説明

糖尿病症状の診断及び血糖コントロール監視用13Cグルコース呼気試験

【課題】グルコース調節の測定における侵襲性試験の必要性や血液担持マーカーの使用を回避することを可能すること。
【解決手段】所定量の13C富化グルコースと呼気採取容器とを含む、被検者における血糖
コントロール測定用診断キットであって、1つの実施形態において、複数の呼気採取容器をさらに含み、また別の実施形態において、糖尿病の診断に用いられる、さらに別の実施形態において、インスリン抵抗性の診断に用いられる、診断キット。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
糖耐性は、グルコースを適切に利用する能力として定義されている。糖尿病は
単一の疾病ではなく、糖不耐性、グルコース利用障害の共通症状を示す一連の疾
病である。
【0002】
一般被検者全体に占める糖尿病の罹患率は、約6〜7%である。糖尿病の約半
分しか実際に診断されていない。研究の結果、グルコース不耐性を患うヒトの割
合は、男女とも等しく、且つ白人よりも黒人が大きいことが判明した。
【0003】
一般的に、以下の種類の糖尿病が分かっている:I型糖尿病、II型糖尿病、
二次性糖尿病、耐糖能障害及び妊娠グルコース異常。
【0004】
糖尿病の症状の一般的な特徴には、
多尿(高尿血容積)
高血糖(高血中グルコースレベル)
糖尿(尿中グルコースの減少)
多渇(過度の口渇)
多食(過度の空腹)
突然の体重減少
などがある。
【0005】
糖尿病から生じる合併症は、ほとんどの先進国における死因の第3位となって
いる。糖尿病は、冠動脈性心疾患、脳血管性発作、末梢神経障害(神経の損傷)
、ネフロパシー(腎臓の損傷)、網膜症(眼の障害)、高脂質血症(血中脂質過
多)、血管障害(血管の損傷)及び感染を含む種々の病気の危険因子である。
【0006】
グルコースについての不耐性の状態を測定する多数の異なる方法が存在する。
これらの方法には、食後血糖、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)、O’Sul
livanブドウ糖負荷試験(妊娠試験)、ヘモグロビンAlc(Hb A
Hb Alc)、島細胞抗体、GAD抗体(グルタミン酸デカルボキシラーゼ)
及びインスリン抗体などがある。しかしながら、炭水化物代謝能を試験すると、
糖尿病は最も容易に検出される。これは、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)と
同様に、システムに所定のブドウ糖負荷をかけることによりなされる。
【0007】
しかしながら、試験結果に影響する変数の多くが制御するのが困難であること
から、このOGTTは批判されている。例えば、患者は、試験の少なくとも3日
前から標準化炭水化物患者食をとらなければならない。この試験は、8〜16時
間絶食することが要求されている。試験は、外来通院患者についてのみなされな
ければならない。ストレスは、回避しなければならない。運動は、避けなければ
ならない。チロキシン、成長ホルモン、コルチゾル及びカテコールアミン等の種
々のホルモンのアンバランスは、有効性に影響することがある。経口避妊薬、サ
リチル酸塩、ニコチン酸、利尿薬及び血糖降下薬等の種々の薬剤及び投薬が、有
効性に影響することがある。評価は、通常年齢ごとに修正しなければならない。
OGTTの最大の欠点は、再現性が悪いこと、及びこれにより診断の有効性が限
定されることである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
糖尿病を診断する現行の方法には、侵襲性試験(すなわち、血液採取の反復)
が含まれていたり、グルコース調節を間接評価する血液担持マーカー(すなわち
、グルコシル化タンパク質又は抗体)の使用が含まれている。したがって、本発
明の目的は、グルコース調節の測定における侵襲性試験の必要性や血液担持マー
カーの使用を回避することである。
【0009】
