説明

糸条巻取機

【課題】ユニットごとに分割可能な構成とすることで、俊敏に糸外し及び糸寄せ可能であり、ボビンの数の増減にも柔軟に対応できるシフターユニットを有する糸条巻取機を提供する。
【解決手段】糸条巻取機は、満巻きのパッケージから空のボビンに糸条Yを移し替えるときに、複数のトラバース装置から複数の糸条Yを外して、対応するトラバース装置のトラバース範囲よりも外側にそれぞれ寄せるための複数のシフターユニット8を有している。複数のシフターユニット8は、ユニットごとに分割可能となっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、糸条を綾振りながらボビンに巻き取ってパッケージを形成する糸条巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、トラバース装置により糸条を綾振りながらボビンに巻き取ってパッケージを形成する糸条巻取機が知られており、このような糸条巻取機には、満巻きになったパッケージから空のボビンに糸条を移し替えるために、綾振りされている糸条をトラバース装置から外してトラバース範囲よりも外側に寄せるシフター装置が設けられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、軸方向に沿って直列に複数のボビンが装着された2本のボビンホルダが回転自在にターレットに支持されており、ターレットの回転によりボビンホルダを巻取位置と退避位置とで切り替える糸条巻取機について開示されている。そして、この特許文献1に記載の糸条巻取機には、巻取位置にあるボビンホルダと退避位置にあるボビンホルダとを切り替えるときに、巻取位置にあるボビンホルダに装着された満巻きのパッケージから、退避位置にあるボビンホルダに装着された空のボビンに糸条を移し替えるために、シフター装置が設けられている。
【0004】
特許文献1に記載のシフター装置は、羽根式のトラバース装置の羽根ガイドによってそれぞれ綾振りされている複数の糸条を押し出して、対応する羽根ガイドから外すための、全ての糸条に対して共通となった板状の糸跳ねガイドと、対応する羽根ガイドから外された複数の糸条をトラバース範囲よりも外側に押して寄せる複数の可動シフターとを有している。複数の可動シフターは、全ての糸条に対して共通となったスライド部材に保持されている。そして、可動シフターによってトラバース範囲よりも外側に糸寄せされた糸条は、ボビンの端部に形成されたスリットにトラップされて棒巻きされた後、可動シフターを戻すことでトラバース範囲に戻るまでにボビンに糸継ぎ用にテイル巻きされて、その後、ボビンへの綾振りが再開される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第2991004号(図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、1本のボビンホルダに装着されたボビンの数を増やし、一度により多くの糸条を巻き取ることを考えた場合には、ボビンホルダが軸方向に長尺化し、これに合わせて板状の糸跳ねガイドも長尺化することになる。すると、糸跳ねガイドは、重量が増大するため、移動にともなう慣性が大きくなり、動きが緩慢になる。さらに、可動シフターの数も増大することになり、多数の可動シフターを保持して、スライド移動させるスライド部材も糸跳ねガイドと同様に長尺化することになる。すると、可動シフターの動きも緩慢になる。このように、糸跳ねガイドやスライド部材の動きが緩慢になると、糸条を移し替えるのにかかる時間が長くなり、多くの糸条を無駄にしまう。また、例えば、機種変更などで、1つのボビンホルダに装着されるボビンの数(巻き取る糸条の数)が増減した場合には、糸跳ねガイドやスライド部材を流用することが困難であり、新たに作り直す必要がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、ユニットごとに分割可能な構成とすることで、俊敏に糸外し及び糸寄せ可能であり、ボビンの数の増減にも柔軟に対応可能なシフターユニットを有する糸条巻取機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の糸条巻取機は、複数のボビンが軸方向に沿って直列に装着されており、前記複数のボビンにそれぞれ糸条を巻き取る巻取軸と、前記複数のボビンにそれぞれ巻き取られる複数の糸条を対応するボビンの軸方向にそれぞれ綾振りする複数のトラバース装置と、前記複数のトラバース装置から前記複数の糸条をそれぞれ外して、対応するトラバース装置のトラバース範囲よりも外側に寄せるための複数のシフターユニットと、を備えており、前記複数のシフターユニットは、ユニットごとに分割されている。
