説明

粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体及び粘着剤組成物

【課題】 本発明の課題は、良好な接着力と凝集力を有し、かつプラスチックフィルム基材と粘着剤層間の密着性に優れており、被着体に貼り付けられた粘着剤塗工物を剥がす際に被着体面上への糊残りを生じない粘着剤組成物を形成し得る粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を提供する事である。
【解決手段】 ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体(A)を、数平均分子量が1000以下であるスチレン樹脂(B−1)及び/又はキシレン樹脂(B−2)の存在下にて、界面活性剤、重合開始剤、及び水を必須成分とする水性媒体中で重合してなる樹脂組成物であって、(A)100重量部中に(B−1)及び/又は(B−2)0.5〜5重量部をあらかじめ溶解又は分散せしめた後に重合してなる事を特徴とする粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体に関するものである。詳しくは良好な接着力と凝集力を有し、かつ基材と粘着剤層間の密着性に優れており被着体に貼り付けられた粘着剤塗工物を剥がした際に被着体面上への糊残りを生じない粘着剤組成物を形成し得る粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体に関する。さらに詳しくはラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体にスチレン樹脂及び/又はキシレン樹脂を溶解または分散せしめた後に重合する事により両成分を複合化する事ができ、その結果上記のような効果を奏する粘着剤組成物を形成し得る粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体に関するものである。
さらに、本発明は、上記粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を必須成分として含有し、さらに高粘着力を付与するための粘着付与樹脂、塗工適性を付与するための粘度調整剤、レベリング剤、消泡性を付与するための消泡剤、保存性を付与するための防腐剤等の各種機能を有する材料を必要に応じて含有せしめてなる水性粘着剤組成物に関する。
また、本発明は、上記粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年安全衛生および環境問題に対する配慮から脱溶剤化が進行し、粘着剤においても溶剤型から水性型への移行が進行しつつある。しかし、水性粘着剤においては、特にポリエチレンテレフタレート(以下PETという)製や延伸ポリプロピレン(以下OPPという)製等のプラスチックフィルムを基材とする粘着剤塗工物とした場合、当該基材と粘着剤層間の密着性が不十分となりやすく、被着体に貼り付けた後にそれを剥がそうとした場合、通常「転着」と言われる現象を引き起こし、基材と粘着剤層との界面で剥離が生じてしまい、基材のみが引き剥がされて粘着剤は被着体上に残ってしまう。そのため貼り付け前の被着体表面を復元させるためには、表面に残存してしまった粘着剤を除去する手間が生じてしまう事となり、極めて作業効率を低下せしめる結果となる。このような現象は、被着体がガラスや金属等の無機材料である場合に特に起こりやすい。
なお基材に紙を用いた場合にはこの不具合は生じにくい。これは紙の構造が一般に多孔質であるため、粘着剤が塗布された際に粘着剤の一部が紙の内部に浸透しやすく、紙と粘着剤層の間の密着性が高まるためであると考えられる。一方でプラスチックフィルムを基材とする場合にはこのような効果を期待する事ができないため、プラスチックフィルム基材と粘着剤層間の密着性は不十分となりやすく、上記のような、被着体面上の糊残りが生じやすくなる。
【0003】
プラスチックフィルムを基材として用いた粘着剤塗工物は紙を基材に用いたものに比べて耐久性に優れ、また透明であるという特徴を有するため、その基材表面に図柄や文字を印刷し、あるいは全面が透明なままの状態にて、耐久性や透明性の要求される表示材や保護材用途に好んで用いられており、例えば説明書きや注意書き、識別記号などを表示するための表示ラベル、装飾用材料としてのシール、あるいは成型物や印刷物の表面に貼り合わせてそれらの表面を保護するための保護フィルム、さらには大きな形状を有する標識や看板などの表示材料用途等に広範に用いられている。しかし、上記のように水性粘着剤はプラスチックフィルム基材に対する密着性が十分に得られない事が一つの大きな原因となって、これらの用途における粘着剤の溶剤型から水性型への置き換えは速やかに進行していないのが現状である。
【0004】
