説明

純水供給配管の洗浄方法

【課題】 純水供給装置の新設あるいは修理の後に、配管内に残る微粒子を簡単な操作で効率よく排出できる純水供給配管の洗浄方法を提供する。
【解決手段】 純水供給配管に過酸化水素水溶液を通水しつつ、過酸化水素水溶液中に過酸化水素分解酵素を添加することにある。過酸化水素分解酵素は、カタラーゼであることが好ましい。過酸化水素水溶液に過酸化水素分解酵素水溶液が注入されることにより過酸化水素が分解されて水中で非常に細かな気泡を発生し、この気泡により微粒子を運び出す作用を強めるのみならず、微粒子を管壁から剥離させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純水供給装置の配管の洗浄方法、特に電子部品の製造、医薬品の製造などで用いられる高純度純水供給装置の新設あるいは部分的修理を行った後に行う純水供給配管の洗浄方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子部品の製造、医薬品の製造においては、外部からの異物混入をなくすためクリーンルーム中で純水を用いて行われることが多く、特に最近では電子部品の高性能化、微細化が著しく進んで、純水はさらに高度な超純水が使用されるようになってきた。このような純水を供給する配管では、当然配管内に微粒子が堆積していないことが要求される。特に、純水供給装置が新設されたり、部分的修理を行った後では、配管の工作時に微粒子を発生させたり、外部空気中の微粒子を取り込むことが多く、さらに純水供給配管は合成樹脂材料が用いられることから静電気によって表面に微粒子を引き寄せ、表面の汚れで付着され易くなっている。そこで立ち上がり時に多量の純水を流して装置内の微粒子を排出させ、純水中の微粒子数を所定の管理目標値に到達させていた。
【0003】
最近の高純度純水においては、純水中の微粒子数の管理目標値を極めて低く設定しており、これに到達するまでの所要時間が長くなり、1週間以上、あるいは1ヶ月以上純水を流さなければならないことがあった。こうしたことから、純水装置の立ち上がり時間を短縮することが強く望まれている。
【0004】
純水系統の配管洗浄に関しては、アンモニア水や水酸化ナトリウムなどの塩基性化合物を含む洗浄液で洗浄した後、この塩基性化合物が残存する状態で過酸化水素を注入する超純水製造システムの洗浄殺菌方法〔特許文献1参照〕、過酸化水素水で洗浄した後に、さらに塩基性水溶液で洗浄する超純水製造供給装置の洗浄方法〔特許文献2参照〕、塩基性溶液もしくは界面活性剤溶液と接触させて微粒子の表面電位を変化させて微粒子を除去する超純水製造システムの洗浄方法〔特許文献3参照〕、アンモニア水や水酸化ナトリウムなどの塩基性溶液にガスを注入して微細気泡を共存させて洗浄する超純水製造システムの洗浄方法〔特許文献4参照〕、洗浄対象の配管に、洗浄用純水と圧縮ガスを交互に供給することにより、配管内壁に付着している付着物を洗浄除去する方法〔特許文献5参照〕などの提案がなされている。
【0005】
また、本発明の純水供給配管洗浄方法は、過酸化水素水溶液中に過酸化水素分解酵素を添加して行うものであるが、過酸化水素と過酸化水素分解酵素を組み合わせる洗浄では、過酸化水素付加物とカタラーゼより構成される風呂釜用洗浄剤〔特許文献6参照〕などが知られている。
【0006】
【特許文献1】特開2002−192162号公報
【特許文献2】特開2004−267864号公報
【特許文献3】特開2002−52322号公報
【特許文献4】特開2002−151459号公報
【特許文献5】特開2004−50048号公報
【特許文献6】特開平8−283788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記したように、純水供給配管では静電気によって配管内部の表面に微粒子を引き寄せ、それが表面の汚れによって比較的強固に付着される。特に、純水供給装置が新設あるいは修理中に配管切削屑、空気中の塵が直接配管内に入り込むことから、配管内に残る微粒子が非常に多くなり、かつ除去し難くい状態となっている。このような事情を鑑みて、本発明の目的は、純水供給装置の新設あるいは修理の後に、配管内に残る微粒子を簡単な操作で効率よく排出できる純水供給配管の洗浄方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達すべく請求項1の発明は、純水供給配管の洗浄方法であり、純水供給装置の配管に過酸化水素水溶液を通水しつつ、過酸化水素水溶液中に過酸化水素分解酵素を添加することにある。請求項2の発明は、過酸化水素分解酵素としてカタラーゼを使用することにある。
