説明

粘着式ろ材および粘着式フィルタ

【課題】優れた捕集性能と難燃性とを有し、そのうえ、ダイオキシンやノニルフェノール等といった有害物質をフィルタ製造時や廃棄処理時に排出することがない粘着式ろ材および粘着式フィルタを得る。
【解決手段】 本発明にかかる粘着式ろ材1は、ろ材2および粘着剤3から構成される。粘着剤3には、水分散性のポリエーテルウレタン樹脂3a中にハロゲン元素を含まないリン酸エステル3bを分散した分散体を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気中の塵埃を除去するための粘着式ろ材および粘着式フィルタであって、特にたとえば、ろ材としての十分な難燃性と塵埃除去性能を備え、製造時や焼却廃棄処理時等に、環境ホルモン等の有害物質を排出することのない粘着式ろ材および粘着式フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、空気中の塵埃を除去するフィルタとして、不織布、織布等からなるろ材にエアフィルタ油などの粘着剤を付着させ、その粘着力を利用して塵埃を除去する粘着式フィルタが知られている。粘着式フィルタに使用する粘着剤には、粘性の高いもの多く使用されるが、その粘性の高さゆえろ材に均一に付着させることが困難である。粘着剤がろ材に不均一に付着された場合には、塵埃を捕集する性能が不均一になる。そのため、ろ材全体に亘って一定の塵埃捕集性能を確保するためには、多量の粘着剤を付着させる必要があった。しかし、粘着剤を多量に付着させた場合には、コストが嵩むうえ、その粘着力の高さゆえに、製造・保管時の取り扱いが困難となる問題が生じていた。その問題点を解消するために、粘着剤を界面活性剤によりエマルション化してその粘着力を一時的に低下させ、ろ材に均一に付着させる方法が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
粘着式フィルタは、使用する環境によっては、塵埃捕集性能に加え、難燃性が必要とされる。従来、難燃性を有する粘着剤には、ハロゲン元素を含むものが多く使用されてきた。これらの粘着剤を使用した場合には、焼却廃棄時にダイオキシン等の有害物質を排出されてしまう。これを避けるために、ハロゲン元素を含まないリン酸エステル系の難燃性を有する粘着剤を使用することが好ましい。しかし、リン酸エステル系の粘着剤は、粘着式フィルタの粘着剤として用いるには粘着力が乏しい。リン酸エステル系粘着剤の単独使用では、粘着式フィルタに十分な塵埃捕集性能を付与することが困難である。この問題点を解消するために、ポリブテンとリン酸エステルとで構成される粘着剤を特許文献1に開示されている方法によりろ材に付着させて、塵埃捕集性能と難燃性を備えた粘着式フィルタを得る方法が提案されている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平7−136429号公報
【特許文献2】特開2001−137627号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1や特許文献2に開示されている粘着式フィルタで使用される界面活性剤の原材料には、人間の内分泌に対して攪乱作用を有すると言われているノニルフェノールや4−オクチルフェノール等といった環境ホルモンが含まれている。そのため、これらの粘着式フィルタを製造する時や焼却廃棄する時には、周りの環境に上記の環境ホルモンや環境ホルモン誘導体を排出し環境を汚染する恐れがあった。
【0005】
それゆえに、この発明の主たる目的は、優れた捕集性能と難燃性とを有し、そのうえ、ダイオキシンやノニルフェノール等といった有害物質をフィルタ製造時や廃棄処理時に排出することがない粘着式ろ材および粘着式フィルタを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に記載の発明は、粘着剤が付着されたろ材であって、粘着剤がポリエーテルウレタン樹脂とハロゲン元素を含まないリン酸エステルとを混合したものからなることを特徴とする粘着式ろ材である。この場合には、ろ材本体に粘着剤を均一に付着させることができる。これにより、ろ材は、全面に亘って均一な粘着力を発揮することができる。また、ろ材を構成する材料にハロゲン含有の材料や界面活性剤を含まないので、製造時または焼却廃棄時にもダイオキシンやノニルフェノール等といった有害物質を製造時や廃棄処理時に排出することがない。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の粘着式ろ材を使用した粘着式フィルタである。この場合には、ろ材が高い粘着性能と難燃性能とを有するから、十分な難燃性と高い塵埃捕集率及び粉塵保持容量を有する。また製造時または焼却廃棄時にもダイオキシンやノニルフェノール等といった有害物質をフィルタ製造時や廃棄処理時に排出することがない。
