説明

糸条加熱装置

【課題】糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するヒータの消費電力を低減する。
【解決手段】紡糸機から紡出されてきた糸条Yは、スリット25aを通って入口側空間22に入り、さらにスリット26aを通って保温空間21に入る。そして、保温空間21においてゴデットローラ11とセパレートローラ12との間で複数回送られた後、スリット2bを通って出口側空間23に出て、さらにスリット25bを通って保温箱13の外部に出る。また、保温箱13には、熱交換器40が設けられており、保温空間21から出口側空間23に流れ出した暖かい空気の熱は、熱交換器40の、入口側空間22と出口側空間23とにまたがって延びたヒートパイプ41により、入口側空間22に伝達され、スリット25aを通って保温箱13外部から入口側空間22に流れ込んだ冷たい空気が、この熱によって暖められた上でスリット26aを通って保温空間21に流れ込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸条を加熱する糸条加熱装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、紡糸機から紡出された複数の糸条が、2つのローラ部において加熱されつつ延伸された上でワインダ(巻取機)において巻き取られることが記載されている。より詳細に説明すると、紡糸機から紡出された複数の糸条は、各ローラ部において、ゴデットローラ及びセパレートローラの間に複数回巻回されており、これらのローラの間を複数回送られる間に、ゴデットローラによって加熱される。そして、加熱された糸条は、2つのローラ部をそれぞれ構成する2つのゴデットローラの間で延伸される。
【0003】
また、各ローラ部のゴデットローラ及びセパレートローラは、ボックス(保温箱)の内部空間に収容されており、ゴデットローラのヒータにより発生させた熱が、この内部空間から外に逃げ出しにくいようになっている。また、ボックスの外壁には、2つのスリットが形成されており、糸条は、これらのうち一方のスリット(糸条入口)を通って上記内部空間に入り、他方のスリット(糸条出口)を通って上記内部空間からボックスの外部に出る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−262429号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、一般に、糸条が走行すると、糸条の周囲に空気の流れ(随伴流)が生じる。そのため、糸条がスリットを通って上記内部空間に入る際には、ボックス外部の冷たい空気がスリットを通って上記内部空間に流れ込む。また、糸条がスリットを通って上記内部空間から出る際には、上記内部空間内の暖かい空気がスリットを通ってボックス外部に流れ出す。そして、上記内部空間へ冷たい空気の流れ込みや、上記内部空間からの暖かい空気の流れ出しが生じると、上記内部空間の温度が低下するため、糸条を適切な温度に加熱するのに必要なヒータの消費電力が増大する。
【0006】
特に、走行する糸条の本数が多い場合や、糸条の走行速度が速い場合などには、随伴流が大きくなり、上記内部空間に流れ込む冷たい空気の量、及び、上記内部空間から流れ出す暖かい空気の量が多くなるため、上述したような問題は顕著なものとなる。
【0007】
本発明の目的は、糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するためのヒータの消費電力を低減することが可能な糸条加熱装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の発明に係る糸条加熱装置は、糸条を送る糸条送りローラと、前記糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するヒータと、前記糸条送りローラ及び前記ヒータが収容された保温箱とを備え、前記保温箱には、前記保温箱の外部から、前記保温箱の内部空間に糸条を入れるための糸条入口と、前記内部空間から前記保温箱の外部に糸条を出すための糸条出口とが形成されており、前記内部空間には、前記糸条出口側から前記糸条入口側に熱を伝達する熱伝達手段が設けられていることを特徴とする。
【0009】
本発明によると、糸条出口近傍に生じる随伴流によって保温箱の外部に流れ出す、糸条出口側の暖かい空気の熱の一部が、熱伝達手段により糸条出口側から糸条入口側に伝達され、この熱によって、糸条入口近傍に生じる随伴流によって内部空間に流れ込む冷たい空気が暖められる。すなわち、暖かい空気が保温箱の外部に流れ出す際に、その熱の一部が、保温箱の外部に逃げ出さずに内部空間に留まる。したがって、内部空間の温度低下が抑制され、糸条を適切な温度に加熱するのに必要なヒータの消費電力を低減することができる。
【0010】
