説明

糖質化合物

【課題】従来の1鎖1親水基含有界面活性剤に比べ、少量の添加で高い界面活性を示し、かつ分子設計が容易であり、親水基と疎水基がそれぞれ非対称な2鎖2親水基含有界面活性剤としての利用に有用な糖質化合物を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)、およびその構造異性体で示される糖質化合物。


但し、上記一般式(1)において、Zは糖残基を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規糖質化合物に関し、分子中に糖鎖と水酸基とを隣接した置換基として有する糖質化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
グルコースやマルトースなどの糖類と、アルキル基とをグリコシド結合した糖型の界面活性剤は、低濃度で優れた界面特性を示し、起泡性が高く、洗浄剤などとして広く使用されている。また、アルキルN−メチルグルカミド型の界面活性剤も、上記界面活性剤と同じような特性を示し、洗浄力、乳化能が高い。一方食品用途では、ショ糖脂肪酸エステル型など、幅広いHLBをコントロールできる実用性の高い界面活性剤もあり、生体適合性、生分解性にすぐれた特徴を持っている。中には、アルキルアルドアミドタイプ(特許文献1、非特許文献1)など糖ラクトンや糖カルボン酸に1級または2級アミンを反応させた化合物が知られている。上記のような1鎖型の界面活性剤に対し、最近では、ジェミニ型界面活性剤として知られる2鎖2親水基含有界面活性剤が研究されており、1鎖型の界面活性剤と比べて、はるかに高い界面活性を示し、様々な構造の化合物が合成され(特許文献2、特許文献3、非特許文献2)、親水基の種類が異なるもの、アルキル鎖の長さが非対称な構造を持つもの、親水基とアルキル鎖の長さがそれぞれ非対称な構造を持つジェミニ型界面活性剤も研究されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平05−221946号公報
【特許文献2】特表2003−509571号公報
【特許文献3】特開2005−82555号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】L.Syper et al, Progress in Colloid and Polymer Science 110 (1998)199−203.
【非特許文献2】R. Zana, J. Xia (Eds.), Gemini Surfactants, Synthesis, Interfacial and Solution−Phase Behavior, and Applications, Marcel Dekker, New York, 2003.
【非特許文献3】E. Alami and K. Holmberg, Advances in Colloid and Interface Science 100−102 (2003) 13−46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、工業的実施を前提にしてこの2鎖2親水基含有界面活性剤の分子設計を考えるとき、2分子の連結や疎水基、極性基の導入が必ずしも容易ではなく、分子設計が限定されたものにならざるを得ず、しかもその中で比較的高価な原材料の使用を余儀なくされることが多いために、その優れた性能にもかかわらず、いまだ実用に至っているものはほとんどなく、親水基と疎水基がそれぞれ非対称な2鎖2親水基含有界面活性剤に至っては実用化されているものは全くないというのが実情である。本発明者等は上記の課題を解決すべく鋭意研究した結果、糖鎖と隣接する水酸基を有する糖質化合物が、2鎖2親水基含有界面活性剤としての利用に有用であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
即ち本発明は、下記一般式(1)又は(2)で示される糖質化合物を要旨とする。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
但し、上記一般式(1)、(2)において、Rは、炭素数1以上のアルキル基、Rはアルキレン基で、R−CH−CH−R−は炭素数9〜25の炭化水素基、Rは水素又はメチル基、Zは糖残基、C2n+1は直鎖のアルキル基、nは1から20の整数を示す。
【発明の効果】
【0010】
本発明の糖質化合物は、従来の1鎖1親水基含有界面活性剤に比べて高い界面活性能を有し、例えば洗浄剤や乳化剤として使用する場合には少量の添加で済み有用である。本発明の糖質化合物は、皮膚への刺激が低いため直接人体と接触するような化粧料などのパーソナルケア製品への配合基剤として利用が可能である。また本発明の糖質化合物は、2鎖型であるとともにセラミド構造に類似していることから、皮膚への浸透性が高く、細胞間脂質に入り込み、肌あれなどを防ぐ皮膚再生機能や角層水分保持機能が期待でき、抗体、酵素を安定化し、生体細胞に影響を及ぼさない次世代の生化学的界面活性剤としての利用も期待できる。また、本発明の糖質化合物は、残存した水酸基もしくは糖の水酸基部分に、さらに親水基であるポリオキシエチレン基や、スルホン酸エステル基、リン酸エステル基等を導入することで、さらなる機能性を高めた糖質化合物を合成することも可能であり、これらの原料としても利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一般式(1)又は(2)で示される本発明の糖質化合物は、1個の二重結合を有する炭素数10〜26の不飽和脂肪酸と、炭素数1〜20のアルキルアミンとの反応により得られる下記一般式(3)で示される不飽和脂肪酸アルキルアミドの二重結合部分を一旦エポキシ化した後、アミノ基と水酸基を隣接して導入した一般式(4)又は(5)で示されるアミノヒドロキシ脂肪酸アルキルアミドと糖ラクトンあるいは糖カルボン酸との反応により、(1)、(2)の混合物として得ることができる。
【0012】
【化3】

