説明

紙サイジング組成物

ケテンダイマーの分散体と、pH調整されたビニルアミン含有ポリマーとを含む、安定な紙サイジング組成物が開示される。安定なサイジング組成物を調製する方法、および安定なサイジング組成物を使用する方法も開示される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性ケテンダイマー分散体による紙のサイジングにおける改善、およびビニルアミン含有ポリマーを含むケテンダイマー分散体の安定性に関する。
【背景技術】
【0002】
Weisgerber(米国特許第2,961,366号)は、紙の繊維によるケテンダイマーの保持力を改良するためのポリビニルアミンの使用を教示しており、増加した保持力は、より大きなサイジングの程度をもたらす。この教示において、Weisgerberは、ポリビニルアミンはパルプスラリーにサイジング剤とは別々に加えることができるが、好ましい添加の態様は、製紙系にケテンダイマーを加える直前にケテンダイマーの水性エマルションに加えることであることを示している。
【0003】
Weisgerberが製紙系にエマルションを加える直前に、ケテンダイマーの水性エマルションにポリビニルアミンを加えることを教示したとおり、この教示はブレンドの長期安定性に関しないものである。しかし、商業的に実行可能なアルキルケテンダイマーの水性エマルションは、長期間安定でなければならない。ケテンダイマーの水性エマルションは、物理的および化学的の両方で安定でなければならない。物理的な安定性とは、エマルションが製紙系に加えられるまで、ポンプ可能であり希釈可能なままである、十分に安定な粘度を表す。化学的な安定性とは、製紙系に加えられるまで、エマルション中で高濃度のケテンダイマーの濃度を維持することを表す。
【0004】
ケテンダイマーエマルションの物理的な安定性は、多くの特許の主題である。例えば、Edwardsら(米国特許第4,861,376号)は、少量の低分子量のカルボン酸を、カチオン性デンプン、リグノスルホン酸ナトリウム、および硫酸アルミニウムと組み合わせることにより、32℃において4週間よりも長くケテンダイマー分散体のコロイド安定性を増加させることを教示する。Schmidら(米国特許出願第2008/0041546 A1号)は、反応性サイジング剤の安定なサイジング組成物を開示する。この発明のエマルションは、DS>/=0.05を有するカチオン性デンプン、アニオン性分散体、および直鎖の窒素含有ポリマーの混合物で安定化される。物理的な安定性は実証されているが、化学的な安定性は議論されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第2,961,366号
【特許文献2】米国特許第4,861,376号
【特許文献3】米国特許出願第2008/0041546 A1号
【特許文献4】米国特許第4,964,915号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
デンプンで安定化されたケテンダイマーの安定な分散体は、産業においてよく知られており、例えばEdwardsらの米国特許第4,861,376号、またはBlixtらの米国特許第4,964,915号を参照されたい。これらのデンプンで安定化されたケテンダイマーの分散体の、商業的なポリビニルアミンとの単純なブレンドは、数分以内にゲル化する不安定な生成物をもたらす。米国特許出願第2008/0041546 A1に開示された、デンプンで安定化されたケテンダイマーの分散体の、pH調製されたポリビニルアミンとのブレンドは、物理的に不安定であり、保存中に固化する(米国特許出願第2008/0041546 A1の実施例5参照)。
【課題を解決するための手段】
【0007】
ビニルアミン含有ポリマーの適切なpH調整により、ケテンダイマーの分散体にビニルアミン含有ポリマーを後で単純に加えることによって、物理的および化学的の両方で安定な、ビニルアミン含有ポリマー、例えばポリビニルアミンを含有するケテンダイマーの分散体を製造することができることが見出された。安定なブレンドは、約3.3未満のpHに調整された、ビニルアミン含有ポリマー、例えばポリビニルアミンを使用して達成される。製紙系に加える前に一定期間これらのサイジング組成物をエージングすることによって、サイジング効率を改善することができることも発見した。
【0008】
紙サイジング組成物が開示される。この組成物は、ケテンダイマーの分散体およびpH調整されたビニルアミン含有ポリマーを含み、安定であり、サイジング効率が改良されており、pH調整されたビニルアミン含有ポリマーのpHは3.3未満である。
【0009】
