説明

糸通し具

【課題】 物品に形成された貫通孔に糸を通すための糸通し具において、より小さな貫通孔に糸を通すことを可能とする。
【解決手段】 この糸通し具10は、糸24を保持する保持部14と、この保持部14に保持された糸24を貫通孔22に誘導する誘導部12を備えている。保持部14および/または誘導部12は形状記憶合金又は高弾性金属によって形成されている。保持部14は環状に記憶することが好ましく、誘導部12は直線状に記憶することが好ましい。そして、保持部14と誘導部12とが溶接によって接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、物品(例えば、ビーズ,針等)に形成された貫通孔に糸を通すための糸通し具に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の糸通し具は、通常、糸を保持するための環状部と、環状部に保持された糸を貫通孔に誘導するための誘導部を備える。貫通孔に糸を通す際は、環状部に糸を保持した状態で誘導部側から貫通孔に挿し込み、貫通孔の反対側から糸通し具を抜き取る。これによって、環状部に保持された糸が貫通孔に通される。したがって、糸通し具の環状部は、貫通孔を通過する際に貫通孔を通過可能な形状に変形し、貫通孔を通過した後は糸を保持できるように環状に復帰する必要がある。このため、糸通し具には、高弾性変形能を有する金属材料が好ましい。そこで、近年は高弾性変形能を有する金属材料によって形成された糸通し具が開発されている(例えば、特許文献1)。
特許文献1に開示された糸通し具は、ビーズに糸を通すためのものであり、1本の形状記憶合金の線材によって構成されている。この糸通し具では、形状記憶合金線材の一端が当該線材の中間部に螺旋状に巻回されて固定されると共に環状に記憶されて環状部が形成される。一方、形状記憶合金線材の他端は直線状に記憶されて誘導部が形成されている。
【特許文献1】実用新案登録第3089195号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
上述の説明から明らかなように、この種の糸通し具を用いて貫通孔に糸を通すためには、糸通し具が貫通孔を通過できなければならない。上述した糸通し具において、その断面積が最大となるのは形状記憶合金線材の一端を螺旋状に巻回した結束部であり、その断面は円形で、かつ、その外径が形状記憶合金線材の外径の約3倍となる。(図5,6参照。図5,6において、42は誘導部の線材、44は巻き付けられた線材を示している。)。したがって、上述した糸通し具で糸を通すことができる貫通孔は、縦と横の寸法がそれぞれ形状記憶合金線材の外径の約3倍以上である必要があった。
なお、図7に示すように、誘導部の線材46と保持部の線材48を撚り合わせて固定する方法も考えられるが、この場合も、図8に示すように固定部の断面は円形で、かつ、その外径が形状記憶合金の線材の約2倍となってしまう。
【0004】
また、糸が通される物品には種々のものがあり、物品に形成される貫通孔も種々の大きさ及び断面形状を有する。例えば、貫通孔の断面形状は円形だけでなく、針孔のように扁平形状のものもある。貫通孔の断面が扁平形状の場合、縦と横の寸法が異なる。従来の糸通し具では結束部の断面が円形であるため、縦と横のうち長い方の寸法が十分な大きさであっても、短い方の寸法が必要な大きさでないと糸を通すことができない。したがって、従来の糸通し具は、扁平形状の断面を有する貫通孔に対して適切なものではなかった。
【0005】
本発明は、上述した実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、より小さな貫通孔に糸を通すことができる糸通し具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願の糸通し具は、物品に形成された貫通孔に糸を通すための糸通し具であって、糸を保持する保持部と、その糸を貫通孔に誘導する誘導部とを備える。そして、保持部および/または誘導部は形状記憶合金又は高弾性金属によって形成されており、保持部と誘導部とが溶接によって接合されていることを特徴とする。