本発明の上記及び他の目的は、グルコース調節を必要としている患者における
13C呼気試験及びグルコース調節測定用キットによって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0010】
非放射性13Cの使用に基づく分析アッセイを説明する。本アッセイでは、標
識呼気13COを測定する。同位体比質量分光分析法(IRMS)を、食品及
び動物組織に自然に生じる非放射性同位体である13C検出法として使用する。
非分散型赤外分光(NDIRS)分析及び当該技術分野において公知な分析法を
、使用してもよい。試験プロトコルは、以下の通りである:一晩の絶食後、13
C均一標識グルコース(13Cグルコース約25mgと、水道水100mLに未
標識グルコース約15gとを組み合わせて含有)を経口投与する。呼気試料は、
投与前と、次に13Cグルコース摂取1.5時間後とに採取する。呼気中の13
COレベルを、IRMS法により測定する。
【0011】
本試験の利点は、以下の通りである:
−実用的、高感度且つ特異的である;
−試験の有効性は、ストレス、運動、ホルモンのアンバランス又はある種の薬
剤及び投薬により影響されない;
−非侵襲性法である;
−簡単に実施でき、医院や医療検査室において容易に使用できる;
13Cは、全ての炭素含有物質に見られる天然同位体であるので安全である

−放射活性を含まず、子供及び女性に使用できる。
【0012】
13Cグルコース試験は、糖尿病の診断及び患者のインスリン耐性の重症度の
測定において安全であり、信頼性よく且つ特異的である。また、本発明は、妊娠
糖尿病の診断及び糖尿病患者における血糖コントロールを監視することにも好ま
しい。本発明の好ましい実施態様によれば、記載の方法を実施するのに必要な物
質を含むキットが提供される。このキットは、13C富化グルコース(好ましく
は均一標識されたD−グルコース)源;未富化グルコース源;及び呼気採取装置
を含んでいてもよいが、これには限定されない。また、キットは、一組の患者の
使用説明書を含んでいてもよい。別の実施態様においては、キットは、さらに血
糖レベルのさらなる測定用のランセット又は皮下針及びバキュテーナ等の血液採
取装置を含んでいてもよい。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
13C呼気試験を導入することにより、高度に富化され、均一に標識された
Cグルコースを用いて呼気COを測定することによりグルコース代謝を監視
するための新規な非侵襲性直接手段が提供される。グルコース代謝により標識C
が発生し、その後、呼気され、チューブに採取される。所定時間にわたる標
識COの富化を、グルコース代謝の定量指数として使用できる。齢別基準間隔
と比較する。
【0014】
本発明は、必要グルコース糖投与量の低下(吸収不良疾患や、以前の胃又は腸
の手術による非コンシステンシーの克服)、試験時間の減少(OGTTに必要な
現行の2時間からの減少)及び解釈アンビギュイティー(感度及び特異性の増加
)の減少を含む多数の利点を有する。
【0015】
13Cグルコース呼気試験は、グルコースの代謝に基づくものである。ベース
ライン呼気試料採取後、13Cグルコース約25mgを未標識グルコース約15
gと組み合わせて水道水100mLに含有させた13Cグルコース溶液を投与す
る。呼気試料を、投与前と、次に13Cグルコース摂取12時間後に得る。呼気
の測定値は、同位体比質量分光分析アッセイ法により検出する。高又は過剰呼気
13CO濃度が、正常なグルコース代謝を示すヒトに見られる。
よって、本発明によって、以下が提供される:
(1) 所定量の13C富化グルコースと呼気採取容器とを含む、被検者における血糖
コントロール測定用診断キット。
(2) 複数の呼気採取容器をさらに含む、項目1に記載の診断キット。
(3) 糖尿病の診断に用いられる、項目1又は2に記載の診断キット。
(4) インスリン抵抗性の診断に用いられる、項目1又は2に記載の診断キット。
