説明

精密ろ過フィルター及びその製造方法

【課題】微孔性膜としてポリスルホン膜を用いた従来の精密ろ過フィルターでは適用することができなかった有機溶剤を用いた有機溶剤系において、流量及び寿命を向上することができ、もって、大きな設備にも適用することができると共に、カートリッジの交換回数を低減してメンテナンスにかかる費用や時間を節減することができ、さらに、半導体製造工程に用いることにより歩留まりを向上することができる精密ろ過フィルター及びその製造方法の提供。
【解決手段】少なくとも1層の金属イオン捕捉機能を有する繊維シートと、少なくとも1層の非対称孔構造を有する結晶性ポリマーからなる微孔性膜とを積層して組み込む精密ろ過フィルターであって、前記結晶性ポリマーがフッ素樹脂及びポリオレフィンのいずれかからなることを特徴とする精密ろ過フィルター。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精密ろ過フィルター及びその製造方法、特に、半導体の製造(フォトリソグラフィー)の際に用いられる薬液に含まれる金属イオンを除去する精密ろ過フィルター及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
微孔性膜は電子工業用洗浄水、半導体製造薬液、医薬用水、医薬製造工程用水、食品水等の液体の濾過、減菌に用いられ、近年その用途と使用量は拡大しており、特に粒子捕捉の点から信頼性の高い微孔性ろ過膜が注目され多用されている。特開昭62−49912号公報にはスルホン化ポリスルホンを練り込んだポリスルホン微孔性膜が記載されている。特開平1−188538号公報には弗素樹脂系カチオン交換中空糸膜が記載されている。また、特開平2−187136号公報にはポリオレフィン微孔性膜にキレート基を導入する方法を開示されている。
【0003】
近年、半導体の製造においては、それに使用できる純度が極めて高い超々純水等を得るために、微粒子捕捉と同時にppm未満の濃度で微少に存在する金属イオンをも同時に捕捉できるフィルターの出現が望まれている。金属イオン捕捉能力も有し、酸、アルカリ及び酸化剤といった薬液に対する耐性が強く溶出物の少ない精密ろ過フィルターが特に求められるようになっている。従来このような目的に対して、微孔性膜自身にイオン交換機能を持たせる試みが為されてきた。しかしながら、このような微孔性ろ過膜に金属イオン捕捉機能を付加する試みは、年々厳しくなる半導体製造工程が求める微粒子捕捉性能と両立させることは難しい。またイオン交換容量を十分に付与するには限界があり、フィルターの目詰まり前にイオン交換能力のみが飽和してイオン除去できなくなるという問題が発生していた。
【0004】
上記問題に対して、少なくとも一層の金属イオン捕捉機能を有する繊維シートと、少なくとも一層の微孔性ろ過膜とが積層されて組込まれた精密ろ過フィルターが提案されている(例えば、特許文献1)。
【0005】
しかしながら、特許文献1で提案されている精密ろ過フィルターは、微孔性ろ過膜が非対称ポリスルホン膜であるため、水系と限定された有機溶剤にしか適用できなかった。
また、ポリオレフィンやポリテトラフルオロエチレン膜では、膜厚さ方向全体の孔径制御が難しくなるという問題があるため、膜の非対称化を行うことができず、ろ過流量及び膜寿命が不十分であった。
【0006】
【特許文献1】特開2000−254456号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、従来における前記問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、微孔性膜としてポリスルホン膜を用いた従来の精密ろ過フィルターでは適用することができなかった有機溶剤を用いた有機溶剤系において、流量及び寿命を向上することができ、もって、大きな設備にも適用することができると共に、カートリッジの交換回数を低減してメンテナンスにかかる費用や時間を節減することができ、さらに、半導体製造工程に用いることにより歩留まりを向上することができる精密ろ過フィルター及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 少なくとも1層の金属イオン捕捉機能を有する繊維シートと、少なくとも1層の非対称孔構造を有する結晶性ポリマーからなる微孔性膜とを積層して組み込む精密ろ過フィルターであって、前記結晶性ポリマーがフッ素樹脂及びポリオレフィンのいずれかからなることを特徴とする精密ろ過フィルターである。
<2> フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである前記<1>に記載の精密ろ過フィルターである。
<3> 微孔性膜が、膜の表面の平均孔径が裏面の平均孔径よりも大きくて、且つ表面から裏面に向けて平均孔径が連続的に変化している前記<1>から<2>のいずれかに記載の精密ろ過フィルターである。
<4> 繊維シートがフッ素樹脂及びポリオレフィンのいずれかからなる基体を備える前記<1>から<3>のいずれかに記載の精密ろ過フィルターである。
<5> 前記<1>から<4>のいずれかに記載の精密ろ過フィルターの製造方法であって、未焼成フィルムの裏面を加熱し、微孔性膜の厚み方向に温度勾配を形成させる半焼成工程を含むことを特徴とする精密ろ過フィルターの製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記従来における諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、微孔性膜としてポリスルホン膜を用いた従来の精密ろ過フィルターでは適用することができなかった有機溶剤を用いた有機溶剤系において、流量及び寿命を向上することができ、もって、大きな設備にも適用することができると共に、カートリッジの交換回数を低減してメンテナンスにかかる費用や時間を節減することができ、さらに、半導体製造工程に用いることにより歩留まりを向上することができる精密ろ過フィルター及びその製造方法を提供することができる。
