説明

糖尿病患者の動脈硬化性疾患の罹患リスクを判定する方法、およびそれに使用する検査薬

【課題】糖尿病患者における動脈硬化性疾患の発生危険性に関連する遺伝子並びに遺伝子多型を提供し、さらにこの情報、特に酸化促進アレルの数をもとにして個々の糖尿病患者について動脈硬化性疾患、特にアテローム性動脈硬化症および心筋梗塞を発症する潜在的危険度(罹患リスク)を判定するための方法を提供する。また当該方法を簡便に実施するために有用な試薬および試薬キットを提供する。
【解決手段】糖尿病患者の生体試料を対象として、(1) GCLM遺伝子の-588位の遺伝子多型(GCLM C-588T)、(2) MPO遺伝子の-463位の遺伝子多型(MPO G-463A)、(3) PON1遺伝子の遺伝子多型(PON 1 Gln192Arg)、(4)CYBA遺伝子の242位の遺伝子多型(CYBA C242T)を検出して、これらの酸化促進アレルの保有数に基づいて、動脈硬化性疾患の罹患の高低を判断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糖尿病患者固有の遺伝情報に基づいて、アテローム性動脈硬化症や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患を発症する潜在的危険度を判定するための方法、およびその判定に使用する検査薬に関する。
【0002】
本発明の方法によれば、糖尿病患者について、アテローム性動脈硬化症や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患を発症する潜在的危険度を予め判定することができ、その危険度に応じて、個々の患者に対して有効且つ的確な治療方法を選択し、施すことが可能になる。
【背景技術】
【0003】
動脈硬化性疾患や心筋梗塞などの動脈硬化性疾患(虚血性心疾患)の発症には、高血圧、糖尿病、高脂血症および肥満などの臨床的所見、並びに喫煙などの環境要件が、危険因子として関係することが知られているが、家族歴(遺伝的背景)もまた危険因子の一つである。これらの疾患は多因子の疾患であり、危険因子として多数の遺伝子と環境要件が相互に関係しているものと考えられている。近年の分子生物学的手法の発展により、こうした動脈硬化性疾患に関係する種々の遺伝子多型が明らかになっており、疾病への関与が研究されている。
【0004】
かかる動脈硬化性疾患について、被験者が有する個々の疾患に関与する遺伝子多型の遺伝子型の情報に基づいて、当該被験者について疾患のなりやすさや進行しやすさ等のいわゆる「罹患リスク」が判定できれば、疾患の発症を予防したり進行を抑えるための事前対策が可能となる。すなわち、その罹患リスクが高いと判定された被験者は、早期に日常から疾病の予防に心がけることができる。また、疾患の発症の可能性や発症後の進行度なども予測することもでき、被験者に応じてよりきめ細かな診断や治療が可能となる。また、被験者の現在の罹患リスクを分かり易く提示することができれば、被験者本人の自覚を促し、医師、看護師による診断・治療を効率的且つ有効なものとすることができる。
【0005】
動脈硬化性疾患を始めとする各種の疾患に関して、これまで報告されてきたSNPを含む遺伝子多型の臨床関連研究においては、単一の遺伝子多型を調べて、該遺伝子多型について一の遺伝子型の集団と、他の遺伝子型の集団とにおいて、それぞれ患者と健常者との割合を調べることにより、疾患になりやすさのオッズ比を算出することによって行われている(非特許文献1)。しかし、ほとんどの遺伝子多型は有意差がなく、遺伝子多型から疾患のなりやすさや進行しやすさ等の疾患危険度を的確に予測することは難しい。
【0006】
下記の非特許文献2は、アテローム性動脈硬化症に関する総評である。また非特許文献3には、アテローム性動脈硬化症に対する感受性に関与する遺伝子座の位置的マッピングが記載されている。さらに特許文献1には、頸動脈の内膜中膜肥厚度との間に有意な正の関連性を有する複数の遺伝子多型を組み合わせることで、動脈硬化性疾患を判定することができることが記載されている。また、特許文献1の国際調査で挙げられた文献(非特許文献4〜8)はいずれも頚動脈の内膜中膜肥厚度との間に有意な正の関連性を有する遺伝子多型について言及している文献である。
【0007】
また心筋梗塞に関連する遺伝子として、従来、アンギオテンシン変換酵素(非特許文献9)、血小板糖タンパクIIIa(非特許文献10)、第7血液凝固因子、コレステロールエステル移送タンパク(非特許文献11)、リンホトキシンα遺伝子(LTA遺伝子)、NFKBIL1遺伝子およびBAT1遺伝子(以上、非特許文献12)、ヒトプロスタサイクリン合成酵素遺伝子(特許文献2)、コネキシン37遺伝子、腫瘍壊死因子α因子遺伝子、NADH/NADPHオキシダーゼp22フォックス遺伝子、アポリポプロテインE遺伝子、アポリポプロテインC-III遺伝子、血小板活性因子アセチルヒドラーゼ遺伝子、トロンボスポンジン4遺伝子、及びインターロイキン10遺伝子(以上、特許文献3)が同定され、その遺伝子多型と心筋梗塞との関連が報告されている。
【0008】
しかしなから、酸化ストレスに関連する遺伝子の遺伝子多型に注目し、その酸化促進アレルと動脈硬化性疾患の罹患リスクとの関係、特に糖尿病患者における酸化促進アレルの保有数と上記疾患の罹患リスクとの関係については知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2003/087360
【特許文献2】特開2002-136291号公報
【特許文献3】特開2004-24036号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Yamada Y, Izawa H, Ichihara S, Takatsu F, Ishihara H, Hirayama H, Sone T, Tanaka M, Yokota M. Prediction of the risk of myocardial infarction from polymorphisms in candidate genes.N.Engl.J.Med. 2002; 347(24): 1916-1923
【非特許文献2】Lusis, Nature 407 (2002) 233-241
【非特許文献3】Mehrabian et al., Circ Res. 89 (2001) 125-130
【非特許文献4】Rauramaa R, et al., Arterioscler Thromb Vasc Biol. 2000 Dec,vol.20, no.12, p.2657-2662
【非特許文献5】Chapman CM, et al., Arteriosclerosis. 2001 Nov, vol.159, no.1, p.209-217
【非特許文献6】McQuillan BM, et al., Circulation. 1999 May 11, vol.99, no.18, p.2383-2388
【非特許文献7】Terry JG, et al., Stroke. 1996 Oct. vol.27, no.10, p.1755-1759
【非特許文献8】Castellano M, et al, Circulation. 1995 Jun 1, vol.91, no.11, p.2721-2724)
【非特許文献9】Cambien F, et al., Nature 1992, 359, 641-644
【非特許文献10】Weiss EJ, et al., N Engl J Med 1996, 334, 1090-1094
【非特許文献11】Kuiven hoven JA, et al., N Engl J Med 1998, 338, 86-93
【非特許文献12】Ozaki,K., et al: Nature Genet 32, 650-654 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、糖尿病患者について動脈硬化性疾患、特にアテローム性動脈硬化症や心筋梗塞といった動脈硬化性疾患を発症する潜在的危険性(動脈硬化性疾患罹患リスク)に関連する遺伝子、並びに当該罹患リスクの判定指標となる遺伝子多型およびアレルを提供し、この情報をもとにして糖尿病患者について動脈硬化性疾患を発症する潜在的危険度(罹患リスク)を判定する方法を提供することを目的とする。また本発明の目的は、当該方法を簡便に実施するために有用な検査薬および検査薬キットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討を進めていたところ、酸化ストレスの制御に重要な役割を果たすことが知られている酵素:glutamate-cysteine ligase modifier subunit(以下、単に「GCLM」という)遺伝子の遺伝子多型(GCLM C-588T)が、糖尿病患者における動脈硬化性疾患の罹患リスクに深く関係していること、およびそのリスクは、糖尿病患者が保有するその酸化促進アレル(-588位のTアレル)(GCLM -588T)の数に応じて増加することを見出した(実験例1(2)、実験例2(1)(1-2))。また本発明者らは、この知見をもとに、GCLM遺伝子と同様に酸化ストレスの制御にかかわっているとされる酵素の遺伝子(myeloperoxidase(MPO)遺伝子、human paraoxonase 1(PON1)遺伝子、NAD(P)H oxidase p22phox(CYBA)遺伝子)の遺伝子多型(MPO G-463A、PON1 Gln192Arg、CYBA C242T)と、糖尿病患者における動脈硬化性疾患の罹患リスクとの関係を調べたところ、糖尿病患者が保有するこれらの酸化促進アレル(「MPO -463G」、「PON1 192Gln」、「CYBA 242C」)の総数、ならびにこれにGCLM遺伝子の酸化促進アレル(GCLM -588T)の保有数を加えた総数が、糖尿病患者における動脈硬化性疾患の罹患リスクに深く関係しており、その保有総数に応じて罹患リスクが増加することを見出した(実験例2および3)。
【0013】
以上の知見から、本発明者らは、糖尿病患者についてGCLM遺伝子の-588位の遺伝子型を検出することにより、また糖尿病患者について上記3種または4種の酸化ストレス関連遺伝子の酸化促進アレル(「GCLM -588T」、「MPO -463G」、「PON1 192Gln」、「CYBA 242C」)の保有総数を測定することにより、動脈硬化性疾患、特にアテローム性動脈硬化症や心筋梗塞を発症する潜在的な危険度を、高い確率で予測し判定することができると考えて、本発明を完成するにいたった。
【0014】
すなわち、本発明は、下記の態様を有するものである。
(I)動脈硬化性疾患罹患リスクの判定方法
(I-1)下記の工程を含む、糖尿病患者について動脈硬化性疾患の罹患リスクを判定する方法:
(a)糖尿病患者の生体試料を対象として、GCLM遺伝子の-588位の遺伝子多型(GCLM C-588T)を検出する工程、および
(b)上記GCLM遺伝子の-588位の遺伝子多型(GCLM C-588T)を識別する工程。
【0015】
(I-2)さらに下記の工程(c)を含む、(I-1)記載の判定方法:
(c)GCLM遺伝子の-588位の遺伝子多型(GCLM C-588T)がC/Cアレル型の場合に罹患リスクが低く、C/Tアレル型またはT/Tアレル型の場合に、Tアレルの数の多さに応じて罹患リスクが高いと判定する工程。
【0016】
(I-3)下記の工程(A)及び(B)を含む、糖尿病患者について動脈硬化性疾患の罹患リスクを判定する方法:
(A)糖尿病患者の生体試料を対象として、下記(1)〜(4)の遺伝子の全遺伝子多型を検出する工程:
(1) GCLM遺伝子の-588位の遺伝子多型(GCLM C-588T)、
(2) MPO遺伝子の-463位の遺伝子多型(MPO G-463A)、
(3) PON 1遺伝子の遺伝子多型(PON 1 Gln192Arg)、
(4) CYBA遺伝子の242位の遺伝子多型(CYBA C242T)、および
(B)上記(1)〜(4)の遺伝子の全遺伝子多型を識別する工程。
【0017】
(I-4)さらに下記の工程(C)を含む、(I-3)記載の判定方法:
(C)各糖尿病患者について(B)工程で得られた (1)〜(4)または(2)〜(4)の遺伝子の遺伝子多型から酸化促進アレルの数を合計し、(1)〜(4)の遺伝子多型の酸化促進アレルの総数、または(2)〜(4)の遺伝子多型の酸化促進アレルの総数の多さに応じて動脈硬化性疾患の罹患リスクが高いと判定する工程。
【0018】
(I-5)(1)〜(4)の遺伝子多型の酸化促進アレルの総数、または(2)〜(4)の遺伝子多型の酸化促進アレルの総数が5以上の場合を動脈硬化性疾患の罹患リスクが高いと判定する、(I-4)に記載する判定方法。
【0019】
(I-6)さらに下記の工程(C)を含む、(I-3)記載の判定方法:
(C)各糖尿病患者について(B)工程で得られた (1)〜(4)の遺伝子の遺伝子多型から酸化促進アレルの数を合計し、(1)〜(4)の遺伝子多型の酸化促進アレルの総数が5以上の場合を動脈硬化性疾患の罹患リスクが高いと判定する工程。
【0020】
(I-7)動脈硬化性疾患がアテローム性動脈硬化症である(I-1)乃至(I-5)のいずれか記載する判定方法。
【0021】
(I-8)動脈硬化性疾患が心筋梗塞である(I-6)に記載する判定方法。
【0022】
(II)動脈硬化性疾患罹患リスクを判定するための検査薬および検査薬キット
(II-1)下記(i)に記載するプライマーまたは(ii)に記載するプローブのいずれか少なくとも一方を含む、糖尿病患者について動脈硬化性疾患の罹患リスクを判定するための検査薬:
(i) GCLM遺伝子を含む第1染色体(1p22.1)の塩基配列において、GCLM遺伝子の-588番目に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズし、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドを特異的に増幅するために用いられる15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物からなるプライマー、
(ii) GCLM遺伝子を含む第1染色体(1p22.1)の塩基配列において、GCLM遣伝子の-588番目に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴ若しくはポリヌクレオチドまたはその標識物からなる固相に固定されていてもよいプローブ。
【0023】
(II-2)下記(i-1)〜(i-4)に記載するプライマー、または(ii-1)〜(ii-4)に記載するプローブのいずれか少なくとも一方を含む、糖尿病患者について動脈硬化性疾患の罹患リスクを判定するための検査薬:
(i-1)GCLM遺伝子を含むヒト第1染色体(1p22.1)の塩基配列において、GCLM遺伝子の-588番目に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズし、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドを特異的に増幅するために用いられる15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物からなるプライマー、
