説明

紙幣識別方法

【課題】 紙幣の搬送路上に反射標準片を定期的に配置しなくても、検出部が同一特性の検査面を走査した際の出力レベルが一定になるように、検出部の検出特性を調節することができるようにする。
【解決手段】 紙幣16の識別を行う際に、参照反射板42からの反射光を受光した受光部38が出力する電気信号のレベルを検出しつつ、記憶部から読み出した基準レベルと比較して、検出したレベルが基準レベルに等しくなるように光源36の光量を調節するステップと、光源36と受光部38とを有する検出部34により、搬送路Aに沿って搬送される紙幣16の検査面16aを走査して紙幣16固有の電気信号の出力パターンを検出するステップと、検出した出力パターンと記憶部に記憶された標準出力パターンとを比較することで紙幣16を識別するステップとを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は紙幣識別装置を用いた紙幣識別方法に関し、詳細には紙幣の検査面を、光を当てて走査する検出部の光源の光量や受光部の感度を自動的に修正できる紙幣識別装置を用いた紙幣識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙幣識別装置では、識別用センサとして一般的に光センサが用いられており、光源で発した光を紙幣の検査面に照射し、その反射光を受光部(光センサ)で電気信号に変換し、その電気信号の出力パターンと予め求めておいた標準出力パターンとを比較することで、紙幣の識別を行っていた。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述した紙幣識別装置には次のような課題がある。
このような紙幣識別装置において使用される検出部には、光源としての発光ダイオードおよび受光部としてのフォトトランジスタを一体に組み込んだ、集光レンズを備えない反射形光センサが使用されるのが一般的である。そしてこのような反射形光センサは比較的短い焦点距離を持つのが特徴であり、その結果焦点がずれた場合の検出特性は例えば図7に示すように出力される電気信号の出力レベルが二乗カーブで変化することから、紙幣識別装置内部での検出部の取り付け作業を綿密に行う必要があり、生産性に支障をきたすという課題がある。
【0004】
また、紙幣の識別を適切に行うためには、同一特性の検査面(例えば反射標準片の表面)を走査した場合に検出部から出力される電気信号の出力レベルが常に一定になることが望ましい。しかしながら、発光ダイオード等の半導体を応用したセンサは、その検出特性が時間と共に変化(経年変化)したり、周囲の温度変化によっても変化する。このため厳密に紙幣の識別を行うためには、識別をさせる直前に紙幣の搬送路に例えば反射標準片を配置し、反射標準片の反射光を受光して検出部が出力する電気信号の出力レベルを、予めこの反射標準片を用いて測定しておいた出力レベルと同じになるように、検出部の検出特性(光源の特性や受光部のゲイン特性)を調節しておく必要がある。
【0005】
しかしながら、紙幣の識別を行う度に、反射標準片を搬送路に置いて検出部の光源の特性をチェックすると共に光源の光量を調節したり、受光部の特性をチェックすると共に受光部のゲインを調節する作業を行うことは現実的ではない。このため、通常は検出部の光源の特性や受光部のゲインの経年変化や温度変化を考慮し、標準出力パターンの規格範囲に余裕を持たせる方法が採用されているが、この方法だと標準出力パターンの規格範囲が広くならざるを得ないため、精密な識別は難しいという課題がある。
【0006】
従って、本発明は上記課題を解決すべくなされ、その目的とするところは、紙幣の搬送路上に反射標準片を配置しなくても、検出部が同一特性の検査面を走査した際に出力される電気信号の出力レベルが一定になるように、検出部の検出特性を調節することができ、精密な紙幣の識別が行える紙幣識別装置を用いた紙幣識別方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明に係る請求項1記載の紙幣識別方法は、紙幣識別装置の紙幣の搬送路上に表面が白一色の反射標準片を配置し、搬送路に沿って搬送される紙幣の検査面に光を照射するための光源から、反射標準片に光を照射し、反射標準片からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルが予め決められた規定レベルになるように、光源の光量を調節するステップと、該調節を行った状態で、前記光源と前記受光部とを有する検出部により、前記搬送路に沿って搬送される複数の紙幣を走査して電気信号の出力パターンを検出し、該検出した複数の紙幣の出力パターンに基づいて、標準出力パターンを作成するステップと、該標準出力パターンを、各紙幣識別装置の記憶部に記憶するステップとを行い、各紙幣識別装置の出荷前の調整段階において、各紙幣識別装置の紙幣の搬送路上に表面が白一色の反射標準片を配置し、搬送路に沿って搬送される紙幣の検査面