説明

粘性水系組成物およびその製法、並びにそれに用いるセルロース繊維

【課題】保形性、分散安定性、耐塩性等に優れるとともに、乳化安定性に優れた粘性水系組成物およびその製法、並びにそれに用いるセルロース繊維を提供する。
【解決手段】下記の(A)成分および(B)成分を含有する粘性水系組成物とする。
(A)最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシル基に変性され、それによってカルボキシル基が0.6〜2.0mmol/gの割合になっており、かつそのカルボキシル基が、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンとの塩となっている、セルロース繊維。
(B)水。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セルロース繊維を用いてなる粘性水系組成物およびその製法、並びにそれに用いるセルロース繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、クリーム状、ゲル状、乳液状あるいは液体状の剤型を有する製品(化粧料、医薬品、農薬、トイレタリー用品、スプレー剤、塗料等)には、水やアルコール、油等の分散媒体に、高分子材料等を配合した組成物が用いられている。上記高分子材料は、増粘性や分散安定性を維持するための保形成能(保形性)を付与する目的で使用されるものであり、例えば、メチルセルロース,カルボキシメチルセルロース塩等の水溶性のセルロース誘導体、ポリビニルアルコール,ポリビニルピロリドン,カルボキシビニルポリマー,ポリエチレングリコール等の合成高分子、クインスシード,ビーガム,キサンタンガム,ヒアルロン酸塩等の天然高分子多糖類等が用いられている。これら高分子材料の多くは、水溶性である。
【0003】
ところで、上記のような従来の水溶性高分子材料は、化粧料等の各種製品に用いる際、糸引き性を示し使用感が悪いといった問題や、共存する塩類により著しく粘度が低下し、分散安定性に劣る(耐塩性に劣る)といった問題がある。このような背景から、水溶性高分子特有の使用感の悪さがなく、分散安定性に優れた粘性水系組成物が求められている。
【0004】
このような粘性水系組成物としては、例えば、天然セルロースを再生処理することなく、加水分解と物理粉砕により得られるセルロース粒子を用いた化粧料組成物が提案されている(特許文献1)。このものは、脂肪分率を従来の化粧料組成物よりも低くした組成物であり、クリーム状あるいは乳液状の性状を達成できるが、粒子径の大きなものが含まれるため、分散性が不充分で、ざらつき感の原因となっている。
【0005】
また、セルロースを高度に分散させる技術として、パルプの水懸濁液を高圧ホモジナイザーで処理し、ミクロフィブリルレベルまで粉砕する微小繊維状セルロースの製法が提案されている(特許文献2)。この製法により得られるセルロースの高度分散物は、非常に多くのエネルギーを用いて処理する必要があり、また分散の程度も不充分であるため、特有のざらつき感を払拭することができない。さらに、従来の微細化セルロース分散物は、いずれも白色不透明性であり、透明性が要求される化粧料には適用できないという課題もある。
【0006】
そこで、このような問題を解決するため、ナノサイズに微粒子化したセルロースを化学処理により一部酸化変性させたセルロースナノファイバーを用いた化粧料組成物が提案されている(特許文献3)。このように、ナノ粒子化したセルロース微粒子を用いることにより、皮膚に塗布した際のべとつき感や、ざらつき感がない使用感を得ることができる。さらに、上記セルロースナノファイバーを用いた化粧料組成物には、多くの機能性添加剤を安定して配合することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平5−32519号公報
【特許文献2】特開昭56−100801号公報
【特許文献3】特開2010−37199号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、例えば、機能性添加剤として油性原料を配合するに際し、上記の酸化変性セルロースナノファイバーを低濃度で用いた場合、油性原料が乳化せず、分離してしまうといった問題が生じることがあったことから、この改善が求められている。
【0009】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、保形性、分散安定性、耐塩性等に優れるとともに、乳化安定性に優れた粘性水系組成物およびその製法、並びにそれに用いるセルロース繊維の提供をその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、下記の(A)成分および(B)成分を含有する粘性水系組成物を第一の要旨とする。
(A)最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシル基に変性され、それによってカルボキシル基が0.6〜2.0mmol/gの割合になっており、かつそのカルボキシル基が、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンとの塩となっている、セルロース繊維。
(B)水。
【0011】
また、本発明は、上記第一の要旨の粘性水系組成物の製法であって、セルロースI型結晶構造を有するセルロースからなる、最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維を、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させた後、さらに有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンと中和反応させ、上記(A)成分のセルロース繊維を調製し、これを、水に分散させる粘性水系組成物の製法を第二の要旨とする。
【0012】
また、本発明は、最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシル基に変性され、それによってカルボキシル基が0.6〜2.0mmol/gの割合になっており、かつそのカルボキシル基が、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンとの塩となっているセルロース繊維を第三の要旨とする。
【0013】
