説明

粘着性無端搬送ベルト、及びそれを用いた搬送装置

【課題】布帛など、搬送時に変形の生じやすい物を搬送する際に、無端搬送ベルト上に粘着剤を付与することで得られた粘着性無端搬送ベルトを用いる搬送手段において、前記粘着搬送ベルトが時間の経過で変形し、所望の精密搬送が不可能になることを抑制することができる粘着性搬送ベルトを提供する。
【解決手段】 基材を持たない粘着転写テープの粘着層を、無端搬送ベルトの搬送面に貼り付けることで粘着層を設けた画像記録装置の被記録媒体搬送に用いる粘着性無端搬送ベルトであって、粘着層を2層以上積層し、粘着層の貼り付け方向が少なくとも2つの粘着層で異なっており、前記2つの粘着層の貼り付け方向が交差する角度の最大値θmaxが30度以上150度以下であることを特徴とする粘着性無端搬送ベルト。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、粘着性無端搬送ベルト、及び搬送装置に関するもので、精密な搬送が必要になる記録装置において重要な技術である。特に、搬送時に変形の生じやすい布帛に対し、インクを吐出してこれを捺染するためのインクジェットプリンターの搬送部に適用するに好適な、粘着性無端搬送ベルト及びそれを用いた搬送装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、布帛のように、搬送時に不均一な変形をしやすい媒体を、変形を起こさずに搬送するために、粘着性搬送ベルトが用いられている。
【0003】
前記粘着性搬送ベルトとして、地貼り剤と呼ばれる粘着剤の有機溶媒溶液を搬送ベルト上に塗布し、粘着ベルトとすることが提案されている(特許文献1参照)。しかしながら、塗布には有機溶剤を用いるため、安全性及び作業者の健康上の問題がある。更には、繰り返し使用することで粘着力が低下した際には再度地貼り剤を塗り直す必要があり、有機溶剤を用いて粘着剤を一度掻き取った後に再度塗布をするという煩わしさがあった。
【0004】
上記のような煩わしさを解消する目的で、前記粘着性搬送ベルトとして無端ベルトの表面に両面粘着テープを付与することが提案されている(特許文献2参照)。
【0005】
しかしながら、インクジェットプリンター等の精密記録装置の搬送手段として粘着テープを用いる際には、時間の経過に伴う粘着搬送ベルトの変形が問題となった。具体的には、変形が小さい場合でも、画像にズレが生じ得られる記録物が価値のないものになってしまい、変形が大きい場合では、搬送ベルトの粘着面がインクジェットヘッド等の記録装置に接触し、装置を破壊してしまうことがあった。
【0006】
これまでも同様の現象は、粘着テープの長期保存において、テープが筍状に変形することなどに見られていた。しかし、一般的に粘着テープを使用する分野では精密な加工を必要としないため、内部応力によるテープの変形は実用上の問題とはなっていなかった。
【特許文献1】特開昭57−29676号公報
【特許文献2】特開2000−198970号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、布帛など、搬送時に変形の生じやすい物を搬送する際に、無端搬送ベルト上に粘着剤を付与することで得られた粘着性無端搬送ベルトを用いる搬送手段において、前記粘着搬送ベルトが時間の経過で変形し、所望の精密搬送が不可能になることを抑制することができる粘着性搬送ベルトを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0009】
(請求項1)
基材を持たない粘着転写テープの粘着層を、無端搬送ベルトの搬送面に貼り付けることにより粘着層を設けた画像記録装置の被記録媒体搬送に用いる粘着性無端搬送ベルトであって、粘着層を2層以上積層し、粘着層の貼り付け方向が少なくとも2つの粘着層で異なっており、前記2つの粘着層の貼り付け方向が交差する角度の最大値θmaxが30度以上150度以下であることを特徴とする粘着性無端搬送ベルト。
【0010】
(請求項2)
前記無端搬送ベルトのヤング率をE、膜厚をdとしたとき、Edが1×107N/m以上6×107N/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の粘着性無端搬送ベルト。
【0011】
(請求項3)
請求項1または2に記載の粘着性無端搬送ベルトを用いることを特徴とする搬送装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、時間の経過により変形したり、所望の精密搬送が不可能になることを抑制することができるため、布帛など搬送時に変形しやすい物の搬送において精密搬送が可能な粘着性無端搬送ベルト及びそれを用いた搬送装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。
【0014】
最初に、本発明によって粘着搬送部材の経時変形が抑制される理由を、推測であるが以下に説明する。
【0015】
一般的に粘着テープは、基材上に硬化性の樹脂をドクターブレード等で薄膜塗布し、更に120〜160℃程度の高温で3〜60秒程度加熱されて製造されるため、1)硬化性樹脂の塗布時に蓄えられる内部応力と、2)硬化時に蓄えられる内部応力を持っている。
【0016】
基材無し粘着テープ製造の全体像を説明すると、図1に示すように、まず、離型性を持つ剥離体(以下剥離体と称する)1が巻き出され、剥離体1にドクターブレード5によって粘着剤塗布液4が塗布される。加熱装置6によって塗布液の乾燥、硬化が行われ、所望の粘着層が得られる。続いて、剥離体2が巻き出され、貼り付けローラ7によって成膜した粘着層に剥離体2を貼り付けることで、基材無し粘着テープ3が作製できる。
【0017】
硬化性樹脂の塗布時に蓄えられる内部応力は、塗布時の粘着剤の配向によって起こると考えられる。
【0018】
この粘着剤の配向について、図2を用いて説明する。
【0019】
粘着剤の塗布液11は流動性を持っており、未架橋の粘着剤12は塗布液中で安定した形状になっている。しかし、高速で移動する剥離体14上に塗布される際に、粘着剤13のように剥離体14の搬送方向に伸びる力を受ける。これにより、粘着剤12は剥離体14の搬送方向に伸ばされ、粘着剤15の様に基材の搬送方向に配列する。続いて、即座に加熱や紫外線等で架橋が行われ、粘着剤15が剥離体14の搬送方向に配列したままの状態で、剥離体14上に固定される。
【0020】
次に、硬化性樹脂の硬化時に蓄えられる内部応力について、図3を用いて説明する。
【0021】
粘着層は、剥離体23上に塗布液22を付与した後、加熱や紫外線等で粘着剤21が架橋し、成膜する。剥離体23は加熱等で架橋性を持たない。一方、粘着層は加熱等で架橋するため粘着層側に縮む力が蓄えられる。硬化時には図1に示すように、粘着層の片側だけ剥離体23が付いているので、剥離体23に接触している面の方が縮みにくく、粘着層の表裏面で蓄えられる内部応力が変わる。
【0022】
前記粘着層は、粘性体であるため、上記2種類の内部応力は、時間をかけて徐々に解放される。この内部応力の解放に伴い、粘着搬送ベルトは変形を起こす。
【0023】
《基材無し粘着テープの説明》
[テープの構成]
次に、基材無し粘着テープの構成を、図4を用いて説明する。粘着層32が、剥離体31に挟まれた状態で形成されている。
【0024】
[テープに用いられる粘着剤の説明]
粘着層に用いられる粘着剤としては、例えば、ゴム系粘着剤、アクリル系粘着剤、ゴム系粘着剤、ウレタン系粘着剤、シリコーン系粘着剤、紫外線硬化型粘着剤などを挙げることができる。
【0025】
アクリル系粘着剤としては、(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体または他の共重合性モノマーとの共重合体が用いられる。更に、これらの共重合体を構成するモノマーもしくは共重合性モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸のアルキルエステル(例えば、メチルエステル、エチルエステル、ブチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、オクチルエステル、イソノニルエステル等)、(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル(例えば、ヒドロキシエチルエステル、ヒドロキシブチルエステル、ヒドロキシヘキシルエステル)、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、無水マレイン酸、(メタ)アクリル酸アミド、(メタ)アクリル酸N−ヒドロキシメチルアミド、(メタ)アクリル酸アルキルアミノアルキルエステル(例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート、t−ブチルアミノエチルメタクリレート等)、酢酸ビニル、スチレン、アクリロニトリルなどが挙げられる。主要成分のモノマーとしては、通常、ホモポリマーのガラス転移点が−50℃以下のアクリル酸アルキルエステルが使用される。
