説明

精製プロセス

トランスフェリン溶液を精製するプロセス及び当該精製プロセスの産物。トランスフェリンを生産するプロセス及び当該生産プロセスの産物。医薬成分、医薬製品、及び細胞培養培地中の成分としての、細胞培養物中のトランスフェリンの使用。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、コンピューターで読取り可能な形式の配列表を含む。当該コンピューターで読取り可能な形式は、本明細書中に参照により援用される。
【0002】
本発明は、トランスフェリン溶液の精製のプロセスに関する。また、本発明は、当該精製プロセスの産物にも関する。「トランスフェリン」という用語は、トランスフェリン及びトランスフェリン様タンパク質の両方を指す。
【背景技術】
【0003】
本明細書中の公知文献の列挙又は議論は、必ずしも、それらの文献等が最新技術の一部又は常識であると認めるものと解すべきではない。
【0004】
トランスフェリンは、細胞における鉄の生体利用効率を制御するタンパク質として知られており、DNA合成や酸素の運搬等の重要な代謝過程に寄与する。ヒト血清トランスフェリン(HST)は正常ヒト血漿中の主要な鉄結合タンパク質であって、2〜4g/lの濃度で存在する(van Campenhout et al, 2003, Free Radic. Res., 37, 1069-1077)。血清トランスフェリンは、現在はウシ又はヒトが供給源となっており、商業スケールの哺乳類細胞培養において使用される一般的な添加物である。生物製品中の動物由来成分を減少させるべきという規制当局からの要請が増大しつつあるところ、組換えトランスフェリンは、血清不使用の、大スケールの哺乳類細胞培養産業において望ましい。
【0005】
より具体的には、ヒト血漿トランスフェリンは、相対的な分子量が約80kDaの、678個のアミノ酸からなるモノマー糖タンパク質である。トランスフェリンの各分子は、1つ又は2つの鉄イオンと強力に結合することができる。
【0006】
クロマトグラフィーによる血漿からのトランスフェリンの精製は、例えばRivat et al (1992) Journal of Chromatography, 576: 71-77, US 6,251,860; US 5,744,586;及びUS 5,041,537等に記載されている。酵母由来の組換えトランスフェリンの精製は、PCT/EP2008/060482、及びUS 5,986,067に記載されている。また、トランスフェリンは、植物等の他の宿主中で生産されてもよい。
【0007】
トランスフェリンが動物、ヒト又は組換えのいずれにより供給されたものであっても、供給源からのトランスフェリンの精製の過程では、最大の量のトランスフェリンを回収することが要求される。しかしながら、現在のトランスフェリンの精製方法は、精製トランスフェリンを高い収量で取得するのに不十分である。従って、トランスフェリンの精製プロセスの改善が要求されている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、トランスフェリンの収量増大をもたらすクロマトグラフィー精製プロセスを提供する。当該精製プロセスは、2つの工程を有するのが特に有益であることが見出されている。これらの2つの工程は、独立して、又は一緒に使用されてもよい。
【0009】
従って、本発明は、トランスフェリンの相対的に不純の溶液からトランスフェリンを精製するための改善されたプロセスを提供する。当該プロセスは、アニオン性クロマトグラフィー工程及びカチオン性クロマトグラフィー工程の1つ又は両方を含んでもよい。
【0010】
また、本発明は、前記精製方法により精製したトランスフェリン、及び前記精製方法により精製したトランスフェリンの使用も提供する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、クロマトグラフィーカラムにロードされた、(A)ホウ酸塩不添加の、及び(B)824 mol.mole-1 (5.4 mM)のホウ酸塩を添加したトランスフェリン溶液のA254nmを、Capto(商標)Qクロマトグラフで追跡したものを示す。
【0012】
【図2】図2は、宿主細胞タンパク質クリアランスが275倍以上かつ回収率が60%以上の、低pH高塩洗浄2設計空間のSP−SFのオーバーレイプロットを視覚的に表現したものである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第一の側面は、トランスフェリン溶液(当該トランスフェリン溶液は「出発材料」とみなされてもよい)を精製するプロセスを提供し、当該プロセスは、以下の工程;
a)相対的に不純のトランスフェリン溶液に四ホウ酸塩を添加してトランスフェリンと四ホウ酸塩の溶液を取得する工程;
b)当該トランスフェリンと四ホウ酸塩の溶液を、トランスフェリンが特異的結合活性を有しないアニオン性クロマトグラフィー材に導入し、トランスフェリンをクロマトグラフィー材に結合させる工程;
c)トランスフェリンが結合したクロマトグラフィー材を洗浄する工程;
d)任意により、更にトランスフェリンが結合したクロマトグラフィー材を洗浄する工程;及び
e)任意により、前記アニオン性クロマトグラフィー材からトランスフェリンを回収する工程;
を含む。
【0014】
好ましくは、洗浄工程(c)は、洗浄工程(d)で使用されるものよりも低濃度の洗浄溶液を使用して実施される。例えば、「低濃度」は、5、10、25、30又は50%以上低いこと、及び/又は5、10、20、30、40、又は50mM以上低いこと、又は2、3、4、5又は10倍以上低いことを意味する。
【0015】
より具体的には、前記トランスフェリンを精製するプロセスは:
a)相対的に不純のトランスフェリン溶液に四ホウ酸塩を添加して、1モルのトランスフェリンに対して1モル以上、例えば1モルのトランスフェリンに対して20モル以上の四ホウ酸塩の比率を有するトランスフェリンと四ホウ酸塩の溶液を取得する工程;
b)当該トランスフェリンと四ホウ酸塩の溶液を、トランスフェリンが特異的結合活性を有しないアニオン性クロマトグラフィー材に導入し、トランスフェリンをクロマトグラフィー材に結合させる工程;
c)当該クロマトグラフィー材を約0.1mM〜約30mM、例えば約0.1mM〜約20mMの四ホウ酸塩溶液を使用して洗浄する工程;
d)続いて当該クロマトグラフィー材を5mM〜60mM、例えば30〜60mM、又は30mM以上の四ホウ酸塩溶液で洗浄する工程;及び
e)任意により、前記アニオン性クロマトグラフィー材からトランスフェリンを回収する工程;
を含んでもよい。
【0016】
「特異的結合活性を有しない」は、好ましくは、当該トランスフェリンが抗原抗体結合のようにクロマトグラフィー材に結合しないことを意味する。
【0017】
アニオン性クロマトグラフィー材にトランスフェリンをロードする前にトランスフェリン溶液に四ホウ酸塩を添加することの驚異的な利益は、トランスフェリンに対する当該材のロード能力を増大させることである。当該ロード能力は、2倍、3倍、又はそれ以上に増大する場合もある。故に、一定量のマトリックスにより多くのトランスフェリンがロードされ得て、及び/又はフロースルー中でロスするトランスフェリンの量も減少し得る。好ましくは、四ホウ酸塩は、1モルのトランスフェリンに対して1モル〜1モルのトランスフェリンに対して1000モルの比率、好ましくは約1、10、15、20、30、50、100、200、300、400、450、500、600、700、800、900又は1000mol.mol-1の比率で添加される。好ましい比率は、1モルのトランスフェリンに対して20〜1000モルの四ホウ酸塩である。トランスフェリンをアニオン性クロマトグラフィー材にロードする前にトランスフェリンに四ホウ酸塩を添加することの利益は、単独であっても、又は上記で開示した精製プロセスの洗浄工程と組み合わせられてもよい。例えば、四ホウ酸塩は、独立して、又はアニオン交換マトリックスを使用する精製プロセスと組み合わせて、当該マトリックスのトランスフェリン結合能力を増大するのに使用されてもよい。
【0018】
洗浄工程(c)において使用される四ホウ酸塩の濃度は、約0.1mM〜約30mMであってもよい。例えば、(c)で使用される四ホウ酸塩溶液の濃度は、最小値が約0.1mM、0.5mM、1mM、2mM、4mM、6mM、8mM、10mM、15mM、20mM又は25mM、最大値が約0.5mM、1mM、2mM、4mM、6mM、8mM、10mM、15mM、20mM、25mM又は30mMであってもよい。より具体的には、(c)の四ホウ酸塩溶液の濃度は約2.5mM〜約7.5mM、最も好ましくは約5mMであってもよい。
【0019】
洗浄工程(d)において使用される四ホウ酸塩の濃度は、約5mM〜約60mMであってもよい。例えば、(d)で使用される四ホウ酸塩溶液の濃度は、最小値が約5mM、10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM又は55mM、最大値が約10mM、15mM、20mM、25mM、30mM、35mM、40mM、45mM、50mM、55mM又は60mMであってもよい。より具体的には、(d)の四ホウ酸塩溶液の濃度は約20mM〜約40mM、最も好ましくは約30mMであってもよい。
【0020】
工程(c)のような低濃度での「前洗浄」を工程(d)のようなより高濃度での洗浄の前に実施することの驚異的な利点は、このレギームが、より高濃度での洗浄の過程でのトランスフェリンのロスを減少させることである。好ましくは、「濃度」とは「四ホウ酸塩濃度」のことである。
【0021】
四ホウ酸塩は、四ホウ酸カリウム又は四ホウ酸ナトリウム等のI族金属の四ホウ酸塩であってもよい。好ましい四ホウ酸塩は、四ホウ酸カリウムである。
【0022】
トランスフェリンは、pHの変化及び/又は伝導率の増大等により、溶出によってアニオン性クロマトグラフィー材から回収されてもよい。溶出溶液のpHはpH5.2以下であってもよく、及び/又は伝導率は2.5 mS.cm-1以下でもよい。他の溶出液は、110mMの四ホウ酸カリウム又は四ホウ酸ナトリウムを含有する。
【0023】
好ましくは、アニオン性クロマトグラフィー材は、強アニオン交換体又は弱アニオン交換体である機能的リガンドを含む。機能的リガンドは、イオンであってもよい。強アニオン交換体の例として、第四級アミン基(「Q」)、即ち-N+(CH3)3、例えばQ Sepharose Fast Flow (Q-FF)及びCapto Q (いずれもGE Healthcare, Little Chalfont, UKで入手可能)、UNOsphere(商標)Q(Bio-Rad, Hemel Hempstead, UK)、Toyopearl(登録商標)SuperQ (TosoH Corporation, Tokyo, Japan), Q Ceramic HyperD(登録商標)(Pall, Portsmouth, UK)及びPOROS(登録商標)50 HQ (Applied Biosystems Inc., Foster City, CA, USA)等が挙げられる。弱アニオン交換体の例として、ジメチルアミノアルキル基、例えばジエチルアミノエチル基(「DEAE」、「DE」とも呼ばれる)、即ち-N+H(CH2CH3)2、例えばDEAE Sepharose Fast Flow (DE-FF; GE Healthcareから入手可能)等が挙げられる。更なる強及び弱アニオン交換体は、‘Liquid column chromatography: a survey of modern techniques and applications’ (1975, pages 344-351, Editors: Zdenek Deyl, Karel Macek, Jaroslav Janak, Publisher: Elsevier)及び‘Protein liquid chromatography’ (2000, pages 18-21, Editor: Michael Kastener, Publisher: Elsevier)に記載されており、それらのいずれも、本明細書中に参照により援用される。
【0024】
弱アニオン交換体は、強アニオン交換体に使用するよりも低濃度である工程(c)及び(d)の洗浄緩衝剤の利用において有利である。
【0025】
好ましくは、トランスフェリン溶液は、クロマトグラフィーマトリックス1mLあたり、0.01mg〜約100mgの濃度で、例えば最小で約0.01、0.1、1、10、20、30、40、50、60、70、80又は90mg.mL-1、最大で約0.1、1、10、20、30、40、50、60、70、80、90又は100mg.mL-1の濃度で、アニオン性クロマトグラフィーマトリックスにロードされる。好ましいロードのパラメーターは、約10〜100mg.mL-1である。特に好ましいロードのパラメーターは、約30mg.mL-1である。
【0026】
好ましくは、アニオン性クロマトグラフィーマトリックスにロードされるトランスフェリン溶液のpHは約8〜10で、例えば約pH8.0〜10、より好ましくはpH9.0〜9.4である。
【0027】
アニオン性クロマトグラフィー材にトランスフェリンを含有する材料をロードする前に、当該アニオン性クロマトグラフィー材は、例えば1つ以上の濃度、例えば四ホウ酸カリウム110mM及び/又は四ホウ酸カリウム30mM等の四ホウ酸塩溶液等で平衡化されてもよい。四ホウ酸カリウムは、I族金属の四ホウ酸塩、例えば四ホウ酸ナトリウム等の、異なる四ホウ酸塩で部分的に又は完全に代替されてもよい。
【0028】
本発明の第二の側面は、トランスフェリン溶液(トランスフェリン溶液を「出発化合物」とみなす)を精製するプロセスを提供し、当該プロセスは、以下の工程:
a)相対的に不純のトランスフェリン溶液を、トランスフェリンが特異的結合活性を有しないカチオン性クロマトグラフィー材に導入し、トランスフェリンをクロマトグラフィー材に結合させる工程;
b)当該クロマトグラフィー材を、緩衝効果を提供する塩濃度が約200mM以下でpHが約4〜約5の洗浄緩衝剤で洗浄する工程;
c)続いて当該クロマトグラフィー材を、塩濃度が約50mM〜約5MでpHが約4〜約5の洗浄緩衝剤で洗浄する工程;及び
d)当該カチオン性クロマトグラフィー材からトランスフェリンを回収する工程;
を含む、カチオン性クロマトグラフィー工程を含む。
【0029】
好ましくは、前記カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(b)の洗浄緩衝剤のpHは、最低で約4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8又は4.9、最高で約4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9又は5.0、最も好ましくは約4.5である。
【0030】
好ましくは、前記カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(b)の洗浄緩衝剤の塩濃度の合計は、約10mM〜約200mM、より好ましくは約50mMである。より好ましくは、カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(b)の洗浄緩衝剤の緩衝活性を提供する塩の濃度は約10mM〜約200mM、より好ましくは約50mMである。好ましくは、当該工程(b)の洗浄緩衝剤は、緩衝効果を提供する塩(即ち「緩衝塩」)を除き実質的に塩を含まず、そしてより好ましくは、当該緩衝塩以外に塩を含まない。「実質的に含まない」という用語は、緩衝塩以外の塩のレベルが、検出不能レベルであり、及び/又は緩衝塩以外の塩を全く含まない洗浄緩衝剤と比較して当該洗浄緩衝剤に何ら異なる性質を与えない程に十分に低いことを意味する。例えば、前記工程(b)の洗浄緩衝剤は、塩化ナトリウムを実質的に含まないのが好ましい。
【0031】
前記カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(c)の洗浄緩衝剤のpHは、最低で約4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8又は4.9、最高で約4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9又は5.0であるのが好ましく、最も好ましくは約pH4.5である。
【0032】
好ましくは、前記カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(c)の洗浄緩衝剤の塩濃度は、約50mM〜約5M、例えば最小で約50mM、100mM、150mM、200mM、250mM、500mM、1M、1.25M、1.5M、1.75M、2M、2.5M、3M、3.5M、4M又は4.5M、最大で約100mM、150mM、200mM、250mM、500mM、1M、1.25M、1.5M、1.75M、2M、2.5M、3M、3.5M、4M、4.5M又は5M、より好ましくは250mM〜約2M、最も好ましくは約2Mである。前記工程(c)の洗浄緩衝剤の塩濃度は、工程(b)の洗浄緩衝剤の塩濃度よりも高いのが好ましい。「よりも高い」の例として、5、10、20、30、40、50、100、150mM以上高いことが挙げられる。