安定なサイジング組成物を調製する方法が開示される。この方法は、1) ビニルアミン含有ポリマーのpHを約3.3未満に調整する工程、および2) pH調整されたビニルアミン含有ポリマーをケテンダイマーの分散体とブレンドする工程を含む。
【0010】
紙をサイジングする方法が開示される。この方法は、1) ビニルアミン含有ポリマーのpHを約3.3未満に調整する工程、2) pH調整されたビニルアミン含有ポリマーをケテンダイマーの分散体とブレンドする工程、3) ビニルアミン含有ポリマーとケテンダイマーの分散体とのブレンドを、少なくとも1時間保持する工程、および4) ビニルアミン含有ポリマーとケテンダイマーの分散体とのブレンドを、製紙プロセスにおけるパルプスラリーに、またはサイズプレス時に適用する工程を含む。
【0011】
本発明の好ましい実施形態において、ケテンダイマー分散体は、デンプンで安定化されたケテンダイマー分散体である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ケテンダイマーの分散体およびビニルアミン含有ポリマー、例えばポリビニルアミンを含む紙サイジング組成物を提供し、これは安定であり、改良されたサイジング効率を有する。安定な紙サイジング組成物は、ビニルアミン含有ポリマー、分散系、およびアルキルケテンダイマーを含む。これらのサイジング組成物は、1) ケテンダイマーの分散体とブレンドする前に約3.3未満にポリマーのpHを調整する工程、その後2) ポリマーをケテンダイマーの分散体をブレンドする工程、および3) 任意で、最適なサイジング性能のために、このブレンドを製紙系に導入する前にエージングする工程によって調製される。好ましくは、ケテンダイマーの分散体は、デンプンで安定化されている。
【0013】
本発明のサイジング組成物は、物理的および化学的の両方で安定である。この特許の目的に対し、32℃において4週間にわたって保存して、粘度が約400cpsを超えない場合、分散体は物理的に安定であると言える。32℃において同じ4週間にわたって保存して、含有量の損失が約10%以下である場合、分散体は化学的に安定であると言える。含有量は、初期のエマルション処方内に存在するケテンダイマーの量を表す。ケテンダイマーは、経時で水と反応することができ、一般的にジケトンと表されるものを形成し、含有量の損失をもたらす。ジケトンは有効なサイジング剤ではないため、この損失を最小限に保つことが望ましい。
【0014】
ジケトンの例には、16-ヘントリアコンタノン、ジペンタデシルケトン、パルミトン、ペンタデシルケトン、18-ペンタトリアコンタノン、ジ-n-ヘプタデシルケトン、ジヘプタデシルケトン、ヘプタデシルケトン、ステアロン、およびこれらの混合物が含まれる。
【0015】
当分野において知られている任意のケテンダイマーが、本発明の方法において使用されてもよい。サイジング剤として使用されるケテンダイマーは、式:
【化1】

(式中、R1およびR2は、飽和または不飽和であってもよく、6から24個の炭素原子、好ましくは10個を超える炭素原子、最も好ましくは14から16個の炭素原子を有するアルキル基である。R1およびR2は同じでも異なることもできる。)
を有するダイマーである。これらのケテンダイマーは、例えばその開示が参照により本明細書に援用される米国特許第2,785,067号からよく知られている。
【0016】
好適なケテンダイマーには、デシル、ドデシル、テトラデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、エイコシル、ドコシル、テトラコシルケテンダイマー、ならびにパルミトオレイン酸、オレイン酸、リシノール酸、リノール酸、ミリストレイン酸、イソステアリン酸、およびエレオステアリン酸から調製されるケテンダイマーが含まれる。ケテンダイマーは、単独の化学種であってもよく、化学種の混合物を含んでもよい。最も好ましいケテンダイマーは、C12〜C22の直鎖の飽和の天然脂肪酸、オレイン酸、イソステアリン酸、またはこれらの混合物から調製されるアルキルケテンダイマーである。
【0017】
サイジング剤として使用される好適なケテンダイマーは、4-ヘプタデシリデン-3-ヘキサデシル-2-オキセタノン、2-ヘキサデシル-3-ヒドロキシ-3-エイコセン酸、β-ラクトン(6CI)、セチルケテンダイマー、ヘキサデシルケテンダイマー、パルミチルケテンダイマー、4-ヘプタデシリデン-3-テトラデシル-2-オキセタノン、3-ヘキサデシル-4-ペンタデシリデン-2-オキセタノン、4-ペンタデシリデン-3-テトラデシル-2-オキセタノン、ミリスチルケテンダイマー、テトラデシルケテンダイマー、4-(15-メチルヘキサデシリデン)-3-(14-メチルペンタデシル)-2-オキセタノン、イソステアリルケテンダイマー、4-(8Z)-8-ヘプタデセン-1-イリデン-3-(7Z)-7-ヘキサデセン-1-イル-2-オキセタノン、4-(8-ヘプタデセニリデン)-3-(7-ヘキサデセニル)-2-オキセタノン、4-(8Z)-8-ヘプタデセニリデン-3-(7Z)-7-ヘキサデセニル-2-オキセタノン(9CI)、オレインケテンダイマー、およびこれらの混合物としてよく知られている。
