説明

粒子線治療装置

【課題】治療期間を短縮することができる粒子線治療装置を提供する。
【解決手段】シンクロトロンから出射されたイオンビームは、照射装置より患者に照射される。照射装置は、第一散乱体,第二散乱体、ブロックコリメータ及び患者コリメータを有する。第二散乱体23はPbで構成されたhighZ部23A及び樹脂で構成されたlowZ部23Bを有する。第一散乱体側から見た第二散乱体23の形状が正方形であるため、第二散乱体23を通過したイオンビームは照射装置の軸方向と直交する断面の輪郭形状が正方形になる。正方形の開口部を有するブロックコリメータで除外されるイオンビームの割合が著しく低減され、イオンビームの利用効率が向上する。このため、患者一人当たりの治療時間を短縮することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粒子線治療装置に係り、特に、陽子及び炭素イオン等のイオンビームを患部(がん病巣)に照射して治療する粒子線治療装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の粒子線治療装置は、イオンビーム発生装置,イオンビーム輸送系及び照射装置を備える。照射装置は回転ガントリーに設置されている。イオンビーム発生装置は、加速器としてシンクロトロン(またはサイクロトロン)を含んでいる。シンクロトロンで設定エネルギーまで加速されたイオンビームは、イオンビーム輸送系を経て照射装置に達する。そのイオンビームは、照射装置から患者のがんの患部に照射される。
【0003】
照射装置は、イオンビーム発生装置からのイオンビームを、照射目標である患部の立体形状に合わせて整形し照射野を形成するとともに、照射野内の照射線量を調整する装置である。このように所望の照射線量を照射対象形状に合わせて照射する方法として、二重散乱体法が知られている(特許文献1の図11及び非特許文献1の図39参照)。二重散乱体法は、第一散乱体及び第二散乱体の二種類の散乱体を用い、これらの散乱体によって照射装置の軸方向(イオンビームの進行方向)と直交する方向(以下、単に、直交方向という)において照射線量分布が一様でかつその方向に広げられたイオンビームを得るものである。二重散乱体法が適用された照射装置は、第一散乱体及び第二散乱体を有し、第一散乱体を第二散乱体よりも上流に配置している。イオンビームは、第一散乱体での散乱により直交方向において正規分布状に広げられ、その後、第二散乱体での散乱により直交方向における照射線量分布が一様化される。このように、照射線量分布が一様化されたイオンビームは、照射装置内に設置された第一コリメータ(ブロックコリメータ)及び第二コリメータ(患者コリメータ)を通過して患部に照射される。第一コリメータに形成された、イオンビームが通過する開口部(第1開口部)は、円形をしている。第2コリメータに形成された、イオンビームが通過する開口部(第2開口部)は、直交方向での患部の断面形状に対応して形成されている。
【0004】
第二散乱体は、highZの物質(例えば、Pb,W)によって構成されたhighZ部、及びlowZの物質(例えば、樹脂)によって構成されたlowZ部を有する。Zは原子番号である。イオンビームの散乱度合いは、lowZ部よりもhighZ部で大きい。highZ部の作用により、第一散乱体により正規分布をしている中央部のイオンビームは、highZ部の作用により外側に向かって散乱される。このため、第二散乱体を通過したイオンビームは、直交方向に広げられた状態でその方向でより一様な照射線量分布になっている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−69683号公報
【非特許文献1】レビュー オブ サイエンティフィック インスツルメンツ64巻8号(1993年8月)の第2079〜2083頁(REVIEW OF SCIENTIFIC INSTRUMENTS VOLUME 64 NUMBER 8(AUGUST 1993)P2079-2083)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