すなわち、本発明者らは、保形性能、分散安定性、耐塩性等に優れた粘性水系組成物を得るため、鋭意研究を重ねた。その研究の過程で、最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中のグルコースユニットのC6位の水酸基が選択的にカルボキシル基に酸化変性された、微細なセルロース繊維を用いることを想起した。しかしながら、先に述べたように、このようにナノサイズ化したセルロース繊維を単に酸化変性させただけでは、このセルロース繊維を低濃度で用いた際に、油性原料が乳化せず、分離する傾向がみられたことから、本発明者らは、更なる研究を重ねた。その結果、上記酸化変性されたセルロース繊維を、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンにより中和させることにより、高い乳化力が得られることを見いだし、本発明に到達した。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明の粘性水系組成物は、最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシル基に変性され、それによってカルボキシル基が0.6〜2.0mmol/gの割合になっており、かつそのカルボキシル基が、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンとの塩となっている特定のセルロース繊維(A成分)と、液状分散媒体である水(B成分)とを含有している。そのため、保形性、分散安定性、耐塩性等に優れるとともに、乳化安定性に優れている。その結果、化粧料、医薬品、農薬、トイレタリー用品、スプレー製品、塗料等といった各種製品の粘性付与剤や分散安定剤等として優れた機能を発揮することができる。また、上記特定のセルロース繊維(A成分)が極めて微細であるため、例えば、化粧料や医薬品(塗布剤)に本発明の粘性水系組成物を使用すると、皮膚に塗布した際のべたつき感,ざらつき感もなく、使用感に優れている。
【0015】
そして、上記セルロース繊維(A成分)が、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMPO)等のN−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化されたものであり、上記酸化反応により生じたカルボキシル基が、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンによりpH5〜10の範囲で中和されることにより得られたものであると、上記特定のセルロース繊維を容易に得ることができるようになり、粘性水系組成物として、より良好な結果を得ることができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
つぎに、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0017】
本発明の粘性水系組成物は、特定のセルロース繊維(A成分)と、水(B成分)とを用いてなるものである。
【0018】
ここで、本発明では、最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシル基に変性され、それによってカルボキシル基が0.6〜2.0mmol/gの割合になっており、かつそのカルボキシル基が、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンとの塩となっている、微細なセルロース繊維(A成分)を用いることが特徴である。これは、上記セルロース繊維が、I型結晶構造を有する天然由来のセルロース固体原料を表面酸化し微細化した繊維であることを意味する。すなわち、天然セルロースの生合成の過程においては、ほぼ例外なくミクロフィブリルと呼ばれるナノファイバーがまず形成され、これらが多束化して高次な固体構造を構成するが、上記ミクロフィブリル間の強い凝集力の原動となっている表面間の水素結合を弱めるために、その水酸基(セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基)の一部が酸化され、カルボキシル基に変換されているものである。また、本発明では、上記酸化変性後、特定のモノアミンにより中和させることから、上記カルボキシル基は、上記モノアミンとの塩となっている。これにより、従来のように単に酸化変性させたものよりも、乳化安定性に優れるようになる。
【0019】
上記特定のセルロース繊維(A成分)を構成するセルロースがI型結晶構造を有することは、例えば、広角X線回折像測定により得られる回折プロファイルにおいて、2シータ=14〜17°付近と、2シータ=22〜23°付近の2つの位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
【0020】
また、上記特定のセルロース繊維(A成分)は、最大繊維径が1000nm以下で、かつ数平均繊維径が2〜150nmである。上記最大繊維径は、500nm以下であることが好ましい。また、上記数平均繊維径は、好ましくは2〜100nmであり、特に好ましくは3〜80nmである。すなわち、上記セルロース繊維の最大繊維径が上記範囲を超えると、セルロース繊維が沈降してしまい、セルロース繊維を配合することによる機能性を発現することができないからである。また、上記数平均繊維径が上記範囲未満であると、本質的に分散媒体に溶解してしまい、逆に上記数平均繊維径が上記範囲を超えると、セルロース繊維が沈降してしまい、セルロース繊維を配合することによる機能性を発現することができないからである。
【0021】
上記特定のセルロース繊維(A成分)の数平均繊維径・最大繊維径は、例えば、つぎのようにして測定することができる。すなわち、固形分率で0.05〜0.1重量%の微細セルロースの水分散体を調製し、その分散体を、親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストして、透過型電子顕微鏡(TEM)の観察用試料とする。なお、大きな繊維径の繊維を含む場合には、ガラス上へキャストした表面の走査型電子顕微鏡(SEM)像を観察してもよい。そして、構成する繊維の大きさに応じて5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。その際に、得られた画像内に縦横任意の画像幅の軸を想定し、その軸に対し、20本以上の繊維が交差するよう、試料および観察条件(倍率等)を調節する。そして、この条件を満たす観察画像を得た後、この画像に対し、1枚の画像当たり縦横2本ずつの無作為な軸を引き、軸に交錯する繊維の繊維径を目視で読み取っていく。このようにして、最低3枚の重複しない表面部分の画像を、電子顕微鏡で撮影し、各々2つの軸に交錯する繊維の繊維径の値を読み取る(したがって、最低20本×2×3=120本の繊維径の情報が得られる)。このようにして得られた繊維径のデータにより、最大繊維径および数平均繊維径を算出する。
【0022】
そして、上記特定のセルロース繊維(A成分)は、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシル基に変性されており、カルボキシル基の量が0.6〜2.0mmol/gとなり、かつそのカルボキシル基が、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンとの塩となっている。上記カルボキシル基の含量は、保形性能、分散安定性の点から、好ましくは1.0〜2.0mmol/gの範囲である。なお、上記カルボキシル基量が上記範囲未満であると、セルロース繊維の分散安定性に乏しく、沈降を生じる場合があり、逆に上記カルボキシル基量が上記範囲を超えると、水溶性が強くなりべたついた使用感を与える傾向がみられるようになる。