【0009】
請求項3の純水供給配管の洗浄方法は、請求項1の純水供給装置が、新設された後、または部分的修理を行った後であることである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の効果として、純水供給装置における配管を新設あるいは修理してから後で行う洗浄から純水に切り替えて短時間で純水中の微粒子数を少なくすることができ、純水供給装置の運転における立ち上がり時間を短縮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、純水供給装置、特に新設あるいは修理した後の純水供給装置における配管内に残る微粒子を除去することを主目的とする。以下本発明では、配管を切削したときの切削屑、空気中の塵などを包括して「微粒子」と記載する。
【0012】
一般に純水供給装置は、一次純水を純水タンクに蓄え、限外濾過膜などで微粒子を除いた後に2次純水としてユースポイントに送られ、ユースポイントで使用されなかった分は限外濾過膜前の純水タンクに戻されている。純水供給装置に使用される配管は、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリビニルジフロライド(PVDF)、テトラフルオロエチレン・ペルフルオロアルキルエーテル共重合体など合成樹脂を用いており、空気中では静電気により微粒子を引き寄せることになる。しかも材料表面が空気中の油分などで汚れていることから、引き寄せられた微粒子は、配管表面に強く結合されていることがある。
【0013】
本発明による純水供給配管の洗浄方法は、純水供給装置の配管に過酸化水素水溶液を通水しつつ行う配管洗浄において、通水中の過酸化水素水溶液中に過酸化水素分解酵素を添加することにある。すなわち、本発明では、限外濾過膜後の過酸化水素水溶液に過酸化水素分解酵素水溶液が注入される。過酸化水素分解酵素水溶液が注入されることにより、過酸化水素と接触して過酸化水素の分解が促進され、水中で酸素が微細な気泡状に発生する。この気泡を含む過酸化水素水溶液が、本発明による純水供給配管の洗浄水となる。
【0014】
既に知られているように過酸化水素水溶液を配管に通すことで、殺菌効果が発揮され、かつ過酸化水素水溶液が配管内を通過するときの力で系中の微粒子を運び出し洗浄効果が出る。本発明では、過酸化水素水溶液に過酸化水素分解酵素水溶液が注入されてなっており、過酸化水素水溶液本来の洗浄効果とともに、発生する細かな気泡を利用することになる。この気泡は、過酸化水素水溶液が配管中を通過するときの微粒子を運び出す作用を強めるのみならず、配管中の流れの悪い部分でも発生することから微粒子の運び出しに寄与し、さらに、管壁に付着した微粒子の近傍でも気泡が発生して微粒子を管壁から剥離させる力となる。しかも、この気泡は、系内で発生したものであるから非常に清浄である。
【0015】
本発明における過酸化水素水溶液は、本発明ではその濃度を限定するものではないが、通常0.1〜5重量%、好ましくは0.5〜3重量%である。
【0016】
過酸化水素分解酵素は、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼ、スーパーオキサイドディスムターゼ(SOD)など過酸化水素の分解を促進する酵素であり、特にカタラーゼが少量で過酸化水素を分解させることからこの分野では最も一般的に使用されており、本発明でも好ましい選択である。カタラーゼは、例えば野村マイクロ・サイエンス(株)から「ノムライトHR200S」(商品名)の名前で、三菱ガス化学(株)から「アスクスーパー」(商品名)の名前で、その他ナガセケムテック(株)、洛東化成工業(株)、ノボザイム・ジャパンなどから市販されておりこれらを使用できる。過酸化水素分解酵素は、水溶液にして使用されるのが便利であり、その濃度は特に限定されない。過酸化水素分解酵素の添加量は、酵素の活性度などにより異なるので一律に決めることができないが、上記野村マイクロ・サイエンス(株)製、「ノムライトHR200S」(商品名)を使用した場合には10〜500ppm、好ましくは50〜200ppmである。過酸化水素分解酵素の適正添加量は、過酸化水素分解酵素が添加された後での過酸化水素水溶液中の気泡の量で判断され、過酸化水素水溶液中に微細な気泡が多く分散している状態がよいといえる。過酸化水素分解酵素が少ないときは、過酸化水素の分解不充分により気泡の発生が少なく、逆に多過ぎると過酸化水素の分解が速くて急激に気泡が発生して大きな気泡となり効果的に洗浄に寄与されず、かつ経済的にも不利になることがある。