第2の発明に係る糸条加熱装置は、第1の発明に係る糸条加熱装置において、前記内部空間は、隔壁によって、前記糸条送りローラ及び前記ヒータが配置された保温空間と、前記保温空間と前記糸条入口との間に設けられた入口側空間と、前記保温空間と前記糸条出口との間に設けられてた出口側空間とに仕切られており、前記保温空間と前記入口側空間とを仕切る隔壁には、前記糸条入口に対応して設けられており、前記保温空間と前記入口側空間とを連通させる入口側連通路が形成されており、前記保温空間と前記出口側空間とを仕切る隔壁には、前記糸条出口に対応して設けられており、前記保温空間と前記出口側空間とを連通させる出口側連通路が形成されており、前記熱伝達手段は、前記出口側空間から前記入口側空間に熱を伝達することを特徴とする。
【0011】
本発明によると、随伴流により保温空間から出口側空間に流れ出した暖かい空気の熱の一部が、熱伝達手段により入口側空間に伝達され、さらに、保温箱の外部から入口側空間に流れ込んだ冷たい空気が、この熱によって暖められた上で保温空間に流れ込む。すなわち、保温空間から出口側空間に逃げ出した熱の一部が保温空間に戻る。したがって、保温空間の温度低下が抑制され、糸条を適切な温度に加熱するのに必要なヒータの消費電力を低減することができる。
【0012】
さらに、保温空間と入口側空間とが、隔壁によって仕切られており、入口側連通路を介してのみ連通しているため、入口側空間に流れ込んだ冷たい空気が、出口側空間から伝達された熱によって十分に暖められてから保温空間に流れ込むこととなり、保温空間の温度低下を確実に抑制することができる。
【0013】
また、出口側空間と保温空間とが、隔壁によって仕切られており、出口側連通路を介してのみ連通しているため、保温空間から出口側空間に熱が逃げ出しにくく、保温空間の温度低下を確実に抑制することができる。
【0014】
また、入口側空間と出口側空間とが隔壁によって仕切られているため、熱伝達手段によって出口側空間から入口側空間に伝達された熱が、出口側空間に戻ってしまうのを防止することができる。
【0015】
第3の発明に係る糸条加熱装置は、第2の発明に係る糸条加熱装置において、前記内部空間を仕切る隔壁が断熱材によって構成されていることを特徴とする。
【0016】
本発明によると、入口側空間と出口側空間とを仕切る隔壁が断熱材によって構成されているため、隔壁を介した保温空間、入口側空間及び出口側空間の間での熱の移動が生じにくくなり、保温空間から入口側空間や出口側空間に熱が逃げ出してしまうことや、熱伝達手段によって出口側空間から入口側空間に伝達された熱が出口側空間に戻ってしまうことなどを確実に防止することができる。
【0017】
第4の発明に係る糸条加熱装置は、第2又は3の発明に係る糸条加熱装置において、前記出口側空間に排気ダクトが接続されていることを特徴とする。
【0018】
本発明によると、糸条を加熱することによって発生した油煙などをダクトから保温箱の外部に排出することができる。さらに、排気ダクトが、隔壁によって保温空間と仕切られた出口側空間に接続されているため、排気ダクトが保温空間に接続されている場合に比べて、排気ダクトから熱が逃げ出しにくい。また、出口側空間の熱が熱伝達手段により入口側空間に伝達されるため、排気ダクトからさらに熱が逃げ出しにくい。
【0019】
第5の発明に係る糸条加熱装置は、第4の発明に係る糸条加熱装置において、前記熱伝達手段が、前記出口側空間における、前記ダクトの前記出口側空間との接続口と、前記出口側連通路との間に位置する領域に配置されていることを特徴とする。
【0020】
本発明によると、出口側連通路を通って保温空間から出口側空間に流れ出た暖かい空気が、熱伝達手段が配置されている領域を通過した上で、排気ダクトから排出されることとなるため、排気ダクトからさらに熱が逃げ出しにくくなる。
【0021】
第6の発明に係る糸条加熱装置は、第2〜第5のいずれかの発明に係る糸条加熱装置において、前記熱伝達手段が、前記入口側空間と前記出口側空間とにまたがって延びたヒートパイプを備えていることを特徴とする。
【0022】
本発明によると、ヒートパイプにより、出口側空間の熱を効率よく入口側空間に伝達することができる。
【0023】
第7の発明に係る糸条加熱装置は、第1〜第6のいずれかの発明に係る糸条加熱装置において、前記糸条送りローラが、前記ヒータを備えた加熱ローラであることを特徴とする。
【0024】
本発明によると、糸条送りローラがヒータを備えた加熱ローラである場合でも、保温空間から逃げ出した熱の一部が保温空間に戻るため、保温空間の温度低下を抑制することができる。また、糸条送りローラがヒータを備えた加熱ローラであるため、糸条送りローラと別にヒータを設ける必要がなく、装置の構成が簡単になる。
【0025】
第8の発明に係る糸条加熱装置は、第1〜第7のいずれかの発明に係る糸条加熱装置において、前記糸条送りローラが、糸条を延伸させるためのローラであることを特徴とする。
【0026】
