説明

粘土配向膜からなる保護膜

【課題】 粘土粒子の配向の揃った、天然粘土あるいは合成粘土を主成分とするフレキシビリティーに優れた粘土配向膜からなる保護膜を提供する。
【解決手段】 自立膜として利用可能な機械的強度を有し、粘土粒子の積層を高度に配向させた粘土薄膜からなる保護膜であって、粘土を水あるいは水を主成分とする分散媒である液体に分散し、均一な粘土分散液を調製し、この分散液を静置し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を固液分離手段で分離して膜状に形成して調製される、粘土配向膜から構成されることを特徴とする保護膜。
【効果】 化学的に安定な、高耐熱性の、支持体の保護膜として有用な新規粘土配向膜からなる保護膜を提供できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘土配向膜からなる保護膜に関するものであり、更に詳しくは、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、粘土粒子の積層を高度に配向させた、新規粘土配向膜からなる保護膜に関するものである。本発明は、粘土薄膜の技術分野において、従来、自立膜として利用可能な機械的強度を有する粘土薄膜を製造し、提供することは困難であったことを踏まえ、優れたフレキシビリティーを有し、高熱安定性、高バリアー性で、構造水酸基の脱出による構造変化がしにくい、自立膜として利用可能な機械的強度を有する粘土配向膜からなる保護膜を提供することを可能とするものである。本発明は、例えば、多くの産業分野で各種部材の防食、防汚、耐熱性向上、酸化防止、防錆等に使用可能な新しい保護膜を提供するものであり、特に、250℃を超える高温度条件下で使用することが可能な、高耐熱性、高ガスバリア性能を有する、従来の有機高分子材料に代替し得る新素材として有用な新規粘土配向膜からなる保護膜を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、多くの化学産業分野において、高温条件下での種々の生産プロセスが用いられている。それらの生産ラインの配管連結部などでは、例えば、パッキンや溶接などによって液体や気体のリークを防止する方策がとられている。これまで、例えば、フレキシビリティーに優れたパッキンは、有機高分子材料を用いて作られていた。しかしながら、その耐熱性は、最も高いテフロン(登録商標)で約250℃であり、これ以上の温度では金属製パッキンを用いなければならず、また、それらには、有機高分子材料のものと比較してフレキシビリティーに劣るという問題点があった。
【0003】
一方、これまで、ラングミュアーブロジェット法(Langmuir−Blodgett Method)を応用した粘土薄膜の作製が行われている(非特許文献1)。しかし、この方法では、粘土薄膜は、ガラス等の材料でできた基板表面上に形成されるものであり、自立膜としての強度を有する粘土薄膜を得ることができなかった。更に、従来、例えば、機能性粘土薄膜等を調製する方法が種々報告されている。例えば、ハイドロタルサイト系層間化合物の水分散液を膜状化して乾燥することからなる粘土薄膜の製造方法(特許文献1)、層状粘土鉱物と燐酸又は燐酸基との反応を促進させる熱処理を施すことによる層状粘土鉱物が持つ結合構造を配向固定した層状粘土鉱物薄膜の製造方法(特許文献2)、スメクタイト系粘土鉱物と2価以上の金属の錯化合物を含有する皮膜処理用水性組成物(特許文献3)、等をはじめ多数の事例が存在する。しかしながら、これまで、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、粘土粒子の積層を高度に配向させた粘土配向薄膜の開発例はなかった。
【0004】
更に、粘土は、水やアルコールに分散し、その分散液をガラス板の上に広げ、静置乾燥することにより粒子の配向の揃った膜を形成することが知られており、この方法でX線回折用の定方位試料が調製されてきた(非特許文献2)。しかしながら、ガラス板上に膜を形成した場合、ガラス板から粘土膜を剥がすことが困難であり、剥がす際に膜に亀裂が生じるなど、自立膜として得ることが難しいという問題があった。また、膜を剥がせたとしても、得られた膜が脆く、強度が不足であり、これまで、ピンホールのない均一の厚さの膜を調製する方法がなかった。そのため、これまで、粘土薄膜については、自立膜として利用可能な機械的強度を有する粘土薄膜とその応用製品の開発がなされてこなかったのが実情であり、当技術分野では、そのような特性を有し、自立膜として利用可能な機械的強度を有する新しい粘土薄膜及びその応用製品を開発することが強く要請されていた。
【0005】
【特許文献1】特開平6−95290号公報
【特許文献2】特開平5−254824号公報
【特許文献3】特開2002−30255号公報
