説明

粘着剤付偏光板、粘着剤付偏光板の設計方法、液晶パネルの製造方法、偏光板の製造方法、及び、粘着剤付偏光板の製造方法

【課題】
光漏れが改善された粘着剤付偏光板などを提供する。
【解決手段】
本発明のある側面は、ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の耐久性試験後の吸収軸の分布を小さくすることで光漏れを改善するように設計された粘着剤付偏光板にある。本発明の他の側面は、ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日後の耐熱試験後の吸収軸の分布が標準偏差の3倍値で1.3度以下になるようにして光漏れを改善するように設計された粘着剤付偏光板にある。本発明のさらに他の側面は、ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日間の耐熱試験後の吸収軸の最大値と最小値の差が1.5度以下になるようにして光漏れを改善するように設計された粘着剤付偏光板にある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶ディスプレイの部材である粘着剤付偏光板などに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、その優れた特性から、液晶テレビ、デスクトップパソコンのモニター、ノートパソコン、携帯電話などのモバイル機器のディスプレイとして広く利用されている。近年、特に液晶テレビの普及・発展は目覚しく、40インチを超える大型の液晶テレビが多数販売されている。
【0003】
これらの液晶テレビには透過型の液晶パネルが用いられており、液晶パネルの表裏には通常2枚の偏光板が貼合されている。そしてこれらを背面側からバックライトにより照らす構造となっている。
【0004】
一般的な偏光板は、ヨウ素を含んだポリビニルアルコール(Poly Vinyl Alcohol、PVA)を主成分とするフィルムを高度に延伸し、分子を配向させ、それらを偏光板保護フィルムで挟むことにより作製する。さらに後述する図33に示すように、位相差フィルムを用いる構成では、位相差フィルムと隣り合う側の偏光板保護フィルムを省略して、位相差フィルムによって偏光板保護フィルムの機能を兼ねた構成であってもよい。これらのフィルムは互いに粘着剤により貼合された構造となっており、更にこれらのフィルムはガラス基板に粘着剤により貼合される。
【0005】
ここで、偏光板の中心部分に用いられている、高度に配向したポリビニルアルコールを主成分としヨウ素を含むフィルムは、液晶ディスプレイ使用中に徐々に収縮することが知られている。偏光板(ここでは、位相差フィルムを用いた構成の場合はこれを含めて偏光板と呼ぶこととする)は、前述のようにガラス基板と貼合されている。
【0006】
一方で、ガラス基板は液晶ディスプレイ使用中にもほとんど収縮しないため、偏光板とそれを接着する粘着剤に応力が生じていると考えられる。
【0007】
これらの応力が原因となり、偏光板と粘着剤に複屈折を生じ、通過するバックライトからの偏光の偏光状態が乱される。その結果、例えば図11のように黒表示時に光が漏れ、黒を表示すべきところがグレーから白に表示され、コントラストが著しく低下し、その程度が大きい場合は画像が正しく表示できないため、ディスプレイとしては深刻な問題となる。この現象を本明細書では「光漏れ」と呼び、光漏れの結果、画面内にむらが生じることを「ムラ現象」と呼ぶ。
ムラ現象は、一般的にはより大型の液晶ディスプレイにおいて顕著になる。そのため特に大型の液晶テレビにおいて、ムラ現象の改善が強く望まれている。
【0008】
ムラ現象を改善するために、従来偏光板や粘着剤を改良する試みはいくつか行われてきている。しかしながら、偏光板と粘着剤それぞれを改良しても問題が多く光漏れが改善されていないのが現状である。
偏光板の光漏れの原因は、耐久性試験後の偏光板の伸縮に対して、偏光板が液晶パネル(ガラス)に粘着剤で固定されているため歪応力が偏光板の部分的に集中するため、その部分で偏光子の保護フィルムであるセルローストリアセテートフィルム(Tri
Acetyl Cellulose、TAC)に複屈折(位相差)が発生するためと考えられてきた。これを図1に示す。
【0009】
R=E×F×d
R:TACに発生する位相差
E:TACの光弾性係数
F:TACにかかる応力
d:TACの厚さ
(非特許文献1)
【0010】
これを改良する方法として次のような方法が検討されてきた。
【0011】
(1)粘着剤を柔らかくして偏光板の収縮に対して粘着剤が追従する(粘着剤の伸び量を大きくする)ことで、TACにかかる応力(F)を小さくすることで複屈折の発生を小さくして光漏れを改良する。
F=δ×(偏光板の伸縮量−粘着剤の伸び量)
δ:TACフィルムの弾性率
(特許文献1)
【0012】
(2)また、逆の方法で、粘着剤の弾性率を大きくすることで、偏光板を粘着剤でパネルに固定させて耐久性試験で変形しないようにすることでTACフィルムに応力が掛かってもその面積が小さいため、光漏れを目立たなくして改良するという方法等が提唱されてきた(非特許文献1、特許文献2)。
【0013】
これまでは、上記のような考えに沿って試行錯誤的に粘着剤の組成や配合方法を変えることで、粘着剤の粘弾性等を変化させて粘着剤付偏光板を試作して液晶パネルに貼り合わせて光漏れを評価して開発を行ってきた。
【0014】
しかし、光漏れの評価が官能的であり、光漏れのメカニズムがわからないため、粘着剤付偏光板の開発に時間がかかってきた。また、光漏れと他の性能のバランスを取ることが非常に難しかった。実際TACフィルムに、どの程度どの方向に応力が掛かり、複屈折が発生しているかも分からなかった。さらに偏光板の種類やサイズが変わった場合も最初から粘着剤付偏光板の開発をやり直すことが必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開平10-279907
【特許文献2】特開2006-235568
【非特許文献】
【0016】
【非特許文献1】接着 2006年50巻2号 13(61)
【非特許文献2】SID 08 DIGEST 1457
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明は、上述の背景技術に鑑みてなされたものであり、光漏れが改善された粘着剤付偏光板などを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
この発明によれば、上述の目的を達成するために、特許請求の範囲に記載のとおりの構成を採用している。以下、この発明を詳細に説明する。
【0019】
本発明の第1の側面は、
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の耐久性試験後の吸収軸の分布を小さくすることで光漏れを改善するように設計された粘着剤付偏光板
にある。
【0020】
本発明の第2の側面は、
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日後の耐熱試験後の吸収軸の分布が標準偏差の3倍値で1.3度以下になるようにして光漏れを改善するように設計された粘着剤付偏光板
にある。
【0021】
本発明の第3の側面は、
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日間の耐熱試験後の吸収軸の最大値と最小値の差が1.5度以下になるようにして光漏れを改善するように設計された粘着剤付偏光板
にある。
【0022】
本発明の第4の側面は、
粘着剤のゲル分が0.1%以上40%以下である請求項1から3のいずれかに記載の粘着剤付偏光板
にある。
【0023】
本発明の第5の側面は、
粘着剤のゲル分が80%以上99%以下である請求項1から3のいずれかに記載の粘着剤付偏光板
にある。
【0024】
本発明の第6の側面は、
偏光板がWV用偏光板である請求項1から5のいずれかに記載の粘着剤付偏光板
にある。
【0025】
本発明の第7の側面は、
ガラス基板に貼り付けて80℃7日間の耐熱試験後の偏光度の分布が標準偏差の3倍値で0.2以下である請求項1から6のいずれかに記載の粘着剤付偏光板
にある。
【0026】
本発明の第8の側面は、
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日後の耐熱試験後の吸収軸の分布が標準偏差の3倍値で0.2度以下になるようにして光漏れを改善するように設計された粘着剤付偏光板
にある。
【0027】
本発明の第9の側面は、
ガラス基板に貼り付けて80℃7日間の耐熱試験後の偏光度の分布が標準偏差の3倍値で0.2以下である請求項8に記載の粘着剤付偏光板
にある。
【0028】
本発明の第10の側面は、
粘着剤の粘着剤固有複屈折値の絶対値が4×10-4以下である請求項8又は9に記載の粘着剤付偏光板
にある。
【0029】
本発明の第11の側面は、
偏光板の吸収軸が、偏光板の辺に対して90±0.5度以内又は0±0.5度以内になるように切断される請求項8から10のいずれかに記載の粘着剤付偏光板
にある。
【0030】
本発明の第12の側面は、
偏光板がVA用偏光板又はIPS用偏光板である請求項8から11のいずれかに記載の粘着剤付偏光板
にある。
【0031】
本発明の第13の側面は、