に光を照射するための光源から、反射標準片に光を照射し、反射標準片からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルが前記規定レベルになるように、光源の光量を調節するステップと、該調節した光量における、前記搬送路の紙幣の非検査面側に配置された参照反射板からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルを検出するステップと、該検出した電気信号のレベルを基準レベルとして前記記憶部に記憶させるステップとを行い、各紙幣識別装置が紙幣の識別を行う際には、前記参照反射板からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルを検出しつつ、前記記憶部から読み出した前記基準レベルと比較して、検出したレベルが基準レベルに等しくなるように前記光源の光量を調節するステップと、前記光源と前記受光部とを有する検出部により、前記搬送路に沿って搬送される紙幣の検査面を走査して紙幣固有の電気信号の出力パターンを検出するステップと、該検出した出力パターンと前記記憶部に記憶された前記標準出力パターンとを比較することで前記紙幣を識別するステップとを行うことを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る請求項2記載の紙幣識別方法は、紙幣識別装置の紙幣の搬送路上に表面が白一色の反射標準片を配置し、搬送路に沿って搬送される紙幣の検査面に光を照射するための光源から、反射標準片に光を照射し、反射標準片からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルが予め決められた規定レベルになるように、光源の光量を調節するステップと、該調節を行った状態で、前記光源と前記受光部とを有する検出部により、前記搬送路に沿って搬送される複数の紙幣を走査して電気信号の出力パターンを検出し、該検出した複数の紙幣の出力パターンに基づいて、標準出力パターンを作成するステップと、該標準出力パターンを、各紙幣識別装置の記憶部に記憶するステップと、前記調節した光量における、前記搬送路の紙幣の非検査面側に配置された参照反射板からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルを検出するステップと、該検出した電気信号のレベルを基準レベルとして前記記憶部に記憶させるステップとを行い、各紙幣識別装置の出荷前の調整段階において、各紙幣識別装置の搬送路に沿って搬送される紙幣の検査面に光を照射するための光源から、搬送路の紙幣の非検査面側に配置された参照反射板に光を照射し、該参照反射板からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルが前記基準レベルになるように、光源の光量を調節するステップと、該調節を行った状態で、前記搬送路上に、表面が白一色の反射標準片を配置し、該反射標準片からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルを検出するステップと、該検出したレベルで前記規定レベルを除して得られた比例定数を前記記憶部に記憶するステップとを行い、各紙幣識別装置が紙幣の識別を行う際には、前記参照反射板からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルを検出しつつ、前記記憶部から読み出した前記基準レベルと比較して、検出したレベルが基準レベルに等しくなるように前記光源の光量を調節するステップと、前記光源と前記受光部とを有する検出部により、前記搬送路に沿って搬送される紙幣の検査面を走査して紙幣固有の電気信号の出力パターンを検出するステップと、該検出した出力パターンに前記比例定数を乗じて得られた算出パターンと前記標準出力パターンとを比較して紙幣を識別するステップとを行うことを特徴とする。
【0009】
これによれば、紙幣識別装置に内蔵された参照反射板を用いて、この参照反射板の反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルを基準レベルになるように検出部の特性、具体的には紙幣に照射される光源の光量を調整することにより、結果として搬送路上に反射標準片を配置して受光部が出力する電気信号のレベルが一定になるように検出部の特性を調節したのと同じ効果を得ることが可能となり、検出部の特性に経年変化や周囲温度の影響による変化が生じても、受光部が出力する電気信号のレベルを適切なレベルに補正しながら、精密な紙幣の識別が行えるようになる。
【0010】
また、前記受光部は、フォトセンサと、フォトセンサから出力される電気信号を増幅するアンプと、アンプから入力されたアナログ信号としての電気信号をディジタルデータに変換するA/D変換機とから構成され、前記受光部が出力する電気信号のレベルが前記規定レベルになるよう前記調節を行った際に前記A/D変換器に入力される電圧が、A/D変換器の入力電圧範囲を越えないよう設定されていることを特徴とする。