【0026】
上記アクリル系重合体は、通常のラジカル重合で合成される。合成方法には何等制限はなく、溶液重合、塊状重合、乳化重合などの公知の重合法で行なうことができるが、反応のコントロールが容易であることや直接次の操作に移れることから溶液重合が好ましい。この場合、重合時の溶媒としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、セロソルブ、酢酸エチル、酢酸ブチルなど、重合によって生成するアクリル系樹脂を溶解し得るものであれば何でもよく、単独でも、複数の溶媒を混合してもよい。また、重合反応の際に使用される重合開始剤もベンゾイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリルなどのアゾ系開始剤など公知のものであれば何でもよく、特に制限はない。
【0027】
アクリル系粘着剤の硬化剤としては、イソシアネート系、エポキシ系、アリジリン系硬化剤が利用できる。例えば、イソシアネート系硬化剤では、経時後も安定した粘着力を得ることと、より硬い粘着層とする目的で、トルイレンジイソシアネート(TDI)等の芳香族系のタイプを好ましく用いることができる。更にこの粘着剤には、添加剤として、例えば安定剤、紫外線吸収剤、難燃剤、帯電防止剤を含有させることもできる。
【0028】
また、再剥離性を持たせるため、もしくは、粘着力を低く安定に維持するために、それらの成分が相手基材に移行しない程度に、ワックス等の有機樹脂、シリコーン、フッ素等の低表面エネルギーを有する成分を添加しても良い。例えば、ワックス等の有機樹脂では、高級脂肪酸エステルや低分子のフタル酸エステルを用いても良い。
【0029】
ゴム系粘着剤としては、ポリイソブチレンゴム、ブチルゴムとこれらの混合物、或いは、これらゴム系粘着剤にアビエチン酸ロジンエステル、テルペン・フェノール共重合体、テルペン・インデン共重合体などの粘着付与剤を配合したものが用いられる。
【0030】
ゴム系粘着剤のベースポリマーとしては、たとえば、天然ゴム、イソプレン系ゴム、スチレン−ブタジエン系ゴム、再生ゴム、ポリイソブチレン系ゴム、さらにはスチレン−イソプレン−スチレン系ゴム、スチレン−ブタジエン−スチレン系ゴム等があげられる。
【0031】
中でも、ブロックゴム系粘着剤は、一般式A−B−Aで表されるブロック共重合体や一般式A−Bで表されるブロック共重合体(但し、Aはスチレン系重合体ブロック、Bはブタジエン重合体ブロック、イソプレン重合体ブロック、またはそれらを水素添加して得られるオレフィン重合体ブロックであり、以下において「スチレン系熱可塑性エラストマー」という)を主体に、粘着付与樹脂、軟化剤などが配合された組成物が挙げられる。上記ブロックゴム系粘着剤において、スチレン系重合体ブロックAは平均分子量が4,000〜120,000程度のものが好ましく、更に10,000〜60,000程度のものがより好ましい。そのガラス転移温度は15℃以上のものが好ましい。又、ブタジエン重合体ブロック、イソプレン重合体ブロックまたはこれらを水素添加して得られるオレフィン重合体ブロックBは、平均分子量が30,000〜400,000程度のものが好ましく、更に60,000〜200,000程度のものがより好ましい。そのガラス転移温度は−15℃以下のものが好ましい。上記A成分とB成分との好ましい質量比はA/B=5/95〜50/50であり、さらに好ましくはA/B=10/90〜30/70である。A/Bの値が、50/50を超えると常温においてポリマーのゴム弾性が小さくなり、粘着性が発現しにくくなり、5/95未満ではスチレンドメインが疎になり、凝集力が不足し、所望の接着力が得られないばかりか、剥離時に接着層がちぎれてしまう等の不具合が見られる。
【0032】
更に、上記粘着剤に、ポリオレフィン系樹脂を添加することにより、剥離紙もしくは剥離フィルムからの離型性を向上することができる。このポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、エチレン−αオレフィン共重合体、プロピレン−αオレフィン共重合体、エチレン−エチルアクリレート共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−メチルメタクリレート共重合体、エチレン−n−ブチルアクリレート共重合体及びこれらの混合物が挙げられる。
【0033】
このポリオレフィン系樹脂は、低分子量分が少ないことが好ましく、具体的には、n−ペンタンによる沸点乾留で抽出される低分子量分が1.0質量%未満であることが好ましい。低分子量分が1.0質量%を超えて存在すると、この低分子量分が温度変化や経時変化に応じて、粘着特性に悪影響を及ぼし、粘着力を低下させるからである。
【0034】
また、その配合量は、上記ポリイソブチレン系エラストマー乃至スチレン系熱可塑性エラストマー100質量部に対し、100質量部以下程度が好ましく、より好ましくは10〜50質量部である。配合量が50質量部を超えると粘着剤の粘着性の発現を阻害する。
【0035】
また、上記粘着剤には、シリコーンオイルを添加することにより、ポリビニルアルコールを主成分とする塗膜が設けられた自背面との親和性を更に低下せしめることができる。このシリコーンオイルはポリアルコキシシロキサン鎖を主鎖にもつ高分子化合物で、粘着剤層の疎水性を高め、更に接着界面、即ち、粘着剤層表面にブリードするため、粘着剤の接着力を抑制し、接着昂進現象が起き難くする働きがある。シリコーンオイルの分子量は、1,000〜100,000程度が好ましく、更に好ましくは、10,000〜50,000である。分子量が100,000を超えると、ポリイソブチレン系エラストマー乃至スチレン系熱可塑性エラストマーとの相溶性が不足し、分離もしくは白濁を起こし、粘着力に許容しがたいムラが生じる、1,000未満では、接着界面への低分子量成分のブリードが多くなり、粘着力が大幅に低下する。又、その配合量は、上記ポリイソブチレン系エラストマー乃至スチレン系熱可塑性エラストマー100質量部に対し、2質量部以下程度が好ましく、より好ましくは1質量部以下である。配合量が2質量部を超えると粘着剤の所望の粘着力が得られない。
【0036】
また、上記粘着剤には、上記シリコーンオイルに替えて、高級アルキル基を導入したポリエチレンイミンを用いても同様の効果が得られる。上記高級アルキル基を導入したポリエチレンイミンは、高級アルキル基の導入によって、疎水性となったポリマーであり、その分子量は、1,000〜40,000程度のものが好ましい。又、アルキル基は、ポリエチレンイミンのイミノ基に対し、0.5〜1.0当量、好ましくは、0.7〜1.0当量結合しているものが好ましく、高級アルキル基としては、炭素数12以上のアルキル基が好ましく、特に、オクタデシル基が好適に使用される。ポリエチレンイミンに高級アルキル基を導入するには、例えば、ポリエチレンイミンに過剰の高級アルキルイソシアネートを加え、加熱、攪拌下に、付加反応を行う方法が採られる。
【0037】
高級アルキル基を導入したポリエチレンイミンの配合量は、上記ポリイソブチレン系エラストマー乃至スチレン系熱可塑性エラストマー100質量部に対し、5質量部以下程度であり、好ましくは3質量部以下である。高級アルキル基を導入したポリエチレンイミンの配合量が5質量部を超えると、粘着剤層の表面に多量にブリードアウトして、被着体が汚染される。
【0038】
本発明で使用される粘着付与樹脂は、上記ポリイソブチレン系エラストマー乃至スチレン系熱可塑性エラストマーと選択的に相溶するものであれば任意に選ばれる。例えば、脂肪族系石油樹脂、テルペン樹脂、クマロン・インデン樹脂、芳香族系石油樹脂、ロジン樹脂、脂環族系石油樹脂等が好適に用いられる。粘着付与樹脂の配合量は、上記ポリイソブチレン系エラストマー乃至スチレン系熱可塑性エラストマー100質量部に対し、10〜200質量部であり、好ましくは、20〜150質量部であり、更に好ましくは、30〜100質量部である。その配合量が10質量部未満では、粘着性が発現され難く、逆に、200質量部を超えると、凝集力が小さくなり、被着体に糊残りする。
【0039】
本発明における粘着剤には、上記の他、必要に応じて、酸化防止剤などの安定剤が添加されてもよく、例えば、酸化防止剤である「イルガノクス1010」(チバガイギー社製)は熱劣化に対して効果がある。
【0040】
本発明では上記ゴム系粘着剤に、架橋剤を添加し架橋することで粘着層とする。架橋剤としては、例えば、天然ゴム系粘着剤の架橋には、イオウと加硫助剤および加硫促進剤(代表的なものとして、ジブチルチオカーバメイト亜鉛など)が使用される。天然ゴムおよびカルボン酸共重合ポリイソプレンを原料とした粘着剤を室温で架橋可能な架橋剤として、ポリイソシアネート類が使用される。ブチルゴムおよび天然ゴムなどの架橋剤に耐熱性と非汚染性の特色がある架橋剤として、ポリアルキルフェノール樹脂類が使用される。ブタジエンゴム、スチレンブタジエンゴムおよび天然ゴムを原料とした粘着剤の架橋に有機過酸化物、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどがあり、非汚染性の粘着剤が得られる。架橋助剤として、多官能メタクリルエステル類を使用する。その他紫外線架橋、電子線架橋などの架橋による粘着剤の形成がある。
