説明

精製システム

本発明は、サンプルからのタンパク質の精製を最適化する自動クロマトグラフィーシステム、並びに該自動システムを制御するソフトウェアに関する。ソフトウェアは、システム内の検出器からの信号をモニターし、2つの信号パラメータを決定し、かつ2つの信号パラメータの実際の値に応じてシステムの諸コンポーネントを制御するのに適合している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体分子の精製のためのクロマトグラフィー法、システム及びソフトウェアに関する。
【背景技術】
【0002】
目的タンパク質と1種以上の夾雑物とを含有する溶液から目的タンパク質を分離するのにクロマトグラフィー分離が多用されている。通例、クロマトグラフィーによるタンパク質精製システムは特性の種々異なる複数のクロマトグラフィーカラムを含んでおり、溶液を特定の順序でそれらのカラムに流す。例えば、タンパク質精製システムは、アフィニティカラム、脱塩カラム、イオン交換カラム及びゲルろ過カラムの4種類のカラムの一部又は全部を順次使用することがある。かかるシステムは、適切なソフトウェアを備えたコンピューター又はマイクロプロセッサーで制御することができる。
【0003】
目的タンパク質を含むサンプルを精製するため、オペレーターはそのタンパク質が特異的(ただし可逆的)に結合するリガンドを付けた媒体を収容したアフィニティカラムを選択するであろう。目的タンパク質を含むサンプルは、目的タンパク質のリガンドへの結合を促進する条件下でカラムにかける。タンパク質含有サンプルがすべて媒体を通過し終わったら、カラムから非結合材料を洗い流し、次いで、カラムに流す緩衝液を、例えば、目的タンパク質とリガンドとの結合を壊す高塩濃度の緩衝液に交換することによって、目的タンパク質を媒体から溶出させる。カラムから溶出した緩衝液中のタンパク質の存在は、カラムを出た溶出緩衝液における特定の波長(例えば280nm又は254nm)でのUV吸光度の変化を検出するUV検出器などの検出器で検出され、吸光度は所与のフラクション中に溶出した全タンパク質の大まかな測定値を与える。カラムから溶出した流体はフラクションコレクターで回収される。ソフトウェアで、目的タンパク質を含めたタンパク質がいつカラムから溶出されたかを示すUV検出器の出力をモニターし、これがどのフラクションに対応するかをメモリーに記録する。最初のカラムでのランが完了したら、オペレーターはUV曲線をチェックしてタンパク質含有フラクションを手作業で回収する。手作業で回収したフラクションは、手作業でプールされ、次のカラムに移される。高塩濃度の溶出緩衝液を用いた場合には、目的タンパク質を含有する溶出緩衝液を脱塩カラムに通して脱塩すればよい。脱塩カラムからの溶出液は、検出器(例えばUV検出器)でモニターされ、脱塩カラムを出た目的タンパク質含有脱塩溶液の画分はフラクションコレクターへと送られる。オペレーターはフラクションを手作業でプールし、プールしたフラクションを次のカラムに移す。この脱塩溶液画分は夾雑物を依然として含んでいることがあり、その一部を除去するためイオン交換カラムの使用が必要になることがある。その場合、オペレーターは、目的タンパク質を含有する脱塩溶液の画分を、目的タンパク質が結合できる媒体を収容したイオン交換クロマトグラフィーカラムに流す。目的タンパク質を含有する脱塩サンプルの画分をカラムに流し、タンパク質がカラム媒体に可逆的に結合したら、カラムを洗浄して非結合物質を除去すればよい。次いで、目的タンパク質とおそらくは若干の夾雑物を含む結合物質を、目的タンパク質のイオン結合に適さない溶出条件に変更することによって媒体から取り出すことができる。イオン交換カラムからの溶出液は、検出器(例えばUV検出器)でモニターされ、イオン交換カラムから出た目的タンパク質を含有する溶出液の画分はフラクションコレクターで回収される。イオン交換した溶液のこの画分は夾雑物(例えばタンパク質分子の凝集体)を依然として含んでいることがあり、その一部を除去するためゲルろ過カラムの使用が必要になることがある。その場合、オペレーターは、イオン交換液の目的タンパク質を含有する画分をゲルろ過カラムに通す。ゲルろ過からの溶液はフラクションコレクターで回収される。各カラムにおいて溶液からの目的タンパク質の分離を促進する媒体及び溶出条件を正しく選択すれば、この時点までに目的タンパク質はゲルろ過カラムに通したイオン交換液の画分中で最高濃度の物質となるはずである。
【0004】
