説明

紙葉類光学特性識別装置、紙葉類光学特性識別装置の設計方法、紙葉類光学特性検出方法

【課題】 紙葉類の光学特性の検出を簡単な構成で精度良く行う。
【解決手段】 紙幣鑑別装置20は、紫外光を照射する照射部40、可視カットフィルタ50、紫外カットフィルタ60、ラインタイプの受光素子を有する検出部70を備えている。検出部70は、紫外カットフィルタ60を透過した光を受光する鑑別用センサ71と、紫外カットフィルタ60を透過しない光を受光する較正用センサ72,73とを備えている。紙幣鑑別装置20は、紙幣Caを光路上に配置しない状態で、照射部40を照射して、鑑別用センサ71,72の出力を読み取り、出荷時にメモリに記憶した鑑別用センサ71,72の初期出力値と比較する。そして、その差が規定範囲内となるように、照射部40の光量等を制御した上で、紙幣鑑別処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙葉類の光学特性を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
金融機関においては、無人で入出金業務を行える現金自動取引装置が広く普及している。現金自動取引装置においては、取り扱う紙幣の真偽を判別する紙幣鑑別装置が設けられ、紙幣に光を照射して、照射光を励起光として得られる蛍光や燐光を検出したり、照射光の反射や透過の状態を識別したりして、紙幣の真偽が判別される。こうした紙幣鑑別装置において、光源の光量は、周囲温度の影響や経年劣化によって変動するため、真偽判別性能を正確に保ち続けるために、必要に応じて光量を補正する必要がある。こうしたことから、種々の光量補正技術が開発されている(例えば、下記特許文献1、特許文献2)。
【0003】
特許文献1では、紫外光を照射した紙葉類から得られる蛍光を検出する蛍光受光素子とは別の箇所に、紫外光受光用の紫外光受光素子を設けて、当該紫外光受光素子の検出結果を用いて光量補正を行う技術を開示している。また、特許文献2では、紫外光照射部、紙幣、反射板の順に配置し、紙幣に対して紫外線照射部と同じ側に設けられた蛍光受光素子で蛍光を受光し、また、紙幣が配置されていないときの反射板の反射光を受光する紫外光受光素子を別途設けて、当該紫外光受光素子の検出結果を用いて光量補正を行う技術を開示している。
【0004】
しかしながら、これらの技術では、紫外光照射部の光量劣化をモニタするための独立した個別の紫外光受光素子を配置することが必要であり、その受光素子や光電変換する回路分の部品点数の増加、装置の複雑化・大型化などが問題となっていた。また、特許文献2の技術は、紫外光照射部と紫外光及び蛍光発光を受光する受光部とを対向して配置し、紙葉類の透過蛍光発光量及び透過紫外光量を識別する構成とする場合、紫外光照射部と受光素子との光路を反射板で塞ぐことになってしまうので、採用することができない。かかる問題は、紙幣鑑別装置に限らず、紙幣、有価証券、帳票などの紙葉類の光学特性を検出する種々の紙葉類光学特性検出装置に共通する問題であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−197506号公報
【特許文献2】特開2003−067805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の問題の少なくとも一部を考慮し、本発明が解決しようとする課題は、紙葉類の光学特性の検出を簡単な構成で精度良く行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0008】
[適用例1]紙葉類の光学特性を検出する紙葉類光学特性識別装置であって、
光を照射する照射部と、
前記照射部が照射する照射光の光路の一部に設けられ、特定の波長の光を選択的に透過させるバンドパスフィルタと、
光を検出する受光素子が複数配列された検出部であって、前記バンドパスフィルタを透過した光を受光する、少なくとも1つの受光素子からなる第1の受光素子と、前記バンドパスフィルタを透過しない経路の光を少なくとも受光する、少なくとも2つの受光素子からなる第2の受光素子とを備えた検出部と、
前記照射光の光路上に配置された前記紙葉類から、該紙葉類に照射された照射光を励起光として得られる二次光であって、前記バンドパスフィルタを透過した二次光の前記第1の受光素子での検出結果に基づいて、前記紙葉類の光学特性を識別する識別部と、
前記照射光の光路上に前記紙葉類が配置されていない状態における、前記第2の受光素子での検出結果に基づいて、前記第1の受光素子での検出結果を較正する制御部と
を備えた紙葉類光学特性識別装置。
【0009】
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置は、紙葉類に光を照射して得られる二次光をバンドパスフィルタに透過させ、第1の受光素子で検出した結果に基づいて、紙葉類の光学特性を識別する。ここで、制御部は、照射光の光路上に紙葉類が配置されていない状態における第2の受光素子での検出結果に基づいて、照射部の発光光量を制御し、及び/または、第1の受光素子での検出結果を補正する。したがって、周囲温度の影響や経年劣化によって光量が変動しても、その影響を較正して、紙葉類の光別特性を精度良く識別することができる。また受光素子が複数配列され、第1の受光素子と第2の受光素子とを備える検出部を用いるので、第1の受光素子と第2の受光素子とを個別的に配置する必要がない。したがって、装置構成を簡略化することができる。また、第2の受光素子は、少なくとも2つの受光素子からなるので、第2の受光素子での検出結果の信頼性を高めることができる。その結果、制御部の発光光量の制御や検出結果の補正を精度良く行い、紙葉類の識別精度を向上させることができる。
【0010】
[適用例2]前記制御部は、前記較正として、前記照射部の発光光量の制御、前記第1の受光素子での検出結果の補正、前記第1の受光素子の感度の調整のうちの、少なくとも1つを行う適用例1記載の紙葉類光学特性識別装置。
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置は、照射部の発光光量の制御、第1の受光素子での検出結果の補正、第1の受光素子の感度の調整の少なくとも1つを行うので、周囲温度の影響や経年劣化によって光量が変動しても、その影響を好適に較正して、紙葉類の光別特性を精度良く識別することができる。
【0011】
[適用例3]前記照射部と前記検出部とは、前記バンドパスフィルタを介して、対向して配置された適用例1または適用例2記載の紙葉類光学特性識別装置。
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置は、照射部と検出部とは対向して配置されるので、照射部と検出部とが同一方向側に向かって配置される場合と比べて、反射板などが必要なく、装置構成を簡略化することができる。
【0012】
[適用例4]前記照射部は、単一の光源である適用例1ないし適用例3のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置。
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置は、装置構成を簡略化することができる。また、第2の受光素子は、少なくとも2つの受光素子からなるので、第2の受光素子の各々の出力値の大きさの違いから、単一光源の光軸ずれが生じているか否かを検証することができる。つまり、紙葉類光学特性識別装置の製造段階において、光軸ずれが生じている場合、光軸ずれの解消作業を行うことができる。したがって、識別精度の高い紙葉類光学特性識別装置を提供することができる。
【0013】
[適用例5]前記第2の受光素子を構成する少なくとも2つの受光素子は、互いに離れて配置された2つの受光素子を含む適用例4記載の紙葉類光学特性識別装置。
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置は、単一光源の光軸ずれが生じた場合に、第2の受光素子の各々の出力値に差異が生じやすい。つまり、光軸ずれを把握しやすい。
【0014】
[適用例6]前記第2の受光素子を構成する少なくとも2つの受光素子は、前記照射光の光軸を対称軸とする対称形に配置された適用例5記載の紙葉類光学特性識別装置。
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置は、光軸ずれが生じた場合に、対称形に配置された第2の受光素子の出力値間に差異が生じるので、光軸ずれを把握しやすい。
【0015】
[適用例7]前記第2の受光素子は、前記照射光の光軸に対して前記第1の受光素子よりも遠い位置に設けられた適用例4ないし適用例6のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置。
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置において、識別部が用いる第1の受光素子の検出結果は、紙葉類とバンドパスフィルタを通過した光を検出するものであり、制御部が用いる第2の受光素子の検出結果は、紙葉類とバンドパスフィルタのいずれも通過しない光を検出するものである。つまり、概して、第2の受光素子の方が、第1の受光素子よりも出力値が大きくなる。ここで、第2の受光素子は、第1の受光素子よりも照射光の光軸に対して遠い位置に設けられる。つまり、第2の受光素子は、照射部からの光学距離が相対的に長く、照射光が相対的に減衰する位置に設けられる。したがって、第2の受光素子を光軸から相対的に遠ざけることで、第1の受光素子と第2の受光素子の出力レベルを近づけることができる。