(5) 妊娠糖尿病の診断に用いられる、項目1又は2に記載の診断キット。
(6) 抗高血糖療法の妥当性の測定に用いられる、項目1又は2に記載の診断キッ
ト。
(7) 13C富化グルコースが、均一に富化されている、項目1〜6に記載の診断
キット。
(8) 被検者の呼気を呼気採取容器に移行させるように配置されたチューブをさらに
含む、項目1〜6に記載の診断キット。
(9) 被検者の第一呼気試料を第一呼気採取容器に採取し、13C富化グルコースを
摂取し、前記13C富化グルコースを摂取してから約90分後の時点で第二呼気
試料を採取する旨の指示がなされている一組の取扱説明書をさらに含む、項目
1〜8に記載の診断キット。
(10) 被検者における血糖コントロール測定のための、13C富化グルコースの使用。
(11) 被検者における血糖コントロール測定用診断キットの製造に用いられる、13C富化グルコース。
(12) 糖尿病検出用診断キットの製造に用いられる、項目11に記載の13C富化
グルコース。
(13) 妊娠糖尿病検出用診断キットの製造に用いられる、項目11に記載の13
富化グルコース。
(14) インスリン抵抗性検出用診断キットの製造に用いられる、項目11に記載の
13C富化グルコース。
(15) 抗高血糖療法の妥当性測定用診断キットの製造に用いられる、項目11に記
載の13C富化グルコース。
(16) 所定量の13C富化グルコースと、呼気採取容器と、血液試料採取装置とを含む、血糖レベルと呼気中13C富化COレベルとを比較することによる正常被
検者、糖尿病被検者及びインスリン抵抗性被検者における血糖コントロール測定
用診断キット。
【実施例】
【0016】
以下、実施例により本発明を説明する。これらの実施例は、いずれにおいても
本発明の範囲を限定するものではない。
【0017】
実施例1:患者の診断用試料アッセイ
実験手順
医療歴
能動肺疾患のないこと、心不全、肝不全又は腎不全の病歴がないこと、及び糖
尿病の治療のためのインスリンの使用や経口投薬のないことなどの医療歴をとる
がこれらには限定されない。
【0018】
理学的検査及び実験室検査
血液採取を含む理学的検査や実験室検査を必要としない。
【0019】
食事コントロール
試験の開始前に全ての当事者が一晩絶食したことを確認する。
【0020】
患者コントロール
当事者は、試験中は、食べたり、飲んだり、たばこを吸ったりしてはならない
。全ての患者は、試験の間、座ったままでいることが必要である。少量の水はよ
い。
【0021】
アッセイの手順
患者は、この試験前に少なくとも8時間絶食する。
【0022】
患者への指示の典型例を以下に示す:
工程1:第一呼気試料の採取
・採取チューブからスクリューキャップを取り外す。
・通常の息の吸い込みとその後の吐き出しを十分に4〜8秒間、採取チューブ
の底に位置させたストローを介しておこなう。
・直ちに採取チューブにスクリューキャップを戻し、ぴったりと締める(締め
すぎないこと)。
・書き込み済みのグリーンラベルを採取チューブに付ける。
【0023】
工程2:溶液を飲む
・水道水をプラスチック容器の満杯ラインまで加えることにより溶液を調製す
る。完全に溶解するまで混合した後、溶液全体を飲み干す。
・1.5時間待つ。
【0024】
工程3:第二呼気試料を採取する
・溶液を飲んでから1.5時間後、工程1における第一呼気試料と同様にして
第二呼気試料を採取チューブに採取する。
・書き込み済みの黄色ラベルを採取チューブに付ける。
【0025】
工程4:分析のために試料を戻す
・2つの採取チューブを署名し且つ書き込み済みの登録カードといっしょにメ
ールボックスに入れる。
・指示通りにメールボックスを、小出しする場所に戻す。
【0026】
実施例2:呼気試験投与
スクリューキャップを取り外した状態で採取チューブを患者に渡す。ストロー
を用いて、チューブに息を吹き込み、通常4〜8秒間息を吐き出す。次に、各患
者に、均一に標識した13Cグルコース約25mgと未標識グルコース約15g