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の耐久性試験後の吸収軸の分布を小さくすることで光漏れを改善するように設計する粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0032】
本発明の第14の側面は、
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日後の耐熱試験後の吸収軸の分布が標準偏差の3倍値で1.3度以下になるようにして光漏れを改善するように設計する粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0033】
本発明の第15の側面は、
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日間の耐熱試験後の吸収軸の最大値と最小値の差が1.5度以下になるようにして光漏れを改善するように設計する粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0034】
本発明の第16の側面は、
粘着剤のゲル分が0.1%以上40%以下である請求項13から15ずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0035】
本発明の第17の側面は、
粘着剤のゲル分が80%以上99%以下である請求項13から15のいずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0036】
本発明の第18の側面は、
偏光板がWV用偏光板である請求項13から17ずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0037】
本発明の第19の側面は、
ガラス基板に貼り付けて80℃7日間の耐熱試験後の偏光度の分布が標準偏差の3倍値で0.2以下である請求項13から18のいずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0038】
本発明の第20の側面は、
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日後の耐熱試験後の吸収軸の分布が標準偏差の3倍値で0.2度以下になるようにして光漏れを改善するように設計する粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0039】
本発明の第21の側面は、
ガラス基板に貼り付けて80℃7日間の耐熱試験後の偏光度の分布が標準偏差の3倍値で0.2以下である請求項20に記載の粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0040】
本発明の第22の側面は、
粘着剤の粘着剤固有複屈折値の絶対値が4×10-4以下である請求項20又は21に記載の粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0041】
本発明の第23の側面は、
偏光板の吸収軸が、偏光板の辺に対して90±0.5度以内又は0±0.5度以内になるように切断される請求項20から22のいずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0042】
本発明の第24の側面は、
偏光板がVA用偏光板又はIPS用偏光板である請求項20から23のいずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0043】
本発明の第25の側面は、
粘着剤付偏光板の吸収軸の分布を小さくするように設計する粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0044】
本発明の第26の側面は、
粘着剤のゲル分を調整する請求項25記載の粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0045】
本発明の第27の側面は、
軸ずれの分布から光漏れの位置を特定する請求項25記載の粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0046】
本発明の第28の側面は、
前記粘着剤付偏光板は粘着型位相差層付偏光板である請求項25記載の粘着剤付偏光板の設計方法
にある。
【0047】
本発明の第29の側面は、
前記位相差層付偏光板は、透明保護フィルムに、液晶材料をコーティングすることにより位相差層を塗設し、または、別途、液晶材料をコーティングすることにより形成した位相差層を透明保護フィルムに転写により配置し、透明保護フィルムと位相差層が一体化したものである請求項28記載の粘着型位相差層付偏光板の設計方法
にある。
【0048】
本発明の第30の側面は、
前記位相差層が、ディスコティック液晶の傾斜配向層を固定したものである請求項29記載の粘着型位相差層付偏光板の設計方法
にある。
【0049】
本発明の第31の側面は、
請求項13から30のいずれかに記載の粘着剤付偏向板の設計方法により設計された粘着剤付偏向板を用いる液晶パネルの製造方法
にある。
【0050】
本発明の第32の側面は、
請求項13から30のいずれかに記載の粘着剤付偏向板の設計方法により設計された粘着剤付偏向板を用いる偏向板の製造方法
にある。
【0051】
本発明の第33の側面は、
粘着剤付偏光板の吸収軸の軸ずれの分布を小さくすることにより光漏れを抑制する粘着剤付偏光板の製造方法
にある。
【発明の効果】
【0052】
本発明によれば、光漏れが改善された粘着剤付偏光板などが得られる。
【0053】
本発明のさらに他の目的、特徴又は利点は、後述する本発明の実施の形態や添付する図面に基づく詳細な説明によって明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】偏光板の収縮とTACへの応力を示す図である。
【図2】WV(ワイドビュー)偏光板の収縮による吸収軸のずれのシミュレーションを示す図である。
【図3】吸収軸と偏光度の測定方法を示す図である。
【図4】偏光板の収縮による吸収軸の分布と軸の角度を変えた時の偏光度の変化を示す図である。
【図5】吸収軸と透過率との関係を示す図である。
【図6】吸収軸と透過率との関係を示す図である。
【図7】WV偏光板の表裏での吸収軸のずれを示す図である。
【図8】WV偏光板(初期と偏光板フリー)に関する図である
【図9】実施例4の軸ずれ分布を示す図である。
【図10】比較例5の軸ずれ分布を示す図である。
【図11】WV偏光板の光漏れ写真を示す図である。
【図12A】吸収軸θpと直交透過率Ycを示す図である。
【図12B】吸収軸θpと直交透過率Ycを示す図である。
【図13A】吸収軸と偏光度の分布を示す図である。
【図13B】吸収軸と偏光度の分布を示す図である。
【図14】吸収軸分布と直交透過率を示す図である。
【図15】吸収軸分布と光漏れを示す図である。
【図16】透過軸分布と直交透過率を示す図である。
【図17】光漏れと吸収軸を示す図である。
【図18】吸収軸分布と偏光度分布を示す図である。
【図19】光漏れと偏光度を示す図である。
【図20】偏光板の収縮(上から観察)を示す図である。
【図21】偏光板の収縮断面図を示す図である。
【図22】吸収軸分布と収縮率を示す図である。
【図23】ゲル分と収縮率を示す図である。
【図24】吸収軸と視感度補正直交透過率を示す図である。
【図25】吸収軸と視感度補正直交透過率(TN偏向板80℃7日)を示す図である。
【図26】VA用偏向板の吸収軸と偏光度を示す図である。
【図27】VA用偏向板の吸収軸と偏光度の分布を示す図である。
【図28】複屈折測定装置での測定法を示す図である。
【図29】偏光板測定ポイントを示す図である。
【図30】粘着剤の複屈折の測定を示す図である。
【図31】荷重による吸収軸の変化を示す図である。
【図32】偏光板の引張りを示す図である。
【図33】液晶ディスプレイの断面例を示す図である。
【図34】偏光板の収縮応力と光漏れを示す図である。
【図35】光漏れ写真と軸ずれ分布を示す図である。
【図36】光漏れ写真と軸ずれ分布を示す図である。
【図37】WV用偏光板の吸収軸の軸ずれを表裏からので測定を示す図である。
【図38】TN用、VA用偏光板の吸収軸の軸ずれを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0056】
[概要]
【0057】
本実施形態は、液晶ディスプレイに貼り合せた粘着剤付偏光板の吸収軸の軸ずれの分布を小さくすることにより、液晶ディスプレイのコントラストなどの表示特性を大きく損なう「光漏れ」を効果的に抑制するための粘着剤付偏光板の設計方法及び製造方法、更には該製造方法により製造した粘着剤付偏光板及び液晶表示装置並びにこれらの製造方法などに関するものである。
【0058】
今回、本発明者らの努力の積み重ねによって、粘着剤付偏光板を液晶パネルに貼り付けて耐久性試験にかけた後の光漏れの悪い偏光板と良い偏光板では、偏光板の面内での場所により吸収軸の分布に差があることがわかった。また、耐久性試験にかける前の偏光板は光漏れが無く、吸収軸の分布も非常に小さいこともわかった。
【0059】
さらに、この吸収軸の分布を小さくするように粘着剤を設計することで光漏れを改善することができることも判明した。
【0060】
吸収軸の分布を小さくする方法として2つあることがわかった。
【0061】
1つ目の方法は、粘着剤のゲル分を小さくすることにより、粘着剤の流動性を大きくし、耐久性試験後の偏光板の収縮率を大きくするという方法である。このときの偏光板の吸収軸の分布は小さくなり光漏れも良好であった。