また、前記標準出力パターンを作成するステップは、前記走査した複数の紙幣の平均的な出力パターンと、該出力パターンのばらつきを考慮して良と判定するための規格範囲とを合わせて、標準出力パターンとすることを特徴とする。
【0011】
また、前記受光部が出力する電気信号のレベルが前記規定レベルになるよう前記調節を行う際に、前記光源の光量を調節するのに替えて、受光部のゲインを調節するとともに、前記受光部が出力する電気信号のレベルが前記基準レベルになるよう前記調節を行う際に、前記光源の光量を調節するのに替えて、受光部のゲインを調節することを特徴とする。
【0012】
これによれば、紙幣識別装置に内蔵された参照反射板を用いて、この参照反射板の反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルを基準レベルになるように検出部の特性、具体的には受光部のゲインを調整することにより、結果として搬送路上に反射標準片を配置して受光部が出力する電気信号のレベルが一定になるように検出部の特性を調節したのと同じ効果を得ることが可能となり、検出部の特性に経年変化や周囲温度の影響による変化が生じても、受光部が出力する電気信号のレベルを適切なレベルに補正しながら、精密な紙幣の識別が行えるようになる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る紙幣識別方法によれば、紙幣識別装置に内蔵された参照反射板を用いて、この参照反射板の反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルを基準レベルになるように検出部の特性、具体的には紙幣に照射される光源の光量や受光部のゲインを定期的に調整することにより、結果として搬送路上に反射標準片を配置して受光部が出力する電気信号のレベルが一定になるように検出部の特性を定期的に調節したのと同じ効果を得ることが可能となり、検出部の特性に経年変化や周囲温度の影響による変化が生じても、受光部が出力する電気信号のレベルを適切なレベルに補正しながら、精密な紙幣の識別が行えるようになるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る紙幣識別方法の好適な実施の形態を添付図面に基づいて詳細に説明する。
(第1の実施の形態)
まず、紙幣識別装置10の構成について説明する。
装置本体12の内部には、装置本体12に設けられた投入口14から投入された紙幣16を搬送路Aに沿って、同じく装置本体12の内部に設けられたストッカ18まで搬送する搬送機構20が設けられている。
【0015】
搬送機構20の一例の概要を説明すると、送りベルト22が、投入口14側の第1プーリ24と、装置本体12の奥側に配置された第2プーリ26との間に平行して2列に掛け渡されている。第2プーリ26が不図示の電動モータにより回転駆動される。
また、第1プーリ24と第2プーリ26との間には、受ローラ28が軸線を中心として回動自在に配置されている。そして、第1プーリ24と受ローラ28のそれぞれには対向して押圧ローラ30a、30bが配置され、押圧ローラ30aと第1プーリ24との間、押圧ローラ30bと受ローラ28との間で、送りベルト22を挟圧する。
第2プーリ26の装置本体12の奥側に向く側面に対向して、この側面との間に紙幣16が進入することができるだけの隙間が空く状態で、断面半円弧状の反転ガイド32が配置されている。
【0016】
ストッカ18は、紙幣識別装置10内に送り込まれた紙幣16を収容するためのものである。
【0017】
検出部34は、搬送路Aに沿って搬送される紙幣16の検査面16a側に配置され、検査面16aに光を照射する光源36および検査面16aからの反射光を受光して電気信号に変換する受光部38を有する。そして検出部34は、紙幣16の検査面16aを走査して紙幣16に固有の電気信号の出力パターンを検出する機能を有する。
光源36は、一例として発光ダイオード36aと、発光ダイオード36aに電流を流すための駆動部としてのトランジスタ36bとから構成できる。この構成により、トランジスタ36bに供給されるベース電流を制御することによって、トランジスタ36bのコレクタ側に流れる電流、すなわち発光ダイオード36aに流れる電流を制御でき、発光ダイオード36aの光量が制御できる。なお、トランジスタ36bに代えてFET等の半導体素子を使用することも可能である。
受光部38は、一例としてフォトセンサ38aと、フォトセンサ38aから出力される電気信号を増幅し、電気信号のレベルを後段のA/D(アナログ/ディジタル)変換器の入力電圧範囲に合わせる第1アンプ38bと、第1アンプ38bから入力されたアナログ信号としての電気信号を、ディジタルデータに変換し、バス40に出力するA/D変換器38cとから構成することができる。
【0018】
