説明

粘弾性測定用治具及びそれを用いた粘弾性測定方法

【課題】 揮発成分を含む試料の粘弾性を揮発や硬化などの試料が変化する過程において連続的に精度よく測定することが可能な粘弾性測定用治具及びこれを用いた粘弾性測定方法を提供するものである。
【解決手段】 回転軸と、前記回転軸の先端に同心的に取り付けられた円形体とを有する粘弾性測定用治具であって、前記円形体が回転軸方向の投影面積のうち20〜80%の切り欠き部分を有する円形体である粘弾性測定用治具。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘弾性測定用の治具に関するものであり、揮発成分を含む試料の粘弾性を揮発や硬化などの試料が変化する過程において連続的に精度よく測定することが可能な粘弾性測定用治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、粘弾性測定装置として、回転型レオメータがあり、回転型レオメータは、台の上に試料をセットし、試料に接触させた平行円板に一定角周波数で正弦波のトルクを加え、発生する正弦波角度変位を測定すること、又は試料に一定角周波数の正弦波変位を加え、発生する正弦波トルクを測定することで、試料の粘弾性を測定するものである。
そして、この回転型レオメータの治具は、例えば、特許文献1に記載されているような円板であり、円板を用いると試料と治具との接触面積を多くすることができ、粘弾性の測定の精度を高めることができるという利点がある。
【0003】
しかしながら、例えば、揮発成分を含有し、時間の経過や加熱により乾燥、硬化する材料である塗料のように、時間や加熱により状態や物性が変化するような試料の粘弾性を測定する場合、上記したような一般的な円板の治具を用いると、治具の円板がいわゆる蓋として機能し、試料の表面から溶媒等の揮発成分の揮発が抑えられ、揮発により粘弾性が変化する過程を測定することが困難であり、その材料を通常使用する状態での粘弾性変化が反映されなかったり、塗料設計に必要なデータが得られなかったりするという問題があった。
【0004】
例えば、試料の粘弾性の変化過程を測定するためには、あらかじめ多数の試料を用意し、所定時間経過したところで、試料をレオメータ等にセットし、円板を試料に接触させて粘弾性を測定し、さらに所定時間経過したところで、別の試料をレオメータ等にセットして粘弾性を測定し、この操作を繰り返す等しなければならず、測定作業が煩雑であり、かつ統一した条件で測定することが困難であり、粘弾性の細かい変化を把握できないという問題があった。
さらに、この円板を用いる測定方法は、密閉系であり、揮発成分が測定セル内に滞在するため、測定中に、試料に泡が残存することがあるという問題もあった。
【0005】
この点、非特許文献1には、8枚の羽を持つ横断面が車軸状のウイングプレートを治具として用いて塗料の粘弾性を測定する旨が記載されている。そして、同文献には、このウイングプレートを用いると、開放系で粘弾性を測定することができるので、試料に泡が残存することがなく、塗料中の溶媒が揮発して塗料の状態が変化する過程の粘弾性を測定することができる旨が記載されている。
【0006】
【特許文献1】特開2007−24744号公報
【非特許文献1】DNTコーティング技術報文−2、大日本塗料株式会社、2002年10月発行、第6〜9頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、このウイングプレートを用いて、塗料の粘弾性を測定してみると、治具と試料とが接触する面積が少なく、円板を用いる方法よりは、溶媒の揮発が起こり、塗料の状態変化に伴う粘弾性の変化をある程度測定することができるものの、塗料として通常使用する状態での粘弾性変化が十分に現れていないことがわかった。
その理由は、このウイングプレートを用いる方法では、治具として試料に接触するのは、ウイングプレートであるが、ウイングプレートの上方には、ウイングプレートを支持するための円板が設けられており、この円板がいわゆる蓋として機能し、溶媒の揮発を抑制しているからであると推測された。