【0041】
シリコーン系粘着剤としては付加反応硬化型シリコーン粘着剤と縮重合硬化型シリコーン粘着剤があるが、本発明では付加反応硬化型が好ましく用いられる。
【0042】
付加反応硬化型シリコーン粘着剤組成物の組成としては、次のものが好適に用いられる。
(A)1分子中に2個以上のアルケニル基を有するポリジオルガノシロキサン
(B)SiH基を含有するポリオルガノシロキサン
(C)制御剤
(D)白金触媒
(E)導電性微粒子
ここで、(A)成分は、1分子中に2個以上のアルケニル基を有するポリジオルガノシロキサンであり、このようなアルケニル基含有ポリジオルガノシロキサンとしては、下記一般式(1)で示されるものが例示できる。
【0043】
一般式(1)
(3-a)aSiO−(RXSiO)m−(R2SiO)n−(RXSiO)p−R(3-a)XaSiO
一般式(1)において、Rは炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、Xはアルケニル基含有の有機基である。aは0〜3の整数で1が好ましく、mは0以上であるが、a=0の場合、mは2以上であり、m及びnは、それぞれ100≦m+n≦20,000を満足する数であり、pは2以上である。
【0044】
Rは炭素数1〜10の1価炭化水素基であり、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などのアルキル基、シクロヘキシル基などのシクロアルキル基、フェニル基、トリル基などのアリール基などが挙げられるが、特にメチル基、フェニル基が好ましい。
【0045】
Xはアルケニル基含有の有機基で炭素数2〜10のものが好ましく、具体的にはビニル基、アリル基、ヘキセニル基、オクテニル基、アクリロイルプロピル基、アクリロイルメチル基、メタクリロイルプロピル基、シクロヘキセニルエチル基、ビニルオキシプロピル基等が挙げられるが、特にビニル基、ヘキセニル基などが好ましい。
【0046】
このポリジオルガノシロキサンの性状は、オイル状、生ゴム状であればよく、(A)成分の粘度は、25℃において100mPa・s以上、特に1,000mPa・s以上が好ましい。なお、上限としては、特に限定されないが、他成分との混合の容易さから、重合度が20,000以下となるように選定することが好ましい。また、(A)成分は1種を単独で用いても良いし、2種以上を併用してもよい。
【0047】
(B)成分は架橋剤で、1分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個、好ましくは3個以上有するオルガノヒドロポリシロキサンで、直鎖状、分岐状、環状のものなどを使用することができる。
【0048】
(B)成分としては、下記一般式(2)で表される化合物を挙げることができるが、これらのものには限定されない。
【0049】
一般式(2)
b1(3-b)SiO−(HR1SiO)x−(R12SiO)y−SiR1(3-b)b
一般式(2)において、R1は炭素数1〜6の脂肪族不飽和結合を含有しない1価炭化水素基である。bは0〜3の整数、x、yはそれぞれ整数であり、このオルガノヒドロポリシロキサンの25℃における粘度が1〜5,000mPa・sとなる数を示す。
【0050】
このオルガノヒドロポリシロキサンの25℃における粘度は、1〜5,000mPa・s、特に5〜1000mPa・sであることが好ましく、また2種以上の混合物でもよい。
【0051】
付加反応による架橋は(A)成分と架橋剤の(B)成分の間に発生し、硬化後の粘着剤層のゲル分率は架橋成分の割合によって決まる。
【0052】
(B)成分の使用量は、(A)成分中のアルケニル基に対する(B)成分中のSiH基のモル比が0.5〜20、特に0.8〜15の範囲となるように配合することが好ましい。0.5未満では架橋密度が低くなり、これにともない保持力が低くなることがある。一方で、20を越えると粘着力及びタックが低下したり、処理液の使用可能時間が短くなる場合がある。
【0053】
また、耐熱保持力などの耐熱性や溶剤浸透抑制などの耐溶媒性を向上させるためには、組成物中の架橋成分の割合を増やせばよいが、過剰に増やすと粘着力の低下や膜の柔軟性が低下するなどの影響が発生する場合がある。このような点から、(A),(B)成分の配合質量比は20/80〜80/20とすればよく、特に45/55〜70/30とすることが好ましい。(A)成分の配合割合が20/80より少ないと、粘着力、タックなどの粘着特性が低下することがあり、また、80/20より多いと十分な耐熱性が得られない。
【0054】
(C)成分は付加反応制御剤であり、シリコーン粘着剤組成物を調合し、基材に塗工する際、加熱硬化の以前に処理液が増粘やゲル化をおこさないようにするために添加するものである。
【0055】
(C)成分の具体例としては、
3−メチル−1−ブチン−3−オール、
3−メチル−1−ペンチン−3−オール、
3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、
1−エチニルシクロヘキサノール、
3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ブチン、
3−メチル−3−トリメチルシロキシ−1−ペンチン、
3,5−ジメチル−3−トリメチルシロキシ−1−ヘキシン、
1−エチニル−1−トリメチルシロキシシクロヘキサン、
ビス(2,2−ジメチル−3−ブチノキシ)ジメチルシラン、
1,3,5,7−テトラメチル−1,3,5,7−テトラビニルシクロテトラシロキサン、
1,1,3,3−テトラメチル−1,3−ジビニルジシロキサン
などが挙げられる。
【0056】
(C)成分の配合量は、(A),(B)成分の合計100質量部に対して0〜5.0質量部の範囲であることが好ましく、特に0.05〜2.0質量部が好ましい。5.0質量部を越えると硬化性が低下することがある。
【0057】
(D)成分は白金系触媒であり、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物などがあげられる。
【0058】
(D)成分の添加量は、(A),(B)成分の合計に対し、白金分として1〜5,000ppm、特に5〜2,000ppmとすることが好ましい。1ppm未満では硬化性が低下し、架橋密度が低くなり、保持力が低下することがあり、5,000ppmを越えると処理浴の使用可能時間が短くなる場合がある。
【0059】
上記の付加反応硬化型シリコーン粘着剤に,帯電防止等の目的で(E)成分の導電性微粒子を添加してもよい。具体的には,銀粉、銅粉、金粉、ニッケル粉、アルミニウム粉、鉄粉、はんだ粉等の金属粉、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、フラーレン、ポリアセチレンなどの導電性樹脂、さらに中空ガラスビーズ、シリカ、酸化チタン等の無機粒子やポリアクリレート、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の樹脂粒子の表面を金属メッキした銀メッキシリカ、金メッキシリカ、金メッキガラスビーズ、銀メッキポリアクリレート微粒子などの導電化粒子があげられる。その中でも銀粉、銅粉、カーボンブラック、金メッキシリカ、銀メッキシリカが好ましい。
【0060】
(E)成分の導電性微粒子の形状は,球状,樹枝状,針状など特に制限はない。また、粒径は特に制限はないが,最大粒径が粘着剤の塗工厚みの1.5倍を越えないことが好ましく,これを越えると粘着剤塗工表面に導電性微粒子の突出が大きくなりすぎて,この部分を起点に被着体からの浮きなどが発生しやすくなる。
【0061】
本発明の導電性シリコーン粘着剤組成物に使用する導電性粒子が銀粉の場合、平均粒径は0.1〜150μm、好ましくは0.15〜80μmである。平均粒径が0.1μm未満の場合は、導電性が極端に低下するため好ましくなく、150μmを超える場合には、良好な接着性が得られないために好ましくない。
【0062】
(E)成分の添加量は(A)、(B)成分の合計/(E)成分の比が97/3〜50/50とすることが好ましい。(E)成分の配合割合が97/3より少ないと十分な導電性が得られない。50/50より多いと粘着力が小さくなるなど粘着特性が低下することがある。
【0063】
本発明のシリコーン粘着剤組成物には、上記各成分以外に任意成分を添加することができる。例えば、ポリジメチルシロキサン、ポリジメチルジフェニルシロキサンなどの非反応性のポリオルガノシロキサン、塗工の際の粘度を下げるためのトルエン、キシレン等の芳香族系溶剤、ヘキサン、オクタン、イソパラフィンなどの脂肪族系溶剤、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸イソブチルなどのエステル系溶剤、ジイソプロピルエーテル、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶剤、又はこれらの混合溶剤、酸化防止剤、染料、顔料などが挙げられる。なお、通常、組成物の粘度を下げ、塗工を容易にするために溶剤が使用される。
