説明

糖蜜色素を脱色する微生物とそれを利用する脱色処理方法

【課題】本発明は、難脱色性色素を含有する有色廃液の生物的脱色処理方法を開発することを目的とする。
【解決手段】広島市内の河川から新たに分離したペニシリウム属糸状菌(Penicillium oxalicum)を用いて有色廃液を処理することにより、目的が達成される。有色廃液としては、廃糖蜜、廃糖蜜発酵蒸留廃液、黒糖焼酎粕のほか、ポリフェノール系色素やメラノイジン系色素含有廃液が例示される。これらの微生物は、有色廃液を効率的に脱色するが、その脱色は一時的なものではなく、長期間継続し、培養時間の過程によって着色が戻ってくることもないという著効が奏される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難脱色性である糖蜜色素を脱色できる微生物を利用した、糖蜜色素、メラノイジン、ポリフェノール系色素等を含有する各種着色液(廃液)の生物的脱色処理方法を提供するものである。
【背景技術】
【0002】
ビートやケーンなど砂糖原料農産物より砂糖が生産され、またはバイオエタノールの発酵原料として利用される際、黒褐色の廃液が生じる。この黒褐色色素はポリフェノールやメラノイジンを主体とするものと分析されているが、いずれも極めて難脱色性であり、微生物的、化学的、物理的処理が困難となっている。いくつかの微生物に、その脱色効果があるとの報告はなされているが、いずれも実際に利用されるに到っておらず、その有効性は疑問視される。
【0003】
また、廃水にはポリフェノールやメラノイジン以外にも、その他色素成分不明の有色廃液が多く存在する。しかし、それら着色物質を効率良く、また安価に脱色する方法は少なく、広く効率的な脱色法が求められているところである。
【0004】
上記したように、着色廃水を脱色できる微生物の探索が行われており、例えば白色腐朽菌による脱色性についての報告例はあるものの(例えば、非特許文献1)、長期間の検討や実廃水での検討例は少なく、実用化にはいたっていないのが現状である。
【非特許文献1】水環境学会誌、Vol.22、No.6、pp.465〜471(1999)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、廃水中の色素(糖蜜の褐色色素等)を効率的に脱色する技術を新たに開発する目的でなされたものである。
【0006】
砂糖を製造する際に、粘度の高い褐色の副産物(廃糖蜜)が副生してくる。この廃糖蜜には、精製しきれない糖類等が残っており、バイオエタノールなどの発酵原料として注目されているが、脱色困難な褐色色素(以下、糖蜜色素ということもある)を含有している。
【0007】
この廃糖蜜を発酵させてアルコール(例えば、バイオエタノール)を生成させ、これを蒸留分離した後の残渣(廃糖蜜発酵蒸留廃液)にも、多量の糖蜜色素が含有されている。同様に、黒糖を原料として焼酎を製造する際に副生する副産物(黒糖焼酎粕)にも糖蜜色素が含有されている。これら糖蜜色素含有廃液は、黒褐色の不快な色を呈し、効率的脱色法の開発が求められている。
【0008】
また、アントシアニンなどのポリフェノール系色素を効率的に脱色することは、本来、非常に困難なことであるが、その効率的脱色法の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記した当業界の要望に応えるためになされたものであって、糖蜜色素が単一の物質ではなくしかも未同定の物質等も含まれていることから、そしてまた、糖蜜色素を含有した廃水を低コストで安全で且つできる限り小さな規模で効率的に大量処理するには、目的とする微生物をスクリーニングし、そして得られた微生物を利用する方法が最適であるとの結論に達した。
【0010】
そこで本発明者らは、糖蜜色素を多量に含有する廃水の直接処理を目標に、実際の廃水処理工程での苛酷な物理的及び化学的変化にも充分耐え得る微生物を、細菌、糸状菌、酵母、担子菌、不完全菌等莫大な天然のあるいは人工の微生物の中からスクリーニングした。
【0011】
すなわち、我々は、まずは糖蜜、廃糖蜜着色(廃)液の脱色を効率良く行うことのできる微生物を自然界より広くスクリーニングした。長期にわたる多量のスクリーニング試験を鋭意行った結果、ついに顕著に脱色効果を示す数株の微生物を分離することに成功した。それらはすべて同じPenicillium属であり、しかもPenicillium oxalicumに属していた。本菌の性能の検証を重ねた結果、本菌は難脱色性で問題となっている糖蜜色素を効率良くしかも安定して脱色することが判明した。従来は、糖蜜色素に対して脱色が認められるものであっても、その脱色は一時的なもので、培養の時間が経緯するとまた着色が戻ってくるものが多かつた。しかし、本菌の脱色ではそのような色戻りもなく、安定した脱色性を示す。
【0012】
さらに、本菌は、糖蜜色素だけではなくポリフェノール系色素であるアントシアニン、その他色素成分不明の有色廃液を広く脱色することが示された。
【0013】