【0008】
また、このウイングプレートを用いる方法では、ウイングプレートに一定周波数の正弦波変位を加えた場合、ウイングプレートの外側と内側とでは、角速度が異なり、試料の歪の不均一性が大きくなるという問題があった。
【0009】
本発明は、このような状況の下になされたものであり、その目的は、揮発成分を含む試料の粘弾性を精度よく測定することが可能な粘弾性測定用治具及びそれを用いた粘弾性測定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明は、
〔1〕 回転軸と、前記回転軸の先端に同心的に取り付けられた円形体とを有する粘弾性測定用治具であって、前記円形体が回転軸方向の投影面積のうち20〜80%の切り欠き部分を有する円形体である粘弾性測定用治具、
〔2〕前記円形体が、環状体と前記環状体を回転軸に支持する支持体で形成されている上記〔1〕に記載の粘弾性測定用治具、
〔3〕 前記環状体が、非連続的である上記〔2〕に記載の粘弾性測定用治具、
〔4〕 前記支持体が、前記回転軸から前記環状体に向かって放射状に形成されている上記〔2〕又は〔3〕に記載の粘弾性測定用治具、
〔5〕 前記支持体の下面が、前記環状体の下面より1〜20mm高い位置にある上記〔2〕〜〔4〕のいずれかに記載の粘弾性測定用治具、
〔6〕 前記円形体の回転軸方向の投影面積から前記環状体の回転軸方向の投影面積を除いた面積の割合が、前記円形体の回転軸方向の投影面積の30〜92%である上記〔5〕に記載の粘弾性測定用治具、
〔7〕 上記〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の粘弾性測定用治具を用いて試料の粘弾性を測定する方法であって、上方から前記粘弾性測定用治具を前記試料に密着させ、前記試料に一定のトルクを加え発生する変位を測定すること、又は前記試料に一定の変位を加え発生するトルクを測定することにより、前記試料の粘弾性を測定する粘弾性測定方法、及び
〔8〕 前記試料を加熱する上記〔7〕に記載の粘弾性測定方法、
である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、揮発成分を含む試料の粘弾性を揮発や硬化などの試料が変化する過程においても連続的に精度よく測定することができる。
また、その測定結果から、常温乾燥過程や低温硬化過程での連続的な粘弾性評価が可能となり、塗装作業性や外観形成過程の粘弾性挙動の評価をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
まず、本発明の粘弾性測定用治具について説明する。
本発明の粘弾性測定用治具は、回転軸と、前記回転軸の先端に同心的に取り付けられた円形体とを有する粘弾性測定用治具であって、前記円形体が回転軸方向の投影面積、すなわち、投影された円形体の外円周の面積のうち20〜80%の切り欠き部分を有する円形体であり、応力制御型粘弾性測定装置、ひずみ制御型粘弾性測定装置のいずれにも用いることができる。
【0013】
そして、円形体が、20〜80%の切り欠き部分を有することにより、試料中の揮発成分が治具に妨害されずに揮発するようになる。
この切り欠き部分の割合が20%未満では、試料からの揮発を円形体が妨害し、揮発が自由な環境の下でおこなわれないおそれがある。他方、80%を超えると円板と試料との接触面積が少なく、粘弾性の測定精度が劣り、また円形体の強度が弱くなるため適当でない。
【0014】
この切り欠き部分の割合は、好ましくは、30〜80%、さらに好ましくは40〜80%である。
この切り欠き部分の割合は、試料の揮発成分の量、治具の強度、測定精度等を考慮して、適宜決定することができ、例えば、試料中に揮発成分が多く含まれている場合は、切り欠き部分の割合を大きくし、揮発成分が少ない場合は、切り欠き部分の割合を少なくしても差し支えない。
【0015】
次に、本発明の粘弾性測定用治具の好ましい形状を図1〜3に基づいて説明する。
