説明

糞便処理容器及び糞便処理方法

【課題】安定した核酸回収を行うことが可能な糞便処理方法及び糞便処理容器を提供すること。
【解決手段】採便治具100と、懸濁液保持部110と、処理液保持部120とを備え、糞便試料調製用溶液Sが溶液保持容器121に収容された糞便処理容器1において、採便治具100で採取した糞便サンプルEが、採便治具100を糞便保持部110と嵌合するときに案内部112によって余分な糞便が削ぎ落とされ、一定量に調節される。その後、ピストン103で糞便サンプルEを押圧することで、糞便サンプルEが分散部材113によって細断されて糞便保持容器111内に分散される。糞便保持容器111を溶液保持容器121に押し込むことで、突起部115が封止膜122を穿って破断し、分散された糞便サンプルEと糞便試料調製用溶液Sとを混合する。糞便サンプルEを細断して分散させることによって、安定した核酸回収を行うことを可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糞便中から核酸を回収するための糞便処理容器及び糞便処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
現今、欧米と同様に日本においても、大腸がんの患者数は、年々急激に増加しており、大腸がんが、がん死亡率の上位を占めるようになってきている。これは、日本人の食生活が欧米型の肉食中心となったことに原因があると考えられている。具体的には、毎年約6万人程度が大腸がんに罹患しており、臓器別の死亡数でも、胃がん、肺がんに続く3番目の多さであり、今後更なる増加も予想されている。一方で、大腸がんは、他のがんと異なり、発症の初期に治療することにより、100%近く治癒可能ながんである。したがって、大腸がんを早期がん検診の対象とすることは極めて有意義であり、大腸がんの早期発見のための検査方法の研究・開発が盛んに行われている。
【0003】
大腸がんの早期発見のための検査方法として、例えば、注腸検査、大腸内視鏡検査等が行われている。注腸検査とは、大腸にバリウムを注入し、大腸の粘膜面に付着させ、X線を照射しその表面の凹凸の撮影を行い、大腸の表面を観察する検査である。一方、大腸内視鏡検査とは、内視鏡により直接大腸内部を観察する検査である。特に大腸内視鏡検査は、感度や特異性が高く、ポリープや早期がんの切除も可能であるという利点も有している。
【0004】
しかしながら、これらの検査方法は、コストが高い上に被験者への負担が大きく、合併症のリスクを伴うという問題がある。例えば、注腸検査には、X線被爆や腸閉塞の危険性がある。また、大腸内視鏡検査は、内視鏡を直接大腸内に投入するため侵襲的であり、かつ、内視鏡操作には熟練を要し、検査のできる施設が限られている。このため、これらの検査方法は、定期健診等の無症状の一般人を対象とした大腸がん検査に適しているとは言い難い。
【0005】
近年、大腸がんの一次スクリーニング法として、非侵襲的で低コストである便潜血検査が広く実施されている。便潜血検査は、糞便中に含まれる赤血球由来のヘモグロビンの有無を調べる検査であり、間接的に大腸がんの存在を予測する方法である。便潜血検査では、便の採取や保存を常温で行うことができ、冷蔵・冷凍等の特別な保存条件も必要としないこと、及び、一般的な家庭で簡単に行うことができ、操作が非常に簡便であることも、広く利用される要因となっている。但し、便潜血検査では、感度が25%程度と低く、大腸がんを見落とす確率が高いという問題がある。さらに、陽性的中率も低く、便潜血検査陽性の被験者の中で実際に大腸がん患者である割合は10%以下であり、多くの偽陽性を含んでいる。このため、より信頼性の高い新たな検査法の開発が強く望まれている。
【0006】
定期健診等にも適した、非侵襲的で簡便であり、かつ信頼性の高い新たな検査方法として、糞便中のがん細胞の有無やがん細胞由来遺伝子の有無を調べる検査が注目されている。これらの検査方法は、直接的にがん細胞やがん細胞由来遺伝子の有無を調べるため、大腸がんの罹患に伴い間接的に生じる消化管からの出血の有無を調べる便潜血検査法に比べて、より信頼性の高い検査法になり得ると考えられる。
【0007】
糞便中のがん細胞を調べる検査法としては、糞便を検査に供するまで凍結して保存し、凍結された糞便からRNAを抽出し、腫瘍マーカーとなる遺伝子の発現の有無を検出する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、糞便サンプルを一定量採取でき、容器に導入して懸濁することが可能な糞便処理容器が提案されている(例えば、特許文献2参照)。さらに、糞便をスティックで採取して密閉された容器内で処理液と混合する糞便処理容器が提案されている(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】WO2004/083856号公報
【特許文献2】特公平6−72837号公報
【特許文献3】特開平4−140635号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、糞便を検査に供するまで凍結して保存する糞便処理方法において、検診等のように家庭において採便が行われる場合には、凍結した状態で糞便を移送することは非常に困難を要する。また、凍結させた糞便は、検査前に融解しなければならない。糞便試料中の核酸の分解等を可能な限り防止するために、融解操作は短時間であることが好ましいため、凍結させた糞便は、通常、融解前に粉砕して用いられているが、凍結させた糞便は、硬度が高いため粉砕し難く、取り扱いが困難である。さらに、粉砕時に凍結片が飛び散るため、汚染や感染の危険があるという問題もある。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、安定した核酸回収を行うことが可能な糞便処理方法及び糞便処理容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる糞便処理容器は、核酸を回収するための糞便を保持する糞便処理容器において、所定量の前記糞便を採取する採便部と、前記採便部を装着して密閉空間を形成するとともに、該密閉空間内に前記糞便を取り込んで保持する糞便保持部と、を備え、前記糞便を前記密閉空間内に取り込む際に、該糞便を前記密閉空間内に放出する放出機構を設けたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、前記放出機構は、前記糞便を前記密閉空間内に取り込む際に、該糞便の表面積が大きくなるように該糞便を前記密閉空間内に放出することを特徴とする。
【0013】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、前記放出機構は、前記採便部に設けられ、所定量の前記採便を先端内部に保持する筒状部材と、前記糞便保持部に設けられ、前記糞便の取り込み時に前記筒状部材が内挿されて該筒状部材を案内する筒状の案内部と、前記案内部の先端部分に設けられ、複数の孔を有し、各孔を介して前記糞便を前記密閉空間内に分散して放出する分散部材と、を備えたことを特徴とする。
【0014】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、前記放出機構は、前記採便部に設けられ、所定量の前記採便をその外部側壁面に形成された複数の凹部に保持するとともに弾性材によって形成された筒状部材と、前記筒状部材の内部空間に圧入される圧入部材と、を備え、前記糞便の取り込み時に前記圧入部材を前記内部空間に圧入し、各凹部に保持された糞便を前記密閉空間内に分散して放出することを特徴とする。
【0015】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、前記放出機構は、前記採便部に設けられ、所定量の前記採便を保持し挿脱方向に延びる溝部を有した柱状部材と、前記糞便保持部に設けられ、前記柱状部材の挿入時に前記溝部に保持された糞便を掻き出す掻出部材と、を備え、前記糞便の取り込み時に前記掻出部材が前記溝部に保持された糞便を前記密閉空間内に放出することを特徴とする。
【0016】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、前記糞便保持部は、前記採便部の前記筒状部材あるいは前記柱状部材の取り付け時に、該筒状部材あるいは該柱状部材の外部側壁面に付着した余分量の糞便を削ぎ落とし、当該糞便保持部と前記採便部との間に形成されかつ前記密閉空間外の所定空間に前記余分量の糞便を保持させることを特徴とする。