(i-2)MPO遺伝子を含むヒト第17染色体(17q23.1)の塩基配列において、MPO遺伝子の-463番目に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズし、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドを特異的に増幅するために用いられる15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物からなるプライマー、
(i-3)PON1遺伝子を含むヒト第7染色体(7q21.3)の塩基配列において、(PON1)遺伝子の672番目に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズし、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドを特異的に増幅するために用いられる15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物からなるプライマー、
(i-4)CYBA遺伝子を含むヒト第16染色体(16q24)の塩基配列において、CYBA遺伝子の242番目に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズし、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドを特異的に増幅するために用いられる15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物からなるプライマー、
(ii-1) GCLM遺伝子を含むヒト第1染色体(1p22.1)塩基配列において、GCLM遺伝子の-588番目に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴ若しくはポリヌクレオチドまたはその標識物からなる固相に固定されていてもよいプローブ、
(ii-2)MPO遺伝子を含むヒト第17染色体(17q23.1)の塩基配列において、MPO遺伝子の-463番目に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴ若しくはポリヌクレオチドまたはその標識物からなる固相に固定されていてもよいプローブ、
(ii-3)PON 1遺伝子を含むヒト第7染色体(7q21.3)の塩基配列において、PON 1遺伝子の672番目に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴ若しくはポリヌクレオチドまたはその標識物からなる固相に固定されていてもよいプローブ、
(ii-4)NAD(P)H oxidase p22phox(CYBA)遺伝子を含むヒト第16染色体(16q24)の塩基配列において、CYBA遺伝子の242番目に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴ若しくはポリヌクレオチドまたはその標識物からなる固相に固定されていてもよいプローブ、
(II-3)動脈硬化性疾患がアテローム性動脈硬化症または心筋梗塞である、(II-1)または(II-2)に記載する検査薬。
【0024】
(II-4)(II-1)または(II-2)に記載するプライマーとプローブとを、それぞれ別個の包装形態で含む、糖尿病患者について動脈硬化性疾患の罹患リスクを判定するための検査薬キット。
【0025】
(II-5)動脈硬化性疾患がアテローム性動脈硬化症または心筋梗塞である、(II-4)に記載する検査薬キット。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、糖尿病患者について、酸化ストレス関連遺伝子であるGCLM遺伝子を対象として、その-588位に位置する遺伝子型を測定することにより、その酸化促進アレル(-599位のTアレル)(GCLM -588T)の総数に基づいて、当該患者の動脈硬化性疾患、特にアテローム性動脈硬化症を発症する潜在的危険度(罹患リスク)の高低を判定することができる。その結果、当該酸化促進アレル(GCLM -588T)を有するか、または当該酸化促進アレル数の多い糖尿病患者に対しては、動脈硬化性疾患の罹患リスクが高い患者であるとして、選択的に有効且つ適切な動脈硬化性疾患発症予防対策を施すことができる。
【0027】
また、本発明によれば、糖尿病患者について、酸化ストレス関連遺伝子である(1)GCLM遺伝子の遺伝子多型(GCLM C-588T)、(2) MPO遺伝子の遺伝子多型(MPO G-463A)、(3)PON 1遺伝子の遺伝子多型(PON 1 Gln192Arg)、および(4) CYBA遺伝子の遺伝子多型(CYBA C242T)を測定することにより、その酸化促進アレル((1)「 GCLM -588T」、(2)「MPO -463G」、(3)「PON1 192Gln」、および(4) 「CYBA 242C」)の総数、または(2)〜(4)の総数に基づいて、当該患者の動脈硬化性疾患、特にアテローム性動脈硬化症や心筋梗塞を発症する潜在的危険度(罹患リスク)の高低を判定することができる。その結果、これらの酸化促進アレル数の多い患者に対しては、動脈硬化性疾患の罹患リスクが高い患者であるとして、選択的に有効且つ適切な発症予防対策を施すことができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】酸化ストレス関連遺伝子(glutamate-cysteine ligase modifier subunit(GCLM)遺伝子)の酸化促進アレル(GCLM -588T)の数に応じて3つの遺伝子型群(C/C型、C/T型、T/T型)に分けた被験者の特性と臨床所見を示す図である。
【図2】酸化ストレス関連遺伝子(myeloperoxidase(MPO)遺伝子)の酸化促進アレル(MPO -463G)の数に応じて3つの遺伝子型群(G/G型、G/A型、A/A型)に分けた被験者の特性と臨床所見を示す図である。
【図3】酸化ストレス関連遺伝子(human paraoxonase 1(PON1)遺伝子)の酸化促進アレル(PON1 192Gln)の数に応じて3つの遺伝子型群(Arg/Arg型、Gln/Arg型、GlnAGln型)に分けた被験者の特性と臨床所見を示す図である。
【図4】酸化ストレス関連遺伝子(NAD(P)H oxidase p22phox(CYBA)遺伝子)の酸化促進アレル(CYBA 242C)の数に応じて3つの遺伝子型群(C/C型、C/T型、T/T型)に分けた被験者の特性と臨床所見を示す図である。
【図5】心血管系疾患の危険因子とAveIMTとの関係を纏めた図である。
【図6】被験者の酸化促進アレル総数とAveIMT(mm)との関係を示した図である。結果は「平均値±SD」で示す(*:p<0.05、Tukey-Kramer’s検定後、一方向ANOVAを実施)
【図7】被験者の酸化促進アレル総数と血清8OHdGレベル(ng/ml)との関係を示した図である。結果は「平均値±SD」で示す (p for trend=0.0074)。
【発明を実施するための形態】
【0029】
1.本発明で使用する用語の定義
本明細書における塩基配列(ヌクレオチド配列)、核酸などの略号による表示は、IUPAC−IUBの規定〔IUPAc-IUB communication on Biological Nomenclature, Eur. J. Biochem., 138; 9 (1984)〕、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作製のためのガイドライン」(特許庁編)及び当該分野における慣用記号に従うものとする。
【0030】
本明細書中において「遺伝子」は、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、及び1本鎖DNA(センス鎖)、並びに当該センス鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(アンチセンス鎖)、及びそれらの断片のいずれもが含まれる、また、本明細書で「遺伝子」とは、特に言及しない限り、調節領域、コード領域、エクソン、及びイントロンを区別することなく示すものとする。
【0031】
なお、本明細書に記載するglutamate-cysteine ligase modifier subunit(GCLM)遺伝子、myeloperoxidase(MPO)遺伝子、human paraoxonase 1(PON1)遺伝子、NAD(P)H oxidase p22phox(CYBA)遺伝子の配列や位置情報は、いずれも米国のNCBI(the National Center for Biotechnology Information)のデータベースに基づく。
【0032】
また、本明細書中において、「ヌクレオチド」、「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」は、核酸と同義であって、DNAおよびRNAの両方を含むものとする。また、これらは2本鎖であっても1本鎖であってもよく、ある配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」、「ポリヌクレオチド」)といった場合、特に言及しない限り、これに相補的な配列を有する「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)も包括的に意味するものとする。さらに、「ヌクレオチド」(または「オリゴヌクレオチド」及び「ポリヌクレオチド」)がRNAである場合、配列表に示される塩基記号「T」は「U」と読み替えられるものとする。
【0033】
本明細書において「遺伝子多型」とは、2つ以上の遺伝的に決定された対立遺伝子がある場合にそれらの対立遺伝子を指す。具体的には、ヒトの集団において、ある一個体のゲノム配列を基準として、他の1または複数の個体ゲノム中の特定部位に、1又は複数のヌクレオチドの置換、欠失、挿入、転移、逆位などの変異が存在するとき、その変異が当該1または複数の個体に生じた突然変異でないことが統計学的に確実か、または当該個体内特異変異でなく、1%以上の頻度で集団内に存在することが家系的に証明される場合、その変異を「遺伝子多型」とする。本明細書で用いる「遺伝子多型」の意味には、単一のヌクレオチドの変化によって引き起こされる多型であるいわゆる1塩基多型〔Single Nucleotide Polymorphism:SNP(又はSNPs)〕が含まれる。「一塩基多型」とは、単一の核酸の変化によって引き起こされる多型である。多型は選択された集団の1%より大きな頻度、好ましくは10%以上の頻度で存在する。
【0034】
本発明において、例えば「GCLM C-588T」などで示す遺伝子多型の表記は、当該GCLM遺伝子の-588位の塩基が、Cであるか、またはTである遺伝子多型が存在することを意味する。またMPO遺伝子およびCYBA遺伝子も同様に、「MPO G-463A」とは当該MPOM遺伝子の-463位に、塩基がGであるか、またはAである遺伝子多型が存在すること、および「CYBA C242T」とは当該CYBA遺伝子の242位に、塩基がCであるか、またはTである遺伝子多型が存在することを意味する。なお、ここで、「-588」、「-463」および「242」は、それぞれGCLM遺伝子、MPO遺伝子およびCYBA遺伝子の転写開始点(エクソン1の先頭の塩基配列)を+1とした場合に、当該転写開始点から上流588番目(-588)、上流463番目(-463)および下流242番目(242)の塩基を意味する。
【0035】
また、本発明において、「PON1 Gln192Arg」といった遺伝子多型の表記は、PON1遺伝子について、その産生産物であるPON1(蛋白質)のアミノ酸配列の192番目のアミノ酸を、Glnとするか、またはArgとする、遺伝子多型が存在することを意味する。当該192番目のアミノ酸をGlnとするPON1遺伝子はその672位の塩基がAであり、192番目のアミノ酸をArgとするPON1遺伝子はその672位の塩基がGである。
【0036】
本発明において「遺伝子型を検出する」または「遺伝子型を判定する」とは、解析対象の糖尿病患者のGCLM遺伝子、MPO遺伝子、PON1遺伝子、またはCYBA遺伝子が、その遺伝子多型(「GCLM C-588T」、「MPO G-463A」、「PON1 Gln192Arg」、「CYBA C242T」)においてどのような遺伝子型(アレル型)を有するかを調べることを意味する。
【0037】
本発明において「動脈硬化性疾患」とは、動脈硬化症、特にアテローム性動脈硬化症、およびこれに起因して生じる疾患を意味する。特に好ましくは糖尿病に起因して発症するこれらの動脈硬化性疾患である。動脈硬化症によって生じる疾患としては、具体的には動脈硬化症によって生じる血管の狭窄、閉塞、動脈瘤、解離または破裂によって、組織や臓器全体に血行障害を引き起こす疾患であり、例えば、心筋梗塞や狭心症等の虚血性心疾患:脳梗塞や脳出血:大動脈瘤や大動脈解離:腎硬化症やそれによる腎不全:閉塞性動脈硬化症を挙げることができる。「動脈硬化性疾患」として好ましくは、アテローム性動脈硬化症、および心筋梗塞等の虚血性心疾患である。
【0038】
「動脈硬化性疾患の罹患リスク」とは、上記動脈硬化性疾患を発症する潜在的危険度、または進行しやすさを表す指標である。なお「アテローム性動脈硬化症」は上記の動脈硬化性疾患の一種であるが、本明細書において「動脈硬化症の罹患リスク」とは動脈硬化性疾患の中でも特に上記アテローム性動脈硬化症に注目して、その発症危険度や進行危険度を表す指標を意味する。「心筋梗塞」もまた上記の動脈硬化性疾患の一種であるが、本明細書において「心筋梗塞の罹患リスク」とは動脈硬化性疾患の中でも特に心筋梗塞に注目して、その発症危険度や進行危険度を表す指標を意味する。
【0039】
本明細書においてアテローム性動脈硬化症の診断に使用する「頸動脈の内膜中膜肥厚度(IMT)」は、当業界において当該疾患の判定指標として汎用されているものである(Y. Yamasaki, et al., Diabetes, 43 (1994) 634-639)。かかる頸動脈の肥厚度を計測する方法としては、特に制限はないが、超音波断層装置による測定が一般的である。当該方法は、超音波的に到達可能な頸動脈の肥厚度を計測する無侵襲かつ定量的計測法である。前記超音波断層装置は、7.5MHz以上の中心周波数のリニア型パルスエコープローブを有するものを使用することが望ましい。頭蓋外頸動脈は皮下浅層に存在するため、7.5MHz以上の周波数のものが使用可能で、高解像度(距離分解能0.1mm)を得ることができる。但し、これは一例である。
【0040】
一方、心筋梗塞の診断は、臨床記録(心筋梗塞の既往の有無、30分以上持続する胸痛)、特徴的な心電図変化(心電図上の陳旧性(abnormal Q)心筋梗塞波形の有無)、冠動脈造影と心エコー検査での所見に基づいて行うことができる。