この欠点を改善するため、従来より水性粘着剤を構成する主原料であるエチレン性不飽和単量体中のソフト成分の比率を増やし、重合物のガラス転移温度を低下させる事により粘着剤自身の接着性を高めてプラスチックフィルム基材への密着性を向上させることが試みられている。あるいは重合時に使用する重合開始剤量を増量したり、連鎖移動剤を添加したりして、得られる重合物の分子量を低下させる事により接着性を高めて、同様にプラスチックフィルム基材への密着性を向上させる試みがなされて来ている。
しかし、これらの手法を用いた場合、プラスチックフィルム基材への密着性は向上が見られるものの、粘着剤層の凝集力低下を招きやすくなり、通常「凝集破壊」と言われる現象を引き起こして、塗工物を被着体から剥がす時に粘着剤自身が、その層の途中で破断されながら剥離されて、剥離後の被着体側及び基材側の両方に粘着剤が残存してしまう事になる。
それゆえ、被着体面上に粘着剤が残存するという欠点は依然解消されていないのが現状である。
【0005】
またさらに、ロジン系樹脂やテルペン系樹脂等の粘着付与樹脂を粘着剤に添加し、接着力を高める所作も従来より広く採られて来ているが、被着体に対する接着力向上に関しては明瞭な効果を示すものの、プラスチックフィルム基材との密着性向上という点に関しては十分な効果が得られていないのが現状である。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、良好な接着力と凝集力を有し、かつプラスチックフィルム基材と粘着剤層間の密着性に優れており、被着体に貼り付けられた粘着剤塗工物を剥がす際に被着体面上への糊残りを生じない粘着剤組成物を形成し得る粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を提供する事である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体(A)を、数平均分子量が1000以下であるスチレン樹脂(B−1)及び/又はキシレン樹脂(B−2)の存在下にて、界面活性剤、重合開始剤、及び水を必須成分とする水性媒体中で重合してなる樹脂組成物であって、(A)100重量部中に(B−1)及び/又は(B−2)0.5〜5重量部をあらかじめ溶解又は分散せしめた後に重合してなる事を特徴とする粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体に関する。
また、第2の発明は、上記発明に記載の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を含有する事を特徴とする水性粘着剤組成物に関する。
【0008】
さらに、第3の発明は、粘着付与樹脂の水性分散体を含有する事を特徴とする上記発明の水性粘着剤組成物に関する。
【0009】
さらにまた、第4の発明は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体(A)を、数平均分子量が1000以下であるスチレン樹脂(B−1)及び/又はキシレン樹脂(B−2)の存在下にて、界面活性剤、重合開始剤、及び水を必須成分とする水性媒体中で重合してなる樹脂組成物の製造方法であって、(A)100重量部中に(B−1)及び/又は(B−2)0.5〜5重量部をあらかじめ溶解又は分散せしめた後に重合する事を特徴とする粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体は、良好な接着力と凝集力を有し、かつプラスチックフィルム基材と粘着剤層間の密着性に優れており、被着体に貼り付けられた粘着剤塗工物を剥がす際に被着体面上への糊残りを生じない粘着剤組成物を提供できる。そのためラベル用途等としての使用を目的として、粘着剤層との密着性の得られにくいプラスチックフィルム基材を用いた場合でも、粘着剤塗工物を被着体に貼り付けた後、目的とする期間が経過して当該塗工物を剥がして被着体表面を復元する必要が生じた場合でも、被着体面上に粘着剤を残存させる事なく塗工物を除去する事ができるため、被着体表面を汚染なく復元できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明に用いられるエチレン性不飽和単量体(A)としては、(a)アルキル基の炭素数が1〜14であるアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。(a)アルキル基の炭素数が1〜14であるアクリル酸アルキルエステルおよびメタクリル酸アルキルエステルとしては、メチル(メタ)アクリレート、[メチルアクリレートとメチルメタクリレートを併せてメチル(メタ)アクリレートと表記する。以下同様。]、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレートなどの直鎖または分岐脂肪族アルコールのアクリル酸エステル及び対応するメタクリル酸エステルなどが例示できる。なかでも、アルキル基の炭素数が4〜12の(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく用いられる。これらは、エチレン性不飽和単量体(A)100重量%中、70〜99.5重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いる事ができる。