このことより、本菌は、広く有色液(廃液)の脱色処理に有効であり、その性質を利用することで従来脱色が困難であった有色廃液の効率的な脱色処理を行わせることが可能となる。
【0014】
本発明は、これらの有用新知見に基づき更に検討の結果遂に完成されたものであって、その態様を例示すれば、次のとおりである。
【0015】
(1)ペニシリウム(Penicillium)属菌を用いること、を特徴とする有色廃液の脱色方法、更に詳細には、ペニシリウム属に属する脱色作用を有する微生物を使用すること、具体的には該微生物を用いて有色廃液を処理すること(両者を接触せしめること)、を特徴とする有色廃液の脱色方法、ないし有色廃液処理方法。
【0016】
(2)ペニシリウム属に属する該微生物がペニシリウム・オギザリカム(Penicillium oxalicum)であること、を特徴とする上記(1)に記載の方法。
(3)ペニシリウム・オギザリカムが、Penicillium oxalicum b−1(NITE AP−407)、Penicillium oxalicum d(NITE AP−408、Penicillium oxalicum e−2(NITE AP−409)の少なくともひとつであること、を特徴とする上記(1)又は(2)に記載の方法。
【0017】
(4)該脱色作用が、糖蜜色素(廃糖蜜中に存在する褐色色素:通常、脱色するのが困難である)、ポリフェノール系色素、メラノイジン系色素、の少なくともひとつを脱色する作用(脱色率40%以上、60%又は65%、あるいはそれ以上も可能)、しかも、この作用が長時間(例えば、3日間以上、例えば4日間、あるいは5日間)安定的に保持、継続すること、を特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項に記載の方法。
【0018】
(5)該有色廃液が、廃糖蜜、廃糖蜜発酵蒸留廃液、黒糖焼酎廃液、ポリフェノール系色素、メラノイジン系色素含有廃液の少なくともひとつ(原液又は希釈液)であること、を特徴とする上記(1)〜(4)のいずれか1項に記載の方法。
(6)該有色廃液に栄養源(例えば、グルコース、シュークロース等の糖類)を添加して脱色率を向上せしめること、を特徴とする上記(5)に記載の方法。
【0019】
(7)脱色作用(例えば、糖蜜色素、ポリフェノール系色素、メラノイジン系色素の少なくともひとつ)を有するペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物菌株:
Penicillium oxalicum b−1(NITE AP−407)
Penicillium oxalicum d(NITE AP−408)
Penicillium oxalicum e−2(NITE AP−409)
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、自然界から新しく分離するのに成功したペニシリウム属菌を使用することによって、有色廃水(例えば、糖蜜色素、ポリフェノール系色素、メラノイジン系色素含有廃水といった従来脱色するのが非常に困難であった廃水)をきわめて効率よく脱色することができ、しかも、脱色作用が長期間安定して継続するという新規にして卓越した効果が奏される。したがって、本発明は卓越した廃水処理方法を提供できるという著効も奏するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明を実施するには、すぐれた脱色作用を有する(高い脱色能を有する)微生物を開発する必要がある。しかしながら、既存の廃水処理用の各種微生物等について検討したが、目的とする高脱色菌を見出すには至らなかった。そこで、本発明者らは発想を完全に転換して、自然界から新しい微生物を分離することとした。
【0022】
本発明は、このような新規技術課題を新たに設定し、鋭意研究の結果、目的微生物の分離に成功し、遂に完成されたものである。
【0023】
本発明者らは、糖蜜色素含有培地を用いて、自然界の土壌や水のサンプル107点より脱色性を示す菌株の探索を行い、3点から脱色能が高いと思われる糸状菌13株を単離した。前培養して菌体を回収し、3倍希釈した廃液に加え、72時間振とう処理したところ、河川水(広島市中央公園)から単離した3株は、475nmの吸光度で40〜55%の高い脱色能を示した。
【0024】
これらの3株は、いずれも、ほうき状の胞子形成細胞を形成し、ペニシリは複輪生であることから、ペニシリウム属に属するものと認められた。そして、これらの3株について、rDNA(ribosomal DNA)の塩基配列を用いた菌株の同定を試みたところ、いずれの株も、ペニシリウム・オギザリカム(Penicillium oxalicum)のITS(Internal Transcribed Spacer)領域、及び、D1/D2領域の塩基配列と100%一致したので、これら3株はペニシリウム・オギザリカム(Penicillium oxalicum)と同定した。
【0025】