参照反射板42は、装置本体12の内部の、搬送路Aの紙幣16の非検査面16b側に配置され、紙幣16が無い場合に光源36からの光を受光部38に反射する機能を有する。
調節部44は、光源36の光量を調節する機能を有する。
詳細には、一例としてバス40からのディジタルデータを受けて、データの内容に応じたレベルのアナログ信号を出力するD/A(ディジタル/アナログ)変換器44aと、D/A変換器44aが出力するアナログ信号を、トランジスタ36bが駆動できるように増幅する第2アンプ(若しくはバッファ)44bとから構成することができる。
【0019】
CPU46は、予め記憶部48に記憶されたプログラムに従って動作し、紙幣識別装置10全体を統括制御する制御部として機能する。具体的には、バス40を介して前述の調節部44や検出部34や搬送機構20を制御し、記憶部48に対してデータの読み書きを行う。
またCPU46は、バス40を介して検出部34が検出した出力パターンを読み取り、予め測定されて記憶部48に記憶された標準出力パターンと比較することで紙幣16を識別する判定部としても機能する。なお、制御部と判定部を、別々の回路要素で構成するようにしても良い。
図1では、上記構成の内、調節部44とCPU46と記憶部48とを合わせて制御ユニットとして表示されている。
【0020】
この標準出力パターンの作成(決定)手法は、まず、この構成の紙幣識別装置10を使用し、その搬送路A上に反射標準片を配置し、この反射標準片からの反射光を受光した受光部38が出力する電気信号のレベルを予め決められたレベル(規定レベル)に合わせる。この理由は、反射標準片は表面が白一色で着色されたシート状体であり、その反射光の光量は識別対象となる紙幣からの反射光よりも大きい。よって、例えば反射標準片からの反射光を受光した受光部38が出力する電気信号が第1アンプ38bで増幅されてA/D変換器38cに入力されるレベル(電圧)をA/D変換器38cの入力電圧範囲を越えないレベルに設定しておけば、紙幣からの反射光が受光部38に入力されてもA/D変換器38cの出力が飽和することがなく、正確な識別が可能となるからである。
次に、この調節を行った状態で、識別を行う紙幣を何枚も走査する。
次に、それら紙幣の各出力パターンを統計的に処理し、平均的な出力パターンと、出力パターンのばらつき等を考慮して良と判定のための規格範囲とを決定し、平均的な出力パターンと規格範囲とを合わせて全体として標準出力パターンとする。
【0021】
次に、紙幣識別装置10の動作について制御部(CPU46)の動作と共に説明する。
まず、光源36の光量を一定に保つために使用する参照用電圧の登録(測定・記憶)動作について図3を用いて説明する。
まず、搬送路A上の所定の位置に不図示の反射標準片を配置し、検出部34の光源36から照射された光が反射標準片で反射されて受光部38に入射するようにする(ステップ100)。例えば、投入口14に挿入された反射標準片を、制御部が搬送機構20を作動させて装置本体12内に引き込み、反射標準片が光源36からの光を受光部38へ反射させる前記所定の位置に移動したら搬送機構20を停止する。
【0022】
次に、光源36を発光させる。具体的には制御部は、D/A変換器44aに所定のデータを与える(ステップ102)。これにより、このデータに対応したアナログ信号がD/A変換器44aから出力され、第2アンプ44bで増幅される。増幅されたアナログ信号はトランジスタ36bに入力され、トランジスタ36bが動作して発光ダイオード36aに電流が流れて、発光ダイオード36aが、D/A変換器44aに入力された所定のデータの量に応じた光量で発光する。
発光ダイオード36aから出射された光は反射標準片で反射され、フォトセンサ38aに入力される。そしてフォトセンサ38aが出力する電気信号(アナログ信号)は第1アンプ38bで増幅され、A/D変換器38cに入力される。
【0023】
制御部では、受光部38が出力する電気信号のレベル(具体的にはA/D変換器38cから出力されるディジタルデータ)を検出しつつ(ステップ104)、検出したこの電気信号のレベルが前述の規定レベルと一致しているか否かを判断する(ステップ106)。
そして、制御部は、A/D変換器38cからのデータが規定レベルに達していない場合には、D/A変換器44aに入力するデータを増やし、一方、規定レベルを越えている場合にはD/A変換器44aに入力するデータを減らす(ステップ108)。つまり、光源36の光量を調節する。
【0024】
制御部では、ステップ104〜ステップ108を繰り返し、ステップ106において、A/D変換器38cからのデータが規定レベルになったら、D/A変換器44aに入力するデータを固定する。
そして、その後搬送機構20を逆に動作させて反射標準片を投入口14側に搬送して投入口14から突出させ、反射標準片によって光源36からの光が遮られていた参照反射板42に光が照射されるようにする。これにより、参照反射板42からの反射光が受光部38に入射する(ステップ110)。