【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
一般式(3)で示される不飽和脂肪酸アルキルアミドを構成する、二重結合を1個有する炭素数10〜26の不飽和脂肪酸としては、例えばカプロレイン酸等のデセン酸(C´10)、ウンデセン酸(C´11)、ラウロレイン酸等のドデセン酸(C´12)、トリデセン酸(C´13)、ミリストレイン酸等のテトラデセン酸(C´14)、ペンタデセン酸(C´15)、パルミトレイン酸等のヘキサデセン酸(C´16)、ヘプタデセン酸(C´17)、エライジン酸等のオクタデセン酸(C´18)、ノナデセン酸(C´19)、ゴンドイン酸等のエイコセン酸(C´20)、ヘンエイコセン酸(C´21)、エルカ酸等のドコセン酸(C´22)、トリコセン酸(C´23)、セラコレイン酸等のテトラコセン酸(C´24)、ペンタコセン酸(C´25)、ヘキサコセン酸(C´26)等が挙げられるが、デセン酸、オクタデセン酸、ドコセン酸が好ましい。炭素数1〜20のアルキルアミンとしては、例えばメチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、イソプロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘプチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミン、エイコシルアミン等の脂肪族第1アミンが挙げられるが、ブチルアミン、オクチルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オクタデシルアミンが好ましい。一般式(3)で示される不飽和脂肪酸アルキルアミドは、不飽和脂肪酸の炭素数と、脂肪族第1アミンの炭素数の合計は11〜46となるが、16〜32が好ましく、特に好ましくは、炭素数の合計が20〜28である。
【0016】
一般式(4)、(5)で示されるアミノヒドロキシ脂肪酸アルキルアミドは、一般式(3)で示される不飽和脂肪酸アルキルアミドに、m−クロロ過安息香酸、過酸化水素とギ酸、過酸化水素とタングステン酸等を反応させて二重結合部分をエポキシ化した後、アンモニアやメチルアミンと反応させることによりエポキシ環を開環させ、エポキシ環の開環した部分に隣接する水酸基と、アミノ基とを導入して得ることができる。
【0017】
一般式(1)、(2)で示される本発明の糖質化合物は、一般式(4)、(5)で示されるアミノヒドロキシ脂肪酸アルキルアミドと、糖ラクトンとをアミノリシスさせるか、あるいは糖カルボン酸とを脱水縮合させることにより得ることができる。よって一般式(1)、(2)中の糖鎖Zは、アミノリシスまたは脱水縮合した糖のカルボニル基(C=O)を除く糖残基である。
【0018】
糖ラクトンとしては、単糖である単糖ラクトン、オリゴ糖類である二糖ラクトン、三糖ラクトンなどが挙げられ、糖カルボン酸としては、単糖である単糖アルドン酸、単糖ウロン酸、単糖アルダル酸、N−アセチルノイラミン酸、N−アセチルムラミン酸などが、オリゴ糖類である二糖アルドン酸、二糖ウロン酸、スクロースカルボン酸、トレハロースカルボン酸、三糖アルドン酸などが挙げられる。
単糖ラクトンとしては、アロノラクトン、アルトロノラクトン、グルコノラクトン、マンノノラクトン、グロノラクトン、イドノラクトン、ガラクトノラクトン、タロノラクトン等が、また二糖ラクトンとしては、ラクトビオノラクトン、マルトビオノラクトン、セロビオノラクトン等が、三糖ラクトンとしては、マルトトリオノラクトン、パノノラクトン、イソマルトトリオノラクトン等が挙げられる。
単糖アルドン酸としては、アロン酸、アルトロン酸、グルコン酸、マンノン酸、グロン酸、イドン酸、ガラクトン酸、タロン酸等が、単糖ウロン酸としてはアルロン酸、アルトルロン酸、グルクロン酸、マンヌロン酸、グルロン酸、イズロン酸、ガラクツロン酸、タルロン酸等が、単糖アルダル酸としては、アラル酸、アルトラル酸、グルカル酸、マンナル酸、イダル酸、ガラクタル酸等が、二糖アルドン酸としては、ラクトビオン酸、マルトビオン酸、セロビオン酸等が、二糖ウロン酸としては、ヒアロビウロン酸、セロビオウロン酸等が、三糖アルドン酸としては、マルトトリオン酸、パノン酸、イソマルトトリオン酸等が挙げられる。これらのうち、単糖ラクトンのグルコノラクトン、ガラクトノラクトン、二糖ラクトンのラクトビオノラクトン、マルトビオノラクトン、二糖アルドン酸のラクトビオン酸、マルトビオン酸、三糖ラクトンのマルトトリオノラクトン、三糖アルドン酸のマルトトリオン酸が好ましい。
【0019】
以下の化6に示す反応は、本発明の糖質化合物を製造するより具体的な一例として、9−オクタデセン酸アルキルアミドを出発物質として用いた場合を示す。尚、9−オクタデセン酸アルキルアミドは、例えば9−オクタデセン酸に、1〜10倍当量のオキサリルクロリドやチオニルクロリドを0〜30℃で1〜10時間攪拌下に反応させ、過剰のオキサリルクロリドやチオニルクロリドを除去した後、ピリジンやトリエチルアミン等の塩基を用い、テトラヒドロフラン(THF)等の有機溶媒中で、1〜5倍当量のアルキルアミンを滴下して10〜50℃で1〜10時間反応させて得ることができる。
【0020】
【化6】