また、本発明の精密ろ過フィルターが濾過機能が高くて長寿命であるという特徴を有することから、濾過装置をコンパクトにまとめることができる。従来の濾過装置では、多数の濾過ユニットを並列的に使用して濾過寿命の短さに対処していたが、本発明の精密ろ過フィルターを用いれば並列的に使用する濾過ユニットの数を大幅に減らすことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の精密ろ過フィルター及びその製造方法について説明する。
【0011】
(精密ろ過フィルター)
前記精密ろ過フィルターは、少なくとも1層の繊維シートと、少なくとも1層の微孔性膜とを有してなり、更に必要に応じて適宜選択したその他のフィルム(膜)を有してなる。
【0012】
例えば、前記精密ろ過フィルターは、差圧0.1kg/cmとして濾過を行った時
に、少なくとも5ml/cm・min以上の濾過が可能なものである。
【0013】
さらに、前記精密ろ過フィルターは、プリーツカートリッジに加工されても、平膜積層型カートリッジに加工されてもよいが、プリーツ状に加工することが好ましい。プリーツ状に加工することにより、カートリッジあたりのフィルターの濾過に使用する有効表面積を増大させることができるという利点がある。
【0014】
<微孔性膜>
前記微孔性膜としては、非対称孔構造を有する結晶性ポリマーからなり、前記結晶性ポリマーがフッ素樹脂及びポリオレフィンのいずれかからなるものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンであることが好ましい。
【0015】
前記微孔性膜は、表面の平均孔径が裏面の平均孔径よりも大きいことを1つの特徴とする。ここでいう平均孔径は、次に示す方法で測定される。すなわち、走査型電子顕微鏡(日立S−4000型、蒸着は日立E1030型)で膜表面の写真(SEM写真、倍率1,000倍〜5,000倍)をとり、得られた写真を画像処理装置(本体名:日本アビオニクス(株)TVイメージプロセッサTVIP−4100II、制御ソフト名:ラトックシステムエンジニアリング(株)TVイメージプロセッサイメージコマンド4198)に取り込んで繊維のみからなる像を得て、その像を演算処理することにより平均孔径が求められる。
前記微孔性膜では、表面と裏面の平均孔径の比(表面/裏面比)が5〜30倍であることが好ましく、10〜25倍であることがより好ましく、15〜20倍であることがさらに好ましい。
【0016】
なお、本願では、平均孔径が大きい方の面を「表面」と言い、平均孔径が小さい方の面を「裏面」と言っているが、これは本発明の説明をわかりやすくするために便宜的につけた呼称に過ぎない。したがって、後述する製造方法にて使用する結晶性ポリマー未焼成フィルムのいずれの面を半焼成後に「表面」にしても構わない。
【0017】
前記微孔性膜には、上記の特徴に加えてさらに表面から裏面に向けて平均孔径が連続的に変化していることも特徴とする態様(第1の態様)と、上記の特徴に加えてさらに単層構造であることも特徴とする態様(第2の態様)の両方が含まれる。これらの付加的な特徴をさらに加えることによって、濾過寿命を効果的に改善することができる。
【0018】
第1の態様でいう「表面から裏面に向けて平均孔径が連続的に変化している」とは、横軸に表面からの厚さ方向の距離d(表面からの深さに相当)をとり、縦軸に平均孔径Dをとったときに、グラフが1本の連続線で描かれることを意味する。表面(d=0)から裏面(d=膜厚)に至るまでのグラフは傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものであってもよいし、傾きが負の領域と傾きがゼロの領域(dD/dt=0)が混在するものであってもよいし、傾きが負の領域と正の領域(dD/dt>0)が混在するものであってもよい。好ましいのは、傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものであるか、傾きが負の領域と傾きがゼロの領域(dD/dt=0)が混在するものである。さらに好ましいのは、傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものである。
【0019】
傾きが負の領域の中には少なくとも膜の表面が含まれることが好ましい。傾きが負の領域(dD/dt<0)においては、傾きが常に一定であっても異なっていてもよい。例えば、前記微孔性膜が傾きが負の領域(dD/dt<0)のみからなるものである場合、膜の表面におけるdD/dtよりも膜の裏面におけるdD/dtが大きい態様をとることができる。また、膜の表面から裏面に向かうにしたがって徐々にdD/dtが大きくなる態様(絶対値が小さくなる態様)をとることができる。
【0020】
第2の態様でいう「単層構造」からは、2以上の層を貼り合わせたり積層したりすることにより形成される複層構造は除外される。すなわち、第2の態様でいう「単層構造」とは、複層構造に存在する層と層の間の境界を有しない構造を意味する。第2の態様では、膜中に、表面の平均孔径よりも小さく且つ裏面の平均孔径よりも大きな平均孔径を有する面が存在することが好ましい。
【0021】
前記微孔性膜は、第1の態様の特徴と第2の態様の特徴を両方とも兼ね備えているものが好ましい。すなわち、膜の表面の平均孔径が裏面の平均孔径よりも大きくて、表面から裏面に向けて平均孔径が連続的に変化しており、且つ、単層構造であるものが好ましい。このような微孔性膜であれば、表面側から濾過を行ったときに一段と効率よく微粒子を捕捉することができ、濾過寿命も大きく改善することができるとともに、容易かつ安価に製造することもできる。
【0022】
前記微孔性膜の膜厚は、1〜300μmであることが好ましく、5〜100μmであることがより好ましく、10〜80μmであることがさらに好ましい。
【0023】