【0009】
本発明の糸条巻取機によると、複数のシフターユニットをユニットごとに分割可能な構成としている。これにより、シフターユニット単体を糸外し及び糸寄せを実現可能な最小の大きさに抑えることが可能となり、コンパクトな大きさにすることができ、俊敏に糸外し及び糸寄せ可能となる。また、シフターユニットの増減が容易に可能であり、巻取軸に装着されるボビンの数(巻き取る糸条の数)の増減に柔軟に対応することができる。
【0010】
また、前記複数のシフターユニットは、前記複数のトラバース装置にそれぞれ個別に設けられており、前記複数のトラバース装置とともにユニットごとに分割されていることが好ましい。
【0011】
これによると、シフターユニットは上述したようにコンパクトな大きさなので、トラバース装置に設けることが可能となる。そして、シフターユニットをトラバース装置とともに取り外すことで、メンテナンス性をさらに向上させることができる。
【0012】
このとき、各シフターユニットは、対応するトラバース装置から取り外し可能であることが好ましい。
【0013】
これによると、シフターユニットのメンテナンス性をより一層向上させることができる。
【0014】
また、各シフターユニットは、前記巻取軸の前記軸方向に沿ってスライド移動可能なスライド部材と、前記スライド部材の移動に連動して、前記トラバース装置から糸条を外すための糸外し部材と、前記スライド部材に設けられており、前記糸外し部材により前記トラバース装置から外された糸条に接触して、前記スライド部材の移動に合わせて、前記糸条を前記トラバース範囲よりも外側に寄せる糸寄せ部材と、を有していることが好ましい。
【0015】
これによると、スライド部材をスライド移動させることで、糸外し部材によってトラバース装置から糸条が外される。そして、糸寄せ部材によってトラバース装置から外された糸条をトラバース範囲よりも外側に寄せることができる。
【0016】
このとき、前記複数のシフターユニットを駆動する駆動手段をさらに備えており、複数の前記スライド部材は、前記複数のボビンに対応して前記巻取軸の前記軸方向に沿って並んで連結配置されており、前記駆動手段は、前記複数のスライド部材のうち1つのスライド部材と接続されて、このスライド部材を前記巻取軸の前記軸方向に沿ってスライド移動させることが好ましい。
【0017】
これによると、1つの駆動手段によるスライド部材の駆動で、糸外し部材及び糸保持部材が連動して駆動されるため、トラバース装置により綾振りされている糸条の糸外しと糸外しされた糸条のトラバース範囲外への糸寄せとの2つの動作を連動させて俊敏に行うことができる。また、このとき、1つの駆動手段で、1つのスライド部材をスライド移動させると、これと連結する他のスライド部材も同じようにスライド移動することになり、全てのシフターユニットについて同じ動作を行うことができる。これにより、駆動手段の数を低減して、コストを低減することができる。
【0018】
さらに、前記糸寄せ部材は、前記糸条を前記トラバース範囲よりも外側に寄せる糸寄せ部と、前記糸寄せ部と間隔をあけて対向し、前記糸条を前記トラバース範囲に戻す糸戻し部とを有していることが好ましい。
【0019】
これによると、糸寄せ部で糸条を押してトラバース範囲の外側に寄せることができ、また、糸寄せされた糸条をトラバース範囲に戻すときに、糸戻し部の動きに追従させて常に同じ速度で糸条を戻すことができ、糸条がたるむことがなく、テイル巻きの量を安定させることができる。
【0020】
加えて、前記糸寄せ部材は、前記スライド部材の移動にともない、前記トラバース範囲の一方端部から前記一方端部よりも外側までの間を移動し、前記トラバース装置から糸条を外すときには、前記一方端部に位置しており、前記糸外し部材は、前記スライド部材の移動に連動して、綾振り時の前記糸条の移動軌跡と交差するように、前記スライド部材に対して揺動可能に軸支されたアーム状をしており、前記トラバース範囲の少なくとも前記一方端部において、前記糸条に接触しない退避位置と前記糸条に接触する糸外し位置とにわたって揺動しており、前記スライド部材が移動して、前記糸外し部材が前記糸外し位置にあるときに、前記トラバース範囲の他方から前記一方に綾振りされている糸条は、前記移動軌跡から外れて前記糸外し部材に沿って移動して前記糸寄せ部材の前記糸寄せ部と前記糸戻し部との間に保持されることが好ましい。
