説明

粒度測定装置及び粒度測定方法

【課題】被測定物の粒度を三次元測定に基づいて測定できる粒度測定装置および粒度測定装置を提供する。
【解決手段】波源1から出射された可干渉ビームを、物体6への照射波2aと参照波2cに分岐し、被測定面からの拡散反射波である物体波2bと参照波2cを干渉させるホログラフィ干渉系を構築し、撮像面10aで観測された参照波2cと物体波2bとの干渉縞を観測し、デジタルホログラフィによる再生計算にて物体像を再生する。二波長でそれぞれ記録し再生した物体像の位相差をとり、等高線間隔を拡大した後、位相接続にて被測定面の表面形状を復元する。物体像の振幅の大きさにより被測定面を構成する粒子の内部領域の座標を抽出し、個々の粒子の粒径を演算する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物質の粒度を測定する装置および方法に関し、特に高炉内の炉頂面における堆積物の粒度測定に好適な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、鉄鉱石を溶解する高炉では、通常、炉の上部から炉内部に装入物であるコークスや鉄鉱石を焼き固めた焼結鉱等を交互に装入される。その際、装入物が形成した堆積物の上端面である炉頂面の鉛直断面プロフィールが、およそV字型になるように装入シュート等で振り分けて装入される。炉頂面の鉛直断面プロフィール(以下では「炉頂プロフィール」とも記す)をV字型にすることは、高炉での鉄鉱石の還元反応を円滑に進め操業を安定化し、生産性を向上する上で非常に重要である。
【0003】
炉頂プロフィールを測定する手法としては、特許文献1〜3に記載されているように点状光や線状光を炉頂面に照射し、反射光のつくる軌跡を撮像装置で撮像し、像の輝線位置から三角測量法により反射点までの距離を測定する、光切断法を基本とした炉頂プロフィールの測定装置や測定方法が知られている。
【0004】
他方、装入物の粒度構成に起因する粒度偏析は、炉内成分の偏りや通風性の悪化により高炉の不況を招くため、炉頂プロフィール同様、高炉の安定性や生成される銑鉄の品質を確保する上で非常に重要である。炉頂面での装入物の粒度(粒径)の分布を測定する装置および方法として特許文献4には「粒度検出装置および方法」の発明が開示されており、その手法は特許文献1〜3と基本的には類似の距離測定手段を用いて、測定した距離と投受光器の配置、粒子の境界で生じる死角のピッチにより粒径を演算するというものである。また、特許文献5には、ベルトコンベアにより搬送中の粒状体を照明し、テレビカメラで撮像し、撮像輝度が粒子の境界で暗くなることを利用して、輝度画像のパワースペクトルに基づいて平均粒度を推定する方法が開示されている。ただし、当該技術は、高炉外における粒度測定技術である。なお、ここで粒度とは粒径の程度を段階的に層別した数値である。又、粒径の定義は測定方法によって異なる。例えば特許文献4や特許文献5に記載されているような装入物を撮像した輝度画像の明暗により粒径を推定する方法では、暗黙的に画像の水平方向あるいは垂直方向の明暗の周期を粒径とする定義としている。
【0005】
しかしながら、特許文献4に記載された粒度検出技術において粒の境界を高精度に検出するには、点状光を密に走査する必要があり、実操業における原料装入により時々刻々と変化する炉頂面全体の粒度分布を測定する場合には、走査だけでも膨大な時間がかかり過ぎてしまうことがあった。また粒子の中心が一直線上に並んでいるわけではないので一直線上で走査して測定したレーザの投光角の死角ピッチ、あるいは輝度画像の一走査線上におけるパワースペクトルのピークも必ずしも粒度に対応しておらず、測定精度が十分に確保できないこともありえる。
【0006】
一方、光切断法や格子縞投影法などの三角測量法以外の三次元計測方法として、デジタルホログラフィによる方法がある。デジタルホログラフィは、物体に照射され拡散反射した光(「物体光」と呼ぶ)と波面の基準となる参照波を、カメラの撮像面で干渉させた干渉縞をホログラム像として記録し、当該ホログラム像をコンピュータに取り込んでデジタルデータ化し、フレネル変換やフーリエ変換による逆回折計算で物体像の再生を行う技術である。デジタルホログラフィは、物体表面の形状を反映した物体像の位相を直接扱えるという、従来の光学的手段のみによるホログラフィにない利点をもつ。
【0007】
また、光切断法や格子縞投影法などの三次元形状測定技術では、撮影範囲に比べ線状の狭い照射範囲でしか表面形状を測定できず、被測定面全体の形状を測定するには、走査や格子縞間隔を狭くする必要があるが、デジタルホログラフィによればレーザ光の照射範囲とほぼ同等の面積を撮影範囲とすることが可能なため、効率的に密に形状を測定できる。
【0008】
なお、デジタルホログラフィで再生した物体像の位相は−πからπまでの2πの範囲しかとらないため、Wrapped Phaseとよばれ、物体の高さが2πに相当する高さ間隔(本願では「等高線間隔」と記す)を超える場合、−πからπ、あるいは、πから−πへの位相の反転が起きる。物体像の位相を連続的に接続して、物体の高さに相当する位相(Unwrapped Phase)を復元する技術は位相接続(Phase Unwrapping)と呼ばれており、非特許文献1に開示されている。等高線間隔は、用いるレーザ光の波長程度であるため、位相接続回数が多くなり計算時間がかかるので、その対策として等高線間隔を拡大して表面形状を測定する方法が非特許文献2に開示されている。これらのデジタルホログラフィに関連する技術は、近年のCCD、CMOSカメラや計算機の発展により、工業的な実用性も高まりつつある。
【0009】
デジタルホログラフィによる粒子の形状の計測方法としては、例えば特許文献6で液滴の粒径を評価する方法が開示されており、物体の前面に光を照射し、物体を透過あるいは後方へ散乱した光と、物体の存在する周囲の空間を透過した光との干渉縞を記録する透過型の光学配置を採っている。
【0010】
【特許文献1】特公昭56−9644号公報
【特許文献2】特開昭54−65059号公報
【特許文献3】特開2002−220610号公報
【特許文献4】特開平10−176908号公報
【特許文献5】特開平2−264845号公報
【特許文献6】特開2007−263864号公報
【非特許文献1】“Two−Dimensional Phase Unwrapping,Theory,Algorithms,and Software”,Wiley−Interscience,1998年,第2章
【非特許文献2】光学 35巻11号(2006)596−601