【非特許文献1】梅沢泰史、粘土科学、第42巻、第4号、218−222(2003)
【非特許文献2】白水晴雄「粘土鉱物学−粘土科学の基礎−」、朝倉書店、p.57(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、しかも、優れたフレキシビリティーを有し、250℃を超える高温度条件下で使用できる新しい粘土薄膜及びその応用製品を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、粘土を水あるいは水を主成分とする分散媒である液体に分散させ、例えば、この分散液をトレイに流し込み、水平に静置し、支持体の表面に粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を固液分離手段により分離し、膜状に成形することにより、粘土粒子の積層を高度に配向させた膜を調製できることを見出し、更に、均一な厚さで自立膜として用いることが可能な程度に十分な強度を得るための製造方法とその応用技術を見出し、本発明を完成するに至った。
本発明は、250℃を超える高温条件においてフレキシブリティーに優れ、かつ気体・液体のバリアー性に優れた粘土配向膜からなる新規保護膜を製造し、提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)粘土を主原料とする粘土配向膜からなる保護膜であって、前記粘土配向膜が、1)層状無機化合物を全固形分に対して90〜100重量%含有する、2)ガスバリアー性を有する、及び3)自立膜として利用可能な機械的強度を有する、ことを特徴とする上記保護膜。
(2)上記粘土配向膜が、1)粘土を水あるいは水を主成分とする分散媒である液体に分散し、均一な粘土分散液を調製する、2)この分散液を静置し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を固液分離手段で分離して膜状に形成し、粘土薄膜を作製する、ことにより調製されたことを特徴とする前記(1)記載の保護膜。
(3)粘土として、天然あるいは合成スメクタイト、又はそれらの混合物を用いる、前記(2)記載の保護膜。
(4)粘土分散液の濃度が、0.5〜10重量パーセントである、前記(2)記載の保護膜。
(5)遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥、又は加熱蒸発法を用いて固液分離して膜状に成形し、粘土薄膜を作製する、前記(2)記載の保護膜。
(6)上記分散液を平坦なトレイに注いで水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で、30〜70℃の温度条件下で、分散媒である液体をゆっくり蒸発させて膜状に成形し、粘土配向膜を作製する、前記(2)記載の保護膜。
(7)円、正方形、長方形などの任意の形状を有し、自立膜として利用可能な機械的強度を有することを特徴とする、前記(1)記載の保護膜。
(8)厚さは1mmよりも薄く、面積は1cmよりも大きいことを特徴とする、前記(1)記載の保護膜。
(9)粘土配向膜の主要構成成分が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、又はノントロナイトであることを特徴とする、前記(1)記載の保護膜。
(10)フレキシビリティーに優れ、250℃以上600℃までの高温においても構造変化がなく、ピンホールの存在しないことを特徴とする、前記(1)記載の保護膜。
(11)ヘリウム、水素、酸素、窒素、空気の室温におけるガス透過係数が3.2×10−11cm−1cmHg−1未満であることを特徴とする前記(1)記載の保護膜。
(12)500℃で24時間加熱処理後に、ヘリウム、水素、酸素、窒素、空気の室温におけるガス透過係数が3.2×10−11cm−1cmHg−1未満であることを特徴とする、前記(1)記載の保護膜。
(13)前記(1)から(12)のいずれかに記載の粘土配向膜からなる保護膜を構成要素として含むことを特徴とする耐熱性、高バリアー性部材。
(14)支持体と接着性を有する添加物を含むことを特徴とする、前記(1)記載の保護膜。
【0008】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、希薄で均一な粘土分散水溶液を調製し、該分散液を水平に静置し、支持体の表面に粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、分散媒である液体を種々の固液分離方法、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥、又は加熱蒸発法で分離し、膜状に成形した後、これを支持体から剥離することなく、支持体と一体とすること、その際に、均一な厚さで自立膜として用いることが可能な程度に十分な強度を得るための製造条件を採用すること、により得られる、粘土粒子の積層を高度に配向させた、自立膜として利用可能な機械的強度を有する粘土配向膜を保護膜として利用することを特徴とするものである。