【0041】
本明細書において「酸化ストレス関連遺伝子」とは、酸化ストレスの制御に重要な役割を果たしていることが報告されている酵素の遺伝子を意味し、具体的には(1) glutamate-cysteine ligase modifier subunit(GCLM)遺伝子、(2) myeloperoxidase(MPO)遺伝子、(3) human paraoxonase 1(PON1)遺伝子、および(4) NAD(P)H oxidase p22phox(CYBA)遺伝子を挙げることができる。
【0042】
また本発明において「酸化促進アレル」とは、上記(1)〜(4)の酸化ストレス関連遺伝子が有する遺伝子多型(SNP)において酸化促進に寄与するアレルを意味する。GCLM遺伝子の酸化促進アレルとしては、GCLM遺伝子の5’フランキング領域にあるC-588T遺伝子多型(rs41303970)の-588Tアレルを;MPO遺伝子の酸化促進アレルとしては、MPO遺伝子のSP1転写因子結合部位にあるG-463A遺伝子多型(rs2333227)の-463Gアレルを;また、 CYBA遺伝子の酸化促進アレルとしては、C242T遺伝子多型(rs4673)の242Cアレルをそれぞれ挙げることができる。なお、PON1遺伝子の遺伝子多型(rs662)は、672位の塩基がA(normal)からG(variant)に変異することによって、コードされるPON1(蛋白質)のアミノ酸配列の192番目がGlnからArgに変異する。このため、当該遺伝子の遺伝子多型は「Gln192Arg」と称される。かかる遺伝子多型の酸化促進アレルは192Glnである。
【0043】
2.動脈硬化性疾患に関係する酸化ストレス関連遺伝子およびその酸化促進アレル
「酸化ストレス関連遺伝子」とは、前述するように、酸化ストレスの制御に重要な役割を果たしていることが報告されている酵素の遺伝子を意味し、本発明では、(1) glutamate-cysteine ligase modifier subunit遺伝子(GCLM遺伝子)、(2) myeloperoxidase遺伝子(MPO遺伝子)、(3) human paraoxonase 1遺伝子(PON1遺伝子)、および(4) NAD(P)H oxidase p22phox遺伝子(CYBA遺伝子)を挙げることができる。いずれもヒトの遺伝子である。
【0044】
(1) GCLM遺伝子およびその酸化促進アレル
グルタチオン(GSH)は、血管細胞を含むほぼ全ての哺乳類の細胞における主要な抗酸化剤であり、細胞内の酸化還元状態の制御に主要な役割を果たし、細胞を酸化損傷から保護する役目を担う。グルタチオン−システイン・リガーゼ(GCL)は、当該グルタチオン合成の律速酵素であり、触媒サブユニット(GCLC)と調節サブユニット(GCLM)のヘテロダイマーからなっている(A. Meister, et al., Glutathione, Annu Rev Biochem. 52 (1983) 711-760; H. R. Minova, et al., An electrophile responsive element (EpRE) regulates gannma-naphthoflavone induction of the human gannma-glutamylcysteine synthetase regulatory subunit gene, J Biol Chem. 273 (1998) 14683-14689)。
【0045】
本発明で対象とするGCLM遺伝子(Homo sapient)は、上記グルタチオン−システイン・リガーゼの調節サブユニット(GCLM)の遺伝子である。当該GCLM遺伝子は、ヒト第1染色体(Genbank Accession No.NC_000001)上の1p22.1遺伝座の64324508〜64346930領域にある22423bpの遺伝子(Genbank Accession No.NG_012072.1)である。
【0046】
GCLM遺伝子の5’フランキング領域にあるC-588T遺伝子多型(rs41303970)の-588Tアレルは、酸化促進アレルとして機能し、GCLM遺伝子の発現上昇を抑制する結果、血液中のGSHの濃度が低いレベルに維持される(S. Nakamura, et al., Polymorphism in the 5'-flanking region of human Glutamate-cysteine ligase modifier subunit gene is associated with myocardial infarction, Circulation. 105 (2002) 2968-2973)。
【0047】
(2) MPO遺伝子およびその酸化促進アレル
Myeloperoxidase(MPO)は、好中球と単球に存在するリソソーム酵素であり、強い酸化剤である
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を産生する(A.Daugherty, J. L. et al., Myeloperoxidase, a catalyst for lipoprotein oxidation is expressed in human atherosclerotic lesions, J Clin Invest. 94 (1994) 437-444)。
【0048】
上記酵素(MPO)の遺伝子に相当するMPO遺伝子(Homo sapient)は、ヒト第17染色体(Genbank Accession No.NC_000017)上の17q23.1遺伝座の21621369〜21632448領域にある11080bpの遺伝子(Genbank Accession No.NG_009629.1)である。
【0049】
MPO遺伝子のSP1転写因子結合部位にあるG-463A遺伝子多型(rs2333227)の-463Gアレルは、MPO発現上昇と相関すると報告されている(F. J. Piedrafita, et al., An Alu element in the myeloperoxidase promoter contains a composite SP1-thyroid hormone-retinoic acid response element, J Biol Chem. 271 (1996) 14412-14420; W. F. Reynolds, et al., An allelic association implicates myeloperoxidase in the etiology of acute promyelocytic leukemia, Blood. 90 (1997) 2730-2737)。このため、-463Gアレルは酸化促進アレルとして位置づけられている。
【0050】
(3) PON1遺伝子およびその酸化促進アレル
本発明で対象とするPON1遺伝子(Homo sapient)は、ヒト第7染色体(Genbank Accession No.NC_000007)上の7q21.3遺伝座の5001〜31216領域にある26216bpの遺伝子(Genbank Accession No.NG_008779.1)である。
【0051】
かかる遺伝子の産生タンパクであるヒトparaoxonase(PON1)(NP_0000437.3)(355 aa)は、広範囲の基質を加水分解するカルシウム依存性エステラーゼであり、特定の酸化された脂質を加水分解することから、アテローム性動脈硬化性病変中の酸化ストレスを減少させることが知られている(M. Aviram, et al., Human serum paraoxonases (PON1) Q and R selectively decrease lipid peroxides in coronary and carotid atherosclerotic lesions: PON1 esterase and peroxidase-like activities, Circulation. 101 (2000) 2510-2517)。当該酵素のアミノ酸配列の192番目がGlnである酵素とArgである酵素では酵素活性が異なり、192番目がGlnである酵素(192Gln)は低活性のアイソフォームで、192番目がArgある酵素(192Arg)は高活性のアイソフォームであるといわれている(R. Humbert, et al.,The molecular basis of the human serum paraoxonase activity polymorphism, Nat Genet 3 (1993) 73-76; T. Bhattacharyya, et al., Relationship of paraoxonase 1 (PON1) gene polymorphisms and functional activity with systemic oxidative stress and cardiovascular risk, JAMA. 299 (2008) 1265-1276)。
【0052】
また、192ArgアレルによりHDL、LDL、脂肪酸の酸化の開始が有意に遅延されるとの報告から(K. Kuremoto, et al., R/R genotype of human paraoxonase (PON1) is more protective against lipoprotein oxidation and coronary artery disease in Japanese subjects, J Atheroscler Thromb. 10 (2003) 85-92)、PON1遺伝子において、192Glnアレルは酸化促進アレルと位置づけられている。なおPON1遺伝子のmRNA(NM_0000446)領域の塩基配列(1769bp)において575番目の塩基A(コドンcag)がG(コドンcgg)になることで、産生されるタンパク質(PON1)のアミノ酸配列の192番目のアミノ酸がGlnからArgに変異する。
【0053】
(4) CYBA遺伝子およびその酸化促進アレル
本発明で対象とするCYBA遺伝子(Homo sapient)は、ヒト第16染色体(Genbank Accession No.NC_000016)上の16q24遺伝座の5001〜12761領域にある7761bpの遺伝子(Genbank Accession No.NG_007291.1)である。
【0054】
NAD(P)Hオキシダーゼ(NADH/NADPH oxidase)は、血管平滑筋細胞と血管内皮細胞においてスーパーオキシド産生の主要供給源であり、マルチサブユニットの酵素複合体である。そして、そのp22phoxサブユニットは、平滑筋細胞でのオキシダーゼ活性に必須の構成部分である(H. Azumi, et al., Expression of NADH/NADPH oxidase p22phox in human coronary arteries, Circulation.100 (1999) 1494-1498)。
【0055】
NAD(P)H oxidase p22phox遺伝子(CYBA遺伝子)上のC242T遺伝子多型(rs4673)におけるC→Tの変異によって、NAD(P)H oxidaseの72番目のチロシン(Tyr)がヒスチジン(His)に置換され、これによって酵素活性の調節が行われている。かかる遺伝子多型(rs4673)における242Tアレルと、血管のNAD(P)Hオキシダーゼの活性とスーパーオキシド産生の減少との間に有意な相関関係があることから(T. J. Guzik, et al.,Functional effect of the C242T polymorphism in the NAD(P)H oxidase p22phox gene on vascular superoxide production in atherosclerosis, Circulation. 102 (2000) 1744-1747)、242Cアレルが酸化促進アレルとして位置づけられている。
【0056】
(5)動脈硬化性疾患に関係する酸化促進アレル
後述する実験例1(2)および(6)並びに実験例2(1)(1-2)から、糖尿病患者において、GCLM遺伝子の遺伝子多型(GCLM C-588T)の酸化促進アレル(-588T)の保有数が増えるにつれて(C/C遺伝子型 < C/T遺伝子型 < T/T遺伝子型)、頸動脈の内膜中膜肥厚度(AveIMT)も同様に高い値を示すことが判明した(図1および図5参照)。被験者におけるAveIMTは、動脈硬化性疾患、特にアテローム性動脈硬化症の指標として当業界で汎用されているものであることから、上記の結果は、糖尿病患者において、上記酸化促進アレル(GCLM -588T)の保有数は、動脈硬化性疾患、特にアテローム性動脈硬化症の罹患リスクと有意に相関していることを意味する。
【0057】
すなわち、糖尿病患者、特に2型糖尿病患者において、酸化促進アレル(GCLM -588T)の保有数を調べることで、動脈硬化性疾患、特にアテローム性動脈硬化症の罹患リスクを判定することができる。
【0058】
後述する実験例1(3)〜(6)に示すように、GCLM遺伝子以外の酸化ストレス関連遺伝子(MPO遺伝子、PON1遺伝子、およびCYBA遺伝子)については、その酸化促進アレル(「MPO -463G」、「PON1 192Gln」、「CYBA 242C」)のそれぞれをより多く有する被験者(糖尿病患者)が、より高いAveIMTを示すという傾向はあるものの、有意差は認められなかった。この結果は、これらの遺伝子の各遺伝子多型(「MPO G-463A」、「PON1 Gln192Arg」および「CYBAC242T」)の結果だけでは、動脈硬化性疾患、特にアテローム性動脈硬化症の罹患リスクを評価することができないことを意味する。
【0059】
これに対して、実験例2に示すように、糖尿病患者、特に2型糖尿病患者において、GCLM遺伝子を含む4種類の酸化ストレス関連遺伝子(GCLM遺伝子、MPO遺伝子、PON1遺伝子、およびCYBA遺伝子)の酸化促進アレル(「GCLM -588T」、「MPO -463G」、「PON1 192Gln」、「CYBA 242C」)の保有総数(集積数)、または、GCLM遺伝子以外の3種類の酸化ストレス関連遺伝子(MPO遺伝子、PON1遺伝子、およびCYBA遺伝子)の酸化促進アレル(「MPO -463G」、「PON1 192Gln」、「CYBA 242C」)の保有総数(集積数)が増えるにつれて、AveIMTも同様に高い値を示し、これらの集積数が動脈硬化性疾患、特にアテローム性動脈硬化症の罹患リスクと有意に相関していることが判明した。
【0060】
このことから、糖尿病患者、特に2型糖尿病患者について、4種類の酸化ストレス関連遺伝子(GCLM遺伝子、MPO遺伝子、PON1遺伝子、およびCYBA遺伝子)の酸化促進アレル(「GCLM -588T」、「MPO -463G」、「PON1 192Gln」、「CYBA 242C」)の保有総数(集積数)、または3種類の酸化ストレス関連遺伝子(MPO遺伝子、PON1遺伝子、およびCYBA遺伝子)の酸化促進アレル(「MPO -463G」、「PON1 192Gln」、「CYBA 242C」)の保有総数(集積数)を調べることで、動脈硬化性疾患、特にアテローム性動脈硬化症の罹患リスクを判定することができると考えられる。