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、特許文献6の方法は被測定物である液滴が存在する周囲の空間が照射する光に対して透明である場合に有効な方法であり、高炉に装入された原料のように照射する光(あるいは一般的に電磁波)に対して不透明な物体が密に堆積した場合、このような透過型の光学配置は採れない。更に、特許文献6の方法などでは、例えば焼結鉱のように外形表面粗度が粗い物体を、比較的短い波長の光を使って観測する場合、被測定物による光の散乱が大きくなるのみならず、炉内の粉塵による散乱による減衰も受けるため、物体の像を再生するに十分な光量を得ることが難しい。外形表面粗度と比較して長い波長のマイクロ波を使うことも考えられるが、現状、マイクロ波領域でデジタルホログラフィを実現するための高速に撮像可能な市販の撮像素子はない。
【0012】
以上に述べた従来技術の問題点に鑑みて本発明は、デジタルホログラフィを用いて、例えば高炉内等において堆積した状態にある装入物等の被測定物の粒子の形状を従来よりもより速く撮像し、粒度を精度よく測定することを第1の目的とし、さらに粒度の粗い粒子でも、外面形状の測定を可能とする技術を提供ことを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本願発明の粒度測定装置は、粒状の物質からなる被測定物に可干渉なビームを照射し、その反射光と参照光との干渉縞をカメラで撮像してホログラム画像を得て、該ホログラム画像から前記被測定物の形状データを導出して、該形状データから被測定物の粒度を調べる粒度測定装置であって、前記可干渉なビームを出射する光源手段と、前記可干渉なビームを分岐し、一方のビームを前記被測定物の表面に照射し、他方のビームである参照波と、前記一方のビームが前記被測定物の表面で拡散反射した物体波とを干渉させて干渉縞を生成するホログラム生成用干渉光学系と、前記干渉縞を撮像してホログラムの画像データを出力する撮像手段と、前記ホログラムの画像データを用いて、回折計算の逆変換演算によって前記被測定物の表面の凹凸情報を含む復元データを算出し、該復元データに基づき前記被測定物の粒度を導出するデータ処理手段と、からなることを特徴とする。
【0014】
また他の発明の粒度測定装置は、前記ホログラム生成用干渉光学系は、前記参照波のビームの光路中に該ビームに所定の位相遅延を付与するための位相遅延器を具備することを特徴とする。
【0015】
また他の発明の粒度測定装置は、前記データ処理手段は、前記ホログラムの画像データについて回折計算の逆変換演算を高速フーリエ変換により実行して再生像を算出し、該再生像から位相接続により前記被測定物の各粒子の3次元形状データである前記復元データを導出し、該復元データに基づき前記各粒子の形状を予め設定した所定の形状で近似して該各粒子の大きさを算出して、前記被測定物の粒度を導出することを特徴とする。
【0016】
また他の発明の粒度測定装置は、前記光源手段は、可干渉な第1のビームと、該第1のビームと波長が異なり可干渉な第2のビームとを別々に出射でき、前記データ処理手段は、前記第1のビーム及び第2のビームそれぞれにより得たホログラムの画像データに対して、回折計算の逆変換演算を高速フーリエ変換により実行して第1の再生像及び第2の再生像を算出し、該第1の再生像及び第2の再生像の位相差を算出して新たな再生像を得て物体の表面形状を算出することを特徴とする。
【0017】
また他の発明の粒度測定装置は、前記光源手段は、赤外波長域の可干渉ビームを出射することを特徴とする。
【0018】
本願発明の粒度測定方法は、粒状の物質からなる被測定物に可干渉なビームを照射し、その反射光と参照光との干渉縞をカメラで撮像してホログラム画像を得て、該ホログラム画像から前記被測定物の形状データを導出して、該形状データから被測定物の粒度を調べる粒度測定方法であって、前記可干渉なビームを光源から出射する手順と、前記可干渉なビームを分岐し、一方のビームを前記被測定物の表面に照射し、他方のビームである参照波と、前記一方のビームが前記被測定物の表面で拡散反射した物体波とを干渉させて干渉縞を生成するホログラム生成手順と、前記干渉縞を撮像してホログラムの画像データを出力する撮像手順と、前記ホログラムの画像データを用いて、回折計算の逆変換演算によって前記被測定物の表面の凹凸情報を含む復元データを算出し、該復元データに基づき前記被測定物の粒度を導出するデータ処理手順と、からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、デジタルホログラフィにて被測定物の粒子の形状そのものを測定する方法であるので、従来よりも広い範囲を高速に撮像して画像データを取得することが可能であり、撮像した画像データに基づいて粒度を高速に精度よく、回折計算の逆演算により被測定物の3次元の形状データを復元することが可能である。そして、当該3次元の形状データに基づいて、各粒子の大きさ及び粒度を迅速・的確に評価することができる。又、長波長光源を用いるので粗度の粗い高炉装入物でも粒子の形状の測定が可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明の粒度測定装置および測定方法を好適に実施するための形態を、粒状の堆積物を被測定物の一例として、図面を参照して詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0021】
以下の説明においては図1,2を用いて粒度測定装置の配置と構成の概略を説明した後に、当該装置の構成要素および粒度測定方法について他の図面も参照して詳細に説明する。なお、より具体的実施の形態については、実施例にて詳細に説明する。
【0022】
図1は本実施の形態の粒度測定装置の概略構成の一例を示したものである。
図1の粒度測定装置を構成する、ホログラムを得るためのホログラム生成用干渉光学系(ホログラム記録用干渉光学系とも言う。)の一例の光路について説明する。例えば波長を可変することができる光源手段の一例であるレーザ光源1から出射されたレーザ光(可干渉光ビーム)2は反射ミラー3で行路を曲げられた後、ビーム径拡大光学系4によりレーザ光のビーム径が拡大される。レーザ光2の約半分(強度について)がハーフミラー5により反射された光ビーム2a(一方のビーム、照射光の一例)は、被測定物6に照射され、被測定物6で拡散反射した光は被測定物表面の明るさ(反射率)と表面の凹凸情報を持った物体光2bとなる。当該物体光2bの約半分がハーフミラー5を透過し、撮像手段の一例であるカメラ10の開口に入射する。用いるカメラ10の撮像素子は、レーザ光の波長に十分な感度を有するものを用いればよい。例えば、可視光や近赤外光域のレーザ光についてはCCDやMOSタイプの撮像素子を用いることができる。その他の波長域についても感度を有する撮像素子が知られている。