以上のタンパク質精製法は、時間がかかり、面倒である。また、各カラムからの結果の評価、カラムからカラムへの溶出液のフラクションの移動など、オペレーターの頻繁な作業が必要とされる。
【0005】
これらの問題を軽減するため、検出器信号をコンピューターでモニターし、検出器信号が特定の値を上回った(検出器を通過する溶液中のタンパク質濃度が閾値を超えることに相当)ときにフラクションの回収を開始し、検出器信号が特定の値未満に下がった(検出器を通過する溶液中のタンパク質濃度が閾値を下回ることに相当)ときにフラクションの回収を停止する自動システムが製造されている。これを達成するため、ソフトウェアは、UV検出器で検出された吸光度がオペレーターの設定した閾値を超えると特定のアクションを開始する「監視機能」と呼ばれるモニタリングサブルーチンを備える。「X1超のレベル」監視機能は、UV検出器で検出される吸光度レベルに対応する検出器パラメータの信号が値X1を超えると、コンピューターに、UV検出器を通過する流れをフラクションコレクター内の新しい容器へと転換させ、流体の回収先のフラクションコレクターの番号を指摘する。併せて、「Y1未満のレベル」監視機能も始動させる。「Y1未満のレベル」監視機能は、UV検出器で検出される吸光度がレベルY1を下回ると、コンピューターに、UV検出器を通過する流れをフラクションコレクター内の現在の容器から新しい容器(又は廃液溜め)へと転換させ、「X1超のレベル」監視機能を再始動させる。これらの自動システムは、オペレーターエラーに起因する問題の一部を解決するが、フラクションの回収の開始/終了のためのコンピューターが守るべき規則はこれまで洗練されてきてはいない。例えば、検出器信号が第一の閾値を上回ると回収を開始し、検出器信号が第二の閾値を下回ると回収を停止するという規則は、ソフトウェアが認識すべき様々なピーク形状のすべてを適切に収集できるほど十分にロバストなものではない。図1に、カラムから出るタンパク質が生じる可能性のあるUV吸光度曲線の例を幾つか示す。図1のAは単一ピークの曲線を示し、カラムから単一タンパク質が溶出する場合が代表例として挙げられる。図1のBは2つの重なり合ったピークからなり、ピーク間にトラフもしくは谷をもつ複合曲線を示し、カラムから2種類の類似したタンパク質が溶出する場合が代表例として挙げられる。ここでは、谷の最低点での検出器レベルは、第一のピークの最大値の半分よりも大きい。これら2つのピークを1つのフラクションとして回収することが望まれることもある。図1のCは2つの重なり合ったピークからなる別の複合曲線を示し、ピーク間の谷はさらに深くて第一のピークの最大値の半分よりも小さく、カラムから2種類の類似性に欠けるタンパク質が溶出する場合が代表例として挙げられる。これら2つのピークは別個のフラクションとして回収するのが望ましいことが多い。図1のDは、2つのピークからなる別の複合曲線を示し、第一のタンパク質の量が第二のタンパク質ほど多くない2種類の類似したタンパク質が代表例として挙げられる。図1のEは、ピークの後に安定プラトーが続く例を示す。ピークとプラトーは別個のフラクションとして回収するのが望ましいことが多い。「X1超のレベル」と「Y1未満のレベル」を用いる従来技術のシステムは、図1のB〜Eに示すピークの分離に問題を抱えていることがある。
【0006】
さらに、UV検出器のノイズ並びに機器の経時的ドリフトのような不安定性のためスプリアス出力信号が生じて、誤って「X1超のレベル」機能を賦活する可能性もある。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
こうしたロバスト性の欠如は、夾雑物から目的タンパク質を分離する際に手作業での介入が依然として必要であることを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明では、先行技術に関する問題の少なくとも一部は、請求項1の特徴的部分に存在する特徴をもつクロマトグラフィーシステムによって解決される。本発明の方法を実行するソフトウェアは、請求項5に記載の特徴を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
図2は、本発明に係るタンパク質精製用の自動クロマトグラフィーシステム1の第一の実施形態の概略を示す。システム1は複数のクロマトグラフィーカラムを含む。本発明のこの実施形態では、各々種類の異なる分離媒体を収容した5つのカラムC1〜C5が存在する。各カラムは入口端と出口端を有する。本発明のこの実施形態では、カラムC1及びC2は、目的タンパク質が特異的(ただし可逆的)に結合するリガンドを付けた媒体を各々収容したアフィニティカラムである。カラムC3は、目的タンパク質を含有する緩衝液の脱塩に適した媒体を収容した脱塩カラムである。カラムC4は、タンパク質が可逆的に結合できる媒体を収容したイオン交換カラムである。カラムC5は、分子の大きさの異なる他のタンパク質からの目的タンパク質の分離に適したゲルろ過カラムである。