図1は、本発明の粘弾性測定用治具の第1の態様を示す図であり、図1aはその平面図、図1bは切断線A−Aにおける断面図である。また、図2は、本発明の粘弾性測定用治具の第2の態様を示す図であり、図2aはその平面図、図2bは切断線A−Aにおける断面図である。さらに、図3は、本発明の粘弾性測定用治具の第3の態様を示す図であり、図3aは平面図、図3bは切断線A−Aにおける断面図である。
【0016】
図1及び2に示されるように、第1及び第2の態様の粘弾性測定用治具1は、回転軸2と回転軸2の先端に同心的に取り付けられた円形体3とから構成されており、円形体3は、環状体4と、環状体4を回転軸2に支持する支持体5から構成されており、支持体5は、回転軸2から環状体4に向かって放射状に4つ形成されている。そして、回転軸2、環状体4及び4つの支持体5により、4箇所に切り欠き部分6が形成される。
【0017】
さらに、環状体4と支持体5との接合部分及び回転軸2と支持体5との接合部分は、強度確保のため、微小曲面に形成されている。
そして、回転軸2の直径、環状体4の直径、幅及び厚さ、支持体5の幅、厚さ及び数を適宜選定することにより、切り欠き部分6の面積の割合を上記20〜80%とすることができる。
【0018】
環状体4の直径(外径)は、10〜80mm、好ましくは20〜70mm、さらに好ましくは20〜60mmであり、例えば、従来から用いられている粘弾性測定用の治具(円板)の外形と同じにすれば、従来の粘弾性測定装置をそのまま利用することができる。また、環状体4の幅は、0.5〜20mm、好ましくは1〜10mm、さらに好ましくは1〜5mmであり、環状体4の厚さは、0.5〜5mm、好ましくは1〜3mm、さらに好ましくは1.2〜2mmである。
支持体5の幅は、0.5〜20mm、好ましくは1〜10mm、さらに好ましくは1〜5mmであり、支持体5の厚さは、0.5〜5mm、好ましくは1〜3mm、さらに好ましくは1.2〜2mmであり、支持体5の数は、2〜15本、好ましくは3〜10本、さらに好ましくは3〜6本である。
【0019】
例えば、図1aに示される粘弾性測定用治具1を例にすると、回転軸2の支持体5と接合される部分の直径を11.0mmとし、環状体4の直径を50.0mm、幅を5.0mmとし、支持体5の幅を5.0mmとした場合、円形体3の回転軸方向の投影面積は、約1963mm2となり、回転軸2、環状体4及び支持体5の投影面積の合計は、約1091mm2となり、4箇所の切り欠き部分6の面積合計は、872mm2となる。
したがって、切り欠き部分6の合計の面積の割合は、円形体3の回転軸方向の投影面積の約44%となり、非密着面積の割合は、円形体3の回転軸方向の投影面積の約56%となる。
【0020】
また、図1bに示されるように、支持体5の下面と環状体4の下面とは、その高さを等しく、いわゆる面一とすることができ、また図2bに示されるように、支持体5の下面を環状体4の下面より高くすることもできる。
支持体5の下面と環状体4の下面とが、いわゆる面一の場合、支持体5が試料に接触し、支持体5が試料に接触すると、試料の揮発面積を少なくする。また、揮発により試料が硬化してくると、支持体5に過剰な応力がかかることがある。
例えば、後述する実施例に記載の治具A〜Cは、それぞれ図1〜3に示されるような第1〜3の態様の粘弾性測定用治具1と同一の形状の弾性測定用治具であるが、図4bに示されるように、治具Aでは約50〜70℃にかけて、治具Bもしくは治具Cの場合よりも粘度が高い。これは治具Aにおいて、余分なトルクを検知していることを意味する。すなわち治具Aの複数の支持体で挟まれた領域の試料表面で試料中の溶媒の揮発及び試料の硬化に伴う張力が発生するためであると考えられる。
【0021】
そこで、図2bに示すように、支持体5の下面の高さは、支持体5が試料に接触しないように、支持体5の下面を環状体4の下面より高い位置にするのが好ましい。これにより、試料と密着するのは、環状体4のみとなり、粘弾性測定用治具1は試料と密着しない非密着面積が多くなり、試料からの自由な揮発をさらに妨害しないようになる。この場合、非密着面積は、円形体3の回転軸方向の投影面積から環状体4の回転軸方向の投影面積を除いた面積であり、回転軸2及び支持体5の回転軸方向の投影面積並びに切り欠き部6の面積が含まれる。この非密着面積の割合は、円形体3の回転軸方向の投影面積の30〜92%とするがよく、好ましくは、50〜92%、さらに好ましくは70〜92%である。