本発明によると、糸条送りローラが糸条を延伸させるためのローラである場合でも、保温空間から逃げ出した熱の一部が保温空間に戻るため、保温空間の温度低下を抑制することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、糸条出口近傍に生じる随伴流によって保温箱の外部に流れ出す、糸条出口側の暖かい空気の熱の一部が、熱伝達手段により糸条出口側から糸条入口側に伝達され、この熱によって、糸条入口近傍に生じる随伴流によって内部空間に流れ込む冷たい空気が暖められる。すなわち、暖かい空気が保温箱の外部に流れ出す際に、その熱の一部が、保温箱の外部に逃げ出さずに内部空間に留まる。したがって、内部空間の温度低下が抑制され、糸条を適切な温度に加熱するのに必要なヒータの消費電力を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施の形態に係る糸製造装置の概略構成図である。
【図2】図1のローラユニットの斜視図である。
【図3】図2のIII−III線断面図である。
【図4】図3のIV−IV線断面図である。
【図5】変形例1の図3相当の図である。
【図6】変形例2の図3相当の図である。
【図7】変形例3の図3相当の図である。
【図8】変形例4の図3相当の図である。
【図9】変形例5の図4相当の図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の好適な実施の形態について説明する。
【0030】
図1に示すように糸製造装置1は、紡糸機2、2つのローラユニット3、4(糸条加熱装置)、及び、巻取機5を備えている。紡糸機2は、複数(例えば、24〜32本程度)の糸条Yを図1の紙面垂直方向に配列された状態で下方に紡出する。ローラユニット3、4は、紡糸機2から紡出された複数の糸条Yを、加熱しつつ延伸する。巻取機5は、ローラユニット3、4により延伸された複数の糸条Yを、図示しないボビンに巻き取る。
【0031】
なお、糸製造装置1の上記構成のうち、紡糸機2及び巻取機5の構成は従来と同様であるので、その詳細な説明を省略し、以下では、ローラユニット3、4について詳細に説明する。
【0032】
ローラユニット3は、図1に示すように、紡糸機2の下方に配置されており、図1〜図4に示すように、ゴデットローラ11、セパレートローラ12、及び、これらを収容するための保温箱13を有している。
【0033】
保温箱13は、断熱材からなる略直方体形状の箱である。保温箱13には、紡糸機2から紡出される糸条Yの配列方向に関する一端部に扉13aが設けられており、扉13aを閉じると、保温箱13の内部空間20が塞がれ、扉13aを開くと、内部空間20が露出する。
【0034】
また、保温箱13の上側の壁13bには、スリット25a、25bが形成されている。スリット25a、25bは、糸条Yの配列方向と平行に延びているとともに、その扉13a側の端が開口している。ただし、スリット25aとスリット25bとは、長さが互いに異なっており、スリット25aが、保温箱13のほぼ全長にわたって延びているのに対して、スリット25bは、スリット25aよりもその長さが短くなっている。また、扉13aを閉じると、スリット25a、25bの開口が扉13aによって塞がれる。
【0035】
そして、紡糸機2から紡出された糸条Yは、後述するように、スリット25aの扉13aと反対側の端部25a1(糸条入口)を通って内部空間20に入り、内部空間20内の糸条Yは、スリット25b(糸条出口)を通って内部空間20外部に出る。
【0036】
次に、保温箱13の内部空間20について説明する。保温箱13の内部空間20は、断熱材からなる隔壁28〜30により、保温空間21、入口側空間22、出口側空間23及び隔離空間24に仕切られている。
【0037】
保温空間21には、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12が配置されている。ゴデットローラ11は、保温箱13の扉13aと反対側に配置された図示しないフレームによって片持ち支持されたローラであり、紡糸機2から紡出された複数の糸条Yは、ゴデットローラ11により引き取られる。
【0038】
セパレートローラ12は、ゴデットローラ11の上方に配置されており、ゴデットローラ11と同様、保温箱13の扉13aと反対側に配置された図示しないフレームに片持ち支持されている。ゴデットローラ11により引き取られた複数の糸条Yは、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12に複数回巻回されており、これらのローラ11、12の間を複数回送られた上で、ローラユニット4に送られる。なお、本実施の形態では、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12が、本発明に係る糸条送りローラに相当する。
【0039】