【0017】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、前記糞便保持部は、前記密閉空間内に懸濁液が収容されることを特徴とする。
【0018】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、前記懸濁液は、水、生理食塩水または、糞便と非反応の緩衝剤であることを特徴とする。
【0019】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、核酸の回収効率を上昇させる糞便試料調製用溶液を保持する溶液保持部を備え、前記懸濁液と糞便とを懸濁した糞便懸濁液に、前記糞便試料調製用溶液を混合して糞便試料を調製することを特徴とする。
【0020】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、前記糞便保持部は、前記密閉空間内に核酸の回収効率を上昇させる前記糞便試料調製用溶液が収容されることを特徴とする。
【0021】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、前記糞便保持部と前記溶液保持部との間を開放する開放機構を備えたことを特徴とする。
【0022】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、少なくとも前記糞便保持部と前記溶液保持部とは別体であり、該糞便保持部と該溶液保持部とは互いに装着可能であることを特徴とする。
【0023】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、前記糞便試料調製用溶液は、有機溶媒であることを特徴とする。
【0024】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、前記糞便試料調製用溶液は、水溶性有機溶媒であることを特徴とする。
【0025】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、前記水溶性有機溶媒は、水溶性アルコール及び/又はケトン類であることを特徴とする。
【0026】
また、本発明にかかる糞便処理容器は、上記の発明において、前記水溶性有機溶媒は、アルデヒド類であることを特徴とする。
【0027】
また、本発明にかかる糞便処理方法は、上記の発明において、糞便から核酸を回収するための糞便試料を調製処理する糞便処理方法において、所定量の前記糞便を採取する採取ステップと、採取した糞便を該糞便の表面積が大きくなるように糞便保持部内に放出させる放出ステップと、を含むことを特徴とする。
【0028】
また、本発明にかかる糞便処理方法は、上記の発明において、前記放出ステップは、採便部先端に保持された前記糞便が、筒状部材の押圧によって複数の孔を介して細断されて押し出されることで前記糞便保持部内に放出されることを特徴とする。
【0029】
また、本発明にかかる糞便処理方法は、上記の発明において、前記放出ステップは、採便部外部表面に形成された複数の凹部に保持された前記糞便を、該採便部に内挿され弾性部材で形成された筒状部材が該凹部を内部から圧入することによって、前記糞便保持部内に放出することを特徴とする。
【0030】
また、本発明にかかる糞便処理方法は、上記の発明において、前記放出ステップは、採便部に設けられた溝部に収容された前記糞便を、掻出部材によって前記糞便保持部内に放出することを特徴とする。
【0031】
また、本発明にかかる糞便処理方法は、上記の発明において、前記放出ステップは、前記糞便保持部内に取り込まれた前記糞便を、該糞便保持部内に収容された懸濁液によって懸濁して分散させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、採取した一定量の糞便を糞便保持部に取り込むときに、放出機構によって糞便保持部の密閉空間内に放出されるため、糞便の状態に因らず糞便保持部の密閉空間内に糞便を放出して糞便試料調製用溶液と混合させることで安全で高精度な核酸回収を行うことができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
以下、図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態である糞便処理方法及び糞便処理容器について説明する。なお、各実施の形態によって本発明が限定されるものではない。また、図面の記載において、同一部分には同一符号を付している。
【0034】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1にかかる糞便処理容器1の概要構成を模式的に示した断面図である。この糞便処理容器1は、所定量の糞便を採取する採便治具100と、採便治具100を装着して密閉空間を形成するとともに、この密閉空間内に採便治具100によって採取した糞便を取り込んで保持する糞便保持部110と、取り込んだ糞便内の核酸の回収効率を上昇させる糞便試料調製用溶液Sを溶液保持容器121内に保持する溶液保持部120とを備え、糞便保持部110の上下方向からそれぞれ採便治具100と溶液保持部120とが装着される。
【0035】
図1において、糞便保持部110は、円筒状の糞便保持容器111を有し、糞便保持容器111は、一方の円筒端部(図1上、上端部)側であって円筒軸心に沿った円筒状の案内部112を有する。案内部112は、円筒下端部に、採取された糞便を糞便保持部111の内部空間に取り込む際に糞便サンプルEを分散させる分散部材113を設けている。また、糞便保持部111の他方円筒端部(図1下、下端部)は、溶液保持容器121と嵌合する嵌合部114と、嵌合部114が形成する内部空間中央に設けられた鋭利な先端を有する突起部115と、突起部115周囲を開放して糞便保持容器111と溶液保持容器121と連通する連通孔116とを備えている。採便治具100は、糞便保持容器111と嵌合して糞便保持部110上端の密閉状態を形成する蓋101と、内部が円筒状の空領域で形成された円筒状であって糞便を詰め込んで採取する採便棒102とを有する。また、採便棒102の内部空領域には、採便棒102内部側壁と密着して嵌め込まれ円筒軸線上を移動可能な円筒状であって、採便量の調節および採取された糞便を糞便保持容器111内に押し出すピストン103が備えられている。溶液保持部120は、核酸の回収効率を上昇させる糞便試料調製用溶液Sを保持する溶液保持容器121を有する。溶液保持容器121は、一方の端部(図1下、上端部)が開放された内部空間を有する円筒状であって、内部空間に糞便試料調製用溶液Sを収容している。また、開放された端部は封止膜122によって封止されている。溶液保持容器121が嵌合部114と嵌合することで、糞便保持容器111下端の密閉状態を形成する。
【0036】
図2は、図1に示すA−A線断面図である。分散部材113の円平面には、分散孔113aが複数設置され、糞便保持部111と採便治具102の内部空領域との間は分散孔113aを介して連通している。分散孔113aの数および径の大きさは任意に設定可能であり、糞便を有効に分散させる程度の径に設定することが好ましい。
【0037】
また、図3は、分散部材113近傍の鉛直方向断面を示す断面図である。案内部112下端に保持された分散部材113は、円筒軸線方向の円筒状の空領域を形成した分散孔113aを複数個有している。
【0038】
図4は、糞便サンプルEを採取してから糞便試料を生成するまでの流れを示す模式図である。先ず、図4(a)において、採便治具100は、採便棒102に収容されているピストン103を引き、採取量を調節した後、採便棒102とピストン103とで形成された空領域に糞便サンプルEを詰め込む。採便治具100で糞便サンプルEを採取すると、図4(b)で示すように、糞便保持容器111を蓋101と嵌合して採便棒102を案内部112に収容する。ここで、採便棒102に付着した余分な糞便は、案内部112の導入側端部に削ぎ落とされることによって除去され、削ぎ落とされた糞便は、蓋101と案内部112が形成する空間に保持される。蓋101と糞便保持容器111とを嵌合した後、糞便試料調製用溶液Sを収容する溶液保持容器121を嵌合部114と嵌合させる(図4(c))。ここで、突起部115と封止膜122との間に空領域が形成されており、突起部115が封止膜122と接触しないようになっている。
【0039】