【0009】
次に、まず、本発明の保護膜を構成する粘土配向膜の製造方法について説明する。本発明では、粘土として、天然あるいは合成スメクタイトの何れか、あるいはそれらの混合物を用い、これを水あるいは水を主成分とする液体に加え、希薄で均一な粘土分散液を調製する。粘土分散液の濃度は、好適には、0.5から10重量パーセント、より好ましくは1から7重量パーセントである。このとき、粘土分散液の濃度が薄すぎる場合、乾燥に時間がかかりすぎるという問題点がある。また、粘土分散液の濃度が濃すぎる場合、よく粘土が分散しないため、均一な膜ができないという問題がある。次に、この粘土分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、例えば、分散液である液体をゆっくりと蒸発させ、膜状に成形する。この場合、好適には、例えば、種々の固液分離方法、好適には、例えば、遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥、加熱蒸発法の何れかあるいはこれらの方法を組み合わせて乾燥粘土配向膜を得る。
【0010】
これらの方法のうち、例えば、加熱蒸発法を用いる場合、真空引きにより事前に脱気した分散液をトレイ中の支持体、好ましくはプラスチック製あるいは金属製の支持体に注ぎ、強制送風式オーブン中で、30から70℃の温度条件下、好ましくは40から50℃の温度条件下で、3時間から半日間程度、好ましくは3時間から5時間乾燥して粘土配向膜を得る。これらの乾燥条件は、液体分を蒸発によって取り除くに十分であるように設定される。このとき、温度が低すぎると乾燥に時間がかかるという問題点がある。また、温度が高すぎると対流が起こり、粘土粒子の配向度が低下するという問題点がある。本発明において、粘土粒子の積層を高度に配向させるとは、粘土粒子の単位構造層(厚さ約1ナノメートル)を、層面の向きを一にして積み重ね、層面に垂直な方向に高い周期性を持たせることを意味する。このような粘土粒子の配向を得るためには、希薄で均一な粘土分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、例えば、分散媒である液体をゆっくりと蒸発させ、膜状に成形する必要がある。
【0011】
本発明の粘土配向膜自体は、層状珪酸塩を主原料(90重量%〜)として用い、基本構成として、好適には、例えば、層厚約1nm、粒子径〜1μm、アスペクト比〜300程度の天然又は合成の膨潤性層状珪酸塩が90重量%〜と、分子の大きさ〜数nmの天然又は合成の低分子・高分子の添加物が〜10重量%の構成、が例示される。この粘土配向膜は、例えば、厚さ約1nmの層状結晶を同じ向きに配向させて重ねて緻密に積層することで作製される。得られた粘土配向膜は、膜厚が3〜100μm、好適には3〜30μmであり、ガスバリア性能は、厚さ30μmで酸素透過度0.1cc/m・24hr・atm未満、水素透過度0.1cc/m・24hr・atm未満であり、遮水性は、遮水係数が2×10−11cm/s以下であり、光透過性は、可視光(500nm)の透過性が75%以上であり、面積は100×40cm以上に大面積化することが可能であり、高耐熱性を有し、500℃で24時間加熱処理後もガスバリア性の低下はみられない。曲げこわさは、曲げ反発性試験において2.0mNであり、熱衝撃試験(−40〜100℃、200サイクル)で異状なしであり、体積抵抗率は2.3×107Ω(500V)であり、熱拡散率は1.12×10-7/sであり、熱伝導率は0.27W/m・Kであり、難燃性は、酸素指数が94.0%より高い。
【0012】
本発明では、上記粘土配向膜は、上記特性を利用して、支持体の保護膜として使用される。この場合、支持体としては、上記粘土配向膜をその表面に形成し得るものであれば特に制限されるものではなく、任意の材料及びその製品が用いられる。本発明では、支持体の表面に粘土配向膜を形成させたのち、粘土配向膜を支持体表面から剥離せずに、乾燥し、支持体と一体的に保護膜として利用する。本発明の保護膜は、例えば、上記粘土配向膜の高耐熱性を利用して、支持体に耐熱性を付与する目的で使用されるが、これに制限されるものではなく、上記粘土配向膜の機能と特性を生かした保護膜として広く使用することができるものである。
【0013】