また、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12は、それぞれ、内部にヒータ15を備えた加熱ローラであり、糸条Yは、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間を送られる間に加熱される。
【0040】
入口側空間22は、保温空間21の上方における、スリット25aの端部25a1と対向する部分(保温空間21と糸条入口との間)に配置されており、水平に延びた隔壁28によって、保温空間21と上下に仕切られている。隔壁28には、スリット25aと対向する部分に、スリット26aが形成されており、入口側空間22と保温空間21とはスリット26aの扉13aと反対側の端部26a1(入口側連通路)を介してのみ連通している。ここで、スリット26aは、スリット25aと同様、その扉13a側の端が開口している。
【0041】
出口側空間23は、保温空間21の上方の、スリット25bと対向する部分(保温空間21と糸条出口との間)に、糸条Yの配列方向に関して、保温箱13のほぼ全長にわたって延びている。また、出口側空間23は、入口側空間22と同様、隔壁28によって保温空間21と上下に仕切られている。隔壁28には、スリット25bと対向する部分にスリット26b(出口側連通路)がさらに形成されており、これにより、出口側空間23と保温空間21とは、スリット26bを介してのみ連通している。ここで、スリット26bは、スリット25bと同様、その扉13a側の端が開口している。
【0042】
また、保温箱13の扉13aと反対側の側壁13cの出口側空間23の壁となる部分には、フィルタ27が設けられた接続口13dが形成されており、接続口13dには、排気ダクト9が接続されている。排気ダクト9は、図示しないブロアに接続されている。一般的に、糸条Yには水分を含んだ油剤が塗布されており、糸条Yを加熱すると油煙が発生する。そのため、本実施の形態では、ブロアを動作させて排気ダクト9から出口側空間23内の空気を吸引することで、空気内に含まれる油分をフィルタ27により捕捉している。これにより、作業環境が清浄に保たれる。
【0043】
隔離空間24は、保温空間21の上方のうち、入口側空間22及び出口側空間23を除いた部分に形成されており、隔壁28によって保温空間21と上下に仕切られているとともに、略L字形状の隔壁29によって入口側空間22と仕切られており、スリット25a、25bとほぼ平行に延びた隔壁30によって出口側空間23と仕切られている。すなわち、隔離空間24は、保温空間21、入口側空間22及び出口側空間23のいずれとも連通してない。
【0044】
また、保温箱13の内部空間20には、熱交換器40(熱伝達手段)が設けられている。熱交換器40は、出口側空間23の熱を入口側空間22に伝達するためのものであって、複数のヒートパイプ41、複数の集熱フィン42及び複数の放熱フィン43を備えている。
【0045】
複数のヒートパイプ41は、両端が塞がれた金属製の筒の内部に、例えば水、アルコール、フロンなどからなる作動液が充填されたものであって、入口側空間22、隔離空間24及び出口側空間23にまたがって延びている。また、ヒートパイプ41のうち、出口側空間23内に位置している部分は、スリット25b、26bと、接続口13dとの間に位置している。また、ヒートパイプ41のうち、隔離空間24内に位置している部分は、断熱材44で覆われている。
【0046】
集熱フィン42及び放熱フィン43は、それぞれ、出口側空間23及び入口側空間22に、ヒートパイプ41の軸方向に沿って配列された金属材料からなる板状体であり、複数のヒートパイプ41は、複数の集熱フィン42及び放熱フィン43を貫通するように延びていることで、各集熱フィン42及び各放熱フィン43と連結されている。
【0047】
ここで、熱交換器40における熱の伝達について説明する。保温箱13においては、後述するように、保温箱13の外部から入口側空間22に冷たい空気が流れ込むとともに、保温空間21から出口側空間23に暖かい空気が流れ出す。
【0048】
そして、保温空間21から出口側空間23に暖かい空気が流れ出すと、この空気の熱により、ヒートパイプ41の出口側空間23内に位置している部分に充填された作動液が温められて気化する。すると、ヒートパイプ41の出口側空間23内に位置している部分の圧力が、入口側空間22や隔離空間24に位置している部分の圧力よりも高くなる。このような圧力差が生じると、ヒートパイプ41の入口側空間22や隔離空間24に位置している部分の作動液が、毛細管現象によって出口側空間23側に移動し、これに対応して、気化した作動液が入口側空間22側に移動する。
【0049】
出口側空間23に移動した作動液は、上述したのと同様、出口側空間23の暖かい空気に温められて気化し、入口側空間22に移動した作動液は、入口側空間22の冷たい空気に冷やされることで凝縮して液体に戻る。これにより、上述したのと同様、ヒートパイプ41内で作動液が移動する。そして、このような作動液の移動が繰り返し行われることにより、出口側空間23内の熱が、入口側空間22に伝達される。
【0050】