【0017】
洗浄は、通常、室温で10分〜5時間、好ましくは30分〜3時間行う。これより長い時間実施することはなんら差し支えない。洗浄終了後は、引き続いて純水を流して過酸化水素を置換するとともに、残存する微粒子の排出を行う。すなわち、純水中の微粒子数を測定して実施者が決めた任意の管理目標値に到達するまで純水を流す。
【0018】
ユースポイントを通過した後の洗浄水は、過酸化水素分解酵素を含んでおり、従って過酸化水素水溶液タンクに戻されると過酸化水素水溶液タンク中で過酸化水素を分解させて本発明の目的を達成することができなくなるので、外部に排出される。外部排出にあたり、周辺環境に障害を及ぼさないように必要により過酸化水素を完全に分解させることがあるが、本発明は排出水の過酸化水素分解についてはなんら制限するものではない。
【実施例】
【0019】
純水ポリッシング部(イオン交換樹脂部はバイパスさせ、紫外線ランプは消灯した)およびこれに接続した評価用配管(PDVF製、外径32mm)20mを用いて洗浄効果を比較した。評価用装置を2連新設し、それぞれに1重量%の過酸化水素水溶液を1m/secで流した。この一方の評価用装置について、純水ポリッシング部の限外濾過ユニット直後にカタラーゼ〔野村マイクロ・サイエンス(株)製、「ノムライトHR200S」(商品名)を使用〕水溶液を、過酸化水素水溶液に対してカタラーゼはノムライトHR200Sとして100ppmとなるように注入した。また、他方の評価用装置には、比較としてカタラーゼを注入せず、過酸化水素水溶液のみとした。いずれも30分間流してから純水に切り替え、過酸化水素水溶液が純水に置き換わったと思われる時点から、評価用装置出口での純水中の微粒子数を測定〔パーティクル・メデャメント・システム(Particle Measurement System)社製、「UDI50」(商品名)を使用〕した。結果を図2に示す。
【0020】
この結果から、過酸化水素水溶液のみ(比較例)に比べて過酸化水素水溶液にカタラーゼを注入した(実施例)ときには、系内に残る微粒子が少なくなり、短時間で純水中微粒子数が少なくなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
純水供給装置を新設あるいは修理の後で行う本発明による純水供給配管の洗浄方法により、純水に切り替えてから短時間で純水中の微粒子を少なくすることができ、装置の運転における立ち上がり時間を大幅に短縮することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】カタラーゼを含む過酸化水素水溶液と、カタラーゼを含まない過酸化水素水溶液による洗浄で、洗浄後の純水中微粒子数推移である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
純水供給装置の配管に過酸化水素水溶液を通水しつつ、前記過酸化水素水溶液中に過酸化水素分解酵素を添加することを特徴とする純水供給配管の洗浄方法。
【請求項2】
前記過酸化水素分解酵素が、カタラーゼであることを特徴とする請求項1に記載の純水供給配管の洗浄方法。
【請求項3】
前記純水供給装置が、新設された後、または部分的修理を行った後であることを特徴とする請求項1に記載の純水供給配管の洗浄方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−247561(P2006−247561A)
【公開日】平成18年9月21日(2006.9.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−69413(P2005−69413)
【出願日】平成17年3月11日(2005.3.11)
【出願人】(000245531)野村マイクロ・サイエンス株式会社 (116)
【Fターム(参考)】