説明

粘着シート

【課題】水分散型アクリル系粘着剤組成物を用いてなる粘着シートであって、非接触の金属を腐食させる性質が抑えられた粘着シートを提供する。
【解決手段】硫黄を構成原子として有しない連鎖移動剤を用いて合成された水分散型アクリル系重合体を含む水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える粘着シートであり、85℃で1時間加熱した場合における硫黄含有ガスの放散量(SO2−換算)が0.043μg/1cm以下であり、ABS板に対する粘着力が10N/20mm以上、且つ80℃保持力試験における保持時間が1時間以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アクリル系重合体をベースポリマーとする水分散型の粘着(感圧接着ともいう。以下同じ。)剤組成物および該粘着剤組成物を用いた粘着シートに関する。
【背景技術】
【0002】
水分散型のアクリル系重合体を用いた粘着剤組成物は、分散媒として有機溶剤を用いないことから、粘着成分が有機溶剤に溶解したタイプの粘着剤組成物に比べて環境衛生の観点から望ましい。このため、水分散型アクリル系粘着剤組成物を用いてなる粘着シートは、両面テープその他の形態で、種々の分野に利用されるようになってきている。かかる利用分野の一例として、家電やOA機器等の各種電子機器が挙げられる。アクリル系エマルションを用いた粘着剤に関する技術文献として特許文献1が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭61−12775号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、水分散型アクリル系粘着剤組成物から形成された粘着シートは、使用の態様によっては、該粘着シートに直接接触しない金属(例えば銀)を腐食させることがある。例えば、電子機器の筐体内部のように限られた空間内で粘着シートと金属材料が共存する状況において、上記非接触の金属材料に腐食が生じる場合がある。かかる事象は、電子機器の基板や配線等を構成する金属の腐食による接触不良を引き起こす要因となり得る。また、上記金属の腐食は、電子機器のみならずそれ以外の分野においても、材料の劣化(金属疲労等)、外観品質の低下等の不都合を生じ得る。したがって、金属を腐食させない粘着シートが望まれる。
【0005】
本発明は、かかる従来の問題を解決すべくなされたものであり、水分散型アクリル系粘着剤組成物を用いてなる粘着シートであって上記非接触金属の腐食が抑えられた粘着シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、粘着シートが非接触の金属を腐食させる事象は、該粘着シートから金属腐食性の物質が放散することにより引き起こされるのではないかと考え、該金属腐食性物質として硫黄含有ガス(すなわち、硫黄を構成原子として含むガス)に着目した。さらに、粘着剤用アクリル系重合体エマルションの製造(典型的にはエマルション重合)において連鎖移動剤として広く使用されている硫黄化合物(硫黄含有連鎖移動剤、典型的にはn−ラウリルメルカプタン)が、上記硫黄含有ガスの主要な発生源となり得ることを突き止めた。したがって、上記硫黄含有連鎖移動剤を使用しないようにすれば、該硫黄化合物に起因して硫黄含有ガスが発生する事象を根本的に解決できると考えられる。しかしながら、一般に、連鎖移動剤を使わずに重合を行うと、アクリル系重合体の分子量を調節し難くなり(典型的には分子量が高くなりすぎて)、該重合体を用いてなる粘着剤において各種の粘着特性を高レベルでバランスよく実現することが困難となる。本発明者は、上記アクリル系重合体エマルションの製造に使用する連鎖移動剤として、硫黄を構成原子として有しない連鎖移動剤(硫黄フリー連鎖移動剤)を用いることにより、連鎖移動剤の使用を許容しつつ上記金属腐食の問題を解消し得ることを見出して、本発明を完成した。
【0007】
本発明によると、水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える粘着シートが提供される。上記粘着剤組成物は、硫黄を構成原子として有しない連鎖移動剤(以下、「硫黄フリー連鎖移動剤」ということもある。)を用いて合成された水分散型アクリル系重合体を含む。上記粘着シート(例えば、基材の両面に前記粘着剤層を備える両面粘着シート)は、以下の特性A〜Cの全てを満たすことを特徴とする。
特性A:アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂板(ABS板)に対する180°引き剥がし粘着力が10N/20mm以上である。
特性B:80℃保持力試験における保持時間が1時間以上である。すなわち、被着体に貼り付けた試料片に荷重を付与して80℃の環境下に1時間放置した場合、試料片が被着体から落下しない。
特性C:当該粘着シートを85℃で1時間加熱するガス発生試験において、硫黄を構成原子として含むガス(硫黄含有ガス)の放散量が、該粘着シートの面積1cm当たり、SO2−換算で0.043μg以下である(以下、これを「0.043μgSO2−/cm以下」と表すことがある。)。
【0008】
かかる粘着シートによると、粘着剤層の形成に用いる水分散型アクリル系重合体の合成にあたり、連鎖移動剤の使用を許容しているので、該重合体を適切な分子量に調節することが容易である。分子量が適切に調節されたアクリル系重合体を含む粘着剤組成物によると、上記特性Aおよび特性Bを同時に満足する高性能な粘着シートが形成され得る。また、連鎖移動剤として硫黄フリーのものを使用するので、連鎖移動剤に由来する硫黄含有ガス(特に、銀等の金属と反応して硫化物を形成し得るガス。例えばHS、SO)の発生を確実に防止することができる。したがって、本発明によると、上記非接触の金属を腐食させる性質を有しないか或いはその性質が極めて低く(すなわち金属腐食防止性に優れ)、且つ粘着性能の良い粘着シートが提供され得る。
【0009】
ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、該粘着シートが、さらに以下の特性D〜Fのうち少なくとも一つを満たす。
特性D:容積50mLの容器に該粘着シート1gと銀板とを互いに接触しないように収容し、該容器を密閉して85℃に一週間保持する金属腐食性試験において、前記銀板を腐食させない。
特性E:ポリプロピレン樹脂板(PP板)に対する180°引き剥がし粘着力が10N/20mm以上である。
特性F:幅10mm、長さ90mmの粘着シートを厚さ0.5mmのアルミニウム板で裏打ちしてなる試料片を、直径40mm円柱に5秒間巻きつけて前記アルミニウム板側に反らせ、その試料片をポリプロピレン板に圧着して23℃、50%RHの環境下に24時間、次いで70℃の環境下に2時間保持する曲面接着性試験において、前記試料片端部の前記ポリプロピレン板表面からの浮き距離が8mm以下である。
【0010】
ここに開示される技術において使用する前記硫黄フリー連鎖移動剤の好適例として、N,N−ジアルキルアニリン、ベンジリデニル基(C−CH=)を有する化合物、非共役シクロアルキルジエン、および、2,3−ジメチル−2−ブテン、が挙げられる。このような硫黄フリー連鎖移動剤から選択される一種または二種以上を好ましく用いることができる。このような連鎖移動剤は、分子量が適切に調節されたアクリル系重合体を合成するのに適している。かかるアクリル系重合体を含む粘着剤組成物によると、金属腐食防止性に優れ、且つ、より粘着性能の良い粘着シートが形成され得る。
【0011】
ここに開示される技術の好ましい適用対象として、基材の両面に前記粘着剤層を備えた両面粘着シートが例示される。かかる構成の粘着シートでは、アクリル系重合体の分子量を調節することの重要性が特に大きい。したがって、水分散型アクリル系重合体の合成時に連鎖移動剤を使用し得ることが特に有意義である。
【0012】
ここに開示される技術により提供される粘着シートは、上述のように金属腐食ガスの放散量が極めて少ないことから、電子機器の内部で用いられる粘着シートとして好適である。例えば、回路基板、配線等の金属材料と共存する内部空間において、接合のために用いられる粘着シートとして好ましく使用され得る。したがって本発明は、他の側面として、上記粘着シートによる接合箇所を内部に有する電子機器を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係る粘着シートの一構成例を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図4】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図5】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図6】本発明に係る粘着シートの他の一構成例を模式的に示す断面図である。
【図7】金属腐食性試験を行う方法を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の説明において、同様の作用を奏する部材または部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
【0015】
本発明により提供される粘着シートは、ここに開示されるいずれかの水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える。かかる粘着剤層を基材(支持体)の片面または両面に有する形態の基材付き粘着シートであってもよく、上記粘着剤層が剥離ライナー(「剥離面を備える基材」としても把握され得る。)に保持された形態等の基材レスの粘着シートであってもよい。ここでいう粘着シートの概念には、粘着テープ、粘着ラベル、粘着フィルム等と称されるものが包含され得る。なお、上記粘着剤層は典型的には連続的に形成されるが、かかる形態に限定されるものではなく、例えば点状、ストライプ状等の規則的あるいはランダムなパターンに形成された粘着剤層であってもよい。また、本発明により提供される粘着シートは、ロール状であってもよく、枚葉状であってもよい。あるいは、さらに種々の形状に加工された形態の粘着シートであってもよい。
【0016】