また、このとき、ヒートパイプ41の、出口側空間23に位置する部分、及び、入口側空間22に位置する部分に、それぞれ、集熱フィン42及び放熱フィン43が取り付けられているため、出口側空間23の熱が効率よくヒートパイプ41内の作動液に伝達されるとともに、ヒートパイプ41の熱が効率よく入口側空間22に伝達される。
【0051】
さらに、ヒートパイプ41の隔離空間24に位置している部分が断熱材44により覆われているため、出口側空間23から入口側空間22に伝達される熱が、途中で隔離空間24に逃げ出しにくく、出口側空間23の熱がさらに効率よく入口側空間22に伝達される。
【0052】
ローラユニット4は、ローラユニット3と同様、ゴデッドローラ11、セパレートローラ12、及び、保温箱13を備えている。
【0053】
ただし、ローラユニット4においては、ゴデッドローラ11とセパレートローラ12の上下がローラユニット3とは逆になっている。また、ローラユニット4の保温箱13は、保温空間21と、入口側空間22、出口側空間23及び隔離空間24との上下が、ローラユニット3の保温箱13とは逆になっており、これに対応して、保温箱13の下側の壁13eにスリット25a、25bが形成されている。
【0054】
ローラユニット4は、ローラユニット3の上方に、自身のスリット25aが、ローラユニット3のスリット25bと対向するように配置されている。
【0055】
以上のような構成を有する糸製造装置1においては、紡糸機2から紡出された複数の糸条Yが、ローラユニット3に送られる。ローラユニット3に送られた糸条Yは、スリット25aの端部25a1(糸条入口)を通って入口側空間22に入り、さらにスリット26aを通って保温空間21に入る。そして、保温空間21内においてゴデットローラ11に引き取られるとともに、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間を複数回送られた後に、スリット26bを通って保温空間21から出口側空間23に出て、さらにスリット25b(糸条出口)を通って保温箱13の外部に出て、ローラユニット4に送られる。
【0056】
ローラユニット4に送られた糸条Yは、上述したのと同様に、スリット25aの端部25a1(糸条入口)を通って入口側空間22に入り、さらにスリット26aを通って保温空間21に入る。そして、保温空間21内においてゴデットローラ11に引き取られるとともに、ゴデットローラ11とセパレートローラ12との間を複数回送られた後に、スリット26bを通って保温空間21から出口側空間23に出て、さらにスリット25b(糸条出口)を通って保温箱13の外部に出て、巻取機5に送られる。
【0057】
これにより、糸条Yは、紡糸機2から巻取機5に向かって、例えば、4000〜6000m/min程度の速度で走行する。このとき、糸条Yは、ローラユニット3、4のゴデットローラ11とセパレートローラ12との間を送られる間に加熱される。さらに、ローラユニット4のゴデットローラ11は、ローラユニット3のゴデットローラ11よりも回転速度が速くなっており、加熱された糸条Yは、2つのゴデットローラ11の間で、両者の回転速度の差に対応した力で延伸される。
【0058】
ここで、一般に、糸条Yが走行すると、糸条Yの周辺に空気の流れ(随伴流)が生じる。そのため、スリット25aを通過する糸条Yの走行により生じる随伴流により、保温箱13外部の冷たい空気が入口側空間22を経て保温空間21に流れ込む。また、スリット25bを通過する糸条Yの走行により生じる随伴流により、保温空間21内の暖かい空気が出口側空間23を経て保温箱13外部に流れ出す。
【0059】
さらに、本実施の形態では、糸条Yの本数が多く(例えば、24〜32本程度)、糸条Yの走行速度もある程度速い(例えば、4000〜6000m/min程度)ので、随伴流は大きく、保温箱13の外部から保温空間21に流れ込む冷たい空気の量や、保温空間21から保温箱13の外部に流れ出す暖かい空気の量も多くなる。
【0060】
しかしながら、本実施の形態では、保温箱13に熱交換器40が配置されているため、上述したように、随伴流によりスリット26bを通って保温空間21から出口側空間23に流れ出した暖かい空気の熱の一部が、熱交換器40により入口側空間22に伝達される。つまり、糸条出口側から糸条入口側に熱が伝達される。さらに、スリット25aを通って入口側空間22に流れ込んだ冷たい空気は、この熱によって暖められた上で保温空間21に流れ込む。すなわち、随伴流により保温空間21から流れ出した暖かい空気の熱の一部が保温空間21に戻る。言い換えれば、暖かい空気が保温箱13の外部に流れ出す際に、その熱の一部が、保温箱13の外部に逃げ出さずに内部空間20に留まる。そして、これにより、保温空間21内の温度低下が抑制され、糸条Yを適正な温度に加熱するのに必要なヒータの消費電力を低減することができる。
【0061】