【0033】
好ましい前記カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(c)の洗浄緩衝剤の回収率は少なくとも60、70、80、90、95又は100%であり、及び/又は宿主細胞タンパク質(HCP)クリアランス(例えば酵母抗原クリアランス)が少なくとも200、225、250、275、300、325、350、375又は400倍である。これらは、以下の等式の1つ以上(好ましくは両方により規定される:
回収率= -940.50069 + (441.61018 × p) + (0.043309 × s) - (47.57735 × p2) -
(0.010263 × p × s)
HCP (例えばYA)クリアランス= 16388.65744 - (10512.30681 × p) - (1.70101 × s) + (2257.17601 × p2) + (0.78628 × p × s) - (159.06573 × p3) - (0.090182 × p2 × s)
【0034】
上記等式において、pはpH、sは塩濃度(mM)、そして回収率は回収%(例えば重量/重量)である。
【0035】
例えば、前記洗浄緩衝剤の回収率は60%以上で、HCP(例えばYA)クリアランスは275倍以上である。回収率が60%以上、HCP(例えばYA)クリアランスが275倍以上の洗浄緩衝剤のパラメーターは、以下の等式により規定される:
回収率(%): 60 = -940.50069 + (441.61018 × p) + (0.043309 × s) - (47.57735 × p2) - (0.010263 × p × s)
HCP (例えばYA)クリアランス(倍): 275 = 16388.65744 - (10512.30681 × p) - (1.70101 × s) + (2257.17601 × p2) + (0.78628 × p × s) - (159.06573 × p3) - (0.090182 × p2 × s)
【0036】
上記等式において、pはpHで、sは塩濃度(mM)である。
【0037】
回収率(%)は、重量/重量であってもよい。「宿主細胞タンパク質」という用語は、当業者に周知である。宿主細胞タンパク質として、宿主細胞により生産される、ヘテロタンパク質等の、タンパク質中にコンタミナントとして存在し得る、宿主細胞に元から存在し、又は宿主細胞により生産されるタンパク質が挙げられる。宿主細胞で生産された産物中に存在する宿主細胞タンパク質は、可能な限り少なくする、又は排除するのが望ましい。酵母宿主細胞において、宿主細胞タンパク質は、「酵母抗原」として知られる。
【0038】
pH、塩濃度、HCP(例えばYA)クリアランス及び回収率は、グラフ、例えばオーバーレイプロットに描画される。図2は、オーバーレイプロットの一例を示す。このグラフは、「設計空間」の見方を示す。当該設計空間は、所望の回収率(%)及びHCP(例えばYA)クリアランス(倍)を達成するpH及び塩濃度の組合せを表現する。設計空間は、所望の回収率及びHCP(YA)クリアランスの任意の組合せについて作成(「規定」)できる。
【0039】
前記設計空間は、所望の回収率及びHCP(例えばYA)クリアランスを提供するpH及び塩濃度の組合せの最も正確な規定である。しかしながら、当該組合せは、1つ以上の矩形領域により、設計空間の、少なくとも一部分、好ましくは重要な部分を記述することによって近似される場合もある。例えば、回収率が60%以上かつHCP(例えばYA)クリアランスが275倍以上と規定される設計空間は、(i)pH4.3〜5.0、塩50〜1100mM、(ii)pH4.0〜4.7、塩1100〜5000mM、(iii)pH4.7〜5.0、塩1100〜2270mM、(iv)pH4.7〜4.8、塩2270〜3900mM、(v)pH4.8〜4.9、塩2270〜2990mM及び(vi)pH4.7〜4.75、塩3900〜4345mMの1つ以上により近似される場合もある。好ましくは、当該デザインは、(i)〜(iv)により、より好ましくは(i)〜(v)により、そして最も好ましくは(i)〜(vi)により近似される。適切な塩として、一価及び二価金属及びアンモニウムの塩が挙げられる。前記カチオン性クロマトグラフィー工程の好ましい塩は、NaClである。
【0040】
工程(c)の洗浄緩衝剤は、2つ以上の塩を含んでも含まなくてもよい。例えば、工程(c)の洗浄緩衝剤は、酢酸ナトリウム及びNaClを含んでも含まなくてもよい。酢酸ナトリウムの濃度は約27mMであってもよい。
【0041】
上記のような低pH/高塩濃度の洗浄緩衝剤の驚異的な利点は、マトリックスからのトランスフェリンの回収率を顕著に低下させずに、カチオン性マトリックスを通じてのHCPクリアランス、例えば酵母抗原クリアランスを改善する点にある。これは、高塩濃度の洗浄緩衝剤の使用がマトリックスからのトランスフェリンのロスの望ましくない増大をもたらすという予想と正反対である。
【0042】
前記トランスフェリンは、例えばpHの変化及び/又は伝導率の変化及び/又は特定の溶出剤の添加等による溶出により、カチオン性クロマトグラフィー剤から回収され得る。当該溶出溶液は、リン酸ナトリウム及び/又は塩化ナトリウムを含有してもよい。例えば、リン酸ナトリウムの濃度は、約50mMであってもよい。塩化ナトリウムの濃度は、約150mMであってもよい。溶出溶液のpHは約pH6、例えば約pH6.0であってもよい。
【0043】
前記カチオン性クロマトグラフィー工程は、トランスフェリンの回収の前に、更に、例えば三回目の洗浄を含んでもよい。好ましくは、前記更なる洗浄は、洗浄工程(c)の後に実施される。好ましくは、当該更なる洗浄工程は、洗浄工程(c)の直後、例えば途中に他の工程をはさまずに実施される。当該更なる洗浄は、pH5.0〜5.2(好ましくはpH5.1)の50mM酢酸ナトリウム洗浄緩衝剤、好ましくは伝導率が2.5〜3.1mS.cm-1のものを用いて実施されてもよい。
【0044】
好ましくは、前記トランスフェリン溶液は、クロマトグラフィー材1mlあたり最大100mg、例えば最小で約10、20、30、40、50、60、70、80又は90mg.mL-1、最大で約20、30、40、50、60、70、80、90又は100mg.mL-1、より好ましくは約30〜約50mg.mL-1となるように、前記カチオン性クロマトグラフィー材にロードされる。
【0045】
好ましくは、前記カチオン性クロマトグラフィー材は、強カチオン交換体である機能的リガンドを含有する。強カチオン交換体の例として、スルホン酸基、即ち-SO3-を含むものが挙げられ、例えばSP Sepharose Fast Flow (SP-FF)及びS-Spheradex; (いずれもGE Healthcareから入手可能), SP-Spherosil, SE-Cellulose等である。特に好ましいカチオン性クロマトグラフィー材は、SP Sepharose Fast Flowである。当該カチオン性クロマトグラフィー材料は、弱カチオン交換体である機能的リガンドを含んでもよく、そのような材として、CM-Sepharose FF又はCM-Celluloseが挙げられる。更なる強及び弱カチオン交換体は、‘Liquid column chromatography: a survey of modern techniques and applications’ (1975, pages 344-351, Editors: Zdenek Deyl, Karel Macek, Jaroslav Janak, Publisher: Elsevier)及び‘Protein liquid chromatography’ (2000, pages 18-21, Editor: Michael Kastener, Publisher: Elsevier)に記載されている。
【0046】
ロードの前に(例えば工程(a))、前記カチオン性クロマトグラフィー材は、例えば50mM酢酸ナトリウム(約pH4〜pH6、例えば約pH4.0〜pH6.0、例えば約pH5.0〜約pH5.2、好ましくは約pH5.1で、伝導率が約2.5mS.cm-1〜約3.1mS.cm-1)等により平衡化されてもよい。
【0047】
トランスフェリンの回収の後、カチオン及び/又はアニオンクロマトグラフィー材は、当該材の保存及び/又は再利用の前に、洗浄されてもよい。クロマトグラフィー材を洗浄する技術は、当該技術分野で公知である。
【0048】
本発明の第三の側面は、トランスフェリン溶液を精製するプロセスを提供し、当該プロセスは、本発明の第二の側面のカチオン性クロマトグラフィー工程及び本発明の第一の側面のアニオン性クロマトグラフィー工程を含む。好ましくは、当該カチオン性クロマトグラフィー工程の後に、アニオン性クロマトグラフィー工程が行われる。あるいは、アニオン性クロマトグラフィー工程の後に、カチオン性クロマトグラフィー工程が行われてもよい。好ましくは、カチオン性クロマトグラフィー工程の直後に、例えば間に他の工程をはさまず、アニオン性クロマトグラフィー工程が行われる。任意により、カチオン性クロマトグラフィー工程とアニオン性クロマトグラフィー工程の間に、他の工程が実施されてもよい。カチオン性クロマトグラフィー工程の溶出物は、アニオン性クロマトグラフィー工程に供される前に、希釈されてもされなくてもよい。
【0049】
好ましくは、本発明の精製に供されるトランスフェリン溶液は、実質的に、又は全く、細胞及び細胞の破片を含まない。「実質的に含まない」とは、当該溶液中に存在するいずれの粒子も精製プロセスに顕著な不都合な影響を及ぼさないことを意味する。好ましくは、いずれの粒子も、粒子を全く含まない溶液と比較して、精製プロセスの収量を、10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0.5又は0.1%を超えて低下させない。
【0050】
本発明の第一、第二又は第三の側面のプロセスで最終的に取得されるトランスフェリン含有溶液は、精製工程等の1つ以上の更なる工程に供されてもされなくてもよい。そのような更なる工程は、本発明の第一、第二又は第三の側面の1つ以上の工程の前に実施されてもよい。例えば、本発明の第一、第二又は第三の側面は、1つ以上の更なる工程により分割されてもよい。
【0051】
前記1つ以上の更なる精製工程は:アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、緩衝剤交換、濃縮、希釈、鉄イオン等の金属イオンの除去、透析、透析濾過(diafiltration)、pH調整(四ホウ酸塩及び塩基、例えば四ホウ酸カリウム及び水酸化ナトリウム、特に250mMの四ホウ酸カリウム及び0.5Mの水酸化ナトリウムを用いる)、還元剤処理、例えば酵母由来及び/又はマトリックス由来の色素を除去するための変色処理(例えば木炭を用いる)、加熱(殺菌を含む)、冷却、品質調整、超遠心、細胞分離技術、例えば遠心分離、濾過(例えばクロスフロー濾過、膨張層クロマトグラフィー等)、細胞破壊方法、例えばビーズミル、ソニケーション、酵素曝露等、硫酸アンモニウム沈殿、エタノール沈殿、酸抽出、溶媒抽出、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アニフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、金属アフィニティー/キレーティングクロマトグラフィー、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、逆相HPLC、伝導率の調整、油相へのトランスフェリンのアルカリ沈殿等から選択される。超遠心が特に好ましい。「品質調整」とは、pH及び伝導率の1つ以上の調整及び/又は固体及び/又は含有物の添加を含む。超遠心の名目的な分子量のカットオフは10000であってもよい。本発明の第一、第二又は第三の側面のプロセスから得られたトランスフェリンのpHは、酢酸の添加等により、pH6.7〜7.3に調整されてもよい。そして、pH調整されたトランスフェリンは、濃縮され、及び/又はNaCl溶液に対して透析濾過されてもよい。透析濾過の終了後、保持物が更に濃縮されてもよい。
【0052】
上記技術のいずれか1つ以上は、単離されたタンパク質を更に商業的に又は産業的に許容されるレベルの純度まで精製するのに使用されてもされなくてもよい。商業的に又は産業的に許容されるレベルの純度として、出願人は、トランスフェリン中に他の材料(例えば1つ以上のコンタミナント)が存在するレベルが、50%、40%、30%、20%、10%、5%、4%、3%、2%、1%、0.5%、0.1%、0.01%、0.001%、0.0001%、0.00001%、又は0.000001%未満、及び好ましくは0%であることを意図する。
【0053】
商業的に又は産業的に許容されるレベルの純度は、当初の目的に適合する形態でタンパク質産物を得られる、相対的に粗略な精製方法により達成されてもよい。商業的に又は産業的に許容されるレベルの純度に精製されたタンパク質調製物は、選択されたタンパク質産物に加え、例えば、宿主細胞又はそれに由来する細胞の破片等の、細胞培養成分を含む場合もある。あるいは、選択されたタンパク質産物、及び任意で機能的に許容されるレベルの細胞培養プロセス由来の定分子量のコンタミナントを含有する組成物を取得するために、高分子量の成分(宿主細胞又はそれに由来する細胞の破片等)は、(濾過又は遠心分離等により)除去されてもされなくてもよい。
【0054】
前記タンパク質は、医薬として許容される純度のレベルを達成するように精製されてもされなくてもよい。タンパク質は、基本的にパイロジェンを含まず、意図された目的に使用することができることにより、当該タンパク質の活性に関連しない医学的効果を引き起こすことなく、医薬として有効な量を投与することができる場合、医薬として許容されるレベルの純度であるとされる。
【0055】
トランスフェリン産物は、10-4g.L-1、10-3g.L-1、0.01g.L-1、0.02g.L-1、0.03g.L-1、0.04g.L-1、0.05g.L-1、0.06g.L-1、0.07g.L-1、0.08g.L-1、0.09g.L-1、0.1g.L-1、0.2g.L-1、0.3g.L-1、0.4g.L-1、0.5g.L-1、0.6g.L-1、0.7g.L-1、0.8g.L-1、0.9g.L-1、1g.L-1、2g.L-1、3g.L-1、4g.L-1、5 g.L-1、6g.L-1、7g.L-1、8g.L-1、9g.L-1、10g.L-1、15g.L-1、20g.L-1、25g.L-1、30g.L-1、40g.L-1、50g.L-1、60g.L-1、70g.L-1、70g.L-1、90g.L-1、100g.L-1、150g.L-1、200g.L-1、250g.L-1、300g.L-1、350g.L-1、400g.L-1、500g.L-1、600g.L-1、700g.L-1、800g.L-1、900g.L-1、1000g.L-1以上の濃度で供給されてもよい。
【0056】
本発明の第一、第二又は第三の側面のプロセスにより取得されるトランスフェリンを含有する溶液は、更にヒトへの静脈内投与のために、及び/又は細胞培養成分としての調製物として精製され及び/又は製剤化され、及び/又は滅菌され、及び/又は最終的な容器に入れられる。
【0057】
本発明の第一、第二又は第三の側面のプロセスにより取得されるトランスフェリンを含有する溶液は、液体、例えば最終的なトランスフェリンの使用に適した緩衝剤の溶液等に懸濁されるのが好ましい。そのような溶液として、塩化ナトリウム溶液、例えば145mM NaClが挙げられる。
【0058】
本発明の第一、第二又は第三の側面のプロセスは、以下の1つ以上の工程に先行されてもよい:発酵、一次的分離、遠心分離液(centrate)の品質調整、アフィニティー分離、金属キレート分離、疎水性分離、液体/液体抽出、沈殿、超遠心、サイズ排除分離、及び/又は混合モード分離。
【0059】
前記トランスフェリンは、本発明の第一、第二又は第三の側面のカチオン性クロマトグラフィー工程及び/又はアニオン性クロマトグラフィー工程の前及び/又は後に、ホロ化(holoized)されてもされなくてもよい。故に、当該精製プロセスに供されるトランスフェリンは、アポ-トランスフェリン、部分的鉄飽和トランスフェリン、又はホロ-トランスフェリンであってもよい。
【0060】
