説明

精製脱塩処理における金属及びアミンの除去促進添加剤を含む混合物

【課題】炭化水素と水とのエマルジョンを分離する方法及び組成物に関し、特に脱塩処理において、原油に含まれる大部分の金属類及び/又はアミン類を水相に移層する組成物及びそれを用いた方法を提供する。
【解決手段】エマルジョン破壊工程において、水溶性ヒドロキシ酸類を含む組成物を用いて、金属類及び/又はアミン類を除去又は炭化水素相から水相に移層する。好ましい水溶性ヒドロキシ酸類としては、グリコール酸、グルコン酸、C〜Cのα−ヒドロキシ酸類、ポリヒドロキシカルボン酸類、チオグリコール酸、クロロ酢酸、これらのヒドロキシ酸類の重合体、ポリグリコールエステル類、グリコールエーテル類、これらのヒドロキシ酸類のアンモニウム塩、アルカリ金属塩及びこれらのヒドロキシ酸類の混合物が挙げられる。この組成物はまた、脱塩洗浄水のpHを下げる少なくとも一つの無機酸を含んでいてもよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素と水とのエマルジョンを分離する方法及び組成物に関し、より詳細には、一つの実施態様においては、エマルジョン破壊処理において金属及び/又はアミン類を水相に移層する方法及び組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
原油精製においては、原油の脱塩処理を長年にわたって行ってきた。原油は通常、必ずしも限定されないが、以下に示すような様々な要因によって混入物が含まれている。
【0003】
・地中の原油に混合した塩水が原因となって原油中に混入した塩水
・原油掘削機周辺にある無機物類、粘土、沈泥及び砂
・カルシウム、亜鉛、ケイ素、ニッケル、ナトリウム、カリウム等を含む金属類
・アミンユニット中の精製ガス流、又は、オーバヘッドシステム内の原油を中和するのに使用されたアミン、及び、油田で使用されたHS除去装置から、HSを洗浄するのに、使用されたアミン類等の窒素含有化合物類
・精製、輸送及び貯蔵において、パイプライン及び処理容器が腐食して生じた硫化鉄及び酸化鉄
【0004】
下流に配置された熱交換装置における付着物及び沈着物の原因になり、又は、原油処理装置に悪影響を及ぼす腐食剤の塩類が生成される可能性のある上記した塩類及び他の無機物類を除去するための後続処理を行う前に脱塩処理を行うことが必要である。さらに、これらの金属類は下流に配置された精製装置で使用される触媒に対して毒性物質として作用することもある。効果的に原油を脱塩することで、これらの毒性物質が原油装置及び下流に配置された装置に与える影響を最小限にとどめることができる。適切に脱塩処理を行うと、精製装置に対して、以下のような利点がもたらされる。
【0005】
・原油装置における腐食の軽減
・原油予熱システムにおける付着物の軽減
・蒸留塔における損傷可能性の軽減
・エネルギー経費の軽減
・下流に配置された装置及び製品汚染の軽減
【0006】
脱塩とは、混合弁を使って約5%(相対的)の洗浄水を原油中に分散させた別のエマルジョンを形成させることで、原油に含まれる水のナチュラルエマルジョンを分解させることである。混合エマルジョンは、並列の電気的に充電された平板を備えた脱塩容器に送られる。このように処理することで、原油と水のエマルジョンは印加された電場にさらされる。誘発双極子は、静電気引力と水滴の融合を起こすエマルジョン内の各水滴に発生され、だんだん大きくなる水滴を形成させる。最終的には、エマルジョンは二つの分離相−油相(上層)及び水相(下層)に分離する。脱塩された石油及び流出水は脱塩装置から別々に放出される。
【0007】
全体的な脱塩処理は、バッチ処理とは対照的な連続的処理である。通常は、油/水のエマルジョンの分離に役立つ混合弁を使用する前に、静電融合を利用する他、化学添加物が注入される。これらの添加物には、油/水の界面張力を下げることによって小さな水滴をより簡単に融合させる効果がある。
【0008】
粒子状固体を高い割合で含む原油の脱塩処理は煩雑になることがある。粒子状固体は本来水相に移層するものである。しかし、油田から産出された原油に含まれる多くの固体は、堅固な油中水エマルジョン中に存在する。つまり、原油に高濃度で含まれる原油で湿潤した固体によって、分解しにくい堅固な油中水エマルジョンが形成されることもある。これらの堅固なエマルジョンはよく「ラグ(微小固形物)」と呼ばれ、分離された油相と水相の間に層として存在していることもある。脱塩容器内のラグ層がある程度多くなってしまうと、その一部が水相に移層されてしまうこともある。このことは、ラグ層が依然高濃度の未分離乳化油を含んでいるため、排水処理プラントにとって問題となる。