【0023】
他方、ビーム拡大光学系4で拡大された光ビーム2のうちハーフミラー5を透過した参照光2c(他方のビームの一例)は、減衰フィルタ7を透過後、反射ミラー8により反射され、再び減衰フィルタ7を透過しその半分がハーフミラー5で反射し、カメラ10に入射する。カメラ10にはレンズを装着していないので、カメラ10の撮像面10aはホログラム面となり、物体光2bと参照光2cが干渉縞を結ぶ。
【0024】
次に図1の干渉光学系を構成する主要な光学要素それぞれについて説明する。拡大光学系4は、例えば凹レンズ4aと凸レンズ4bにて構成されビーム径を拡大させるが、二つのレンズ間の距離を変化させることにより発散の角度を調整して、平行光又は発散光にすることができる。本実施の形態では、遠方の被測定物6の広い範囲を撮影するために所定の0度以上の角度で発散させている。減衰フィルタ7は、参照光2cの強度を減衰させ、カメラ10の撮像面10aで参照光2cと物体光2bの作る干渉縞のコントラストを向上させるように、減衰率を選択して挿入する。減衰フィルタ7は、フィルタ内部の物質の吸収により透過率を調整する吸収型の減衰フィルタであるが、物体光2bが微弱になると減衰フィルタ表面での反射も無視できなくなるため、減衰フィルタ7を参照光2cの光軸に対して傾けて減衰フィルタ表面による反射光がカメラ10に入射しないようにする。又、減衰フィルタ7は、参照光2cの透過に際して位相を変化させないものが好ましい。カメラ10の前面(開口)には狭帯域フィルタ10bを取り付けており、レーザ光源1の発振波長を含む帯域の光のみを透過させる。位相遅延器の一例として、参照光2cの光軸方向に移動可能な微動ステージ9に反射ミラー8が取り付けられており、反射ミラー8と撮像面10aの間の光路長を変化させて参照光2cの位相を物体光2bの位相に対し相対的に遅延させ、位相シフトデジタルホログラフィ法を実現する。微動ステージ9の位置は、移動の最小単位である1/8波長のさらに1/10以下の細かい精度で決められることが好ましい。カメラ10からは、物体光2bと参照光2cが撮像面で干渉した結果得られた干渉縞の輝度値の2次元平面分布(ホログラム)が、画像データとして出力される。
【0025】
なお、図1に示した光学系の配置は一例であって、ホログラフィに用いられる公知の光学系をそのまま、又は適宜修正することにより、構成することができる。又、各レーザ光の光路は、被測定物の形態及び設置位置に応じて適宜ミラー等を用いて構成すればよい。
【0026】
図1の本実施の形態の粒度測定装置を構成する制御部について説明する。
制御部は、レーザ光源1の発振を制御するレーザ制御器12、微動ステージ9の位置を制御するステージ制御器13、および、データ処理・制御装置11とからなる。データ処理・制御装置11は、レーザ制御器12、ステージ制御器13、およびカメラ10を、ホログラムを得るために統括制御するだけでなく、データ処理手段の一例としてカメラ10から出力された画像データを入力し画像処理や、画像処理された画像データに基づき粒状の被測定物6の粒度の演算も行う。
【0027】
データ処理・制御装置11は、例えば、レーザ光を用いて干渉縞をカメラで撮像して画像データを取得するために、レーザ制御器12、ステージ制御器13、及びカメラ10を制御し、又、画像データを入力するためのI/Oポートを具備し、さらに測定結果を表示するためのディスプレイ(表示部の一例)11b、キーボード(入力部の一例)11c、マウス(図示せず)、及び記憶装置(図示せず)を有するパーソナルコンピュータ11aで構成することができる。さらに、他のコンピュータ等と通信可能なネットワークボードを具備しても良い。又、パーソナルコンピュータの代わりに、MPU(Micro Processing Unit)を用いて上記と同等の機能を有する専用機として構成しても良い。
【0028】
次にデータ処理・制御装置11における上記の構成を用いた、ホログラムを得るための制御手順とデータ処理手順について説明する。まず、制御手順について説明する前に、本実施の形態の本粒度測定装置の測定原理を説明するために、要素技術として用いる、公知技術であるデジタルホログラフィと位相シフト法の原理、再生計算の方法、および、等高線間隔を拡大する二波長法の原理について要点を説明する。
【0029】
<測定原理の説明>
(デジタルホログラフィの原理)
図2は、デジタルホログラフィの光学系の透過配置の構成の一例を模式的に示したもので、軸外し光学系とも呼ばれる。レーザ光102はハーフミラー5によって物体106への照射光102aと参照光102cへ分けられる。説明を簡単にするため、ここでは照射光102aと参照光102cとは強度が一様な平面波とする。物体への照射光102aは物体106を透過(または反射)した後、物体光102bとしてカメラ110へ入射する。照射光102aは物体106を透過する際に物体の形状や、物体106と空気の光学的物性の差異により光軸と直交する面内位置で光路長が異なり、透過して得られる物体光102bの位相が当該面内位置で変化する。又、物体106が光を反射する反射配置のときには、物体の表面の凹凸形状により反射光である物体光102bの位相が当該面内位置で変化する。参照光102cは反射ミラー108で反射した後、カメラ110へ入射する。物体光102bと参照光102cはカメラの撮像素子の受光面である撮像面110aで干渉縞を結ぶ。干渉縞の間隔は参照光102cの光軸と物体光102bの光軸がなす角θが大きくなると小さくなる。図2はθが零ではない有限値(正値)の軸外し(off−axis)と呼ばれる光学系を示しているが、デジタルホログラフィの場合、干渉縞の間隔を撮像素子の画素サイズより小さくすると干渉縞を記録できなくなるので実用上θは数度以下とする。
【0030】
図2に示した物体106と撮像面110aの位置関係を図3に示す。物体106へ照射される照射光102aの光軸をz軸にとり、長方形の撮像面110aはz軸に垂直にとり、撮像面の辺に平行にX軸とY軸をとる。また、およそ撮像面110aから垂直距離Zoにある物体106の位置に、X軸、Y軸それぞれと平行なx軸、y軸をとり、xy座標平面を物体面110a’とする。撮像面上での物体光102bと参照光102cの複素振幅をそれぞれU(X,Y),R(X,Y)とすると、撮像面上で検出される干渉縞の強度分布I(X,Y)(以下では単に「干渉縞I」とも記す)は(1)式のように与えられる。
【0031】
【数1】