【0016】
[適用例8]更に、前記照射光の光路上に前記紙葉類が配置されていない状態における、前記第2の受光素子での検出結果に基づいて、前記照射光の光軸のずれを検知する光軸ずれ検知部を備えた適用例4ないし適用例7のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置。
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置は、照射光の光路上に紙葉類が配置されていない状態における、第2の受光素子での検出結果に基づいて、光軸ずれを検知することができるので、製造段階において、あるいは、出荷後の使用時において、光軸ずれが生じたまま、つまり、制御部や識別部の精度が低下した状態で使用されることを避けることができる。
【0017】
[適用例9]前記制御部は、前記光軸ずれ検知部の検知結果に基づいて、前記第1の受光素子での検出結果を補正する適用例8記載の紙葉類光学特性識別装置。
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置は、光軸ずれの検知結果に基づいて第1の受光素子での検出結果を補正するので、光軸ずれによる影響を較正して、紙葉類の光別特性を精度良く識別することができる。
【0018】
[適用例10]適用例1ないし適用例3のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置であって、前記照射部は、複数の光源が前記受光素子の配列方向に並んで配置されたライン光源であり、前記バンドパスフィルタは、前記受光素子の配列方向に少なくとも1つのスリットを備えた紙葉類光学特性識別装置。
【0019】
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置は、ライン光源を備えているので、単一光源の場合と比べて、広範囲に光を照射して、広範囲の紙葉類を一度に識別することができる。また、バンドパスフィルタが少なくとも1つのスリットを備えているので、例えば、バンドパスフィルタの両端部と、スリット対応部分とに第2の受光素子を配置することができる。つまり、第2の受光素子の配置間隔を小さくすることができる。したがって、ライン光源を構成する各々の光源の光量変化などによって、検出部の受光素子の配列方向に亘って光源ムラが生じても、その影響を抑制できる。また、検出部の位置に応じて、当該位置の近くに配された第2の受光素子の検出結果に基づいて、制御部の較正を精度良く行うことができる。
【0020】
[適用例11]前記制御部は、前記第2の受光素子のうちの、前記第1の受光素子と隣接しない受光素子での出力結果に基づいて、前記較正を行う適用例1ないし適用例10のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置。
【0021】
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置は、第1の受光素子と隣接しない受光素子での出力結果に基づいて、つまり、バンドパスフィルタを透過した光の影響を受けない箇所の受光素子での出力結果に基づいて、較正を精度良く行うことができる。
【0022】
[適用例12]前記制御部は、前記第2の受光素子のうちの、相対的に出力値が大きい受光素子での出力結果に基づいて、前記較正を行う適用例1ないし適用例11のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置。
【0023】
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置は、相対的に出力値が大きい受光素子での出力結果に基づいて、較正を行うので、結果として、バンドパスフィルタを透過した光の影響を受けて、出力が低下した受光素子の出力結果は用いない。したがって、適用例10と同様の効果を奏する。
【0024】
[適用例13]前記制御部は、前記第2の受光素子のうちの、前記バンドパスフィルタを透過した光と、前記バンドパスフィルタを透過しない光とが干渉しない位置に設けられた受光素子での出力結果に基づいて、前記較正を行う適用例1ないし適用例12のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置。
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置も、同様の理由によって、適用例10と同様の効果を奏する。
【0025】
[適用例14]適用例1ないし適用例13のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置の設計方法であって、前記第2の受光素子が前記バンドパスフィルタを透過した二次光を受光したと仮定した場合に、該第2の受光素子での該二次光の検出レベルが検出可能範囲に満たない位置に該第2の受光素子を配置する紙葉類光学特性識別装置の設計方法。
【0026】
かかる構成の紙葉類光学特性識別装置の設計方法は、第2の受光素子における出力レベルを低く抑えることができるので、装置を低コスト化することができる。また、二次光の検出レベルが検出可能な範囲となる位置の全てに第1の受光素子を配置すれば、第1の受光素子を多く確保することができる。その結果、同時に広範囲の紙葉類の光学特性を識別して、効率的な識別を行うことができる。
【0027】
また、本発明は、適用例15に示す紙葉類光学特性検出方法としても実現可能である。
[適用例15]紙葉類の光学特性を検出する紙葉類光学特性検出方法であって、紙葉類に単一光源から得られる光を照射して、照射した照射光から得られる二次光を、特定の波長の光を選択的に透過させるバンドパスフィルタを透過させ、透過した透過光を第1の受光素子で検出する検出工程と、少なくとも2つの受光素子である第2の受光素子に、前記紙葉類を介さずに前記単一光源から得られる光を照射して、前記バンドパスフィルタを介さずに受光させて、該第2の受光素子での検出結果に基づいて、該照射光の光軸ずれを検知する検知工程と、前記検知工程での検知結果に基づいて、前記検出工程の検出結果を補正する補正工程と、前記補正工程での補正結果に基づいて、前記紙葉類の光学特性を識別する識別工程とを備えた紙葉類光学特性検出方法。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1実施例としての紙幣鑑別装置20の概略構成を示す説明図である。
【図2】紙幣鑑別装置20の検出ユニット30の構成を模式的に表した斜視図である。
【図3】検出部70の詳細を示す説明図である。
【図4】出荷調整処理の流れを示すフローチャートである。
【図5】検出値較正処理の流れを示すフローチャートである。
【図6】較正用センサ72,73の位置の決定方法を示す説明図である。
【図7】較正用センサ72,73の位置の決定方法を示す説明図である。
【図8】較正用センサ72,73の位置の変形例を示す説明図である。
【図9】紙幣鑑別装置20の製造手順を示す工程図である。
【図10】第2実施例としての検出ユニット400の概略構成を示す説明図である。
【図11】検出部470の詳細を示す説明図である。
【図12】検出部470の変形例を示す説明図である。
【図13】紫外カットフィルタ460の形状の変形例を示す説明図である。
【図14】第3実施例としての紙幣鑑別装置500の概略構成を示す説明図である。
【図15】第3実施例としての検出値較正処理における検出値較正制御について示す説明図である。
【図16】第3実施例としての検出値較正処理の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施例について説明する。
A.第1実施例:
A−1.紙幣鑑別装置20の構成:
図1は、本発明の紙葉類光学特性識別装置の第1実施例としての紙幣鑑別装置20の概略構成を示す説明図である。紙幣鑑別装置20は、紙幣Caの真偽を鑑別する装置であり、例えば、紙幣Caの預け入れ、引き出し、振込み等の取引を行う現金自動取引装置や、商品の無人販売を行う自動販売機などに搭載される。例えば、紙幣鑑別装置20が現金自動取引装置に搭載される場合、紙幣鑑別装置20は、紙幣の出し入れを行う入出金口から、入金紙幣を保管する入金庫への紙幣搬送経路の途中に設けられる。紙幣Caは、一般的に、紫外光を照射しても蛍光を発しない特性を有する紙が使用されると共に、蛍光インクを用いた偽造防止用のパターン(以下、蛍光パターンともいう)が印刷されている。本実施例での紙幣鑑別装置20は、紙幣Caに紫外光を照射し、上述の蛍光パターンが現れるか否かを検出することにより、紙幣Caの真偽を鑑別するものである。図1に示すように、紙幣鑑別装置20は、検出ユニット30と制御ユニット90とを備えている。
【0030】
検出ユニット30は、照射部40、可視カットフィルタ50、紫外カットフィルタ60、検出部70、搬送部80を備えている。照射部40は、紙幣Caの鑑別に用いる紫外光を照射するための光源であり、本実施例では、単一の紫外光LED(Light Emitting Diode)を用いた。単一光源とすることで、装置構成を簡略化できるからである。ただし、照射部40は、複数の光源を備えていてもよい。また、照射部40は、紫外線ランプなどを用いてもよい。
【0031】