【0021】
上記化6に示す反応において、工程1は9−オクタデセン酸アルキルアミドを、クロロホルム等の塩素系有機溶媒中において、m−クロロ過安息香酸(mCPBA)等の過酸を用いてエポキシ化して9,10−エポキシオクタデカン酸アルキルアミドを得る工程を示す。工程2は、9,10−エポキシオクタデカン酸アルキルアミドのエポキシ環を開環させて、9位(又は10位)に水酸基と、10位(又は9位)にアミノ基を導入したアミノヒドロキシオクタデカン酸アルキルアミドを得る工程を示す。アミノヒドロキシオクタデカン酸アルキルアミドは、9,10−エポキシオクタデカン酸アルキルアミドをTHF等の有機溶媒に溶解し、アンモニア水又はメチルアミン(RNH)水溶液と必要により過塩素酸リチウム(LiClO)を加え、100〜180℃で5〜50時間、好ましくは10〜20時間反応させて得ることができる。工程3はアミノヒドロキシオクタデカン酸アルキルアミドから本発明の糖質化合物を得る工程を示す。本発明の糖質化合物は、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール等の極性溶媒中でアミノヒドロキシオクタデカン酸アルキルアミドと、1〜5倍当量の糖ラクトンや糖カルボン酸とを、10〜100℃、好ましくは20〜80℃で、1〜72時間攪拌しながら反応させることにより得ることができる。得られた糖質化合物は、酢酸エチル等の溶媒を用いた再結晶や、シリカゲルを固定相とし、クロロホルム・メタノール・水混合溶媒を移動相とするカラムクロマトグラフィー等によって精製することができる。
【実施例】
【0022】
次に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0023】
実施例1
1)アミド化反応
9−オクタデセン酸80.1g(0.285モル)に、オキサリルクロリド150g(1.17モル)を滴下し、室温で2時間攪拌後、反応液から未反応のオキサリルクロリドを減圧留去し、9−オクタデセン酸クロリドを得た。これに、テトラヒドロフラン660ミリリットルとピリジン22.8g(1.17モル)を加え、氷冷攪拌し、n−デシルアミン45.6g(0.288モル)を滴下し、発熱が収まった時点で氷浴を外し、さらに室温で3時間反応を行った。析出した結晶を吸引ろ過により取り除き、ろ液を減圧留去し、ろ液の残渣にジエチルエーテルを600ミリリットル加えて溶解させ、5%塩酸で2回、水で1回、洗浄を行った。ジエチルエーテルを留去後、酢酸エチルで再結晶を2回行い、白色固体の9−オクタデセン酸デシルアミド84g(収率70%)を得た。
【0024】
2)エポキシ化反応
9−オクタデセン酸デシルアミド50.7g(0.12モル)にクロロホルム1080ミリリットルを加え、攪拌し溶解させた。一方、クロロホルム600ミリリットルにm-クロロ過安息香酸39.3g(0.228モル)を溶解させ、これを1時間かけて室温で9−オクタデセン酸デシルアミド溶液に滴下した。滴下後、還流攪拌を12時間行った。反応液を室温まで冷却後、炭酸水素ナトリウム水溶液による洗浄を3回行い、硫酸マグネシウムを加え、溶液を乾燥させた後、溶媒を減圧留去して、白色固体の9,10−エポキシオクタデカン酸デシルアミド49.5g(収率94%)を得た。
【0025】
3)アミノアルコール化反応
9,10−エポキシオクタデカン酸デシルアミド10g(0.0228モル)にテトラヒドロフラン30ミリリットルを加え、加熱溶解させた。その溶液をオートクレーブに移し、過塩素酸リチウム2.4g(0.0228モル)を加え、更に28%アンモニア水30g(0.5モル)を加え、直ちに密閉した。オートクレーブをオイルバスに入れ、設定温度150℃で18時間攪拌した。反応後放冷し、反応液をビーカーに移し氷冷して、白色固体を析出させ、吸引ろ過後、固体を水洗した。得られた固体を減圧乾燥させ、酢酸エチルで3回再結晶して、9−アミノ−10−ヒドロキシオクタデカン酸デシルアミドと、10−アミノ−9−ヒドロキシオクタデカン酸デシルアミドの混合物(以下、単にアミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミド)7.3g(収率70%)を得た。
【0026】
4)糖アミド化
D−(+)−グルコノ−1,5−ラクトン(2.7g、0.0152モル)に脱水メタノールを125ミリリットル加え、溶解するまで室温で攪拌した後、上記アミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミド5.8g(0.0126モル)を加えて、室温で44時間攪拌を行った。その後、還流を3時間行った。
薄層クロマトグラフィー(TLC)によりアミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミドの消失を確認した後、メタノールを減圧留去し、過剰の糖を取り除くためにクロロホルムを加えて吸引ろ過し、ろ液を減圧留去し、軟膏状の固体が得られた。酢酸エチルで再結晶を繰り返すことで、白色固体5.0g(収率62%)を得た。
【0027】
得られた白色固体を、FT−IR(KBr法)、H−NMR、ESI−MSで構造を確認し、元素分析によって純度を確認した。
【0028】
FT−IRの結果:
3323cm−1(O−H,st),1642cm−1(C=O,st),1555cm−1(N−H,δ)の吸収が認められた。
H−NMR(500MHz,CDOD)の結果:
δ0.90(t,6H),1.29−1.58(m,42H),2.15(t,2H),3.15(t,2H),3.57−3.82(m,6H),4.10−4.11(m,1H),4.24−4.25(m,1H)にピークが認められた。
ESI−MSの結果:
[M+Na]=655.4870(calc.655.4873)
元素分析結果(C3468):
実測値(%) C:64.46%,H:10.56%,N:4.13%
計算値(%) C:64.52%,H:10.83%,N:4.43%
【0029】
これらの結果より、下記一般式(1a)又は(1a′)で示される構造の化合物の混合物であることが確認された。
【0030】
【化7】