ここに開示される粘着シートは、例えば、図1〜図6に模式的に示される断面構造を有するものであり得る。このうち図1,図2は、両面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図1に示す粘着シート1は、基材10の両面(いずれも非剥離性)に粘着剤層21,22が設けられ、それらの粘着剤層が、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有している。図2に示す粘着シート2は、基材10の両面(いずれも非剥離性)に粘着剤層21,22が設けられ、それらのうち一方の粘着剤層21が、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有している。この種の粘着シート2は、該粘着シートを巻回して他方の粘着剤層22を剥離ライナー31の裏面に当接させることにより、粘着剤層22もまた剥離ライナー31によって保護された構成とすることができる。
【0017】
図3,図4は、基材レスの両面粘着シートの構成例である。図3に示す粘着シート3は、基材レスの粘着剤層21の両面21A,21Bが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31,32によってそれぞれ保護された構成を有する。図4に示す粘着シート4は、基材レスの粘着剤層21の一面21Aが、両面が剥離面となっている剥離ライナー31により保護された構成を有し、これを巻回すると、粘着剤層21の他面21Bが剥離ライナー31の背面に当接することにより、他面21Bもまた剥離ライナー31で保護された構成とできるようになっている。
【0018】
図5,図6は、片面粘着タイプの基材付き粘着シートの構成例である。図5に示す粘着シート5は、基材10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられ、その粘着剤層21の表面(接着面)21Aが、少なくとも該粘着剤層側が剥離面となっている剥離ライナー31で保護された構成を有する。図6に示す粘着シート6は、基材10の一面10A(非剥離性)に粘着剤層21が設けられた構成を有する。基材10の他面10Bは剥離面となっており、粘着シート6を巻回すると該他面10Bに粘着剤層21が当接して、該粘着剤層の表面(接着面)21Bが基材の他面10Bで保護されるようになっている。
【0019】
ここに開示される技術により提供される粘着シートは、当該粘着シートを85℃で1時間加熱するガス発生試験において、硫黄含有ガスの放散量が0.043μgSO2−/cm以下(より好ましくは0.03SO2−/cm以下)であり(特性C)、且つ上記特性A,Bを満たす(好ましくは、さらに上記特性D〜Gの少なくとも一つを満たす)ことによって特徴付けられる。このように金属腐食性および粘着特性に優れる粘着シートは、例えば、電子機器の内部において使用される粘着シートとして好適である。
【0020】
上記硫黄含有ガス放散量は、例えば、粘着シートを85℃で1時間加熱するガス発生試験において当該粘着シートから放散した硫黄含有ガス(HS、SO等であり得る。)の質量をSO2−の質量として求め、その質量を上記粘着シートの面積で割ることにより算出することができる。より具体的には、例えば、後述する実施例に記載した硫黄含有ガス放散量測定方法により求めることができる。好ましい一態様では、粘着シートの硫黄含有ガス放散量が実質的にゼロ(例えば、後述のように0.1g程度の粘着シートを測定試料とする硫黄含有ガス放散量測定において検出限界未満、典型的には0.02μgSO2−/cm未満)である。
【0021】
ここに開示される粘着シートの好ましい一態様では、容積50mLの容器に該粘着シート1gと銀板(例えば、99.95%を超える純度の銀からなり、サイズが1mm×10mm×10mmの銀板を使用する。)とを互いに接触しないように収容し、該容器を密閉して85℃に一週間保持する金属腐食性試験(より具体的には、例えば、後述する実施例に記載の手順で行われる金属腐食性試験)において、前記銀板に腐食が認められない(特性D)。このように金属腐食防止性に優れた粘着シートは、電子機器の内部において使用される粘着シートとして特に好適である。なお、本発明において「銀板を腐食させない」とは、上記金属腐食性試験後(一週間経過後)の銀板と未使用(試験前)の銀板とを目視観察により比較して、外観変化(金属光沢の消失、着色等)が認められないことをいうものとする。
【0022】
粘着シート(典型的には両面粘着シート)のABS粘着力およびPP粘着力は、それぞれ、後述する実施例に記載のABS粘着力測定およびPP粘着力測定により把握することができる。また、該粘着シートの保持力は、後述する実施例に記載の保持力測定により把握することができる。該粘着シートの曲面接着性は、後述する実施例に記載の曲面接着性評価により把握することができる。
【0023】
ここに開示される粘着シートは、特性Aに関し、ABS板に対する180°引き剥がし粘着力(以下、単にABS粘着力ともいう。)が13N/20mm以上であることがより好ましく、14.5N/20mm以上であることがさらに好ましい。ABS粘着力の上限は特に限定されないが、測定時の破壊形態が界面破壊の場合、通常は概ね30N/20mm以下である。また、特性Bに関し、80℃の環境下に1時間放置した後における粘着シート(試料片)のズレ距離が3mm以下であることがより好ましく、1.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0024】
ここに開示される粘着シートは、特性Eに関し、PP板に対する180°引き剥がし粘着力(以下、単にPP粘着力ともいう。)が10N/20mm以上であることが好ましく、12N/20mm以上であることがより好ましい。PP粘着力の上限は特に限定されないが、測定時の破壊形態が界面破壊の場合、通常は概ね25N/20mm以下である。また、特性Fに関し、PP板からの浮き距離が8mm以下であることが好ましく、6mm以下であることがより好ましく、4.5mm以下であることがさらに好ましい。
【0025】
好ましい一態様では、該粘着シートが、さらに、後述する実施例に記載の方法で測定されるフォーム耐反撥性試験において、ABS板からの浮き距離が5mmである特性(特性G)を有する。上記浮き距離が3mm以下であることがより好ましく、2mm以下であることがより好ましい。特に好ましくは、上記浮き距離が実質的に0である。
【0026】
ここに開示される技術において、粘着剤層の形成に使用される水分散型粘着剤組成物は、水分散型アクリル系重合体を含む。この水分散型アクリル系重合体は、アクリル系重合体が水に分散しているエマルション形態の組成物である。上記アクリル系重合体は、粘着剤層を構成する粘着剤のベースポリマー(粘着剤の基本成分、典型的には該粘着剤を構成するポリマー成分のうちの50質量%以上を占める成分)として用いられる。例えば、上記粘着剤の50質量%以上が上記アクリル系重合体であることが好ましい。かかるアクリル系重合体としては、アルキル(メタ)アクリレートを主構成単量体成分(モノマー主成分、すなわちアクリル系重合体を構成するモノマーの総量のうち50質量%以上を占める成分)とするものを好ましく採用し得る。
【0027】
なお、本明細書中において「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを包括的に指す意味である。同様に、「(メタ)アクリロイル」はアクリロイルおよびメタクリロイルを、「(メタ)アクリル」はアクリルおよびメタクリルを、それぞれ包括的に指す意味である。
【0028】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、例えば、下記式(1)で表される化合物を好適に用いることができる。
CH=C(R)COOR (1)
ここで、上記式(1)中のRは水素原子またはメチル基である。また、Rは炭素原子数1〜20のアルキル基である。Rの具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソアミル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基等のアルキル基が挙げられる。粘着剤の貯蔵弾性率等の観点から、これらのうちRが炭素原子数2〜14(以下、このような炭素原子数の範囲を「C2−14」と表すことがある。)のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。RがC2−10のアルキル基であるアルキル(メタ)アクリレートがより好ましい。特に好ましいRとして、ブチル基および2−エチルヘキシル基が例示される。
【0029】
好ましい一つの態様では、アクリル系重合体の合成に使用するアルキル(メタ)アクリレートの総量のうち凡そ50質量%以上(より好ましくは70質量%以上、例えば凡そ80質量%以上)が、上記式(1)におけるRがC2−14(好ましくはC2−10、より好ましくはC4−8)のアルキル(メタ)アクリレートである。このようなモノマー組成によると、常温付近における貯蔵弾性率が粘着剤として好適な範囲となるアクリル系重合体が得られやすい。使用するアルキル(メタ)アクリレートの実質的に全部がC2−14アルキル(メタ)アクリレートであってもよい。
【0030】
ここに開示される技術におけるアクリル系重合体を構成するアルキル(メタ)アクリレートは、ブチルアクリレート(BA)単独であってもよく、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA)単独であってもよく、BAと2EHAとの二種であってもよい。アルキル(メタ)アクリレートとしてBAおよび2EHAを組み合わせて用いる場合、それらの使用比率は特に制限されない。例えば、BAと2EHAとの合計量のうち概ね40質量%以上(例えば凡そ45〜95質量%)が2EHAである比率を好ましく採用し得る。
【0031】
アクリル系重合体を構成するモノマー成分としては、アルキル(メタ)アクリレートが主成分となる範囲で、アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能な他のモノマー(「共重合性モノマー成分」と称する場合がある。)が用いられていてもよい。アクリル系重合体を構成するモノマー成分の総量に対するアルキル(メタ)アクリレートの割合は、凡そ80質量%以上(典型的には80〜99.8質量%)とすることができ、好ましくは85質量%以上(例えば85〜99.5質量%)である。アルキル(メタ)アクリレートの割合が90質量以上(90〜99質量%)であってもよい。