【0023】
上記特定のセルロース繊維(A成分)のカルボキシル基量の測定は、例えば、乾燥重量を精秤したセルロース試料から0.5〜1重量%スラリーを60ml調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下記の式(1)に従いカルボキシル基量を求めることができる。
【0024】
カルボキシル基量 (mmol/g)=V(ml)×〔0.05/セルロース重量〕 ……(1)
【0025】
なお、カルボキシル基量の調整は、後述するように、セルロース繊維の酸化工程で用いる共酸化剤の添加量や反応時間を制御することにより行うことができる。
【0026】
また、上記特定のセルロース繊維(A成分)は、繊維表面上のセルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にカルボキシル基に酸化されている。このセルロース繊維表面上のグルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にカルボキシル基に酸化されているかどうかは、例えば、13C−NMRチャートにより確認することができる。すなわち、酸化前のセルロースの13C−NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに178ppmにカルボキシル基に由来するピークが現れる。このようにして、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基に酸化されていることを確認することができる。
【0027】
さらに、上記特定のセルロース繊維(A成分)は、先に述べたように、そのカルボキシル基が、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンにより中和され、塩となっている。これにより、従来のような、単に酸化変性させたセルロース繊維を用いたものよりも、油性原料配合時における乳化安定性に優れるようになる。そして、上記モノアミンの、有機概念図における有機性値は、上記観点から、好ましくは、40〜280の範囲である。なお、上記モノアミンの、有機概念図における有機性値が、上記範囲を超えると、本発明における所望の乳化力を得ることができない。また、上記のようにモノアミンでなく、仮にジアミンやポリアミンを用いた場合、カルボキシル基と架橋し、乳化力が落ちる。
【0028】
ここで、有機概念図の詳細は、例えば、「有機概念図−基礎と応用−」(甲田善生著、三共出版、1984)等に記載されている。すなわち、「有機概念図」とは、すべての有機化合物に対し、その炭素領域の共有結合連鎖に起因する「有機性」と、置換基(官能基)に存在する静電性の影響による「無機性」との2因子とを、所定の規定により数値化し、その有機性値をX軸、無機性値をY軸にとった図上にプロットしていくものである。なお、上記文献には、有機概念図における有機性値の大小は、その有機化合物の分子内のメチレン基を代表とする炭素原子の数で測ることができる旨が記載されており、さらに「基本となる炭素原子1個の有機性値は、その有機化合物の炭素数5〜10付近での炭素1個加わることによる沸点上昇の平均値20℃をとり、20と定める。」と規定されている。このことから、「有機概念図における有機性値が300以下のモノアミン」とは、「炭素数が15以下のモノアミン」とほぼ同じ意味である。
【0029】
そして、上記の、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、トリエタノールアミン、モノオクチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N−ジメチル−n−オクチルアミン、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、3−ラウリルオキシプロピルアミン、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド、ベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシド等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、油性原料配合時における乳化安定性の向上効果の観点から、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノールが好ましく用いられる。
【0030】
本発明における、上記特定のセルロース繊維(A成分)は、特に、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン(TEMPO)等のN−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化されたものであって、かつ上記酸化反応により生じたカルボキシル基が、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンによりpH5〜10の範囲で中和されることにより得られたものであると、上記特定のセルロース繊維(A成分)を容易に得ることができるようになり、粘性水系組成物として、より良好な結果を得ることができるようになるため、好ましい。上記pHは、より好ましくは、6〜8の範囲である。すなわち、pHが上記範囲未満であると、酸によりセルロース繊維同士がからまって、ほぐれにくく、高圧分散できないからであり、逆に、pHが上記範囲を超えると、アルカリの作用により粘度が下がり、乳化力が落ちるからである。
【0031】
つぎに、上記特定のセルロース繊維(A成分)の製造についてより詳しく述べると、そのセルロース繊維は、例えば、(1)酸化反応工程、(2) 精製工程、(3)中和反応工程、(4)分散工程(微細化処理工程)等を行うことにより得ることができる。以下、各工程を順に説明し、最後に、(5)本発明の粘性水系組成物の製造に及ぶ。
【0032】
(1)酸化反応工程
天然セルロースと、N−オキシル化合物とを水(分散媒体)に分散させた後、共酸化剤を添加して、反応を開始する。反応中は0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10〜11に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なす。ここで、共酸化剤とは、直接的にセルロース水酸基を酸化する物質ではなく、酸化触媒として用いられるN−オキシル化合物を酸化する物質のことである。
【0033】