【0012】
上記単量体(a)は、(b)カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体と共重合する事が好ましい。
(b)カルボキシル基を有するエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが例示できる。これらは、エチレン性不飽和単量体(A)100重量%中、0.5〜5重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いる事ができる。
【0013】
(a)、(b)以外の単量体としては、必要に応じて配合する架橋剤の種類に応じて、(c)アルコール性水酸基を有する共重合可能な(メタ)アクリル単量体や(d)カルボニル基を有する共重合可能な(メタ)アクリル単量体が用いられる。
(c)アルコール性水酸基を有する共重合可能なアクリル単量体としては、2−ヒドロキシルエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシルブチル(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらは、エチレン性不飽和単量体(A)100重量%中、0.5〜5重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いる事ができる。
(c)アルコール性水酸基を有する共重合可能なアクリル単量体を使用する場合に、粘着剤組成物を得る際に配合し得る架橋剤としては、イソシアネート化合物、チタンやジルコニウムなどの金属のアルコキシド化合物等が挙げられる。
【0014】
(d)カルボニル基を有する共重合可能なアクリル単量体としては、アクロレイン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、好ましくは4〜7個の炭素原子を有するビニルアルキルケトン(例えばビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルイソブチルケトンなど)、ジアセトン(メタ)アクリレート、アセトニル(メタ)アクリレート、アセトアセトキシエチル(メタ)アクリレート、ジアセトン(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート−アセチルアセテート、ブタンジオール−1,4−(メタ)アクリレート−アセチルアセテート等が例示できる。
これらは、エチレン性不飽和単量体(A)100重量%中、0.5〜5重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いる事ができる。
(d)カルボニル基を有する共重合可能なアクリル単量体を使用する場合に、粘着剤組成物を得る際に配合し得る架橋剤としては、アミン類、ヒドラジド化合物等が挙げられる。
【0015】
その他の単量体としては、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、モノ−(2−ヒドロキシルエチル−α−クロロ(メタ)アクリレート)アシッドホスフェート、ビニルブロックトイソシアネート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−メチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N−トリブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニルピロリドン、ビニルエステル、ビニルピリジン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、スチレン、(メタ)アクリロニトリル、ブタジエン、クロロプレンなどが例示できる。これらは必要に応じて、30重量%以下で含有することができ、単独であるいは2種類以上併用して用いる事ができる。
【0016】
さらに、本発明の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体中の分散粒子は、粒子内架橋構造を有していてもよい。
粒子内架橋剤としては、フタル酸のジアリルエステルや多官能アクリル系単量体等の各種多官能単量体を用いる事ができる。
フタル酸のジアリルエステルとしては、オルソフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸のジアリルエステルが、
また、多官能アクリル系単量体としては、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、1、6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングルコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどが例示できる。これらはエチレン性不飽和単量体(A)100重量%中、0.1〜3重量%含有され、単独であるいは2種類以上併用して用いる事もできる。