【0062】
偏光板をパネルに貼り合わせないで耐久性試験にかけ、フリーで収縮させた偏光板は、収縮率は大きいが吸収軸の分布が小さいことがわかった。粘着剤のゲル分を小さくすることによって偏光板をフリーで収縮したものに近い状態にすることで吸収軸の分布を小さくして光漏れが改善されたと考えられる。
【0063】
2つ目の方法は、粘着剤のゲル分を大きくすることにより粘着剤を硬くすることで、液晶パネル(ガラス板)に貼り合わされた偏光板は収縮ができなくなり、偏光板の収縮率を小さくするという方法である。このとき、吸収軸の分布は小さくなり、光漏れも良好になることがわかった。
【0064】
さらに、この現象は、偏光板に位相差層を形成した偏光板では顕著に現れた。
位相差層は、偏光板の保護フィルムに液晶材料をコーティングまたは転写することにより形成される。特に、この現象は、ディスコティック液晶を傾斜配向させて形成した位相差層を持つ視野角拡大偏光板(WV(ワイドビュー)用偏光板)において顕著に現れた。
【0065】
[光漏れの原因]
【0066】
原因について考察する。
【0067】
偏光板は、液晶セルの表裏に、吸収軸が90度(直交)になるように粘着剤で貼り合わされている。このとき表裏の偏光板を通過した光の透過率は最も小さくなる(最暗角度)。貼り合わされた偏光板において表裏の吸収軸がずれると光の透過率が大きくなり光漏れが発生する。
【0068】
液晶テレビに良く使用されるVA用偏光板やIPS用偏光板は、偏光板の辺に対して吸収軸が直交または平行している。吸収軸の方向に伸縮するので収縮の方向が偏光板の辺に対して平行または直交しているので、偏光板の伸縮による吸収軸のずれはあまり発生しない。
【0069】
TN用偏光板やWV用偏光板では、偏光板の辺に対して吸収軸が45度または135度になっているため偏光板の伸縮により吸収軸がずれる場所が発生すると考えられる。これを図2に示す。
【0070】
しかし、位相差層の無い一般のTN偏光板について耐久試験後の吸収軸の分布を測定すると、WV偏光板より吸収軸の分布が非常に小さいことがわかった(図38)。
【0071】
また、吸収軸の測定は、図3のようにガラス板から光を当てて通常測定するが、逆に偏光板側から光を当てて吸収軸の分布を測定すると、WV用偏光板の場合、ガラス板から測定した吸収軸の分布に対して非常に小さいことがわかった。これは、ガラス板側から光を当てて測定した軸ずれ1は粘着剤層とWV層、TACフィルムのそれぞれの位相差が影響するが、偏光板から光を当てて測定した軸ずれ2はTACフィルムの影響しか受けないためと考えられる(図37)。
【0072】
さらに、各種偏光板を吸収軸に対して45度の方向に応力をかけたとき、WV用偏光板では、応力に比例して吸収軸の角度が大きく変化していくが、VA用偏光板や位相差層の無いTN用偏光板では吸収軸の角度が応力の大きさによってあまり変化しないことがわかった。
【0073】
以上のことより、WV用偏光板の吸収軸の分布は、偏光板の収縮による位相差層(ディスコティック液晶層)の歪による位相差の変化が大きいため起こると考えられる。
【0074】
液晶パネルの光漏れは吸収軸の分布によるものだけでなく、耐久試験後の偏光板の偏光度(V)の分布を小さくすることで改良できることがわかった。偏光板の偏光度は、耐久性試験にかける前でも入射させる直線偏光の軸の角度を変化させると変わることは測定されたが、耐久性試験後の偏光度の変化は入射させる直線偏光の軸の角度による変化以上に変化することがわかった。これを図4に示す。
【0075】
耐久性試験後の偏光度の変化は、偏光板の収縮による
1、 吸収軸の軸ずれ
2、 TACの複屈折
3、 粘着剤の複屈折
の3点が原因と考えられる。上記の差は原因2又は原因3に起因すると考えられる。
【0076】
原因2については、TACの厚さを薄くすることで、TACに応力が掛かっても複屈折が発生しても光漏れを小さくする方法やTACより光弾性係数の小さいフィルム(たとえばシクロオレフィン系)に変えること等が提唱されている(IDW 2003 689 FMC9-2 富士フィルム日本ゼオン株式会社ゼオノアカタログ)。
【0077】
原因3については、粘着剤の複屈折を精度良く測定して(粘着剤固有複屈折)、その絶対値を小さくすることで、偏光度の分布を小さくするし、光漏れを改善することができた。
【0078】
上記のように、WV用偏光板では吸収軸の分布が光漏れに大きく影響を与えることを示してきた。VA用偏光板やIPS用偏光板のように、偏光板の辺が吸収軸に対して平行または直交している偏光板は、WV用偏光板に比べて吸収軸の分布は小さい。
【0079】
しかし、VA用偏光板やIPS用偏光板は大型テレビに使用されるため、光漏れの要求性能は高くなる。これらの偏光板の場合は、耐久性試験後の吸収軸の分布と偏光度の分布はさらに小さく設計することが必要である。この方法としては、粘着剤固有複屈折の絶対値をさらに小さくすることが有効である。
【0080】
これまで、粘着剤付偏光板の面内での吸収軸の分布について検討してきたが、液晶パネルの表裏に貼り合わしたときの表裏の偏光板の吸収軸が直交からずれると透過率は大きくなり部分的な光漏れは無いが、全体的に光が透過してコントラストが悪くなる。このためには、液晶パネルの表裏で吸収軸が90±0.5度以下になるようにして位置合わせして貼り合わせることが重要である。
【0081】
粘着剤付偏光板を液晶パネルに貼り付ける場合、偏光板の辺を液晶パネルに位置合わせして貼りつける。このため吸収軸の角度に対して一定の角度で、偏光板の辺を合わして精度良く切断することが重要になる。WV用偏光板の場合、偏光板の辺が吸収軸に対して決められた角度(45度または135度)から0.5度以下にして加工する必要がある。
【0082】
VA用偏光板やIPS用偏光板は吸収軸に対して0度または90度から0.5度以内に偏光板の辺を加工する必要がある。
【0083】
[吸収軸θpの分布と光漏れの関係]
【0084】
吸収軸θpの分布と光漏れの関係について説明する。
【0085】
複屈折測定装置で偏光板に直線偏光した光を当て回転させると光の透過率が最も小さくなる角度が観察される。この角度を、偏光板の吸収軸の角度(θp)と呼ぶ。このときの光の透過率を直交透過率(Tc)と呼ぶ。
【0086】
透過率(T)はθpからずれると大きくなる。θpからのずれ角度をΔθとすると、理論的にはTはΔθの三角関数になるが、Δθが小さいときは2次関数で近似される。
偏光板についてこれらを測定すると 図5のようになり、
透過率 T=0.0206×Δθ−2 + α
の関係が得られた。
【0087】
Δθが1度 ずれると 透過率は0.0206%大きくなることがわかる。
【0088】
さらにθpとTcの分布について考える。
【0089】
偏光板のA点とB点についてθpとTcを測定する。点Aでの吸収軸をθpA、直交透過率TcAとする。点Bでの吸収軸をθpB、直交透過率をTcBとする。
【0090】
点Bでの透過率はθpBではTcBになるが、点Aからは
Δθ=│θpB−θpA│ ずれているので
θpAの角度の時の点Bでの透過率 TBは
TB=TcB + 0.0206×Δθ
=TcB + 0.0206×│θpA−θpB│
になる。
【0091】
偏光板に入射する直線偏光の角度が場所に寄らず一定でθpAとすると、点Aと点Bの透過率差Tsは
Ts=(TB − TcAn)
=│TcB − TcA│ + 0.0206×Δθ
になる。
【0092】
以上より偏光板内で吸収軸のずれΔθが大きい場所ほどその場所で測定した直交透過率の差よりさらに透過率の差は大きくなる。これを図6に示す。
【0093】
実際のWV用偏光板においては初期の吸収軸θpの分布は小さいが、耐久性試験後では、吸収軸の分布は大きくなる。さらに耐久性試験後では各場所の吸収軸は透過率が最小になる角度に対してプラスとマイナスの方向に分布している。この分布は、液晶パネルの上の偏光板と下の偏光板では同じ位置であり、一方方向からみた場合、上の偏光板の軸ずれと下の偏光板の軸ずれは、同じ位置ではプラスマイナスそれぞれ逆の方向にずれる。これを図7、図9、図10に示す。図7では薄い色の矢印は上の偏光板の吸収軸、濃い色の矢印は下の偏光板の吸収軸の方向を示している。
【0094】
実際のWV用偏光板を使用した液晶ディスプレイの光漏れの最暗部と最明部の差は(光の透過率の分布の範囲)は複屈折測定装置で測定したガラスに貼り合せた偏光板の透過率の差が最も大きい値の約2倍になると考えられる。(上下の偏光板で吸収軸がプラスとマイナスにずれるため、上下の偏光板2枚の時は偏光板1枚で測定した時の透過率の分布の2倍になると考えられる。)
【0095】
また、実際に偏光板の明るさは、視覚によって変化するので、400nmから800nmの可視光について各波長での透過率について視感度で補正した値を視感度補正透過率とするほうが実際に合っている。吸収軸での透過率を各波長に対して補正したものを視感度補正直交透過率(Yc)とした。
【0096】
さらに光漏れの視覚的な優劣は光の透過率の最大値と最小値の差だけでなく、透過率の分布として捕らえたほうが合っていると場合がある。(透過率の分布の標準偏差を計算してその3倍の値を3σとした。)また、視感度補正直交透過率の分布が光漏れの実際の見た目に近いと考えられる。
【0097】
[吸収軸と偏光度の分布測定結果]
【0098】
以下に具体的な測定値を示しながら説明する。吸収軸、直交透過率、視感度補正直交透過率、偏光度の分布について、それらの標準偏差の3倍値を3σと記載する。
