説明

精錬炉用カーボン含有れんが

【課題】本発明は、転炉、溶融還元炉等の精錬炉において、炉底よりガスを吹き込むための羽口れんがと前記羽口れんがを囲む周囲れんが群の耐用性を向上させることを目的とする。
【解決手段】本発明による精錬炉用カーボン含有れんがは、精錬炉の底部に設けられ、精錬炉用ガスのガス通過孔を有するカーボン含有の羽口れんが(1)と羽口れんがを囲むカーボン含有の羽口周囲れんが群(10)からなる精錬炉用カーボン含有れんがにおいて、前記羽口れんが(1)及び羽口周囲れんが群(10)のカーボン含有量をそれぞれCt及びCbと表したとき、100質量%>Ct>0質量%及び100質量%>Cb>0質量%であって、以下の(1)式から求められるΔLが60を超え160以下であり、同時にCt<Cbを満たすCb及びCtの組み合わせよりなる構成である。
ΔL=−225.921+15.951Ct+0.905Cb−0.304Ct+0.189Cb …(1)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転炉、及び、溶融還元炉等の溶融金属中に炉の底部よりガスを吹き込む羽口れんがとそれを囲む周囲れんが群の組合せを最適にし、羽口れんがの耐スポーリング性を向上させるための新規な改良に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、精錬用転炉等では、底部に精錬用のガス吹き込み口を有する羽口れんがが用いられている。この羽口からは低温度のガスが吹き込まれるため、羽口れんが自身及び/または羽口周囲れんが群との間に大きな温度差が生じやすい。また、ガスのバックアタックも生じるため、羽口れんがは大きく損傷されやすい。この問題に関連して後述の特許文献1〜9が開示されている。
すなわち、特許文献1には、羽口周囲れんがに、炭素7〜35重量%を含み、マグネシアまたはマグネシアドロマイトを骨材に使用したマグネシアカーボン、マグネシアドロマイト・カーボン質不焼成れんがによるれんが積みを有することを特徴とする製鋼用酸素吹錬容器が開示されている。該公報によれば、吹錬用羽口の周囲におけるれんが積みの耐久性が増強される旨記載されている。
【0003】
特許文献2には、鱗状黒鉛5〜100重量%、常用の他の耐火物原料95〜0重量%配合し、有機結合剤を用いた上吹き転炉用耐火物が開示されている。該公報によれば、羽口及び羽口周辺の内張りに適した耐火物として適用したところ、耐スポーリング性が向上し、今まで以上の耐用性が得られる旨記載されている。
【0004】
特許文献3には、全炭素含有量が5重量%以上10重量%以下で残部がMgOクリンカから成るピッチ変性フェノール樹脂結合不焼成MgO−Cれんがを、炉壁およびまたは炉底の一部または全部に内張りしたことを特徴とする高温用転炉が開示されている。該公報によれば、高温におけるMgOとCとの反応を抑制しながら耐熱スポーリング性を確保し、含Cr溶鋼による化学的侵食と溶鋼中へのカーボンピックアップ防止を図り、転炉鉄皮の熱変形防止を図ることができる旨記載されている。
【0005】
特許文献4には、炉底にガス吹き込み用羽口を有する転炉における炉底のワーク煉瓦張り構造において、電融マグネシアを含むマグネシアカーボン煉瓦による一層張り領域とマグネシア源が焼結マグネシアであるマグネシアカーボン煉瓦による二層張り領域よりなり、前記一層張り領域が炉底外周端部の少なくとも1箇所から他端部の少なくとも1箇所に渡って連続して形成され、前記二層張り領域が複数の領域に分割されていることを特徴とする転炉々底の煉瓦張り構造が開示されている。該公報によれば、羽口周辺の煉瓦の損耗も抑えられると共に、炉底煉瓦の耐用期間を大幅に延ばすことができる旨記載されている。
【0006】
特許文献5には、黒鉛3〜10重量%含有する長尺のマグネシアーカーボンれんがからなることを特徴とするステンレス製鋼転炉炉床用耐火物が開示されている。該公報によれば、長尺品により横目地無しで炉床を厚く施工することができるようになったため、目地近傍での損傷加速が回避でき、炉床の耐用向上が可能になった旨記載されている。
【0007】
