説明

紙用耐水耐油剤、紙処理方法および加工紙

本発明に係る炭素数1〜6のポリフルオロアルキル基を有する(メタ)アクリレートモノマー、親水性モノマーおよびアニオン供与基を有するモノマーを共重合して得られる含フッ素共重合体を含んでなる紙用耐水耐油剤は、優れた耐水性および耐油性を付与する。本発明はまた、該耐水耐油剤を用いる紙処理方法および該耐水耐油剤で処理された加工紙を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な紙用耐水耐油剤、該耐水耐油剤による紙加工方法、および該方法で得られた加工紙に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、紙用耐水耐油剤、すなわち紙用の耐水耐油加工剤としては、炭素数6〜12程度の長鎖ポリフルオロアルキル基(以下、Rf基と記す。)を含む共重合体組成物が用いられてきた。
【0003】
一方、長鎖のRf基からは、環境への影響があるとされるPerfluoro-octanoic acid(以下、「PFOA」と略す)の生成がUS EPA(米国環境保護庁)から指摘された。そのため、短鎖のRf基を有する含フッ素共重合体を用いる紙用耐水耐油剤の開発が模索されてきた。しかしながら、Rf基の炭素数が小さいほど、耐水性や耐油性は低下する傾向があり、短鎖のRf基を含む共重合体の耐水耐油特性は満足できるものではなく、紙に十分な耐水耐油性を付与するためには種々の工夫を要する。
【0004】
例えば、杉本らは、炭素数1〜6のR基を有する含フッ素(メタ)アクリレートモノマー、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレートモノマー、およびイタコン酸からなる重合単位を必須成分とする含フッ素共重合体を含む紙用耐水耐油剤(WO2009/057716号)を提案している。
この紙用耐水耐油剤の耐水耐油特性はかなり改良されたものの、従来の長鎖Rf基を含む共重合組成物の特性に比べれば、更なる性能向上が求められる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2009/057716号
【発明の概要】
【0006】
本発明者らは、短鎖のRf基を有する特定の重合単位を含む含フッ素共重合体で、かつ、高分子量を有する共重合体を必須成分とする紙用処理剤が、驚くべきことに、優れた耐水耐油性を示すことを発見し、本発明に到達した。
すなわち本発明の主題は、
(a)一般式:
CH2=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (1)
[式中、Xは、水素原子、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基であり;
Yは、−O−または−NH−であり;
Zは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、
-CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)または
-CH2CH(OZ1) CH2−基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)または
-(CH2)m−SO2−(CH2)n−基 または -(CH2)m−S−(CH2)n−基(但し、mは1〜10、nは0〜10、である)、
Rfは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。]
で表される、フルオロアルキル基を有する含フッ素モノマー、
(b)親水性モノマー、および
(c)アニオン供与基を有するモノマー、
から誘導された繰り返し単位を必須成分として含有する含フッ素共重合体であって、質量平均分子量が100,000以上である含フッ素共重合体を含んでなる紙用耐水耐油剤に関するものである。質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーによりポリメチルメタクリレート換算で求めた値である。
また、本発明の主題は、上記紙用耐水耐油剤を用いて紙を処理する方法、および該処理によって得られる耐水耐油性加工紙に関するものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、紙に優れた耐水耐油性を付与する含フッ素共重合体からなる紙用耐水耐油剤を提供すると共に、該耐水耐油剤を用いる紙の処理方法、および、該耐水耐油剤を用いる耐水耐油性加工紙を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明において、含フッ素共重合体の組成は紙用耐水耐油剤としての耐水耐油特性に大きな影響を及ぼす。本発明で用いる含フッ素共重合体について説明する。
含フッ素モノマー(a)は、アクリレートまたはメタアクリレートのα位がハロゲン原子などで置換されていることがある。したがって、式(1)において、Xが、炭素数2〜21の直鎖状または分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基であってよい。
【0009】
上記式(1)において、Rf基が、パーフルオロアルキル基であることが好ましい。Rf基の炭素数は、1〜6、特に4〜6、特別には6であってよい。Rf基の例は、−CF3、−CF2CF3、−CF2CF2CF3、−CF(CF3) 2、−CF2CF2CF2CF3、−CF2CF(CF3) 2、−C(CF3) 3、−(CF2)4CF3、−(CF2) 2CF(CF3) 2、−CF2C(CF3) 3、−CF(CF3)CF2CF2CF3、−(CF2)5CF3、−(CF2)3CF(CF3) 2等である。特に、−(CF2)5CF3が好ましい。
【0010】
含フッ素モノマー(a)の具体例としては、例えば以下のものを例示できるが、これらに限定されるものではない。