【0099】
(1)WV用偏光板について耐久性試験前の初期の吸収軸θpの面内での分布を測定したところ 3σ=0.338と小さい値になった(参考例1)。
【0100】
(2)WV用偏光板をガラス板に貼り付けずに80℃7日の耐久性試験にかけた後のθpの面内での分布を測定したところ、3σ=0.538と小さい値であった(参考例2)。
【0101】
これを図8に示す。
【0102】
(3)各種の粘着剤で粘着加工した粘着剤付WV用偏光板をガラス板に貼り合わせて80℃7日かけた後のθpとYcの面内での分布を測定した。
【0103】
実施例1と比較例5の吸収軸の分布を偏光板の上から見た等高線で表した図を示す。実際に測定した吸収軸の値を、直交透過率が最小になる点での吸収軸を0度として各点がプラスマイナス何度軸ずれしているかを計算して図示した。
【0104】
これを図9及び図10に示す。
【0105】
図9では吸収軸の分布はほとんど無いが、図10では偏光板の左右の辺に近い部分はプラス方向に上下の辺に近い部分はマイナス方向に軸ずれしていることがわかる。
【0106】
この等高線は比較例5の光漏れの写真で光が漏れている部分と軸ずれが大きい部分と一致している。これを図11に示す。
【0107】
実施例、比較例について、偏光板の各点での吸収軸θpと視感度補正直交透過率Yc、偏光度(V)についてのグラフを示す。これを図12、図13に示す。
【0108】
粘着剤によって、吸収軸θpと視感度補正直交透過率Yc、偏光度(V)についての分布が大きく異なることがわかる。
【0109】
[軸ずれと光漏れの関係]
【0110】
耐久試験後の各偏光板の吸収軸θpと視感度補正直交透過率Yc、偏光度(V)について考える。θpの分布が大きいほどYcの分布も大きい。これを図12に示す。
【0111】
またθpの分布が大きいほどVの分布も大きい。これを図13に示す。
【0112】
そこで粘着剤の種類を変えた偏光板について偏光板面の各点のθpとYc、の標準偏差の3倍 θp3σとYc3σについて相関を調べた結果、図14のようになる。
【0113】
図14から、θp3σ値が1.3度以下ではYc3σは小さい値であるが、1.3度以上では大きい値になることがわかる。また、実際の光漏れの試験でもθp3σ値が1.3度以下の偏光板は、1.3度以上のものより光漏れが良好であることがわかった。これを図15に示す。
【0114】
また同じ偏光板面の各点のθpの最大値と最小値の差とYcの標準偏差の3倍 Yc3σにについて相関を調べた結果、図16のようになった。
【0115】
図16よりθpの最大値と最小値の差が1.5度以下ではYcの3σは小さい値であるが、1.5度以上では大きい値になることがわかる。また、実際の光漏れの試験でもθpの最大値と最小値の差が1.5度以下の偏光板は、1.5度以上のものより光漏れが良好であることがわかった(図17)。
【0116】
同様の偏光板について偏光板面の各点の吸収軸θpと偏光度Vの標準偏差の3倍 θp3σとVc3σについて相関を調べた結果、図18のようになる。
【0117】
図18より吸収軸分布θp3σ値が1.3度以下では偏光度の分布V3σは小さい値であるが、1.3度以上では大きい値になることがわかる。また、実際の光漏れの試験でもV3σ値が0.3以下の偏光板は光漏れが良好であることがわかった(図19)。
【0118】
[偏光板の収縮率と軸ずれ]
【0119】
さらに偏光板の収縮について測定した。
【0120】
図20は、偏光板をガラス板に貼り合せて収縮した時の角の様子を上から観察した図を示す。図に示すように、偏光板が収縮すると粘着剤の流動した後が観察される。
【0121】
断面は図21のようになっていると考えられる。そこで粘着剤のずれ量(d)を測定して下記の式で偏光板の収縮率を測定した。
【0122】
ずれ量(d)は、偏光板の4つのコーナーでの縦方向と横方向のずれを平均して求めた。
【0123】
収縮率=L1/L=(L−2d)/L
【0124】
各種粘着剤について収縮率と吸収軸の分布について図22に示す。粘着剤のゲル分と収縮率について図23に示す。
【0125】
図23よりゲル分の小さいものほど収縮率が大きいことがわかる。図22より偏光板だけを収縮させたものは、収縮率は大きいが吸収軸の分布は小さい(参考例2)。
【0126】
光漏れが最も良好な実施例4、5は偏光板だけを収縮したもの同様、収縮率は大きいが吸収軸の分布は小さい。光漏れが良好な実施例1,2,3は、収縮率は小さく吸収軸の分布も小さい。光漏れの良好でない比較例1,2は、収縮率は中程度であるが収縮軸の分布は大きいことがわかった。
【0127】
[WV用偏光板の吸収軸分布について]
【0128】
(1)実施例3と同じ偏光板について80℃7日後に偏光板面から光を当てて測定を行った。
【0129】
ガラス面からと偏光板面から測定したθpとYcの関係をグラフにした。
【0130】
偏光板面から測定したθpの分布は非常に小さいことがわかった(図24)。
【0131】
(2)偏光板をTN用偏光板に変えて実施例3で使用した同じ粘着剤について80℃7日後にガラス面からと偏光板面から測定したθpとYcの関係をグラフにした(図25)。これらはすべて3σ=0.1程度で、光の方向、粘着剤の種類によらず小さい値であった。
【0132】
(3)各偏光板に吸収軸に対して45度の方向に応力をかけたときの吸収軸の変化について
VA用、TN用偏光板では変化しないが、WV用偏光板では応力に比例して吸収軸が変化する(図31及び図32)。
【0133】
以上より、軸ずれはWV層にかかる応力により発生していると考えられる。
【0134】
偏光板の吸収軸が偏光板の辺に対して0度または90度のVA用偏光板やIPS用偏光板について検討した。VA用偏光板については大型TV等で使用されるので複屈折の測定については14インチの偏光板について、195点測定した。
【0135】
表4の粘着剤をVA用偏光板に加工した粘着剤付偏光板(14インチ)をガラス板に貼り合わせたものを80℃7日間に入れたものを室温に1日放置後に複屈折測定装置で各種測定を行った。各偏光板の吸収軸と偏光度の分布を図26に示す。WV用偏光板のグラフとは少し違う挙動を示していることがわかる。
【0136】
各偏光板の吸収軸、偏光度の面上の分布を標準偏差の3倍(3σ)を図27に示す。
【0137】
吸収軸の分布θp3σはすべて0.3度以下であった。これは吸収軸が偏光板の辺に対して0度または90度に加工してあるので偏光板が収縮してもあまり吸収軸のずれが起きにくいためだと考えられる。
【0138】
さらにこれらの光漏れを測定した結果、吸収軸の分布θp3σが0.2度以下のもの又は偏光度Vの分布が0.1以下のものは光漏れが良好であることがわかった。
【0139】
これらの粘着剤の粘着剤固有複屈折値を測定したところ、粘着剤固有複屈折値が小さいほど光漏れが良好であり、4×10-4以下の時に光漏れが良好であることがわかった。
【0140】
<粘着剤及びその製造方法>
【0141】
本発明の粘着剤に用いるポリマーの一例を述べる。
【0142】
粘着剤に使用し得るポリマーは、アクリル系ポリマー、ウレタン系ポリマー、スチレン・イソプレン系(SIS)等のスチレン系エラストマー、ポリエステル系ポリマー、オレフィン系ポリマーなどが挙げられる。
【0143】
前記アクリル系ポリマーとしては、(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステル単量体及び芳香環を有する共重合可能な単量体から選択される少なくとも1種と、カルボキシル基及び水酸基のうち少なくとも1つを有する共重合可能な単量体との共重合体が挙げられる。
【0144】
前記ウレタン系ポリマーとしては、ジオールとジイソシアネートとを反応させて得られた化合物が挙げられる。
【0145】
前記スチレン系エラストマーとしては、SIS(スチレン・イソプレン・スチレンブロック共重合体)、SBS(スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体)、ESBS(エポキシ化スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体)等が挙げられる。
【0146】
以下では、アクリル系ポリマーについて更に詳細に説明する。
【0147】
前記(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18のアルキルエステル単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルへキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソノニル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらは単独でも或いは2種以上を組み合わせてもよい。
【0148】
前記芳香環を有する共重合可能な単量体としては、例えば、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、スチレン、α-メチルスチレンなどの芳香族環を有する単量体が挙げられる。これらは単独でも或いは2種以上を組み合わせてもよい。
【0149】
前記、カルボキシル基及び水酸基のうち少なくとも1つを有する共重合可能な単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキヘキシル(メタ)アクリレート、8−ヒドロキシオクチル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデキシル(メタ)アクリレート、12−ヒドロキシラウリル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