【0032】
上記共重合性モノマー成分は、アクリル系重合体に架橋点を導入したり、アクリル系重合体の凝集力を高めたりするために役立ち得る。かかる共重合性モノマーは、単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
より具体的には、アクリル系重合体に架橋点を導入するための共重合性モノマー成分として、各種の官能基含有モノマー成分(典型的には、熱により架橋する架橋点をアクリル系重合体に導入するための、熱架橋性官能基含有モノマー成分)を用いることができる。かかる官能基含有モノマー成分を用いることにより、被着体に対する接着力を向上させ得る。このような官能基含有モノマー成分は、アルキル(メタ)アクリレートと共重合可能であり、且つ架橋点となる官能基を提供し得るモノマー成分であればよく、特に制限されない。例えば、以下のような官能基含有モノマー成分を、単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
カルボキシル基含有モノマー:例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸等の、エチレン性不飽和モノカルボン酸;マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸等の、エチレン性不飽和ジカルボン酸およびその無水物(無水マレイン酸、無水イタコン酸等)。
水酸基含有モノマー:例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;ビニルアルコール、アリルアルコール等の、不飽和アルコール類。
【0035】
アミド基含有モノマー:例えば、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチロールプロパン(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド。
アミノ基含有モノマー:例えば、アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート。
【0036】
エポキシ基を有するモノマー:例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、メチルグリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル。
シアノ基含有モノマー:例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル。
ケト基含有モノマー:例えば、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、ジアセトン(メタ)アクリレート、ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、アリルアセトアセテート、ビニルアセトアセテート。
【0037】
窒素原子含有環を有するモノマー:例えば、N−ビニル−2−ピロリドン、N−メチルビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、N−ビニルピペリドン、N−ビニルピリミジン、N−ビニルピペラジン、N−ビニルピラジン、N−ビニルピロール、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルオキサゾール、N−ビニルモルホリン、N−ビニルカプロラクタム、N−(メタ)アクリロイルモルホリン。
【0038】
アルコキシシリル基含有モノマー:例えば、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン。
【0039】
このような官能基含有モノマー成分のうち、カルボキシル基含有モノマーまたはその酸無水物から選択される一種または二種以上を好ましく用いることができる。官能基含有モノマー成分の実質的に全部がカルボキシル基含有モノマーであってもよい。なかでも好ましいカルボキシル基含有モノマーとして、アクリル酸およびメタクリル酸が例示される。これらの一方を単独で用いてもよく、アクリル酸とメタクリル酸とを任意の割合で組み合わせて用いてもよい。
【0040】
上記官能基含有モノマー成分は、例えば、アルキル(メタ)アクリレート100質量部に対して凡そ12質量部以下(例えば凡そ0.5〜12質量部、好ましくは凡そ1〜8質量部)の範囲で用いることが好ましい。官能基含有モノマー成分の使用量が多すぎると、凝集力が高くなりすぎて粘着特性(例えば接着力)が低下傾向となることがあり得る。
【0041】
また、アクリル系ポリマーの凝集力を高めるために、上述した官能基含有モノマー以外の他の共重合成分を用いることができる。かかる共重合成分としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等の、ビニルエステル系モノマー;スチレン、置換スチレン(α−メチルスチレン等)、ビニルトルエン等の、芳香族ビニル化合物;シクロアルキル(メタ)アクリレート[シクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロペンチルジ(メタ)アクリレート等]、イソボルニル(メタ)アクリレート等の、非芳香族性環含有(メタ)アクリレート;アリール(メタ)アクリレート[例えばフェニル(メタ)アクリレート]、アリールオキシアルキル(メタ)アクリレート[例えばフェノキシエチル(メタ)アクリレート]、アリールアルキル(メタ)アクリレート[例えばベンジル(メタ)アクリレート]等の、芳香族性環含有(メタ)アクリレート;エチレン、プロピレン、イソプレン、ブタジエン、イソブチレン等の、オレフィン系モノマー;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の塩素含有モノマー;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルイソシアネート等の、イソシアネート基含有モノマー;メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等の、アルコキシ基含有モノマー;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル等の、ビニルエーテル系モノマー;等が挙げられる。
【0042】
共重合性モノマー成分の他の例として、一分子内に複数の官能基を有するモノマーが挙げられる。かかる多官能モノマーの例として、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、エポキシアクリレート、ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート、ジビニルベンゼン、ブチルジ(メタ)アクリレート、ヘキシルジ(メタ)アクリレート、等が挙げられる。
【0043】
このようなモノマーを重合させて水分散型アクリル系重合体を得る方法としては、公知乃至慣用の重合方法を採用することができ、エマルション重合法を好ましく用いることができる。エマルション重合を行う際のモノマー供給方法としては、全モノマー成分を一度に供給する一括仕込み方式、連続供給(滴下)方式、分割供給(滴下)方式等を適宜採用することができる。モノマーの一部または全部(典型的には全部)をあらかじめ水(典型的には、水とともに適当量の乳化剤が使用される。)と混合して乳化し、その乳化液(モノマーエマルション)を反応容器内に一括、連続あるいは分割して供給してもよい。重合温度は、使用するモノマーの種類、重合開始剤の種類等に応じて適宜選択することができ、例えば20℃〜100℃(典型的には40℃〜80℃)程度とすることができる。
【0044】
重合時に用いる重合開始剤としては、重合方法の種類に応じて、公知乃至慣用の重合開始剤から適宜選択することができる。例えば、エマルション重合法において、アゾ系重合開始剤を好ましく使用し得る。アゾ系重合開始剤の具体例としては、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオンアミジン)二硫酸塩、2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド、2,2’−アゾビス(N,N’−ジメチレンイソブチルアミジン)、2,2’−アゾビス[N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン]ハイドレート、2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4,4−トリメチルペンタン)、ジメチル−2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)等が挙げられる。
【0045】
重合開始剤の他の例としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)シクロドデカン、過酸化水素等の、過酸化物系開始剤;フェニル置換エタン等の、置換エタン系開始剤;芳香族カルボニル化合物;等が挙げられる。重合開始剤のさらに他の例として、過酸化物と還元剤との組み合わせによるレドックス系開始剤が挙げられる。かかるレドックス系開始剤の例としては、過酸化物とアスコルビン酸との組み合わせ(過酸化水素水とアスコルビン酸との組み合わせ等)、過酸化物と鉄(II)塩との組み合わせ(過酸化水素水と鉄(II)塩との組み合わせ等)、過硫酸塩と亜硫酸水素ナトリウムとの組み合わせ、等が挙げられる。
【0046】
このような重合開始剤は、単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。重合開始剤の使用量は、通常の使用量であればよく、例えば、全モノマー成分100質量部に対して0.005〜1質量部(典型的には0.01〜1質量部)程度の範囲から選択することができる。
【0047】