上記天然セルロースは、植物,動物,バクテリア産生ゲル等のセルロースの生合成系から単離した精製セルロースを意味する。より具体的には、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター,コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプ、バクテリアセルロース(BC)、ホヤから単離されるセルロース、海草から単離されるセルロース等をあげることができる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。これらのなかでも、入手のし易さから、針葉樹系パルプ、広葉樹系パルプ、コットンリンター、コットンリント等の綿系パルプ、麦わらパルプ,バガスパルプ等の非木材系パルプが好ましく、より好ましくは、解繊の容易さから、針葉樹系パルプ(特に、クラフト法により製造された針葉樹系パルプ)が用いられる。上記天然セルロースは、叩解等の表面積を高める処理を施すと、反応効率を高めることができ、生産性を高めることができるため好ましい。また、上記天然セルロースとして、単離、精製の後、乾燥させない(ネバードライ)で保存していたものを使用すると、ミクロフィブリルの集束体が膨潤しやすい状態であるため、反応効率を高め、微細化処理後の数平均繊維径を小さくすることができるため好ましい。
【0034】
上記反応における天然セルロースの分散媒体は水であり、反応水溶液中の天然セルロース濃度は、試薬(天然セルロース)の充分な拡散が可能な濃度であれば任意である。通常は、反応水溶液の重量に対して約5%以下であるが、機械的撹拌力の強い装置を使用することにより反応濃度を上げることができる。
【0035】
また、上記N−オキシル化合物としては、例えば、一般に酸化触媒として用いられるニトロキシラジカルを有する化合物があげられる。上記N−オキシル化合物は、水溶性の化合物が好ましく、なかでもピペリジンニトロキシオキシラジカルが好ましく、特に2,2,6,6−テトラメチルピペリジノオキシラジカル(TEMPO)または4−アセトアミド−TEMPOが好ましい。上記N−オキシル化合物の添加は、触媒量で充分であり、好ましくは0.1〜4mmol/l、さらに好ましくは0.2〜2mmol/lの範囲で反応水溶液に添加する。
【0036】
上記共酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸またはその塩、亜ハロゲン酸またはその塩、過ハロゲン酸またはその塩、過酸化水素、過有機酸等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。なかでも、次亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム等のアルカリ金属次亜ハロゲン酸塩が好ましい。そして、上記次亜塩素酸ナトリウムを使用する場合は、臭化ナトリウム等の臭化アルカリ金属の存在下で反応を進めることが、反応速度の点において好ましい。上記臭化アルカリ金属の添加量は、上記N−オキシル化合物に対して約1〜40倍モル量、好ましくは約10〜20倍モル量である。
【0037】
上記反応水溶液のpHは約8〜11の範囲で維持されることが好ましい。水溶液の温度は約4〜40℃において任意であるが、反応は室温(25℃)で行うことが可能であり、特に温度の制御は必要としない。
【0038】
目的とするカルボキシル基量を得るために、酸化の程度を共酸化剤の添加量と反応時間により制御する。通常、反応時間は約5〜120分、長くとも240分以内に完了する。
【0039】
そして、上記反応終了後、塩酸を添加して酸性(pH1.0〜2.0)に調整する。また、長期保存安定性を改良する目的で、上記反応終了後に、水素化ホウ素ナトリウム等により還元処理を行っても良い。
【0040】
(2)精製工程
つぎに、未反応の共酸化剤(次亜塩素酸等)や、各種副生成物等を除く目的で、適宜、精製を行う。反応物繊維は通常、この段階ではナノファイバー単位までばらばらに分散しているわけではないため、通常の精製法、すなわち水洗とろ過を繰り返すことで高純度(99重量%以上)の反応物繊維と水の分散体とする。
【0041】
上記精製工程における精製方法は、遠心脱水を利用する方法(例えば、連続式デカンダー)のように、上述した目的を達成できる装置であればどのような装置を利用しても構わない。こうして得られる反応物繊維の水分散体は、絞った状態で固形分(セルロース)濃度としておよそ10重量%〜50重量%の範囲にある。この後の分散工程を考慮すると、50重量%よりも高い固形分濃度とすると、分散に極めて高いエネルギーが必要となることから好ましくない。
【0042】
(3)中和反応工程
上記酸化反応後、更に中和反応を行うことにより、上記特定のセルロース繊維(A成分)を得ることができる。具体的には、酸化反応後のセルロース繊維を精製水に分散し、先に述べた、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンを用いて、水分散体のpHが5〜10の範囲(好ましくは6〜8の範囲)となるよう、中和反応を行う。すなわち、pHが上記範囲未満であると、酸によりセルロース繊維同士がからまって、ほぐれにくく、高圧分散できないからであり、逆に、pHが上記範囲を超えると、アルカリの作用により粘度が下がり、乳化力が落ちるからである。
【0043】
なお、酸化反応後のセルロース繊維を基準として、上記モノアミンの量は、0.4〜2.2mmol/gの範囲が好ましく、特に好ましくは0.6〜2.0mmol/gの範囲内である。
【0044】
(4)分散工程(微細化処理工程)
上記中和反応工程にて得られる、水を含浸した反応物繊維(水分散体)を、分散媒体中に分散させ分散処理を行う。処理に伴って粘度が上昇し、微細化処理されたセルロース繊維の分散体を得ることができる。その後、上記セルロース繊維の分散体を乾燥することによって、特定のセルロース繊維(A成分)を得ることができる。なお、上記セルロース繊維の分散体を乾燥することなく、分散体の状態で粘性水系組成物に用いても差し支えない。
【0045】
上記分散工程で使用する分散機としては、高速回転下でのホモミキサー、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、超音波分散処理、ビーター、ディスク型レファイナー、コニカル型レファイナー、ダブルディスク型レファイナー、グラインダー等の強力で叩解能力のある装置を使用することにより、より効率的かつ高度なダウンサイジングが可能となり、経済的に有利に粘性水系組成物を得ることができる点で好ましい。なお、上記分散機としては、例えば、スクリュー型ミキサー、パドルミキサー、ディスパー型ミキサー、タービン型ミキサー等を用いても差し支えない。
【0046】
上記セルロース繊維の分散体の乾燥法としては、例えば、分散媒体が水である場合は、スプレードライ、凍結乾燥法等が用いられ、分散媒体が水と有機溶媒の混合溶液である場合は、ドラムドライヤーによる乾燥法、スプレードライヤーによる噴霧乾燥法等が用いられる。
【0047】
(5)粘性水系組成物の製造
本発明の粘性水系組成物は、上記特定のセルロース繊維(A成分)と、水(B成分)と、必要に応じて他の成分材料とを混合して得られる。この場合、上記特定のセルロース繊維(A成分)の配合量は、求める機能により異なるが、使用感、増粘性、分散安定性等の点から、粘性水系組成物全体の0.01〜5.0重量%の範囲であることが好ましく、特に好ましくは、0.1〜2.0重量%の範囲である。
