粒子線照射装置
【課題】実データに基づいたより実現実に近い高精度なビーム照射位置を実現できる粒子線照射装置が得られる
【解決手段】X方向とY方向逆写像数式モデルは、それぞれ、荷電粒子ビームの照射位置平面における目標照射位置座標を2変数で表示したときの前記2変数のいずれも含んだ多項式であり、前記多項式に含まれる未知の係数は、前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、一部のデータに低い重み付けをする重み付け最小二乗法により求める。
【解決手段】X方向とY方向逆写像数式モデルは、それぞれ、荷電粒子ビームの照射位置平面における目標照射位置座標を2変数で表示したときの前記2変数のいずれも含んだ多項式であり、前記多項式に含まれる未知の係数は、前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、一部のデータに低い重み付けをする重み付け最小二乗法により求める。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、がん治療等の医療用や研究用に用いられる粒子線照射装置に関する。特にスポットスキャニングやラスタスキャニングなどの走査式照射を行う粒子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の走査式照射を行う粒子線照射装置においては、特許文献1に示されているように、荷電粒子ビームを走査するため、走査手段である走査電磁石の設定電流を時間的に変化させている。この走査電磁石の設定電流値は、走査電磁石の仕様、走査電磁石電源の仕様、及び照射ビームの仕様(照射エネルギー、入射ビーム位置など)から理論式により求めることができる。しかし、この理論式により算出された走査電磁石の設定電流値は、走査電磁石の仕様、走査電源の仕様、及び照射ビーム仕様がまったく変動しないことを前提条件とした理論上の値であり、現実にはさまざまな要因で変動するため、照射位置がずれて誤照射を生じる可能性がある。
【0003】
例えば、走査電磁石は一般に両極性電磁石であることから、電磁石のヒステリシスにより電磁石への供給電流がゼロにもかかわらず磁場の残留により、ビーム照射位置が想定した位置よりずれる可能性がある。また、その他何らかの機器の経年変化により、同一の条件で照射したにもかかわらず、ビーム照射位置がずれる可能性もある。そこで、まず、治療を行う前等、患者のいない状態で、適宜の複数の照射条件(照射エネルギー等)を設定して試験照射を行い、ビーム位置モニタ上で検出したビーム位置データ(xa,ya)と走査電磁石の設定電流値(Ia,Ib)との変換テーブルを予め記憶装置に記憶させておき、治療照射に際し、上記変換テーブルを用いて走査電磁石の設定電流値を演算する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−296162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の走査式粒子線照射装置は以上のように変換テーブルを用いて走査電磁石の設定電流値(2次元)を演算しているので、治療照射の目標照射位置座標(2次元)から変換テーブルを参照する際に、IF文(場合分けをする条件式)を多用しなければならなかったり、試験照射の照射箇所を増やしたい等の場合に変換テーブルの大きさが変わることに応じたプログラム自体の変更が必要であったりした。また、粒子線照射装置の制御入力を3次元(走査電磁石の設定電流値2次元と荷電粒子ビームの設定エネルギー1次元)に拡張する場合、変換テーブルによる方法はさらに複雑になり、実現が難しいという問題点があった。特に、呼吸などによって照射ターゲット(患部)の位置,姿勢,形状が刻一刻と変化する場合、従来の変換テーブルによる方法では、リアルタイムに指令値を生成することが困難であった。
【0006】
この発明は前記のような課題を解決するためになされたものであり、IF文(場合分けをする条件式)を用いず、制御指令値を演算でき、照射位置精度を向上できる粒子線照射装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の粒子線照射装置は、制御器で加速器とスキャニング電磁石とを制御して前記加速器からの荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置において、前記スキャニング電磁石は、X方向スキャニング電磁石と、前記X方向スキャニング電磁石の走査方向と直交する方向に走査するY方向スキャニング電磁石とを有し、前記制御器は、照射対象における荷電粒子ビームの目標照射位置座標から、その照射を実現する前記X方向スキャニング電磁石を励磁するためのX方向指令値,及び前記Y方向スキャニング電磁石を励磁するためのY方向指令値をそれぞれ生成するX方向とY方向逆写像数式モデルを有し、前記X方向とY方向逆写像数式モデルは、それぞれ、荷電粒子ビームの照射位置平面における前記目標照射位置座標を2変数で表示したときの前記2変数のいずれも含んだ多項式であり、前記多項式に含まれる未知の係数は、前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、一部のデータに低い重み付けをする重み付け最小二乗法により求め、信頼性を向上させるようにしたものである。
【0008】
また、この発明の粒子線照射装置は、制御器で加速器とスキャニング電磁石とを制御して前記加速器からの荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置において、前記スキャニング電磁石は、X方向スキャニング電磁石と、前記X方向スキャニング電磁石の走査方向と直交する方向に走査するY方向スキャニング電磁石とを有し、前記制御器は、照射対象における荷電粒子ビームの目標照射位置座標から、その照射を実現する前記X方向スキャニング電磁石を励磁するためのX方向指令値,及び前記Y方向スキャニング電磁石を励磁するためのY方向指令値をそれぞれ生成するX方向とY方向逆写像数式モデルを有し、前記X方向とY方向逆写像数式モデルは、それぞれ、荷電粒子ビームの照射位置平面における前記目標照射位置座標を2変数で表示したときの前記2変数のいずれも含んだ多項式であり、前記多項式に含まれる未知の係数を求めるにあたっては、前記照射対象を複数のエリアに分割し、それぞれのエリア毎の前記多項式に含まれる未知の係数を、前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、当該エリアに属する実データの重みが当該エリアに属さない実データの重みよりも大きい重み付けをする重み付け最小二乗法により求めるようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る粒子線照射装置よれば、前記制御器は、照射対象における荷電粒子ビームの目標照射位置座標から、その照射を実現する前記X方向スキャニング電磁石を励磁するためのX方向指令値,及び前記Y方向スキャニング電磁石を励磁するためのY方向指令値をそれぞれ生成するX方向とY方向逆写像数式モデルを有し、前記X方向とY方向逆写像数式モデルは、それぞれ、荷電粒子ビームの照射位置平面における前記目標照射位置座標を2変数で表示したときの前記2変数のいずれも含んだ多項式であり、前記多項式に含まれる未知の係数は、前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、一部のデータに低い重み付けをする重み付け最小二乗法により求めるため、信頼性の低いデータの影響を抑えることができ、高精度なビーム照射位置を実現できる粒子線照射装置が得られる。
【0010】
また、この発明に係る粒子線照射装置よれば、前記多項式に含まれる未知の係数を求めるにあたっては、前記照射対象を複数のエリアに分割し、それぞれのエリア毎の前記多項式に含まれる未知の係数を、前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、当該エリアに属する実データの重みが当該エリアに属さない実データの重みよりも大きい重み付けをする重み付け最小二乗法により求めるため、実データに基づいたより実現実に近い高精度なビーム照射位置を実現できる粒子線照射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】1次元の場合の制御入力と制御出力との関係を示した模式図である。
【図2】変換テーブルによる制御入力の作成フロー(1次元)を示したフローチャートである。
【図3】変換テーブルによる制御入力の作成方法(2次元)におけるキャリブレーション時を示す図である。
【図4】変換テーブルによる制御入力の作成方法(2次元)における本照射時を示す図である。
【図5】変換テーブルによる制御入力の作成フロー(2次元)を示したフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態1による粒子線照射装置を示す構成図である。
【図7】この発明において、キャリブレーション時の実データから、係数(未知パラメータ)を計算する手法を説明する図である。
【図8】この発明において、係数(未知パラメータ)を計算する手法を説明するブロック図である。
【図9】この発明において、係数(未知パラメータ)を計算する手法を説明するフローチャートである。
【図10】この発明において、治療計画値よりスキャニング電磁石の指令値と荷電粒子ビームの運動エネルギーの指令値を求めるブロック図である。
【図11】この発明の実施の形態2における粒子線照射装置を示す構成図である。
【図12】この発明の実施の形態3における粒子線照射装置を示す構成図である。
【図13】この発明の実施の形態4における動く臓器に対応して動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、従来の変換テーブルを用いた粒子線照射装置のかかえる課題について、詳しく検討する。まずは、簡単のため、粒子線照射装置の走査電磁石(スキャニング電磁石)が1台の場合(X方向の1次元走査の場合)を、図1に基づいて述べる。図1は1次元の場合の制御入力と制御出力との関係を示す摸式図である。荷電粒子ビームの照射位置を高精度にするため、本照射(治療照射)とは別に、患者のいない状態でキャリブレーションのための試し照射を行う。図1(a)は試し照射の結果を表した一例で、横軸に制御入力である走査電磁石の設定電流値、縦軸に制御出力である照射位置X座標をとっている。走査電磁石の仕様、走査電磁石電源の仕様、及び照射ビームの仕様(照射エネルギー、入射ビーム位置など)が変わらなければ、設定電流値に応じて照射位置X座標が一意に決まるので、これは写像であると解釈できる。
【0013】
