説明

紙の製造方法

【課題】地合を低下させることなくかつ環境に適合した紙の製造方法を提供する。
【解決手段】パルプ、填料および水を含む紙料であって、前記紙料中の固形分濃度が1.3〜2.5質量%であり、かつ前記固形分中の灰分濃度が25〜60質量%である紙料を準備する工程、ならびに前記紙料を抄紙する工程を含む方法にて紙を製造する。前記紙料の、B型粘度計による25℃における粘度は30〜300mPa・sが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙の製造方法に関する。中でも印刷用紙、特にオフセット印刷用の新聞用紙に好適な紙の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、紙は1質量%程度の固形分濃度の紙料を抄紙して得られる(非特許文献1)。紙の製造においては、大量の水や、抄紙された紙を脱水、乾燥するために多くのエネルギーが必要とされる。そのため、近年の環境負荷軽減の観点から、紙、特に大量に生産される印刷用紙について環境負荷を低減させた製造方法が望まれている。例えば、高濃度抄紙により省エネルギー、省資源が達成できるため、高濃度抄紙に適した抄紙機のヘッドボックスやドライヤが開発されている(特許文献1〜4)。
【0003】
近年、特に、環境に配慮した紙の提供や、軽量で優れたカラー印刷品質を有する印刷用紙への要望が高まっている。環境への配慮の面では、新聞用紙に代表されるオフセット印刷用紙等の分野において、省資源化および古紙利用の観点から脱墨パルプ(DIP)の高配合化が進むとともに、従来の酸性抄紙に代わり中性抄紙への移行が進んでいる。
【0004】
一方、生産効率の向上等の面から、紙の製造における抄紙機は大型、高速化する傾向にあり、抄紙機の形式も従来の長網抄紙機からツインワイヤー方式への転換が行われている。特に新聞用紙の製造においては、ツインワイヤー方式の中でもギャップフォーマーと呼ばれる、紙料懸濁液をヘッドボックスからループ状に形成された2枚のワイヤー間に生じるギャップ(ワイヤー間の隙間)に噴出し、直後に両側から一気に脱水する方式の採用が増加している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭61−3917号公報
【特許文献2】特公昭61−37398号公報
【特許文献3】特開2002−534617号公報
【特許文献4】特開平2−41488号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】山内龍男著、「紙とパルプの科学」、87頁、京都大学学術出版会、2006年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
紙料中の固形分濃度をより向上させれば、使用する水の量を低減でき、また抄紙された紙を脱水、乾燥するためのエネルギーを低減できると考えられる。しかしながら、紙料中の固形分濃度を向上させると繊維同士の絡み合いが生じて繊維のフロックが発生し、得られる紙の地合が低下したり、操業性が低下したりする。紙の地合は、印刷用紙において重要な品質である。地合の悪化は、不透明度の低下、強度や剛度の低下、また坪量むらや紙厚むらを引起こし、得られる紙に皺が発生する、または大きな変動が生じてしまう等の問題を生じさせる。また、地合の悪化は、印刷した際のインキの染み出しを大きくして裏抜けを増大させ、さらにはインキ着肉性が均一とならず印面むらによる着肉不良等の問題にもつながる。したがって、地合を低下させることなく環境負荷を軽減した印刷用紙の製造方法が望まれていたが、未だ満足の行く製造方法はなかった。
【0008】
さらに前述のとおり、紙の製造においては、脱墨パルプの高配合化、中性抄紙化、および抄紙機の高速化が進んでいるが、脱墨パルプの高配合化、中性抄紙化は、抄造時やオフセット印刷時に重要な歩留りの低下や紙の強度の低下につながる問題がある。また、抄紙機の高速化は、紙料中の繊維等にかかる剪断力を非常に強めるので、紙料歩留りや紙の強度を低下させやすい。特にギャップフォーマーを用いる場合は、紙層構造形成と同時に脱水が行われるため、歩留り低下は著しくなる。歩留りの向上や紙に十分な強度を付与する方法として、歩留剤や紙力増強剤等の内添薬品を高濃度で紙料に添加する方法が知られているが、単に、内添薬品を高濃度で紙料に添加すると、繊維のフロックを局所的に過剰に生成するため、良好な地合の紙を得ることは困難であった。
