説明

糖衣方法および糖衣製品

【課題】従来のマルチトールを用いた糖衣方法に比べ、短時間で目的の糖衣率に到達し、且つ欠けにくい糖衣層を形成することができ、コスト効率のよい糖衣方法および該方法による糖衣製品を提供すること。
【解決手段】マルチトール、およびマルチトールを含む糖アルコール固形分の全量に対して、3重量%を超え、6重量%以下のマルチトール結晶化抑制成分を含有するマルチトール水溶液で芯材を被覆する第一被覆工程、粉末マルチトール組成物で第一被覆工程処理後の芯材をさらに被覆する第二被覆工程、および乾燥工程を含むことを特徴とする糖衣方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチトールを主成分とする糖衣層を形成するための糖衣方法および該糖衣方法により得られた糖衣製品に関する。
【背景技術】
【0002】
糖アルコールのひとつであるマルチトールは、低カロリーでありながら蔗糖に類似した甘味質を有することから様々な用途に利用されている。その中でも近年、粒状のチューインガムや錠剤等の糖衣に利用されるケースが増加している。
【0003】
一般に、糖類を用いる糖衣方法としては、糖類の水溶液で芯材の表面を被覆した後、これを乾燥する工程を繰り返す方法(ハードコーティング法)と、糖類の水溶液で芯材の表面を被覆した後、糖類の粉末でさらに被覆し、乾燥する工程を繰り返す方法(ソフトコーティング法)の2種類の方法が知られているが、現在は前者の方法が主流となっている。
【0004】
マルチトールを使用する糖衣方法においても同様に高純度のマルチトール水溶液で芯材を被覆した後、乾燥させる工程を繰り返すハードコーティング方法が実施されている。この方法は表面が滑らかに仕上がるという特徴を有している反面、操作中に糖衣層が欠け易い、作業に長時間を要する等の問題を有していた。
【0005】
そこでこのような問題点を解消するために特許文献1に記載されるような結合剤を添加する方法が提案されている。しかしながら、結合剤の添加は糖衣層の破損防止にはある程度の効果を発揮するものの、製造コストの上昇という新たな問題を生み出していた。また、糖衣に要する時間は殆ど変化が無く、作業効率の問題は改善されていなかった。さらにマルチトールをハードコーティングするためには、高純度のマルチトールを用いる必要があり、コスト面でも問題がある。
【0006】
従って、マルチトールを使用した糖衣において、補強剤や結合剤を添加しなくても、糖衣層の破損が防止され、短時間に効率良く、かつ低コストで糖衣製品を製造することができる糖衣方法が望まれていた。
【特許文献1】特表2004−520849号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、従来のマルチトールを用いた糖衣方法に比べ、短時間で目的の糖衣率に到達し、且つ欠けにくい糖衣層を形成することができ、コスト効率のよい糖衣方法および該方法による糖衣製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究の結果、所定量のマルチトールの結晶化抑制成分を含有させたマルチトール水溶液および粉末マルチトール組成物を用いて芯材を被覆することにより、糖衣効率に優れ、破損し難い糖衣層が形成されることを見出し、本発明を完成させた。
【0009】
すなわち本発明は、マルチトール、およびマルチトールを含む糖アルコール固形分の全量に対して、3重量%を超え、6重量%以下のマルチトール結晶化抑制成分を含有するマルチトール水溶液で芯材を被覆する第一被覆工程、粉末マルチトール組成物で第一被覆工程処理後の芯材をさらに被覆する第二被覆工程、および乾燥工程を含むことを特徴とする糖衣方法を提供する。
【0010】
また、本発明は上記糖衣方法により得られた糖衣製品も提供する。
【0011】
本明細書および特許請求の範囲において、第一被覆工程で用いる「マルチトール水溶液」とは、マルチトールを主体とし、マルチトール結晶化抑制成分を必須に含み、さらにソルビトールを含んでいてもよい糖アルコール組成物の水溶液である。マルチトール水溶液には、所望により結合剤、着色料、香料などの従来より糖衣に配合されることが知られている成分を含んでいてもよい。
【0012】