本照射(治療照射)のときは、逆に、目標照射位置座標に対して制御入力(走査電磁石の設定電流値)を作っていかなければならない。従来の変換テーブルも用いた方法を、図1(b)に基づき説明する。図1(b)は、図1(a)とは入出力関係が逆になるため、横軸と縦軸とが入れ替わっていることに注意する。試し照射のときの制御入力(走査電磁石の設定電流値)と制御出力(照射位置X座標)の結果が、以下の表1に示したように得られたとする。
【0014】
【表1】
【0015】
もしも、本照射(治療照射)時に照射したい目標照射位置X座標が、たまたま試し照射したときの照射位置X座標のいずれかに等しかった場合、例えば、目標照射位置X座標がy1であれば、表1の結果より、走査電磁石の設定電流値はu1にすればよい。本照射(治療照射)時に照射したい目標照射位置X座標が、試し照射の照射位置X座標にない場合(たいがいはこのケースに該当する)、設定電流値の計算は、線形補間とよばれる方法が広く用いられていた。線形補間による方法を、図1(b)と図2のフローチャートに基づいて説明する。
【0016】
目標照射位置X座標がyobjだとする。目標照射位置X座標yobjを、キャリブレーションの試し照射結果の照射位置X座標y0,y1,…,ynを境界とする区分と照らし合わせて、どの区分に属するかを求める。キャリブレーションの試し照射結果の照射位置X座標y0,y1,…,ynが大きさ順に並んでいれば、図2のフローチャートに示した方法により、目標照射位置X座標yobjが属する区分を求めることができる。例えば、目標照射位置X座標yobjがy0とy1からなる区分に属していた場合、すなわち、y0≦yobj≦y1の場合、その区分内では照射位置座標と設定電流値との関係は線形であると仮定し、直線近似により目標照射位置X座標yobjを実現する設定電流値の推定値uobjを計算していた。
【0017】
【数1】
【0018】
図2で示したフローを実現しようとした場合、目標照射位置X座標yobjがどの区分に属するかを求める工程において、多くのIF文(場合分けをする条件式)が必要となっていた。
【0019】
簡単のため1次元の場合を説明したが、実際の粒子線照射装置は2つの走査電磁石を用いて2次元的に走査することが求められている。2次元の場合に、変換テーブルを用いた方法がどのように適用されているか、図3,図4に基づいて説明する。キャリブレーション時の試し照射は、例えば図3(a)に示したように、制御入力である2台の走査電磁石3a,3b(図6参照)の設定電流値IaとIbを、格子状に変化させて行う。試し照射の結果は、図3(b)に示したように、それぞれの制御入力に対しての制御出力、すなわち照射位置座標が得られる。走査電磁石の仕様、走査電磁石電源の仕様、及び照射ビームの仕様(照射エネルギー、入射ビーム位置など)が変わらなければ、制御入力に対して制御出力が一意に決まるので、これは写像であると解釈できる。特に、物理現象である制御入力から制御出力への写像は、正写像とよぶことにする。
【0020】
本照射(治療照射)のときは、逆に、目標照射位置に対して、それを実現する制御入力(2台の走査電磁石の設定電流値IaとIb)を作っていかなければならない。変換テーブルも用いてこれを行うとした場合の方法を、図4(a)(b)に基づいて説明する。1次元の場合、キャリブレーションの試し照射結果の照射位置X座標y0,y1,…,ynを境界とする区分を作成し、目標照射位置X座標yobjがどの区分に属するかを求めた。2次元の場合も、キャリブレーションの試し照射結果の照射位置y0,y1,…,ynを頂点とした多角形により照射位置平面を複数のエリアに分割し、目標照射位置yobjがどのエリアに属するかを求める。
【0021】
なお、試し照射結果の照射位置y0,y1,…,ynと目標照射位置yobjは、ベクトル(2次元)である。どこのエリアに属するかを求める工程は、多くのIF文(場合分けをする条件式)が必要である。図4(a)に示すように、うまく目標照射位置yobjが属するエリアが求まったとする。図4(a)を例に、目標照射位置yobjが属するエリアの頂点がy20,y21,y27であった場合、目標照射位置yobjは、以下の式で表すことができる。
【0022】
【数2】
【0023】
【数3】
【0024】
数式2の幾何学的意味は、図4(a)に示したとおりだが、数式2を満たすk,λを求めて、0≦k≦1, 0≦λ≦1の範囲内になければ、目標照射位置yobjは頂点がy20,y21,y27からなるエリアには属さないことがわかる。どこのエリアに属するかを求める工程は、実際には、すべてのエリアに対してk,λを求めて、0≦k≦1, 0≦λ≦1の範囲内にあるかを確認している。k,λは、以下の数式により求めることができる。
【0025】
【数4】
【0026】
数式4を満たすλを求めればよい。数式4の行列は、y20,y21,y27及びyobjの具体的な座標を代入することによって、以下の形で表される。
【数5】
【0027】
【数6】
【0028】
このように、変換テーブルを用いる方法では、目標照射座標がどのエリアに属するかを求めるのに、すべてのエリアについてこのk,λを求めており、その工程に多くの演算とIF文(場合分けをする条件式)が必要となるという問題点があった。(図5:フローチャート2次元、参照)
【0029】
実施の形態1.
図6はこの発明の実施の形態1における走査式照射をする粒子線照射装置を示す構成図である。粒子線照射装置は、荷電粒子ビーム1を所望の運動エネルギーを有する荷電粒子ビーム1に加速する加速器11、荷電粒子ビーム1を輸送するビーム輸送ダクト2、荷電粒子ビーム1を走査するスキャニング電磁石(走査電磁石)3、ビームを取出すビーム取出し窓4、及び、スキャニング電磁石3へ指令値を送るスキャニング制御器10などから構成されている。ビーム輸送ダクト2を有するビーム輸送系には、偏向電磁石、ビームモニタ、遮蔽電磁石、ビームダンパ、照射路偏向電磁石などが設けられている。実施の形態1における粒子線照射装置は、スキャニング制御器10にビーム照射位置座標空間7からスキャニング電磁石指令値空間6への逆写像数式モデルを有するものである。換言すれば、スキャニング制御器10には目標ビーム照射位置座標に対して、それを実現するスキャニング電磁石3の指令値の推定値を生成する逆写像手段9を有している。
【0030】
次に粒子線照射装置の動作について説明する。加速器11により所望の運動エネルギーを有する荷電粒子ビーム1にまで加速された荷電粒子ビーム1は、ビーム輸送ダクト2の中をとおり、照射部へと導かれる。荷電粒子ビーム1はさらにビーム取出し窓4から取出され、照射基準点であるアイソセンタ5に向けて照射されるように設計されている。一般的に、照射対象である患部を選択的に走査して照射するために、荷電粒子ビーム1は、ビーム輸送ダクト2の外側に設けられたX方向スキャニング電磁石(X方向走査電磁石)3aとY方向スキャニング電磁石(Y方向走査電磁石)3bとによって、ビーム照射位置のXY方向が制御されると共に、加速器11で荷電粒子ビーム1の運動エネルギーを変えることによってビーム照射位置のZ方向(患部の深さ方向)が制御される。これらのビーム照射位置の制御を行うのは、粒子線照射装置全体を制御する照射制御装置23(図10参照)により集中制御する方法と、スキャニング電磁石と、加速器の荷電粒子ビーム1の運動エネルギーを制御するスキャニング制御器10によって分散制御する方法がある。
【0031】
実施の形態1において、荷電粒子ビーム1の照射位置制御を行うスキャニング制御器10には、ビーム照射位置座標空間7からスキャニング電磁石指令値空間6への逆写像数式モデルを有する逆写像手段9を設けた。逆写像数式モデルの好適な一例は目標照射位置座標からなる多項式モデルである。以下の数式7に最高次数=2の場合の多項式モデルを示す。なお、実施の形態1では、ビーム照射位置のZ方向(深さ方向)は、荷電粒子ビームの運動エネルギーにより一意に決まると仮定し、逆写像数式モデル(即ち、X方向とY方向逆写像数式モデル)は複数個、異なった運動エネルギーに対して作成する。
【0032】
【数7】
【0033】
ただし、a00,a01,a02,…,b00,b01,b02,…は逆写像数式モデルの特性を決定する係数(未知パラメータ)である。Iae(X方向指令値),Ibe(Y方向指令値)は荷電粒子ビームの照射位置座標が(x,y)となるX,Y方向スキャニング電磁石指令値の推定値である。つまり、X方向指令値IaeとY方向指令値Ibeを生成するX方向とY方向逆写像数式モデル(数式7)は、荷電ビームの照射位置平面における前記目標照射位置座標を2変数(x,y)で表示したときの前記2変数(x,y)のいずれも含でいる。逆写像数式モデルの特性を決定する係数(未知パラメータ)は、あらかじめキャリブレーション(calibration)用に試し照射を行い、その試し照射の実データから最小二乗法などにより求めればよい。
【0034】
図7はキャリブレーション時の実データから、係数(未知パラメータ)を計算する手法を説明する図である。なお、図6の8は正写像(実物理現象)の方向を示している。図8は係数(未知パラメータ)を計算する手法を説明するブロック図である。図9は係数(未知パラメータ)を計算する手法を説明するフローチャートである。なお、各図において、同一符号は同一又は相当部分を示す。図において、12は第1ビームプロファイルモニタで、荷電粒子ビームの基準照射軸15に垂直に設置され、照射される荷電粒子ビームの2次元の通過位置座標(xa,ya)を出力する。13は第2ビームプロファイルモニタで、第1ビームプロファイルモニタ12との間に所定の間隔を空けて荷電粒子ビームの基準照射軸15に垂直に設置され、照射される荷電粒子ビームの2次元の通過位置座標(xb,yb)を出力する。14は水ファントムで、その表面を患者の体表面16に合わせ荷電粒子ビームの基準照射軸15に垂直に配置され、照射される荷電粒子ビームの到達する位置座標の深さ方向の座標zpを出力する。なお、第1,第2ビームプロファイルモニタ12,13及び水ファントム14は、未知パラメータを計算するときや、荷電粒子ビームの校正,確認のときに配置し、患者への荷電粒子ビーム照射時は移動させるものである。
【0035】
キャリブレーションの試し照射は、スキャニング制御器10により、以下の値をふって行う。
X方向スキャニング電磁石への指令値Ia(=電流値,ヒステリシスを考慮して補正計算した電流値や設定磁場強度等)。
Y方向スキャニング電磁石への指令値Ib(=電流値,ヒステリシスを考慮して補正計算した電流値や設定磁場強度等)。
加速器への運動エネルギー指令値Eb
【0036】
前記指令値を受けて、照射された荷電粒子ビーム1は、第1,第2ビームプロファイルモニタ12,13を通過し、第1,第2ビームプロファイルモニタ12,13よりそれぞれ測定された通過位置座標(xa,ya),(xb,yb)を出力する。また、照射された荷電粒子ビーム1は、荷電粒子の運動エネルギーから到達する位置の深さ方向座標zが一意に決まると仮定する。これらの値(xa,ya),(xb,yb)及びzから、データ処理手段17(図8)は、照射位置座標(x,y,z)を算出する。
【0037】
