説明

粘弾性ダンパーの製造方法

【課題】粘弾性体の接着性や充填性を良好とする。
【解決手段】アウター金具2の各半割金具5を、その横断面で左右両側に拡開部6,6が形成される左右対称形とする一方、インナー金具3を、その横断面での左右両側面に突出部11,11が形成される左右対称形として、各半割金具5,5とインナー金具3との間に形成される充填空間12の左右両側を、夫々インナー金具3を上下に二分する水平方向の中心線との交点が最も外方に位置する突出形状とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筒状のアウター金具内に筒状のインナー金具を遊挿させ、両金具の重合部間に粘弾性体を接着してなる粘弾性ダンパーを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粘弾性体ダンパーは、例えば特許文献1,2に示すように、横断面が矩形のインナー金具を、同じく横断面が矩形のアウター金具に遊挿させ、両金具の重合部間に粘弾性体を接着してなり、軽量鉄骨構造の軸組フレーム内でブレース状に架設される。また、特許文献3のように横断面を円形とした粘弾性ダンパーもよく用いられている。
図5(A)に従来の粘弾性ダンパー40を示す。アウター金具41は、横断面がコ字状となる一対の半割金具42,42をボルト等で対向状に組み付けることで形成されるものがよく知られている。43はインナー金具、44は粘弾性体である。この粘弾性ダンパー40の製造は、同図(B)に示すように、図示しない下型にセットした一方の半割金具42上に、上下に板状の粘弾性体44,44を被せたインナー金具43をセットして、その上に他方の半割金具42をセットした状態で、図示しない上型を下降させて同図(C)のようにプレスを行い、粘弾性体44を両金具間に接着させる工程となっている。また、アウター金具に夫々板状の粘弾性体を接着、プレスして一体化しておき、これをインナー金具に上下から組み付けてプレスを行うプレインジェクションや、筒状のアウター金具とインナー金具とを組み付けた状態で両金具間の充填空間に粘弾性体を注入するインジェクションもよく行われている。
【0003】
【特許文献1】特開2006−283375号公報
【特許文献2】特開2006−283374号公報
【特許文献3】特公平5−2074号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
まずプレスによる場合、半割金具42,42間にインナー金具43及び粘弾性体44,44をセットする際、半割金具42,42とインナー金具43との左右に形成される充填空間に、やや厚めの粘弾性体44を夫々押し込む必要があるため、セッティングがやりにくく、作業効率の低下を招いていた。
また、専ら上下方向に圧力が加わるため、アウター金具41とインナー金具43との間に形成される充填空間の左右の側面側では圧力が加わりにくく、接着が不安定となったり、図5(C)の矢印で示すように直角のコーナー部から左右の側面側へ粘弾性体が十分に流れずに充填性が悪くなったりして減衰性能や耐久性が低下する等、必要な特性が得られないおそれがある。このような接着性や充填性の問題はプレインジェクションやインジェクションの場合も同様に起こり得る。特許文献3のように横断面を円形とすればこれらの問題は改善されるが、粘弾性ダンパーの横断面での上下寸法が大きくなってしまうため、軸組フレームの厚み内に収めることが難しく、設計上の制約が生じる。
【0005】
そこで、本発明は、粘弾性体の接着性や充填性も良好となり、プレスの際のセッティングも容易に行える粘弾性ダンパーの製造方法を提供することを目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、筒状のアウター金具を形成する上下一対の半割金具の間に、筒状のインナー金具と、そのインナー金具を上下から囲む一対の粘弾性体とをセットして上下方向にプレスし、各半割金具とインナー金具との間に粘弾性体を接着させる粘弾性ダンパーの製造方法であって、各半割金具を、その横断面での左右両側に、対向する半割金具側へ近づくに従って徐々に左右方向の外方へ広がる拡開部が形成される左右対称形とする一方、インナー金具を、その横断面での左右両側面に、上下の半割金具の拡開部に合わせてインナー金具を上下に二分する水平方向の中心線へ近づくに従って徐々に左右方向の外方へ突出する突出部が形成される左右対称形として、各半割金具間へのインナー金具のセット状態で各半割金具とインナー金具との間に形成される空間の左右両側が、夫々前記中心線との交点が最も外方に位置する突出形状となるものを用いることを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1の目的に加えて、半割金具及びインナー金具の簡単な形状変更で粘弾性体の接着性や充填性を良好とするために、各半割金具とインナー金具との間に形成される空間が、横断面で上下が平行となる六角形状に形成されるようにしたことを特徴とする。