最近、イオンビームの照射野を正方形したいとのニーズが寄せられる。発明者は、まず、照射野を正方形にするために、発明者は、第1コリメータの第1開口部の形状を正方形にすることを考えた。具体的には、第二散乱体を通過したイオンビームは照射装置の軸方向に直交する断面形状の輪郭が円形となっているため、第1開口部の形状は、その円形の輪郭に内接する正方形にすることである。しかしながら、第1開口部の形状を正方形にすることによって、その正方形よりも外側を進行するイオンビームは、第二散乱体によって遮られて患部に照射されなくなり、患部に照射されないイオンビームの割合が増大することになる。この結果、発明者は、イオンビーム発生装置から出射されたイオンビームの利用効率が低下し、患者一人当たりの治療時間が長くなることを見出した。
【0007】
本発明の目的は、治療時間を短縮できる粒子線治療装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、イオンビームを照射対象に照射するイオンビーム照射装置が、イオンビームが通過する第一散乱体と、第一散乱体を通過したイオンビームが導かれる第二散乱体と、実質的に四角形である開口部を形成し、第二散乱体を通過したイオンビームを、開口部で整形するコリメータとを有し、
第二散乱体は、第1散乱体から見た、外面形状の輪郭が、4つの角部、及び隣り合う角部を互いに連結する4つの線によって形成されていることにある。
【0009】
本発明は、上記したようにイオンビームが、第1散乱体から見た、外面形状の輪郭が、4つの角部、及び隣り合う角部を互いに連結する4つの線によって形成されている第二散乱体を通過するため、実質的に四角形である開口部を形成しているコリメータで除外されるイオンビームの割合が著しく低減される。これにより、照射対象に照射されるイオンビームの割合が著しく増大し、イオンビーム発生装置2から出射されたイオンビームの利用効率が著しく向上する。従って、患者一人当たりの治療時間を短縮することができ、一年間当りの治療人数を増大できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、イオンビームの利用効率を向上させることができるので、治療時間を短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好適な一実施例である粒子線治療装置を、陽子線治療装置を例にとって図面を用いて詳細に説明する。
【0012】
本実施例の陽子線治療装置1は、図1に示すように、イオンビーム発生装置2、イオンビーム輸送系9及び照射装置(照射野形成装置,イオンビーム照射装置)15を備える。イオンビーム発生装置2は、イオン源(図示せず)、前段加速器3及びシンクロトロン4を有する。照射装置15は、回転ガントリー(図示せず)に設置されている。イオンビーム輸送系9は、シンクロトロン4と照射装置15を連絡している。イオンビーム輸送系9の一部は、回転ガントリーに設置される。イオンビーム輸送系9の、回転ガントリーに設置される部分には、偏向電磁石11,12が設けられる。
【0013】
イオン源で発生した陽子線であるイオンビームは、前段加速器(例えば直線加速器)3で加速されて、シンクロトロン4に入射される。このイオンビームは、シンクロトロン4で、高周波加速空胴5から印加される高周波電力によってエネルギーを与えられて更に加速される。シンクロトロン4内を周回するイオンビームのエネルギーが設定エネルギーまでに高められた後、出射用の高周波印加装置6から高周波が周回しているイオンビームに印加される。安定限界内で周回しているイオンビームは、この高周波の印加によって安定限界外に移行し、出射用デフレクタ7を通ってシンクロトロン4から出射される。イオンビームの出射の際には、シンクロトロン4に設けられた四極電磁石8及び偏向電磁石9等の電磁石に導かれる電流が設定値に保持され、安定限界もほぼ一定に保持されている。高周波印加装置6への高周波電力の印加を停止することによって、シンクロトロン4からのイオンビームの出射が停止される。シンクロトロン4から出射されたイオンビームは、イオンビーム輸送系9を経て照射装置15に達する。イオンビームは照射装置15より治療台(カウチ)10上に横たわっている患者14の患部(がんの患部)35(図2)に照射される。
【0014】
尚、イオンビーム発生装置にはサイクロトロンや線形加速器などのイオンビーム加速器を用いてもよい。
【0015】