【0009】
上記事情に鑑み、本発明は、地合を低下させることなくかつ環境に適合した紙の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、鋭意検討した結果、固形分濃度が特定の範囲にあり、かつ前記固形分中の灰分濃度が特定の範囲にある紙料を抄紙することで前記課題が解決できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、パルプ、填料および水を含む紙料であって、紙料中の固形分濃度が、1.3〜2.5質量%であって前記固形分中の灰分濃度が25〜60質量%である紙料を抄紙する紙の製造方法を提供する。当該製造方法は、次の特徴を有していてもよい。
【0012】
[1]前記紙料の、B型粘度計による25℃における粘度が30〜300mPa・sである。
[2]前記填料が炭酸カルシウムを含む。
[3]前記紙料が歩留剤として重量平均分子量が1000万〜3000万のカチオン性ポリマーを含む。
[4]前記填料のレーザー回折散乱法による平均粒径が0.8〜10μmである。
[5]前記紙料のpHが6.0〜9.0である。
[6]前記紙料が脱墨パルプを含み、その含有量が全パルプの50質量%以上である。
【0013】
[7]前記紙の紙中灰分が5〜40質量%である。
[8]前記紙が新聞用紙である。
[9]前記紙の紙中灰分は、5〜40質量%である。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、地合を低下させることなくかつ環境に適合した紙の製造方法が提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の紙の製造方法は、(A)パルプ、填料および水を含む紙料であって、固形分濃度が1.3〜2.5質量%であり、前記固形分中の灰分濃度が25〜60質量%である紙料を準備する工程と(B)前記紙料を抄紙する工程を含む。なお、本発明において「〜」はその両端の値を含む。
【0016】
本発明により、各種用途の紙を製造できる。製造される紙の用途は特に限定されないが、本発明は、地合が重視される印刷用紙の製造に好適である。印刷用紙とは、書籍等の出版用途または商業印刷用途に使用される紙をいう。印刷用に施される印刷方式は特に制限されず、その例には、コールドオフセット印刷やヒートオフセット印刷等の平版印刷、グラビア印刷等の凹版印刷、凸版印刷等の印刷方式が含まれる。本発明で製造される紙は塗工紙および非塗工紙を含み、これらの具体例としては、上質印刷用紙、中質印刷用紙、新聞用紙、書籍用紙、各種コート紙用の原紙、情報記録用紙等が挙げられる。本発明によれば歩留りを低下させることなく、地合および強度に優れた紙を製造できるので、本発明は、オフセット印刷用紙、特に新聞用紙の製造に好適である。以下、各工程について説明する。
【0017】
1.A工程
(1)紙料
1)固形分濃度
固形分濃度とは紙料中に存在する固形分の濃度であり、本発明においてはJIS P8225:2009により求めた乾燥固形分の質量を測定に用いた紙料の質量で除した値である。本発明で用いる紙料の固形分濃度は1.3〜2.5質量%であり、一般に紙料の固形分濃度とされる1質量%よりも高い。よって、本発明は水の使用量を低減でき、かつ抄紙された紙の脱水・乾燥に使用するエネルギーを低減できる。さらに紙料の固形分濃度が高いと抄紙工程に紙料を供給する際の流量を低減できるので、ポンプ等の供給手段の電力等を削減できる。この点、紙料の固形分濃度が1.3質量%未満であると抄紙に要するエネルギーや資源を十分に低減することができない。以上から、本発明で用いる紙料の固形分濃度は1.3質量%以上であることを必須とする。固形分濃度の下限は、抄紙作業性と地合のバランスの観点から、1.5質量%以上が好ましい。
固形分濃度の上限は制限されないが、固形分濃度が高くなりすぎると繊維のフロックが生じて得られる紙の地合が低下する。特に高濃度の領域においては、0.1%ほどの僅かな濃度の差がフロックの発生に顕著に影響する。よって、本発明で用いる紙料の固形分濃度の上限は2.5質量%以下であることが好適であり、2.3質量%以下がより好ましく、2.0質量%以下がよりさらに好ましい。