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−C6H4−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2N(−CH3) SO2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2N(−C2H5) SO2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−CH2CH(−OH) CH2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−CH2CH(−OCOCH3) CH2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−H)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CH3)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2H )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−CF2H )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2H )−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CN )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−CN )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CN )−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−Rf
CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)2−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2CF3 )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−Rf
CH2=C(−CF2CF3 )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2CF3 )−C(=O)−NH−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−F)−C(=O)−NH−(CH2)3−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−Cl)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−CF2H)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2H )−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−CF2H )−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−CN)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CN )−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−CN )−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−S−Rf
CH2=C(−CF2CF3)−C(=O)−O−(CH2)3−S−(CH2)2−Rf
CH2=C(−CF2CF3 )−C(=O)−O−(CH2)3−SO2−Rf
CH2=C(−CF2CF3 )−C(=O)−O−(CH2)2−SO2−(CH2)2−Rf
[上記式中、Rfは、炭素数1〜6、好ましくは、4〜6のフルオロアルキル基である。]
【0011】
含フッ素モノマー(a)におけるフルオロアルキル基(Rf基)は、好ましくは、パーフルオロアルキル基であり、特に好ましくは、炭素数4〜6のパーフルオロアルキル基であってよい。
含フッ素モノマー(a)は、2種類以上の混合物であってもよい。
含フッ素モノマー(a)の量は、含フッ素共重合体に対して、40〜90重量%、好ましくは45〜85重量%、特に好ましくは60〜85重量%であってよい。
【0012】
親水性モノマー(b)は、好ましくは、一般式:
CH2=CX1C(=O)−O−(RO)n−X2 (2a)
および
CH2=CX1C(=O)−O−(RO)n−C(=O)CX1=CH2 (2b)
[式中、
1は、水素原子またはメチル基、
2は、水素原子または炭素数1〜22の不飽和または飽和の炭化水素基
Rは、炭素数2〜6のアルキレン基、
nは、1〜90の整数
である。]
で表わされる少なくとも1つのオキシアルキレン(メタ)アクリレート、例えば、ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレートおよび/または2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートである。
オキシアルキレン基は好ましくはC2〜C6、より好ましくはC2〜C4である。ポリオキシアルキレン基の中のオキシアルキレン基の平均重合度は2〜20、好ましくは2〜10であってよい。
【0013】
前記オキシアルキレン(メタ)アクリレートを例示すれば、CH2=CH-C(=O)-O-CH2CH2OH, CH2=C(CH3)-C(=O)-O-CH2CH2OH, CH2=CH-C(=O)-O-(CH2CH2O)2H, CH2=CH-C(=O)-O-(CH2CH2O)3H, CH2=CH-C(=O)-O-(CH2CH2O)11H, CH2=CH-C(=O)-O-(CH2CH2O)12H, CH2=C(CH3)-C(=O)-O-(CH2CH2O)2H, CH2=C(CH3)-C(=O)-O-(CH2CH2O)3H, CH2=C(CH3)-C(=O)-O-(CH2CH2O)11H, CH2=C(CH3)-C(=O)-O-(CH2CH2O)12H, CH2=CH-C(=O)-O-(CH2)2-OCH3, CH2=CH-C(=O)-O-(CH2)2-OCH2CH3, CH2=C(CH3)-C(=O)-O-(CH2)2-OCH3, CH2=C(CH3)-C(=O)-O-(CH2)2-OCH2CH3, CH2=CH-C(=O)-O-(CH2CH2O)C(=O)-CH=CH2, CH2=CH-C(=O)-O-(CH2CH2O)2C(=O)-CH=CH2, CH2=C(CH3)-C(=O)-O-(CH2CH2O)C(=O)-CH=CH2, CH2=C(CH3)-C(=O)-O-(CH2CH2O)2C(=O)-CH=CH2等が挙げられる。