照射装置15の詳細構造を、図2に基づいて説明する。
【0016】
照射装置15は、回転ガントリーに取り付けられるケーシング16を有し、ケーシング16内に、照射装置15の軸方向(イオンビーム進行方向)の上流側より、第1散乱体装置18,第2散乱体装置22,ブラッグピーク拡大装置(SOBP形成装置)25,飛程調整装置27,ブロックコリメータ(第一コリメータ)30,ボーラス36及び患者コリメータ(第二コリメータ)37を順次配置している。
【0017】
第1散乱体装置18は、イオンビーム進行方向に直交する方向においてイオンビームを広げる第一散乱体19、及び支持部材20を有する。第一散乱体19は、支持部材20によってケーシング16に設置される。第一散乱体19は、一般にイオンビームを散乱させる能力が高い鉛やタングステン等の原子番号の大きい物質(highZの物質)によって構成される材料が用いられる。第一散乱体19は、照射装置15の軸心(ケーシング16内のビーム経路)21に配置される。Zは原子番号である。
【0018】
第2散乱体装置19Aは第二散乱体23及び支持部材24を有する。第二散乱体23は、ケーシング16に取り付けられる支持部材24に設置される。第二散乱体23は、第一散乱体19により直交方向で正規分布状に広げられたイオンビームをその方向で一様な線量分布とするためのものであり、後述するように、highZの物質(例えば、Pb,W)によって構成されたhighZ部23A(図4参照)、及びイオンビームを散乱させる能力が低い、原子番号の小さい物質(lowZの物質。例えば、樹脂)によって構成されたlowZ部23B(図4参照)を有する。第二散乱体23はビーム経路21に配置される。
【0019】
SOBP形成装置25は、イオンビームのエネルギー分布幅を広げて患者14の体内の深さ方向における線量分布を調節する装置であり、支持部材26によってケーシング16に取り付けられる。SOBP形成装置25は、SOBPフィルタ装置、エネルギー変調装置またはエネルギーフィルタ装置とも称される。SOBP形成装置25は、一般には、イオンビームの散乱量が少ない樹脂系素材及びアルミニウム等の原子番号の小さい物質で構成され、軸方向の厚みが異なる複数の領域を形成している。それらの領域は、照射装置
15の軸方向と直交方向に配置されている。厚みの異なるそれらの領域をイオンビームが通過することによって、SOBP形成装置25を通過したイオンビームは、複数のエネルギー成分を有することになる。軸方向での厚みの異なる各領域に対して、直交方向における面積を決めることで、イオンビームにおける各エネルギー成分の重みが決定される。それら複数のエネルギー成分の重ね合せによって線量分布が調整され、患者14の患部39の深さ方向に一様性の高い線量分布を形成することができる。SOBP形成装置25としては、本実施例ではリッジフィルタを使用している。
【0020】
また、SOBP形成装置20として、上記リッジフィルタ以外に、例えば階段状に加工した部材を羽根部に用いたプロペラ状の構造物(照射装置15の軸方向と直交した平面内で回転させる)であるRange Modulator Wheel (回転ホイール)を用いてもよい。回転ホイールの構造は、非特許文献1に詳細に記載されている。
【0021】
飛程調整装置27は、吸収体28を有し、材料物質を通過する時のエネルギー損失によりイオンビームの飛程を減らし、そのときのエネルギー損失を変化させることで、体内でのイオンビームの最大到達深度、すなわち飛程を調整する装置である。飛程調整装置27は、レンジシフタ、ファインデグレーダ、エネルギーデグレーダ等とも称される。吸収体28は、一般に、エネルギー損失が少なくかつ散乱量が少ないアクリル及びルサイト等の、原子番号の小さい物質によって構成される。飛程調整装置27は、支持部材29によってケーシング16に取り付けられる。SOBP形成装置25及び飛程調整装置27は、共に、ビーム経路21に配置される。
【0022】
ブロックコリメータ30は、放射線遮蔽体で構成され、照射野を粗くコリメートするものであり、ケーシング16に取り付けられている。ブロックコリメータ30は、イオンビームを通過させる、正方形の開口部(第1開口部)31を形成している。ブロックコリメータ30は、開口部31よりも外側に達するイオンビームの通過を阻止し、開口部31に到達したイオンビームのみを通過させる。ブロックコリメータ30を通過したイオンビームの、照射装置15の軸方向と直交する方向での断面形状が、開口部31の形状と同様な正方形となる。このようにして、正方形の照射野が形成される。