糞便保持容器111が、蓋101と溶液保持容器121とによって密閉状態になった後、ピストン103を下方に押圧して分散部材113側に糞便サンプルEを押し出す。この結果、糞便サンプルEは、分散部材113を通過して、糸状に形成されて糞便保持容器111内に放出される(図4(d))。その後、溶液保持部121を糞便保持容器111に押し込むと、突起部115が封止膜122を穿って破断し、糞便試料調製用溶液Sが開放される(図4(e))。封止膜122が破断されて開放された糞便試料調製用溶液Sは、糞便処理容器1を上下に反転することで連通孔116を流通して糞便サンプルEと混合する(図4(f))。
【0040】
なお、糞便サンプルEを細断する分散部材113に設ける分散孔113aは、図5に示す断面図のように分散孔113aの円筒状の空領域を径方向に傾斜をかけて、分散孔113aから放出される糞便サンプルEが径方向外側に分散されるようにしてもよい。また、図6に示す下方斜視図のように分散孔113aを網状に形成して糞便サンプルEを糞便保持部111内に分散させてもよい。
【0041】
ここで、本発明の糞便試料調製用溶液Sは、水溶性有機溶媒を有効成分とするものである。糞便等の生体試料は、通常多量の水分を含有しており、水に対する溶解度が高い溶媒や水と任意の割合で混合可能な水溶性有機溶媒を有効成分とすることにより、糞便試料と速やかに混合することができ、より高い核酸抽出効率を得ることが可能となる。
【0042】
また、糞便試料調製用溶液Sに含有させる水溶性有機溶媒は、アルコール類、ケトン類、又はアルデヒド類であって、直鎖構造を有し、室温付近、例えば15〜40℃において液状である溶媒が適している。なお、有機酸は含まれない。直鎖構造を有する水溶性有機溶媒を有効成分とすることによって、ベンゼン環等の環状構造を有する有機溶媒を有効成分とするよりも、糞便との混合を素早く行うことができる。環状構造を有する有機溶媒は、水に対する溶解度が低いため、サンプルと混合する場合には加温して激しく混合する必要があり、簡易な処理で高い核酸抽出効率を得ることは難しい。
【0043】
なお、本発明の糞便試料調製用溶液Sは、水に対する溶解度が12重量%以上の水溶性有機溶媒であることが好ましく、水に対する溶解度が20重量%以上の水溶性有機溶媒であることがより好ましく、水に対する溶解度が90重量%以上の水溶性有機溶媒であることがさらに好ましく、水と任意の割合で混合可能である水溶性有機溶媒であることが特に好ましい。水と任意の割合で混合可能である水溶性有機溶媒として、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、2−プロパノール、アセトン、ホルムアルデヒド等が挙げられる。
【0044】
また、本発明の糞便試料調製用溶液Sに含有される水溶性有機溶媒は、上述した定義を充足するものであって、核酸抽出効率効果を奏することができる溶媒であれば特に限定されるものではない。例えば、アルコール類としては、水溶性アルコールであるメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等があり、ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン(水に対する溶解度90重量%)等があり、アルデヒド類としては、アセトアルデヒド(アセチルアルデヒド)、ホルムアルデヒド(ホルマリン)、グルタールアルデヒド、パラフォルムアルデヒド、グリオキサール(glyoxal)等がある。プロパノールは、n−プロパノールであってもよく、2−プロパノールであってもよい。また、ブタノールは、1−ブタノール(水に対する溶解度20重量%)であってもよく、2−ブタノール(水に対する溶解度12.5重量%)であってもよい。本発明において用いられる水溶性有機溶媒としては、水溶性アルコール、アセトン、メチルエチルケトン、ホルムアルデヒドであることが好ましく、これらの有機溶媒は水に対する溶解度が十分に高い。入手容易性、取り扱い性、安全性等から、水溶性アルコールであることがより好ましく、エタノール、プロパノール、メタノールであることがさらに好ましい。特にエタノールは、最も安全性が高く、家庭内でも容易に扱うことが可能であるため、定期健診等のスクリーニング検査において特に有用である。
【0045】
なお、本発明の糞便試料調製用溶液S中の水溶性有機溶媒濃度は、核酸抽出効率効果を奏することができる濃度であれば、特に限定されるものではなく、水溶性有機溶媒の種類等を考慮して、適宜決定することができる。例えば、有効成分として、水溶性アルコールやケトン類を用いる場合には、本発明の糞便試料調製用溶液Sの水溶性有機溶媒濃度は30%以上であることが好ましい。水溶性有機溶媒濃度が充分に高濃度であることによって、糞便サンプルEと糞便試料調製用溶液Sを混合した場合に、糞便中の哺乳細胞等や腸内常在菌に水溶性有機溶媒成分が迅速に浸透し、核酸抽出効率効果を速やかに奏することができる。なお、本発明及び本明細書中において、特に記載がない限り、「%」は「体積%」を意味する。
【0046】
特に、有効成分として、水溶性アルコールを用いる場合には、糞便試料調製用溶液Sの水溶性有機溶媒濃度は30%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、50〜80%であることがさらに好ましく、60〜70%であることが特に好ましい。水溶性有機溶媒濃度が高い程、水分含量の多い糞便に対しても少量の糞便試料調製用溶液Sを用いることによって、充分な核酸抽出効率効果を得ることができる。
【0047】
また、有効成分として、アセトン、メチルエチルケトンを用いる場合には、本発明の糞便試料調製用溶液Sの水溶性有機溶媒濃度は30%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、80%以上であることがさらに好ましい。その他、有効成分として、アセトアルデヒド、ホルムアルデヒド、グルタールアルデヒド、パラフォルムアルデヒド、グリオキサールを用いる場合には、本発明の糞便試料調製用溶液Sの水溶性有機溶媒濃度は0.01〜30%であることが好ましく、0.03〜10%であることがより好ましく、3〜5%であることがさらに好ましい。アルデヒド類は、アルコール類やケトン類よりも低濃度においても、核酸抽出効率効果を奏することができる。
【0048】
その他、本発明において用いられる水溶性有機溶媒は、1種類の水溶性有機溶媒のみを含有していてもよく、2種類以上の水溶性有機溶媒の混合溶液であってもよい。例えば、2種類以上のアルコールの混合溶液であってもよく、アルコールと他種類の水溶性有機溶媒との混合溶液であってもよい。核酸回収効率がより改善されるため、アルコールとアセトンとの混合溶液であることも好ましい。
【0049】
なお、採取された糞便サンプルEと混合する糞便試料調製用溶液Sの容量は、特に限定されるものではないが、糞便サンプルEと糞便試料調製用溶液Sの混合比率は、糞便容量1に対して糞便試料調製用溶液容量が1以上であることが好ましい。また、糞便に対して、5倍以上の容量の糞便試料調製用溶液Sを混合させることにより、糞便試料調製用溶液中への糞便の分散を迅速かつ効果的に行うことができ、さらに、糞便に含有されている水分による水溶性アルコール濃度の低下の影響を抑えることもできる。なお、糞便サンプルEと糞便試料調製用溶液Sとの混合比率が、1:1〜1:20であることがより好ましく、1:3〜1:10であることがさらに好ましく1:5程度であることがより好ましい。
【0050】
また、本発明の糞便試料の処理方法に供される糞便は、動物のものであれば特に限定されるものではないが、哺乳動物由来のものであることが好ましく、ヒト由来のものであることがより好ましい。例えば、定期健診や診断等のために採取されたヒトの糞便であることが好ましいが、家畜や野生動物等の糞便であってもよい。また、採取後一定期間保存されたものであってもよいが、採取直後のものであることが好ましい。さらに、採取された糞便は、排泄直後のものであることが好ましいが、排泄後時間を経たものであってもよい。
【0051】
さらに、本発明の糞便試料の処理方法に供される糞便の量は、特に限定されるものではないが、10mg〜1gであることが好ましい。糞便量があまりに多くなってしまうと、採取作業に手間がかかり、糞便処理容器も大型化しまうため、取り扱い性等が低下するおそれがある。逆に糞便量があまりに少量である場合には、糞便中に含まれる大腸剥離細胞等の哺乳細胞数が少なくなりすぎるため、必要な核酸量を回収できず、目的の核酸解析の精度が低下するおそれがある。また、糞便はヘテロジニアスである、つまり、多種多様な成分が不均一に存在しているため、哺乳細胞の局在の影響を避けるために、糞便を採取する際には、糞便の広範囲から採取することが好ましい。