【0014】
前記オキシアルキレン(メタ)アクリレートは、好ましくは、ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート(b1)および/または2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(b2)であってよい。
【0015】
モノマー(c)は、アニオン供与基および炭素―炭素二重結合を有する化合物である。アニオン供与基はカルボキシル基またはスルホン酸基であってよい。モノマー(c)は、好ましくは、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、アクリルアミドターシャリーブチルスルホン酸、またはそれらの塩、からなる群から選択されたものであってよい。特に好ましいモノマー(c)は、(メタ)アクリル酸である。
【0016】
含フッ素共重合体中のモノマー(a)の量は、好ましくは、40〜90重量%であり、モノマー(b)の量は、2〜50重量%であり、モノマー(c)の量は0.1〜30重量%である。より好ましくは、含フッ素共重合体中のモノマー(a)の量は、60〜85重量%であり、モノマー(b)の量は、5〜35重量%であり、モノマー(c)の量は1〜15重量%であってよい。
【0017】
また、親水性モノマー(b)が、好ましくは、ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート(b1)と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(b2)とからなる場合であり、前記(b)の重量%範囲は、(b1)と(b2)との合計量の範囲となる。即ち、モノマー(a)、(b1)、(b2)、(c)間の重量比は、好ましくは、(a):(b1):(b2):(c)が60〜85:1〜15:5〜20:1〜15であってよい。
【0018】
本発明においては、含フッ素共重合体の組成と共に、含フッ素共重合体の分子量が耐水耐油特性に大きな影響を及ぼす。本発明の含フッ素共重合体の質量平均分子量は100,000以上であり、好ましくは、100,000〜3,000,000であり、さらに好ましくは、120,000〜2,000,000である。分子量がこの範囲内の場合、満足すべき耐水耐油特性および粘度特性等が得られる。
【0019】
本発明に係る含フッ素共重合体の好ましい実施態様を以下に示す。
好ましい実施態様の1つ目は、含フッ素共重合体の構成として、含フッ素共重合体を構成するモノマー(a)が、一般式(1)においてRfが4〜6個の炭素原子を含むパーフルオロアルキル基を表す少なくとも1種の含フッ素モノマーであり、
親水性モノマー(b)が、少なくとも1つのω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート(b1)および/または2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(b2)であり、
アニオン供与基含有モノマー(c)が(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸からなる群から選択されたものが挙げられる。
【0020】
具体的には、含フッ素モノマー(a)が、F(CF2)4CH2CH2OCOCH=CH2またはF(CF2)6CH2CH2OCOCH=CH2またはこれらの混合物であり、
親水性モノマー(b)が、ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート(b1)および/または2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(b2)であり、
アニオン供与基含有モノマー(c)が(メタ)アクリル酸であるものが挙げられる。
この実施態様においてさらに好ましくは、
モノマー(a)が、F(CF2)4CH2CH2OCOCH=CH2 またはF(CF2)6CH2CH2OCOCH=CH2またはこれらの混合物であり、
親水性モノマー(b)が、ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート(ポリオキシエチレンの平均重合度≒2〜10)(b1)および/または2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(b2)であり、
モノマー(c)が(メタ)アクリル酸であって、これらの重量比(a):(b):(c)が60〜85:5〜35:1〜15であり、得られる含フッ素重合体の質量平均分子量が120,000〜2,000,000であるものが挙げられる。
【0021】
本発明は、本発明に係る紙用耐水耐油剤を紙の表面に適用する工程を含む、紙を耐水耐油処理する方法に関する。この処理方法を、以後、「外添法」と称する。この方法においては、本発明の含フッ素共重合体からなる紙用耐水耐油剤を、紙の重量に対するフッ素原子の割合が0.005〜0.6重量%になるような量で適用することが好ましい。
【0022】
本発明はまた、本発明に係る紙用耐水耐油剤を、紙の内部を含む紙全体に適用する工程を含む、紙を耐水耐油処理する方法に関する。この処理方法を、以後、「内添法」と称する。この方法においては、本発明の含フッ素共重合体からなる紙用耐水耐油剤を、パルプの沙紙段階で適用する。具体的には、該紙用耐水耐油剤を、パルプ重量に対するフッ素原子の割合が0.01〜1.0重量%になるような量で使用することが好ましい。
【0023】
本発明はまた、本発明に係る紙用耐水耐油剤で処理された耐水耐油性加工紙に関するものである。
本発明はまた、上記外添法および内添法で得られる耐水耐油性加工紙に関するものである。
【0024】