また、これらの3菌株は、いずれも、次のような菌学的性質を有しており、上記した遺伝子による同定結果と一致するものであった。
(生育)
麦芽寒天培地、25℃、1週間培養で、平坦、ビロード状の大きなコロニーを形成、淡青緑色の分生子を生じる。
(形態)
箒(ほうき)状の胞子形成細胞を形成。ペニシリは複輪生。分生子は、楕円状、滑面、4〜5×2〜3μm。
【0026】
これらの3菌株は、非常に高い脱色能を有するペニシリウム属糸状菌という特徴を有する新規菌株であるので、それぞれ、次のように命名し、これらを独立行政法人 製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(〒292−0818 日本国 千葉県木更津市かずさ鎌足2丁目5番8号)に、2007年8月29日付で寄託した。それらの受領番号は、それぞれ、次のとおりである。
Penicillium oxalicum b−1(NITE AP−407)
Penicillium oxalicum d(NITE AP−408)
Penicillium oxalicum e−2(NITE AP−409)
【0027】
本発明を実施するには、上記菌株の1種又は2種以上を有色廃水と接触せしめればよい。有色廃水としては、廃糖蜜、廃糖蜜発酵蒸留廃液(以下、廃糖蜜蒸留廃液ということもある)、黒糖焼酎粕が例示される。本菌株は、これら有色廃水の希釈液を脱色できることはもちろんのこと、原液(実廃水)も直接脱色できるという特徴を有している。
【0028】
本発明によれば、40〜55%という高い脱色率が得られ、約60%の場合も確認された。このように高い脱色率は72時間の培養でも認められ、本菌株による高い脱色能は長期間(例えば、3〜4日間以上、5日間以上も可能)安定して継続することが確認された。
【0029】
脱色率は、糖蜜色素については、475nmの吸光度(OD475)、メラノイジンについては、430nmの吸光度(OD430)を測定し、下記の式で計算した。
脱色率(%)=(A/B)×100
A:ブランクの吸光度−試料の吸光度
B:ブランクの吸光度
【0030】
本発明において使用するペニシリウム属菌は、これらの1株又は2株以上を有色廃液(原液又は希釈液)に加えて、通気して又は通気することなく、静置、撹拌、もしくは振とう培養すれば、きわめて効率よく有色廃液を脱色することができる。
【0031】
その際、有色廃液に栄養源を添加すれば、更に脱色率を向上させることができる。栄養源としては、グルコース、フラクトース、マルトース、シュークロース等の易発酵性糖類が1種又は2種以上使用される。例えば、グルコースを添加した場合(10〜20g/L)、脱色率が、グルコース無添加の場合が約50%であったサンプルにおいて、約60〜65%に増加することが確認され、更には、72時間の培養で約67%という高い脱色率が達成される例も確認された。
【実施例】
【0032】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0033】
(スクリーニング)
5倍希釈した黒糖焼酎粕にYNB(w/o A.A.&A.S.)を0.85g/L加え、C:N:Pがおよそ100:5:1となるように調整し、オートクレーブ。その後、真核微生物をスクリーニングするため、フィルターろ過したペニシリン+ストレプトマイシン(100×)を100mLの培地に対し1mL加え(最終濃度100units/mL Penicillin G、100μg/mL Streptomycin sulfate in normal saline)、スクリーニング用黒糖焼酎培地を作成した。
【0034】
(一次スクリーニング)
10mL用L字管に黒糖焼酎粕培地(スクリーニング用)を10mLと、さまざまな場所から取得した土壌、河川水などのサンプルの水懸濁液(水溶液のサンプルはそのまま使用)1mLを加え、25℃で1週間ほど振とう培養。培養後、5mL採取し、遠心上清を取り(10000rpm、5min)、目視と475nmの吸光度を測定した。脱色を示したサンプルの残りの培養液より廃糖蜜プレート培地(5倍希釈廃糖蜜に寒天を2%添加)を利用し、脱色株を単離した。菌体懸濁液を107希釈し、10〜20枚のプレートに塗布し、25℃で約1週間培養後、得た単コロニーを新しいプレートに採取した。
【0035】
単離株は、YMプレート培地(Difco社のYM培地(イーストエキストラクト 3.0g/L、麦芽エキストラクト 3.0g/L、ペプトン 5.0g/L、デキストロース 10.0g/L、pH6.2)に寒天 0.2%を添加した培地)上に保存した。
【0036】
(二次スクリーニング)
廃糖蜜培地(酵母処理後)を次のようにして調製した。
廃糖蜜16倍(重量比)希釈液をオートクレーブし、廃水処理酵母Hansenula fabianii J640で48時間培養することで窒素を軽減させ、培養酵母を除去した後、炭素源としてグルコース、リン及びミネラル・ビタミン源としてYNB(w/o Amino Acids Ammonium Sulfate、Difco社)を添加し、C:N:Pがおよそ100:3:1となるように調整し、作成した。