検出部70は、照射部40の照射光ILを受光し、検出する受光素子(フォトセンサ)を備えている。本実施例では、検出部70は、後述する搬送部80による紙幣Caの搬送方向と直交する方向に沿って、複数の受光素子が隙間なく配列されたラインタイプの受光素子である。受光素子は、受光した照射光の強さに応じた電圧を出力する素子であり、本実施例では、受光素子として、フォトダイオードを用いた。ただし、受光素子には、フォトトランジスタなどを用いてもよい。検出部70は、照射部40との間に紙幣Caが配された場合には、照射部40からの照射光ILを励起光として発せられる蛍光も受光することができる。また、本実施例においては、照射部40と検出部70とは対向して設けられている。こうすれば、検出ユニット30が反射板などを備えなくても、照射部40の照射光を検出部70で検出することができ、装置を簡略化できるからである。ただし、照射部40と検出部70とは、同一方向側に向かって配置されてもよく、反射板等を用いた構成であってもよい。
【0032】
可視カットフィルタ50は、照射部40と検出部70との間において、照射部40から検出部70に向かう照射光ILの光軸方向に直交する光路断面の全範囲に設けられている。つまり、照射部40からの照射光ILは、必ず、可視カットフィルタ50を透過した後に、検出部70に受光される。可視カットフィルタ50は、照射部40からの照射光ILから可視光をカットし、より精度の高い鑑別を行うために設置されるが、必須ではない。
【0033】
紫外カットフィルタ60は、紫外光をカットするバンドパスフィルタであり、可視カットフィルタ50と検出部70との間において、照射部40から可視カットフィルタ50に向かう照射光ILの光軸方向に直交する光路断面の一部、具体的には、当該断面の中央部に設けられている。つまり、検出部70は、照射光ILが、可視カットフィルタ50と紫外カットフィルタ60とを透過して検出部70に受光される透過光IL1と、可視カットフィルタ50のみを透過して検出部70に受光される紫外光L2とを受光することができる。なお、可視カットフィルタ50と紫外カットフィルタ60との間に紙幣Caが配された場合には、紙幣Caを透過した紫外光は、紫外カットフィルタ60によってカットされるので、透過光IL1は、紫外光によって紙幣Caで励起された蛍光のみを含むこととなる。そのため、透過光IL1を蛍光IL1ともいう。
【0034】
搬送部80は、鑑別対象となる紙幣Caを可視カットフィルタ50と紫外カットフィルタ60との間の照射光ILの光路上に搬送する搬送路である。本実施例では、搬送部80は、駆動式ローラコンベヤを用いた。搬送部80の搬送面には、照射光ILの光路を遮らないように、孔部が設けられている。
【0035】
制御ユニット90は、アナログ回路としての出力増幅部91、AD変換器92を備えている。また、制御ユニット90は、CPU(図示せず)がメモリ(図示せず)に記録されたプログラムを実行することで、データ処理部93、真偽識別部94、検出値較正部95、紫外光制御部96としても機能する。出力増幅部91は、検出部70からの出力電圧を増幅する可変ゲインアンプを備えている。AD変換器92は、出力増幅部91を介した検出部70のアナログ出力をデジタル信号に変換する。
【0036】
データ処理部93は、AD変換器92の出力のうちから、必要なデータを選択して、真偽識別部94や検出値較正部95に出力する。真偽識別部94は、データ処理部93からの出力データに基づいて、紙幣Caの真偽鑑別を行う。検出値較正部95は、データ処理部93からの出力データに基づいて、後述する検出値較正処理により、照射部40の光量の制御等を行う。紫外光制御部96は、検出値較正部95からの制御信号に基づいて照射部40の駆動電流を制御して、照射部40を発光させる。なお、本実施例において、ソフトウェア的に構成した機能は、専用の回路を用いてハードウェア的に構成してもよい。
【0037】
かかる紙幣鑑別装置20の検出ユニット30の構成を模式的に表した斜視図を図2に示す。ここでは、既に説明した構成については、説明を省略する。図示するように、検出部70には、照射部40の照射光ILのうち、可視カットフィルタ50及び紫外カットフィルタ60を透過した透過光IL1を受光する鑑別光受光エリアA1(可視カットフィルタ50と紫外カットフィルタ60との間に紙幣Caが配されたときに、紙幣Caの真偽鑑別を行うための蛍光のみを受光するので、このように呼ぶ)が形成される。また、検出部70の鑑別光受光エリアA1の両脇には、可視カットフィルタ50のみを透過した紫外光IL2を受光する紫外光受光エリアA2が形成される。
【0038】
ここで、検出部70の詳細構成について図3を用いて説明する。本実施例では、検出部70は、図示するように、15個の受光素子が隙間なく配列されている。これらの受光素子は、鑑別用センサ71と較正用センサ72,73とからなる。鑑別光受光エリアA1には鑑別用センサ71が、鑑別光受光エリアA1の両脇の紫外光受光エリアA2には較正用センサ72,73が設けられている。鑑別用センサ71の出力は、紙幣Caの真偽鑑別に用いられる。較正用センサ72,73の出力は、後述する検出値較正処理に用いられる。なお、鑑別用センサ71と較正用センサ72,73の個数は、特に限定するものではなく、それぞれが少なくとも1個以上あればよい。
【0039】
A−2.紙幣鑑別処理:
かかる構成の紙幣鑑別装置20における紙幣鑑別処理について以下に説明する。紙幣鑑別処理とは、紙幣Caの真偽鑑別を行う処理である。紙幣鑑別処理が開始されると、搬送部80は、紙幣Caを照射部40の光路上に搬送する。紙幣Caが光路上に配置されると、制御ユニット90は、紫外光制御部96の処理として、照射部40を発光させる。照射部40からの透過光IL1は、可視カットフィルタ50で可視光がカットされ、紙幣Caに照射される。すると、当該照射光を励起光として、紙幣Caから蛍光が放出され、紫外カットフィルタ60を透過して、鑑別用センサ71に受光される。ここで、紙幣Caを透過した紫外光は、紫外カットフィルタ60によってカットされるので、鑑別用センサ71が受光するのは、蛍光IL1のみである。
【0040】
蛍光IL1を受光すると、鑑別用センサ71及び較正用センサ72,73は、受光した光の強さに応じた電圧を出力増幅部91に出力する。かかる出力は、AD変換器でデジタル変換され、データ処理部93に出力される。データ処理部93は、入力されたデータのうちから、鑑別用センサ71からの出力データのみを選択して、真偽識別部94に出力する。真偽識別部94は、データ処理部93から入力された出力データが表す蛍光パターンと、メモリに記憶された真券の蛍光パターンとのパターンマッチングによって、紙幣Caの真偽鑑別を行う。
【0041】
A−3.検出値較正処理:
上述した紙幣鑑別装置20における検出値較正処理について説明する。検出値較正処理とは、上述した紙幣鑑別処理において精度の良い鑑別を行うために、紙幣鑑別装置20の使用時に、照射部40の経年劣化や周囲温度の影響によって光量が変化することによる鑑別精度への影響を較正する処理である。検出値較正処理について説明する前に、まず、検出値較正処理の前提となる出荷調整処理について図4を用いて説明する。出荷調整処理とは、紙幣鑑別装置20の製造段階に行われる処理である。本実施例においては、出荷調整処理は、ディスプレイを備えたコンピュータ装置を紙幣鑑別装置20の制御ユニット90に接続し、製造者の操作に基づいて、当該コンピュータ装置から制御ユニット90に制御信号を送出することにより、制御ユニット90が実行するものである。
【0042】
図4に示すように、出荷調整処理が開始されると、まず、制御ユニット90は、照射部40を発光させる(ステップS110)。ここで照射部40が照射する照射光ILの強さは、設計段階において定められたデフォルト値である。照射部40を発光させると、制御ユニット90は、データ処理部93の処理として、出力増幅部91及びAD変換器を介してデータ処理部93に入力されたデータのうちの、較正用センサ72,73の出力である初期出力S072p、S073q(p,qは、較正用センサ72,73の各々を示し、ここでは、いずれも1〜3の整数)を読み取る(ステップS120)。初期出力S072p,S073qを読み取ると、制御ユニット90は、当該データを制御ユニット90が備える不揮発性メモリに記憶する(ステップS130)。
【0043】
初期出力S072p,S073qを記憶すると、制御ユニット90は、記憶した出力が規定範囲内の値であるか否かを判断する(ステップS140)。その結果、記憶した出力が規定範囲内であれば(ステップS140:YES)、制御ユニット90は、出荷調整処理を終了する。一方、記憶したデータが規定範囲内でなければ(ステップS140:NO)、較正用センサ72,73の出力特性が規定外であるということであり、制御ユニット90は、コンピュータ装置のディスプレイに、較正用センサ72,73の交換指示を表示させ(ステップS150)、処理を終了する。この場合、製造者は、検出部70を交換して、再度、上述の出荷前調整処理を実行させることとなる。
【0044】
次に、紙幣鑑別装置20における検出値較正処理について、図5を用いて説明する。本実施例では、検出値較正処理は、紙幣鑑別装置20の電源が投入されると開始され、その後、真偽鑑別処理が実行されていない期間、換言すれば、検出ユニット30の光路上に紙幣Caが配置されていない期間において、繰返し実行される。検出値較正処理が開始されると、制御ユニット90は、所定のイベントの発生を待機する(ステップS210)。本実施例において、所定のイベントは、紙幣鑑別装置20を搭載する現金自動取引装置のCPUから、取引が開始されたことの通知を受けたこととした。ただし、こうしたイベントは、特に限定するものではなく、例えば、現金自動取引装置の取引回数が所定回数に達したこと、紙幣鑑別装置20での真偽鑑別処理が所定枚数の紙幣に対して実行されたこと、所定期間が経過したことなどとしてもよい。また、紙幣鑑別装置20が温度センサを備えている場合であれば、当該温度センサでの検出温度が所定の範囲を超えたことなどとしてもよい。