本明細書および特許請求の範囲において、第二被覆工程で用いる「粉末マルチトール組成物」とは、粉状の、マルチトールを主体とし、マルチトール以外の糖アルコール成分を含んでいてもよい糖アルコール組成物である。さらに所望により、粉末マルチトール組成物には、従来から糖衣の際に配合される着色料、香料などを含んでいてもよい。
【0013】
本発明の第一被覆工程で用いられるマルチトール水溶液に含有させるマルチトールの結晶化抑制成分としては、重合度3以上の糖アルコール、蔗糖、水あめ等が挙げられる。その中でも重合度3以上の糖アルコール、特に重合度3〜5の糖アルコールが好ましい。重合度3以上の糖アルコールとしては、マルトトリイトール、マルトテトライトール、イソマルトテトライトール等が例示される。結晶化抑制成分は単一の成分であってもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0014】
マルチトールの結晶化抑制成分の割合は、マルチトールを含む糖アルコール固形分の全量に対し、3重量%を超え、6重量%以下、好ましくは4〜5重量%である。かかる濃度の結晶化抑制成分を用いることにより、次工程の粉末の付着効率が改善される。マルチトールの結晶化抑制成分の割合が3重量%以下の場合には、マルチトールの結晶化が十分に抑制されず、第二被覆工程に移行する前にマルチトールの結晶化が進行し、第二被覆工程で行う粉末による糖衣が不十分となるため、糖衣効率が低下する。また、マルチトールの結晶化抑制成分の割合が6重量%を超える割合で含まれる場合は、第二被覆工程で粉末を添加してもマルチトールの結晶化が進行せず、十分な強度を有する糖衣層が形成されない。
【0015】
本発明の第一被覆工程で用いられるマルチトール水溶液は、マルチトールを含む糖アルコール固形分の全量に対し、80〜97重量%のマルチトールを含有するものが好ましく、82〜92重量%のものがより好ましい。またマルチトールを含む糖アルコール固形分の全量に対し、5〜12重量%のソルビトールを含有するものが好ましく、6〜10重量%のソルビトールを含有するものであればさらに好ましい。
【0016】
上記水溶液の濃度は、特に限定されないが糖衣効率の上昇のためには高濃度である方がよく、該水溶液の温度におけるマルチトールの飽和濃度またはその近辺の濃度が好ましい。水溶液の濃度が低い場合は、いったん糖衣となったマルチトールが水溶液に再溶解する、乾燥に時間がかかる等の問題がある。
【0017】
上記水溶液の添加量は、芯材の大きさや数量により異なるが、全ての芯材の表面を被覆できる程度の量を添加すればよく、例えば市販される粒状チューインガムを芯材に使用した場合、芯材1kgあたり10〜20ml程度を目安に添加すればよい。
【0018】
また、添加する際の水溶液の温度は10〜60℃が好ましく、20〜40℃がより好ましい。
【0019】
第二被覆工程で使用する粉末マルチトール組成物は、第一被覆工程の水溶液の調製に用いた糖アルコール組成物と同様のものが用いられ、全く同一の成分のものを用いるのが調製上便宜であるが、それに限定されない。また粉末マルチトール組成物としては、第一被覆工程の水溶液に用いられる糖アルコール組成物より、高純度でマルチトールを含む粉末であってよく、例えば、結晶マルチトールとして市販されているものを用いてもよい。粉末マルチトール組成物としてはマルチトールの純度が88〜100重量%のものが好ましく、純度88〜98重量%のものがより好ましく使用される。マルチトールの純度が88重量%未満の粉末を使用した場合、結晶化の遅延やべたつきが発生するため好ましくない。
【0020】
粉末の粒子径は特に限定されないが、芯材の表面に均一に付着させた方が糖衣層表面が滑らかな状態となるため、300μm以下程度に分級されたものが好ましく、1〜295μmのものがより好ましい。
【0021】
第二被覆工程終了後、糖衣製品をさらに乾燥工程に供する。乾燥方法としては特に限定されないが、装置内で攪拌を続けながら送風により乾燥する方法が作業性の点で好ましい。その際の空気温度は10〜60℃が好ましく、芯材成分の耐熱性を考慮し、20〜40℃であればより好ましい。
【0022】