【0018】
2)灰分濃度
本発明で用いる紙料は、固形分中の灰分濃度が25〜60質量%である。この灰分濃度は、紙料中の乾燥固形分をJIS P8225:2009により求め、続いてその固形分をJIS P 8251:2003に従って525℃で灰化し質量を測定して求められる。紙料の固形分中の灰分濃度が25質量%未満であると、大部分を紙中に留めなければ目標とする紙中灰分にすることができないため、製造が困難となる。よって、本発明で用いる紙料の固形分中の灰分濃度の下限は25質量%以上であり、28質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましい。また、本発明で用いる紙料の固形分中の灰分濃度の上限は制限されないが、灰分濃度が高すぎると歩留りが低下するため、系内が汚れて操業が不安定になる。よって、本発明で用いる紙料の固形分中の灰分濃度の上限は、60質量%以下であることが好適であり、55質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましい。
【0019】
紙料の固形分中の灰分の主成分は填料であるため、紙料の固形分中の灰分濃度は、主として填料の量により調整できる。填料については後で詳しく説明する。後述するとおり、本発明で用いる紙料は、パルプスラリーへ填料を添加して比較的固形分濃度が高い紙料を調製し、次いでこれを白水等で希釈して調製できる。また、パルプスラリーを希釈した後に填料を添加して調製することもできる。さらに、パルプスラリーを一旦希釈した後に填料を添加し、再び希釈して調製することもできる。本発明で用いる紙料を調製する際のパルプスラリーへの填料の添加量(仕込み量)は、希釈後の紙料の固形分中の灰分濃度が25〜60質量%となる量であれば限定されないが、パルプに対して25〜150質量%が好ましい。さらに、填料の添加量は、希釈に用いる白水、後述する脱墨パルプまたは添加剤からの持ち込み灰分を考慮して調整してよい。
【0020】
3)紙料の調製方法
本発明で用いる紙料は任意の方法で準備してよいが、パルプを水に分散させたパルプスラリーを調製して、このパルプスラリーに填料およびその他の添加剤(以下「填料等」ともいう)を分散させて得ることが好ましい。特に、パルプの濃度が3.0〜4.5質量%程度のパルプスラリーを調製し、これに填料等を添加して高濃度の紙料を得てから、固形分濃度が、1.3〜2.5質量%の範囲であって、固形分中の灰分濃度が25〜60質量%となるように白水等で希釈して紙料を得ることが好ましい。このようにして得た紙料のパルプの濃度は1.3〜2.5%と高いが、灰分濃度も25〜60%と高い。そのため、相対的にパルプの割合は低くなり、パルプの絡み合いが抑制される。よって、このように調製された希釈前紙料を希釈して得られる紙料は、フロックが低減された紙料となる。
本発明においては、固形分濃度が1.3〜2.5質量%であって固形分中の灰分濃度が25〜60質量%である抄紙に供される紙料を「本発明で用いる紙料」といい、希釈することにより本発明で用いる紙料とできる比較的固形分濃度が高い紙料を特に「希釈前紙料」という。
【0021】
4)特性等
通常、紙料におけるパルプ濃度が高いと、繊維同士の絡み合いが生じて繊維や填料等が均一に分散しにくく、また繊維のフロックが発生し、得られる紙の地合が低下したり、操業性が低下したりする。しかし、前述のとおり、填料を高い割合で含む本発明で用いる紙料は、繊維同士の絡み合いが少なく、繊維を均一に分散できる。その結果、得られる紙の地合は良好となる。
【0022】
また、本発明で用いる紙料は、B型粘度計(No.1またはNo.2ローター、60rpm)による25℃での粘度が30〜300mPa・sであることが好ましく、30〜200mPa・sであることがより好ましい。紙料の粘度がこの範囲であると抄紙作業性が良好となる。一般に紙料の固形分濃度が高くなると粘度も上昇するが、本発明で用いる紙料は多量の填料を用いるので、前述のとおり繊維同士の絡み合いが低減され、粘度があまり高くならない。
【0023】