【0010】
サンプルリザーバS1〜S4は、各々、目的タンパク質が溶解した体積Vstartのサンプル液を収容でき、コンピューター制御マルチパス入口弁13に接続可能である。また、各々緩衝液又は溶出液を収容した他のリザーバA1〜A8、B1及びB2も入口弁13に接続可能である。入口弁13は、リザーバS1〜S4、A1〜A8及びB1〜B2のいずれかからの流れが、ミキサーM、コンピューター制御マルチパス注入弁16及び別のコンピューター制御マルチパスカラム弁17を経由してカラムC1〜C5の入口端のいずれかに選択的に送られるようにコンピューター14で制御できる。注入弁16は、カラム弁17に接続可能なだけでなく、流体を手動注入するための手動操作可能な注入手段18並びにループ弁29にも接続可能である。また、カラムC1〜C5の出口端もコンピューター制御マルチパスカラム弁17に接続可能である。カラムC1〜C5を出た液体がUV検出器19A及び/又は導電率検出器19Bのような検出器を通過するように、カラム弁17からの出口は検出器の流体入口に接続可能である。UV検出器19Aは検出器を通過する液体によって吸収されるUV光量に応じて強度の変化する出力電気信号を発生し、この信号はコンピューター16に伝送される。導電率検出器19Bは検出器を通過する液体の導電率に応じて強度の変化する出力電気信号を発生し、この信号はコンピューター16に伝送される。(1以上の)検出器を出た流体はコンピューター制御マルチパス出口弁21へと流れる。出口弁21は、注入弁16、廃液溜め25、フラクションコレクター27、複数のフラクション貯蔵リザーバF3〜FNに接続可能であり、また、コンピューター制御マルチパスループ弁29を介して複数の貯蔵ループL1〜L5の入口端に接続可能である。出口弁21は、検出器を出た液体が注入弁16、フラクション貯蔵リザーバF1〜FN、廃液溜め25及びフラクションコレクター27のいずれかへと選択的に送られるようにコンピューター16で制御できる。ループ弁29は流入した液体を複数のループL1〜L5のいずれか又は廃液溜め26に送るか、或いは注入弁16に戻すようにコンピューター制御できる。各ループL1〜L5は、その内容積がサンプル体積Vstartの1%〜100%となる長さのチューブ材料を含む。ループL1〜L5の各出口端はループ弁29の別々の入口に接続可能である。ループ弁29は、注入弁16を介してカラム弁17に接続可能な出口を有しており、ループL1〜L5のいずれかの出口端をカラム弁17に接続するように制御できる。フラクションコレクター27は移動可能であり、固定出口管33を備える。フラクションコレクター27は、33がフラクション回収リザーバの上方、例えばマイクロタイタープレート37内のウェル35の上方に位置すれるように、コンピューター16の制御下で移動できる。システム内の液体が流れるように、システムは、ポンプ39を備えており、ポンプ吐出量及び方向はコンピューター14の制御下にある。好ましくは、ポンプ、弁、カラム、ループ、検出器及びフラクションコレクターがすべて単一ユニットを形成するように、ハウジング43(破線で示す)内/上に据え付けられる。かかるユニットは、Amersham Biosciences AB(スウェーデン、ウプサラ)からAktaXpress(商標)として市販されている。
【0011】
コンピューター14は、ポンプ、弁及びフラクションコレクターの動作を制御し、検出器19A、19Bからの出力信号を処理するソフトウェアを格納したメモリー45を備える。適切なソフトウェアプログラムは、Amersham Biosciences AB(スウェーデン、ウプサラ)から市販されており、Unicorn(商標)バージョン5.00と呼ばれている。
【0012】
