説明

精密濾過装置及び精密濾過方法

【課題】微粒子分散液の精密な濾過を、目詰まりの確実な防止の下に効率的に行なうことができる濾過装置及び濾過方法を提供する。
【解決手段】被濾過液を受け入れる濾過槽11と、該濾過槽の下端部に設けられた濾材13と、該濾材の下方に設けられた受液槽12とを備えた濾過容器10、及び、濾過槽11内の被濾過液に撹拌流を生じさせるように濾過容器10を振蘯させるための加振装置60を備えた精密濾過装置、並びに、分散粒子の平均粒子径が10μm以下であり粘度が1000cps以下の分散液について前記精密濾過装置を用いて行なう精密濾過方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、微粒子分散液の精密な濾過を行なうための方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の情報技術(IT)の進展に伴い、原材料の高性能化、高純度化、高精密化が厳しく要求されるようになり、極微小の異物や所定粒径以上の充填粒子の除去が必要となっている。従来、これに応じるべく加圧濾過法、減圧濾過法等が採用されている。これらの方法は、常圧の濾過では困難な分散液の濾過を行なうことを目的とするものであり、広範囲に実施されている。しかしながら、これらの方法では分散液のレオロジー(特に粘度、チクソトロピー性)、粒子の粒度分布等の性質によって、精密な濾過ができない場合も少なからずある。特に、濾材の通過孔より大きい粒子が被濾過液に高い割合で存在すると、濾材に目詰まりが生じ、いったん目詰まりが生じると、本来通過するべき粒子も濾材上に堆積し、全液の濾過ができなくなったり、できたとしても溶媒分のみが選択的に通過し、本来の組成と異なった処理液しか得ることができなくなる。また加圧、減圧等の強い圧力で濾過を行うと、その圧力で堆積物(充填粒子)が濾材に押しつけられ、より強固に濾材に付着し、却って目詰まりを高じさせることもある。このような問題が発生した場合は、より大きな通過孔をもつ濾材に変更して処理を行い、本来の要求とかけ離れた品質で妥協しながら、対応しているのが一般的である。
【0003】
このような状況において、目詰まり防止の観点から、以下に述べる方法が提案されている。
1.羽根を回転させながら濾過を行い、羽根により堆積したケーク層を掻き取る。
2.目詰まりが生じたら、液を逆流させて濾材上の堆積物を洗い流す。(逆洗法)
3.連続的に微振動(バイブレーション)を与えて濾過を行い、濾材の目詰まりを緩和する。
【0004】
しかしながら、上記1では濾材が損傷し易く、上記2では目詰まり防止効果が十分に得られない。上記3に関しては、様々な方法や装置が提案されている(特許文献1〜3)。これらの内、特許文献1の装置は、フィルタ部に圧電振動器又は電磁的な振動器により振動を与えるものであり、その振動原理から振幅は小さなものとなる。その結果、この装置は液体中の気泡を除去するに過ぎず、目詰まり防止に十分な効果を奏しない。特許文献2の装置は、フィルタを内蔵したチャンバを超音波振動子で加振するものであり、超音波振動による微振動では、被濾過液の微粒子濃度がフィルタ付近で高くなり、濾過速度が低下する。特許文献3のものは、ラテックス中の凝固物のような巨大粒子をスクリーンで篩い分ける篩装置であり、篩枠を振動させるが、スクリーンが400メッシュを越えると目詰まりを生じるとされている。
ものであり、
【特許文献1】特許第2570168号公報
【特許文献2】特表2000−501651号公報
【特許文献3】実開昭59−131216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、微粒子分散液の精密な濾過を、目詰まりの確実な防止の下に効率的に行なうことができる濾過装置及び濾過方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記目的を達成するため、被濾過液を受け入れる濾過槽と、該濾過槽の下端部に設けられた濾材と、該濾材の下方に設けられた受液槽とを備えた濾過容器、及び、前記濾過槽内の被濾過液に撹拌流を生じさせるように該濾過容器を振蘯させるための加振装置を備えたことを特徴とする精密濾過装置を提供するものである。
