説明

粘度発現性を改良した増粘用組成物

【課題】水を含む目的物に少量添加し、速やかに粘性を発現する事が可能であり、消費者の作業時間を大幅に短縮できる増粘用組成物を提供する事。
【解決手段】キサンタンガムの粉末表面にカリウム塩が結着したキサンタンガムを含有することを特徴とする増粘用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水分を含む目的物に添加して簡便に粘性を発現させる増粘用組成物に関わり、特に清涼飲料、たれ、ソース、ドレッシング、汁物、ムース、ゼリー等を簡便に増粘させる食品用途や、摂食障害により咀嚼・嚥下困難となった患者の食事等に少量添加して粘性を発現させる用途に適した粘度発現性を向上した増粘用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
キサンタンガムは冷水可溶性で、得られた溶液は強いシュードプラスチック粘性を示す。この溶液はゲルに似た弱いネットワークを形成していると考えられ、そのため比較的低粘度で不溶性固形分や油脂の分散・乳化安定性に非常に優れている。また、耐熱・耐酸・耐凍結性に優れている。各種耐性が高いためキサンタンガムは食品・化粧品・薬品等様々な業界で使用されている。
【0003】
キサンタンガムを効果的に使用するためには、まず完全に水和させることが必要であり完全に水和して初めて粘度が発現する。一般消費者等がキサンタンガムを食品等に使用する際には、キサンタンガムの表面のみが溶解し、内部は粉末の状態で残る、いわゆる“ダマ”の状態になりやすく、ダマになったキサンタンガムは水和が不完全で、その機能を発揮できない状態になりやすい。
【0004】
キサンタンガムを水和した際、粘度の発現する速度は、キサンタンガムの粒径が細かくなるほど速く、粒径が大きくなるほど遅くなる傾向になる。また、粒径が細かいキサンタンガムは表面積が広くなり、水に分散させる際顕著にダマになり易い性質となるため完全に水和させる為には分散溶解するための器具等が必要になる。このように、キサンタンガムを確実に分散・溶解させることは困難を伴う。
【0005】
通常キサンタンガムを水に分散・溶解する技術として、エタノールに分散し、水等の目的物に分散・溶解する技術や、ディスパー等の撹拌・溶解装置を用いて強く撹拌することでダマにならずに溶解する方法が知られている。これは、工業的に用いられる方法であり、ある程度の熟練が必要な上に、家庭等の設備がない環境下では困難であった。
【0006】
また、水溶性多糖類と乳化剤をバインダー溶液として顆粒化し溶解性を向上させる技術(例えば特許文献1)も発表されているが、投入方法によってはダマが発生し、また必ずしも簡単に溶解できるものではなく、さらに簡単に分散・溶解しすばやく所望の粘度が得られる組成物が要望されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3186737号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、従来の粉末のようにダマになることがなく、また所望の粘度がすばやく発現する組成物が求められている。特に咀嚼・嚥下困難者の介護食や訓練食に粘性を与えるキサンタンガムとして、そのような特性が強く求められる。本発明は、水を含む目的物に少量添加し、速やかに粘性を発現する事が可能であり、消費者の作業時間を大幅に短縮できる増粘用組成物を提供する事を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、このような状況に鑑みキサンタンガムの粘度発現性の向上及び溶解性の改善に鋭意検討を行なった結果、キサンタンガムを溶解させる場合に、塩類濃度によって溶解が抑制する点に着目し、キサンタンガム表面にカリウム塩を結着すること、例えば塩化カリウム溶液を噴霧・乾燥することによりキサンタンガムの表面が改質し表面のみの溶解が抑制されることで、キサンタンガムの水への分散性が著しく向上し、水に分散したキサンタンガムはすばやく粘性が発現することを発見した。この現象は、キサンタンガム表面にカリウム塩を結合することが必須であり、キサンタンガムにカリウム塩粉末を粉体混合する工程では粘度発現性の向上効果は見られない。