【0023】
ブロックコリメータ30は、具体的には、図3に示す構成を有している。すなわち、ブロックコリメータ30は、放射線遮蔽部材32A,32B,33A,33B、及びガイドレール34,35を有する。一対のガイドレール34は、ケーシング16の対向する内面にそれぞれ取り付けられる。もう一対のガイドレール35は、ガイドレール34よりもボーラス36側に配置され、ケーシング16の対向する他の内面にそれぞれ取り付けられる。一対のガイドレール34が延びている方向と一対のガイドレール35が延びている方向は、互いに90°ずれている。放射線遮蔽部材32A,32Bが一対のガイドレール34上に移動可能に設置されている。放射線遮蔽部材33A,33Bは、一対のガイドレール35上に移動可能に取り付けられており、ガイドレール35とガイドレール34との間に配置されている。放射線遮蔽部材32Aと放射線遮蔽部材32Bの間隔、及び放射線遮蔽部材33Aと放射線遮蔽部材33Bとの間隔を調節することによって、ブロックコリメータ30の開口部31の大きさが調節できる。前者の間隔と後者の間隔を同じ幅にすることによって、開口部31は正方形となり、その幅を変えることによって正方形の大きさを変えることができる。正方形をした開口部31の一対の対角線の交点は、照射装置15の軸心と一致している。
【0024】
ボーラス36は、患者14の患部39の最大深さに合わせてイオンビームの到達深度を調整するものであり、イオンビームの進行方向に垂直な各位置における飛程を、照射目標である患部39の深さ形状に合わせて調整する。なお、多方向から照射を行う場合や、治療部位によってはボーラス36を使用しない場合もある。
【0025】
患者コリメータ37は、照射装置15の軸方向と直交する方向での患部39の断面形状に対応して形成された開口部(第2開口部)38を有する。患者コリメータ37は、開口部38によってその断面形状に合わせてイオンビームを整形する。すなわち、患者コリメータ37は、ブロックコリメータ30で形成された断面形状が正方形のイオンビームのうち、開口部38よりも外側に到達したイオンビームの通過を阻止する。イオンビームは開口部38内のみを通過する。
【0026】
次に、第二散乱体23の詳細構成を、図4を用いて以下に説明する。第二散乱体23は、highZ部23A及びlowZ部23Bを有する(図4(B)参照)。第一散乱体
19側から見た第二散乱体23の形状の輪郭は、図4(C)に示すように正方形となっている。その輪郭は、4つの角部(本実施例では直角の角部)、及び隣り合う角部を互いに連結する4つの線によって形成されているとも言える。highZ部23Aは、照射装置15の軸方向において上流側に向かって凸となる形状を有している。このため、highZ部23Aの軸方向の厚みは、図4(B)に示すように、第二散乱体23の軸心で最も厚く、第二散乱体23の周辺に向かって急激に減少してその周辺で最も薄くなっている。
lowZ部23Bは、内部に、照射装置15の軸方向において下流側に開放される凹部
23Dが形成されている。このため、lowZ部23Bの軸方向の厚みは、highZ部23Aとは逆で、図4(B)に示すように、第二散乱体23の周辺で最も厚く、第二散乱体23の軸心に向かって急激に減少してその軸心で最も薄くなっている。highZ部
23Aの同一レベルでの外面の輪郭(highZ部23Aの外面の、照射装置15の軸方向と直交する断面での輪郭)は、図4(C)に示す二点差線のように正方形になっている。図示されていないが、lowZ部23Bは、同一レベルでの外面の輪郭(lowZ部
23Bの外面の、照射装置15の軸方向と直交する断面での輪郭)及びそのレベルでの内面の輪郭(lowZ部23Bの内面の、照射装置15の軸方向と直交する断面での輪郭)も、正方形になっている。第二散乱体23の軸心は照射装置15の軸心と一致している。第二散乱体23の上記正方形の一対の対角線の各向きは、正方形をした開口部31の一対の対角線の各向きと一致するように配置される。
【0027】