【0045】
そして、所定のイベントの発生を検知すると(ステップS210:YES)、制御ユニット90は、照射部40を発光させる(ステップS220)。照射部40を発光させると、制御ユニット90は、出力増幅部91及びAD変換器を介してデータ処理部93に入力されたデータのうちの、較正用センサ72,73の出力であるセンサ出力S72p、S73qを読み取り、検出値較正部95に出力する(ステップS230)。
【0046】
検出値較正処理は、検出ユニット30の光路に紙幣Caが配置されていない期間に行われるので、センサ出力データS72p、S73qは、可視カットフィルタ50のみを透過した照射光IL(紫外光IL2)の光の強さを表している。センサ出力S72p、S73qが出力されると、検出値較正部95は、上述の出荷調整処理によって不揮発性メモリに記憶された初期出力S072p,S073qと比較する(ステップS240)。
【0047】
そして、制御ユニット90は、初期出力S072p,S073qと、その各々に対応するセンサ出力S72p、S73qとの差異Di(iは、1からp+qの整数)がすべて規定の範囲内(差異なしを含む)であるか否かを判断する(ステップS250)。ここでの差異Diは、初期出力S072p,S073qとセンサ出力S72p,S73qとの差分として扱ってもよいし、比率として扱ってもよい。
【0048】
その結果、差異Diのうち少なくとも1つが規定の範囲外であれば(ステップS250:NO)、経年劣化や周囲温度の影響による照射部40の発光性能の変化が、真偽鑑別に影響するほどに生じているということである。したがって、制御ユニット90は、照射部40の光量変化の影響を較正する検出値較正制御を行い(ステップS260)、処理を上記ステップS230に戻し、ステップS230〜S260の処理を繰り返す。要するに、差異Diが規定の範囲内となるまで、フィードバック制御により、照射部40の光量変化の影響を較正するのである。なお、ステップS250の判断では、差異Diのうちの所定数、または、全てが規定範囲外である場合に、ステップS260の処理を行う構成としてもよい。あるいは、初期出力S072pやS073qのそれぞれの平均値、または初期出力S072p及びS073qの全体平均値と、対応するセンサ出力S72p,S73qの平均値との差異が規定範囲外である場合に、ステップS260の処理を行う構成としてもよい。
【0049】
本実施例におけるステップS260の具体的な制御内容について説明する。ステップS260において、制御ユニット90は、まず、照射部40の駆動電流を変化させる。出荷時の初期値である初期出力S072p,S073qと比較して、ステップS230で読み取ったセンサ出力S72p、S73qの方が小さい場合(以下、発光性能劣化時ともいう)には、駆動電流を大きくすることとなる。
【0050】
そして、駆動電流を変化させながらフィードバック制御を行っても、差異Diが規定の範囲内にならない場合には、制御ユニット90は、それに加えて、照射部40の発光時間を増減させる。発光性能劣化時には、発光時間を長くする制御が行われる。また、駆動電流と発光時間を変化させながらフィードバック制御を行っても、差異Diが規定の範囲内にならない場合には、制御ユニット90は、それに加えて、出力増幅部91のゲインを変化させる。発光性能劣化時には、ゲインを大きくする制御が行われる。
【0051】
また、駆動電流と発光時間とゲインとを変化させながらフィードバック制御を行っても、差異Diが規定の範囲内にならない場合には、制御ユニット90は、入力値に対してデジタル増幅またはデジタル減衰を行い、差異Diが規定の範囲内となるように制御を行う。発光性能劣化時には、デジタル増幅が行われる。なお、これらの制御メニューの優先順位は、特に限定するものではなく、任意の順序に入れ替えてもよい。また、これらの制御メニューの一部を実行するものであってもよい。例えば、デジタル増幅または減衰のみを行ってもよいし、十分に大きな電流制御やゲイン制御などが行える場合には、これらの制御のみを行う構成としてもよい。また、検出部70の受光素子にフォトトランジスタを用いる場合には、バイアス電流を変化させて、受光素子の感度を変化させてもよい。
【0052】
一方、差異Diが全て規定の範囲内であれば(ステップS250:YES)、経年劣化や周囲温度の影響による照射部40の発光性能の変化が、真偽鑑別に影響するほどに生じていない、あるいは、発光性能の変化が生じていたが、上述のフィードバック制御によって、差異Diの較正がされたということである。したがって、制御ユニット90は、差異Diが規定の範囲内となった制御値(電流値、点灯時間、ゲインなど)を不揮発性メモリに記憶し(ステップS270)、照射部40を消灯して、処理を元に戻す。
【0053】
このようにして、検出値較正処理が行われると、その後に実行される紙幣鑑別処理では、制御ユニット90は、ステップS270で記憶した制御値を読み込んで、それに基づいた照射部40等の制御を行うこととなる。ただし、紙幣鑑別処理の度に、事前に光量較正処理を行うのであれば、つまり、紙幣鑑別処理と光量較正処理とを交互に実行するのであれば、ステップS270は、省略可能である。また、検出値較正処理の終了時に照射部40を点灯させたまま、紙幣鑑別処理に入ってもよい。
【0054】
かかる構成の紙幣鑑別装置20は、照射部40から紙幣Caに照射光ILを照射して得られる二次光を紫外カットフィルタ60に透過させた蛍光IL1を鑑別用センサ71で検出した結果に基づいて、紙幣Caの真偽鑑別を行う。また、紙幣鑑別装置20は、照射光ILの光路上に紙幣Caが配置されていない状態において、較正用センサ72,73で紫外光IL2を検出し、その結果に基づいて、鑑別用センサ71の検出値の較正制御を行う。したがって、周囲温度の影響や経年劣化によって照射部40の光量が変動しても、その影響を較正して、紙幣Caの真偽を精度良く鑑別することができる。
【0055】
また、紙幣鑑別装置20は、ラインタイプの受光素子を備えた検出部70を、鑑別用センサ71及び較正用センサ72,73として用いるので、鑑別用センサ71と較正用センサ72,73とを個別的に配置する必要がない。したがって、装置構成を簡略化することができる。また、少なくとも2つの受光素子である較正用センサ72,73で紫外光IL2を検出するので、紫外光IL2の検出結果の信頼性を高めることができる。その結果、鑑別用センサ71の検出値の較正制御を精度良く行うことができる。
【0056】
A−4.検出ユニット30の設計方法:
上述した検出ユニット30の設計方法、具体的には、紫外カットフィルタ60のサイズ及び較正用センサ72,73の位置の決定方法について、図6及び図7を用いて説明する。図6(a)は、照射部40と検出部70との間の光路上に、検出部70を構成する受光素子の配列方向の全ての範囲において、可視カットフィルタ50が配置され(図示省略)、紫外カットフィルタ60及び紙幣Caが配置されていない状態で照射部40を発光させた場合の、検出部70を構成する各受光素子の出力SO1を示している。照射部40は単一の光源であるので、出力SO1は、図示するように、照射部40の照射光の光軸OAを中心に最も大きく、光軸から離れるにしたがって小さくなっている。ここで、光軸付近の受光素子の出力値は、本実施例におけるAD変換器92のADレンジを越えている。
【0057】
一方、図6(b)は、照射部40と検出部70との間の光路上に、検出部70を構成する受光素子の配列方向の全ての範囲において、可視カットフィルタ50(図示省略)、紫外カットフィルタ60及び紙幣Caが配置された状態で照射部40を発光させた場合の、検出部70を構成する各受光素子の出力SO2を示している。つまり、出力SO2は、紙幣Caから得られる蛍光の強さ分布を示している。出力SO2は、図示するように、照射部40の照射光の光軸OAを中心に最も大きく、光軸から離れるにしたがって小さくなっていき、所定の箇所で値0(検出限界以下)となる。ここで、光軸OAを中心とした、出力SO2が検出可能な領域を蛍光検出可能領域A11、SO2が検出できない領域を蛍光検出限界領域A12ともいう。全ての出力SO2は、AD変換器92のADレンジの範囲内となっている。逆に言えば、そのように、AD変換器92のADレンジを決定する。
【0058】
本実施例の設計方法では、かかる出力SO2を踏まえ、図7に示すように、蛍光検出可能領域A11の受光素子を鑑別用センサ71として利用し、蛍光検出限界領域A12の受光素子を較正用センサ72及び73として利用する。具体的には、蛍光検出可能領域A11の両脇において、蛍光検出限界領域A12の受光素子のうちの、蛍光検出可能領域A11に最も近い位置に配置された3つの受光素子72a〜72cと受光素子73a〜73cとを、それぞれ較正用センサ72,73として設定する。また、較正用センサ72及び73の間の受光素子は、全て鑑別用センサ71として設定する。ここで、鑑別用センサ71を構成する受光素子は奇数(ここでは9個)であり、較正用センサ72を構成する受光素子と較正用センサ73を構成する受光素子とは同数(ここでは3個)であるから、較正用センサ72と較正用センサ73とは、光軸OAを対称軸とする対称形に配置されたこととなる。このように較正用センサ72と較正用センサ73とを対称形に配置する理由については、後述する。
【0059】