前述したように、キャリブレーションの試し照射は、各指令値の値をふって行う。例えば、X方向スキャニング電磁石への指令値IaをIa+ΔIa、…に、Y方向スキャニング電磁石への指令値IbをIb+ΔIb、…にふる。ここで、試し照射の実データから、逆写像の係数(未知パラメータ)を求める方法の一例を示す。数式7で示した多項式モデルは、行列とベクトルを用いると以下のように表現できる。
【0038】
【数8】
ここで、行列Acは照射位置座標からなる逆写像の入力行列、行列Xcは逆写像の未知パラメータ行列、行列Beは指令値の推定値からなる逆写像の出力行列である。ただし、未知パラメータ行列Xcは、まだこの段階では値が求まっていない。キャリブレーションの試し照射のときの指令値Bcaribおよび得られた照射位置Acaribの実データは、数式8の形にしたがって、縦長行列をつくるように縦にならべていく。
【0039】
【数9】
ここで、下添えの数字は、キャリブレーションの試し照射番号を意味する(上の例では、n箇所試し照射を行ったことを意味する)。逆写像の未知パラメータ行列Xcは、以下の最小二乗法の式により求まる。
【0040】
【数10】
ただし、上添え字のTは、転置行列であることを表す。
以上のキャリブレーションにより多項式の各係数を求めた後、本照射を実施する。まずスキャニング電磁石3aへのビーム入射点がキャリブレーション時から変動していないことを、ビーム輸送ダクト1に設けられたビームモニタ(図示しない)により確認する。この時ビーム入射点が変動していることが認められた場合には、前記キャリブレーション手順を再度行い、各係数を再び求めればよい。
【0041】
数式7等の多項式モデルの次数は、扱う粒子線照射装置の特性によって、非線形性が強いものは適宜次数を上げていけばよく、数式7に示した次数=2のものである必要はない。いくつかの多項式モデル(逆写像数式モデル)をあらかじめ用意し、オペレータが多項式モデルを選択できるようにするとよい。また、逆写像数式モデルは、近似できる数式があれば、多項式以外でもよい。
【0042】
粒子線照射装置は、3次元的に荷電粒子ビームを照射することが求められ、図6に示すように、一般的に、目標ビーム照射位置座標の(x,y,z)は(x0,y0,z0)(x1,y1,z1)(x2,y2,z2)……という形でスキャニング制御器10に送られる。
【0043】
図10は治療計画値よりスキャニング電磁石の指令値と荷電粒子ビームの運動エネルギーの指令値を求めるブロック図である。患者に対する治療計画装置21より目標ビーム照射位置座標(x0,y0,z0)(x1,y1,z1)(x2,y2,z2)……が、データサーバ22,照射制御装置23を経由して、スキャニング制御器10に送られる。なお、図10の、逆写像数式モデルと運動エネルギー指令値Ebeについては実施の形態2で説明する。実施の形態1では、前述したように、加速器の荷電粒子ビームの運動エネルギーを設定値としてビーム照射位置のZ方向の制御を含めていないため、スキャニング電磁石3aへのビーム入射点が変動しないようにすると、送られた目標ビーム照射位置座標(x0,y0)(x1,y1)(x2,y2)……が、それぞれスキャニング制御器10の逆写像数式モデル(数式7)に代入され、それぞれ各目標ビーム照射位置座標について、スキャニング電磁石指令値の推定値(Iae,Ibe)……が算出される。
【0044】
実施の形態1においては、異なる複数の荷電粒子ビーム運動エネルギーごとに逆写像を求めた。具体的には、例えば、照射基準であるアイソセンタ5を含む平面A0−A0への逆写像数式モデルだけではなく、荷電粒子ビームの運動エネルギーを−ΔEbずつ変更して(等間隔である必要はない)固定したアイソセンタ5よりも手前の平面A−1−A−1,A−2−A−2,…、逆に、荷電粒子ビームの運動エネルギーを+ΔEbずつ変更して固定したアイソセンタ5よりも奥の平面A1−A1,A2−A2,…、からの逆写像数式モデルも準備し、照射対象におけるビーム照射位置座標が平面と平面との間にある場合は線形補間するようにした。
【0045】
このように、実施の形態1では、照射基準平面上の目標照射位置座標(x,y)に対して、それを実現するスキャニング電磁石への指令値の推定値(Iae,Ibe)を計算する計算手段(逆写像手段)を設けている。具体的には、その逆写像手段は2入力2出力の多項式モデルを有している。そのため、変換テーブルのときのようなキャリブレーションデータにより作られる多くのエリアから、目標照射座標が属しているエリアを求める多くの計算や多くのIF文(場合わけの条件式)を必要とせず、対象とする粒子線照射装置の個体差、使用環境や経年変化に応じてビーム位置精度を補償し、高精度、高信頼度の粒子線照射装置が得られる。
【0046】
実施の形態2.
図11は実施の形態2における粒子線照射装置を示す構成図である。実施の形態1では、逆写像数式モデルを2入力2出力として捉えたが、実施の形態2では、図11,数式11(後述)に示すように、逆写像数式モデルを3入力3出力とした。以下の数式11に3入力3出力、最高次数=2の場合の目標照射位置座標からなる多項式モデルを示す。
【0047】
【数11】
【0048】
ただし、a000,a001,a002,…,b000,b001,b002,…,c000,c001,c002,…は逆写像数式モデルの特性を決定する係数(未知パラメータ)である。Iae,Ibe,Ebeは荷電粒子ビームの照射位置座標が(x,y,z)となるX,Y方向スキャニング電磁石への指令値の推定値、加速器への荷電粒子ビームの運動エネルギーの指令値の推定値である。逆写像数式モデルの特性を決定する係数(未知パラメータ)は、実施の形態1と同様に、あらかじめキャリブレーション(calibration)用に試し照射を行い、その試し照射の実データから最小二乗法などにより求める。
【0049】
キャリブレーションの試し照射は、スキャニング制御器10により、以下の値をふって行う。
X方向スキャニング電磁石への指令値Ia(=電流値,ヒステリシスを考慮して補正計算した電流値や設定磁場強度等)。
Y方向スキャニング電磁石への指令値Ib(=電流値,ヒステリシスを考慮して補正計算した電流値や設定磁場強度等)。
加速器への運動エネルギー指令値Eb
【0050】
前記指令値を受けて、図7,図8,図9を参照して、照射された荷電粒子ビーム1は、第1,第2ビームプロファイルモニタ12,13を通過し、第1,第2ビームプロファイルモニタ12,13よりそれぞれ測定された通過位置座標(xa,ya),(xb,yb)を出力する。さらに、照射された荷電粒子ビーム1は、水ファントム14に到達し、その到達する位置座標の深さ方向の座標zpを出力する。これらの出力値を得たデータ処理手段17(図3)は、(xa,ya),(xb,yb)とzpから到達位置座標の(xp,yp)を求め、到達位置座標(xp,yp,zp)を決定する。
【0051】
前述したように、キャリブレーションの試し照射は、各指令値の値をふって行う。例えば、X方向スキャニング電磁石への指令値IaをIa+ΔIa、…に、Y方向スキャニング電磁石への指令値IbをIb+ΔIb、…に、加速器への運動エネルギー指令値EbをEb+ΔEb、…にふる。ここで、試し照射の実データから、3入力3出力の場合の逆写像の係数(未知パラメータ)を求める方法の一例を示す。数式11で示した多項式モデルは、行列とベクトルを用いると以下のように表現できる。
【0052】
【数12】
ここで、行列Acは照射位置座標からなる逆写像の入力行列、行列Xcは逆写像の未知パラメータ行列、行列Beは指令値の推定値からなる逆写像の出力行列である。ただし、未知パラメータ行列Xcは、まだこの段階では値が求まっていない。キャリブレーションの試し照射のときに得られた指令値および照射位置の実データは、数式12の形にしたがって、縦長行列をつくるように縦にならべていく。キャリブレーションの試し照射のときの指令値Bcaribおよび得られた照射位置Acaribの実データは、数式12の形にしたがって、縦長行列をつくるように縦にならべていく。
【0053】
【数13】
ここで、下添えの数字は、キャリブレーションの試し照射番号を意味する(上の例では、n+1箇所試し照射を行ったことを意味する)。逆写像の未知パラメータ行列Xcは、実施の形態1と同様、最小二乗法の数式10により求まる。以上のキャリブレーションにより多項式の各係数を求めた後、本照射を実施する。まずスキャニング電磁石3aへのビーム入射点がキャリブレーション時から変動していないことを、ビーム輸送ダクト1に設けられたビームモニタ(図示しない)により確認する。この時ビーム入射点が変動していることが認められた場合には、前記キャリブレーション手順を再度行い、各係数を再び求めればよい。
【0054】
逆写像数式モデルである多項式モデルの次数は、扱う粒子線照射装置の特性によって、非線形性が強いものは適宜次数を上げていけばよく、数式11に示した次数=2のものである必要はない。実施の形態2でも、いくつかの多項式モデルをあらかじめ用意し、オペレータが多項式モデルを選択できるようにてもよい。
【0055】
実施の形態2においても、図10を参照して、患者に対する治療計画装置21より目標ビーム照射位置座標(x0,y0,z0)(x1,y1,z1)(x2,y2,z2)……が、データサーバ22,照射制御装置23を経由して、スキャニング制御器10に送られる。スキャニング電磁石3aへのビーム入射点が変動しないようにすると、送られた目標ビーム照射位置座標(x0,y0,z0)(x1,y1,z1)(x2,y2,z2)……が、それぞれスキャニング制御器10の逆写像数式モデル(数式11)に代入され、それぞれ各目標ビーム照射位置座標について、スキャニング電磁石の指令値の推定値(Iae,Ibe)(……と運動エネルギー指令値の推定値(Ebe)……が算出される。
【0056】
荷電粒子ビームの位置の制御は、おおよそ、XY方向はスキャニング電磁石3により、Z方向は荷電粒子ビームの運動エネルギー調整により行うが、厳密にはこのようにきれいにXYとZとを分離できるわけではない。スキャニング電磁石3により荷電粒子ビームを制御すると、XY方向だけではなく、Z方向をも影響を受ける。同様に、荷電粒子ビームの運動エネルギーを制御すると、Z方向だけではなく、XY方向をも影響を受ける場合がある。このような影響をここでは「XYとZとの干渉項の影響」と呼ぶことにする。3入力3出力の逆写像数式モデルは、このXYとZとの干渉項の影響も考慮して指令値を生成することができる。
【0057】
従来の偏向補正による方法(例えば特許文献1)においては、Z方向を考慮しているものをみないが、実施の形態2ではこのように複数の逆写像数式モデルを用意することにより、Z方向をも考慮することができる。
このように、スキャニング制御器10における逆写像数式モデルを3入力3出力としたので、スキャニング電磁石3への指令値と荷電粒子ビーム1の運動エネルギー指令値を一度に求めることができ、XYとZとの干渉項の影響をも考慮して指令値を生成するので、より高精度なビーム位置制御を実現できる。
【0058】
実施の形態3.