この糸通し具は、保持部と誘導部の接合が溶接によって行われている。したがって、従来の糸通し具のように保持部の線材を誘導部の線材に螺旋状に巻回して結束する必要がないため、保持部と誘導部とを接合する接合部の断面を小さくすることができる。このため、より小さな貫通孔に糸を通すことが可能となる。
【0007】
本発明を具現化した一態様に係る糸通し具は、物品に形成された貫通孔に糸を通す糸通し具であって、1本の形状記憶合金の線材から構成されている。この糸通し具の一端には、線材の一方の先端部を当該線材の中間部に接合して環状に記憶させた環状部が形成されている。そして、前記先端部は、その軸線が前記中間部の軸線と略平行とされ、かつ、軸方向少なくとも一箇所で前記中間部に溶接されている。
この糸通し具では、形状記憶合金線材の一方の先端部が当該線材の中間部に接合され環状に記憶されることで、環状部(糸を保持する保持部)が形成される。一方、形状記憶合金線材の一端が当該線材の中間に接合されているため、その環状部と反対側の端部には、環状部に保持された糸を貫通孔に誘導する誘導部を形成することができる。
また、形状記憶合金線材の先端部と中間部は、線材同士の軸線が略平行とされ、軸方向少なくとも一箇所で溶接されている。このため、接合部の断面は、縦と横の一方が形状記憶合金線材1本分の大きさとなり、他方が形状記憶合金線材2本分の大きさとなる。したがって、接合部の断面が扁平形状となり、針孔等の扁平形状の貫通孔に糸を通すのに適した糸通し具となる。
【0008】
本発明を具現化した他の態様に係る糸通し具は、物品に形成された貫通孔に糸を通す糸通し具であって、2本の形状記憶合金の線材から構成されている。2本の線材は、その一部がそれぞれ半環状に記憶されており、それら半環状部の両端どうしがそれぞれ接合されて環状部が形成されている。そして、前記半環状部の両端では、2本の線材の軸線が互いに略平行とされ、かつ、軸方向少なくとも一箇所で互いに溶接されている。
この糸通し具では、2本の形状記憶合金線材の一部を用いて環状部(糸を保持する保持部)が形成されるため、2本の形状記憶合金線材の半環状部以外の部分を用いて環状部に糸を誘導する誘導部を形成することができる。
また、半環状部の両端は、各線材同士の軸線が略平行とされ、その軸方向少なくとも一箇所で溶接されている。このため、接合部の断面は、上述した糸通し具と同様に、縦と横の一方の寸法が形状記憶合金線材1本分の大きさとなり、他方の寸法が形状記憶合金線材2本分の大きさとなる。したがって、接合部の断面が扁平形状となり、針孔等の扁平形状の貫通孔に糸を通すのに適した糸通し具となる。
【0009】
さらに、本発明を具現化した他の態様に係る糸通し具は、物品に形成された貫通孔に糸を通す糸通し具であって、1本の高弾性の金属線材から構成されている。この糸通し具の一端には、線材の一方の端部を環状に塑性変形すると共に、その先端部を当該線材の中間部に接合した環状部が形成されている。そして、前記先端部は、その軸線が前記中間部の軸線と略平行とされ、かつ、軸方向少なくとも一箇所で前記中間部に溶接されている。
この糸通し具によっても、接合部の断面が扁平形状となり、針孔等の扁平形状の貫通孔に糸を通すのに適した糸通し具となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明を具現化した一実施形態に係る糸通し具について図面を参照して説明する。図1は本実施形態の糸通し具を示す斜視図である。図1に示すように糸通し具10は、1本の形状記憶合金の線材Sからなり、一端に保持部14が形成され、他端に誘導部12が形成されている。保持部14は、線材Sの一端を折り曲げ、その先端14aを当該線材Sの中間部に接合して形成されている。保持部14には環状に形状記憶処理が施されており、誘導部12には直線状に形状記憶処理が施されている。
【0011】