【発明の効果】
【0008】
本発明にかかる粘着式ろ材および粘着式フィルタによれば、優れた捕集性能と難燃性とを有し、そのうえ、ダイオキシンやノニルフェノール等といった有害物質をフィルタ製造時や廃棄処理時に排出することがない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照しながら説明を行う。なお、図1は、本発明にかかるろ材の一実施の形態を示す断面図解図である。
【0010】
本発明にかかる粘着式ろ材1は、図1に示すように、ろ材本体2に粘着剤3を均一に付着してなるものである。
【0011】
ろ材本体2としては、不織布、織布、編物などの焼却処理が容易なものを用いることができる。さらにこれらの中でも、塵埃を効率的に捕集できる点で、不織布が用いるのが好ましい。ろ材本体2の材質としては、焼却時にハロゲンガスを発生しないハロゲン元素を含まない熱可塑性樹脂を用いることができる。具体的なものとしては、ハロゲン元素を含まないポリエステル樹脂、ポリアクリル酸エステル系樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、エチレン酢酸ビニル樹脂の内から1種を単独で、またはこれらの中から2種以上混合又は別々に加工したものが使用することができる。さらにこれらの中でも、繊維ウェブ形成の容易性、繊維間結合力の向上を考慮した場合には、熱融着性のポリエステル繊維や、鞘部分に熱融着性のポリエステル樹脂が用いられている芯鞘構造の複合繊維が用いられるのが好ましい。なお、ポリエステル繊維以外のものを使用する場合には、適当量の熱融着性ポリエステル繊維を混合すると好適である。なお、ろ材本体2で、所望する強度が得られない場合には、樹脂等からなるネットを複合化させてもよい。
【0012】
粘着剤3には、ポリエーテルウレタン樹脂3aとリン酸エステル3bとから構成されている。ポリエーテルウレタン樹脂3aとしては、界面活性剤を含まない自己分散性ポリエーテルウレタン樹脂エマルションが使用され、具体的には、ポリオキシエチレングリコールやポリプレピレングリコール等のポリエーテル系ポリオールおよび分子中に1つ以上のカルボン酸を含有するポリオールとヘキサメチレンジイソシアネート等のポリイソシアネートとを常法により重合して得られるものを用いることができる。リン酸エステル3bには、難燃性を考慮してリン含有量が少なくとも5%以上、好ましくは5〜20%の範囲のものを用いるのが好ましい。具体的には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリスイソプロピルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、クレジルジ2.6−キシレニルホスフェート、レゾルシノールジホスフェート、含リンポリオール等が挙げられるが、製造ラインでの加工性、加工後の粘着発現性、粒子捕集性を考慮すると、含リンポリオールが好適である。
【0013】
なお、ポリエーテルウレタン樹脂3aとリン酸エステル3bとの比率は、ポリエーテルウレタン樹脂:リン酸系難燃剤=100:2〜100:20(重量比)に混合されるのが好ましい。さらに、ろ材本体2に求められる粘着性と難燃性を考慮すると、ポリエーテルウレタン樹脂:リン酸エステル=100:5〜100:15(重量比)に混合されるのが好ましい。上記の比率に混合されたポリエーテルウレタン樹脂3aとリン酸エステル3bとは、水に混ぜいれられ、強制分散された状態において、ろ材本体2に均一に付着され、粘着剤3として機能する。
【0014】
上述したように、本発明にかかる粘着式ろ材1では、粘着剤としてポリエーテルウレタン樹脂3a中にリン酸エステル3bを分散させた粘着剤とを使用したことにより、粘着剤3がろ材本体2に均一に付着させることができる。これにより、粘着式ろ材1は、全面に亘って均一な粘着力を発揮することができ、結果、十分な塵埃捕集性能と難燃性を備えた粘着式ろ材1を安定して得ることができる。また、粘着式ろ材を構成する材料にハロゲン含有の材料や界面活性剤を含まないので、製造時または焼却廃棄時にもダイオキシンやノニルフェノール等といった有害物質を製造時や廃棄処理時に排出することがない。