【0150】
前記アクリル系ポリマーは、更にジアルキル置換アクリルアミド単量体、アセトアセチル基含有単量体を含んで共重合されていてもよい。
【0151】
ジアルキル置換アクリルアミド単量体としては、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−メチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジプロピル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジイソプロピル(メタ)アクリルアミド、N−メチルN−プロピルアクリルアミド、N−メチルN−イソプロピルアクリルアミド等が挙げられる。好ましくは、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル−N−メチル(メタ)アクリルアミドである。
【0152】
アセトアセチル基含有単量体としては、アセトアセトキシエチルアクリレート、アセトアセトキシエチルメタクリレート、アセトアセトキシエチルクロトナート、アセトアセトキシプロピルアクリレート、アセトアセトキシプロピルメタクリレート、アセトアセトキシプロピルクロトナート、2−シアノアセトアセトキシエチルメタクリレート、N−(2−アセトアセトキシエチル)アクリルアミド、N−(2−アセトアセトキシエチル)メタクリルアミド、アセト酢酸アリル、アセト酢酸ビニルなどが挙げられる。好ましくはアセトアセトキシエチルアクリレートおよびアセトアセトキシエチルメタクリレートである。
【0153】
上記単量体を重合してポリマーを合成する。
【0154】
この重合方法は、通常の溶液重合、塊状重合、乳化重合または懸濁重合などが適用できるが、上記共重合体が溶液として得られる溶液重合により製造することが好ましい。上記共重合体が溶液として得られることにより、そのまま本発明の粘着剤組成物の製造に使用することができる。この溶液重合に使用する溶剤としては、例えば、酢酸エチル、トルエン、n−ヘキサン、アセトン、メチルエチルケトンなどの有機溶剤を挙げることができる。
【0155】
重合に使用する重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキシド、ラウリルパーオキシドなどの過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスバレロニトリルなどのアゾビス化合物または高分子アゾ重合開始剤などを挙げることができ、これらは単独でもまたは組み合わせても使用することができる。また、上記重合においては、共重合体の分子量を調整するために従来公知の連鎖移動剤を使用することができる。
【0156】
なお、上記重合では、前述の複屈折性評価方法を用いて決定した繰り返し単位に対応する単量体(モノマー)を、前記決定した比率で重合する。
【0157】
重合により得られたアクリル系ポリマーは、架橋剤により架橋される。
【0158】
上記アクリル系ポリマーを架橋させるための架橋剤としては、従来の一分子中にグリシジル基を2個以上有するポリグリシジル化合物、1分子中にイソシアネート基を2個以上有するポリイソシアネート化合物、1分子中にアジリジニル基を2個以上有するポリアジリジン化合物、1分子中にオキサゾリン基を2個以上有するポリオキサゾリン化合物、金属キレート化合物、またはブチル化メラミン化合物などを使用することが出来る。好ましくはポリイソシアネート化合物、ポリグリシジル化合物、金属キレート化合物の単独もしくは2種類以上の併用で使用可能である。
【0159】
上記金属キレート化合物としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、スズ、チタン、ニッケル、アンチモン、マグネシウム、バナジウム、クロムおよびジルコニウムなどの多価金属がアセチルアセトンやアセト酢酸エチルに配位した化合物が挙げられ、好ましくはアルミキレート化合物およびチタンキレート化合物が挙げられる。
【0160】
上記ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、クロルフェニレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアナート、テトラメチレンジイソシアナート、イソホロンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートなどのイソシアネート化合物及びこれらイソシアネート化合物をトリメチロールプロパンなどと付加したイソシアネート化合物やイソシアヌレート化合物、ビュレット型化合物、さらにポリエーテルポリオールやポリエステルポリオール、アクリルポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリイソプレンポリオールなどを付加反応させたウレタンプレポリマー型のイソシアネートなどが挙げられる。
【0161】
上記架橋剤により、アクリル系ポリマーは、時間の経過と共に架橋反応が進行し、架橋構造の含有割合が増加する。一定時間経過すれば、架橋構造の割合は一定となる。
【0162】
また、上記架橋剤の添加に先立って、或いは架橋剤の添加の際に、分子中に少なくとも2個の芳香環を有する化合物を配合してもよい。
【0163】
分子中に少なくとも2個の芳香環を有する化合物としては、ビフェニル、ジフェニルスルフォン、4−フェニルフェノール、ベンゾイン、ジフェニルスルフィド、ジフェニルエーテル、4−ヒドロキシビフェニル−4’−カルボン酸、4,4’−ビフェノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニルメタン、4−α−クミルフェノール、ジフェニルアセチレン、アゾベンゼン、ジベンゾフラン、ジフェニルメタン、安息香酸ベンジル、フタル酸ジフェニル、N−(4−メトキシベンジリデン)−4−アセトキシアニリン、4−[(メトキシベンジリデン)アミノ]アゾベンゼン、4,4’−スルフォニルジフェノール、4−フェノキシフェノール、4’−メトキシベンジリデンアミノスチルベン、ビスフェノールA、ベンジリデンフェニルアミン、N,N’−ジベンジリデンヒドラジン、トランススチルベン、p−ジアニザルベンジディン、テレフタルビス−(p−フェネチジン)、カルバゾール、1,4−ジフェニル−1,3−ブタジエン、1,4−ジフェニル−1,3,5−ヘキサジエン、フルオレン及びジベンゾチオフェン、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエート、ベンジルベンゾエート、1,4−シクロヘキサンジメタノールジベンゾエート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、2−エチルヘキシルジフェニルホスフェートが挙げられる。
【0164】
これらの化合物の中でも、トランススチルベン、フルオレン、ジフェニルスルフィド、安息香酸ベンジル、ジプロピレングリコールジベンゾエート、ベンゾイン及びジフェニルアセチレンからなる群から選ばれる少なくとも1種を用いることがより好ましい。
【0165】
また、本発明の粘着剤はUV架橋型としても用いることができる。UV架橋型の粘着剤では、単官能単量体又は多官能単量体、及び光重合開始剤が更に添加される。
上記単官能単量体としては、芳香環を少なくとも1個有するものが好ましく、具体的には、ノニルフェニルEO変性アクリレート、ノニルフェニルPO変性アクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレートおよびフタル酸モノヒドロキシエチルアクリレートから選ばれる少なくとも1種を含むことが好ましい。
【0166】
上記多官能アクリレートとしては、エチレンオキシド変性ジ(メタ)アクリレート、ジアクリロキシエチルイソシアヌレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリスアクリロキシエチルイソシアヌレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、εカプロラクトン変性トリスアクリロキシエチルイソシアヌレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジグリセリンテトラ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが挙げられ、好ましくは、ε−カプロラクトン変性トリスアクリロキシエチルイソシアヌレート、ジアクリロキシエチルイソシアヌレートおよびトリスアクリロキシエチルイソシアヌレートなどのイソシアヌレートのジまたはトリ(メタ)クリレートが挙げられる。
【0167】
UV架橋型の粘着剤に用いる光重合開始剤としては、従来の放射線(紫外線)による光重合開始剤が使用でき、例えば、アミノケトン系、ヒドロキシケトン系、アシルフォスフィンオキサイド系、ベンジルジメチルケタール系、ベンゾフェノン系、トリクロロメチル基含有トリアジン誘導体などが挙げられる。具体的には1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフォスフィンオキサイド、α−ヒドロキシケトン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノンなどが挙げられる。