ホロ化及びアポ化(apoization)の技術は、当該技術分野で公知である。トランスフェリンは、重炭酸ナトリウム及び鉄(例えばクエン酸鉄アンモニウム)を、トランスフェリン1モルあたりFe3+約2モル加え、常温(例えば約20〜25℃)で1時間以上インキュベートすることにより、ホロ化されてもよい。トランスフェリンは、低pHで、キレート剤の存在下、アポ化されてもよい。例えば、トランスフェリンは、トランスフェリン1容を9容のアポ化溶液に添加し、4℃で一昼夜攪拌することにより、アポ化されてもよい。アポ化溶液は、100mMの酢酸ナトリウム、100mMのクエン酸ナトリウム、10mMのEDTAを含み、pH4.5であってもよい。
【0061】
前記相対的に不純のトランスフェリンは、血液供給源から、又は原核生物(細菌等)若しくは真核生物(真菌類、動物、昆虫又は植物等)等の組み替え供給源から取得されてもよい。前期相対的に不純のトランスフェリンの好ましい供給源は微生物細胞であって、例えば真菌細胞(好ましくは酵母細胞、例えばサッカロマイケス(Saccharomyces)(例えばS. cerevisiae)、ピキア(Pichia)(例えばP. pastoris)又はクルウェロマイケス(Kluyveromyces)(例えばK. lactis)等)、又は細菌細胞(例えばバチルス(Bacillus)又はエスケリキア・コリ(Escherichia coli)等)が挙げられ、哺乳類の細胞(例えばチャイニーズハムスター卵巣(CHO)又は幼若ハムスター腎臓(BHK)細胞等)又は血液若しくは血清等の血液フラクションも、供給源として好ましい。当該血液又は血液フラクションは、人又は動物由来(ウシ由来等)のものであってもよい。
【0062】
本発明の「トランスフェリン」は、鉄結合能力を有するいずれかのタンパク質であって、例えばLambert et al., Comparative Biochemistry and Physiology, Part B, 142 (2005), 129-141、及びTesta, Proteins of iron metabolism, CRC Press, 2002; Harris & Aisen, Iron carriers and iron proteins, Vol. 5, Physical Bioinorganic Chemistry, VCH, 1991等に記載のトランスフェリンファミリーに属するものであってもよい。
【0063】
トランスフェリンファミリータンパク質の例として、血清トランスフェリン、オボトランスフェリン、メラノトランスフェリン及びラクトフェリン、それらの誘導体及び変異体、例えば突然変異トランスフェリン(Mason et al., (1993) Biochemistry, 32, 5472; Mason et al., (1998), Biochem. J., 330, 35)、切断トランスフェリン、トランスフェリンのローブ(lobe) (Mason et al., (1996) Protein Expr. Purif., 8, 119; Mason et al., (1991) Protein Expr. Purif., 2, 214)、突然変異ラクトフェリン、切断ラクトフェリン、ラクトフェリンのローブ、突然変異オボトランスフェリン、切断オボトランスフェリン、メラノトランスフェリンのローブ、切断メラノトランスフェリン、又は上記のいずれかと他のペプチド、ポリペプチド又はタンパク質との融合体(Shin et al., (1995) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 92, 2820; Ali et al., (1999) J. Biol. Chem., 274, 24066; Mason et al., (2002) Biochemistry, 41, 9448)が挙げられる。血清トランスフェリンが好ましく、特に好ましくは、配列番号1の679アミノ酸、C1バリアント(Accession number NP_001054)とも称されるアミノ酸配列を有するヒト血清トランスフェリン(HST)である。ラクトフェリンが好ましく、特に好ましくは、配列番号2の691アミノ酸配列を有するヒトラクトフェリンである。メラノトランスフェリンが好ましく、特に好ましくは、配列番号3の20〜738アミノ酸配列残基を有するヒトメラノトランスフェリンである。
【0064】
「トランスフェリン」という用語は、天然のトランスフェリン、並びにトランスフェリンの融合体及び抱合体(conjugation)、及び抱合コンピテントトランスフェリン、例えば「チオ-トランスフェリン」等の操作された変異トランスフェリンのいずれをも含む。それらの例がWO2008/152140及びPCT/EP2008/060482に記載されており、いずれも本明細書中に参照により援用される。PCT/EP2008/060482及びProtein Formulation and Delivery”, E. J. McNally (Ed.), 発行Marcel Dekker Inc. New York 2000 and “Rational Design of Stable Protein Formulations - Theory and Practice”; J. F. Carpenter and M. C. Manning (Ed.) Pharmaceutical Biotechnology Vol 13. Kluwer Academic/Plenum Publishers, New York 2002, Yazdi and Murphy, (1994) Cancer Research 54, 6387-6394, Widera et al., (2003) Pharmaceutical Research 20, 1231-1238; Lee et al., (2005) Arch. Pharm. Res. 28, 722-729によると、トランスフェリンの抱合体、例えば「チオ-トランスフェリン」が好ましいものであり得る。本発明の、又は本発明により精製されたトランスフェリンは、天然の、又は本明細書中に記載される操作された変異トランスフェリンのいずれであってもよい。例えば、当該トランスフェリンは、他の分子と抱合するために利用可能な1つ以上のチオール基を有しても有しなくてもよい。
【0065】
[配列番号1]
VPDKTVRWCA VSEHEATKCQ SFRDHMKSVI PSDGPSVACV KKASYLDCIR AIAANEADAV 60
TLDAGLVYDA YLAPNNLKPV VAEFYGSKED PQTFYYAVAV VKKDSGFQMN QLRGKKSCHT 120
GLGRSAGWNI PIGLLYCDLP EPRKPLEKAV ANFFSGSCAP CADGTDFPQL CQLCPGCGCS 180
TLNQYFGYSG AFKCLKDGAG DVAFVKHSTI FENLANKADR DQYELLCLDN TRKPVDEYKD 240
CHLAQVPSHT VVARSMGGKE DLIWELLNQA QEHFGKDKSK EFQLFSSPHG KDLLFKDSAH 300
GFLKVPPRMD AKMYLGYEYV TAIRNLREGT CPEAPTDECK PVKWCALSHH ERLKCDEWSV 360
NSVGKIECVS AETTEDCIAK IMNGEADAMS LDGGFVYIAG KCGLVPVLAE NYNKSDNCED 420
TPEAGYFAVA VVKKSASDLT WDNLKGKKSC HTAVGRTAGW NIPMGLLYNK INHCRFDEFF 480
SEGCAPGSKK DSSLCKLCMG SGLNLCEPNN KEGYYGYTGA FRCLVEKGDV AFVKHQTVPQ 540
NTGGKNPDPW AKNLNEKDYE LLCLDGTRKP VEEYANCHLA RAPNHAVVTR KDKEACVHKI 600
LRQQQHLFGS NVTDCSGNFC LFRSETKDLL FRDDTVCLAK LHDRNTYEKY LGEEYVKAVG 660
NLRKCSTSSL LEACTFRRP 679
【0066】
[配列番号2]
GRRRSVQWCA VSQPEATKCF QWQRNMRKVR GPPVSCIKRD SPIQCIQAIA ENRADAVTLD 60
GGFIYEAGLA PYKLRPVAAE VYGTERQPRT HYYAVAVVKK GGSFQLNELQ GLKSCHTGLR 120
RTAGWNVPIG TLRPFLNWAG PPEPIEAAVA RFFSASCVPG ADKGQFPNLC RLCAGTGENK 180
CAFSSQEPYF SYSGAFKCLR DGAGDVAFIR ESTVFEDLSD EAERDEYELL CPDNTRKPVD 240
KFKDCHLARV PSHAVVARSV NGKEDAIWNL LRQAQEKFGK DKSPKFQLFG SPSGQKDLLF 300
KDSAIGFSRV PPRIDSGLYL GSGYFTAIQN LRKSEEEVAA RRARVVWCAV GEQELRKCNQ 360
WSGLSEGSVT CSSASTTEDC IALVLKGEAD AMSLDGGYVY TAGKCGLVPV LAENYKSQQS 420
SDPDPNCVDR PVEGYLAVAV VRRSDTSLTW NSVKGKKSCH TAVDRTAGWN IPMGLLFNQA 480
GSCKFDEYFS QSCAPGSDPR SNLCALCIGD EQGENKCVPN SNERYYGYTG AFRCLAENAG 540
DVAFVKDVTV LQNTDGNNNE AWAKDLKLAD FALLCLDGKR KPVTEARSCH LAMAPNHAVV 600
SRMDKVERLK QVLLHQQAKF GRNGADCPDK FCLFQSETKN LLFNDNTECL ARLHGKTTYE 660
KYLGPQYVAG ITNLKKCSTS PLLEACEFLR K 691
【0067】
[配列番号3]
MRGPSGALWL LLALRTVLGG MEVRWCATSD PEQHKCGNMS EAFREAGIQP SLLCVRGTSA 60
DHCVQLIAAQ EADAITLDGG AIYEAGKEHG LKPVVGEVYD QEVGTSYYAV AVVRRSSHVT 120
IDTLKGVKSC HTGINRTVGW NVPVGYLVES GRLSVMGCDV LKAVSDYFGG SCVPGAGETS 180
YSESLCRLCR GDSSGEGVCD KSPLERYYDY SGAFRCLAEG AGDVAFVKHS TVLENTDGKT 240
LPSWGQALLS QDFELLCRDG SRADVTEWRQ CHLARVPAHA VVVRADTDGG LIFRLLNEGQ 300
RLFSHEGSSF QMFSSEAYGQ KDLLFKDSTS ELVPIATQTY EAWLGHEYLH AMKGLLCDPN 360
RLPPYLRWCV LSTPEIQKCG DMAVAFRRQR LKPEIQCVSA KSPQHCMERI QAEQVDAVTL 420
SGEDIYTAGK TYGLVPAAGE HYAPEDSSNS YYVVAVVRRD SSHAFTLDEL RGKRSCHAGF 480
GSPAGWDVPV GALIQRGFIR PKDCDVLTAV SEFFNASCVP VNNPKNYPSS LCALCVGDEQ 540
GRNKCVGNSQ ERYYGYRGAF RCLVENAGDV AFVRHTTVFD NTNGHNSEPW AAELRSEDYE 600
LLCPNGARAE VSQFAACNLA QIPPHAVMVR PDTNIFTVYG LLDKAQDLFG DDHNKNGFKM 660
FDSSNYHGQD LLFKDATVRA VPVGEKTTYR GWLGLDYVAA LEGMSSQQCS GAAAPAPGAP 720
LLPLLLPALA ARLLPPAL 738
【0068】
特に好ましいトランスフェリンは、配列番号4のアミノ酸配列からなり、又はこれを含む。
【0069】
[配列番号4]
VPDKTVRWCA VSEHEATKCQ SFRDHMKSVI PSDGPSVACV KKASYLDCIR AIAANEADAV 60
TLDAGLVYDA YLAPNNLKPV VAEFYGSKED PQTFYYAVAV VKKDSGFQMN QLRGKKSCHT 120
GLGRSAGWNI PIGLLYCDLP EPRKPLEKAV ANFFSGSCAP CADGTDFPQL CQLCPGCGCS 180
TLNQYFGYSG AFKCLKDGAG DVAFVKHSTI FENLANKADR DQYELLCLDN TRKPVDEYKD 240
CHLAQVPSHT VVARSMGGKE DLIWELLNQA QEHFGKDKSK EFQLFSSPHG KDLLFKDSAH 300
GFLKVPPRMD AKMYLGYEYV TAIRNLREGT CPEAPTDECK PVKWCALSHH ERLKCDEWSV 360
NSVGKIECVS AETTEDCIAK IMNGEADAMS LDGGFVYIAG KCGLVPVLAE NYNKADNCED 420
TPEAGYFAVA VVKKSASDLT WDNLKGKKSC HTAVGRTAGW NIPMGLLYNK INHCRFDEFF 480
SEGCAPGSKK DSSLCKLCMG SGLNLCEPNN KEGYYGYTGA FRCLVEKGDV AFVKHQTVPQ 540
NTGGKNPDPW AKNLNEKDYE LLCLDGTRKP VEEYANCHLA RAPNHAVVTR KDKEACVHKI 600
LRQQQHLFGS NVADCSGNFC LFRSETKDLL FRDDTVCLAK LHDRNTYEKY LGEEYVKAVG 660
NLRKCSTSSL LEACTFRRP 679
【0070】
好ましくは、精製に供されるトランスフェリンは、リーダー配列を含まない。例えば、トランスフェリンはリーダー配列を有した状態で生産されてもよく、そして当該リーダー配列は、精製の前に除去されてもされなくてもよい。あるいは、当該トランスフェリンは、リーダー配列を有さずに生産されてもよい。リーダー配列を有さずに生産されるトランスフェリン配列の例として、配列番号1及び配列番号4に記載の配列が挙げられる。
【0071】
前記トランスフェリンは、天然に存在するトランスフェリン、又は公知の操作された変異トランスフェリンに対して、改変されていてもよい。例えば、前記トランスフェリンは、配列番号1、配列番号2又は配列番号3又は配列番号4と、25%以上特に30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、99.1%、99.2%、99.3%、99.4%、99.5%、99.6%、99.7%、99.8%、又は99.9%以上の相同性を有するアミノ酸配列からなり、又はこれを含んでもよい。より具体的には、配列番号1、配列番号2又は配列番号3、最も好ましくは配列番号4と、相同性が100%となってもよい。
【0072】
トランスフェリンファミリータンパク質のアミノ酸配列は、長さが167アミノ酸以上、特に300アミノ酸以上、630アミノ酸以上、691アミノ酸以上、694アミノ酸以上、又は695アミノ酸以上であってもよい。当該長さは、典型的には、1274アミノ酸以下、特に819アミノ酸以下、722アミノ酸以下、717アミノ酸以下、又は706アミノ酸以下であってもよい。当該長さは、特に、679アミノ酸であってもよい。脊椎動物のトランスフェリンの長さは691〜717アミノ酸であってもよく、哺乳類のトランスフェリンの長さは695〜706アミノ酸であってもよい。
【0073】
前記トランスフェリンファミリータンパク質、特に長さが694〜706アミノ酸のものは、一般に2つのドメイン(N及びCローブと呼ばれる)を含み、それぞれ331〜341残基程で、それぞれ1個のFe(III)原子及び1個の炭酸塩アニオンと結合し、それぞれ約7残基のローブ間リンカーで連結されている。典型的には、各鉄は1個のAsp、2個のTyr及び1個のHisからなる4個の保存的アミノ酸残基と結合し、炭酸塩アニオンは、Arg及びThrと結合する。
【0074】
好ましくは、本発明において精製されるトランスフェリンファミリータンパク質は全長HST(配列番号1の1〜679残基)、又はHSTのCローブ(配列番号1の339〜679残基)に対して、40%以上、又は60%以上の相同性を有する。TfR(トランスフェリン受容体)に対するHSTの主要受容体認識部位はCローブ中にあり、タンパク質の分解により単離したHST Cローブは、細胞に鉄イオンを運搬することが出来る。
【0075】
前記ヒト血清トランスフェリンは、変異体であってもよく、それらはTfC1、TfC2又はTfC3と表記される。
【0076】
多くのタンパク質がトランスフェリンファミリーに属するものとして知られており、下記にそれらの非限定的な一覧を示す。当該一覧は、配列の全長を示し、成熟タンパク質及びリーダー配列を含む。これらの各トランスフェリン及びそれらの変異体は、本発明のプロセスにより精製されてもされなくてもよい。
【0077】
【表1A】