上記モノマー成分のエマルション重合にあたっては、該重合により生成するアクリル系重合体の分子量を調整するために、連鎖移動剤を使用する。これは、水性エマルション重合によるアクリル系重合体の製造では、溶液重合による場合と比較して、該共重合体の分子量が高くなりやすいためである。このことをより詳しく説明する。すなわち、溶液重合によるアクリル系重合体の製造においては、単量体同士の重合反応時に溶媒分子が存在するため、塊状重合のように溶媒非存在の状態における重合反応と比較して、単量体ラジカル同士の衝突確率が低い。これに対して、水性エマルション重合は、一般に、重合反応系中に界面活性剤が臨界ミセル濃度を上回る濃度で存在し、該界面活性剤がその疎水性官能基部分を内側として略球状に配向したミセル構造を形成している状況で行われる。かかる重合態様では、単量体はこの内部もしくはミセル構造を形成していない界面活性剤に取り込まれ、単量体ラジカルの生成はこのミセルと開始剤の衝突によって起こる。そして、生成した単量体ラジカル同士の衝突はミセル内部で起こる。したがって、水性エマルション重合における単量体ラジカル同士の衝突確率は、上記溶液重合における衝突確率に比べて高く、このため共重合体の分子量が高くなりがちである。粘着剤のベースポリマーとして用いられるアクリル系重合体の分子量が高すぎると、該粘着剤において各種の粘着特性を同時に高レベルで実現することが困難となる。例えば、粘着力(特に、ポリオレフィン樹脂のような低極性材料に対する粘着力)と保持力(特に耐熱保持力)とのバランスが崩れる、曲面接着性が低下する、等の不都合が生じやすくなる。したがって、高性能な粘着シートを形成し得る粘着剤組成物を得るためには、該組成物の構成成分たるアクリル系重合体のエマルション重合において連鎖移動剤を使用し、該アクリル系重合体の分子量を調節することが重要である。
【0048】
ここに開示される技術では、上記エマルション重合に使用する連鎖移動剤として、硫黄を構成原子として含まない化合物(硫黄フリー連鎖移動剤)を使用する。かかる硫黄フリー連鎖移動剤は、上記硫黄含有金属腐食性ガスの発生源となり得ない。したがって、上記エマルション重合に使用する連鎖移動剤の少なくとも一部を硫黄フリー連鎖移動剤とすることにより、連鎖移動剤に起因する金属の腐食を防止または軽減することができる。ここに開示される技術の好ましい一態様では、アクリル系重合体の合成に使用する連鎖移動剤のうち、硫黄フリー連鎖移動剤の占める割合が凡そ60質量%以上であり、より好ましくは凡そ75質量%以上、さらに好ましくは凡そ90質量%以上である。好ましい一態様では、アクリル系重合体の合成に使用する連鎖移動剤の実質的に全部が硫黄フリー連鎖移動剤である。換言すれば、連鎖移動剤として硫黄フリーのもののみを使用する。
【0049】
硫黄フリー連鎖移動剤としては、モノマー成分のエマルション重合において連鎖移動能を発揮し得る化合物であって且つ硫黄を構成原子として含まない各種の化合物を使用することができる。かかる硫黄フリー連鎖移動剤の具体例として、アニリン類(例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジエチルアニリン)、スチレン類(例えば、α−メチルスチレン、α―メチルスチレンダイマー)、ベンジリデニル基を有する化合物(例えば、ジベンジリデンアセトン、シンナミルアルコール、シンナミルアルデヒド)、ヒドロキノン類(例えば、ヒドロキノン、ナフトヒドロキノン)、キノン類(例えば、ベンゾキノン、ナフトキノン)、共役または非共役のオレフィン類(例えば、2,3−ジメチル−2−ブテン、1,5−シクロオクタジエン、ソルビン酸)、フェニル基を有するアルコール類(例えば、フェノール、ベンジルアルコール、アリルアルコール)、フェニル置換ベンゼン類(例えば、ジフェニルベンゼン、トリフェニルベンゼン)等を例示することができる。ここに開示される技術において好ましく採用し得る硫黄フリー連鎖移動剤として、N,N−ジアルキルアニリン(例えばN,N−ジエチルアニリン)、ベンジリデニル基を有する化合物(例えばシンナミルアルデヒド)、非共役シクロアルキルジエン(例えば1,5−シクロオクタジエン)、および、2,3−ジメチル−2−ブテンが例示される。
【0050】
なお、ここに開示される好ましい硫黄含有ガス放散量を実現し得る限り、水分散型アクリル系重合体の合成(典型的にはエマルション重合)において、硫黄フリー連鎖移動剤とともに、従来の一般的な硫黄含有連鎖移動剤を使用することは可能である。かかる連鎖移動剤としては、n−ラウリルメルカプタン、2−メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、チオグリコール酸−2−エチルヘキシル、2,3−ジメルカプト−1−プロパノール等の、1級炭素原子に結合したメルカプト基を少なくとも一つ有する構造のメルカプタン(以下、1級メルカプタンともいう。)が例示される。ただし、連鎖移動剤として1級メルカプタンのみを使用する場合には、硫黄含有ガス放散量をここに開示される好ましい範囲にまで低減しつつ所望の粘着性能を実現することは困難である。また、より高レベルの金属腐食防止性を実現するという観点からは、連鎖移動剤として1級メルカプタンを使用しないことが特に好ましい。
【0051】
所望の粘着性能を発揮するためには、アクリル系重合体の合成に使用する連鎖移動剤の総量を、モノマー成分100質量部に対して凡そ0.001質量部以上(典型的には凡そ0.001〜5質量部)とすることが好ましい。通常は、モノマー成分100質量部に対して凡そ0.005〜2質量部(典型的には凡そ0.01〜1質量部)程度の連鎖移動剤を使用することにより、好適な結果が実現され得る。例えば、両面粘着シート用のアクリル系重合体の合成において、上記範囲の使用量を好ましく採用し得る。連鎖移動剤の使用量が多すぎると、重合率が低下しがちとなる場合があり得る。
【0052】
このように硫黄フリー連鎖移動剤を用いたエマルション重合により、アクリル系重合体が水に分散したエマルション形態の重合液(アクリル系重合体エマルション)が得られる。ここに開示される技術における水分散型アクリル系重合体としては、上記重合液または該重合液に適当な後処理を施したものを好ましく用いることができる。あるいは、ここに開示されるいずれかの硫黄フリー連鎖移動剤を用いてエマルション重合方法以外の重合方法(例えば、溶液重合、光重合、バルク重合等)によりアクリル系重合体を合成し、該重合体を水に分散させて調製された水分散型アクリル系重合体を用いてもよい。
【0053】
水分散型アクリル系重合体の調製に当たっては、必要に応じて乳化剤を用いることができる。乳化剤としては、アニオン系、ノニオン系、カチオン系のいずれも使用可能である。通常は、アニオン系またはノニオン系の乳化剤の使用が好ましい。このような乳化剤は、例えば、モノマー成分をエマルション重合させる際や、他の方法で得られたアクリル系重合体を水に分散させる際等に好ましく使用することができる。
【0054】
アニオン系乳化剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸アンモニウム、ラウリル硫酸カリウム等の、アルキル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等の、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル硫酸アンモニウム、ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等の、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル硫酸塩型アニオン系乳化剤;ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等の、スルホン酸塩型アニオン系乳化剤;スルホコハク酸ラウリル二ナトリウム、ポリオキシエチレンスルホコハク酸ラウリル二ナトリウム等の、スルホコハク酸型アニオン系乳化剤;等が挙げられる。
【0055】
また、ノニオン系乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル型ノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレンラウリルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル型ノニオン系乳化剤;ポリオキシエチレン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックポリマー;等が挙げられる。上記のようなアニオン系またはノニオン系乳化剤にラジカル重合性基(プロペニル基等)が導入された構造のラジカル重合性乳化剤(反応性乳化剤)を用いてもよい。
【0056】
このような乳化剤は、一種を単独で用いてもよく、あるいは二種以上を組み合わせて用いてもよい。乳化剤の使用量は、アクリル系ポリマーをエマルションの形態に調製することが可能な使用量であればよく、特に制限されない。例えば、アクリル系重合体100質量部当たり、固形分基準で例えば凡そ0.2〜10質量部(好ましくは凡そ0.5〜5質量部)程度の範囲から選択することが適当である。乳化剤の使用量が少なすぎると、所望の分散安定性(重合安定性、機械的安定性等)が得られ難くなる場合がある。乳化剤の使用量が多すぎると、粘着性能が低下傾向となることがあり得る。
【0057】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、水分散型アクリル系重合体を構成するアクリル系重合体のゲル分率Ga(酢酸エチル不溶分の質量割合)が、凡そ35〜65質量%の範囲にある。Gaが凡そ40〜60質量%の範囲にあることがより好ましく、凡そ40〜55質量%の範囲にあることがさらに好ましい。かかるアクリル系重合体を含む粘着剤組成物によると、より高性能な粘着シートが形成され得る。
【0058】
ここで、上記アクリル系重合体のゲル分率Gaとは、水分散型アクリル系重合体を乾燥させた後の不揮発分を酢酸エチルで抽出して残った不溶分の質量割合を指す。ゲル分率Gaは、次の方法で測定することができる。
【0059】
[アクリル系重合体のゲル分率測定方法]