支持体5の下面を環状体4の下面より高くする場合、その高さは、例えば、1〜20mm、好ましくは1〜10mm、さらに好ましくは1〜5mmである。この場合の環状体4の厚さは、例えば、1.5〜25mm、好ましくは2〜13mm、さらに好ましくは2.2〜7mmである。
【0022】
さらに、図3に示されるような第3の態様の粘弾性測定用治具1は、基本的な構成は上記第2の態様の粘弾性測定用治具1と同様であるが、環状体4が非連続となっている点で上記第2の態様の粘弾性測定用治具1と異なっている。図3aでは、環状体4の約2分の1が、環状体4が形成されていない非連続の環状体4となっているが、この割合に限られず、例えば、環状体4の10分の1〜10分の9、好ましくは10分の2〜10分の8、さらに好ましくは10分の3〜10分の7である。
【0023】
そして、図3aに示されるように、回転軸2、環状体4及び4つの支持体5により形成される2箇所と、環状体4が形成されていない2箇所が切り欠き部分6となる。
さらに、図1〜3に示す粘弾性測定用治具1では、試料と接触する面である下面は、平面状であるが、平面状に限らず、くさび状や円弧状であってもよい。
【0024】
この粘弾性測定用治具1を構成する回転軸2、円形体3(環状体4、支持体5)の材料は、特に限定されるものではなく、粘弾性測定用治具1に使用される材料を適宜選択することができ、例えば、アルミニウム、チタン、鉄、ニッケル、銅、ステンレス等の金属や合金、セラミックス、ガラス等でもよく、同一の材料で構成しても数種類の材料を組み合わせてもよい。例えば、回転軸2、環状体4及び支持体5を同一の材料で形成しても、環状体4と支持体5とを同一の材料で構成し、回転軸2を異なる材料で構成することもできる。
【0025】
さらに、円形体3と回転軸2により構成される粘弾性測定用治具1からの熱の損出を少なくしたい場合は、円形体3と回転軸2の材料として、熱伝導性のよい金属は避け、熱伝導性の悪いセラミックやガラス等を用いるのがよい。一方、成形加工の容易性や材料の剛性の観点からは、アルミニウム、ステンレスが好ましい。
【0026】
本発明の粘弾性測定用治具を用いた粘弾性測定装置には、測定装置の上部及び/又は下部に温度制御手段を設けて試料の温度を制御することが好ましい。特に、測定装置の上部にペルチェ素子等の温度制御手段を設けて、測定装置内に温熱風を循環させることができる。これにより、試料温度の設定温度追随性が向上し、試料からの揮発が促進される。
【0027】
本発明の粘弾性測定用治具を用いて測定することができる材料は特に限定されるものではなく、材料中の揮発成分が揮発して、材料の粘性が変化する材料に好ましく用いることができる。
また、本発明の粘弾性測定用治具を用いて測定することができる材料の粘弾性の範囲も特に限定されるものではないが、例えば、粘弾性の範囲が、1〜105Pa・s、好ましくは10〜104Pa・sの材料である。
具体的には、以下のような塗料、化粧品、食品、トイレタリー製品等の材料に適用できる。
【0028】
塗料の例としては、揮発乾燥型、酸化重合乾燥型、重合乾燥型、揮発重合乾燥型、熱縮合乾燥型、冷却乾燥型等の塗料を用いることができ、例えば、水溶性塗料、多液形塗料、エマルション塗料、油性塗料、ニトロセルロース塗料、アルキド樹脂塗料、アミノアルキド樹脂塗料、ビニル樹脂塗料、アクリル樹脂塗料、アクリルメラミン樹脂塗料、エポキシ樹脂塗料、ウレタン樹脂塗料、ポリエステル樹脂塗料、ポリエステルメラミン樹脂塗料、塩ビ系塗料、シリコン樹脂塗料、フッ素樹脂塗料等を挙げることができる。
【0029】