【0018】
デンプンで安定化されたケテンダイマーの分散体は、当分野においてよく知られている。このような分散体は、カチオン性デンプン、アニオン性分散体を含み、いくらかの量の硫酸アルミニウムまたはポリアルミニウム塩を含んでもよい。カチオン性デンプンは、溶液中でデンプンを正に帯電させるために十分なカチオン性アミノ基を担持する任意の水溶性デンプンである。置換度は、好ましくは0.05未満、より好ましくは0.048未満かつ0.042超である。好ましいデンプンは、電荷の供給源としての第4級アミノ基を有する、カチオン性のろう状トウモロコシデンプン、例えばStaLok 169(Tate & Lyleにより販売)である。好適なアニオン性分散体には、リグノスルホネート、ポリ-ナフタレンスルホネート、およびスチレンスルホネート含有ポリマーが含まれる。リグノスルホン酸ナトリウムが好ましい。このような分散体の例は、その開示ならびにこれらの文献中に含まれる参照が参照により本明細書に援用される、Blixtらの米国特許第4,964,915号、Edwardsらの米国特許第4,861,376号、およびSavinaの米国特許第3,223,544号に見出すことができる。
【0019】
本発明において使用される、デンプンで安定化されたケテンダイマーエマルションのpHは、好ましくは5.0未満、より好ましくは4.5未満、最も好ましくは4.3以下である。
【0020】
技術的に、用語エマルションは、連続液体媒体中に液滴を有する2相系を表し、用語分散体は、連続液体媒体中に固体粒子を有する2相系を表す。アルキルケテンダイマーの物理的な状態は、系の温度、およびケテンダイマーを調製するために使用される脂肪酸に依存し、商業的なサイジング剤中のアルキルケテンダイマーは、液体または固体である。結果として、産業およびこの特許において商業的なサイジング剤を表す場合、2つの用語がほとんど同じ意味で使用される。
【0021】
これらのエマルションには、エマルションのサイジングに一般的なその他の添加剤、例えば殺生物剤、消泡剤などが含まれてもよい。
【0022】
用語「ビニルアミン含有ポリマー」は、ビニルアミンのホモポリマー(例えばポリビニルアミンまたは完全に加水分解されたポリビニルホルムアミド)、ビニルアミンと他のコモノマーとのコポリマー、部分的に加水分解されたポリビニルホルムアミド、部分的に加水分解されたビニルホルムアミドコポリマー、ビニルアミンターポリマー、アクリルアミドポリマーのHofmann変性によって製造されたビニルアミンホモポリマーおよびコポリマーを意味するものと理解される。このようなポリマーの例は、Niessnerらの米国特許第6,159,340号に見出すことができる。
【0023】
本発明の方法において使用されるビニルアミン含有ポリマーは、ビニルアミンホモポリマー(つまりポリビニルアミン)、ビニルアミンコポリマー、ビニルアミンターポリマー、アクリルアミドポリマーのHofmann変性によって製造されたビニルアミンホモポリマーおよびコポリマー、または重合後に化学的に変性されたビニルアミン含有ポリマーからなる群から好ましくは選択される。本発明の方法において使用されるビニルアミン含有ポリマーは、最も好ましくはポリビニルアミンである。
【0024】
本発明のポリマーの分子量は、製紙用添加剤としてのその使用のために重要である。分子量が低すぎる場合、ポリマーはパルプ繊維上で弱い保持力を有する。分子量が高すぎる場合、ポリマーは繊維と結合する前に凝固する傾向があり、これはポリマーの有効性を低下させる。本発明を調製するために使用されるビニルアミン含有ポリマーの分子量(Mw)は、4000から、10000から、20000から、50000から、75000から、100000から、150000から、または200000から、400000まで、450000まで、500000まで、600000まで、700000まで、800000まで、または1000000ダルトンまで、好ましくは4000から1000000ダルトンまで、より好ましくは10000から1000000ダルトンまでの範囲、より好ましくは20000から800000ダルトンの範囲、より好ましくは50000から700000ダルトンの範囲、より好ましくは75000から600000ダルトンの範囲、より好ましくは100000から500000ダルトンの範囲、より好ましくは150000から450000ダルトンの範囲、最も好ましくは200000から400000ダルトンの範囲である。
【0025】