【0061】
また、前者の場合、実験例3に示すように、4種類の酸化ストレス関連遺伝子の酸化促進アレル(「GCLM -588T」、「MPO -463G」、「PON1 192Gln」、「CYBA 242C」)の保有総数(集積数)が増えるにつれて、糖尿病患者において高い割合で心筋梗塞の所見が認められた。このことから、糖尿病患者、特に2型糖尿病患者について、4種類の酸化ストレス関連遺伝子(GCLM遺伝子、MPO遺伝子、PON1遺伝子、およびCYBA遺伝子)の酸化促進アレル(「GCLM -588T」、「MPO -463G」、「PON1 192Gln」、「CYBA 242C」)の保有総数(集積数)を調べることで、動脈硬化性疾患、特に心筋梗塞の罹患リスクを判定することができる。
【0062】
3.動脈性硬化性疾患の判定方法
本発明は、糖尿病患者について、動脈硬化性疾患を発症する潜在的危険度(罹患リスク)を判定する方法を提供する。
【0063】
当該方法は、対象とする糖尿病患者が保有する、上記酸化ストレス関連遺伝子の酸化促進アレルの数を指標として行うことができる。かかる方法としては下記の3つの方法を挙げることができる。
(i) GCLM遺伝子の酸化促進アレル(GCLM C-588T)の保有数を指標とする方法、
(ii) GCLM遺伝子、MPO遺伝子、PON1遺伝子及びCYBA遺伝子の酸化促進アレル(「GCLM -588T」、「MPO -463G」、「PON1 192Gln」、「CYBA 242C」)の保有総数(集積数)を指標とする方法
(iii) MPO遺伝子、PON1遺伝子及びCYBA遺伝子の酸化促進アレル(「MPO -463G」、「PON1 192Gln」、「CYBA 242C」)の保有総数(集積数)を指標とする方法。
【0064】
かかる方法のうち、(i)〜(iii)の方法のいずれも、糖尿病患者について、動脈硬化性疾患、特にアテローム性動脈硬化症の罹患リスクの判定に有効に利用することができる。また上記方法のうち、特に(ii)の方法は、糖尿病患者について、動脈硬化性疾患のなかでも特に心筋梗塞の罹患リスクの判定に有効に利用することができる。
【0065】
(i)の方法について
上記(i)の方法は、下記の(a)および(b)の工程を行うことで実施することができる:(a)糖尿病患者の生体試料を対象として、GCLM遺伝子の-588位の遺伝子多型(GCLM C-588T)を検出する工程、および
(b)上記GCLM遺伝子の-588位の遺伝子多型(GCLM C-588T)を識別する工程。
【0066】
本発明で行う検出および識別工程は、具体的には、糖尿病患者のGCLM遺伝子の-588位の遺伝子型を測定し、当該遺伝子型がT/Tアレル型(-588位の塩基が両アレルともにTのホモ接合体)であるか、C/Tアレル型(-588位の塩基がCのアレルとTのアレルとのヘテロ接合体)であるか、またはC/Cアレル型(-588位の塩基が両アレルともにCのホモ接合体)であるかを決定する工程である。
【0067】
GCLM遺伝子において「GCLM -588T」が酸化促進アレルであることから、GCLM遺伝子の-588位の遺伝子型がC/Cアレル型である場合は、当該患者は動脈硬化性疾患の罹患リスクが低いと判定することができ、一方、GCLM遺伝子の-588位の遺伝子型がC/Tアレル型、およびT/Tアレル型である場合は、酸化促進アレル(-588T)の数の増加に応じて、当該患者は動脈硬化性疾患の罹患リスクが高いと判定することができる(当該判定工程は、本発明において(c)工程に相当する)。
【0068】
かかる遺伝子型の検出は、具体的には、(1)被験者のゲノムDNAを対象として、GCLM遺伝子の-588位を含む領域でPCRを行い、SSCP法で検出する方法、(2) 被験者のゲノムDNAを対象として、GCLM遺伝子の-588位を含む領域でPCRを行い、PCR産物に対する制限酵素の切断様式から検出する方法、(3)同PCR産物を直接シーケンシングして、配列を決定する方法、(4) 被験者のゲノムDNAを対象として、GCLM遺伝子の-588位を有する領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプローブとして使用し、個体のDNAとハイブリダイズさせるASO(allele specific oligonucleotide)法、(5) 被験者のゲノムDNAを対象として、GCLM遺伝子の-588位を有する領域にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプローブとして使用して、質量分析装置等で検出する方法など、公知の方法を用いることにより行うことができる。
【0069】
なお、(a)の工程は、前述するように糖尿病患者の生体試料から抽出したゲノムDNAを対象として行うことができるが、ここで-588位の遺伝子型の検出は、抽出したゲノムDNA上においてGCLM遺伝子を特定して行う必要はなく、抽出したゲノムDNAそのものを対象として、GCLM遺伝子の-588位に相当する塩基を挟む前後の塩基配列を指標とし、これらの塩基配列に挟まれた塩基(すなわちGCLM遺伝子の-588位)を識別することによって行うことができる。
【0070】
ここで、GCLM遺伝子の-588位の前後の塩基配列としては、ヒト第1染色体(1p22.1)の塩基配列において、GCLM遺伝子の-588位の塩基(Genbank Sequence Accession IDs: NC_000001の64324508..64346930領域において、GCLM遺伝子の転写開始点(エクソン1の先頭の塩基配列)から上流588番目(-588)の塩基を中心として、5’側(上流側)に位置する領域の塩基配列、および3’側(下流側)に位置する領域の塩基配列を挙げることができる。
【0071】
当該方法によれば、糖尿病患者、好ましくは2型糖尿病患者を対象として、動脈硬化性症、特にアテローム性動脈硬化症を発症する潜在的危険度、およびこれを原因として各種の動脈硬化性疾患を発症する潜在的危険度を判定することができる。これらの判定は、GCLM遺伝子の-588位がC/Cアレル型であるか、C/Tアレル型であるか、またはT/Tアレル型であるかを判断基準(判断指標)とすることにより、医師等の専門知識を有する者の判断を要することなく、自動的/機械的に行なうことができる。このため、本発明の方法は、糖尿病患者について動脈硬化性疾患を発症する潜在的危険度(罹患リスク)の検出方法と言うこともできる。
【0072】
なお、上記工程(a)と工程(b)は、公知の方法〔例えば、Bruce, et al., Geneme Analysis/A laboratory Manual (vol.4), Cold Spring Harbor Laboratory, NY., (1999)〕を用いて行うことができる。
【0073】
工程(a)で対象とする生体試料としては、前述するように具体的にはゲノムDNAを挙げることができる。かかるゲノムDNAは、糖尿病患者および臨床検体等から単離されたあらゆる細胞(培養細胞を含む。但し生殖細胞は除く)、組織(例えば、肝臓等。培養組織を含む)、または体液(例えば、血液、唾液、リンパ液、気道粘膜、精液、汗、尿等)などの生体試料を材料として調製することができる。該材料としては末梢血から分離した白血球または単核球が好ましく、特に白血球が最も好適である。これらの材料は、臨床検査において通常用いられる方法に従って単離することができる。
【0074】
例えば白血球を材料とする場合、まず糖尿病患者より単離した末梢血から常法に従って白血球を分離する。次いで、得られた白血球にプロティナーゼKとドデシル硫酸ナトリウム(SDS)を加えてタンパク質を分解、変性させた後、フェノール/クロロホルム抽出を行うことによりゲノムDNA(RNAを含む)を得る。RNAは、必要に応じてRNaseにより除去することができる。なお、ゲノムDNAの抽出は、上記の方法に限定されず、当該技術分野で周知の方法(例えば、Sambrook J. et. al.,“Molecular Cloning: A Laboratry Manual (2nd Ed.)”Cold Spring Harbor Laboratory, NY)や、市販のDNA抽出キット等を利用して行なうことができる。さらに必要に応じて、ヒト第1染色体上のGCLM遺伝子またはそのプロモーター領域を含むDNAを単離してもよい。当該DNAの単離は、GCLM遺伝子またはそのプロモーター領域にハイブリダイズするプライマーを用いて、ゲノムDNAを鋳型としたPCR等によって行うことができる。
【0075】
工程(b)において、上記のようにして得られたヒトゲノムDNAを含む抽出物から、GCLM遺伝子の-588位に位置する塩基を識別する。なお、当該塩基の識別は、ヒトゲノムDNAを含む試料からさらに単離したヒト第1染色体(1p22.1)上のGCLM遺伝子、好ましくはそのプロモーター領域の塩基配列を直接決定し、当該GCLM遺伝子の-588番目に位置する塩基の種類(CまたはT)を調べる方法によってもよい。
【0076】
例えば目的の塩基を識別する方法としては、上記のように該当領域の遺伝子配列を直接決定する方法の他に、多型配列が制限酵素認識部位である場合は、制限酵素切断パターンの相違を利用して、遺伝子型を決定する方法(以下、RFLPという)、多型特異的なプローブを用いハイブリダイゼーションを基本とする方法(例えば、チップやガラススライド、ナイロン膜上に特定なプローブを張り付け、それらのプローブに対するハイブリダイゼーション強度の差を検出することによって、多型の種類を決定する、または、特異的なプローブのハイブリダイゼーションの効率を、鋳型2本鎖増幅時にポリメレースが分解するプローブの量を検出することにより遺伝子型を特定する方法、ある種の2本鎖特異的な蛍光色素が発する蛍光を、温度変化を追うことにより2本鎖融解の温度差を検出し、これにより多型を特定する方法、多型部位特異的なオリゴプローブの両端に相補的な配列を付け、温度によって該当プローブが自己分子内で2次構造をつくるか、ターゲット領域にハイブリダイズするかの差を利用して遺伝子型を特定する方法など)がある。また、さらに鋳型特異的なプライマーからポリメレースによって塩基伸長反応を行わせ、その際に多型部位に取り込まれる塩基を特定する方法(ダイデオキシヌクレオタイドを用い、それぞれを蛍光標識し、それぞれの蛍光を検出する方法、取り込まれたダイデオキシヌクレオタイドをマススペクトロメトリーにより検出する方法)、さらに鋳型特異的なプライマーに続いて変異部位に相補的な塩基対または非相補的な塩基対の有無を酵素によって認識させる方法などがある。
【0077】
以下、従来公知の代表的な遺伝子多型の検出方法を列記するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。
【0078】
(a)RFLP(制限酵素切断断片長多型)法、(b)PCR-SSCP法(一本鎖DNA高次構造多型解析)〔Biotechniques, 16, 296-297 (1994)、及びBiotechniques, 21, 510-514 (1996)〕、(c)ASO(Allele Specific Oligonucleotide)ハイブリダイゼーション法〔Clin. Chim. Acta, 189, 153-157 (1990)〕、(d)ダイレクトシークエンス法〔Biotechniques, 11, 246-249 (1991)〕、(e)ARMS(Amplification Refracting Mutation System)法〔Nuc. Acids. Res., 19, 3561-3567 (1991);Nuc. Acids. Res., 20, 4831-4837 (1992)〕、(f)変性剤濃度勾配ゲル電気泳動(Denaturing Gradient Gel Electrophoresis;DGGE)法〔Biotechniques, 27, 1016-1018 (1999)〕、(g)RNaseA切断法〔DNA Cell. Biol., 14, 87-94 (1995)〕、(h)化学切断法〔Biotechniques, 21, 216-218 (1996)〕、(i)DOL(Dye-labeled Oligonucleotide Ligation)法〔Genome Res., 8, 549-556 (1998)〕、(j)TaqMan-PCR法〔Genet. Anal., 14, 143-149 (1999);J. Clin. Microbiol., 34, 2933-2936 (1996)〕、(k)インベーダー法〔Science, 5109, 778-783 (1993);J.Biol.Chem., 30,21387-21394 (1999);Nat. Biotechnol., 17, 292-296 (1999)〕、(l)MALDI-TOF/MS法(Matrix Assisted Laser Desorption-time of Flight/Mass Spectrometry)法〔Genome Res., 7, 378-388 (1997);Eur.J.Clin.Chem.Clin.Biochem., 35, 545-548 (1997)〕、(m)TDI(Template-directed Dye-terminator Incorporation)法〔Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 94, 10756-10761 (1997)〕、(n)モレキュラー・ビーコン(Molecular Beacons)法〔Nat. Biotechnol., 1, p49-53 (1998);遺伝子医学、4, p46-48 (2000)〕、(o)ダイナミック・アレル−スペシフィック・ハイブリダイゼーション(Dynamic Allele-Specific Hybridization;DASH)法〔Nat.Biotechnol.,1.p.87-88 (1999);遺伝子医学,4, 47-48 (2000)〕、(p)パドロック・プローブ(Padlock Probe)法〔Nat. Genet.,3,p225-232 (1998) ;遺伝子医学,4, p50-51 (2000)〕、(q)UCAN法〔タカラ酒造株式会社ホームぺージ(http://www.takara.co.jp)参照〕、(r)DNAチップまたはDNAマイクロアレイ(「SNP遺伝子多型の戦略」松原謙一・榊佳之、中山書店、p128-135)、(s)ECA法〔Anal. Chem., 72, 1334-1341, (2000)〕。
【0079】
以上は代表的な遺伝子多型検出方法であるが、本発明の判定には、これらに限定されず、他の公知または将来開発される遺伝子多型検出方法を広く用いることができる。また、本発明の遺伝子多型検出に際して、これらの遺伝子多型検出方法を単独で使用してもよいし、また2以上を組み合わせて使用することもできる。
【0080】