【0031】
実施例2
1)、2)の工程は実施例1と同じ
3)アミノアルコール化反応
9,10−エポキシオクタデカン酸デシルアミド12g(0.0274モル)にテトラヒドロフラン40ミリリットルを加え、加熱溶解させた。その溶液をオートクレーブに移し、過塩素酸リチウム2.9g(0.0274モル)を加え、更にメチルアミン40%水溶液42.7g(0.55モル)を加え、直ちに密閉した。オートクレーブをオイルバスに入れ、設定温度170℃で15時間攪拌した。反応後放冷し、反応液をビーカーに移し氷冷して、白色固体を析出させ、吸引ろ過後、固体を水洗した。得られた固体を減圧乾燥させ、酢酸エチル−ヘキサンで3回再結晶して、9−メチルアミノ−10−ヒドロキシオクタデカン酸デシルアミドと、10−メチルアミノ−9−ヒドロキシデシルオクタデカン酸デシルアミドの混合物(以下、単にメチルアミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミド)7.7g(収率60%)を得た。
【0032】
4)糖アミド化
D−(+)−グルコノ−1,5−ラクトン(3.4g、0.0192モル)に脱水メタノールを125ミリリットル加え、溶解するまで室温で攪拌した後、メチルアミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミド6g(0.0128モル)を加えて、室温で60時間攪拌を行った。
TLCによりメチルアミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミドの消失を確認した後、メタノールを減圧留去し、過剰の糖を取り除くため、粘体にエタノールを加え、析出した結晶を取り除き、吸引ろ過し、ろ液を減圧留去し、軟膏状の固体が得られた。クロロホルム・メタノール・水を用いてカラムクロマトグラフィー精製を行い、粘体2.6g(収率32%)を得た。
【0033】
上記粘体の構造を、FT−IR(KBr法)、H−NMR、ESI−MSで確認し、元素分析によって純度を確認した。
【0034】
FT−IR結果:
3325cm−1(O−H,st),1643cm−1(C=O,st)の吸収が認められた。
H−NMR(500MHz,CDOD)結果:
δ0.90(t,6H),1.29−1.58(m,42H),2.15(t,2H),2.85(s,3H),3.15(t,2H)3.55−3.80(m,6H),4.10−4.11(m,1H),4.24−4.25(m、1H)のピークが認められた。
ESI−MS結果:
[M+Na]=669.4998(calc.669.5029)
元素分析結果(C3570):
実測値(%) C:64.98%,H:10.91%,N:4.33%
計算値(%) C:64.90%,H:11.02%,N:4.27%
【0035】
これらの結果より、下記一般式(2a)又は(2a′)で示される構造の化合物の混合物であることが確認された。
【0036】
【化8】