上記粘土配向膜は、例えば、はさみ、カッター等で容易に円、正方形、長方形などの任意の大きさ、形状に切り取ることができる。本発明の保護膜は、上記粘土配向膜から構成され、好適には、厚さは1mmよりも薄く、面積は1cmよりも大きい。また、上記粘土配向膜の主要構成成分は、好適には、例えば、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、又はノントロナイトである。また、本発明の上記粘土配向膜からなる保護膜は、粘土粒子の積層が高度に配向し、ピンホールの存在しないことを特徴とし、フレキシビリティーに優れ、250℃以上600℃までの高温においても構造変化しないことを特徴とする。本発明の上記粘土配向膜は、250℃を超える高温条件下で使用が可能であり、フレキシビリティーに優れており、かつピンホールの存在しない緻密な材料であり、かつ気体・液体のバリアー性に優れるといった特徴を有する。したがって、本発明の上記粘土配向膜からなる保護膜は、例えば、250℃を超える高温条件下で耐熱性に優れた保護膜等として使用することができ、多くの産業分野で、各種部材の耐熱性向上、酸化防止等に利用することができる。
【0014】
ヘリウムガス分子は、あらゆるガス種の中で最も小さく、そのため、ヘリウムガスは、その遮蔽が最も困難である。本発明の上記粘土配向膜からなる保護膜は、種々のガス、すなわち空気、酸素ガス、窒素ガス、水素ガスのみならず、ヘリウムガスに対しても高いガスバリア性を示す。したがって、本発明の上記粘土配向膜からなる保護膜は、有機ガスを含むあらゆるガスに対する遮蔽性を有すると考えられる。また、本発明の保護膜は、粘土配向膜を形成させたのち、支持体表面から剥離せずに支持体の保護膜として用いられるが、これによって、支持体の防食、防汚、耐熱性を向上させる効果がある。この保護膜は、特に、酸素ガスを遮断する効果があることから、支持体の酸化を防ぐ効果が期待され、例えば、金属構造材や金属継ぎ手部分の防錆に利用できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明により、(1)粘土粒子の配向が揃った粘土配向膜からなる保護膜を提供できる、(2)また、従来法では、自立膜として利用可能な機械的強度を有する粘土薄膜を作製することは困難であったが、本発明は、そのような粘土配向膜からなる保護膜を作製し、提供することを可能とするものである、(3)自立膜として利用可能な機械的強度を有し、粘土粒子の積層を高度に配向させた膜からなる保護膜を製造し、提供できる、(4)この保護膜は、250℃を超える高温においても優れたフレキシビリティーを有し、高熱安定性、高バリアー性で、化学的に安定であり、支持体の防食、防汚、耐熱性向上、酸化防止、防錆、電気絶縁性向上、断熱性向上、難燃性向上、等に用いることができる、という格別の効果が奏される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0017】
(1)粘土薄膜の製造
粘土として、1.0gの天然モンモリロナイトである「クニピアP」(クニミネ工業株式会社製)を60cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な粘土分散液を得た。この粘土分散液を、底面が平坦であり、底面の形状が正方形であるトレイ中で、その一辺の長さが約10cmのステンレス製支持体に注ぎ、粘土分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくり沈積させるとともに、支持体の水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約40マイクロメートルの半透明粘土薄膜/支持体を得た。
【0018】
(2)粘土薄膜の特性
この粘土薄膜の走査型電子顕微鏡で観察した写真を図1に示す。図1より、粘土粒子が高度に配向している様子が伺える。この粘土薄膜のX線回折チャートを図2に示す。シャープな一連の底面反射ピーク(001),(002),(003),(004),(005)が、それぞれ1.24,0.62,0.42,0.31,0.21nmの位置に観察され、粘土薄膜の粒子の配向がよく揃っていることが示された。
【実施例2】
【0019】
(粘土薄膜の製造)
粘土として、1.0gの天然モンモリロナイトである「クニピアP」(クニミネ工業株式会社製)の交換性イオンをMgに交換したMgクニピアPを60cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な粘土分散液を得た。この粘土分散液を、底面が平坦であり、底面の形状が正方形であるトレイ中で、その一辺の長さが約10cmのステンレス製支持体に注ぎ、粘土分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくり沈積させるとともに、支持体の水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約70マイクロメートルの半透明粘土薄膜/支持体を得た。
【実施例3】
【0020】