【0032】
(1)式の第一項|U|2+|R|2は干渉縞Iの0次光、RUを1次光、RUを−1次光に対応した複素振幅である。
【0033】
物体光102aの複素振幅U(X,Y)は、波動光学的に説明すると物体106で透過(または反射)した直後の複素振幅U(x,y)が回折し、有限値の距離(「再生距離」という)Zを隔てた撮像面で結んだ像なので、定係数を除き(2)式のように、物体106のあるxy平面での積分を行うフレネル回折積分の形式で書くことができる。
【0034】
【数2】

【0035】
ただし、λをレーザ光の波長とするとkは波数でありk=2π/λである。
【0036】
逆に撮像面110a上で結んだ物体光102bの複素振幅U(X,Y)がわかれば、(3)式のような複素振幅U(X,Y)の逆変換にて物体像U(x,y)を再生することができる。
【0037】
【数3】

【0038】
物体光102aの複素振幅Uは直接には観測できないが、(1)式で参照光Rが強度分布が一様な平面波とすると一次光の複素振幅RUはUに比例し、複素振幅RUはUに比例する。このため、(3)式にUの代わりに、カメラ110で撮像されて出力される画像データである干渉縞I(X,Y)を代入し、回折計算にて逆変換を行い、(1)式を構成する0次光、+1次光、−1次光の成分の逆変換に対応して物体像U(x,y)にあたる画像データを導出すると、図4のように再生像にそれぞれ0次像、直接像(物体像)、及び、ボケた共役像が重なって現れる。再生時に指定する撮像面110aから物体面110a’までの距離Zが大きくなると、図5のように再生像が小さくなり0次像、直接像、共役像を分離可能である。しかし、直接像が再生像全体に占める面積は画素数の割合にして1/3×1/3=1/9程度と少なくなる。
【0039】
以上は、物体106が透明体又は半透明体であるときの透過配置の光学系を例にした説明であるが、物体106が反射体であるときの反射配置においても、カメラ110で撮像されて出力される画像データを基づいて複素振幅U(X,Y)の逆変換にて物体像U(x,y)を再生することについて、光路は異なるが、その他の点においては全く同様の説明が可能である。以下の説明においても同様の議論が可能である。
【0040】
(位相シフトデジタルホログラフィの原理)
もし、再生距離Zを大きくできない場合、またZが大きく0次像、直接像、共役像を分離できる場合であっても再生像の画素数を有効に使いたい場合に、位相シフト法によれば、直接像(物体像)のみを再生可能である。図6は位相シフト法の光学系の一例を模式的に示したものである。これは、図2で示した軸外し光学系と異なり、さらに参照光側に反射ミラー108’と、物体光と参照光の光軸をほぼ一致させて撮像面に入射させるためのハーフミラー105’とを設けている、同軸(on−axis)と呼ばれる光学系である。そして参照光側の光路内に位相遅延器109を設けている。位相遅延器で物体光に対する参照光の位相遅延量δを付加し、位相遅延を受けた参照光の複素振幅を明示的にR・exp(iδ)とすると、干渉縞の強度I(δ)は以下の(4)式のように表される。
【0041】
【数4】

【0042】
位相遅延量δを例えばδn=n・π/2(n=0,1,2)として、複数の位相遅延量それぞれの干渉縞(ホログラム)の強度I(δn)(n=0,1,2)をとり、(4)式を用いて以下の(5)式のようにホログラムを重ね合わせた合成ホログラムH(X,Y)を計算すると、H(X,Y)は参照光の複素振幅の共役と物体光の複素振幅の積R(X,Y)・U(X,Y)に比例する。
【0043】
【数5】

【0044】
参照光が平行光の場合のように強度分布が一様な平面波とみなせる場合、R(X,Y)=一定となるので、合成ホログラムH(X,Y)はU(X,Y)に比例する。したがってH(X,Y)をU(X,Y)として(3)式に入力し逆変換すれば、0次像と共役像の重なりのない直接像のみの再生像が得られる。以上が位相シフトデジタルホログラフィの原理である。
【0045】
物体への照射光102aと参照光102cが平行光でなく、ともに焦点を同一にする発散光である場合の再計算の方法について説明する。
【0046】
物体面における照射光102aの波面(等位相面)の曲率半径をR、参照光102cの撮像面110aにおける曲率半径をRとする。また物体像および撮像面110aにおける参照光102cの複素振幅をそれぞれV(x,y)、R(X,Y)とすると、物体像U(x,y)及び参照光の複素振幅は、定係数を除き以下の式(6)、(7)のように表される。
【0047】
【数6】

【0048】
【数7】

【0049】
一方(5)式よりU(X,Y)∝R(X,Y)・H(X,Y)、すなわち定係数を除いて(8)式のようになる。
【0050】
【数8】

【0051】
以上のように物体への照射光102aと参照光102cが発散光であるときには、(3)式のU、Uを(6)、(8)式で置き換えた後、物体像Vを求めればよい。
【0052】
以下、簡単のため、物体への照射光と参照光が平行光の場合について説明することにし、照射光と参照光が発散光の場合は、以上の置き換えを行って物体像Vを求めることとする。
【0053】
(再生計算の方法)
(3)式を計算機で、X,Yの離散値(各画素の位置)について離散的に計算する場合、式どおりに単純に多重積分計算を実行すると非常に時間がかかるので、通常、FFT(高速フーリエ変換、Fast Fourier Transform)を用いることが多い。以下で詳しく説明するように、(3)式を、物体光の複素振幅Uと(9)式で表される二次位相関数Aとのコンボリューションと見るか、又は、さらに展開してUとAの積のフーリエ変換と見るかによって、物体像Uの計算方法が二つある。それぞれの物体像Uの計算方法はコンボリューション法(あるいはdouble−FFT法)、及びフーリエ変換法(あるいはsingle−FFT法)と呼ばれる(両者は回折計算の逆変換演算の一例)。
【0054】
【数9】

【0055】
(第1の再生計算方法:コンボリューション法)
(3)式の両辺を物体光の複素振幅Uと(9)式で表される二次位相関数Aとのコンボリューションと見て、フーリエ変換(FFT)すると、(10)式のように物体像Uのフーリエ変換像FFT[U]は物体光の複素振幅Uのフーリエ変換像と二次位相関数Aのフーリエ変換像の積となる。さらに(11)式のように逆フーリエ変換することで物体像U(以下では再生像とも記す)を計算できる。
【0056】
【数10】

【0057】
【数11】

【0058】
二次位相関数Aのフーリエ変換は二次位相関数となることが解析的にわかっているので、二回のフーリエ変換により物体像Uを計算できる。FFTによりフーリエ変換を実行する場合、撮像面を含むX−Y平面である実空間とそのフーリエ空間f−f平面に関し、X方向とf方向の空間分解能をそれぞれΔX,Δfとし、FFTに使用するデータ数をNとすると、FFTの制約によりΔX・Δf=1/Nの関係がある。同様に逆FFT(FFT−1)によりフーリエ逆変換を実行する場合、フーリエ空間f−f平面とその逆空間である物体面x−y平面に関し、f方向とx方向の空間分解能をそれぞれΔf,Δxとすると、逆FFTの制約によりΔf・Δx=1/Nの関係がある。したがって撮像面X−Y平面と物体面x−y平面の空間分解能Δf,Δxの関係はΔX=Δxとなる。以上の議論はY,f,y方向についても同様である。したがってコンボリューション法で再生した場合の物体面上と撮像面上の空間分解能は等しくなり、また、再生可能な範囲は撮像面の面積と一致する。
【0059】
(第2の再生計算方法:フーリエ変換法)
(3)式を展開すると(12)式のように二次元フーリエ変換の形式で書ける。ただし、定係数は除いている。
【0060】
【数12】