弁及びポンプの適切な制御によって、上述の構成は、精確な体積の液体をサンプルリザーバ11からシステムの他のいずれかの部分へと移動させることができる。例えば、目的タンパク質が最大成分で、残りの成分が不要成分であるようなタンパク質混合物を含有する部分精製タンパク質溶液がサンプルであうと仮定する。さらに、サンプル溶液を適切なアフィニティカラム、脱塩カラム、イオン交換カラム及びゲルろ過カラムに順に通すことによって夾雑物から目的タンパク質を分離できることをオペレーターが知っていると仮定する。精製を開始する前に、システムのオペレーターは、適切なクロマトグラフィーカラムC1〜C5をユニット43に接続し、目的タンパク質を含有するサンプルをサンプルリザーバ11に入れるはずである。次いで、オペレーターは、サンプル溶液をクロマトグラフィーカラムC1〜C5に供給する順序を選択し、さらにプログラムが特定のアクションを実行する検出器信号閾値を設定するか或いは製造業者の設定したデフォルト検出器信号閾値設定を選択することによって、精製を実行するソフトウェアをプログラミングする。ソフトウェアは、次のカラムに移すべきピークを選択する機能、選択したピークを次のカラムに再注入する機能、検出器信号が特定の条件を満たすときに重なり合った1対のピークを別個の2つのフラクションに回収する機能、ピークの後にプラトーが続く場合、検出器信号が特定の条件を満たすときにピークを含むフラクションとプラトーを含む第二のフラクションとに分離する機能を実行できる。
【0013】
ソフトウェアは、まず、サンプルリザーバ11から目的タンパク質含有サンプル溶液を39で吸い上げて、その溶液をアフィニティカラムC1に送り該カラムC1に流すことができるように、弁13にサンプルリザーバ11を注入器弁16を介してカラムC1の入口に接続するように命令する。目的タンパク質と他の類似夾雑タンパク質はカラムC1内の媒体のリガンドに結合するが、他の夾雑物はカラムC1を通過する。これらの夾雑物は出口弁21を介してリザーバF3〜FNのいずれかに送ることができる。サンプル溶液がアフィニティカラムC1にロードされたら、ソフトウェアは、リザーバA1〜A8、B1〜B2のいずれかから洗浄液をカラムに流してカラムから非結合夾雑物を洗い流す。また、材料が失われないように安全予防対策として洗浄液をリザーバF3〜FNのいずれかに送ることもできる。アフィニティ媒体から結合タンパク質を解離させるため、リザーバA1〜A8、B1〜B2の別のリザーバから例えば所定濃度の第二の成分(塩など)を含む緩衝液をカラムC1に流して、溶出緩衝液グラジエントでカラムを溶出する必要がある。この溶出緩衝液は、目的タンパク質とアフィニティクロマトグラフィー媒体との結合を壊すことができ、目的タンパク質は溶出緩衝液でカラムC1から運び出される。排出された溶出緩衝液は、溶出緩衝液透過後のUV光強度を測定するように構成されたUV検出器19Aを通過する。UV検出器19Aは、溶出緩衝液中のUV光吸収材料の量に応じて異なる検出信号を生成し、この信号はコンピューター14に伝送される。ソフトウェアは検出信号を監視し、信号を処理して2つの信号パラメータ、すなわち現時点での信号レベル及び現時点での信号レベルの変化率(「傾き」)を識別する。信号が「超」閾値信号強度を超え、溶出液中のタンパク質の存在を示したら、ソフトウェアは、溶出した流体がカラムから第一のループL1〜L5に送られるように弁21を制御する。同時に、タイマーを始動してもよい。ポンプからの流量ml/分はコンピューター14で制御可能で既知であるので、コンピューター14は第一のループL1に流入する液体の体積を計算できる。ループL1の体積が既知であるので、目的タンパク質を含有する液体の体積が第一のループL1の体積を超える場合には、コンピューター14は目的タンパク質を含有する液体を第一ループL1から第二ループ(例えばL2)へと切り替えることができる。信号が「未満」閾値信号強度を下回り、溶出体中にタンパク質が存在しないことを示したら、コンピューター14は弁29に指示して溶出液をカラムC1から廃液溜め26へと送る。コンピューターは、溶出緩衝液をどのループに入れたか、及びループ内に蓄えられた溶出緩衝液の体積をメモリー45に格納する。信号強度が再び「超」閾値信号強度を超えると、ソフトウェアは、溶出液がカラムから別のループ(例えばL3)に送られるように弁29を制御し、そのループに溶出液が回収される。これは、信号強度が再び「未満」閾値信号強度を下回り、溶出液中にタンパク質が存在しないことを示すまで継続され、その時点でコンピューターは溶出液をカラムC1から廃液溜め26へと送るように弁29に指示する。溶出液がループに回収される間、ソフトウェアは、最大吸光度値を記録及び/又は吸光度信号の積分を実行する。吸光度信号の積分は、ループに回収されたタンパク質の総量の指標を与える。所定の体積の溶出緩衝液がアフィニティカラムC1を通過し終えるまで、コンピューターは溶出緩衝液をポンプでカラムC1内に送り続ける。この段階で、ループL1〜L5の少なくとも1つは、ある体積の溶出した目的タンパク質含有緩衝液を含む。