特に、前記微孔性膜は、膜面厚みを10とし、表面から深さ方向1の部分における平均孔径をP1とし、9の部分の孔径をP2としたとき、P1/P2が2〜10,000の範囲にあることが好ましく、3〜100の範囲にあることがより好ましい。
また、前記結晶性ポリマー微孔性膜は、非加熱面と加熱面の平均孔径の比(非加熱面/加熱面比)が5倍〜30倍が好ましく、10倍〜25倍がより好ましく、15倍〜20倍が更に好ましい。
【0024】
前記微孔性膜は、その表面(平均孔径が大きい面)をインレット側として濾過を行う。すなわち、ポアサイズの大きな表面側を精密ろ過フィルターの濾過面に使用する。
【0025】
前記微孔性膜は、比表面積が大きいため、その表面から導入された微細粒子が最小孔径部分に到達する以前に吸着または付着によって除かれる。したがって、目づまりを起こしにくく、長期間にわたって高い濾過効率を維持することができる。
【0026】
<<結晶性ポリマー>>
前記結晶性ポリマーとは、分子構造の中に長い鎖状の分子が規則的に並んだ結晶性領域と、規則的に並んでいない非結晶領域が混在したポリマーを表す。このような樹脂は物理的な処理により、結晶性が発現する。
例えば、ポリエチレンフィルムを外力により延伸すると、始めは透明なフィルムが白濁する現象が認められる。これは外力によりポリマー内の分子配列が一つの方向に揃えられることによって、結晶性が発現したことに由来する。
このような結晶性ポリマーの例としては、ポリアルキレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、液晶性ポリマー等が挙げられ、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、シンジオタクチック・ポリスチレン、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、全芳香族ポリアミド、全芳香族ポリエステル、フッ素樹脂、ポリエーテルニトリル等を挙げることができる。
中でも、本発明では、その耐薬品性と扱い性の観点から、ポリアルキレン(例えば、ポリエチレンおよびポリエチレン)、特に、該アルキレン基の水素原子がフッ素原子によって一部または全部が置換されたフッ素系ポリアルキレンが好ましく使用され、特にその中でもポリテトラフルオロエチレンが好ましく使用される。
ポリエチレンの場合、その分岐度により密度が変化することがよく知られている。通常、分岐度が多く、結晶化度が低いものが低密度ポリエチレン(LDPE)、分岐度が少なく、結晶化度の高いものが高密度ポリエチレン(HDPE)と分類されるが、本発明ではその両方とも用いることができる。中でも結晶性コントロールいう観点で、HDPEの方が好ましい。
【0027】
また、前記結晶性ポリマーは、ガラス転移温度が、40〜400℃であることが好ましく、50〜350℃であることがさらに好ましい。また、前記結晶性ポリマーの重量平均分子量は、1,000〜100,000,000であることが好ましい。さらに、前記結晶性ポリマーの数平均分子量は、500〜50,000,000であることが好ましい。
【0028】
<<微孔性膜の製造方法>>
次に、前記微孔性膜の製造方法について説明する。以下では、前記微孔性膜の好ましい製造工程を具体的に引用しながら説明を行っているが、前記微孔性膜はこれらの具体的な製造方法により製造されたものに限定されるものではない。
【0029】
微孔性膜を製造するに際しては、まず結晶性ポリマー未焼成フィルムを製造することが好ましい。
結晶性ポリマー未焼成フィルムを製造する際に用いる結晶性ポリマー原料の種類は特に
制限されず、上述した結晶性ポリマーを好ましく用いることができる。特に、ポリエチレンもしくはその水素原子がフッ素原子に置換された結晶性ポリマーが使用され、中でも特にポリテトラフルオロエチレンが好ましく使用される。
原料として使用する結晶性ポリマーは、数平均分子量500〜50,000,000のものが好ましく、1,000〜10,000,000のものがより好ましい。
特に、前記微孔性膜の製造方法では、ポリエチレンが好ましく、例えば、ポリテトラフルオロエチレンを用いることができる。ポリテトラフルオロエチレンは、通常、乳化重合法により製造されたポリテトラフルオロエチレンを用いることができ、好ましくは乳化重合により得られた水性分散体を凝析することにより取得した微粉末状のポリテトラフルオロエチレンを使用する。原料として使用するポリテトラフルオロエチレンの数平均分子量は、通常2,500,000〜10,000,000であり、好ましくは3,000,000〜8,000,000である。ポリテトラフルオロエチレン原料として市場で販売されているポリテトラフルオロエチレン原料を適宜選択して使用してもよい。例えば、ダイキン工業株式会社製「ポリフロン・ファインパウダーF104U」等を好ましく用いることができる。
【0030】
本発明においては、結晶性ポリマー原料を押出助剤と混合した混合物を作製し、これをペースト押出して圧延することによりフィルムを調製するのが好ましい。押出助剤としては、液状潤滑剤を用いることが好ましく、具体的にはソルベントナフサ、ホワイトオイルなどを例示することができる。押出助剤としては、市場で販売されているエッソ石油社製「アイソパー」などの炭化水素油を用いても構わない。押出助剤は、結晶性ポリマー100質量部に対して、20〜30質量部使用することが好ましい。
【0031】
ペースト押出しは、通常50〜80℃にて行う。押出し形状は特に制限されないが、通常は棒状にするのが好ましい。押出物は次いで圧延することによりフィルム状にする。圧延は、例えばカレンダーロールにより50m/分の速度でカレンダー掛けすることにより行うことができる。圧延温度は、通常50〜70℃に設定することができる。その後、フィルムを加熱することにより押出助剤を除去して結晶性ポリマー未焼成フィルムとすることが好ましい。このときの加熱温度は用いる結晶性ポリマーの種類に応じて適宜定めることができるが、通常40〜400℃であり、60〜350℃が好ましい。特に、テトラフルオロエチレンを用いる場合、通常150〜280℃、好ましくは200〜255℃に設定する。加熱は、フィルムを熱風乾燥炉に通すなどの方法で行うことができる。このようにして製造される結晶性ポリマー未焼成フィルムの厚さは、最終的に製造しようとしている結晶性ポリマー微孔性膜の厚さに応じて適宜調整する。後の工程で延伸を行う場合には、延伸による厚さの減少も考慮して調整することが必要である。