図12は実施の形態3における粒子線照射装置を示す構成図である。31はビーム輸送系に設けられた最終偏向電磁石で、Y方向スキャニング電磁石3bより上流に配置され、荷電粒子ビームをA,B、C経路に偏向する。実施の形態1の図6では、スキャニング電磁石3が最下流にある単純な場合を示したが、スキャニング電磁石(スキャニング電磁石,ワブラー電磁石)の下流に偏向電磁石があるような場合や、偏向電磁石をうまく利用してスキャニング電磁石を省略したものがある。かような構成例にもこの発明を適用することができ、むしろ、これらの場合は、指令値座標空間6からビーム照射位置座標空間7への正写像がより複雑になるため、この発明の効果は大きい。
【0059】
図12では、Y方向スキャニング電磁石3bは使用し、最終偏向電磁石31にX方向スキャニング電磁石の機能を持たせたものである。最終偏向電磁石31からX方向スキャニング電磁石への指令値Ia、を発生させ、荷電粒子ビームを走査し、最終偏向電磁石31にX方向スキャニング電磁石の指令値の推定値Iaeを入力する。このように、最終偏向電磁石31にX方向スキャニング電磁石と同様な機能をも持たせるものである。
【0060】
実施の形態4.
図13は実施の形態4における動く臓器に対応した動作を説明する図である。この発明は、呼吸等によって動く臓器にできた腫瘍など、照射ターゲットの移動や変形に対して、リアルタイムに追従、対応しようとした場合に特に威力を発揮する。これを図13に基づいて説明する。粒子線照射装置を用いて粒子線治療を行う場合、まず、照射対象である患部が、どのような形状でどの位置にあるかを把握する必要がある。そのため、CT,MRI,X線などの撮像装置を用いて患部を3次元的に撮影する。粒子線治療計画装置は、この撮像した3次元の映像情報(以降、治療計画時の基準撮像とよぶ)をもとに、治療計画の立案、作成支援を行う。
【0061】
粒子線照射装置は、治療計画に基づいて粒子線照射を行っていく。このため、従来、患者は粒子線治療室のベッド等患者保持装置の上に、撮像装置で撮影したときとなるべく同じ姿勢になるようにし、放射線技師はベッド等患者保持装置を移動調整して、治療計画時の基準撮像に正確に一致させるよう、いわゆる「位置決め作業」を行う必要があった。例えば、図13の右下の図が、治療を行おうとしたときの撮像画面だとすると、図13の左下に示した基準撮像と違うが、これを正確に一致するまでベッド等患者保持装置を移動調整する必要があった。
【0062】
また、呼吸などによって臓器が動き、照射ターゲット(患部)の形状が変形することも起こりうる(図13右上)。従来はこの問題に対し、呼吸同期装置などを用い、呼吸のタイミングと照射のタイミングを合わせるなどの工夫をする必要があった。この位置決めや呼吸同期が治療全体を通してもっとも時間を要する作業であり、一人あたりの治療時間を長くし、患者にとっても負担がかかるといった問題点があった。
【0063】
この発明の実施の形態4に示す粒子線照射装置においては、治療を行う本照射時の患部の位置や姿勢を治療計画時の基準撮像に合わせるのではなく、治療を行う本照射時の患部の位置や姿勢に合わせて目標照射座標をリアルタイムに変換していくという戦略をとる。図13に示したとおり、照射ターゲットにあらかじめランドマーク(特徴的部位や挿入マーカ)を決めておく。治療計画時の基準撮像のランドマーク位置と、本照射時の撮像のランドマーク位置を比較することによって、目標照射座標をどのように変換していけばよいかがわかる。具体的には、治療計画時の基準撮像に写った照射ターゲット(患部)は、並進行移動、回転移動、拡大縮小(ある方向には拡大、別の方向には縮小⇒変形)をして、本照射時の撮像に写った照射ターゲット(患部)になると仮定する。すなわち、これもまた一種の写像ととらえ、ランドマークの位置変化情報から、照射ターゲットのすべての点が同様の写像により移動したと想定する。
【0064】
治療計画時の目標照射位置座標は、前記写像にのっとり、本照射時の目標照射位置座標へと変換していけばよい。呼吸による照射ターゲットの変動は刻一刻と起こっているので、この目標照射座標の変換もリアルタイムで実施する必要がある。従来の変換テーブルによる指令値の生成方法は、多くのIF文(場合分けをする条件式)を用いているため、刻一刻と変化する目標照射座標に対して、リアルタイムに指令値を生成することが困難であった。
【0065】
この発明に示した多項式を用いた指令値の生成方法を用いると、多項式は足し引き算と掛け算しか使われていないので、リアルタイムでの処理に優れており、位置決め作業を不要とし、呼吸などにより照射ターゲット(患部)が移動、変形した場合でも柔軟に対応することができ、治療時間を短縮し、患者に負担がかからないといった従来にない効果を発揮する。
【0066】
このように、撮像中の照射ターゲット情報から目標照射位置座標を補正し、補正された前記目標照射位置座標から、逆写像数式モデルを使用して生成した指令値によりスキャニング電磁石を制御して荷電粒子ビームを走査し照射対象に照射するようにしたので、リアルタイムに前記指令値を生成できる。また、撮像中の照射ターゲット情報から目標照射位置座標を補正し、補正された前記目標照射位置座標から、逆写像数式モデルを使用して生成した指令値によりスキャニング電磁石及び荷電粒子ビームの運動エネルギーを制御して荷電粒子ビームを走査し照射対象に照射するようにしたので、リアルタイムに前記指令値を生成できる。
【0067】
実施の形態5.
実施の形態1および実施の形態2において、多項式の係数(未知パラメータ)の求め方として、最小二乗法について説明した。この多項式の係数(未知パラメータ)を求める場合に、重み付け最小二乗法を用いてもよい。この重み付け最小二乗法とは、多項式の係数(未知パラメータ)を求めるもとのデータ(キャリブレーション時の実データ)において、各データに重みをつけて計算するものである。例えば、キャリブレーションの試し照射を行う際、何らかの理由により(例えば電気的ノイズ等)、信頼性の低いデータが得られる場合がある。この場合、信頼性の低いデータには0に近い重みをかけることによって、このデータの影響を抑えることができる。
【0068】
また、照射対象をいくつかのエリアに分割して、それぞれのエリアごとに多項式の未知パラメータを求めても良い。この場合、あるエリアAの多項式を計算する場合、キャリブレーションの試し照射の実データにおいてエリアAに属するデータは重み1を、エリアAに属さないデータは0に近い重みをかけて計算することによって、より実現象に近い、すなわち高精度な照射を実現することができる。
【技術分野】
【0001】
この発明は、がん治療等の医療用や研究用に用いられる粒子線照射装置に関する。特にスポットスキャニングやラスタスキャニングなどの走査式照射を行う粒子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の走査式照射を行う粒子線照射装置においては、特許文献1に示されているように、荷電粒子ビームを走査するため、走査手段である走査電磁石の設定電流を時間的に変化させている。この走査電磁石の設定電流値は、走査電磁石の仕様、走査電磁石電源の仕様、及び照射ビームの仕様(照射エネルギー、入射ビーム位置など)から理論式により求めることができる。しかし、この理論式により算出された走査電磁石の設定電流値は、走査電磁石の仕様、走査電源の仕様、及び照射ビーム仕様がまったく変動しないことを前提条件とした理論上の値であり、現実にはさまざまな要因で変動するため、照射位置がずれて誤照射を生じる可能性がある。
【0003】
例えば、走査電磁石は一般に両極性電磁石であることから、電磁石のヒステリシスにより電磁石への供給電流がゼロにもかかわらず磁場の残留により、ビーム照射位置が想定した位置よりずれる可能性がある。また、その他何らかの機器の経年変化により、同一の条件で照射したにもかかわらず、ビーム照射位置がずれる可能性もある。そこで、まず、治療を行う前等、患者のいない状態で、適宜の複数の照射条件(照射エネルギー等)を設定して試験照射を行い、ビーム位置モニタ上で検出したビーム位置データ(xa,ya)と走査電磁石の設定電流値(Ia,Ib)との変換テーブルを予め記憶装置に記憶させておき、治療照射に際し、上記変換テーブルを用いて走査電磁石の設定電流値を演算する方法が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−296162号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の走査式粒子線照射装置は以上のように変換テーブルを用いて走査電磁石の設定電流値(2次元)を演算しているので、治療照射の目標照射位置座標(2次元)から変換テーブルを参照する際に、IF文(場合分けをする条件式)を多用しなければならなかったり、試験照射の照射箇所を増やしたい等の場合に変換テーブルの大きさが変わることに応じたプログラム自体の変更が必要であったりした。また、粒子線照射装置の制御入力を3次元(走査電磁石の設定電流値2次元と荷電粒子ビームの設定エネルギー1次元)に拡張する場合、変換テーブルによる方法はさらに複雑になり、実現が難しいという問題点があった。特に、呼吸などによって照射ターゲット(患部)の位置,姿勢,形状が刻一刻と変化する場合、従来の変換テーブルによる方法では、リアルタイムに指令値を生成することが困難であった。
【0006】
この発明は前記のような課題を解決するためになされたものであり、IF文(場合分けをする条件式)を用いず、制御指令値を演算でき、照射位置精度を向上できる粒子線照射装置を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の粒子線照射装置は、制御器で加速器とスキャニング電磁石とを制御して前記加速器からの荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置において、前記スキャニング電磁石は、X方向スキャニング電磁石と、前記X方向スキャニング電磁石の走査方向と直交する方向に走査するY方向スキャニング電磁石とを有し、前記制御器は、照射対象における荷電粒子ビームの目標照射位置座標から、その照射を実現する前記X方向スキャニング電磁石を励磁するためのX方向指令値,及び前記Y方向スキャニング電磁石を励磁するためのY方向指令値をそれぞれ生成するX方向とY方向逆写像数式モデルを有し、前記X方向とY方向逆写像数式モデルは、それぞれ、荷電粒子ビームの照射位置平面における前記目標照射位置座標を2変数で表示したときの前記2変数のいずれも含んだ多項式であり、前記多項式に含まれる未知の係数は、前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、一部のデータに低い重み付けをする重み付け最小二乗法により求め、信頼性を向上させるようにしたものである。
