説明

紙葉類識別装置、及び紙葉類識別方法

【課題】コストを高くすることなく、紙幣に形成された透かし領域の真贋の識別が可能な紙幣識別装置を提供する。
【解決手段】紙幣識別装置は、搬送される紙幣に形成された透かし画像の反射光を受光する受光部81aと、受光部81aで受光した透かし画像の反射光を、明るさを有する色情報を含み、所定の大きさを1単位とする画素毎に変換する変換部232と、変換部232で変換された画素毎の濃度値、及び、基準となる紙幣の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値から相関係数を算出して、その相関係数に基づいて透かし画像の真贋を識別する識別処理部235とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙幣、商品券、クーポン券等(以下、これらを紙葉類と総称する)の真贋を識別する紙葉類識別装置、及び紙葉類識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、紙葉類の一態様である紙幣を取扱う紙幣処理装置は、利用者によって紙幣挿入口から挿入された紙幣の真贋を識別し、真正と識別された紙幣価値に応じて、各種の商品やサービスを提供するサービス機器、例えば遊技場に設置されている遊技媒体貸出機、或いは、公共の場に設置されている自動販売機や券売機等に組み込まれている。
【0003】
通常、紙幣の真贋の識別は、紙幣挿入口に連続して設けられる紙幣搬送路に設置された紙幣識別装置によって行われるようになっており、紙幣搬送路を移動する紙幣に対して光を照射し、その透過光や反射光を受光センサで受光し、この受光データを正規のデータと比較することで真贋を識別する。
【0004】
ところで、紙幣には、偽造を防止するために様々な工夫が施されており、その一つとして、特殊な手法により凹凸のある人物像による透かしを形成したり、或いは、触感で真偽判別可能な漉き入れマークを形成することが行われている(以下、紙幣に形成される透かしや漉き入れを「透かし」と総称する)。このような透かしは、紙幣の識別精度を向上する上で真贋識別対象領域として利用されることがあり、例えば、特許文献1には、透かしに赤外線や可視光を照射し、その透過光や反射光を取得することで、紙幣の真偽を識別する紙幣鑑別装置が開示されている。
【特許文献1】特開2006−285775号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記した紙幣の透かしは、偽造できないように、特殊な手法によって形成されていることから、真贋を判別する上では、きわめて有効なものと考えられる。仮に、このような透かしを偽造するのであれば、それは、偽造する紙のいずれか一方の面に、透かし画像と同様な薄い印刷画像を施すことが考えられる。
【0006】
このように、いずれか一方の面に薄い印刷をすることで透かし画像を形成した偽造紙幣は、上記した特許文献1に開示されている技術にしたがえば、紙幣に対して光を照射し、その反射光を取得することで真贋を識別することは可能であるものの、搬送される紙幣の両面側に受光センサを設置しておく必要があり、コストが高くなるという問題がある。
【0007】
本発明は、上記した事情に着目してなされたものであり、コストを高くすることなく、紙葉類に形成された透かし領域の真贋の識別が可能な紙葉類識別装置、及び紙葉類識別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記した目的を達成するために、請求項1に係る紙葉類識別装置は、搬送される紙葉類に形成された透かし画像の反射光を受光する受光手段と、前記受光手段で受光した透かし画像の反射光を、明るさを有する色情報を含み、所定の大きさを1単位とする画素毎に変換する変換部と、前記変換部で変換された画素毎の濃度値、及び、基準となる紙葉類の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値から相関係数を算出して、その相関係数に基づいて透かし画像の真贋を識別する識別処理部と、を有することを特徴とする。
【0009】
一般的に、紙幣のような紙葉類に形成される透かしは、その透かしが形成される部分を観察すると、反射画像と透過画像とは、明暗が反転した関係となっている。そこで、本発明に係る紙葉類識別装置は、この関係を利用することで、搬送される紙葉類の片側のみに受光手段を設置して真贋を識別するようにしている。
【0010】
具体的には、前記変換部において、透かし画像の反射光によって得られる画素毎の濃度値は、同じ位置で得られる透過光による画素毎の濃度値とは相反する関係であることから、両者の画素毎の濃度値から相関係数Rを算出すると、相関係数Rの取り得る範囲である−1≦R≦1の範囲内において、マイナス側にシフトした相関係数が得られるようになる(理想値としては−1の相関係数と考えられるが、紙幣の汚損、皺、透かしのずれなどの影響により、実際には−1よりも大きい値となる)。このため、所定値以下の閾値を設定しておくことで、透過光と反射光との間で、そのような相反する濃度値になっている関係を導き出すことが可能となり、搬送される紙葉類に対し、片方に設置される受光手段でも、紙葉類に形成される透かしの真贋を識別することが可能となる。なお、基準となる紙葉類の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値については、実際に搬送される紙葉類からの透過光で取得しても良いし、予め基準値として識別処理部に記憶されたものであっても良い。
【0011】
また、請求項2に係る発明においては、前記受光手段は、前記搬送される紙葉類の透かし画像の透過光を受光可能であり、前記識別処理部は、受光手段で取得した透かし画像の透過光による画素毎の濃度値、及び、前記基準となる紙葉類の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値から相関係数を算出して、その相関係数に基づいて透かし画像の真贋を識別することを特徴とする。
【0012】
上記した構成の紙葉類識別装置によれば、搬送される紙葉類の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値と、基準となる紙葉類の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値から相関係数を算出して真贋を識別するため、透かし図柄が形成されていないような紙葉類を排除することが可能となる。