粘土として、1.0gの合成サポナイトである「スメクトン」(クニミネ工業株式会社製)を60cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な粘土分散液を得た。この粘土分散液を、底面が平坦であり、底面の形状が正方形であるトレイ中で、その一辺の長さが約10cmのステンレス製支持体に注ぎ、粘土分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくり沈積させるとともに、支持体の水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で50℃の温度条件下で5時間乾燥して、厚さ約70マイクロメートルの半透明粘土薄膜/支持体を得た。この粘土薄膜の透水係数は、2×10−10cm/secと測定され、高い遮水性が示された。
【実施例4】
【0021】
粘土として、1.0gの天然モンモリロナイトである「クニピアP」(クニミネ工業株式会社製)を60cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な粘土分散液を得た。この粘土分散液を、底面が平坦であり、底面の形状が円形であるトレイ中で、その直径の長さが約15cmの真鍮製支持体に注ぎ、粘土分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくり沈積させるとともに、支持体の水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で50℃の温度条件下で5時間乾燥して、円形の厚さ約70マイクロメートルの半透明粘土薄膜/支持体を得た。
【0022】
この粘土薄膜/支持体と同様の組成と同様の厚さの膜を自立膜として得、この膜の、ヘリウム、水素、酸素、窒素、空気の透過係数を、日本分光株式会社製Gasperm−100で測定した。ヘリウム、水素、酸素、空気の室温におけるガス透過係数は3.2×10-11cm2S-1cmHg-1未満であることが確認され、ガスバリア性能を示すことが分かった。また、この薄膜を1000℃で24時間加熱処理した後においても、ヘリウム、水素、酸素、空気の室温におけるガス透過係数は3.2×10-11cm2S-1cmHg-1未満であることが確認され、高温処理後もガスバリア性能を示すことが分かった。このことから、支持体上に密着して作製された場合においても、粘土薄膜はガスバリア性能を示すことが考えられる。この膜の光透過度を日立製作所U−3310吸光光度計で測定した。光透過度は膜を石英製角型セル中のエタノールに膜を浸漬し、波長500nmの光を用いて測定した。その結果光の透過度は75パーセントと測定された。
【実施例5】
【0023】
粘土として、0.95gの合成サポナイトである「スメクトン」(クニミネ工業株式会社製)を60cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液を、底面が平坦であり、底面の形状が円形であるトレイ中で、その直径の長さが約15cmの真鍮製金属板からなる支持体に注ぎ、分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、支持体の水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で50℃の温度条件下で5時間乾燥して、円形の厚さ約30マイクロメートルの半透明粘土薄膜/支持体を得た。電子顕微鏡観察より、金属板と粘土薄膜界面は隙間なく接しており、手で接触した程度では容易に剥がれなかった。
【実施例6】
【0024】
粘土として、0.96gの合成サポナイトである「スメクトン」(クニミネ工業株式会社製)を60cmの蒸留水に加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、添加物として、イプシロンカプロラクタム(和光純薬工業株式会社製)を0.04グラム加え、激しく振とうし、この分散液を、底面が平坦であり、底面の形状が円形であるトレイ中で、その直径の長さが約15cmの真鍮製金属板からなる支持体に注ぎ、分散液を水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、支持体の水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で50℃の温度条件下で5時間乾燥して、円形の厚さ約30マイクロメートルの半透明粘土薄膜/支持体を得た。
【実施例7】
【0025】
粘土として、0.90gの天然モンモリロナイトである「クニピアP」(クニミネ工業株式会社製)を水に加え、プラスチック製密封容器にテフロン(登録商標)回転子とともに入れ、激しく振とうし、均一な分散液を得た。この分散液に、添加物として、木材との接着性を有する市販の酢酸ビニル樹脂接着剤(酢酸ビニル樹脂41パーセント、水59パーセント)を0.10g加え、激しく振とうし、分散液を得た。分散液の固液重量比は約3パーセントとした。この分散液を、厚さ5ミリメートルの木製板状支持体に厚み約1ミリメートル厚で塗布し、水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、支持体の水平を保った状態で、ドラフト中で、室温で、一晩乾燥して、円形の厚さ約50マイクロメートルの半透明粘土薄膜/支持体を得た。支持体と粘土薄膜界面は隙間なく接しており、手で接触した程度では容易に剥がれなかった。