第二散乱体23におけるイオンビームのエネルギー損失が場所に寄らず一定になるように、直交方向における各位置でのhighZ部23A及びlowZ部23Bの各軸方向の厚みが決定されている。highZ部23Aの、イオンビームの散乱角度は、lowZ部23Bのその散乱角度いよりも大きく、第2散乱体23でイオンビームの散乱はhighZ部23Aの影響を大きく受ける。第二散乱体23の、直交方向における各位置(r,θ)での散乱角度Ωは、実質的に、highZ部23Aの軸方向の厚みによって定まる。rは第二散乱体23の軸心から半径方向の位置、θはその軸心周りにおける位置を示している。
【0028】
本実施例における第二散乱体23の作用について詳細に説明する。ブロックコリメータ30の正方形である開口部31の大きさは、放射線遮蔽部材32A,32B,33A,33Bをそれぞれ移動させ、イオンビームを照射する患者14の患部39に対応するように設定されている。第一散乱体19を通過して正規分布状に広げられたイオンビームが、第二散乱体23に入射される。第二散乱体23のhighZ部23Aの作用により、第二散乱体23の軸心部に入射したイオンビームは散乱角度が大きくなって外側に向かって大きく散乱し、第二散乱体23の周辺部に入射したイオンビームは散乱角度が小さく外側に向かって散乱する度合いが低減される。第二散乱体23のhighZ部23Aは、highZ部23Aの底面(highZ部23AとlowZ部23Bの境界面)からの各レベルでの横断面の輪郭形状が正方形をしているため、第二散乱体23を通過したイオンビームは、照射装置15の軸方向と直交する断面の輪郭形状が実質的に正方形になっている。換言すれば、本実施例では、第二散乱体23を通過したイオンビームの、その断面での輪郭形状が実質的に正方形になるように、直交方向における各位置(r,θ)での散乱角度Ωは、実質的に、highZ部23Aの、直交方向における各位置(r,θ)での軸方向の厚みが設定されている。
【0029】
第二散乱体23を通過したイオンビームの、照射装置15の軸方向と直交する断面での輪郭形状である正方形は、ブロックコリメータ30の正方形の開口部31よりも若干大きい。このため、第二散乱体23を通過したイオンビームのうち、開口部31よりも外側に位置するイオンビームがブロックコリメータ30に遮られて除外されるが、開口部31に入射したイオンビームがボーラス36に導かれる。
【0030】
本実施例は、第二散乱体23を通過したイオンビームの、その軸方向と直交する断面での輪郭形状が実質的に正方形であるため、イオンビームの、その断面での輪郭形状が円形である場合に比べて、ブロックコリメータ30で除外されるイオンビームの割合が著しく低減される。換言すれば、イオンビームの、その断面での輪郭形状が円形である場合に比べて、本実施例は、開口部31を通過するイオンビームの割合が著しく増大する。このため、患者コリメータ37でもイオンビームの一部が除外されるが、患部39に照射されるイオンビームの割合が、イオンビームの、その断面での輪郭形状が円形である場合に比べて、著しく増大し、イオンビーム発生装置2から出射されたイオンビームの利用効率が著しく向上する。このため、患者一人当たりの治療時間を短縮することができ、一年間当りの治療人数を増大できる。
【0031】
患者によっては、イオンビームの照射野を長方形(直角の角を挟む二辺の長さが異なる四角形)にする必要がある。このときは、ブロックコリメータ30の、放射線遮蔽部材
32Aと放射線遮蔽部材32Bとの間隔、及び放射線遮蔽部材33Aと放射線遮蔽部材
33Bとの間隔を変えて、開口部31の形状を長方形とする。ブロックコリメータ30の開口部31がそのように設定された場合に用いる第二散乱体23は、第一散乱体19側から見た形状が長方形となっている。この例においても、前述した正方形の場合と同様に、ブロックコリメータ30によって除外されるイオンビームの量が著しく減少し、イオンビームの利用効率が増大するため、患者一人当たりの治療時間を短縮することができる。
【0032】
第二散乱体としては、第二散乱体23以外に、図5(A),(B)に示す第二散乱体