また、塗料中の揮発成分としては、キシレン、トルエン、アルコール類(例えば、メチルアルコール、n−ブチルアルコール、イソプロピルアルコール、2−エチルヘキシルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコール)、エーテル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、ケトン類(例えば、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、アセチルアセトン)、エステル類(例えば、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)、水又はそれらの混合物等を挙げることができる。
また、塗料には、着色顔料、体質顔料、顔料分散剤、消泡剤、増粘剤、紫外線吸収剤および光安定剤等が含まれていてもよい。
【0030】
食品の例としては、マヨネーズ、ゼリー、バター、マーガリン、チョコレートを挙げることができ、その揮発成分としては、アルコール、水等を挙げることができる。
化粧品の例としては、マニキュア、ヘアーダイ(頭髪着色材)を挙げることができ、その揮発成分としては、アルコール、エステル類(例えば、酢酸エチル、酢酸ブチル)、水等を挙げることができる。
【0031】
次に、本発明の粘弾性測用定治具を用いて粘弾性を測定する方法について説明する。
本発明の粘弾性測定方法は、本発明の粘弾性測定治具を用いて試料の粘弾性を測定する方法であって、上方から前記粘弾性測定用治具を前記試料に密着させ、前記試料に一定のトルクを加え発生する変位を測定すること、又は前記試料に一定の変位を加え発生するトルクを測定することにより、前記試料の粘弾性を測定するものである。
【0032】
粘弾性測定装置は、一般に用いられている応力制御型粘弾性測定装置、ひずみ制御型粘弾性測定装置を用いることができ、これらの装置に一般に用いられている粘弾性測定用治具に代えて、本発明の粘弾性測定用治具を用いることができる。
そして、試料を粘弾性測定装置の測定セルにセットし、その上に本発明の粘弾性測定用治具を密着させる。粘弾性測定用治具の密着深さは、治具の厚さ、試料の粘度、量等を考慮して適宜決定することができ、例えば、0.05〜1mm、好ましくは0.05〜0.5mm、さらに好ましくは0.05〜0.2mmである。
粘弾性測定用治具において、試料と密着する面積は少ないほうが試料からの自由な揮発を妨害しないので好ましい。そこで、粘弾性測定用治具の形状、密着深さ等を調製して、粘弾性測定用治具が試料と密着しない非密着面積の割合は、円形体の回転軸方向の投影面積の30〜92%とするがよく、好ましくは、50〜92%、さらに好ましくは70〜92%である。
【0033】
次に、応力制御型粘弾性測定装置の場合は、試料にトルクを加え、その結果粘弾性測定用治具に発生する正弦波角変位とトルク−角度変位間の位相差とを測定する。また、ひずみ制御型粘弾性測定装置の場合は、粘弾性測定用治具に一定角周波数の正弦波変位を加え、その結果発生する正弦波トルクとトルク−角度変位間の位相差とを測定する。そして、必要により、測定中、試料を加熱する。
【0034】
試料に加えられるトルク又は測定されるトルクは、10-7〜2×105N・mであり、試料に加えられる正弦波の角周波数又は測定される正弦波の角周波数は、10-2〜104rad/sであって、試料となる塗料に応じて適宜設定できる。
さらに、測定温度は、例えば、0〜200℃であって、試料となる塗料に応じて適宜設定できる。
【0035】
また、粘弾性測定装置の上部及び/又は下部に例えばペルチェ素子等の温度制御手段を設けることにより、経過時間、温度変化、揮発量及び粘弾性との関係を測定することもできる。
例えば、試料として、塗料の粘弾性を測定する場合、塗料(液体)は、塗装、塗着、セッティング、プレヒート、焼き付けにより、塗膜(固体)に変化する。このような試料について、溶媒が揮発し、場合により硬化などの化学変化を起こして、液体である塗料が固体である塗膜に変化するまでの粘弾性の変化を時間と共に測定し、いわゆる肌やタレなどの外観決定因子として、塗料設計に重要なセッティングからプレヒート間の乾燥過程における粘度変化の情報を得ることができる。
【実施例】
【0036】
以下、本発明の粘弾性測定用治具の実施例及びその治具を用いた測定例を示すが、本発明は、これらの実施例、測定例に限定されるものではない。