【表1B】

【表1C】

【0078】
前記トランスフェリンは、タンパク質又は生物活性化合物等の分子と融合又は抱合してもしなくてもよい。タンパク質又は他の分子、例えば生物活性化合物は、治療的及び/又は診断的用途を有しても有さなくてもよい。ここで、「融合」とは、タンパク質が、同一のDNA配列にコードされたトランスフェリン及び他のタンパク質からなることを含み、一方、「抱合」は、タンパク質が、トランスフェリンとタンパク質又は他の分子が他のいずれかの方法、例えば化学的抱合等により結合したものからなるものを含む。US 20030221201及び20040023334は、治療用のタンパク質と融合したトランスフェリンタンパク質を含む融合タンパク質を記載する。本明細書中のトランスフェリンは、融合及び抱合トランスフェリンのいずれかであってもなくてもよい。
【0079】
前記トランスフェリンは、治療用又は診断用トランスフェリンであってもなくてもよい。「治療用トランスフェリン」は、貧血の治療等の予防的治療又は治癒的治療における使用に適したトランスフェリンを指す。「診断用トランスフェリン」は、例えば抗体と、又はイメージングにおける使用に適した標識又はコントラスト剤等の標識と融合又は接合したトランスフェリン等の、診断における使用に適したトランスフェリンを指す。本明細書中のトランスフェリンは、インビボ又はインビトロのいずれであってもよい。
【0080】
前記治療用トランスフェリンは、癌の化学療法において使用される化学治療剤を含んでも良い。当該化学治療剤は、細胞増殖抑制性または細胞毒性を有してもよく、腫瘍阻害剤であってもよい。
【0081】
前記生物活性化合物は、ポリペプチド(タンパク質)、特に組換えタンパク質医薬であってもよい。これは、癌及び/又は他の関連する疾患を治療するのに使用される化学治療剤放射線治療剤であってもよい。
【0082】
前記生物活性化合物は、トランスフェリンの遊離チオールと抱合してもよい。当該生物活性化合物として、限定されないが、ペプチド、ポリペプチド又はタンパク質(天然、組換え、合成のいずれか)が挙げられる。前記遊離チオールは、システイン残基上にある。
【0083】
本発明の第四の側面は、例えば細胞中、特に真菌細胞、例えば酵母細胞中でトランスフェリンを発現させる工程、及び本発明の第一、第二又は第三の側面のプロセスに従いトランスフェリンを精製する工程を含む、トランスフェリンを生産するプロセスを含む。
【0084】
本発明の第五の側面は、本発明の第一、第二、第三又は第四の側面のプロセスにより精製されたトランスフェリンを凍結乾燥する工程を含む。
【0085】
本発明の第六の側面は、本発明の第一、第二、第三、第四又は第五の側面のプロセスにより得られた、又は取得される、精製トランスフェリンを提供する。
【0086】
本発明の第七の側面は、治療(予防及び/又は治癒)又は診断における、本発明の第一、第二、第三、第四、第五又は第六の側面のプロセスで取得したトランスフェリンの使用に関する。例えば、前記トランスフェリンは、白血球の治療において、患者におけるトランスフェリンに結合していない鉄の有害な効果を予防するのに使用され得る。前記トランスフェリン、例えば融合又は接合トランスフェリンは、腫瘍のターゲティング、例えば診断、造影、局在及び/又は治療において使用されてもよい。
【0087】
本発明の第八の側面は、哺乳類細胞培養、特にヒト細胞培養における本発明の第一、第二、第三、第四、第五又は第六の側面のプロセスで取得したトランスフェリンの使用に関する。細胞培養は、研究室又は産業スケールであってもよい。また、本発明は、本発明の第一、第二、第三、第四、第五又は第六の側面のプロセスで取得されたトランスフェリンを含有する細胞培養培地にも関する。また、本発明は、そのような細胞培養培地の生産も含む。
【0088】
本発明の第九の側面は、本発明の第一、第二、第三、第四、第五又は第六の側面のプロセスで精製したトランスフェリン及び医薬として許容される担体及び/又は希釈剤を含有する医薬組成物を提供する。従って、前記精製された医薬組成物は、担体又は希釈剤を用いて製剤化される。そのように製剤化されたトランスフェリンは、必要に応じて単位剤形として提供されてもよい。前記担体又は希釈剤は、所望のタンパク質に適合するという意味で「許容され」なければならない。典型的には、前記担体又は希釈剤は、滅菌され、パイロジェンフリーの、水又は生理食塩水であってもよい。また、本発明は、医薬成分として使用するための、本発明のトランスフェリンの提供を含む。当該トランスフェリンは、生物活性分子であってもなくてもよい他の分子と融合又は接合してもしなくてもよい。
【0089】
「出発材料」(即ち本発明のプロセスにより精製される相対的に不純のトランスフェリン溶液)に関しては、トランスフェリン、又はトランスフェリンと1つ以上のタンパク質との融合体は、公知の方法(Sanker, (2004), Genetic Eng. News, 24, 22-28, Schmidt, (2004), Appl. Microbiol. Biotechnol., 65, 363-372)により調製することができ、例えば、限定されないが、形質転換又はトランジエント強制発現を施したCHO(及びその変異体)、NSO、BHK、HEK293、Vero又はPERC6細胞等の哺乳類培養細胞等に由来する哺乳類培養細胞(Mason et al., (2004), Protein Expr. Purif., 36, 318-326; Mason et al., (2002), Biochemistry, 41, 9448-9454);昆虫培養細胞(Lim et al., (2004) Biotechnol. Prog., 20, 1192-1197);レムナ(Lemna)等の植物由来の培養細胞;遺伝子組換え動物(Dyck et al., (2003) Trends in Biotechnology, 21, 394-399);遺伝子組換え植物((Ma et al., (2003) Nature Reviews Genetics, 4, 794-805)、グラム陽性及びグラム陰性細菌例えばバチルス(Bacillus)及びエスケリキア・コリ(Escherichia coli)(Steinlein, and Ikeda, (1993), Enzyme Microb. Technol., 15, 193-199);菌糸類、限定されないが、アスペルギルス種(Aspergillus spp)、トリコデルマ種(Trichoderma spp)、及びフサリウム種(Fusarium spp)等(Navalainen et al., (2005), Trends in Biotechnology, 23, 468-473)による発現が挙げられる。
【0090】
全長HSTの変異体であるポリペプチドは、幼若ハムスター腎臓(BHK)細胞(Mason et al., (2004), Protein Expr. Purif., 36, 318-326, Mason et al., (2002), Biochemistry, 41, 9448-9454)、D.メラノガスター(D. melanogaster)S2細胞(Lim et al., (2004), Biotechnol Prog., 20, 1192-1197)から組換え発現されてもよく、及びBHK細胞(Mason et al., (2001), Protein Expr. Purif., 23, 142-150, Mason et al., (1993), Biochemistry, 32, 5472-5479)及びS. ケレウィシアエ(Sargent et al., (2006), Biometals 19, 513-519)から非N結合型グリコシル化突然変異体として発現されてもよい。HSTのCローブの変異体であるポリペプチド(NTf/2C)は、BHK細胞から発現されてもよい(Mason et al., (1997), Biochem. J., 326 (Pt 1), 77-85)。一つの態様において、宿主細胞は酵母細胞で、例えばサッカロマイケス(Saccharomyces)、クルイウェロマイケス(Kluyveromyces)、又はピキア(Pichia)属等、例えばサッカロマイケス・セレウィシアエ(Sacharomyces cerevisiae)、クルイウェロマイケス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)、ピキア・パストリス(Pichia pastoris)(Mason et al., (1996), Protein Expr. Purif., 8, 119-125, Steinlein et al., 1995 Protein Expr. Purif., 6, 619-624)、ピキア・メタノリカ(Pichia methanolica)(Mayson et al., (2003) Biotechnol. Bioeng., 81, 291-298)及びピキア・メンブラエファシエンス(Pichia membranaefaciens)又はザイゴサッカロマイケス・ルーキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)(以前ザイゴサッカロマイケス・ビスポラスZygosaccharomyces bisporus)と分類されていた)、ザイゴサッカロマイケス・バイリイ(Zygosaccharomyces bailii)、ザイゴサッカロマイケス・フェルメンタティ(Zygosaccharomyces fermentati)、ハンセヌラ・ポリモルファ(Hansenula polymorpha)(ピキア・アングスタ(Pichia angusta)とも称される)、又はクルイウェロマイケス・ドロソフィラルム(Kluyveromyces drosophilarum)が好ましい。
【0091】
前記宿主細胞は、いずれの種類の細胞であってもよい。宿主細胞は、動物(例えば哺乳類、鳥類、昆虫等)、植物、真菌又は細菌細胞であってもよい。細菌及び真菌、例えば酵母の宿主細胞が好ましい場合もある。
【0092】
典型的な原核細胞ベクタープラスミドは、BioRad Laboratories (Richmond, CA, USA)製pUC18、pUC19、pBR322及びpBR329;Pharmacia (Piscataway, NJ, USA)製pTrc99A、pKK223-3、pKK233-3、pDR540及びpRIT5;Stratagene Cloning Systems (La Jolla, CA 92037, USA)製pBSベクター、Phagescriptベクター、Bluescriptベクター、pNH8A、pNH16A、pNH18A、pNH46A等である。
【0093】
典型的な哺乳類細胞ベクタープラスミドは、Pharmacia (Piscataway, NJ, USA)製pSVLである。このベクターは、SV40後期プロモーターを使用して、クローニングした遺伝子の発現を駆動する。COS-1細胞等のT抗原産生細胞において、最も高レベルで発現する。誘導可能な哺乳類発現ベクターの例として、同じくPharmacia (Piscataway, NJ, USA)製の、pMSGが挙げられる。このベクターは、マウス乳癌ウイルスロングターミナルリピートのグルココルチコイド誘導プロモーターを使用して、クローニングした遺伝子の発現を駆動する。
【0094】
所望のタンパク質及び例えば適切な転写又は翻訳コントロールをコードする配列を含む発現ベクターを構築するために、当業者に周知の方法を使用することが出来る。そのような方法の1つとして、粘着末端を介したライゲーションが挙げられる。適切な粘着末端は、適切な制限酵素の作用により、DNA断片及びベクターに形成することが出来る。これらの末端は、相補的塩基対を介して迅速にアニーリングし、残るニックは、DNAリガーゼにより塞がれる。
【0095】
更なる方法は、合成二重鎖オリゴヌクレオチドリンカー及びアダプターを使用する。ブルントエンドを有するDNA断片は、バクテリオファージT4DNAポリメラーゼ又はE. coliDNAポリメラーゼIにより生産され、突出した3'末端が除去され、及び3'末端の陥凹部が埋められる。所定の制限酵素の認識配列を含む合成リンカー及び平滑末端二重鎖DNAのピースは、T4DNAリガーゼにより、平滑末端DNA断片にライゲーションされる。それらは、その後適切な制限酵素で消化されて粘着末端にされ、適合する末端を有する発現ベクターとライゲーションされる。アダプターも、1つの平滑末端を含む化学合成DNA断片であってライゲーションに使用されるが、予め形成された粘着末端も有する。あるいは、DNA断片は、任意で粘着末端を含む1つ以上の合成二重鎖オリゴヌクレオチドの存在下、又は非存在下で、DNAリガーゼの作用により、一緒にライゲーションされる場合もある。
【0096】
様々なエンドヌクレアーゼ部位を有する合成リンカーは、Sigma-Genosys Ltd, London Road, Pampisford, Cambridge, United Kingdomを含む多くのメーカーから購入できる。
【0097】
トランスフェリン、又は他の1つ以上のタンパク質とトランスフェリンとの融合体は、1つのヌクレオチド配列から発現され、当該配列は、1つ以上のイントロンを含んでも含まなくてもよい。加えて、ヌクレオチド配列は、当該技術分野で公知の方法によりコドンが宿主細胞に最適化されてもよい。
【0098】
トランスフェリン、又はトランスフェリンと1つ以上のタンパク質との融合体は、N結合型グリコシル化が減少した変異体として発現する場合がある。従って、ヒト血清トランスフェリン(HST)の場合、N413が他のアミノ酸、好ましくはQ、D、E又はAに変化する場合があり;S415がS又はT以外のいずれかのアミノ酸、好ましくはAに変化する場合があり;T613がS又はT以外のいずれかのアミノ酸、好ましくはAに変化する場合があり;N611がいずれかのアミノ酸に変化する場合があり、又はそれらが組み合わせられる。トランスフェリンがHSTでない場合、タンパク質一次配列を同様に改変することにより、N-グリコシル化の減少を達成できる。具体的には、前記トランスフェリン、又はトランスフェリンと1つ以上のタンパク質との融合体は、本発明のトランスフェリン変異体であって、かつN-結合型グリコシル化が減少していてもよい。
【0099】
例えば酵母等を宿主に使用するにあたり、遺伝子コード配列の破壊等によりタンパク質のO-グリコシル化に関与する1つ以上のタンパク質マンノシルトランスフェラーゼに欠損を有するものが、特に有利であってもよい。組換え発現タンパク質は、宿主細胞による望ましくない翻訳後修飾を受ける場合がある。マンノシル化トランスフェリンは、レクチンのコンカナバリンAと結合し得る。酵母により生産されるマンノシル化トランスフェリンの量は、1つ以上のPMT遺伝子に欠損のある酵母株を使用することにより減少させられる(WO 94/04687)。これを達成する最も簡便な手段は、Pmtタンパク質の1つが生産されるレベルが低下するような欠損をゲノム中に有する酵母を作製することである。例えば、Pmtタンパク質を殆ど又は全く生産しないような、欠失、挿入又は転位が、コード配列又は制御領域に(又はPMT遺伝子の1つの発現を制御する他の遺伝子に)存在してもよい。あるいは、前記酵母は、抗Pmt剤、例えば抗Pmt抗体等を生産するように形質転換することができる。あるいは、前記酵母は、PMT遺伝子の1つの活性を阻害する化合物の存在下で培養できる(Duffy et al, “Inhibition of protein mannosyltransferase 1 (PMT1) activity in the pathogenic yeast Candida albicans”, International Conference on Molecular Mechanisms of Fungal Cell Wall Biogenesis, 26-31 August 2001, Monte Verita, Switzerland, Poster Abstract P38;当該ポスターアブストラクトはhttp://www.micro.biol.ethz.ch/cellwall/で入手可能)。S. セレウィシアエ(S. cerevisiae)以外の酵母を使用する場合、S. セレウィシアエ(S. cerevisiae)のPMT遺伝子に相当する1つ以上の遺伝子を破壊することも有益であって、例えばピキア・パストリス(Pichia pastoris)又はクルイウェロマイケス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)において行われる。S. セレウィシアエ(S. cerevisiae)から単離したPMT1(又は他のPMT遺伝子)の配列は、他の真菌種における同様の酵素活性をコードする遺伝子の同定又は破壊に使用されてもよい。クルイウェロマイケス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)のPMT1ホモログのクローニングは、WO 94/04687に記載されている。
【0100】
前記酵母は、WO 95/33833及びWO 95/23857にそれぞれ教示されるように、HSP150及び/又はYAP3遺伝子の欠失を有する場合もある。
【0101】