とを組み合わせて水道水100mLに添加して調製した溶液を飲ませる。12時
間後、患者に新しいチューブを渡して、上記したようにして息を吹き込ませる。
これで、呼気採取は、完了である。
【0027】
保存及び輸送
呼気試験管に、典型的には患者の名前と確認番号のラベルを付け、分析検査室
に輸送して分析する。この際、冷蔵や特別な保存法は必要ない。
【0028】
実施例3:分析法
呼気試料を、同位体比質量分光分析法により分析する。NDIRSも、呼気試
験試料を分析するのに好ましい方法である。また、他の当該技術分野において公
知の方法を用いてもよい。
【0029】
統計的解析
呼気試験の感度、特異性、陽性及び陰性予測値を、経口ブドウ糖負荷試験の値
と比較する。レシーバーオペレータ特性曲線解析をおこなって、II型糖尿病又
は妊娠糖尿病と、正常グルコース代謝のヒトとの識別確認する。
【0030】
実施例4:IRMSの方法の基礎
同位体比質量分光分析法(IRMS)は、少量の試料(低ナノグラム量)を測
定することができる高精度分析方法である。例えば、13C/12C比は、一炭
素分子(COガス)について測定する。COガスは、連続フローIRMS(
「CF−IRMS」とも称される)により、分光計に導くことができる。
【0031】
炭素の同位体(12C及び13C)と酸素(16O、17O、18O)とを統
計的に組み合わせてCO分子を発生させると、分子量がそれぞれ44、45及
び46である種々のアイソトポマーが生成する。したがって、炭素同位体比を測
定するために、COの種々のアイソトポマーの質量に相当する3つのイオンビ
ームをIRMSで発生させ、記録する。
【0032】
高精度及び高正確さを得るために、完全に公知な同位体組成の基準ガスを使用
し、二重インレットシステムにより、試料と基準ガスの両方を、ガス切り替え弁
を介して交互にイオン化源に入れる。種々のイオンビームを測定することにより
、試料の13C富化を算出できる。この計算値は、δ13C(‰)で表される。
13C存在比は、下式により、δ13C(‰)で表される:
δ13C(‰)=([(13C/12C)試料/(13C/12C)PDB]
−1)×1000
このδ13C(‰)値は、標準からの炭素同位体比の変化(単位:ppt;p
arts per thousand)を示す。炭素については、PDBを、国
際基準として選択した。PDBは、Pee Dee Belemnitella
(サウスカロライナにおけるthe Pee Dee geological
formationからの化石)である。この化石の炭酸カルシウムからの13
C/12C比は、0.011237である。PDBと比較して、天然化合物のほ
とんどは、負のデルタ値を示す。上記式では、13C/12Cは、アイソトポマ
ーを意味する。
【0033】
本発明の呼気試験を使用したIRMSは、2型及び妊娠糖尿病の診断並びに糖
尿病患者の血糖コントロールを監視する方法の一例である。
【0034】
実施例5:正常ヒト、妊娠糖尿病患者及び耐糖能障害患者についての13Cグル
コース呼気試験結果
実施例4では、本発明の呼気試料の分析法を説明する。図1は、正常ヒトの平
均(±SD)デルタ パー ミル オーバー ベースライン(DOB)を示す。
妊娠糖尿病患者及び耐糖能障害患者のDOBも示されている。プロトコルに従っ
て0時間、1時間、1.5時間及び2時間で採取した呼気試料を、IRMSで分
析した。採取呼気試料のIRMS分析は、AP2003及びAP2002(An
alytical Precisiion)、ABCA(POZ Europa
)並びにBreath MAT(Finnigan MAT)を含むがこれらに
は限定されない種々の機器により実施できる。妊娠糖尿病患者及び耐糖能障害患
者のDOB値は、正常ヒトのDOBより十分低い(図1)。耐糖能障害の診断は
、OGTTにより最初おこない、妊娠糖尿病スクリーンを使用して妊娠糖尿病を
確認した。
【0035】
耐糖能障害(IGT)は、血糖レベルが正常よりも高いが、糖尿病に分類する