【0007】
上記目的を達成するために、請求項3に記載の発明は、筒状のアウター金具の内部に筒状のインナー金具を遊挿させ、両金具間に形成される空間に粘弾性体を充填して両金具間に接着させる粘弾性ダンパーの製造方法であって、アウター金具及びインナー金具を、その横断面での左右両側に、夫々金具を上下に二分する水平方向の中心線へ近づくに従って徐々に左右方向の外方へ突出する突出部が形成される左右対称形として、両金具間に形成される空間の左右両側が、夫々前記中心線との交点が最も外方に位置する突出形状となるものを用いることを特徴とする。
請求項4に記載の発明は、請求項3の目的に加えて、アウター金具とインナー金具との簡単な形状変更で粘弾性体の接着性や充填性を良好とするために、両金具間に形成される空間は、横断面で上下が平行となる六角形状に形成されるようにしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
請求項1及び3に記載の発明によれば、粘弾性体の接着性や充填性が良好となり、減衰性能や耐久性等の必要な特性が維持できる。また、プレスの場合はそのセッティングが容易に行えるので、作業効率の向上も期待できる。さらに、従来の矩形に対して上下方向(厚み方向)での寸法を変更する必要がないため、軸組フレームの厚み内に収めることができ、設計上の制約も生じにくい。
請求項2及び4に記載の発明によれば、上記効果に加えて、金具の簡単な形状変更で粘弾性体の接着性や充填性を良好とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
[形態1]
図1は、本発明の粘弾性ダンパーの製造方法で製造された粘弾性ダンパーの説明図で、上が平面、下が側面を夫々示す。図2はA−A線の拡大断面図である。
この粘弾性ダンパー1は、上下一対の半割金具5,5を組み付けてなる筒状のアウター金具2と、そのアウター金具2より一回り小さく、アウター金具2に一端側から同軸で部分的に遊挿される筒状のインナー金具3と、両金具2,3の重合部分で両金具2,3間の全面に充填されて両金具2,3との対向面が接着される粘弾性体(例えばスチレン系、図1では点線網状に示す)4とを有する。
【0010】
アウター金具2を形成する半割金具5は、その横断面での左右両側に、対向する半割金具5側へ近づくに従って徐々に左右方向の外方へ広がる拡開部6,6が形成される左右対称のコ字状を呈し、一対の半割金具5,5の開放側を向かい合わせにして、各拡開部6の長手方向の全長に亘って延設されたフランジ7,7同士をボルト8及びナット9で接合したものである。また、インナー金具3側と反対側の端部には、横断面コ字状の一対の取付金具10,10が、夫々開放側が外向きとなる背中合わせにした状態でアウター金具2の内面に溶接されている。
【0011】
一方、インナー金具3の横断面での左右両側面には、半割金具5の拡開部6の形状に合わせて当該金具を上下に二分する水平方向の中心線Lへ近づくに従って徐々に左右方向の外方へ突出する山形の突出部11,11が夫々形成されている。よって、アウター金具2とインナー金具3との間に形成される粘弾性体4の充填空間12は、左右両側では中心線Lとの交点が最も外方に位置する山形の突出形状(ここでは上下が平行となる六角形状)に形成されている。
また、インナー金具3におけるアウター金具2側と反対側の端部にも、中心線上にボルト孔14,14を穿設した平板状の取付金具13が、インナー金具3の端部から両短手側面の中央に形成された切り込み15,15に差し込まれた状態で溶接されている。
【0012】
以上の如く構成された粘弾性ダンパー1の製造方法を説明する。
図3(A)に示すように、まずアウター金具2の一方の半割金具5を、開放側を上にした状態で図示しない下型にセットし、その半割金具5上に、上下に分けた板状の粘弾性体4,4とインナー金具3とを、粘弾性体4,4でインナー金具3を挟んだ状態でセットして、最後に他方の半割金具5を上から被せるようにセットする。このとき、半割金具5の左右両側には拡開部6が、インナー金具3の左右両側面には突出部11が夫々形成されているので、インナー金具3及び粘弾性体4のセッティングの際に無理な押し込みを行う必要がなく、短時間で正確且つ容易に行える。