本発明の含フッ素共重合体の製造は、モノマー(a)、(b)(または、(b1)および/または(b2))、および(c)を、液体媒体中で重合することによって行うことができる。液体媒体は、水溶性または水に分散する溶媒であることが好ましい。液体媒体は、水溶性または水に分散する有機溶媒を含む混合物であってもよい。モノマーおよび液体媒体は、モノマーが液体媒体に溶解した溶液の形態であることが好ましい。重合は、溶液重合でも乳化重合でもよいが、重合反応の安定性の点から溶液重合が好ましい。
【0025】
本発明において、共重合を行った後に、無機または有機塩基の水溶液を添加してモノマー(c)からの構成単位(アニオン供与基)を中和するか;または、予め塩基で中和したモノマー(c)を用いて共重合を行ってよい。モノマー(c)を予め塩基で中和した後、モノマーを重合する場合には、塩基水溶液による中和を要しない。
無機または有機塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミン、トリ−n−プロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリ−n−ブチルアミン、トリ−sec−ブチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノー2−メチル−1−プロパノール、2−アミノ−メチル−1,3−プロパンジオール、2−アミノ−2−ヒドロキシメチル−1,3−プロパンジオール、ビス(ヒドロキシメチル)メチルアミノメタン、トリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、リジン、アルギニン等の有機塩基類を挙げることができる。これらの内、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、トリエチルアミン、ジエタノールアミンおよびトリエタノールアミン等が、得られる含フッ素共重合体の水性媒体への分散性向上の点で好ましい。
共重合後の重合体混合物は、必要に応じて、液体媒体(例えば、水、あるいは無機または有機塩基の水溶液)を加えて、希釈してよい。
【0026】
共重合を行うために使用される液体媒体である水溶性または水に分散する有機溶媒の非限定的な例として、ケトン類(例えば、アセトンまたはメチルエチルケトン)、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール)、エーテル類(例えば、エチレングリコールやプロピレングリコールのメチルまたはエチルエーテル、およびその酢酸エステル、テトラヒドロフラン、およびジオキサン)、アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ブチロラクトン及びジメチルスルホキシドを挙げることができる。メチルエチルケトン(MEK)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、またはN−メチル−2−ピロリドンとアセトンの混合物、イソプロパノール、またはメタノールを溶媒として使用することが好ましい。溶液中の全モノマーの濃度は、20〜70重量%、好ましくは40〜60重量%の範囲をとることができる。
【0027】
共重合は、少なくとも一種類の開始剤を、全モノマー重量に対して0.1〜3.0%の割合で使用することで行ってよい。開始剤として、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイル、過酸化スクシニル、過ピバル酸tert−ブチルなどの過酸化物、または、例えば2,2−アゾビスイソブチロニトリル、4,4−アゾビス(4−シアノペンタン酸)、アゾジカーボンアミドなどのアゾ化合物を使用することができる。
共重合体の分子量を調節する場合には、連鎖移動剤を用いてよい。連鎖移動剤としては、アルキルメルカプタン(ドデシルメルカプタン、ラウリルメルカプタン、ステアリルメルカプタン等)、アミノエタンチオール、メルカプトエタノール、チオグリコール酸、2−メルカプトプロピオン酸等が好ましく挙げられる。連鎖移動剤の使用量は、共重合反応における全モノマー重量100部に対して、0.05〜1重量部の範囲で用いてよい。
共重合は、40℃から反応混合物の沸点までの温度範囲で行うことができる。
【0028】
希釈段階は、含フッ素共重合体の有機溶液に、液体媒体、例えば、水、強いまたは中強度の無機あるいは有機塩基水溶液を加えることによって行うことができる。このような塩基として、上述と同様の塩基類を挙げることができる。それらの中でも、水酸化ナトリウム、アンモニアを使用することが好ましい。使用する水溶液の量とその塩基の濃度は、一つはモノマー(c)のカルボキシル基またはスルホン酸基を中和するため、さらにもう一つは最終含フッ素共重合体溶液の固形分含量を5〜35重量%、好ましくは15〜25重量%とするために、十分な量であることが好ましい。
カルボキシル基またはスルホン酸基を中和するためには、塩基の量を、モノマー(c)に対して0.1〜5当量、好ましくは0.5〜3当量とすると好都合である。
【0029】
本発明に係る含フッ素共重合体を有効成分とする耐水耐油剤を適用する紙は、従来既知の抄造方法によって製造できる。抄造前のパルプスラリーに処理剤を添加する内添法、または抄造後の紙に処理剤を適用する外添法を用いることができる。
本発明の紙用耐水耐油剤を紙の表面に適用する場合(外添法)には、耐水耐油剤を、紙の重量に対するフッ素原子の割合が、0.005〜0.6重量%、特に0.01〜0.4重量%になるような量で使用することが好ましい。一方、耐水耐油剤が紙の内部を含む紙全体に適用される場合(内添法)には、紙用耐水耐油剤を、パルプ重量に対するフッ素原子の割合が0.01〜1.0重量%、特に0.02〜0.6重量%になるような量で使用することが好ましい。
このように処理された紙基材は、室温または高温での簡単な乾燥後に、任意に、基材の性質に依存して、高々300℃まで、例えば、200℃までの温度範囲をとり得る熱処理を伴うことで、優れた疎油性および疎水性を示す。
【0030】