【0017】
本発明に用いられる数平均分子量が1000以下のスチレン樹脂(B−1)とはスチレンモノマーの重合体であり、そのような例としてはピコラスチックA5、ピコラスチックA75(イーストマンケミカルカンパニー製)等を例示する事ができる。
本発明に用いられる数平均分子量が1000以下のキシレン樹脂(B−2)とはメタキシレンとホルムアルデヒドの付加縮合オリゴマーを示し、メタキシレン核がメチレンおよびジメチレンエーテルまたはアセタール等により結合されてなる線状構造を有するものであり、構造中の一部がフェノール変性されていても良い。これらの具体例として、ニカノールLLL、ニカノールLL、ニカノールL、ニカノールH、ニカノールHH、ニカノールH−80、ニカノールM、ニカノールG、ニカノールHP−30(三菱ガス化学株式会社製)等を例示する事ができる。
これらはそれぞれ単独で、あるいは2種類以上を併用して使用する事ができる。
【0018】
本発明に使用するスチレン樹脂(B−1)及びキシレン樹脂(B−2)の数平均分子量は1000以下であり、好ましくは500以下である。数平均分子量が1000を超えると、目的とする塗工物の基材と粘着剤層間の密着性向上の効果が十分に得られなくなる。
またスチレン樹脂(B−1)及び/又はキシレン樹脂(B−2)の使用量は、エチレン性不飽和単量体(A)100重量部に対し0.5〜5重量部用いる事が好ましく、1〜4重量部用いる事がさらに好ましい。使用量が少ないと塗工物の基材と粘着剤層間の密着性が十分に得られず、使用量が多いとラジカル重合時の連鎖移動反応が顕著となり、重合物の凝集力の低下を引き起こすため好ましくない。
【0019】
本発明の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を得る際に用いる界面活性剤としては、反応性界面活性剤、非反応性界面活性剤などが、単独であるいは2種類以上併用して用いることができるが、耐水性などを考慮すれば、反応性界面活性剤を用いる方が好ましいのであるが、これに限定されるものではない。
【0020】
反応性界面活性剤としては以下の化合物を例示することができる。
アニオン系界面活性剤としてはノニルフェニル骨格の旭電化工業株式会社製「アデカリアソープSE−10N」、第一工業製薬株式会社製「アクアロンHS−10、HS−20」等、長鎖アルキル骨格の第一工業製薬株式会社製「アクアロンKH−05、KH−10」、旭電化工業株式会社製「アデカリアソープSR−10N」等、燐酸エステル骨格の日本化薬株式会社製「KAYARAD」等が例示できる。
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタン高級脂肪酸エステル類、グリセリン高級脂肪酸エステル類等の分子末端あるいは中間部に不飽和二重結合を有し、単量体と共重合するものであり、旭電化工業株式会社製「アデカリアソープNE−10」、第一工業製薬株式会社製「アクアロンRN−10、RN−20、RN−50」、日本乳化剤株式会社製「アントックスNA−16」等が例示できる。
【0021】
また非反応性界面活性剤としては、以下の化合物を例示する事ができる。
アニオン系界面活性剤としてはステアリン酸ナトリウム等の高級脂肪酸塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルアリールスルホン酸塩類、ラウリル硫酸ナトリウム等のアルキル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル塩類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル硫酸ナトリウム等のポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル硫酸エステル塩類等が例示できる。
ノニオン系界面活性剤としては、ポリオキシエチレンラウリルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタンモノステアレート等のソルビタン高級脂肪酸エステル類、オレイン酸モノグリセライド等のグリセリン高級脂肪酸エステル類等が例示できる。
【0022】
本発明に用いられる重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩またはアゾビス系カチオン塩または水酸基付加物質などの水溶性の熱分解型重合触媒、またはレドックス系重合触媒を用いることができる。レドックス系重合触媒としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物とロンガリット、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤との組み合わせ、または過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムとロンガリット、チオ硫酸ナトリウムなどの組み合わせ、過酸化水素水とアスコルビン酸の組み合わせなどが挙げられる。