【0013】
そして、セッティング後、図示しない上型を上方から下降させて所定の圧力でプレスして加熱し、図3(B)に示すように、粘弾性体4をアウター金具2の半割金具5とインナー金具3との間に接着させる。このとき、充填空間12においては、左右両側が外方へ突出(傾斜)していることで、当該部分にも上下方向の圧力が加わる。よって、充填空間12の左右両側での接着性も高まる。また、同図矢印のように外方への傾斜によって材料がコーナー部を流れやすくなるため、左右両側への充填もスムーズになされる。
こうして粘弾性体4の接着後、半割金具5,5のフランジ7,7同士をボルト8及びナット9で接合し、取付金具10,13を夫々取り付ければ粘弾性ダンパー1は完成する。
【0014】
このように、上記形態1の粘弾性ダンパーの製造方法によれば、各半割金具5を、その横断面での左右両側に拡開部6,6が形成される左右対称形とする一方、インナー金具3を、その横断面での左右両側面に突出部11が形成される左右対称形として、充填空間12を、左右両側が夫々中心線Lとの交点が最も外方に位置する突出形状となる六角形状としたことで、粘弾性体4の接着性や充填性が良好となり、減衰性能や耐久性等の必要な特性が維持できる。また、プレスの際のセッティングが容易に行えるので、作業効率の向上も期待できる。さらに、従来の矩形に対して上下方向(厚み方向)での寸法を変更する必要がないため、軸組フレームの厚み内に収めることができ、設計上の制約も生じにくい。
特にここでは、充填空間12を横断面で上下が平行となる六角形状に形成されるようにしているので、半割金具5及びインナー金具3の簡単な形状変更で上記効果を得ることができる。
【0015】
[形態2]
上記形態1では、プレスによる粘弾性ダンパーの製造方法を説明しているが、インジェクションによる製造方法でも本発明の適用は可能である。すなわち、図4(A)は当該製造方法の一例を示す横断面図で、筒状のアウター金具21の内部に筒状のインナー金具22を遊挿させ、両金具21,22間に形成される充填空間23に粘弾性体24を注入して両金具21,22間に接着させることで、粘弾性ダンパー20が製造される。25は、アウター金具21の上下面中央で夫々長手方向に沿って所定間隔で形成された材料注入孔、26は、アウター金具21の左右の側面中央で同じく長手方向に沿って所定間隔で形成されたオーバーフロー孔である。
【0016】
そして、ここでは、アウター金具21及びインナー金具22を、その横断面での左右両側に、夫々金具を上下に二分する水平方向の中心線Lへ近づくに従って徐々に左右方向の外方へ突出する山形の突出部27,28が形成される左右対称形として、充填空間23を、その左右両側では夫々中心線Lとの交点が最も外方に位置する突出形状(上下が平行な六角形状)に形成している。
なお、図4(B)は、従来のインジェクションによる製造方法を示すもので、ここでの粘弾性ダンパー30は、アウター金具31とインナー金具32とが夫々矩形断面である点で図4(A)と異なっている。
従って、同図(B)の粘弾性ダンパー30の場合、矩形のコーナー部分で材料が流れにくく、充填空間の左右の側面側まで材料が十分に充填しないおそれがあるが、同図(A)の粘弾性ダンパー20では、コーナー部分が全て鈍角となるために材料の流れがスムーズとなり、充填空間23の左右の側面側まで材料が均等に充填されることになる。
【0017】
このように、上記形態2のインジェクションによる粘弾性ダンパーの製造方法によっても、粘弾性体の接着性や充填性が良好となり、減衰性能や耐久性等の必要な特性が維持できる。また、従来の矩形に対して上下方向(厚み方向)での寸法を変更する必要がないため、軸組フレームの厚み内に収めることができ、設計上の制約を受けにくくなる、という形態1と同様の効果が得られる。特に、充填空間23を上下が平行な六角形状としているので、アウター金具21とインナー金具22との簡単な形状変更で上記効果が得られる。
【0018】
さらに、本発明は、プレインジェクションによる製造方法であっても同様である。すなわち、左右両側に拡開部が形成される左右対称形の半割金具を用いて、ここにまず板状の粘弾性体を接着してプレスによって一体化させた後、両半割金具間に、横断面での左右両側面に外方への突出部が形成された左右対称形のインナー金具をセットして、六角形状の充填空間内でプレスするようにしても、プレスやインジェクションの場合と同様の効果が得られる。