(ii)および(iii)の方法について
上記(ii)および(iii)の方法は、下記の(A)および(B)の工程を行うことで実施することができる:
(A)下記(1)〜(4)の遺伝子の全遺伝子多型を検出する工程:
(1)GCLM遺伝子の-588位の遺伝子多型(GCLM C-588T)、
(2)MPO遺伝子の-463位の遺伝子多型(MPO G-463A)、
(3)PON 1遺伝子の遺伝子多型(PON 1 Gln192Arg)、
(4)CYBA遺伝子の242位の遺伝子多型(CYBA C242T)、および
(B)上記(1)〜(4)の遺伝子の全遺伝子多型を識別する工程。
【0081】
ここで行う検出および識別工程は、具体的には、糖尿病患者の上記(1)〜(4)遺伝子の遺伝子型を測定し、当該遺伝子型が、酸化促進アレルであるか否か決定する工程である。
【0082】
ここで(1)GCLM遺伝子の-588位の遺伝子多型(GCLM C-588T)を検出し、同定する方法は前述する通りである。
【0083】
また(2)MPO遺伝子の-463位の遺伝子多型(MPO G-463A)、(3)PON1遺伝子の遺伝子多型(PON 1 Gln192Arg)、および(4)CYBA遺伝子の242位の遺伝子多型(CYBA C242T)を検出し、同定する方法も、上記GCLM遺伝子について説明した方法に準じて行うことができる。
【0084】
具体的には、当該遺伝子型の検出は、(イ)被験者のゲノムDNAを対象として、(1)GCLM遺伝子の-588位を含む領域、(2)MPO遺伝子の-463位を含む領域、(3) PON 1(蛋白質)のアミノ酸配列の192番目をコードする塩基を含むPON1遺伝子の領域(PON 1遺伝子の672位を含む領域)、(4)CYBA遺伝子の242位を含む領域で、それぞれPCRを行い、SSCP法で検出する方法、(ロ) 被験者のゲノムDNAを対象として、上記(1)、(2)、(3)および(4)の領域でそれぞれPCRを行い、各PCR産物に対する制限酵素の切断様式から検出する方法、(ハ)同PCR産物を直接シーケンシングして、配列を決定する方法、(ニ) 被験者のゲノムDNAを対象として、上記(1)、(2)、(3)および(4)の領域にそれぞれハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプローブとして使用し、個体のDNAとハイブリダイズさせるASO(allele specific oligonucleotide)法、(ホ) 被験者のゲノムDNAを対象として、上記(1)、(2)、(3)および(4)の領域にそれぞれハイブリダイズするオリゴヌクレオチドをプローブとして使用して、質量分析装置等で検出する方法など、公知の方法を用いることにより行うことができる。
【0085】
なお、(i)の方法と同様に、(a)の工程は、前述するように糖尿病患者の生体試料から抽出したゲノムDNAを対象として行うことができるが、ここでMPO遺伝子の-463位、PON1遺伝子の672位、およびCYBA遺伝子の242位の遺伝子型の検出は、抽出したゲノムDNA上においてこれらの遺伝子を特定して行う必要はなく、抽出したゲノムDNAそのものを対象として、MPO遺伝子の-463位、PON1遺伝子の672位、およびCYBA遺伝子の242位に相当する塩基を挟む前後の領域の塩基配列を指標とし、これらの塩基配列に挟まれた塩基を識別することによって行うことができる。
【0086】
ここで、MPO遺伝子の-463位の前後の領域の塩基配列としては、ヒト第17染色体(17q23.1)の塩基配列において、MPOM遺伝子の-463位の塩基(Genbank Sequence Accession IDs: NC_000017の21621369〜21632448領域において、MPO遺伝子の転写開始点(エクソン1の先頭の塩基配列)から上流463番目(-463)の塩基を中心として、5’側(上流側)に位置する領域の塩基配列、および3’側(下流側)に位置する領域の塩基配列を挙げることができる。
【0087】
また、PON1遺伝子の672位の前後の領域の塩基配列としては、ヒト第7染色体(7q21.3)の塩基配列において、PON1遺伝子の672位の塩基(Genbank Sequence Accession IDs: NC_000007の5001〜31216領域において、PON1遺伝子の転写開始点(エクソン1の先頭の塩基配列)から下流672番目(672)の塩基を中心として、5’側(上流側)に位置する領域の塩基配列、および3’側(下流側)に位置する領域の塩基配列を挙げることができる。
【0088】
またCYBA遺伝子の242位の前後の領域の塩基配列としては、ヒト第16染色体(16q24)の塩基配列において、CYBA遺伝子の242位の塩基(Genbank Sequence Accession IDs: NC_000016の5001〜12761領域において、CYBA遺伝子の転写開始点(エクソン1の先頭の塩基配列)から下流242番目(242)の塩基を中心として、5’側(上流側)に位置する領域の塩基配列、および3’側(下流側)に位置する領域の塩基配列を挙げることができる。
【0089】
かかる(A)及び(B)工程で得られる(1)〜(4) の遺伝子の遺伝子多型または(2)〜(4)の遺伝子の遺伝子多型から酸化促進アレルの数を合計し、(1)〜(4)の遺伝子多型の酸化促進アレル((1)「GCLM -588T」、(2) 「MPO -463G」、(3)「PON1 192 Gln」、(4)「CYBA 242C」)の総数、または(2)〜(4)の遺伝子多型の酸化促進アレル( (2) 「MPO -463G」、(3)「PON1 192 Gln」、(4)「CYBA 242C」)の総数の多さに応じて、当該糖尿病患者について、動脈硬化性疾患の罹患リスクが高いと判定することができる(当該判定工程は、本発明において(C)工程に相当する)。
【0090】
本発明の方法によって、動脈硬化性疾患を発症する潜在的な危険度(罹患リスク)が相対的に高いことが判明した糖尿病患者に対しては、その旨を告知し、動脈硬化性疾患の発症を防ぐための的確な対策(食事療法や運動療法、または医療措置など)を講じることができる。従って、本発明は、糖尿病患者に対して、動脈硬化性疾患、特にアテローム性動脈硬化症や心筋梗塞の発症を予防するための検査方法としても有用である。
【0091】
.動脈硬化性疾患の罹患リスクを判定するのための検査薬、これを含むキット
(1)プローブ
前述する(i)〜(iii)の方法において、目的とするGCLM遺伝子の遺伝子多型(GCLM C-588T)、並びに当該塩基を含むオリゴまたはポリヌクレオチドの検出には、ヒト第1染色体(1p22.1)の塩基配列において、GCLM遺伝子の-588位に位置するヌクレオチド(以下、これを「SNP-588」という)を含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、遺伝子多型(GCLM C-588T)を検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドが用いられる。
【0092】
かかるオリゴまたはポリヌクレオチドは、ヒト第1染色体(1p22.1)のGCLM遺伝子を含む塩基配列において、上記SNP-588を含む16〜500塩基長、好ましくは20〜200塩基長、より好ましくは20〜50塩基長の連続した遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするように、16〜500塩基長を有するオリゴまたはポリヌクレオチドとして設計される。
【0093】
ここで「特異的にハイブリダイズする」とは、通常のハイブリダイゼーション条件下、好ましくはストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下(例えば、サムブルックら、Molecular Cloning, Cold Spring Harbour Laboratory Press, New York, USA, 第2版、1989に記載の条件)において、他のDNAとクロスハイブリダイゼーションを有意に生じないことを意味する。好適には当該オリゴまたはポリヌクレオチドは、上記検出するSNP-588を含む遺伝子領域の塩基配列に対して相補的な塩基配列を有することが望ましいが、かかる特異的なハイブリダイゼーションが可能であれば、完全に相補的である必要はない。
【0094】
かかるオリゴまたはポリヌクレオチドとして、ヒト第1染色体(1p22.1)のGCLM遺伝子を含む塩基配列において、当該GCLM遺伝子の-588位に位置するヌクレオチド(SNP-588)を含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、当該SNP-588を検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。具体的には、ヒト第1染色体(1p22.1)のGCLM遺伝子を含む塩基配列において、当該GCLM遺伝子の-588位に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0095】
また前述する(ii)および(iii)の方法において、目的とするMPO遺伝子の遺伝子多型(MPO G-463A)、並びに当該塩基を含むオリゴまたはポリヌクレオチドの検出には、ヒト第17染色体(17q23.1)の塩基配列において、MPO遺伝子の-463位に位置するヌクレオチド(以下、これを「SNP-463」という)を含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、遺伝子多型(MPO G-463A)を検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドが用いられる。
【0096】
かかるオリゴまたはポリヌクレオチドは、ヒト第17染色体(17q23.1)のMPO遺伝子を含む塩基配列において、上記SNP-463を含む16〜500塩基長、好ましくは20〜200塩基長、より好ましくは20〜50塩基長の連続した遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするように、16〜500塩基長を有するオリゴまたはポリヌクレオチドとして設計される。また、かかるオリゴまたはポリヌクレオチドとして、ヒト第17染色体(17q23.1)のMPO遺伝子を含む塩基配列において、当該MPO遺伝子の-463位に位置するヌクレオチド(SNP-463)を含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、当該SNP-463を検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドを用いることもできる。当該オリゴまたはポリヌクレオチドとして具体的には、ヒト第17染色体(17q23.1)のMPO遺伝子を含む塩基配列において、当該MPO遺伝子の-463位に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0097】
さらに前述する(ii)および(iii)の方法において、目的とするPON1遺伝子の遺伝子多型(PON1 Gln192Arg)、並びに当該塩基を含むオリゴまたはポリヌクレオチドの検出には、ヒト第7染色体(7q21.3)の塩基配列において、PON1遺伝子の672位に位置するヌクレオチド(以下、これを「SNP672」という)を含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、遺伝子多型(PON1 Gln192Arg)を検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドが用いられる。
【0098】
かかるオリゴまたはポリヌクレオチドは、ヒト第7染色体(7q21.3)のPON1遺伝子を含む塩基配列において、上記SNP672を含む16〜500塩基長、好ましくは20〜200塩基長、より好ましくは20〜50塩基長の連続した遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするように、16〜500塩基長を有するオリゴまたはポリヌクレオチドとして設計される。また、かかるオリゴまたはポリヌクレオチドとして、ヒト第7染色体(7q21.3)のPON1遺伝子を含む塩基配列において、当該PON1遺伝子の672位に位置するヌクレオチド(SNP672)を含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、当該SNP672を検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドをも使用することができる。かかるオリゴまたはポリヌクレオチドとしては、具体的には、ヒト第7染色体(7q21.3)のPON1遺伝子を含む塩基配列において、当該PON1遺伝子の672位に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0099】
さらにまた前述する(ii)および(iii)の方法において、目的とするCYBA遺伝子の遺伝子多型(CYBA C242T)、並びに当該塩基を含むオリゴまたはポリヌクレオチドの検出には、ヒト第16染色体(16q24)の塩基配列において、CYBA遺伝子の242位に位置するヌクレオチド(以下、これを「SNP242」という)を含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、遺伝子多型(CYBA C242T)を検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドが用いられる。
【0100】
かかるオリゴまたはポリヌクレオチドは、ヒト第16染色体(16q24)のMPO遺伝子を含む塩基配列において、上記SNP242を含む16〜500塩基長、好ましくは20〜200塩基長、より好ましくは20〜50塩基長の連続した遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするように、16〜500塩基長を有するオリゴまたはポリヌクレオチドとして設計される。また、かかるオリゴまたはポリヌクレオチドとして、ヒト第16染色体(16q24)のCYBA遺伝子を含む塩基配列において、当該CYBA遺伝子の242位に位置するヌクレオチド(SNP242)を含むオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、当該SNP242を検出することができるオリゴまたはポリヌクレオチドを用いることもできる。当該オリゴまたはポリヌクレオチドとして具体的には、ヒト第16染色体(16q24)のCYBA遺伝子を含む塩基配列において、当該CYBA遺伝子の242位に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴまたはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴまたはポリヌクレオチドを挙げることができる。
【0101】
