説明

糖鎖解析装置

【課題】
一度の分析で糖鎖の構造解析を行なうことができるようにする。
【解決手段】
カラム9〜12はそれぞれ別個のレクチンを固定したものである。糖鎖を含む試料は試料注入部5から注入され、流路切換えバルブ6から流路切換えバルブ13又は14を経ていずれかのカラムに送られ、そのカラムの溶出液が流路切換えバルブ7を経て検出器8に送られて検出される。それと同時に、洗浄液が流路切換えバルブ6から流路切換えバルブ13又は14を経て分析中のカラムとは異なるいずれかのカラムに送られ、そのカラムを洗浄した後、流路切換えバルブ7を経てドレインへ排出される。4種類のカラム9〜12で順次測定が行なわれ、それらの測定データは演算制御装置15に取り込まれ、糖鎖と4種類のレクチンとの相互作用が求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体クロマトグラフを利用した糖鎖解析装置に関し、特に糖鎖とレクチンの相互作用の強弱をスクリーニングし、糖鎖またはレクチンの構造や特徴を推定する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
遺伝子、蛋白質の総体を示す概念として定義されるゲノム(genome)、プロテオーム(proteome)に倣い、第3の生命鎖である糖鎖の総体はグライコーム(glycome)と呼ばれ、糖鎖についての存在形態や機能、構造が研究されている。
レクチン(lectin)は特定の糖鎖構造を認識し結合する蛋白質であり、単糖の種類はもちろんのこと、糖のアノマー(互変異性体)配列や結合位置を含めた糖鎖構造を認識していることがわかっている。レクチンは活性が多様なだけでなく、その構造も多様であり、これらの性質を利用したレクチンカラムによる複合糖鎖の精製や細胞群の分離分画は様々に研究されている(例えば特許文献1参照。)。
【0003】
従来のレクチンカラムを用いた糖鎖解析装置を図2に示す。
糖鎖とレクチンの相互作用の強弱を測定するために流路切換えバルブ6,7の間に2本のカラム9,10を取り付け、その中に試料の糖鎖と相互作用する可能性のあるレクチンをカラム9,10へ固定化する。その後、スクリーニングを行いたい糖鎖を試料注入部5から注入し、送液ポンプ3,4によって移動相1を送液して検出器8によって分析を行っていた。
この装置では、流路切換えバルブ6,7の切換えにより、片方のカラム9を分析しているときに、もう片方のカラム10の洗浄を行い、実験操作の効率化を図ることで、一度の分析で2本のカラムからデータを得ることができる。
【0004】
カラム9,10を別のレクチンのものと付け換えて交換し、この操作を複数回行う。得られたデータを基にユーザは自分で計算用ソフトウェアを立ち上げ、ソフトウェアを用いて糖鎖の相互作用、例えば、結合定数を求める(例えば特許文献2参照。)。これにより、未知の糖鎖の特徴や構造を推定することができる。
【特許文献1】特開平5−223806号公報
【特許文献2】特開平6−249841号公報
【非特許文献1】J. Hirabayashi, et al., "Oligosaccharide specificity of galectins: a search by frontal affinity chromatography", Biochimca et Biophysica Acta 1572 (2002) 232-254.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の装置は装置にセットできるカラムの数が2本のため、2種類のレクチンとの結合定数しか求めることができず、未知の糖鎖の構造を推定又は分類するためには着脱によるカラム交換を複数回行う必要があり、交換操作が煩わしかった。
また、糖鎖の構造の構造解析などに必要な測定データが一度の測定で入手できないため、測定データの取得からデータ処理までを自動化するのが容易ではなかった。
【0006】
