説明

紙塗工用組成物及び塗工紙

【課題】 粘度安定性、流動性に優れた紙塗工用組成物及び印刷時強度と白紙光沢に優れた塗工紙の提供。
【解決手段】 全顔料100重量%中炭酸カルシウムを40重量%を超えて含有する紙塗工用組成物であって、脂肪族共役ジエン系単量体20〜70重量%、シアン化ビニル単量体1〜50重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜78.9重量%(単量体合計100重量%)を乳化重合して得られる非アルカリ感応型の共重合体ラテックスを含有し、かつ該組成物のpHが9.6以上であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙塗工用組成物及び塗工紙に関するものである。詳しくは、流動性、保水性、粘度安定性に優れる紙塗工用組成物であって、該紙塗工用組成物を塗工して得られる塗工紙が、ドライピック強度、白紙光沢に優れる紙塗工用組成物及びその塗工紙に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、塗工紙は、その印刷効果が高い等の理由から、非常に数多くの印刷物に利用されている。季刊、月間紙等の定期刊行物の中にも、全ての頁に塗工紙が使用される場合もかなり増えている。特に、メールオーダービジネスにおけるダイレクトメールや商品カタログ等においては、そのほとんどが全ての頁に塗工紙を使用している。
一般に紙塗工用組成物は、クレーや炭酸カルシウムなどの白色顔料を水に分散した顔料分散液、顔料同士および顔料を原紙に接着固定するためのバインダー、およびその他の添加剤によって構成される水性塗料である。バインダーとしてはスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスに代表されるような合成エマルションバインダーやデンプン、カゼインに代表されるような天然バインダーが使用される。その中でもスチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスは、品質設計の自由度が大きく、今日では紙塗工用組成物に最も適したバインダーとして広く使用されており、スチレン−ブタジエン系共重合体ラテックスの性能が紙塗工用組成物の性能や塗工紙作成時の操業性あるいは最終的な塗工紙製品の表面強度、印刷光沢などの品質に影響することが知られている。
【0003】
一方、近年においては、コスト合理化がますます進められる中、顔料として高価なカオリンから安価な炭酸カルシウムへの配合比率が増す傾向にあり、このような処方に適した紙塗工用組成物が求められている。紙塗工用組成物中の炭酸カルシウム配合比率が増えることによる白紙光沢の低下については、炭酸カルシウム顔料の粒度を細かくすることで対策するケースが多く、それに伴い低下する印刷時強度をラテックスの性能向上によりカバーするなどラテックスが塗工紙に及ぼす影響はますます重要視されている。
また、紙塗工用組成物中の炭酸カルシウム配合比率が増すと、組成物の安定性が損なわれ凝集物が発生したり、組成物の保水性が劣ることなどによる操業汚れが懸念される。そのため、組成物の機械的安定性の改良や、汚れが付着しても簡単に洗い流す事のできる組成物の再分散性の向上、組成物の保水性の向上などが塗工操業性において重要な課題となっている。
【0004】
上記課題を解決するため、例えば特開昭58−13798号公報(特許文献1)には、紙・板紙塗被用組成物に、全顔料中沈降性炭酸カルシウムを10−70重量%と、アルカリ感応型共重合体ラテックスを含有し、pHを8−13に調整した該組成物におけるハーキュレス粘度と組成物濃度の積が特定範囲にあることで、印刷適性、白紙光沢、塗工性などが改良されるとの技術開示がある。
また、特開平2009−68129号公報(特許文献2)には、炭酸カルシウムを90重量%以上含有する紙塗工用組成物において、組成と粒子径を規定した共重合体ラテックスを使用することで、高炭酸カルシウム処方であるにもかかわらず、保水性に優れ、白紙光沢が改良されるとの技術開示がある。
さらに、特開平2009−68130号公報(特許文献3)には、炭酸カルシウムを90重量%以上含有する紙塗工用組成物において、表面酸密度を規定した共重合体ラテックスを使用することで、ドライピック強度をはじめとする印刷適性に優れる塗工紙が得られるとの技術開示がある。
しかし、これらの様々な改良技術は、未だ炭酸カルシウムの配合比率を増やした紙塗工用組成物に要求される性能を十分に満足するレベルには至っておらず、特にラテックスについて更なる改良が強く求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭58−13798号公報
【0006】
【特許文献2】特開2009−68129号公報
【0007】