【0048】
また、本発明の粘性水系組成物には、上記特定のセルロース繊維(A成分)および水(B成分)とともに、他の成分材料として、機能性添加剤を用いることも可能である。上記機能性添加剤としては、例えば、化粧料,医薬品,スプレー製品,塗料等に用いる、油性原料(オイル類等)、無機塩類、有機塩類、界面活性剤、保湿剤、防腐剤、有機微粒子、無機微粒子、消臭剤、香料、有機溶媒等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。特に、本発明は、上記特定のセルロース繊維(A成分)の特性により、油性原料が乳化せず、分離してしまうといった課題を克服し得るものであるため、上記油性原料を配合する際に有利である。
【0049】
上記油性原料としては、例えば、メチルポリシロキサン,シリコーンポリエーテルコポリマー等のシリコーンオイル、植物油脂、動物油脂、ロウ類、炭化水素、高級脂肪酸、高級アルコール、エステル類等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0050】
上記油性原料のうち、植物油脂としては、例えば、アボカド油、アーモンド油、オリープ油、ククイナッツ油、グレープシード油、ゴマ油、小麦胚芽油、コメ胚芽油(オリザオイル)、コメヌカ油(コメ油)、サフラワー油、シアバター(シア脂)、大豆油、茶油(茶実油、茶種子油)、月見草油、ツパキ油、トウモロコシ胚芽油、ナタネ油、パーシック油(杏仁油、桃仁油)、ハトムギ油、パーム油、パーム核油、ヒマシ油、硬化ヒマシ油(カスターワックス)、ヒマワリ油(サンフラワー油)、へ一ゼルナッツ油、マカデミアナッツ油、メドウホーム油、綿実油、モクロウ、ヤシ油、落花生油(ピーナツ油)、ローズヒップ油等があげられる。
【0051】
また、上記動物油脂としては、例えば、オレンジラフィー油、牛脂、タートル油(アオウミガメ油)、ミンク油、卵黄油、粉末卵黄油(水素添加卵黄油)等があげられる。
【0052】
また、上記ロウ類としては、例えば、カルナウバロウ、鯨ロウ、セラック、ホホバ油、ミツロウ、サラシミツロウ(白ロウ)、モンタンワックス、ラノリン、ラノリン誘導体、還元ラノリン、硬質ラノリン、吸着精製ラノリン等があげられる。
【0053】
また、上記炭化水素としては、例えば、α−オレフィンオリゴマー、スクワラン、植物性スクワラン、CDスクワラン、セレシン(地ロウ)、固形パラフィン、プリスタン、ポリエチレン末、マイクロクリスタリンワックス、流動パラフィン、ワセリン等があげられる。
【0054】
また、上記高級脂肪酸としては、例えば、アラキドン酸、イソステアリン酸、ウンデシレン酸、オレイン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ベヘニン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、ラノリン脂肪酸、硬質ラノリン脂肪酸、軟質ラノリン脂肪酸、リノール酸、リノレン酸等があげられる。
【0055】
また、上記高級アルコールとしては、例えば、イソステアリルアルコール、オレイルアルコール、オクチルドデカノール、キミルアルコール(グリセリルモノセチルエーテル)、コレステロール(コレステリン)、シトステロール(シトステリン)、ステアリルアルコール、セタノール(セチルアルコール、パルミチルアルコール)、セトステアリルアルコール、セラキルアルコール(モノオレイルグリセリルエ一テル)、デシルテトラデカノール、バチルアルコール(グリセリルモノステアリルエーテル)、フィトステロール(フィトステリン)、ヘキシルデカノール、ベヘニルアルコール、ラウリルアルコール、ラノリンアルコール、水素添加ラノリンアルコール等があげられる。
【0056】
また、上記エステル類としては、例えば、アセチル化ラノリン(酢酸ラノリン)、イソステアリン酸イソセチル(イソステアリン酸ヘキシルデシル)、イソステアリン酸コレステリル、エルカ酸オクチルドデシル(EOD)、オクタン酸セチル(2−エチルヘキサン酸セチル)、オクタン酸セトステアリル(2−エチルヘキサン酸セトステアリル、イソオクタン酸セトステアリル)、オレイン酸オクチルドデシル、オレイン酸デシル、ジメチルオクタン酸ヘキシルデシル、ステアリン酸イソセチル(ステアリン酸ヘキシルデシル)、ステアリン酸コレステリル、ステアリン酸ブチル、長鎖−αヒドロキシ脂肪酸コレステリル(GLコレステリル)、トリミリスチン酸グリセリン、乳酸セチル、乳酸ミリスチル、パルミチン酸イソプロピル(IPP、イソプロピルパルミテート)、ヒドロキシステアリン酸コレステロール、ミリスチン酸イソトリデシル(MITD)、ミリスチン酸イソプロピル(lPM、イソプロピルミリステート)、ミリスチン酸オクチルドデシル(MOD)、ミリスチン酸ミリスチル、ラウリン酸ヘキシル、ラノリン脂肪酸イソプロピル、ラノリン脂肪酸コレステリル、リンゴ酸ジイソステアリル等があげられる。
【0057】
上記無機塩類としては、水(B成分)に溶解・分散できるものが好ましく、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属と、ハロゲン化水素、硫酸、炭酸等からなる塩類があげられ、具体的には、NaCl、KCl、CaCl2、MgCl2、(NH42SO4、Na2CO3等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0058】
上記有機塩類としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の水酸化物や、有機アミンと分子中に存在するカルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等を中和することにより実質的に水溶性、水分散性を示す物質であるものが好ましい。
【0059】
上記界面活性剤としては、水(B成分)に溶解・分散できるものが好ましく、例えば、アルキルスルホコハク酸ソーダ,アルキルスルホン酸ソーダ,アルキル硫酸エステル塩等のスルホン酸系界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル等のリン酸エステル系界面活性剤、高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物,アルキルアリールフェノールのアルキレンオキサイド付加物等の非イオン系界面活性剤、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、両性界面活性剤、高分子界面活性剤等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0060】
上記保湿剤としては、例えば、ヒアルロン酸、グリセリン、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、ジプロピレングリコール等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0061】