【0007】
本発明はまた、前記目的を達成するため、分散粒子の平均粒子径が10μm以下であり、粘度が1000cps以下の分散液の精密濾過方法であって、被濾過液を受け入れる濾過槽と、該濾過槽の下端部に設けられた濾材と、該濾材の下方に設けられた受液槽とを備えた濾過容器を、被濾過液に撹拌流を生じさせるように振蘯させることを特徴とする精密濾過方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る精密濾過装置は、濾過槽と受液槽との間に濾材を設けた濾過容器と、濾過槽内の被濾過液に撹拌流を生じさせるように該濾過容器を振蘯させるための加振装置とを備えているので、濾過容器及び濾材の双方が振蘯され、被濾過液が濾材付近で大きく流動する。これにより、濾材の目を塞ぐように付着した微粒子は直ちに濾材から分離され、濾材の目詰まりが確実に防止される。従来の静的な加圧濾過では、加圧によってより強固に堆積物が濾材に付着し、却って濾過を困難にする場合もあるが、本発明によれば、振蘯による圧力が衝撃的に且つ間欠的に繰り返し作用するので、強固な堆積が生じ難い。また、振蘯は、濾過槽内の被濾過液に撹拌流を生じさせるように行なわれるので、被濾過液における微粒子濃度が均一化され、濾材付近での微粒子濃度の上昇とこれに伴う濾過能率の低下が防止され、効率的な精密濾過を持続することができる。さらに、チクソトロピー性を有する被濾過液の場合は、振蘯の撹拌作用により粘度が低下し、より効率的に濾過が促進される。
【0009】
本発明に係る精密濾過方法は、分散粒子の平均粒子径が10μm以下であり、粘度が1000cps以下の分散液の精密濾過に、上記精密濾過装置を用い、被濾過液に撹拌流を生じさせるように振蘯させるので、精密濾過装置による前述の濾過の効率化と目詰まり防止効果が得られ、特に目詰まりを生じやすい分散粒子の上記平均粒子径及び粘度の分散液であっても、目詰まりを防止して効率よく精密濾過を行なうことができる。
[発明の望ましい諸形態]
本発明装置及び方法は、濾材が目開き20μm以下の濾面を有している場合に、従来では得られなかった、特に高い目詰まり防止効果を発揮する。この高い目詰まり防止効果はさらに、目開き3〜10μmの濾材を用いた場合により顕著に得られる。
【0010】
本発明装置及び方法における振蘯は、濾過槽11内の被濾過液に撹拌流を生じさせるように行なわれ、そのためには、濾過容器11を10mm以上であって前記濾過槽の最大内のり寸法より小さい振幅で振蘯させるのが望ましい。振幅がこの下限未満であると、被濾過液の撹拌流が適切に生じず、濾材13の目詰まり防止効果が十分に得られない場合がある。また、振幅が上記上限を越える大きさとなると、駆動機構の負荷が大きくなり装置が大型化する割には、得られる目詰まり防止効果は増大しない。この観点から、濾過容器の振蘯の振幅は、20mm以上であって前記濾過槽の最大内のり寸法の1/2より小さい値とするのが、より望ましい。
【0011】
濾過槽の最大内のり寸法は、濾過容器における濾過槽の最も大きな内のり部分の寸法をいう。例えば、濾過槽が直方体の場合は、その内面において、最も離れた角部同士を結ぶ距離となる。濾過槽が円筒形の場合は、その内面において、側面の一部分と一方の端面との交点から、対向する側面部分と他方の端面との交点までの距離(円筒内を斜めに差し渡す距離)となる。
【0012】