本発明の方法において使用されるビニルアミン含有ポリマーは、完全にまたは部分的に加水分解されたポリビニルホルムアミドであり得る。例えば本発明を調製するために使用されるビニルアミン含有ポリマーを生成するためのポリビニルホルムアミドの加水分解の割合は、10から、20から、30から、40から、または50から、60まで、70まで、80まで、90まで、または100%まで、好ましくは30から100%まで、より好ましくは40から100%までの範囲、より好ましくは50から100%の範囲、より好ましくは60から100%の範囲、より好ましくは70から100%の範囲、より好ましくは80から100%の範囲、最も好ましくは90から100%の範囲である。
【0026】
第1級アミン部分に加えて、部分的に加水分解されたポリビニルホルムアミドおよびビニルアミンコポリマーは、典型的には、ランダムに分散されたアミジン官能基を含む。アミジン官能基の量は、加水分解の条件、例えば時間、温度、腐食剤の量、および他の因子に依存する。
【0027】
本発明のサイジング組成物を調製するために、ビニルアミン含有ポリマー、例えばポリビニルアミンのpHは、最初に約3.3未満の安定なpHに調整しなければならない。3.0未満、より好ましくは2.5未満のpHが好ましく、2.1から2.5の間のpHが最も好ましい。pH調整されたビニルアミン含有ポリマーは、透明で均一な溶液でなければならない。pH調整は、鉱酸または有機酸を使用して行うことができる。このpH調整のための好ましい酸は塩酸であり、これは対象とするpHにおいて透明で均一な溶液をもたらす。例えば、硫酸の使用は、使用することができないポリビニルアミンの不均一な溶液をもたらす。有機酸(例えばギ酸)を使用することもできる。他の商業的に利用可能な酸には、メチルスルホン酸、臭化水素酸、リン酸、および硝酸が含まれる。
【0028】
pH調整されたポリマーは、所望のサイジング性能を達成する量で、よく攪拌してアルキルケテンダイマーの分散体に加えられる。アルキルケテンダイマーに基づいて0.5%から100%のポリマーの量を使用することができる。アルキルケテンダイマーに基づいて5%から50%のポリマーの量が好ましい。より多い量のポリマーは、より高い量のサイズ成長を提供する。最終的なエマルションのpHは、約pH3未満であるべきである。
【0029】
本発明のサイジング組成物はすぐに使用することができるが、最適なサイジング性能のために、ブレンドを使用前に数時間保持またはエージングできることが発見された。サイジング組成物をエージングすることにより、アルキルケテンダイマーおよびポリマーの所定量で、成長したサイジングの量が十分に増加し、十分にサイジング効率が増加される。組成物をエージングするために、1時間の最小限の保持時間が好ましく、3時間がより好ましい。好ましくは、保持時間は約3時間から約8時間である。組成物は、8時間より長く保持されることができる。8時間を超える保持時間は、さらなる十分な性能の増加を加えない。
【0030】
本発明によって調製されるサイジング剤は、サイジング分散体が製紙プロセスのウェットエンドでパルプスラリーに加えられる内部サイジングで使用されてもよく、または、サイジング分散体がサイズプレスまたはコーターで適用される表面サイジングで使用されてもよい。本発明は、2つの部分のサイジング系の1つまたは両方で使用されてもよい。例えば、第一つの部分は木のパルプと内部に混合されてもよく、第二の部分はサイズプレスで適用されてもよく、これは製紙における一般的な方法である。
【0031】
ストックに加えられるか、または表面サイズとして適用されるかのどちらかのサイジング剤の量は、ストック、すなわち繊維および任意のフィラーの乾燥含有量に基づいて、反応性サイジング剤の約0.005から5質量%、好ましくは0.01から1質量%である。用量は、パルプまたはサイジングされる紙の質、使用されるサイジング化合物、および所望のサイジングの量に主に依存する。
【0032】
紙または板紙の製造におけるストックに従来加えられる化学品、例えば加工助剤(例えば保持助剤、排水助剤、汚染物質制御添加剤など)または他の機能性添加剤(例えば湿潤または乾燥強度添加剤、染料、蛍光増白剤など)を、本発明のサイジング剤と組み合わせて使用することができる。
【実施例】
【0033】
以下の実施例は、本発明を例示する目的のために与えられる。全ての部および割合は、他に示されない限り質量による。
【0034】
