説明

精密な、張子(はりこ)を造形する成形型

【課題】 日本も含めて、世界には、古くからの伝統工芸的な張子の技法で作られた工芸品があります。これらの、従来の技法で作成された、さまざまな張子製品では、原型である型の形状の、型に忠実な、精密な再現は、不可能でした。その原因は、たとえ、理屈で言えば、忠実な型の再現が可能であろう、雌型を使用しても、作業中の、型離れや、空気だまり、乾燥後の張子の紙材料の縮みや、接着剤である水性の糊の縮み、雌型と張子材料の密着性などを目視で観察ができないため、忠実な型の再現は不可能であり、精密な形状の張子を得ることは困難でした。
【解決手段】 薄い透明な素材で、たとえば、透明のプラスチック樹脂材料などで、透明で、その厚みが0.2mmから1mmくらの板材で、形成された、張子の型を提供する事により、作成途中の張子の表面状態が容易に観察でき、型に対する精密な再現性を確保します。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この考案は、日本の、古来の伝統工芸品である、張子の型(以下、原型とも言います。)に関します。それも、在来の張子製品のような、そう形状が、精密ではない張子製品を作るための原型ではなく、原型にもとづいた張子製品を可能な限り精密に、そして容易に、作ることのできる型に関します。
【背景技術】
【0002】
現在までの張子の工芸品は、型として、雄型と雌型があります。雄型はしばしば、木製の型で、張子とするモデル(虎とか、牛とか、鬼とか)を観察して、彫刻刀や鑿などで、木材を削って、作ります。雌型は、雄型のように、やはり、木材のどのソリッドな材料を、凹面をなすように、削りこんで作ることもあります。また、雄型や、張子のモデルとなるものを、粘土などの可塑性のある材料で作り、これを母型として、石膏、樹脂などで、型取りして、その型を、雌型として、使用することもあります。
【0003】
雄型での張子の製作においては、型表面に、植物油などの油脂などを離型剤として塗布しておきます。次に、でんぷん糊や、人工糊(たとえばポリビニルアルコールなど)を塗布します。そのあと、反故紙である紙の紙片を、母型の地肌が見えないように、貼り付けていきます。紙片の端を2重になるように、隙間をあけないで、少しの重なりを持たせて、母型の表面を覆うように、貼っていきます。反故紙としては、江戸時代以前には、和紙の書き損じや、和本の古本、明治以後は、古新聞紙などの洋紙や、安価な紙などが使用されています。それらの紙材料を2重とか3重に、でんぷん糊や、人工糊(たとえばポリビニルアルコールなど)で、貼り重ね、また、必要であれば、最後の、一番上層の紙は、その上に塗布される顔料絵の具に適した紙材料ほかを貼り付けていきます。そのようにして、張子は製作され、その後、必要な着彩を行います。
【0004】
張子の構成は、つまり、現代のFRP(ファイバー・リインフォースド・プラスチック)と原理的と同じで、繊維として、紙材料ほかの繊維質の材料を使用し、プラスチックのような樹脂材料のかわりに、でんぷん糊や人工糊を使うのです。
【0005】
一方、雌型での、張子の製作方法は、雌型の表面に、雄型と同じく、植物油などの油を、離型剤として塗布し、次に、糊を塗布します。最初の紙ほかの材料を貼るときは、雄型とは逆に、張子の表面材料として適した紙材ほかの表面材料を貼ります。そのあとは、雄型と同じように、安価な紙や、反故紙、古新聞紙と、それらを接着する糊を使って、雄型の製作のときと同様に製作します。
【0006】
雌型を使用する、張子の製作方法では、理屈のうえでは、雄型より精密な張子の造形となります。しかしながら、微細な表面形状のある雌型では、なかなか、再現性が困難で、現実的には、そうはならないのです。
【0007】
なぜならば、張子の材料の紙材料などを、でんぷん糊などの水性の糊で張り合わせますと、そのときは、紙材料などは、伸び、柔らかくなります。それで、その紙材料を雌型に糊で貼り付けます。そして、雌型の微細な凹部へも、入り込んでしまいそうですが、よほど薄い紙で、紙の繊維の強度が弱い紙でないと入り込みません。たとえば、和紙では、典具帖紙や、漆こし紙などの薄い、弱い和紙ですと、微細な凹部へは入り込みます。そのような紙材料は、紙材料を構成している、紙すきのときに使用する、紙の繊維と繊維を結合させる粘着剤ほかの接着成分の量も少なく、また、なかには、粘着剤を使用していない紙材料もあります。そのため、糊のなかの水分で、それらの紙は濡らされて、極めて、柔らかくなり、また、紙の繊維どうしの結合が弱くなります。つまり、よほど、器用に、巧みに、貼り付けないと、張子製作作業中に、紙は破れてしまいます。作業の継続が困難にもなります。また、薄くて強靭との評価のある、薄い雁皮紙では、破れるようなことはめったになくて、作業はしやすくはなります。しかし、これらの紙は、上記の紙より、繊維が強靭で、密です。また、水分を含んだ糊類で濡らされますと、その表面張力もあって、空気を通さない、一種の膜となります。つまり、型と、密着して、貼り付けるべき隙間に空気だまりができてしまいます。念をいれて、たたき筆や、ステンシル筆、あるいは、歯ブラシなどを使って、雌型の微細な形状の部分に、紙材料を入れ込む必要もあります。作業の最初は、薄い紙で、糊の水分で濡らされて、透けて、雌型表面がよく見えますから、そのようなことは可能です。