次に、制御部では、この状態でのA/D変換器38cからのデータを、バス40を介して取り込み、参照反射板42からの反射光のレベルを測定し(ステップ112)、基準レベルとして記憶部48に記憶する(ステップ114)。
【0025】
以上で、基準レベルの記憶動作が終了する。これにより、経年変化や周囲温度変化によって光源36の発光ダイオード36aの光量が変化しても、参照反射板42からの反射光の光量が、予め測定して記憶した基準レベルとなるように調節部44のD/A変換器44aへのデータを調整することによって、搬送路A上に反射標準片を配置して反射標準片からの反射光の光量を一定に保つように調整するのと同様の効果を得ることができる。
この基準レベルの記憶動作は、通常は紙幣識別装置10の製造後の出荷前の調整段階で行うようにする。
【0026】
次に、紙幣識別装置10の識別動作について図4を用いて説明する。
まず、電源が投入されると、制御部が各構成要素の初期化を行う。また、紙幣16が投入されていない状態において、検出部34を介して参照反射板42からの反射光の光量をチェックし、つまりA/D変換器38cから出力されるデータをチェックし、このデータが正常かどうか、すなわちこのデータが予め記憶部48に記憶された基準レベルと同じであるか否かを調べる(ステップ200)。
そして、異なる場合には、制御部は、D/A変換器44aに入力するデータを増減することで、光源36の光量を調節する(ステップ202)。
そして、ステップ200〜ステップ202を繰り返し、A/D変換器38cの出力データを基準レベルに一致させる。
【0027】
そして、ステップ200においてA/D変換器38cの出力データが基準レベルになったら、制御部は紙幣16が投入口14に投入されるのを待つ(ステップ204)。また、本実施の形態では、紙幣16の投入を待っている状態でも、ステップ200に戻り、待機している間に光源36の光量が変動した場合にはA/D変換器38cの出力データを検出していて、D/A変換器44aに入力するデータを増減し、A/D変換器38cの出力データが基準レベルになるように調節する。なお、このステップ204におけるA/D変換器38cの出力データのチェックは、光源36の光量が変動しにくい場合には省くことも可能である。
【0028】
次に、紙幣16が投入口14内に挿入されると、制御部では不図示の投入検出センサを介して紙幣の投入を検出して搬送機構20を作動させ、投入口14に挿入された紙幣16を装置本体12の内部に搬送すると共に、検出部34で紙幣16を走査し、紙幣16に固有の出力パターンを採取し、記憶部48に記憶する(ステップ206)。また、制御部は、走査が完了した時点、つまり紙幣16の搬送方向の後端側(投入口14方向の端部)が検出部34による検出位置(光の照射位置)を横切った後で紙幣を一旦停止する。
次に、CPU46は判定部として動作し、ステップ206で取り込んだ出力パターンと記憶部48に記憶してある標準出力パターンとを比較し、紙幣16の識別を行う(ステップ208)。
【0029】
そして識別の結果、紙幣16からの出力パターンが標準出力パターンと相違する場合には、投入された紙幣16は偽造(不合格)であると判断し、ステップ210の返却ルーチンを実行する。具体的には、この返却ルーチンでは、制御部は搬送機構20を作動させて紙幣16を投入口14側へ搬送し、投入口14から排出する(紙幣16の端部が投入口14から突出した状態まで搬送して停止することも、ここで言う排出に含まれるとする)。
一方、ステップ208において、紙幣16からの出力パターンが標準出力パターンと同じになり、検査された紙幣16が本物(合格)であると判断した場合には、ステップ212の採用ルーチンを実行する。具体的には、この採用ルーチンでは制御部は搬送機構20を制御して、紙幣16をさらに装置本体12の奥方向へ搬送し、最終的にストッカ18内に収容する。
以上が、紙幣識別装置10の動作である。
【0030】
このように本発明に係る紙幣識別装置10を用いた紙幣識別方法は、紙幣16の識別を行う際には、前もって光源36の光量のチェックを行い、この光量がシフトしている場合、つまりA/D変換器38cからの出力データが基準レベルになっていない場合には、参照反射板42を利用して自動的に光源36の光量を修正することができるから、正確な紙幣識別が行える。
【0031】
(第2の実施の形態)
本実施の形態の紙幣識別装置の基本構成は、前述の第1の実施の形態と同じであり、同じ構成については同じ符号を付し、説明は省略する。
そして識別方法の基本的な考え方も、第1の実施の形態と同じであり、紙幣16の識別を行う際には、前もって光源36の光量のチェックを行い、この光量がシフトしている場合、つまりA/D変換器38cからの出力データが基準レベルになっていない場合には、内蔵された参照反射板42を利用して自動的に光源36の光量を修正する点が特徴点となっている。
【0032】