【0061】
(12)式を撮像面110aの(N画素)×(N画素)からなる領域における離散的な位置(X,Y)で、二次元FFTによって計算すると、撮像面110a上のX,Y方向の空間分解能ΔX,ΔY(例えば画素の間隔)と、物体面110a’上のx,y方向の空間分解能Δx,Δyとの関係は、FFTの制約により(13)式のようになる。
【0062】
【数13】

【0063】
コンボリューション法では再生距離Zにかかわらず空間分解能は撮像素子の画素サイズで決定され一定であるが、フーリエ変換法では再生距離Zが大きくなると物体面上の空間分解能が粗くなる。しかしながら、コンボリューション法で再生可能な撮像面の面積より広い範囲を再生可能なので、ここではフーリエ変換法を採用することにする。
【0064】
(二波長法の原理)
以上で説明した手順によってデジタルホログラフィで再生した物体像U(x,y)の位相は、透過配置においては物体の厚さ情報を有し、又、反射配置においては物体の凹凸の表面形状の情報を有している。これら物体の厚さ情報及び凹凸の表面形状の情報を纏めて表面形状と呼ぶことにする。物体像(再生像)U(x,y)の位相は−πからπの2πの範囲にあるから、位相接続によって物体全体の表面形状を復元することができる。
【0065】
しかしながら、物体の厚さ情報及び凹凸を表す等高線間隔がレーザ光の波長(上記位相差2πに対応)程度のため、mmオーダー又はそれ以上の厚さ又は凹凸を有する物体の形状を求めるときには、位相接続回数が多くなり計算に時間がかかる。このため、等高線間隔を大きくして位相接続回数を少なくする方法として、物体への照射光の波数ベクトルの大きさや向きを変える前後で二つの物体像を再生し、これらの位相差をとる方法が公知である。ここでは波長を変えて波数ベクトルの大きさを変化させて等高線間隔を大きくする二波長法を用いる場合について説明する。
【0066】
ここで、反射配置を想定して、図7に示すように、光軸方向であるz軸に対して垂直な波面を持ち、波長が微小量Δλだけ異なる波長λ及びλ+Δλの二つの照射光が物体106に別々に入射して、それぞれの干渉縞をカメラで撮像した場合を考える。物体像の複素振幅は物体106上での照射光の複素振幅にほかならないので、二つの照射光で得られたそれぞれの干渉縞I、Iから、上記の手順で再生した物体像U1oとU2oの物体面110a’の座標(x、y)での位相差は、二波長λ、λ+Δλのビートに相当するビート間隔で変化する。ビート周波数Δνは(14)式、ビート間隔Λは(15)式のように近似的に表される。
【0067】
【数14】

【0068】
【数15】

【0069】
反射配置を想定した図7で等高線間隔をDとすると、等高線上の点Oと点Pの間の光路長差は往復で2Dなので、上記のビート間隔を等高線間隔とするとΛ=2Dであり、結局、等高線間隔は(16)式で表される。
【0070】
【数16】

【0071】
表面形状すなわち物体面110a’を基準面とする物体表面の高さをh(x,y)とすると、hは(16)式の等高線間隔Dを単位に測ることができるので、波長λ,λ+Δλで記録・再生した物体像(再生像)を、それぞれ、U1o(x,y),U2o(x,y)とすると、両者の位相差Arg(U1o・U2o)と高さhとの関係は以下の(17)式のようになる。
【0072】
【数17】