以下の実施例において、サイジングの評価を、ストックの調製、精製、および保存を含む、商業的な長網抄紙機(Fourdrinier)をシミュレーションするために設計されたパイロットスケールの抄紙機を使用して行った。ストックを、装置のチェストから定位ストックタンクに重力によって供給した。そこから、ストックを、ウェットエンドの添加剤が加えられる一連のインラインミキサーに送り、その後、第一のファンのポンプに送った。ストックを、ファンのポンプで約0.2%固形分まで白水で希釈した。さらなる化学品の添加を、ファンのポンプの入口または出口でストックに行った。ストックを第一のファンのポンプから第二のファンのポンプに送り、入口のストックに、その後流動スプレッダおよびスライスに化学品の添加を行い、これは12-inの幅の長網抄紙機のワイヤに堆積した。そのワイヤへの堆積後すぐに、シートを3つの真空ボックスで真空脱水し、カウチ(couch)の稠度は通常14〜15%であった。
【0035】
湿潤シートをカウチからモーターで駆動するウェットピックアップフェルトに移動した。この点において、水を、真空ポンプから操作される真空ボックスによってシートおよびフェルトから除去した。このシートを単独のフェルト化プレスでさらに脱水し、プレス区画を38〜40%固形分とした。
【0036】
評価を、アニオン性トラッシュ(anionic trash)をシミュレーションするために加えた2.75%リグノスルホン酸ナトリウムを有する350ccのカナダ標準ろ水度を有するリサイクルされた媒体(80%)および古新聞(20%)のブレンドを使用して、、シミュレーションしたリサイクルされたライナーボードの材料で行った。硬度およびアルカリ度は、それぞれ126ppmおよび200ppmだった。全ての添加物の添加量は、繊維の乾燥質量に基づいて質量パーセントで与えた。0.3%のカチオン性デントコーンデンプン(Sta-Lok 300、Tate & Lyle)を、サイジング剤を加える前に粘度が高いストックに加えた。他のウェットエンド添加剤は使用しなかった。ストックの温度を55℃に維持した。ヘッドボックスのpHを腐食剤で7.5に制御した。
【0037】
171g/sq m(105 lb/3000 ft2連)のシートを形成し、7つのドライヤーカン(dryer cans)上で7%の水分まで乾燥し(90℃のドライヤーカンの表面温度)、5-ニップ、6ロールのカレンダースタックの単独のニップを通過させた。HSTおよびCobbのサイジングを、CT室(50%のRH、25℃)で最低7日間自然にエージングした板紙の上で測定した。
【0038】
AKDエマルション: Hercon(登録商標) 100 サイジング剤、アルキルケテンダイマーのカチオン性デンプンで安定化されたエマルション(Hercules Incorporated、Wilmington DE)。この製品のpHの仕様は2.1〜4.2である。
【0039】
ポリビニルアミン1: 100%の加水分解度を通常有するポリ-N-ビニルホルムアミドの加水分解によって得られるカチオン性ポリマー。このポリマーは、ビニルアミン、アミジンおよびビニルホルムアミド官能基を含有する。Hercobond(登録商標) 6363としてHercules Incorporatedから入手可能(Hercules Incorporated、Wilmington DE)。
【0040】
ポリビニルアミン2: 50%の加水分解度を通常有するポリ-N-ビニルホルムアミドの加水分解によって得られるカチオン性ポリマー。このポリマーは、アミジン、ビニルアミンおよびビニルホルムアミド官能基を含有する。Hercobond(登録商標) 6350としてHercules Incorporatedから入手可能(Hercules Incorporated、Wilmington DE)。
【0041】
(実施例1)低いpHへのポリマーのpHの調整による、安定なブレンドの提供
ポリビニルアミン樹脂のpH調整:
35%のHClを、よく攪拌しながらゆっくりとポリビニルアミン1に加えた。HClを加えながら、pHをモニターした。HClの量を、対象とする所望のpHを得るために必要な量に調整した。pHが安定であることを確認するために、数時間後にpHを再チェックした。これは、対象とするpHを得るために、必要に応じて、さらなる酸またはより多くのポリマーを加えることによって調整した。
【0042】
ブレンドの調製:
pH調整されたポリビニルアミンを、攪拌しながらゆっくりとデンプンで安定化されたAKDのエマルションに加えた。アルキルケテンダイマーに基づいて12.5%のポリマーを提供するために十分な量のpH調整されたポリビニルアミンを加えた。
【0043】
これらのブレンドの物理的および化学的な安定性を、作成後、ならびに32℃のオーブン中で2および4週間エージングした後に、測定した。粘度を物理的な安定性の測定として使用した。粘度は、適切なスピンドルを使用して、60rpmでブルックフィールド粘度計で測定した。化学的な安定性を、エマルション中の活性ケテンダイマーの量を決定するためのIR法を使用して測定した。
【0044】
【表1】

【0045】