本発明の糖衣方法では特別な装置は必要なく、投入した芯材の攪拌が可能であればよいが、一般にオニオン型あるいはコニカル型等の糖衣パンや通気式のコーティング装置等が作業性の点で好ましい。糖衣パンは容量や形状によって様々なタイプのものが市販されているが、芯材の量に合わせて適宜選択すればよい。
【0023】
本発明の糖衣方法は、上記第一被覆工程、第二被覆工程および乾燥工程を1サイクルとして、通常、複数回繰り返すことにより目的の糖衣製品を得る。繰り返し回数は芯材の大きさや数量、目的とする糖衣率により異なるが、通常、糖衣率が10〜200%程度、好ましくは20〜100%程度となるまで繰り返すことにより、破損し難い糖衣層を有する製品を得ることができる。尚、本発明でいう糖衣率は下記計算式により算出された値を言う。
[式1]
糖衣率(%)=
(糖衣製品100粒重量−芯材100粒重量)/(芯材100粒重量) ×100
【0024】
また、本発明の糖衣方法は上記サイクル終了後に糖衣製品表面を平滑化するための工程を設けてもよい。この工程としては、マルチトールを含む水溶液により糖衣製品をさらに被覆し、これを乾燥させる工程が好ましい。この工程で使用するマルチトールを含む水溶液としては、糖アルコール固形分中に97〜99.9重量%のマルチトールを含有する水溶液が好ましい。かかる処理によりなめらかかつカリカリとした食感の糖衣が得られる。
【0025】
またこの工程において所望により結合剤、着色料、香料を水溶液に含めてもよい。
結合剤は第一被覆工程に用いてもよい。また着色料、香料はいずれの工程に用いてもよいが、一般に糖衣工程の最終段階で用いられる。
【0026】
本発明の糖衣方法を経て得られた糖衣製品は、従来のマルチトールを使用した糖衣製品に比べ、破損し難い糖衣層を有するものとなる。特に上記の表面を平滑化するための工程を経て得られた糖衣製品は、マルチトールを含有する水溶液による被覆工程および乾燥工程のみにより製造された糖衣製品に比べ、さらに破損し難い糖衣層を形成することが可能となる。本発明の糖衣製品としては、下記計算式により決定される摩損度が0.01〜0.5%のものが好ましく、0.01〜0.3%のものがより好ましい。
[式2]
摩損度(%)=
(糖衣製品10粒の初期重量−糖衣製品10粒の処理後重量)/(糖衣製品10粒の初期重量)
×100
【0027】
本発明の糖衣方法はチューンガム、錠剤、キャンディ、チョコレート等に適用可能である。
【0028】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。
【実施例1】
【0029】
(試験方法)
糖衣パン(オサ機械(株)製ミニ糖衣パン、外径(mm)/内径(mm)/深さ(mm):350/200/277、装置容量:5kg、傾斜角:28°)に芯材1kg((株)ロッテ製、キシリトールガムライムミント)を投入し、30〜40rpmで回転させた。そこに表1に示す組成の被覆液15gを投入し、被覆液が芯材全体に行き渡ったことを確認した後(第一被覆工程)、被覆液と同組成の粉末を23g添加し、粉末が芯材全体に行き渡るまで攪拌した(第二被覆工程)。次いで糖衣パン内へ約25℃の空気を送風して10分間乾燥した(乾燥工程)。以上の操作を下記計算式による糖衣率が25%に到達するまで繰り返した。
[式3]
糖衣率(%)=
(糖衣製品100粒重量−芯材100粒重量)/(芯材100粒重量) ×100
【0030】
(結果)
得られた糖衣製品について下記計算式により糖衣効率を求めた。本発明の糖衣方法は、糖衣効率が比較例と比べ著しく高く、効率の良い糖衣方法であることが示された。結果を表3に示す。
[式4]
糖衣効率(%/hr)=(糖衣率)/(糖衣時間) ×100
【実施例2】
【0031】
(試験方法)
表1に示す組成の被覆液および粉末を使用し、表2に示す糖衣条件で実施例1と同様に糖衣製品を製造した。
【0032】
(結果)
実施例1と同様に糖衣効率を求めた。本発明の糖衣方法は糖衣効率が比較例に比べ優れており、効率の良い糖衣方法であることが示された。結果を表3に示す。
【比較例1】
【0033】
(試験方法)
表1に示す組成の被覆液および実施例2で使用した粉末を使用し、表2に示す糖衣条件で実施例1と同様に糖衣製品を製造した。
【0034】
(結果)
実施例1と同様に糖衣効率を求めた。比較例1の方法は実施例1および2に比べ、糖衣効率が明らかに劣っていた。結果を表3に示す。