ほどには十分に高くない状態を意味する。IGTは、2型糖尿病の主要な危険因
子である。IGTは、成人の約11%、すなわち、約2000万人のアメリカ人
に存在する。65歳以上のヒトの約40〜45%が、2型糖尿病又はIGTであ
る。ブドウ糖負荷試験での2時間グルコース値が7.8mmol/Lを超え、1
1.0mmol/L未満であるときには、ヒトは、一般にIGTであると診断さ
れる。女性は、妊娠しており、且つ以下の項目のうちのいずれか2つが当てはま
るときには、妊娠糖尿病であると診断される:絶食血漿グルコース5.3mmo
l/L超、1時間グルコースレベル10.6mmol/L超、2時間グルコース
レベル8.9mmol/L超。しかしながら、この診断方法は侵襲性であるので
、本発明の呼気試験が、好ましい診断法である。13Cグルコース呼気試験は、
感度がよく、正確且つ非侵襲性である。
【0036】
実施例6:正常ヒト、インスリン抵抗性患者及び糖尿病患者についての13Cグ
ルコース呼気試験結果
本実施例では、正常ヒト、糖尿病患者及びインスリン抵抗性患者について、呼
気試験と血糖レベルの両方を試験した。図2は、IRMSで分析した正常被検者
の0時間、1時間、1.5時間及び2時間呼気試料のDOBを示す。この正常ヒ
トの血糖レベルも、示されている。
【0037】
図3は、糖尿病患者の呼気試験及び血糖レベルを示す。呼気試料のDOBは、
正常ヒトのDOBよりも顕著に低く(図2)、これらの血糖レベルは、糖尿病患
者に典型的なものである。
【0038】
図4は、インスリン抵抗性患者の呼気試験及び血糖レベルを示す。これらの呼
気試料のDOBは、正常DOBよりも顕著に低く(図2)、これらの血糖レベル
は、インスリン抵抗性患者に典型的なものである。
【0039】
これらの結果は、糖尿病及びインスリン抵抗性を診断するための本発明の呼気
試験の一つの好ましい有用性を示している。本発明の別の態様によれば、呼気試
験曲線と血糖試験曲線との間の領域を使用して、種々の群の正常ヒト、糖尿病患
者及びインスリン抵抗性患者の領域を比較することにより、インスリン抵抗性患
者又は糖尿病患者を診断し且つ正常ヒトの糖耐性を確認できる。
【0040】
図5は、正常ヒト、インスリン抵抗性患者及び糖尿病患者の13Cグルコース
呼気試験結果を示す。インスリン抵抗性患者及び糖尿病患者のDOBは、正常D
OB値よりも顕著に低い。
【0041】
実施例7:NDIRSのインストルメンテーション
本発明の呼気試験試料は、NDIRSのインストルメンテーションを用いて分
析することもできる。呼気における13CO12CO比の推移により、糖
尿病を診断できる。NDIRSをさらに使用して、2型糖尿病患者及び妊娠糖尿
病患者を診断したり、糖尿病患者の治療を監視(これらの患者の血糖コントロー
ル)できる。
【0042】
13C標識基質の代謝により、異なる同位体比が生じる。本発明のNDIRS
分析は、MicroLyzer(QuinTron)、UbiT−IR200及
びUbiT−100(Otsuka Pharmaceutical社)、UR
AS10(Hartmann and Braun)並びにIsomax200
0(Isotechnika)を含む種々の機器により実施できるがこれらには
限定されない。
【0043】
実施例8:インスリン抵抗性測定用高インスリン血正常血糖クランプ法
インスリン抵抗性は、インスリンの生物学的作用の減少として定義されており
、主に高インスリン血として現れる。高インスリン血正常血糖クランプ法は、現
在、インスリン抵抗性を定量化する標準法である。クランプ法は、一定速度でイ
ンスリンを注入することからなり、デキストロースを注入することにより血漿中
グルコースレベルの減少を防止する。正常血糖を維持するために注入するデキス
トロースの注入速度は、規定の血漿インスリン濃度の影響下で組織により吸収さ
れるグルコースの推定量である。いくつかのインスリン注入速度を用いることに
より、全身グルコース処理と血漿インスリンレベルとの間の関係が確立し、減少