【0019】
なお、上記形態1,2では、アウター金具とインナー金具との間の空間が上下に扁平な六角形状となる粘弾性ダンパーで説明しているが、当該空間が正六角形となるものでも差し支えないし、拡開部や突出部が外側へ膨らむ湾曲状であってもよい。勿論半割金具同士の接合や取付金具の形態等も上記形態に限らず、例えば半割金具同士をかしめ接合や溶接によって接合する等、適宜設計変更可能である。
また、当該空間は六角形状に限らず、その左右両側において水平方向の中心線との交点が最も外方に位置する突出形状となるのであれば、例えば横断面で長円形状や楕円形状(突出部が尖端状となるものも含む)等の他の形状を採用してもよい。このような変更例でも粘弾性体の接着性や充填性の向上が図られ、プレスの際のセッティングも容易となる。 特に上記形態2では、横断面で上下が平行となる八角形状(正八角形や上下に扁平な八角形等)となるものが好適に採用できる。この場合も金具の簡単な形状変更で粘弾性体の接着性や充填性が良好となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】形態1の粘弾性ダンパーの説明図である。
【図2】A−A線断面図である。
【図3】形態1の粘弾性ダンパーの製造方法を示す説明図で、(A)がセッティング状態を、(B)がプレス状態を夫々示す。
【図4】(A)は形態2の粘弾性ダンパーの製造方法を示す説明図、(B)は従来の粘弾性ダンパーの製造方法を示す説明図である。
【図5】(A)は従来の粘弾性ダンパーの横断面図を、(B)はその製造方法におけるセッティング状態を、(C)はプレス状態を夫々示す。
【符号の説明】
【0021】
1,20・・粘弾性ダンパー、2,21・・アウター金具、3,22・・インナー金具、4,24・・粘弾性体、5・・半割金具、6・・拡開部、7・・フランジ、11,27,28・・突出部、12,23・・充填空間、25・・材料注入孔、26・・オーバーフロー孔。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状のアウター金具を形成する上下一対の半割金具の間に、筒状のインナー金具と、そのインナー金具を上下から囲む一対の粘弾性体とをセットして上下方向にプレスし、前記各半割金具とインナー金具との間に前記粘弾性体を接着させる粘弾性ダンパーの製造方法であって、
前記各半割金具を、その横断面での左右両側に、対向する半割金具側へ近づくに従って徐々に左右方向の外方へ広がる拡開部が形成される左右対称形とする一方、前記インナー金具を、その横断面での左右両側面に、前記上下の半割金具の拡開部に合わせて前記インナー金具を上下に二分する水平方向の中心線へ近づくに従って徐々に左右方向の外方へ突出する突出部が形成される左右対称形として、
前記各半割金具間への前記インナー金具のセット状態で前記各半割金具とインナー金具との間に形成される空間の左右両側が、夫々前記中心線との交点が最も外方に位置する突出形状となるものを用いることを特徴とする粘弾性ダンパーの製造方法。
【請求項2】
各半割金具とインナー金具との間に形成される空間は、横断面で上下が平行となる六角形状に形成されるようにしたことを特徴とする請求項1に記載の粘弾性ダンパーの製造方法。
【請求項3】
筒状のアウター金具の内部に筒状のインナー金具を遊挿させ、前記両金具間に形成される空間に粘弾性体を充填して両金具間に接着させる粘弾性ダンパーの製造方法であって、
前記アウター金具及びインナー金具を、その横断面での左右両側に、夫々金具を上下に二分する水平方向の中心線へ近づくに従って徐々に左右方向の外方へ突出する突出部が形成される左右対称形として、
前記両金具間に形成される空間の左右両側が、夫々前記中心線との交点が最も外方に位置する突出形状となるものを用いることを特徴とする粘弾性ダンパーの製造方法。
【請求項4】
両金具間に形成される空間は、横断面で上下が平行となる六角形状に形成されるようにしたことを特徴とする請求項3に記載の粘弾性ダンパーの製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2008−240814(P2008−240814A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−79676(P2007−79676)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【出願人】(000198787)積水ハウス株式会社 (748)
【Fターム(参考)】