【0052】
また、糞便試料調製用溶液Sは、水溶性有機溶媒を適宜希釈し、所望の濃度に調整することによって得ることができる。希釈に用いる溶媒は特に限定されるものではないが、水又はPBS(リン酸緩衝生理食塩水、pH7.4)等の緩衝液であることが好ましい。また、糞便試料調製用溶液Sは、水溶性有機溶媒成分による核酸抽出効率効果を損なわない限り、水溶性有機溶媒以外にも、任意の成分を含んでいてもよい。例えば、カオトロピック塩を含有していてもよく、界面活性剤を含有していても良い。カオトロピック塩や界面活性剤を含有することにより、糞便中の細胞活性や各種分解酵素の酵素活性をより効果的に阻害することができる。糞便試料調製用溶液Sに含有させ得るカオトロピック塩として、例えば、塩酸グアニジン、グアニジンイソチオシアネート、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸ナトリウム、及びトリクロロ酢酸ナトリウム等がある。また、糞便試料調製用溶液Sに含有させ得る界面活性剤としては、非イオン性界面活性剤であることが好ましい。非イオン性界面活性剤として、例えば、Tween80、CHAPS(3−[3−コラミドプロピルジメチルアンモニオ]−1−プロパンスルホネート)、Triton X−100、Tween20等が挙げられる。カオトロピック塩や界面活性剤の種類や濃度は、核酸安定化効果が得られる濃度であれば、特に限定されるものではなく、糞便量やその後の核酸回収・解析方法等を考慮して、適宜決定することができる。
【0053】
その他、糞便試料調製用溶液Sには、適宜着色剤を添加してもよい。糞便試料調製用溶液を着色することにより、誤飲防止、糞便の色が緩和される等の効果が得られる。該着色剤として、食品添加物として使用される着色料であることが好ましく、青色や緑色等が好ましい。例えば、ファストグリーンFCF(緑色3号)、ブリリアントブルーFCF(青色1号)、インジゴカルミン(青色2号)等が挙げられる。また、複数の着色剤を混合して添加してもよく、単独で添加しても良い。
【0054】
ここで、糞便サンプルEと糞便試料調製用溶液Sとの混合は、速やかに行われることが好ましい。糞便サンプルEを速やかに糞便試料調製用溶液S中に分散させることにより、糞便中の細胞に対する水溶性有機溶媒成分の浸透を迅速に行うことで、核酸抽出効率効果がより確実に得ることができる。なお、糞便サンプルEと糞便試料調製用溶液Sとを混合する方法は、物理的手法により混合する方法であれば、特に限定されるものではない。例えば、密閉状態の糞便処理容器を上下に反転させることによって混合してもよく、ボルテックス等の振とう機にかけることによって混合してもよい。また、糞便サンプルEと糞便試料調製用溶液Sとを、混合用粒子の存在下で混合してもよい。速やかに混合させることができるため、振とう機を用いる方法や、混合用粒子を用いる方法であることが好ましい。特に、予め混合用粒子を含有させた採便容器を用いることにより、家庭等の特殊な装置のない環境においても迅速に混合することができる。なお、混合用粒子としては、水溶性有機溶媒成分による核酸抽出効率効果を損なわない組成物であって、糞便にぶつかることにより、糞便を迅速に糞便試料調製用溶液中に分散させ得る硬度や比重を有する粒子であれば、特に限定されるものではなく、1種類の材質からなる粒子であってもよく、2種類以上の材質からなる粒子であってもよい。このような混合用粒子として、例えば、ガラス、セラミックス、プラスチック、ラテックス、金属等からなる粒子がある。その他、混合用粒子は、磁性粒子であってもよく、非磁性粒子であってもよい。
【0055】
(分析例1)
ここで、本発明の糞便処理容器を用いた糞便処理方法と、分散部材が設けられていない従来の糞便処理方法とによって回収される核酸量を比較した分析例1について説明する。分析例1に用いた糞便サンプルは、予めノロウイルス感染症に罹患していることがわかっている4人の患者の糞便であり、4人の患者の糞便サンプルに対してそれぞれ糞便サンプル番号11〜14を付して使用した。糞便サンプルを処理して調製された糞便試料において、本発明の糞便処理方法によって処理された糞便試料を糞便試料Aとし、従来の糞便処理方法によって処理された糞便試料を糞便試料Bとした。
【0056】
先ず、各糞便サンプル11〜14を採便治具で1グラム採取して、採便治具と糞便保持容器とを嵌合する。その後、採取された糞便サンプルを糞便保持容器内に放出する。ここで、糞便試料Aは、分散部材を通過させ、糞便サンプルを糸状に形成させて糞便保持容器内に分散させるが、糞便試料Bは、分散部材は使用せずにピストンの押し出しのみによって糞便保持部内に放出させる。糞便サンプルを糞便保持容器内に取り込んだ後、3ミリリットルの糞便試料調製用溶液(70%メタノール)と混合させる。得られた糞便試料A,Bを25℃で1日静置した後、2,000×gで10分間遠心処理を行い、上清を取り除いた。上清を除去した容器中に3mLのPBSを添加して十分に攪拌した後、12,000gで10分間遠心し、得られた上清1μLをテンプレートとして、SuperscriptIII one step RT−PCR System(Invitrogen社製)を用いて、RT−PCRを行った。ノロウイルス遺伝子の検出を、このRT−PCR産物をテンプレートとして、表1に示す配列番号1の塩基配列を有するフォワードプライマー(Norovirus−F primer)と、配列番号2の塩基配列を有するリバースプライマー(Norovirus−R primer)とを用いたPCRにより行った。
【0057】
(表1)

【0058】
PCR反応溶液は、0.2mLのPCRチューブに、12μLの超純水と2μLの10×バッファー(Applied Biosystems社製)を添加し、さらに、各1μLのRT−PCR産物、フォワードプライマー、リバースプライマー、塩化マグネシウム、dNTP、及びDNAポリメラーゼ(Applied Biosystems社製)をそれぞれ添加して調製した。PCR反応溶液を収容したPCRチューブを、95℃で10秒間の変性、次に95℃で30秒間、62℃で30秒間、72℃で30秒間を30サイクルからなる反応条件でPCRを行った。得られたPCR産物の分析は、BIOANALYZER(Agilent Technology社製)を用いて、電気泳動法により解析した。
【0059】
図7は、電気泳動法によって得られたバンドパターンを示す撮像図である。領域EAは、各患者に対応する試料番号11〜14の糞便から糞便処理を行った糞便試料Aから核酸を回収して増幅した解析結果であり、領域EBは、糞便試料Bにおいて核酸を回収して増幅した解析結果である。試料AおよびBの同一のレーン番号は、同一の糞便サンプル番号11〜14を処理して得られた核酸を増幅したPCR産物が泳動されている。レーンMにはマーカーが泳動されており、構成塩基対を示す指標として使用される。矢印Pで示す位置が、100bpのバンドであり、ノロウイルス遺伝子由来の増幅されたPCR産物を示している。
【0060】
糞便試料Aでは、糞便サンプル番号11〜14においてノロウイルス遺伝子を検出することができた。これに対して、糞便試料Bでは、同じ糞便を用いたにもかかわらず、100bpの各バンドが薄く、濃さにも差がある。この結果から、糞便試料Aを処理する処理方法では安定して高精度に核酸が回収できるのに対し、糞便試料Bから回収される核酸は濃度が低く、回収精度も糞便の状態や取り方によって変化すると言える。また、糞便試料Bは、糞便試料調製用溶液と接する表面積が小さく、糞便試料Bに対して糞便調製用溶液が混ざりきらず、1日保存する際に糞便の塊内部の核酸の劣化が進んだと考えられる。そのため、糞便試料Bでは核酸の回収率の低下からウイルス感染陽性率が下がり、ノロウイルス感染症に罹患しているにもかかわらず、感染していないと判断されかねない。
【0061】
(分析例2)
また、5人の健常人から採取された糞便に直ちにMKN45細胞を添加して混合した糞便サンプル21〜25を使用して、核酸回収の分析例2を行った。MKN45は各糞便2グラム中に3×10個含むように調製した。MKN45細胞は胃がん由来であるが、大腸癌細胞同様、COX2遺伝子を高発現するため、大腸癌細胞からの核酸回収のモデルとして用いた。糞便サンプルを処理して調製された糞便試料において、本発明の糞便処理方法で処理された糞便試料を糞便試料Cとし、分散部材が設けられていない従来の糞便処理方法で処理された糞便試料を糞便試料Dとした。