したインスリン感度の状態及び/又は変更した最大グルコース処理能を識別でき
る。しかしながら、高インスリン血正常血糖クランプ法は、極めて侵襲性であり
、時間がかかり、コストがかかり、ばらつきがある。本発明の呼気試験は、信頼
性があり、感度が高く、特異的であり、経済性があり、非侵襲性であるので、イ
ンスリン抵抗性を測定するのに好ましい方法である。
【0044】
実施例9:糖尿病の長期コントロールの監視
グリコシル化ヘモグロビンの測定は、糖尿病の長期コントロールの監視に使用
される現行試験である。グルコシル化ヘモグロビンは、赤血球の寿命中の高血糖
の影響で増加する。しかしながら、分析法が異なるとグルコシル化ヘモグロビン
の測定値が異なることがあり、結果の解釈には注意を払わなければならない。グ
ルコシル化ヘモグロビンを分析するのに使用されるHPLC又はカラムクロマト
グラフィも、温度及びpHの変化に非常に敏感である。この試験も侵襲性であり
、いくつかの血液試料が必要である。本発明の呼気試験は、非侵襲性であり、感
度がよく、正確で、経済的であるので好ましい。
【0045】
実施例10:糖尿病の診断における13Cグルコース呼気試験の有用性
糖尿病は、インスリン分泌、インスリン作用又はこれらの両方における欠如か
ら生じる、高血糖レベルにより特徴付けられる一群の疾病である。糖尿病は、診
断未確定のままであったり、治療しないままであったりすると、重大な合併症や
早死と関連することがある。世界保健機構は、世界的に糖尿病にかかる人数は2
025年までに現在の約135000000人から二倍以上の30000000
0人になるであろうと推測している。糖尿病を患うと推定されている人数のうち
の約3分の1が診断未確定であると思われる。糖尿病の例数は、年齢とともに増
加することも公知である。20歳未満ヒトの0.16%が糖尿病であるが、この
数は、65歳を超えると18.4%に急激に増加することが推定される。
【0046】
4種の糖尿病がある:1型(インスリン依存性)は全ての診断確定症例の5〜
10%を占め、2型(インスリン非依存性糖尿病)は全ての診断確定症例の90
〜95%を占める、妊娠糖尿病は全ての妊婦の2〜5%で生じるが妊娠期間が過
ぎるとなくなり、特異的遺伝的症候群、手術、薬剤、栄養不良、感染及び他の疾
病から生じる他の特異的型の糖尿病は全ての診断確定症例の1〜2%を占めるで
あろう。糖尿病を測定するには、多数の異なる方法がある。これらには、食後血
糖、経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)、O’Sullivanブドウ糖負荷試
験(妊娠試験)、ヘモグロビンAlc、島細胞抗体、GAD抗体(グルタミン酸
デカルボキシラーゼ)及びインスリン抗体などがある。しかしながら、炭水化物
代謝能を試験すると、糖尿病は最も容易に検出される。これは、OGTTと同様
に、システムに所定のブドウ糖負荷をかけることによりなされる。
【0047】
OGTTは糖尿病の標準試験であるが、試験結果に影響する変数の多くが制御
するのが困難であることから批判されている。例えば、標準化炭水化物患者食、
8〜16時間の絶食、ストレス、運動、ホルモンのアンバランス及び種々の薬剤
により、試験のばらつきが生じることがある。これらのばらつきにより再現性が
悪くなり、この試験の診断の有効性が制限される。さらに、OGTTは、非常に
多くの血液試料の採取を伴い、侵襲的方法である。
【0048】
糖尿病検出の13Cグルコース呼気試験の開発により、上記したばらつきによ
り影響されない非侵襲的方法である。13Cは、天然に食品及び動物組織に生じ
る非放射性同位体である。いままで、13Cの欠点は、分析に使用されるガス同
位体質量分光光度計の不足にあった。必要なインストルメンテーション及び必要
とする13C標識化合物が容易に入手できるので、呼気試験における13C標識
化合物の使用はより実現可能である。
【0049】
臨床試験
目的:このパイロット試験の主要な目的は、2型糖尿病及び妊娠糖尿病の診断