【発明の効果】
【0010】
キサンタンガムの粉体表面にカリウム塩を結合させることによりキサンタンガム表面の水濡れ性が改善され、水への分散性が著しく向上しピーク粘度への列達速度も著しく改善することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】粘度到達割合の図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明には、食品添加物に認可されているキサンタンガムとカリウム塩が用いられる。
【0013】
本発明におけるキサンタンガムとは、微生物キサントモナス・キャンペストリス(Xanthomonas campestris)がブドウ糖等を発酵して、その菌体外に蓄積した多糖類を精製し粉末にした天然のガム質である。
【0014】
本発明におけるカリウム塩とは、一般的に食品に使用されるもので塩化カリウム、クエン酸一カリウム、クエン酸三カリウムDL−酒石酸水素カリウム、L−酒石酸水素カリウム、炭酸カリウム、ピロリン酸四カリウム、ポリリン酸カリウム、メタリン酸カリウム、リン酸三カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウムからなる群より選ばれる少なくとも1種以上であれば特に限定するものではないが、より溶解性が向上する点より塩化カリウムが好ましい。
【0015】
本発明における結着は、キサンタンガム粒子表面へのカリウム塩の粒子結合状態をいい、キサンタンガム粒子表面にカリウム塩が結晶状態で粒子結合した状態で、すなわち、キサンタンガム表面にカリウム塩がバインダーとして結合、またはコーティング剤として結合している状態を含む。具体的には、60メッシュ上で30秒間振動させても粒子結合を維持している状態であり、振動により崩された60メッシュの篩をパスする微粉末が20重量%以下であることが好ましく、15重量%以下であることがより好ましく、10重量%以下であることがさらに好ましい。なお、一般的なキサンタンガムや塩化カリウムの粉末の粒子サイズは60メッシュよりも細かいものであり、単にキサンタンガムと塩化カリウムの粉末を混合した粉末を60メッシュで篩った場合、理論的には100%の粉末が篩を通過することになる。
【0016】
結着の方法として特に限定するものではないが、キサンタンガムとカリウム塩粒子を湿潤することにより結着させ乾燥する方法や、カリウム塩溶液をキサンタンガム粉末に均一噴霧し乾燥する方法等が挙げられ、キサンタンガム粒子表面へカリウム塩を結着させることができ、キサンタンガムにカリウム塩を均一に結合することができる点でキサンタンガムにカリウム塩溶液を噴霧後流動乾燥することが好ましい。流動乾燥の方法については特に限定するものではないが、塩化カリウム1から10重量%水溶液をバインダーとして噴霧後流動乾燥することが望ましい。カリウム塩の結着量は、キサンタンガム100重量部に対してカリウム塩が0.5重量部以上7重量部以下結着していることが好ましく、1重量部以上7重量部以下結着していることがより好ましい。7重量部を越えると粒子の吸湿性が高くなるために、粘度発現が遅くなるため好ましくない。0.5重量部未満ではカリウム塩の結着量が少なく、粘度発現が促進されないため好ましくない。
【0017】
本発明におけるピーク粘度とは、キサンタンガムが理想的な状態で分散・溶解した際に発する粘度数値のことである。具体的にはキサンタンガムの一定量を水一定量に分散溶解させた際、キサンタンガムを水に投入した直後から時間の経過とともに粘度は上昇する傾向がみられるが、この上昇傾向は一定時間経過後認められなくなり、その時の粘度をピーク粘度とした。例えば、キサンタンガム1gを20℃の水99gに添加し、一定時間攪拌後(30秒間、600r/min)静置させると、粘度は上昇を開始し30分程度経過時に一定粘度で安定化する。この粘度をピーク粘度と称した。本発明では、カリウム塩の結着したキサンタンガムを用いた場合にピーク粘度の90%以上に達するまでの所要時間が添加後2分以内であり、ピーク粘度の90%以上に達するまでの所要時間が添加後10分以上かかる表面処理をしていない顆粒キサンタンガムと比較すると、実際に消費者が手撹拌でトロミ剤を調製した場合の作業時間は大幅に短縮される。また、カリウム塩の結着したキサンタンガムと、表面処理をしていない顆粒キサンタンガムとを比較すると、ダマにならずに分散・溶解するため、すばやく粘度が発現する事実を実感することが可能となる。