【0064】
上記のように配合されたシリコーン粘着剤組成物を、種々の基材に塗工し、所定の条件にて硬化させることにより、粘着層を得ることができる。
【0065】
ウレタン粘着剤として好ましくは、ウレタン系粘着剤をポリイソシアネート系架橋剤で架橋させた二液硬化型ウレタン系粘着剤が用いられる。
【0066】
ウレタン系粘着剤としては、例えば、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオールと、ポリイソシアネート系架橋剤とを触媒を用いて反応させた分子量10,000〜300,000のポリウレタンポリオールに、ポリイソシアネート系架橋剤を配合した溶剤型ウレタン系粘着剤が好ましく用いられる。この粘着剤は、さらにポリイソシアネート系架橋剤によって架橋されて粘着剤層を形成する。
【0067】
また、ポリイソシアネート系架橋剤としては、公知の芳香族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香脂肪族ポリイソシアネート、及び脂環族ポリイソシアネート等が挙げられる。これらの架橋剤はウレタン系粘着剤の架橋密度を適切にコントロールすることができ、安定した剥離性を得られることが望ましい。
【0068】
ポリイソシアネート系架橋剤の中でも、架橋反応の早いイソシアヌレート環を有する多官能ポリイソシアネート化合物を架橋剤として用いて、ウレタン系粘着剤を架橋して形成することも好ましく、例えば、多官能ポリイソシアネート化合物の三量体からなるイソシアヌレート環を少なくとも1個有するポリイソシアネート系架橋剤が好ましく用いられる。
【0069】
本発明のウレタン系粘着剤に対するポリイソシアネート架橋剤の添加量は、ウレタン系粘着剤固形分100質量部に対して固形分1.5〜11質量部が好ましく、より好ましくは2〜10質量部である。ちなみに、1.5質量部未満では、架橋度が不十分で、凝集力が弱く、剥離時に粘着層がちぎれてしまう。一方、11質量部より多いと、架橋度が高くなり過ぎ、粘着力が低下する、もしくは、架橋剤が飽和状態となり、架橋を密度が低下することで凝集力が低下し、剥離時の粘着層のちぎれが発生することがある。
【0070】
紫外線硬化型粘着剤としては、例えば、前記した(メタ)アクリル酸エステルの単独重合体または共重合性モノマーとの共重合体(アクリル系ポリマー)と、紫外線硬化成分(前記アクリル系ポリマーの側鎖に炭素−炭素二重結合を付加させる成分)および光重合開始剤と、必要に応じて架橋剤、粘着付与剤、充填剤、老化防止剤、着色剤などの慣用の添加剤を加えたものが用いられる。
【0071】
ちなみに、前記紫外線硬化成分としては、分子中に炭素−炭素二重結合を有しラジカル重合により硬化可能なモノマー、ダイマー、オリゴマー、ポリマーであればよく、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1、6−ヘキサンジオール(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸と多価アルコールとのエステル;エステルアクリレートオリゴマー、2−プロペニルジ−3−ブテニルシアヌレート、2−ヒドロキシエチルビス(2−アクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2−メタクリロキシエチル)イソシアヌレート、トリス(2−メタクリロキシエチル)イソシアヌレート等のイソシアヌレートまたはイソシアヌレート化合物などが挙げられる。なお、アクリル系ポリマーとして、ポリマー側鎖に炭素−炭素二重結合を有する紫外線硬化型ポリマーを使用する場合においては、特に上記の紫外線硬化成分を加える必要はない。
【0072】
前記の重合開始剤としては、その重合反応のきっかけとなり得る適当な波長の紫外線を照射することにより開裂し、ラジカルを生成する物質であればよく、例えば、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類;ベンジル、ベンゾイル、ベンゾフェン、α−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンなどの芳香族ケトン類、ベンジルジメチルケタールなどの芳香族ケタール類;ポリビニルベンゾフェノン;クロロチオキサントン、ドデシルチオキサントン、ジメチルチオキサントン、ジエチルチオキサントンなどのチオキサントン類などを挙げることができる。なお、前記架橋剤には、例えば、ポリイソシアネート化合物、メラミン樹脂、尿素樹脂、ポリアミン、カルボキシル基含有ポリマーなどが含まれる。
【0073】
以上の粘着剤の形態としては、溶剤型、エマルジョン型、ホットメルト型等が使用され、一般的には溶剤型、エマルジョン型のものが利用される。また、必要に応じて他の助剤を添加混合し、塗工液として作製することができる。他の助剤としては、減粘剤、増粘剤、pH調整剤、消泡剤、防腐防黴、顔料、無機充填剤、安定剤、濡れ剤、湿潤剤等を挙げることができる。
【0074】
[テープに用いられる剥離フィルムの説明]
次に、粘着剤が塗布され、狭持される搬送体に関して説明する。
【0075】
剥離体としては一般的に、ここで剥離フィルム、もしくは剥離紙が好ましく用いられる。剥離体は、粘着剤層を形成する際の基材であり、同時に粘着剤を保存する際に塵や埃などの異物から粘着剤層を保護する基材でもある。剥離フィルムの具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリアリレート等の各種樹脂からなるフィルムを基材とし、この基材の粘着剤層との片面もしくは両面に、離型処理(シリコーン処理等)が施されたものなどが挙げられる。剥離フィルムの具体例も、基材が紙となった以外は剥離フィルムと同様である。
【0076】
剥離フィルム及び剥離紙を製造するための、離型処理を施すための塗布液の具体例を挙げると、旭化成ワッカーシリコーン株式会社製 DEHESIVEシリーズのうち、無溶剤型の636、919、920、921、924、エマルジョン型の929、430、440、39005、39006、溶剤型の940、942、952、953、811等が、GE東芝シリコーン株式会社製 剥離紙用シリコーン TPR6500、TPR6501、UV9300、UV9315、XS56−A2775、XS56−A2982、TPR6600、TPR6605、TPR6604、TPR6705、TPR6722、TPR6721、TPR6702、XS56−B3884、XS56−A8012、XS56−B2654、TPR6700、TPR6701、TPR6707、TPR6710、TPR6712、XS56−A3969、XS56−A3075、YSR3022等が挙げられる。
【0077】
剥離体は、一般的に所望の粘着剤に合わせて離型処理剤を選択するので、一般的な市販品という物はあまりないが、本発明に用いることができる剥離フィルム並びに剥離紙の具体例を挙げると、剥離フィルムとしては、帝人デュポンフィルム株式会社製 A50ライナー、剥離紙としては、株式会社 巴川製紙製 レリーズ等がある。
【0078】
[粘着層塗布方式の説明]
剥離紙上への粘着層の塗工は、ロールコーター、ブレードコーター、バーコーター、エアーナイフコーター、グラビアコーター、リバースコーター、ダイコーター、リップコーター、スプレーコーター、コンマコーター等により行われ、必要によりスムージングや、乾燥、加熱、紫外線等電子線露光工程等を経て、粘着剤層が形成される。
【0079】
これら粘着剤層の厚さは、粘着剤の種類にもよるが、通常は3〜100μm、好ましくは5〜60μm程度である。
【0080】
[市販品の紹介]
本発明に用いられる基材無し粘着テープの一般的な市販品として例を挙げると、基材なしシリコーン粘着テープとしては、Adhesives Research社製 ARclear8932、ARclad7876、株式会社 寺岡製作所製 No.7470等が、基材なしアクリル粘着テープとしては、日東電工株式会社製No.591、LA−50、LA−100、No.5915、HJ−9210、No.5919M、HJ−9150W、CS9621、No.595B、Adhesives Research社製 ARclear8154、ARclear8796、ARclear8957、株式会社 寺岡製作所製 No.7021等が挙げられる。
【0081】
[粘着テープの貼り付け方法]
次に、基材無し粘着テープを、搬送ベルト上に重層で貼り付け、粘着搬送ベルトを作成する方法を説明する。
【0082】
搬送ベルト41上に、片方の面の剥離体を剥がした基材無し粘着テープ42の粘着面を貼り付ける。次いで、もう一方の面の剥離体を剥がし、粘着面を露出させる。次いで、片方の面の剥離体を剥がした粘着転写テープ44の粘着面を粘着テープ42の粘着面に貼り付ける。もう一方の面の剥離体を剥がし、粘着面を露出させる。これを繰り返すことで、粘着層を所望の回数重層することができる。
【0083】