【0008】
また、この発明の粒子線照射装置は、制御器で加速器とスキャニング電磁石とを制御して前記加速器からの荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置において、前記スキャニング電磁石は、X方向スキャニング電磁石と、前記X方向スキャニング電磁石の走査方向と直交する方向に走査するY方向スキャニング電磁石とを有し、前記制御器は、照射対象における荷電粒子ビームの目標照射位置座標から、その照射を実現する前記X方向スキャニング電磁石を励磁するためのX方向指令値,及び前記Y方向スキャニング電磁石を励磁するためのY方向指令値をそれぞれ生成するX方向とY方向逆写像数式モデルを有し、前記X方向とY方向逆写像数式モデルは、それぞれ、荷電粒子ビームの照射位置平面における前記目標照射位置座標を2変数で表示したときの前記2変数のいずれも含んだ多項式であり、前記多項式に含まれる未知の係数を求めるにあたっては、前記照射対象を複数のエリアに分割し、それぞれのエリア毎の前記多項式に含まれる未知の係数を、前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、当該エリアに属する実データの重みが当該エリアに属さない実データの重みよりも大きい重み付けをする重み付け最小二乗法により求めるようにしたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明に係る粒子線照射装置よれば、前記制御器は、照射対象における荷電粒子ビームの目標照射位置座標から、その照射を実現する前記X方向スキャニング電磁石を励磁するためのX方向指令値,及び前記Y方向スキャニング電磁石を励磁するためのY方向指令値をそれぞれ生成するX方向とY方向逆写像数式モデルを有し、前記X方向とY方向逆写像数式モデルは、それぞれ、荷電粒子ビームの照射位置平面における前記目標照射位置座標を2変数で表示したときの前記2変数のいずれも含んだ多項式であり、前記多項式に含まれる未知の係数は、前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、一部のデータに低い重み付けをする重み付け最小二乗法により求めるため、信頼性の低いデータの影響を抑えることができ、高精度なビーム照射位置を実現できる粒子線照射装置が得られる。
【0010】
また、この発明に係る粒子線照射装置よれば、前記多項式に含まれる未知の係数を求めるにあたっては、前記照射対象を複数のエリアに分割し、それぞれのエリア毎の前記多項式に含まれる未知の係数を、前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、当該エリアに属する実データの重みが当該エリアに属さない実データの重みよりも大きい重み付けをする重み付け最小二乗法により求めるため、実データに基づいたより実現実に近い高精度なビーム照射位置を実現できる粒子線照射装置が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】1次元の場合の制御入力と制御出力との関係を示した模式図である。
【図2】変換テーブルによる制御入力の作成フロー(1次元)を示したフローチャートである。
【図3】変換テーブルによる制御入力の作成方法(2次元)におけるキャリブレーション時を示す図である。
【図4】変換テーブルによる制御入力の作成方法(2次元)における本照射時を示す図である。
【図5】変換テーブルによる制御入力の作成フロー(2次元)を示したフローチャートである。
【図6】この発明の実施の形態1による粒子線照射装置を示す構成図である。
【図7】この発明において、キャリブレーション時の実データから、係数(未知パラメータ)を計算する手法を説明する図である。
【図8】この発明において、係数(未知パラメータ)を計算する手法を説明するブロック図である。
【図9】この発明において、係数(未知パラメータ)を計算する手法を説明するフローチャートである。
【図10】この発明において、治療計画値よりスキャニング電磁石の指令値と荷電粒子ビームの運動エネルギーの指令値を求めるブロック図である。
【図11】この発明の実施の形態2における粒子線照射装置を示す構成図である。
【図12】この発明の実施の形態3における粒子線照射装置を示す構成図である。
【図13】この発明の実施の形態4における動く臓器に対応して動作を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
ここで、従来の変換テーブルを用いた粒子線照射装置のかかえる課題について、詳しく検討する。まずは、簡単のため、粒子線照射装置の走査電磁石(スキャニング電磁石)が1台の場合(X方向の1次元走査の場合)を、図1に基づいて述べる。図1は1次元の場合の制御入力と制御出力との関係を示す摸式図である。荷電粒子ビームの照射位置を高精度にするため、本照射(治療照射)とは別に、患者のいない状態でキャリブレーションのための試し照射を行う。図1(a)は試し照射の結果を表した一例で、横軸に制御入力である走査電磁石の設定電流値、縦軸に制御出力である照射位置X座標をとっている。走査電磁石の仕様、走査電磁石電源の仕様、及び照射ビームの仕様(照射エネルギー、入射ビーム位置など)が変わらなければ、設定電流値に応じて照射位置X座標が一意に決まるので、これは写像であると解釈できる。
【0013】
本照射(治療照射)のときは、逆に、目標照射位置座標に対して制御入力(走査電磁石の設定電流値)を作っていかなければならない。従来の変換テーブルも用いた方法を、図1(b)に基づき説明する。図1(b)は、図1(a)とは入出力関係が逆になるため、横軸と縦軸とが入れ替わっていることに注意する。試し照射のときの制御入力(走査電磁石の設定電流値)と制御出力(照射位置X座標)の結果が、以下の表1に示したように得られたとする。
【0014】
【表1】
【0015】
もしも、本照射(治療照射)時に照射したい目標照射位置X座標が、たまたま試し照射したときの照射位置X座標のいずれかに等しかった場合、例えば、目標照射位置X座標がy1であれば、表1の結果より、走査電磁石の設定電流値はu1にすればよい。本照射(治療照射)時に照射したい目標照射位置X座標が、試し照射の照射位置X座標にない場合(たいがいはこのケースに該当する)、設定電流値の計算は、線形補間とよばれる方法が広く用いられていた。線形補間による方法を、図1(b)と図2のフローチャートに基づいて説明する。
【0016】
目標照射位置X座標がyobjだとする。目標照射位置X座標yobjを、キャリブレーションの試し照射結果の照射位置X座標y0,y1,…,ynを境界とする区分と照らし合わせて、どの区分に属するかを求める。キャリブレーションの試し照射結果の照射位置X座標y0,y1,…,ynが大きさ順に並んでいれば、図2のフローチャートに示した方法により、目標照射位置X座標yobjが属する区分を求めることができる。例えば、目標照射位置X座標yobjがy0とy1からなる区分に属していた場合、すなわち、y0≦yobj≦y1の場合、その区分内では照射位置座標と設定電流値との関係は線形であると仮定し、直線近似により目標照射位置X座標yobjを実現する設定電流値の推定値uobjを計算していた。
【0017】
【数1】
【0018】
図2で示したフローを実現しようとした場合、目標照射位置X座標yobjがどの区分に属するかを求める工程において、多くのIF文(場合分けをする条件式)が必要となっていた。
【0019】
簡単のため1次元の場合を説明したが、実際の粒子線照射装置は2つの走査電磁石を用いて2次元的に走査することが求められている。2次元の場合に、変換テーブルを用いた方法がどのように適用されているか、図3,図4に基づいて説明する。キャリブレーション時の試し照射は、例えば図3(a)に示したように、制御入力である2台の走査電磁石3a,3b(図6参照)の設定電流値IaとIbを、格子状に変化させて行う。試し照射の結果は、図3(b)に示したように、それぞれの制御入力に対しての制御出力、すなわち照射位置座標が得られる。走査電磁石の仕様、走査電磁石電源の仕様、及び照射ビームの仕様(照射エネルギー、入射ビーム位置など)が変わらなければ、制御入力に対して制御出力が一意に決まるので、これは写像であると解釈できる。特に、物理現象である制御入力から制御出力への写像は、正写像とよぶことにする。
【0020】
本照射(治療照射)のときは、逆に、目標照射位置に対して、それを実現する制御入力(2台の走査電磁石の設定電流値IaとIb)を作っていかなければならない。変換テーブルも用いてこれを行うとした場合の方法を、図4(a)(b)に基づいて説明する。1次元の場合、キャリブレーションの試し照射結果の照射位置X座標y0,y1,…,ynを境界とする区分を作成し、目標照射位置X座標yobjがどの区分に属するかを求めた。2次元の場合も、キャリブレーションの試し照射結果の照射位置y0,y1,…,ynを頂点とした多角形により照射位置平面を複数のエリアに分割し、目標照射位置yobjがどのエリアに属するかを求める。
【0021】
なお、試し照射結果の照射位置y0,y1,…,ynと目標照射位置yobjは、ベクトル(2次元)である。どこのエリアに属するかを求める工程は、多くのIF文(場合分けをする条件式)が必要である。図4(a)に示すように、うまく目標照射位置yobjが属するエリアが求まったとする。図4(a)を例に、目標照射位置yobjが属するエリアの頂点がy20,y21,y27であった場合、目標照射位置yobjは、以下の式で表すことができる。
【0022】
【数2】
【0023】
【数3】
【0024】
数式2の幾何学的意味は、図4(a)に示したとおりだが、数式2を満たすk,λを求めて、0≦k≦1, 0≦λ≦1の範囲内になければ、目標照射位置yobjは頂点がy20,y21,y27からなるエリアには属さないことがわかる。どこのエリアに属するかを求める工程は、実際には、すべてのエリアに対してk,λを求めて、0≦k≦1, 0≦λ≦1の範囲内にあるかを確認している。k,λは、以下の数式により求めることができる。
【0025】
【数4】
【0026】
数式4を満たすλを求めればよい。数式4の行列は、y20,y21,y27及びyobjの具体的な座標を代入することによって、以下の形で表される。
【数5】
【0027】
【数6】
【0028】
このように、変換テーブルを用いる方法では、目標照射座標がどのエリアに属するかを求めるのに、すべてのエリアについてこのk,λを求めており、その工程に多くの演算とIF文(場合分けをする条件式)が必要となるという問題点があった。(図5:フローチャート2次元、参照)
【0029】
実施の形態1.