【0021】
これによると、糸保持部材による糸寄せの際に、糸保持部材の移動するストロークを小さくすることができる。また、トラバース装置によってトラバース範囲の他方から一方に綾振りされている糸条をアーム状の糸外し部材に沿って移動させて、糸保持部材に保持して、トラバース装置から糸条を外している。このように、トラバース装置を利用して糸外しすることで、糸外しの際に、糸外し部材の揺動するストロークを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0022】
シフターユニット単体を糸外し及び糸寄せを実現可能な最小の大きさに抑えることが可能となり、コンパクトな大きさにすることができ、俊敏に糸外し及び糸寄せ可能となる。また、シフターユニットの増減が容易に可能であり、巻取軸に装着されるボビンの数(巻き取る糸条の数)の増減に柔軟に対応することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本実施形態に係る糸条巻取機の側面図である。
【図2】本実施形態に係る糸条巻取機の正面図である。
【図3】トラバース装置及びシフターユニットの斜視図である。
【図4】シフターユニットの平面図である。
【図5】糸条が巻き取られたボビンの平面図である。
【図6】綾振られている糸条の糸外し及び糸寄せについて説明する図である。
【図7】糸寄せされた糸条のトラバース範囲への戻しについて説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係る糸条巻取機の側面図である。図2は、糸条巻取機の正面図である。図1に示すように、糸条巻取機1には、上方に位置する図示しない紡糸機から複数本の糸条Yが連続的に供給される。そして、糸条巻取機1は、紡糸機から供給された複数本の糸条Yを、複数のボビンBにそれぞれ巻き取って複数のパッケージ10を形成するように構成されている。
【0025】
図1及び図2に示すように、糸条巻取機1は、本体フレーム2と、この本体フレーム2に上下方向に移動可能に設けられた昇降枠3と、本体フレーム2に回転可能に設けられた円板状のターレット4と、ターレット4に一端が支持され、且つ、複数のボビンBが装着される2本のボビンホルダ5(巻取軸)と、複数のボビンBに巻き取られる複数の糸条Yをそれぞれ綾振る複数のトラバース装置6と、ボビンホルダ5に装着された複数のボビンBに接触可能なコンタクトローラ7と、複数のトラバース装置6によりそれぞれ綾振られている糸条Yをトラバース範囲よりも外側にそれぞれ寄せるための複数のシフターユニット8などを備えている。
【0026】
ターレット4は、円板状をしており、本体フレーム2に回転可能に設けられている。そして、ターレット4の回転中心である軸4aに対して互いに対称な2つの位置には、2本のボビンホルダ5の一端が支持され、2本のボビンホルダ5はターレット4からそれぞれ回転可能に突設している。これら2本のボビンホルダ5は、ターレット4の回転に合わせて一体的に移動するようになっている。2本のボビンホルダ5には、それぞれ複数のボビンBが、ボビンホルダ5の軸方向に直列に並べて装着されている。
【0027】
ターレット4は、回転モータ31により軸4aを中心に回転駆動される。そして、ターレット4が回転することにより、2本のボビンホルダ5は、コンタクトローラ7に接触してボビンBに糸条Yを巻き取る巻取位置P1と、この巻取位置P1よりも下方であり、ターレット4の軸4aに対して巻取位置P1と点対称な位置である待機位置P2とにわたって移動可能である。そして、巻取位置P1にあるボビンホルダ5に装着されたボビンBに糸条Yが巻き取られ、満巻きのパッケージ10が形成されると、この巻取位置P1に位置するボビンホルダ5と待機位置P2に位置するボビンホルダ5とは互いの位置を切り替えられる。
【0028】
ターレット4に支持された2本のボビンホルダ5は、回転モータ32によりそれぞれ回転駆動される。そして、巻取位置P1にあるボビンホルダ5が回転することによって、このボビンホルダ5に装着された複数のボビンBに複数の糸条Yがそれぞれ巻き取られる。
【0029】
昇降枠3は、ボビンホルダ5の軸方向に延びる長尺なフレームであり、その長手方向基端部において本体フレーム2に支持されている。そして、昇降枠3は、本体フレーム2に固設された図示しないシリンダのロッドと連結され、シリンダを駆動することで、本体フレーム2に対して上下方向(ボビンホルダ5に対して接離する方向)に移動可能に構成されている。