明らかに、pH3.3において、上記のPVAm(「ポリビニルアミン」)樹脂を含有するエマルションは、粘度が増加し、物理的安定性を失っている。pH5において、化学的安定性が劣っていた。PVAmは、ケテンダイマーと組み合わされる前に3.0未満に調整されることが好ましい。
【0046】
(実施例2) pH調整のための有機酸の使用
樹脂のpH調整およびブレンドの調製は、実施例1と同じであったが、塩酸をギ酸に置き換えた。
【0047】
【表2】

【0048】
塩酸と同様に、低いpHへのpH調整により物理的安定性が提供された。
【0049】
硫酸でPVAm樹脂のpHの調整を試みたが、樹脂は、約5のpH未満で、不安定で不均一な粘性のあるかたまりになった。
【0050】
(実施例3)
本発明のサイジング組成物のためのサイジング性能は、添加時にサイジング剤を有する樹脂を混合することにより作製されたブレンドに対して非常に優れる:
pH2.1に調整されたポリビニルアミン1を使用して、サイジング組成物を実施例1に記載されたとおりに調製し。このサイジング組成物を、1時間、5時間および24時間エージング後に、上に記載したパイロット抄紙機で評価した。これを、ポリマーを有さず、サイジング組成物中で使用されるアルキルケテンダイマーと同じ比率(ダイマーに基づいて12.5%)で添加時(T’d at addn pt)にポリマー加えたHercon 100サイジング剤と比較した。サイジングを、Hercules Sizing Test(Tappi method T 530)およびCobb test(Tappi method T 441)を使用して測定した。Hercules Sizing Testにおいて、より大きい数(より長い浸透時間)は、改善されたサイジング性能を示す。Cobb試験において、小さい数(より少ない水の吸収)は、改善されたサイジング性能を示す。結果を表3に示す。
【0051】
【表3】

【0052】
この実施例は、本発明のサイジング組成物の改良されたサイジング性能を示す。Weisgerberによる教示のとおり、AKDのエマルションへのPVAmの添加は、「PVAmなし」と「PVAm T’d at addn pt」とを比較すると、サイジング性能を改善する。しかし、本発明のエージングしたサイジング組成物により、「PVAm T’d at addn pt」と「実施例1」のいずれかのデータセットとを比較すると、同じ量のアルキルケテンダイマーおよびポリマーによりサイジングをより高いレベルに高めることができる。
【0053】
(実施例4)
サイジング組成物を、実施例1に記載したとおりに、ポリビニルアミン2を使用して調製し、ポリビニルアミンのpHを2.1に調整した。実施例4と表されるこの生成物を、サイジング組成物を数日間エージングした後に、上で記載したパイロット抄紙機で実施例1と比較した。結果を表4にまとめる。
【0054】
【表4】

【0055】
両方のポリビニルアミンは、より大きいHSTサイジング数およびより低いCobb数に反映されるとおり、サイジングにおける実質的な改善をもたらした。
【0056】
(実施例5)ポリビニルアミンに対するケテンダイマーの様々な比率
サイジング組成物を、実施例1のとおりに調製し、ダイマーに対するポリビニルアミンの比率を変化させた。全ての場合において、塩酸でpH2.1に調整したポリビニルアミン1を使用した。これらのサイジング組成物を、上で記載したパイロット抄紙機で評価した。調製した板紙に対するサイジング試験の結果を表5に示す。
【0057】
【表5】

【0058】
これらのデータで示されるとおり、ブレンド中のポリビニルアミンの量が増加すると、サイジング性能が改善するが、かなり少ない量のポリマーにおいて十分な増加が観察された。
【0059】
(実施例6)
サイジング組成物を、実施例1に記載したとおりに調製し、pH2.1に調整されたポリビニルアミン1を使用した。このサイジング組成物を、約1週間のエージング後に商業的な抄紙機で評価した。これを、アルキルケテンダイマーの改良されたエマルション(Hercules Incorporated、Wilmington DE)であるHercon 118サイジング剤と比較した。サイジングを、Cobb testを使用して測定した。結果を表6に示す。本発明のサイジング組成物は、現製品より24%少ない添加量で、サイジングの目標に達することができた。
【0060】
【表6】

【0061】
この実施例は、本発明の材料のために使用されるサイジングの量が、商業的な材料より約24%少ない一方、Cobbの結果の通常のレベルを維持することを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) ケテンダイマーの分散体、および
b) pH調整されたビニルアミン含有ポリマー