ベルトの搬送方向と、粘着ベルトの貼り付け方向の交差する角度を張り合わせ角度とする。図5では貼り付け方向43と搬送方向46の交差する角度αが貼り付け角度に相当する。
【0084】
次に、図5を用いて粘着層の交差する角度θの定義を説明する。
【0085】
前記粘着層重層の際に、ある粘着層42の貼り付け方向矢印43と、また別の粘着層44の貼り付け方向45の交差する角度をθとする。但し、ここで説明したように積層数が2層に限られるわけではなく、かつ、隣り合った粘着層の貼り付け方向の交差に限定するわけでもない。
【0086】
粘着層が積層された粘着搬送ベルトにおいて、このようにして定義されるθの値は2層なら1つ、3層なら3つ、4層なら6つとなるが、このうち、θの値が最も大きくなる組み合わせにおけるθの値をθmaxとする。
【0087】
《搬送ベルトの説明》
[搬送ベルトの構成]
〔ベルト基材の準備〕
本発明に好ましく用いられる素材としては、樹脂、金属、ガラス繊維等がある。
【0088】
〈金属ベルト:代表例ニッケルベルト〉
金属ベルト基材としては、電気鋳造法を用いて形成された金属電鋳ベルトが製造コスト、表面の平滑性から好ましく用いられる。電気鋳造法では、導電性を有する鋳型、具体的にはステンレス製やアルミニウム製円筒状母型を陰極に用い、陰極を金属メッキ浴に浸し、通電することで陰極表面にメッキを行う。金属メッキ膜を所望の厚さまで成長させた後に、メッキ膜を鋳型から剥がして無端状金属電鋳ベルトが得られる。
【0089】
鋳型に金属を用いる場合、鋳型表面に剥離のための表面処理を行い、鋳型が非金属の場合は、メッキを行うための導電性処理を行う。
【0090】
ニッケル電鋳ベルトを例に更に詳細な金属ベルトの製造方法に関して説明する。
【0091】
ニッケル電鋳ベルトは電解浴として、例えばスルファミン酸系などの公知のニッケル電解浴を用いることができ、pH調整剤、ピット防止剤、光沢剤などの添加剤を適宜加えることもできる。例えば、スルファミン酸ニッケルを主成分とし、塩化ニッケルまたは臭化ニッケルが0〜25g/l、およびホウ酸が30〜40g/lからなるニッケル電解液が挙げられる。スルファミン酸ニッケルは目的に合わせ低濃度から高濃度まで選択可能である。具体的には、スルファミン酸ニッケル四水塩として、普通浴と呼ばれる450g/l程度のものから、スピード浴と呼ばれる600g/lのものを好ましく用いることができ、更に低濃度、高濃度を使用することもできる。
【0092】
所望のニッケルまたはニッケル合金からなるニッケル電鋳を得るため、電解浴温度、陰極電流密度などを制御することができる。
【0093】
電鋳プロセスは、用いる電解浴によっても異なるが、通常、電解浴温度45〜60℃程度、陰極電流密度1〜10A/dm2程度で行うことが好ましい。電鋳プロセスによるニッケルは、電解浴中にサッカリン、ベンゼンスルホン酸ナトリウム、ナフタレンスルホン酸ナトリウム等含む一次光沢剤(応力減少剤)、2−ブチン−1,4−ジオール、クマリン、ジエチルトリアミン等含む二次光沢剤と呼ばれる添加剤を加えることにより、電着応力を低減させて成型精度を向上させる。このとき加える添加剤の量を調整することにより、ニッケル電鋳中の硫黄含有量、炭素含有量を上記の範囲にすることができる。なお、析出される硫黄、炭素含有量は、浴中の一次光沢剤、二次光沢剤の濃度、および、電流密度、浴温等のプロセス条件で調整可能である。
金属ベルトの厚みは、1μm以上300μm以下にすることが好ましい。電鋳ニッケルベルトの厚みが300μmを上回ると、剛性が大きくなり、柔軟性が低下してくるので、屈曲性が損なわれて回転体として使用しにくくなる傾向にある。
【0094】
〈編みベルト〉
本発明において好ましく用いられるベルト形態の1つとして、繊維を編み上げて作った網状ベルトが上げられる。
【0095】
本発明で好ましく用いられる繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、芳香族アリレート繊維、スチールワイヤ等が挙げられ、このうち特にガラス繊維やアラミド繊維が、ベルト張力による変形防止の観点で望ましい。
【0096】
網状ベルトの織り方としては平織、朱子織、綾織、ニット織等があり、多層構造となるように編んでも良く、多層構造で編む場合、前記平織、朱子織、綾織、ニット織等を組み合わせて網状ベルトを作成しても良い。
【0097】
また、前記網状ベルトを樹脂で被覆しても良く、編み上げたベルトを樹脂溶液中に含浸し、乾燥、焼結並びに架橋等させることで、樹脂被覆編みベルトを作成することができる。
【0098】
編みベルトを含浸する樹脂としては熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等が好ましく用いられる。
【0099】
熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン(高密度、中密度、低密度、直鎖状低密度)、プロピレン−エチレンブロックまたはランダム共重合体、ゴムまたはラテックス成分、例えばエチレン−プロピレン共重合体ゴム、スチレン−ブタジエンゴム、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体または、その水素添加誘導体、ポリブタジエン、ポリイソブチレン、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、変性ポリフェニレンエーテル、液晶性ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンスルフィド、ポリビスアミドトリアゾール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、アクリル、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、エチレンテトラフルオロエチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン共重合体、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、アクリル酸−アクリル酸アルキルエステル共重合体、ポリエステルエステル共重合体、ポリエーテルエステル共重合体、ポリエーテルアミド共重合体、ポリウレタン共重合体等の一種またはこれらの混合物からなるものが使用される。
【0100】
シリコーン樹脂としては、付加型シリコーン樹脂、縮合型シリコーン樹脂、あるいはシリコーン樹脂と各種樹脂との変性体である変性シリコーン樹脂、たとえばポリエステル変性シリコーン樹脂、ウレタン変性シリコーン樹脂、アクリル変性シリコーン樹脂、ポリイミド変性シリコーン樹脂、オレフィン変性シリコーン樹脂、エーテル変性シリコーン樹脂、アルコール変性シリコーン樹脂、フッ素変性シリコーン樹脂、アミノ変性シリコーン樹脂、メルカプト変性シリコーン樹脂、カルボキシ変性シリコーン樹脂などの変性シリコーン樹脂、熱硬化性シリコーン樹脂、光硬化性シリコーン樹脂等の1種、またはこれらの混合物からなるものが使用できる。
【0101】
また特に本発明ではフッ素樹脂が好ましく用いられ、フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレンヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)等の1種、またはこれらの混合物からなるものが使用できる。
【0102】
また、これらの樹脂中に、綿糸、ポリアミド繊維やアラミド繊維等の化学繊維、ガラス繊維、金属繊維、カーボン繊維等からなる短繊維、織布、フィラー、ウィスカー、シリカ、炭酸カルシウムなどの無機材料等を混入することで、樹脂層の強度を上げることも可能である。また、繊維分を部分的に露出させたりして滑りやすくすることで耐摩擦性を向上したり、表面の摩擦係数を調整することも可能である。
【0103】
また、内部に金属や繊維等の芯材を含まず、樹脂を主成分としたベルトも好ましく用いることができる。また、所望により付加成分を付与することができる。
【0104】
樹脂としては上記の熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂を用いることができる。
【0105】
付加成分としては、各種フィラーを用いることができ、具体的には炭酸カルシウム(重質、軽質、膠質)タルク、マイカ、シリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、硫酸バリウム、酸化亜鉛、ゼオライト、ウオラストナイト、珪藻土、ガラス繊維、ガラスビーズ、ベントナイト、モンモリロナイト、アスベスト、中空ガラス玉、黒鉛、二硫化モリブデン、酸化チタン、アルミニウム繊維、ステンレススチール繊維、黄銅繊維、アルミニウム粉末、木粉、もみ殻等が挙げられる。また、これらのフィラーの他に、熱硬化性樹脂として例えばエポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、酸化防止剤として、不飽和ポリエステル樹脂(フェノール系、硫黄系等)を、滑り性改良剤として、有機・無機系の各種顔料を、更には、紫外線吸収剤、帯電防止剤、分散剤、中和剤、発泡剤、可塑剤、銅害防止剤、難燃剤、架橋剤、流れ性改良剤等を配合することができる。