【0023】
本発明の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体は、エチレン性不飽和単量体(A)を重合する際に、分子量や分子量分布を制御するための連鎖移動剤として、メルカプタン系、チオグリコール系、βメルカプトプロピオン酸などのチオール系化合物や、アリル水素を有するロジン系化合物やテルペン系化合物などを用いることができる。添加量は、エチレン性不飽和単量体(A)の総量100重量部に対して0.01〜10.0重量部であることが好ましく、0.1〜5重量部であることがより好ましい。
【0024】
次に、スチレン樹脂(B−1)及び/又はキシレン樹脂(B−2)をあらかじめエチレン性不飽和単量体(A)中に溶解又は分散せしめた後に重合する方法について説明する。
本発明に使用するエチレン性不飽和単量体(A)の1種類または2種類以上の混合物にスチレン樹脂(B−1)及び/又はキシレン樹脂(B−2)を加え、攪拌することにより溶解又は分散する。この際エチレン性不飽和単量体(A)の全量を用いなかった場合には溶解又は分散後に残りの成分を加え、さらに攪拌し均一な溶解液又は分散液とする。この溶解液又は分散液(C)はこのままで重合に供しても良いし、水および界面活性剤の一部又は全量を加えてパドル翼やプロペラ翼などで攪拌し、乳化液(D)とした後に重合に供しても良い。
これらの溶解液又は分散液(C)あるいは乳化液(D)を調製後、重合開始剤の存在下で重合をおこなうのであるが、その方法としては溶解液又は分散液(C)あるいは乳化液(D)を全量反応容器に仕込んで重合を開始しても良く、一部を反応容器に仕込んで重合を開始した後にさらに数回に分けて分割添加しても良く、一部を反応容器に仕込んで重合を開始した後に残りを滴下しても良く、あるいはあらかじめ水および必要に応じて界面活性剤の一部又は全量を反応容器に仕込んでおき、全量を滴下しても良い。溶解液又は分散液(C)を用いて重合する場合にはあらかじめ反応容器に界面活性剤の全量および水の一部又は全量を仕込んでおく事が好ましい。
【0025】
重合開始剤の添加方法としては、あらかじめ全量を反応容器に仕込んでおいても良く、昇温後に全量を添加しても良く、一部を反応容器に仕込んでおき重合を開始した後にさらに数回に分けて分割添加しても良く、一部を反応容器に仕込んでおき重合を開始した後に残りを滴下しても良く、あるいは全量を滴下しても良い。重合開始剤を分割添加又は滴下する場合には、単独で反応容器内に分割添加又は滴下しても良く、溶解液又は分散液(C)あるいは乳化液(D)と混合された状態にて分割添加または滴下されても良い。なおこれらの手法により重合開始剤を添加した後、反応率を高める目的で1回又は2回以上重合開始剤を追加添加しても良い。
【0026】
次に、本発明の粘着剤組成物について説明する。
本発明の粘着剤組成物は、上記粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を主たる成分とするものであり、この粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体に粘着力向上のために、適当な粘着付与樹脂、例えば、ロジン樹脂、フェノール樹脂、テルペン樹脂、アセチレン樹脂、石油系炭化水素樹脂、エチレン酢酸ビニル共重合体、合成ゴム、天然ゴム等を適当量さらに添加する事が好ましく、ロジン樹脂を添加することがより好ましい。添加方法としては特に限定されるものではないが、粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体との混和性を考慮すると、界面活性剤等を用いて粘着付与樹脂を水性媒体中に微粒子状に分散した、水性分散体の形態として添加する事が好ましい。
添加量としては、エチレン性不飽和単量体(A)の総量100重量部に対し、粘着付与樹脂の水性分散体の有効成分量が1〜50重量部である事が好ましく、5〜30重量部である事がさらに好ましい。添加量が少ないと粘着力向上効果があまり見られず、多すぎると粘着剤の凝集力が低下する傾向となるため好ましくない。
【0027】
さらに本発明の粘着剤組成物には、必要に応じて架橋剤、粘度調整剤、消泡剤、レベリング剤、可塑剤、充填剤、中和剤、着色剤、シランカップリング剤、防腐剤なども添加しても良い。
【0028】
本発明の粘着剤組成物を、コンマコーター、リバースコーター、スロットダイコーター、リップコーター、グラビアチャンバーコーター、カーテンコーター等の各種コーティング装置により、紙またはプラスチックフィルム基材、もしくは剥離性シート上に塗布し、乾燥することによって、粘着シート、粘着ラベル等の各種粘着塗工物を得ることができる。紙等に粘着剤組成物を塗布した後、80℃〜120℃で乾燥することが好ましい。乾燥温度が80℃以下では乾燥しにくく、乾燥に長時間を要する。他方、120℃よりも高温で乾燥すると、基材または剥離性シートの熱劣化を生じ、好ましくない。
紙またはプラスチックフィルム基材上に粘着剤組成物を塗布した場合は、乾燥後に剥離性シートと貼り合わせることにより、また剥離性シート上に粘着剤組成物を塗布した場合は、乾燥後に紙またはプラスチックフィルム基材と貼りあわせることにより、どちらの手法によっても各種粘着塗工物を得ることができる。