における13C−D−グルコース呼気試験の感度、特異性及び信頼性を、標準と
考えられているすでに実証されているブドウ糖負荷試験と比較して評価すること
である。
【0050】
構成:多センターブラインド非ランダム化構成を利用する。関連する医師のみ
が、当事者の状態がわかっている。当事者は、ブドウ糖負荷試験を受ける。それ
から2週間以内に、当事者は、13C−D−グルコース呼気試験を受ける。両方
の試験からの知見を検討して、調和させる。
【0051】
試験当事者:この調査は、2型糖尿病及び妊娠糖尿病ごとに50人づつ募集す
ることにより実施する。2型糖尿病については、当事者は、糖尿病である疑いの
あるヒトである。妊娠糖尿病については、当事者は、標準妊娠糖尿病スクリーニ
ング試験に附した妊娠24〜28週目の女性である。糖尿病のいずれの診断も、
ブドウ糖負荷試験の結果に基づく。
【0052】
試験法:同意後の選ばれた当事者は、最小24時間及び最大2週間で別個にブ
ドウ糖負荷試験と13C−D−グルコース呼気試験を受ける。ブドウ糖負荷試験
は、Canadian Diabetes Association(CMAJ
、JAMC、1998年10月20日;159(8補遺);S1−S29)の指
針に準じて実施される。簡単に述べれば、妊娠糖尿病スクリーンについては、ブ
ドウ糖負荷試験は、50gブドウ糖負荷ドリンクの消費と、ブドウ糖測定の1時
間後の静脈血試料の採取からなる。ドリンク消費と血液採取との間の時間は、当
事者は、座った姿勢を維持し、タバコを吸ったり、食べたりすることを控える。
必要に応じて、すする程度の量の水は飲んでもよい。
【0053】
2型糖尿病については、ブドウ糖負荷試験に先立ち、一晩絶食する(10〜1
6時間)。75gブドウ糖負荷ドリンクの消費の前に、絶食血糖試料を採取する
。ドリンク摂取2時間後、静脈血試料を採取してブドウ糖の測定をおこなう。ド
リンクの消費と血液採取との間の時間は、当事者は、座った姿勢を維持し、タバ
コを吸ったり、食べたりすることを控える。必要に応じて、すする程度の量の水
は飲んでもよい。
【0054】
一晩(最小8時間)の絶食後、13C−D−グルコース呼気試験を実施する。
絶食後、当事者は、ベースライン呼気試料を採取する。次に、当事者は、13
−D−グルコースドリンク剤を摂取し、1時間目、1.5時間目及び2時間目に
呼気試料を採取する。試験中、当事者は、座った姿勢を維持し、タバコを吸った
り、食べたりすることを控える。試験中、すする程度の量の水は飲んでもよい。
【0055】
試験全体の構成:合計50人の当事者を、2型糖尿病及び妊娠糖尿病の各々に
ついて調査する。
【0056】
調査1:募集プロセス中に、各人に当事者情報シートを見せて、検査員が、全
ての適正要件を確実に満たしているかを問診する。各人に質問の機会を与え、全
ての適正基準を満たす場合には、同意書を読ませ、そこに署名させる。
【0057】
適正基準を満たし且つ同意書に署名した全ての当事者は、最小24時間及び最
大2週間で別個にブドウ糖負荷試験(調査2)と13C−D−グルコース呼気試
験(調査3)の両方を受ける。
【0058】
調査2:ブドウ糖負荷試験は、Canadian Diabetes Ass
ociation(CMAJ、JAMC、1998年10月20日;159(8
補遺);S1−S29)に記載の指針に準じて実施される。簡単に述べれば、妊
娠糖尿病スクリーンについては、当事者に、296mLにデキストロース50g
を添加した市販のブドウ糖負荷ドリンクを消費させる。消費1時間後、静脈血試
料を、上部が赤い真空採取チューブに採取する。2型糖尿病については、当事者
に、まず一晩(10〜16時間)絶食させた後、絶食血糖試料を与える。次に、
当事者に、296mLにデキストロース75gを添加した市販のブドウ糖負荷ド
リンクを摂取させ、消費2時間後、静脈血試料を採取する。
【0059】
調査3:13C−D−グルコース呼気試験については、当事者に、まず一晩(