【0037】
実施例3
1)〜3)の工程は実施例1と同じ
4)糖アミド化
ラクトビオン酸4.3g(0.012モル)に脱水メタノールを200ミリリットル加え、攪拌した。これに前記アミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミド4.7g(0.0104モル)を加えて、室温で64時間攪拌を行い、その後、還流を3時間行い、TLCによりアミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミドの消失を確認した。メタノールを減圧留去すると、光沢のある白色固体を得た。この固体をクロロホルム・メタノール・水でカラムクロマトグラフィー精製を行い白色固体5g(収率62%)を得た。
【0038】
上記白色固体の構造をFT−IR(KBr法)、H−NMR、ESI−MSで確認し、元素分析によって純度を確認した。
【0039】
FT−IR結果:
3388cm−1(O−H,st),1644cm−1(C=O,st),1545cm−1(N−H,δ)の吸収が認められた。
H−NMR(500MHz,CDOD)結果:
δ0.90(t,6H), 1.29−1.60(m,42H),2.16(t,2H),3.14(t,2H)3.47−3.94(m,12H),4.22−4.23(m,1H),4.36(s,1H)、4.48−4.49(d,1H)のピークが認められた。
ESI−MS結果:
[M+Na]=817.5386(calc.817.5402)
元素分析(C407813)結果:
実測値(%) C:60.43%,H:9.92%,N:3.37%
計算値(%) C:60.43%,H:9.89%,N:3.52%
【0040】
これらの結果より、下記一般式(3a)又は(3a′)で示される構造の化合物の混合物であることが確認された。
【0041】
【化9】

