説明

紙器用水性オーバーコーティング組成物

【課題】揮発性有機化合物をまったく含有しない溶剤組成においても、各種印刷用紙にグラビア印刷を行った際に、良好な乾燥性を有し、生産性を阻害する事なく、優れた品質の印刷物を得るのに適した紙用水性オーバーコーティング組成物の提供。
【解決手段】シェルがスチレン、(メタ)アクリル酸、および炭素数12〜20の長鎖アルキル(メタ)アクリレート1%〜10%有し、コアがスチレンと(メタ)アクリレートからなるコア/シェル構造を有するアクリルエマルジョンを含有することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙器用水性オーバーコーティング組成物に関する。より詳しくは、各種印刷用紙にグラビア印刷を行った際に、良好な乾燥性を有し、生産性を阻害する事なく、優れた品質の印刷物を得るのに適した紙器用水性オーバーコーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
有機溶剤による大気汚染等の環境問題、作業環境の安全衛生問題、防災といった観点から、印刷インキや塗料の分野では古くから脱有機溶剤化・水性化が検討されてきた。
しかし、実用化されている水性オーバーコーティングワニスは、乾燥性の問題から、コーティングワニス中にアルコールを多く含有させ、生産性を上げている場合が殆どである。
また、2010年に大気汚染防止法の施行により、揮発性有機化合物の排出濃度が制限され、各印刷メーカーは、その対応を迫られている。それに伴い、水性コーティングワニスに対して、含有する揮発性有機化合物の低減が要求されるようになってきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開1994−088052号公報
【特許文献2】特開1996−144191号公報
【特許文献3】特開2000−281867号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、各種印刷用紙にグラビア印刷を行った際に、揮発性有機化合物を極力含有しないまたはまったく含有しない溶剤組成であっても、良好な乾燥性を有し、生産性を阻害させる事なく、優れた品質の印刷物を得るのに適した紙器用水性オーバーコーティング組成物を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、シェルがスチレン、(メタ)アクリル酸、および炭素数12〜20の長鎖アルキル(メタ)アクリレート1%〜10%有し、コアがスチレンと(メタ)アクリレートからなるコア/シェル構造を有するアクリルエマルジョンを含有し、溶媒がアルコールを含まないことを特徴とする紙器用オーバーコーテイング組成物である。
また、上記アクリルエマルジョンのコア/シェル比が10:90〜50:50であることを特徴とする紙器用オーバーコーテイング組成物に関する。
また、長鎖アルキル(メタ)アクリレートがラウリルアクリレート、パルミチルアクリレート、ステアリルアクリレートから選ばれる少なくとも1種のアクリレートであることを特徴とする紙器用オーバーコーテイング組成物に関する。
加えて、印刷紙基材にオーバーコーティング組成物を印刷した印刷物に関する。
【発明の効果】
【0006】
本発明の紙器用水性オーバーコーティング組成物は、揮発性有機化合物をまったく含有しない溶剤組成においても、各種印刷用紙にグラビア印刷を行った際に、良好な乾燥性を有し、生産性を阻害する事なく、優れた品質の印刷物を得るのに適した紙用水性オーバーコーティング組成物を得ることが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0007】
本発明の水性オーバーコーティング組成物は、シェルがスチレン、(メタ)アクリル酸および炭素数12〜20の長鎖アルキル(メタ)アクリレート1%〜10%有し、コアがスチレンと(メタ)アクリレートからなるコア/シェル構造を有するアクリルエマルジョン、水、各種添加剤等を配合する事により製造される。
上記コア/シェル構造を有するアクリルエマルジョンを構成するスチレンとしては、スチレン、α−メチルスチレンが挙げられ、これら1種または2種の組み合わせて用いる事ができる。(メタ)アクリル酸はアクリルエマルジョンには水性化能を付与するため使用され、アクリル酸、メタアクリル酸等を1種または2種の組み合わせて用いる事ができる。
炭素数12〜20の長鎖アルキル(メタ)アクリレートとしては、ラウリルアクリレート、パルミチルアクリレート、ステアリルアクリレート等があげられ、これら1種または2種以上の組み合わせで用いる事ができる。また、該長鎖アルキル(メタ)アクリレートの含有量は、1重量%〜10重量%であることが必要である。1重量%よりも少ないと乾燥性が劣化し、生産性に影響を与え、10重量%より多く含まれてもアクリルエマルジョンとして乳化能が低下し、コーティングワニスとしての安定性が悪くなる。
上記コア/シェル構造を有するアクリルエマルジョンを構成する(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートト等の水酸基を有する(メタ)アクリレート。シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の脂環構造を有する(メタ)アクリレートが挙げられ、これら1種または2種以上の組み合わせて用いる事ができる。
本発明においては、アクリルエマルジョンはコア/シェル構造を有していることが必要であり、シェルとしては、スチレン、(メタ)アクリル酸および炭素数12〜20の長鎖アルキル(メタ)アクリレートが、コアとしてはスチレン、(メタ)アクリレートが使用される。特にシェルに用いられるスチレン、および炭素数12〜20の長鎖アルキル(メタ)アクリレートは、コーティング剤としての乾燥性を決める上で重要である。
上記アクリルエマルジョンのコア/シェル比率は、10:90〜50:50の範囲内である事が好ましい。コア比率が10%未満だと、コーティング塗膜の光沢値が低下する傾向であり、50%より大きいと、乾燥性不良を起こす傾向がある。
アクリルエマルジョンのガラス転移点は20〜80℃であることが好ましい。20〜80℃の範囲内では、インキへの密着性、アクリルエマルジョンの成膜性が良好である。
本発明である水性オーバーコーティング組成物におけるアクリルエマルジョンは、例えば上記スチレン、(メタ)アクリル酸および長鎖アルキル(メタ)アクリレートとを共重合して得られた高分子乳化剤の存在下において、共重合可能なスチレン及び(メタ)アクリレートを乳化重合して得られる。
重合反応を開始するに当たっては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩またはアゾビス系カチオン塩もしくは水酸基付加物等の水溶性の熱分解型重合開始剤を用いることができる。
またレドックス開始剤を用いることもできる。
レドックス開始剤としては、t−ブチルハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物とロンガリット、メタ重亜硫酸ナトリウムなどの還元剤との組み合わせ、または過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムとロンガリット、チオ硫酸ナトリウムなどとの組み合わせ、過酸化水素水とアスコルビン酸との組み合わせ等が用いられる。
樹脂のカルボキシル基を中和することで水性化できる、中和剤には例えば、にアンモニア、トリエチルアミン、アミノメチルプロパノール、モノエタノールアミン、ジエチルアミノエタノール、水酸化ナトリウム,水酸化カリウム等の塩基類がある。
オーバーコーテイング組成物には、シリカ、アルミナ、ポリエチレンワックス、消泡剤、レベリング剤、粘着性付与剤、防腐剤、抗菌剤、防錆剤等も配合することができる。
以上の材料と製造方法から得られた水性オーバーコーティング組成物は、グラビア印刷方式で、各種印刷用紙に印刷することができる。さらに、グラビア印刷機によって印刷され得られた印刷物は、様々な用途に応じて後加工され、食品など商品の包装に使用される。
【実施例】
【0008】
以下,実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、各実施例中の「部」および「%」は「重量部」および「重量%」を表す。
<アクリルエマルジョンの合成>
先ず、実施例、比較例に使用するコア/シェル型のアクリルエマルジョンを合成した。合成例中の「部」は上記と同様である。
(合成例1)
窒素ガス置換した四つ口フラスコに、イソプロピルアルコールを100部仕込み、温度を80〜82℃に上げた後、滴下ロートに仕込んだミリスチルアクリレート1部、スチレン30部、アクリル酸10部、メチルメタクリレート5部、過酸化ベンゾイル1部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、過酸化ベンゾイル0.5部を追加し、更に2時間反応させた。温度を40℃に下げ、ジメチルエタノールアミン、イオン交換水を添加した。その後、反応フラスコの温度を80〜82℃に上げ、ストリッピングを行ない、最終的に固形分30%の水溶性樹脂を得た。
上記で得た水溶性樹脂に、イオン交換水10部を反応フラスコに仕込み、温度を80℃〜82℃に上げた後、過硫酸カリウムを2部添加し、スチレン20部、2−エチルヘキシルアクリレート24部、ブチルアクリレート10部の混合物を2時間かけて滴下した。滴下終了後、過硫酸カリウム0.2部を添加し、2時間反応させた。このようにして得られたアクリルエマルジョン(樹脂1)の固形分は40%であった。
合成例2〜11
合成例2〜11に付いては合成例1と同様な方法で重合を行い、アクリルエマルジョンである樹脂2〜樹脂11を得た。それらのモノマーの配合を表1に示す。
実施例1
合成例1で得られたアクリルエマルジョン(樹脂1)55部(固形40%)、ポリエチレンワックス 2.5部、シリコーン系消泡剤0.01部、 水 42.49部を添加し、ディスパーで10分間攪拌して、水性オーバーコーティングワニス(1)を得た。
実施例2〜8
上記合成例2〜8について、実施例1と同様の配合により、水性コーティングワニス(2)〜水性コーティングワニス(8)を得た。
比較例1〜3
上記合成例9〜11について、実施例1と同様の配合により、水性コーティングワニス(9)〜水性コーティングワニス(11)を得た。
実施例および比較例で得られた水性オーバーコーティングワニスについて、乾燥性・光沢を評価した。評価方法及び判定基準は以下のとおりである。
評価法
乾燥性:印刷用紙としてコート紙(CRC230g、レンゴー株式会社製)に対し、バーコーターNo.4を用いて塗工した。塗工直後から10秒毎に指触し、タックがなくなるところを乾燥の終点とし、乾燥性の評価をした。
判定基準:○ 0〜30秒
△ 30〜60秒
× 60秒以上
本発明で使用するバーコーターは、第一理化株式会社製のNo.4を用いた。
光沢値:印刷用紙としてコート紙(CRC230g、レンゴー株式会社製)に対し、グラビア印刷機にて、腐食30μの版で印刷し、印刷物を得た。印刷物の光沢値を「ヘイズ−グロスリフレクトメーター」〔ビックケミー・ジャパン株式会社〕により60°−60°を測定した。
判定基準:○ 光沢値50以上
△ 光沢値30〜50
× 光沢値30未満
結果を表1、表2に示す。乾燥性および光沢における判定は○〜△が実用範囲である。
【0009】
【表1】

【0010】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
シェルがスチレン、(メタ)アクリル酸、および炭素数12〜22の長鎖アルキル(メタ)アクリレート1重量%〜10重量%有し、コアがスチレンと(メタ)アクリレートからなるコア/シェル構造を有するアクリルエマルジョンを含有し、溶媒がアルコールを含まないことを特徴とする紙器用オーバーコーテイング組成物。
【請求項2】
コア/シェル比が10:90〜50:50であることを特徴とする請求項1記載の紙器用オーバーコーテイング組成物。
【請求項3】
長鎖アルキル(メタ)アクリレートがラウリルアクリレート、パルミチルアクリレート、ステアリルアクリレートから選ばれる少なくとも1種のアクリレートであることを特徴とする請求項1もしくは2何れか記載の紙器用オーバーコーテイング組成物。
【請求項4】
印刷紙基材に請求項1〜3何れか記載の紙器用オーバーコーテイング組成物を塗工した塗工物。


【公開番号】特開2011−144332(P2011−144332A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−8542(P2010−8542)
【出願日】平成22年1月18日(2010.1.18)
【出願人】(000222118)東洋インキSCホールディングス株式会社 (2,229)
【Fターム(参考)】