前記トランスフェリンは、組換え発現及び分泌により生産されてもよい。発現系(即ちホスト細胞)がサッカロマイケス・セレウィシアエ(Sacharomyces cerevisiae)等の酵母である場合、S. セレウィシアエ(S. cerevisiae)に適したプロモーターとして、PGK1遺伝子、GAL1又はGAL10遺伝子、TEF1、TEF2、PYK1、PMA1、CYC1、PHO5、TRP1、ADH1、ADH2、グリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ、ヘキソキナーゼ、ピルビン酸デカルボキシラーゼ、ホスホフルクトキナーゼ、トリオースリン酸イソメラーゼ、ホスホグルコースイソメラーゼ、グルコキナーゼ、α-接合因子フェロモン、a-接合因子フェロモンの遺伝子に関与するプロモーター、PRB1プロモーター、PRA1プロモーター、GPD1プロモーター、及びハイブリッドプロモーター、例えば5'制御領域の部分と他のプロモーターの5'制御領域の部分との、又は上流の活性化部位とのハイブリッド(例えばEP-A-258 067のプロモーター)が挙げられる。
【0102】
適切な転写終結シグナルは、当該技術分野で周知である。宿主細胞が真核細胞の場合、転写終結シグナルは、好ましくは、転写終結及びポリアデニル化の適切なシグナルを含む、真核細胞の遺伝子の3'フランキング配列に由来する。適切な3'フランキング配列は、例えば、使用される発現コントロール配列と天然で連結している遺伝子のもの、即ちプロモーターと対応するものであってもよい。あるいは、それらは異なるものであってもよい。この場合、及び宿主が酵母、好ましくはS. セレウィシアエ(S. cerevisiae)である場合、S. セレウィシアエ(S. cerevisiae)のADH1、ADH2、又はPGK1遺伝子の終結シグナルが好ましい。
【0103】
トランスフェリン突然変異の配列を含む組換えタンパク質をコードする遺伝子のプロモーター及びオープンリーディングフレームにおいて、転写終結シグナルがプロモーター及びオープンリーディングフレームの上流及び下流の両方に位置するように、転写終結配列に挟まれるのが、隣接するいずれかの遺伝子、例えば2μm遺伝子等まで翻訳が行き過ぎる(read-through)のを防ぐのに有益な場合がある。
【0104】
一つの態様において、酵母、例えばサッカロマイケス・セレウィシアエ(Sacharomyces cerevisiae)において好ましい制御配列として:酵母プロモーター(例えばEP 431 880で教示されるサッカロマイケス・セレウィシアエ(Sacharomyces cerevisiae)PRB1プロモーター);及び転写終結因子、好ましくはEP 60 057で教示されるサッカロマイケス(Saccharomyces)ADH1由来の終結因子が挙げられる。
【0105】
非コード領域において、UAA、UAG又はUGA等の、翻訳停止コドンをコードする1つ以上のDNA配列を含むことは、翻訳の行き過ぎを最小にし、かつ延長された非天然の融合タンパク質の生産を免れるのに、有益な場合がある。翻訳停止コドンとして、UAAが好ましい。
【0106】
前記トランスフェリン突然変異体の配列を含む組換えタンパク質は、分泌されるのが好ましい。この場合、分泌リーダー配列をコードする配列が、オープンリーディングフレームに含まれてもよい。従って、本発明のポリヌクレオチドは、分泌リーダー配列をコードするポリヌクレオチド配列と操作可能に連結したトランスフェリンの突然変異の配列を含む組換えタンパク質をコードする配列を含んでもよい。リーダー配列は、通常、必須ではないが、ORFの一次翻訳産物のN末端に位置し、一般に、必須ではないが、分泌プロセスの毛亭でタンパク質から切り離されることにより、タンパク質は「成熟」する。従って、一つの態様において、「操作可能に連結した」という用語は、リーダー配列の文脈において、トランスフェリン突然変異の配列を含む組換えタンパク質をコードする配列が、5'末端側で、分泌リーダー配列をコードするポリヌクレオチド配列の3'末端と、インフレームで結合しているという意味を含む。あるいは、分泌リーダー配列をコードするポリヌクレオチド配列は、トランスフェリン突然変異の配列を含む組換えタンパク質のコード配列内にインフレームで位置してもよく、又はトランスフェリン突然変異の配列を含む組換えタンパク質をコードする配列の3'末端に位置してもよい。
【0107】
宿主細胞からタンパク質を分泌させるための天然の又は人工のポリペプチドリーダー配列(分泌プレ領域及びプレ/プロ領域とも呼ばれる)は、様々なものが使用され、又は開発されてきた。リーダー配列は、新生タンパク質を、タンパク質を細胞から周囲の培地に、場合によってはペリプラズム空間に輸送する細胞の機構に指向させる。
【0108】
酵母サッカロマイケス・セレウィシアエ(Sacharomyces cerevisiae)、ザイゴサッカロマイケス(Zygosaccharomyces)種、クルイウェロマイケス・ラクティス(Kluyveromyces lactis)及びピキア・パストリス(Pichia pastoris)等の真核生物種におけるタンパク質の生産において、分泌リーダー配列が使用されてもよい。これは、単一の(プレ)配列又はプレプロリーダー配列を含んでもよい。シグナル配列は、それらのアミノ酸配列が不均一であることが知られている(Nothwehr and Gordon 1990, Bioessays 12, 479-484、又はGierasch 1989, Biochemistry 28, p923-930)。つまり、シグナル配列は一般にN末端に位置し、塩基性のn領域、疎水性のh領域及び極性のc領域を有する。この構造は、アミノ酸の組成に関わらず、この構造が維持されている限り、シグナル配列は機能し得る。それらがどの程度機能するか、即ちどれほどの成熟タンパク質が分泌するかは、アミノ酸配列に依存する。従って、「シグナルペプチド」という用語は、本質的に疎水性が優勢である、酵母中に発現する細胞外タンパク質の前駆形態のN末端配列として存在する、プレ配列を意味するものと理解される。シグナルペプチドの機能は、発現した分泌されるべきタンパク質を小胞体へガイドすることである。シグナルペプチドは、一般にこのプロセスの過程で切り離される。シグナルペプチドは、タンパク質を生産する酵母生物と同種であっても異種であってもよい。公知のリーダー配列として、S. セレウィシアエ(S. cerevisiae)酸ホスファターゼタンパク質(Pho5p)由来のもの(EP 366 400を参照)インベルターゼタンパク質(Suc2p)由来のもの(WO 95/33833参照)が挙げられる。加えて、S. セレウィシアエ()接合因子α-1タンパク質(MFα-1)及びヒトリソザイム及びヒト血清アルブミン(HSA)タンパク質由来のリーダー配列が使用されているが、後者は、限定的ではないが、ヒトアルブミンの分泌に特に使用されている。WO 90/01063は、MFα-1及びHSAリーダー配列の融合を開示する。加えて、天然のトランスフェリンリーダー配列が、トランスフェリン突然変異の配列を含む組換えタンパク質の分泌を指向するのに使用されてもよい。
【0109】
当業者は、セントロメアプラスミド等の任意の適切なプラスミドが使用され得ることを認識する。下記実施例で、本発明の酵母宿主細胞の形質転換における使用に適したプラスミド(セントロメアYCplac33ベースのベクター)を提供する。あるいは、酵母に適合する2μmベースのプラスミド等の、任意の他の適切なプラスミドが使用されてもよい。
【0110】
1種類の酵母から得られるプラスミドが、他の種類の酵母中で維持される場合もある(Irie et al, 1991, Gene, 108(1), 139-144; Irie et al, 1991, Mol. Gen. Genet., 225(2), 257-265)。例えば、ザイゴサッカロマイケス・ルーキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)由来のpSR1は、サッカロマイケス・セレウィシアエ(Saccharomyces cerevisiae)中で維持される場合もある。一つの態様において、前記プラスミドは2μmファミリーのプラスミドであってもよく、前記宿主細胞は、使用される当該2μmファミリープラスミドに適合する(下記プラスミドの詳細な説明を参照されたい)。例えば、プラスミドがpSR1、pSB3又はpSB4に基づく場合、適切な酵母細胞はザイゴサッカロマイケス・ルーキシイ(Zygosaccharomyces rouxii)であって;プラスミドがpSB1又はpSB2に基づく場合、適切な酵母細胞はザイゴサッカロマイケス・バイリイ(Zygosaccharomyces bailli)であって;プラスミドがpSM1に基づく場合、適切な酵母細胞はザイゴサッカロマイケス・フェルメンタティ(Zygosaccharomyces fermentati)であって;プラスミドがpKD1に基づく場合、適切な酵母細胞はクルイウェロマイケス・ドロソフィラルム(Kluyveromyces drosophilarum)であって;プラスミドがpPM1に基づく場合、適切な酵母細胞はピキア・メンブラナエファシエンス(Pichia membranaefaciens)であって;プラスミドが2μmプラスミドに基づく場合、適切な酵母細胞はサッカロマイケス・セレウィシアエ(Saccharomyces cerevisiae)又はサッカロマイケス・カールスベルゲンシス(Saccharomyces carlsbergensis)である。従って、前記プラスミドは2μmプラスミドであってもよく、前記酵母細胞は、サッカロマイケス・セレウィシアエ(Saccharomyces cerevisiae)であってもよい。2μmファミリープラスミドは、天然に存在するプラスミドに由来する配列を有するFLP、REP1及びREP2の、2つ又は好ましくは3つの遺伝子を含む場合、天然に存在するプラスミド「に基づく」と言うことができる。
【0111】
有用な酵母エピソームプラスミドベクターはpRS403-406及びpRS413-416であって、一般にStratagene Cloning Systemsから入手可能である(La Jolla, CA 92037, USA), YEp24 (Botstein, D., et al. (1979) Gene 8, 17-24), and YEplac122, YEplac195 and YEplac181 (Gietz, R.D. and Sugino. A. (1988) Gene 74, 527-534)。他の酵母プラスミドとして、WO 90/01063及びEP 424 117に記載のもの、並びにEP-A-286 424及びWO2005061719の崩壊ベクター(disintegration vector)が挙げられる。プラスミドpRS403、pRS404、pRS405及びpRS406は、酵母統合プラスミド(YIP)であって、YIplac211及びYIplac128と同様に、酵母選択マーカーHIS3、TRP1、LEU2及びURA3を含む(Gietz, R.D. and Sugino. A. (1988) Gene 74, 527-534)。プラスミドpRS413-416は、YCplac22、YCplac33及びYCplac111と同様に、酵母セントロメアプラスミド(YCp)である(Gietz, R.D. and Sugino. A. (1988) Gene 74, 527-534)。
【0112】
本発明のプロセスは、血液産物及び真核又は原核培養細胞等の様々な供給源に由来する相対的に不純のトランスフェリン溶液から、高度に精製されたトランスフェリンを取得するのに使用できる。当該プロセスは、特に酵母、例えばS. セレウィシアエ(S. cerevisiae)等由来の組換えトランスフェリン(rTf)の精製に特に有効である。本発明に従い生産されたトランスフェリンは、ウシトランスフェリン等のいずれかの哺乳類トランスフェリンであってもよいが、好ましくは、ヒトトランスフェリン又はその誘導体である。
【0113】
様々な資料が本明細書中で引用されており、それらの開示は、それらの全てが本明細書中に参照により援用される。
【0114】
本明細書中の言及を参照して、本発明は以下のものも提供する。
【0115】
i.前記最終的に取得されたトランスフェリンを含有する溶液が、実質的に1つ以上の更なる精製工程に供される、又は供されない、請求項1〜27のいずれか1項に記載のプロセス。
【0116】
ii.前記1つ以上の更なる精製工程が:
硫酸アンモニウム沈殿、エタノール沈殿、酸抽出、溶媒抽出、アニオン交換クロマトグラフィー、カチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アニフィニティークロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー、レクチンクロマトグラフィー、金属アフィニティー/キレーティングクロマトグラフィー、濃縮、希釈、pH調整、透析濾過、超遠心、高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)、逆相HPLC、伝導率の調整、マトリックス由来の色素の除去、酵母由来の色素の除去及び油相へのトランスフェリンのアルカリ沈殿
から選択される、請求項1〜27及び/又は(i)のいずれか1項に記載のプロセス。
【0117】
iii.前記取得されたトランスフェリンを含有する溶液が、超遠心により実質的に更に精製され、又はされない、請求項1〜27及び/又は(i)〜(ii)のいずれか1項に記載のプロセス。
【0118】
iv. 前記取得されたトランスフェリンを含有する溶液が、更にヒトへの静脈内投与のために、及び/又は細胞培養成分としての調製物として精製され及び/又は製剤化され、及び/又は滅菌され、及び/又は最終的な容器に入れられる、請求項1〜27及び/又は(i)〜(iii)のいずれか1項に記載のプロセス。
【0119】
v. 前記取得されたトランスフェリンを含有する溶液が、当該トランスフェリンの最終的な使用に適した液体中に懸濁され、又はされない、請求項1〜27及び/又は(i)〜(iv)のいずれか1項に記載のプロセス。
【0120】
vi.前記トランスフェリンが、アニオン性クロマトグラフィー工程及び/又はカチオン性クロマトグラフィー工程の前及び/又は後にホロ化され又はされない、請求項1〜27及び/又は(i)〜(v)のいずれか1項に記載のプロセス。
【0121】
vii. 前記トランスフェリンが、アニオン性クロマトグラフィー工程及び/又はカチオン性クロマトグラフィー工程の前及び/又は後にアポ化され又はされない、請求項1〜27及び/又は(i)〜(vi)のいずれか1項に記載のプロセス。
【0122】
viii.前記相対的に不純のトランスフェリンの溶液が、微生物細胞、例えば真菌細胞(好ましくはサッカロマイケス(Saccharomyces)、ピキア(Pichia)又はクルイウェロマイケス(Kluyveromyces)等)又は細菌細胞、哺乳類細胞又は血液若しくは血液画分、例えば血清から取得される、請求項1〜27及び/又は(i)〜(vii)のいずれか1項に記載のプロセス。
【0123】
ix.前記トランスフェリンが、天然に存在するトランスフェリンであり、またはない、請求項1〜27及び/又は(i)〜(viii)のいずれか1項に記載のプロセス。
【0124】
x. 前記トランスフェリンが、天然に存在するトランスフェリンから改変された、又は改変されていない、請求項1〜27及び/又は(i)〜(ix)のいずれか1項に記載のプロセス。
【0125】
xi.前記トランスフェリンが、配列番号4を含み、又は含まない、(x)に記載のプロセス。
【0126】
xii. 前記トランスフェリンが、治療用のトランスフェリンである、又はない、請求項1〜27及び/又は(i)〜(xi)のいずれか1項に記載のプロセス。
【0127】
xiii. 請求項1〜27及び/又は(i)〜(xii)のいずれか1項に記載のプロセスにより取得された、又は取得できる、精製トランスフェリン。
【0128】
xiv. (xiii)のトランスフェリンを含有する、細胞培養培地。
【0129】
xv.細胞培養培地の作製における、(xiv)のトランスフェリンの使用。
【0130】
本発明は図面及び下記の非限定的な実施例を参照することにより、例示的にのみ記載される。
【実施例】
【0131】
実施例1:カチオン交換低pH/高塩洗浄
9つの異なる洗浄緩衝剤(pH/塩化ナトリウム濃度の組合せ)を用いたSepharose Fast Flow (SP-FF)の洗浄における回収データの取得
(a)低pH/高塩洗浄
最初の最適化:8.6mLのカラムを備えたAKTA(商標)Explorer 100 Airクロマトグラフィーシステム(GE Healthcare)を用いて、12回のランを実行した。洗浄は、pH及び塩濃度の様々な組合せのものを使用して実行した。特に、pH4.0、4.5及び5.1、並びに塩化ナトリウム濃度0.25、1.0及び2.0Mが採用された。出発材料(即ち約3.7mg/mlトランスフェリン溶液)を溶解して、酢酸を添加して、pH5.1; 3.5 mS.cm-1に調整した。前記カラムをpH 5.0〜5.2及び2.5〜3.1 mS.cm-1で平衡化して、調整した材料を、25mgトランスフェリン.mLマトリックス-1でロードし、最初に適切なpH(即ち洗浄2で使用されるのと同じpH)の、塩化ナトリウムを含まない緩衝剤で洗浄した(洗浄1)。そして当該カラムを、低pH/高塩緩衝剤で洗浄し(洗浄2)、続いて結合したトランスフェリンを溶出緩衝剤(50mMリン酸ナトリウム、25mM塩化ナトリウム、pH7.0)で溶出した。ロード、フロースルー、洗浄及び溶出画分を回収して、エリアキャリブレーション法を使用するGP.HPLCにより、それらのトランスフェリン濃度をアッセイした。このデータは、質量バランス及び回収率の値を計算するのに使用された。ロード、洗浄2及び溶出画分も、酵母抗原(HCP)ELISA解析に供して、酵母抗原(HCP)クリアランス値を計算した。
【0132】
表2:溶出によるトランスフェリンの回収における洗浄条件の影響
【表2】