【0030】
図3は、トラバース装置及びシフターユニットの斜視図である。図1〜図3に示すように、トラバース装置6は、昇降枠3に設けられた、いわゆる羽根式のトラバース装置6であり、支点ガイド19と、2枚の羽根ガイド21と、トラバースガイド22と、2枚の羽根ガイド21を回転駆動させるトラバースモータ33などを有している。支点ガイド19は、昇降枠3の上端部近傍に設けられており、紡糸機から供給された糸条Yが掛けられるものであり、糸条Yのトラバース支点となっている。
【0031】
2枚の羽根ガイド21は、トラバースカセット20(図3参照)内に収容されており、支点ガイド19よりも糸条Yの走行方向下流側に設けられており、トラバースモータ33により同軸で互いに反対方向に回転する羽根状のガイドとなっている。そして、一方の羽根ガイド21でボビンBの軸方向一方に糸条Yを移動させた後、終点位置(ボビンBの巻き幅の端位置)で他方の羽根ガイド21に糸条Yを受け渡し、他方の羽根ガイド21でボビンBの軸方向他方に糸条Yを移動させる。この動作を繰り返すことで、支点ガイド19を通って走行する糸条Yを、支点ガイド19を支点としてボビンBの軸方向(綾振り方向)に綾振りながらコンタクトローラ7へ案内する。
【0032】
トラバースガイド22は、トラバースカセット20の直下に配置されて、トラバースカセット20とネジ59により連結されており、円弧状の側面を有しており、正面から見て、この円弧状の側面がトラバースカセット20よりも前方に突き出ている。そして、羽根ガイド21により綾振られている糸条Yは、このトラバースガイド22の側面に接触した状態で、摺動して綾振られている。
【0033】
そして、複数のトラバース装置6は、2枚の羽根ガイド21を収容するトラバースカセット20とこのトラバースカセット20と連結されたトラバースガイド22からなるユニットがエンド(1本の糸条Yを巻き取るための最小単位)ごとに分割可能に設けられて構成されており、トラバース装置6ごとに昇降枠3から取り外し可能となっている。
【0034】
昇降枠3は、2つの支持部11を介してコンタクトローラ7を回転自在に保持しており、本体フレーム2に対して上下方向に移動可能に構成されている。
【0035】
コンタクトローラ7は、昇降枠3の2つの支持部11に、ボビンホルダ5と平行な状態で支持されている。また、コンタクトローラ7は、巻取位置P1にあるボビンホルダ5に装着された複数のボビンB、または、ボビンBに糸条Yが巻き取られて形成されたパッケージ10の外周面に接触可能である。コンタクトローラ7は、ボビンBへの糸の巻き取り時には、パッケージ10に所定の接圧を付与しながら、ボビンホルダ5の回転に合わせて従動回転して、パッケージ10の形状を整える。また、昇降枠3とコンタクトローラ7は、図示しないシリンダによって、巻取位置P1にあるボビンBに近接する方向(下方向)とこのボビンBから離れる方向(上方向)に移動して、本体フレーム2に対する相対位置を変えることができる。
【0036】
次に、シフターユニット8について説明する。図4は、シフターユニットの平面図である。図5は、糸条が巻き取られたボビンの平面図である。なお、図4においては、トラバースカセット20、ネジ59及びシフターユニット8の一部である支持部材58を二点鎖線で示している。シフターユニット8は、後述するボビンチェンジ時に、トラバースガイド22に沿って綾振られている糸条Yを羽根ガイド21から外して、トラバース範囲よりも外側に寄せるものである。
【0037】
図3、図4に示すように、シフターユニット8は、トラバースカセット20とトラバースガイド22との間に挟持された支持部材58と、支持部材58に摺動可能に支持されており、ボビンホルダ5の軸方向にスライド移動可能なスライド部材51と、スライド部材51の移動に連動して揺動する糸外しアーム52と、スライド部材51に設けられた糸保持部材53とから構成されている。
【0038】
ボビンチェンジとは、巻取位置P1にあるボビンホルダ5に装着された複数のボビンBに糸条Yが巻き取られて満巻きのパッケージ10が形成されたときに、ターレット4の回転により2つのボビンホルダ5の位置を入れ替えて、新たに巻取位置P1に移動してきたボビンホルダ5に装着された複数の空のボビンBに、待機位置P2に移動したボビンホルダ5に装着された複数のパッケージ10に巻き取られている糸条Yを移し替えることである。より詳細には、パッケージ10に綾振られながら巻き取られている糸条Yを羽根ガイド21から外して、トラバース範囲よりも外側に寄せて、図5に示すようなボビンBの端部のスリット18に糸条Yを誘い込んでトラップして棒巻き60を形成した後、この糸条Yをトラバース範囲に戻して、スリット18とボビンBのトラバース幅の端部との間に螺旋状のテイル巻き61と言われる糸継ぎ用の糸条Yを巻き付け、その後綾降りを再開させるまでのことである。