そして、相違する部分は、紙幣識別装置の識別動作にあり、詳細には光源36の光量を一定に保つために使用される基準レベルの決定手法と、紙幣からの出力パターンを標準出力パターンと比較する手法とが相違する。
【0033】
以下、具体的に説明する。
まず、基準レベルの決定手法について図5を用いて、第1の実施の形態と比較しながら説明する。
第1の実施の形態では前述のように、まず搬送路A上に反射標準片を配置して、この反射標準片からの反射光の光量が、標準出力パターンを作成した際の光量(この反射光を受光した受光部38からの出力が規定レベルとなる光量)と同じになるように光源36を調節した後に、参照反射板42からの反射光を受光した受光部38が出力するデータを基準レベルとしているのに対し、本実施の形態では、第1の実施の形態と同じ標準出力パターンを使用することを前提として、まず最初に、光源36を発光させ(ステップ300)、参照反射板42からの反射光の光量(具体的には受光部38からの出力レベル)を測定する(ステップ302)。
【0034】
そして、ステップ302で測定したレベルが、予め実験的また経験的に求めた基準レベルと一致しているか否かを判断し(ステップ304)、一致していない場合には光源36の光量を調節する(ステップ306)ことを、ステップ302で測定したレベルが、基準レベルになるまで繰り返す。
なお、ここで基準レベルは、搬送路A上に反射標準片を配置し、この反射標準片からの反射光を受光した受光部38が出力する電気信号のレベルを規定レベルとして調整して標準出力パターンを作成した際の、参照反射板42からの反射光を受光した受光部38が出力するレベルを使用するようにしても良い。
【0035】
そして、ステップ304において、ステップ302で測定したレベルが、基準レベルと一致したら、第1の実施の形態のステップ100と同じ手順で搬送路A上に反射標準片を配置し(ステップ308)、第1の実施の形態のステップ104と同じ手順で反射標準片からの反射光のレベルを検出する(ステップ310)。
そして検出したこのレベルで、前述の規定レベルを除し、比例定数を算出し、求めたこの比例定数を記憶部48に記憶する(ステップ312)。
【0036】
そして実際の紙幣の識別動作は、図6に示すように第1の実施の形態の動作と略同じ動作で紙幣を識別するのであるが、異なるところは、ステップ206において、紙幣16を走査した際に受光部38から出力される電気信号のレベルにこの比例定数を乗して得られたレベルに基づいて出力パターンを作成する点にある。なお、一旦、受光部38から出力される電気信号のレベルに基づいて出力パターンを求め、この出力パターンに比例定数を乗じてもよい。この比例定数を乗じて得られる出力パターンを算出パターンという。
そして、判定部ではステップ208の合否判定において、求めた算出パターンと標準出力パターンとを比較して紙幣の識別を行う。
他の、ステップは第1の実施の形態と同じであり、同じ符号を付し、説明は省略する。
【0037】
これにより、同一の紙幣識別装置が、経年変化等で、その検出特性が変わっていっても、内蔵された参照反射板42を用いて、その反射光を受光した受光部38からの出力が基準レベルとなるように光量調節することで、誤差の少ない正確な紙幣識別が行える。
また、紙幣識別装置個々に、その部品の組み付け位置や、部品の特性がばらついていることによって、その検出特性が異なってくるが、やはり参照反射板42を用いて、その反射光を受光した受光部38からの出力が基準レベルとなるように光量調節した後、装置個々の比例定数を算出して出力パターンに比例定数を乗ずることで、共通の標準出力パターンを使用して紙幣識別が行える。
【0038】
(第3の実施の形態)
本実施の形態の紙幣識別装置の基本構成および動作は、前述の第1の実施の形態と類似しており、同じ構成については同じ符号を付して説明は省略し、相違する構成や動作についてのみ説明する。
相違する構成は、第1の実施の形態では、調節部44は光源36の光量を調節する機能を有するものであったのに対し、本実施の形態では図8に示すように、検出部38の第1アンプ38bを、そのゲインを調整可能な構成としておいて、調節部44はこの第1アンプ38bのゲインを調節する機能を有するものとなっている。
【0039】
この構成でも、第1の実施の形態と同様に、紙幣16の識別を行う際には、前もって検出部38のゲイン(詳細には第1アンプ38bのゲイン)のチェックを行い、このゲインが経年変化や温度変化等でシフト(変化)している場合、つまりA/D変換器38cからの出力データが基準レベルになっていない場合には、内蔵された参照反射板42を利用して自動的に第1アンプ38bのゲインを修正して、正確な紙幣識別を行えるようになる。
なお、本実施の形態でも、図3や図4の動作フローに従って動作するが、図3のステップ108や図4のステップ202は、「光源の光量調節」に代えて、「検出部のゲイン調節」となる。
【0040】
(第4の実施の形態)
本実施の形態の紙幣識別装置の基本構成や動作は、前述の第2の実施の形態と類似しており、同じ構成については同じ符号を付して説明は省略し、相違する構成や動作についてのみ説明する。