本発明において処理される紙基材は、石膏ボード原紙、コート原紙、中質紙、一般ライナー及び中芯、中性純白ロール紙、中性ライナー、防錆ライナー及び金属合紙、クラフト紙などである。さらに紙基材としては、中性印刷筆記用紙、中性コート原紙、中性PPC用紙、中性感熱用紙、中性感圧原紙、中性インクジェット用紙及び中性情報用紙も挙げられる。また、モールドを使用して成型するモールド紙、特にモールド容器も挙げられる。パルプモールド容器は、例えば、特開平9−183429号公報に記載された方法によって製造することができる。
【0031】
紙を形成するパルプ原料としては、クラフトパルプあるいはサルファイトパルプ等の晒あるいは未晒化学パルプ、砕木パルプ、機械パルプあるいはサーモメカニカルパルプ等の晒あるいは未晒高収率パルプ、新聞古紙、雑誌古紙、段ボール古紙あるいは脱墨古紙等の古紙パルプのいずれも使用することができる。また、上記パルプ原料と石綿、ポリアミド、ポリイミド、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリビニルアルコール等の合成繊維との混合物も使用することができる。
外添法または内添法を適用する際には、耐水耐油剤の他、必要に応じサイズ剤を加えることで、紙の耐水性をさらに向上させることができる。サイズ剤の例は、カチオン性サイズ剤、アニオン性サイズ剤、ロジン系サイズ剤(例えば、酸性ロジン系サイズ剤、中性ロジン系サイズ剤)である。スチレン−アクリル酸系共重合体、アルケニルコハク酸無水物、アルキルケテンダイマーが好ましい。サイズ剤の量は、パルプに対して0.001〜5重量%であってよい。
またその他必要に応じて、紙用処理剤に製紙用薬品として通常使用される澱粉、各種変性澱粉、カルボキシメチルセルロース、ポリアミドポリアミン−エピクロルヒドリン(PAE)、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド(poly−DADMAC)、ポリアクリルアミド(PAM)等の紙力増強剤、歩留り向上剤、染料、蛍光染料、填料、顔料、スライムコントロール剤、防滑剤、消泡剤等を使用してもよい。 外添法としてはサイズプレス、コーティング(ゲートロールコーター、ビルブレードコーター、バーコーターなど)等で、紙に処理することができる。
【0032】
以下に、実施例を示し、本発明を具体的に説明する。実施例は、本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。「部」および「%」は、特記しなければ、「重量部」および「重量%」である。
以下において使用した試験方法は次のとおりである。
「粘度」
溶液の粘度は、液温を25℃に調節し、回転式粘度計で測定した。
【0033】
「安定性試験」
含フッ素共重合体の水分散安定性(水性分散体)の安定性を確認した。まず固形分濃度が20重量%となるように調整した水分散液を110mlの透明ガラス製サンプル瓶に入れて7日間、室温にて静置し沈降や凝集の有無を目視にて確認した。沈降、凝集の無いものを○、わずかに沈降、凝集のあるものを△、沈降、凝集の多いものを×として評価した。
【0034】
「耐水性試験: コッブ(Cobb)試験[ JIS P 8140]」
1センチメートルの水の高さを支える1平方メートルの紙により1分間に吸収される水の重量(g)を測定することからなる。
【0035】
「耐油性試験(Kit Test)」
耐油性は、TAPPI T−559cm−02法に従って測定した。表1に示す試験油1滴を紙の上におき、15秒後に油の浸透状態を観察する。浸透を示さない試験油が与える耐油度の最高点を耐油性とする。
【0036】
【表1】

【0037】
「AGR(Aggressive-grease Resistance)テスト」
このテストは、ペットフード包装用の耐グリース紙の適性を検証するために特に有用である。要約すれば、このテストは、ペットフードとテストされる紙試料との標準条件における接触を意味する。テスト用のペットフードとしてサイエンスダイエット(Hill’s社製)(登録商標)を使用した。テストに際してこのペットフードを予めミキサーで製粉しておく。10×10cm寸法を有する耐グリース紙片を、テスト用に切り出し、テストされる試料のそれに正確に等しい表面を有する、100の小四角の格子を印刷されているコート紙シート上に置く。格子上に位置あわせする前に、試料に僅かにクリーズを入れる。まず向かい合う2辺の各々の中心を結ぶ線に沿って折り曲げ、次いでクリーズを、重量2450+110g、直径8cmおよび幅7cmを有し、厚さ0.6cmを有する調節された硬度のゴム層で覆われた適切なロールで補強する。折り目付け中のロールの速度は50〜60cm/秒である。両方の向かい合う2辺の各々の中心を結ぶ線に沿って折り目を付けられ、第二のクリーズを反対側に紙のクリーズ付けをすることで成す。折り目を有する試料を、格子表面を完全に覆うように格子上に置く。7.2cmに等しい内径と2.5cmに等しい高さを有する金属環を、試料の真ん中に置く。次いで、製粉されたペットフード36gを採取し、テストされる紙片の上の環の内部に均一に置く。次いで、筒形状の1.5kgに等しいおもりを、紙片上に置かれた製粉されたペットフードの上に置く。全てのものを、60℃、相対湿度50%の恒温槽中に24時間入れる。この時間が経過し、おもりとペットフードを除去し、試料の表面に発生した脂肪の浸透を検査する。テスト結果は、脂肪の浸透を下敷きの格子表面のパーセンテージにより表現する。有意義な結果を得るために、同じ処理に供された少なくとも4試料についてテストを行い、最終結果を4テストの平均とする。
【0038】
合成例1
撹拌装置、温度計、還流冷却器、滴下漏斗、窒素流入口および加熱装置を備えた容積500mlの反応器を用意し、溶媒のメチルエチルケトン(MEK)を100部添加した。続いて、撹拌下、F(CF2)6CH2CH2OCOCH=CH2(「C6FA」と称す)77部、ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMA)13部、ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレンアクリレート(日油社製ブレンマーAE−200:ポリオキシエチレン基の平均重合度≒4.5)5部、およびメタアクリル酸(MAA)5部からなるモノマー(モノマー計100部)、および開始剤の4,4’−アゾビス(4−シアノペンタン酸)0.5部をこの順に添加し、この混合物を70℃の窒素雰囲気下で12時間混合撹拌して共重合を行った。得られた共重合体含有溶液(S1)の固形分濃度は50重量%であった。得られた含フッ素共重合体の分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィーで分析したところ、ポリメチルメタクリレート換算の質量平均分子量は500,000であった。