【0062】
先ず、各糞便サンプル21〜25を採便治具で2グラム採取して、採便治具と糞便保持容器とを嵌合する。その後、採取された糞便サンプルを糞便保持容器内に放出する。ここで、糞便試料Cは、分散部材を通過させて糞便サンプルを糸状に形成させて糞便保持容器内に分散させるが、糞便試料Dは、分散部材は使用せずにピストンの押し出しのみによって糞便保持部内に放出させる。糞便サンプルを糞便保持容器内に取り込んだ後、3ミリリットルの糞便試料調製用溶液(70%メタノール)と混合させる。得られた糞便試料C,Dを25℃で1日静置した後、2,000×gで10分間遠心処理を行い、上清を取り除いた。上清を除去した容器中に3mLのPBSを添加し、Qiamp DNA stool mini kit(Qiagen社製)を用いてDNAを抽出した。がんマーカーの1つであるCOX2(Cyclooxygenase−2)遺伝子の検出を、抽出されたDNAをテンプレートとして、表2に示す配列番号3の塩基配列を有するフォワードプライマー(COX2−F1 primer)と、配列番号4の塩基配列を有するリバースプライマー(COX2−R1 primer)とを用いたPCRにより行った。
【0063】
(表2)

【0064】
PCR反応溶液は、0.2mLのPCRチューブに、12μLの超純水と2μLの10×バッファー(Applied Biosystems社製)を添加し、さらに、各1μLの抽出されたDNA、フォワードプライマー、リバースプライマー、塩化マグネシウム、dNTP、及びDNAポリメラーゼ(Applied Biosystems社製)をそれぞれ添加して調製した。このPCRチューブを、95℃で10秒間の変性、次に95℃で30秒間、65℃で30秒間、72℃で1分間を30サイクルからなる反応条件でPCRを行った。得られたPCR産物の分析は、BIOANALYZER(Agilent Technology社製)を用いて、電気泳動法により解析した。
【0065】
図8は、電気泳動法によって得られた各糞便試料から回収された核酸のバンドパターンを示す撮像図である。領域ECは、糞便試料Cから回収された核酸を増幅して得られた核酸の解析結果であり、領域EDは、糞便試料Dにおける核酸回収結果である。領域C,Dの同一のレーン番号には、同一の糞便サンプル21〜25から得られた核酸のPCR産物が泳動されており、Mにはマーカーが泳動されている。矢印Qで示す位置が、175bpのバンドであり、COX2遺伝子由来の増幅されたPCR産物を示している。
【0066】
糞便試料Cでは、糞便サンプル21〜25においてCOX2遺伝子を検出することができた。一方、糞便試料Dでは、同一の糞便を用いたにもかかわらず、バンドが薄く、濃さにも差がある。この結果から、糞便試料Cを処理する処理方法では安定して高精度に核酸が回収できるのに対し、糞便試料Dでは、分散性の低さによって糞便調製用溶液の浸透率が低下し、保存の際に核酸が劣化して十分な核酸量を抽出できなかったと考えられる。このため、本発明の糞便処理容器を用いる糞便処理方法により調製された糞便試料は、高精度に核酸を抽出することが可能であり、がんの早期発見に有用であることが期待できる。
【0067】
(分析例3)
上述した分析例1,2において、分散部材によって分散された糞便サンプルに対して70%エタノールを糞便調製用溶液として用いることで核酸が高精度に回収できることを確認した。さらに、他の有機溶媒でも同様に核酸が高精度に回収できるか否かを確認するため、分析例3を行った。分析例3では、本発明の糞便処理容器を用いた糞便処理方法と、分散部材を使用しない従来の糞便処理方法とによって糞便から回収されるRNAの抽出量を比較した。また、分析例3では、採取されたサンプル量の定量性の確認も行った。糞便サンプル#1〜#10を処理して調製された糞便試料において、採便治具で各1グラム採取した後、分散部材を通過させて糸状に成形した糞便サンプルから調製した糞便試料を糞便試料Fとし、各糞便サンプルを目分量で採取して、分散部材を使用せずに容器内に取り込んだ糞便サンプルから調製した糞便試料を糞便試料Gとした。糞便サンプルと混合させる糞便試料調製用溶液には、3ミリリットルの酢酸フェノールグアニジンを使用した。調製された糞便試料F,Gを、12,000×g、4℃で20分間遠心分離処理した後、遠心分離処理によって得られた上清(水層)を、RNeasy midi kit(Qiagen社製)のRNA回収用カラムに通してRNAを回収した。その後、ナノドロップ(ナノドロップ社製)を用いて、回収したRNAの定量を行った。
【0068】
ここで、表3は、各糞便サンプル#1〜#10における本発明の採便治具によって採取して成形して糞便試料Fの調製に用いられた糞便量と、目分量で採取して糞便試料Gの調製に用いられた糞便量とを示している。表3に示すように、本発明の採便治具によって採取された糞便量の平均値が1.01グラム、標準偏差が0.09であるのに対し、目分量で採取した糞便量の平均値は1.43グラム、標準偏差は0.25であった。目分量で採取した場合、採取された糞便量は、各糞便サンプルによって糞便量の差が大きくなっている。一方、本発明の採便治具を用いて成形された糞便量は、各サンプルにおける糞便量の差が小さく、一定量の糞便を採取することが可能である。
【0069】
(表3)

【0070】
表4は、糞便試料F,Gにおいて各糞便サンプル#1〜#10から抽出したRNA抽出量を示している。糞便試料Fから抽出されたRNA抽出量は、10サンプルの平均値が約49.4μg/μLであった。一方、糞便試料Gから抽出されたRNA抽出量は、10サンプルの平均値が16.5μg/μLであった。表4で示すように、糞便試料Fは、糞便試料Gと比較して、核酸の抽出効率がよいことが明らかである。また、標準偏差を見ても、糞便試料Gから得られたRNA抽出量の偏差が大きく、抽出されるRNA量がサンプルによって大きく異なっているのに対して、実施の形態1で得られているRNAは偏差も小さく、安定してRNAが回収できていることを示している。これは、分散部材を使用していない糞便試料Gでは、分散された糞便の粒径が均一にならず、塊の大きさが大きいほど糞便試料が砕けにくく、糞便試料と糞便試料調製用溶液とが接触するまでの時間が長くなるため、劣化するRNA量が増加して糞便から抽出されるRNA量が糞便試料Fと比較して少なかったと考えられる。この結果から、糞便試料中に分散されている糞便サンプルの塊の大きさが大きい程回収されるRNA量が低下する、若しくは回収量に差が生じることが想定され、分散部材を用いる本発明の糞便処理容器を用いることによってサンプルに因らずRNAを高収率に回収することができる。
【0071】
(表4)

【0072】
また、分散をより効果的に行うため、糞便保持容器111内に分散された糞便サンプルEを、懸濁液を用いて懸濁してもよい。懸濁液は、糞便保持部111に予め収容しておき、糞便サンプルEを糞便保持容器111内に分散させると懸濁し、より細かく分散させることが可能となる。なお、汚染防止のため、糞便保持容器111にキャップ等で密閉状態とすることが好ましい。
【0073】
懸濁液は、限定するものではないが、生理食塩水、水、2−モルホリノエタンスルホン酸(MES)緩衝剤、ビス(2−ヒドロキシエチル)イミノトリス(ヒドロキシメチル)メタン(Bis−Tris)緩衝剤、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン(Tris)緩衝剤、N−(2−アセトアミド)イミノ二酢酸(ADA)緩衝剤、ピペラジン−N,N’−ビス(2−エタンスルホン酸)(PIPES)緩衝剤、2−[N−(2−アセトアミド)アミノ]エタンスルホン酸(ACES)緩衝剤、3−モルホリノ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(MOPSO)緩衝剤、2−[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]エタンスルホン酸(BES)緩衝剤、3−モルホリノプロパンスルホン酸(MOPS)緩衝剤、2−{N−[トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}エタンスルホン酸(TES)緩衝剤、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−(2−スルホエチル)ピペラジン(HEPES)緩衝