【0133】
これらのデータ(表2)は、試験した条件において、pH4.5であれば塩化ナトリウム濃度がいずれの値であっても回収率は良好で、pH4.5で2.0M塩化ナトリウムが最適であることを示す。
【0134】
表3:3つの異なるpH/塩化ナトリウム濃度の組合せでSP-FFを洗浄した場合の、平均の回収率及び酵母抗原(HCP)クリアランスのデータ
【表3】

【0135】
データは、各塩化ナトリウム濃度の2回のランの平均である。溶出物の回収データは、表2のものである。これは、洗浄緩衝剤の塩化ナトリウムが2MでpH4.5の組合せが、最良の溶出回収率/酵母抗原(HCP)クリアランスをもたらすことを示す。
【0136】
(b)更なる最適化
この実施例は、低pH/高塩洗浄の、酵母抗原(HCP)クリアランス及び溶出物のトランスフェリン濃度に対する影響を示す。
【0137】
pH4.5、2M塩化ナトリウムを使用して、8.6mLのカラムを備えたAKTA Explorer 100 Airで、SP-FFランを実施した。平衡化緩衝剤を使用しての第三の工程が加えられた点を除き、上記洗浄2の条件と同一に実施された。
更に3つのランが実施されて、次の3つの洗浄レギームが比較された。
A:洗浄1(50mM酢酸ナトリウム、pH5.1)
B:洗浄1(50mM酢酸ナトリウム、pH4.5);洗浄2(27mM酢酸ナトリウム、2M塩化ナトリウム、pH4.5)
C:洗浄1(50mM酢酸ナトリウム、pH4.5);洗浄2(27mM酢酸ナトリウム、2M塩化ナトリウム、pH4.5);洗浄3(50mM酢酸ナトリウム、pH5.1)
【0138】
前記精製の過程で得た試料を、上記GP.HPLC及びELISA解析に供し、そのデータを、トランスフェリンの回収率及び酵母抗原(HCP)クリアランスの値を計算するのに使用した。
【0139】
表4:3つの異なるSP-FF洗浄レギームの回収率及び酵母抗原(HCP)クリアランスデータの比較
【表4】

【0140】
3つのデータ(表4)は、2回洗浄レギーム(B)が、1回洗浄レギーム(A)よりも顕著に高い酵母抗原(HCP)クリアランスをもたらすこと、及び3回洗浄レギーム(C)は、溶出回収率が相対的に僅かに低下するが、酵母抗原(HCP)クリアランスが更に改善することを示す。
【0141】
実施例2:アニオン交換クロマトグラフィーロード液中のホウ酸塩の存在の、Q-FFアニオン交換クロマトグラフィーからのトランスフェリンの回収率に及ぼす影響
Q-FFマトリックスは、GE Healthcareから入手した。四ホウ酸塩を実施例1のSP-FF溶出物(表4、洗浄レギームC)に、1モルのrTfあたりホウ酸塩100モルとなるように添加し(ロード中ホウ酸塩0.7mMに相当)、対照にはホウ酸塩を添加しなかった。Q-FFを使用して、マトリックス容量が30 mg.mL-1で、0.66cm×15cmベッド高(5.13 mL)のカラムを使用するクロマトグラフィーを、上記のように実行した。溶出は、150mM四ホウ酸カリウムで実施した。分画をロード、洗浄、溶出及びNaCl洗浄の過程で回収し、RP-HPLCによりrTf濃度を推定し、回収率を表にした(表5)。フロースルー(FT)も解析され、表にした(表5)。
【0142】
表5:アニオン交換クロマトグラフィーロード液中にホウ酸塩が存在しない場合(A)及び存在する場合(B)の、Q-FFアニオン交換クロマトグラフィーからのトランスフェリンの回収率にもたらす影響
【表5】