【0106】
上記付加成分は、樹脂組成物に対し、一軸押出機、二軸押出機、バンバリーミキサー、ロール、ブラベンダー、プラストグラフ、ニーダ等の通常の混練機を用いて成形前に練り混むことが好ましい。しかし、特殊な場合は各成分を直接成形機に供給し、成形機で本組成物を混練しながら成形することもできる。
【0107】
これら樹脂の混合物からのベルト製造方法は、連続溶融押出成形法、射出成形法あるいはブロー成形法、インフレーションフィルム成形法等公知の溶融成形法を用いることができる。ベルトの望ましい連続溶融押出成形法としては、押出したチューブ内径を高精度で制御可能な下方押出方式の内部冷却マンドレル方式、あるいはバキュームサイジング方式が挙げられる。
【0108】
押出したシームレスベルトは、未延伸の状態で厚みの均一性、機械的強度を有していなければならない。これは延伸により機械的強度は向上するが、延伸方向に裂け易くなるため耐久性が損なわれるからであると推定される。さらに、延伸により、フィラー等の付加成分と樹脂の界面が剥離し、ベルト強度が著しく低下するからであると推定される。
【0109】
本発明に好ましく用いられる搬送媒体としては、搬送媒体の素材が本来持つヤング率Eと搬送媒体の膜厚dが大きく関わっている。
【0110】
鋭意検討の結果、本発明においては、画像記録用搬送媒体であるため、搬送時の振動等によりたわみやゆがみが発生することは好ましくない。よってEdは1×107N/m以上であることが望ましいことがわかった。また、ベルトを回転させて搬送させることから、基材は曲げ伸ばしが発生する。このため、硬いベルトだと回転時に折れてしまうことから、柔軟性が必要である。よってEdは6×107N/m以下であることが望ましいことがわかった。
【0111】
《インクジェット捺染方式の説明》
[被記録材料である布帛の説明]
本発明で好ましく用いることのできる布帛の素材としては、綿、麻、羊毛、絹、レーヨン、キュプラ、ポリノジック、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ビニロン、及びこれらの混紡が上げられる。
【0112】
布帛は通常、捺染業者が目的とする布の風合いが得られる様に、糸の種類、糸の太さ、織り方、混紡比率等を自分で決めて発注するか、布帛業者がその時々で設計し、顧客に売り込むことで取り引きされている。よって、一般的な製品はないが、株式会社色染社の試験用繊維から例を挙げると、綿では金巾、ブロード、ツイル、サテン、ニットスムース、ポンチローマ、ネル、帆布等が、麻では(ラミー)ブロード等が、羊毛ではモスリン、トロピカル、サージ等が、絹では羽二重、精華パレス等が、レーヨンではタフタ、スフモスリン、フジエット等が、キュプラはタフタ等が、ポリノジックはブロード等が、テンセルでは平織等が、リヨセルでは平織等が、ジアセテートではタフタ等が、ポリエステルではタフタ、トロピカル、アムンゼン、紡績糸織物、テトレックス、ジョーゼット、クレープ・デシン、紗、ジャージー、ダブルピケ、カーシート等が、新合繊ではトレシー、サミア等が、カチオン可染型ポリエステルではニットスムース等が、ナイロン6ではタフタ、紗、ジャージー等が、ナイロン66ではジャージー等が、アクリルではモスリン、ジャージー等が、ビニロンではブロード等が、混紡ではポリエステル65/綿35ブロード、ポリエステル65/綿35ツイル、ポリエステル50/綿50ニットスムース、ポリエステル65/レーヨン35平織等が、交編ではポリウレタン20/ポリエステル80ニット等が、マルチファイバークロスではAATCC Style 1,10、SDC等が挙げられる。
【0113】
[布帛の前処理工程の説明]
本発明のインクジェット捺染方法の場合、均一な染色物を得るために、水溶性高分子類を布帛に前処理する前に、布帛繊維に付着した天然不純物(油脂、ロウ、ペクチン質、天然色素等)、布帛製造過程で用いた薬剤の残留分(のり剤等)、汚れなどを洗浄しておくことが望ましい。洗浄に用いられる洗浄剤としては水酸化ナトリウム,炭酸ナトリウムといったアルカリ、陰イオン性界面活性剤,非イオン性界面活性剤といった界面活性剤、酵素等が用いられる。
【0114】
本発明の捺染方法においては、にじみ防止効果のため、前処理工程として前処理剤をパッド法、コーティング法、スプレー法などで付与せしめるのが好ましい。
【0115】
前処理方法としては、水溶性高分子類を布帛に前処理するなどの公知の方法から繊維素材やインクに適した方法を適宜選択すればよく、特に限定されるものではない。例えば、水溶性金属塩、ポリカチオン化合物、水溶性高分子、界面活性剤及び撥水剤からなる群から選ばれる少なくとも1つの物質が0.2〜50質量%付与された布帛に対して使用すれば、高度なにじみ防止が可能であり、高精細な画像を布帛にプリントすることができ好ましい。
【0116】
前処理剤として使用される具体的な水溶性高分子の例をあげる。天然水溶性高分子としては、トウモロコシ、小麦等のデンプン類、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシエチセルロースなどのセルロース誘導体、アルギン酸ナトリウム、グアーガム、タマリンドガム、ローカストビーンガム、アラビアゴムなどの多糖類、ゼラチン、カゼイン、ケラチン等の蛋白質物質、合成水溶性高分子としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、アクリル酸系ポリマなどを用いることができる。界面活性剤としては、例えば、アニオン系、カチオン系、両性、ノニオン系のものが使用され、代表的には、アニオン系の界面活性剤としては、高級アルコール硫酸エステル塩、ナフタレン誘導体のスルホン酸塩等;カチオン系の界面活性剤としては、第4級アンモニウム塩等;両性界面活性剤としては、イミダゾリン誘導体等;ノニオン系の界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンプロピレンブロックポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、アセチレンアルコールのエチレンオキサイド付加物等;が挙げられる。又、撥水剤としては、例えば、シリコン、フッ素系及びワックス系のものが挙げられる。これらの、あらかじめ布帛に付与される水溶性高分子や界面活性剤は、インクジェットプリントをし、高温で発色させる際に、タール化などによるよごれの原因とならないために、高温環境に対して安定であることが好ましい。また、これらの、あらかじめ布帛に付与される水溶性高分子や界面活性剤は、インクジェットプリントをし、高温で発色させた後の洗浄処理で、布帛から取り除きやすいものが好ましい。
【0117】
[印字工程の説明]
次に、本発明で使用される産業用記録装置の一例としてインクジェット捺染記録装置の概略構成に就いて説明するが、本発明が適用可能な装置は、以下のような構成に限定されるものではなく、産業用記録手段という観点から、当業者が容易に考えられる如何なる構成上の変更あるいは構成要素を付加することも可能である。
【0118】
図6は、本発明における精密記録装置の一例としてのインクジェット捺染記録装置の実施形態を示す断面模式図である。本発明で使用される精密記録装置の一例としてインクジェット捺染記録装置の概略構成に就いて説明するが、本発明が適用可能な装置は、以下のような構成に限定されるものではなく、精密記録手段という観点から、当業者が容易に考えられる如何なる構成上の変更あるいは構成要素を付加することも可能である。
【0119】
図6に示されるように、本発明のインクジェット捺染装置における被記録媒体であるプリント媒体51は適宜な布帛であって、ロール状に撒かれている。布帛51が巻出され、中間ローラ53、54、及びテンションローラ52を介して、粘着搬送ベルト59の表面に、印圧ローラ55によって押しつけられて固定される。固定された布帛は白矢印で示される搬送方向に搬送されて、プラテンローラ57間の領域内において、インクジェットプリントヘッド56を有するプリンタ部によってインクが付与されてプリントされる。
【0120】
プリントされた布帛51は、布剥がし用の爪60によって、粘着搬送ベルトから剥離され、乾燥ヒータ64により乾燥処理が施される。乾燥ヒータ64としては、温風を布帛51に対して吹付けるものや、赤外線を照射して乾燥するもの等、その他、適宜な形態のものを選択して用いることができる。乾燥後、巻取ローラ66によって巻取られる。
【0121】
布帛搬送装置は、搬送ローラ58と、これら搬送ローラ58間に巻回された搬送手段である無端ベルト形態の搬送ベルト59と、布帛51の被捺染面を平坦に規制する一対のプラテンローラ57とを有している。搬送ベルト59は、布剥がし用の爪60の部位において布帛51が剥離された後に、クリーニング部材61でインクが粗く拭い取られる。次いで、クリーニング部材62において、水で洗浄され、ふき取り部材63で水分が拭き取られた後に、再び布貼付ローラ55によって布帛51が粘着、固定されて、プリンタ部によって印捺されることを繰り返すことで、連続的に布帛51に記録する装置である。