上記有機微粒子としては、例えば、スチレン−ブタジエンラテックス、アクリルエマルジョン、ウレタンエマルジョン等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0062】
上記無機微粒子としては、例えば、酸化チタン、シリカ化合物、カーボンブラック等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0063】
上記防腐剤としては、例えば、メチルパラベン、エチルパラベン等があげられ、単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0064】
上記消臭剤・香料としては、例えば、Dリモネン、デシルアルデヒド、メントン、プレゴン、オイゲノール、シンナムアルデヒド、ベンズアルデヒド、メントール、ペパーミント油、レモン油、オレンジ油、植物(例えば、カタバミ、ドクダミ、ツガ、イチョウ、クロマツ、カラマツ、アカマツ、キリ、ヒイラギモクセイ、ライラック、キンモクセイ、フキ、ツワブキ、レンギョウ等)の各器官から水、親水性有機溶剤で抽出された消臭有効成分等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0065】
上記有機溶媒としては、例えば、水に可溶するアルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコール、グリセリン等)、エーテル類(エチレングリコールジメチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフラン等)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン)、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキサイド等があげられる。これらは単独でもしくは二種以上併せて用いられる。
【0066】
また、上記機能性添加剤の配合量は、機能性添加剤が目的とする効果を発現するために必要な配合量で用いられる。
【0067】
本発明の粘性水系組成物は、先に述べたように、上記特定のセルロース繊維(A成分)、水(B成分)、さらに、必要に応じ機能性添加剤を配合し、混合処理等することにより得ることができる。
【0068】
より詳しく述べると、上記混合処理としては、例えば、真空ホモミキサー、ディスパー、プロペラミキサー、ニーダー等の各種混練器、各種粉砕機、ブレンダー、ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル、ペブルミル、ビーズミル粉砕機、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー等を用いた混合処理があげられる。
【0069】
このようにして得られる本発明の粘性水系組成物の粘度は、求める機能により異なるが、使用感、増粘性、分散安定性等の点から、0.01Pa・s以上が好ましく、特に好ましくは0.1〜80Pa・sの範囲である。また、機能性添加剤を配合する場合は、0.01Pa・s以上が好ましく、特に好ましくは0.1〜20Pa・sの範囲である。
【0070】
なお、上記粘度は、例えば、BH型粘度計(No.4ローター)等を用いて測定することができる。
【0071】
このようにして得られる本発明の粘性水系組成物は、例えば、クリーム状、ゲル状、乳液状あるいは液体状の剤型を有する各種製品(化粧料、医薬品、農薬、トイレタリー用品、スプレー製品、塗料等)の増粘剤として好適に用いることができる。具体的には、化粧水、乳液、コールドクリーム、バニシングクリーム、マッサージクリーム、エモリエントクリーム、クレンジングクリーム、美容液、パック、ファンデーション、サンスクリーン化粧料、サンタン化粧料、モイスチャークリーム、ハンドクリーム、美白乳液、各種ローション等の皮膚用化粧料、シャンプー、リンス、ヘアコンディショナー、リンスインシャンプー、ヘアスタイリング剤(ヘアフォーム,ジェル状整髪料等)、ヘアトリートメント剤(ヘアクリーム,トリートメントローション等)、染毛剤やローションタイプの育毛剤あるいは養毛剤等の毛髪用化粧料、さらにはハンドクリーナーのような洗浄剤、プレシェーブローション、アフターシェーブローション、自動車用や室内用の芳香剤、脱臭剤、歯磨剤、軟膏、貼布剤、農薬、スプレー製品、塗料等の用途に用いることができる。
【0072】
つぎに、実施例について比較例と併せて説明する。ただし、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0073】
まず、実施例および比較例に先立ち、以下のようにしてセルロース繊維T1,H1およびH2を作製した。
【0074】
〔セルロース繊維T1の作製〕
まず、針葉樹パルプ2gに、水150mlと、臭化ナトリウム0.25gと、TEMPOを0.025gとを加え、充分撹拌して分散させた後、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、上記パルプ1.0gに対して次亜塩素酸ナトリウム量が6.5mmol/gとなるように加え、反応を開始した。反応の進行に伴いpHが低下するため、pHを10〜11に保持するように0.5N水酸化ナトリウム水溶液を滴下しながら、pHの変化が見られなくなるまで反応させた(反応時間:120秒)。反応終了後、0.1N塩酸を添加してpHを2.0に調整し、ろ過と水洗を繰り返して精製し、繊維表面が酸化されたセルロース繊維T1を得た。
【0075】
〔セルロース繊維H1の作製〕
13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)の添加量を3.4mmol/gとした以外は、セルロース繊維T1と同様の作製手順により、繊維表面が酸化されたセルロース繊維H1を得た。なお、反応時間には60秒を要した。
【0076】
〔セルロース繊維H2の作製〕
針葉樹パルプに代えて、リヨセル(再生セルロース)を用い、かつ、13重量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液(共酸化剤)を、リヨセル1.0gに対し次亜塩素酸ナトリウム量が25.0mmol/gとなるよう加えた以外は、セルロース繊維T1と同様の作製手順により、繊維表面が酸化されたセルロース繊維H2を得た。なお、反応時間には60秒を要した。
【0077】
このようにして得られたセルロース繊維T1,H1およびH2に関する各項目をまとめると、後記の表1に示す通りであった。表1に示す、カルボキシル基量、最大繊維径、数平均繊維径の測定は、下記の基準に従って行った。なお、セルロース繊維H2は、中性〜アルカリ性では水溶性であり、繊維径の観察は不可能であった。
【0078】
〔カルボキシル基量の測定〕