【0143】
ロード液中のホウ酸塩の使用は、溶出物中のトランスフェリンの全体的な回収率を向上させた(ホウ酸塩の存在下では75.3%、ホウ酸塩の非存在下では49.8%)。また、ロード液がホウ酸塩を含有する場合、フロースルー(FT)中のトランスフェリンの量が減少する(ホウ酸塩存在下では1.1%、ホウ酸塩の非存在下では28.4%)。
【0144】
実施例3:アニオン交換クロマトグラフィーロード液中にホウ酸塩が存在する場合の、Capto(商標)Qアニオン交換クロマトグラフィーからのトランスフェリンの回収率にもたらす影響
Capto(商標)Qマトリックスは、GE Healthcareから入手した。四ホウ酸カリウムをCapto(商標)Qに添加し、実施例1(表4、洗浄レギームC)のSP-FF溶出物を、1:1の15.7mM四ホウ酸カリウムの水希釈物で、5.7倍に希釈した。最後に、充分な水及び27%(w/v)NaOHを添加して、伝導率3.5 mS.cm-1及びpH 8.8を達成した(ロード液中824 mol.mol-1、5.4 mM四ホウ酸塩に相当)。対照(ホウ酸塩無し)として、SP-FF溶出物を水、27%(w/v)NaOH及び5M NaClで調整して、pH 8.8及び伝導率3.5 mS.cm-1を達成した。充分なロード液を、流速0.7 mL.min-1で、0.66cm × 2cmベッド高(0.68mL)カラムに導入して、40 mg.mL-1のマトリックスとした。15.7mMの四ホウ酸カリウムで、洗浄を実施した。溶出は、150mM四ホウ酸カリウムで実施された。ロード、洗浄、溶出及びNaCl洗浄の過程で画分を回収して、RP-HPLCにより推定されたrTf濃度及び回収率を表にした(表6)。フロースルー(FT)も同じく解析され、表にした(表6)。
【0145】
表6:アニオン交換クロマトグラフィーロード液中のホウ酸塩の非存在(A)及び存在(B)の、Capto(商標)Qアニオン交換クロマトグラフィーからのトランスフェリンの回収率にもたらす影響
【表6】

【0146】
ロード液にホウ酸塩を使用することにより、溶出物中のトランスフェリンの全体的な回収率が向上する(ホウ酸塩の存在下で回収率80.6%、ホウ酸塩の非存在下で53.6%)。また、ロード液にホウ酸塩を含有する場合、フロースルー(FT)中のトランスフェリン量が減少する(ホウ酸塩存在下では11.4%、ホウ酸塩の非存在下では31.3%)。
【0147】
前記データは、図1でも示されている。図1は、ロード液中にホウ酸塩が含まれることにより、カラムへのトランスフェリンの結合が改善することを示す。図1Aは、カラムにロードされる前にトランスフェリンに四ホウ酸塩が添加されなかったCapto(商標)Qカラムの軌跡である。図1Bは、カラムにロードされる前にトランスフェリンに824mol.mol-1四ホウ酸塩が添加されたCapto(商標)Qカラムの軌跡である。
【0148】
ピーク(a)は、カラム洗浄後の洗浄緩衝剤中に存在するトランスフェリンに関する。ピーク(b)は、溶出物中に存在するトランスフェリンに関する。ピーク(c)は、NaOHでの洗浄後にカラムから回収されたトランスフェリンに関する。
【0149】
図1Bにおけるピーク(a)の欠如は、ロード液に四ホウ酸塩が含まれることで、カラムへのトランスフェリンの結合が改善することを示す。図1Aにおけるピーク(a)の存在は、四ホウ酸塩無しでトランスフェリンがカラムにロードされると、洗浄工程の過程で、一部のトランスフェリンのカラムからの無駄な流出を引き起こす。
【0150】
実施例4:アニオン交換マトリックスの低濃度洗浄
Capto(商標)Qクロマトグラフィーは、15.7 mM四ホウ酸カリウムで平衡化された0.66 × 15cm (5.13 mL)カラムを使用して実施された。実施例1のSP-FF溶出物(表4、洗浄レギームC)が、ロード材料として使用された。ロード液は、27% (w/v) NaOHを添加してpHを9.0〜9.2とし、水を添加して伝導率を〜2.6 mS.cm-1とすることによりCapto((商標)Qクロマトグラフィーに適合させた。最後に、固体の四ホウ酸カリウムを添加して、四ホウ酸塩の最終濃度を5mM(725 mol.mol-1)、ロード液の伝導率を〜3.4 mS.cm-1とした。容量が30 mg.mL-1マトリックスのカラムを使用した。ロードの後、カラムを5mMの四ホウ酸カリウム(10CV)、15.7mMの四ホウ酸カリウム(11CV)で洗浄し、150mM、pH9.4の四ホウ酸カリウムで溶出し、その後、1M NaCl、0.5M NaOHでカラムを再生し、1時間1MのNaOHで浄化した。
【0151】
表7:5mM四ホウ酸塩でロード液を調整したSP-FFの溶出物を使用した、Capto(商標)Qクロマトグラフィーのトランスフェリンの回収率
【表7】

【0152】
上記データ(表7)は、四ホウ酸塩の存在下でのトランスフェリンのロード、その後の低濃度洗浄及び高濃度洗浄は、各洗浄工程の過程でのトランスフェリンのロスのレベルの低下、及びその後の溶出物中のトランスフェリンレベルの大幅な向上(回収率93.2%)をもたらすことを示す。
【0153】
実施例5:
酵母抗原(HCP)の除去及び回収率に関する、低pHかつ塩濃度の数理モデル
SP-FFにおける、酵母抗原(YA)(即ち宿主細胞タンパク質(HCP))の除去及び溶出物の回収率の維持のための、低pH、高塩濃度の洗浄レギームの使用を、更に調査した。2つの要素、pH及び塩濃度の、2つの応答、溶出回収率及びYAクリアランスに対する影響の数理モデルを構築できるように、Design of Experiments(DoE)アプローチが採用された。pH 3.66〜5.34、及び塩化ナトリウム濃度0 mM〜6000 mMの範囲の、様々なpH及び塩濃度が試験された。ロード材料は、氷酢酸及び水を使用して、培養上澄のpH及び伝導率をそれぞれ5.11及び3.57mS.cm-1に調整することにより調製された。50μL SP-FFマトリックス(GE Healthcare)を含む15個のAtoll 直径5mm×ベッド高2.5mmMediaScout(商標)MiniColumns (Atoll GmbH, Weingarten, Germany)を、pH5.1の50mM酢酸ナトリウムで平衡化した。前記ロード材料を、50μL.min-1で導入して、40mg.mL-1までマトリックスにロードさせた。各カラムは最初にNaClを含まない低pHの適切な酢酸緩衝剤で(洗浄1)、そしてpHは同じだが適切な濃度のNaClを含む第二の酢酸ナトリウム緩衝剤で(洗浄2)洗浄された(表8)。そして各カラムは、50mMリン酸ナトリウム、150mM塩化ナトリウムを含みpH6.0の緩衝剤で溶出され、1M NaCl、0.5%(w/w)ポリソルベート80で洗浄された。全てのクロマトグラフィー画分を回収し、逆相高性能液体クロマトグラフィー(RP.HPLC)により、各画分中のトランスフェリン濃度を推定した。酵素免疫吸着法(ELISA)により、YAレベルを推定した。回収率及びYAクリアランスを一覧に表し、表8に示す。
【0154】
表8:洗浄2における低pH及び高塩濃度の様々な組合せの、SP-FF溶出画分中のトランスフェリン回収率及びYAクリアランスに及ぼす影響
【表8】

【0155】
15個の洗浄条件(ラン)のそれぞれの回収率及びYAクリアランスのデータを、DoEソフトウェア(Design Expert 6.0.10, Stat-Ease, Inc., Minneapolis, MN, USA)に入力して、設計空間の数理モデルを作成した。コンピューターは、設計空間の数理モデルを作成するために、「デザインポイント」(即ち実験データポイント)を使用する。モデルは、下記のように、それぞれの応答に適合した。
【0156】
(i)回収率:
・変換は不要で、二次適合が使用された。
・ANOVA(分散の解析)データは、当該適合が有意であるが、塩2の項は不要であることを示した。
・従って、塩2の項をモデルから除去し、データを再び適合させて、以下の等式を作成した。
回収率=-940.50069 + (441.61018×p) + (0.043309×s) - (47.57735×p2) -
(0.010263×p×s)
ここで、「p」はpH、「s」は塩濃度(mM)、そして回収率は、回収率%を示す。
【0157】
(ii)HCP(YA)クリアランス:
・変換は不要で、二次適合が使用された。
・ANOVAデータは、二次適合が有意でないため;全ての項が三次適合に含まれることを示した。
・従って、塩3の項をモデルから除去し、データを再び適合させた。
・ANOVAデータは、当該適合が有意であるが、塩2の項は不要であることを示した。
・従って、塩2の項をモデルから除去し、データを再び適合させた。
・ANOVAデータは、当該適合が有意であるが、pHx塩2の項は、pH及びpH3の項でエイリアスされる(aliased)ので不要であることを示した。
・従って、pHx塩2の項をモデルから除去し、データを再び適合させて、以下の等式を作成した。
【0158】
HCP (YA)クリアランス=16388.65744 - (10512.30681×p) - (1.70101×s) + (2257.17601×p2) + (0.78628×p×s)- (159.06573×p3) - (0.090182×p2×s)
ここで、「p」はpH、「s」は塩濃度(mM)、そしてクリアランスは、「倍クリアランス(fold-clearance)」を示す。
【0159】
許容できる性能の回収率及びHCP(YA)クリアランスとして、それぞれ60%以上、又は275倍以上の境界を使用して(「≧」は「以上」を意味する)、設計空間のグラフ表現(楕円プロット)を描画した(図2)。灰色で網掛けした領域(即ちI、III及びIV)は、回収率及び/又はHCP(YA)クリアランスのいずれかが許容される性能の境界の範囲外となる、pH及び塩濃度の組合せを表し;一方、白色で示した領域(即ちII)は、回収率及び/又はHCP(YA)クリアランスのいずれも許容される性能の境界の範囲内となる(即ち回収率が60%以上、HCP(YA)クリアランスが275倍以上)、pH及び塩濃度の組合せを表す。
【0160】
実施例6:CaptoQロード液への四ホウ酸カリウムの添加
CaptoQロード材料への1〜1000 mol.molの四ホウ酸カリウムの添加を調査した。SP-FF溶出物(実施例1)のpH及び伝導率を、0.5M NaOH及び水を使用して、それぞれ9.3及び3.53mS.cm-1に調整することにより、ロード材料を調製した。30mLのこの溶液に充分な量の0.5M四ホウ酸カリウムを添加して、ホウ酸塩1000モル:トランスフェリン1モルのモル比のロード試料を得た。個々のロード試料を、1000mol.mol溶液から、500、100、50、10、5、2.5及び1mol.molまで、上記で調製したpHを調整した希釈溶液で連続的に希釈することにより調製した。各ロード試料の伝導率を測定し、水で3.5mS.cm-1に再調整した。50μL Capto Qマトリックス(GE Healthcare)を含む8個のAtoll 直径5mm×ベッド高2.5mmMediaScout(商標)MiniColumnsを、まず110mMの四ホウ酸カリウムで、続いて30mMの四ホウ酸カリウムで平衡化した。充分な体積の各ロード試料を、50μL.min-1で導入して、40mg.mL-1までマトリックスにロードさせた。各カラムは最初に5mM四ホウ酸カリウムで(洗浄1)、そして30mM四ホウ酸カリウムで(洗浄2)洗浄され、その後、110mM四ホウ酸カリウムで溶出され、1M NaCl、0.5%(w/w)ポリソルベート80で洗浄された。全てのクロマトグラフィー画分を回収し、逆相高性能液体クロマトグラフィー(RP.HPLC)により、トランスフェリン濃度を推定した。回収率を一覧に表し、表9に示す。
【0161】
表9:Capto Qロード材料中の1〜1000mol.molの四ホウ酸カリウムの、フロースルー及び溶出画分中のトランスフェリン回収率にもたらす影響
【表9】

【0162】
上記データは、ロード液に50〜1000mol.molの四ホウ酸カリウムを添加することにより、所望の有利な効果がもたらされ、フロースルー画分中のトランスフェリンのロスの量が減少し、その結果、溶出物中の回収量が増大することを示す。10〜50mol.molでは、フロースルー中のトランスフェリンのロスの量は顕著に増大して、その結果、溶出物中の回収量が減少した。四ホウ酸カリウムの添加の効果のより良好なカットオフポイントを定めるために、第二の実験が行われた。基本的には上記と同じであるが、ロード液への四ホウ酸カリウムの添加量を、10、20、30、40及び50mol.molとした。当該第二の実験の結果を、表10に示した。
【0163】
表10: Capto Qロード材料中の10〜50mol.molの四ホウ酸カリウムの、フロースルー及び溶出画分中のトランスフェリン回収率にもたらす影響
【表10】