【0032】
なお、結晶性ポリマー未焼成フィルムの製造に際しては、ポリフロンハンドブック(ダイキン社、1983年改訂版)に記載される事項を適宜採用することができる。
【0033】
微孔性膜の製造方法では、結晶性ポリマー未焼成フィルムを半焼成する。本願において、半焼成とは、結晶性ポリマーをその焼成体の融点以上であり、かつ、その未焼成体の融点+15℃以下の温度で加熱処理することを意味する。本願において結晶性ポリマーの未焼成体とは、焼成の加熱処理をしていないものを意味する。またその融点とは、結晶性ポリマー未焼成体を示差走査熱量計により測定した際に現れる吸熱カーブのピークの温度を意味する。焼成体の融点も未焼成体の融点も結晶性ポリマーの種類や平均分子量等により変化するが、通常、50〜450℃、好ましくは80〜400℃である。
このような温度は、以下のように考えることができる。すなわち、例えば、ポリテトラフルオロエチレンの場合、焼成体の融点が約324℃で未焼成体の融点が約345℃である。従って、半焼成体にするには、ポリテトラフルオロエチレンフィルムの場合、約327〜360℃、好ましくは335〜350℃、例えば345℃の温度に加熱する。半焼成体は、融点約324℃のものと融点約345℃のものが混在している状態である。
【0034】
半焼成は、未焼成フィルムの表面に熱エネルギーを付与し、フィルムの厚み方向に温度勾配を形成させる方法および/またはフィルムの表面に裏面よりも多くの熱エネルギーが供給される方法で行う。このような条件で半焼成を行うことによって、厚さ方向に非対称に焼成度を制御することができ、本発明の第1の態様に係る結晶性ポリマー微孔性膜を容易に製造することができる。ここでいう焼成度については特開平5−202217号公報の説明を参照することができる。
【0035】
また、フィルムの厚み方向の温度勾配としては、表面と裏面の温度差が30℃以上、好ましくは50℃以上であることが好ましい。
【0036】
熱エネルギーの供給については、本発明の工程中、連続的に供給する方法、もしくは何度かに分割して間欠的にエネルギーを供給する方法のいずれも採用することができる。上記半焼成工程の定義上、膜面の表裏で温度に差を生じさせることが必要であるが、この方法として、間欠的にエネルギーを供給することにより裏面の温度上昇を抑えるという方法が利用できる。一方、連続的に加熱する場合、この温度勾配を保持するために、表面の加熱と同時に裏面を冷却するという方法も有効に使用できる。
【0037】
熱エネルギーの供給方法としては、熱風を吹き付ける方法、熱媒に接触させる方法、加熱した材料に接触させる方法、熱線を照射する方法、マイクロ波等電磁波による加熱など種々の方法が使用できる。この方法として特に制限はされないが、好ましくは、フィルムの表面に加熱物を接触させることにより行う。加熱物としては、加熱ロールを選択することが特に好ましい。加熱ロールであれば、工業的に流れ作業で連続的に半焼成を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。加熱ロールの温度は、上記の半焼成体にする際の温度に設定することができる。加熱ロールにフィルムを接触させる時間は、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間であり、通常30秒〜120秒であり、好ましくは45秒〜90秒であり、より好ましくは60秒〜80秒である。
【0038】
逆に裏面を冷却する工程を実施する場合も、冷風を吹き付ける方法、冷媒に接触させる方法、冷却した材料に接触させる方法、放冷による冷却等種々の方法が使用できる。この方法として特に制限はされないが、好ましくは、フィルムの表面に冷却物を接触させることにより行う。冷却物としては、冷却ロールを選択することが特に好ましい。冷却ロールであれば、表面の加熱と同様に、工業的に流れ作業で連続的に半焼成を行うことができ、しかも温度制御や装置のメンテナンスも容易である。冷却ロールの温度は、上記の半焼成体にする際の温度と差を生じさせるように設定することができる。冷却ロールにフィルムを接触させる時間は、目的とする半焼成が十分に進行するのに必要な時間であり、加熱工程と同時進行で行うことを前提とすると、通常30秒〜120秒であり、好ましくは45秒〜90秒であり、より好ましくは60秒〜80秒である。
【0039】
加熱ならびに冷却ロールの表面材質は、一般に耐久性に優れるステンレス鋼とすることができ、特にSUS316を挙げることができる。本発明の製造方法では、フィルムの表面を加熱ならびに冷却ロールに接触させることが好ましいが、当該加熱ならびに冷却ロールよりも低い温度に設定されたローラーをフィルムの裏面に接触させても構わない。例えば、常温に維持されたローラーをフィルム裏面から圧接させて、フィルムを加熱ロールにフィットさせるようにしてもよい。また、加熱ロールに接触させる前または後において、フィルムの裏面をガイドロールに接触させても構わない。
【0040】
半焼成したフィルムは、次いで延伸することが好ましい。延伸は、長手方向と幅方向の両方について行うことが好ましい。長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行ってもよいし、同時に二軸延伸を行ってもよい。
【0041】