最小8時間)絶食させる。当事者に、ベースライン呼気試料を与えた後、水10
0mlに、13C−D−グルコース25mgと未標識USPデキストロース15
gとを組み合わせて含有する13C−D−グルコース富化溶液を消費させる。次
に、1時間目、1.5時間目及び2時間目に呼気試料を採取する。
【0060】
備考:より都合がよく且つ全ての試験基準を満たしている場合には、調査1と
調査2とを一緒にしてもよい。
【0061】
当事者数及び標的集団:2型糖尿病の疑いのあるヒト(n=50)又は妊娠糖
尿病についてスクリーニングされたヒト(n=50)の合計100人の成人の当
事者(18歳以上)を、経口ブドウ糖負荷試験に供されているヒトから採用する

【0062】
仮分析:特定の型の糖尿病について25人を選んだ後、全ての当事者を、状態
についてアンブラインドする。検査のこの時点で、結果を評価する。当事者の5
%超が偽陰性又は偽陽性であると報告されるような、13C−D−グルコース呼
気試験の結果が標準(経口ブドウ糖負荷試験)と相関がない場合には、試験を一
時的に中止する。試験を中止する場合、プロトコルを、13C−D−グルコース
50mgと未標識USPデキストロース15gを含有するように13C−D−グ
ルコース呼気試験キット要素の調整を反映するように修正する。
【0063】
実施例11:糖尿病の診断用13Cグルコース試験の利点
OGTTの欠点には、ばらつき又は偽の結果及び試験の侵襲性を生じるコント
ロールできない因子が含まれる。当該技術分野において公知の他の試験は特異的
でなく、侵襲性であり、ばらつきがあり、且つ労働力が必要である。本発明の
Cグルコース呼気試験は、感度が高く、信頼性があり、且つ特異的である。
Cグルコース呼気試験は、ヒト間ばらつきが最小限であり、分析精度が優れて
おり、呼気試料は、室温で少なくとも6週間安定である。13Cグルコース呼気
試験は、当該技術分野において公知の試験よりも好ましく、非侵襲性であり、実
行しやすく、感度及び特異性が極めて良好であり、且つ経済的である。本発明の
呼気試験は、2型糖尿病及び妊娠糖尿病の診断に好ましく使用される。また、本
発明は、インスリン抵抗性のレベルの測定及び糖尿病患者の治療の妥当性を監視
するのにも好ましい。
【0064】
更に、本発明の変更及び修正は当業者に明らかであり、これらは本明細書及び
請求の範囲に含まれる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】正常ヒト、妊娠糖尿病患者及び耐糖能障害患者から採取した13Cグルコース呼気試料のIRMS分析を示す。
【図2】正常ヒトの呼気試験及び血糖レベルの代表例を示す。
【図3】糖尿病患者の呼気試験及び血糖レベルを示す。
【図4】インスリン抵抗性患者の呼気試験及び血糖レベルを示す。
【図5】インスリン抵抗性患者、糖尿病患者及び正常ヒトについてのIRMSの結果の比較を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
非標識かつ均一に標識された13Cグルコースの所定の経口用量と、呼気採取容器とを備える、糖尿病、インスリンおよび妊娠糖尿病の診断のための診断キット。
【請求項2】
非標識かつ均一に標識された13Cグルコースの所定の経口用量と、呼気採取容器とを備える、高血糖症治療の適正を決定するための診断キット。
【請求項3】
明細書に記載の発明。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−292506(P2008−292506A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220516(P2008−220516)
【出願日】平成20年8月28日(2008.8.28)
【分割の表示】特願2007−50856(P2007−50856)の分割
【原出願日】平成11年5月6日(1999.5.6)
【出願人】(500132720)アイソテクニカ インコーポレイテッド (10)
【Fターム(参考)】