【0039】
支持部材58は、トラバースカセット20とトラバースガイド22との間に挟持されて、トラバースカセット20にトラバースガイド22を連結するネジ59によりトラバースカセット20とトラバースガイド22との間に固定されている。
【0040】
スライド部材51は、L字状をしており、正面から見たときに、走行する糸条Yよりも奥側に配置され、ボビンホルダ5の軸方向に延在した本体部54と、本体部54の一端部から正面に向かって延在した支持部55とを有している。本体部54は、支持部材58に摺動可能に支持されており、支持部材58に対してボビンホルダ5の軸方向にスライド移動可能となっている。また、本体部54には、一端側に切り欠き54aが形成されており、他端に切り欠き54aに嵌合可能な形状をした嵌め込み部54bが形成されている。さらに、本体部54には、ボビンホルダ5の軸方向に関する略中央に、正面側側面から凹んだ糸条Yの走行方向から見て三角形状の凹部54cが形成されている。
【0041】
糸外しアーム52は、支持部材58と同様に、トラバースカセット20とトラバースガイド22の間に図示しないネジにより取り外し可能に固定されている。そして、糸外しアーム52は、基端部52a近傍を軸として糸条Yの走行経路を先端側が横切る、すなわちトラバースガイド22よりも前方に突出するように揺動可能であり、先端部に向かうにつれて手前側に湾曲している。そして、糸外しアーム52は、基端部52aが支持部材58に支持されたねじりばね56により奥側に付勢されており、スライド部材51が図4に示す退避位置に位置するときには、基端部52aの角52bの側面がスライド部材51の本体部54の凹部54cの側面に接触しており、トラバース装置6により綾振りされている糸条Yと接触不能な位置、すなわちトラバースガイド22よりも奥側に位置している。
【0042】
糸保持部材53は、スライド部材51の支持部55に、ボビンホルダ5の軸方向及び軸方向と直交する方向に微調整可能に接続されており、ボビンホルダ5の軸方向に関して糸条Yの径以上の隙間をあけて対向する2つの板部材である糸寄せ部57aと糸戻し部57bからなり、糸条Yをボビンホルダ5の軸方向の両側から挟んで保持可能な保持部57を有している。糸寄せ部57aと糸戻し部57bは、スライド部材51が図4に示す退避位置に位置するときには、糸条Yの走行方向から見て、トラバースガイド22とは重ならない、すわなち綾振られている糸条Yに接触不能に配置されている。糸寄せ部57aと糸戻し部57bの対向していない反対側の角は面取りされて糸条Yが摺動しやすくなっている。
【0043】
そして、スライド部材51が退避位置に位置するときには、トラバース装置6の羽根ガイド21により綾振りされている糸条Yは、シフターユニット8に接触することなく綾振られている。
【0044】
複数のシフターユニット8のスライド部材51は、ボビンホルダ5の軸方向に沿って並べて配置されており、互いに隣接する切り欠き54aと嵌め込み部54bとが嵌合して連結されている。そして、ボビンホルダ5の軸方向一端側(図3の左方)のスライド部材51が、図示しないブラケットを介してシリンダ40(図3参照)のロッドに連結されており、シリンダ40の駆動により、全てのスライド部材51がボビンホルダ5の軸方向に同じストロークで連動してスライド移動する。そして、複数のスライド部材51が全て同じ動作をすることで、その他の複数の糸外しアーム52や複数の糸保持部材53も全て同じ動作をする。すなわち、全てのシフターユニット8が全て同じ動作をする。
【0045】
以上のように、複数のシフターユニット8は、エンドごとに分割可能に設けられて構成されており、ネジ59を外すことで、シフターユニット8ごとにトラバースカセット20から取り外し可能となっている。
【0046】
ここで、巻取位置P1にあるボビンホルダ5に装着された複数のボビンBに糸条Yが巻き取られて満巻きのパッケージ10が形成されて、上述したボビンチェンジを行うときのトラバース装置6及びシフターユニット8の動作について説明する。なお、ここでは、1つのボビンBに対するボビンチェンジについて説明し、これ以外のボビンBについては、上述したように、全てのシフターユニット8が全て同じタイミングで動作をするため、1つのシフターユニット8についてのみ説明する。