本発明は、装置に装着可能なカラムの数を従来よりも多い最適な数にし、得られたクロマトグラムデータから糖鎖とレクチンとの相互作用を自動的に求めることのできる糖解析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の糖鎖解析装置は、試料注入部から注入された試料を移動相によりカラムに送液し、そのカラムからの溶出液を検出器で検出することにより糖鎖とレクチンとの相互作用を検出する液体クロマトグラフによる糖鎖解析装置において、該糖鎖解析装置は試料として糖鎖を含む溶液を試料注入部から注入するものであり、カラムとして互いに異なるレクチンを固定した少なくとも4本のカラムを備え、1つのカラムについて移動相が試料注入部を経由して供給されて検出器に導かれる分析流路を形成し、同時に他の1つのカラムについて洗浄液が流される洗浄流路が形成されるように流路を構成するとともに、この流路構成を4本のカラムの間で切り換える流路切換え機構を備え、かつ、少なくとも4本のカラムからの溶出液から得られる検出器の検出データを基にして糖鎖とレクチンとの相互作用を決定するプログラムを備えた演算制御装置を備えている。
【0008】
本発明の糖鎖解析装置はまた、レクチンをカラムに固定しておき、糖鎖を試料として注入するようにすることもできる。その場合も、上記と同様に少なくとも4本のカラムからの溶出液から得られる検出器の検出データを基にして糖鎖とレクチンとの相互作用を決定する自動的に決定することができる。
【0009】
移動相と洗浄液は同じ溶媒を兼用することもできる。
【発明の効果】
【0010】
本発明の糖鎖解析装置は、一度に少なくとも4本のカラムを取り付けることができるようにしたので、着脱によるカラムの交換を行う必要がなくなり、一度の実験操作で、レクチンと糖鎖の4種類以上の相互作用を求めることができるので、操作性が向上するとともに、それらの測定データを演算制御装置に取り込んで自動化することができる。
例えば、レクチンの糖特異性を予め把握している場合、同定された糖蛋白質がどのような糖鎖をもっていたのかを大まかな範囲で推定することができる。これにより、一度の分析でコアメンバの分類(構造特徴の推定)が可能になり、例えば、N型糖鎖では高マンノース型か複合型かどうかといった、コアメンバの分類同定を行なうことができる。
【0011】
異なる糖鎖を固定した少なくとも4本のカラムを用い、レクチンを含む試料を注入する場合には、糖鎖に対するそのレクチンの親和性を推定することができる。
【0012】
試料液及び洗浄液に用いる移動相と洗浄液に同じ溶媒を兼用するようにすれば、流路を少なくして装置を簡略することができる。
また、本発明の糖鎖解析装置は、糖鎖とレクチンとの相互作用を求める演算制御装置を備えたので、分析から相互作用の計算までを自動的に行うことができる。これにより、最初の分析開始だけ人の手によって行い、あとは自動的に相互作用までを求めることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
図1は本発明の糖鎖解析装置を示しており、(A)〜(D)はバルブを切り換えたときの流路の違いを示した図である。太い実線は分析用移動相、太い破線は洗浄用移動相の流路を示している。
【0014】
2つの流路切換えバルブ6,7の間にさらに2つの流路切換えバルブ13,14が接続され、流路切換えバルブ6,7の切換えにより流路切換えバルブ13,14を選択できるように接続されている。流路切換えバルブ13,14にはそれぞれ2本ずつのカラムが接続され、流路切換えバルブ13によりカラム9とカラム11のいずれかが選択され、流路切換えバルブ14によりカラム10とカラム12のいずれかが選択されるように接続されている。
【0015】
流路切換えバルブ6には、送液ポンプ3により容器1内の溶媒を分析用移動相として供給する流路と、送液ポンプ4により容器1内の溶媒を洗浄液として供給する流路とが接続されている。容器1内の溶媒が送液される流路には溶媒中の気泡を除去する脱気装置2が設けられている。流路切換えバルブ6の切換えにより、分析用移動相と洗浄液が流路切換えバルブ13又は14に供給されるように流路が切り換えられる。
この実施例では、容器1の溶媒は分析用移動相と洗浄液の両方の溶媒として兼用されている。しかし、分析用移動相と洗浄液には別々の溶媒を使用し、別々の流路により供給するようにしてもよい。
【0016】
流路切換えバルブ7には検出器8にとつながる流路とドレイン流路とが接続されている。