長手方向と幅方向について、それぞれ逐次延伸を行う場合は、まず長手方向の延伸を行ってから幅方向の延伸を行うことが好ましい。長手方向の延伸倍率は、通常4倍〜100倍、好ましくは8倍〜90倍、より好ましくは10倍〜80倍である。長手方向の延伸温度は、通常100℃〜300℃、好ましくは200℃〜290℃、より好ましくは250℃〜280℃である。幅方向の延伸倍率は、通常10〜100倍、好ましくは12〜90倍、より好ましくは15〜70倍、特に好ましくは20〜40倍である。幅方向の延伸温度は、通常100℃〜300℃、好ましくは200℃〜290℃、より好ましくは250℃〜280℃である。面積延伸倍率は、通常50倍〜300倍、好ましくは75倍〜280倍、より好ましくは100倍〜260倍である。延伸を行う際には、予め延伸温度以下の温度にフィルムを予備加熱しておいてもよい。
【0042】
延伸後に、必要に応じて熱固定を行うことができる。熱固定の温度は、通常、延伸温度以上で結晶性ポリマー焼成体の融点未満で行う。
また、熱固定後に、必要に応じて親水化を行うことができる。前記親水化は、例えば、過酸化水素水中に予めエタノールを含浸させた微孔性膜を浸漬し、引き上げた微孔性膜の上方からArFエキシマレーザー光(193nm)を照射することによって行う。
【0043】
−親水化工程−
前記親水化工程は、延伸後のフィルムを親水化処理する工程である。
前記親水化処理としては、(1)延伸後のフィルムに過酸化水素水または水溶性有機溶剤の水溶液を含浸させた後、紫外線レーザーを照射する処理、(2)化学的エッチング処理、などが挙げられる。
【0044】
前記(1)の延伸後のフィルムに過酸化水素水または水溶性有機溶剤の水溶液を含浸させた後、紫外線レーザーを照射する処理に使用しうる水溶性有機溶剤としては、エーテル類(例えば、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールモノアルキルエーテル、エチレングリコールジアルキルエーテル、ジエチレングリコールモノアルキルエーテルおよびジエチレングリコールジアルキルエーテル等)、ケトン類(例えば、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、ジアセチルおよびアセチルアセトン等)、アルコール類(メタノール、エタノール、プロパノール、ヘキシルアルコール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、ブタノール、エチレンクロロヒドリンおよびグリセリン等)、アルデヒド類(例えば、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド等)、アミン類(例えば、トリエチルアミン、ピペリジン等)およびエステル類(例えば、酢酸メチル、酢酸エチル等)等が挙げられる。
これらの中でもケトン類が好ましく、さらにいえばアセトン、メチルエチルケトンが好ましく、中でもアセトンが特に好ましい。結晶性ポリマー微孔性膜に含浸する段階での過酸化水素水または水溶性有機溶剤の濃度は結晶性ポリマー微孔性膜の材質及び細孔の大きさによって若干変動するが、アセトン及びメチルエチルケトンの場合、好ましくは85質量%〜100質量%である。また、紫外レーザー光照射時の結晶性ポリマー微孔性膜内部の過酸化水素水または水溶性有機溶剤の濃度は、使用する紫外レーザー光の波長における吸光度として0.1〜10が好ましい。例えばこれはアセトンの場合、光源としてKrFを使用する場合は、0.05質量%〜5質量%に相当する。吸光度として0.1〜6が好ましく、0.5〜5がより好ましい。この濃度範囲に調整された過酸化水素水または水溶性有機溶剤を含んだ結晶性ポリマー微孔性膜に紫外レーザー光を照射する場合には、従来よりもかなり低い照射量で既に満足すべき親水化効果が得られる。
【0045】
一般的には、沸点が50℃〜100℃の水溶性有機溶剤を用いる場合には、紫外レーザー照射による親水化処理効率が高く、親水化処理後の溶剤除去も容易であるが、沸点が100℃よりも高い水溶性有機溶剤を用いる場合には、親水化処理後の水溶性有機溶剤除去が困難となる。
【0046】
水溶性有機溶剤を含浸した結晶性ポリマー微孔性膜に紫外レーザー光を照射して親水化処理するに当たっては、均一で高い親水化処理効果を得るために、水溶性有機溶剤を含浸した結晶性ポリマー微孔性膜に水を含浸させて結晶性ポリマー微孔性膜中の水溶性有機溶剤水溶液の濃度を、使用する紫外レーザー光の波長における吸光度が0.1〜10、好ましくは0.1〜6、特に好ましくは0.5〜5となるように調整する。前記吸光度が0.1よりも低い場合には十分な親水化処理効果が得難くなることがあり、10よりも高くなると、水溶液による光エネルギーの吸収が大きくなり、微孔内部までの十分な親水化処理が困難となることがある。
結晶性ポリマー微孔性膜中の水溶性有機溶剤水溶液の濃度を調整するために水を含浸させる方法としては、同じ水溶性有機溶剤の極く低濃度の水溶液中に浸漬するのが好ましい。
ここで、前記吸光度とは、次式で定義される量を意味する。
吸光度≡log10(I/I)=εcd
ただし、εは水溶性有機溶剤の吸光係数、cは水溶性有機溶剤水溶液の濃度(モル/dm3)、dは透過光路長さ(cm)、Iは溶媒単独の光透過強度、Iはその溶液の光透過強度を表す。本発明で、吸光度がxとなる濃度とは、dが1cmの測定セルで測定した場合に吸光度がxとなるような濃度を意味する。ただし、dが1cmでは透過光量が少なすぎて吸光度の測定が困難であるような高い濃度の場合は、dが0.2cmの測定セルを使用して得られた吸光度を5倍したものを吸光度とした。
【0047】
前記過酸化水素水または水溶性有機溶剤の水溶液を結晶性ポリマー微孔性膜に含浸させる方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、浸漬法、噴霧法、塗布法等を結晶性ポリマー微孔性膜の形態や寸法等に応じて適宜採用すればよいが、浸漬法が一般的である。