誘導部12と保持部14は接合部16によって接合されている。接合部16では、線材Sの先端14aの軸線が誘導部12の軸線と略平行とされ、軸方向2箇所(図中18で示されている)で誘導部12に溶接されている。したがって、接合部16の断面は、図2に示すように誘導部12に先端14aが載置されたようになっている。図から明らかなように、接合部16の断面は、図面横方向の寸法が線材Sの外径と略同一となり、図面縦方向の寸法が線材Sの外径の略2倍となっている。
【0012】
上記の形状記憶合金の線材Sには、例えば、Ni−Ti合金もしくはNi−Ti−Co合金の線材を用いることができる。また、線材Sの変態温度は、手芸等を行う部屋の温度以下(例えば、0℃以下)となるように調整されている。したがって、手芸等を行う際は形状記憶合金の線材Sは超弾性を示すこととなる。なお、Ni−Ti系の形状記憶合金の変態温度は、NiとTiの組成比を変えること、V,Cu,Mn,Fe,Co,Al等の含有量を変えることによって調整することができる。
【0013】
上述した糸通し具10の使用例について図3を参照して説明する。図3は針20の針孔22に糸を通す例を示している。図3に示すように、まず、糸通し具10の保持部14に糸24を挿通し、その糸24を折り返しておく。次に、誘導部12の一端を針孔22の一端から差し込み、順次、誘導部12及び保持部14を針孔22の一端側より他端側に通過させる。これによって、針孔22に糸24が通される。
【0014】
ここで、保持部12は、針孔22を通過する際は扁平な形状となるが、針孔22を通過した後は元の形状(環状)に復帰する。このため、繰り返し使用しても保持部12に糸を通す際は環状の状態となり、保持部12に容易に糸を通すことができる。
また、図3から明らかなように、糸通し具10の断面が最大となる部分(保持部14及び接合部16)は、扁平形状(横方向;線材の外径と略同一,縦方向;線材の外径の略2倍)となっている。したがって、糸通し具10の断面寸法が長くなる方向を針孔22の長軸方向と一致させた状態(すなわち、糸通し具10の断面寸法が短くなる方向を針孔22の短軸方向と一致させた状態)で糸通し具10を針孔22に挿通することで、より小さな針孔22に糸を通すことができる。
【0015】
上述した説明から明らかなように、本実施形態の糸通し具10では、保持部14と誘導部12を接合する接合部16に溶接を用いている。このため、糸通し具10の断面が最大となる部分(すなわち、保持部14及び接合部16)は、横方向が線材の外径と略同一となり、縦方向が線材の外径の略2倍となる。したがって、従来に比較してより小さな貫通孔に糸を通すことができる。
特に、扁平形状の断面を有する貫通孔の場合、長軸方向の寸法が線材Sの2倍以上あれば、短軸方向の寸法は線材Sの外径だけあればよい(ただし、糸24の大きさを考慮すると、貫通孔は少しだけ大きくなければならない)。このため、糸通し具10は、扁平形状の断面を有する貫通孔に対して好適に糸を通すことができる。
【0016】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、これは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【0017】
例えば、上述した糸通し具10は、1本の形状記憶合金の線材Sを用いて構成されていたが、本発明はこのような例に限られず、図4に示す形態で実施することもできる。図4に示す糸通し具30は、2本の形状記憶合金の線材36,38によって構成されている。線材36,38は、その一端36a,38aがそれぞれ半環状に形成(記憶)されている。半環状部36a,36bの両端では、2本の線材36,38の軸線が互いに略平行とされ、複数箇所で溶接されている(溶接箇所は40a,40bで示されている)。このような形態によると、環状に記憶された保持部34の両端に直線状に記憶された誘導部32a,32bが形成されている。このため、両方向から物体の貫通孔に差し込むことができる。
【0018】