【0047】
まず、綾振られている糸条Yの糸外し及び糸寄せ時のトラバース装置6及びシフターユニット8の動作について説明し、その後、糸寄せされた糸条のトラバース範囲への戻し時のシフターユニット8の動作について説明する。図6は、綾振られている糸条の糸外し及び糸寄せについて説明する図である。図7は、糸寄せされた糸条のトラバース範囲への戻しについて説明する図である。なお、図6、図7においては、各図の上方にシフターユニットを上方から見た図を示し、下方にシフターユニットを正面から見た図を示している。
【0048】
図6(a)に示すように、糸条Yをトラバース幅Lで綾振りしてボビンBに巻き取っている間、スライド部材51は退避位置に位置する。これにともない、糸外しアーム52及び糸保持部材53は、綾振られている糸条Yに接触不能な位置に位置している。そして、糸条Yを空のボビンBに移し替える際には、糸条Yが羽根ガイド21により糸保持部材53に向かってボビンホルダ5の軸方向の一端側(トラバース範囲の一端側)へ移動しているときに、図6(b)に示すように、シリンダ40の駆動により、スライド部材51を退避位置からボビンホルダ5の軸方向の糸保持部材53が設けられている一端側の糸外し位置まで矢印A方向に移動させる。すると、糸外しアーム52は、揺動して角52bが本体部54の凹部54cから押し出されて、本体部54の側面54dと接触した位置で停止する。糸保持部材53は、トラバース範囲の一方端部まで移動する。そして、糸条Yの走行方向から見て、糸外しアーム52の略中央よりも先端側が、トラバースガイド22よりも張り出して、糸保持部材53と重なる。
【0049】
この状態で、シリンダ40の駆動を停止させて、スライド部材51、糸外しアーム52及び糸保持部材53の移動を停止させた上で、図6(c)に示すように、羽根ガイド21により糸条Yをトラバース範囲の一端側へ継続して移動させると、この糸条Yは、糸外しアーム52の略中央よりも先端側では糸外しアーム52の円弧状の側面に接触しながら移動して、糸保持部材53の糸寄せ部57aの面取りされた側面に沿って移動した後、図6(d)に示すように、トラバース範囲の一方端部において糸寄せ部57aと糸戻し部57bの間に入り込んで保持される。
【0050】
その後、シリンダ40の駆動により、スライド部材51を糸外し位置からさらに一端側の糸寄せ位置まで移動させる。すると、糸保持部材53に保持された糸条Yは、糸寄せ部57aに押されながらトラバース範囲よりも外側に糸寄せされる。なお、糸保持部材53に保持された糸条Yは、糸寄せ部57aと糸戻し部57bの間からテンションによりトラバース範囲に戻ろうとするが、糸外しアーム52に接触してテンションによる戻りが規制されている。このようにして、綾振られている糸条Yは、羽根ガイド21から糸外しされて、トラバース範囲よりも外側に糸寄せされる。
【0051】
そして、糸寄せされた糸条YはボビンBのスリット18に巻き付けられて棒巻きを形成して、満巻きのパッケージ10から移し変えられる。その後、スライド部材51を図7(a)に示す糸寄せ位置から退避位置まで戻すと、糸保持部材53とともに糸条Yはトラバース範囲に近づく方向に移動する。また、糸外しアーム52は、糸条Yの走行方向から見て、糸保持部材53に重ならない、トラバースガイド22よりも奥側の位置まで戻る。すると、図7(b)に示すように、糸保持部材53によって保持され、糸外しアーム52によりトラバース範囲に戻るのを規制されていた糸条Yは、糸戻し部57bに押されて戻りながら、テンションにより糸寄せ部57aと糸戻し部57bの間から外れてトラバース範囲に戻る。このとき、ボビンBのスリット18とトラバース幅の一端側の間にはテイル巻きが形成されるが、このテイル巻きの量はスライド部材51の移動速度によって決定している。そして、トラバース範囲に戻った糸条Yは、トラバース装置6の羽根ガイド21により綾振りが再開される。
【0052】
本実施形態の糸条巻取機1によると、複数のシフターユニット8をユニットごとに分割可能な構成としている。これにより、シフターユニット8単体を糸外し及び糸寄せ可能な最小の大きさに抑えることが可能となり、コンパクトな大きさにすることができ、俊敏で安定した動作で糸外し及び糸寄せ可能となる。また、ユニットごとに取り外したり交換したりすることが可能となり、メンテナンス性を向上させることができる。さらに、シフターユニット8の増減が容易に可能であり、例えば、機種変更などで、ボビンホルダ5に装着されるボビンBの数(巻き取る糸条Yの数)を従来機から増減させる場合に、ボビンBの数の増減に柔軟に対応することができる。