ソフトウェアはメモリーを検査して、ループL1〜L5のどれが吸光度信号の最大積分値又は溶出した緩衝液の最高吸光度値を含んでいるかを決定する。吸光度信号の最大積分値の検査又は最高吸光度値の検査のいずれを選択するかは、ソフトウェア製作者が予めプログラミングすることもできるし、ユーザが選択できるようにしてもよいし、或いはソフトウェアによって記録された値に基づいて選択することもできる。例えば、吸光度信号の積分値がほぼ同じ2つのループが存在する場合、ソフトウェアは、2つのループのどちらが最高吸光度値を有するかを検査してループを選択することができる。このループ(例えばループL1)は(目的タンパク質が結合するアフィニティ媒体が選択されているので)目的タンパク質を含むと考えられ、ソフトウェアは、ループL1内の溶出した緩衝液の体積が脱塩カラムC3に送られるように弁13、17、21及び29を操作する。また、吸光度信号の最大積分値又は溶出した緩衝液の最高吸光度値を含むループに目的タンパク質が存在せず、別のループ内に存在することが判明した場合には、タンパク質を含有する別のループ内の緩衝液をリザーバの1つに保存してもよい。目的タンパク質を含有すると推定される脱塩した緩衝液は、カラムC3からUV検出器19Aに排出される。UV検出器からの信号強度をソフトウェアで上述の通り使用して、脱塩した緩衝液中のタンパク質のピークがいつUV検出器を通過するかを決定し、脱塩した緩衝液の体積を1以上のループに供給する。溶出した緩衝液の選択された体積すべてが脱塩されたら、ソフトウェアは、どのループが吸光度信号の最大積分値又は脱塩した緩衝液の最高吸光度値を含むかを決定し、このループが目的タンパク質を含むものと推定する。このループ(例えばL3)内の脱塩した緩衝液の体積は次にイオン交換カラムC4に供給される。また、吸光度信号の最大積分値又は溶出した緩衝液の最高吸光度値を含むループ内に目的タンパク質が存在せず、別のループ内に存在することが判明した場合、タンパク質を含有する別のループ内の緩衝液をリザーバの1つに保存してもよい。目的タンパク質を含有するイオン交換した緩衝液は、イオン交換カラムC4からUV検出器19Aに排出される。UV検出器19Aからの信号強度をソフトウェアで上述の通り使用して、イオン交換した緩衝液中のタンパク質のピークがいつUV検出器19Aを通るかを決定し、イオン交換した緩衝液の体積を1以上のループL1〜L2、L4〜L5に供給する。ループからの脱塩した緩衝液の体積すべてがイオン交換されたら、ソフトウェアは、どのループが吸光度信号の最大積分値又はイオン交換した緩衝液の最高吸光度値を含むかを決定し、このループ(例えばL4)が目的タンパク質を含むものと推定する。次いで、このループ、例えばL4内のイオン交換した緩衝液の体積は、ゲルろ過カラムC5に供給される。また、吸光度信号の最大積分値又は溶出した緩衝液の最高吸光度値を含むループ内に目的タンパク質が存在せず、別のループ内に存在することが判明した場合、タンパク質を含有する別のループ内の緩衝液をリザーバの1つに保存してもよい。目的タンパク質を含有するろ過した緩衝液は、ゲルろ過カラムC5からUV検出器19Aに排出される。UV検出器19Aからの信号強度をソフトウェアで上述の通り使用して、ろ過した緩衝液中のタンパク質のピークがいつUV検出器19Aを通るかを決定し、ゲルろ過した緩衝液の体積をフラクションコレクター27に供給し、1種以上のウェル35でピークを回収する。次いでそれを試験して、正しいタンパク質が精製されたことを確認することができる。ソフトウェアは、カラムからのすべてのピークがどこに蓄えられているかを追跡する。これは、間違ったタンパク質が回収された場合に、別のループから保存ピークを含む流体を使用して精製を再度行うことができるので、有用である。
【0014】
「X1超のレベル」及び「Y1未満のレベル」監視機能に加えて、本発明の第一の実施形態に係るデバイス及び方法は、「X2超の傾き」及び「Y2未満の傾き」監視機能を備える。「X2超の傾き」監視機能は、UV検出器で検出される吸光度レベルの増加率がX2 mAU/分を超えると、ソフトウェアにUV検出器を出た流体を新しいフラクションコレクター容器に転換させる。変化率パラメータは信号の「傾き」と呼ぶことができる。同様に、「Y2未満の傾き」は、UV検出器で検出される吸光度レベルの減少率がY2 mAU/分を下回ると、ソフトウェアにUV検出器を出た流体を新しいフラクションコレクター容器に転換させる。ソフトウェアは、2つの監視機能(例えば「X1超のレベル」と「X2超の傾き」)を同時に監視できて、しかも両機能を賦活させるための条件が存在する(すなわち、レベルがX1を超え、かつ傾きがX2を超える)場合だけアクションを起こすことができるように構成される。