さらに、保温空間21と入口側空間22とが、隔壁28によって上下に仕切られており、スリット26aを介して連通しているだけであるため、隔壁28がなく、内部空間20のスリット25aとゴデットローラ11、12とが配置された部分との間の部分が連続した空間である場合に比べて、保温箱13外部から入口側空間22に流れ込んだ冷たい空気が、保温空間21に流れ込みにくい。したがって、入口側空間22内に流れ込んだ冷たい空気が、熱交換器40により伝達された熱によって十分に暖められてから保温空間21に流れ込むこととなり、保温空間21の温度低下をさらに効率よく抑えることができる。
【0062】
加えて、保温空間21と出口側空間23とが、隔壁28によって上下に仕切られており、スリット26bを介して連通しているだけであるため、隔壁28がなく、内部空間20のスリット25bとゴデットローラ11、12が配置されている部分との間の部分が連続した空間である場合と比べて、保保温空間21から出口側空間23に流れ出す空気の量が少なくなる。したがって、保温空間21の温度低下をさらに効率よく抑えることができる。
【0063】
また、入口側空間22と出口側空間23とが、隔壁29、30、隔離空間24(断熱材44)によって互いに仕切られており、直接は連通しておらず、さらに隔壁29、30が断熱材によって構成されているため、熱交換器40により出口側空間23から入口側空間22に伝達された熱が出口側空間23に戻りにくい。したがって、保温空間21から流れ出た暖かい空気の熱が、効率よく保温空間21に戻され、保温空間21の温度低下をさらに効率よく抑えることができる。
【0064】
また、保温空間21と入口側空間22及び出口側空間23とを仕切る隔壁28が断熱材によって構成されているため、隔壁28を介して保温空間21内の熱が入口側空間22や出口側空間23に伝達するのが防止される。
【0065】
次に、本実施の形態に種々の変更を加えた変形例について説明する。ただし、本実施の形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付し適宜その説明を省略する。なお、以下では、ローラユニット3の構成を変更した例について説明するが、ローラユニット4の構成についても同様の変更が可能である。
【0066】
上述の実施の形態では、保温箱13の内部空間20が、隔壁28〜30によって、保温空間21、入口側空間22、出口側空間23及び隔離空間24に仕切られていたが、本発明は、内部空間20が、これら4つの空間に仕切られているものには限られない。
【0067】
一変形例(変形例1)では、図5に示すように、隔壁28がなく、内部空間20が、保温空間21(図3参照)に相当する領域20aと、入口側空間22、出口側空間23及び隔離空間24(図3参照)に相当する領域20b〜20dとがそれぞれ直接連通した、1つの連続する空間となっているとともに、領域20bと領域20d、及び、領域20cと領域20dとの間に、上述したのと同様の隔壁29、30が配置されている。
【0068】
また、別の一変形例(変形例2)では、図6に示すように、変形例1において、さらに、隔壁29、30、断熱材44などが設けられておらず、上述の領域20b、20cが直接領域20dと連通している。
【0069】
これらの場合には、熱交換器40によって、スリット25bの近傍に生じる随伴流により内部空間20から保温箱13の外部に流れ出す、内部空間20のうち領域20cの暖かい空気の熱の一部が、熱交換器40によって領域20bに伝達され、すなわち、糸条出口側から糸条入口側に熱が伝達され、スリット25aの近傍に生じる随伴流によって領域20bに流れ込む冷たい空気が、この熱によって暖められる。これにより、暖かい空気が内部空間20から保温箱13の外部に流れ出す際に、その熱の一部が、保温箱13の外部に逃げ出さずに、内部空間20に留まる。したがって、内部空間20の温度低下が抑制され、糸条Yを適切な温度に加熱するのに必要なヒータ15の消費電力を低減することができる。
【0070】
なお、変形例1、2では、隔壁28の全体がなく、内部空間20が連続した1つの空間となっていたが、これには限られない。例えば、変形例1で、内部空間20に隔壁28のうちの一部のみが設けられており、内部空間20が、互いに連通する領域20aと領域20b〜20dのうちのいずれかとからなる空間と、入口側空間22、出口側空間23及び隔離空間24のうちのいずれかとに仕切られていてもよい。あるいは、変形例2で、内部空間20に隔壁28〜30のうち隔壁28だけが設けられており、内部空間20が、隔壁28により、保温空間21と、それ以外の連続した空間とに仕切られていてもよい。
【0071】
また、上述の実施の形態では、2つの隔壁29、30が設けられていることにより、入口側空間22と出口側空間23との間に、これらの空間22、23と仕切られた隔離空間24が設けられていたが、隔離空間24がなく、入口側空間22と出口側空間23との間に隔壁が1つだけ設けられていてもよい。
【0072】
また、上述の実施の形態では、内部空間20を空間21〜24に仕切る隔壁28〜30が断熱材によって構成されていたが、隔壁28〜30は断熱材以外材料によって構成されていてもよい。