測定サンプルとしてのアクリル系重合体約0.1g(質量:Wa1mg)を、平均孔径0.2μmのテトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜(質量:Wa2mg)で巾着状に包み、口を凧糸(質量:Wa3mg)で縛る。この包みを容量50mLのスクリュー管に入れ(1個の包みにつきスクリュー管1本を使用する。)、該スクリュー管に酢酸エチルを満たす。これを室温(典型的には23℃)で7日間放置した後、上記包みを取り出して130℃で2時間乾燥させ、該包みの質量(Wa4mg)を測定する。アクリル系重合体のゲル分率Gaは、各値を以下の式:
Ga[%]=[(Wa4−Wa2−Wa3)/Wa1]×100;
に代入することにより求められる。
【0060】
ここに開示される技術の好ましい一態様では、水分散型アクリル系重合体を構成するアクリル系重合体の膨潤度Sが凡そ15〜55質量%の範囲にある。Sが凡そ20〜50質量%の範囲にあることがより好ましく、凡そ25〜45質量%の範囲にあることがさらに好ましい。かかるアクリル系重合体を含む粘着剤組成物によると、より高性能な粘着シートが形成され得る。
【0061】
[アクリル系重合体の膨潤度測定方法]
測定サンプルとしてのアクリル系重合体約0.1g(質量:WS1mg)を、平均孔径0.2μmのテトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜(質量:WS2mg)で巾着状に包み、口を凧糸(質量:WS3mg)で縛る。この包みを容量50mLのスクリュー管に入れ(1個の包みにつきスクリュー管1本を使用する。)、該スクリュー管に酢酸エチルを満たす。これを室温(典型的には23℃)で7日間放置した後、上記包みを取り出し、該包みの外側に付着した酢酸エチルを軽く拭き取った後、該包みの質量(WS4mg)を測定する。アクリル系重合体の膨潤度Sは、各値を以下の式:
S[%]=[(WS4−WS2−WS3)/WS1]×100;
に代入することにより求められる。
【0062】
上記GaおよびSの測定に用いるテトラフルオロエチレン樹脂製多孔質膜としては、日東電工株式会社製の商品名「ニトフロン(登録商標)NTF1122」またはその相当品を使用することが望ましい。また、これらの測定に供する測定サンプルとしては、例えば、水分散型アクリル系重合体(アクリル系重合体エマルション)を130℃で2時間乾燥させたものを用いるとよい。
【0063】
アクリル系重合体のゲル分率Gaおよび膨潤度Sは、該アクリル系重合体の合成(典型的にはエマルション重合)に使用する連鎖移動剤の量を適切に設定することにより、任意に調節することができる。ここに開示される技術の好ましい一態様では、GaおよびSの少なくとも一方(好ましくは両方)が上記範囲にあるアクリル系重合体が得られるように、該アクリル系重合体の合成に用いる連鎖移動剤の量を設定する。アクリル系重合体の合成に使用する連鎖移動剤を硫黄含有連鎖移動剤(典型的には1級メルカプタン、例えばn−ラウリルメルカプタン)から硫黄フリー連鎖移動剤に変更する場合には、得られるアクリル系重合体のGaが概ね同程度(例えば、Gaの値の差が±5%以内、より好ましくは±3%以内)となるように硫黄フリー連鎖移動剤の使用量を設定することができる。また、この場合において、得られるアクリル系重合体のSが概ね同程度(例えば、Sの値の差が±10%以内、より好ましくは±5%以内)となるように硫黄フリー連鎖移動剤の使用量を設定することができる。このようにGaおよびSの少なくとも一方(好ましくは両方)が概ね同程度となるように硫黄フリー連鎖移動剤の使用量を設定することにより、硫黄含有連鎖移動剤を用いた場合と同等の粘着性能を維持しつつ硫黄含有ガス放散量が大幅に低減された粘着シートを構成可能なアクリル系重合体が合成され得る。
【0064】
ここに開示される技術における粘着剤組成物は、水分散型アクリル系重合体に加えて、さらに粘着付与樹脂を含有し得る。粘着付与樹脂としては、特に制限されないが、例えば、ロジン系、テルペン系、炭化水素系、エポキシ系、ポリアミド系、エラストマー系、フェノール系、ケトン系等、の各種粘着付与樹脂を用いることができる。このような粘着付与樹脂は、単独で、または二種以上を組み合わせて使用することができる。
【0065】
具体的には、ロジン系粘着付与樹脂としては、例えば、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の未変性ロジン(生ロジン);これらの未変性ロジンを水添化、不均化、重合等により変性した変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン、その他の化学的に修飾されたロジン等);その他の各種ロジン誘導体;等が挙げられる。上記ロジン誘導体としては、例えば、未変性ロジンをアルコール類によりエステル化したもの(すなわち、ロジンのエステル化物)、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)をアルコール類によりエステル化したもの(すなわち、変性ロジンのエステル化物)等のロジンエステル類;未変性ロジンや変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジン類;ロジンエステル類を不飽和脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類;未変性ロジン、変性ロジン(水添ロジン、不均化ロジン、重合ロジン等)、不飽和脂肪酸変性ロジン類または不飽和脂肪酸変性ロジンエステル類におけるカルボキシル基を還元処理したロジンアルコール類;未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体等のロジン類(特に、ロジンエステル類)の金属塩;ロジン類(未変性ロジン、変性ロジン、各種ロジン誘導体等)にフェノールを酸触媒で付加させ熱重合することにより得られるロジンフェノール樹脂;等が挙げられる。
【0066】
テルペン系粘着付与樹脂としては、例えば、α−ピネン重合体、β−ピネン重合体、ジペンテン重合体などのテルペン系樹脂;これらのテルペン系樹脂を変性(フェノール変性、芳香族変性、水素添加変性、炭化水素変性等)した変性テルペン系樹脂;等が挙げられる。上記変性テルペン樹脂としては、テルペン−フェノール系樹脂、スチレン変性テルペン系樹脂、芳香族変性テルペン系樹脂、水素添加テルペン系樹脂等が例示される。
【0067】
炭化水素系粘着付与樹脂としては、例えば、脂肪族系炭化水素樹脂、芳香族系炭化水素樹脂、脂肪族系環状炭化水素樹脂、脂肪族・芳香族系石油樹脂(スチレン−オレフィン系共重合体等)、脂肪族・脂環族系石油樹脂、水素添加炭化水素樹脂、クマロン系樹脂、クマロンインデン系樹脂等の各種の炭化水素系の樹脂が挙げられる。脂肪族系炭化水素樹脂としては、炭素数4〜5程度のオレフィンおよびジエンから選択される一種または二種以上の脂肪族炭化水素の重合体等が例示される。上記オレフィンの例としては、1−ブテン、イソブチレン、1−ペンテン等が挙げられる。上記ジエンの例としては、ブタジエン、1,3−ペンタジエン、イソプレン等が挙げられる。芳香族系炭化水素樹脂としては、炭素数8〜10程度のビニル基含有芳香族系炭化水素(スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、インデン、メチルインデン等)の重合体等が例示される。脂肪族系環状炭化水素樹脂としては、いわゆる「C4石油留分」や「C5石油留分」を環化二量体化した後に重合させた脂環式炭化水素系樹脂;環状ジエン化合物(シクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、エチリデンノルボルネン、ジペンテン等)の重合体またはその水素添加物;芳香族系炭化水素樹脂または脂肪族・芳香族系石油樹脂の芳香環を水素添加した脂環式炭化水素系樹脂;等が例示される。
【0068】
ここに開示される技術では、軟化点(軟化温度)が凡そ80℃以上(好ましくは凡そ100℃以上)である粘着付与樹脂を好ましく使用し得る。かかる粘着付与樹脂によると、より高性能な(例えば、接着性の高い)粘着シートが実現され得る。粘着付与樹脂の軟化点の上限は特に制限されず、例えば凡そ170℃以下(典型的には凡そ160℃以下)とすることができる。軟化点が170℃よりも高すぎる粘着付与樹脂では、アクリル系重合体との相溶性が低下傾向となることがあり得る。
【0069】
なお、ここでいう粘着付与樹脂の軟化点は、JIS K 5902およびJIS K 2207に規定する軟化点試験方法(環球法)に基づいて測定された値として定義される。具体的には、試料をできるだけ低温ですみやかに融解し、これを平らな金属板の上に置いた環の中に、泡ができないように注意して満たす。冷えたのち、少し加熱した小刀で環の上端を含む平面から盛り上がった部分を切り去る。つぎに、径85mm以上、高さ127mm以上のガラス容器(加熱浴)の中に支持器(環台)を入れ、グリセリンを深さ90mm以上となるまで注ぐ。つぎに、鋼球(径9.5mm、重量3.5g)と、試料を満たした環とを互いに接触しないようにしてグリセリン中に浸し、グリセリンの温度を20℃プラスマイナス5℃に15分間保つ。つぎに、環中の試料の表面の中央に鋼球をのせ、これを支持器の上の定位置に置く。つぎに、環の上端からグリセリン面までの距離を50mmに保ち、温度計を置き、温度計の水銀球の中心の位置を環の中心と同じ高さとし、容器を加熱する。加熱に用いるブンゼンバーナーの炎は、容器の底の中心と縁との中間にあたるようにし、加熱を均等にする。なお、加熱が始まってから40℃に達したのちの浴温の上昇する割合は、毎分5.0プラスマイナス0.5℃でなければならない。試料がしだいに軟化して環から流れ落ち、ついに底板に接触したときの温度を読み、これを軟化点とする。軟化点の測定は、同時に2個以上行い、その平均値を採用する。
【0070】
このような粘着付与樹脂は、該樹脂を水に分散させたエマルションの形態で好ましく使用され得る。上記粘着付与樹脂エマルションは、必要に応じて乳化剤を用いて調製されたものであり得る。乳化剤としては、水分散型アクリル系重合体の調製に使用し得る乳化剤と同様のものから、一種または二種以上を適宜選択して用いることができる。通常は、アニオン系乳化剤またはノニオン系乳化剤の使用が好ましい。なお、水分散型アクリル系重合体の調製に用いる乳化剤と、粘着付与樹脂エマルションの調製に用いる乳化剤とは、同一でもよく異なってもよい。例えば、いずれのエマルションの調製にもアニオン系乳化剤を用いる態様、いずれにもノニオン系乳化剤を用いる態様、一方にはアニオン系、他方にはノニオン系の乳化剤を用いる態様、等を好ましく採用し得る。乳化剤の使用量は、粘着付与樹脂をエマルションの形態に調製可能な量であれば特に制限されず、例えば、粘着付与樹脂100質量部(固形分基準)に対して0.2〜10質量部(好ましくは0.5〜5質量部)程度の範囲から選択することができる。