【比較例2】
【0035】
(試験方法)
表1に示す被覆液を使用し、糖衣条件を表2に示す条件に変更した以外は実施例1の第一被覆工程と同様にし、粉体は用いず、即ち第二被覆工程を行わずに糖衣製品を製造した。
【0036】
(結果)
比較例2で得られた糖衣製品は糖衣工程中に糖衣層が著しく欠けてしまい、製品とするに値するものが得られなかった。
【比較例3】
【0037】
(試験方法)
表1に示す被覆液を使用し、糖衣条件を表2に示す条件に変更した以外は実施例1の第一被覆工程と同様にし、粉体は用いず、即ち第二被覆工程を行わずに糖衣製品を製造した。
【0038】
(結果)
実施例1と同様に糖衣効率を求めた。比較例3の方法は実施例1および2に比べ、糖衣効率が極めて劣っていた。結果を表3に示す。
【比較例4】
【0039】
表1に示す被覆液を使用し、糖衣条件を表2に示す条件に変更した以外は実施例1と同様の方法で糖衣製品を製造した。
【0040】
(結果)
実施例1と同様に糖衣効率を求めた。比較例4の方法は実施例1および2に比べ、糖衣効率が劣っていた。結果を表3に示す。
【0041】
表1 糖組成
【表1】

【0042】
表2 糖衣条件
【表2】

【0043】
※1サイクルは、第一被覆工程+第二被覆工程+乾燥工程を表す。
【0044】
表3 糖衣結果
【表3】

【実施例3】
【0045】
(試験方法)
実施例1と同様の方法で糖衣率19%まで糖衣層を形成させた後、比較例3と同様の方法で糖衣率の合計が25%となるまで糖衣し、糖衣製品を得た。得られた糖衣製品の摩損度を下記方法により測定した。また対照として比較例3で得られた糖衣製品についても同様に摩損度を測定した。
【0046】
摩損度の測定方法:
糖衣製品10粒の初期重量を測定した後、錠剤摩損度試験機(富山産業(株)製、TFT−120)に入れ、傾斜角10°、回転数25rpmの条件で100回転させた。試験機から糖衣製品10粒を取り出し、処理後の重量を測定し、下記計算式により摩損度を算出した。
[式5]
摩損度(%)=
(糖衣製品10粒の初期重量−糖衣製品10粒の処理後重量)/(糖衣製品10粒の初期重量)
×100
【0047】
(結果)
本発明の糖衣製品の摩損度は比較例のものに比べ明らかに低く、摩損し難いことが示された。結果を表4に示す。
【0048】
表4 結果
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチトール、およびマルチトールを含む糖アルコール固形分の全量に対して、3重量%を超え、6重量%以下のマルチトール結晶化抑制成分を含有するマルチトール水溶液で芯材を被覆する第一被覆工程、粉末マルチトール組成物で第一被覆工程処理後の芯材をさらに被覆する第二被覆工程、および乾燥工程を含むことを特徴とする糖衣方法。
【請求項2】
マルチトールの結晶化抑制成分が重合度3以上の糖アルコールである請求項1記載の糖衣方法。
【請求項3】
マルチトール水溶液が、マルチトールを含む糖アルコール固形分の全量に対して5〜12重量%のソルビトールを含有するものである請求項1または2に記載の糖衣方法。
【請求項4】
粉末マルチトール組成物の粉末の粒子径が1〜295μmである請求項1〜3いずれかに記載の糖衣方法。
【請求項5】
第一被覆工程、第二被覆工程および乾燥工程からなるサイクルを糖衣率が10%以上となるまで繰り返すことを特徴とする請求項1〜4いずれかに記載の糖衣方法。
【請求項6】
該サイクルの後に、更に糖アルコール固形分中に97〜99.9重量%のマルチトールを含有する水溶液で糖衣することを特徴とする請求項1〜5いずれかに記載の糖衣方法。
【請求項7】
請求項1〜6いずれかに記載の糖衣方法により得られた糖衣製品。
【請求項8】
摩損度が0.01〜0.5%である請求項7記載の糖衣製品。
【請求項9】
糖衣製品がチューインガムである請求項7または8記載の糖衣製品。

【公開番号】特開2007−20564(P2007−20564A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−157653(P2006−157653)
【出願日】平成18年6月6日(2006.6.6)
【出願人】(000146423)株式会社ウエノテクノロジー (30)
【Fターム(参考)】