本発明で用いる紙料は、古紙を利用した脱墨パルプを多量に使用することができる。さらに、環境適合性に優れるため、本発明で用いる紙料は中性であることが好ましい。紙料が中性であると、後述するように本発明において好ましい填料である炭酸カルシウムを用いることができる。
【0024】
(2)各成分
1)パルプ
パルプとは木材または植物由来のセルロース繊維の集合体である。本発明では公知のパルプを用いてよく、その例には、ケミカルパルプ(CP)、砕木パルプ(GP)、ケミグラウンドパルプ(CGP)、リファイナーグラウンドパルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、セミケミカルパルプ(SCP)、およびこれらの晒または未晒パルプ、さらには脱墨パルプ(DIP)が含まれる。
【0025】
本発明で用いるパルプは脱墨パルプを含んでいることが好ましい。古紙を使用した脱墨パルプを用いると環境に適合した紙が得られる。さらに脱墨パルプには既に填料が含まれているので脱墨パルプ由来の填料を利用できる。よって、脱墨パルプを用いるとコスト的にも有利となる。一般に、脱墨パルプを使用すると歩留りが低下する傾向があるが、本発明によれば脱墨パルプを高配合しても良好な歩留り得ることができる。脱墨パルプの含有量は、多いほど好ましく、全パルプ量の50〜100質量%がより好ましい。
【0026】
2)填料
填料とは紙に配合される粉末状の添加剤である。本発明では公知の填料を用いてよいが、その好ましい例には、炭酸カルシウム、ホワイトカーボン、カオリン、クレー、およびシリカ−炭酸カルシウム複合体、再生填料が含まれる。中でも白色度に優れ、入手の容易性や以下に述べるような地合の向上効果が高いこと、さらには中性抄紙に適していることから、炭酸カルシウムが好ましい。
【0027】
本発明で用いる紙料は多量の填料を含むため、填料がパルプの繊維の間にとどまりやすくなり、紙料における繊維同士の絡み合いを防ぎフロックの生成を低下させる。また、パルプの繊維の間にとどまった填料は、最終製品である紙にもとどまりやすいため、紙の不透明性を高める。このような作用により、地合に優れた印刷用紙が得られると考えられる。この作用は填料の粒径や形状に影響を受けるので、本発明で用いる填料は、レーザー回折散乱法で測定された平均粒径が0.8〜10μmであることが好ましい。また、填料の形状としては、いがぐり状のような大きな表面積を有するような形状が好ましく、BET比表面積としては1〜150m/gが好ましい。このような填料の例には、ロゼッタ結晶型の炭酸カルシウムが含まれる。ロゼッタ結晶型の炭酸カルシウムは、パルプの繊維の間に非常にとどまり易く、さらには光散乱効果が高くなるので、得られる紙の地合を一層向上させる。
【0028】
また、填料として脱墨パルプに由来する填料を用いてもよい。この場合、脱墨パルプ由来の填料は、填料の全量に対して5質量%以上であることが好ましい。
【0029】
3)歩留剤
本発明で用いる紙料は、抄紙工程におけるパルプや填料の歩留りを向上させるための歩留剤を含むことが好ましい。歩留剤は公知のものであれば限定されないが、その例としては、カチオン性ポリマー、アニオン性ポリマー、両性ポリマー、非イオン性ポリマー等が挙げられる。本発明においてはカチオン性ポリマーを用いることが好ましい。カチオン性ポリマーとは分子内に陽イオン化された部位を有するポリマーである。カチオン性ポリマーの分子量は、極限粘度法による重量平均分子量にして1000万〜3000万、より好ましくは1000万〜2500万程度であることが好ましい。ポリマー構造は直鎖状または分枝状が好ましく、製品の形態としてはエマルション型もしくはディスパージョン型が好ましい。
エマルション型歩留剤とは、油性媒体中、乳化剤の存在下で重合して得たカチオン性ポリマーの油系分散液を水で希釈して得られる歩留剤である。当該歩留剤においては、このようにして得たカチオン性ポリマーと油性媒体との混合物、またはカチオン性ポリマーが油性媒体に溶解した溶液が、分散質として水系の分散媒に微分散して乳化している。一方、ディスパージョン型歩留剤とは、水性媒体中で重合して得たカチオン性ポリマーの水分散液を、さらに水で希釈して得られる歩留剤である。当該歩留剤においては、このようにして得たカチオン性ポリマーが水性媒体に微分散している。