【0039】
合成例2
連鎖移動剤のラウリルメルカプタン(L−SH)を0.1部追加し、開始剤を過ピバリル酸−t−ブチル0.5部とする以外は、合成例1と同様に共重合を行なって、共重合体含有溶液(S2)を得た。この溶液の固形分濃度は50重量%であった。ポリメチルメタクリレート換算の質量平均分子量は150,000であった。
【0040】
合成例3
F(CF2)6CH2CH2OCOCH=CH2(C6FA)を74部、ヒドロキシエチルメタアクリレート(HEMA)を16部、開始剤を過ピバリル酸−t−ブチル0.5部とする以外は、合成例1と同様に共重合を行った。得られた共重合体含有溶液(S3)の固形分濃度は50重量%であった。ポリメチルメタクリレート換算の質量平均分子量は500,000であった。
【0041】
合成例4
メタアクリル酸(MAA)に代えて、イタコン酸(IA)を5部用いる他は、合成例1と同様に共重合を行った。得られた共重合体含有溶液(S4)の固形分濃度は50%であった。ポリメチルメタクリレート換算の質量平均分子量は180,000であった。
【0042】
比較合成例1
連鎖移動剤のラウリルメルカプタン(L−SH)を0.3部追加する以外は、合成例1と同様に共重合を行なった。得られた共重合体含有溶液(R1)の固形分濃度は50重量%であった。ポリメチルメタクリレート換算の質量平均分子量は50,000であった。
【0043】
比較合成例2
連鎖移動剤のラウリルメルカプタン(L−SH)を1.0部追加する以外は、合成例1と同様に共重合を行なった。得られた共重合体含有溶液(R2)の固形分濃度は50%であった。ポリメチルメタクリレート換算の質量平均分子量は10,000であった。
【0044】
比較合成例3
メタアクリル酸(MAA)に代えて、イタコン酸(IA)を5部用いる他は、合成例2と同様に共重合を行った。得られた共重合体含有溶液(R3)の固形分濃度は50%であった。ポリメチルメタクリレート換算の質量平均分子量は45,000であった。

合成例1〜4および比較合成例1〜3で得られた溶液の粘度の測定結果を表2に示す。
【0045】
【表2】

【0046】
調製例1
合成例1で得られた含フッ素共重合体溶液(S1)の50gに塩基として23%アンモニア水1.2gとイオン交換水90gを添加し、乳化分散させた後、エバポレーターを用いて加熱、減圧下でMEKを留去し、淡黄色透明な含フッ素共重合水分散液(揮発性有機溶媒の含有量は1重量%以下)を得た。この水分散液にさらにイオン交換水を加えて固形分濃度20重量%である水分散液(SD1)を得た。
得られたSD1の分散安定性を前記の方法で評価した結果を表3に示す。
【0047】
調製例2〜3
合成例2および3で得られた含フッ素共重合体溶液(S2およびS3)について、塩基として10%水酸化ナトリウム水溶液6.0g、水85gを用い調製例1と同様にして固形分濃度20重量%である水分散液(SD2およびSD3)をそれぞれ得た。
得られたSD2およびSD3の分散安定性を測定した結果を表3に示す。
【0048】
調製例4
合成例4で得られた含フッ素共重合体溶液(S4)について、塩基としてジエタノールアミン1.3gとした以外は調製例1と同様にして固形分濃度20重量%である水分散液(SD4)をそれぞれ得た。
得られたSD4の分散安定性を測定した結果を表3に示す。
【0049】
比較調製例1〜2
比較合成例1〜2で得られた含フッ素共重合体溶液(R1〜R2)について、調製例1と同様にして固形分濃度20重量%である水分散液(RD1〜RD2)をそれぞれ得た。
得られたRD1〜RD2の分散安定性を測定した結果を表3に示す。
【0050】
比較調製例3
比較合成例3で得られた含フッ素共重合体溶液(R3)について、塩基としてジエタノールアミン1.3gとした以外は調製例1と同様にして固形分濃度20重量%である水分散液(RD3)を得た。
得られたRD3の分散安定性を測定した結果を表3に示す。
【0051】
実施例1(外添法での評価)
<試験紙の作製>
米国のウエストミシガン大学内にある試験抄紙機を用いて作製した。製造方法を以下に示す。
パルプの種類は、LBKB(=広葉樹さらしクラフトパルプ)とNBKP(針葉樹さらしクラフトパルプ)を使用し、比率は6/4(L/N)であり、かつ、パルプのろ水度が400ml(Canadian Standard Freeness)のパルプを使用した。パルプ濃度が約2%のスラリーの中に、カチオン化スターチStayloc400(Tate and Lyle社製)を乾燥パルプに対して2重量%添加し、さらにサイズ剤Hercon70(Hercules社製)を乾燥パルプに対して0.0375重量%添加したパルプスラリーを使用して長網抄紙機により紙を作製した。得られた紙の坪量は60g/m、厚みは0.01mmであった。またこの紙の耐水性(Cobb値)は80g/m、耐水性(Kit値)は0であった。
調製例1で得られた含フッ素共重合体水分散液(SD1)を耐水耐油剤として用い、以下の処方により、含浸加工により耐水耐油紙(加工紙)を製造した。
調製例1で得られた含フッ素共重合体の水分散液(SD1)を、固形分濃度が0.2重量%となるように希釈して、耐水耐油剤組成物を調製した。
この耐水耐油剤組成物に、上で調整した紙を5秒間含浸し、ドラムドライヤーを用いて、115℃、70秒間の乾燥を行ったものを試験用の原紙とした。
得られた原紙を試験紙として用い、上記キット試験(Kit Test)およびコッブ試験(Cobb Test)を行った。評価結果を表3に示す。
【0052】
実施例2〜4(外添法での評価)
調製例2〜4で得られた含フッ素共重合体の水分散液(SD2〜4)を耐水耐油剤として用い、実施例1と同様にして、それぞれ、固形分濃度が0.2重量%となるように希釈して、耐水耐油剤組成物を調製し、それぞれの組成物を用いて実施例1と同様にキット試験およびコッブ試験を行った。評価結果を表3に示す。
【0053】
比較例1〜3(外添法での評価)