【0015】
なお、本発明にかかる粘着式ろ材1は、シート状に成形して金属、合成樹脂等所要の材質から成る枠体に装着して粘着式フィルタとして使用することができる。また、粘着式ろ材1をロール状に成形してスプールにセットして、一端を巻取りスプールに巻き取るように装着して、自動巻取形エアフィルタと使用することができる。この場合には、粘着式ろ材1が高い粘着性能と難燃性能とを有するから、十分な難燃性と高い塵埃捕集率及び粉塵保持容量を有する粘着式フィルタを得ることができる。また製造時または焼却廃棄時にもダイオキシンやノニルフェノール等といった有害物質をフィルタ製造時や廃棄処理時に排出することがない。
【実施例】
【0016】
以下、実施例に基づき本発明を詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
(実施例)
まず、低融点のポリエステル樹脂を鞘部分に配したポリエステル樹脂からなる芯鞘構造の複合型熱融着性ポリエステル繊維70%と、中空子ポリエステル繊維30%とを混合して繊維ウェブを形成した。さらに、上記繊維ウェブをポリエステル製のネットと複合化したうえ熱処理を施し、繊維重量250g/m2、シート重量275g/m2のろ材本体2を作製する。なお、ろ材本体2のシート重量は、所望のろ過性能に応じて調整されればよい。
【0017】
次に、水分散性のポリエーテルウレタン樹脂3aとリン酸エステル3bとを9対1の割合で混合し、水に強制分散させた水系強制分散体を粘着剤3としてろ材本体2に含浸加工により付着させた。粘着剤3の付着量は、乾燥状態で40g/m2となるようにローラによる絞りにより調整した。なお、粘着剤3の付着量は、30g/m2から60g/m2の範囲で付着されるのが好ましい。その理由は、30g/m2以下であると、所望のろ過性能と難燃性を付与することができず、60g/m2を超えると粘着剤3の粘着力による粘着式ろ材1同士のひっつきが発生するためである。
(比較例)
ろ材には、実施例で用いた本体1を使用した。そのろ材に、ハロゲン系の難燃性粘着剤である塩素化パラフィン100%を付着量約80g/m2 になるように含浸加工して比較例1を作製した。
【0018】
次に、実施例と比較例1とを用いて、JIS−L−1091のA−1法(45°ミクロバーナ法)による燃焼性試験を行った。また、実施例と比較例1をシート状に成形して枠体に装着したエアフィルタを用いて、ろ過性能試験(風速2.5m/s)を行い、JIS−B−9908形式3(重量法)により測定した。その結果を表1に示す。
【0019】
【表1】

【0020】
表1に示す結果から明らかなように、実施例は、燃焼性の区分3に該当し、フィルタ業界においてろ材の難燃性能の基準として通常使用されている消防法施行規則第4条の3(防炎性能の基準の数値等)第3項、7項に規定されている、残炎時間3秒以下、残じん時間5秒以下、炭化面積30cm2以下、接炎回数3回以上を十分にクリアした。また、実施例を比較例1と比較すると、初期圧損と平均捕集率とは略同等の性能であり、粉塵保持容量については約10%増加していた。このことから、粘着剤3が高い粘着性能を有することが確認できた。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明にかかる粘着式ろ材の一実施の形態を示す図解図である。
【符号の説明】
【0022】
1 粘着式ろ材
2 ろ材本体
3 粘着剤
3a ポリエーテルウレタン樹脂
3b リン酸エステル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘着剤が付着されたろ材であって、
前記粘着剤が、ポリエーテルウレタン樹脂とハロゲン元素を含まないリン酸エステルとを混合したものからなることを特徴とする粘着式ろ材。
【請求項2】
請求項1に記載の粘着式ろ材を使用した粘着式フィルタ。


【図1】
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【公開番号】特開2006−122738(P2006−122738A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−310761(P2004−310761)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000163774)金井重要工業株式会社 (12)
【出願人】(390029458)一方社油脂工業株式会社 (30)
【Fターム(参考)】