステムにおいて、
前記画像処理システムは更に、
前記模擬画像を記憶する記憶装置を有することを特徴とする粒子線治療装置の位置決めシステム。
【請求項4】
請求項1記載の粒子線治療装置の位置決めシステムにおいて、
前記画像処理システムは更に、
前記模擬画像を前記患者位置誤差に基づき逆シフトする模擬画像逆シフト演算部と、
前記模擬画像逆シフト演算部の演算結果に含まれる補正コリメータ領域と粒子線拡大起点位置をX線線源位置と想定して作成されたコリメータ領域の再構成画像(DRRコリメータ領域)とを比較して、患者照射領域誤差を算出する誤差演算部とを有することを特徴とする粒子線治療装置の位置決めシステム。
【請求項5】
スノートに設置されるコリメータを位置決め制御するスノート制御装置と、
患者を支持する支持台を位置決め制御する支持台制御装置と、
前記スノート制御装置に出力する前記コリメータの位置決め情報及び前記支持台制御装置に出力する支持台の位置決め情報を生成する画像処理システムとを備えた粒子線治療装置の位置決めシステムにおいて、
前記画像処理システムは、
X線線源位置からX線撮影した第1コリメータ画像を、粒子線拡大起点位置から撮影したと想定できる第2コリメータ画像に補正する補正演算部と、
前記第2コリメータ画像を患者位置誤差に基づき逆シフトするコリメータ領域逆シフト演算部と、
粒子線拡大起点位置をX線線源位置と想定して作成された患者画像の再構成画像(DRR患者画像)と逆シフトした前記第2コリメータ画像を重ね合わせた比較用模擬画像を作成する追加描画演算部と、
前記比較用模擬画像に含まれる補正コリメータ領域と粒子線拡大起点位置をX線線源位置と想定して作成されたコリメータ領域の再構成画像(DRRコリメータ領域)とを比較して、患者照射領域誤差を算出する誤差演算部とを有することを特徴とする粒子線治療装置の位置決めシステム。
【請求項6】
粒子線発生装置と、この粒子線発生装置からの粒子線を患部形状に形成して照射野を形成するコリメータと、このコリメータが設置されるスノートと、患者を支持する支持台とを有する粒子線照射装置と、
前記粒子線発生装置の粒子線拡大起点位置の下流にX線線源が位置するX線撮像システムと、
前記スノートを駆動して前記コリメータを位置決め制御するスノート制御装置と、
前記支持台を駆動しての支持台を位置決め制御する支持台制御装置と、
前記スノート制御装置に出力する前記コリメータの位置決め情報及び前記支持台制御装置に出力する支持台の位置決め情報を生成する画像処理システムとを備えた粒子線治療システムにおいて、
前記画像処理システムは、
患者のCT画像に基づいて、粒子線拡大起点位置から前記患者を撮影したと想定できる第1再構成画像(第1DRR患者画像)を作成し、この第1再構成画像を患者位置誤差に基づき画像シフトした第2再構成画像(第2DRR患者画像)を作成する画像シフト演算部と、
X線線源位置からX線撮影した第1コリメータ画像を、前記粒子線拡大起点位置から撮影したと想定できる第2コリメータ画像に補正する補正演算部と、
前記第2再構成画像と前記第2コリメータ画像を重ね合わせた模擬画像を作成する追加描画演算部を有することを特徴とする粒子線治療システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−233881(P2010−233881A)
【公開日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−86382(P2009−86382)
【出願日】平成21年3月31日(2009.3.31)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】