図6はこの発明の実施の形態1における走査式照射をする粒子線照射装置を示す構成図である。粒子線照射装置は、荷電粒子ビーム1を所望の運動エネルギーを有する荷電粒子ビーム1に加速する加速器11、荷電粒子ビーム1を輸送するビーム輸送ダクト2、荷電粒子ビーム1を走査するスキャニング電磁石(走査電磁石)3、ビームを取出すビーム取出し窓4、及び、スキャニング電磁石3へ指令値を送るスキャニング制御器10などから構成されている。ビーム輸送ダクト2を有するビーム輸送系には、偏向電磁石、ビームモニタ、遮蔽電磁石、ビームダンパ、照射路偏向電磁石などが設けられている。実施の形態1における粒子線照射装置は、スキャニング制御器10にビーム照射位置座標空間7からスキャニング電磁石指令値空間6への逆写像数式モデルを有するものである。換言すれば、スキャニング制御器10には目標ビーム照射位置座標に対して、それを実現するスキャニング電磁石3の指令値の推定値を生成する逆写像手段9を有している。
【0030】
次に粒子線照射装置の動作について説明する。加速器11により所望の運動エネルギーを有する荷電粒子ビーム1にまで加速された荷電粒子ビーム1は、ビーム輸送ダクト2の中をとおり、照射部へと導かれる。荷電粒子ビーム1はさらにビーム取出し窓4から取出され、照射基準点であるアイソセンタ5に向けて照射されるように設計されている。一般的に、照射対象である患部を選択的に走査して照射するために、荷電粒子ビーム1は、ビーム輸送ダクト2の外側に設けられたX方向スキャニング電磁石(X方向走査電磁石)3aとY方向スキャニング電磁石(Y方向走査電磁石)3bとによって、ビーム照射位置のXY方向が制御されると共に、加速器11で荷電粒子ビーム1の運動エネルギーを変えることによってビーム照射位置のZ方向(患部の深さ方向)が制御される。これらのビーム照射位置の制御を行うのは、粒子線照射装置全体を制御する照射制御装置23(図10参照)により集中制御する方法と、スキャニング電磁石と、加速器の荷電粒子ビーム1の運動エネルギーを制御するスキャニング制御器10によって分散制御する方法がある。
【0031】
実施の形態1において、荷電粒子ビーム1の照射位置制御を行うスキャニング制御器10には、ビーム照射位置座標空間7からスキャニング電磁石指令値空間6への逆写像数式モデルを有する逆写像手段9を設けた。逆写像数式モデルの好適な一例は目標照射位置座標からなる多項式モデルである。以下の数式7に最高次数=2の場合の多項式モデルを示す。なお、実施の形態1では、ビーム照射位置のZ方向(深さ方向)は、荷電粒子ビームの運動エネルギーにより一意に決まると仮定し、逆写像数式モデル(即ち、X方向とY方向逆写像数式モデル)は複数個、異なった運動エネルギーに対して作成する。
【0032】
【数7】
【0033】
ただし、a00,a01,a02,…,b00,b01,b02,…は逆写像数式モデルの特性を決定する係数(未知パラメータ)である。Iae(X方向指令値),Ibe(Y方向指令値)は荷電粒子ビームの照射位置座標が(x,y)となるX,Y方向スキャニング電磁石指令値の推定値である。つまり、X方向指令値IaeとY方向指令値Ibeを生成するX方向とY方向逆写像数式モデル(数式7)は、荷電ビームの照射位置平面における前記目標照射位置座標を2変数(x,y)で表示したときの前記2変数(x,y)のいずれも含でいる。逆写像数式モデルの特性を決定する係数(未知パラメータ)は、あらかじめキャリブレーション(calibration)用に試し照射を行い、その試し照射の実データから最小二乗法などにより求めればよい。
【0034】
図7はキャリブレーション時の実データから、係数(未知パラメータ)を計算する手法を説明する図である。なお、図6の8は正写像(実物理現象)の方向を示している。図8は係数(未知パラメータ)を計算する手法を説明するブロック図である。図9は係数(未知パラメータ)を計算する手法を説明するフローチャートである。なお、各図において、同一符号は同一又は相当部分を示す。図において、12は第1ビームプロファイルモニタで、荷電粒子ビームの基準照射軸15に垂直に設置され、照射される荷電粒子ビームの2次元の通過位置座標(xa,ya)を出力する。13は第2ビームプロファイルモニタで、第1ビームプロファイルモニタ12との間に所定の間隔を空けて荷電粒子ビームの基準照射軸15に垂直に設置され、照射される荷電粒子ビームの2次元の通過位置座標(xb,yb)を出力する。14は水ファントムで、その表面を患者の体表面16に合わせ荷電粒子ビームの基準照射軸15に垂直に配置され、照射される荷電粒子ビームの到達する位置座標の深さ方向の座標zpを出力する。なお、第1,第2ビームプロファイルモニタ12,13及び水ファントム14は、未知パラメータを計算するときや、荷電粒子ビームの校正,確認のときに配置し、患者への荷電粒子ビーム照射時は移動させるものである。
【0035】
キャリブレーションの試し照射は、スキャニング制御器10により、以下の値をふって行う。
X方向スキャニング電磁石への指令値Ia(=電流値,ヒステリシスを考慮して補正計算した電流値や設定磁場強度等)。
Y方向スキャニング電磁石への指令値Ib(=電流値,ヒステリシスを考慮して補正計算した電流値や設定磁場強度等)。
加速器への運動エネルギー指令値Eb
【0036】
前記指令値を受けて、照射された荷電粒子ビーム1は、第1,第2ビームプロファイルモニタ12,13を通過し、第1,第2ビームプロファイルモニタ12,13よりそれぞれ測定された通過位置座標(xa,ya),(xb,yb)を出力する。また、照射された荷電粒子ビーム1は、荷電粒子の運動エネルギーから到達する位置の深さ方向座標zが一意に決まると仮定する。これらの値(xa,ya),(xb,yb)及びzから、データ処理手段17(図8)は、照射位置座標(x,y,z)を算出する。
【0037】
前述したように、キャリブレーションの試し照射は、各指令値の値をふって行う。例えば、X方向スキャニング電磁石への指令値IaをIa+ΔIa、…に、Y方向スキャニング電磁石への指令値IbをIb+ΔIb、…にふる。ここで、試し照射の実データから、逆写像の係数(未知パラメータ)を求める方法の一例を示す。数式7で示した多項式モデルは、行列とベクトルを用いると以下のように表現できる。
【0038】
【数8】
ここで、行列Acは照射位置座標からなる逆写像の入力行列、行列Xcは逆写像の未知パラメータ行列、行列Beは指令値の推定値からなる逆写像の出力行列である。ただし、未知パラメータ行列Xcは、まだこの段階では値が求まっていない。キャリブレーションの試し照射のときの指令値Bcaribおよび得られた照射位置Acaribの実データは、数式8の形にしたがって、縦長行列をつくるように縦にならべていく。
【0039】
【数9】
ここで、下添えの数字は、キャリブレーションの試し照射番号を意味する(上の例では、n箇所試し照射を行ったことを意味する)。逆写像の未知パラメータ行列Xcは、以下の最小二乗法の式により求まる。
【0040】
【数10】
ただし、上添え字のTは、転置行列であることを表す。
以上のキャリブレーションにより多項式の各係数を求めた後、本照射を実施する。まずスキャニング電磁石3aへのビーム入射点がキャリブレーション時から変動していないことを、ビーム輸送ダクト1に設けられたビームモニタ(図示しない)により確認する。この時ビーム入射点が変動していることが認められた場合には、前記キャリブレーション手順を再度行い、各係数を再び求めればよい。
【0041】
数式7等の多項式モデルの次数は、扱う粒子線照射装置の特性によって、非線形性が強いものは適宜次数を上げていけばよく、数式7に示した次数=2のものである必要はない。いくつかの多項式モデル(逆写像数式モデル)をあらかじめ用意し、オペレータが多項式モデルを選択できるようにするとよい。また、逆写像数式モデルは、近似できる数式があれば、多項式以外でもよい。
【0042】
粒子線照射装置は、3次元的に荷電粒子ビームを照射することが求められ、図6に示すように、一般的に、目標ビーム照射位置座標の(x,y,z)は(x0,y0,z0)(x1,y1,z1)(x2,y2,z2)……という形でスキャニング制御器10に送られる。
【0043】
図10は治療計画値よりスキャニング電磁石の指令値と荷電粒子ビームの運動エネルギーの指令値を求めるブロック図である。患者に対する治療計画装置21より目標ビーム照射位置座標(x0,y0,z0)(x1,y1,z1)(x2,y2,z2)……が、データサーバ22,照射制御装置23を経由して、スキャニング制御器10に送られる。なお、図10の、逆写像数式モデルと運動エネルギー指令値Ebeについては実施の形態2で説明する。実施の形態1では、前述したように、加速器の荷電粒子ビームの運動エネルギーを設定値としてビーム照射位置のZ方向の制御を含めていないため、スキャニング電磁石3aへのビーム入射点が変動しないようにすると、送られた目標ビーム照射位置座標(x0,y0)(x1,y1)(x2,y2)……が、それぞれスキャニング制御器10の逆写像数式モデル(数式7)に代入され、それぞれ各目標ビーム照射位置座標について、スキャニング電磁石指令値の推定値(Iae,Ibe)……が算出される。
【0044】
実施の形態1においては、異なる複数の荷電粒子ビーム運動エネルギーごとに逆写像を求めた。具体的には、例えば、照射基準であるアイソセンタ5を含む平面A0−A0への逆写像数式モデルだけではなく、荷電粒子ビームの運動エネルギーを−ΔEbずつ変更して(等間隔である必要はない)固定したアイソセンタ5よりも手前の平面A−1−A−1,A−2−A−2,…、逆に、荷電粒子ビームの運動エネルギーを+ΔEbずつ変更して固定したアイソセンタ5よりも奥の平面A1−A1,A2−A2,…、からの逆写像数式モデルも準備し、照射対象におけるビーム照射位置座標が平面と平面との間にある場合は線形補間するようにした。
【0045】
このように、実施の形態1では、照射基準平面上の目標照射位置座標(x,y)に対して、それを実現するスキャニング電磁石への指令値の推定値(Iae,Ibe)を計算する計算手段(逆写像手段)を設けている。具体的には、その逆写像手段は2入力2出力の多項式モデルを有している。そのため、変換テーブルのときのようなキャリブレーションデータにより作られる多くのエリアから、目標照射座標が属しているエリアを求める多くの計算や多くのIF文(場合わけの条件式)を必要とせず、対象とする粒子線照射装置の個体差、使用環境や経年変化に応じてビーム位置精度を補償し、高精度、高信頼度の粒子線照射装置が得られる。
【0046】
実施の形態2.