剥離性シートは、セパレーターとも称されるものであり、紙やプラスチックフィルムの少なくとも一方の面が剥離処理されてなるものである。剥離処理剤としては従来公知のものを用いることができる。
【実施例】
【0029】
以下に実施例によって本発明を説明するが、これに限定されるものではない。実施例中にある部とは重量部を、%とは重量%をそれぞれ示す。
(実施例−1)
2−エチルヘキシルアクリレート89.7部、メチルメタクリレート8部、アクリル酸2部、ジアセトンアクリルアミド0.3部の混合物中に、スチレン樹脂としてイーストマンケミカルカンパニー製「ピコラスチックA5」(数平均分子量:246)2部を加えて攪拌し、溶解した。これにさらに反応性アンモニア中和型アニオン性界面活性剤として第一工業製薬(株)製「アクアロンKH−10」2部を脱イオン水30.2部に溶解したものを加え、パドル翼を使用して300rpmで10分間攪拌し、平均粒子径が40μmである乳化物を得、これを滴下ロートに入れた。
撹拌機、冷却管、温度計および上記滴下ロートを取り付けた4つ口フラスコに、脱イオン水を43.9部、アクアロンKH−10を0.1部仕込み、フラスコ内部を窒素ガスで置換し、撹拌しながら内温を80℃まで昇温し、3%過硫酸カリウム水溶液を固形分として0.15部添加した。5分後、上記滴下ロートから上記乳化物の滴下を開始し、これと並行して3%過硫酸カリウム水溶液を固形分として0.45部を別の滴下口から3時間かけて滴下した。
内温を80℃に保ったまま、上記乳化物および3%過硫酸カリウム水溶液滴下終了30分後に、3%過硫酸カリウム水溶液を固形分として0.06部を2回に分けて30分おきに添加した。
さらに撹拌しながら80℃にて2時間熟成した後冷却し、アンモニア水にて中和し、平均粒子径210nm、固形分52%の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を得た。
【0030】
得られた粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体に、消泡剤、レベリング剤、防腐剤を加え、さらにアンモニア水でpH=7.5〜8に調整し、ロジン系粘着付与樹脂水性分散体として荒川化学(株)製「スーパーエステルE−720」(固形分50%)を固形分として15部、および架橋剤として6%アジピン酸ジヒドラジド水溶液を固形分として0.2部加え、さらに粘度調整剤で3000mPa・s(BL型粘度計、#4ローター使用、60rpmにて測定)に調整し、水性粘着剤組成物を得た。
これをコンマコーターで剥離紙上に乾燥塗膜量が20g/mになるように塗工し、100℃の乾燥オーブンで40秒間乾燥させ、厚さ50μmのPETフィルムとラミネートして巻き取り、粘着剤塗工物を得、後述する試験方法で、粘着塗工物としての性能を評価し、その結果を表1に示した。
【0031】
(実施例−2)
実施例−1において用いた「ピコラスチックA5」の代わりに、キシレン樹脂として三菱ガス化学株式会社製「ニカノールLLL」(数平均分子量:340)3部を用い、「スーパーエステルE−720」の代わりにロジン系粘着付与樹脂水性分散体として荒川化学(株)製「スーパーエステルE−650」(固形分50%)を固形分として15部用いた以外は実施例−1と同様にして固形分52%の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体及び粘着剤塗工物を得た。
【0032】
(実施例−3)
2−エチルヘキシルアクリレート41.7部、ブチルアクリレート50部、メチルメタクリレート6部、アクリル酸2部、ジアセトンアクリルアミド0.3部の混合物中に「ピコラスチックA5」3部を加えて攪拌し、溶解した。以下、実施例−1と同様にして固形分52%の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を得た。以下、「スーパーエステルE−720」を固形分として20部用いた以外は実施例−1と同様にして粘着剤塗工物を得た。
【0033】
(実施例−4)
実施例−3で得られた粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を使用して、「スーパーエステルE−720」の代わりにエチレン酢酸ビニル共重合体粘着付与樹脂水性分散体として住友化学(株)製「スミカフレックスS−921」(固形分60%)を固形分として20部用いた以外は実施例−3と同様にして粘着剤塗工物を得た。
【0034】
(実施例−5)
実施例−3において、「スーパーエステルE−720」を用いなかった以外は実施例−3と同様にして粘着剤塗工物を得た。
【0035】
(比較例−1)
実施例−1において、「ピコラスチックA5」を用いなかった以外は実施例−1と同様にして粘着剤用樹脂組成物水性分散体及び粘着剤塗工物を得た。
【0036】
(比較例−2)