(1)粘弾性測定用治具の実施例
【0037】
実施例1〜3
実施例1〜3にそれぞれ対応する治具A〜Cは、それぞれ上記本発明の粘弾性測定用治具の第1〜第3の態様と同一の形状である(図1〜3参照)、
治具A〜Cは、ステンレス製の治具であり、回転軸2の支持体5と接合される部分の直径は11.0mmであり、回転軸2の上方は直径7.0mmとなっている。また、環状体4の直径は50.0mmで幅は2.0mmであり、支持体5の幅は2.0mmである。
治具Aの環状体4及び支持体5の厚さはそれぞれ1.5mmであり、支持体5の下面は、環状体4の下面と等しい高さにある。また、治具2及び3の環状体4及び支持体5の厚さはそれぞれ1.5mmであり、支持体5の下面は、環状体4の下面より3.0mm高い位置にある。
【0038】
図1aを基に治具Aの円形体3の回転軸方向の投影面積を算出し、さらに、4箇所の切り欠き部分6の面積合計を算出した結果、切り欠き部分6の合計の面積の割合は、円形体3の回転軸方向の投影面積の約73%であり、非密着面積の割合も、円形体3の回転軸方向の投影面積の約73%であった。
図2aを基に治具Bの円形体3の回転軸方向の投影面積を算出し、さらに、4箇所の切り欠き部分6の面積を算出した結果、切り欠き部分6の合計の面積の割合は、円形体3の回転軸方向の投影面積の約73%であり、試料と密着する環状体4の部分は、円形体3の回転軸方向の投影面積の約15%であり、非密着面積の割合は、円形体3の回転軸方向の投影面積の約85%であった。
【0039】
図3aを基に治具Cの円形体3の回転軸方向の投影面積を算出し、さらに、この治具Cの回転軸2、環状体4及び4つの支持体5により形成される2箇所の切り欠き部分6と、環状体4が形成されていない2箇所との切り欠き部分6との面積合計を算出した結果、切り欠き部分6の合計の面積の割合は、円形体3の回転軸方向の投影面積の約80%であり、試料と密着する環状体4の部分は、円形体3の回転軸方向の投影面積の約8%であり、非密着面積の割合は、円形体3の回転軸方向の投影面積の約92%であった。
【0040】
(2)粘弾性の測定
次に、上記実施例1〜3の粘弾性測定用治具(治具A〜C)を用いて、塗装、塗着、セッティング、プレヒート、焼き付けという塗料の時間経過、加熱により、塗料(液体)が塗膜(固体)に変化するまでの過程の塗料の粘弾性を測定した。
粘弾性測定装置としては、応力制御型の粘弾性測定装置であるAnton Paar社製のPhysica MCR 301を用いた。
【0041】
塗料としては、以下に示すような塗料A〜Cの3種類の塗料を用いた。
塗料A:不揮発成分(NV)25質量%、揮発成分(アルコール及び水)75質量%のアクリルメラミン塗料
塗料B:不揮発成分(NV)40質量%、揮発成分(アルコール及び水)60質量%のポリエステルメラミン塗料
塗料C:不揮発成分(NV)65質量%、揮発成分(キシレン及びエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ))35質量%のアクリル樹脂塗料
【0042】
測定例1
粘弾性測定装置の測定セルに、上記塗料Aを厚さ約0.6mmでセットし、その上に、上記治具A〜C及び従来の切り欠き部分のない円板治具(以下「従来治具」という。)を密着させ、試料に約0.1mmの深さまで入れた。
そして、大気中、室温から80℃までの温度範囲で、試料に6.3rad/sの角周波数を加え、トルク測定し、さらに正弦波角変位とトルク−角度変位間の位相差を測定することにより試料の粘弾性を求めた。
【0043】
図4aは、塗料Aを治具A〜C及び従来治具を用いて測定したときの試料温度と複素粘性η*の変化率との関係を示すものであり、図4bは、図4aの複素粘性η*変化を100〜1000%の範囲で拡大した部分拡大図である。そして、この図4a及び4bから粘度変化率の治具依存性を評価した。
図4a、図4bに示すように、治具A〜Cを用いた場合、試料に泡が残存することもなく、塗料Aの粘弾性が変化している状態を測定することができ、治具C、治具B、治具Aの順で揮発成分を含む試料の粘弾性を精度よく測定することができた。