【0053】
また、シフターユニット8がコンパクトな大きさに構成されていることで、トラバース装置6に設けることが可能となり、トラバース装置6とともに取り外すことができる。また、シフターユニット8自体をトラバース装置6から取り外すこともできる。したがって、シフターユニット8のメンテナンス性がより向上する。
【0054】
また、1つのシリンダ40によるスライド部材51の駆動で、糸外しアーム52及び糸保持部材53も連動して駆動されるため、羽根ガイド21により綾振りされている糸条Yの糸外しと糸外しされた糸条Yのトラバース範囲外への糸寄せとの2つの動作を機械的に連動させて俊敏に行うことができる。また、このとき、1つのシリンダ40で、1つのスライド部材51をスライド移動させることで、これと連結する他のスライド部材51も同じようにスライド移動することになり、全てのシフターユニット8について同じ動作を行うことができる。これにより、シリンダ40の数を低減して、コストを低減することができる。
【0055】
さらに、糸保持部材53の保持部57は、糸条Yを綾振り方向に関する両側から挟んで保持しているため、糸保持部材53の糸寄せ部57aで糸条Yを押してトラバース範囲の外側に寄せることができ、また、糸寄せされた糸条Yをトラバース範囲に戻すときに、糸保持部材53の糸戻し部57bで糸条Yを押して、糸戻し部57bの動きに追従させて常に同じ速度で糸条Yを戻すことができる。したがって、糸条Yがたるむことなく、テイル巻きの量を安定させることができる。
【0056】
また、糸保持部材53は、スライド部材51の移動にともない、トラバース範囲の一方端部で糸条Yを保持して、一方端部よりも外側まで移動して糸寄せしている。これにより、糸保持部材53による糸寄せの際に、糸保持部材53の移動するストロークを小さくすることができる。さらに、トラバース装置6を利用して糸外しすることで、糸外しの際に、糸外しアーム52の揺動するストロークを小さくすることができる。このように、糸保持部材53や糸外しアーム52のストロークを小さくすることで、糸外しや糸寄せにかかる時間を短くすることができ、また、糸条Yの屈曲角も小さくなり、糸条Yのたるみを小さくすることができる。
【0057】
また、ねじりばね56を外すことで、奥側に付勢されていた糸外しアーム52は前方に大きく揺動させることが可能となり、内部にたまった異物を取り除いたり、各種部材の摩耗状態を確認することができる。
【0058】
次に、前記実施形態に種々の変更を加えた変更形態について説明する。ただし、前記実施形態と同様の構成を有するものについては、同じ符号を付して適宜その説明を省略する。
【0059】
本実施形態においては、複数のシフターユニット8のスライド部材51は連結されており、1つのシリンダ40によって連動してスライド移動させていたが、複数のスライド部材51のそれぞれにシリンダを設けて、それぞれ独立別個にスライド移動させてもよい。
【0060】
また、本実施形態においては、シフターユニット8は、トラバースカセット20に取り外し可能に設けられていたが、糸外し及び糸寄せ可能な位置であれば昇降枠3などいかなる位置に設けられていてもよい。
【0061】
さらに、本実施形態においては、1つのシリンダ40によるスライド部材51の移動に連動して、糸外しアーム52や糸保持部材53を移動させていたが、それぞれにシリンダなどの駆動手段を設けて、それぞれ独立別個に移動させてもよい。
【0062】
また、本実施形態においては、糸寄せ部57aと糸戻し部57bの間に糸条Yを挟んでいたが、糸条Yをトラバース範囲に戻すときに、糸条Yを押す糸戻し部57bは設けられていなくてもよい。これでも、糸条Yは糸寄せ部57aがトラバース範囲に近づいて移動して、糸寄せ部57aから離れると、テンションにより自らトラバース範囲に近づくように移動する。
【0063】
さらに、本実施形態においては、トラバース装置6による綾振りを利用して、糸外しを行っていたが、糸外しアーム52を羽根ガイド21の移動領域よりも前方まで押し出して、この押し出された糸条Yを糸保持部材53に保持して、糸保持部材53をトラバース範囲の外側まで移動させてもよい。
【0064】