剤、3−[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(DIPSO)緩衝剤、2−ヒドロキシ−3−{[N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノ}プロパンスルホン酸(TAPSO)緩衝剤、ピペラジン−N,N’−ビス(2−ヒドロキシプロパン−3−スルホン酸)(POPSO)緩衝剤、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−(2−ヒドロキシ−3−スルホプロピル)ピペラジン(HEPPSO)緩衝剤、N−(2−ヒドロキシエチル)−N’−(3−スルホプロピル)ピペラジン(EPPS)緩衝剤、トリシン[N−トリス(ヒドロキシメチル)メチルグリシン]緩衝剤、ビシン[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)グリシン]緩衝剤、3−[N−トリス(ヒドロキシメチル)メチル]アミノプロパンスルホン酸(TAPS)緩衝剤、2−(N−シクロヘキシルアミノ)エタンスルホン酸(CHES)緩衝剤、3−(N−シクロヘキシルアミノ)−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸(CAPSO)緩衝剤、3−(N−シクロヘキシルアミノ)プロパンスルホン酸(CAPS)緩衝剤等が挙げられる。分散部材113によって物理的に細かくされた糞便サンプルEを懸濁液で懸濁することによって、より効率的に分散が可能となる。なお、この懸濁液を用いる糞便処理方法は、筆者らの検討によって見出された。
【0074】
ここで、図1に示す糞便処理容器1の変形例1である糞便処理容器2を、図9を参照して説明する。糞便処理容器2は、糞便処理容器1に対して糞便保持部210と、溶液保持部220とが変更されている。糞便保持部210は、先端が平面で形成される突起部215を有する。また、溶液保持部220は、球状の封止材231を保持する封止材支承部223を備え、封止材支承部223が封止材231を保持することで溶液保持容器121の内部空間の密閉状態を形成している。糞便保持容器211内に糞便サンプルEを分散した後、糞便保持容器211を溶液保持容器221に押し込むことで、突起部215が封止材231を封止材支承部223から開放し、糞便試料調製用溶液Sを保持する溶液保持容器221の密閉状態が解除される。
【0075】
また、糞便処理容器1の変形例2である糞便処理容器3を、図10を参照して説明する。図10に示す糞便処理容器3は、糞便保持部310と、軸線方向に伸縮可能な溶液保持部320とを備え、糞便保持部310と溶液保持部320は密着して装着されている。溶液保持部320は、糞便保持容器との接着面に、糞便保持容器311内に貫通した、上方端部が開放された円柱または円錐状の封止材支承部323を有し、開放された上方先端部に球状の封止材331を保持することで溶液保持容器321内の密閉状態を形成している。糞便保持容器311内に糞便サンプルEを分散した後、溶液保持容器321の下部を押圧することによって溶液保持容器321内部の体積が減少するとともに、内部圧力が上昇し、封止剤331が封止剤支承部323から糞便保持容器311内に放出され、糞便試料調製用溶液Sが開放される。なお、溶液保持容器321は、材質としてアルミホイルなどの金属箔、ゴムまたはプラスチックで形成されることが好ましい。また、溶液保持容器321下部は、溶液保持容器321上部まで伸縮可能であり、糞便保持容器311内にすべての糞便試料調製用溶液Sを流入させることができる。溶液保持容器321の伸縮を繰り返すことによって、糞便処理容器1で行っていた容器を上下に反転させる操作を必要とせずに糞便試料調製用溶液Sを糞便サンプルEと混合させることができる。
【0076】
ここで、従来の糞便処理方法において、低温維持を要する糞便処理方法では、核酸を安定して保存できるものの、低温を維持しての移送が困難であり、かつ凍結された糞便を粉砕する際に汚染する問題があった。また、糞便処理容器においても、特許文献2,3に示す糞便処理容器のように液漏れや皮膚等へ付着する、あるいは揮発した溶液を吸い込むおそれがあった。
【0077】
これに対して、本実施の形態1では、糞便サンプルを分散部材によって分散させて糞便試料調製用溶液と混合することができ、常温における核酸の安定保存と、高精度の核酸回収とを行うことが可能となる。
【0078】
また、糞便試料調製用溶液は、使用するまで封止膜または封止材によって密閉され、使用する場合も保持容器が密閉された状態で用いられるため、液漏れや皮膚等に付着することもなく、安全に糞便試料を調製することを可能とする。さらに、採便治具に付着した糞便を案内部が削ぎ落とすことによって糞便保持容器内に取り込む糞便を一定量にすることが可能となる。
【0079】
(実施の形態2)
図11は、本発明の実施の形態2にかかる糞便処理容器4の概要構成を模式的に示した断面図である。この糞便処理容器4は、所定量の糞便を採取する採便治具400と、採便治具400を装着して密閉空間を形成するとともに、この密閉空間内に採便治具400によって採取した糞便を取り込んで保持する糞便保持部410とを備えている。
【0080】
図11において、糞便保持部410は、円筒状の糞便保持容器411を有し、糞便保持容器411は、一方の円筒端部(図1上、上端部)側であって円筒軸心に沿った円筒状の案内部412を有する。採便治具400は、糞便保持容器411と嵌合して糞便保持容器411内の密閉空間を形成する蓋401と、内部に空領域を形成する円筒状の採便棒402と、採便棒402の内部空間に密着してはめ込まれ、軸線方向に移動可能なピストン403を有している。また、取り込んだ糞便内の核酸の回収効率を上昇させる糞便試料調製用溶液Sを保持する溶液保持容器421が糞便保持容器411内に収容されている。ここで、糞便保持容器411および溶液保持容器421は、弾性材で形成されており、弾性材の抗張力は溶液保持容器421の方が低くなっている。採便治具400によって糞便サンプルEを採取し、糞便保持部410と採便治具400とを嵌合すると同時に、案内部412によって余分な糞便が削ぎ落とされ、削ぎ落とされた糞便は、蓋401と案内部412によって形成される空間に保持される。その後、案内部412によって一定量に調節された糞便サンプルEは、ピストン403を下方に押圧することで糸状に成形されて糞便保持容器411内に取り込まれる。
【0081】
糞便試料調製用溶液Sを混合させる方法は、図12に示すように、糞便保持容器411の溶液保持容器421付近を押圧して内部圧力を上昇させることによって、処理液保持容器421を破断して内部の糞便試料調製用溶液Sを開放する。なお、糞便保持容器411と溶液保持容器421とに抗張力の差異を設けることで、押圧によって溶液保持容器421のみが破断される。ここで混合されて得られた糞便試料が核酸の回収に用いられる。
【0082】
なお、溶液保持容器421は、シリコンゴム等の軟性樹脂を用いて形成することが好ましい。また、糞便保持容器411は、密閉性を保つため、採便治具400との嵌合部分を硬性の樹脂で形成させて押圧によって変形し難くしてもよい。
【0083】
ここで、図11に示す糞便処理容器4の変形例である糞便処理容器5を、図13を参照して説明する。糞便処理容器5は、糞便処理容器4に対して糞便試料調製用溶液Sを保持する溶液保持容器521の形状が異なっており、糞便保持容器511および溶液保持容器521は弾性材等で形成されている。糞便保持容器511に対して、溶液保持容器521の一部に抗張力の低い部分を設けており、図14に示すように、糞便保持容器511および溶液保持容器521を折り曲げることで、溶液保持容器521の抗張力の低い部分が破断されて、糞便試料調製用溶液Sが開放される。なお、少ない労力で破断出来るようプラスチック等の硬性樹脂製のものに折り目を形成して破断し易くしてもよい。
【0084】
実施の形態2にかかる糞便処理容器は、採便治具と糞便保持容器とを扱うのみであるため、実施の形態1の糞便処理容器と比較して構造がより簡易的となる。また、糞便保持容器外から糞便試料調製用溶液Sを混合する方法と比較して、糞便保持部内で糞便処理液Pを放出するため、糞便サンプルEと糞便試料調製用溶液Sとの混合に要する時間を短縮することが可能となる。
【0085】
(実施の形態3)