これに対し、従来治具を用いた場合は、試料に泡が残存し、試料温度に対して、粘弾性の変化が少なく、揮発成分を含む試料の粘弾性を精度よく測定することが困難であった。
【0044】
測定例2、3
塗料Aに代えて塗料B(測定例2)又は塗料C(測定例3)を用いたほかは、測定例1と同様に塗料B、Cの粘弾性測定をおこなったところ、測定例1と同様の結果が得られ、治具C、治具B、治具Aの順で揮発成分を含む試料の粘弾性を連続的に精度よく測定することができた。
これに対し、従来治具を用いた場合は、測定例1の場合と同様の結果であり、試料に泡が残存し、試料温度に対して、粘弾性の変化が少なくなく、揮発成分を含む試料の粘弾性を精度よく測定することが困難であった。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明によれば、揮発成分を含む試料の粘弾性を揮発や硬化などの試料が変化する過程において連続的に精度よく測定することが可能な粘弾性測定用治具を提供することができ、この粘弾性測定用治具を用いて揮発成分を含む試料の粘弾性を精度よく測定する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の粘弾性測定用治具の第1の態様を示す図であり、(a)は平面図、(b)は切断線A−Aにおける断面図である。
【図2】本発明の粘弾性測定用治具の第2の態様を示す図であり、(a)は平面図、(b)は切断線A−Aにおける断面図である。
【図3】本発明の粘弾性測定用治具の第3の態様を示す図であり、(a)は平面図、(b)は切断線A−Aにおける断面図である。
【図4】(a)測定例1の場合の試料温度と複素粘性η*の変化率との関係を示す図である。(b)(a)の複素粘性η*変化を100〜1000%の範囲で拡大した部分拡大図である。
【符号の説明】
【0047】
1 粘弾性測定用治具
2 回転軸
3 円形体
4 環状体
5 支持体
6 切り欠き部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸と、前記回転軸の先端に同心的に取り付けられた円形体とを有する粘弾性測定用治具であって、前記円形体が回転軸方向の投影面積のうち20〜80%の切り欠き部分を有する円形体である粘弾性測定用治具。
【請求項2】
前記円形体が、環状体と前記環状体を回転軸に支持する支持体で形成されている請求項1に記載の粘弾性測定用治具。
【請求項3】
前記環状体が、非連続的である請求項2に記載の粘弾性測定用治具。
【請求項4】
前記支持体が、前記回転軸から前記環状体に向かって放射状に形成されている請求項2又は3に記載の粘弾性測定用治具。
【請求項5】
前記支持体の下面が、前記環状体の下面より1〜20mm高い位置にある請求項2〜4のいずれかに記載の粘弾性測定用治具。
【請求項6】
前記円形体の回転軸方向の投影面積から前記環状体の回転軸方向の投影面積を除いた面積の割合が、前記円形体の回転軸方向の投影面積の30〜92%である請求項5に記載の粘弾性測定用治具。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の粘弾性測定治具を用いて試料の粘弾性を測定する方法であって、上方から前記粘弾性測定用治具を前記試料に密着させ、前記試料に一定のトルクを加え発生する変位を測定すること、又は前記試料に一定の変位を加え発生するトルクを測定することにより、前記試料の粘弾性を測定する粘弾性測定方法。
【請求項8】
前記試料を加熱する請求項7に記載の粘弾性測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2010−78444(P2010−78444A)
【公開日】平成22年4月8日(2010.4.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−246696(P2008−246696)
【出願日】平成20年9月25日(2008.9.25)
【出願人】(000230054)日本ペイント株式会社 (626)
【Fターム(参考)】