これらのオリゴまたはポリヌクレオチドは、糖尿病患者について、動脈硬化性疾患を発症する潜在的危険性(罹患リスク)を判定するための「プローブ」として設計される。なお、これらのオリゴまたはポリヌクレオチドは、各遺伝子の遺伝情報(塩基配列)に基づいて、例えば市販のヌクレオチド合成機によって常法に従って作成することができる。
【0102】
さらに好ましくは、当該プローブは、前述するSNP-588、SNP-463、SNP672、またはSNP242を含むオリゴヌクレオチドが検出できるように、放射性物質、蛍光物質、化学発光物質、または酵素等で標識される(後述)。
【0103】
上記プローブ(オリゴまたはポリヌクレオチド)は任意の固相に固定化して用いることもできる。このため本発明はまた、上記プローブ(オリゴまたはポリヌクレオチド)を固定化プローブ(例えばプローブを固定化した遺伝子チップ、cDNAマイクロアレイ、オリゴDNAアレイ、メンブレンフィルター等)として提供するものである。当該プローブは、好適には糖尿病患者の動脈硬化性疾患の罹患リスク判定用のDNAチップとして利用することができる。
【0104】
固定化に使用される固相は、オリゴまたはポリヌクレオチドを固定化できるものであれば特に制限されることなく、例えばガラス板、ナイロンメンブレン、マイクロビーズ、シリコンチップ、キャピラリーまたはその他の基板等を挙げることができる。固相へのオリゴまたはポリヌクレオチドの固定は、予め合成したオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上に載せる方法であっても、また目的とするオリゴまたはポリヌクレオチドを固相上で合成する方法であってもよい。固定方法は、例えばDNAマイクロアレイであれば、市販のスポッター(Amersham社製など)を利用するなど、固定化プローブの種類に応じて当該技術分野で周知である〔例えば、photolithographic技術(Affymetrix社)、インクジェット技術(Rosetta Inpharmatics社)によるオリゴヌクレオチドのin situ合成等〕。
【0105】
例えば、ASO法の一例であるTaqMan PCR法〔Livak KJ. Gene Anal 14, 143 (1999), Morris T et al., J Clin Microbiol 34, 2933 (1996)〕の場合、各遺伝子のSNP(SNP-588、、SNP-463、SNP672、またはSNP242)を含む領域に相補的な20塩基長程度のオリゴヌクレオチドがプローブとして設計される。当該プローブは、5’末端を蛍光色素、3’末端を消光物質により標識され、検体DNAと特異的にハイブリダイズするが、そのままでは発光せず、別に加えられたPCRプライマーの上流からの伸長反応により5’側の蛍光色素結合が切断され、遊離した蛍光色素により検出される。
【0106】
ASO法の別の1例であるInvade法〔Lyamichev V. et al., Nat Biotechnol 17, 292 (1999)〕では、多型部位に隣接する配列(3’側と5’側の2種)に相補的なオリゴヌクレオチドがプローブとして設計される。検出は、これら2種のプローブと検体とは無関係な第3のプローブによって達成される。
【0107】
(2)プライマー
本発明はまた、前述する(i)〜(iii)の方法において、GCLM遺伝子の遺伝子多型(GCLM C-588T)(GCLM遺伝子の-588位に位置する塩基:SNP-588)を含む配列領域を特異的に増幅するためのプライマー(以下、これをプライマー(1)と称する)を提供する。
【0108】
また前述する(ii)及び(iii)の方法において、MPO遺伝子の遺伝子多型(MPO G-463A)(MPO遺伝子の-463位に位置する塩基:SNP-463)を含む配列領域を特異的に増幅するためのプライマー(以下、これをプライマー(2)と称する);PON1遺伝子の遺伝子多型(PON1 Gln192Arg)(PON1遺伝子の672位に位置する塩基:SNP672)を含む配列領域を特異的に増幅するためのプライマー(以下、これをプライマー(3)と称する);CYBA遺伝子の遺伝子多型(CYBA C242T)(CYBA遺伝子の242位に位置する塩基:SNP242)を含む配列領域を特異的に増幅するためのプライマー(以下、これをプライマー(4)と称する)を提供する。
【0109】
プライマー(1)(オリゴヌクレオチド)は、ヒト第1染色体(1p22.1)のGCLM遺伝子を含む塩基配列において、当該GCLM遺伝子の-588位(SNP-588)のヌクレオチドを含む16塩基長以上連続したオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長、好ましくは18〜30塩基長程度のオリゴヌクレオチドが含まれる。
【0110】
またプライマー(2)(オリゴヌクレオチド)は、ヒト第17染色体(17q23.1)上のMPO遺伝子の-463位のヌクレオチド(SNP-463)を含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長、好ましくは18〜30塩基長程度のオリゴヌクレオチドとして設計される。
【0111】
さらにプライマー(3)(オリゴヌクレオチド)は、ヒト第7染色体(7q21.3)上のPON1遺伝子の672位のヌクレオチド(SNP672)を含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長、好ましくは18〜30塩基長程度のオリゴヌクレオチドとして設計される。
【0112】
さらにまたプライマー(4)(オリゴヌクレオチド)は、ヒト第16染色体(16p24)上のCYBA遺伝子の242位のヌクレオチド(SNP242)を含む16塩基長以上の連続したオリゴまたはポリヌクレオチドに特異的にハイブリダイズし、当該オリゴまたはポリヌクレオチドを特異的に増幅するための15〜35塩基長、好ましくは18〜30塩基長程度のオリゴヌクレオチドとして設計される。
【0113】
上記プライマーを使用する場合、増幅するオリゴまたはポリヌクレオチドの長さは、用いられる検出方法に応じて適宜設定されるが、一般的には15〜1000塩基長、好ましくは20〜500塩基長、より好ましくは20〜200塩基長である。なお、これらのオリゴヌクレオチドは、上記に示す各遺伝子の情報(塩基配列)に基づいて、例えば市販のヌクレオチド合成機によって常法に従って作成することができる。
【0114】
Mass Array法にMALDI-TOF/MS(Matrix-Assisted Laser Desorption Ionization Time-Of-Flight Mass Spectrometry)を応用した方法〔Haff LA et al. Genome Res 7, 378 (1997), Little DP et al., Nature Medicine vol.3, No.12, 1413-1416, (1997)〕を例にとって、プライマーの具体的な利用方法を説明する。この場合、シリコンチップ上に固定した検体DNAに前記プライマーをハイブリダイズさせ、ddNTPを添加して一塩基だけを伸長させる。次いで、一塩基伸長産物を分離し、質量分析法により多型を検出する。この方法では、プライマーは通常15塩基長以上で可能な限り短く設計することが望ましい。
【0115】
(3)標識物
上記本発明のプローブまたはプライマーには、各遺伝子の遺伝子多型を検出するための適当な標識物、例えば蛍光色素、酵素、タンパク質、放射性同位体、化学発光物質、ビオチン等が付加されたものが含まれる。
【0116】
なお、本発明において用いられる蛍光色素としては、一般にヌクレオチドを標識して、核酸の検出や定量に用いられるものが好適に使用でき、例えば、HEX(4,7,2’,4’,5’,7’-hexachloro-6-carboxylfluorescein、緑色蛍光色素)、フルオレセイン(fluorescein)、NED(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄色蛍光色素)、あるいは、6−FAM(商品名、アプライドバイオシステムズ社製、黄緑色蛍光色素)、ローダミン(rhodamin)またはその誘導体〔例えば、テトラメチルローダミン(TMR)〕を挙げることができるが、これらに限定されない。蛍光色素でヌクレオチドを標識する方法は、公知の標識法のうち適当なものを使用することができる〔Nature Biotechnology, 14, 303-308 (1996)参照〕。また、市販の蛍光標識キットを使用することもできる(例えば、アマシャム・ファルマシア社製、オリゴヌクレオチドECL 3’−オリゴラベリングシステム等)。
【0117】
また、本発明のプライマーには、その末端に多型検出のためのリンカー配列が付加されたものも含まれる。このようなリンカー配列としては、例えば、前述したインベーダー法で用いられるオリゴヌクレオチド5’末端に付加される、フラップ(多型近傍の配列とは全く無関係な配列)等が挙げられる。
【0118】
前述するプローブ(標識されていてもよい)またはプライマー(標識されていてもよい)は、糖尿病患者について動脈硬化性疾患を発症する存在的危険度(罹患リスク)を判定するための試薬として利用することができる。
【0119】
(4)動脈硬化性疾患の罹患リスク判定用の試薬キット
本発明はまた、上記する動脈硬化性疾患の罹患リスクを判定するための試薬を、キットとして提供するものである。当該キットは、上記プローブまたはプライマーとして用いられるオリゴまたはポリヌクレオチド(なお、これらは標識されていても、また固相に固定化されていてもよい)を少なくとも1つ含むものである。本発明のキットは上記プローブまたはプライマーの他、必要に応じてハイブリダイゼーション用の試薬、プローブの標識、ラベル体の検出剤、緩衝液など、本発明の方法の実施に必要な他の試薬、器具などを適宜含んでいてもよい。さらに本発明の試薬キットには、プライマーやプローブなどの試薬の使用方法や、それを用いた動脈硬化性疾患の罹患リスクの判定方法(判定基準)について説明する書面が含まれていても良い。
【実施例】
【0120】
以下、本発明を実験例により更に具体的に説明する。但し、本発明はこれらの実験例により何ら限定されるものではない。
【0121】
実験例1および2では、酸化ストレスに関連する4つの遺伝子の遺伝子多型(GCLM C-588T (rs41303970)、MPO G-463A (rs2333227)、PON1 Gln192Arg (rs662)、CYBA C242T (rs4673))と、糖尿病患者におけるアテローム性動脈硬化症との関係を調べた。なお、アテローム性動脈硬化症の評価には、その定量的代替マーカーとして広く使われている頸動脈の内膜中膜肥厚度(IMT)を用いた(Y. Yamasaki, et al., Diabetes, 43 (1994) 634-639)。
【0122】
実験例3では、上記酸化ストレスに関連する4つの遺伝子の遺伝子多型と、糖尿病患者における心筋梗塞(MI)の有病率との関係を調べた。なお、心筋梗塞の発生の診断は臨床記録、特徴的な心電図変化、冠動脈造影と心エコー検査での所見に基づいて行われた。
すべての実験は、実施に先立ち、大阪大学医学研究科のヒト研究倫理委員会で承認を受けた。
【0123】
実験例1〜2
実験例1〜2において対象とした(1)被験者、(2)被験者の特性および臨床所見、 並びに(3)頸動脈アテローム性動脈硬化症の測定方法を下記に示す。
【0124】
(1)被験者
日本人の2型糖尿病患者を対象とした。具体的には、5つ病院(大阪大学病院、愛媛県立中央病院、愛媛県立今治病院、石橋クリニック、那珂記念クリニック)で、一年間(2005年の1月から12月の期間)、糖尿病の外来に定期的に通院した20歳以上の2型糖尿病患者、合計1746名を対象とした。ちなみに、2型糖尿病の判断は世界保健機構(WHO)の判定基準に基づいて行った。なお、すべての被験者には、本研究の趣旨および内容を十分に説明した後、書面でインフォームドコンセントを得た。
【0125】
(2)被験者の特性および臨床所見
全患者の特性や臨床所見(性別、年齢、罹患期間、喫煙状態、肥満度指数(BMI)、血圧(拡張期、収縮期)、HbAc、総コレステロール、HDL-コレステロール、トリグリセリド、AveIMT)、および各種薬剤(抗糖尿病薬、降圧薬、抗高脂血症薬、抗血小板薬)の投薬の有無をまとめた結果を、図1に示す。
【0126】
HbAc、血清中のコレステロール(総コレステロール、HDL-コレステロール)及びトリグリセリドは、被験者から空腹時に採取した血液サンプルを対象として、慣用の検査法で測定した。
【0127】
喫煙状態は、Brinkman指標(B.I.)(一日当たりの喫煙本数×喫煙年)に基づいて、その値が200未満と200以上とに分類した(B.I.<200 / ≧200)。
【0128】
(3)アテローム性動脈硬化症の測定
アテローム性動脈硬化症のマーカーとして、頸動脈の内膜中膜肥厚度(IMT)を用いた(Y. Yamasaki, et al., Diabetes, 43 (1994) 634-639)。すなわち、頸動脈IMTを測定して、その値に基づいてアテローム性動脈硬化症の有無を診断した。
【0129】
頸動脈IMTの測定は、頸動脈に対して超音波スキャンを、電気線形変換機を有するエコー断層撮影を用いて行った。7.5MHzを使う場合、このシステムの測定限界は約0.1mmである。上記山崎らの報告に記載する方法に従って、頭蓋外の総頸動脈、頸動脈球、及び内頸動脈のBモードイメージングを行った。
【0130】
頸動脈IMTは、最初のエコーを発生する線の先端から2番目のエコーを発生する線の先端までの距離として測定した。前・側・後の3方向から検索を行い、最大肥厚部と最大肥厚部の前後1cmの部位の3点のIMTを計測、その平均値(average-IMT)を求め、6つのaverage-IMT(前・側・後×左右)の最大値を各被験者の代表値(AveIMT)とした。なお、超音波スキャンは、5箇所の病院で共通の標準化されたプロトコルを使って、訓練された検査者により行なった。
【0131】
実験例1 遺伝子解析およびアテローム性動脈硬化症との関連性評価
酸化ストレスに関連する下記4つの遺伝子の遺伝子多型を対象として、各被験者(n=1746)について、これらの遺伝子多型を解析し、遺伝子型を決定した。
【0132】
【表1】

【0133】
(1)遺伝子多型の決定
具体的には、まず各被験者から静脈血を採取し、DNA分離キット(Qiagen製)を用いてゲノムDNAを分離した。次いで、分離した各被験者のゲノムDNAを鋳型として、蛍光または比色定量に基づくアレル特異的DNAプライマープローブアッセイシステム(東洋紡ジーンアナリシス)を用いて、Yamadaらの文献(N Engl J Med.347(2002)pp.1916-1923)に記載された方法で、上記4つの遺伝子多型(SNPs)の遺伝子型を決定した。
【0134】
(2)GCLM遺伝子の遺伝子多型(GCLM C-588T)とアテローム性動脈硬化症との関係