また、本実施形態においては、羽根式のトラバース装置から糸条を外して糸寄せするシフターユニットに本発明を適用したが、ガイドを綾振り方向に往復移動させる構成のトラバース装置であれば、他のトラバース装置、例えば、カムドラム式、ベルト式、アーム式などのトラバース装置にも本発明を適用することができる。カムドラム式のトラバース装置は、カム軸の周面に螺旋状に形成されたカム溝に沿ってトラバースガイドを駆動モータによってカム軸を回転させることにより綾振り方向に往復移動させる装置である。ベルト式のトラバース装置は、ガイドが取り付けられた無端ベルトを駆動モータによって綾振り方向に往復移動させる装置である。アーム式のトラバース装置は、先端にガイドが形成されたアーム部材を駆動モータによって綾振り方向に往復移動させる装置である。
【符号の説明】
【0065】
1 糸条巻取機
5 ボビンホルダ
6 トラバース装置
8 シフターユニット
B ボビン
Y 糸条

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のボビンが軸方向に沿って直列に装着されており、前記複数のボビンにそれぞれ糸条を巻き取る巻取軸と、
前記複数のボビンにそれぞれ巻き取られる複数の糸条を対応するボビンの軸方向にそれぞれ綾振りする複数のトラバース装置と、
前記複数のトラバース装置から前記複数の糸条をそれぞれ外して、対応するトラバース装置のトラバース範囲よりも外側に寄せるための複数のシフターユニットと、を備えており、
前記複数のシフターユニットは、ユニットごとに分割されていることを特徴とする糸条巻取機。
【請求項2】
前記複数のシフターユニットは、前記複数のトラバース装置にそれぞれ個別に設けられており、前記複数のトラバース装置とともにユニットごとに分割されていることを特徴とする請求項1に記載の糸条巻取機。
【請求項3】
各シフターユニットは、対応するトラバース装置から取り外し可能であることを特徴とする請求項2に記載の糸条巻取機。
【請求項4】
各シフターユニットは、
前記巻取軸の前記軸方向に沿ってスライド移動可能なスライド部材と、
前記スライド部材の移動に連動して、前記トラバース装置から糸条を外すための糸外し部材と、
前記スライド部材に設けられており、前記糸外し部材により前記トラバース装置から外された糸条に接触して、前記スライド部材の移動に合わせて、前記糸条を前記トラバース範囲よりも外側に寄せる糸寄せ部材と、を有していることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の糸条巻取機。
【請求項5】
前記複数のシフターユニットを駆動する駆動手段をさらに備えており、
複数の前記スライド部材は、前記複数のボビンに対応して前記巻取軸の前記軸方向に沿って並んで連結配置されており、
前記駆動手段は、前記複数のスライド部材のうち1つのスライド部材と接続されて、このスライド部材を前記巻取軸の前記軸方向に沿ってスライド移動させることを特徴とする請求項4に記載の糸条巻取機。
【請求項6】
前記糸寄せ部材は、前記糸条を前記トラバース範囲よりも外側に寄せる糸寄せ部と、前記糸寄せ部と間隔をあけて対向し、前記糸条を前記トラバース範囲に戻す糸戻し部とを有していることを特徴とする請求項5に記載の糸条巻取機。
【請求項7】
前記糸寄せ部材は、前記スライド部材の移動にともない、前記トラバース範囲の一方端部から前記一方端部よりも外側までの間を移動し、前記トラバース装置から糸条を外すときには、前記一方端部に位置しており、
前記糸外し部材は、前記スライド部材の移動に連動して、綾振り時の前記糸条の移動軌跡と交差するように、前記スライド部材に対して揺動可能に軸支されたアーム状をしており、前記トラバース範囲の少なくとも前記一方端部において、前記糸条に接触しない退避位置と前記糸条に接触する糸外し位置とにわたって揺動しており、
前記スライド部材が移動して、前記糸外し部材が前記糸外し位置にあるときに、前記トラバース範囲の他方から前記一方に綾振りされている糸条は、前記移動軌跡から外れて前記糸外し部材に沿って移動して前記糸寄せ部材の前記糸寄せ部と前記糸戻し部との間に保持されることを特徴とする請求項6に記載の糸条巻取機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−236673(P2012−236673A)
【公開日】平成24年12月6日(2012.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−106292(P2011−106292)
【出願日】平成23年5月11日(2011.5.11)
【出願人】(502455511)TMTマシナリー株式会社 (91)
【Fターム(参考)】