【0071】
粘着付与樹脂の使用量は特に制限されず、目的とする粘着性能(接着力等)に応じて適宜設定することができる。例えば、固形分基準で、アクリル系重合体100質量部に対して、粘着付与樹脂を凡そ10〜100質量部(より好ましくは15〜80質量部、さらに好ましくは20〜60質量部)の割合で使用することが好ましい。
【0072】
上記水分散型粘着剤組成物には、必要に応じて架橋剤が用いられていてもよい。架橋剤の種類は特に制限されず、公知乃至慣用の架橋剤(例えば、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、メラミン系架橋剤、過酸化物系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、アミン系架橋剤等)から適宜選択して用いることができる。ここで使用する架橋剤としては、油溶性および水溶性のいずれも使用可能である。架橋剤は、単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。架橋剤の使用量は特に制限されず、例えば、アクリル系重合体100質量部に対して凡そ10質量部以下(例えば凡そ0.005〜10質量部、好ましくは凡そ0.01〜5質量部)程度の範囲から選択することができる。
【0073】
上記粘着剤組成物は、必要に応じて、pH調整等の目的で使用される酸または塩基(アンモニア水等)を含有するものであり得る。該組成物に含有され得る他の任意成分としては、粘度調整剤(増粘剤等)、レベリング剤、剥離調整剤、可塑剤、軟化剤、充填剤、着色剤(顔料、染料等)、界面活性剤、帯電防止剤、防腐剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤等の、水性粘着剤組成物の分野において一般的な各種の添加剤が例示される。
【0074】
ここに開示される技術における粘着剤層は、上述のような水分散型粘着剤組成物を所定の面上に付与して乾燥または硬化させることにより好適に形成することができる。粘着剤組成物の付与(典型的には塗布)に際しては、慣用のコーター(例えば、グラビヤロールコーター、リバースロールコーター、キスロールコーター、ディップロールコーター、バーコーター、ナイフコーター、スプレーコーター等)を用いることができる。粘着剤層の厚みは特に限定されず、例えば凡そ2μm〜200μm(好ましくは凡そ5μm〜100μm)程度であり得る。
【0075】
かかる粘着剤層を備える粘着シートは種々の方法で作製され得る。例えば、基材付き粘着シートの場合、基材に粘着剤組成物を直接付与して乾燥または硬化させることで該基材上に粘着剤層を形成し、その粘着剤層に剥離ライナーを積層する方法;剥離ライナー上に形成した粘着剤層を基材に貼り合わせ、該粘着剤層を基材に転写するとともに上記剥離ライナーをそのまま粘着剤層の保護に利用する方法;等を採用することができる。
【0076】
ここに開示される粘着シートにおいて、粘着剤層を支持(裏打ち)する基材としては、例えば、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−プロピレン共重合体等)製フィルム、ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)製フィルム、塩化ビニル系樹脂製フィルム、酢酸ビニル系樹脂製フィルム、ポリイミド系樹脂製フィルム、ポリアミド系樹脂製フィルム、フッ素系樹脂製フィルム、その他セロハン類等のプラスチックフィルム類;和紙、クラフト紙、グラシン紙、上質紙、合成紙、トップコート紙等の紙類;各種の繊維状物質(天然繊維、半合成繊維または合成繊維のいずれでもよい。例えば、綿繊維、スフ、マニラ麻、パルプ、レーヨン、アセテート繊維、ポリエステル繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維等)の、単独または混紡等による織布や不織布等の布類;天然ゴム、ブチルゴム等からなるゴムシート類;発泡ポリウレタン、発泡ポリクロロプレンゴム等の発泡体からなる発泡体シート類;アルミニウム箔、銅箔等の金属箔;これらの複合体;等を用いることができる。前記プラスチックフィルム類は、無延伸タイプであってもよく、延伸タイプ(一軸延伸タイプまたは二軸延伸タイプ)であってもよい。基材は、単層の形態を有していてもよく、積層された形態を有していてもよい。
【0077】
上記基材には、必要に応じて、充填剤(無機充填剤、有機充填剤など)、老化防止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、可塑剤、着色剤(顔料、染料など)等の各種添加剤が配合されていてもよい。基材の表面(特に、粘着剤層が設けられる側の表面)には、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、下塗り剤の塗布等の、公知または慣用の表面処理が施されていてもよい。このような表面処理は、例えば、粘着剤層の基材投錨性を高めるための処理であり得る。基材の厚さは目的に応じて適宜選択できるが、一般には凡そ10μm〜500μm(好ましくは凡そ10μm〜200μm)程度である。
【0078】
粘着剤層を保護または支持する剥離ライナー(保護および支持の機能を兼ね備えるものであり得る。)としては、その材質や構成に特に制限はなく、公知の剥離ライナーから適当なものを選択して用いることができる。例えば、基材の少なくとも一方の表面に剥離処理が施された(典型的には、剥離処理剤による剥離処理層が設けられた)構成の剥離ライナーを好適に用いることができる。この種の剥離ライナーを構成する基材(剥離処理対象)としては、粘着シートを構成する基材として上述したものと同様の基材(各種プラスチックフィルム類、紙類、布類、ゴムシート類、発泡体シート類、金属箔、これらの複合体等)を適宜選択して用いることができる。上記剥離処理層を形成する剥離処理剤としては、公知または慣用の剥離処理剤(例えば、シリコーン系、フッ素系、長鎖アルキル系等の剥離処理剤)を用いることができる。また、フッ素系ポリマー(例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、クロロフルオロエチレン−フッ化ビニリデン共重合体等)または低極性ポリマー(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のオレフィン系樹脂等)からなる低接着性の基材を、該基材の表面に剥離処理を施すことなく剥離ライナーとして用いてもよい。あるいは、かかる低接着性基材の表面に剥離処理を施したものを剥離ライナーとして用いてもよい。
【0079】
剥離ライナーを構成する基材や剥離処理層の厚みは特に制限されず、目的等に応じて適宜選択することができる。剥離ライナーの総厚み(基材表面に剥離処理層を有する構成の剥離ライナーでは、基材および剥離処理層を含む全体の厚さ)は、例えば凡そ15μm以上(典型的には凡そ15μm〜500μm)であることが好ましく、凡そ25μm〜500μmであることがより好ましい。
【0080】
また、粘着剤層を形成する際に架橋を行う場合、架橋剤の種類(例えば、加熱により架橋する熱架橋タイプの架橋剤、紫外線照射により架橋する光架橋タイプの架橋剤など)に応じて、所定の製造過程で、公知乃至慣用の架橋方法により架橋を行うことができる。例えば、用いられている架橋剤が、熱架橋タイプの架橋剤である場合、水分散型アクリル系粘着剤を塗布した後、乾燥させる際に、この乾燥と並行して又は同時に、熱架橋反応を進行させて架橋を行うことができる。具体的には、熱架橋タイプの架橋剤の種類に応じて、架橋反応が進行する温度以上の温度に加熱することにより、乾燥とともに架橋を行うことができる。
【0081】
ここに開示される技術において、粘着剤層を構成する粘着剤に占める溶剤不溶分(アクリル系重合体の架橋体)の割合は特に制限されないが、通常は、例えば凡そ15〜70質量%程度であることが望ましい。上記溶剤不溶分の割合とは、上記粘着剤を酢酸エチルで抽出して残った不溶分の質量割合を指す。また、この場合、上記粘着剤の溶剤可溶分(該粘着剤をテトラヒドロフランで抽出して得られたアクリル系重合体)の質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法におけるポリスチレン換算の値として、例えば凡そ10万〜200万(好ましくは凡そ20万〜160万)の範囲にあることが望ましい。この質量平均分子量は、一般的なGPC装置(例えば、TOSOH社製のGPC装置、型式「HLC−8120GPC」、使用カラム「TSKgel GMH−H(S)」)により測定することができる。なお、上記溶剤不溶分の割合や、溶剤可溶分の質量平均分子量は、例えば、モノマー成分全量に対する官能基含有モノマー成分の割合、連鎖移動剤の種類やその割合、架橋剤の種類やその割合などを適宜調整することにより、任意に設定することができる。
【0082】
ここに開示される粘着シートは、該粘着シートを85℃で1時間加熱するガス発生試験において、硫黄含有ガスの放散量が0.043μgSO2−/cm以下(好ましくは0.03μgSO2−/cm以下、さらに好ましくは0.02μgSO2−/cm以下)であることによって特徴づけられる。金属腐食防止性の観点からは、粘着シートからの硫黄含有ガス放散量が、上記値以下であってなるべく低い値であることが望ましい。そのため、ここに開示される粘着シートの構成材料およびその製造過程で使用される材料としては、アクリル系重合体の合成に使用される連鎖移動剤に限らず他の材料についても、硫黄含有ガスの発生源となり得る材料の使用を避けるかその使用量を抑えることが望ましい。例えば、アクリル系重合体の合成に用いられる連鎖移動剤以外の材料(乳化剤、重合開始剤等)、粘着付与樹脂、粘着付与樹脂エマルションに含有され得る乳化剤その他の各種添加剤、架橋剤、水分散型粘着剤組成物に配合し得る各種添加剤、粘着シートの基材およびその添加剤等について、硫黄含有ガスを発生し難いものを選定することが好ましい。このことによって、連鎖移動剤を用いて良好な粘着性能を確保しつつ、該粘着シートの金属腐食防止性を一層高めることができる。好ましい一態様では、上記ガス発生試験において、粘着シートからの硫黄含有ガス放散量のうち、連鎖移動剤以外の材料の寄与分(すなわち、連鎖移動剤以外の材料に由来する硫黄含有ガス発生量)が実質的にゼロである。