40A,40Bを用いることも可能である。図5(A)に示す第二散乱体40Aは、第二散乱体23のlowZ部23Bの各外面、及びhighZ部23Aの外面の輪郭を、それぞれ、内側に窪ませた形状を有する。第二散乱体40Aは、4つの外面に凹部41をそれぞれ形成している。この第二散乱体40Aも、第二散乱体23と同様に、第一散乱体19側から見た形状の輪郭が正方形(または長方形)となっている。また、図5(B)に示す第二散乱体40Bは、第二散乱体40Aとは逆に、4つの外面をそれぞれの中央部で外側に少し突出させた輪郭形状を有する。この第二散乱体40Bも、第二散乱体23と同様に、第一散乱体19側から見た形状の輪郭が正方形(または長方形)となっている。これらの第二散乱体40A,40Bは、いずれも、第一散乱体19側から見た形状の輪郭が4つの角部、及び隣り合う前記角部を互いに連結する4つの線によって形成されていると言える。第二散乱体40A,40BのそれぞれのhighZ部は、highZ部の底面
(highZ部とlowZ部の境界面)からの各レベルでの横断面の輪郭形状が二点差線で示される形状になっている。これらの二点差線で示される各形状は、第二散乱体40A,40BのそれぞれのhighZ部とlowZ部の境界での各断面形状と同じである。第二散乱体40A,40Bのいずれを照射装置15に設置しても、第二散乱体23を設置した場合と同様な効果を得ることができる。
【0033】
以上に述べた第二散乱体はContoured構造の第二散乱体であるが、2重リング構造の第二散乱体を用いてもよい。上記した実施例における第二散乱体23の替りに用いることができる2重リング構造の第二散乱体の一例を、図6を用いて説明する。2重リング構造の第二散乱体40Cは、highZ部23C、及びhighZ部23Cに取り付けられたlowZ部23Dを有する。highZ部23C及びlowZ部23Dのそれぞれの軸方向の厚みは、エネルギー損失が等しくなるように設定されている。highZ部
23Cの軸方向での厚みは、図6(A)に示すように、lowZ部23Dのその厚みよりも薄くなっている。highZ部23Cは、lowZ部23Dに取り囲まれている。第一散乱体19側から見たhighZ部23C及びlowZ部23Dのそれぞれの輪郭形状は、正方形(または長方形)になっている。換言すれば、第一散乱体19側から見たhighZ部23C及びlowZ部23Dのそれぞれの輪郭形状は、4つの角部、及び隣り合う前記角部を互いに連結する4つの線によって形成されていると言える。highZ部23C及びlowZ部23Dのそれぞれの輪郭形状は、第二散乱体23の替りに第二散乱体40Cを設置した照射装置15においても、ブロックコリメータ30の開口部31を通過するイオンビームの割合を著しく増大でき、イオンビーム発生装置2から出射されたイオンビームの利用効率が著しく向上する。このため、患者一人当たりの治療時間を短縮することができる。
【0034】
第二散乱体23,40A,40Bは、highZ部とlowZ部の境界における断面形状が正方形(または長方形)となっている。第二散乱体40Cは、少なくともhighZ部23Cの、照射装置15の軸方向に直交する断面形状が正方形(または長方形)となっている。
【0035】
前述した実施例に用いた照射装置15は、イオンビームとして炭素線等の重粒子線を用いる、粒子線治療装置の一種である重粒子線治療装置の照射装置として用いることも可能である。重粒子線治療装置も、イオンビーム発生装置2及びイオンビーム輸送系9を備えている。イオンビーム発生装置2は、重粒子線(例えば、炭素線)であるイオンビームを発生するイオン源を備えている。重粒子線治療装置の照射装置15に、上記した第二散乱体23,40A,40B、40Cのいずれかを用いることによって、前述した陽子線治療装置と同様な効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明の好適な一実施例である陽子線治療装置の概略構成図である。
【図2】図1に示す照射装置の詳細構成を示す縦断面図である。
【図3】図2のIII−III断面図で、ブロックコリメータの構成を示す説明図である。
【図4】図2に示す第二散乱体の詳細構成図で、(A)は第二散乱体の斜視図、(B)は(A)のB−B断面図、(C)は第二散乱体の平面図である。
【図5】(A),(B)はそれぞれ第二散乱体の他の実施例の平面図である。
【図6】第二散乱体の他の実施例の平面図である。
【符号の説明】
【0037】
1…陽子線治療装置、2…イオンビーム発生装置、4…シンクロトロン、9…イオンビーム輸送系、15…照射装置、16…ケーシング、18…第一散乱体装置、19…第一散乱体、21…照射装置の軸心(ビーム経路)、22…第二散乱体装置、23,40A,