【0037】
10mL用L字管に、廃糖蜜培地を10mL入れ、菌体及び菌の胞子を懸濁し、25℃で3〜4日振とう培養し、培養後、培養液の遠心上清(10000rpm、5mm)の目視及び吸光度とpHを測定することにより、二次スクリーニングを行った。
【0038】
(廃糖蜜の脱色試験)
上記のスクリーニングにより、培養2日目で明瞭な脱色効果の観察される株を選択し、さらに以下の方法で廃糖蜜蒸留廃液での脱色試験を行った。
200mL容バッフル付三角フラスコに廃糖蜜蒸留廃液培地(5倍希釈廃糖蜜蒸留廃液培地+YNB Yeast Nitrogen Base(Difco社製)0.7%添加)、を50mL加え、酵母懸濁液を初期OD660が0.1となるように接種し、30℃、120rpmで振とう培養。12h毎に1.5mLずつサンプリングし、遠心上清のOD660、OD475、pHを測定。ブランクと培養液のOD475の差より求めた脱色率、OD660、pHの変化を評価した。
【0039】
図1に、選択した菌による廃糖蜜蒸留廃液脱色の経時的変化を示す。
一度脱色したものが再度着色するものも見られたが、そのような菌は除外し、安定し多脱色の見られる菌を3株(b−1、d、c−2)取得することに成功した。
【0040】
図2に、これら3株での脱色安定性の再現性を調べるため行った試験の、脱色率と培地のpH変化を示す。
分離株は、色戻りもなく安定した脱色能力を持つことが示された。
【0041】
従来、廃糖蜜の脱色効果を持つ株のスクリーニングが試みられてきたものの、それらの株では、脱色は一時的なもので、色の戻りがある、と言われてきた。しかし我々が取得したこれら3株では、安定した脱色効果を持つ、従来にない優れた性質を持つことが明らかとなった。
【0042】
なお、これら菌株は、実廃水、黒糖焼酎粕(原液)についても、それぞれ60%程度の安定した脱色性を示し、広く糖蜜色素含有液の脱色に効果のあることが確認された。
【0043】
また、廃糖蜜蒸留排液等の有色廃液に栄養源(グルコース、フラクトース、マルトース、シュークロース等の糖類、特に易発酵性糖類が好適)を添加することにより、脱色率が更に向上する。栄養源として、グルコースを使用した場合、10〜20g/L添加すればよく、他の糖類を使用する場合には、これに準じて添加量を規定すればよい。
【0044】
5倍希釈した廃糖蜜蒸留廃液に、YNB(w/o A.A. & A.S.)1.7g/L、グルコース 15g/Lを加えた培地に本発明に係る菌株の菌体を添加して48時間培養した場合、脱色率が約60〜65%に増加した。また、72時間の培養では約67%という高い脱色率が達成された。胞子を接種した場合であっても、72時間目より菌の生育が見られ、120時間後には約55%の脱色率が確認された。
【0045】
(メラノイジン系色素の脱色(吸着)効果)
d株について、その洗浄菌株をメラノイジン溶液(トリプトファンメラノイジン溶液)に添加して、振とう処理して、菌体への色素の吸着試験を行った。
【0046】
湿潤菌体量6g/L、メラノイジン濃度100mg/Lの場合、菌体添加後より迅速なメラノイジン吸着が観察され、約30分間で240分処理後の吸着量(dye・mg/Dry cells・g)と比較して、ほぼ半分が吸着された。
【0047】
この効果は、他のb−1株、e−2株においても充分に予測され、結局、これら3株は色素吸着能力が高く、結果、色素含有廃液を効率的に脱色できるものである。
【0048】
(同定)
分離菌の同定を行った。
【0049】
同定方法
単離株の同定はribosomal DNA(rDNA)のInternal Transcribed Spacer(ITS)領域、及び26SrDNAのD1/D2領域の塩基配列をデータベース検索し、比較することで行った(図3)。
【0050】
〈同定法〉
5mL用L字管にYM培地を5mL加え、酵母を一白金耳接種、30℃、2日振とう培養。前培養した菌体を滅菌水で洗浄後Genとるくん(酵母用)(宝バイオ株式会社商標)を使用してDNAを抽出した。DNAサンプルの18SrDNAのITS領域、26SrDNAのD1/D2領域を以下に示す条件で、PCRにより増幅した。
【0051】
プライマーは、ITS領域についてはITS4(配列番号1:TCCTCCGCTTATTGATATGC)、ITS5(配列番号2:GGAAGTAAAAGTCGTAACAAGG)を使用した。D1/D2領域については、NL1(配列番号3:GCATATCAATAAGCGGAGGAAAAG)、NL4(配列番号4:GGTCCGTGTTTCAAGACGG)を使用した。なお、これらプライマーの塩基配列は、まとめて図4に示した。
【0052】
PCR条件は、94℃2分後、(94℃30秒、55℃30秒、72℃2分)を30サイクル回す条件で行った。
【0053】