【0073】
この場合でも、隔壁28及びスリット26a、26bが設けられていることにより、上述の実施の形態と同様、入口側空間22内に流れ込んだ冷たい空気が、熱交換器40により伝達された熱によって十分に暖められてから保温空間21に流れ込み、保温空間21から出口側空間23に流れ出す空気の量が少なくなる。さらに、隔壁29、30が設けられていることにより、出口側空間23から入口側空間22に伝達された熱が出口側空間23に戻りにくい。したがって、保温空間21の温度低下を効率よく抑えることができる。
【0074】
また、上述の実施の形態では、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12が、ともに、ヒータ15を備えた加熱ローラであったが、例えば、ゴデットローラ11のみが加熱ローラであるなど、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12の一方のみが加熱ローラであってもよい。
【0075】
さらには、ゴデットローラ11及びセパレートローラ12のいずれもが加熱ローラでなく、別途ヒータが設けられていてもよい。例えば、別の一変形例(変形例3)では、図7に示すように、保温空間21内に、ヒータを備えていない3つのローラ61〜63(糸条送りローラ)が配置されており、ローラ61とローラ62との間、及び、ローラ62とローラ63との間には、それぞれ、これらのローラ61〜63の間を送られる糸条Yと対向するようにヒータ64、65が設けられている。
【0076】
この場合でも、上述の実施の形態と同様、スリット26bを通って保温空間21から出口側空間23に流れ出した暖かい空気の熱が、熱交換器40により入口側空間22に伝達され、さらに、スリット25aを通って保温箱13の外部から入口側空間22に流れ込む空気がこの熱により暖められた上で保温空間21に流れ込むことで、保温空間21から逃げ出した熱の一部が保温空間21に戻る。したがって、保温空間21内の温度低下が抑制され、ヒータ64、65の消費電力を低減することができる。
【0077】
また、以上の例では、入口側空間22及び出口側空間23が、ともに保温空間21の上方に配置されていたが、これには限られない。例えば、別の一変形例(変形例4)では、図8に示すように、保温空間21の側方(図8の右側方)に出口側空間73が配置されている。さらに、これに対応して、保温空間21と出口側空間73とを隔てる隔壁72にスリット26cが形成されており、隔壁72と対向する保温箱13の側壁13fのスリット26cと対向する部分にスリット25c(糸条出口)が形成されている。また、接続口13dは、側壁13cのうち、出口側空間73を形成する部分に形成されている。
【0078】
また、保温空間21内には、変形例3と同様、ローラ61〜63及びヒータ64、65が配置されているが、スリット26aとスリット26cとの位置関係が、スリット26aとスリット26bとの位置関係と異なっているのに合わせて、これらの位置も、変形例3の場合とは異なっている。具体的には、ローラ61〜63及びヒータ64、65の位置は、変形例3の場合に対して、これら全体を図8の時計回り方向にずらした位置に配置されている。
【0079】
また、入口側空間22と出口側空間73との間に位置する隔離空間74は、保温空間21の上方から側方にまたがって延びており、熱交換器40の複数のヒートパイプ41は、途中で約90°折れ曲がって、入口側空間22、隔離空間74及び出口側空間73にまたがって延びている。
【0080】
この場合でも、上述したのと同様、スリット26cを通って出口側空間73に流れ出した暖かい空気の熱が、熱交換器40により入口側空間22に伝達され、さらに、スリット25aを通って保温箱13の外部から入口側空間22に流れ込む卯冷たい空気が、この熱によって暖められた上で保温空間21に流れ込むことで、保温空間21から逃げ出した熱の一部が保温空間21に戻る。したがって、保温空間21に温度低下が抑制され、ヒータ64、65の消費電力を低減することができる。
【0081】
また、上述の実施の形態では、出口側空間23に排気ダクト9が接続されており、熱交換器40の出口側空間23に位置する部分が、スリット25b、26bと、排気ダクト9との接続口13dとの間に配置されていたが、出口側空間23における熱交換器40の位置はこれには限られない。
【0082】
例えば、別の一変形例(変形例5)では、図9に示すように、熱交換器40の出口側空間23に位置している部分は、出口側空間23における接続口13dと反対側に、スリット26bに近接して配置されている。また、ヒートパイプ41は、途中で折れ曲がって、入口側空間22、出口側空間23、及び、これらの間に配置された隔離空間81にまたがって延びている。隔離空間81には、その全域に断熱材44が配置されている。
【0083】