比較調製例1〜3で得られた含フッ素共重合体の水分散液(RD1〜3)を耐水耐油剤として用い、実施例1と同様にして、それぞれ、固形分濃度が0.2重量%となるように希釈して、耐水耐油剤組成物を調製し、それぞれの組成物を用いて実施例1と同様にキット試験およびコッブ試験を行った。評価結果を表3に示す。
【0054】
【表3】

【0055】
実施例5(内添法での評価)
ろ水度が450cc(カナディアンフリーネス)に、叩解した40部の広葉樹漂白クラフトパルプと60部の針葉樹漂白クラフトパルプとの混合物の0.5重量%の水分散液875gをかき混ぜながら添加し、次いでカチオン化スターチ(SANGUAN WONGSE IND.CO.,LTD製SB GUM−POSIT300)の1%固形分水溶液を3.06g添加して1分間攪拌し続け、次いでポリアミドアミン-エピクロルヒドリン(日本PMC(株)製WS-4020、湿潤紙力増強剤)の1%固形分水溶液を1.31g添加して1分間撹拌し続け、次いで調製例1の含フッ素共重合体の水分散液(SD1)を水で固形分1%に希釈したもの1.31gを添加して撹拌を1分間続けた。
このパルプスラリーをJIS P8222記載の手すき機(手すき機は紙の形が25cm×25cmになるように改造した。)を用いて抄紙した。
抄いた紙を濾紙の間に挟んで3.5kg/cmの圧力でプレスし、充分水を吸い取ってから、ドラム式ドライヤーで乾燥(115℃×70秒)して耐水耐油紙を得た。
得られた手抄紙の坪量は70g/mであった。またこの手抄紙の耐水性(Cobb値)は100g/m以上、耐油性(Kit値)は0、耐油性(AGR値)は100であった。
【0056】
実施例6〜7(内添法での評価)
実施例5における含フッ素共重合体水分散液のSD1に代えて、調製例2〜3で得られた含フッ素共重合体水分散液SD2〜SD3をそれぞれ用いる他は、実施例5と同様に実験を行った。得られた耐水耐油紙の耐水性および耐油性を評価した結果を表4に示す。
【0057】
比較例4〜6(内添法での評価)
実施例5における含フッ素共重合体水分散液のSD1に代えて、比較調製例1〜3で得られた含フッ素共重合体水分散液RD1〜RD3をそれぞれ用いる他は、実施例5と同様に実験を行った。得られた耐水耐油紙の耐水性および耐油性の評価結果を表4に示す。
【0058】
【表4】

表4より、実施例5〜7は耐油性、耐水性および安定性とも優れているのに対し、比較例4、5は耐水性が、比較例5、6は安定性が、それぞれ劣っていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、紙に優れた耐水耐油性を付与する含フッ素共重合体からなる紙用耐水耐油剤を提供すると共に、該耐水耐油剤を用いる紙の処理方法、および、該耐水耐油剤を用いる耐水耐油性加工紙を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)一般式:
CH2=C(−X)−C(=O)−Y−Z−Rf (1)
[式中、Xは、水素原子、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のアルキル基、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、CFX12基(但し、X1およびX2は、水素原子、フッ素原子、塩素原子、臭素原子またはヨウ素原子である。)、シアノ基、炭素数1〜21の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基、置換または非置換のベンジル基、置換または非置換のフェニル基であり;
Yは、−O−または−NH−であり;
Zは、炭素数1〜10の脂肪族基、炭素数6〜10の芳香族基または環状脂肪族基、
-CH2CH2N(R1)SO2−基(但し、R1は炭素数1〜4のアルキル基である。)または
-CH2CH(OZ1) CH2−基(但し、Z1は水素原子またはアセチル基である。)または
-(CH2)m−SO2−(CH2)n−基 または -(CH2)m−S−(CH2)n−基(但し、mは1〜10、nは0〜10、である)、
Rfは、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のフルオロアルキル基である。]
で表される、フルオロアルキル基を有する含フッ素モノマー、
(b)親水性モノマー、および
(c)アニオン供与基を有するモノマー、
から誘導された繰り返し単位を必須成分として含有する含フッ素共重合体であって、質量平均分子量が100,000以上である含フッ素共重合体を含んでなる紙用耐水耐油剤。
【請求項2】
モノマー(a)におけるフルオロアルキル基(Rf基)がパーフルオロアルキル基である、請求項1に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項3】
モノマー(a)におけるフルオロアルキル基(Rf基)が炭素数4〜6のパーフルオロアルキル基である、請求項1に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項4】
モノマー(b)が一般式:
CH2=CX1C(=O)−O−(RO)n−X2 (2a)
および
CH2=CX1C(=O)−O−(RO)n−C(=O)CX1=CH2 (2b)
[式中、
1は、水素原子またはメチル基、
2は、水素原子または炭素数1〜22の不飽和または飽和の炭化水素基
Rは、炭素数2〜6のアルキレン基、
nは、1〜90の整数
である。]
で表わされる少なくとも1つのオキシアルキレン(メタ)アクリレートである、請求項1に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項5】
前記オキシアルキレン(メタ)アクリレートが、少なくとも1つのω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート(b1)および/または2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(b2)である、請求項4に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項6】