図15は、本発明の実施の形態3にかかる糞便処理容器6の概要構成を模式的に示した断面図である。この糞便処理容器6は、所定量の糞便を採取する採便治具600と、採便治具600を装着して密閉空間を形成するとともに、この密閉空間内に採便治具600によって採取した糞便を取り込んで保持する糞便保持部610と、取り込んだ糞便内の核酸の回収効率を上昇させる糞便試料調製用溶液Sを溶液保持容器621内に保持する溶液保持部620とを備え、糞便保持部610の上下方向からそれぞれ採便治具600と溶液保持部620とが装着される。
【0086】
図15において、糞便保持部610は、円筒状の糞便保持容器611を有し、糞便保持容器611は、一方の円筒端部(図15上、上端部)側であって円筒軸心上に開放孔を有した略錐状の案内部612を有する。また、糞便保持部611の他方円筒端部(図15下、下端部)は、溶液保持容器621と嵌合する嵌合部614と、嵌合部614が形成する内部空間中央に設けられた鋭利な先端を有する突起部615と、突起部615周囲を開放して糞便保持容器611と溶液保持容器621と連通する連通孔616とを備えている。採便治具600は、糞便保持容器611と嵌合して糞便保持部上端の密閉状態を形成する蓋601と、内部が円筒状の空領域で形成された円筒状であって糞便を採取する複数の凹部604a〜604fを形成した採便棒602とを有する。また、採便棒602の内部空領域には、採便棒内部側壁と密着して嵌め込まれ円筒軸線上を移動可能な円筒状であって、採便量の調節および採取された糞便を糞便保持容器611内に押し出すピストン603が備えられている。凹部604a〜604fは弾性材で形成され、凹部604a〜604fの底部は採便棒602が形成する内部空間内に突起している。溶液保持部620は、核酸の回収効率を上昇させる糞便試料調製用溶液Sを保持する溶液保持容器621を有する。溶液保持容器621は、一方の端部(図15下、上端部)が開放された内部空間を有する円筒状であって、内部空間に糞便試料調製用溶液Sを収容している。また、開放された端部は封止膜622によって封止されている。溶液保持容器621が嵌合部614と嵌合することで、糞便保持容器611下端の密閉状態を形成する。採便治具600によって糞便サンプルEを採取し、糞便保持容器611と蓋601とを嵌合すると同時に、案内部612の開放孔によって余分な糞便が削ぎ落とされ、削ぎ落とされた糞便は、蓋601と案内部612によって形成される空間に保持される。
【0087】
図16に示すように、糞便保持容器611と採便治具600とを嵌合して糞便保持容器611内を密閉状態にした後、ピストン603を下方に押圧すると、採便棒602の内部空領域に突起している凹部604c,604fがピストン603によって押し縮められ、収容されている糞便サンプルEが糞便保持容器611内に取り込まれ、糞便サンプルが分散される。その後、糞便保持容器611を溶液保持容器621に押し込むことで、突起部615が封止膜622を穿って破断し、糞便試料調製用溶液Sが開放される。糞便試料調製用溶液Sは、連通孔616を流通して糞便サンプルEと混合する。なお、凹部604a〜604fは、シリコンゴム等の軟性樹脂を用いて形成することが好ましい。また、採便穴は、分散を助長する形状であればいかなる形状でもよいが、ピストン603によって形状が変化して糞便保持液611内に放出される形状であることが好ましい。糞便穴の形状は、採便棒602側面に形成された溝でもよい。例えば、軸を中心とする円状の溝または連続的ならせん状の溝が挙げられる。
【0088】
ここで、図15に示す糞便処理容器6の変形例である糞便処理容器7を、図17を参照して説明する。この糞便処理容器7は、所定量の糞便を採取する採便治具700と、採便治具700を装着して密閉空間を形成するとともに、この密閉空間内に採便治具700によって採取した糞便を取り込んで保持する糞便保持部710とを備えている。
【0089】
図17において、糞便保持部710は、円筒状の糞便保持容器711を有し、糞便保持容器711は、一方の円筒端部(図17上、上端部)側であって円筒軸心上に開放孔を有した略錐状の案内部712を有する。採便治具700は、糞便保持容器711と嵌合して糞便保持容器711内の密閉空間を形成する蓋701と、内部に空領域を形成し、外部側壁に糞便を収容する凹部704a〜704fを設けた円筒状の採便棒702と、採便棒702の内部空間に密着してはめ込まれ、軸線方向に移動可能な円筒状のピストン703を有している。採便棒702は、下方先端部が鋭利な形状を形成しており、少なくとも凹部704a〜704fが弾性材で形成されている。また、取り込んだ糞便内の核酸の回収効率を上昇させる糞便試料調製用溶液Sを保持する溶液保持容器721が糞便保持容器711内に収容されている。ここで、糞便保持容器711および溶液保持容器721は、弾性材で形成されており、弾性材の抗張力は溶液保持容器721の方が低くなっている。
【0090】
また、蓋701と糞便保持容器711を嵌合すると、案内部712によって採便棒702に付着した余分な糞便が削ぎ落とされると同時に、採便棒702の先端によって溶液保持容器721が破断され、溶液保持容器721に収容されている糞便試料調製用溶液Sが糞便保持容器711内に開放される。ここで、ピストン703によって採便穴704a〜704f糞便サンプルEを糞便保持容器711内に取り込む過程は、糞便試料調製用溶液Sを開放前に行ってもよく、開放後に行ってもよい。
【0091】
実施の形態3にかかる糞便処理容器は、実施の形態1,2の糞便処理容器と比較してピストンの押圧によって糞便サンプルを押し出す労力が小さい。また、所定量の糞便を分割して採取し、分散させて糞便保持容器内に放出することで糞便試料調製用溶液との混合効率を高めることができる。
【0092】
(実施の形態4)
図18は、本発明の実施の形態4にかかる糞便処理容器8の概要構成を模式的に示した断面図である。この糞便処理容器8は、所定量の糞便を採取する採便治具800と、採便治具800を装着して密閉空間を形成するとともに、この密閉空間内に採便治具800によって採取した糞便を取り込んで保持する糞便保持部810と、取り込んだ糞便内の核酸の回収効率を上昇させる糞便試料調製用溶液Sを溶液保持容器821内に保持する軸線方向に伸縮可能な溶液保持部820とを備え、糞便保持部810の下方向には溶液保持部820が密着して装着されている。
【0093】
図18において、糞便保持部810は、円筒状の糞便保持容器811を有し、糞便保持容器811は、一方の円筒端部(図18上、上端部)側であって円筒軸心上に開放孔を有した略錐状の案内部812を有する。採便治具800は、糞便保持容器811と嵌合して糞便保持容器811内の密閉空間を形成する蓋801と、円筒状の採便棒802とを有し、採便棒802下方先端部には、糞便を収容する採便溝804が形成されている。溶液保持部820は、糞便保持容器との接着面に、糞便保持容器811内に貫通した、上方端部が開放された円柱または円錐状の封止材支承部823を有し、開放された上方先端部に球状の封止材831を保持することで溶液保持容器821内の密閉状態を形成している。ここで、封止材831を支承する封止材支承部823上方先端には、採便溝に保持された糞便を掻き出す掻出部材824が設置されている。掻出部材824は、採便溝804の溝幅と同じ直径の円柱状で形成され、採便溝804の形状に沿って採便溝804内に入り込むように配置されている。蓋801を糞便保持容器811と嵌合すると同時に掻出部材824が採便溝804に入り込んで収容されている糞便サンプルEを掻き出す。したがって、蓋801と糞便保持容器811を嵌合すると同時に、蓋801と糞便保持容器811との嵌合による密閉空間の形成と、案内部812による糞便量の調節と、掻出部材824による採取された糞便の掻き出しが同時に行われることとなる。その後、溶液保持容器821下部を押圧することによって封止材831を放出して糞便試料調製用溶液Sを開放して糞便サンプルEと混合させて糞便試料を調製する。なお、掻出部材824は、糞便保持容器811の内部空間内であって採便溝804に保持された糞便サンプルEを掻き出すことができれば何処に配置してもよい。
【0094】
実施の形態4にかかる糞便処理容器は、蓋と糞便保持容器を嵌合すると同時に糞便を糞便保持容器内に取り込むことが可能となるため、処理時間の短縮および処理にかかる労力を軽減することができる。また、採便溝の形状に糞便を形成させることで、糞便試料調製用溶液と接する糞便の表面積を大きくすることができ、高精度に核酸を回収することが可能となる。
【0095】
なお、上述した実施の形態1〜4において、糞便試料調製用溶液を予め糞便保持容器内に収容することで糞便処理を行ってもよい。使用時までキャップ等で糞便保持容器を密閉することで糞便試料調製用溶液が外部に漏れることはなく、糞便処理もより容易となる。