【0018】
本発明の増粘用組成物は、カリウム塩が結着した改質キサンタンガムを含有するものであれば特に限定するものではないが、例えばグアーガム、酵素分解グアーガム、カラギナン、カラヤガム、CMCナトリウム、アルギン酸ナトリウム、加工澱粉、デキストリンより選ばれる少なくとも1種以上を使用することができる。使用されるデキストリンは特に限定されるものではないが、分散性の観点からDE(Dextrose Equivalent)が6から30が好ましく、6から25がより好ましい。
【0019】
以下、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0020】
<バインダー溶液の調製>
50℃のイオン交換水95gに塩化カリウム5gを撹拌溶解した。
【0021】
<噴霧工程>
キサンタンガム100gを流動状態に調整し、塩化カリウム溶液50gを噴霧した。噴霧終了後得られた顆粒を流動乾燥しキサンタンガム組成物94.3gを得た。容量100mlの容器にすりきり1杯組成物を充填し、充填された顆粒の重量を測定した。顆粒の重量は41gであり、かさ比重は0.41g/mlであった。また、得られた顆粒20gを内径150mmの60メッシュJIS標準篩上で30秒間振動(OCTAGON200型、(株)飯田製作所製、振動幅2〜3mm、3600回/分)させ粒子の結着度合いを確認した結果、60メッシュを通過した粉末は20g中2.04gであり、結着度の低いキサンタンガムと塩化カリウムの割合は10.2重量%であった。残る89.8重量%は結着していることが確認された。一方、原子吸光光度法で、流動乾燥後の顆粒、60メッシュの篩上に残存した顆粒及び60メッシュを通過した粉末、それぞれ100g中のカリウム含量を測定した。結果、流動乾燥後の顆粒には1600mg、60メッシュの篩上に残存した顆粒には1600mg、60メッシュを通過した粉末には1600mgのカリウムが含有されており、上記キサンタンガム組成物にはカリウムが均一に結着していることが確認された。
【0022】
比較例1
実施例1と同様の条件で塩化カリウム溶液をイオン交換水に代替し比較品を調製した。
【0023】
<噴霧工程>
キサンタンガム100gと実施例1の塩化カリウムと同量の塩化カリウムの粉末2.5gを流動状態に調整し、イオン交換水50gを噴霧した。噴霧終了後得られた顆粒を流動乾燥しキサンタンガム組成物92gを得た。容量100mlの容器にすりきり1杯組成物を充填し、充填された顆粒の重量を測定した。顆粒の重量は45gであり、かさ比重は0.45g/mlであった。また、得られた顆粒20gについて、実施例1と同様にして、結着度合いを確認した結果、60メッシュを通過した粉末は20g中4.18gであり、結着度の低いキサンタンガムと塩化カリウムの割合は20.9重量%であった。一方、原子吸光光度法で、実施例1と同様に、流動乾燥後の顆粒、60メッシュの篩上に残存した顆粒及び60メッシュを通過した粉末、それぞれ100g中のカリウム含量を測定した。結果、流動乾燥後の顆粒には1600mg、60メッシュの篩上に残存した顆粒には1400mg、60メッシュを通過した粉末には2500mgのカリウムが含有されており、上記キサンタンガム組成物には均一にカリウムが結着していないことから、結着の弱い塩化カリウムが過剰に60メッシュを通過することが確認された。
【0024】
試験例1