40B,40C…第二散乱体、23A,23C…highZ部、23B,23D…lowZ部、25…SOBP形成装置、27…飛程調整装置、30…ブロックコリメータ、31,
38…開口部、32A,32B,33A,33B…放射線遮蔽部材、34,35…ガイドレール、37…患者用コリメータ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオンビーム発生装置と、イオンビーム発生装置から出射されたイオンビームを照射対象に照射するイオンビーム照射装置とを備え、
前記イオンビーム照射装置は、
前記イオンビームが通過する第一散乱体と、
前記第一散乱体を通過した前記イオンビームが導かれる第二散乱体と、
実質的に四角形である開口部を形成し、前記第二散乱体を通過した前記イオンビームを、前記開口部で整形するコリメータとを有し、
前記第二散乱体は、前記第1散乱体から見た、外面形状の輪郭が、4つの角部、及び隣り合う前記角部を互いに連結する4つの線によって形成されていることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項2】
前記輪郭の、前記第二散乱体の軸心を間に挟んで対向する2つの角部を結ぶ直線が、前記照射装置の軸方向と直交する平面において前記開口部の対角線と同じ方向を向いている請求項1に記載の粒子線治療装置。
【請求項3】
前記線は、前記直線によって描かれる円よりも内側に位置する請求項2に記載の粒子線治療装置。
【請求項4】
前記第二散乱体は、エネルギー損失が少なく原子番号の大きい物質によって構成されるhighZ部、及びエネルギー損失が少なく原子番号の小さい物質によって構成される
lowZ部を有し、前記highZ部の、前記イオンビームの散乱角が、前記lowZ部のそれよりも大きくなっており、
前記highZ部及び前記lowZ部のそれぞれの外面の、前記軸方向と直交する断面での輪郭が、前記4つの角部及び前記4つの線によって形成されている請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の粒子線治療装置。
【請求項5】
前記highZ部が、前記軸方向において、前記lowZ部よりも上流に位置しているおり、前記lowZ部が前記highZ部に取り付けられている請求項4に記載の粒子線治療装置。
【請求項6】
イオンビーム発生装置と、イオンビーム発生装置から出射されたイオンビームを照射対象に照射するイオンビーム照射装置とを備え、
前記イオンビーム照射装置は、
前記イオンビームが通過する第一散乱体と、
前記第一散乱体を通過した前記イオンビームが導かれる第二散乱体と、
実質的に正方形である開口部を形成し、前記第二散乱体を通過した前記イオンビームを、前記開口部で整形するコリメータとを有し、
前記第二散乱体は、エネルギー損失が少なく原子番号の大きい物質によって構成されるhighZ部、及びエネルギー損失が少なく原子番号の小さい物質によって構成される
lowZ部を有し、前記highZ部の、前記イオンビームの散乱角が、前記lowZ部のそれよりも大きくなっており、
前記lowZ部が前記軸方向と直交する平面内において前記highZ部を取り囲んで前記highZ部に取り付けられ、
前記highZ部は、前記第1散乱体から見た、輪郭形状が、4つの角部、及び隣り合う前記角部を互いに連結する4つの線によって形成されていることを特徴とする粒子線治療装置。
【請求項7】
前記輪郭の、前記第二散乱体の軸心を間に挟んで対向する2つの角部を結ぶ直線が、前記照射装置の軸方向と直交する平面において前記開口部の対角線と同じ方向を向いている請求項6に記載の粒子線治療装置。
【請求項8】
前記線は、前記直線によって描かれる円よりも内側に位置する請求項7に記載の粒子線治療装置。
【請求項9】
前記4つの角部及び前記4つの線によって画定される形状が、前記4つの角部が直角である四角形である請求項1又は請求項6に記載の粒子線治療装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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