前記過酸化水素水または水溶性有機溶剤又はその水溶液の含浸温度は、結晶性ポリマー微孔性膜の微孔内への水溶液の拡散速度の観点からは10℃〜40℃が好ましい。含浸温度が10℃よりも低い場合には、微孔内部へ水溶液を十分に拡散させるのに比較的長い時間が必要となり、また、40℃よりも高くなると、水溶性有機溶剤の蒸発速度が高くなり、好ましくない。
【0048】
前記含浸処理に付した結晶性ポリマー微孔性膜は含浸されている過酸化水素水または水溶性有機溶剤の濃度を上記範囲に調整したのち以下の紫外レーザー光照射処理に付される。
紫外レーザー光としては、波長が190nm〜400nm以下のものが好ましく、アルゴンイオンレーザー光、クリプトンイオンレーザー光、Nレーザー光、色素レーザー光、及びエキシマレーザー光等が例示されるが、エキシマレーザー光が好適である。これらの中でも、高出力が長時間にわたって安定して得られるKrFエキシマレーザー光(波長:248nm)、ArFエキシマレーザー光(波長:193nm)及びXeClエキシマレーザー光(308nm)が特に好ましい。
前記エキシマレーザー光照射は、通常、室温、大気中で行うが、窒素雰囲気中で行うのが好ましい。また、エキシマレーザー光の照射条件は、フッ素樹脂の種類及び所望の表面改質の程度によって左右されるが、一般的な照射条件は次の通りである。
・フルエンス:10mJ/cm/パルス以上
・入射エネルギー:0.1J/cm以上
【0049】
特に好適なKrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、及びXeClエキシマレーザー光の常用される照射条件は次の通りである。
・KrFフルエンス:50〜500mJ/cm/パルス入射エネルギー:0.25〜10.0J/cm
・ArFフルエンス:10〜500mJ/cm/パルス入射エネルギー:0.1〜10.0J/cm
・XeClフルエンス:50〜600mJ/cm/パルス入射エネルギー:3.0〜100J/cm
【0050】
前記(2)の化学的エッチング処理としては、アルカリ金属を用いて、結晶性ポリマー微孔性膜を構成するフッ素樹脂を変性し、その変性された部分を除去する酸化分解処理が挙げられる。
前記酸化分解処理は、例えば、有機アルカリ金属溶液を用いて行われる。結晶性ポリマー微孔性膜に、有機アルカリ金属溶液により化学的エッチング処理を施すと、表面は変性され親水性が付与されるとともに、褐色化した層(褐色層)が形成される。この褐色層は、フッ化ナトリウム、炭素−炭素二重結合を有するフッ素樹脂の分解物、これらとナフタレン、アントラセンとの重合物等からなるが、これらは、脱落、分解、溶出等により濾過液に混入する場合があるので、除去することが好ましい。これらの除去は、過酸化水素や次亜塩素酸ソーダ、オゾン等による酸化分解によりすることができる。
【0051】
前記化学的エッチング処理は、有機アルカリ金属溶液等を用いて行うことができるが、具体的には、有機アルカリ金属溶液に結晶性ポリマー微孔性膜を浸漬することにより行うことができる。この場合、結晶性ポリマー微孔性膜の表面側から化学的エッチング処理が行われるので、膜の両表面近傍のみに化学的エッチング処理を施すことも可能である。しかし、膜の保水性をより高めるためには、両表面近傍のみではなく、結晶性ポリマー微孔性膜の内部まで化学的エッチング処理を施すことが好ましい。結晶性ポリマー微孔性膜の内部まで化学的エッチング処理を施しても、分離膜としての機能の低下は小さい。
前記化学的エッチング処理に用いられる有機アルカリ金属溶液としては、例えばメチルリチウム、金属ナトリウム−ナフタレン錯体、金属ナトリウム−アントラセン錯体のテトラヒドロフラン等の有機溶剤溶液、金属ナトリウム−液体アンモニアの溶液等が挙げられる。これらの中でも、ナフタレンを芳香族アニオンラジカルとした金属ナトリウムとの錯体の溶液が一般に広く用いられているが、結晶性ポリマー微孔性膜の内部まで化学的エッチング処理を施こすためには、ベンゾフェノン、アントラセン、ビフェニルを芳香族アニオンラジカルとして用いることが好ましい。
【0052】
<繊維シート>
前記繊維シートとしては、金属イオン捕捉機能を有するものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ポリオレフィン及びフッ素樹脂のいずれかからなる基体を備えることが好ましい。
【0053】
前記金属イオン捕捉機能を有する繊維シートは、微孔性膜の両側に設置しても、また片側だけに設置してもよい。イオン交換樹脂粒子を含有する繊維シートを使用する場合は、繊維シートからの粒子脱落を防止するために、金属イオン捕捉機能を有する繊維シートは微孔性膜の一次側だけに用いることが好ましい。プリーツカートリッジにおいても、一次側の繊維シートは二次側よりも厚いものが使用できるので、一次側に厚く従って金属イオン捕捉容量の大きい繊維シートを設置し、二次側には金属イオン捕捉機能を有しない繊維シートを設置することにより、比較的安価で効果の大きな構成にできる。
【0054】
前記繊維シートの金属イオン捕捉機能は、イオン交換基を導入した繊維を用いて不織布あるいは織布をつくり、繊維シートとするか、イオン交換樹脂粒子を不織布あるいは織布に保持させることにより、あるいはキレート基を導入した繊維を用いて不織布あるいは織布をつくり繊維シートとすることにより達成することができる。繊維シートにイオン交換基を導入する方法は、たとえばポリプロピレンを芯成分とし、ポリエチレンを鞘成分とする繊維を濃硫酸処理してスルホン酸基を導入する方法が特開平6−207321号公報に、繊維の表面に放射線照射して陽イオン交換基を有するモノマーをグラフト化する方法が特公平5−67325号公報などに記載されている。ポリオレフィン系不織布を希釈した三酸化硫黄ガスでスルホン化する方法が特開平1−132042号公報に開示されている。また、スルホン化ポリスルホン樹脂を紡糸することによって、あるいは極性溶剤にスルホン化ポリスルホンを溶解した溶液に繊維を浸漬し乾燥することによっても、イオン交換基を有する繊維が得られる。イオン交換繊維を不織布にする方法は例えば特開平9−75646号公報に記載されている。イオン交換樹脂粒子を不織布に保持する方法は例えば特開平1−132043号公報に記載されている。