セルロース水分散体を60ml(セルロース重量:0.25g)調製し、0.1Mの塩酸水溶液によってpHを約2.5とした後、0.05Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して、電気伝導度測定を行った。測定はpHが約11になるまで続けた。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階において消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下の式(1)に従いカルボキシル基量を求めた。
【0079】
カルボキシル基量 [mmol/g]=V[ml]×〔0.05/セルロース重量〕 ……(1)
【0080】
〔最大繊維径、数平均繊維径〕
セルロース水分散体におけるセルロース繊維の最大繊維径および数平均繊維径を、透過型電子顕微鏡(TEM)(日本電子社製、JEM−1400)を用いて観察した。すなわち、各セルロース繊維を親水化処理済みのカーボン膜被覆グリッド上にキャストした後、2%ウラニルアセテートでネガティブ染色したTEM像(倍率:10000倍)から、先に述べた方法に従い、最大繊維径および数平均繊維径を算出した。
【0081】
【表1】

【0082】
なお、セルロース繊維T1に関し、セルロース繊維表面上のグルコースユニットのC6位の水酸基のみが選択的にカルボキシル基に酸化されているかどうかについて、13C−NMRチャートで確認した。すなわち、酸化前のセルロースの13C−NMRチャートで確認できるグルコース単位の1級水酸基のC6位に相当する62ppmのピークが、酸化反応後は消失し、代わりに、178ppmに、カルボキシル基に由来するピークが現れていた。このことから、セルロース繊維T1は、グルコース単位のC6位水酸基のみがカルボキシル基に酸化されていることが確認された。
【0083】
〔実施例1〕
表1に示すセルロース繊維T1を、固形分が2%となるように純水で希釈し、さらに、中和剤としてトリエチルアミン(TEA)〔中和剤の炭素数:6、中和剤の有機性(有機概念図における中和剤の有機性値):120〕を添加し、pH7となるよう調製した。その後、超高圧ホモジナイザーで処理し、粘性水系組成物を得た。
【0084】
〔実施例2〜5〕
トリエチルアミン(TEA)に代えて、中和剤として、後記の表2に示す中和剤〔トリエタノールアミン(TEtOHA)、トリイソプロパノールアミン(TIPA)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMPOH)、3−ラウリルオキシプロピルアミン(LOPA)のいずれか〕を用い、pH7となるよう調製する以外は、実施例1と同様の方法で、粘性水系組成物を得た。なお、中和剤の炭素数、中和剤の有機性(有機概念図における中和剤の有機性値)は、後記の表2に示す通りである。
【0085】
〔比較例1〜5〕
トリエチルアミン(TEA)に代えて、中和剤として、後記の表3に示す中和剤〔ジメチルミリスチルアミン(DMMA)、ジメチルステアリルアミン(DMSA)、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、水酸化ナトリウム(NaOH)のいずれか〕を用い、pH7となるよう調製する以外は、実施例1と同様の方法で、粘性水系組成物を得た。なお、中和剤の炭素数、中和剤の有機性(有機概念図における中和剤の有機性値)は、後記の表3に示す通りである。
【0086】
〔比較例6〜14〕
表1に示すセルロース繊維H1を、固形分が2%となるように純水で希釈し、さらに、中和剤として、後記の表4および表5に示す中和剤〔トリエチルアミン(TEA)、トリエタノールアミン(TEtOHA)、トリイソプロパノールアミン(TIPA)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMPOH)、ジメチルミリスチルアミン(DMMA)、ジメチルステアリルアミン(DMSA)、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、水酸化ナトリウム(NaOH)のいずれか〕を添加し、pH7となるよう調製した。その後、超高圧ホモジナイザーで処理し、粘性水系組成物を得た。
【0087】
〔比較例15〜23〕
表1に示すセルロース繊維H2を、固形分が2%となるように純水で希釈し、さらに、中和剤として、後記の表6および表7に示す中和剤〔トリエチルアミン(TEA)、トリエタノールアミン(TEtOHA)、トリイソプロパノールアミン(TIPA)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMPOH)、ジメチルミリスチルアミン(DMMA)、ジメチルステアリルアミン(DMSA)、テトラメチルエチレンジアミン(TMEDA)、ヘキサメチレンジアミン(HMDA)、水酸化ナトリウム(NaOH)のいずれか〕を添加し、pH7となるよう調製した。その後、超高圧ホモジナイザーで処理し、粘性水系組成物を得た。
【0088】
〔比較例24,25〕
比較例24ではカルボキシメチルセルロース(CMC)(セロゲンBSH−12、第一工業製薬社製)を、比較例25では微小繊維状セルロース(セリッシュ)(セリッシュFD−100G、ダイセル化学工業社製)を、純水で希釈し、それぞれ粘性水系組成物を得た。
【0089】
このようにして得られた実施例1〜5,比較例1〜25の粘性水系組成物に対し、下記の基準に従い、乳化力の測定を行った。その結果を、後記の表2〜表8に併せて示す。
【0090】
〔乳化力〕
目盛付試験管に、粘性水系組成物と、流動パラフィンと、純水とを入れ、ボルテックスミキサーで1分間撹拌し、混合液を調製した。このとき、上記粘性水系組成物の分量は、固形分量で混合液全量の0.15%、流動パラフィンの分量は、混合液全量の20%となるよう配合した。そして、上記混合液を24時間静置した後、以下の計算式より乳化力を算出した。
【0091】
乳化力[%] =〔混合液中の乳化相量[ml] /混合液全量[ml] 〕×100
【0092】
【表2】

【0093】
【表3】

【0094】
【表4】

【0095】
【表5】

【0096】
【表6】

【0097】
【表7】

【0098】
【表8】

【0099】
以上の結果より、実施例1〜5の粘性水系組成物は、比較例1〜25のものに比べ、非常に高い乳化力を示すことがわかる。なお、比較例1〜5は、使用する中和剤の違いにより、乳化力に劣る結果となった。また、比較例6〜25は、使用するセルロース繊維の違い等により、乳化力に劣る結果となった。
【0100】
〔実施例6,7〕
表1に示すセルロース繊維T1を、固形分が2%となるように純水で希釈し、さらに、中和剤としてトリエチルアミン(TEA)〔中和剤の炭素数:6、中和剤の有機性(有機概念図における中和剤の有機性値):120〕を添加し、pHを調整した。このとき、実施例6はpH5、実施例7はpH10となるよう調製した。その後、超高圧ホモジナイザーで処理し、粘性水系組成物を得た。
【0101】
〔実施例8,9〕
表1に示すセルロース繊維T1を、固形分が2%となるように純水で希釈し、さらに、中和剤としてトリエタノールアミン(TEtOHA)〔中和剤の炭素数:6、中和剤の有機性(有機概念図における中和剤の有機性値):120〕を添加し、pHを調整した。このとき、実施例8はpH5、実施例9はpH10となるよう調製した。その後、超高圧ホモジナイザーで処理し、粘性水系組成物を得た。