相違する構成は、第2の実施の形態では、調節部44は光源36の光量を調節する機能を有するものであったのに対し、本実施の形態では第3の実施の形態と同様に図8に示すように、検出部38の第1アンプ38bを、そのゲインを調整可能な構成としておいて、調節部44はこの第1アンプ38bのゲインを調節する機能を有するものとなっている。
【0041】
動作は、基本的に第2の実施の形態と同様に、図5や図6の動作フローに従う。ただし、第3の実施の形態と同様に、図5のステップ306や図6のステップ202は、「光源の光量調節」に代えて、「検出部のゲイン調節」となる。
また、上述した「検出部のゲイン調節」という概念には、D/A変換器44aを介しての発光ダイオード36aの光量調節や検出部38の第1アンプ38bのゲイン調節以外にも、例えば検出部38のA/D変換器38cから出力されたディジタルデータを直接加工して補正することも含まれるものとする。この場合には、調節部はCPU46が兼ねることになる。
【0042】
以上、本発明の好適な実施の形態について種々述べてきたが、本発明は上述する実施の形態に限定されるものではなく、発明の精神を逸脱しない範囲で多くの改変を施し得るのはもちろんである。
例えば、図2に示す構成において、D/A変換器44aを、トランジスタ36bを直接駆動可能なものとすれば、第2アンプ44bは使用しなくても良い。図8でも同様。また、同様にフォトセンサ38aを、A/D変換器38cの入力電圧範囲に適したものとすれば、第1アンプ38bは不要となる。
また、CPU46に、A/D変換機能やD/A変換機能が内蔵されたものを使用すれば、A/D変換器38cやD/A変換器44aは不要となる、等である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明に係る紙幣識別方法で用いられる紙幣識別装置の機械的構成を説明するための説明図である。
【図2】図1の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【図3】本発明に係る紙幣識別方法で用いられる紙幣識別装置の第1の実施の形態の基準レベルを決定する手順を説明するためのフローチャートである。
【図4】図3の紙幣識別動作を説明するためのフローチャートである。
【図5】本発明に係る紙幣識別方法で用いられる紙幣識別装置の第2の実施の形態の基準レベルを決定し、比例定数を算出する手順を説明するためのフローチャートである。
【図6】図5の紙幣識別動作を説明するためのフローチャートである。
【図7】一般的な反射形光センサの検出特性(光電流と検出距離との関係)を示すグラフである。
【図8】本発明に係る紙幣識別方法で用いられる紙幣識別装置の第3、4の実施の形態の電気的構成を説明するためのブロック図である。
【符号の説明】
【0044】
10 紙幣識別装置
16 紙幣
16a 紙幣の検査面
16b 紙幣の非検査面
20 搬送機構
34 検出部
36 光源
38 受光部
42 参照反射板
44 調節部
48 記憶部
A 搬送路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙幣識別装置の紙幣の搬送路上に表面が白一色の反射標準片を配置し、搬送路に沿って搬送される紙幣の検査面に光を照射するための光源から、反射標準片に光を照射し、反射標準片からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルが予め決められた規定レベルになるように、光源の光量を調節するステップと、
該調節を行った状態で、前記光源と前記受光部とを有する検出部により、前記搬送路に沿って搬送される複数の紙幣を走査して電気信号の出力パターンを検出し、該検出した複数の紙幣の出力パターンに基づいて、標準出力パターンを作成するステップと、
該標準出力パターンを、各紙幣識別装置の記憶部に記憶するステップとを行い、
各紙幣識別装置の出荷前の調整段階において、
各紙幣識別装置の紙幣の搬送路上に表面が白一色の反射標準片を配置し、搬送路に沿って搬送される紙幣の検査面に光を照射するための光源から、反射標準片に光を照射し、反射標準片からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルが前記規定レベルになるように、光源の光量を調節するステップと、
該調節した光量における、前記搬送路の紙幣の非検査面側に配置された参照反射板からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルを検出するステップと、
該検出した電気信号のレベルを基準レベルとして前記記憶部に記憶させるステップとを行い、
各紙幣識別装置が紙幣の識別を行う際には、
前記参照反射板からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルを検出しつつ、前記記憶部から読み出した前記基準レベルと比較して、検出したレベルが基準レベルに等しくなるように前記光源の光量を調節するステップと、