特許文献6には、精錬用ガスを吹き込む羽口ノズルと羽口ノズルを囲む羽口煉瓦とからなる精錬用羽口において、羽口ノズルが黒鉛パイプとそれに内挿された金属パイプと、前記黒鉛パイプの外面側に設けられた長繊維強化断熱層体からなる精錬用羽口が開示されている。該公報によれば、羽口の異常溶損がなくなり、周辺煉瓦の冷却も抑制され羽口の損耗速度を低減でき、精錬炉の炉体寿命の延長に寄与できる旨記載されている。
【0008】
特許文献7には、粒径が0.3mm以下の膨張黒鉛を15〜40重量%、残部がマグネシアを主体とする耐火材料からなるマグネシア・カーボンれんがを炉底の全部または一部に使用したことを特徴とする転炉炉底部ライニングが開示されている。該公報によれば、耐食性を維持しつつ、耐スポーリング性の大幅な向上が得られる旨記載されている。
【0009】
特許文献8には、羽口れんがと羽口れんが群のカーボン含有量の組み合わせが規定されており、一定の組み合わせを満たすことにより、羽口れんがと羽口れんが群との間に生じる隙間の幅を小さくできるので、地金差によるスポーリング損傷を抑制できるとしている。
【0010】
特許文献9には、羽口スリーブれんがの熱伝導率が羽口補強内張れんがの熱伝導率と同等以上の材質にすることにより、すなわち、羽口スリーブれんがのカーボン含有量を羽口補強内張れんがよりも多くすることにより、羽口金物周辺の目地損傷が少なく、熱スポーリングによる亀裂もなく、羽口全体の損傷を少なくできるとしている。
【0011】
【特許文献1】特開昭54−54904号公報
【特許文献2】特開昭57−5811号公報
【特許文献3】特開平01−162714号公報
【特許文献4】特開平05−70819号公報
【特許文献5】特開平07−82004号公報
【特許文献6】特開平10−280027号公報
【特許文献7】特開平11−209169号公報
【特許文献8】特開2003−261374公報
【特許文献9】実開昭57−154751号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
以上のような各従来技術があるにも関わらず、依然として、精錬用羽口れんがの耐用が向上していない。そこで本発明者らは、実炉における羽口れんがの損傷状況を仔細に検討解析した結果、特に、熱スポーリングによる損傷が大きく、熱スポーリングによって、一度に稼動面から数10mmないし100mmを超える範囲で損傷が生じていることがわかった。
【0013】
ここで、前述の特許文献8の構成は、羽口れんがと周囲れんがとの間に操業中に溶鉄が侵入する地金差しが起こり、これが羽口れんがのスポーリング損傷と関連することを見出した特許であるが、さらに仔細に検討した結果、本発明者らは、溶鉄が侵入しなくとも羽口れんがのスポーリング損傷が生じることを見出した。すなわち、特許文献8の構成では、羽口れんがと羽口周囲れんが群との間の隙間を無くしているが、実機においては、それが逆に羽口れんがを羽口周囲れんが群が拘束し、その大きな力により、羽口れんがに大きな応力が生じること、また、元々、羽口れんがには熱衝撃による大きな応力も生じており、それらが重畳することで、羽口れんがの損傷に拍車を掛けていることがわかった。さらには、羽口れんがと羽口周囲れんが群のカーボン量組合せが、特許文献8の構成には開示がなくとも、地金差しを生じさせない領域の存在することもわかった。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明による精錬炉用カーボン含有れんがは、精錬炉の底部に設けられ、精錬炉用ガスのガス通過孔を有するカーボン含有の羽口れんがと前記羽口れんがを囲むカーボン含有の羽口周囲れんが群からなる精錬炉用カーボン含有れんがにおいて、前記羽口れんが及び羽口周囲れんが群のカーボン含有量をそれぞれCt及びCbと表したとき、100質量%>Ct>0質量%及び100質量%>Cb>0質量%であって、以下の(1)式から求められるΔLが60を超え160以下であり、同時にCt<Cbを満たすCb及びCtの組み合わせからなる構成であり、また、カーボン含有量Ct及びCbが14.9質量%<Ct<22.5質量%かつ22.5質量%<Cb<27.5質量%である構成である。
ΔL=−225.921+15.951Ct+0.905Cb−0.304Ct+0.189Cb …(1)
【発明の効果】
【0015】
本発明による精錬炉用カーボン含有れんがは、以上のように構成されているため、次のような効果を得ることができる。