を含む紙サイジング組成物であって、前記pH調整されたビニルアミン含有ポリマーのpHが3.3未満であり、安定でありかつ改良されたサイジング効率を提供する、紙サイジング組成物。
【請求項2】
前記pH調整されたビニルアミン含有ポリマーのpHが3.0未満である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ビニルアミン含有ポリマーのpHが2.5未満である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ビニルアミン含有ポリマーのpHが2.1から2.5の間である、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記ケテンダイマーの分散体が、デンプンで安定化されたケテンダイマーの分散体である、請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
前記pH調整されたビニルアミン含有ポリマーのpHを調整するために使用される酸が、塩酸を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
1) ビニルアミン含有ポリマーのpHを約3.3未満に調整する工程、および
2) pH調整されたビニルアミン含有ポリマーを、ケテンダイマーの分散体とブレンドする工程
を含む、安定なサイジング組成物を調製する方法。
【請求項8】
前記ビニルアミン含有ポリマーとケテンダイマーのブレンドが、使用前に少なくとも1時間エージングされる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ビニルアミン含有ポリマーとケテンダイマーのブレンドが、使用前に少なくとも3時間エージングされる、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記ビニルアミン含有ポリマーのpHが3.0未満に調整される、請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記ビニルアミン含有ポリマーのpHが2.5未満に調整される、請求項7に記載の方法。
【請求項12】
前記ビニルアミン含有ポリマーのpHが2.1から2.5の間に調整される、請求項7に記載の方法。
【請求項13】
前記ケテンダイマーがアルキルケテンダイマーであり、前記アルキルケテンダイマーがC12〜C22直鎖飽和天然脂肪酸、オレイン酸、イソステアリン酸、またはこれらの混合物からなる群から調製される、請求項7に記載の方法。
【請求項14】
前記ビニルアミン含有ポリマーが、完全にまたは部分的に加水分解されたポリビニルホルムアミドを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項15】
前記完全にまたは部分的に加水分解されたポリビニルホルムアミドが、80から100%加水分解される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記完全にまたは部分的に加水分解されたポリビニルホルムアミドが、90から100%加水分解される、請求項14に記載の方法。
【請求項17】
前記ビニルアミン含有ポリマーが、ポリビニルアミンを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項18】
前記ケテンダイマーの分散体が、デンプンで安定化される、請求項7に記載の方法。
【請求項19】
1) ビニルアミン含有ポリマーのpHを約3.3未満に調整する工程、
2) pH調整されたビニルアミン含有ポリマーをケテンダイマーの分散体とブレンドする工程、
3) 前記ビニルアミン含有ポリマーと前記ケテンダイマーの分散体とのブレンドを、少なくとも1時間保持する工程、
4) 前記ビニルアミン含有ポリマーと前記ケテンダイマーの分散体とのブレンドを、パルプスラリーまたはサイズプレスに適用する工程
を含む、サイジング方法。
【請求項20】
前記ビニルアミン含有ポリマーのpHが2.5未満に調整される、請求項19に記載の方法。

【公表番号】特表2013−515176(P2013−515176A)
【公表日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−544880(P2012−544880)
【出願日】平成22年12月17日(2010.12.17)
【国際出願番号】PCT/US2010/060984
【国際公開番号】WO2011/075633
【国際公開日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(512118196)ハーキュリーズ・インコーポレーテッド (5)
【Fターム(参考)】