【0073】
ここでArg(Z)は複素数Zの偏角の主値であり、複素数Zの実部Re[Z]と虚部Im[Z]の符号にしたがい、−π<Arg[Z]≦πの範囲をとるものとする。また、n(x,y)は観測量から直接求められず、後の位相接続処理によって決めることができる整数である。上記のレーザ光の波長差Δλは所望の等高線間隔Dを基に、(15)、(16)式を用いて決定することができる。
【0074】
以上のデジタルホログラフィと位相シフト法の原理、再生計算の方法、および、二波長法を用いる本発明の測定原理の説明を総括すると、本発明の一実施形態に係る粒度測定装置における測定方法では、デジタルホログラフィ法を用いて、可干渉光源より出射されたレーザ光を二つに分岐し、一方の光を被測定面に照射し、他方の光を参照光として、参照光の位相を遅延させて、被測定物の表面から拡散反射した物体光と干渉させて被測定物の厚さ又は凹凸情報を含む干渉縞の画像データ(ホログラム)を迅速に取得する。(5)式にしたがって合成した合成ホログラムに対しFFT(高速フーリエ変換)による回折計算を実施し、物体像を再生する。以上の画像データの取得と物体像(再生像)の再生を、光源の波長を変えて2つの波長で実施し、それぞれの波長での物体像の位相差を物体の位相(Unwrapped Phase)として求めた後に、位相接続処理により物体の表面形状である3次元形状データを得る。
【0075】
<デジタルホログラフィを用いた粒度測定方法>
(データ採取のための制御手順)
次に図1に示した本実施の形態の粒度測定装置のデータ処理・制御装置11による、被測定物6についての干渉縞の画像データを採取するための制御手順について図8を用いて説明する。
【0076】
(S201)データ処理・制御装置11からレーザ光源1の発振を制御するレーザ制御器12に波長設定命令を送り、レーザ1の発振波長をλ、あるいはλ+Δλを所望の測定条件に基づき設定する(可干渉なビームを光源から出射する手順の一例)。
(S202)データ処理・制御装置11から位相遅延制御器13に位相遅延設定命令を送り、位相遅延器9の位相を例えば、δ=0,π/2,πのいずれかに設定する。
(S203)カメラ10で干渉縞を撮像してホログラムの画像データを出力する(ホログラム記録手順,撮像手順の一例)。次に、ホログラムの画像データをデータ処理・制御装置11で記録する。
(S204)(S202)〜(S203)の手順を、例えば、δ=0,π/2,πそれぞれに対する画像データを得るべく位相遅延回数分だけ繰り返す。
(S205)(S201)〜(S204)の手順を波長(λ、λ+Δλ)設定回数分だけ繰り返す。
【0077】
以上により、後の物体(被測定物)像の再生、形状復元、粒度計算に必要なホログラムの画像データを採取する。
【0078】
(被測定物像の再生手順)
次にデータ処理・制御装置11で行う物体像の再生処理の手順について、図9を用いて説明する。なお、以下で説明する再生処理の手順から粒度評価手順等までの手順は、データ処理手順の一例である。
【0079】
(S301)測定した波長(λ又はλ+Δλ)を指定する。
(S302)位相遅延(例えば、δ=0,π/2,π)を指定する。
(S303)上記で指定した波長、位相遅延で採取したホログラムデータを読み込む。
(S304)(S302)〜(S303)を位相遅延回数分だけ繰り返す。
(S305)(5)式にしたがって、読み込んだホログラムを重ね合わせて合成ホログラムH(X,Y)を作成する。
(S306)再生距離Zを設定する。
(S307)(12)式(または(11)式)にしたがって、指定した波長での再生像Uを計算し、保存する。
(S308)(S301)〜(S307)を二波長(λ及びλ+Δλ)分繰り返す。
(S306)で被測定物の位置として再生距離Zを指定する必要があるが、他の距離測定手段(例えば市販のレーザ距離計等)で測った撮像面から物体面までの作動距離がわかっているのであれば、この測定値を指定する。
【0080】
もし、作動距離が不明ならば、図10に示すように以下の手順で推定することができる。
(S3061)二波長λ,λ+Δλいずれかの波長を指定する。
(S3062)指定した波長に対応する上記の合成ホログラムH(X,Y)を読み込む。
(S3063)再生距離Zの初期値Z、刻みΔZ、再生計算回数Mを指定する。
(S3064)第m回目の計算での再生距離Z(Z=Z+(m−1)×ΔZ)を設定する。
(S3065)再生像Uを計算する。
(S3066)再生像の振幅|U|の分散を計算・保存する。
(S3067)(S3064)〜(S3066)を再生計算の指定回数M回だけ(m=1,2,・・・,M)繰り返す。
(S3068)振幅分散値が極大になる再生距離Zを撮像面から物体面までの作動距離と推定する。この計算では、再生距離が実際の作動距離に近づくにしたがって、焦点が合って被測定物がはっきり識別できるようになるので振幅分散値が大きくなることに基づいて、撮像面から物体面までの作動距離を導く。
【0081】
(被測定物の表面形状の復元手順)
次に、被測定物の表面形状を復元する手順について図11を用いて説明する。
(S401)二波長(λ及びλ+Δλ)それぞれの再生像Uを読み込む。
(S402)両再生像の各座標(x,y)における位相差を計算する。
(S403)位相差を位相接続して被測定部表面の形状を復元して、3次元の形状データである復元データを得る。
(S404)復元データにおいて粒子とみなされる領域の条件である輝度や面積などのパラメータを設定する。
(S405)復元データにおいて、被測定物の外形面を構成する各粒子に属す内部領域(すなわち粒子表面)を、以下で説明するようにして抽出する。
(S406)復元データにおいて、各粒子に属す内部領域の3次元形状データから、以下で説明するように形状パラメータを計算する。
(S407)(S405)〜(S406)を、被測定物の再生した領域に含まれる粒子の数だけ繰り返す。
【0082】
上記の(S404)〜(S405)における粒子の抽出方法は、例えば、二波長の再生像のうちどちらか一方の振幅画像、あるいは両方の振幅画像の積画像をもとに各画素の輝度値の分布で構成された2次元画像を導出し、よく画像処理分野で用いられるような画像処理のBlobのラベリング処理により、輝度が明るく一定の面積以上の部分を粒子とみなして各粒子の領域を抽出する。ここで、「Blob」とは振幅画像において、一定以上の輝度、面積を有する単連結領域のことで、ここでは粒子のことである。
【0083】
なお、各粒子の境界付近で位相がとれず、測定面全体の表面形状を計算できないことがある場合は、図11に示した手順の代わりに、図12に示すように、粒子抽出S405を行った後に、粒子ごとに位相接続S403を実施してもよい。なお、図12の各手順の符号を、図11の場合と対応させて付記した。
【0084】
図11及び図12の手順において、形状パラメータ計算・保存処理(S406)では例えば、上記の3次元の形状データである復元データにおいて、粒子に属す内部領域の3次元形状データを球面で近似し、当該球面の直径を求めることで、粒子の形状を示す代表値とする。なお、粒子の形状を、一般的な楕円体面、あるいは二次曲面に最小二乗法で近似させることも可能であるが、主軸まわりの回転、中心の並進を考えると、モーメント成分が非常に多くなるため、ここでは、説明を簡単にするために、各粒子の3次元表面形状データを球面で線形の最小二乗近似を行う方法を示す。
【0085】
粒子の表面形状を(18)式で表される球面で最小二乗法により近似することを考えると、(19)式の残差が最小になるように中心座標a,b,cと半径dを定めればよい。(19)式の和はサンプル番号についてiについてとるものとする。
【0086】
【数18】

【0087】
【数19】

【0088】
(19)式の残差Eが最小となる必要条件∂E/∂a=0,∂E/∂b=0,∂E/∂c=0より、中心座標a,b,cと半径dは以下の(20)式の連立方程式を解いて求められる。
【0089】
【数20】

【0090】
ここで(20)式の和はサンプル番号iについてとったものであり、Nはサンプル数である。
【0091】
以上の復元データに対する、形状パラメータ計算・保存処理S406における計算によって、(18)式の半径dに対し例えば直径2dを形状パラメータの粒径として得て、ディスプレイへ出力及び記憶装置へ保存する。
【0092】
各粒子の3次元表面形状データを、(21)式のように一般的な球体や楕円体、直方体立方体、または多角錘体などおの所定の形状にあてはめる(ここでは例えば楕円体に近似する)場合、(19)式の残差Eが最小になる必要条件∂E/∂ajk=0,∂E/∂b=0を満たす係数ajk,bを(20)式と同様に連立方程式に書き下して解けばよい。係数を求めた後、(21)式を対角化して楕円体面の標準形に直し、各主軸の長さを、粒径を表すパラメータとして求めてもよい。
【0093】
【数21】