【0030】
カチオン性ポリマーの好ましい例にはカチオン性ポリアクリルアミドが含まれる。このポリマーはポリアクリルアミドのアミド基が陽イオン化されたポリマーである。カチオン性ポリアクリルアミドは、特に填料を捕捉する効果が高いため歩留りを向上させ、ひいては紙中に含まれる填料の量も増大させる。したがって本発明の歩留剤としては、超高分子量のカチオン性ポリアクリルアミドが特に好ましい。特に、エマルション型で直鎖状のカチオン性ポリアクリルアミド、ディスパージョン型で直鎖状のカチオン性ポリアクリルアミドがより好ましい。これらのカチオン性ポリアクリルアミドの例には、極限粘度法による重量平均分子量が2000万で、直鎖状エマルション型である商品名リアライザーR300(ソマール株式会社製)、および極限粘度法による重量平均分子量が1500万で、直鎖状ディスパーション型である商品名ND300(ハイモ株式会社製)等が含まれる。
【0031】
歩留剤の添加量は、紙料中の固形分に対して50〜500ppmが好ましく、100〜350ppmがより好ましく、150〜300ppmがさらに好ましい。分散性を高めるために歩留剤は前述の希釈前紙料に添加されることが好ましい。
【0032】
4)その他の添加剤
本発明の紙料は、上記の他に公知の添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例には、ロジン、AKD、ASA等の合成サイズ剤、硫酸バンド、各種澱粉類、乾燥紙力剤、湿潤紙力剤、凝結剤、およびpH調整剤等が含まれる。
【0033】
2.B工程
(1)抄紙機
本工程では、前記工程で準備された紙料を抄紙する。抄紙は公知の方法によって行えばよい。例えば、ツインワイヤー抄紙機、長網抄紙機、ヤンキー抄紙機、円網抄紙機等を用いて行うことができる。中でも、生産効率に優れるためツインワイヤー抄紙機が好ましい。紙料はヘッドボックス等の噴射装置からワイヤー上に噴射される。抄紙速度は限定されないが、100〜2000m/分が好ましい。特に本発明は操業性に優れるため、本発明には1000m/分以上さらには1500m/分以上の高速抄紙を使用できる。また、各種用途に求められるような坪量を達成できるように抄紙されればよく、新聞用紙の場合は30〜60g/mとなるように抄紙されることが好ましい。ワイヤー上に噴射された紙料は、定法に従って、脱水・乾燥されて紙が製造される。また、本発明では、顔料を含有する塗工層を設ける工程をさらに含んでもよい。
【0034】
(2)抄紙pH
本発明は中性抄紙に特に適している。中性抄紙における紙料のpHは6.0〜9.0が好ましく、6.5〜8.5がより好ましい。一般に、酸性抄紙においては、紙料中の微細パルプ繊維や填料等の微細粒子の歩留りを向上するために、酸性の無機凝結剤である硫酸バンド(硫酸アルミニウム)が多用されている。しかし、ここに填料として炭酸カルシウムを使用すると、硫酸バンドと炭酸カルシウムが反応して硫酸カルシウムが生成し、抄紙系内で析出して系内の汚れや、穴等の紙面欠陥を生じ、断紙の原因となる。また、酸性抄紙の場合、脱墨パルプに含まれる灰分のうち炭酸カルシウムが溶解してしまい、灰分の低下を招く。これに対し、中性抄紙では、脱墨パルプおよび炭酸カルシウムを高配合することが可能である。特に近年、紙の低坪量化や光白色度化、中性抄紙化が進んでいるが、本発明によれは填料高配合の紙を効率よく製造できる。
【0035】
(3)紙料歩留り
本工程における紙料歩留りは、30〜80%が好ましく40〜60%がより好ましい。また、灰分歩留りは、10〜50%が好ましく15〜40%がより好ましい。歩留りは、抄紙に供した紙料とワイヤー下に抜け落ちた白水(以下「ワイヤー下白水」ともいう)について、それぞれ固形分濃度と固形分中の灰分濃度を測定し、次式(i)、(ii)を用いて計算される。具体的にこの灰分濃度は、紙料とワイヤー下白水について、その固形分をJIS P 8251:2003に従って525℃で灰化し質量を測定して求められる。
【0036】
紙料歩留り=100×(A−B)/A ・・・式(i)
A:紙料の固形分濃度(質量%)
B:ワイヤー下白水の固形分濃度(質量%)
灰分歩留り=100×[(C×A)−(D×B)]/(C×A)・・・式(ii)
C:紙料の固形分中の灰分濃度(質量%)