そして、このようにして決定した較正用センサ72及び較正用センサ73の位置に基づいて、紫外カットフィルタ60のサイズを決定する。具体的には、鑑別用センサ71の全ての受光素子が、紫外カットフィルタ60を透過した二次光を受光可能なサイズであって、較正用センサ72及び73が、紫外カットフィルタ60を透過しない照射光を受光可能なサイズに設定される。換言すれば、紫外カットフィルタ60のサイズは、鑑別用センサ71の全ての受光素子において、蛍光の検出レベルが検出可能範囲となる最大範囲で設定する。更に換言すれば、鑑別光受光エリアA1が蛍光検出可能領域A11と、紫外光受光エリアA2が蛍光検出限界領域A12と一致するように紫外カットフィルタ60のサイズを設定する。
【0060】
このとき、可視カットフィルタ50のみを通過(紙幣Ca及び紫外カットフィルタ60は通過しない)する経路の照射光に対する蛍光検出限界領域A12の受光素子での出力SO3は、図7に示すように、基本的には、図6に示した該当領域の出力SO1と同じである。ただし、受光素子72c及び73cにおける出力SO3は、当該受光素子における出力SO1よりも小さくなっている。これは、出力SO1として検出された光の一部が、出力SO3では、紫外カットフィルタ60によって、カットされるためである。
【0061】
また、図示するように、出力SO2及びSO3は、全て、AD変換器のADレンジの範囲内に納まっている。つまり、上述のように鑑別用センサ71、較正用センサ72,73及び紫外カットフィルタ60のサイズを設定すれば、上述の紙幣鑑別処理において必要な検出部70の出力は、出力SO2であり、上述の検出値較正処理において必要な検出部70の出力は、出力SO3であるから、各処理に必要な検出部70の出力を全てADレンジ内に収めることができる。換言すれば、紙幣鑑別処理に必要なADレンジの範囲内に、検出値較正処理での出力を収めることができるので、検出値較正処理のために、AD変換器92のADレンジを無駄に大きくする必要がない。このように、較正用センサ72,73の位置を決定することによって、較正用センサ72,73の出力を低く抑えることができるからである。なお、較正用センサ72,73を図6に示した光軸OA付近に設定すると、図示するADレンジでは、較正用センサ72,73の出力を適正に検出できないので、ADレンジを大きくする必要がある。また、かかる効果は、較正用センサ72,73を、光軸OAに対して鑑別用センサ71よりも遠い位置に設けるだけであっても、一定程度得ることができる。
【0062】
上述した検出ユニット30の設計方法では、較正用センサ72及び較正用センサ73の受光素子は、それぞれ3個としたが、その個数は、特に限定するものではなくそれぞれが、少なくとも1つ以上であればよい。また、較正用センサ72及び73は、必ずしも、蛍光検出領域A11に最も近い位置、すなわち、鑑別用センサ71と隣接する位置に配置する必要はない。
【0063】
例えば、図8に示すように較正用センサ72及び較正用センサ73は、紙幣鑑別処理及び検出値較正処理のいずれにも使用しない無効受光素子74,75を介して、すなわち、鑑別用センサ71と較正用センサ72,73とが隣接しないように設けてもよい。このように鑑別用センサ71と較正用センサ73との間に無効受光素子74,75を設ければ、紙幣Caが光路上に配置されていない状態において、可視カットフィルタ50と紫外カットフィルタ60とを透過した透過光IL1と、可視カットフィルタ50のみを透過して検出部70に受光される紫外光IL2とが干渉した光を較正用センサ72,73で受光することがないので、紫外光IL2の検出精度を高めることができる。また、紫外カットフィルタ60や照射部40の設置位置や設置角度が、製造精度の問題で僅かにずれたとしても、紫外光IL2の検出精度を確保することができる。なお、無効受光素子74,75の個数は、1個に限らず、複数であってもよく、蛍光IL1と紫外光IL2とが干渉しない位置に較正用センサ72,73を設ければよい。なお、図示は省略するが、鑑別用センサ71についても、較正用センサ72,73側の両端部に無効受光素子を設けてもよい。つまり、鑑別用センサ71の設置範囲を、蛍光IL1を受光できる最大範囲よりも小さくしてもよい。こうすれば、紙幣鑑別処理において、紫外光IL2と蛍光IL1とが干渉した光を鑑別用センサ71で受光することがないので、紙幣Caの鑑別精度を高めることができる。
【0064】
また、かかる効果は、無効受光素子74,75を設けない構成であっても実現することができる。例えば、図7に示したように、鑑別用センサ71と較正用センサ72,73とが隣接した配置の検出部70を備えた紙幣鑑別装置20において、制御ユニット90は、受光素子72a〜73cの出力値のうちの相対的に大きい出力値(図7では、受光素子72bの出力値)と、受光素子73a〜73cの出力値のうちの相対的に大きい出力値(図7では、受光素子73bの出力値)とを用いて、上述の検出値較正処理を行ってもよい。こうすれば、鑑別用センサ71と隣接する受光素子72c,73cにおける出力SO3は、上述したように、紫外カットフィルタ60の影響によって出力SO1よりも小さくなるので、結果的に、紫外カットフィルタ60の影響を避けた位置の受光素子での出力値を検出値較正処理に用いることができるからである。なお、相対的に大きな出力値は1つに限らず、複数であってもよい。使用する出力値が多くなれば、出力値の信頼性が増し、紫外光L2の検出精度を向上させることができるからである。
【0065】
A−5.紙幣鑑別装置20の製造方法:
上述した紙幣鑑別装置20の製造手順について、図9を用いて説明する。紙幣鑑別装置20の製造では、まず、上述した紙幣鑑別装置20の構成部材のそれぞれを用意する(ステップS310)。次に、用意した構成部材をもとに、紙幣鑑別装置20を組み立てる(ステップS320)。
【0066】
紙幣鑑別装置20を組み立てると、照射部40の光路上に紙幣Caを配置しない状態で、制御ユニット90に、照射部40を発光させ(ステップS330)、初期出力S072p,S073qを読み取らせる(ステップS340)。なお、本実施例では、紙幣鑑別装置20にコンピュータを接続し、当該コンピュータから、紙幣鑑別装置20に制御信号を送出してステップS330及びステップS340を実行させ、初期出力データS072p,S073qをコンピュータに出力させることとした。ただし、紙幣鑑別装置20の制御ユニット90が備えるプログラムによって、ステップS330,S340及び後述するステップS350を制御ユニット90に実現させてもよい。
【0067】
初期出力S072p,S073qを得ると、これを基に、光軸ずれ係数Fを算出する(ステップS350)。光軸ずれ係数Fは、照射部40の光軸ずれの程度を評価するための指標であり、本実施例では、次式(1)によって得られる。なお、AV72,AV73は、それぞれ、初期出力S072p,S073qの平均値を表している。
F=AV72/(AV72+AV73)・・・(1)
【0068】
本実施例においては、較正用センサ72と較正用センサ73とは、照射部40の光軸OAを対称軸として対称形に配置されているので、照射部40に光軸ずれが生じていない場合には、光軸ずれ係数F=0.5となる。また、光軸OAが較正用センサ72側にずれている場合には、光軸ずれ係数F>0.5となり、光軸ずれ係数Fが大きくなるにしたがって、光軸ずれが大きく生じていることを示している。同様に、光軸OAが較正用センサ73側にずれている場合には、光軸ずれ係数F<0.5となり、光軸ずれ係数Fが小さくなるにしたがって、光軸ずれが大きく生じていることを示している。このように、光軸ずれ係数Fは、光軸OAの光軸ずれの方向と程度とを表す指標となり得る。
【0069】
上述の例では、初期出力S072p,S073qのぞれぞれの平均値を用いて、光軸ずれ係数Fを算出したが、平均値に代えて、例えば、p=2,q=2の出力値を用いてもよい。平均値を用いたのは、光軸ずれの検出精度を向上させるためである。また、光軸すれ係数Fは、F=AV73/(AV72+AV73)やF=AV72/AV73などとしてもよい。光軸ずれ係数Fは、較正用センサ72の出力と較正用センサ73の出力との比が表せればよい。
【0070】
光軸ずれ係数Fを算出すると、算出した光軸ずれ係数Fが規定の範囲内であるか否かを判断する(ステップS360)。規定範囲は、本実施例ではF=0.5であることとしたが、許容される測定精度を考慮して、例えば、0.45≦F≦0.55というように、適宜設定すればよい。
【0071】
その結果、光軸ずれ係数Fが規定範囲内であれば(ステップS360:YES)、照射部40の光軸ずれが許容範囲内であるので、紙幣鑑別装置20は、完成となる。一方、光軸ずれ係数Fが規定範囲外であれば(ステップS360:NO)、照射部40の光軸ずれが許容範囲外であるので、光軸ずれ解消作業を行う(ステップS370)。具体的には、照射部40や検出部70を組み直して、設置位置や設置角度を調節する。そして、光軸ずれ係数Fが規定範囲内となるまで、上記ステップS330〜S370の工程を繰り返す。
【0072】
かかる紙幣鑑別装置20の製造方法は、照射部40の光路上に紙幣Caを配置しない状態で照射部40を発光させて得られる較正用センサ72及び73の出力を用いて、照射部40の光軸ずれを把握することができるので、照射部40の光軸ずれを調整して、精度良く検出値較正処理や紙幣鑑別処理を行うことができる。このような方法で紙幣鑑別装置20を製造することができるのでは、紙幣鑑別装置20が少なくとも2つの受光素子である較正用センサ72,73を備えているからである。特に、本実施例では、較正用センサ72と較正用センサ73とを光軸OAを対称軸として対称形に配置しているので、光軸ずれの程度や方向を光軸ずれ係数Fによって把握しやすい。
【0073】
B.第2実施例:
本発明の第2実施例としての紙幣鑑別装置について説明する。第2実施例としての紙幣鑑別装置は、検出ユニットの構成が第1実施例と異なる。以下に、第1実施例と異なる点について説明する。なお、以下の説明において、第1実施例と同様の構成部分については、第1実施例と同一の符号を付して、詳しい説明を省略する。第2実施例としての検出ユニット400の構成を図10(a)に示す。図示するように、検出ユニット400は、照射部440と可視カットフィルタ50と紫外カットフィルタ460と検出部470と搬送部80とを備えている。これらの光軸方向の配置順序は、第1実施例と同様である。
【0074】
照射部440は、複数の紫外光LEDを検出部70の受光素子の配列方向に並べて構成されるライン光源である点が第1実施例と異なる。このように、ライン光源を備えることによって、第1実施例のように単一光源を用いる場合と比べて、照射範囲が広がるので、より広範囲の紙幣Caを一度に鑑別することができる。また、紫外カットフィルタ460は、複数のスリット462を備えている点が第1実施例と異なる。なお、スリット462の数は、少なくとも1個あればよい。検出部470は、第1実施例と同様に、ラインタイプの受光素子である。ただし、鑑別用センサ471と較正用センサ472,473の配置が第1実施例と異なる。この点の詳細については、後述する。
【0075】
また、紫外カットフィルタ460を可視カットフィルタ50側から見た構成を図10(b)に示す。図示するように、本実施例の紫外カットフィルタ460では、スリット462は、検出部470の受光素子の配列方向に等間隔に設けられた貫通孔として形成されている。また、各々のスリット462は、受光素子の配列方向に直交する方向において、検出部470よりも広い幅で形成されている。
【0076】
検出部470の構成を図11に示す。図示するように、検出部470には、紫外カットフィルタ460と紫外カットフィルタ460が備えるスリット462とによって、鑑別光受光エリアA1と紫外光受光エリアA2とが形成される。具体的には、紫外カットフィルタ460は、スリット462を備えているので、スリット462に対応する位置にも、紫外光受光エリアA2が形成される。その結果、鑑別光受光エリアA1と紫外光受光エリアA2とが、受光素子の配列方向に交互に形成される。こうして形成された鑑別光受光エリアA1には鑑別用センサ471が、紫外光受光エリアA2には較正用センサ472,473が設けられる。その結果、スリット462がない場合と比べて、各々の較正用センサ472,473の配置間隔を小さくすることができる。
【0077】
かかる構成の紙幣鑑別装置20における検出値較正処理では、各々の鑑別用センサ471に隣接する較正用センサ472,473の出力のみを用いて、当該鑑別用センサ471の近くに配された光源に対して、あるいは、当該鑑別用センサ471の出力データに対して、検出値較正制御(ステップS260)を行う。こうすれば、ライン光源を構成する各々の光源の光量変化などによって、照射部440の受光素子の配列方向に亘って光源ムラが生じても、検出部470の鑑別用センサ471の受光素子の位置に応じた較正を行って、検出値較正処理を行うことができるので、検出値較正処理の精度を高めることができる。
【0078】
ただし、第1実施例と同様に、各々の較正用センサ472,473の平均出力などを用いて、全てのライン光源に対して、あるいは、全ての鑑別用センサ471の出力データに対して一律的に検出値較正制御を行ってもよい。こうしても、配置間隔が小さい較正用センサ72,73に基づいて検出値較正制御を行えるので、第1実施例のように、検出部70の両端のみに較正用センサ72,73が配置される場合と比べて、光源ムラの影響を緩和することができる。
【0079】
また、検出部470には、図12に示すように、蛍光IL1と紫外光IL2とが干渉する干渉エリアA3が形成される。したがって、制御ユニット90は、第1実施例と同様に、干渉エリアA3を避けて設定された較正用センサ472,473の出力を用いて、検出値較正制御を行ってもよい。こうすれば、第1実施例と同様に、較正用センサ472,473での紫外光IL2の検出精度を高めることができる。
【0080】
また、検出部470の形状の変形例を図13に示す。図13では、2つの紫外カットフィルタ460a,460bの形状と、それに対応する検出部470の設置位置を示している。紫外カットフィルタ460a及び460bは、略矩形の1つのフィルタを2つにカットしたものである。紫外カットフィルタ460aには、その一片が切り欠かれたスリット462aと、隣接するスリット462a間の非切欠部である凸部464aとが交互に繰り返して形成されている。スリット462a及び凸部464aのサイズは、同一に形成されている。
【0081】
紫外カットフィルタ460bは、略矩形の1つのフィルタから、スリット462aをカットした残りの部分である。上述した紫外カットフィルタ460aの形状に起因して、紫外カットフィルタ460bの形状は、紫外カットフィルタ460aをスリット462aの繰返し方向の幅分だけスライドさせた形状となっている。かかる紫外カットフィルタ460a,460bにおいて、各々のスリット462a,462bは、検出部470の受光素子の配列方向に直交する方向において、検出部470よりも広い幅で形成されている。
【0082】
かかる形状のスリット462a,462bを、図13に示すように、スリット462a,462bの、検出部470の受光素子の配列方向に直交する方向の中央部に配置すれば、図10(b)に示した紫外カットフィルタ460と同様の機能を発揮することができる。また、かかる形状のスリット462a,462bは、略矩形の1つのフィルタを無駄なくカットして、製造することができるので、省資源化、低コスト化に資する。
【0083】
C.第3実施例:
第3実施例としての紙幣鑑別装置500について説明する。第3実施例としての紙幣鑑別装置500は、制御ユニットの構成が第1実施例と異なる。以下の説明においては、第1実施例と異なる点についてのみ説明し、第1実施例と共通の点については、説明を省略する。なお、以下の説明において、第1実施例と同様の構成部分については、第1実施例と同一の符号を付している。第3実施例としての紙幣鑑別装置500の構成を図14に示す。紙幣鑑別装置500の制御ユニット590は、光軸ずれ検知部597としても機能する。光軸ずれ検知部597は、較正用センサ72,73の出力から、照射部40の光軸ずれを検出し、検出値較正部95に出力する。これを受けて、検出値較正部95は、鑑別用センサ71の出力に対して、検出した光軸ずれの程度に基づいて補正を行い、その補正結果を用いて、検出値較正制御を行う。また、制御ユニット590は、後述する不揮発性メモリに補正係数テーブルTaを記憶している(図示せず)。
【0084】
本実施例における光軸ずれの検出及び検出値較正制御について、以下に具体的に説明する。まず、第3実施例の前提について説明する。説明を簡単にするために、第3実施例としての検出部70は、図15(a)に示すように、5つの受光素子からなる鑑別用センサ71と、1つの受光素子からなる較正用センサ72,73とを備えているものとする。紙幣鑑別処理における鑑別用センサ71の各々の受光素子のAD変換器92を介した出力は、較正用センサ72に最も近い受光素子の出力を出力X1とし、較正用センサ73側に向かうにしたがって、各受光素子の出力を出力X2,X3,X4,X5と呼ぶこととする。また、検出値較正処理における較正用センサ72,73の出力をそれぞれ出力XL,XRと呼ぶこととする。
【0085】
第3実施例としての検出値較正処理の流れを図16に示す。図16においては、図5に示した第1実施例としての検出値較正処理と同様のステップについては、図5と同一の符号を付して、説明を簡略化する。第3実施例としての検出値較正処理が開始されると、制御ユニット590は、所定のイベントの発生を待機し(ステップS210)、イベントの発生を検知すると(ステップS210:YES)、照射部40を発光させる(S220)。照射部40を発光させると、制御ユニット590は、出力増幅部91及びAD変換器を介してデータ処理部93に入力された較正用センサ72,73の出力である出力XL,XRを読み取る(ステップS230)。
【0086】
出力XL,XRを読み取ると、制御ユニット590は、出荷調整処理によって不揮発性メモリに記憶された較正用センサ72,73の初期出力XL0,XR0を読み込む(ステップS610)。初期出力XL0,XR0を読み込むと、制御ユニット590は、光軸ずれ検知部597の処理として、照射部40の光軸ずれ検出を行う(ステップS620)。具体的には、ステップS610で読み込んだ初期出力XL0,XR0を用いて、光軸ずれ係数F(=XL0/(XL0+XR0))を算出する。
【0087】
光軸ずれを検出すると、制御ユニット590は、検出値較正部95処理として、光軸ずれ検知部597から、光軸ずれ係数Fを受け取って、検出値較正制御を行う(ステップS630)。ステップS630で行う検出値較正制御は、デジタル増幅またはデジタル減衰である。
【0088】
ステップS630の処理については、更に詳細に説明する。一般的に、物質の励起を生じさせる光吸収は、入射光の2乗に比例して変化することが知られており、紙幣Caから励起される蛍光は、照射部40からの光出力が弱くなるほど小さくなる出力分布となる。したがって、照射光の光軸がずれた場合、そのずれに応じて照射部の照射光によって励起される蛍光の出力分布もずれる。かかる現象を踏まえ、ステップS630では、光軸ずれの影響を含めて較正できるように、鑑別用センサ71から得られる出力X1〜X5に対して、デジタル増幅またはデジタル減衰を行う。以下、かかる処理について説明する。