モノマー(c)がアニオン供与基および炭素―炭素二重結合を有する化合物である、請求項1に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項7】
アニオン供与基がカルボキシル基またはスルホン酸基である請求項1に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項8】
モノマー(c)が、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸、ビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、ビニルベンゼンスルホン酸、アクリルアミドターシャリーブチルスルホン酸、またはそれらの塩、からなる群から選択されたものである、請求項1に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項9】
含フッ素共重合体中のモノマー(a)の量が、40〜90重量%であり、モノマー(b)の量が、2〜50重量%であり、モノマー(c)の量が0.1〜30重量%である、 請求項1に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項10】
含フッ素共重合体の質量平均分子量が、100,000〜3,000,000である、請求項1に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項11】
含フッ素共重合体の質量平均分子量が、120,000〜2,000,000である、請求項1に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項12】
モノマー(a)が、一般式(1)においてRfが4〜6個の炭素原子を含むパーフルオロアルキル基を表す少なくとも1種の含フッ素モノマーであり、
モノマー(b)が、ω−ヒドロキシ−ポリオキシアルキレン(メタ)アクリレート(b1)および/または2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(b2)であり、
モノマー(c)が(メタ)アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸およびシトラコン酸からなる群から選択されたものである、
請求項1に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項13】
モノマー(a)が、F(CF2)4CH2CH2OCOCH=CH2 またはF(CF2)6CH2CH2OCOCH=CH2またはこれらの混合物であり、
モノマー(b)が、ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート(b1)および/または2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(b2)であり、
モノマー(c)が(メタ)アクリル酸である、請求項1に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項14】
モノマー(a)、(b)、(c)間の重量比(a):(b):(c)が60〜85:5〜35:1〜15であり、得られる含フッ素重合体の質量平均分子量が120,000〜2,000,000である、請求項13に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項15】
モノマー(a)が、F(CF2)4CH2CH2OCOCH=CH2 またはF(CF2)6CH2CH2OCOCH=CH2またはこれらの混合物であり、
モノマー(b)が、ω−ヒドロキシ−ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート(b1)と2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート(b2)とからなり、
モノマー(c)がメタアクリル酸である、請求項1に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項16】
モノマー(a)、(b1)、(b2)、(c)間の重量比(a):(b1):(b2):(c)が60〜85:1〜15:5〜20:1〜15であり、得られる含フッ素重合体の質量平均分子量が120,000〜2,000,000である、請求項15に記載された紙用耐水耐油剤。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれか1つに記載された紙用耐水耐油剤を紙の表面に適用する工程を含む、紙を耐水耐油処理する方法。
【請求項18】
紙用耐水耐油剤を、紙の重量に対するフッ素原子の割合が0.005〜0.6重量%になるような量で使用する、請求項17に記載された方法。
【請求項19】
請求項1〜16のいずれか1つに記載された紙用耐水耐油剤を、紙の内部を含む紙全体に適用する工程を含む、紙を耐水耐油処理する方法。
【請求項20】
紙用耐水耐油剤を紙の内部を含む紙全体に適用する工程が、パルプの抄紙段階で紙用耐水耐油剤を適用する工程である、請求項19に記載された方法。
【請求項21】
紙用耐水耐油剤を、パルプ重量に対するフッ素原子の割合が0.01〜1.0重量%になるような量で使用する、請求項20に記載された方法。
【請求項22】
請求項1〜16のいずれか1つに記載された紙用耐水耐油剤で処理された加工紙。
【請求項23】
請求項17に記載された方法で得られる加工紙。
【請求項24】
請求項19に記載された方法で得られる加工紙。

【公表番号】特表2013−503267(P2013−503267A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526269(P2012−526269)
【出願日】平成22年8月31日(2010.8.31)
【国際出願番号】PCT/JP2010/065191
【国際公開番号】WO2011/027877
【国際公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(000002853)ダイキン工業株式会社 (7,604)
【Fターム(参考)】