【0042】
実施例4
1)〜3)の工程は実施例2と同じ
4)糖アミド化
ラクトビオン酸6.9g(0.0192モル)に脱水メタノールを125ミリリットル加え、溶解するまで室温で攪拌した後、前記メチルアミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミド6g(0.0128モル)を加えて、室温で70時間攪拌を行った。
TLCによりメチルアミノヒドロキシオクタデカン酸デシルアミドの消失を確認した後、メタノールを減圧留去し、過剰の糖を取り除くためエタノールを加え、析出した結晶を取り除き、吸引ろ過し、ろ液を減圧留去し、得られた固体を、クロロホルム・メタノール・水を用いてカラムクロマトグラフィー精製を行い、白色固体2.5g(収率24%)を得た。
【0043】
得られた白色固体の構造をFT−IR(KBr法)、H−NMR、ESI−MSで確認し、元素分析によって純度を確認した。
【0044】
FT−IR結果:
3330cm−1(O−H,st),1644cm−1(C=O,st)の吸収が認められた。
H−NMR(500MHz,CDOD)結果:
δ0.90(t,6H), 1.29−1.60(m,42H),2.16(t,2H),2.87(s,3H),3.15(t,2H)3.47−3.94(m,12H),4.22−4.23(m,1H),4.36(s,1H),4.48−4.49(d,1H)のピークが認められた。
ESI−MS結果
:[M+Na]=831.5591(calc.831.5557)
元素分析(C418013)結果:
実測値(%) C:61.00%,H:9.94%,N:3.50%
計算値(%) C:60.86%,H:9.97%,N:3.46%
【0045】
これらの結果より、下記一般式(4a)又は(4a′)で示される構造の化合物の混合物であることが確認された。
【0046】
【化10】