(2-1)GCLM遺伝子の遺伝子多型(GCLM C-588T)に注目して、その酸化促進アレル(GCLM -588T)の数に応じて、被験者(n=1746)を3つのグループに分けた(酸化促進アレル=0:遺伝子型C/C、酸化促進アレル=1:遺伝子型C/T、酸化促進アレル=2:遺伝子型T/T)。
【0135】
これらの各グループ毎に被験者の特性および臨床所見を纏めた結果を図1に示す。図中の数値は、「平均値±SD」を意味する。
【0136】
(2-2)また全被験者(n=1746)を、各自が有する遺伝子多型(GCLM C-588T)に基づいて、表2に示す3つの分類基準に従って、各基準毎にそれぞれ2〜3つのグループに分類した。
【0137】
【表2】

【0138】
同一グループ内で各種のパラメーター(被験者の特性と臨床所見)について平均値を求め(平均値±SD)、その平均値を同分類内のグループ間で比較し、統計学的処理を行った。
【0139】
分類1と分類2の基準で分類したグループについては、それぞれ各グループの平均値を2つのグループ間で2-tailed unpaired t testまたはχ2 testを用いて比較した。分類3の基準で分類した3グループについては、遺伝子多型と変数の関係をPearson’sunivariate testまたはχ2 testで評価した。
【0140】
AveIMTとカテゴリ変数の間の関係の有意差を決定するために、Spearman’s相関係数を用いた。連続変数のためにPearson’s相関係数を使用した。Bonferroniの補正を、第1種の過誤を<0.05に調節するために使用し、その結果、補正された有意差のレベルは0.0042となった。すなわち、P<0.0042である場合を、統計学的に有意であると判断した。
【0141】
ステップワイズ回帰分析を、AveIMTおよび各種パラメーター(性別、年齢、罹患期間、喫煙状態、肥満度指数、収縮期血圧、HbAl1c、総コレステロール、HDL-コレステロール、トリグリセリド、酸化促進アレル(-588T)の数)の関係を評価するのに用いた。変数の算入と除外のためのF値は4.0に設定した。
【0142】
結果を図1に併せて示す。図中、「NS」は、p値が0.05以上であること、つまりグループ間で有意差がないことを意味する。
【0143】
図1に示すように、AveIMTは、GCLM C-588T遺伝子多型において、「C/Cアレル型<C/Tアレル型<T/Tアレル型」の順に、酸化促進アレル(-588T)の数が増加するにつれて高い値を示した(C/C遺伝子型:0.87±0.19 mm、C/T遺伝子型:0.91±0.23 mm、T/T遺伝子型:0.93±0.35 mm)。Pearson’s相関係数検定から、AveIMTは酸化促進アレル(-588T)の数と有意に相関していることが確認された(r=0.090、p=0.0008)。また、図1に示すように、分類2の基準で分けた場合も、Bonferroni’s多数比較検定により、T/T +C/T 遺伝子型とC/C遺伝子型の間でAveIMTは有意差が認められた(p=0.0002)。しかし、分類1の基準でわけた場合には、T/T遺伝子型とC/T+C/C 遺伝子型の間で、AveIMTに有意差は認められなかった。
【0144】
(3)MPO遺伝子の遺伝子多型(MPO G-463A)とアテローム性動脈硬化症との関係
(3-1)MPO遺伝子の遺伝子多型(MPO G-463A)に注目して、その酸化促進アレル(MPO -463G)の数に応じて、被験者を3つのグループに分けた(酸化促進アレル=0:遺伝子型A/A、酸化促進アレル=1:遺伝子型A/G、酸化促進アレル=2:遺伝子型G/G)。
【0145】
これらの各グループ毎に被験者の特性および臨床所見を纏めた結果を図2に示す。図中の数値は、「平均値±SD」を意味する。
【0146】
(3-2)また全被験者(n=1746)を、各自が有する遺伝子多型(MPO G-463A)に基づいて、表3に示す3つの分類基準に従って、各基準毎にそれぞれ2〜3つのグループに分類した。
【0147】
【表3】

【0148】
前述する(2-2)と同様に、同一グループ内で各種のパラメーター(被験者の特性と臨床所見)について平均値を求め(平均値±SD)、その平均値を同分類内のグループ間で比較し、統計学的処理を行った。結果を図2に併せて示す。図中、「NS」は、p値が0.05以上であること、つまりグループ間で有意差がないことを意味する。
【0149】
図2に示すように、MPO G-463A遺伝子多型に関しても、AveIMTは、「A/A遺伝子型<A/G遺伝子型<G/G遺伝子型」の順に、酸化促進アレル(463G)の数が増加するにつれて高い値を示す傾向があった(A/A 遺伝子型:0.82±0.20mm 、G/A遺伝子型:0.86±0.18 mm、G/G遺伝子型:0.88±0.21mm)。AveIMTと酸化促進アレル(-463 G)の数の間に弱い関連性が認められたが(r=0.051、p=0.0331)、Bonferroni’sの補正後は、統計学的に有意でなかった。
【0150】
(4)PON1遺伝子の遺伝子多型(PON1Gln192Arg)とアテローム性動脈硬化症との関係
(4-1)PON1遺伝子の遺伝子多型(PON1 Gln192Arg)に注目して、その酸化促進アレル(192Gln)の数に応じて、被験者を3つのグループに分けた(酸化促進アレル=0:遺伝子型Arg/Arg、酸化促進アレル=1:遺伝子型Gln/Arg、酸化促進アレル=2:遺伝子型Gln/Gln)。
【0151】
これらの各グループ毎に被験者の特性および臨床所見、ならびに頸動脈IMT(AveIMT)を纏めた結果を図3に示す。図中の数値は、「平均値±SD」を意味する。
(4-2)また全被験者(n=1746)を、各自が有する遺伝子多型(PON1 Gln192Arg)に基づいて、表4に示す3つの分類基準に従って、各基準毎にそれぞれ2〜3つのグループに分類した。
【0152】
【表4】

【0153】
前述する(2-2)と同様に、同一グループ内で各種のパラメーター(被験者の特性と臨床所見)について平均値を求め(平均値±SD)、その平均値を同分類内のグループ間で比較し、統計学的処理を行った。結果を図3に併せて示す。図中、「NS」は、p値が0.05以上であること、つまりグループ間で有意差がないことを意味する。
【0154】
図3に示すように、PON1 Gln192Arg遺伝子多型に関しても、AveIMTは、「Gln/Gln遺伝子型 < Gln/Arg遺伝子型 < Arg/Arg遺伝子型」の順に、酸化促進アレル(192Gln)の数が増加すると高い値を示す傾向があった(Arg/Arg 遺伝子型:0.87±0.21mm、Arg/Gln 遺伝子型:0.89±0.21mm、Gln/Gln 遺伝子型)。AveIMTと酸化促進アレル(192Gln)の数の間に僅かに関連性が認められたが(r=0.047、p=0.0482)、Bonferroni’sの補正後は統計学的に有意でなかった。
【0155】
(5)CYBA遺伝子の遺伝子多型(CYBA C242T)とアテローム性動脈硬化症との関係
(5-1) CYBA遺伝子の遺伝子多型(CYBAC242T)に注目して、その酸化促進アレル(242C)の数に応じて、被験者を3つのグループに分けた(酸化促進アレル=0:遺伝子型T/T、酸化促進アレル=1:遺伝子型C/T、酸化促進アレル=2:遺伝子型C/C)。
【0156】
これらの各グループ毎に被験者の特性および臨床所見、ならびに頸動脈IMT(AveIMT)を纏めた結果を図4に示す。図中の数値は、「平均値±SD」を意味する
(3-2)また全被験者(n=1746)を、各自が有する遺伝子多型(CYBA C242T)に基づいて、表5に示す3つの分類基準に従って、各基準毎にそれぞれ2〜3つのグループに分類した。
【0157】
【表5】

【0158】
前述する(2-2)と同様に、同一グループ内で各種のパラメーター(被験者の特性と臨床所見)について平均値を求め(平均値±SD)、その平均値を同分類内のグループ間で比較し、統計学的処理を行った。結果を図4に併せて示す。図中、「NS」は、p値が0.05以上であること、つまりグループ間で有意差がないことを意味する。
【0159】
図4に示すように、AveIMTとCYBA C242T遺伝子多型に、統計学的に有意な差はなかった。
【0160】
(6)心血管系疾患の危険因子とAveIMTとの関係
図5(単変量解析の欄)に示すように、AveIMTは、性別(r=0.049、p=0.0406)、年齢(r=0.406、p<0.0001)、罹患期間(r=0.234、p=0.0001)、収縮期血圧(r=0.146、p=0.0001)および遺伝子多型(GCLM C-588T)と正の相関関係が認められた。一方、AveIMTは、血清中のHDL-コレステロール値(r=-0.116、p<0.0001)と負の相関関係があることが認められた。
【0161】
(6-2)この結果をうけて、次に遺伝子多型(GCLM C-588T)が独立して、AveIMTと相関するか否かを検定するために、段階的に多変量回帰解析を行った。
【0162】
その結果、図5(多変量回帰解析の「Model 1」の欄)に示すように、遺伝子多型(GCLM C-588T)(F=11.8、p=0.0006)、性別(F=10.9、p=0.0010)、年齢(F=264.5、p<0.0001)、罹患期間(F=34.0、p<0.0001)、収縮期血圧(F=17.9、p<0.0001)及びHDLコレステロール値(F=15.7、p<0.0001)が、それぞれAveIMTに対する独立した危険因子であることが判明した。この結果は、GCLM 遺伝子の遺伝子多型(GCLM C-588T)が、上記他の危険因子とは独立して、日本人の2型糖尿病の患者におけるアテローム性動脈硬化症の発症に関係することを示している。特にAveIMTは、遺伝子多型(GCLM C-588T)の酸化促進アレル(-588T)の数が増加するにつれて大きくなることから、当該酸化促進アレル(-588T)の数が、上記他の危険因子とは独立して、AveIMT、すなわち2型糖尿病患者におけるアテローム性動脈硬化症の危険因子であることが明らかになった。
【0163】
一方、他の3つの遺伝子多型(MPO G-463A、PON1 Gln192Arg、及び CYBAC242T)に関しては、(3)〜(5)に示すように、より多くの酸化促進アレルを持つ被験者がより高いAveIMTを示す傾向は認められたものの、統計学的に有意差はなかった。すなわち、MPO遺伝子、PON1遺伝子、及び CYBA遺伝子の各遺伝子多型(GCLM C-588T、MPO G-463A、PON1 Gln192Arg、CYBA C242T)の結果だけでは、アテローム性動脈硬化症の有無を評価することができないことを意味する。この結果は、アテローム性動脈硬化症とMPO G-463A遺伝子多型との関連性を示す報告(B.Nikpoor, et al., Am Heart J. 142 (2001) 336-339、R. Makela, et al., Clin Biochem. 41, (2008) 532-553)、PON1 Gln192Arg遺伝子多型との関連性を示す報告(M. Mackness, et al., Free Radic Biol Med.37 (2004) 1317-1323、C.J.Ng, et al., Free Radic Biol Med. 38(2005) 153-163)、およびp22phox C242T遺伝子多型との関連性を示す報告(N. Inoue, et al., Circulation.97(1998) 135-137、C.Cahilly, et al.,Circ Res. 86(200)391-395)と相違するものであるが、その理由として、本実験では、多重比較による1型誤差を回避するために、非常に厳格なレベルの統計学的な有意差(P=0.0042)を設定したことを挙げることができる。
【0164】
実験例2 アテローム性動脈硬化症における酸化ストレス関連遺伝子多型の複合的効果
(1)酸化促進アレル数とAveIMTとの関連性
(1-1)被験者(n=1746)を、4つの酸化ストレス関連遺伝子の酸化促進アレル(GCLM -588T、MPO-463G、PON1 192Gln、CYBA 242C)の数に基づいて、8つのグループに分けた。酸化促進アレル数が0、1、2、3、4、5、6、7及び8の被験者のAveIMTは、それぞれ、0.74±0.17 (n=4)、0.81±0.11 (n=23)、0.84±0.16 (n=193)、0.87±0.21 (n=615)、0.88±0.19 (n=600)、0.90±0.25 (n=266)、0.97±0.30 (n=41)、及び0.95±0.17 mm (n=4)であった。アレル数が1と8である被験者の数はとても少ないため、アレル数が1と2の被験者、及び7と8の被験者はそれぞれ一緒にして、合計6つのグループ(1と2、3、4、5、6、7と8)の被験者について統計解析を行った。
【0165】
Tukey-Kramer’s検定の後、一方向ANOVAを行うことにより、酸化促進アレル数が7-8の被験者とアレル数が1-2、3または4の被験者とのそれぞれの間、並びに酸化促進アレル数が3の被験者とアレル数が6の被験者との間に、AveIMTに有意な差(p<0.05)があることが確認された(図6)。Pearson’s相関係数検定では、酸化促進アレルの数とAveIMTの間に、有意な相関関係があることが認められた(r=0.108、p<0.0001)。
【0166】
(1-2)酸化促進アレルの数が、従来の危険因子(性別、年齢、罹患期間、収縮期血圧、及びHDLコレステロール値)とは独立して、AveIMTの危険因子になることを確認するために、性別、年齢、罹患期間、収縮期血圧、HDL-コレステロール値、及び酸化促進アレルの数をそれぞれ独立の変数とし、AveIMTを目的変数として段階的多変量回帰解析を行った。
【0167】
その結果、図5(多変量回帰解析の「Model 2」の欄)に示すように、4つの酸化ストレス関連遺伝子の酸化促進アレル(GCLM -588T、MPO-463G、PON1 192Gln、CYBA 242C)の総数(図5中、「酸化促進アレル(1)」として示す)が、AveIMTの独立した危険因子であることが判明した(F=13.5、p=0.0003)。
【0168】
(1-3)実験例1で示したように、GCLM遺伝子の酸化促進アレル(GCLM -588T)は独立してAveIMTに影響するので、遺伝子多型(GCLM C-588T)を除外して解析を行った。具体的には、GCLM遺伝子以外の3つの酸化ストレス関連遺伝子の酸化促進アレル(MPO-463G、PON1 192Gln、CYBA 242C)の数に基づいて、被験者を6つのグループに分けた。酸化促進アレル数が0、1、2、3、4、5及び6の被験者のAveIMTは、それぞれ、0.78±0.17(n=5)、0.80±0.14(n=35)、0.85±0.18(n=256)、0.88±0.22(n=768)、0.89±0.21(n=552)、及び0.90±0.23 mm(n=130)であった。アレル数が1と2の被験者の数はとても少ないため、アレル数が1と2の被験者は一緒にして、合計5つのグループ(1と2、3、4、5および6)の被験者について単変量回帰解析を行った。
【0169】