図11は実施の形態2における粒子線照射装置を示す構成図である。実施の形態1では、逆写像数式モデルを2入力2出力として捉えたが、実施の形態2では、図11,数式11(後述)に示すように、逆写像数式モデルを3入力3出力とした。以下の数式11に3入力3出力、最高次数=2の場合の目標照射位置座標からなる多項式モデルを示す。
【0047】
【数11】
【0048】
ただし、a000,a001,a002,…,b000,b001,b002,…,c000,c001,c002,…は逆写像数式モデルの特性を決定する係数(未知パラメータ)である。Iae,Ibe,Ebeは荷電粒子ビームの照射位置座標が(x,y,z)となるX,Y方向スキャニング電磁石への指令値の推定値、加速器への荷電粒子ビームの運動エネルギーの指令値の推定値である。逆写像数式モデルの特性を決定する係数(未知パラメータ)は、実施の形態1と同様に、あらかじめキャリブレーション(calibration)用に試し照射を行い、その試し照射の実データから最小二乗法などにより求める。
【0049】
キャリブレーションの試し照射は、スキャニング制御器10により、以下の値をふって行う。
X方向スキャニング電磁石への指令値Ia(=電流値,ヒステリシスを考慮して補正計算した電流値や設定磁場強度等)。
Y方向スキャニング電磁石への指令値Ib(=電流値,ヒステリシスを考慮して補正計算した電流値や設定磁場強度等)。
加速器への運動エネルギー指令値Eb
【0050】
前記指令値を受けて、図7,図8,図9を参照して、照射された荷電粒子ビーム1は、第1,第2ビームプロファイルモニタ12,13を通過し、第1,第2ビームプロファイルモニタ12,13よりそれぞれ測定された通過位置座標(xa,ya),(xb,yb)を出力する。さらに、照射された荷電粒子ビーム1は、水ファントム14に到達し、その到達する位置座標の深さ方向の座標zpを出力する。これらの出力値を得たデータ処理手段17(図3)は、(xa,ya),(xb,yb)とzpから到達位置座標の(xp,yp)を求め、到達位置座標(xp,yp,zp)を決定する。
【0051】
前述したように、キャリブレーションの試し照射は、各指令値の値をふって行う。例えば、X方向スキャニング電磁石への指令値IaをIa+ΔIa、…に、Y方向スキャニング電磁石への指令値IbをIb+ΔIb、…に、加速器への運動エネルギー指令値EbをEb+ΔEb、…にふる。ここで、試し照射の実データから、3入力3出力の場合の逆写像の係数(未知パラメータ)を求める方法の一例を示す。数式11で示した多項式モデルは、行列とベクトルを用いると以下のように表現できる。
【0052】
【数12】
ここで、行列Acは照射位置座標からなる逆写像の入力行列、行列Xcは逆写像の未知パラメータ行列、行列Beは指令値の推定値からなる逆写像の出力行列である。ただし、未知パラメータ行列Xcは、まだこの段階では値が求まっていない。キャリブレーションの試し照射のときに得られた指令値および照射位置の実データは、数式12の形にしたがって、縦長行列をつくるように縦にならべていく。キャリブレーションの試し照射のときの指令値Bcaribおよび得られた照射位置Acaribの実データは、数式12の形にしたがって、縦長行列をつくるように縦にならべていく。
【0053】
【数13】
ここで、下添えの数字は、キャリブレーションの試し照射番号を意味する(上の例では、n+1箇所試し照射を行ったことを意味する)。逆写像の未知パラメータ行列Xcは、実施の形態1と同様、最小二乗法の数式10により求まる。以上のキャリブレーションにより多項式の各係数を求めた後、本照射を実施する。まずスキャニング電磁石3aへのビーム入射点がキャリブレーション時から変動していないことを、ビーム輸送ダクト1に設けられたビームモニタ(図示しない)により確認する。この時ビーム入射点が変動していることが認められた場合には、前記キャリブレーション手順を再度行い、各係数を再び求めればよい。
【0054】
逆写像数式モデルである多項式モデルの次数は、扱う粒子線照射装置の特性によって、非線形性が強いものは適宜次数を上げていけばよく、数式11に示した次数=2のものである必要はない。実施の形態2でも、いくつかの多項式モデルをあらかじめ用意し、オペレータが多項式モデルを選択できるようにてもよい。
【0055】
実施の形態2においても、図10を参照して、患者に対する治療計画装置21より目標ビーム照射位置座標(x0,y0,z0)(x1,y1,z1)(x2,y2,z2)……が、データサーバ22,照射制御装置23を経由して、スキャニング制御器10に送られる。スキャニング電磁石3aへのビーム入射点が変動しないようにすると、送られた目標ビーム照射位置座標(x0,y0,z0)(x1,y1,z1)(x2,y2,z2)……が、それぞれスキャニング制御器10の逆写像数式モデル(数式11)に代入され、それぞれ各目標ビーム照射位置座標について、スキャニング電磁石の指令値の推定値(Iae,Ibe)(……と運動エネルギー指令値の推定値(Ebe)……が算出される。
【0056】
荷電粒子ビームの位置の制御は、おおよそ、XY方向はスキャニング電磁石3により、Z方向は荷電粒子ビームの運動エネルギー調整により行うが、厳密にはこのようにきれいにXYとZとを分離できるわけではない。スキャニング電磁石3により荷電粒子ビームを制御すると、XY方向だけではなく、Z方向をも影響を受ける。同様に、荷電粒子ビームの運動エネルギーを制御すると、Z方向だけではなく、XY方向をも影響を受ける場合がある。このような影響をここでは「XYとZとの干渉項の影響」と呼ぶことにする。3入力3出力の逆写像数式モデルは、このXYとZとの干渉項の影響も考慮して指令値を生成することができる。
【0057】
従来の偏向補正による方法(例えば特許文献1)においては、Z方向を考慮しているものをみないが、実施の形態2ではこのように複数の逆写像数式モデルを用意することにより、Z方向をも考慮することができる。
このように、スキャニング制御器10における逆写像数式モデルを3入力3出力としたので、スキャニング電磁石3への指令値と荷電粒子ビーム1の運動エネルギー指令値を一度に求めることができ、XYとZとの干渉項の影響をも考慮して指令値を生成するので、より高精度なビーム位置制御を実現できる。
【0058】
実施の形態3.
図12は実施の形態3における粒子線照射装置を示す構成図である。31はビーム輸送系に設けられた最終偏向電磁石で、Y方向スキャニング電磁石3bより上流に配置され、荷電粒子ビームをA,B、C経路に偏向する。実施の形態1の図6では、スキャニング電磁石3が最下流にある単純な場合を示したが、スキャニング電磁石(スキャニング電磁石,ワブラー電磁石)の下流に偏向電磁石があるような場合や、偏向電磁石をうまく利用してスキャニング電磁石を省略したものがある。かような構成例にもこの発明を適用することができ、むしろ、これらの場合は、指令値座標空間6からビーム照射位置座標空間7への正写像がより複雑になるため、この発明の効果は大きい。
【0059】
図12では、Y方向スキャニング電磁石3bは使用し、最終偏向電磁石31にX方向スキャニング電磁石の機能を持たせたものである。最終偏向電磁石31からX方向スキャニング電磁石への指令値Ia、を発生させ、荷電粒子ビームを走査し、最終偏向電磁石31にX方向スキャニング電磁石の指令値の推定値Iaeを入力する。このように、最終偏向電磁石31にX方向スキャニング電磁石と同様な機能をも持たせるものである。
【0060】
実施の形態4.