PCR産物は、QIAquick PCR Purification Kit(株式会社キアゲン)を用い、精製後、Big Dye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kit(Applied Biosystem社)を用い、蛍光標識を付加。蛍光標識付加後、PCR産物をAutoSeq G−50(Amersham Bioscienccs社)により精製し、シーケンサー(ABI PRISM 310 Genetic Analyzer:Perkin Elmer社)を用いて塩基配列を解析した。解析後、塩基配列のデータをGENETYX(株式会社ゼネティックス)を用い、編集後、日本DNAデータバンク(DDBJ: http://www.ddbj.nig.ac.jp)のBLASTを用い、相同性を検索した。
【0054】
読み取られたITS領域のDNA配列による同定の結果、b−1株、d株、e−2株ともITS領域、D1/D2領域とも糸状菌Penicillium oxalicumと100%、一部99%の相同性を示し、これらの結果より、いずれの株もPenicillium oxalicumと同定された。
【0055】
このようにして単離、同定された菌株は、高い脱色能を有する点できわめて特徴的である。そこで、各菌株を、それぞれ、Penicillium oxalicum b−1、同d、同e−2と命名して、(独)製品評価技術基盤機構(NITE)、特許微生物寄託センター(NPMD)に寄託した。
【0056】
すなわち、これらの菌株は、独立行政法人 製品評価技術基盤機構、特許微生物寄託センター(〒292−0818 日本国千葉県木更津かずさ鎌足2丁目5番8号)に、2007年8月29日に受領され、それぞれ、下記の受領番号が付与された。
Penicillium oxalicum b−1(NITE AP−407)
Penicillium oxalicum d(NITE AP−408)
Penicillium oxalicum e−2(NITE AP−409)
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】糖蜜色素(廃糖蜜発酵蒸留廃液)脱色の経時的変化を示す図である。
【図2】分離株の糖蜜色素(廃糖蜜発酵蒸留廃液)脱色の経時的変化を示す図である。但し、左図は脱色率を示し、右図はpHを示す。
【図3】ITS領域とD1/D2領域の概要を示す図である。
【図4】使用した各種プライマーの塩基配列を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ペニシリウム(Penicillium)属に属する脱色作用を有する微生物を使用すること、を特徴とする有色廃液の脱色方法。
【請求項2】
該微生物が、ペニシリウム・オギザリカム(Penicillium oxalicum)であること、を特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
ペニシリウム・オギザリカム(Penicillium oxalicum)が、Penicillium oxalicum b−1(NITE AP−407)、Penicillium oxalicum d(NITE AP−408)、Penicillium oxalicum e−2(NITE AP−409)の少なくともひとつであること、を特徴とする請求項2に記載の方法。
【請求項4】
該脱色作用が、糖蜜色素、ポリフェノール系色素、メラノイジン系色素の少なくともひとつを脱色する作用であること、を特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
該有色廃液が、廃糖蜜、廃糖蜜発酵蒸留廃液、黒糖焼酎粕、ポリフェノール系色素含有廃液、メラノイジン系色素含有廃液の少なくともひとつであること、を特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
該有色廃液に栄養源を添加すること、を特徴とする請求項5に記載の方法。
【請求項7】
脱色作用を有するペニシリウム(Penicillium)属に属する微生物、Penicillium oxalicum b−1(NITE AP−407)、Penicillium oxalicum d(NITE AP−408)、Penicillium oxalicum e−2(NITE AP−409)の少なくともひとつの菌株。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−61367(P2009−61367A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−229486(P2007−229486)
【出願日】平成19年9月4日(2007.9.4)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 社団法人 日本農芸化学会 発行,「日本農芸化学会2007年度(平成19年度)大会講演要旨集」,平成19年3月5日発行
【出願人】(301025634)独立行政法人酒類総合研究所 (55)
【Fターム(参考)】