前記光源と前記受光部とを有する検出部により、前記搬送路に沿って搬送される紙幣の検査面を走査して紙幣固有の電気信号の出力パターンを検出するステップと、
該検出した出力パターンと前記記憶部に記憶された前記標準出力パターンとを比較することで前記紙幣を識別するステップとを行うことを特徴とする紙幣識別方法。
【請求項2】
紙幣識別装置の紙幣の搬送路上に表面が白一色の反射標準片を配置し、搬送路に沿って搬送される紙幣の検査面に光を照射するための光源から、反射標準片に光を照射し、反射標準片からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルが予め決められた規定レベルになるように、光源の光量を調節するステップと、
該調節を行った状態で、前記光源と前記受光部とを有する検出部により、前記搬送路に沿って搬送される複数の紙幣を走査して電気信号の出力パターンを検出し、該検出した複数の紙幣の出力パターンに基づいて、標準出力パターンを作成するステップと、
該標準出力パターンを、各紙幣識別装置の記憶部に記憶するステップと、
前記調節した光量における、前記搬送路の紙幣の非検査面側に配置された参照反射板からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルを検出するステップと、
該検出した電気信号のレベルを基準レベルとして前記記憶部に記憶させるステップとを行い、
各紙幣識別装置の出荷前の調整段階において、
各紙幣識別装置の搬送路に沿って搬送される紙幣の検査面に光を照射するための光源から、搬送路の紙幣の非検査面側に配置された参照反射板に光を照射し、該参照反射板からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルが前記基準レベルになるように、光源の光量を調節するステップと、
該調節を行った状態で、前記搬送路上に、表面が白一色の反射標準片を配置し、該反射標準片からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルを検出するステップと、
該検出したレベルで前記規定レベルを除して得られた比例定数を前記記憶部に記憶するステップとを行い、
各紙幣識別装置が紙幣の識別を行う際には、
前記参照反射板からの反射光を受光した受光部が出力する電気信号のレベルを検出しつつ、前記記憶部から読み出した前記基準レベルと比較して、検出したレベルが基準レベルに等しくなるように前記光源の光量を調節するステップと、
前記光源と前記受光部とを有する検出部により、前記搬送路に沿って搬送される紙幣の検査面を走査して紙幣固有の電気信号の出力パターンを検出するステップと、
該検出した出力パターンに前記比例定数を乗じて得られた算出パターンと前記標準出力パターンとを比較して紙幣を識別するステップとを行うことを特徴とする紙幣識別方法。
【請求項3】
前記受光部は、フォトセンサと、フォトセンサから出力される電気信号を増幅するアンプと、アンプから入力されたアナログ信号としての電気信号をディジタルデータに変換するA/D変換機とから構成され、
前記受光部が出力する電気信号のレベルが前記規定レベルになるよう前記調節を行った際に前記A/D変換器に入力される電圧が、A/D変換器の入力電圧範囲を越えないよう設定されていることを特徴とする請求項1または2記載の紙幣識別方法。
【請求項4】
前記標準出力パターンを作成するステップは、前記走査した複数の紙幣の平均的な出力パターンと、該出力パターンのばらつきを考慮して良と判定するための規格範囲とを合わせて、標準出力パターンとすることを特徴とする請求項1〜3のうちのいずれか一項記載の紙幣識別方法。
【請求項5】
前記受光部が出力する電気信号のレベルが前記規定レベルになるよう前記調節を行う際に、前記光源の光量を調節するのに替えて、受光部のゲインを調節するとともに、
前記受光部が出力する電気信号のレベルが前記基準レベルになるよう前記調節を行う際に、前記光源の光量を調節するのに替えて、受光部のゲインを調節することを特徴とする請求項1〜4のうちのいずれか一項記載の紙幣識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−236370(P2006−236370A)
【公開日】平成18年9月7日(2006.9.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−105997(P2006−105997)
【出願日】平成18年4月7日(2006.4.7)
【分割の表示】特願2000−18906(P2000−18906)の分割
【原出願日】平成12年1月27日(2000.1.27)
【出願人】(393017018)
【出願人】(397011111)株式会社ウインテック (87)
【Fターム(参考)】