流路切換えバルブ7の切換えにより、流路切換えバルブ6又は7からのカラム溶出液が検出器8に導かれ、洗浄液がドレインに排出される。
【0017】
カラム9,10,11,12にはそれぞれ異なるレクチンが固定されている。レクチンは、レクチンの糖特異性を予め把握できているものを選ぶ必要がある。そのようなレクチンとして、例えば、一般に高マンノース型N−結合型糖鎖に高い親和性をもつコンカナバリンA(ConA)、β―ガラクトシド含有糖鎖に親和性をもつヒママメレクチン(RCA−I)、O−結合型糖鎖の基幹構造であるコア1構造(T−抗原)に選択性のあるピーナツレクチン(PNA)などを挙げることができる。
【0018】
検出器8は演算制御装置15に接続されて検出データが演算制御装置15に取り込まれる。演算制御装置15はユーザによるデータの入力、検出結果の記憶、保存されている糖鎖データの検索、相互作用の算出、及び結果の表示等を行なうプログラムを備えており、さらに演算制御装置15はこの糖鎖解析装置全体の動作を制御する。演算制御装置15の記憶部には糖鎖とレクチンの結合関係から導かれる構造や特徴などのデータが保存されており、例えば、非特許文献1に示すような糖鎖を解析することが可能である。
【0019】
次に実施例における動作を(A)〜(D)を順に参照して説明する。
糖鎖を含む試料として、例えば、精製した生体分泌液を用い、糖鎖とレクチンとの結合定数を求める。
(A)は分析力ラム9で分析を行ない、それと同時に分析力ラム10を洗浄する動作を表わす流路接続を示している。
分析対象の糖鎖を含む試料は、試料注入部5から導入され、ポンプ4より送液された移動相により送られ、流路切換えバルブ6と流路切換えバルブ13を介して力ラム9へ導かれ、力ラム9からの溶出液が流路切換えバルブ7によって検出器8へと送られて検出される。演算制御装置15は、検出器8によるクロマトグラムデータを取得し、計算を行なうことで糖鎖と力ラム9に固定されたレクチンとの相互作用を求める。
その分析動作と同時に、ポンプ3により送液された洗浄液は流路切換えバルブ6と流路切換えバルブ14を介してカラム10へ送られ、カラム10を洗浄して流路切換えバルブ7を通ってドレインへ排出される。
【0020】
(B)は分析力ラム10で分析を行ない、それと同時に分析力ラム11を洗浄する動作を表わす流路接続を示している。
試料は、試料注入部5から導入され、ポンプ4より送液された移動相により送られ、流路切換えバルブ6と流路切換えバルブ14を介して力ラム10へ導かれ、力ラム10からの溶出液が流路切換えバルブ7によって検出器8へと送られて検出される。演算制御装置15は、検出器8によるクロマトグラムデータを取得し、計算を行なうことで糖鎖と力ラム10に固定されたレクチンとの相互作用を求める。
その分析動作と同時に、ポンプ3により送液された洗浄液は流路切換えバルブ6と流路切換えバルブ13を介してカラム11へ送られ、カラム11を洗浄して流路切換えバルブ7を通ってドレインへ排出される。
【0021】
(C)は分析力ラム11で分析を行ない、それと同時に分析力ラム12を洗浄する動作を表わす流路接続を示している。
試料は、試料注入部5から導入され、ポンプ4より送液された移動相により送られ、流路切換えバルブ6と流路切換えバルブ13を介して力ラム11へ導かれ、力ラム11からの溶出液が流路切換えバルブ7によって検出器8へと送られて検出される。演算制御装置15は、検出器8によるクロマトグラムデータを取得し、計算を行なうことで糖鎖と力ラム11に固定されたレクチンとの相互作用を求める。
その分析動作と同時に、ポンプ3により送液された洗浄液は流路切換えバルブ6と流路切換えバルブ14を介してカラム12へ送られ、カラム12を洗浄して流路切換えバルブ7を通ってドレインへ排出される。
【0022】
(D)は分析力ラム12で分析を行ない、それと同時に分析力ラム9を洗浄する動作を表わす流路接続を示している。
試料は、試料注入部5から導入され、ポンプ4より送液された移動相により送られ、流路切換えバルブ6と流路切換えバルブ14を介して力ラム12へ導かれ、力ラム12からの溶出液が流路切換えバルブ7によって検出器8へと送られて検出される。演算制御装置15は、検出器8によるクロマトグラムデータを取得し、計算を行なうことで糖鎖と力ラム12に固定されたレクチンとの相互作用を求める。