【0168】
本発明の粘着剤には、更に他の添加物を添加してもよい。このような添加物としては帯電防止剤が挙げられ、適用し得る帯電防止剤は特に限定されない。例えば、窒素原子に置換基として炭素数8〜16のアルキル基を有し、それ以外のα位からγ位までに置換基の無いピリジニウム系カチオンと、六フッ化リン酸アニオン、ビス(フルオロスルホニル)イミドアニオンまたはビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオンとの塩が挙げられ、50質量%トルエン溶解時の電気伝導度が200ms/m以上のイオン性化合物であることが好ましく、前記ピリジニウム系カチオンとしては、1−オクチルピリジニウム、1−ノニルピリジニウム、1−デシルピリジニウムまたは1−ウンデシルピリジニウムであることが好ましい。
【0169】
本発明の粘着剤には、さらにシランカップリング剤を含有し得る。これらのシランカップリング剤はいずれも粘着剤の分野において公知であり、公知のシランカップリング剤はいずれも本発明で使用することができる。
【0170】
本発明の粘着剤は、さらに粘着力を調整する目的など、必要な特性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲において、種々の添加剤を配合してもよい。例えば、テルペン系、テルペン−フェノール系、クマロンインデン系、スチレン系、ロジン系、キシレン系、フェノール系または石油系などの粘着付与樹脂、酸化防止剤、紫外線吸収剤、充填剤、顔料などを配合することができる。
【0171】
<ゼロ・ゼロ複屈折ポリマーフィルムの作製>
【0172】
ガラス製のサンプル管に、メチルメタクリレート(MMA)、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート(3FMA)、及びベンジルメタクリレート(BzMA)を合計30g、パーブチルO(日本油脂(株)製)をモノマーの総量に対し0.5質量%、n−ブチルメルカプタンをモノマーの総量に対し0.3質量%添加した。モノマーの比率(質量比)は、MMA/3FMA/BzMA=55.5/38.0/6.5とした。
【0173】
これらを攪拌し、溶解させ、充分に均一にした後、孔径0.2μmのPTFE製メンブランフィルター(東洋濾紙(株))を通して濾過し、試験管に移した。この試験管を70℃の水浴中に設置し、24時間重合した。続いて90℃の乾燥機中で24時間熱処理を行った。
【0174】
試験管から取り出したポリマーを質量比で4倍量のテトラヒドロフランとともにガラス製のサンプル管に入れ、攪拌し、十分に溶解させた。得られたポリマー溶液を、ガラス板状にナイフコーターを用いて展開し、1日室温で放置し、乾燥させた。形成したフィルムをガラス板から剥がし、60℃の減圧乾燥機内でさらに48時間乾燥させた。得られた厚さ約35μmのフィルムをダンベル状に加工し、テンシロン汎用試験機(株式会社エー・アンド・デイ製)により一軸延伸を行った。延伸温度102℃、延伸速度400%/min、延伸倍率1.2〜2.7倍とした。
【0175】
延伸後のフィルムを室温まで冷却し、24時間室温で放置した後に、フィルムに生じたリタデーションを自動複屈折測定装置ABR−10A(ユニオプト(株))を用いて測定した。さらに延伸後のフィルムの厚さを、マイクロメーターを用いて測定した。その結果、いずれの延伸倍率においても固有複屈折の絶対値が1×10−4未満で、実質的には配向複屈折をゼロとみなせる程度であった。
【0176】
上記のフィルムの内、未延伸のものについて光弾性複屈折を測定した。
上記フィルムを図30に示すダンベル状に切り取り、これに引張応力を印加し、複屈折を自動複屈折測定装置ABR−10A(ユニオプト(株))を用いて測定した。応力と複屈折の関係から光弾性定数を求めた結果、絶対値で0.5×10−12Pa−1未満であり、実質的には光弾性複屈折がゼロとみなせる程度であった。
【0177】
以上より、上記のようにして得られたポリマーフィルムは配向複屈折および光弾性複屈折がいずれもほとんど生じないゼロ・ゼロ複屈折ポリマーフィルムであることが確認された。
【0178】
[製造例1から11(共重合体1から11)]
【0179】
攪拌機、温度計、還流冷却器および窒素導入管を備えた反応装置に、窒素ガスを導入して、この反応装置内の空気を窒素ガスに置換した。その後、この反応装置中に、表1のモノマー、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリルを0.1部、および反応溶剤として酢酸エチルを100部加えた。これを攪拌させながら、窒素ガス気流中において、60℃で8時間反応させた後、酢酸エチルで希釈して重量平均分子量100万から200万のアクリル樹脂の溶液を得た。更に、表2、3、4、5に示すような架橋剤及び添加剤を配合して粘着剤前駆体溶液とした。
【0180】
【表1】

【0181】
【表2】

【0182】
【表3】

【0183】
【表4】

【0184】
【表5】

【0185】
[粘着剤の複屈折の測定]
【0186】
得られた粘着剤前駆体溶液を、PET(Poly Ethylene Terephthalate)で構成されたフィルムセパレータ上に塗布し、そして乾燥し、その後室温で1週間置いて架橋させた。この架橋膜を先に作製したゼロ・ゼロ複屈折ポリマーフィルムに貼付した。そしてフィルムセパレータを剥がし、剥がした面の前記架橋膜にもう一枚のゼロ・ゼロ複屈折ポリマーフィルムを貼付した。
【0187】
粘着剤層の厚さは約30μm、それぞれのゼロ・ゼロ複屈折ポリマーフィルムの厚さは約35μm、全体の厚さは約100μmとした。
【0188】
この積層フィルムを図30に示すダンベル状に加工し、テンシロン汎用試験機(株式会社エー・アンド・デイ製)により一軸延伸を行った。延伸温度102℃、延伸速度400%/分、延伸倍率2.0倍とした。
【0189】
延伸後の積層フィルムは室温まで冷却し、24時間室温で放置した後に、フィルムに生じたリタデーションを自動複屈折測定装置ABR−10A(ユニオプト(株))を用いて測定した。
【0190】
延伸後のフィルムの中心部分(図30に示した2本のゲージラインで挟まれた領域の中心部分)をエポキシ系接着剤に埋め込んで固めた後、切断・研磨することによってフィルムの断面を出し、粘着剤層の厚さを測定した。
レタデーションの値を粘着剤の厚さで割った値を粘着剤固有複屈折としている。
【0191】
[粘着剤付偏光板の作成方法]
【0192】
得られた粘着剤前駆体溶液を、PETで構成されたフィルムセパレータ上に塗布し、そして乾燥し、その後室温で1週間置いて架橋させた。この架橋膜を各種偏光板に貼付した。
【0193】
WV用偏光板はWVフィルム側に、VA用偏光板は位相差フィルム側に粘着剤を貼付した。
【0194】
粘着剤層の厚さは約25μmとした。
【0195】
モノマーの略称
BA:ブチルアクリレート
MA:メチルアクリレート
PHEA:フェノキシエチルアクリレート
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
AA:アクリル酸
4HBA:4−ヒドロキシブチルアクリレート
DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド
AAEM:アセトアセトキシエチルメタアクリレート
架橋剤、添加物
コロネートL:日本ポリウレタン工業(株)製 ポリイソシアネート
コロネート2030:日本ポリウレタン工業(株)製 ポリイソシアネート
タケネートD−120N:三井化学(株)製 水添キシレンジイソシアネート化合物
IL−1451:住友バイエルウレタン(株)製 ポリイソシアネート
アルミキレートA:川研ファインケミカル(株)製 アルミニウムトリスアセチル
テトラッドC:三菱瓦斯化学(株)製 ポリグリシジル化合物
X−41−1810:信越化学工業(株)製 メチルメルカプト系アルコキシオリゴマー
X−41−1056:信越化学工業(株)製 アルコキシオリゴマー
【0196】
[複屈折測定装置での測定法]
【0197】
厚さ2mmのガラス板に貼り合わせた15cm×8cmの粘着剤付偏光板をガラス面側から垂直に光を当てて1枚法で吸収軸、直交透過率、偏光度を測定した。
複屈折測定装置 大塚電子製 RETS−RE1200。
【0198】
吸収軸と視感度補正直交透過率、偏光度の分布測定は偏光板面の測定ポイント横23.3mmピッチで7点 縦18mmピッチで5点 合計35点を測定した。測定温度 23℃55%RH。これを図28及び図29に示す。
【0199】
偏光板をガラス板または液晶パネルに貼り合わせるときは、貼り合わせ機を使用して偏光板の辺が設定値に対して±0.5度以下になるように調整した。
【0200】
偏光板は大塚電子製RETS−RE1200を使用して最暗角度の平均値を測定してその角度に対して偏光板の辺が45±0.5度または135±0.5度になるように切断した。
【0201】
また、偏光板の初期の吸収軸の分布が大きいと偏光板を精度良く液晶パネルに貼り合わせても光漏れはよくならない。
【0202】
偏光板の場所による初期の吸収軸の分布は、偏光板製造時のPVAを延伸した時の延伸軸方向のばらつきにも起因するが、偏光板製造後の保存状態によっても変化する。
【0203】
[VA用偏光板の吸収軸、偏光度の分布の測定方法]
【0204】
14インチの粘着剤付偏光板を厚さ2mmのガラス板に貼り合わせる。