【0015】
以上の監視機能に加えて、本発明の他の実施形態に係るデバイス及び方法は、「ピーク最大値の係数Z1倍(Peak Maximum with Factor Z1)」機能も備えており、Z1は最大ピーク高さの1未満の係数である。例えば、ピークの最大吸光度レベルが2000mAUと検出され、Z1が0.5に設定されている場合、監視機能「ピーク最大値の係数0.5倍」は、検出器レベルが1000mAUを下回るとアクションを起こす。このアクションは、ループ内の流体保存の停止、及び/又はピーク終了の提示、及び/又は異なる監視機能の開始とすることができる。
【0016】
以上の監視機能に加えて、本発明の他の実施形態に係るデバイス及び方法は、「谷」及び「安定プラトー」監視機能も備えている。谷は2つの重複ピーク間に形成される(例えば、図B及び図C参照)。これは、ソフトウェアでは、検出器信号が特定のレベル(例えばX1)よりも大きく、かつ極小が存在(すなわち、検出信号の傾きが下降信号から上昇信号へと変化)するときに起こると定義できる。安定プラトーは図1のEに示すものである。ソフトウェアでは、これは、検出器信号が所定時間一定値(ある許容変動幅をもつ)にとどまるときに起こると定義される。ソフトウェアは、3以上の監視機能を同時に監視できるように適合化できる。例えば、図1のBに示すような2つの近接した重複ピークを1つのフラクションに保存し、図1のCに示すような2つのあまり近接していない重複ピークを2つのフラクションに保存するには、「X1超のレベル」及び「X2超の傾き」を監視するようにソフトウェアを構成すればよい。レベル値と傾きがそれぞれX1及びX2を上回ったら、ソフトウェアはピークの始点を記録し、流体をループへと切り替え、タイマーを始動してループの充填度を測定し、監視機能「ピーク最大値の係数0.5倍」を始動する。これは、コンピューターに最大検出器レベル信号を記録し、信号レベルが最大レベルの0.5倍に下がると追加のアクションを起こさせる。この追加のアクションとしては、「Y1未満のレベル又は谷もしくは安定プラトー」の監視とすることができる。図1のBに示すように、ピーク間の谷の最低値が第一のピークの最大値の0.5倍を上回る場合には、「ピーク最大値の係数0.5倍」のもとでこのアクションを起こす状況は、両ピークが1つのフラクションとして回収された後でしか起こらない。谷の最低値が第一のピークの最大値の0.5倍を下回る場合には、以下の3つの異なる事象が起こり得る。
a)信号レベルが下降し続けて、閾値Y1未満に達する。これは図1のAに示すような単純なピークに相当する。この場合、ソフトウェアは、現在のループでの流体の回収を停止し、後続の流体を廃液溜めへと送り、「X1超のレベル」及び「X2超の傾き」監視コマンドをリセットする。
b)図1のCに示す重複ピークにみられるように、信号レベルが再び上昇し始める。この場合、ソフトウェアは、現ループでの流体の回収を停止し、後続の流体を新しいループに送り、「X1超のレベル」及び「X2超の傾き」監視コマンドをリセットする。
c)信号が一定のままで、図1のEに示すようなプラトーを示す。この場合、ソフトウェアは、現ループでの流体の回収を停止し、後続の流体を異なるループに送り、(「X1超のレベル」及び「X2超の傾き」)又は(「Y1未満のレベル」及び「Y2未満の傾き」)監視を賦活させる。
【0017】
以上の監視機能に加えて、本発明の他の実施形態に係るデバイス及び方法は、以下の監視機能のいずれか1以上を備えていてもよい。
【0018】
(「X1超のレベル」又は「Y1超の傾き」)。これは、検出器信号がレベル条件又は傾き条件のいずれかを満たすときに、ソフトウェアにアクションを起こさせる。
【0019】
(「Y2未満の傾き」及び「ピーク最大値の係数Z1倍」)。これは、検出器信号変化率がY2モニター単位/分(例えばmAU/分)を下回り、かつレベルが最新のピーク最大値の所定の分率「係数Z1」に低下したときに、ソフトウェアにアクションを起こさせる。
【0020】
(「X2未満のレベル」並びに(「Y2未満の傾き」及び「ピーク最大値の係数Z1倍」))。これは、検出器信号がレベルX2を下回り、同時に、信号変化率がY2モニター単位/分未満を下回り、かつレベルが最新のピーク最大値の所定の分率「係数Z1」に低下したときに、ソフトウェアにアクションを起こさせる。
【0021】