その分析動作と同時に、ポンプ3により送液された洗浄液は流路切換えバルブ6と流路切換えバルブ13を介してカラム9へ送られ、カラム9を洗浄して流路切換えバルブ7を通ってドレインへ排出される。
【0023】
演算制御装置15は、(A)〜(D)により求められた結合定数から糖鎖とレクチンとの相互作用等を総合的に決定する。これにより、一度の実験操作で、測定対象の糖鎖と4種類のレクチンとの結合定数を求めることができ、糖鎖の特徴や構造を推定することができる。
【0024】
本発明は上記の実施例に限定されず、カラムにはそれぞれ異なる糖鎖を固定しておき、試料としてレクチンを注入することもできる。この場合は、レクチンの糖鎖に対する親和性をスクリーニングすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
液体クロマトグラフを利用した糖鎖解析装置であって、特に糖鎖とレクチンの相互作用の強弱をスクリーニングしたり、糖鎖又はレクチンの構造や特徴を推定する装置として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】一実施例の糖鎖解析装置を示す流路図であり、(A)〜(D)はそれぞれ流路切換えバルブを切り換えたときの流路接続を表わしている。
【図2】従来の糖鎖解析装置の流路図である。
【符号の説明】
【0027】
1 溶媒貯蔵容器
2 脱気装置
3,4 送液ポンプ
5 試料注入部
6,7,13,14 流路切換えバルブ
8 検出器
9〜12 分析カラム
15 演算制御装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料注入部から注入された試料を移動相によりカラムに送液し、そのカラムからの溶出液を検出器で検出することにより糖鎖とレクチンとの相互作用を検出する液体クロマトグラフによる糖鎖解析装置において、
該糖鎖解析装置は試料として糖鎖を含む溶液を前記試料注入部から注入するものであり、
前記カラムとして互いに異なるレクチンを固定した少なくとも4本のカラムを備え、
1つのカラムについて移動相が前記試料注入部を経由して供給されて前記検出器に導かれる分析流路を形成し、同時に他の1つのカラムについて洗浄液が流される洗浄流路が形成されるように流路を構成するとともに、この流路構成を前記4本のカラムの間で切り換える流路切換え機構を備え、かつ
前記少なくとも4本のカラムからの溶出液から得られる前記検出器の検出データを基にして糖鎖とレクチンとの相互作用を決定するプログラムを備えた演算制御装置を備えたことを特徴とする糖鎖解析装置。
【請求項2】
試料注入部から注入された試料を移動相によりカラムに送液し、そのカラムからの溶出液を検出器で検出することにより糖鎖とレクチンとの相互作用を検出する液体クロマトグラフによる糖鎖解析装置において、
該糖鎖解析装置は試料としてレクチンを含む溶液を前記試料注入部から注入するものであり、
前記カラムとして互いに異なる糖鎖を固定した少なくとも4本のカラムを備え、
1つのカラムについて移動相が前記試料注入部を経由して供給されて前記検出器に導かれる分析流路を形成し、同時に他の1つのカラムについて洗浄液が流される洗浄流路が形成されるように流路を構成するとともに、この流路構成を前記4本のカラムの間で切り換える流路切換え機構を備え、かつ
前記少なくとも4本のカラムからの溶出液から得られる前記検出器の検出データを基にして糖鎖とレクチンとの相互作用を決定するプログラムを備えた演算制御装置を備えたことを特徴とする糖鎖解析装置。
【請求項3】
前記移動相と洗浄液は同じ溶媒を兼用する請求項1又は2に記載の糖鎖解析装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−258608(P2006−258608A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−76407(P2005−76407)
【出願日】平成17年3月17日(2005.3.17)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】