D:ワイヤー下白水の固形分中の灰分濃度(質量%)
【0037】
3.紙
(1)地合
本発明で得られる紙は地合に優れる。地合とは、紙の中における繊維の分布の均一性である。地合は光透過光変動法により測定できる。光透過光変動法は、サンプルの透過光量の面内分布を測定する方法である。具体的に地合は、1)サンプルに光を照射し、その透過光により得られた像を得て、2)その画像をいくつかのセルに分割して各セルのグレーレベルを測定し、4)グレーレベルの標準偏差を算出し、5)標準偏差から求めた地合指数により評価されることが好ましい。地合指数とは、地合の良さを表すパラメータであり、その値が低いほど地合が良好であることを示す。本発明で得られる紙は、この方法で求めた地合指数が5.6〜6.0であることが好ましく、5.5以下であることがより好ましい。
【0038】
(2)紙中灰分
本発明で得られる紙の紙中灰分は、5〜40質量%であることが好ましい。紙中灰分とは、紙を焼いて残った灰の重さを、元の紙の重さで除して得られる値であり、JIS P 8251:2003により測定される。中でも新聞用紙の場合の紙中灰分は、5質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましく、10質量%以上がさらに好ましい。また、新聞用紙の場合の紙中灰分は、25質量%以下が好ましく、20質量%以下がより好ましく、18質量%以下がさらに好ましい。灰分が前記範囲にある紙は優れた地合を有する。一般に、紙の高灰分化は歩留りの低下を招き、これに伴って操業性が悪化することがある。しかし、本発明によれば紙料の固形分濃度を高くするので歩留りが向上し、高灰分化による前記問題を解消できる。
【実施例】
【0039】
[参考例]
パルプ、填料および水を含み、紙料中の固形分濃度および当該固形分中の灰分濃度が表1の値となるような紙料を調製した。B型粘度計を用いて25℃におけるこの紙料の粘度を測定した。結果を表1に示す。
【0040】
サンプル1と2の比較より、紙料の固形分濃度が同程度であっても灰分濃度が高いと粘度が低くなることが明らかである。これは、填料により繊維同士の絡み合いが低減されたためと推察される。
【0041】
【表1】

【0042】
[実施例1]
脱墨パルプ(DIP、濾水度200ml)75質量部、サーモメカニカルパルプ(TMP、濾水度100ml)15質量部、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP、濾水度500ml)10質量部を混合した。このときのパルプスラリーの濃度は4.0質量%であった。次に、このパルプスラリーに、填料として軽質炭酸カルシウムをパルプに対して10質量%、内添紙力増強剤としてカチオン性ポリアクリルアミドをパルプに対して0.2質量%、硫酸バンドをパルプに対して2質量%添加して紙料を調製した。濾水度とはカナダ標準濾水度(CSF)を意味する。この紙料に、極限粘度法による重量平均分子量が2000万のエマルジョン型カチオン性ポリアクリルアミド系歩留剤(ソマール株式会社製リアライザーR300)を紙料中の固形分に対して300ppm添加した。この紙料を濃度希釈型ヘッドボックスに充填し、ヘッドボックスにおける紙料の固形分濃度が1.3質量%となるよう希釈白水を添加して希釈した。この希釈後の紙料のpHは7.2であった。また、この希釈後の紙料の粘度を前述した方法により測定した。続いてヘッドボックスからツインワイヤー型の抄紙ワイヤー上に紙料を噴射して、抄紙速度1300m/分で、坪量43g/mとなるように中性抄紙を行った。このようにして新聞用紙を製造した。
【0043】
紙料中の固形分濃度Aおよびその固形分中の灰分濃度Cと、ワイヤー下白水の固形分濃度Bおよびその固形分中の灰分濃度Dを前述のとおり測定した。これらの値から抄紙工程における紙料歩留り、灰分歩留りを求めた。結果を表2に示す。紙料中の固形分はほとんどがパルプと填料であるため、紙料の固形分中の灰分濃度は、パルプに対する填料の割合の目安となる。本例で得た紙料の固形分中の灰分濃度は35.6質量%であり、この値は填料の仕込み量(パルプに対して10質量%添加)よりも高い。この理由は、DIP由来の持ち込み灰分、および白水にて紙料を希釈した際に白水由来の填料が添加されたためである。