(「X2未満のレベル」又は(「Y2未満の傾き」及び「ピーク最大値の係数Z1倍」))。これは、検出器信号がレベルX2を下回るとき、或いは信号変化率がY2モニター単位/分を下回り、かつレベルが最新のピーク最大値の所定の分率「係数Z1」に低下したときに、ソフトウェアにアクションを起こさせる。
【0022】
(「安定プラトー」又は(「Y2未満の傾き」及び「ピーク最大値の係数Z1倍」))。これは、検出器信号が所定時間所定の限界値にとどまるとき、或いは信号変化率がY2モニター単位/分を下回り、かつレベルが最新のピーク最大値の所定の分率「係数Z1」に低下したときに、ソフトウェアにアクションを起こさせる。
【0023】
本発明の一実施形態では、ソフトウェアは「セットアップウィザード」を備える。これは、オペレーターがシステムに用いるカラムの名前を入力でき、次いで、画面のようなユーザインターフェース上に表示されるソフトウェアの推奨デフォルト監視機能閾値を選択又はオペレーター独自の閾値を入力できるプログラムである。デフォルト値はコンピューターメモリーに格納され、システム製造業者及び/又はカラム製造業者の入力した値である。デフォルト値は、カラムで試験され、標的タンパク質を十分に分離することが実証された値である。表1は、Amersham Biosciences AB(スウェーデン、ウプサラ)から市販のHiLoad Superdex(商標)ゲルろ過カラム、HiPrep(商標)脱塩カラム、RESOURCE Q(商標)、RESOURCE S(商標)、HITrap Q(商標)、HiTrap SP(商標)及びMono Q(商標)イオン交換カラム、並びにHiTrap Chelating(商標)、HisTrap HP(商標)、GSTrap(商標)アフィニティカラムに関するデフォルト値のリストを示す。かかるデフォルト値を用意しておくことで、オペレーターが独自に最適閾値レベルを見いだすための一連の実験を行う必要がなくなり、オペレーターの時間を大幅に節約できる。オペレーターが独自の閾値での実験を望む場合、ソフトウェアがユーザに推奨デフォルト値を表示できることで、実験を導くベースラインをユーザに与え、最適閾値を見いだすのに必要な実験の数を減らすことができる。
【0024】
図3a〜3dは、Unicorn(商標)バージョン5.00ソフトウェアを使用したAktaXpress(商標)での大腸菌溶菌液サンプルの4段階タンパク質精製の一例を示しており、ユーザはセットアップウィザードを用いてカラムの種類を入力し、表1に示すレベル及び傾き監視機能閾値のデフォルト値を用いている。標的タンパク質は(His)6タグ融合タンパク質とした。使用したカラムは次の通りであった。アフィニティ:HisTrap HP 5ml、脱塩:HiPrep 26/10Desalting、イオン交換:RESOURCE Q 6ml、ゲルろ過:HiLoad 16/60 Superdex 75 Prep Grade。ソフトウェアは次の監視機能:(「X1超のレベル」及び「X2超の傾き」)、(「Y1未満のレベル」又は「谷」もしくは「安定プラトー」)、並びに「ピーク最大値の係数Z1倍」としてアフィニティカラムでは係数(Z1)0.2、イオン交換カラム及び脱塩カラムでは0.5を使用した。
【0025】
図3a〜3dでは、UV検出器からの信号UV及び導電率検出器からの信号Cを、検出器を通過する流体のmlに対してプロットした。図では、ピーク開始をSで、ピーク終了をEで示す。サンプルはアフィニティカラムにかけ、アフィニティピークA(図3bに詳細を示す)をまずループに回収した後、脱塩カラムにかける。脱塩カラムから溶出したピークD(図3bに詳細を示す)をループに回収した後、イオン交換カラムにかける。イオン交換カラムから溶出したピークI(図3cに詳細を示す)をループに回収した後、ゲルろ過カラムにかける。ゲルろ過カラムからのピーク溶出G(図3dに詳細を示す)をフラクションコレクター内のウェルA1〜A7に回収する。
【0026】
Unicorn(商標)バージョン5.00ソフトウェアを実行するコンピューターを用いてAktaXpress(商標)ユニットで1種類のタンパク質を精製するシステムの一例によって本発明を例示してきたが、同一のコンピューター及びUnicorn(商標)バージョン5.00ソフトウェアを使用して、複数のAktaXpress(商標)ユニットを同時に制御し、各AktaXpress(商標)ユニットで2種類以上のタンパク質を精製することも想定される。
【0027】
以上の実施形態は本発明の例示を目的としたものであり、特許請求の範囲に記載された保護範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】クロマトグラフィーから溶出されるタンパク質について考えられる検出器信号ピーク形状の例を示す図。