【0096】
また、上述した実施の形態1〜4に限らず、ここでは記載していないさまざまな実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0097】
【図1】実施の形態1にかかる糞便処理容器を模式的に示す模式図である。
【図2】図1におけるA−A線断面図である。
【図3】糞便処理容器の分散部材近傍の鉛直方向断面を示す断面図である。
【図4】糞便処理容器を用いた糞便処理方法の一連の処理を示す模式図である。
【図5】糞便処理容器の分散部材の細断孔を示す断面図である。
【図6】糞便処理容器の分散部材の細断孔を示す下方斜視図である。
【図7】比較試験1の結果を示す電気泳動法によって得られた撮像図である。
【図8】比較試験2の結果を示す電気泳動法によって得られた撮像図である。
【図9】実施の形態1の糞便処理容器の変形例1である糞便処理容器を示す模式図である。
【図10】実施の形態1の糞便処理容器の変形例2である糞便処理容器を示す模式図である。
【図11】実施の形態2にかかる糞便処理容器を模式的に示す模式図である。
【図12】実施の形態2にかかる糞便処理容器を模式的に示す模式図である。
【図13】実施の形態2の糞便処理容器の変形例である糞便処理容器を示す模式図である。
【図14】実施の形態2の糞便処理容器の変形例である糞便処理容器を示す模式図である。
【図15】実施の形態3にかかる糞便処理容器を模式的に示す模式図である。
【図16】実施の形態3にかかる糞便処理容器を模式的に示す模式図である。
【図17】実施の形態3の糞便処理容器の変形例である糞便処理容器を示す模式図である。
【図18】実施の形態4にかかる糞便処理容器を模式的に示す模式図である。
【符号の説明】
【0098】
1〜8 糞便処理容器
100,400,600,700,800 採便治具
101,401,601,701,801 蓋
102,402,602,702,802 採便棒
103,403,603,703 ピストン
110,210,310,410,610,710,810 糞便保持部
111,211,311,411,511,611,711,811 糞便保持容器
112,412,612,712,812 案内部
113,413 分散部材
113a 分散孔
114,614 嵌合部
115,215,615 突起部
116,616 連通孔
120,220,320,620,820 溶液保持部
121,221,321,421,521,621,721,821 溶液保持容器
122,622 封止膜
223,323,823 封止材支承部
231,331,831 封止材
604a〜604f,704a〜704f 採便穴
804 採便溝
E 糞便サンプル
S 糞便試料調製用溶液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
核酸を回収するための糞便を保持する糞便処理容器において、
所定量の前記糞便を採取する採便部と、
前記採便部を装着して密閉空間を形成するとともに、該密閉空間内に前記糞便を取り込んで保持する糞便保持部と、
を備え、前記糞便を前記密閉空間内に取り込む際に、該糞便を前記密閉空間内に放出する放出機構を設けたことを特徴とする糞便処理容器。
【請求項2】
前記放出機構は、前記糞便を前記密閉空間内に取り込む際に、該糞便の表面積が大きくなるように該糞便を前記密閉空間内に放出することを特徴とする請求項1に記載の糞便処理容器。
【請求項3】
前記放出機構は、
前記採便部に設けられ、所定量の前記採便を先端内部に保持する筒状部材と、
前記糞便保持部に設けられ、前記糞便の取り込み時に前記筒状部材が内挿されて該筒状部材を案内する筒状の案内部と、
前記案内部の先端部分に設けられ、複数の孔を有し、各孔を介して前記糞便を前記密閉空間内に分散して放出する分散部材と、
を備えたことを特徴とする請求項1または2に記載の糞便処理容器。
【請求項4】
前記放出機構は、
前記採便部に設けられ、所定量の前記採便をその外部側壁面に形成された複数の凹部に保持するとともに弾性材によって形成された筒状部材と、
前記筒状部材の内部空間に圧入される圧入部材と、
を備え、前記糞便の取り込み時に前記圧入部材を前記内部空間に圧入し、各凹部に保持された糞便を前記密閉空間内に分散して放出することを特徴とする請求項1または2に記載の糞便処理容器。
【請求項5】
前記放出機構は、
前記採便部に設けられ、所定量の前記採便を保持し挿脱方向に延びる溝部を有した柱状部材と、
前記糞便保持部に設けられ、前記柱状部材の挿入時に前記溝部に保持された糞便を掻き出す掻出部材と、
を備え、前記糞便の取り込み時に前記掻出部材が前記溝部に保持された糞便を前記密閉空間内に放出することを特徴とする請求項1または2に記載の糞便処理容器。
【請求項6】
前記糞便保持部は、
前記採便部の前記筒状部材あるいは前記柱状部材の取り付け時に、該筒状部材あるいは該柱状部材の外部側壁面に付着した余分量の糞便を削ぎ落とし、当該糞便保持部と前記採便部との間に形成されかつ前記密閉空間外の所定空間に前記余分量の糞便を保持させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載の糞便処理容器。
【請求項7】
前記糞便保持部は、
前記密閉空間内に懸濁液が収容されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つにに記載の糞便処理容器。
【請求項8】
前記懸濁液は、水、生理食塩水または、糞便と非反応の緩衝剤であることを特徴とする請求項7に記載の糞便処理容器。
【請求項9】
核酸の回収効率を上昇させる糞便試料調製用溶液を保持する溶液保持部を備え、
前記懸濁液と糞便とを懸濁した糞便懸濁液に、前記糞便試料調製用溶液を混合して糞便試料を調製することを特徴とする請求項7または8に記載の糞便処理容器。
【請求項10】
前記糞便保持部は、
前記密閉空間内に核酸の回収効率を上昇させる前記糞便試料調製用溶液が収容されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか一つに記載の糞便処理容器。
【請求項11】
前記糞便保持部と前記溶液保持部との間を開放する開放機構を備えたことを特徴とする請求項1〜9のいずれか一つに記載の糞便処理容器。
【請求項12】
少なくとも前記糞便保持部と前記溶液保持部とは別体であり、該糞便保持部と該溶液保持部とは互いに装着可能であることを特徴とする請求項11に記載の糞便処理容器。
【請求項13】
前記糞便試料調製用溶液は、有機溶媒であることを特徴とする請求項9〜12のいずれか一つに記載の糞便処理容器。
【請求項14】
前記糞便試料調製用溶液は、水溶性有機溶媒であることを特徴とする請求項9〜13のいずれか一つに記載の糞便処理容器。
【請求項15】
前記水溶性有機溶媒は、水溶性アルコール及び/又はケトン類であることを特徴とする請求項14に記載の糞便処理容器。
【請求項16】
前記水溶性有機溶媒は、アルデヒド類であることを特徴とする請求項14に記載の糞便処理容器。
【請求項17】
糞便から核酸を回収するための糞便試料を調製処理する糞便処理方法において、
所定量の前記糞便を採取する採取ステップと、
採取した糞便を該糞便の表面積が大きくなるように糞便保持部内に放出させる放出ステップと、
を含むことを特徴とする糞便処理方法。
【請求項18】
前記放出ステップは、採便部先端に保持された前記糞便が、筒状部材の押圧によって複数の孔を介して細断されて押し出されることで前記糞便保持部内に放出されることを特徴とする請求項17に記載の糞便処理方法。
【請求項19】
前記放出ステップは、採便部外部表面に形成された複数の凹部に保持された前記糞便を、該採便部に内挿され弾性部材で形成された筒状部材が該凹部を内部から圧入することによって、前記糞便保持部内に放出することを特徴とする請求項17に記載の糞便処理方法。
【請求項20】
前記放出ステップは、採便部に設けられた溝部に収容された前記糞便を、掻出部材によって前記糞便保持部内に放出することを特徴とする請求項17に記載の糞便処理方法。
【請求項21】
前記放出ステップは、前記糞便保持部内に取り込まれた前記糞便を、該糞便保持部内に収容された懸濁液によって懸濁して分散させることを特徴とする請求項17〜20のいずれか一つに記載の糞便処理方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate