説明

紙ムケを抑制した塗工紙

【課題】高速輪転オフセット印刷機、特に印刷速度が1200rpm以上と高速の輪転オフセット印刷機を用いて印刷をしても、紙ムケ及びブリスターの発生が抑制され、印刷して得られる印刷物の見栄えが良くなり優れた仕上がりとなる印刷用塗工紙を提供すること。
【解決手段】基紙と、前記基紙上に、顔料と接着剤とを含有する塗工層を少なくとも2層有する塗工紙であって、前記基紙に接する下塗り塗工層の顔料がクレー及び/又は炭酸カルシウムを含有し、前記下塗り塗工層の顔料が、0.1μmごとに集計した面積粒子径の分布において、0.8μm以上1.3μm未満及び1.3μm以上2.2μm未満のそれぞれの範囲に極大値を有する粒子径分布を持つ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗工紙に関する。さらに詳しくは、オフセット印刷において紙ムケの発生を抑制し、かつ白色度が高く、印刷物の見栄えが良い印刷用塗工紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷機の高速化に伴い、オフセット輪転印刷機では印刷インキに塗工紙表面が取られて塗工層が剥離する紙ムケトラブルが発生しやすい状態になっている。紙ムケは主に、塗工層内部や塗工層と基紙との間、基紙内部において、塗工層の一部が塗工紙から剥離することで発生する。この剥離は、特に印刷機から供給される湿し水を塗工紙が吸収し、塗工紙表面の表面強度が低下することで発生し易い状態となる。このような紙ムケの発生を抑止するため種々の提案がなされている。
【0003】
例えば、顔料としてカオリンを用い、接着剤であるラテックスの粒子径を規定する技術(特許文献1を参照)や、下塗り塗工層に炭酸カルシウム及び接着剤として特定のポリビニルアルコールを用いる技術(特許文献2を参照)、原紙に特定形状の炭酸カルシウムと、上塗り及び下塗り塗工層に特定性状のラテックスを含有させる技術(特許文献3を参照)、上塗り塗工層のラテックスに特徴を持たせた技術(特許文献4を参照)、特定形状の湿潤紙力増強剤を含有させる技術(特許文献5を参照)、下塗り塗工層に特定の紙力増強剤を含有させる技術(特許文献6を参照)が提案されている。
【0004】
上記技術により紙ムケの発生をある程度低減できるものの、近年の高速輪転オフセット印刷においては、印刷速度(ブランケット胴の回転速度)が従来の600〜800rpm程度から1200rpm以上と高速化しており、これに従い、印刷機のブランケット胴から紙にインキが転写した後に、塗工紙からインキが急激に剥離されることにより塗工層の一部がインキと共にブランケット胴側に取られて、印刷物に紙ムケと呼ばれる印刷欠陥が発生しやすい状態となっている。また、印刷後の乾燥温度も、従来は紙面温度105〜110℃前後であったものが、120〜130℃と高くなり、基紙中の水分が蒸発する際に発生する火ぶくれ(ブリスター)欠陥が発生し易くなる問題が発生している。このため、上記技術を用いても充分に紙ムケ及びブリスターを抑制することができず、要求されているほど高レベルで見栄えの良い印刷物が得られないとの問題があった。
【特許文献1】特開平10−140498号公報
【特許文献2】特開平11−279991号公報
【特許文献3】特開平11−279992号公報
【特許文献4】特開2000−265396公報
【特許文献5】特開2003−286685号公報
【特許文献6】特開2000−282395公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、高速輪転オフセット印刷機、特に印刷速度が1200rpm以上と高速の輪転オフセット印刷機を用いて印刷をしても、紙ムケ及びブリスターの発生が抑制され、印刷して得られる印刷物の見栄えが良くなり優れた仕上がりとなる印刷用塗工紙を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者が、前記課題を解決すべく検討した結果、塗工層を少なくとも2層有する塗工紙において、下塗り塗工層で使用する顔料の種類及び粒子径分布を限定することで、紙ムケ及びブリスターの発生が抑制されることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の塗工紙は、基紙と、前記基紙上に、顔料と接着剤とを含有する塗工層を少なくとも2層有する塗工紙であって、前記基紙に接する下塗り塗工層の顔料がクレー及び/又は炭酸カルシウムを含有し、前記下塗り塗工層の顔料が、0.1μmごとに集計した面積粒子径の分布において、0.8μm以上1.3μm未満及び1.3μm以上2.2μm未満のそれぞれの範囲に極大値を有する粒子径分布を持つことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塗工紙は、高速輪転オフセット印刷機、特に印刷速度が1200rpm以上と高速の輪転オフセット印刷機を用いて印刷をしても、紙ムケ及びブリスターの発生が抑制され、かつ白色度が高く、印刷して得られる印刷物の見栄えが良くなり優れた仕上がりとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明は、基紙と、前記基紙上に顔料及び接着剤を含有する塗工層を少なくとも2層有する塗工紙であって、前記基紙に接する下塗り塗工層の顔料がクレー及び/又は炭酸カルシウムを含有し、かつ、前記下塗り塗工層の顔料が、0.1μmごとに集計した面積粒子径の分布において、0.8μm以上1.3μm未満及び1.3μm以上2.2μm未満のそれぞれの範囲に極大値を有する粒子径分布を持つことを特徴とする塗工紙である。
【0010】
<抄紙>
まず、本実施形態に係る塗工紙を構成する基紙について説明する。
【0011】
基紙は、通常の原料パルプを抄紙して得られるものであればよい。該原料パルプにも特に限定がなく、例えば未晒針葉樹パルプ(NUKP)、未晒広葉樹パルプ(LUKP)、晒針葉樹パルプ(NBKP)、晒広葉樹パルプ(LBKP)等の化学パルプ;ストーングランドパルプ(SGP)、加圧ストーングランドパルプ(PGW)、リファイナーグランドパルプ(RGP)、ケミグランドパルプ(CGP)、サーモグランドパルプ(TGP)、グランドパルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、リファイナーメカニカルパルプ(RMP)等の機械パルプ;雑誌古紙、チラシ古紙、オフィス古紙等から製造される離解・脱墨古紙パルプ、離解・脱墨・漂白古紙パルプ等の古紙パルプ等があげられ、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択し、その割合を調整して用いることができる。
【0012】
上記原料パルプに、内添の填料として従来製紙用途で用られている填料を添加することができる。填料としては、例えば軽質炭酸カルシウム、タルク、二酸化チタン、クレー、焼成クレー、合成ゼオライト、シリカ等の無機填料や、ポリスチレンラテックス、尿素ホルマリン樹脂等が挙げられる。填料の配合量は特に限定されないが、紙中灰分で8質量%以下となるよう添加することが好ましく、6質量%以下がより好ましい。紙中灰分が8質量%を超過すると、パルプ同士の水素結合が阻害され易いため内部強度の無い紙となり、印刷時の紙ムケが発生し易くなるため好ましくない。内添の灰分を低下させると、内部強度は向上する傾向にあるが、塗工紙の不透明性が低下するため、印画部が裏抜けする可能性があり、見栄えの悪い塗工紙となる可能性がある。尚、本発明の灰分とは、JISP8251「紙、板紙及びパルプ−灰分試験方法−525℃燃焼法」に準じて測定した値とする。
【0013】
上記原料パルプには、内添サイズ剤を添加することが好ましい。本発明においては、湿し水の吸収を抑えて印刷時の紙ムケを防止するために、内添サイズ剤を添加し基紙のサイズ度を高めることが好ましい。
【0014】
本実施形態においては、前記内添サイズ剤以外にも、該原料パルプに、例えば紙力向上剤、紙厚向上剤、歩留向上剤(各種合成高分子や澱粉類等の水溶性高分子)、及びこれらの定着剤等の、通常塗工紙の基紙に配合される種々の添加剤を、その種類及び配合量を適宜調整して内添することができる。
【0015】
前記のごとき抄紙原料をワイヤーパートにて抄紙し、次いでプレスパート、プレドライヤーパートに供して基紙を製造することができ、次いでコーターパートにて後述する塗工液を基紙上に塗工した後、アフタードライヤーパート、カレンダーパート、リールパート、ワインダーパート等に供して目的とする塗工紙を得ることができる。
【0016】
尚、後述する上塗り塗工層においてクレーを含有する塗工液を上塗り塗工した場合、高白色度の塗工紙が得られにくい。そのため、目的とする塗工紙の白色度をより向上させるには、基紙の白色度は、カラーアナライザー(型番:カラーi5、マクベスグレタグ社製)にて測定して70%以上、さらには75%以上であることが好ましい。このような基紙から印刷用塗工紙を製造した場合、後述するように、白色度を例えば80%以上とすることが可能になる。そして、このような白色度が80%以上の印刷用塗工紙を用いると、白色度が80%未満の印刷用塗工紙と比べて、例えばより高精彩で、コントラストの高い高級印刷物が得られる。
【0017】
基紙の坪量に特に限定はないが、後述するように、目的とする塗工紙の坪量が好ましくは40〜100g/mであることを考慮して、該基紙の坪量は、通常20〜70g/m程度となるように調整することが好ましい。
【0018】
<下塗り塗工>
基紙には、後述する上塗り塗工層を設ける前に、顔料及び接着剤を主成分とする下塗り塗工層を設ける。
【0019】
(顔料)
下塗り塗工層には、炭酸カルシウム及び/又はクレーを含有することが必須である。炭酸カルシウム又はクレーのいずれをも含まない場合は、十分な表面強度が得られず、例えば1200rpm以上の高速のオフセット印刷を行った場合、紙ムケが発生する問題が発生する。
【0020】
炭酸カルシウムを使用した場合、顔料が不定形であり塗工層が密に詰まりやすく、塗工層内部から塗工層の一部が剥離する紙ムケの発生を防止しやすいため好ましい。また炭酸カルシウムは白色度が高いため、得られる塗工紙の白色度が向上し易くなる。炭酸カルシウムとしては、例えば白色結晶質石灰石を乾式粉砕又は湿式粉砕した、5μm程度以下の平均面積粒子径を有するものが挙げられる。
【0021】
クレーを使用した場合は、下塗り塗工後の平坦性が向上でき、湿し水が基紙にまで浸透しにくくなるため、湿し水の吸収による基紙内部の層間強度低下を防止し易く、基紙の一部と共に塗工層の一部が剥離する紙ムケの発生を効果的に抑制できるため好ましい。
【0022】
上記下塗り塗工層に含まれる炭酸カルシウム及びクレーは、その粒子径分布を規定することで、本発明の紙ムケ防止の効果が得られる。粒子径分布は、0.1μmごとに集計した面積粒子径の分布において、0.8μm以上1.3μm未満及び1.3μm以上2.2μm未満のそれぞれの範囲に極大値を有する必要があり、当該構成にすることで、例えば印刷速度1200rpm以上の高速オフセット印刷機においても、十分に紙ムケを防止することができる。
【0023】
面積粒子径の分布において0.8μm以上1.3μm未満及び1.3μm以上2.2μm未満のそれぞれの範囲に極大値を有する顔料を併用すると、顔料がより密に詰まりやすくなり、より空隙が少なく密度の高い下塗り塗工層が得られる。これにより湿し水が下塗り塗工層を通過しにくく原紙にまで到達しにくくなり、湿し水を吸水しにくくなるため、印刷時に下塗り塗工層の一部が剥離したり、基紙と下塗り塗工層との間から下塗り塗工層が剥離したり、基紙内部から塗工層の一部が剥離する、紙ムケトラブルを低減することができる。
【0024】
尚、本発明で言う面積粒子径は、電子顕微鏡で撮影した顔料粒子について、粒子を内包できる最小の円(粒子の外接円)の直径とした。極大値は、面積粒子径0.1μmごとに顔料粒子の数を集計して粒子径分布を求め、極大値の有無を判断した。
【0025】
下塗り塗工層の顔料として、特定の面積粒子径範囲を有する炭酸カルシウム及びクレーを使用し、好ましくはプレカレンダーで平坦化処理することで、後述するとおり下塗り塗工層表面の平滑性を向上することができる。これにより、上塗り塗工層を通過して来た湿し水を、下塗り塗工層より深部に浸透することを防止でき、特に基紙にまで浸透させないことにより、印刷時の紙ムケを更に抑制することができる。
【0026】
特に顔料粒子として、平均面積粒子径の異なる2種類の炭酸カルシウムを用いた場合はクレーを用いた場合よりも塗工層が密であり紙ムケの発生を防止しやすく、紙ムケ及び耐ブリスター性のいずれも高くなり、かつ、得られる塗工紙の白色度が87%以上と高くなるため、特に好ましい。但し、上塗り塗工後の表面の平坦性が低くなり、印刷適性が低下しやすいため、下塗り塗工層に平均面積粒子径の異なる2種類の炭酸カルシウムを用いた場合は、後述する上塗り塗工層において、印刷適性を向上することができるクレーを配合することが好ましい。
【0027】
クレーの種類としては、カオリン、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、アンチゴライト、クリソタイル、パイロフィライト、モンモリロナイト、ヘクトライト、テトラシリリックマイカ、ナトリウムテニオライト、マーガライト、タルク、バーミキュライト、ザンソフィライト、緑泥石等が挙げられるが、なかでもカオリンクレーが好ましい。
【0028】
下塗り塗工層では、炭酸カルシウム、クレー以外にも、製紙用途に一般的に使用されている顔料を併用することができる。そのような顔料としては、例えば二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化珪素、非晶質シリカ、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化アルミニウム、アルミナ、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化亜鉛等が挙げられ、必要に応じて1種類以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
上記のごとく、下塗り塗工層の顔料として炭酸カルシウム及び/又はクレーを用い、顔料を0.1μmごとに集計した面積粒子径の分布において、0.8μm以上1.3μm未満及び1.3μm以上2.2μm未満のそれぞれの範囲に極大値を有する構成とすることで、紙ムケを防止した塗工紙を得ることができる。特に印刷速度が1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷機においては、上記のとおり極大値を有することで、紙ムケ及びブリスターの発生を効果的に防止することができる。
【0030】
(接着剤)
下塗り塗工層の接着剤としては、一般的に製紙用途で使用できる接着剤を使用することができる。例えばカゼイン、大豆蛋白等の蛋白質類;メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体ラテックス、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス等の共役ジエン系ラテックス、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体ラテックスもしくは共重合体ラテックス等のアクリル系ラテックス、エチレン−酢酸ビニル重合体ラテックス等のビニル系ラテックス、あるいはこれらの各種共重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ部分溶解性又は非溶解性のラテックス等のラテックス類;ポリビニルアルコール、オレフィン−無水マレイン酸樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂等の合成樹脂系接着剤;酸化澱粉、陽性化澱粉、エステル化澱粉、デキストリン等の澱粉類;カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース誘導体等の、通常塗工紙に用いられる接着剤が例示され、これらの中から1種又は2種以上を適宜選択して併用することができる。
【0031】
下塗り塗工層の接着剤としては、上記接着剤の中でも特にスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスが接着性と熱安定性が高いため好ましい。スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスは、少なくともスチレンとブタジエンを共重合して得られるラテックスであり、スチレンとブタジエンに加えて、メタクリル酸メチルとアクリロニトリルを共重合して得られるスチレン−ブタジエン−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合体ラテックスがより好ましい。特に、ラテックス中のスチレン成分が40〜60質量%、ブタジエン成分が25〜45質量%、メタクリル酸メチル成分が5〜15質量%、アクリロニトリル成分が1〜10質量%であると、接着性が高く、紙ムケ及びブリスターが発生しにくいため好ましい。特に1200rpm以上の高速オフセット輪転印刷機では、乾燥時の紙面温度が120℃前後まで高くなるため、熱安定性の良いスチレンを多く配合することで下塗り塗工層の熱安定性を向上でき、耐ブリスター性を向上することができる。スチレン成分が40質量%を下回ると充分な耐ブリスター性が得られず、60質量%を超過すると、ブタジエン成分由来の接着性が低下しやすく、顔料を充分に固定できず紙ムケが発生し易くなるため好ましくない。接着性はブタジエン成分を増加させることで得られるため、ブタジエン成分が25質量%を下回ると紙ムケを防止しにくく、45質量%を超過すると、塗工層が柔らかくなり過ぎて耐ブリスター性が低下するため好ましくない。
【0032】
また、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスの平均粒子径は150〜210nmと大きいと、印刷後の乾燥段階において、基紙から水蒸気が抜けやすく、耐ブリスター性が向上できる。特に本発明のごとく小粒子径の顔料を下塗り塗工層に使用し、密度の高い下塗り塗工層を形成すると、基紙から水蒸気が抜けにくいため、上述の範囲の粒子径のラテックスを用い、耐ブリスター性の低下を防止することが好ましい。平均粒子径が150nmを下回ると耐ブリスター性に劣り、210nmを超過すると充分な塗工層強度が得られず紙ムケが発生し易くなるため好ましくない。また、スチレン−ブタジエン共重合体ラテックスのゲル含量を30〜60質量%と低くすることで、耐ブリスター性の低下を防止できるだけでなく、顔料との接着性が高くなり、紙ムケ防止の効果も得られるため好ましい。ゲル含量が30質量%を下回ると、充分な塗工層強度が得られず、下塗り塗工層内部で剥離して紙ムケが発生しやすくなり、60質量%を超過すると、湿し水により塗工層内部での剥離が発生しやすいだけでなく、ブリスターも発生し易くなるため好ましくない。ラテックスのガラス転移温度は−20〜10℃であれば、塗工層の熱安定性を向上でき、印刷後の乾燥時に、紙面温度が120〜130℃と高くてもブリスターの発生を低減できるため好ましい。
【0033】
下塗り塗工液における顔料と接着剤との配合割合は、下塗り塗工層の顔料100質量部に対して接着剤が4〜12質量部であることが好ましく、さらには6〜10質量部がより好ましい。接着剤の配合量が4質量部未満では、顔料を固定することができず、塗工層の内部強度が低下しやすく、紙ムケが発生しやすいため、好ましくない。接着剤の配合量が12質量部を超過すると、下塗り塗工層中の空隙率が低下しやすく、紙ムケが発生しやすいため好ましくない。
【0034】
下塗り塗工液は、抄紙工程中のサイズプレス工程で公知の種々の方式により塗工されることができるが、特にフィルム転写方式により塗工されることが好ましい。フィルム転写方式は、塗工塗料をロールに塗工した後に、塗料を紙に転写する方式のため、基紙表面に均一な塗工層を形成できることから、均一で良好な表面強度が得られるため好ましい。例えばツーロールサイズプレスのように塗工液の液溜りを形成し塗工する方式では、粒径の小さい顔料が基紙内部にまで入り込みやすい一方、粒径の大きい顔料が塗工層の表面に留まり、密な塗工層が得られにくい。また、ブレード塗工方式の場合は、均一な厚さの塗工層が得られないため、塗工層の薄い部分から湿し水が浸透し易く、基紙内部の層間剥離に起因する紙ムケが抑制し難い。
【0035】
下塗り塗工液の濃度は特に限定されず、塗工量が好ましくは片面あたり4〜10g/m、より好ましくは5〜6g/mの範囲となるように、適宜調整すれば良い。例えば、濃度が60〜70質量%であれば良く、62〜68質量%であれば、上記塗工量範囲で、より均一な塗工ができるため好ましい。濃度が60質量%を下回ると、基紙に塗工液中の水分が吸液されやすく、紙の引張強度が低下して下塗り塗工時に断紙しやすくなる。濃度が70質量%を超過すると、均一な塗工が得られにくく、手肉感が低下するだけでなく、下塗り塗工後の平坦性、ひいては上塗り塗工後の印刷適性が低下するため好ましくない。
【0036】
下塗り塗工層は、塗工量が、固形分付着量で片面あたり、好ましくは4〜10g/m、より好ましくは5〜6g/mとなるように塗工される。固形分付着量が4g/m未満であると均一な塗工性や十分な被覆性が得られにくく、湿し水の基紙への吸収を充分に防止できないだけでなく、基紙を平坦化しにくく、上塗り塗工後の印刷適性が低下する。仮に下塗り塗工量を4g/m未満として上塗り塗工量を増加させ、均一な塗工性や充分な被覆性を得ようとすると、塗工量を過大に増加する必要があり、上塗り塗工層の内部強度が低下しやすく、紙ムケが発生しやすくなるため好ましくない。これは、下塗り塗工量が10g/mを超えても同様である。
【0037】
<プレカレンダー>
下塗り塗工後の塗工原紙は、上塗り塗工(顔料塗工)を行う前に、プレカレンダーによる平坦化処理を行うと、下塗り塗工層の密度を向上させやすいため好ましい。プレカレンダーは、金属ロールと弾性ロールを組み合わせたソフトカレンダーが、密度の向上効果が高いため好ましい。プレカレンダーは、1段又は必要に応じ2段以上の組合せで行うこともできる。プレカレンダーの線圧は、好ましくは10〜80kN/mであり、より好ましくは10〜50kN/mである。10kN/m未満であると、下塗り塗工層の密度が向上しにくく、また、80kN/mを超過すると、必要以上に原紙を圧迫するため、下塗り塗工層内部で層間剥離が発生し易く、紙ムケ防止の効果に劣るため好ましくない。
【0038】
<上塗り塗工>
下塗り塗工を行い、好ましくはプレカレンダーで平坦化を行なった基紙上に、顔料及び接着剤を主成分とする上塗り塗工層を設ける。
【0039】
(顔料)
上塗り塗工層における顔料は特に限定されず、一般に製紙用途に使用できるものを使用することができる。具体的には、上述した下塗り塗工層の顔料を、適宜使用することができる。
【0040】
顔料の中でもカオリンクレーを用いると、より紙ムケの発生が低下しやすいため好ましい。カオリンクレーは板状顔料のため、塗工層表面を広く覆い、湿し水の吸収を抑制しやすく、上塗り塗工層内部の層間剥離や、上塗り塗工層と下塗り塗工層の間の層間剥離、下塗り塗工層内部の層間剥離、下塗り塗工層と基紙との層間剥離、基紙内部の層間剥離に起因する紙ムケを防止しやすいため好ましい。また、カオリンクレーを用いると、塗工紙の光沢度及び平滑性が向上し易く、印刷適性がより良好となるので好ましい。本発明の好適な態様の如く、下塗り塗工層に印刷適性の低い炭酸カルシウムを用いた場合、特に平均面積粒子径の異なる2種類の炭酸カルシウムを用いた場合は、上塗り塗工液にカオリンクレーを配合することで、印刷適性が向上しやすくなる。
【0041】
カオリンクレーは、従来一般に製紙用途で使用するものを使用できる。例えば大粒径クレー、微粒クレー、焼成クレー、高白色クレー等が挙げられる。この中でも面積粒子径0.5〜2.0μmの粒子が全体の80〜100質量%、より好ましくは85〜95質量%を占めるカオリンクレーを用いると、上塗り塗工層のカバーリングが良いため、低塗工量とすることができ、上塗り塗工層の表面強度を低下させにくく、紙ムケを抑制しやすいため好ましい。0.5μm未満の粒子が全体の80質量%以上を占めると、細孔が多くなるため吸液量が多くなり、湿し水が下塗り塗工層に浸透し易く、紙ムケが発生しやすくなる。2.0μmを超過する粒子が全体の80質量%以上を占めると、上塗り塗工層表面の平坦性が低下するため、良好な印刷適性が得られ難くなる。
【0042】
上塗り塗工層におけるカオリンクレーの配合量は、上塗り塗工層に配合される顔料の全量に対して30〜70質量%とすることが好ましい。30質量%を下回ると、白紙光沢及び印刷光沢に劣るため好ましくない。また、塗工層に空隙が多くなるため湿し水の吸収量が増加し、紙ムケの発生を抑制しにくく、加えて、充分な印刷適性も得ることができない。70質量%を超過すると、白色度が低下するため、見栄えに劣る塗工紙となる可能性がある。
【0043】
上塗り塗工層における顔料として、カオリンクレーとともに、白色度が高い炭酸カルシウムを用いることで、紙ムケの発生を防止することができる。炭酸カルシウムとしては、面積粒子径0.2〜1.0μmの粒子が全体の80〜100質量%、好ましくは85〜95質量%を占めるものを用いる。0.2μm未満の粒子が多く、面積粒子径0.2〜1.0μmの粒子が全顔料の80質量%を下回ると、細孔が多くなるため吸液量が多くなり、湿し水が下塗り塗工層にきわめて浸透し易くなり、紙ムケが発生しやすくなる。1.0μm以上の粒子が多く、面積粒子径0.2〜1.0μmの粒子が全顔料の80質量%を下回ると、上塗り塗工層表面の平坦性が著しく低下するため、良好な印刷適性を得ることができない。
【0044】
炭酸カルシウムは白色度が高く、得られる塗工紙の白色度を向上させ易いが、塗工後の表面性が低下し、印刷適性に劣るため、カオリンクレーと併用して用いることが好ましい。この場合、炭酸カルシウムの配合量としては、上塗り塗工層に配合される顔料の全量に対して30〜70質量%とすることが好ましい。
【0045】
塗工紙の白色度は、その用途に応じて多少異なるが、印刷物、記録物として充分に満足な美観を得るという観点から、カラーアナライザー(型番:i5、マクベスグレタグ社製)にて測定して83%以上、さらには85%以上であることが好ましい。炭酸カルシウムの配合量を上記のとおり30〜70質量%とすることで、白色度が良好でありながら、紙ムケの発生を抑制した塗工紙が得られるため好ましい。
【0046】
上記構成の上塗り塗工層、つまり面積粒子径0.5〜2.0μmの粒子が80〜100質量%を占めるカオリンクレーを、顔料全体の30〜70質量部、及び、面積粒子径0.2〜1.0μmの粒子が80〜100質量%を占める炭酸カルシウムを、顔料全体の30〜70質量部配合する上塗り塗工層を、上述した下塗り塗工層、つまり、炭酸カルシウム及びカオリンクレーを含有し、極大値を2つ有する粒子径分布となる下塗り塗工層の上に設けると、印刷適性を良好に保ちつつ、充分に紙ムケを抑制できる塗工紙が得られる。加えて、前記下塗り塗工層に用いる接着剤が、スチレン−ブタジエン−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合体ラテックスであり、その成分を、スチレン成分40〜60質量%、ブタジエン成分が25〜45質量%、メタクリル酸メチル成分が5〜15質量%、アクリロニトリル成分が1〜10質量%とすることで、紙ムケのみならず、更にブリスターをも充分に低減できるため好ましい。
【0047】
上塗り塗工層に用いる接着剤としては、下塗り塗工層と同じ物を用いることができるが、耐ブリスター性が高く、紙ムケを効果的に防止できるスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスを用いることが好ましく、スチレン−ブタジエン−メタクリル酸メチル−アクリロニトリル共重合体ラテックスを用いることがより好ましい。さらに好ましくは、上塗り塗工層に用いるラテックスは、ブタジエン成分が35〜60質量%、更には40〜55質量%であれば、下塗り塗工層の顔料との接着性が高くなり、下塗り塗工層及び上塗り塗工層間の接着性が向上し、紙ムケを防止しやすいため好ましい。特に本発明のごとく、下塗り塗工層の顔料の分子量分布において、極大値を2つ持つ場合は、下塗り塗工層が密に詰まっていることから下塗り塗工層の表面が平坦化しやすく、下塗り塗工層表面に上塗り塗工層が接着しにくい傾向にあり、下塗り塗工層及び上塗り塗工層の間で層間剥離が発生して紙ムケとなりやすい。ブタジエン成分が35質量%を下回ると、下塗り塗工層と上塗り塗工層の接着性が低下するため紙ムケが発生し易く、60質量%を超過すると、塗工層が柔らかくなり過ぎて耐ブリスター性に劣るため好ましくない。このため、ブタジエン成分を上述の範囲にすることが好ましい。つまり、上塗り塗工層に用いるラテックスのブタジエン成分は、下塗り塗工層に用いるブタジエン成分よりも、5質量%、更には10質量%多いと、紙ムケを効果的に防止しやすいため好ましい。上塗り塗工層に用いるブタジエン成分が、下塗り塗工層に用いるブタジエン成分に比べて25質量%超であると、耐ブリスター性が低下するため好ましくない。
【0048】
また、上塗り塗工層に用いるラテックスのスチレン成分は、10〜50質量%、更には15〜35質量%であることが好ましい。つまり、上塗り塗工層のスチレン成分が、下塗り塗工層のスチレン成分に比べて、5質量%以上、更には10質量%以上、特に15質量%以上少ないと、上述のとおり紙ムケを防止しやすいため好ましい。上塗り塗工層のスチレン成分が、下塗り塗工層のスチレン成分に比べて40質量%超少ないと、充分な表面強度が得られないため紙ムケが発生するため好ましくない。
【0049】
また、本発明では湿し水の吸収性を低減させるため、上塗り塗工層にカオリンクレーを含有させることが好ましいが、70質量部以上では白色度が低下するため、白色度の高い顔料である炭酸カルシウムを含有することが好ましく、このような条件においては、インキ着肉性が高い一方、インキセットが早く、印刷光沢が低下しやすい。このため、上塗り塗工層に用いるラテックスは、着肉性を向上させるメタクリル酸メチル成分は少なく、印刷光沢を向上させるアクリロニトリル成分が多いことが好ましい。具体的には、上塗り塗工層に用いるラテックスに含まれるメタクリル酸メチル成分は、1〜10質量%が好ましく、3〜8質量%がより好ましい。アクリロニトリル成分は5〜29質量%が好ましく、10〜27質量%がより好ましい。
【0050】
また、上塗り塗工層に用いるラテックスの平均粒子径は、下塗り塗工層のラテックスの平均粒子径に対して0.7倍以下、更には0.5倍以下であると、顔料とラテックスの接点が多く接着力が強いため、紙ムケが発生しにくいだけでなく、高い印刷光沢が得られるため好ましい。特に本発明のごとく、下塗り塗工層が密であり、下塗り塗工層と上塗り塗工層の間から剥離して紙ムケが発生しやすい場合においては、上塗り塗工層に強い接着強度を有するラテックスを使用することが好ましい。同様に、上塗り塗工層に用いるラテックスのゲル含量は、下塗り塗工層に用いるラテックスのゲル含量に対して1.7倍以上、更には2.0倍以上であると強い接着強度が得られ、下塗り塗工層及び上塗り塗工層の間の層間剥離が発生しにくく、紙ムケを防止しやすいため好ましい。
【0051】
上塗り塗工液における顔料と接着剤との配合割合は、上塗り塗工層の顔料100質量部に対して接着剤が4〜10質量部であることが好ましく、さらには6〜8質量部となるように調整することがより好ましい。接着剤の配合量が4質量部未満では、スーパーカレンダー等で平坦化処理を行う場合に塗工層が金属ロールに取られるロール汚れが発生しやすいため好ましくない。逆に接着剤の配合量が10質量部を超過すると、塗工層中で接着剤が成膜し、塗工層表面の平滑性が低下し、印刷時に紙ムケが発生し易くなるため好ましくない。
【0052】
本実施形態にて用いる上塗り塗工液には、顔料及び接着剤以外にも、例えば、ダスト防止剤、蛍光染料、蛍光染料増白剤、消泡剤、離型剤、着色剤、保水剤等、製紙用途で一般に用いられる各種助剤を、本発明の目的を阻害しない範囲で適宜配合することができる。
【0053】
上塗り塗工液を調製する方法には特に限定がなく、顔料、接着剤、ダスト防止剤や、必要に応じて各種助剤等の配合割合を適宜調整し、適切な温度にて均一な組成となるように撹拌混合すればよい。また上塗り塗工液の固形分濃度は特に限定されるものではなく、塗工装置や塗工量に応じて、例えば60〜75質量%程度に調整することが好ましい。
【0054】
上塗り塗工層は、固形分付着量で基紙片面あたり6〜10g/mの塗工量で基紙の両面に塗工することが好ましく、更には7〜9g/mであることがより好ましい。塗工量が片面あたり6g/m未満では、塗工層が充分に平坦化されず、湿し水が下塗り塗工層及び基紙にまで浸透しやすく、紙ムケが発生し易くなるため好ましくない。10g/mを超過すると、湿し水の浸透は低下するが、塗工層の内部強度が低下するため、紙ムケの発生を充分に抑制し難くなる。
【0055】
前記のごとく形成された上塗り塗工層には、印刷適性をさらに向上させる目的で、スーパーカレンダーやソフトカレンダー等、弾性ロールと金属ロールとを組み合わせた平坦化設備にて平坦化処理を施すことができる。このような平坦化設備は、従来のマシンカレンダーとは異なり、用紙表面を幅広の面で、高温で処理することで、基紙の密度や塗工層の密度を過度に高めることなく平坦化が可能であり、例えばオフセット印刷、電子写真印刷等において好適な印刷面を形成させることができる。中でも、マルチニップカレンダー、より望ましくは6段、8段、10段のマルチニップカレンダーが、ニップ圧を調整しやいため好ましい。特に、下塗り塗工層に2種類の炭酸カルシウムを併用する場合や、上塗り塗工層に炭酸カルシウムを含有する場合、カオリンクレーに比べて白紙光沢度が得られにくいため、適宜線圧を調整できるマルチニップカレンダーを用いると、他のカレンダー設備に比して白紙光沢度が向上しやすいため、特に好ましい。
【0056】
また、カレンダーの設置場所としては、抄紙機及び塗工機と一体になったオンマシンタイプが好ましい。オンマシンタイプでは、塗工後すぐ、紙面温度が高い状態で平坦化処理できるため、白紙光沢度が向上しやすく、紙ムケの発生を防止しつつ、高い白紙光沢度が得られるため好ましい。
【0057】
各種カレンダー設備を用いた平坦化処理の線圧や温度、速度は特に限定されないが、処理後の塗工層の平滑性を充分に向上させつつ、手肉感が良好となるには、例えば線圧は100〜300kN/m、金属ロール温度は100〜200℃、速度は1,000〜2,000m/分となるように調整することが好ましい。
【0058】
かくして得られる塗工紙の坪量は、印刷適性、手肉感の確保という点から、JISP8124「坪量測定方法」に記載の方法に準拠して測定して、30〜100g/mであることが好ましく、さらには50g/m〜80g/mであることが好ましい。坪量が30g/m未満の場合、例えば印刷適性を確保しながら、同時に紙質強度を確保することが困難となる恐れがあり、坪量が100g/mを超える場合には、近年要求されてきている軽量化や省資源化を達成することが困難となる恐れがある。
【0059】
本発明のごとく、基紙に接する下塗り塗工層と、当該下塗り塗工層上に形成された上塗り塗工層とから構成された2層からなり、下塗り塗工層の顔料として炭酸カルシウム及び/又はクレーを含有し、前記基紙に接する下塗り塗工層の顔料が、0.1μmごとに集計した面積粒子径の分布において、0.8〜1.3μm及び1.3〜2.2μmのそれぞれの範囲に極大値を有する粒子径分布を持つことで、紙ムケを防止することができる。
【0060】
更に、前記接着剤がスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスであり、前記上塗り塗工層に用いるスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスのブタジエン成分が35〜60質量%であると、上述の粒子径分布を有する下塗り塗工層であっても、上塗り塗工層との接着性が向上し、紙ムケを防止しやすいため好ましい。加えて、上塗り塗工層に用いるラテックスのスチレン成分が、下塗り塗工層に用いるスチレン成分に比べて、10質量%以上少なく、更には15質量%以上少ないと、更に紙ムケを防止できる。
【0061】
また、充分な印刷光沢を得るためには、上塗り塗工層に用いるラテックスに含まれるメタクリル酸メチル成分は、1〜10質量%が好ましく、3〜8質量%がより好ましく、アクリロニトリル成分は5〜29質量%が好ましく、10〜27質量%がより好ましい。
【0062】
加えて、更に紙ムケを防止するためには、前記上塗り塗工層のラテックスが、下塗り塗工層のラテックスと比べ、粒子径が0.7倍以下、更には0.5倍以下であることが好ましく、ゲル含有量は1.7倍以上、更には2.0倍以上であることが好ましい。更に、下塗り塗工層を塗工した後にプレカレンダーで平坦化処理することで、下塗り塗工層表面の平滑性を向上できるため、湿し水の吸収性を低減でき、紙ムケの発生を抑制しやすいため好ましい。特に印刷速度が1200rpm以上の高速輪転オフセット印刷機で印刷する場合においては、インキが紙面から剥離する際に紙面が取られやすく、より紙ムケが発生しやすいが、塗工紙を上記構成とすることで、高速オフセット輪転印刷機においても紙ムケを効果的に抑制できる。
【実施例】
【0063】
次に、本発明の塗工紙を以下の実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0064】
実施例及び比較例
表1及び2に示す種類及び割合で、下塗り塗工及び上塗り塗工を行い、塗工紙を得た。用いた顔料、原料および薬品は以下のとおりである。
【0065】
(1)下塗り塗工
(顔料)
・炭酸カルシウム
スーパー4S:重質炭酸カルシウム(品番:スーパー4S:丸尾カルシウム社製、面積粒子径:2.42μm)
炭カル#60:重質炭酸カルシウム(品番:ハイドロカーブ60、オミヤコーリア社製、面積粒子径:2.13μm)
炭カル#75:重質炭酸カルシウム(品番:ハイドロカーブ75、オミヤコーリア社製、面積粒子径:1.59μm)
スーパー:重質炭酸カルシウム(品番:スーパー#2300:丸尾カルシウム社製、面積粒子径:1.30μm)
炭カル#90:重質炭酸カルシウム(品番:ハイドロカーブ90、オミヤコーリア社製、面積粒子径:1.25μm)
エスカロン:重質炭酸カルシウム(品番:エスカロン#2300:三共製粉社製、面積粒子径:0.84μm)
炭カル#15:重質炭酸カルシウム(品番:ブリリアント15:白石工業社製、面積粒子径:0.75μm)
・カオリンクレー
カピムDG(品番:カピムDG、イメリス社製、面積粒子径:1.15μm)
カピムNP(品番:カピムNP、イメリス社製、面積粒子径:2.20μm)
・シリカ(品番:カープレックス#80、兼松ケミカル社製、面積粒子径:1.12μm)
・アルミナ(品番:スミコランダムAA−2、住友化学工業社製、面積粒子径:1.27μm)
シリカ、アルミナは、湿式粉砕機(品番:プラネタリーミル、セイシン企業製)を用いて粉砕し、0.1μmごとに集計した面積粒子径の分布において0.8μm以上1.3μm未満の範囲に極大値を有する顔料を調製し使用した。
【0066】
尚、本発明の面積粒子径は次のように測定した。塗工紙をA4サイズに切り出し、用紙短辺を上辺として、上辺から下にAcm、左辺からAcmの地点で、縦横5mm角のサンプルを切り出した。ここでAは1〜20の整数であり、合計20サンプルを採取した。切り出したサンプルの表面を、走査電子顕微鏡(型番:S−2150、(株)日立製作所製)を用いて倍率12000倍で写真撮影した。写真の上辺から下にBcm、左辺からBcmの地点に最も近く、かつ粒子全体が撮影されている顔料について、面積粒子径を測定した。ここでBは1〜5の整数であり、1サンプルから5個の粒子の面積粒子径を求め、合計100点の顔料粒子について面積粒子径を求めた。顔料粒子は真円ではないため、顔料粒子を内包できる最小の円の直径を面積粒子径とした。
【0067】
用いた各顔料の平均面積粒子径は、当該顔料を単体で使用した以外は実施例1と同様に下塗り塗工層を塗布した評価用塗工紙を製造し、上述の方法で100点の面積粒子径を測定し、その中央値とした。
【0068】
下塗り塗工層に含まれる顔料総体の面積粒子径の分布は、各実施例で得た下塗り塗工層が塗布された塗工紙について上述の方法で面積粒子径を測定し、粒子の数を面積粒子径0.1μmごとに集計して粒子径分布を求めた。この0.1μmごとに分類した顔料集団について、極大値の有無を判断した。
【0069】
(接着剤)
・スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス(品番:PA−5118、日本A&L社製)
実施例9〜20では、実施例1で使用した下塗り塗工のラテックスについて、それぞれ成分、ゲル含量、粒子径を表1のとおり変更したものを用いた。
【0070】
尚、ラテックスのゲル含量及び平均粒子径は次のとおり求めた。
【0071】
ラテックスのゲル含量:ラテックス約0.3gをスライドグラス上に薄く広げ、50℃の乾燥機でフィルムとなるまで乾燥する。ラテックスフィルムを約50mlのトルエン中に一昼夜浸せきし、ガラスフィルターでろ過後、ろ液を105℃の乾燥機で乾燥して、トルエン可溶分の重量を測定する。ここで得られたトルエン可溶分の重量から、次式によりゲル含量を算出する。
【0072】
ゲル含量(%)=(乾燥フィルム重量−トルエン可溶分重量)×100/乾燥フィルム重量
ラテックス平均粒子径:0.05〜0.2%濃度に希釈した試料を調製し、波長525nmの吸光度を測定し、あらかじめ作成した検量線により求めた。
【0073】
(2)上塗り塗工
(顔料)
・炭酸カルシウム:重質炭酸カルシウム品番:ハイドロカーブ90、オミヤコーリア社製)):50質量部
・カオリンクレー:品番:カオファイン、イメリス社製:50質量部
(接着剤)
・スチレン−ブタジエン共重合体ラテックス
実施例1〜20 品番:F1558.02、旭化成社製
実施例21〜32では、実施例1で使用した上塗り塗工のラテックスについて、それぞれ成分、ゲル含量、粒子径を表2のとおり変更したものを用いた。
実施例33 品番:PA−6082、日本A&L社製
実施例34 品番:T−2748F、JSR社製
実施例35 品番:HT−3022、日本ゼオン社製
実施例36 品番:T−2736A、JSR社製
実施例37 品番:T−2730P、JSR社製
・アクリロニトリル−ブタジエン系重合体ラテックス(NBR)
実施例38 品番:Nipol 1562、日本ゼオン社製
・カルボキシ変性メチルメタクリレート−ブタジエン系重合体ラテックス(MBR)
実施例39 品番:MR−171、日本A&L社製
(製造手順)
原料パルプとしてLBKPとNBKPを80:20の質量割合で配合し、このパルプ(絶乾量)に対して、各々固形分で、内添サイズ剤(品番:AK−720H、ハリマ化成(株)製)0.02質量%、カチオン化澱粉(品番:アミロファックスT−2600、アベベジャパン(株)製)1.0質量%、及び歩留向上剤(品番:NP442、日産エカケミカルス(株)製)0.02質量%を添加してパルプスラリーを得た。
【0074】
次に、ワイヤーパート、プレスパート、プレドライヤーパート、アンダーコーターパート、プレカレンダーパート、アフタードライヤーパート、トップコーターパート、スキャッフドライヤーパート、カレンダーパート、リールパートを含む製紙システムを用いワインダーパートにて製品に仕上げた。
【0075】
まず、パルプスラリーをワイヤーパートにて抄紙し、次いでプレスパート、プレドライヤーパートに供して、坪量36g/mの基紙を製造し、次いでアンダーコーターパートにて、顔料として表1に記載の顔料及び、顔料100質量部に対して8質量部のラテックスを混合し、濃度65%に調製した下塗り塗工液を、片面あたり6g/mとなるよう、フィルム転写方式(シムサイザー)で両面を下塗り塗工し、アフタードライヤーパートで乾燥した。その後、プレカレンダー(線圧50kN/m)にて平坦化処理した。
【0076】
次いで、トップコーターパートにて炭酸カルシウム50質量部、カオリンクレー50質量部、表2に記載のラテックスを6質量部混合し、濃度65質量%に調製した上塗り塗工液を、片面あたり9g/mとなるよう、両面を上塗り塗工し、坪量64g/mの印刷用塗工紙を製造した。
【0077】
次に、カレンダーパートにて、線圧200kN/m、速度1,000m/分で平坦化処理を施し、ワインダーパートに供して印刷用塗工紙を得た。
【0078】
なお、ワイヤーパートではギャップフォーマーを用いて抄紙し、アンダーコーターパートではロッドメタリングサイズプレスコーターを用い、トップコーターパートではブレードコーターを用いた。またカレンダーパートでは、スーパーカレンダーを用いた。
【0079】
得られた塗工紙について、白色度、ブリスターの発生温度(耐ブリスター性)、輪転印刷時に発生する紙ムケ、得られた印刷物の光沢度及びインキセットを以下の方法にて調べた。その結果を表2に示す。
【0080】
(a)白色度
JISP8148:2001「紙、板紙及びパルプ−ISO白色度(拡散青色反射率)の測定方法」に記載の方法に準じて、未印刷の塗工紙について測定した。
【0081】
(b)ブリスター発生温度
印刷用塗工紙の試験サンプル(流れ方向2cm、幅方向10cm)を23℃、50%RH条件下で24時間調湿したのち、一定温度に調整したオイルバス(シリコンオイル)に4秒間浸けた。この試験を3回行い、ブリスターが発生した温度のうち、最も低い温度をブリスター発生温度とした。なお、オイルバスの温度は、160℃から10℃刻みで昇温させ、その温度においてブリスターが発生した場合に、ブリスター発生温度とした。尚、ブリスター発生温度が170℃以上であれば実使用に耐えられ、180℃以上であればよりブリスターが発生しにくく良好となり、200℃以上であれば耐ブリスター性に特に優れた塗工紙となる。
【0082】
・印刷サンプルの調製
オフセット印刷機(型番:LITHOPIA MAX BT2−1000、三菱重工業(株)製)を使用し、カラーインク(品番:ADVAN、大日本インキ化学工業(株)製)にて、B4折のカラー4色印刷を、速度1,200rpmで5000部印刷した。紙面温度は115℃に設定した。
【0083】
(c)紙ムケ
印刷サンプルでの紙ムケの発生程度を以下の基準で目視評価した。
◎:紙ムケの発生がなく、実使用可能。
○:紙ムケが若干発生し、見栄えが若干劣るが、実使用可能。
△:紙ムケが多少発生し、見栄えが多少劣るが、実使用可能。
×:紙ムケが発生し、見栄えが劣り、実使用不可能。
【0084】
(d)印刷光沢度
印刷サンプルの印刷面について、JISP8142:2005「紙及び板紙−75度鏡面光沢度の測定方法」に準じて光沢度を測定した。尚、印刷光沢度は77%以上であれば実使用に問題なく、80%以上であれば見栄えに優れ、83%以上であれば、特に印刷光沢に優れた塗工紙となる。
【0085】
(e)インキセット
印刷サンプル調製後すぐに、印刷面に各例の塗工紙の塗工面を重ね、圧力20Nで1分間圧着した。圧着後、塗工面へのインキの転移状況を目視にて観察し、以下の評価基準に基づいて評価した。
【0086】
(評価基準)
◎:塗工紙表面全体に全く汚れが生じていない。
○:塗工紙表面の一部に僅かに汚れが生じているが、実使用上問題がない。
△:塗工紙表面の一部に若干の汚れが生じているが、実使用上問題がない。
×:塗工紙表面全体の汚れが著しく、実使用不可能。
【0087】
【表1】

【0088】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明の塗工紙は、オフセット印刷で使用される印刷用塗工紙として好適に使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基紙と、前記基紙上に、顔料と接着剤とを含有する塗工層を少なくとも2層有する塗工紙であって、
前記基紙に接する下塗り塗工層の顔料がクレー及び/又は炭酸カルシウムを含有し、
前記下塗り塗工層の顔料が、0.1μmごとに集計した面積粒子径の分布において、0.8μm以上1.3μm未満及び1.3μm以上2.2μm未満のそれぞれの範囲に極大値を有する粒子径分布を持つことを特徴とする、塗工紙。
【請求項2】
前記接着剤がスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスであり、
最表層の上塗り塗工層に用いるスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスが、前記下塗り塗工層に用いるスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスに比べて、スチレン成分が5〜40質量%少なく、ブタジエン成分が5〜25質量%多いことを特徴とする、請求項1に記載の塗工紙。
【請求項3】
前記上塗り塗工層のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスが、前記下塗り塗工層のスチレン−ブタジエン共重合体ラテックスに比べ、ゲル含量が1.7倍以上、平均粒子径が0.7倍以下であることを特徴とする、請求項2に記載の塗工紙。

【公開番号】特開2010−133050(P2010−133050A)
【公開日】平成22年6月17日(2010.6.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−309433(P2008−309433)
【出願日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【出願人】(390029148)大王製紙株式会社 (2,041)
【Fターム(参考)】