【0083】
ここに開示される技術は、硫黄含有ガス(HS、SO等)と反応して変質(硫化物の形成等)し得る各種金属の腐食防止に適用され得る。このような腐食対象金属としては、銀、銅、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛等の遷移金属類;アルミニウム、インジウム、スズ、鉛等の、典型元素に含まれる金属類;等が挙げられる。硫黄含有ガスによる腐食を受けやすいこと、基板や配線の構成材料として広く用いられていることから、特に好ましい腐食防止対象金属として銀および銀合金(銀を主成分とする合金)が挙げられる。ここに開示される粘着シートの好ましい一態様によると、該粘着シート(粘着剤層および基材を含むが剥離ライナーを含まない。)1.0gと銀板とを、容積50mLの密閉空間内に非接触の状態で配置して85℃に1週間保持した場合に、目視観察において上記銀板に腐食を示す外観変化(例えば、金属光沢の低下または消失、黒ずみ等の着色)が認められない程度の金属腐食防止性が実現され得る。
【0084】
ここに開示される粘着シートによると、上述のように硫黄含有ガスの放散が高度に抑制されていることにより、金属の腐食およびそれに伴う不具合(接触不良、外観品質の低下等)を確実に防止または抑制することができる。そのため、上記粘着シートは、例えば、テレビ(液晶テレビ、プラズマテレビ、ブラウン管テレビ等)、コンピュータ(ディスプレイ、本体等)、音響機器、その他の各種家電製品、OA機器等の筐体内部において、部品の接合、表面保護、情報の表示、孔や隙間の封止(シーリング)または充填、振動や衝撃の緩衝、等の目的に好ましく使用することができる。特に、電子機器の使用により筐体内の温度が上がりやすく、このため硫黄含有ガスの発生や金属の腐食が促進されやすい環境(液晶テレビの筐体内等)で使用される粘着シートとして好適である。ここに開示される粘着シートによると、かかる使用態様においても高い金属腐食防止性が発揮され得る。
【0085】
ここに開示される粘着シートは、水分散型アクリル系重合体を含む粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備え、上記アクリル系重合体の合成において硫黄フリー連鎖移動剤を用いるので、高レベルの金属腐食防止性とともに、優れた粘着性能を示すものとなり得る。したがって、かかる粘着シートは、電子機器の内部その他の箇所において、高い粘着性能が要求される部品接合用粘着シートとして好適に使用され得る。また、ここに開示される技術は、例えば、シート状基材(典型的には、不織布その他の多孔質基材)の両面に粘着剤層を備える両面粘着シートに好ましく適用され得る。両面粘着シートでは、基材によく浸透させて粘着剤層を形成することが重要であり、また高い粘着性能を要求される傾向にあることから、連鎖移動剤を使用して分子量を調節し得ることが特に有意義である。特に限定するものではないが、両面粘着シートを構成する粘着剤層の厚みは、片面当たり、例えば凡そ20μm〜150μm程度であり得る。
【0086】
本明細書によると、また、硫黄フリー連鎖移動剤を用いて合成されたアクリル系重合体を含む水分散型粘着剤組成物であって、上記ガス発生試験における硫黄含有ガス放散量が2.7μgSO2−/g以下(より好ましくは1.8μgSO2−/g以下、例えば1.2μgSO2−/g未満)である粘着剤を与える粘着剤組成物(典型的には、乾燥または硬化により上記粘着剤を形成する組成物)が提供される。かかる粘着剤組成物は、例えば、ここに開示されるいずれかの粘着シートに具備される粘着剤層を形成するための粘着剤組成物として好適である。また、上記粘着剤組成物は、上記のように硫黄ガス放散量の少ない粘着剤を形成し得ることから、電子機器の筐体内部その他の箇所において、シーリング、充填、緩衝等の機能を果たす粘着剤(シート状に限定されず、塊状その他種々の形状であり得る。)を形成する用途に好適である。
【0087】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる実施例に示すものに限定することを意図したものではない。なお、以下の説明において「部」および「%」は、特に断りがない限り質量基準である。
【0088】
<例1>
冷却管、窒素導入管、温度計および攪拌機を備えた反応容器に、イオン交換水40部を入れ、窒素ガスを導入しながら60℃で1時間以上攪拌して窒素置換を行った。この反応容器に、2,2’−アゾビス[2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン]ジヒドロクロライド(重合開始剤)0.1部を加えた。系を60℃に保ちつつ、ここにモノマーエマルションを4時間かけて徐々に滴下して乳化重合反応を進行させた。モノマーエマルションとしては、2−エチルヘキシルアクリレート85部、アクリル酸メチル13部、アクリル酸1.25部、メタクリル酸0.75部、2,3−ジメチル−2−ブテン(連鎖移動剤)0.8部、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業株式会社製品、商品名「KBM−503」)0.02部およびポリオキシエチレンラウリル硫酸ナトリウム(乳化剤)2部を、イオン交換水30部に加えて乳化したものを使用した。モノマーエマルションの滴下終了後、さらに3時間60℃に保持し、次いで過酸化水素水0.2部およびアスコルビン酸0.6部を添加した。系を室温まで冷却した後、10%アンモニア水の添加によりpHを7に調整して、アクリル系重合体エマルション(水分散型アクリル系重合体)を得た。
【0089】
上記アクリル系重合体エマルションに含まれるアクリル系重合体100部当たり、固形分基準で20部の粘着付与樹脂エマルション(荒川化学工業株式会社製、商品名「E−865NT」)を加えた。さらに、pH調整剤としての10%アンモニア水および増粘剤としてのポリアクリル酸(東亞合成株式会社製、商品名「アロンB−500」)を用いて、pHを7.2、粘度を10Pa・sに調整した。なお、上記粘度は、B型粘度計を使用して、ローターNo.5、回転数20rpm、液温30℃、測定時間1分の条件で測定した。このようにして、本例に係る水分散型アクリル系粘着剤組成物を得た。
【0090】
上記粘着剤組成物を、シリコーン系剥離剤による剥離処理層を有する剥離ライナー(商品名「SLB−80WD(V2)」、住化加工紙株式会社製)に塗布し、100℃で2分乾燥して厚み約60μmの粘着剤層を形成した。この粘着剤層付き剥離ライナーを2枚用意し、それらの粘着剤層を不織布基材(商品名「SP−14K」、大福製紙株式会社製、坪量14g/m)の両面にそれぞれ貼り合わせて粘着シートを作製した。この粘着シートの両粘着面は、該粘着シートの作製に使用した剥離ライナーによってそのまま保護されている。
【0091】
<例2>
本例では、連鎖移動剤として、例1で用いた2,3−ジメチル−2−ブテンに代えて、1,5−シクロオクタジエン0.28部を使用した。その他の点については例1と同様にしてアクリル系重合体エマルションを得、このエマルションを用いて例1と同様に粘着剤組成物を調製し、該組成物を用いて粘着シートを作製した。
【0092】
<例3>
本例では、連鎖移動剤として、例1で用いた2,3−ジメチル−2−ブテンに代えて、N,N−ジエチルアニリン0.7部を使用した。その他の点については例1と同様にしてアクリル系重合体エマルションを得、このエマルションを用いて例1と同様に粘着剤組成物を調製し、該組成物を用いて粘着シートを作製した。
【0093】
<例4>
本例では、連鎖移動剤として、例1で用いた2,3−ジメチル−2−ブテンに代えて、シンナミルアルデヒド0.5部を使用した。その他の点については例1と同様にしてアクリル系重合体エマルションを得、このエマルションを用いて例1と同様に粘着剤組成物を調製し、該組成物を用いて粘着シートを作製した。
【0094】
<例5>
本例では、連鎖移動剤として、例1で用いた2,3−ジメチル−2−ブテンに代えて、ラウリルメルカプタン0.33部を使用した。その他の点については例1と同様にしてアクリル系重合体エマルションを得、このエマルションを用いて例1と同様に粘着剤組成物を調製し、該組成物を用いて粘着シートを作製した。
【0095】
上記の各例で得られた各粘着シートについて、以下の測定または評価を行った。それらの結果を表1に示す。この表には、各例においてエマルション重合の際に使用した連鎖移動剤の種類を合わせて示している。また、各例に係るアクリル系重合体のゲル分率および膨潤度を、上述の方法で測定した。それらの結果を表1に併せて示す。
【0096】
<ABS粘着力測定>
両面粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、厚さ25μmのポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅20mm、長さ100mmのサイズにカットしたものを測定用サンプルとした。上記サンプルの他方の粘着面から剥離ライナーを剥がし、2kgのローラを1往復させて、被着体としてのABS板(新神戸電機株式会社製、商品名「コウベポリシート ABS板」)に圧着した。これを23℃に30分間保持した後、引張試験機を用い、JIS Z 0237に準拠して、温度23℃、RH50%の測定環境にて、引張速度300mm/分の条件で、ABS板に対する180°引き剥がし粘着力を測定した。
【0097】
<PP粘着力測定>
被着体としてPP板(新神戸電機株式会社製、商品名「コウベポリシート ポリプロピレン板」)を用いた点以外は上記ABS粘着力測定と同様にして、PP板に対する180°引き剥がし粘着力を測定した。
【0098】
<80℃保持力測定>