【特許文献3】特開2009−68130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、流動性、保水性、粘度安定性に優れた紙塗工用組成物であって、該紙塗工用組成物を塗工して得られる塗工紙のドライピック強度、白紙光沢に優れる紙塗工用組成物及び塗工紙を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち本発明は、全顔料100重量%中炭酸カルシウムを40重量%を超えて含有する紙塗工用組成物であって、脂肪族共役ジエン系単量体20〜70重量%、シアン化ビニル単量体1〜50重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜78.9重量%(単量体合計100重量%)を乳化重合して得られる非アルカリ感応型の共重合体ラテックスを含有し、かつ該組成物のpHが9.6以上であることを特徴とする紙塗工用組成物を提供するものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、流動性、保水性、粘度安定性に優れる紙塗工用組成物が得られ、該紙塗工用組成物を紙に塗工することにより、ドライピック強度、白紙光沢に優れる塗工紙を提供するものである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の紙塗工用組成物に使用する共重合体ラテックスは、非アルカリ感応型の共重合体ラテックスである。非アルカリ感応型共重合体ラテックスとは、pHがアルカリ領域になった場合に、粘度変化が鋭敏ではない共重合体ラテックスであり、一般にソールバインダーとして使用されているようなアルカリ領域で顕著な粘度上昇を示すアルカリ感応型共重合体ラテックスではないことを意味する。この非アルカリ感応型共重合体ラテックスは、脂肪族共役ジエン系単量体、シアン化ビニル単量体、エチレン系不飽和カルボン酸単量体およびこれらと共重合可能な他の単量体を乳化重合して得られる。
脂肪族共役ジエン系単量体としては、1,3−ブタジエン、2−メチル−1,3−ブタジエン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、2−クロル−1,3−ブタジエン、置換直鎖共役ペンタジエン類、置換および側鎖共役ヘキサジエン類などが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特に1,3−ブタジエンの使用が好ましい。
【0012】
シアン化ビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、α−クロルアクリロニトリル、α−エチルアクリロニトリルなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリロニトリルまたはメタクリロニトリルの使用が好ましい。
【0013】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマール酸、イタコン酸などの1塩基酸または2塩基酸(無水物)を挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。
【0014】
上記脂肪族共役ジエン系単量体、シアン化ビニル単量体およびエチレン系不飽和カルボン酸単量体と共重合可能な他の単量体としては、アルケニル芳香族単量体、不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体、ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体、不飽和カルボン酸アミド単量体等が挙げられる。
【0015】
アルケニル芳香族単量体としては、スチレン、α−メチルスチレン、メチルα−メチルスチレン、ビニルトルエンおよびジビニルベンゼン等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にスチレンの使用が好ましい。
【0016】
不飽和カルボン酸アルキルエステル単量体としては、メチルアクリレート、メチルメタクリレート、エチルアクリレート、エチルメタクリレート、ブチルアクリレート、グリシジルメタクリレート、ジメチルフマレート、ジエチルフマレート、ジメチルマレエート、ジエチルマレエート、ジメチルイタコネート、モノメチルフマレート、モノエチルフマレート、2−エチルヘキシルアクリレート等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にメチルメタクリレートの使用が好ましい。
【0017】
ヒドロキシアルキル基を含有する不飽和単量体としては、β−ヒドロキシエチルアクリレート、β−ヒドロキシエチルメタクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタクリレート、ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシブチルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、ジ−(エチレングリコール)マレエート、ジ−(エチレングリコール)イタコネート、2−ヒドロキシエチルマレエート、ビス(2−ヒドロキシエチル)マレエート、2−ヒドロキシエチルメチルフマレートなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にβ−ヒドロキシエチルアクリレートの使用が好ましい。
【0018】
不飽和カルボン酸アミド単量体としては、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミドなどが挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。特にアクリルアミドまたはメタクリルアミドの使用が好ましい。
【0019】
さらに、上記単量体の他に、エチレン、プロピレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン等、通常の乳化重合において使用される単量体は何れも使用可能である。
【0020】
上記の単量体組成は、脂肪族共役ジエン系単量体20〜70重量%、シアン化ビニル単量体1〜50重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜78.9重量%(単量体合計100重量%)の範囲であることが必要である。
【0021】
脂肪族共役ジエン系単量体が20重量%未満では塗工紙の印刷時の強度が劣り、また70重量%を超えるとラテックスフィルムのベタツキ性(粘着性)が劣り、塗工紙作成時の塗工操業性、特にバッキングロール等へ付着しやすくなるなど、悪影響を及ぼす。好ましくは30〜60重量%である。
【0022】
シアン化ビニル単量体が1重量%未満では塗工紙の印刷時強度の特にドライピック強度とインキセット性が劣り、また50重量%を超えると塗工紙の印刷時強度の特にウェットピック強度と白紙光沢が低下する。好ましくは、10〜45重量%である。
【0023】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体が0.1重量%未満では、共重合体ラテックス自身および紙塗工用組成物の機械的安定性が劣り、また20重量%を超えると塗工紙の白紙光沢が低下するとともにラテックス自身の粘度も高くなりすぎ、送液ポンプによるラテックスの輸送搬送性が劣るなど取り扱い性が悪化する。好ましくは1〜15重量%である。
【0024】
共重合可能な他の単量体が78.9重量%を超えると、塗工紙のドライピック強度が低下する。好ましくは10〜60重量%である。
【0025】
本発明の紙塗工用組成物に使用する共重合体ラテックスは、全単量体の組成が上記範囲内で、異なる単量体組成からなる少なくとも3段の重合工程を有するものであることがさらに好ましい。詳しくはその単量体組成が、1段目に脂肪族共役ジエン系単量体1.5〜24重量%、シアン化ビニル単量体5.1〜25重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体4.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜23.3重量%から構成される単量体合計13〜34重量%を重合し、2段目以降に脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、シアン化ビニル単量体5〜30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0〜13重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜72重量%から構成される単量体合計66〜87重量%を重合することを特徴とする。このような多段重合による共重合体ラテックスを使用することで、塗工紙のドライピック強度と白紙光沢のバランスがさらに良好になるため好ましい。
また、エチレン系不飽和カルボン酸単量体は、全使用量の60重量%以上を1段目の重合工程で添加し、最終段階には添加されないことが、塗工紙の印刷時強度の発現性が良い傾向があることから好ましい。
【0026】
1段目の脂肪族共役ジエン系単量体が1.5重量%未満では塗工紙のドライピック強度が、また24重量%を超えると塗工紙のウェットピック強度が劣り、好ましくない。
【0027】
1段目のシアン化ビニル単量体が5.1重量%未満では、紙塗工用組成物の流動性と塗工紙のドライピック強度、インキセット性が劣る傾向にあり、また25重量%を超えると印刷時に必要とされるウェットピック強度などの湿潤接着性が劣る傾向にあるため好ましくない。
【0028】
1段目のエチレン系不飽和カルボン酸単量体が4.1重量%未満では紙塗工用組成物の再分散性及び塗工紙のドライピック強度、インキセット性が劣る傾向にあり、また20重量%を超えると塗工紙の白紙光沢が低下するとともにラテックス自身の粘度も高くなりすぎ、送液ポンプによるラテックスの輸送搬送性が劣るなど取り扱い性が悪化するため好ましくない。
【0029】
1段目の共重合可能な他の単量体が23.3重量%を超えると塗工紙のドライピック強度が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0030】
1段目の単量体合計が13重量%未満では紙塗工用組成物の粘度安定性と流動性が劣り、また34重量%を超えると塗工紙の印刷時の強度が低下する。
【0031】
2段目以降の脂肪族共役ジエン系単量体が10重量%未満では塗工紙のドライピック強度が、また60重量%を超えると紙塗工用組成物の流動性が劣り、塗工紙のウェットピック強度が劣る傾向にあり、好ましくない。
【0032】
2段目以降のシアン化ビニル系単量体が5重量%未満では塗工紙の印刷時の強度が低下する傾向があり、30重量%を超えると塗工紙の印刷時の強度と白紙光沢が低下する傾向があるため好ましくない。
【0033】
2段目以降のエチレン系不飽和カルボン酸単量体が13重量%を超えるとラテックス自身の粘度が高くなりすぎ、送液ポンプによるラテックスの輸送搬送性が劣るなど取り扱い性が悪化するため好ましくない。
【0034】
2段目以降の共重合可能な他の単量体が72重量%を超えるとドライピック強度が低下する傾向にあるため好ましくない。
【0035】
本発明の紙塗工用組成物に使用する共重合体ラテックスの重合には、公知の乳化剤(界面活性剤)を使用することができる。例えば、高級アルコールの硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸塩、脂肪族スルホン酸塩、脂肪族カルボン酸塩、デヒドロアビエチン酸塩、ナフタレンスルホン酸のホルマリン縮合物、非イオン性界面活性剤の硫酸エステル塩等のアニオン性界面活性剤、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルフェニルエーテル型、アルキルエーテル型等のノニオン性界面活性剤が挙げられ、これらを1種又は2種以上使用することができる。
【0036】
上記共重合体ラテックスの重合には、公知の連鎖移動剤(分子量調整剤)を制限されることなく使用することができる。例えば、n−ヘキシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、t−オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ステアリルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、ジメチルキサントゲンジサルファイド、ジイソプロピルキサントゲンジサルファイド等のキサントゲン化合物、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド等のチウラム系化合物、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール、スチレン化フェノール等のフェノール系化合物、アリルアルコール等のアリル化合物、ジクロルメタン、ジブロモメタン、四臭化炭素等のハロゲン化炭化水素化合物、α−ベンジルオキシスチレン、α−ベンジルオキシアクリロニトリル、α−ベンジルオキシアクリルアミド等のビニルエーテル、トリフェニルエタン、ペンタフェニルエタン、アクロレイン、メタアクロレイン、チオグリコール酸、チオリンゴ酸、2−エチルヘキシルチオグリコレート、ターピノレン、α−メチルスチレンダイマー等が挙げられ、これらを1種または2種以上使用することができる。より好ましくはt−ドデシルメルカプタン等のアルキルメルカプタン、α−メチルスチレンダイマーが挙げられる。上記連鎖移動剤の使用量については、なんら制限はないが、例えば単量体100重量部に対して0.05〜10重量部、より好ましくは0.1〜5重量部使用する。
【0037】
上記共重合体ラテックスの重合には、公知の重合開始剤として、過硫酸リチウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム等の水溶性重合開始剤、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、t−ブチルハイドロパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等の油溶性重合開始剤を適宜用いることができる。特に過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイドの使用が好ましい。重合開始剤の量は特に制限されないが、単量体組成、重合反応系のpH、他の添加剤などの組み合わせを考慮して適宜調整される。
【0038】
上記共重合体ラテックスの重合において好ましく用いられる還元剤の具体例としては、亜硫酸塩、亜硫酸水素塩、ピロ亜硫酸塩、亜ニチオン酸塩、ニチオン酸塩、チオ硫酸塩、ホルムアルデヒドスルホン酸塩、ベンズアルデヒドスルホン酸塩、また、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、酒石酸、クエン酸などのカルボン酸類及びその塩、更にはデキストロース、サッカロースなどの還元糖類、更にはジメチルアニリン、トリエタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。特にL−アスコルビン酸、エリソルビン酸、が好ましい。
【0039】
上記共重合体ラテックスの重合には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の飽和炭化水素、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、4−メチルシクロヘキセン、1−メチルシクロヘキセン等の不飽和炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素などの炭化水素化合物を使用することができる。特に、沸点が適度に低く、重合終了後に水蒸気蒸留などによって回収、再利用しやすいシクロヘキセンやトルエンが、本発明の目的とは異なるものの、環境問題の観点から好適である。
【0040】
本発明の紙塗工用組成物に使用される共重合体ラテックスの重合には、必要に応じて酸素補足剤、キレート剤、分散剤等の公知の添加剤を用いることも差し支えなく、これらは種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。更には消泡剤、老化防止剤、防腐剤、抗菌剤、難燃剤、紫外線吸収剤などの公知の添加剤を用いることも差し支えなく、これらも種類、使用量ともに特に限定されず、適宜適量使用することが出来る。また、上記共重合体ラテックスは、その使用目的に応じて他のラテックスと適宜適量ブレンドすることもできる。
【0041】
上記共重合体ラテックスの製造にあたって、単量体ならびにその他の成分の添加方法については特に制限されるものではなく、一括添加方法、分割添加方法、連続添加方法、パワーフィード方法の何れでも採用することができる。また、本発明においては、一段重合、二段重合又は多段階重合、シード重合等何れも採用することができるが、二段以上の多段階重合が好ましい。
【0042】
本発明の紙塗工用組成物に使用される共重合体ラテックスの粒子径は、特に制限はないが、50〜150nmであることが好ましい。数平均粒子径が50nm未満では白紙光沢が劣り、また150nmを超えると塗工紙の印刷時強度が発現しにくく好ましくない。好ましくは70〜130nmである。
【0043】
本発明の紙塗工用組成物に使用される共重合体ラテックスのゲル含量にはなんら制限はないが、ゲル含量が50〜100重量%が好ましい。ゲル含量が50重量%未満では塗工紙のドライピック強度が低下する傾向にある。特に好ましくは70〜99重量%である。
【0044】
本発明の紙塗工用組成物は、全顔料100重量%中に炭酸カルシウムを40重量%を超えて含有するものであるが、その他の顔料として、例えば、カオリンクレー、タルク、硫酸バリウム、酸化チタン、水酸化アルミニウム、酸化亜鉛、サチンホワイトなどの無機顔料、あるいはポリスチレンラテックスのような有機顔料をそれぞれ単独または混合して使用することもできる。
炭酸カルシウムの含有量が40重量%以下の場合は、紙塗工用組成物の粘度安定性、流動性、塗工紙のドライピック強度が低下する。
また、紙塗工用組成物中の共重合体ラテックスの含有量は顔料100重量部(固形分)に対して1〜30重量部(固形分)を使用することが好ましい。さらに好ましくは1〜20重量部(固形分)である。共重合体ラテックスの含有量が1重量部以下では顔料を充分に接着できず好ましくなく、30重量部を超えると白紙光沢が低下して好ましくない。
【0045】
また、必要に応じて澱粉、酸化澱粉、エステル化澱粉等の変性澱粉、大豆蛋白、カゼインなどの天然バインダー、あるいはポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロースなどの水溶性合成バインダーなどを使用しても差し支えない。さらに、ポリ酢酸ビニルラテックス、アクリル系ラテックスなどの合成ラテックス等を本発明に使用する上記共重合体ラテックスと併用してもよい。
【0046】
本発明の紙塗工用組成物を調整する際には、さらにその他の助剤、例えば分散剤(ピロリン酸ナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウムなど)、消泡剤(ポリグリコール、脂肪酸エステル、リン酸エステル、シリコーンオイルなど)、レベリング剤(ロート油、ジシアンジアミド、尿素など)、防腐剤、離型剤(ステアリン酸カルシウム、パラフィンエマルジョンなど)、蛍光染料、カラー保水性向上剤(アルギン酸ナトリウムなど)を必要に応じて添加しても良い。
【0047】
本願発明の紙塗工用組成物のpHは、9.6以上に調整することが必要である。pHが9.6未満では、塗工紙のドライピック強度と白紙光沢の発現効果が小さい。好ましくはpH9.8〜13であり、より好ましくは9.9〜12である。
なお、pHを調整するためのアルカリ水溶液は特に制限はないが、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアの水溶液などが挙げられる。
【0048】
さらに、紙塗工用組成物を塗工用紙へ塗布する方法には、公知の技術、例えばエアナイフコーター、ブレードコーター、ロールコーター、バーコーターなどのいずれの塗工機を使用しても差し支えない。また、塗工後、表面を乾燥し、カレンダーリングなどにより仕上げる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、これらの実施例に限定されるものではない。なお実施例中、割合を示す部および%は特に断りのない限り重量基準によるものである。また実施例における諸物性の評価は次の方法に拠った。
【0050】
共重合体ラテックスのゲル含有量の測定
温度40℃、湿度85%の雰囲気にてラテックスフィルムを作成する。その後ラテックスフィルムを約1g秤量しXgとする。これを400mlのトルエンに入れ48時間膨潤溶解させる。その後、これを秤量済みの300メッシュの金網で濾過し、その後トルエンを蒸発乾燥させ、その乾燥後重量からメッシュ重量を減じて、試料の乾燥後重量を秤量しYgとする。
ゲル含量(%)=Y/X*100
【0051】
紙塗工用組成物の粘度安定性の評価
上記にて得られた紙塗工用組成物の作製直後の粘度と室温放置1日後の粘度を測定し、下記のとおり評価した。
R = |作製直後粘度−室温放置1日後粘度|/作製直後粘度
◎:0≦R≦2 :経時安定性が非常に良好
○:2≦R≦4 :経時安定性が良好
△:4<R≦8 :経時安定性が悪い
×:8<R :経時安定性が非常に悪い
【0052】
紙塗工用組成物の流動性の評価
二重円筒型のハーキュレスハイシェアー粘度計(熊谷理機工業社製)を使用した。内筒ボブFを用いて、高せん断速度を与える6000rpmにおける各紙塗工用組成物の見掛け粘度(mPa・s)を測定した。数値の低い方が見掛け粘度は低く、流動性が良い。各実験における実施例及び比較例の紙塗工用組成物の見掛け粘度の測定値において、最も低いものを流動性が良好として◎、最も高いものを流動性が劣るとして×とし、下記のように4段階にて評価した。ただし、◎と○のようにワンランクの幅は最低2mPa・s以上とした。
(優)◎ > ○ > △ > ×(劣)
【0053】
塗工紙のドライピック強度の評価
RI印刷機で各実験における塗工紙試料を同時に印刷した際のピッキングの程度を肉眼で判定し、5級(優)から1級(劣)まで相対的に目視評価した。
【0054】
共重合体ラテックスの合成(A、I)の合成
耐圧製の重合反応器に、重合水150部、過硫酸カリウム1部を仕込み、十分攪拌した後、表1および表2に示す各単量体および他の化合物を加えて70℃に昇温して重合を開始し、最終重合転化率が97%を越えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを用いてpHを7に調製し、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックスAとIを得た。
【0055】
共重合体ラテックス(B、C、J、K)の合成
耐圧製の重合反応器に、重合水150部、過硫酸カリウム1部を仕込み、十分攪拌した後、表1および表2の1段目に示す各単量体および他の化合物を加えて70℃に昇温して重合を開始し、2段目の重合については、1段目の重合転化率が50%を越えた時点で2段目の各単量体および他の化合物を加えて重合し、最終重合転化率が95%を越えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを用いてpHを7に調製し、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックスB、C、J、Kを得た。
【0056】
共重合体ラテックス(D〜H、L〜R)の合成