【0047】
実施例5
1)アミド化反応
13−ドコセン酸100g(0.295モル)に、チオニルクロリド52.7g(0.443モル)を滴下し、室温で3時間攪拌後、反応液から未反応のチオニルクロリドを減圧留去し、13−ドコセン酸クロリドを得た。これに、テトラヒドロフラン750ミリリットルとピリジン35.0g(0.443モル)を加え、氷冷攪拌し、n−ブチルアミン23.8g(0.325モル)を滴下し、発熱が収まった時点で氷浴を外し、さらに室温で3時間反応を行った。析出した結晶を吸引ろ過により取り除き、ろ液を減圧留去し、ろ液の残渣にジエチルエーテルを500ミリリットル加えて溶解させ、5%塩酸で2回、水で1回、洗浄を行った。ジエチルエーテルを留去後、酢酸エチルで再結晶を2回行い、白色固体の13−ドコセン酸ブチルアミド87.1g(収率75%)を得た。
【0048】
2)エポキシ化反応
13−ドコセン酸ブチルアミド(60g、0.152モル)にクロロホルム600ミリリットルを加え、攪拌し溶解させた。一方、クロロホルム400ミリリットルにm−クロロ過安息香酸49.9g(0.289モル)を溶解させ、これを1時間かけて室温で13−ドコセン酸ブチルアミド溶液に滴下した。滴下後、還流攪拌を12時間行った。反応液を室温まで冷却後、炭酸水素ナトリウム水溶液による洗浄を3回行い、硫酸マグネシウムを加え、溶液を乾燥させた後、溶媒を減圧留去して白色固体の13,14−エポキシドコサン酸ブチルアミド57.3g(収率92%)を得た。
【0049】
3)アミノアルコール化反応
13,14−エポキシドコサン酸ブチルアミド10g(0.0244モル)にテトラヒドロフラン30ミリリットルを加え、加熱溶解させた。その溶液をオートクレーブに移し、過塩素酸リチウム2.6g(0.0244モル)を加え、更に28%アンモニア水30g(0.5モル)を加え、直ちに密閉した。オートクレーブをオイルバスに入れ、設定温度150℃で18時間攪拌した。反応後放冷し、反応液をビーカーに移し氷冷して、白色固体を析出させ、吸引ろ過後、固体を水洗した。得られた固体を減圧乾燥させ、酢酸エチルで3回再結晶して、13−アミノ−14−ヒドロキシドコサン酸ブチルアミドと、14−アミノ−13−ヒドロキシドコサン酸ブチルアミドの混合物(以下、単にアミノヒドロキシドコサン酸ブチルアミド)7.1g(収率68%)を得た。
【0050】
4)糖アミド化
D−(+)−グルコノ−1,5−ラクトン3.0g(0.0169モル)に脱水メタノールを150ミリリットル加え、溶解するまで室温で攪拌した後、上記アミノヒドロキシドコサン酸ブチルアミド6g(0.0141モル)を加えて、室温で44時間攪拌を行った。その後、還流を3時間行った。
TLCによりアミノヒドロキシドコサン酸ブチルアミドの消失を確認した後、メタノールを減圧留去し、過剰の糖を取り除くため、粘体にクロロホルムを加え、吸引ろ過し、ろ液を減圧留去し、軟膏状の固体が得られた。酢酸エチルで再結晶を繰り返すことで、白色固体5.5g(収率65%)を得た。
【0051】
上記白色固体の構造をFT−IR(KBr法)、H−NMR、ESI−MSでし、元素分析によって純度を確認した。
【0052】
FT−IR結果:
3322cm−1(O−H,st),1643cm−1(C=O,st),1554cm−1(N−H,δ)に吸収が認められた。
H−NMR(500MHz,CDOD)結果:
δ0.88−0.95(m,6H), 1.31−1.64(m,38H),2.15(t、2H),3.15(t,2H),3.56−3.81(m,6H),4.10−4.11(m,1H),4.24−4.26(m,1H)にピークが認められた。
ESI−MS結果:
[M+Na]=627.4552(calc.627.4560)
元素分析(C3264)結果:
実測値(%) C:63.48%,H:10.76%,N:4.55%
計算値(%) C:63.54%,H:10.66%,N:4.63%
【0053】
これらの結果より、下記一般式(1b)又は(1b′)で示される構造の化合物の混合物であることが確認された。
【0054】
【化11】

【0055】
実施例6
1)〜3)の工程は実施例5と同じ
4)糖アミド化
ラクトビオン酸4.3g(0.012モル)に脱水メタノールを200ミリリットル加え、攪拌した。これに前記アミノヒドロキシドコサン酸ブチルアミド4.4g(0.0104モル)を加えて、室温で64時間攪拌を行い、その後、還流を3時間行った。
TLCによりアミノヒドロキシドコサン酸ブチルアミドの消失を確認した後、メタノールを減圧留去すると、光沢のある白色固体を得た。この固体をクロロホルム・メタノール・水でカラムクロマトグラフィー精製を行い、白色固体4.8g(収率60%)を得た。
【0056】
得られた白色固体の構造を、FT−IR(KBr法)、H−NMR、ESI−MSで確認し、元素分析によって純度を確認した。
【0057】
FT−IR結果:
3386cm−1(O−H,st),1645cm−1(C=O,st),1544cm−1(N−H,δ)に吸収が認められた。
H−NMR(500MHz,CDOD)結果:
δ0.88−0.95(t,6H),1.31−1.64(m,38H),2.16(t,2H),3.14(t,2H),3.47−3.94(m,12H),4.22−4.23(m,1H),4.36(s,1H),4.48−4.49(d,1H)にピークが認められた。
ESI−MS結果:
[M+Na]=789.5102(calc.789.5088)
元素分析(C387413)結果:
実測値(%) C:59.48%,H:9.71%,N:3.63%
計算値(%) C:59.51%,H:9.72%,N:3.65%
【0058】
これらの結果より、下記一般式(2b)又は(2b′)で示される構造の化合物の混合物であることが確認された。
【0059】
【化12】