【0164】
上記第二のデータのセットは、20〜50mol.molの四ホウ酸カリウムを添加することにより、所望の有利な効果がもたらされ、フロースルー画分中のトランスフェリンのロスの量が減少し、その結果、溶出物中の回収量が増大することを示す。10mol.mol未満では、フロースルー中のトランスフェリンのロスの量は顕著に増大して、その結果、溶出物中の回収量が減少した。
【0165】
以上により、20〜1000mol.molの四ホウ酸カリウムをCapto Qのロード液に添加することにより、所望の有利な効果がもたらされ、フロースルー画分中のトランスフェリンのロスの量が減少し、その結果、溶出物中の回収量が増大すると結論付けられる。
【0166】
実施例7: Capto Qの洗浄1への四ホウ酸カリウムの添加
Capto Qの洗浄1への0〜30mMの四ホウ酸カリウムの添加を調査した。SP-FF溶出物(実施例1)のpH及び伝導率を、0.5M NaOH及び水を使用して、それぞれ9.3及び3.53mS.cm-1に調整することにより、ロード材料を調製した。50mLのこの溶液に充分な量の0.5M四ホウ酸カリウムを添加して、ホウ酸塩270モル:トランスフェリン1モルのモル比のロード試料を得た。当該ロード試料の伝導率を測定し、水で3.5mS.cm-1に再調整した。50μL Capto Qマトリックス(GE Healthcare)を含む9個のAtoll 直径5mm×ベッド高2.5mmMediaScout(商標)MiniColumnsを、まず110mMの四ホウ酸カリウムで、続いて30mMの四ホウ酸カリウムで平衡化した。充分な体積の各ロード試料を、50μL.min-1で導入して、40mg.mL-1までマトリックスにロードさせた。各カラムは最初に0、0.1、0.5、1、2、5、10、20又は30mM四ホウ酸カリウムで(洗浄1)、そして30mM四ホウ酸カリウムで(洗浄2)洗浄され、その後、110mM四ホウ酸カリウムで溶出され、1M NaCl、0.5%(w/w)ポリソルベート80で洗浄された。全てのクロマトグラフィー画分を回収し、RP.HPLCにより、トランスフェリン濃度を推定した。回収率を一覧に表し、表11に示す。
【0167】
表11:Capto Q洗浄1中の0〜30mMの四ホウ酸カリウムの、洗浄1及び洗浄2の画分中のトランスフェリン回収率にもたらす影響
【表11】

【0168】
上記データは、0.5〜20mMの四ホウ酸カリウムを洗浄1に添加することにより、所望の有利な効果、即ち洗浄2中のトランスフェリンのロスの量の減少という効果がもたらされることを示す。20mM超では、洗浄1中のトランスフェリンのロスの量が顕著に増大し、一方0〜0.1mMでは、洗浄2中のトランスフェリンのロスの量の許容出来ない増大が生じた。
【0169】
Capto Qへの四ホウ酸ナトリウムの添加
Capto Qロード材料への四ホウ酸ナトリウムの添加を調査した。SP-FF溶出物のpH及び伝導率を、0.5M NaOH及び水を使用して、それぞれ9.4及び3.66mS.cm-1に調整することにより、ロード材料を調製した。半分のこの溶液に充分な量の110mM四ホウ酸ナトリウムを添加して、ホウ酸塩270モル:トランスフェリン1モルのモル比のロード試料を得た。当該ロード試料の伝導率を測定し、水で3.61mS.cm-1に再調整した。50μL Capto Qマトリックス(GE Healthcare)を含む2個のAtoll 直径5mm×ベッド高2.5mmMediaScout(商標)MiniColumnsを、まず110mMの四ホウ酸ナトリウムで、続いて30mMの四ホウ酸ナトリウムで平衡化した。充分な270mol.molのロード試料及び四ホウ酸ナトリウムを含まずpH調整及び希釈された材料の対照を、50μL.min-1で導入して、40mg.mL-1までマトリックスにロードさせた。各カラムは最初に5mM四ホウ酸ナトリウムで(洗浄1)、そして30mM四ホウ酸ナトリウムで(洗浄2)洗浄され、その後、110mM四ホウ酸ナトリウムで溶出され、1M NaCl、0.5%(w/w)ポリソルベート80で洗浄された。全てのクロマトグラフィー画分を回収し、逆相高性能液体クロマトグラフィー(RP.HPLC)により、トランスフェリン濃度を推定した。回収率を一覧に表し、表12に示す。
【0170】
表12:Capto Qロード液中の270mol.molの四ホウ酸ナトリウムの、フロースルー及び溶出画分中のトランスフェリン回収率にもたらす影響
【表12】

【0171】
上記データは、270mol.molの四ホウ酸ナトリウムを添加することにより、所望の有利な効果、即ちフロースルー画分中のトランスフェリンのロスの量の減少、ひいては溶出物中で回収される量の増大という効果がもたらされることを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
トランスフェリン溶液を精製するプロセスであって、当該プロセスが:
a)相対的に不純のトランスフェリン溶液に四ホウ酸塩を添加してトランスフェリンと四ホウ酸塩の溶液を取得する工程;
b)当該トランスフェリンと四ホウ酸塩の溶液を、トランスフェリンが特異的結合活性を有しないアニオン性クロマトグラフィー材に導入し、トランスフェリンをクロマトグラフィー材に結合させる工程;
c)トランスフェリンが結合したクロマトグラフィー材を洗浄する工程;
d)任意により、更にトランスフェリンが結合したクロマトグラフィー材を洗浄する工程;及び
e)任意により、前記アニオン性クロマトグラフィー材からトランスフェリンを回収する工程;
を含む、前記プロセス。
【請求項2】
工程(a)において、前記トランスフェリンと四ホウ酸塩の溶液が、約1モルのトランスフェリンに対して約20モル以上の四ホウ酸塩の比率を有する、請求項1に記載のプロセス。
【請求項3】
洗浄工程(c)が、洗浄工程(d)で使用されるものよりも低濃度の四ホウ酸塩洗浄溶液を使用して実施される、請求項1又は2のいずれかに記載のプロセス。
【請求項4】
洗浄工程(c)が、約0.1mM〜約20mMの四ホウ酸塩溶液を使用して実施される、請求項1〜3のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項5】
洗浄工程(d)が、約5mM〜約60mMの四ホウ酸塩溶液を使用して実施される、請求項1〜4のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項6】
a)相対的に不純のトランスフェリン溶液に四ホウ酸塩を添加して、約1モルのトランスフェリンに対して約20モル以上の四ホウ酸塩の比率を有するトランスフェリンと四ホウ酸塩の溶液を取得する工程;
b)当該トランスフェリンと四ホウ酸塩の溶液を、トランスフェリンが特異的結合活性を有しないアニオン性クロマトグラフィー材に導入し、トランスフェリンをクロマトグラフィー材に結合させる工程;
c)トランスフェリンが結合したクロマトグラフィー材を約0.1mM〜約20mMの四ホウ酸塩溶液を使用して洗浄する工程;
d)続いて当該クロマトグラフィー材を30mM以上の四ホウ酸塩溶液で洗浄する工程;及び
e)任意により、前記アニオン性クロマトグラフィー材からトランスフェリンを回収する工程;
を含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項7】
トランスフェリン溶液を精製するプロセスであって、当該プロセスがアニオン性クロマトグラフィー工程及びカチオン性クロマトグラフィー工程を含み、ここで:
当該カチオン性クロマトグラフィー工程が:
a)相対的に不純のトランスフェリン溶液を、トランスフェリンが特異的結合活性を有しないカチオン性クロマトグラフィー材に導入し、トランスフェリンをクロマトグラフィー材に結合させる工程;
b)当該カチオン性クロマトグラフィー材を、緩衝効果を提供する塩の他に実質的に塩を含有しないpHが約4〜約5の洗浄緩衝剤で洗浄する工程;
c)続いて当該カチオン性クロマトグラフィー材を、塩濃度が約50mM〜約5MでpHが約4〜約5の洗浄緩衝剤で洗浄する工程;及び
d)前記カチオン性クロマトグラフィー材からトランスフェリンを回収する工程;
を含み、そして当該アニオン性クロマトグラフィー工程が:
a)前記カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(d)で得られたトランスフェリンに四ホウ酸塩を添加してトランスフェリンと四ホウ酸塩の溶液を取得する工程;
b)当該トランスフェリンと四ホウ酸塩の溶液を、トランスフェリンが特異的結合活性を有しないアニオン性クロマトグラフィー材に導入し、トランスフェリンをクロマトグラフィー材に結合させる工程;
c)トランスフェリンが結合したクロマトグラフィー材を洗浄する工程;
d)任意により、更にトランスフェリンが結合したクロマトグラフィー材を洗浄する工程;及び
e)任意により、前記アニオン性クロマトグラフィー材からトランスフェリンを回収する工程;
を含む、前記プロセス。
【請求項8】
アニオン性クロマトグラフィー工程の洗浄工程(c)で使用される四ホウ酸溶液の濃度が約2.5mM〜約7.5mMである、請求項1〜7のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項9】
アニオン性クロマトグラフィー工程の洗浄工程(c)で使用される四ホウ酸溶液の濃度が約5mMである、請求項1〜8のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項10】
アニオン性クロマトグラフィー工程の洗浄工程(d)で使用される四ホウ酸溶液の濃度が約20mM〜約40mMである、請求項1〜9のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項11】
アニオン性クロマトグラフィー工程の洗浄工程(d)で使用される四ホウ酸溶液の濃度が約30mMである、請求項1〜10のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項12】
前記四ホウ酸塩が四ホウ酸カリウム又は四ホウ酸ナトリウムのいずれかである、請求項1〜11のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項13】
前記アニオン性クロマトグラフィー材が:ジエチルアミノエチル基及び第四級アミン基から選択される機能的リガンドを含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項14】
トランスフェリン溶液を精製するプロセスであって、カチオン性クロマトグラフィー工程を含み、当該工程が:
a)相対的に不純のトランスフェリン溶液を、トランスフェリンが特異的結合活性を有しないカチオン性クロマトグラフィー材に導入し、トランスフェリンをクロマトグラフィー材に結合させる工程;
b)当該クロマトグラフィー材を、塩濃度が200mM未満でpHが約4〜約5の洗浄緩衝剤で洗浄する工程;
c)続いて当該クロマトグラフィー材を洗浄緩衝剤で洗浄する工程;及び
d)任意により、前記カチオン性クロマトグラフィー材からトランスフェリンを回収する工程;
を含み、ここで、洗浄工程(c)の洗浄緩衝剤が:
i)以下の等式の両方により規定される設計空間内に存在し、
(I)回収率= -940.50069 + (441.61018 ×p) + (0.043309×s) - (47.57735×p2) - (0.010263×p×s)
(II)宿主細胞タンパク質クリアランス= 16388.65744 - (10512.30681×p) - (1.70101×s) + (2257.17601×p2) + (0.78628×p×s) - (159.06573×p3) - (0.090182×p2×s)
ここでpはpH、sは塩濃度(mM)で、回収率は60%以上で、YAクリアランスは275倍以上である;
ii)塩濃度が50〜5000mM、pHが4〜5であって;そして
iii)工程(b)の洗浄緩衝剤よりも塩濃度が高い;
前記プロセス。
【請求項15】
前記カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(b)の洗浄緩衝剤のpHが約4.3〜約4.7である、請求項7〜14のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項16】
前記カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(b)の洗浄緩衝剤のpHが約4.5である、請求項15に記載のプロセス。
【請求項17】
前記カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(b)の洗浄緩衝剤の塩濃度が50mM未満である、請求項7〜16のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項18】
前記工程(b)の洗浄緩衝剤が、緩衝効果を提供する塩の他に塩を含有しない請求項17に記載のプロセス。
【請求項19】
前記カチオンクロマトグラフィー工程の洗浄工程(c)の洗浄緩衝剤が:
i)以下の等式の両方により規定される設計空間内に存在し、
(I)回収率= -940.50069 + (441.61018×p) + (0.043309×s) - (47.57735×p2) - (0.010263×p×s)
(II)宿主細胞タンパク質クリアランス= 16388.65744 - (10512.30681×p) - (1.70101×s) + (2257.17601×p2) + (0.78628×p×s) - (159.06573×p3) - (0.090182×p2×s)
ここでpはpH、sは塩濃度(mM)で、回収率は60%以上で、YAクリアランスは275倍以上である;そして
ii)塩濃度が50〜5000mM、pHが4〜5である;
請求項7〜18のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項20】
前記カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(c)の洗浄緩衝剤のpHが約4.3〜約4.7である、請求項7〜19のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項21】
前記カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(c)の洗浄緩衝剤のpHが約4.5である、請求項20に記載のプロセス。
【請求項22】
前記カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(c)の洗浄緩衝剤の塩濃度が約250mM〜約2.5Mである、請求項7〜21のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項23】
前記工程(c)の洗浄緩衝剤の塩濃度が約2Mである、請求項22に記載のプロセス。
【請求項24】
前記カチオン性クロマトグラフィー工程の工程(b)及び/又は工程(c)の塩がNaClである、請求項7〜23のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項25】
前記カチオン性クロマトグラフィー材料がスルホプロピル基を含む機能的リガンドを含有する、請求項7〜24のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項26】
前記カチオン性クロマトグラフィー工程がトランスフェリンの回収前に更に三回目の洗浄工程を含む、請求項7〜25のいずれか1項に記載のプロセス。
【請求項27】
前記三回目の洗浄工程が、約50mMの酢酸ナトリウムを含有しpHが約5.1である洗浄緩衝剤を使用して実施される、請求項26に記載のプロセス。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−516878(P2012−516878A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−548699(P2011−548699)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【国際出願番号】PCT/EP2010/051453
【国際公開番号】WO2010/089385
【国際公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【出願人】(509198343)ノボザイムス バイオファーマ デーコー アクティーゼルスカブ (11)
【Fターム(参考)】