耐圧製の重合反応器に、重合水150部、過硫酸カリウム1部を仕込み、十分攪拌した後、表1〜3の1段目に示す各単量体および他の化合物を加えて70℃に昇温して重合を開始した。2段目の重合については、1段目の重合転化率が50%を越えた時点で2段目の各単量体および他の化合物を加えて重合し、3段目の重合については、2段目までの重合転化率が80%を越えた時点で3段目の各単量体および他の化合物を加えて重合し、最終重合転化率が95%を越えた時点で重合を終了した。
次いで、得られた共重合体ラテックスを、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムを用いてpHを7に調製し、水蒸気蒸留により未反応単量体および他の低沸点化合物を除去し、共重合体ラテックスD〜H、L〜Rを得た。
【0057】
【表1】

【0058】
【表2】

【0059】
【表3】

【0060】
紙塗工用組成物の作製と評価
実験1
表4に示した配合処方に従って、共重合体ラテックスとしてAを用い、紙塗工用組成物1〜4を作成した。pHの調整は水酸化ナトリウムを用いた。得られた紙塗工用組成物の物性を表5に示した。
実験2
表4の配合処方1において、共重合体ラテックスはBを用い、水酸化ナトリウムによってpHを調整し、紙塗工用組成物5〜12を作成した。得られた紙塗工用組成物の物性を表6に示した。
実験3
表3の配合処方2において、共重合体ラテックスA〜Rを用い、水酸化ナトリウムでpHが10〜10.5になるように調整し、紙塗工用組成物13〜30を作成した。得られた紙塗工用組成物の物性を表7及び8に示した。
【0061】
塗工紙の作製と評価
塗工原紙(坪量55g/m2)に、上記の紙塗工用組成物1〜30を片面あたりの塗被量が12±0.5g/m2となるようにワイヤーバーを用いて塗工し乾燥した後、線圧60kg/cm、温度50℃の条件でカレンダー処理を行って塗工紙を得た。得られた塗工紙を各試験に供して評価し、その結果を表5〜8に示した。
【0062】
【表4】

【0063】
【表5】

【0064】
【表6】

【0065】
【表7】

【0066】
【表8】

【0067】
表5〜8に示すとおり、本発明による紙塗工用組成物はいずれも粘度安定性、流動性に優れ、得られた塗工紙のドライピック強度や白紙光沢も良好である。
【産業上の利用可能性】
【0068】
上記のとおり、本発明の紙塗工用組成物は、流動性、保水性、粘度安定性に優れており、ドライピック強度、白紙光沢に優れる塗工紙を提供することが可能となり、有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
全顔料100重量%中に炭酸カルシウムを40重量%を超えて含有する紙塗工用組成物であって、脂肪族共役ジエン系単量体20〜70重量%、シアン化ビニル単量体1〜50重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜78.9重量%(単量体合計100重量%)を乳化重合して得られる非アルカリ感応型の共重合体ラテックスを含有し、かつ該組成物のpHが9.6以上であることを特徴とする紙塗工用組成物。
【請求項2】
共重合体ラテックスが、異なる単量体組成からなる少なくとも3段の重合工程を有し、1段目に脂肪族共役ジエン系単量体1.5〜24重量%、シアン化ビニル単量体5.1〜25重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体4.1〜20重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜23.3重量%からなる単量体合計13〜34重量%を重合し、2段目以降に脂肪族共役ジエン系単量体10〜60重量%、シアン化ビニル単量体5〜30重量%、エチレン系不飽和カルボン酸単量体0〜13重量%およびこれらと共重合可能な他の単量体0〜72重量%からなる単量体合計66〜87重量%を重合することを特徴とする請求項1に記載の紙塗工用組成物。
【請求項3】
エチレン系不飽和カルボン酸単量体全使用量の60重量%以上が1段目の重合工程で添加され、最終段の重合工程では添加されないことを特徴とする請求項1又は2に記載の共重合体ラテックス。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の紙塗工用組成物を塗工して得られる塗工紙。

【公開番号】特開2011−195974(P2011−195974A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−61676(P2010−61676)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(399034220)日本エイアンドエル株式会社 (186)
【Fターム(参考)】