【0089】
制御ユニット590は、補正係数テーブルTaを記憶している。補正係数テーブルTaの具体例を図15(b)に概念的に示す。補正係数テーブルTaには、上述の光軸ずれ係数Fと、補正係数CF1とが対応付けられている。補正係数CF1は、照射光ILの光が最も強くなる位置、すなわち、光軸に対応する位置における光量を基準係数aで表している。また、基準係数aを基準として、当該位置から受光素子1個分だけ離れるたびに、当該位置の光が弱まる程度の逆数を係数b,c,d,eで表している。補正係数CF1を鑑別用センサ71の各出力に乗じれば、鑑別用センサ71の各位置における光の強さを擬似的に揃えることができる。例えば、基準係数a=1である場合、光軸から受光素子1個分離れた位置の光量が光軸該当位置の0.7倍になるとすれば、係数b=1/0.7であり、光軸から受光素子2個分離れた位置の光量が光軸該当位置の0.5倍になるとすれば、係数c=1/0.5である。これらの係数は、光学設計において実験的に求められるものである。なお、光の強さは、光源からの距離の2乗に反比例して減衰するので、照射部40や検出部70の位置関係に基づいて、計算によって単純に補正係数CF1を求めることもできるが、照射部40のレンズ形状によって光出力分布の特徴に違いが生じることや、紙幣Caの内部で紫外光が拡散されることなどから、光学特性が複雑化するため、光学設計の段階で実験的に求めることが望ましい。
【0090】
かかる補正係数CF1は、光軸ずれの程度によって、基準係数aと対応付けられる受光素子の位置が変化する。図15(b)の例では、光軸ずれがない場合、すなわち、光軸ずれ係数F=0.5の場合には、基準係数aは、鑑別用センサ71の中心の受光素子に対応するので、出力X3と基準係数aとが対応付けられ、受光素子1個分だけ離れた位置の出力X2,X4には係数bが対応付けられ、受光素子2個分だけ離れた位置の出力X1,X5には係数cが対応付けられている。また、光軸ずれ係数F=0.6の場合には、照射光ILの光が最も強くなる位置の変化量は、受光素子1個分に足りず、補正係数CF1は、光軸ずれ係数F=0.5の場合と同じとなっている。
【0091】
一方、光軸ずれ係数F=0.7の場合には、照射光ILの光が最も強くなる位置の変化量は、受光素子1個分に相当し、基準係数aは、鑑別用センサ71の中心よりも鑑別用センサ71方向に受光素子1個分だけずれた位置の出力X2に対応付けられ、出力X1,X3には係数bが、出力X4には係数cが、出力X5には係数dが対応付けられている。光軸ずれ係数F=0.8の場合には、光軸ずれ係数F=0.6の場合と同様の理由によって、補正係数CF1は、光軸ずれ係数F=0.7の場合と同じとなっている。
【0092】
同様にして、光軸ずれ係数F=0.9の場合には、照射光ILの光が最も強くなる位置の変化量は、受光素子2個分に相当し、基準係数aは、鑑別用センサ71の中心よりも鑑別用センサ71方向に受光素子2個分だけずれた位置の出力X1に対応付けられ、出力X2には係数bが、出力X3には係数cが、出力X4には係数dが、出力X5には係数eが対応付けられている。なお、図15(b)では、図示を省略しているが、補正係数テーブルTaには、光軸ずれ係数Fが0.5未満の場合についても、図示した部分と同様に、出力X1〜X5に対して補正係数CF1が対応付けられている。
【0093】
制御ユニット90は、かかる補正係数テーブルTaを参照して、ステップS620で算出した光軸ずれ係数Fに対応する補正係数CF1を読み込み、これらの係数と、出力XL,XR、初期出力XL0,XR0とを用いて、出力X1〜X5のデジタル増幅またはデジタル減衰を行うのである。その具体例を図15(c)に示す。この例は、光軸ずれ係数F=0.7の場合のデジタル増幅またはデジタル減衰の内容を示している。光軸ずれ係数F=0.7に対応する補正係数CF1(X1,X2,X3,X4,X5)=(b,a,b,c,d)であるから、出力X1の補正後の出力X11は、X11=X1×(XL0/XL)×bとなる。「XL0/XL」は、初期出力XL0に対する出力XLの変化量、つまり、工場出荷時からの光量の変化量を補正するものであり、「b」は、光軸ずれの影響を補正するものである。
【0094】
また、例えば、出力X4の補正後の出力X14は、X14=X4×(XR0/XR)×cとなる。本実施例では、このように、出力X1では、「XL0/XL」を用いて光量変化を補正し、出力X4では、「XR0/XR」を用いて光量変化を補正している。つまり、較正用センサ72側の受光素子については、較正用センサ72の出力である「XL0/XL」を用い、較正用センサ73側の受光素子については、較正用センサ73の出力である「XR0/XR」を用いている。このように、較正用センサ72,73の出力のうちの、補正対象の受光素子に近い側の出力を用いることによって、較正精度が高まるからである。なお、鑑別用センサ71の中央に位置する受光素子の出力X3については、本実施例では、便宜的に「XR0/XR」を用いている。ただし、出力X3については、「XL0/XL」と「XR0/XR」との平均値を用いてもよい。勿論、出力X1〜X5の全てに対して平均値を用いてもよい。このようにして、検出値較正制御を行うと、検出値較正処理は終了となる。
【0095】
かかる構成の紙幣鑑別装置500は、照射部40の光量変化に加えて、照射部40の光軸ずれについても較正した鑑別用センサ71の出力を得て、精度良く紙幣鑑別処理を行うことができる。換言すれば、紙幣鑑別装置500の製造段階において、照射部40の光軸ずれを許容することができる。したがって、紙幣鑑別装置500の製造時における制約が減り、製造工程を簡略化し、紙幣鑑別装置500を低コスト化することができる。なお、かかる構成は、2つ以上の受光素子からなる較正用センサ72,73を備えていることで実現できるものである。
【0096】
上述の例では、較正用センサ72,73は、それぞれ1つの受光素子からなるものとして説明したが、それぞれが複数の受光素子からなる場合であっても、第1実施例と同様に、これらの受光素子の出力の平均値を用いたり、最も大きい出力を用いたりしてもよい。
【0097】
また、図16の検出値較正処理は、紙幣鑑別装置500の出荷後、すなわち、使用時において、何らかの理由で照射部40の光軸ずれが生じてしまった場合においても応用することができる。すなわち、ステップS620において算出する光軸ずれ係数Fを、「XL0/(XL0+XR0)」に代えて、「XL/(XL+XR)」として算出し、これを基に、ステップS630の検出値較正制御を行ってもよい。こうすれば、使用時に、紙幣鑑別装置500が衝撃などを受けて光軸ずれを生じたとしても、紙幣鑑別処理の精度を高く保つことができる。
【0098】
D.変形例:
上述した実施例の変形例について説明する。
D−1.変形例1:
上述の実施形態においては、較正用センサ72,73を鑑別用センサ71の両脇に配置する構成について示したが、必ずしも、このような配置に限るものではない。例えば、第1実施例や第3実施例においては、較正用センサ72,73は、光軸を対称軸として対称形に配置しなくてもよいし、鑑別用センサ71の中央部や片側に並べて配置してもよい。また、検出部70の受光素子が紙幣Caの搬送方向にも配列される場合には、当該方向の両脇に較正用センサ72,73を配置してもよい。これらのようしても、2つ以上の受光素子である較正用センサ72,73の出力を用いて、検出値較正処理の信頼性を高めることができる。
【0099】
また、較正用センサ72,73が対称形でない場合には、光軸ずれの判断は、その配置角度に応じた光軸ずれ係数Fの値によって行えばよい。例えば、較正用センサ72と光軸OAとの距離が、較正用センサ73と光軸OAとの距離よりも短くなるように、較正用センサ72,73を配置する場合には、光軸ずれ係数F=XL0/(XL0+XR0)=が0.7のときに、光軸ずれが生じていないと判断できる場合もある。ただし、較正用センサ72,73は、離れて配置した方が、光軸ずれの検知精度を高めることができることは明らかである。また、対称形に配置した方が、光軸ずれの程度や方向の把握が容易である。
【0100】
D−2.変形例2:
上述の実施形態においては、蛍光IL1及び紫外光IL2の光路には、特に仕切りを設けていないが、遮光板などを用いて、両光路を遮断してもよい。こうすれば、蛍光IL1と紫外光IL2との干渉を避けて、精度良く検出値較正処理を行うことができる。
【0101】
D−3.変形例3:
上述の実施形態においては、紫外カットフィルタ60と検出部70とは、別体構成としたが、これらは、一体的に構成してもよい。例えば、紫外カットフィルタ60は、検出部70の鑑別用センサ71や、それに対応するレンズの表面に、蒸着や塗布などによって形成してもよい。こうすれば、装置をコンパクトにできると共に、蛍光IL1と紫外光IL2との干渉を抑制することができる。
【0102】
D−4.変形例4:
上述の実施形態においては、較正用センサ72,73の出力は、検出値較正処理のみに用いたが、紙幣鑑別処理にも用いてもよい。すなわち、鑑別用センサ71によって、紙幣Caの蛍光状態を検出すると共に、較正用センサ72,73によって、紙幣Caの紫外光透過状態を検出してもよい。こうすれば、同時に、2種類の方法で紙幣鑑別を行えるので、鑑別精度を高めることができる。あるいは、2種類の装置をそれぞれ個別的に設ける必要がないので。装置構成を簡略化できる。
【0103】
D−5.変形例5:
第3実施例においては、較正用センサ72,73の出力から光軸ずれを検知し、その検知結果から、補正係数テーブルTaを参照して、検出値較正制御を行う構成について示したが、かかる態様は、照射部40のレンズの局所的な曇りに対する較正用としても応用可能である。レンズが局所的に曇ると、その曇りの位置や程度に応じて較正用センサ72,73の出力に差が生じるからである。この場合、想定される曇りに対応する較正用センサ72,73の出力の比率に応じた補正係数を実験的に求め、テーブルとして記憶しておけばよい。また、第2実施例のように、照射部40にライン光源を用いる場合には、隣接する光源の明るさの変化の程度によって、較正用センサ72,73の出力に差が生じるので、それを較正する構成としても応用可能である。この場合、想定される明るさの変化に対応する較正用センサ72,73の出力の比率に応じた補正係数を実験的に求め、テーブルとして記憶しておけばよい。
【0104】
D−6.変形例6:
上述の実施形態においては、紙幣Caの励起光として、紫外光を用いたが、励起光は、紫外光に限るものではなく、例えば、赤外線などであってもよい。また、この場合、紫外カットフィルタ60に代えて、対応するバンドパスフィルタを用いればよい。また、バンドパスフィルタも、1種類に限らず、複数種類としてもよい。
【0105】
D−7.変形例7:
上述の実施形態においては、紙幣Caから得られる蛍光を基に、紙幣Caを鑑別する構成について示したが、紙幣Caの鑑別光は、蛍光に限らず、燐光などであってもよい。また、蛍光と燐光の両方によって、鑑別するものであってもよい。つまり、紙幣Caに光を照射して、当該照射光を励起光として得られる二次光の光学特性を識別するものであればよい。
【0106】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上述した実施形態における本発明の構成要素のうち、独立クレームに記載された要素以外の要素は、付加的な要素であり、適宜省略可能である。また、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこうした実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を脱しない範囲において、種々なる態様で実施できることは勿論である。例えば、本発明は、紙幣の真偽鑑別装置に限らず、紙幣、有価証券、帳票などの紙葉類を取り扱う種々の紙葉類の光学特性識別装置に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0107】
20…紙幣鑑別装置
30…検出ユニット
40…照射部
50…可視カットフィルタ
60…紫外カットフィルタ
70…検出部
71…鑑別用センサ
72,73…較正用センサ
72a〜72c,73a〜73c…受光素子
74…無効受光素子
80…搬送部
90…制御ユニット
91…出力増幅部
92…AD変換器
93…データ処理部
94…真偽識別部
95…検出値較正部
96…紫外光制御部
400…検出ユニット
440…照射部
460,460a,460b…紫外カットフィルタ
462,462a,462b…スリット
464a,464b…凸部
470…検出部
471…鑑別用センサ
472,473…較正用センサ
500…紙幣鑑別装置
590…制御ユニット
597…光軸ずれ検知部
S072p,S073q…初期出力
S72p,S73q…センサ出力
SO1〜SO3…出力
A1…鑑別光受光エリア
A2…紫外光受光エリア
A3…干渉エリア
A11…蛍光検出可能領域
A12…蛍光検出限界領域
X1〜X5,XL,XR…出力
IL…照射光
IL1…蛍光、透過光
IL2…紫外光
Ca…紙幣
OA…光軸
Ta…補正係数テーブル
CF1…補正係数

【特許請求の範囲】
【請求項1】
紙葉類の光学特性を検出する紙葉類光学特性識別装置であって、
光を照射する照射部と、
前記照射部が照射する照射光の光路の一部に設けられ、特定の波長の光を選択的に透過させるバンドパスフィルタと、
光を検出する受光素子が複数配列された検出部であって、前記バンドパスフィルタを透過した光を受光する、少なくとも1つの受光素子からなる第1の受光素子と、前記バンドパスフィルタを透過しない経路の光を少なくとも受光する、少なくとも2つの受光素子からなる第2の受光素子とを備えた検出部と、
前記照射光の光路上に配置された前記紙葉類から、該紙葉類に照射された照射光を励起光として得られる二次光であって、前記バンドパスフィルタを透過した二次光の前記第1の受光素子での検出結果に基づいて、前記紙葉類の光学特性を識別する識別部と、
前記照射光の光路上に前記紙葉類が配置されていない状態における、前記第2の受光素子での検出結果に基づいて、前記第1の受光素子での検出結果を較正する制御部と
を備えた紙葉類光学特性識別装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記較正として、前記照射部の発光光量の制御、前記第1の受光素子での検出結果の補正、前記第1の受光素子の感度の調整のうちの、少なくとも1つを行う請求項1記載の紙葉類光学特性識別装置。
【請求項3】
前記照射部と前記検出部とは、前記バンドパスフィルタを介して、対向して配置された請求項1または請求項2記載の紙葉類光学特性識別装置。
【請求項4】
前記照射部は、単一の光源である請求項1ないし請求項3のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置。
【請求項5】
前記第2の受光素子を構成する少なくとも2つの受光素子は、互いに離れて配置された2つの受光素子を含む請求項4記載の紙葉類光学特性識別装置。
【請求項6】
前記第2の受光素子を構成する少なくとも2つの受光素子は、前記照射光の光軸を対称軸とする対称形に配置された請求項5記載の紙葉類光学特性識別装置。
【請求項7】
前記第2の受光素子は、前記照射光の光軸に対して前記第1の受光素子よりも遠い位置に設けられた請求項4ないし請求項6のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置。
【請求項8】
更に、前記照射光の光路上に前記紙葉類が配置されていない状態における、前記第2の受光素子での検出結果に基づいて、前記照射光の光軸のずれを検知する光軸ずれ検知部を備えた請求項4ないし請求項7のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置。
【請求項9】
前記制御部は、前記光軸ずれ検知部の検知結果に基づいて、前記較正として、少なくとも、前記第1の受光素子での検出結果の補正を行う請求項8記載の紙葉類光学特性識別装置。
【請求項10】
請求項1ないし請求項3のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置であって、
前記照射部は、複数の光源が前記受光素子の配列方向に並んで配置されたライン光源であり、
前記バンドパスフィルタは、前記受光素子の配列方向に少なくとも1つのスリットを備えた
紙葉類光学特性識別装置。
【請求項11】
前記制御部は、前記第2の受光素子のうちの、前記第1の受光素子と隣接しない受光素子での出力結果に基づいて、前記較正を行う請求項1ないし請求項10のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置。
【請求項12】
前記制御部は、前記第2の受光素子のうちの、相対的に出力値が大きい受光素子での出力結果に基づいて、前記較正を行う請求項1ないし請求項11のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置。
【請求項13】
前記制御部は、前記第2の受光素子のうちの、前記バンドパスフィルタを透過した光と、前記バンドパスフィルタを透過しない光とが干渉しない位置に設けられた受光素子での出力結果に基づいて、前記較正を行う請求項1ないし請求項12のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置。
【請求項14】
請求項1ないし請求項13のいずれか記載の紙葉類光学特性識別装置の設計方法であって、
前記第2の受光素子が前記バンドパスフィルタを透過した二次光を受光したと仮定した場合に、該第2の受光素子での該二次光の検出レベルが検出可能範囲に満たない位置に該第2の受光素子を配置する
紙葉類光学特性識別装置の設計方法。
【請求項15】
紙葉類の光学特性を検出する紙葉類光学特性検出方法であって、
紙葉類に単一光源から得られる光を照射して、照射した照射光から得られる二次光を、特定の波長の光を選択的に透過させるバンドパスフィルタを透過させ、透過した透過光を第1の受光素子で検出する検出工程と、
少なくとも2つの受光素子である第2の受光素子に、前記紙葉類を介さずに前記単一光源から得られる光を照射して、前記バンドパスフィルタを介さずに受光させて、該第2の受光素子での検出結果に基づいて、該照射光の光軸ずれを検知する検知工程と、
前記検知工程での検知結果に基づいて、前記検出工程の検出結果を補正する補正工程と、
前記補正工程での補正結果に基づいて、前記紙葉類の光学特性を識別する識別工程と
を備えた紙葉類光学特性検出方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2010−272009(P2010−272009A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−124448(P2009−124448)
【出願日】平成21年5月22日(2009.5.22)
【出願人】(504373093)日立オムロンターミナルソリューションズ株式会社 (1,225)
【Fターム(参考)】