透過軸と偏光度の分布測定は大塚電子製RETS−RE1200を使用して1枚法による透過率・偏光度の測定方法で偏光板の最暗角度を吸収軸とした。さらにその吸収軸に対する直交透過率と偏光度を求めた。測定温度 23℃55%RH。
【0205】
14インチの粘着剤付偏光板の場合、縦横210×180の領域について15mmピッチで合計195点測定した。
【0206】
[偏光板の収縮率測定法]
【0207】
図20に示すように偏光板が収縮すると粘着剤の流動した後が観察される。
【0208】
断面は図21のようになっていると考えられる。そこで粘着剤のずれ量(d)を4点の角について縦方向と横方向に計8箇所について目盛り付き顕微鏡で測定して平均値を求め、下記の式で偏光板の収縮率を測定した。
【0209】
収縮率=L1/L=(L−2d)/L
【0210】
[偏光板に応力をかけた時の吸収軸の変化の測定]
【0211】
各種粘着剤付偏光板を吸収軸に対して45度または135度になるように15mm×60mmの寸法に切り出す。引張機構つきの複屈折測定装置で長手方向に引張加重をかけて吸収軸の変化を測定した。吸収軸に対して45度または135度方向に応力をかけたとき、WV用偏光板では、応力に比例して吸収軸の角度が大きく変化していくが、VA用偏光板や位相差層の無いTN用偏光板では吸収軸の角度が応力の大きさによってあまり変化しないことがわかった(図31及び図32)。
【0212】
<試験方法および評価基準>
【0213】
ここで、試験方法及び評価基準について説明する。
【0214】
[ゲル分率]
【0215】
架橋後の粘着剤皮膜を0.2g正確に秤量(W1)してトルエン50mlに1日間浸漬した後、200メッシュの金網を秤量した(W2)。次に、ろ過を行い、可溶分を抽出した。その後、乾燥させて不溶部分の重量(W3)を求めた。これら測定値から以下の式を使いゲル分率(重量%)を算出した。
ゲル分率(重量%)=((W3−W2)/W1)×100
【0216】
[光漏れ]
【0217】
実施例および比較例における偏光板を用いた80℃7日試験後の同試料を2枚液晶パネルの上下面にクロスニコルにして貼り合わせ、液晶モニターのバックライトを点灯して、白抜けの状態を目視で観察した。
【0218】
評価基準は以下のとおりである。
◎:偏光板に光漏れは全く観察されなかった
○:偏光板に光漏れはほとんど観察されなかった。
△:偏光板に光漏れが僅かに観察された。
×:偏光板に光漏れが観察された。
【0219】
[重量平均分子量(Mw)]
【0220】
GPC(GEL
Permeation Chromatography)法により測定したポリスチレン換算分子量である。詳しくは、共重合体を常温で乾燥させて得られた塗膜をテトラヒドロフランに溶解し、高速液体クロマトグラフ(島津製作所製、LC−10ADvp、カラムKF−G+KF−806×2本)で測定し、ポリスチレン換算での重量平均分子量(Mw)を求めた。
【0221】
[貯蔵弾性率]
【0222】
架橋後の粘着剤皮膜25μmを固体剪断治具に挟み、(株)ユービーエム製Rheogel-E4000を用いて30℃と80℃の時の貯蔵弾性率(G´)を周波数1Hzで測定した。
【0223】
・参考例1、2
WV用偏光板のWVフィルム側から吸収軸の分布を測定した結果、耐久性試験をかける前の3σで0.338と小さい値であった。WV用偏光板だけを80℃7日に放置したものも吸収軸の分布は3σで0.538と小さい値であった。
【0224】
・実施例1、2、3
イソシアネート系架橋剤(コロネートL)の量を多くすると粘着剤のゲル分率が上がって偏光板の収縮率は小さくなった。偏光板の変形量が小さくなるので、吸収軸の分布も小さくなると考えられる。偏光板に掛かる応力は大きくなるが、応力がかかる面積が小さいので直交透過率の分布、偏光度の分布は小さくなる。実際見た目の光漏れも良好になることが分かった。
【0225】
・実施例4,5
ゲル分を40%以下にしたものは偏光板の収縮率も大きくなった。偏光板の変形量は大きくなるが偏光板に掛かる応力は小さいため、吸収軸の分布は小さくなると考えられる。さらに直交透過率の分布と偏光度の分布ともには小さくなる。実際見た目の光漏れも良好になることが分かった。
【0226】
・比較例1、2
ゲル分が50%、60%の比較例1,2はゲル分と収縮率ともに実施例1,2,3と実施例4,5の間の値になった。しかし、偏光板の変形量と偏光板に掛かる応力ともにある程度大きくなるため、吸収軸の分布は大きくなった。さらに直交透過率の分布と偏光度の分布ともには大きな値になった。実際見た目の光漏れは良くないことが分かった。
【0227】
・実施例6から10
共重合体の組成についてBAとPHEAの比率を変えたものについて検討したが、架橋剤の量を多くしてゲル分を大きくことで、吸収軸の分布は小さくなった。また直交透過率の分布と偏光度の分布ともには小さくなり、実際見た目の光漏れも良好になることが分かった。
【0228】
・比較例3
共重合体の組成は実施例8とほぼ同じであるが、架橋剤の量を少なくしてゲル分率を50%にした。吸収軸の分布は大きくなり、直交透過率の分布と偏光度の分布ともには大きな値になった。実際見た目の光漏れは良くないことが分かった。
【0229】
・参考例3,4,5
実施例3と同じ粘着剤をWV用偏光板とTN用偏光板に貼付したものをガラス板に貼り合せ80℃7日後の吸収軸の分布を偏光板面からとガラス面から光を照射して吸収軸の分布を測定したがどれも小さい値であった。
【0230】
・実施例11、12、13
VA用偏光板に表4の粘着剤を加工したものをガラス板に貼り合せ、吸収軸と偏光度の分布を測定したが小さい値であった。これらの粘着剤の粘着剤固有複屈折の絶対値は小さい値であった。液晶パネルの両面に配置して光漏れを観察すると良好な結果が得られた。
【0231】
・比較例4
VA用偏光板に比較例4の粘着剤を加工したものをガラス板に貼り合せ、吸収軸と偏光度の分布を測定したが吸収軸の分布は小さい値であった。偏光度の分布は大きい値であった。この粘着剤の粘着剤固有複屈折の絶対値は8×10−4と大きい値であった。液晶パネルの両面に配置して光漏れを観察すると良好な結果は得られなかった。
【0232】
・実施例14から21、比較例5
表5の配合で架橋剤の種類と量を変えた粘着剤をWV偏光板に加工したものの吸収軸の分布、光漏れ、ゲル分、貯蔵粘弾性を測定した。
【0233】
その結果、架橋剤の量が多いものほど、吸収軸の分布、偏光度の分布、Ycの分布ともに小さくなった。また架橋剤の量が多いものほど、ゲル分率、20℃と80℃の貯蔵弾性率とも大きくなった。光漏れは架橋剤の量が多いものほど良好であり、比較例5は吸収軸の分布が1.453、吸収軸の最大値と最小値の差が0.1544と大きく、光漏れは悪かった。
【0234】
図35及び図36に、これらの光漏れの写真と軸ずれの分布の図を示す。
【0235】
[偏光板について]
【0236】
1、WV用偏光板
例えば、TNモードTFT−LCD用の視野角拡大フィルム(WVフィルム、富士フィルム製)を使用した偏光板である。
【0237】
視野角拡大フィルムはTACフィルムの片面にディスコティック液晶を加工したものである。
【0238】
通常は、液晶パネルの辺に対して吸収軸が45度または135度になるようにして貼り合せる。本実施形態で主に使用したものは構成1.である。これは、液晶モニターやノートパソコンで主に使用される。
【0239】
構成1(現在の主流)TAC/PVA/TAC/WV/PSA/ TN液晶セル /PSA/WV/TAC/PVA/TAC
視野角拡大フィルムが偏光板と一体化されている。
【0240】
構成2(以前の構成)
TAC/PVA/TAC/PSA/TAC/WV/PSA/ TN液晶セル /PSA/WV/TAC/PSA/TAC/PVA/TAC
視野角拡大フィルムは偏光板とは別に粘着剤で貼り合わされる。
【0241】
TAC:TACフィルム、PVA:ヨウ素を含浸して延伸したPVAフィルム
WV:ディスコティック液晶層、PSA:粘着剤
【0242】
2、TN(Twisted Nematic、ねじれネマティック)用偏光板
例えば、位相差層を含まない偏光板である。
【0243】
構成 TAC/PVA/TAC/PSA/ TN液晶セル /PSA/TAC/PVA/TAC
【0244】
これは、電卓、家電製品で使用される。
【0245】
3、VA(Vertical Alignment、垂直配向)用偏光板
例えば、VAモードLCDに使用される偏光板である。
【0246】
位相差フィルムが偏光板と一体化されているものと、偏光板に位相差フィルムを粘着剤で貼り合せるものがある。位相差フィルムを片面に2枚使用したものもある。
【0247】
VA用偏光板をVA液晶セルの片面または両面に貼り合せる。片面の場合は、もう片面には位相差フィルムの無い偏光板を使用する。液晶パネルの辺に対して吸収軸が0度または90度になるようにして貼り合せる。
【0248】
上述の実施形態で使用したものは、位相差フィルムが一体化した偏光板で液晶セルの両面に貼り合せるタイプである。
【0249】
4、IPS(In-Plane Switching、インプレイン・スイッチング)用偏光板
例えば、IPSモードLCDに使用される偏光板である。
【0250】
位相差があるフィルムや無いフィルムを使用して偏光板を作成する。偏光板と位相差フィルムが一体化したものが多い。
【0251】
これらを図33に示す。
【0252】
[定義、記号について]
【0253】
θp:吸収軸(偏光板の最暗角度)
T0:吸収軸での透過率
T90:透過軸での透過率