【0009】
このように、原油脱塩処理中の多くの固体は、鉄からなり、このほとんどが酸化鉄、硫化鉄等の粒子状の鉄である。望ましく除去された他の金属類は、必ずしも限定されないが、カルシウム、亜鉛、ケイ素、ニッケル、ナトリウム、カリウム等であり、主にこれらの金属類が多く存在している。金属類のいくつかは水溶性の形態をとって存在してもよい。金属類は、無機化合物又は有機化合物として存在してもよい。鉄及び他の金属類は、脱塩処理を複雑にすると共に、下流に配置された処理工程においても重大な懸念事項である。処理された炭化水素に残存する鉄及び他の金属類が低品質のコークスを産出させてしまうため、この下流に配置された処理工程にはコークス処理が含まれる。炭化水素処理の初期段階で原油から金属類を容易に除去することは、腐食及び付着物が発生するという問題を抑えるだけでなく、最終的に高品質のコークスを産出させるために望まれている。
【0010】
金属の全体含有量を減らすための様々な処理が試されてきたが、これらのすべては脱塩装置における金属類の除去を中心としたものである。通常、脱塩装置は、塩化ナトリウム又は塩化カリウム等の水溶性無機塩だけを除去するのに使用される。水中ではなく油中で微粒子として可溶又は分散するナフテン酸カルシウム及びナフテン酸鉄等の不溶性金属有機酸塩を含む原油もある。
【0011】
したがって、脱塩処理において、水相に原油のオイルキャリアンダがほとんど又は全くなく、原油に含まれる多くの又は全ての金属類を油相から移層する組成物及びそれを用いた方法の開発が望まれている。これまで、ノニルフェノール樹脂類が脱塩添加物として使用されていたが、これらの樹脂類は擬似ホルモンの可能性があるし、それらのみではカルシウムや鉄等の金属類を効果的に除去することができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、脱塩処理において、原油に含まれる大部分の金属類及び/又はアミン類を水相に移層する組成物及びそれを用いた方法を提供することにある。
【0013】
本発明の別の目的は、エマルジョン破壊処理において、水相に原油のオイルキャリアンダを生じさせることなく、金属類及び/又はアミン類を炭化水素から水相に移層する組成物及び方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明のこれらの目的及び他の目的を実施するにあたって、一実施態様において、炭化水素と水とのエマルジョンを添加することで金属類及び/又はアミン類を炭化水素相から水相へ移層する方法、及び、少なくとも一つの水溶性ヒドロキシ酸を含む、金属類及び/又はアミン類を炭化水素相から水相へ移層する組成物の有効量を提供する。前記水溶性ヒドロキシ酸は、グリコール酸、グルコン酸、C〜Cのα−ヒドロキシ酸類、ポリヒドロキシカルボン酸類、チオグリコール酸、クロロ酢酸、上記ヒドロキシ酸類の重合体、ポリグリコールエステル類、グリコールエーテル類、これらヒドロキシ酸類のアンモニウム塩及びアルカリ金属塩、及びこれらの混合物であってもよい。前記エマルジョンは炭化水素相と水相に分解される。この場合、少なくとも金属類及び/又はアミン類の一部が水相に移層される。これは、ナフテン酸カルシウム等の水不溶性塩をグルコール酸カルシウム等の水溶性塩に変化させることで達成される。
【0015】
本発明の特に限定されない別の実施態様においては、水溶性ヒドロキシ酸(上記したように、ヒドロキシ酸の塩も含む)及び無機酸を含む、金属類及び/又はアミン類を炭化水素相から水相に移層する組成物を提供する。
【0016】
本発明の特に限定されない別の実施態様においては、水溶性ヒドロキシ酸(上記したように、ヒドロキシ酸の塩も含む)、並びに、炭化水素系溶媒、腐食防止剤、抗乳化剤、スケール防止剤、金属キレート化剤、湿潤剤及びこれらの混合物であってもよい少なくとも一つの添加剤を含む、金属類及び/又はアミン類を炭化水素相から水相に移層する組成物を提供する。
【0017】