また、加振装置による濾過容器の振蘯は、20〜2000サイクル/分の振動数で行なうのが望ましい。振蘯の振動数がこの下限未満であると、被濾過液の撹拌流が適切に生じず、濾材13の目詰まり防止効果が十分に得られない場合がある。また、振幅が上記上限を越える大きさとなると、駆動機構の負荷が大きくなり装置が大型化する割には、得られる目詰まり防止効果は増大しない。この観点から、濾過容器の振蘯の振動数は、30〜300サイクル/分とするのが、より望ましい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照しつつ説明する。図面中の同一又は同種の部分については、同じ番号を付して説明を省略することがある。
【0014】
図1は、本発明に係る精密濾過装置の一実施形態を概略的に示している。この精密濾過装置は、被濾過液を受け入れる濾過槽11と、該濾過槽の下端部に設けられた濾材13と、該濾材の下方に設けられた受液槽12とを有した濾過容器10を備えている。
【0015】
濾過容器10は、断面が円形、長円形、多角形等の筒状、錐状、錐台状、直方体状等の種々の形状とすることができる。また、寸法及び容量は、被濾過液の処理量等に応じて適宜決めることができる。この実施形態では、濾過容器10は、円筒状とされ、軸方向に分離できるように2分割されており、下端は閉鎖され、上端には脱着可能な蓋部110が設けられている。
【0016】
濾過槽11は、分割された上部の円筒部で形成され、上端付近に被濾過液供給用の供給筒111が設けられている。受液槽12は、下部の円筒部で形成され、その上端部を濾過槽11の下端部に嵌合し脱着可能とされている。受液槽12の下端部からは、排出筒120が下方へ延びている。濾過槽11及び受液槽12は、金属製、プラスチック製等とすることができ、熱変形防止のためには金属製とするのが望ましい。
【0017】
濾材13は、濾過槽11の下端部に取り付けられている。濾材は、織物や編物等による濾布、高分子材料等による多孔質膜、金属製フィルタ等、精密濾過用の種々のものを使用することができる。これらの中で、濾布は、濾過開口部による処理液の流通経路がシンプルであるので、濾過処理の高い生産性が得られる。多孔質膜は、目開きの微細なものによる高度な精密濾過も可能であり、開口率も高い。金属フィルタは機械的強度が高く、振蘯に対する耐久性に優れている。
【0018】
濾材の濾面の目開きは、必要とされる通過粒子径の大きさに応じて決められる。特に、20μm以下の目開きの場合に、従来に比して高い目詰まり防止効果を発揮する。濾材13を濾過槽11に取り付けるには、濾過槽の開口端に濾材を配置し、さらに保持リングを重ねて固定する等、通常取られる種々の手段を用いることができる。
【0019】
濾過容器10は、保温ボックス30内に収容されており、保温ボックス30は底壁31、側壁32、上壁33を備えて内部に保温室を形成している。保温ボックス30の底壁には、濾過容器10を支持するためのフレーム40が可動機構50を介して支持されている。保温ボックス10は、処理液の粘度を下げ、より処理効率を上げるために温度調整機能が付いた密閉型とするのが望ましく温度設定機能は、室温から200℃程度までの温度設定が可能な可変型が好ましい。被濾過液が溶媒に有機溶剤を含んでいる場合は、安全性の観点から低温での処理が望ましく、被濾過液が溶媒に樹脂系材料を用いている場合は、その樹脂の分解する温度を限度とし一般的には120℃あたりの温度で処理することが多い。
【0020】
フレーム40は、平板状の振蘯台41と支持部42とを備え、支持部42上に濾過容器10が支持され固定されている。固定は、固定ボルト等、適宜の手段により行なうことができる。濾過容器10の設置角度は、処理液の性質によって最適値が異なるため、フレーム40は、濾過容器10の設置角度を変更できる構造とするのが望ましく、水平面に対する濾過容器10の角度θを0°から90°まで可変とするのが望ましい。そのためには、支持部42を他の傾斜のものと交換可能とし、又は、支持部42を伸縮自在とし、或いは、上下方向に延びる支持部に対する濾過容器10の固定高さを調節可能とした構造等を採用することができる。
【0021】