Tc:直交透過率 T0×T90
Yc:視感度補正直交透過率 400nmから800nmで測定した透過率について視感度を補正した直交透過率
V :偏光度(%) V=SQR((T90−T0)/(T90+T0))×100
【0254】
[権利解釈など]
【0255】
以上、特定の実施形態を参照しながら、本発明について説明してきた。しかしながら、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が実施形態の修正又は代用を成し得ることは自明である。すなわち、例示という形態で本発明を開示してきたのであり、本明細書の記載内容を限定的に解釈するべきではない。本発明の要旨を判断するためには、冒頭に記載した特許請求の範囲の欄を参酌すべきである。
【0256】
また、この発明の説明用の実施形態が上述の目的を達成することは明らかであるが、多くの変更や他の実施例を当業者が行うことができることも理解されるところである。特許請求の範囲、明細書、図面及び説明用の各実施形態のエレメント又はコンポーネントを他の1つまたは組み合わせとともに採用してもよい。特許請求の範囲は、かかる変更や他の実施形態をも範囲に含むことを意図されており、これらは、この発明の技術思想および技術的範囲に含まれる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の耐久性試験後の吸収軸の分布を小さくすることで光漏れを改善するように設計された粘着剤付偏光板。
【請求項2】
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日後の耐熱試験後の吸収軸の分布が標準偏差の3倍値で1.3度以下になるようにして光漏れを改善するように設計された粘着剤付偏光板。
【請求項3】
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日間の耐熱試験後の吸収軸の最大値と最小値の差が1.5度以下になるようにして光漏れを改善するように設計された粘着剤付偏光板。
【請求項4】
粘着剤のゲル分が0.1%以上40%以下である請求項1から3のいずれかに記載の粘着剤付偏光板。
【請求項5】
粘着剤のゲル分が80%以上99%以下である請求項1から3のいずれかに記載の粘着剤付偏光板。
【請求項6】
偏光板がWV用偏光板である請求項1から5のいずれかに記載の粘着剤付偏光板。
【請求項7】
ガラス基板に貼り付けて80℃7日間の耐熱試験後の偏光度の分布が標準偏差の3倍値で0.2以下である請求項1から6のいずれかに記載の粘着剤付偏光板。
【請求項8】
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日後の耐熱試験後の吸収軸の分布が標準偏差の3倍値で0.2度以下になるようにして光漏れを改善するように設計された粘着剤付偏光板。
【請求項9】
ガラス基板に貼り付けて80℃7日間の耐熱試験後の偏光度の分布が標準偏差の3倍値で0.2以下である請求項8に記載の粘着剤付偏光板。
【請求項10】
粘着剤の粘着剤固有複屈折の絶対値が4×10-4以下である請求項8又は9に記載の粘着剤付偏光板。
【請求項11】
偏光板の吸収軸が、偏光板の辺に対して90±0.5度以内又は0±0.5度以内になるように切断される請求項8から10のいずれかに記載の粘着剤付偏光板。
【請求項12】
偏光板がVA用偏光板又はIPS用偏光板である請求項8から11のいずれかに記載の粘着剤付偏光板。
【請求項13】
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の耐久性試験後の吸収軸の分布を小さくすることで光漏れを改善するように設計する粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項14】
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日後の耐熱試験後の吸収軸の分布が標準偏差の3倍値で1.3度以下になるようにして光漏れを改善するように設計する粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項15】
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日間の耐熱試験後の吸収軸の最大値と最小値の差が1.5度以下になるようにして光漏れを改善するように設計する粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項16】
粘着剤のゲル分が0.1%以上40%以下である請求項13から15ずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項17】
粘着剤のゲル分が80%以上99%以下である請求項13から15のいずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項18】
偏光板がWV用偏光板である請求項13から17ずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項19】
ガラス基板に貼り付けて80℃7日間の耐熱試験後の偏光度の分布が標準偏差の3倍値で0.2以下である請求項13から18のいずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項20】
ガラス基板に貼り合せた粘着剤付偏光板の80℃7日後の耐熱試験後の吸収軸の分布が標準偏差の3倍値で0.2度以下になるようにして光漏れを改善するように設計する粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項21】
ガラス基板に貼り付けて80℃7日間の耐熱試験後の偏光度の分布が標準偏差の3倍値で0.2以下である請求項20に記載の粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項22】
粘着剤の粘着剤固有複屈折の絶対値が4×10-4以下である請求項20又は21に記載の粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項23】
偏光板の吸収軸が、偏光板の辺に対して90±0.5度以内又は0±0.5度以内になるように切断される請求項20から22のいずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項24】
偏光板がVA用偏光板又はIPS用偏光板である請求項20から23のいずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項25】
粘着剤付偏光板の吸収軸の分布を小さくするように設計する粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項26】
粘着剤のゲル分を調整する請求項25記載の粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項27】
軸ずれの分布から光漏れの位置を特定する請求項25記載の粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項28】
前記粘着剤付偏光板は粘着型位相差層付偏光板である請求項25記載の粘着剤付偏光板の設計方法。
【請求項29】
前記位相差層付偏光板は、透明保護フィルムに、液晶材料をコーティングすることにより位相差層を塗設し、または、別途、液晶材料をコーティングすることにより形成した位相差層を透明保護フィルムに転写により配置し、透明保護フィルムと位相差層が一体化したものである請求項28記載の粘着型位相差層付偏光板の設計方法。
【請求項30】
前記位相差層が、ディスコティック液晶の傾斜配向層を固定したものである請求項29記載の粘着型位相差層付偏光板の設計方法。
【請求項31】
請求項13から30のいずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法により設計された粘着剤付偏光板を用いる液晶パネルの製造方法。
【請求項32】
請求項13から30のいずれかに記載の粘着剤付偏光板の設計方法により設計された粘着剤付偏光板を用いる偏光板の製造方法。
【請求項33】
粘着剤付偏光板の吸収軸の軸ずれの分布を小さくすることにより光漏れを抑制する粘着剤付偏光板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12A】
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【図12B】
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【図13A】
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【図13B】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【公開番号】特開2013−101281(P2013−101281A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245997(P2011−245997)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(000105877)サイデン化学株式会社 (39)
【Fターム(参考)】