クリープ試験機を用いて保持力を測定した。すなわち、両面粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、厚さ25μmのPETフィルムを貼り付けて裏打ちした。この裏打ちされた粘着シートを幅10mmにカットして試料片を作製した。上記試料片の他方の粘着面から剥離ライナーを剥がし、被着体としてのベークライト板に、幅10mm、長さ20mmの接着面積にて上記試料片を貼り付けた。これを80℃の環境下に30分間放置した後、ベークライト板を垂下し、試料片の自由端に500gの荷重を付与した。JIS Z 0237に準じて、該荷重が付与された状態で80℃の環境下に1時間放置し、1時間未満で試料片が落下した場合には該落下までの時間を測定し、1時間後にも試料片が落下せず被着体に貼り付いていた場合には最初の貼り付け位置からの試料片のズレ距離(mm)を測定した。
【0099】
<曲面接着性評価>
両面粘着シートを幅10mm、長さ90mmのサイズにカットし、その一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、同じサイズにカットしたアルミニウム片(厚さ0.5mm)に貼り付けて裏打ちして試料片を作製した。この試料片を23℃、50%RHの環境下に1日放置した後、直径40mmの円柱に巻きつけて(アルミニウム片側を内側とする。)約5秒間押しつけることにより円弧状に反らせた。この試料片の他方の粘着面から剥離ライナーを剥がし、ラミネータを用いてポリプロピレン板に圧着した。これを23℃、50%RHの環境下に24時間放置し、次いで70℃で2時間加温した後に、試料片の端部がポリプロピレン板表面から浮きあがった距離(mm)を測定した。表1に示す曲面接着性試験結果は、両端部の浮き距離の平均値である。
【0100】
<フォーム耐反撥性評価>
両面粘着シートの一方の粘着面を覆う剥離ライナーを剥がし、厚さ10mmのウレタンフォーム(イノアック株式会社製、商品名「ECSフォーム」)にラミネータで貼り合わせ(速度0.5m/分、圧力0.3MPa)、これを幅10mm、長さ50mmに裁断して試料片を作製した。この試料片を23℃、50%RHの環境下に1日放置した後、該試料片の他方の粘着面から剥離ライナーを剥がし、厚さ2mmのABS板の一方の面の端部に上記試料片を、幅10mm、長さ10mmの接着面積となるように、2kgのローラを一往復させて圧着した。次いで、該試料片の残りの部分(幅10mm、長さ40mm)をABS板の他方の面に略180°折り曲げて貼り合わせた。これを23℃、50%RHの環境下に24時間放置し、さらに70℃の環境下に2時間放置した後、ABS板の上記一方の面側(接着面積が幅10mm、長さ10mmの側)から試料片の端部が浮き上がった距離(mm)を測定した。
【0101】
<硫黄含有ガス放散量の測定>
両粘着面から剥離ライナーを剥がした各粘着シート約0.1gを燃焼装置用試料ボートに載せ、燃焼装置(ダイアインスツルメンツ社製の自動試料燃焼装置、型式「AQF−100」)を用いて85℃で1時間加熱した。このとき粘着シートから発生したガスを10mLの吸収液に通過させた。この吸収液は、純水に30ppmの過酸化水素を含ませたものであって、上記発生ガスに含まれ得る硫黄含有ガス(HS、SO等)をSO2−に変換して捕集することができる。上記発生ガスを通過させた後の吸収液に純水を加えて20mLの容量に調整し、イオンクロマトグラフ(ダイオネクス社製、商品名「DX−320」)を用いてSO2−の定量分析を行うことにより、粘着シート1g当たりSO2−発生量を求めた。なお、上記試料ボートが空の状態で同様の操作を行ったものをブランクとした。得られた結果を、各粘着シートの面積当たりのSO2−発生量、および、粘着剤1g当たりのSO2−発生量に換算した。これらの結果を表1に示す。なお、上記換算には、各例に係る粘着シートの1cm当たりの質量が0.017gであること、および、各粘着シート1cmに含まれる粘着剤の質量が0.0156gであることを利用した。
【0102】
[自動試料燃焼装置の運転条件]
温度:Inlet 85℃、Outlet 85℃
ガス流量:O 400mL/分、Ar(送水ユニット:目盛0)150mL/分
【0103】
[イオンクロマトグラフ(アニオン)による測定条件]
分離カラム:IonPac AS18(4mm×250mm)
ガードカラム:IonPac AG18(4mm×50mm)
除去システム:ASRS-ULTRA(エクスターナルモード、75mA)
検出器:電気伝導度検出器
溶離液:13mM KOH(0〜20分)
30mM KOH(20〜30分)
(溶離液ジェネレーターEG40を使用)
溶離液流量:1.0mL/分
試料注入量:250μL
【0104】
<金属腐食性試験>
両粘着面から剥離ライナーを剥がした各粘着シート(不織布基材およびその両面に設けられた粘着剤層からなる。)1.0gと、研磨した銀板(銀純度>99.95%、サイズ1mm×10mm×10mm)とを用意し、図7に示す金属腐食性試験器50を使用して粘着シートの金属腐食性を評価した。すなわち、容積50mLの透明ガラス製スクリュー管瓶52内に、上記粘着シート54と上記銀板56とを、直接接触しないように入れて密閉した。より具体的には、スクリュー管瓶52の底面上に銀板56を配置し、スクリュー管瓶蓋53の裏に粘着シート54を貼り付け、蓋53を閉めてスクリュー管瓶52を密閉した。これを85℃に1週間保持した。試験後(一週間経過後)の銀板を未使用(試験前)の銀板と比較して、腐食発生(金属光沢の消失、着色等の外観変化により判断した。)の有無を目視で確認することにより金属腐食性を評価した。その結果を、腐食が認められた場合には金属腐食性「有」、腐食が認められなかった場合には金属腐食性「無」として表1に示した。
【0105】
【表1】

【0106】
上記表に示されるように、硫黄フリー連鎖移動剤を使用したエマルション重合により合成されたアクリル系重合体を用いてなる例1〜4の粘着シートによると、連鎖移動剤としてn−ラウリルメルカプタンを使用して合成されたアクリル系重合体を用いてなる例5の粘着シートに比べて、硫黄含有ガスの放散量を大幅に低減することができた。また、金属腐食性試験においても、例5の粘着シートでは銀板の表面が赤紫色に変色したのに対し、例1〜4の粘着シートでは変色が認められず、これら例1〜4の粘着シートは金属腐食性を示さないことが確認された。そして、例1〜4の粘着シートは、ABS粘着力および保持力について、例5の粘着シートと略同等またはそれ以上の粘着性能を示した。さらに、PP粘着力、曲面接着性およびフォーム耐反撥性についても、例5の粘着シートと略同等またはそれ以上の粘着性能を示した。このように、例1〜4によると、例5と同等の粘着性能を維持しつつ金属腐食防止性を大幅に向上させるという、顕著な効果が実現された。ゲル分率および膨潤度がいずれも例5の値に対して±3%以内の範囲となるように調整されたアクリル系重合体を用いてなる例1の粘着シートでは、特に良好な結果が得られた。
【0107】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、請求の範囲を限定するものではない。請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0108】
1,2,3,4,5,6:粘着シート
10:基材
21,22:粘着剤層
31,32:剥離ライナー
50 金属腐食性試験器
52 スクリュー管瓶(容器)
53 蓋
54 粘着シート
56 銀板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水分散型粘着剤組成物から形成された粘着剤層を備える粘着シートであって、
該粘着剤組成物は、硫黄を構成原子として有しない連鎖移動剤を用いて合成された水分散型アクリル系重合体を含み、
当該粘着シートは、以下の特性:
(A)アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合樹脂板に対する180°引き剥がし粘着力が10N/20mm以上である;
(B)80℃保持力試験における保持時間が1時間以上である;および、
(C)当該粘着シートを85℃で1時間加熱するガス発生試験において、硫黄を構成原子として含むガスの放散量が、該粘着シートの面積1cm当たり、SO2−換算で0.043μg以下である;
の全てを満たす、粘着シート。
【請求項2】
さらに、以下の特性:
(D)容積50mLの容器に該粘着シート1gと銀板とを互いに接触しないように収容し、該容器を密閉して85℃に一週間保持する金属腐食性試験において、前記銀板を腐食させない;
を満たす、請求項1に記載の粘着シート。
【請求項3】
さらに、以下の特性:
(E)ポリプロピレン樹脂板に対する180°引き剥がし粘着力が10N/20mm以上である;
を満たす、請求項1または2に記載の粘着シート。
【請求項4】
さらに、以下の特性:
(F)幅10mm、長さ90mmの粘着シートを厚さ0.5mmのアルミニウム板で裏打ちしてなる試料片を、直径40mm円柱に5秒間巻きつけて前記アルミニウム板側に反らせ、その試料片をポリプロピレン板に圧着して23℃、50%RHの環境下に24時間、次いで70℃の環境下に2時間保持する曲面接着性試験において、前記試料片端部の前記ポリプロピレン板表面からの浮き距離が8mm以下である;
を満たす、請求項から1から3のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項5】
基材の両面に前記粘着剤層を備える両面粘着シートとして構成された、請求項1から4のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項6】
電子機器の内部で用いられる、請求項1から5のいずれか一項に記載の粘着シート。
【請求項7】
前記連鎖移動剤として、N,N−ジアルキルアニリン、ベンジリデニル基を有する化合物、非共役シクロアルキルジエン、および、2,3−ジメチル−2−ブテン、から選択される少なくとも一種の化合物を使用する、請求項1から6のいずれか一項に記載の粘着シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−280836(P2010−280836A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−135881(P2009−135881)
【出願日】平成21年6月5日(2009.6.5)
【出願人】(000003964)日東電工株式会社 (5,557)
【Fターム(参考)】