可動機構50は、リンク装置51と、ガイド部52とを備えている。リンク装置51は、底壁31及び振蘯台41の前後両端部付近(図では紙面奥行き方向の両端部)に1対設けられている。各リンク装置51は、相互に回動可能に連結された2本のリンク片511、512の端部を底壁31及び振蘯台41に回動可能に結合し、リンク片511、512からなるリンク対を距離をおいて2対設け、各対のリンク片511、512相互の連結点にさらに水平リンク513を回動可能に結合したものであり、これらにより平行リンク機構が形成されている。ガイド部52は、振蘯台41の端縁に軽く接触するようにして鉛直方向に延び、振蘯台41の前後左右の端部に設けられることにより、振蘯台41を上下方向に案内する。
【0022】
この精密濾過装置は、さらに、濾過容器10を振蘯させるための加振装置60を備えている。加振装置60は、保温ボックス30外に設置された駆動モータ61、該駆動モータの軸に結合されたプーリ62、保温ボックス30の底壁31に固定されて上下方向に延びるシリンダ63、該シリンダ内で摺動するピストン64、及びプーリ62とピストン64とを連結する連結ロッド65を備えている。ピストン64の上端は、フレーム40の振蘯台41に堅固に固着されている。連結ロッド65は、上端がピストン64の下端部に結合され、下端がプーリ62に結合されている。プーリ62には、回転軸からの距離を変えて連結ロッド65を結合できるように、結合孔が径方向に複数並設されている(図示略)。駆動モータ61の回転は、プーリ62及び連結ロッド65を経てピストン64に伝えられ、シリンダ63に対してピストン64を上下方向に繰り返し摺動させる。したがって、ピストン64に結合されたフレーム40も上下動し、その上下動は、リンク装置51及びガイド部52により上下方向への平行移動となる。その結果、フレーム40に支持された濾過容器10も上下動を繰り返し、容器及びその内容物の振蘯が行なわれる。
【0023】
振蘯の振幅は、プーリ62に対し回転軸からの離反距離を変えて連結ロッド65の下端650を結合することにより、変更することができる。この実施形態では、振幅を10〜200mmの範囲で変えることができる。
【0024】
また、振蘯の振動数(振動速度)は、駆動モータ61の回転数を変えることにより、変更することができる。この実施形態では、望ましい振動数である30〜300サイクル/分の振動数が得られるように、駆動モータ61の回転数が可変となっている。
【0025】
保温ボックス30の上方には被濾過液の貯液タンク70が配置されている。貯液タンク70の下端からは排出チューブ71が、保温ボックス30の上壁33に設けられた開口を通って延びており、その先端部が濾過槽11の供給筒111に接続されている。また、排出チューブ71の途中には開閉弁72が設けられており、その開閉により、濾過槽11への被濾過液の供給及び停止を行なうことができる。排出チューブ71は、該排出チューブに接続された供給筒111が濾過容器10の振蘯に伴って移動するのを許容するように、可撓性及び必要な長さを有したものとされる。
【0026】
保温ボックス30の下方には、回収槽80が配置されている。受液槽12の排出筒120の下端部には、輸液チューブ81が接続されており、該輸液チューブ81は保温ボックス30の底壁31に設けられた開口を通って延び、回収槽80上端の受入れ口83に接続されている。したがって、濾材13を通過した濾液は、受液槽12から輸液チューブ81を経て回収槽80内に溜められる。輸液チューブ81は、該輸液チューブに接続された排出筒120が濾過容器10の振蘯に伴って移動するのを許容するように、可撓性及び必要な長さを有したものとされる。
【0027】
この装置を使用するには、被濾過液を貯液タンク70に入れ、開閉弁72を開いて濾過槽11に供給し、駆動モータ61を作動させる。これにより、濾過容器10の振蘯が行なわれ、効率的且つ濾材の目詰まりを防止した濾過が可能となる。濾材13を通過した濾液は、受液槽12から流出し回収槽80内に溜められる。なお、濾過処理は、濾過槽11に所定量の被濾過液が供給されたら開閉弁72を閉じて行なうバッチ処理、及び、開閉弁72を閉じることなく所定の速度で被濾過液を供給し続ける連続処理のいずれをも行なうことができる。