【0055】
金属キレートを形成するイミノジ酢酸基を有する繊維、及び金属イオンを交換するスルホン酸基を有する繊維は、たとえば東レよりそれぞれTIN−600及びTIN−100の品番で販売されている。金属イオン交換基としてはスルホン酸基の他にカルボキシル基も使用できる。耐薬品性の高い繊維シートの基体としては微孔性膜素材と同様に、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、エチレン/クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)やポリ弗化ビニリデンの如きフッ素樹脂やポリオレフィンが好ましい。また、繊維シート基体の素材と微孔性膜素材とは同一素材あるいは類似素材であることが好ましい。
【0056】
繊維シートは、織布あるいは不織布が用いられるが、特に不織布は金属イオン捕捉機能を付与しやすく安価であることから好ましい。使用する繊維シートの繊維径は10μm以上50μm以下のものが使用できる。繊維径が太いほうが腰が強く強度のあるシートにできる。しかし、一方太すぎるとシートの目が粗くなりすぎゴワゴワして加工が難しくなる。従って、好ましくは14μm以上35μm以下の繊維がよく、特に好ましくは17μm以上25μm以下のものがよい。繊維シートの目付は、大きくするとイオン交換(イオン捕捉)容量が増加し、機械的強度も大きくなって好ましいが、一方カートリッジに組み込める膜面積の減少を招くという大きな障害を生じる。従って、目付は20〜80g/m2 が好ましく、特に30〜60g/m2 が好ましい。繊維シートのイオン交換容量は、大きければ大きいほど長期間フィルター交換なしに使用できるので好ましい。半導体薬液ろ過用途では0.2meq/g以上の陽イオン交換容量をもつ繊維シートが好ましい。特に1meq/g以上のものが好ましい。
【0057】
<その他のフィルム(膜)>
前記その他のフィルム(膜)としては、本発明の効果を害しない限り特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0058】
(精密ろ過フィルターの製造方法)
前記精密ろ過フィルターの製造方法としては、未焼成フィルムの裏面を加熱し、微孔性膜の厚み方向に温度勾配を形成させる半焼成工程を含むものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、半焼成フィルムを延伸する延伸工程、延伸したフィルムを熱固定する熱固定工程、熱固定したフィルムを親水化する親水化工程、カートリッジ加工工程等が挙げられる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。ただし本発明はこの実施例のみに限定されるものではない。
【0060】
(実施例1)
数平均分子量が6,200,000のポリテトラフルオロエチレンファインパウダー(ダイキン工業株式会社製「ポリフロン・ファインパウダーF104U」)100質量部に押出助剤として炭化水素油(エッソ石油社製「アイソパーM」)27質量部を加え、丸棒状にペースト押出しを行い、これを70℃に加熱したカレンダーロールにより50m/分の速度でカレンダー掛けしてポリテトラフルオロエチレンフィルムを得た。このフィルムを250℃の熱風乾燥炉に通して押出助剤を乾燥除去し、平均厚さ100μm、平均幅150mm、比重1.55のポリテトラフルオロエチレン未焼成フィルムを得た。
得られた未焼成フィルムを345℃に加熱したロール(表面材質:SUS316)で1分間焼成し、半焼成フィルムを得た。
【0061】
得られた半焼成フィルムを250℃にて長手方向に10倍にロール間延伸し、いったん巻き取りロールに巻き取った。その後、フィルムを290℃に予備加熱した後、両端をクリップで挟み250℃で幅方向に20倍延伸した。その後、380℃で熱固定を行った。フィルムの面積延伸倍率は、伸長面積倍率で180倍であった。以上の方法により、ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を製造した。
【0062】
(親水化)
濃度0.03質量%の過酸化水素水中に、予めエタノールを含浸させた上記ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を浸漬し(液温:40℃)、20時間後に引きあげた該微孔性膜の上方から、フルエンス25mJ/cm/パルス、照射量10J/cmの条件下でArFエキシマレーザー光(193nm)を照射し、実施例1の親水性ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜を作製した。
該微孔性膜の濡れ性は、純水で十分洗浄し、乾燥させた後、JISK6768に規定された濡れ指数標準液で測定した。即ち、表面張力が順を追って変化する一連の混合液を該微孔性膜に順次滴下してゆき、該微孔性膜を濡らすと判定される混合液の最高の表面張力を濡れ指数として評価した。結果、該微孔性膜の濡れ指数は52であった。この濡れ指数は、紫外レーザー光を照射しないポリテトラフルオロエチレン製微孔性膜の値(31dyn/cm未満)に比べて著しく大きい。このことは、本発明によってフッ素樹脂表面の濡れ性が大幅に改善されたことを示す。
【0063】
(カートリッジ加工)
東レ製陽イオン交換繊維TIN−100(繊維径40ミクロン、イオン交換容量3meq/g)を35部、芯がポリプロピレンで鞘がポリエチレンの結着繊維(繊維径 24ミクロン)65部からなる不織布(目付45g/m)を一次側に、次に前記ポリテトラフルオロエチレン微孔性膜、そして膜の二次側にポリプロピレン不織布(三井石油化学製シンテックスPK−110)を重ね、プリーツ加工して10インチのプリーツカートリッジに組み込んだ。
【0064】
(比較例1)