実施例−1において、「ピコラスチックA5」2部の代わりに「ニカノールLLL」8部を用いた以外は実施例−1と同様にして粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体及び粘着剤塗工物を得た。
【0037】
(比較例−3)
実施例−1において、「ピコラスチックA5」2部の代わりにキシレン樹脂として三菱ガス化学株式会社製「ニカノールHP−100」(数平均分子量:1200)3部を用いた以外は実施例−1と同様にして粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体及び粘着剤塗工物を得た。
【0038】
[試験方法]
1)接着力
粘着剤塗工物を幅25mmの短冊状にカットして剥離紙を剥がし、表面を研磨した3cm×11cmのステンレス鋼板、およびガラス板に貼り付け2kgロールで1往復した後、23℃雰囲気下にて24時間放置した。所定時間経過後、23℃雰囲気下で300mm/分の速さで塗工物を180゜方向に剥離した際の接着強度を測定した。
【0039】
2)保持力
粘着剤塗工物を幅25mmの短冊状にカットして剥離紙を剥がし、表面を研磨した3cm×11cmのステンレス鋼板の長手方向の端部に貼り付け部分が25mm×25mmとなるように貼り付け、2kgロールで1往復した後、40℃雰囲気で塗工物に1kgの荷重をかけてずり応力を発生させ、最大7万秒放置し、落下するまでの時間または7万秒経過後の貼り付け位置のずれの距離を計測した。
【0040】
3)基材密着性
粘着剤塗工物の剥離紙を剥がして、粘着剤層にカッターにてクロスカットを施し、指にてクロスカット部を3回強くこすり、こすった箇所の粘着剤が基材から剥離したかどうかを目視にて観察した。
○・・・剥離なし。
△・・・一部剥離あり。
×・・・全面的に剥離。
【0041】
【表1】

【0042】
比較例−1に示されるように、本発明で特定するスチレン樹脂ないしはキシレン樹脂を使用しなかった場合、粘着剤層と基材との間の密着性が明らかに不足しており、接着力試験においては粘着剤層が基材から剥離して被着体上にすべて残存してしまう。また比較例−2に示されるように、本発明で特定するスチレン樹脂等を過量添加した場合、得られる粘着剤組成物の凝集力の低下が見られ、接着力試験においては粘着剤層の凝集破壊が発生し、同じく被着体上に粘着剤が残存してしまうのに加えて保持力も低下している。さらに比較例−3に示されるように、本発明で特定するスチレン樹脂等よりも分子量の大きい樹脂を使用した場合、基材への密着性はやや向上を示するものの未だ不十分であり、接着力試験においては部分的に粘着剤の転着が見られている。
【0043】
これに対し、実施例に示されるように、数平均分子量が1000以下であるスチレン樹脂(B−1)及び/又はキシレン樹脂(B−2)を少量エチレン性不飽和単量体(A)中に溶解又は分散せしめた後に重合してなる本発明の複合樹脂組成物の場合、粘着剤層と基材の間の密着性が著しく向上し、また粘着剤層の凝集力も高いため、被着体上に粘着剤が残存する事なく塗工物を剥離する事ができ、貼り付ける前の被着体の外観を粘着剤により汚染する事なく復元する事ができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体(A)を、数平均分子量が1000以下であるスチレン樹脂(B−1)及び/又はキシレン樹脂(B−2)の存在下にて、界面活性剤、重合開始剤、及び水を必須成分とする水性媒体中で重合してなる樹脂組成物であって、(A)100重量部中に(B−1)及び/又は(B−2)0.5〜5重量部をあらかじめ溶解又は分散せしめた後に重合してなる事を特徴とする粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体。
【請求項2】
請求項1記載の粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体を含有する事を特徴とする水性粘着剤組成物。
【請求項3】
粘着付与樹脂の水性分散体を含有する事を特徴とする請求項2記載の水性粘着剤組成物。
【請求項4】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和単量体(A)を、数平均分子量が1000以下であるスチレン樹脂(B−1)及び/又はキシレン樹脂(B−2)の存在下にて、界面活性剤、重合開始剤、及び水を必須成分とする水性媒体中で重合してなる樹脂組成物の製造方法であって、(A)100重量部中に(B−1)及び/又は(B−2)0.5〜5重量部をあらかじめ溶解又は分散せしめた後に重合する事を特徴とする粘着剤用複合樹脂組成物水性分散体の製造方法。

【公開番号】特開2006−8828(P2006−8828A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−187449(P2004−187449)
【出願日】平成16年6月25日(2004.6.25)
【出願人】(000222118)東洋インキ製造株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】