【0028】
濾過処理を行なう際は、被濾過液に応じて、濾過容器の最適の取り付け角度、振蘯の振幅、振動数等を見いだし、最適条件で濾過処理を行うのが望ましい。また、常圧での濾過処理によって高い効果を得難い材料の場合は、加圧法又は減圧法を併用して濾過効率を上げることも可能である。この装置は、例えば、IT材料の内、シリカ等の充填材料入りの接着剤等の濾過に優れた効果を発揮するが、被濾過液に含まれる充填材の種類は、有機、無機材料のいずれでも対応可能であり、溶媒も有機溶剤、樹脂系材料、水を含め液体であれば種々のものが処理可能である。また、使用用途は、異物の除去、所定径以上の粒子の除去、粒子の分級等、広範囲での使用が可能である。
【0029】
図2は、本発明に係る精密濾過装置の他の実施形態を概略的に示している。この精密濾過装置は、図1に示した装置とほぼ同様の構造を有している。但し、この実施形態は、濾過容器10を水平方向に振蘯させる構造となっている。そのために、加振装置60aは、保温ボックス30の底壁31上に設置された駆動モータ61、該駆動モータの軸に結合されたプーリ62、底壁31に固定されて水平方向に延びるシリンダ63、該シリンダ内で摺動するピストン64、及びプーリ62とピストン64とを連結する連結ロッド65を備えている。ピストン64からは、上方へ接続片66が延びており、シリンダ63には軸線方向に延びる溝が形成され、接続片66はピストン64に伴われて該溝内を摺動する。接続片66の上端は、フレーム40の振蘯台41に堅固に固着されている。連結ロッド65は、一端がピストン64の下端部に結合され、他端がプーリ62に結合されている。これらの結合構造は、図1のものと同様である。
【0030】
フレーム40を支持する可動機構50aは、ガイド部52aによって構成されている。ガイド部52aは、水平方向に延びる部材とされ、振蘯台41を上下方向から緩く挟持し水平方向に摺動可能に支持している。このガイド部52aは、振蘯台41の前後両端部(紙面奥行き方向の両端部)に各々1対設けられることにより、フレーム40を安定的に支持している。
【0031】
この構造により、駆動モータ61の回転は、プーリ62及び連結ロッド65を経てピストン64に伝えられ、シリンダ63に対してピストン64を水平方向に繰り返し摺動させ、これに伴って、フレーム40も水平動をする。その結果、フレーム40に支持された濾過容器10も水平動を繰り返し、容器及びその内容物の振蘯が行なわれる。
【0032】
振蘯の振幅及び振動数の望ましい範囲は、図1の装置におけるものと同様である。振蘯の方向は、図示のように、濾過容器10の軸線を含む平面に沿う方向としてもよいし、該平面に垂直又は所定角度で傾斜した方向とすることもできる。
【0033】
図3は、本発明に係る精密濾過装置のさらに他の実施形態を概略的に示している。この精密濾過装置も、図1に示した装置とほぼ同様の構造を有している。この実施形態においては、加振装置60bは、鉛直面に沿う円運動を描くように濾過容器10を振蘯させる構造となっている。
【0034】
そのために、フレーム40を支持する可動機構50bは、振蘯台41の前後の両端部(紙面奥行き方向の両端部)に近接して底壁31に立設された支持板53と、該支持板の左右両端部に支持された1対のレバー54とを備え、各レバー54は、一端を支点541により支持板53に、他端を支点542により振蘯台41に軸支されている。これにより、振蘯台41は、支点541を中心にしたレバー54の回転により、円運動を描くように移動することができる。
【0035】
この実施形態における加振装置60bは、保温ボックス30の底壁31上に設置された駆動モータ61、及び該駆動モータの軸に結合されたプーリ62を備えている。振蘯台41の一部は、プーリ62の位置まで延ばされて結合部410を形成しており、プーリ62は、ピン620により結合部410に結合されている。