【0060】
実施例7
実施例1〜6で得た糖質化合物の各種溶媒に対する溶解性試験を評価した。
溶媒9.99gに0.01gの糖質化合物を加え、25℃で3時間攪拌した後、以下の基準のもと目視判定を行った。結果を表1に示す。
【0061】
溶媒溶解性評価基準
○:可溶
×:不溶、膨潤
【0062】
【表1】

【0063】
実施例1、実施例5の糖質化合物は、25℃において、水には不溶であったが、エタノールや2−プロパノール等アルコール系溶媒には可溶であり、種々の形態の化粧料への配合が可能である。
【0064】
実施例8
実施例1〜6で得た糖質化合物のうち、水への溶解性を示した実施例2、実施例3、実施例4、実施例6の糖質化合物及び比較例として下記化13(比較例1)、化14(比較例2)で示される1鎖型の界面活性剤を用いて、Wilhelmy法により、25℃で、表面張力の測定を行い、臨界ミセル濃度(cmc)、cmcにおける表面張力(γcmc)を求めた。結果を表2に示す。
【0065】
【化13】

【0066】
【化14】

【0067】
【表2】

【0068】
実施例2、3、4、6の糖質化合物は、比較例の化合物と比較して、1/10〜1/100程度の低い臨界ミセル濃度(cmc)を示し、cmcにおける表面張力(γcmc)も比較例の化合物と比較して低く、高い表面張力低下能を示した。これらの結果から、洗浄剤や乳化剤として使用する際に、従来の1鎖1親水基含有界面活性剤に比べて少量の添加量で済むことができ、さらに、少量の添加量で、抗体、酵素を安定化できる次世代の生化学的界面活性剤としての利用ができる。
【0069】
実施例9
実施例1〜6で得た糖質化合物を用いて皮膚刺激性の評価を行った。各糖質化合物の1wt%エタノール溶液とグリセリンとを重量比1:1で混合したものを被験試料として用いた。10名のパネルの上腕内側部に被験試料を塗布して24時間の閉塞パッチを行った後、皮膚の状態に問題(赤み、ひりつき、肌荒れ)が生じていなかったかどうかを、対照試料(エタノールとグリセリン同重量混合物)との比較を行って、各パネルが以下の0点〜3点で評価し、この評価点に基づき以下の基準により皮膚刺激性を評価した。結果を表3に示す。
皮膚刺激性の評価
0点:全く異常が認められなかった場合。
1点:わずかに赤みが認められた場合。
2点:赤み、ひりつき、肌荒れのうち、2項目以上に問題が認められた場合。
3点:丘疹など顕著な異常が認められた場合。
皮膚刺激性評価基準
○:パネル10名の評価点の平均値:0.2未満
△:パネル10名の評価点の平均値:0.2以上0.3未満
×:パネル10名の評価点の平均値:0.3以上
【0070】
【表3】

【0071】
実施例1〜6で得たいずれの糖質化合物においても、皮膚刺激性の評価は○であり、皮膚刺激性は認められず、安全性が高いことから、直接人体と接触するようなパーソナルケア製品への配合基剤として利用が可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)又は(2)で示される糖質化合物。
【化1】

【化2】

但し、上記一般式(1)、(2)において、Rは、炭素数1以上のアルキル基、Rはアルキレン基で、R−CH−CH−R−は炭素数9〜25の炭化水素基、Rは水素又はメチル基、Zは糖残基、C2n+1は直鎖のアルキル基、nは1から20の整数を示す。

【公開番号】特開2010−254647(P2010−254647A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−109319(P2009−109319)
【出願日】平成21年4月28日(2009.4.28)
【出願人】(000114318)ミヨシ油脂株式会社 (120)
【出願人】(509122083)
【出願人】(598069939)
【Fターム(参考)】