本発明の特に限定されない別の実施態様においては、炭化水素と、水と、水溶性ヒドロキシ酸(上記したように、ヒドロキシ酸の塩も含む)を含む、金属類及び/又はアミン類を炭化水素相から水相に移層する組成物とを含む、処理された炭化水素エマルジョンを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、脱塩装置による様々なアミン類及びアンモニアの分配をpHの関数として示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の発明者は、原油を精製装置で脱塩する際に、グリコール酸(ヒドロキシ酢酸)及び他の水溶性ヒドロキシ酸類を原油に加えると、カルシウムやその他の金属、及び/又は、炭化水素中のアミン類の含有量を著しく減少させられることを見出した。本発明の発明者は、カルシウムを標準含有量より多く含む基準原油を「通常の」脱塩処理と比較し、最小限のカルシウムしか除去されないことを見出した。グリコール酸をカルシウムに対し5:1の割合まで加えると、脱塩された石油に含まれる金属及び/又はアミンの含有量を大幅に減少させることができる。また、鉄、亜鉛、ケイ素、ニッケル、ナトリウム及びカリウム等のカルシウム以外の金属における含有量も減少させることができる。本発明の特に限定されない具体的な実施態様は、酸化鉄、硫化鉄等の微粒子状の鉄を除去することである。炭化水素又は原油から金属及び/又はアミンを「除去する」ことは、炭化水素又は原油から一種以上の金属を、いかなる程度にも、分配する、隔離する、分離する、移す、除去する、分割する及び除去するありとあらゆることを意味している。
【0020】
グリコール酸は水性添加物であり、脱塩装置の洗浄水に典型的に添加される。水相にグリコール酸を添加することは、本発明を実施するための組成物の必要条件とされるものではないが、これにより原油に含まれる酸の分配率を改善できる。
【0021】
本発明の組成物及び方法は、高濃度の金属、アミン類及び鉄をベースにした固形物を含む固形物を元々含んでいた原油から高品質(すなわち、高純度)のコークスを製造するのに有益である。さらに本発明によって、廃棄物処理プラントにいかなる石油やエマルジョンを一切排出することなく、原油から無機物を除去する技術を向上させることができる。
【0022】
本発明において、金属としては、周期律表(CAS版)のIA族、IIA族、VB族、VIII族、IIB族及びIVA族の金属元素が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。他の限定されない実施態様において、金属としては、カルシウム、鉄、亜鉛、ケイ素、ニッケル、ナトリウム、カリウム、バナジウム及びこれらの組み合わせが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。特に、ニッケル及びバナジウムは、下流側に配置される流動接触分解装置(FCCU)で用いられる触媒毒として知られている。
【0023】
本発明の方法により除去されるアミン類としては、モノエタノールアミン(MEA)、ジエタノールアミン(DEA)、トリエタノールアミン(TEA)、N−メチルエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン(DMEA)、モルホリン、N−メチルモルホリン、エチレンジアミン(EDA)、メトキシプロピルアミン(MOPA)、N−エチルモルホリン(EMO)、N−メチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン及びこれらの組み合わせが挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。
【0024】
本発明の一実施態様において、本発明の組成物は水溶性ヒドロキシ酸を含んでいる。本発明において、ヒドロキシ酸類は酢酸を含まず、除外するものとする。酢酸は、金属を除去するのに時々利用されることもあるが、油溶性が非常に高く、脱塩装置で留出された炭化水素と共に残留しやすい。そのため、酢酸の酸性度によって、原油装置が腐食するという問題が生じることがある。水溶性ヒドロキシ酸類は、非常に高い水溶性を有し、原油中にはそれほど分配されることはない。その結果、下流に配置される装置に与える影響を低減することができる。また、ヒドロキシ酸類は、揮発性が低く、原油ユニットオーバシステムには留出されない。この原油ユニットオーバシステムは、ヒドロキシ酸類がこのシステムに通常存在する水と結合した場合、腐食速度が増加することがある。
【0025】
本発明の好ましく特に限定されない一実施態様において、水溶性ヒドロキシ酸は、グリコール酸、C〜Cのα−ヒドロキシ酸類、ポリヒドロキシカルボン酸類、チオグリコール酸、クロロ酢酸、これらヒドロキシ酸類の重合体、グリコールエーテル、ポリグリコールエステル、及びこれらの混合物からなる群より選択される。チオグリコール酸及びクロロ酢酸は、厳密に言うとヒドロキシ酸類ではないが、ヒドロキシ酸類と同等の機能を有するので、本発明の目的に照らして、これらもヒドロキシ酸類と定義する。C〜Cのα−ヒドロキシ酸におけるα位の置換基は、C〜Cの直鎖アルキル基又は分枝鎖アルキル基のいずれであってもよい。本発明の限定されない一実施態様においては、α位の置換基は、C〜Cの直鎖アルキル基又は分枝鎖アルキル基であってもよいが乳酸は含まない。グルコン酸、CHOH(CHOH)COOHは、特に限定されないが好ましいグリコール酸の重合体である。グリコールエーテルは以下の化学式を有していてもよい。
【0026】
【化1】

ここで、nは1〜10である。グリコールエステルは以下の化学式を有していてもよい。
【0027】
【化2】

ここで、nは上記と同様である。チオグリコール酸、及び、グリコール酸のエーテル類は、沸点が高いため添加する効果が高く、水溶性が向上することがある。沸点が高いとは、添加物が常圧蒸留装置における分留に留出せず、腐食又は製品の品質に影響を与えないことを意味する。また水溶性が高いと、脱塩装置内の原油から添加物を除去しやすく、下流に配置される処理装置に達する添加物の量も減少する。
【0028】
特に、水溶性ヒドロキシ酸類としては、これらヒドロキシ酸類単独のアンモニウム塩、アルカリ金属塩(すなわち、ナトリウム塩及びカリウム塩等)、又はこれらと上記の他の水溶性ヒドロキシ酸類との組み合わせが挙げられる。水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等のpH調整剤によって装置内のpHが調整されるため、このような塩は、脱塩装置の洗浄水中で形成されることもある。
【0029】
別の限定されない実施態様においては、水溶性ヒドロキシ酸類としては、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、マンデル酸及び乳酸を含まない。本発明の限定されないまた別の実施態様においては、水溶性ヒドロキシ酸類としては、有機酸無水物、特に酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ステアリン酸、フタル酸、安息香酸の無水物を含まない。
【0030】
本発明の限定されないまた別の実施態様においては、グルコール酸及びグルコン酸は、原油又は別の炭化水素からカルシウム及びアミン類を除去するのに使用されてもよく、またチオグリコール酸は、原油又は別の炭化水素から鉄を除去するのに使用されてもよい。
【0031】
水溶性ヒドロキシ酸類は、市販されている、腐食防止剤、抗乳化剤、pH調整剤、金属キレート化剤、スケール防止剤、炭化水素溶剤及びこれらの混合物を含む(これらに限定されない)他の添加物と共に使用されてもよい。金属キレート化剤は、金属と錯体を形成し、キレートを構成する化合物である。特に、酸性を示すpHであるときに金属が最も除去されるので、無機酸を使用してもよい。水溶性ヒドロキシ酸類、特にグリコール酸又はグルコン酸と無機酸とを組み合わせて使用すると工業的用途として最も経済的である。本発明の水溶性ヒドロキシ酸類と共に使用される好適な無機酸として、硫酸、塩酸、リン酸、硝酸、亜リン酸及びこれらの混合物が挙げられるが、必ずしもこれらに限定されない。上記したように、本発明の一実施態様においては、本発明の方法は、洗浄水で原油エマルジョンを洗浄する工程を含む脱塩精製処理で実施される。本発明の特に限定されない一実施態様においては、使用される無機酸の量は、洗浄水のpHを6以下にできる量であればよい。以下に記載するように、本発明のいくつかの実施態様においては、洗浄水のpHを5以下又は4以下にすることが必要又は好ましい。水溶性ヒドロキシ酸類(及びその塩)は、広範囲のpH領域で有効であるが、場合によっては、pHを調整して所望の混入物を移層し、又は分離することが必要又は望ましい。
【0032】
前記ヒドロキシ酸及び/又は無機酸の必要な割合、効果的な割合又は所望の割合を事前に予測することは困難な場合があると考えられる。それは、この割合又は使用量が、炭化水素の性質、除去される金属種及びアミンの濃度、温度条件及び圧力条件、使用される特有のヒドロキシ酸及び無機酸等の特に限定されない多くの要因に依存しているからである。一般に、カルシウム等の除去される金属種が多いほど、添加するべき反応性の酸も多くなる。多くの好ましくない金属種が影響を受けるので、金属除去処理を達成するには、対象とする金属種のみの濃度から求められるよりも、化学量論に基づく反応性の酸を多く必要とすることもある。したがって、pHを6未満に調整できる量の酸をただ添加しただけでは不十分である。このような状況ではあるが、本発明の特に限定されない一実施態様において、使用される割合のいくつかの例をあげると、組成物は、下限が約1質量%の水溶性ヒドロキシ酸及び上限が約20質量%の無機酸を含んでいてもよい。前記組成物は、好ましくは、約1〜100質量%の水溶性ヒドロキシ酸と約1〜20質量%の無機酸とを含み、特に好ましくは、約25〜85質量%の水溶性ヒドロキシ酸と約15〜75質量%の無機酸とを含んでいる。本発明の特に限定されないいくつかの実施態様においては、無機酸は任意であり用いなくてもよい。
【0033】
本発明の添加混合物は、正確な方法により混合弁の上流側で洗浄水に注入され、又は、水、アルコール又は溶液内で全ての添加物成分を維持するのに適した類似の溶媒で希釈される。使用される溶媒量は、組成物全体量の約10〜95質量%であり、好ましくは約20〜10質量%である。
【0034】
原油に使用される本発明の添加混合物組成物の有効な濃度をあらかじめ予測することは大変困難である。これは、原油の組成、脱塩条件(温度、圧力等)、脱塩装置における原油の流速及び滞留時間を含む特に限定されない多様で相関関係を持つ要因に依存するからである。このような状況ではあるが、特に限定されない実例においては、(いかなる溶媒又は無機酸も含んでいない)原油に使用される反応性の水溶性ヒドロキシ酸の使用量は、約1〜2000ppm−wであり、好ましくは約10〜500ppm−wであり、除去される金属種の濃度に依存することがある。有機ヒドロキシ酸は、除去される有機金属種及び/又はアミン種と化学量論的に反応する。したがって、除去される金属種の濃度と比較して有機ヒドロキシ酸を等量添加しなければならない。酸がわずかに余剰であると反応は確実に終了する。本発明の特に限定されない一実施態様においては、水溶性ヒドロキシ酸の使用量は、存在する金属及び/又はアミンの量と化学量論量であるか、又はそれよりも多い。経済的観点から、炭化水素に含まれる混入物が許容し得る低濃度で残存している状態において、いくつかの金属又はアミンを原油中に残存させるように精製装置を決定してもよい。これらの場合には、ヒドロキシ酸類の使用量を相対的に減らすことができる。もちろん、本発明の実施例においては、水相にはオイルキャリアンダが全く存在しないことが特に好ましく、少なくともオイルキャリアンダは最小限であることが特に好ましい。さらに、全ての金属類及び/又はアミン類が水相に移層することが好ましい一方で、本発明の限定されない見解では、金属類及び/又はアミン類の一部が油相から微小固形物に変化してもよい。金属類及び/又はアミン類は微小固形物を分離した際に除去される。
【0035】
もちろん、本発明の実施にあたっては、全ての金属類及び/又はアミン類が水相に移層することが特に好ましい。本発明の特に限定されない別の実施形態においては、25%以下の金属及び/又はアミンが脱塩後に炭化水素相に存在し、20%以下の金属及び/又はアミンが残存することが好ましく、わずか10%以下の金属及び/又はアミンが残存することが特に好ましい。場合によっては、生じる問題点が経済的に許容できる範囲内であれば、より高濃度の金属及び/又はアミン混入物を原油中に残存させるように精製装置を決定してもよい。
【実施例】
【0036】
以下の実施例を引用して本発明について更に説明するが、これによって本発明は限定されるものではなく、更に詳細に説明するものである。
【0037】
以下の静電脱塩脱水装置(EDDA)の試験方法は、使用可能性のある混合組成物を選別するために採用された。EDDAは、脱塩工程を模擬実験するめの実験室試験装置である。
【0038】
<EDDA試験方法>
1.洗浄水分(EDDAが保持する管の数に依存する)を差し引いて、800mL、600mL又は400mLの試験対象原油をワーリングブレンダに加える。
2.必要な割合の洗浄水をこのブレンダに加え、全容積を800mL、600mL、400mLにする。
3.(バリアック上で)50%の速度で30秒間混合する。混合弁のΔPが低い場合は速度を落としてもよい。
4.混合物をEDDA管に注ぎ、100mLの目盛りの真下にあわせる。
5.所望の試験温度(99℃)にあるEDDA加熱ブロックに管を設置する。
6.各管に所望の量(ppm)の抗乳化剤を加える。試験ごとに比較目的でブランクを入れる。
7.管内にねじ蓋付き電極を取り付け、試料を約15分加熱する。
8.蓋を確実に閉め、各管を100〜200回振った後、加熱ブロックに再設置し5分間再加熱する。
9.電極カバを管上にかぶせて定位置に固定する。確実にカバと電極キャップが接触するようにする。
10.時間を5分間に設定し、1500〜3000ボルト(試験条件に依存する)で試験を行う。
11.5分間の試験が終わった後、管を取り出して水滴の割合を調べる。また、界面の質及び水の量を調べ記録する。
12.工程9、10及び11を、合計して所望の滞留時間になるまで繰り返す。
13.最も適した試料を選択し、これら試料の脱水処理を行う。
a)所望数の12.5mL遠心分離管をキシレンで50%の目盛りなるように満たす。
b)ガラス注射器を用いて、管内の所望の目盛りから脱水された原油試料5.8mLを吸引し、遠心分離管でキシレンと混合する。
c)2000rpmで4分間にわたって管を遠心分離する。
d)水、エマルジョン及び管の底部に存在する固体を確認し、記録する。
【0039】
<カルシウムの分析>
EDDA試験の終了後、ガラス注射器及びカニューレ(長く幅広の穴があいた針)を使用して、脱塩された原油20mLを2つ分取り出す。EDDA管の油表面より下の油を25mL及び70mLずつ抽出する。二つの試料(上取り分及び下取り分)を、適切な方法(湿式灰化又はマイクロ波分解、酸性化、希釈、AA又はICP分析)で、カルシウムの濃度を分析する。同様の手順で、アミン塩等の他の混入物をイオンクロマトグラフィで分析可能な油試料及び水試料を調製する。
【0040】
使用された原油は、カルシウム含量が高いアフリカ原産の原油であった。
【0041】
添加物Aは、70%のグリコール酸及び中和水である。
【0042】
添加物Bは、グリコール酸、リン酸(pH調整剤)、ピリジン第4級アンモニウム化合物(腐食防止剤)、ジノニルフェノール/エチレンオキシドオキシアルキレート(共溶媒)、イソプロピルアルコール及び水の混合物である。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

上記で示したデータから、使用された水溶性ヒドロキシ酸(グリコール酸)によって、様々の金属類が効果的に除去され又は油相から水相に移層されることがわかる。本発明の方法はカルシウムやカリウム等の含量の多い金属類に対して特に効果的である。
【0045】
表3〜6は、本発明の水溶性ヒドロキシ酸を使用することによって、様々な金属類を炭化水素相から水相に移層することを示す追加データである。様々な成分については以下に規定する通りである(全ての割合は、体積百分率である)。
【0046】
添加物Cは、70%グリコール酸及び30%の水である。
【0047】
添加物Dは、75%の添加物C、20%のアクリル酸重合体のスケール防止剤(単独でSI1と示す)、1.8%のアルキルピリジン第4級アンモニウム塩の腐食防止剤及び3.2%のオキシアルキル化したアルキルフェノールの界面活性剤である。
【0048】
添加物Eは、72%のリン酸のスケール制御剤/pH調整剤、14%のオキシアルキル化したポリアルキレンアミン及び14%のSI1である。
【0049】
添加物Fは、10%のシュウ酸、20%のチオグリコール酸、10%のグリコール酸、1.5%のアルキルピリジン第4級アンモニウム塩の腐食防止剤及び58.5%の水である。
【0050】
DAからDFは、抗乳化剤AからFを示しており、これらは全てオキシアルキル化された様々なアルキルフェノール樹脂である。本発明の添加物と共に使用する際は、抗乳化剤Aを添加物Dと使用する場合をDA/D等と短縮して次の欄にppm比で示している。
【0051】
SI2は、ジアンモニウムエチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)を含むスケール防止剤2である。
【0052】
SI3は、アミンホスホン酸塩のスケール防止剤を含むスケール防止剤3である。
【0053】
SRA1は、スケール除去添加物1であり、リン酸、グリコール酸及び抗乳化剤とアルキルピリジン第4級アンモニウム塩の腐食防止剤との混合物である(添加物Dと同様)。
【0054】
【表3】

【0055】
【表4】

【0056】
【表5】

【0057】
【表6】

図1は、脱塩装置による様々なアミン類及びアンモニアの分配をpHの関数として示すグラフである。本発明で特定した割合でグリコール酸及びグルコン酸等の水溶性ヒドロキシ酸類を脱塩洗浄水に添加すると、水のpHを約3〜6.5の範囲に調整することができる。
【0058】
上述のように、本発明を具体的な実施例を引用して説明した。また、特に限定されない実施例として、ベンチスケール脱塩試験において、金属類、すなわちカルシウム、カリウム等及び/又はアミン類を原油から水相に移層するのに効果的であることを示した。しかし、添付した請求の範囲に記載した発明の広範囲な思想又は範囲から逸脱しない限り、様々な変形及び変更が可能である。したがって、本願明細書は、限定的な思想というより実例としてみなされるものである。例えば、金属類及び/又はアミン類を水相に移層することを特定用途において特に確認又は試みていないが、具体的な水溶性ヒドロキシ酸類、及び、これらのヒドロキシ酸類と具体的に例示又は記載した酸以外の他の無機酸との組み合わせ、あるいは、規定した百分率の範囲内での異なる割合は、本発明の範囲に含まれる。同様に、原油エマルジョン以外の他の液体に対しても、本発明の組成物に金属移層組成物としての有用性を見出すことも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコール酸、グルコン酸、C〜Cのα−ヒドロキシ酸類、ポリヒドロキシカルボン酸類、チオグリコール酸、クロロ酢酸、これらのヒドロキシ酸類の重合体、ポリグリコールエステル類、グリコールエーテル類、これらのヒドロキシ酸類のアンモニウム塩、アルカリ金属塩及びこれらのヒドロキシ酸類の混合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの水溶性ヒドロキシ酸を含む、金属類及び/又はアミン類を炭化水素相から水相に移層する有効量の組成物を、炭化水素と水とのエマルジョンに添加する工程と、
金属類及び/又はアミン類の少なくとも一部を水相に移層させるところの、前記エマルジョンを炭化水素相及び水相に分解する工程とを含む、金属類及び/又はアミン類を炭化水素相から水相に移層する方法。
【請求項2】
前記組成物を添加する際に、前記組成物がさらに無機酸を含んでいることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記組成物を添加する際に、前記組成物がさらに、下限が約1質量%の前記水溶性ヒドロキシ酸、及び、上限が約20質量%の無機酸を含んでいることを特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記方法は脱塩精製工程で実施され、さらに、洗浄水及び前記洗浄水のpHを6以下に調整できる量の無機酸で、前記エマルジョンを洗浄する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記組成物を添加する際に、前記水溶性ヒドロキシ酸が1〜2000ppmの範囲で前記エマルジョン中に存在していることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記組成物を添加する際に、前記組成物がさらに水又はアルコール系溶媒を含んでいることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
グリコール酸、グルコン酸、C〜Cのα−ヒドロキシ酸類、ポリヒドロキシカルボン酸類、チオグリコール酸、クロロ酢酸、これらのヒドロキシ酸類の重合体、ポリグリコールエステル類、グリコールエーテル類、これらのヒドロキシ酸類のアンモニウム塩、アルカリ金属塩及びこれらのヒドロキシ酸類の混合物からなる群から選ばれる水溶性ヒドロキシ酸と、無機酸とを含む、金属類及び/又はアミン類を炭化水素相から水相に移層する組成物。
【請求項8】
前記組成物がさらに、水又はアルコール系溶媒、腐食防止剤、抗乳化剤、スケール防止剤、金属キレート化剤、湿潤剤及びこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの成分を含んでいることを特徴とする請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、さらに、下限が約1質量%の前記水溶性ヒドロキシ酸、及び、上限が約20質量%の無機酸を含んでいることを特徴とする請求項7又は8に記載の組成物。
【請求項10】
グリコール酸、グルコン酸、C〜Cのα−ヒドロキシ酸類、ポリヒドロキシカルボン酸類、チオグリコール酸、クロロ酢酸、これらのヒドロキシ酸類の重合体、ポリグリコールエステル類、グリコールエーテル類、これらのヒドロキシ酸類のアンモニウム塩、アルカリ金属塩及びこれらのヒドロキシ酸類の混合物からなる群から選ばれる水溶性ヒドロキシ酸と、
水又はアルコール系溶媒、腐食防止剤、抗乳化剤、スケール防止剤、金属キレート化剤、湿潤剤及びこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの成分とを含む、金属類及び/又はアミン類を炭化水素相から水相に移層する組成物。
【請求項11】
前記水溶性ヒドロキシ酸が、組成物全体に対して1〜85質量%の割合で含まれていることを特徴とする請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
炭化水素と、
水と、
グリコール酸、グルコン酸、C〜Cのα−ヒドロキシ酸類、ポリヒドロキシカルボン酸類、チオグリコール酸、クロロ酢酸、これらのヒドロキシ酸類の重合体、ポリグリコールエステル類、グリコールエーテル類、これらのヒドロキシ酸類のアンモニウム塩、アルカリ金属塩及びこれらのヒドロキシ酸類の混合物からなる群から選ばれる水溶性ヒドロキシ酸を含む、金属類及び/又はアミン類を炭化水素相から水相に移層する組成物とを含む、処理された炭化水素エマルジョン。
【請求項13】
前記組成物がさらに無機酸を含んでいることを特徴とする請求項12に記載の処理された炭化水素エマルジョン。
【請求項14】
前記組成物がさらに、下限が約1質量%の前記水溶性ヒドロキシ酸、及び、上限が約20質量%の無機酸を含んでいることを特徴とする請求項13に記載の処理された炭化水素エマルジョン。
【請求項15】
さらに洗浄水を含み、無機酸の含有量が前記全浄水のpHを6以下に調整できる量であることを特徴とする請求項12〜14のいずれか1項に記載の処理された炭化水素エマルジョン。
【請求項16】
前記水溶性ヒドロキシ酸が1〜2000ppmの範囲で前記エマルジョン中に存在していることを特徴とする請求項12〜16のいずれか項に記載の処理された炭化水素エマルジョン。
【請求項17】
前記組成物がさらに、水又はアルコール系溶媒、腐食防止剤、抗乳化剤、スケール防止剤、金属キレート化剤、湿潤剤及びこれらの混合物からなる群から選ばれる少なくとも一つの成分を含んでいることを特徴とする請求項12〜16のいずれか1項に記載の処理された炭化水素エマルジョン。
【請求項18】
前記炭化水素成分が、10ppm以上の鉄又はカルシウムを含んでいることを特徴とする請求項12〜17のいずれか1項に記載の処理された炭化水素エマルジョン。

【図1】
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【公開番号】特開2009−235412(P2009−235412A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−126067(P2009−126067)
【出願日】平成21年5月26日(2009.5.26)
【分割の表示】特願2004−531928(P2004−531928)の分割
【原出願日】平成15年8月28日(2003.8.28)
【出願人】(301008534)ベイカー ヒューズ インコーポレイテッド (21)
【Fターム(参考)】