【0036】
この構造により、駆動モータ61が回転すると、これに伴うプーリ62の回転は、ピン620を経て振蘯台41の円運動を生じさせる。その結果、フレーム40に支持された濾過容器10も円運動を繰り返し、容器及びその内容物の振蘯が行なわれる。プーリ62には、回転軸からの距離を変えてピン620を結合できるように、結合孔が径方向に複数並設されている(図示略)。また、レバー54にも支点541及び542の距離を変えることができるように、複数の係合孔が設けられている。したがって、ピン620及び支点541又は542の位置を変えることにより、描く円運動の回転半径を変え、振蘯の振幅を変えることができる。
【0037】
振蘯の振幅及び振動数の望ましい範囲は、図1の装置におけるものと同様である。振蘯の方向は、図示のように、濾過容器10の軸線を含む平面に沿う方向としてもよいし、該平面に垂直又は所定角度で傾斜した方向とすることもできる。
【0038】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、種々の変形が可能である。濾過容器を支持するフレーム、フレームを可動に支持する可動機構、濾過容器を振蘯させる加振装置は、上記実施形態の他、同様の機能を奏する種々の構造とすることができる。上記実施形態においては、濾過容器を傾斜させて支持していたが、これを垂直又は水平に設置してもよい。それらの場合も、振蘯方向は、濾過容器の軸線に対して、平行、垂直、斜め等の諸方向に設定することができる。
【実施例】
【0039】
本発明の効果を確認するために、本発明にしたがった実施例及び従来方法による比較例の実験を行なった。実施例及び比較例とも、濾過容器は、直径15cm、長さ35cmのステンレス製容器を使用し、内部を濾材で仕切って上方を濾過槽、下方を受液槽とし、水平面との角度θ=45°に設置した。実施例では、図2に示した濾過装置を使用して水平方向の振蘯を与えた。一方、比較例では、濾過容器を加振する場合は、ダルトン振動篩上に濾過容器を載置して振動を与えた。濾過処理は、連続的に行ない、30分、60分、90分の時間の経過毎に回収槽内の濾液の重量を測定し、積算濾過量とした。
【0040】
被濾過液は、次の3種類を用い、最初に濾過槽に6kgを収容した。
液A:40μ以上の粗粒を5重量%含む平均粒径18μの球状シリカの60%水分散液
液B:5μ以上の粗粒を4重量%含む平均粒径1μの球状シリカの40%水分散液
液C:5μ以上の粗粒を4重量%含む平均粒径1μの球状シリカを20重量%分散させたエポキシ樹脂(エピクロン830:大日本インキ化学工業(株)社製)を100℃に加熱したもの
[実施例1]
濾材:目開き40μナイロン製フィルタークロス
被濾過液:液A
濾過条件:振幅4cm、振動数60回/分で水平方向に振蘯
保温ボックス内の温度:常温(25℃)
[実施例2-1]
濾材:目開き10μナイロン製フィルタークロス
被濾過液:液B
濾過条件:振幅4cm、振動数60回/分で水平方向に振蘯
保温ボックス内の温度:常温(25℃)
[実施例2-2]
濾材:目開き10μナイロン製フィルタークロス
被濾過液:液B
濾過条件:振幅12cm、振動数60回/分で水平方向に振蘯
保温ボックス内の温度:常温(25℃)
[実施例3]
濾材:目開き10μナイロン製フィルタークロス
被濾過液:液C
濾過条件:振幅12cm、振動数60回/分で水平方向に振蘯
保温ボックス内の温度:100℃
[比較例1-1]
濾材:目開き40μナイロン製フィルタークロス
被濾過液:液A
濾過条件:濾過槽内を2気圧に加圧(振蘯は無し)
[比較例1-2]
濾材:目開き40μのナイロン製フィルタークロス
被濾過液:液A
濾過条件:振幅3mm、振動数60HZで上下に加振
[比較例2-1]
濾材:目開き10μのナイロン製フィルタークロス
被濾過液:液B
濾過条件:被濾過物槽内を2気圧に加圧(振蘯は無し)