また、糸通し具10,30に用いられる形状記憶合金の線材には、上述したNi−Ti合金,Ni−Ti−Co合金以外にも、ベータロイ合金(Cu−Zn−Al),Ag−Cd合金,Au−Cd合金,Cu−Al−Ni合金,Cu−Au−Zn合金,Cu−Sn合金,Cu−Zn合金,Cu−Zn−X(X=Si,Sn,Ga)合金,In−Tl合金,Ni−Al合金,Fe−Pt合金,Fe−Pd合金,Mu−Cu合金,Fe−Ni−Co−Ti合金等の合金を用いることができる。ここで、Ti−Ni系の形状記憶合金を用いた場合には、極めて耐腐食性に優れ、長期にわたって良好に使用することができる。また、銅系の形状記憶合金(例えば、Cu−Al−Ni合金)を用いた場合には、Cu−Alの組成からCuによる抗菌作用を奏することができる。
さらに、糸通し具10,30に用いられる線材の材料としては、上述した形状記憶合金以外にも公知の高弾性金属を用いることができる。高弾性金属としては、例えば、種々のチタン合金(β型チタン合金等)を用いることができる。特に、β型チタン合金の中でも特許3375083号や特許3282809号に記載されているチタン合金(GUMMETAL(登録商標))を用いることが好ましい。このチタン合金は高弾性で、その弾性が幅広い温度域で変化しないという特性(特に、低温域でも高弾性という特性)を備えている。このため、低温の屋外等であっても好適な状態で糸通し具を使用することができる。
【0019】
本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の糸通し具を示す斜視図である。
【図2】図1に示す糸通し具の接合部における断面図である。
【図3】図1に示す糸通し具を用いて針孔に糸を通す際の使用例を説明するための図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る糸通し具を示す斜視図である。
【図5】従来の糸通し具の結束部の側面図である。
【図6】図5のVI−VI線断面図である。
【図7】線材を撚り合わせて固定したときの結束部の側面図である。
【図8】図7のVIII−VIII線断面図である。
【符号の説明】
【0021】
10・・糸通し具
12・・誘導部
14・・保持部
16・・接合部
20・・針
22・・針孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
物品に形成された貫通孔に糸を通すための糸通し具であって、糸を保持する保持部と、その糸を貫通孔に誘導する誘導部とを備え、保持部および/または誘導部は形状記憶合金又は高弾性金属によって形成されており、保持部と誘導部とが溶接によって接合されていることを特徴とする糸通し具。
【請求項2】
物品に形成された貫通孔に糸を通す糸通し具であって、
1本の形状記憶合金の線材から構成されており、
その一端には、線材の一方の先端部を当該線材の中間部に接合して環状に記憶させた環状部が形成されており、
前記先端部は、その軸線が前記中間部の軸線と略平行とされ、かつ、軸方向少なくとも一箇所で前記中間部に溶接されていることを特徴とする糸通し具。
【請求項3】
物品に形成された貫通孔に糸を通す糸通し具であって、
2本の形状記憶合金の線材から構成されており、
2本の線材はその一部がそれぞれ半環状に記憶されており、それら半環状部の両端どうしがそれぞれ接合されて環状部が形成されており、
前記半環状部の両端では、2本の線材の軸線が互いに略平行とされ、かつ、軸方向少なくとも一箇所で互いに溶接されていることを特徴とする糸通し具。
【請求項4】
物品に形成された貫通孔に糸を通す糸通し具であって、
1本の高弾性の金属線材から構成されており、
その一端には、線材の一方の端部を環状に塑性変形すると共に、その先端部を当該線材の中間部に接合した環状部が形成されており、
前記先端部は、その軸線が前記中間部の軸線と略平行とされ、かつ、軸方向少なくとも一箇所で前記中間部に溶接されていることを特徴とする糸通し具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−150032(P2006−150032A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−18881(P2005−18881)
【出願日】平成17年1月26日(2005.1.26)
【出願人】(504397284)アスコット株式会社 (1)
【出願人】(390017433)株式会社吉見製作所 (4)
【Fターム(参考)】