図13は実施の形態4における動く臓器に対応した動作を説明する図である。この発明は、呼吸等によって動く臓器にできた腫瘍など、照射ターゲットの移動や変形に対して、リアルタイムに追従、対応しようとした場合に特に威力を発揮する。これを図13に基づいて説明する。粒子線照射装置を用いて粒子線治療を行う場合、まず、照射対象である患部が、どのような形状でどの位置にあるかを把握する必要がある。そのため、CT,MRI,X線などの撮像装置を用いて患部を3次元的に撮影する。粒子線治療計画装置は、この撮像した3次元の映像情報(以降、治療計画時の基準撮像とよぶ)をもとに、治療計画の立案、作成支援を行う。
【0061】
粒子線照射装置は、治療計画に基づいて粒子線照射を行っていく。このため、従来、患者は粒子線治療室のベッド等患者保持装置の上に、撮像装置で撮影したときとなるべく同じ姿勢になるようにし、放射線技師はベッド等患者保持装置を移動調整して、治療計画時の基準撮像に正確に一致させるよう、いわゆる「位置決め作業」を行う必要があった。例えば、図13の右下の図が、治療を行おうとしたときの撮像画面だとすると、図13の左下に示した基準撮像と違うが、これを正確に一致するまでベッド等患者保持装置を移動調整する必要があった。
【0062】
また、呼吸などによって臓器が動き、照射ターゲット(患部)の形状が変形することも起こりうる(図13右上)。従来はこの問題に対し、呼吸同期装置などを用い、呼吸のタイミングと照射のタイミングを合わせるなどの工夫をする必要があった。この位置決めや呼吸同期が治療全体を通してもっとも時間を要する作業であり、一人あたりの治療時間を長くし、患者にとっても負担がかかるといった問題点があった。
【0063】
この発明の実施の形態4に示す粒子線照射装置においては、治療を行う本照射時の患部の位置や姿勢を治療計画時の基準撮像に合わせるのではなく、治療を行う本照射時の患部の位置や姿勢に合わせて目標照射座標をリアルタイムに変換していくという戦略をとる。図13に示したとおり、照射ターゲットにあらかじめランドマーク(特徴的部位や挿入マーカ)を決めておく。治療計画時の基準撮像のランドマーク位置と、本照射時の撮像のランドマーク位置を比較することによって、目標照射座標をどのように変換していけばよいかがわかる。具体的には、治療計画時の基準撮像に写った照射ターゲット(患部)は、並進行移動、回転移動、拡大縮小(ある方向には拡大、別の方向には縮小⇒変形)をして、本照射時の撮像に写った照射ターゲット(患部)になると仮定する。すなわち、これもまた一種の写像ととらえ、ランドマークの位置変化情報から、照射ターゲットのすべての点が同様の写像により移動したと想定する。
【0064】
治療計画時の目標照射位置座標は、前記写像にのっとり、本照射時の目標照射位置座標へと変換していけばよい。呼吸による照射ターゲットの変動は刻一刻と起こっているので、この目標照射座標の変換もリアルタイムで実施する必要がある。従来の変換テーブルによる指令値の生成方法は、多くのIF文(場合分けをする条件式)を用いているため、刻一刻と変化する目標照射座標に対して、リアルタイムに指令値を生成することが困難であった。
【0065】
この発明に示した多項式を用いた指令値の生成方法を用いると、多項式は足し引き算と掛け算しか使われていないので、リアルタイムでの処理に優れており、位置決め作業を不要とし、呼吸などにより照射ターゲット(患部)が移動、変形した場合でも柔軟に対応することができ、治療時間を短縮し、患者に負担がかからないといった従来にない効果を発揮する。
【0066】
このように、撮像中の照射ターゲット情報から目標照射位置座標を補正し、補正された前記目標照射位置座標から、逆写像数式モデルを使用して生成した指令値によりスキャニング電磁石を制御して荷電粒子ビームを走査し照射対象に照射するようにしたので、リアルタイムに前記指令値を生成できる。また、撮像中の照射ターゲット情報から目標照射位置座標を補正し、補正された前記目標照射位置座標から、逆写像数式モデルを使用して生成した指令値によりスキャニング電磁石及び荷電粒子ビームの運動エネルギーを制御して荷電粒子ビームを走査し照射対象に照射するようにしたので、リアルタイムに前記指令値を生成できる。
【0067】
実施の形態5.
実施の形態1および実施の形態2において、多項式の係数(未知パラメータ)の求め方として、最小二乗法について説明した。この多項式の係数(未知パラメータ)を求める場合に、重み付け最小二乗法を用いてもよい。この重み付け最小二乗法とは、多項式の係数(未知パラメータ)を求めるもとのデータ(キャリブレーション時の実データ)において、各データに重みをつけて計算するものである。例えば、キャリブレーションの試し照射を行う際、何らかの理由により(例えば電気的ノイズ等)、信頼性の低いデータが得られる場合がある。この場合、信頼性の低いデータには0に近い重みをかけることによって、このデータの影響を抑えることができる。
【0068】
また、照射対象をいくつかのエリアに分割して、それぞれのエリアごとに多項式の未知パラメータを求めても良い。この場合、あるエリアAの多項式を計算する場合、キャリブレーションの試し照射の実データにおいてエリアAに属するデータは重み1を、エリアAに属さないデータは0に近い重みをかけて計算することによって、より実現象に近い、すなわち高精度な照射を実現することができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
制御器で加速器とスキャニング電磁石とを制御して前記加速器からの荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置において、
前記スキャニング電磁石は、X方向スキャニング電磁石と、前記X方向スキャニング電磁石の走査方向と直交する方向に走査するY方向スキャニング電磁石とを有し、
前記制御器は、照射対象における荷電粒子ビームの目標照射位置座標から、その照射を実現する前記X方向スキャニング電磁石を励磁するためのX方向指令値,及び前記Y方向スキャニング電磁石を励磁するためのY方向指令値をそれぞれ生成するX方向とY方向逆写像数式モデルを有し、
前記X方向とY方向逆写像数式モデルは、それぞれ、荷電粒子ビームの照射位置平面における前記目標照射位置座標を2変数で表示したときの前記2変数のいずれも含んだ多項式であり、
前記多項式に含まれる未知の係数は、前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、一部のデータに低い重み付けをする重み付け最小二乗法により求め、信頼性を向上させるようにしたことを特徴とする粒子線照射装置。
【請求項2】
制御器で加速器とスキャニング電磁石とを制御して前記加速器からの荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置において、
前記スキャニング電磁石は、X方向スキャニング電磁石と、前記X方向スキャニング電磁石の走査方向と直交する方向に走査するY方向スキャニング電磁石とを有し、
前記制御器は、照射対象における荷電粒子ビームの目標照射位置座標から、その照射を実現する前記X方向スキャニング電磁石を励磁するためのX方向指令値,及び前記Y方向スキャニング電磁石を励磁するためのY方向指令値をそれぞれ生成するX方向とY方向逆写像数式モデルを有し、
前記X方向とY方向逆写像数式モデルは、それぞれ、荷電粒子ビームの照射位置平面における前記目標照射位置座標を2変数で表示したときの前記2変数のいずれも含んだ多項式であり、
前記多項式に含まれる未知の係数を求めるにあたっては、
前記照射対象を複数のエリアに分割し、それぞれのエリア毎の前記多項式に含まれる未知の係数を、
前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、当該エリアに属する実データの重みが当該エリアに属さない実データの重みよりも大きい重み付けをする重み付け最小二乗法により求めるようにしたことを特徴とする粒子線照射装置。
【請求項1】
制御器で加速器とスキャニング電磁石とを制御して前記加速器からの荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置において、
前記スキャニング電磁石は、X方向スキャニング電磁石と、前記X方向スキャニング電磁石の走査方向と直交する方向に走査するY方向スキャニング電磁石とを有し、
前記制御器は、照射対象における荷電粒子ビームの目標照射位置座標から、その照射を実現する前記X方向スキャニング電磁石を励磁するためのX方向指令値,及び前記Y方向スキャニング電磁石を励磁するためのY方向指令値をそれぞれ生成するX方向とY方向逆写像数式モデルを有し、
前記X方向とY方向逆写像数式モデルは、それぞれ、荷電粒子ビームの照射位置平面における前記目標照射位置座標を2変数で表示したときの前記2変数のいずれも含んだ多項式であり、
前記多項式に含まれる未知の係数は、前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、一部のデータに低い重み付けをする重み付け最小二乗法により求め、信頼性を向上させるようにしたことを特徴とする粒子線照射装置。
【請求項2】
制御器で加速器とスキャニング電磁石とを制御して前記加速器からの荷電粒子ビームを照射対象に照射する粒子線照射装置において、
前記スキャニング電磁石は、X方向スキャニング電磁石と、前記X方向スキャニング電磁石の走査方向と直交する方向に走査するY方向スキャニング電磁石とを有し、
前記制御器は、照射対象における荷電粒子ビームの目標照射位置座標から、その照射を実現する前記X方向スキャニング電磁石を励磁するためのX方向指令値,及び前記Y方向スキャニング電磁石を励磁するためのY方向指令値をそれぞれ生成するX方向とY方向逆写像数式モデルを有し、
前記X方向とY方向逆写像数式モデルは、それぞれ、荷電粒子ビームの照射位置平面における前記目標照射位置座標を2変数で表示したときの前記2変数のいずれも含んだ多項式であり、
前記多項式に含まれる未知の係数を求めるにあたっては、
前記照射対象を複数のエリアに分割し、それぞれのエリア毎の前記多項式に含まれる未知の係数を、
前記X方向とY方向スキャニング電磁石に予め設定した複数組のX方向とY方向指令値を入力して、荷電粒子ビームを制御し、実際に照射されたそれぞれの照射位置座標の実データに対して、当該エリアに属する実データの重みが当該エリアに属さない実データの重みよりも大きい重み付けをする重み付け最小二乗法により求めるようにしたことを特徴とする粒子線照射装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2010−284513(P2010−284513A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102084(P2010−102084)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【分割の表示】特願2010−500984(P2010−500984)の分割
【原出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【分割の表示】特願2010−500984(P2010−500984)の分割
【原出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]