[比較例2-2]
濾材:目開き10μのナイロン製フィルタークロス
被濾過液:液B
濾過条件:振幅3mm、振動数60HZで上下に加振
[比較例3-1]
濾材:目開き10μのナイロン製フィルタークロス
被濾過液:液C
濾過条件:濾過槽内を2気圧に加圧(振蘯は無し)
[比較例3-2]
濾材:目開き10μのナイロン製フィルタークロス
被濾過液:液C
濾過条件:振幅3mm、振動数60HZで上下に加振
[結果]
各実施例・比較例について所定時間の経過毎の積算濾過量を表1に示す。
【0041】
【表1】

上記結果は、以下の状態を示している。同じ種類の被濾過液で比較すると、処理開始から30分後、60分後、90分後共、実施例1,2-1,2-2,3の積算濾過量が比較例1-1,1-2,2-1,2-2,3-1,3-2,の積算濾過量を大きく上回っている。また、実施例では、積算濾過量がほぼ経過時間に比例して増加しているが、比較例では、積算濾過量の増加幅は処理時間の経過とともに著しく低下する。したがって、実施例は比較例より濾過効率が良く、しかも目詰まりによる濾過効率の低下が極めて少ないことが明らかである。このように、本発明の精密濾過方法及び装置によれば、従来要請されながら達成し得なかった分散品の高い性能と信頼性を実現することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明に係る精密濾過装置の一実施形態を概略的に示す縦断面図である。
【図2】本発明に係る精密濾過装置の他の実施形態を概略的に示す縦断面図である。
【図3】本発明に係る精密濾過装置のさらに他の実施形態を概略的に示す縦断面図である。
【符号の説明】
【0043】
10 濾過容器
11 濾過槽
12 受液槽
13 濾材
30 保温ボックス
40 フレーム
41 振蘯台
50,50a,50b 可動機構
60,60a,60b 加振装置
70 貯液タンク
80 回収槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被濾過液を受け入れる濾過槽と、該濾過槽の下端部に設けられた濾材と、該濾材の下方に設けられた受液槽とを備えた濾過容器、及び、前記濾過槽内の被濾過液に撹拌流を生じさせるように該濾過容器を振蘯させるための加振装置を備えたことを特徴とする精密濾過装置。
【請求項2】
前記濾材が、目開き20μm以下の濾面を有していることを特徴とする請求項1の精密濾過装置。
【請求項3】
前記加振装置は、前記濾過容器を10mm以上であって前記濾過槽の最大内のり寸法より小さい振幅で振蘯させることを特徴とする請求項1又は2に記載の精密濾過装置。
【請求項4】
前記加振装置は、前記濾過容器を20〜2000サイクル/分の振動数で振蘯させることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の精密濾過装置。
【請求項5】
分散粒子の平均粒子径が10μm以下であり、粘度が1000cps以下の分散液の精密濾過方法であって、被濾過液を受け入れる濾過槽と、該濾過槽の下端部に設けられた濾材と、該濾材の下方に設けられた受液槽とを備えた濾過容器を、被濾過液に撹拌流を生じさせるように振蘯させることを特徴とする精密濾過方法。
【請求項6】
前記濾材として、目開き20μm以下の濾面を有したものを使用することを特徴とする請求項5の精密濾過方法。
【請求項7】
前記濾過容器を10mm以上であって前記濾過槽の最大内のり寸法より小さい振幅で振蘯させることを特徴とする請求項5又は6に記載の精密濾過方法。
【請求項8】
前記濾過容器を20〜2000サイクル/分の振動数で振蘯させることを特徴とする請求項5から7のいずれかに記載の精密濾過方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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