【0008】
しかしながら、紙材料を糊で交互に貼り重ねるにつれて、雌型の微細な形状の部分は見えなくなります。その上、多層に張り込んだ紙材料からは、水分が徐々に蒸発します。すると、雌型に貼り付けた紙材料ほかは、水分量が少なくなります。すると、紙材料は縮みます。また、紙材料を相互に貼り付けている、でんぷん糊ほかも、水分が蒸発します。すると、その体積が収縮します。また、凹部周辺の凸部のほうが、水分が溜まりやすい凹部より先に水分が少なくなり、まず、最初に乾いていきます。すると、雌型の微細な形状部に入り込んだ、その糊を含んだ紙材料は、雌型表面に塗布された離型剤の作用もあって、雌型から、離れてしまい、雌型の微細な形状ではなくなってしまいます。ですから、在来の雌型でも、微細な形状の造形は、不可能か、不確実なものになってしまいます。図2、図3をご覧ください。図2は、充分水分が含まれているときの張子と雌型の状態です。図3は、乾燥して、凹部や、凹部に準ずる、隅の部分での、雌型から、離れてしまった状態です。
【特許文献】なし。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明では、張子の雌型の製作方法と型の形態や材質を工夫して、微細な形状の張子を容易に製作できるような手段と、その型で可能な、張子ではない、副次的な造形をも提供します。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を達成するため、いちばん簡単には、母型を利用して、それを、たとえば、真空成形や圧空成形、あるいは、雄雌型を使用しての熱プレス成形などの成形方法で、プラスチックなどの透明な薄板、たとえば、厚さ0.3mから0.5mm程度の薄板で、成形した形状のものを、雌型として使用します。本発明の構成では、母型製作に薄板分の板厚補正の必要は発生しない特徴も有します。
【0011】
この成形品形状の雄型の母型に接して成形された側を、張子製品の雌型として使います。ここで、張子の製作の作業をします。ここでの課題の、微細な形状の部分での、紙材料と糊の、張子としての表面状態は、型が、薄い透明な板の成形品ですから、型となる表面側ではない、その裏をも、常に、どういう状態であるか、あるいは、その型に密着しているかを、いつも、張子の完成するまで、観察、点検できます。この雌型から、離れてしまった部分があれば、針や、カッターナイフなどで、その部分にすこし破れ目を作り、そこへまた、張子の表面に使っている紙片を、糊をつけて、押し込むように張り込みます。また、その紙片を、糊をまぶして、指で丸めて、紙礫状のものを押し込んで、修正し、その微細部の形状を忠実に再現造形できます
【0012】
さらに、この薄板で成形された型に、たとえば、凹部の、もっとも深い部分に、微細な、穴、たとえば、0.3mmから1mmの直径の穴を後加工するか、あるいは、この型の原料となる薄板が、平面であるときに、縦横に、上記のような直径の、多数の微細な穴を設けると、段落[0007]で説明しましたような、空気だまりも、閉じ込められた空気が、抜けてしまい、貼り付けられた紙材料の、型への密着も増します。また、最初に、紙材料などに含まれていた水分も、蒸発しやすくなり、張子への完成時間が短くなる利点があります。
【0013】
また、この、真空成形などの加工法で成形された雌型は、厚さ0.3mmから0.5mm程度ですから、母型に接していない側も、その形態は、すこし、精度が甘くなりますが、そのモデルとするものでは、(たとえば山岳や、動物などでは)充分モデルとしての形状の再現忠実度が確保できます。
【0014】
ですから、この透明の雌型の、母型に接して成形された側、あるいは、接して成形されていない側の、どちらにでも、着彩すると、一種の立体プラスチックモデル(プラモデル)ともなります。
【発明の効果】
【0015】