【0044】
前述した方法により得られた新聞用紙の紙中灰分および地合指数を測定した。地合指数は、地合計(野村商事株式会社製、FMT−MIII)を用いて測定した。この際のサンプル形状は18×25cmとし、使用したCCDカメラの絞り(感度)は12とした。地合の良さは地合指数から以下の基準により判断した。結果を表2に示す。
地合の良さ 地合指数
◎ :5.5以下
○ :5.6〜6.0
△ :6.1〜6.4
× :6.5以上
【0045】
[実施例2〜5]
固形分濃度を表2に示すような値とした以外は、実施例1と同様にして新聞用紙を製造し、評価した。
【0046】
[実施例6]
重量平均分子量が2000万のエマルジョン型カチオン性ポリアクリルアミド系歩留剤(ソマール株式会社製リアライザーR300)に代えて、重量平均分子量が1500万のディスパージョン型カチオン性ポリアクリルアミド系歩留剤(ハイモ株式会社製ND300)を使用した以外は、実施例1と同様にして新聞用紙を製造し、評価した。
【0047】
実施例2〜5における清水原単位改善率、蒸気費改善率を表3に示した。清水原単位改善率、蒸気費改善率とは、実施例1に要した清水原単位と蒸気費を基準として、各実施例で要した清水原単位と蒸気費がどのくらい改善されたかを表す指標である。例えば、実施例2では実施例1に比べ、清水の使用量が17%、乾燥に要した蒸気の費用が5%低減されたことを意味する。
【0048】
[比較例]
固形分濃度を表2に示すような値とした以外は、実施例と同様にして新聞用紙を製造し、評価した。また、比較例における清水原単位改善率、蒸気費改善率を表3に示した。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

【0051】
実施例の結果から、紙料の固形分濃度が1.3〜2.5質量%、紙中灰分が10〜13質量%であると、地合指数が6.0以下となり、良好な地合の新聞用紙が得られることが明らかである。
【0052】
実施例4と比較例2は、固形分濃度の違いが0.1%程度であり一見あまり大きくないように見えるが、固形分濃度が2.5質量%を超える比較例2は地合が大幅に低下している。したがって、固形分濃度が高い場合には、僅かな濃度の差が地合に大きな影響を与え、固形分濃度が2.5質量%以下であると良好な地合の新聞用紙が得られることが明らかである。
【0053】
一方、実施例1と比較例1を比較すると、固形分濃度が低い場合には、濃度の差が地合に与える影響は大きくないといえる。しかし、固形分濃度が1.3質量%未満の比較例1では清水原単位改善率、蒸気費改善率がマイナスとなっており、わずかな固形分濃度の違いが抄紙に要するエネルギーや資源の低減に大きな影響を与え、固形分濃度が1.3質量%以上であると、良好な結果が得られることが明らかである。
【0054】
実施例2と比較例3、4は、固形分濃度はほぼ同じであるものの実施例2の地合は他に比べて良好である。これは実施例2の紙料固形分中の灰分濃度が25質量%よりも高いことに起因して紙中灰分が高いためと考えられる。
以上から、固形分濃度が1.3〜2.5質量%、好ましくは1.5〜2.3質量%、より好ましくは1.5〜2.0質量%であり、かつ固形分中の灰分濃度が25〜60質量%である紙料を用いると、製造に要するエネルギーや資源を低減させつつ、地合の良好な印刷用紙が得られることが明らかである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ、填料および水を含む紙料であって、前記紙料中の固形分濃度が1.3〜2.5質量%であり、かつ前記固形分中の灰分濃度が25〜60質量%である紙料を準備する工程、ならびに
前記紙料を抄紙する工程を含む、紙の製造方法。
【請求項2】
前記紙料の、B型粘度計による25℃における粘度が30〜300mPa・sである、請求項1記載の製造方法。

【公開番号】特開2011−94284(P2011−94284A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−217215(P2010−217215)
【出願日】平成22年9月28日(2010.9.28)
【出願人】(000183484)日本製紙株式会社 (981)
【Fターム(参考)】