【0122】
[記録物の後処理工程の説明]
印字された布帛は、十分な乾燥をしながら、巻き取られることが望ましい。特に20〜100mにも成る長尺の布帛に長時間印字し続ける場合などは、印字された布帛が延々と排出されてくるため、印字した布帛が床などに重なっていき場所をとる。これを巻き取らなければ作業上不安全であり、かつ予期せず汚れてしまうおそれがある。そのために印字後、巻き取る操作が必要となる。この操作時に布帛と布帛の間に紙や布、ビニール等の印字に関わらない媒体を挟んで裏写りを防止してもかまわない。もちろん、途中で切断する場合や短い布帛に対しては必ずしも巻き取る必要はない。
【0123】
次に発色工程において説明する。発色工程においては、巻き取られた布が発色機にかけられ、加熱によって色剤が布帛中に定着される。
【0124】
巻き取られた布帛はインクが付与され、画像が形成されているが、布帛表面に色剤が一時的に付着しただけであって、十分布帛に吸着・固着されていない。発色工程とは、インク中の染料を布帛に吸着・固着させることにより、そのインク本来の色相を発現させる工程である。その方法としては、蒸気によるスチーミング、乾熱によるベーキング、サーモゾル、過熱蒸気によるHTスチーマー、加圧蒸気によるHPスチーマーなどが利用される。発色方法及び条件はプリントした素材、インクなどにより適宜選択する。また、印字された布帛は直ちに加熱処理しても、しばらくおいてから加熱処理しても良く。用途に合わせて処理すればよい。本発明においてはいずれの方法を用いてもよい。
【0125】
また分散染料を色剤に用いた場合、高温加熱以外にもキャリアーと呼ばれる浸透剤を用いた発色方法がある。キャリヤーとして用いられる化合物は、繊維中への染料浸透速度が高く、使用法が簡便で、安定し、人体や環境に対して負荷が少なく、繊維からの除去が簡単で、染色堅牢度に影響しないといった特徴を持つものが好ましい。キャリヤーの例としてはo−フェニルフェノール、p−フェニルフェノール、メチルナフタリン、安息香酸アルキル、サリチル酸アルキル、クロロベンゼン、ジフェニルといったフェノール類、エーテル類、有機酸類、炭化水素類などを挙げることができる。これらは、ポリエステルのように100℃前後の温度での染色が難しい難染性繊維の膨潤と可塑化を促進し、分散染料を繊維内に入りやすくする。キャリヤーは、インクジェットプリントに使用する布帛の繊維にあらかじめ吸着させておいてもよいし、インクジェットインク中に含まれていてもよい。
【0126】
発色工程後は洗浄工程が必要である。なぜなら染着に関与しなかった染料が残留することで、色の安定性が悪くなり堅牢度が低下するばかりか、布帛を縫製し衣類等にしたときに人体に色剤が付着したり、洗濯時に他の洗濯物を汚染したりするおそれがあるからである。また、布帛に施した前処理物を除去することも必要である。そのままにしておくと堅牢性の低下ばかりでなく布帛が変色したり、布帛を縫製し衣類等にしたときの風合いが著しく悪くなるからである。よって、除去対象物や目的に応じた洗浄が必須である。その方法は、プリントする素材、インクにより選択され、例えばポリエステルの場合、一般的には、苛性ソーダ、界面活性剤、ハイドロサルファイトの混合液により処理するものである。その方法は、通常オープンソーパーなどの連続型や液流染色機などによるバッチ型で実施されるもので、本発明においてはいずれの方法を用いてもよい。
【0127】
洗浄後は乾燥が必要である。洗浄した布帛を絞ったり脱水した後、干したりあるいは乾燥機、ヒートロール、アイロン等を使用して乾燥させる。
【実施例】
【0128】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0129】
《粘着搬送ベルトの作製》
本発明で用いられる粘着搬送ベルトの製造方法を以下に記す。
【0130】
本発明で好ましく用いられる粘着搬送ベルトは、ベルト基材を作成後、ベルト基材上に基材無し粘着テープを付与することで作製できる。
【0131】
[ベルト基材の作製]
〔ベルト基材1の作製〕
周長 1600mm、幅1800mm、厚み40μmのニッケル電鋳ベルトを以下のようにして作成した。
【0132】
〈ニッケルメッキ液の調整〉
縦3000mm、横3000mm、深さ2500mmのメッキ浴中に、陰極として、上部直径1600mm、下部直径1610mm、長さ2000mmのステンレス製円筒状母型をニッケルメッキ浴中に設置する。次いで、下記の組成でメッキ液を調整し、上端から100mmに液面が来るまでメッキ液を満たした。メッキ液の1Lあたりの組成は以下の通り。
【0133】
スルファミン酸ニッケル4水塩 430g
塩化ニッケル 10g
硼酸 38g
日本化学産業社製 ピットレスS 0.2g
以上を水に加えてよく溶かし、1Lに仕上げる。
【0134】
次いで、ニッケルメッキ浴を加熱し、浴中温度を55℃に上げた、このときのpHは4.2となった。
【0135】
陰極電流密度を3A/dm2とし、ニッケル膜厚が40μmとなるまで通電した。
【0136】
ニッケルベルトを前記母型から取り外し、イオン交換水で洗浄し、上端及び下端を切断して、幅1800mmのベルトに成形した。
【0137】
〔ベルト基材2〜5の作製〕
通電時間を変え、ベルト基材の膜厚を表2に記載した膜厚に調整した以外はベルト1と同様にして、ベルト基材2〜5を作成した。
【0138】
〔ベルト基材6の作製〕
芳香族アラミド繊維である、帝人株式会社製テクノーラ 単繊維直径12μmを25本束ね、10cm当たり15回の捻りを均等に加えて糸状にした後幅1800mm長さ1700mm、厚さ60μmに平織りにし、アラミド編みシートを作成する。作成したアラミド編みシートを三井・デュポンフロロケミカル株式会社製 PTFEディスパージョン テフロン(登録商標)T−30Jに含浸させた後、液から引き上げて乾燥させる。乾燥後、400℃で1分間焼成を行い、PTFE粒子をアラミド繊維に定着させる。PTFE処理されたアラミド編みシートを室温に放置し、常温まで冷却したら再度PTFEディスパージョンに浸し、焼成を繰り返す。この工程を6回繰り返して、PTFE被覆アラミド編みシートを作成した。
【0139】
得られたアラミド編みシートを幅1800mm、長さ1600mmに切断し、図7に示すように円筒状に巻いた。次いで、円筒に巻かれた接合部分に幅1800mm、長さ25mmのPFAフィルムを挟み込み、温度420℃、プレス圧2MPaで60秒間上下層を熱圧着し、エンドレスベルトとした。
【0140】
〔ベルト基材7〜10の作製〕
アラミド繊維の束ねる本数を変更し、アラミド編みシートの厚さを表2の値に調整した以外はベルト5と同様にして、ベルト基材7〜10を作成した。
【0141】
〔ベルト基材11の作製〕
1本の太さが3.5μmであるガラス繊維フィラメント1000本の収束体に、10cm当たり15回の捻りを均等に加えて糸状にした後、幅1800mm長さ1700mm、厚さ120μmに平織りにし、ガラス繊維編みシートを作成する。作成したガラス繊維編みシートを三井・デュポンフロロケミカル株式会社製 PTFEディスパージョン テフロン(登録商標)T−30Jに含浸させた後、液から引き上げて乾燥させる。乾燥後、400℃で1分間焼成を行い、PTFE粒子をガラス繊維に定着させる。PTFE処理されたガラス繊維編みシートを室温に放置し、常温まで冷却したら再度PTFEディスパージョンに浸し、焼成を繰り返す。この工程を6回繰り返して、PTFE被覆ガラス繊維編みシートを作成した。
【0142】
得られたガラス繊維編みシートを幅1800mm、長さ1600mmに切断し、図7に示すように円筒状に巻いた。次いで、図7に示すように、円筒に巻かれた端部に幅1800mm、長さ25mmのPFAフィルムを挟み込み、温度420℃、プレス圧2MPaで60秒間上下層を熱圧着し、エンドレスベルトとした。
【0143】
〔ベルト基材12〜15の作製〕
ガラス繊維フィラメントの束ねる本数を変更し、ガラス繊維編みシートの厚さを表2の値に調整した以外はベルト11と同様にして、ベルト12〜15を作成した。
【0144】
〔ベルト基材16の作製〕
〈混合樹脂ペレット1の作製〉
三菱ガス化学株式会社製 ユービロンE−2000 65部
三菱化学株式会社製 ノバドール5020 18部
電気化学工業株式会社製 デンカブラック 17部
上記配合で押し出し成形機に供給、混練して混合樹脂ペレットを作製した。
【0145】
前記混合樹脂ペレット1を、環状ダイコーター付直径1600mmの押し出し機を用いて、環状ダイコーターのギャップを4mmとし、環状ダイコーターより下方に溶融チューブを長さ2000mm分押しだし、これを環状ダイの同一軸線上に指示棒を介して装着された冷却マンドレル外表面に接触させて、冷却固化させる。仕上げに両端部を100mm切り落として、周長1600mm、1800mm、厚み4mmのベルト9を作製した。
【0146】
〔ベルト基材17〜20の作製〕
環状ダイコーターのギャップを表2に記載の膜厚に変更した以外はベルト16と同様にしてベルト17〜20を作製した。
【0147】
[粘着搬送ベルトの準備]