張子は、張子細工は、いままでは、民芸品とか、お土産品とか、神社のお守りなどに利用されてきました。また、通常、自作するものではないような感覚も、一般の人々には、あります。また、木製を主とした母型の、手工切削あるいは彫刻による製作が、一般の人々には難しいという事情もあったのでしょう。しかし、現在の、電子化の技術の流れで、個人的な工作の機械化、電子化の技術も、その機械、たとえば、民生用の安価なNC加工機も、個人で所有することができます。薄板を成形する、民生用の安価な真空成形機さえ、わずかながら、販売されています。また、真空成形機は、構造が、簡単で、電熱ヒータ部品や、吸引式の電気掃除機、あるいは、自作手動の、たとえば、自転車のタイヤの空気ポンプを改造して、真空ポンプとし、それらを組み合わせて、工作経験のある人なら自作もできます。真空成形機の逆の圧空成形機も、かえって、作りやすいかもしれません。その環境のなかでは、この考案は、張子の製作を精密、緻密にも、容易にもします。新たなホビーともなります。またあえて言えば、アートとすることさえ可能です。
【0016】
また、この雌型に、流動性のある樹脂で、硬化剤で硬化するレジン類(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂など)や、パラフィン(ろうそく)、セメント、寒天、蒟蒻、石膏などを流し込んで、モデルを形成することもできます。
【実施例】
【0017】
以下、簡単な実施例のひとつを記述します。山岳や渓谷は、山国である日本では、張子のいいテーマとなります。木材、あるいは、化学樹脂木材(ケミウッド)などを、被加工材料として、国土地理院、アメリカのUSGS、あるいはNASAなどの数値地図のデータの山岳や渓谷を、NC加工機で切削します。その切削されたものを母型として、たとえば真空成形で薄板の成形をすれば、やすやすと、山岳や渓谷の張子の、雌型ができます。これをもとに、山岳や渓谷の紙製の張子をいくつも作り、さまざまな着彩を施します。北アルプスを例にとれば、春夏秋冬の北アルプスのリアルなモデルも作れます。シンボリックな、その製作者だけのイメージでのシンボリックなアルプスの着彩も、いいでしょうし、一種のアートにもなる利点もあります。また、白地図のように、当初の張子のままの彩色がなくて、使用された紙材料などの固有の色彩表面のままでも、白あるいは単色、あるいは、多色の着彩をした張子でも、登山ルートを書き込んで、ルートや登山日程など検討したりする北アルプスのモデルも製作できます。また、この雌型に直接、塗料や顔料で着彩すれば、立体プラモデルにもなります。
【0018】
立体プラモデルは、現在は、子供の玩具ではなくて、主におとなのホビーとなっています。ここでの張子でのモデルもまた、プラモデル+アルファの、新たなホビーとして成立する利点と特徴もあります。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】在来の雄型による張子の雄型と張子の断面図
【図2】在来の雌型による張子の製作途中の雌型と張子の断面図
【図3】在来の雌型による張子が、乾燥し、完成したときの断面図
【図4】この考案の薄板の雌型による張子が乾燥し、完成したときの断面図
【図5】薄板の成形品を雌型とした張子
【符号の説明】
【0019】
1 在来の雄型
2 在来の雄型で製作した張子
3 雄型のために、尖った部分が丸くなる状態
4 在来の雌型
5 在来の雌型での製作途中の張子
6 在来の雌型
7 在来の雌型で、張子が乾燥完成したときの、張子と雌型の断面図
8 この考案による雌型の断面図
9 この考案による張子が離型したとき断面図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
山岳や渓谷などの地形モデル、顔かたち、玩具などの、張子の造形製作おいて、透明の薄板で形成する張子の雌型。
【請求項2】
プラスチックなどの透明薄板材で形成した張子製作用雌型に、多数の微細な穴を設けた事を特徴とする、請求項1記載の張子製作用雌型。
【請求項3】
プラスチックなどの透明薄板材で形成した張子製作用雌型において、型を形成する前の薄板に、あらかじめ多数の微細な穴を設設けた後、薄板を加工し、張子の張子製作用雌型に加工することを特徴とする、請求項1、請求項2記載の張子製作用雌型。
【請求項4】
プラスチックなどの透明薄板材で形成した張子製作用雌型において、この型の表面、あるいは裏面に、直接、着色して、プラスチックモデルとする事を特徴とする請求項1、請求項2、請求項3記載の張子製作用雌型。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−434(P2012−434A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156225(P2010−156225)
【出願日】平成22年6月21日(2010.6.21)
【出願人】(509297369)株式会社冥王 (5)
【Fターム(参考)】