この場合には、スリット26bから接続口13dに向かって流れる空気は、熱交換器40を通らないが、熱交換器40の出口側空間23に位置する部分が、スリット26bに近接して配置されているため、保温空間21から出口側空間23に流れ出た暖かい空気の熱が、効率よく入口側空間22に伝達される。
【0084】
さらには、熱交換器40の出口側空間23に位置する部分は、出口側空間23における接続口13dと反対側にスリット26bから離隔して配置されていてもよい。
【0085】
また、排気ダクト9は、出口側空間23に接続されていることには限られず、例えば、保温空間21に接続されていてもよい。
【0086】
また、上述の実施の形態では、出口側空間23内の熱を入口側空間22に伝達する熱伝達手段として、ヒートパイプ41、集熱フィン42及び放熱フィン43を備えた熱交換器40が設けられていたが、これには限られず、熱伝達手段は、上述したのとは異なる構成を有する公知の熱交換器などであってもよい。
【0087】
また、上述の実施の形態では、ゴデットローラ11、セパレートローラ12、ローラ61〜63といった、糸条を加熱しつつ延伸するためのローラを備えたローラユニットに本発明を適用した例について説明したが、これには限られず、糸条を送るための糸条送りローラ、糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するヒータ、及び、糸条送りローラ及びヒータが収容された保温箱を備えた他の糸条加熱装置に本発明を適用することも可能である。
【符号の説明】
【0088】
3、4 ローラユニット
9 ダクト
11 ゴデットローラ
12 セパレートローラ
13 保温箱
13d 接続口
15 ヒータ
20 内部空間
21 保温空間
22 入口側空間
23 出口側空間
25a〜25c スリット
26a〜26c スリット
28〜30 隔壁
40 熱交換器
41 ヒートパイプ
44 断熱材
61〜63 ローラ
64、65 ヒータ
72 隔壁
73 出口側空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸条を送る糸条送りローラと、
前記糸条送りローラにより送られる糸条を加熱するヒータと、
前記糸条送りローラ及び前記ヒータが収容された保温箱とを備え、
前記保温箱には、
前記保温箱の外部から、前記保温箱の内部空間に糸条を入れるための糸条入口と、
前記内部空間から前記保温箱の外部に糸条を出すための糸条出口とが形成されており、
前記内部空間には、前記糸条出口側から前記糸条入口側に熱を伝達する熱伝達手段が設けられていることを特徴とする糸条加熱装置。
【請求項2】
前記内部空間は、隔壁によって、
前記糸条送りローラ及び前記ヒータが配置された保温空間と、
前記保温空間と前記糸条入口との間に設けられた入口側空間と、
前記保温空間と前記糸条出口との間に設けられた出口側空間とに仕切られており、
前記保温空間と前記入口側空間とを仕切る隔壁には、前記糸条入口に対応して設けられており、前記保温空間と前記入口側空間とを連通させる入口側連通路が形成されており、
前記保温空間と前記出口側空間とを仕切る隔壁には、前記糸条出口に対応して設けられており、前記保温空間と前記出口側空間とを連通させる出口側連通路が形成されており、
前記熱伝達手段は、前記出口側空間から前記入口側空間に熱を伝達することを特徴とする請求項1に記載の糸条加熱装置。
【請求項3】
前記内部空間を仕切る隔壁が、断熱材によって構成されていることを特徴とする請求項2に記載の糸条加熱装置。
【請求項4】
前記出口側空間に排気ダクトが接続されていることを特徴とする請求項2又は3に記載の糸条加熱装置。
【請求項5】
前記熱伝達手段が、前記出口側空間における、前記ダクトの前記出口側空間との接続口と、前記出口側連通路との間に位置する領域に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の糸条加熱装置。
【請求項6】
前記熱伝達手段が、前記入口側空間と前記出口側空間とにまたがって延びたヒートパイプを備えていることを特徴とする請求項2〜5のいずれかに記載の糸条加熱装置。
【請求項7】
前記糸条送りローラが、前記ヒータを備えた加熱ローラであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の糸条加熱装置。
【請求項8】
前記糸条送りローラが、糸条を延伸させるためのローラであることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の糸条加熱装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−87436(P2012−87436A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236530(P2010−236530)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】