すなわち、羽口れんがに適用できるカーボン量と羽口周囲れんが群に適用できるカーボン量には最適な組み合わせがあり、その組み合わせを定量的に得ているため、これにより、羽口れんがと羽口周囲れんが群との間の隙間を適度に設定でき、羽口周囲れんが群による羽口れんがへの拘束力が制御され、さらには、隙間への地金差しによるスポーリング損傷も生じなくなり、羽口れんがの耐用が大幅に向上した。さらに、羽口れんがの耐用が大幅に向上したことにより、補修頻度の減少、羽口交換頻度の減少を実現でき、それに伴う精錬の稼働率向上に寄与できた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、転炉及び溶融還元炉等の溶融金属中に炉の底部よりガスを吹き込む羽口れんがとそれを囲む周囲れんが群の組合わせを最適にし、羽口れんがの耐スポーリング性を向上させるようにした精錬炉用カーボン含有れんがを提供することを目的とする。
【実施例】
【0017】
以下、図面と共に本発明による精錬炉用カーボン含有れんがの好適な実施の形態について説明する。
まず、本発明で用いられる羽口れんが1と羽口周囲れんが群10との区別を行う。図1から図6で示されるように、この羽口れんが1は内部にガス通過孔4を有し、一体的れんがである。一方、羽口周囲れんが群10は、前記羽口れんが1を取り囲むれんがの集合体であり、羽口れんが1及び羽口周囲れんが群10同士は物理的に区別できるれんがである。この羽口れんが1と羽口周囲れんが群10との間には目地が存在し、目地は空目地でもよく、あるいはマグネシア系、アルミナ系、マグクロ系等の各種材料からなるモルタル目地、その他通常の目地により、羽口れんがと羽口周囲れんがとは接合できるようになっている。
【0018】
本発明は、羽口れんが1のスポーリングによる損傷を抑制し、耐用性を向上させるために、羽口れんが1と羽口周囲れんが群10のカーボン含有量の組み合わせを規定することを目的にしている。その際、羽口周囲れんが群10が羽口れんが1を拘束する力を弱めることができるそれぞれのカーボン量の最適組み合わせを見出し、また、設定されたそれぞれのカーボン量によっても地金指しの侵入を抑制できるカーボン量の最適組み合わせを見出すことを目的としている。
【0019】
図1は単管型の羽口れんが1を稼動面側から見た断面図になっている。この断面形状が稼動面から背面に向かってほぼ続いている。従って、断面によってその特徴を示すことができる。なお、断面の外形は図では正方形になっているが、これは長方形・円形いずれでも良い。
図1は単管型の羽口れんが1である。図中の断熱層2はガスによるれんが部分の急冷却を抑制するために設けられるが、この層はあっても無くても良い。また、ガス通過孔4は空洞であっても、あるいは高通気率を持つ耐火材料によって充填されていてもよい。
【0020】
図2は多重管型の羽口れんが1である。複数のガス吹き管3が同心円を構成している。ここでは3重管の例を示した。
【0021】
図3は多管型の羽口れんが1である。ここでは9個のガス吹き管3を整列して図示したが、個数、配列は任意に選べる。
【0022】
図4は、羽口れんが1と羽口周囲れんが群10のカーボン量の組み合わせを示す、本特許を説明するための図で本特許からカーボン量の組み合わせを設定できる範囲は図中の一点鎖線領域Aであり、図中の点線で囲まれた領域Aは、本特許の中でも特に効果が得られる領域を示す。
【0023】
図5は、れんがを平行に並べた「平行積みの方法」によって築炉された炉底である。1個のれんがは図中の線で囲まれた最小領域で表した。この図は一例として、炉底の中央部は横方向に平行に並べ、図の上下部分は縦方向に平行に並べている。また、4本の羽口れんが1が設置されている。これら縦と横の位置関係は逆であっても良いし、羽口れんが1の設置位置、本数も任意に選べる。
【0024】
図6は、れんがが真円巻きの方法によって築炉された炉底である。図では、羽口れんが1は中央に1本あり、羽口れんが1の設置位置は、中央部以外に任意に選べる。例えば、円の中心を通る直線上に並べることもできる。
【0025】
図7は、れんがが網代(アジロ)積みの方法によって築炉された炉底である。図では、2本の羽口れんが1が設置されているが、任意の位置に設置できる。以上の3種類の築炉方法を互いに組み合わせて用いることもできる。例えば、炉底中央部は「平行積みの方法」でれんがを並べ、外周部を「真円巻きの方法」で巻くこともできる。
【0026】
以上の羽口れんが1及び羽口周囲れんが群10は、本発明の精錬炉用カーボン含有れんがに適用されるれんが構造の複数の形態を例示しているもので、羽口れんが1と羽口周囲れんが群10の組合わせであれば本発明では適用できる。
【0027】
次に、本発明による羽口れんが1及び羽口周囲れんが群10の実施例を表1、表2の第1表及び第2表に示す。第1表は本発明の実施例、第2表は比較である。第1、第2表中、羽口ライフは、使用回数(チャージ数)で羽口の損傷量(損傷長さ)を割った値(mm/ch)を求め、第2表中の比較品1を1にしたときのそれぞれの羽口ライフの程度を指数化した値である。指数の数字が大きいほど良好であることを示し、例えば、指数が2なら、比較品22に比べ2倍の耐用を示したことを表す。表より、本発明による羽口れんが1は比較品よりも2倍以上の耐用を示すことがわかる。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
従って、前述の実施例から明らかなように、精錬炉の底部に設けられ、精錬炉用ガスのガス通過孔を有するカーボン含有の羽口れんがと前記羽口れんがを囲むカーボン含有の羽口周囲れんが群からなる精錬炉用カーボン含有れんがにおいて、前記羽口れんが及び羽口周囲れんが群のカーボン含有量をそれぞれCt及びCbと表したとき、100質量%>Ct>0質量%及び100質量%>Cb>0質量%であって、以下の(1)式から求められる図4に示されるΔLが60を超え160以下であり、同時にCt<Cbを満たすCb及びCtの組み合わせである精錬炉用カーボン含有れんがが最適であることが判明した。
ΔL=−225.921+15.951Ct+0.905Cb−0.304Ct+0.189Cb …(1)
また、14.9質量%<Ct<22.5質量%かつ22.5質量%<Cb<27.5質量%である精錬炉用カーボン含有れんがが好適であることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明による精錬炉用カーボン含有れんがを適用した単管型羽口れんがを示す断面図である。
【図2】図1の他の形態である多重管型羽口れんがを示す断面図である。
【図3】図1の他の形態である多重管型羽口れんがを示す断面図である。
【図4】本発明における羽口れんがと羽口周囲れんが群の各カーボン量を示す特性図である。
【図5】本発明における羽口れんがと羽口周囲れんが群による炉底を示す平面図である。
【図6】図5の他の形態を示す平面図である。
【図7】図5の他の形態を示す平面図である。
【符号の説明】
【0032】
1 羽口れんが
2 断熱層
3 ガス吹き管
4 ガス通過孔
10 羽口周囲れんが群

【特許請求の範囲】
【請求項1】
精錬炉の底部に設けられ、精錬炉用ガスのガス通過孔を有するカーボン含有の羽口れんが(1)と前記羽口れんが(1)を囲むカーボン含有の羽口周囲れんが群(10)からなる精錬炉用カーボン含有れんがにおいて、前記羽口れんが(1)及び羽口周囲れんが群(10)のカーボン含有量をそれぞれCt及びCbと表したとき、100質量%>Ct>0質量%及び100質量%>Cb>0質量%であって、以下の(1)式から求められるΔLが60を超え160以下であり、同時にCt<Cbを満たすCb及びCtの組み合わせよりなることを特徴とする精錬炉用カーボン含有れんが。
ΔL=−225.921+15.951Ct+0.905Cb−0.304Ct+0.189Cb …(1)
【請求項2】
前記羽口れんが(1)のカーボン含有量(Ct)及び前記羽口周囲れんが群(10)のカーボン含有量(Cb)は、14.9質量%<Ct<22.5質量%かつ22.5質量%<Cb<27.5質量%であることを特徴とする請求項1記載の精錬炉用カーボン含有れんが。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−1186(P2010−1186A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−161436(P2008−161436)
【出願日】平成20年6月20日(2008.6.20)
【出願人】(000001971)品川リフラクトリーズ株式会社 (112)
【Fターム(参考)】