【0094】
<粒度評価手順>
上記の<デジタルホログラフィを用いた粒度測定方法>で説明した各手順を順次実行して、高炉炉頂面における装入物の粒度評価をするときを例として、粒度評価手順について図16を用いて説明する。
【0095】
(S501)高炉炉頂面の水平方向の領域を炉径方向と炉周方向に分割した粒度評価範囲を設定する。
(S502)粒度測定装置の撮像位置が粒度評価範囲に合致するように位置設定する。
(S503)粒子の表面形状復元に必要な枚数分(例えば、合成ホログラムHの作成に必要な枚数3×2波長分で6枚)だけ撮像してホログラムの画像データを得て保存を行う。
(S504)(S502)〜(S503)を粒度評価範囲数分だけ繰り返す。
(S505)保存したホログラムの画像データを読み出し、粒度評価範囲内で個々の粒子の表面形状を復元し粒径を計算する。
(S506)粒度評価範囲内の個々の粒径から、粒径のヒストグラム(度数分布)や平均値などの統計量を計算する。
【0096】
ヒストグラムは例えば通常の粒度評価に用いるふるいの目の大きさに準じたデータ区間を粒度として作成する。各粒度評価範囲での粒度の代表値としてはヒストグラムの最頻値としてもよいし、粒径の平均値を粒度に分類したものをとってもよい。
【0097】
(S507)(S505)〜(S506)を粒度評価範囲数分だけ繰り返す。以上の手順では(S502)〜(S503)の撮像と(S505)〜(S506)の粒度評価の手順を分けている。これは粒度評価の中で粒子の表面形状の復元に時間がかかる場合を想定し、炉頂面の堆積状態が変わらないうちに撮像のみを迅速に行いたいからである。粒子の表面形状の復元に時間がかからない場合、あるいは、堆積状態の変化する時間が復元時間に比べて十分長い場合には、図17のように(S502)〜(S503)の撮像と(S505)〜(S506)の粒度評価の手順を続けて実施してもよい。
【0098】
<その他の実施の態様>
上記の実施の形態では、データ処理・制御装置11によって、レーザ光源1、位相遅延器9、カメラ10のほぼ全てを制御する態様を例として説明した。本発明のその他の態様としては、各周辺装置の一部又は全部を、それぞれ所望の測定条件になるようにスタンドアロンに制御し、データ処理・制御装置11はカメラから入力される画像データから被測定物の粒度を導出する演算を主として実行するように構成しても良いことは明白である。
【0099】
又、上記のいずれの態様においても、各構成が別体の装置として実現されてもよいが、これに限らず、一部または全部を一体に形成したり、データ処理・制御装置11に以上で説明した各手順・処理を実行させるコンピュータ・ソフトウェアを作成して、データ処理・制御装置11に内蔵又は外付けのメモリにロードすることにより実施することも可能である。
【実施例】
【0100】
本発明の実施例について図面を参照しながら具体的に説明する。
本実施例においては光源として赤色の半導体レーザ(LD)を、撮像センサとしてCMOSカメラを、また位相遅延器としてピエゾステージを用いたモデル実験を行った。
【0101】
LDの波長は注入電流を切り替えることによって二波長をそれぞれλ=0.65985μm,λ=0.66023μmとして記録再生を行った。撮像素子の画素サイズはΔX=ΔY=6μm、画素数はN=N=2048である。撮像面から物体までの距離はZ=247.5mmである。フーリエ変換法で再生を行うと(13)式より再生像の空間分解能はΔx=Δy=13μmである。また、等高線間隔は(16)式より0.57mmである。
【0102】
図13に測定結果を示す。(a)は位相遅延δ=0のときのホログラム像であり、δ=π/2,πのホログラムから(5)式の合成ホログラムH(X,Y)を作成後、再生を行った。(b)は波長λで記録し再生した再生像の振幅であり、(c)は二波長λ,λで記録し再生した再生像の位相差である。(d)は位相接続によって形状復元した結果である。復元された4個の粒子についてラベリング後、所定の形状の例として球面近似を行ったところ、(d)の粒子の上から下、左から右の順で直径がそれぞれ、5.1mm,3.2mm,4.0mm,4.9mmと算出され、これは実測とほぼ一致した。特に最下部の粒子については下部分が一部切れているがそれでも、妥当な測定値が得られた。
【0103】
以上のモデル実験では波長可変のレーザ光源を1台用いて、波長を変更して照射することにより、レーザ光源が波長の異なる第1のビームと第2のビームを別々に(例えば異なるタイミングにおいて)照射する場合について説明した。しかし、あらかじめ発振波長が定まった安定化レーザ光源を2台用いて実現することも可能である。図14では偏光方向の直交する直線偏光のレーザ光源を2台用いて偏光ビームスプリッターにて両者の光軸を一致させる例を示す。この場合、レーザ光源12,12’は、相互に波長が異なる第1のビームと第2のビームとを別々に照射できることになる。
【0104】
以上のモデル実験では、位相遅延器はピエゾステージを用い参照光の光路長を変化させることで位相遅延を行ったが、2台のレーザ光源12,12’例えば1/8波長板と1/4波長板を組み合わせ、これらの光学軸(速軸・遅軸)を参照光の偏光方向と合わせることにより、位相遅延を行ってもよい。
【0105】
図18は以上のモデル実験で実施した位相遅延と二波長切替えのタイミングを示した図である。δ=0,π/2,πそれぞれの位相遅延の保持時間はカメラの露光時間よりも長く設定した。波長の保持時間は3回分の位相遅延の保持時間よりも長く設定したが、図19のようにマルチパルス発振でもよく、パルス幅は露光時間よりも長くても短くてもよい。以上の例では位相遅延の切替えに要する時間が波長の切替えに要する時間よりも短いとして、波長を一定に保持して位相遅延を切り替える例を示した。波長の切替えに要する時間が位相遅延の切替えに要する時間よりも短いならば、位相遅延を一定に保持して波長を切り替える方式でもよい。
【0106】
また、以上のモデル実験では可視光を用いたが、炉内の雰囲気は可視光が粉塵による散乱で減衰を受けるため、散乱の影響の小さい、なるべく長波長の光あるいはマイクロ波が望ましい。例えば、長波長光源としては波長10.6μm帯のCO2レーザ等があり、波長14μm程度までならば赤外カメラ等も存在する。これより長波長のマイクロ波の場合、現時点で商用のアレイ型撮像素子は手に入りにくく、手に入るようならばそれを使用することも可能であるが、感熱液晶のように赤外の熱を可視光に変換する素子をカメラの前に配置することで実現できる。例えば、図15の15は熱−光変換素子を示しており、15aは感熱材料で、物体側の前面に波源の波長の波を透過させる材料15bと、カメラ側の後面を可視光に対し透明で、かつ望ましくは波源の波長の波を透過させない材料15cではさんだものである。この場合、熱−光変換素子15がホログラム面となるため、カメラ10にはレンズ10cを取り付け、熱−光変換素子に焦点が合うようにする。実施例では位相シフト法を用いる例を示したが、カメラから物体までの作動距離が長くなれば図4に示したように直接像、0次像、共役像が分離する。カメラの画素数が十分多ければ直接像のみが写る再生像の領域のみを使って、位相遅延を行わずに表面形状を復元してもよい。
【0107】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0108】