【産業上の利用可能性】
【0026】
以上詳述したように、本発明は、粘土配向膜からなる保護膜に係るものであり、本発明により、自立膜として利用可能な機械的強度を有し、優れたフレキシビリティーを有し、ピンホールの存在しない緻密な材料であり、優れたバリアー性を有し、250℃を超える高温条件下で使用し得る、化学的に安定な、新規粘土配向膜からなる保護膜を提供することができる。本発明は、粘土の粒子配向を揃えることにより、粘土のバリアー性、耐熱性に優れた保護膜を提供することを可能とする。また、本発明の粘土薄膜からなる保護膜は、自立膜として使用可能な機械的強度を有し、耐熱性及びフレキシビリティーに優れることから、例えば、支持体の防食、防汚、耐熱性向上、酸化防止、防錆電気絶縁性向上、断熱性向上、難燃性向上等として広範な用途に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】クニピアP粘土薄膜の走査電子顕微鏡写真を示す。
【図2】クニピアP粘土薄膜のX線回折チャートを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土を主原料とする粘土配向膜からなる保護膜であって、前記粘土配向膜が、(1)層状無機化合物を全固形分に対して90〜100重量%含有する、(2)ガスバリアー性を有する、及び(3)自立膜として利用可能な機械的強度を有する、ことを特徴とする上記保護膜。
【請求項2】
上記粘土配向膜が、(1)粘土を水あるいは水を主成分とする分散媒である液体に分散し、均一な粘土分散液を調製する、(2)この分散液を静置し、粘土粒子を沈積させるとともに、分散媒である液体を固液分離手段で分離して膜状に形成し、粘土薄膜を作製する、ことにより調製されたことを特徴とする請求項1記載の保護膜。
【請求項3】
粘土として、天然あるいは合成スメクタイト、又はそれらの混合物を用いる、請求項2記載の保護膜。
【請求項4】
粘土分散液の濃度が、0.5〜10重量パーセントである、請求項2記載の保護膜。
【請求項5】
遠心分離、ろ過、真空乾燥、凍結真空乾燥、又は加熱蒸発法を用いて固液分離して膜状に成形し、粘土薄膜を作製する、請求項2記載の保護膜。
【請求項6】
上記分散液を平坦なトレイに注いで水平に静置し、粘土粒子をゆっくりと沈積させるとともに、水平を保った状態で、強制送風式オーブン中で、30〜70℃の温度条件下で、分散媒である液体をゆっくり蒸発させて膜状に成形し、粘土配向膜を作製する、請求項2記載の保護膜。
【請求項7】
円、正方形、長方形などの任意の形状を有し、自立膜として利用可能な機械的強度を有することを特徴とする、請求項1記載の保護膜。
【請求項8】
厚さは1mmよりも薄く、面積は1cmよりも大きいことを特徴とする、請求項1記載の保護膜。
【請求項9】
粘土配向膜の主要構成成分が、雲母、バーミキュライト、モンモリロナイト、鉄モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、スチーブンサイト、又はノントロナイトであることを特徴とする、請求項1記載の保護膜。
【請求項10】
フレキシビリティーに優れ、250℃以上600℃までの高温においても構造変化がなく、ピンホールの存在しないことを特徴とする、請求項1記載の保護膜。
【請求項11】
ヘリウム、水素、酸素、窒素、空気の室温におけるガス透過係数が3.2×10−11cm−1cmHg−1未満であることを特徴とする請求項1記載の保護膜。
【請求項12】
500℃で24時間加熱処理後に、ヘリウム、水素、酸素、窒素、空気の室温におけるガス透過係数が3.2×10−11cm−1cmHg−1未満であることを特徴とする、請求項1記載の保護膜。
【請求項13】
請求項1から12のいずれかに記載の粘土配向膜からなる保護膜を構成要素として含むことを特徴とする耐熱性、高バリアー性部材。
【請求項14】
支持体と接着性を有する添加物を含むことを特徴とする、請求項1記載の保護膜。


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−77237(P2006−77237A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−232664(P2005−232664)
【出願日】平成17年8月10日(2005.8.10)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】