〔粘着搬送ベルト1〜20の作製〕
後に示す表1に記載の条件で、前記ベルト基材13の搬送面に、Adhesives Research社製 基材無し粘着テープ ARclad8932を貼り付け、粘着搬送ベルト1〜20を作製した。
【0148】
〔粘着搬送ベルト21〜41の作製〕
後に示す表2に記載の条件で前記ベルト基材1〜20の搬送面にAdhesives Research社製 基材無し粘着テープ ARclad8932を貼り付け、粘着搬送ベルト21〜41を作製した。
【0149】
《インクの調整》
[イエローインク1の調製]
〔イエロー染料分散液の調製〕
分散染料:C.I.Disperse Yellow 30 20%
エチレングリコール 18%
グリセリン 21%
リグニンスルホン酸ナトリウム 12%
イオン交換水 29%
上記各添加剤を順次添加、混合した後、サンドグラインダーを用いて分散を行って、イエロー染料分散液を調製した。
【0150】
〔イエローインクの調製〕
イエロー染料分散液 40%
エチレングリコール 17%
グリセリン 19%
燐酸一水素二カリウム 2%
燐酸二水素カリウム 2%
防腐剤(塩化イソチアゾロン) 2%
イオン交換水 18%
上記の各添加剤を順次混合、攪拌した後、3μmメンブランフェイルターでろ過し、次いで中空糸膜を用いた脱気処理を行ってイエローインク1を調製した。
【0151】
[マゼンタインク1、シアンインク1及びブラックインク1の調製]
上記イエローインクの調製において、染料をC.I.Disperse Red 5、C.I.Disperse Blue 330、C.I.Disperse Black 1にそれぞれ変更した以外は同様にして、マゼンタインク1、シアンインク1及びブラックインク1を調製した。
【0152】
《布帛の準備》
株式会社色染社の試験用繊維ジャージーを用いた。
【0153】
[前処理]
塩化カルシウム二水和物 10%
エチレングリコール 10%
トリエチレングリコールモノブチルエーテル 5%
ペレックスOT−P(花王社製、界面活性剤) 必要量
イオン交換水 総量を100部に仕上げるのに要する量
以上の各添加剤を順次混合、攪拌した後、1μmフィルターでろ過して前処理液1を調製した。なお、ペレックスOT−Pは、前処理液の表面張力が33mN/mとなるように添加量を調整した。
【0154】
次いで、前処理液にそれぞれ布帛を浸漬した後、マングルで絞り率が80%となる条件で絞った後、乾燥させて前処理済の布帛を作製した。
【0155】
《布帛への画像記録》
〔画像印字〕
駆動周波数20kHz、ノズル径30μmであるピエゾヘッドを4個備え、各色のインク液滴速度を6m/sとなるように調整したヘッドユニットを取り付けた図6に記載のインクジェットプリンターを用い、下記の各評価方法に記載の方法に従って各画像を形成した。
【0156】
なお、印字の際、粘着性無端搬送ベルト(図6に記載の59)とプラテンローラー(図6に記載の57)との搬送方向におけるニップ幅は8mmとなるように、粘着性無端搬送ベルトの張力を適宜調整して行った。
【0157】
〔発色処理及び洗浄処理〕
次いで、印画済の布帛を温度180℃で8分間スチーミング処理を行い、水洗後、40℃にてソーピング処理を行い、更に水洗を行った後乾燥して、記録物1〜19を作成した。
【0158】
《記録画像の評価》
以上のようにして作成した各記録物および作成に用いた粘着性無端搬送ベルトについて、下記の評価を行った。
【0159】
[搬送ベルトのゆがみによる画質劣化]
コニカミノルタ社製 インクジェット捺染プリンタ Nassenger Vに表1に記載のベルトを設置し、株式会社色染社の試験用繊維 ジャージーを50m分セットし、インク(以後、Kインクともいう)を用いて1cm角で太さ1mmの格子図を幅1.5m×長さ50m分描いた。そのまま装置を25℃、湿度55%の環境に180日間静置した後、再度株式会社色染社の試験用繊維ジャージーを50m分セットし、Kインクを用いて1cm角で太さ1mmの格子図を幅1.5m×長さ50m分描いた。経時による格子画像の乱れを観察した。
【0160】
◎:着弾誤差がほとんどなかった
○:顕微鏡で見ると10〜20μmの着弾誤差があったが、格子乱れとしては目視でわからず、問題にならない
△:目視で格子乱れがわかった
×:搬送ベルトの端部がゆがみ、ヘッドに粘着面が接触した
結果を表1に示す。
【0161】
【表1】

【0162】
[ベルトの折れ曲がり評価]
コニカミノルタ社製インクジェット捺染プリンタ Nassenger Vに表2に記載のベルトを設置し、25mm/secの速度で1時間回転させたのち、ベルトの変形を目視及び指触評価した。その後、株式会社色染社の試験用繊維ジャージーを50m分セットし、Kインクを用いて1cm角で太さ1mmの格子図を幅1.5m×長さ50m分描いた。
【0163】
◎:目視においても指触においても変形は見つからなかった
○:目視ではベルト表面の光沢にゆがみが見られたが、指触では何も感じられなかった。画像乱れもなかった
△:目視でも指触でも変形が感じられ、株式会社色染社の試験用繊維 画像に乱れが見られた。
【0164】
×:装置を動かすと明らかにヘッドをこすってしまい、装置が壊れてしまうため、装置を動かすことができなかった。
【0165】
[ベルトの波打ちによる画質劣化]
コニカミノルタ社製 インクジェット捺染プリンタ Nassenger Vに表2に記載のベルトを設置し、株式会社色染社の試験用繊維 ジャージーを50m分セットし、Kインクを用いて1cm角で太さ1mmの格子図を幅1.5m×長さ50m分描いた。また、印字の間装置の横に立ち、搬送におけるベルトの波打ちを観察した。
【0166】
◎:波打ちは見られず、画像乱れも見られなかった
○:50mを印字する間に1〜3回の波打ちが発生したが、波打ち部分の画像乱れは目視ではわからなかった
△:周期的に波打ちが発生していたが、画像乱れは製品として許容できるレベルであった
×:波打ちによって搬送ベルトがインクジェットヘッドをこすってしまい、装置が壊れてしまった
結果を表2に示す。
【0167】
【表2】

【図面の簡単な説明】
【0168】
【図1】粘着テープの一般的な製造方法示す模式図である。
【図2】粘着テープ成形による粘着剤の配向の一例を示す模式図である。
【図3】加熱による粘着層の収縮の一例を示す模式図である。
【図4】本発明の接合部分に基材を有しない粘着テープが密着して付与されている一例を示す模式図である。
【図5】粘着層の重ね貼りにおける交差角度を表す模式図である。
【図6】本発明の粘着性無端搬送ベルトを適用することのできるインクジェットプリンターの実施形態の一例を示す模式図である。
【図7】シート状の材料を円筒状にて得られる無端搬送ベルトの一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0169】
1 剥離体
2 剥離体
3 基材無し粘着テープ
4 粘着剤塗布液
5 ドクターブレード
6 加熱装置
7 貼り付けローラ
11 粘着剤塗布液
12 未架橋の粘着剤
13 引き延ばされている粘着剤
14 剥離体
15 基材の流れ方向に伸ばされた粘着剤
21 粘着剤
22 塗布液
23 剥離体
31 剥離体
32 粘着層
41 搬送ベルト基材
42 基材無し粘着テープ
43 粘着テープ貼り付け方向
44 基材無し粘着テープ
45 粘着テープ貼り付け方向
46 ベルト搬送方向
51 布帛
52 テンションローラ
53 中間ローラ
54 中間ローラ
55 印圧ローラ
56 インクジェットプリントヘッド
57 プラテンローラ
58 搬送ローラ
59 粘着搬送ベルト
60 布剥がし用の爪
61 クリーニング部材
62 クリーニング部材
63 ふき取り部材
64 乾燥ヒータ
65 中間ローラ
66 巻き取りローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材を持たない粘着転写テープの粘着層を、無端搬送ベルトの搬送面に貼り付けることにより粘着層を設けた画像記録装置の被記録媒体搬送に用いる粘着性無端搬送ベルトであって、粘着層を2層以上積層し、粘着層の貼り付け方向が少なくとも2つの粘着層で異なっており、前記2つの粘着層の貼り付け方向が交差する角度の最大値θmaxが30度以上150度以下であることを特徴とする粘着性無端搬送ベルト。
【請求項2】
前記無端搬送ベルトのヤング率をE、膜厚をdとしたとき、Edが1×107N/m以上6×107N/m以下であることを特徴とする請求項1に記載の粘着性無端搬送ベルト。
【請求項3】
請求項1または2に記載の粘着性無端搬送ベルトを用いることを特徴とする搬送装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−264806(P2006−264806A)
【公開日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−81839(P2005−81839)
【出願日】平成17年3月22日(2005.3.22)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】