尚、本明細書において、フローチャートに記述された手順は、記載された順序に沿って時系列的に行われる処理はもちろん、必ずしも時系列的に処理されなくとも、並列的に又は個別的に実行される処理をも含む。また時系列的に処理される手順でも、場合によっては適宜順序を変更することが可能であることは言うまでもない。
【図面の簡単な説明】
【0109】
【図1】本発明の実施の形態に係る粒度測定装置の一例の構成を示す図である。
【図2】軸外し型デジタルホログラフィの構成を模式的に示した説明図である。
【図3】物体面と撮像面の座標系を示した図である。
【図4】直接像、0次像、および共役像が重なって再生された場合を模式的に示す図である。
【図5】直接像、0次像、および共役像が分離して再生された場合を模式的に示す図である。
【図6】同軸型の位相シフトデジタルホログラフィの光学系を模式的に示した図である。
【図7】二波長で記録・再生する場合の等高線と物体の関係を模式的に示す図である。
【図8】本発明の実施の形態における撮像の手順の一例を示す図である。
【図9】本発明の実施の形態における再生の手順の一例を示す図である。
【図10】本発明の実施の形態における撮像面から物体面までの作動距離推定の手順の例を示した図である。
【図11】測定面全体の位相接続を行ってから、粒子の形状を評価する本発明の実施の形態の手順の例を示したものである。
【図12】粒子の占める内部領域を抽出し、個々の粒子の位相接続を行ってから、粒子の形状を評価する手順の一例を示したものである。
【図13】本発明の実施例における記録と再生結果の例を示した図である。
【図14】本発明の実施の形態のレーザ光源が一台の波長可変光源でなく、二台の波長安定化光源から構成されている場合を示す図である。
【図15】長波長の波源を使用し、撮像系を熱光変換素子により構成する場合を示した図である。
【図16】撮像のみを繰り返し迅速に実施した後、粒度をまとめて評価する手順の例を示したものである。
【図17】撮像に続いて粒度評価を繰り返し行う手順の例を示したものである。
【図18】波長の切替えと位相遅延の切替えのタイミングを示す図である。
【図19】光源がマルチパルス発振の場合の、波長の切替えと位相遅延の切替えのタイミングを示す図である。
【符号の説明】
【0110】
1,1’ レーザ光源
2 レーザ光
2a 物体への照射光
2b 物体からの拡散反射光(物体光)
2c 参照光
3,3’ 全反射ミラー
4 ビーム拡大光学系
4a ビーム拡大光学系を構成する凹レンズ
4b ビーム拡大光学系を構成する凸レンズ
5 ハーフミラー
6 被測定物
7 減光フィルタ
8 全反射ミラー
9 位相遅延器(ピエゾステージ)
10 カメラ
10a カメラの撮像面
10b 狭帯域フィルタ
10c レンズ
11 データ処理・制御装置
11a データ処理・制御装置本体
11b データ処理・制御装置の表示部
11c データ処理・制御装置の入力部
12,12’ レーザ制御器
13 ピエゾ制御器
14 偏光ビームスプリッター
15 熱−光変換素子
15a 熱−光変換素子を構成する感熱材料
15b 熱−光変換素子を構成する前面パネル
15c 熱−光変換素子を構成する後面パネル
102 レーザ光
102a 物体への照射光
102b 物体光
102c 参照光
105,105’ ハーフミラー
106 物体
108,108’ 全反射ミラー
109 位相遅延器
110 カメラ
110a カメラの撮像面
110a’ 物体面
111 データ処理・制御装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒状の物質からなる被測定物に可干渉なビームを照射し、その反射光と参照光との干渉縞をカメラで撮像してホログラム画像を得て、該ホログラム画像から前記被測定物の形状データを導出して、該形状データから被測定物の粒度を調べる粒度測定装置であって、
前記可干渉なビームを出射する光源手段と、
前記可干渉なビームを分岐し、一方のビームを前記被測定物の表面に照射し、他方のビームである参照波と、前記一方のビームが前記被測定物の表面で拡散反射した物体波とを干渉させて干渉縞を生成するホログラム生成用干渉光学系と、
前記干渉縞を撮像してホログラムの画像データを出力する撮像手段と、
前記ホログラムの画像データを用いて、回折計算の逆変換演算によって前記被測定物の表面の凹凸情報を含む復元データを算出し、該復元データに基づき前記被測定物の粒度を導出するデータ処理手段と、
からなることを特徴とする、粒度測定装置。
【請求項2】
前記ホログラム生成用干渉光学系は、前記参照波のビームの光路中に該ビームに所定の位相遅延を付与するための位相遅延器を具備することを特徴とする、請求項1に記載の粒度測定装置。
【請求項3】
前記データ処理手段は、前記ホログラムの画像データについて回折計算の逆変換演算を高速フーリエ変換により実行して再生像を算出し、該再生像から位相接続により前記被測定物の各粒子の3次元形状データである前記復元データを導出し、該復元データに基づき前記各粒子の形状を予め設定した所定の形状で近似して該各粒子の大きさを算出して、前記被測定物の粒度を導出することを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の粒度測定装置。
【請求項4】
前記光源手段は、可干渉な第1のビームと、該第1のビームと波長が異なり可干渉な第2のビームとを別々に出射でき、
前記データ処理手段は、前記第1のビーム及び第2のビームそれぞれにより得たホログラムの画像データに対して、回折計算の逆変換演算を高速フーリエ変換により実行して第1の再生像及び第2の再生像を算出し、該第1の再生像及び第2の再生像の位相差を算出して新たな再生像を得て物体の表面形状を算出することを特徴とする、請求項3に記載の粒度測定装置。
【請求項5】
前記光源手段は、赤外波長域の可干渉ビームを出射することを特徴とする、請求項1〜5のうちのいずれか1項に記載の粒度測定装置。
【請求項6】
粒状の物質からなる被測定物に可干渉なビームを照射し、その反射光と参照光との干渉縞をカメラで撮像してホログラム画像を得て、該ホログラム画像から前記被測定物の形状データを導出して、該形状データから被測定物の粒度を調べる粒度測定方法であって、
前記可干渉なビームを光源から出射する手順と、
前記可干渉なビームを分岐し、一方のビームを前記被測定物の表面に照射し、他方のビームである参照波と、前記一方のビームが前記被測定物の表面で拡散反射した物体波とを干渉させて干渉縞を生成するホログラム生成手順と、
前記干渉縞を撮像してホログラムの画像データを出力する撮像手順と、
前記ホログラムの画像データを用いて、回折計算の逆変換演算によって前記被測定物の表面の凹凸情報を含む復元データを算出し、該復元データに基づき前記被測定物の粒度を導出するデータ処理手順と、
からなることを特徴とする、粒度測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図19】
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【図7】
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【図13】
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【図18】
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