低回転ディスパー(特殊機化工業製)を使用し、20℃のイオン交換水99gに対して、実施例1及び比較例1で得られた顆粒1gを600r/minで撹拌中に一気に投入し30秒間撹拌を続けた。その後、静置して2分、5分、10分、30分経過時点の粘度をB形粘度計(東京計器製:回転速度12r/min、30秒後、No.3ローター)で測定した。測定結果は、30分後の粘度測定結果を100%として“測定結果÷30分後の粘度×100”で粘度到達率の100分率で表した。実施例1、比較例1の測定結果を表1に、粘度到達率を図1に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
実施例1ではキサンタンガムと塩化カリウムの結着度合が高く、キサンタンガム粉末表面が改質されている割合が高い為水への分散性が優れ、弱い撹拌条件でもダマの発生が無く均一に分散・溶解しすばやく粘度が発現した。比較例1では塩化カリウムの結着度合いが低く、キサンタンガム粉末表面が改質されている割合が低い為分散性が劣り、攪拌時にダマが発生し30分経過後にほぼピーク粘度に達する程度であった。
【0027】
試験例2[飲食品への使用例]
実施例1で調製したキサンタンガム顆粒を用い、表2に示した配合でフレンチドレッシングを調製した。各種の原料を簡単に混ぜ合わせることで混合後すぐに粘性が発現・安定し溶解30分経過後も粘度の変化は認められなかった。
【0028】
【表2】

【0029】
なお、本発明の態様として、以下のものが挙げられる。
〔1〕 キサンタンガムの粉末表面にカリウム塩が結着したキサンタンガムを含有することを特徴とする増粘用組成物。
〔2〕 結着の方法がキサンタンガムにカリウム塩溶液を噴霧後流動乾燥することを特徴とする前記〔1〕記載の増粘用組成物。
〔3〕 キサンタンガム100重量部に対してカリウム塩0.5重量部以上7重量部以下結着していることを特徴とする前記〔1〕または〔2〕記載の増粘用組成物。
〔4〕 前記〔1〕から〔3〕いずれかにおいて記載のカリウム塩の結着したキサンタンガムを、20℃のイオン交換水99重量部に対して1重量部添加した際に、ダマにならずに分散・溶解し添加後2分でピーク粘度の90%以上に達することを特徴とする、前記〔1〕〜〔3〕いずれか記載の増粘用組成物。
〔5〕 前記〔1〕から〔4〕いずれか記載の増粘用組成物を含有することを特徴とする飲食品。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、キサンタンガムの溶解にかかる時間を著しく短縮したことに加え、従来熟練を要した溶解作業を、家庭等で特別の技術、設備を必要とせずに溶解できる事を可能にした発明である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
キサンタンガムの粉末表面にカリウム塩が結着したキサンタンガムを含有することを特徴とする増粘用組成物。
【請求項2】
結着の方法がキサンタンガムにカリウム塩溶液を噴霧後流動乾燥することを特徴とする請求項1記載の増粘用組成物。
【請求項3】
キサンタンガム100重量部に対してカリウム塩0.5重量部以上7重量部以下結着していることを特徴とする請求項1または2記載の増粘用組成物。
【請求項4】
請求項1から3いずれかにおいて記載のカリウム塩の結着したキサンタンガムを、20℃のイオン交換水99重量部に対して1重量部添加した際に、ダマにならずに分散・溶解し添加後2分でピーク粘度の90%以上に達することを特徴とする、請求項1〜3いずれか記載の増粘用組成物。
【請求項5】
請求項1から4いずれか記載の増粘用組成物を含有することを特徴とする飲食品。

【図1】
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【公開番号】特開2010−81943(P2010−81943A)
【公開日】平成22年4月15日(2010.4.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−9431(P2010−9431)
【出願日】平成22年1月19日(2010.1.19)
【分割の表示】特願2006−520433(P2006−520433)の分割
【原出願日】平成18年3月8日(2006.3.8)
【出願人】(000204181)太陽化学株式会社 (244)
【Fターム(参考)】