カートリッジに組み込むポリテトラフルオロエチレン微孔性膜として、その作製において、ロールを用いた半焼成の代わりに、345℃のオーブンを用い、実施例1と同様にして作製したポリテトラフルオロエチレン微孔性膜、を用いた。
【0065】
(比較例2)
カートリッジに組み込むポリテトラフルオロエチレン微孔性膜の代わりに、富士フイルム製ポリスルホンミクロフィルターSE−10(孔径0.1ミクロン、膜厚さ135ミクロン、空隙率78%)を用いた。
【0066】
(評価)
実施例1と比較例1で、微孔性膜の膜面厚みを10とした場合、表面から深さ方向1の部分における平均孔径をP1とし、9の部分の孔径をP2とした。
各例におけるP1/P2を比較すると実施例1はP1/P2=4.5であった。一方比較例1は片面加熱による半焼成化処理を行ってないためP1/P2=0.95であり、非対称膜ではなかった。
また実施例1と比較例1の最小孔径部位はいずれも孔径0.1μmであった。
【0067】
(金属イオン捕捉能評価)
実施例1の精密ろ過フィルター(カートリッジ)で塩化第一鉄1000ppb濃度の水溶液20リットルを毎分10リットルの流量で10分間循環ろ過すると、液中の塩化鉄濃度は10ppb未満に低下していた。
【0068】
(濾過寿命テスト)
実施例1の精密ろ過フィルター(カートリッジ)と比較例1の精密ろ過フィルター(カートリッジ)について濾過寿命テストを行った。ポリスチレンラテックス(平均粒子サイズ0.05μm)を0.01%含有する水溶液を、差圧0.1kg/cmとして濾過を行った。結果を表に示した。その結果、比較例1の精密ろ過フィルター(カートリッジ)は500ml/cm2で実質的に目づまりを起こしたのに対し、実施例1の精密ろ過フィルター(カートリッジ)は1400ml/cm2まで濾過が可能であり、実施例1の精密ろ過フィルター(カートリッジ)を用いることによって、濾過寿命が大幅に改善されていることが実証された。
【0069】
(耐溶剤性テスト)
実施例1と比較例2の精密ろ過フィルター(カートリッジ)をアセトンおよび酢酸エチルに常温で24時間浸漬した。結果、実施例1のカートリッジは全く変化せず耐溶剤性に優れるものであった。一方、比較例2のカートリッジではポリスルホン製の微孔性膜が溶解してしまい耐溶剤性に劣るものであった。
【0070】
(有機溶剤による濾過寿命テスト、濾過流量テスト)
被濾過流体である試験液は、フェノール樹脂をトルエンに溶解し、粘度を約15mPa・s(15cP)に調整したものを使用した。
カートリッジ(精密ろ過フィルター)の濾過寿命を評価するために、この試験液を差圧0.1kg/cmで濾過し、目詰まりするまでの濾過量を計測した。その結果、比較例1のカートリッジ(精密ろ過フィルター)はそれぞれ50ml/cmで実質的に目づまりを起こしたのに対し、実施例1のカートリッジ(精密ろ過フィルター)は200ml/cmまで濾過が可能であり、実施例1のカートリッジ(精密ろ過フィルター)を用いることによって、濾過寿命が大幅に改善されていることが実証された。このとき比較例2のカートリッジでは微孔性膜が溶解してしまい測定不可であった。
また、濾過後の試験液(濾液)の清浄度を評価するため、濾液を孔径0.05μmのニュークリポアメンブレンで濾過し、一定時間ごとの濾過量を計測したが、実施例1および比較例1のカートリッジ(精密ろ過フィルター)でほとんど差はなく、いずれも清浄なものであった。
さらに同じ試験でカートリッジ(精密ろ過フィルター)の濾過流量を評価するために、初期の流量を評価したところ比較例1のカートリッジ(精密ろ過フィルター)は50ml/cm・分であったのに対し、実施例1のカートリッジ(精密ろ過フィルター)は100ml/cm・分であり、有機溶剤に対する濾過流量が大幅に改善されていることが実証された。このとき比較例2のカートリッジでは微孔性膜が溶解してしまい測定不可であった。
【0071】
本発明の精密ろ過フィルター(カートリッジ)は微孔性膜としてほとんどの有機溶剤に耐性があるポリテトラフルオロエチレンを用いているためほとんど全ての半導体製造工程で用いられる有機溶剤系の薬液(例えば、シンナー、トルエン、テトラヒドロフラン、アセトン、MEK、酢酸エチル、メタノール、エタノール、イソプロパノールなど)で使用可能であった。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1層の金属イオン捕捉機能を有する繊維シートと、少なくとも1層の非対称孔構造を有する結晶性ポリマーからなる微孔性膜とを積層して組み込む精密ろ過フィルターであって、前記結晶性ポリマーがフッ素樹脂及びポリオレフィンのいずれかからなることを特徴とする精密ろ過フィルター。
【請求項2】
フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである請求項1に記載の精密ろ過フィルター。
【請求項3】
微孔性膜が、膜の表面の平均孔径が裏面の平均孔径よりも大きくて、且つ表面から裏面に向けて平均孔径が連続的に変化している請求項1から2のいずれかに記載の精密ろ過フィルター。
【請求項4】
繊維シートがフッ素樹脂及びポリオレフィンのいずれかからなる基体を備える請求項1から3のいずれかに記載の精密ろ過フィルター。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の精密ろ過フィルターの製造方法であって、未焼成フィルムの裏面を加熱し、微孔性膜の厚み方向に温度勾配を形成させる半焼成工程を含むことを特徴とする精密ろ過フィルターの製造方法。

【公開番号】特開2009−119415(P2009−119415A)
【公開日】平成21年6月4日(2009.6.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−298519(P2007−298519)
【出願日】平成19年11月16日(2007.11.16)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】