その結果、図5の(単変量回帰解析の欄)に示すように、Pearson’s相関係数検定により、3つの酸化ストレス関連遺伝子の酸化促進アレルの総数(図5中、「酸化促進アレル(2)」として示す)とAveIMTとの間に有意な相関が認められた(r=0.072、p=0.0026)。また、一方向ANOVAにより、酸化促進アレル数が1-2である被験者とアレル数が6の被験者との間で、AveIMTに有意差があることが確認された(p<0.05)。
【0170】
また図5の(多変量回帰解析の「Model 3」の欄)に示すように、段階的多変量回帰解析により、酸化促進アレルの総数が、AveIMTの独立した危険因子であることが示された(F=4.9、p=0.0271)。これらの結果は、GCLM遺伝子以外の酸化ストレス関連遺伝子の酸化促進アレルの総数もまた、従来の危険因子とは独立して、頸動脈の内膜中膜肥厚度、すなわち2型糖尿病患者におけるアテローム性動脈硬化症と相関することを示唆している。
【0171】
(2)酸化促進アレルの数と血清8-OHdG値との関連性
酸化促進アレルの数と酸化ストレスのマーカーである血清8-OHdG値(R.Malin et al., Hum Genet. 105(1999)179-180)との関連性を調べた。
【0172】
(2-1)血清8-OHdGの測定
血清中の8-OHdG量は、R.Malinら(Hum Genet.105 (1999)179-180)の方法に従って、競合的ELISAを用いて測定した(高感度8-OHdG検査;日本老化制御研究所)。ちなみに、測定サンプルは、8-OHdGの自己酸化を防ぐために窒素ガスで飽和して用いた。血清8-OHdG測定の内部アッセイ変動係数は2.3%から8.7%であった。
【0173】
4つの酸化ストレス関連遺伝子の酸化促進アレル(GCLM -588T、MPO-463G、PON1 192Gln、CYBA 242C)の数に応じて分類した6つグループについて、各グループの血清8-OHdG値の平均値を求めた。
【0174】
(2-2)結果
結果を図7に示す。図7に示すように、酸化促進アレル総数が7-8の被験者は血清8-OHdG値が最も高く、また酸化促進アレル総数が1-2の被験者は血清8-OHdG値が最も低く(p= 0.0074)、酸化促進アレルの総数と血清8-OHdG値との間には正の相関関係があることが観察された。
【0175】
この結果から、酸化促進アレルの集積と酸化ストレスの増加には相関関係があり、酸化促進アレルの集積を背景とした酸化ストレスが、2型糖尿病患者におけるアテローム性動脈硬化症の発症や進行に影響を与えていると考えられる。
【0176】
実験例3 2型糖尿病における心筋梗塞への酸化ストレス関連遺伝子の酸化促進アレルの集積的効果
(1)被験者
日本人の2型糖尿病患者を対象とした。具体的には、5つ病院(大阪大学病院、愛媛県立中央病院、愛媛県立今治病院、石橋クリニック、那珂記念クリニック)で、一年間(2005年の1月から12月の期間)、糖尿病の外来に定期的に通院した50歳以上の2型糖尿病患者、合計2561名を対象とした。実験例1〜2と同様、2型糖尿病の判断は世界保健機構(WHO)の判定基準に基づいて行った。すべての被験者には、本研究の趣旨および内容を十分に説明した後、書面でインフォームドコンセントを得た。
【0177】
(2)被験者の特性および臨床所見
被験者の性別、平均年齢、罹患期間、喫煙率、肥満度指数、HbA1c7、収縮期及び拡張期血圧、血清の総コレステロール値およびHDL-コレステロール値、トリグリセリドは下記の通りである。
男性/女性:62%/38%、
平均年齢:60.9±9.9歳(平均値±SD)
罹患期間:7.0±7.3年
喫煙率:49%
肥満度指数:24.0±3.5kg/m2
HbA1c:7.0±1.3%
収縮期血圧:133±17mmHg、拡張期血圧:79±11mmHg、
血清総コレステロール:193±34mg/dl、
トリグリセリド:131±115mg/dl
HDL-コレステロール:57±16mg/dl。
【0178】
(3)遺伝子多型の決定
実験例1〜2と同様にして、各被験者から分離したゲノムDNAを鋳型として、蛍光または比色定量に基づくアレル特異的DNAプライマープローブアッセイシステム(東洋紡ジーンアナリシス)を用いて、Yamadaらの文献(N Engl J Med.347(2002)pp.1916-1923)に記載された方法で、4つの遺伝子多型(SNPs)の遺伝子型を決定した。結果を表に示す。
【0179】
【表6】

【0180】
(4)心筋梗塞有病率との関連性評価
酸化ストレスに関連する上記4つの酸化ストレス関連遺伝子の遺伝子多型のそれぞれと、2型糖尿病患者の心筋梗塞の有病率との間に有意な相関関係は認められなかった。
【0181】
(5)酸化促進アレル数と心筋梗塞の有病率との関連性
(1-1)被験者(n=2561)を、4つの酸化ストレス関連遺伝子の酸化促進アレル(GCLM -588T、MPO-463G、PON1 192Gln、CYBA 242C)の数に基づいて、8つのグループに分けた。各グループについて心筋梗塞の有病率を調べたところ、酸化促進アレルの総数が5以上の被験者(n=731)の有病率は、酸化促進アレルの総数が4以下の被験者(n=1830)の有病率よりも有意に高かった。多変量回帰解析の結果からも、酸化促進アレルの総数が5以上の被験者(n=731)の心筋拘束の発症する確率が高いことが示された(オッズ比1.50[95%CI:1.04-2.16]、p=0.0296)。性別、年齢、罹患期間、喫煙状態、BMI、血圧、HbA1cレベル、脂質のプロファイルと有病率との間に有意な相関はなかった
以上のことから、酸化促進アレルの集積は、2型糖尿病患者のアテローム性動脈硬化の発症や進行のみならず心筋梗塞の発症に相関関係があり、当該患者の動脈硬化性疾患の罹患リスクの指標になることと考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の工程を含む、糖尿病患者について動脈硬化性疾患の罹患リスクを判定する方法:
(a)糖尿病患者の生体試料を対象として、glutamate-cysteine ligase modifier subunit (GCLM)遺伝子の-588位の遺伝子多型(GCLM C-588T)を検出する工程、および
(b)上記GCLM遺伝子の-588位の遺伝子多型(GCLM C-588T)を識別する工程。
【請求項2】
さらに下記の工程(c)を含む、請求項1記載の判定方法:
(c)GCLM遺伝子の-588位の遺伝子多型(GCLM C-588T)がC/Cアレル型の場合に動脈硬化性疾患の罹患リスクが低く、C/Tアレル型またはT/Tアレル型の場合に、Tアレルの数の多さに応じて動脈硬化性疾患の罹患リスクが高いと判定する工程。
【請求項3】
下記の工程(A)及び(B)を含む、糖尿病患者について動脈硬化性疾患の罹患リスクを判定する方法:
(A)糖尿病患者の生体試料を対象として、下記(1)〜(4)の遺伝子の全遺伝子多型を検出する工程:
(1) glutamate-cysteine ligase modifier subunit(GCLM)遺伝子の-588位の遺伝子多型(GCLM C-588T)、
(2) myeloperoxidase(MPO)遺伝子の-463位の遺伝子多型(MPO G-463A)、
(3) human paraoxonase 1(PON 1)遺伝子の遺伝子多型(PON 1 Gln192Arg)、
(4) NAD(P)H oxidase p22phox遺伝子の242位の遺伝子多型(NAD(P)H oxidase p22phox C242T)、および
(B)上記(1)〜(4)の遺伝子の全遺伝子多型を識別する工程。
【請求項4】
さらに下記の工程(C)を含む、請求項3記載の判定方法:
(C)各糖尿病患者について(B)工程で得られた (1)〜(4)または(2)〜(4)の遺伝子の遺伝子多型から酸化促進アレルの数を合計し、(1)〜(4)の遺伝子多型の酸化促進アレルの総数、または(2)〜(4)の遺伝子多型の酸化促進アレルの総数の多さに応じて動脈硬化性疾患の罹患リスクが高いと判定する工程。
【請求項5】
(1)〜(4)の遺伝子多型の酸化促進アレルの総数、または(2)〜(4)の遺伝子多型の酸化促進アレルの総数が5以上の場合を動脈硬化性疾患の罹患リスクが高いと判定する請求項4に記載の判定方法。
【請求項6】
動脈硬化性疾患が、アテローム性動脈硬化症または心筋梗塞である、請求項1乃至5のいずれか記載する判定方法。
【請求項7】
下記(i)に記載するプライマーまたは(ii)に記載するプローブのいずれか少なくとも一方を含む、糖尿病患者について動脈硬化性疾患の罹患リスクを判定するための検査薬:
(i)glutamate-cysteine ligase modifier subunit(GCLM)遺伝子を含む第1染色体(1p22.1)の塩基配列において、GCLM遺伝子の-588番目に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズし、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドを特異的に増幅するために用いられる15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物からなるプライマー、
(ii) GCLM遺伝子を含む第1染色体(1p22.1)の塩基配列において、GCLM遣伝子の-588番目に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴ若しくはポリヌクレオチドまたはその標識物からなる固相に固定されていてもよいプローブ。
【請求項8】
下記(i-1)〜(i-4)に記載するプライマー、または(ii-1)〜(ii-4)に記載するプローブのいずれか少なくとも一方を含む、糖尿病患者について動脈硬化性疾患の罹患リスクを判定するための検査薬:
(i-1)glutamate-cysteine ligase modifier subunit(GCLM)遺伝子を含むヒト第1染色体(1p22.1)の塩基配列において、GCLM遺伝子の-588番目に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズし、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドを特異的に増幅するために用いられる15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物からなるプライマー、
(i-2)myeloperoxidase(MPO)遺伝子を含むヒト第17染色体(17q23.1)の塩基配列において、MPO遺伝子の-463番目に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズし、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドを特異的に増幅するために用いられる15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物からなるプライマー、
(i-3)human paraoxonase 1(PON1)遺伝子を含むヒト第7染色体(7q21.3)の塩基配列において、(PON1)遺伝子の672番目に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズし、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドを特異的に増幅するために用いられる15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物からなるプライマー、
(i-4)NAD(P)H oxidase p22phox(CYBA)遺伝子を含むヒト第16染色体(16q24)の塩基配列において、CYBA遺伝子の242番目に位置するヌクレオチドを含む16塩基長以上の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズし、当該オリゴ若しくはポリヌクレオチドを特異的に増幅するために用いられる15〜35塩基長のオリゴヌクレオチドまたはその標識物からなるプライマー、
(ii-1) GCLM遺伝子を含むヒト第1染色体(1p22.1)塩基配列において、GCLM遺伝子の-588番目に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴ若しくはポリヌクレオチドまたはその標識物からなる固相に固定されていてもよいプローブ、
(ii-2)MPO遺伝子を含むヒト第17染色体(17q23.1)の塩基配列において、MPO遺伝子の-463番目に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴ若しくはポリヌクレオチドまたはその標識物からなる固相に固定されていてもよいプローブ、
(ii-3)PON 1遺伝子を含むヒト第7染色体(7q21.3)の塩基配列において、PON 1遺伝子の672番目に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴ若しくはポリヌクレオチドまたはその標識物からなる固相に固定されていてもよいプローブ、
(ii-4)NAD(P)H oxidase p22phox(CYBA)遺伝子を含むヒト第16染色体(16q24)の塩基配列において、CYBA遺伝子の242番目に位置するヌクレオチドを含む16〜500塩基長の連続したオリゴ若しくはポリヌクレオチドにハイブリダイズする16〜500塩基長のオリゴ若しくはポリヌクレオチドまたはその標識物からなる固相に固定されていてもよいプローブ、
【請求項9】
請求項6または7に記載するプライマーとプローブとを、それぞれ別個の包装形態で含む、糖尿病患者について動脈硬化性疾患の罹患リスクを判定するための検査薬キット。
【請求項10】
動脈硬化性疾患がアテローム性動脈硬化症または心筋梗塞である、請求項6若しくは7に記載する検査薬、または請求項8に記載する検査薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−10618(P2011−10618A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−159033(P2009−159033)
【出願日】平成21年7月3日(2009.7.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼掲載年月日 2009年1月4日 掲載アドレス http://www.sciencedirect.com/science? ▲2▼掲載年月日 2009年4月28日 掲載アドレス http://care.diabetesjournals.org/content/32/5/e55.extract ▲3▼掲載年月日 2009年5月4日 掲載アドレス http://www.sciencedirect.com/science?
【出願人】(505195764)株式会社サインポスト (6)
【Fターム(参考)】