【図2】本発明のクロマトグラフィー装置の第一の実施形態の概略図。
【図3a】本発明の方法を用いたタンパク質含有サンプルの溶出結果を示す図。
【図3b】本発明の方法を用いたタンパク質含有サンプルの溶出結果を示す図。
【図3c】本発明の方法を用いたタンパク質含有サンプルの溶出結果を示す図。
【図3d】本発明の方法を用いたタンパク質含有サンプルの溶出結果を示す図。
【図4】一群のクロマトグラフィーカラムに関するデフォルトパラメータ値を示す表。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質精製用の自動クロマトグラフィーシステムであって、複数のクロマトグラフィーカラムと、複数のコンピューター制御弁と、ポンプと、流体保存用の1以上のループと、検出器を通過する流体の組成を表す出力信号を生成できる検出器と、上記の弁、ポンプ及び検出器を制御するソフトウェアを備えかつその実行に適合したコンピューターとを備えており、該ソフトウェアが検出器の出力信号を処理して2つの信号パラメータを識別することができる、システム。
【請求項2】
前記2つの信号パラメータが信号レベル及び信号レベルの変化率であることを特徴とする請求項1記載の自動クロマトグラフィーシステム。
【請求項3】
前記ソフトウェアが、2つの信号パラメータについて所定の条件が同時に満たされたときに所定のアクションを実行するのに適合していることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の自動クロマトグラフィーシステム。
【請求項4】
前記ソフトウェアが、2つの信号パラメータのいずれかについて所定の条件が満たされたときに所定のアクションを実行するのに適合していることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の自動クロマトグラフィーシステム。
【請求項5】
2つの信号パラメータについての所定の条件がデフォルト条件又はオペレーターの選択した条件であることを特徴とする、請求項3又は請求項4記載の自動クロマトグラフィーシステム。
【請求項6】
自動クロマトグラフィーシステムを制御するためのソフトウェアであって、検出器からの出力信号を受け取って、検出器の出力信号を処理して2つの信号パラメータを識別することができることを特徴とする、自動クロマトグラフィーシステムを制御するソフトウェア。
【請求項7】
当該ソフトウェアが信号レベル及び信号レベルの変化率を識別するのに適合していることを特徴とする、請求項6記載のソフトウェア。
【請求項8】
当該ソフトウェアが、2つの信号パラメータについて所定の条件が同時に満たされたときに所定のアクションを実行するのに適合していることを特徴とする、請求項6又は請求項7記載のソフトウェア。
【請求項9】
当該ソフトウェアが、2つの信号パラメータのいずれかについて所定の条件が満たされたときに所定のアクションを実行するのに適合していることを特徴とする、請求項6又は請求項7記載のソフトウェア。
【請求項10】
当該ソフトウェアが、2つの信号パラメータについてオペレーターが所定のデフォルト条件を選択するか或いはオペレーターの選択した所定の条件を入力するのに適合していることを特徴とする、請求項8又は請求項9記載のソフトウェア。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図3c】
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【図3d】
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【図4】
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【公表番号】特表2007−514153(P2007−514153A)
【公表日】平成19年5月31日(2007.5.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−543487(P2006−543487)
【出願日】平成16年12月10日(2004.12.10)
【国際出願番号】PCT/EP2004/014074
【国際公開番号】WO2005/058452
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)
【Fターム(参考)】