【0102】
〔実施例10,11〕
表1に示すセルロース繊維T1を、固形分が2%となるように純水で希釈し、さらに、中和剤としてトリイソプロパノールアミン(TIPA)〔中和剤の炭素数:9、中和剤の有機性(有機概念図における中和剤の有機性値):180〕を添加し、pHを調整した。このとき、実施例10はpH5、実施例11はpH10となるよう調製した。その後、超高圧ホモジナイザーで処理し、粘性水系組成物を得た。
【0103】
〔実施例12,13〕
表1に示すセルロース繊維T1を、固形分が2%となるように純水で希釈し、さらに、中和剤として2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMPOH)〔中和剤の炭素数:4、中和剤の有機性(有機概念図における中和剤の有機性値):80〕を添加し、pHを調整した。このとき、実施例12はpH5、実施例13はpH10となるよう調製した。その後、超高圧ホモジナイザーで処理し、粘性水系組成物を得た。
【0104】
このようにして得られた実施例6〜13の粘性水系組成物に対し、先に述べた基準に従い、乳化力の測定を行った。その結果を、下記の表9〜表10に示す。
【0105】
【表9】

【0106】
【表10】

【0107】
以上の結果より、実施例6〜13の粘性水系組成物も、先の比較例1〜25に比べ、非常に高い乳化力を示すことがわかる。なお、実施例と同じセルロース繊維および同じ中和剤を用いた場合であっても、実施例のpHよりも低くなるよう調製すると、高圧ホモジナイザー処理ができず、粘性水系組成物は得られなかった。また、実施例のpHよりも高くなるよう調製すると、乳化力に劣る結果となった。
【0108】
ところで、セルロース繊維T1に限らず、最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、セルロースI型結晶構造を有すると共に、カルボキシル基が0.6〜2.0mmol/gの範囲のセルロース繊維であれば、実施例と同様の中和剤の使用により、pH5〜10となるよう調製することにより、実施例と同様、非常に高い乳化力を示すことが、実験により確認された。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の粘性水系組成物は、天然素材であるセルロース繊維を、増粘剤や乳化安定剤として使用し、また、各種機能性添加剤との配合性にも富んでいることから、化粧品基材や、芳香剤のようなトイレタリー用品基材等として広く好適に利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分および(B)成分を含有することを特徴とする粘性水系組成物。
(A)最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシル基に変性され、それによってカルボキシル基が0.6〜2.0mmol/gの割合になっており、かつそのカルボキシル基が、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンとの塩となっている、セルロース繊維。
(B)水。
【請求項2】
上記(A)成分のセルロース繊維が、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化されたものであり、上記酸化反応により生じたカルボキシル基が、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンによりpH5〜10の範囲で中和されることにより得られたものである、請求項1記載の粘性水系組成物。
【請求項3】
有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンが、モノエタノールアミン、2−アミノ−2−メチルプロパノール、ジエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1,3−プロパンジオール、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルアミン、N,N−ジメチルブチルアミン、トリエタノールアミン、モノオクチルアミン、ジメチルベンジルアミン、トリイソプロパノールアミン、N,N−ジメチル−n−オクチルアミン、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、3−ラウリルオキシプロピルアミン、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシドおよびベンジルトリエチルアンモニウムヒドロキシドからなる群から選ばれた少なくとも一つである請求項1または2記載の粘性水系組成物。
【請求項4】
上記(A)および(B)成分とともに、油性原料を含有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の粘性水系組成物。
【請求項5】
上記(A)成分のセルロース繊維含有量が、粘性水系組成物全体の0.01〜5.0重量%の範囲である、請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘性水系組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の粘性水系組成物の製法であって、セルロースI型結晶構造を有するセルロースからなる、最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維を、N−オキシル化合物の存在下、共酸化剤を用いて酸化させた後、さらに有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンと中和反応させ、上記(A)成分のセルロース繊維を調製し、これを、水に分散させることを特徴とする粘性水系組成物の製法。
【請求項7】
最大繊維径が1000nm以下で、数平均繊維径が2〜150nmのセルロース繊維であって、そのセルロースが、セルロースI型結晶構造を有すると共に、セルロース分子中の各グルコースユニットのC6位の水酸基が選択的に酸化されてカルボキシル基に変性され、それによってカルボキシル基が0.6〜2.0mmol/gの割合になっており、かつそのカルボキシル基が、有機概念図における有機性値が300以下のモノアミンとの塩となっていることを特徴とするセルロース繊維。

【公開番号】特開2012−126786(P2012−126786A)
【公開日】平成24年7月5日(2012.7.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−278099(P2010−278099)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【出願人】(000003506)第一工業製薬株式会社 (491)
【Fターム(参考)】