【0013】
また、請求項3に係る発明においては、前記識別処理部は、相関係数を算出する際に、基準となる紙葉類の透かし画像の画素位置に対応するように、取得した透かし画像の画素位置を移動させて位置補正を実行し、相関係数の絶対値が最も高いところを抽出して真贋を識別することを特徴とする。
【0014】
上記した構成の紙葉類識別装置によれば、透かしが形成される位置に多少のばらつきのある真正の紙葉類が搬送されても、取得した画像の画素位置を移動させるような位置補正を施すことで、偽物と識別する可能性が少なくなり、識別精度の向上を図ることが可能となる。なお、このような位置補正は、広範囲に実行すると、処理速度が遅くなる等の不都合が生じるため、例えば、ある点を中心として、その上下方向、左右方向に画素情報を±数画素程度、シフトして検索を行えば良い。このため、このような位置補正については、近傍探索と称する。
【0015】
また、請求項4に係る発明においては、前記紙葉類に照射される光は、近赤外光であることを特徴とする。
【0016】
上記したように、紙幣のような紙葉類に形成される透かしは、その透かしが形成される部分を観察すると、反射画像と透過画像とは、明暗が反転した関係となっている。この現象は、可視光のもとでも確認できるが、近赤外光のもとではより明確に確認できることから、実際に使用する透過光及び反射光について近赤外光を用いることにより、真贋の識別精度を、より向上することが可能となる。
【0017】
また、上記した目的を達成するために、請求項5に係る紙葉類識別方法は、明るさを有する色情報を含み、所定の大きさを1単位とする画素毎に、搬送される紙葉類に形成された透かし画像の反射光を取得する画像取得工程と、前記透かし画像の反射光による画素毎の濃度値、及び、基準となる紙葉類の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値から相関係数を算出して、その相関係数に基づいて透かし画像の真贋を識別する反射光による真贋識別工程と、を有することを特徴とする。
【0018】
上述したように、紙幣のような紙葉類に形成される透かしは、その透かしが形成される部分を観察すると、反射画像と透過画像とは、明暗が反転した関係となっている。そこで、本発明に係る紙葉類識別方法は、この関係を利用することで、搬送される紙葉類の片側のみに受光手段を設置して真贋を識別するようにしている。
【0019】
具体的には、上記した反射光による真贋識別工程においては、透かし画像の反射光による画素毎の濃度値は、同じ位置で得られる透過光による画素毎の濃度値とは相反する関係であることを利用し、両者の画素毎の濃度値から相関係数Rを算出して、所定値以下の閾値を設定しておくことで、透過光と反射光との間で、そのような相反する濃度値になっている関係を導き出して紙葉類に形成される透かしの真贋を識別する。すなわち、相関係数Rの取り得る範囲である−1≦R≦1の範囲内において、上記した透かし画像の反射光による画素毎の濃度値は、同じ位置で得られる透過光による画素毎の濃度値とは相反する関係にあることから、マイナス側にシフトした相関係数が得られるため(理想値としては−1の相関係数と考えられるが、紙幣の汚損、皺、透かしのずれなどの影響により、実際には−1よりも大きい値となる)、所定値以下の閾値を設定しておくことで、透過光と反射光との間で、そのような相反する濃度値になっている関係を導き出すことが可能となり、搬送される紙葉類に対し、片方に設置される受光手段でも、紙葉類に形成される透かしの真贋を識別することが可能となる。なお、基準となる紙葉類の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値については、実際に搬送される紙葉類からの透過光から取得しても良いし、予め基準値として記憶されたものであっても良い。
【0020】
また、請求項6に係る発明においては、前記画像取得工程は、明るさを有する色情報を含み、所定の大きさを1単位とする画素毎に、搬送される紙葉類に形成された透かし画像の透過光を取得し、前記画像取得工程で取得した透かし画像の透過光による画素毎の濃度値、及び、基準となる紙葉類の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値から相関係数を算出して、その相関係数に基づいて透かし画像の真贋を識別する透過光による真贋識別工程をさらに有することを特徴とする。
【0021】
上記した構成の紙葉類識別方法によれば、前記画像取得工程で取得した透かし画像の透過光による画素毎の濃度値、及び、基準となる紙葉類の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値から相関係数を算出して、その相関係数に基づいて透かし画像の真贋を識別することで、透かし図柄が形成されていないような紙葉類を排除することが可能となる。
【0022】
また、請求項7に係る発明においては、前記反射光による真贋識別工程、及び透過光による真贋識別工程において、相関係数を算出する際に、基準となる紙葉類の透かし画像の画素位置に対応するように、取得した透かし画像の画素位置を移動させて位置補正を実行し、相関係数の絶対値が最も高いところを抽出して真贋を識別することを特徴とする。
【0023】
上記した構成の紙葉類識別方法によれば、透かしが形成される位置に多少のばらつきのある真正の紙葉類であっても、近傍探索による位置補正を施すことで、偽物と識別する可能性が少なくなり、識別精度の向上を図ることが可能となる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、コストを高くすることなく、紙葉類に形成された透かし領域の真贋の識別が可能な紙葉類識別装置、及び紙葉類識別方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
【0026】
図1から図3は、本発明に係る紙葉類識別装置を紙幣識別装置に適用した例を示す図であり、図1は、全体構成を示す斜視図、図2は、開閉部材を装置本体の本体フレームに対して開いた状態を示す斜視図、そして、図3は、挿入口から挿入される紙幣の搬送経路を概略的に示した右側面図である。
【0027】
本実施形態の紙幣識別装置1は、例えば、スロットマシン等の各種の遊技機に組み込み可能に構成されており、装置本体2と、この装置本体2に設けられ、多数の紙幣などを積層、収容することが可能な収容部(収容スタッカ;金庫)100とを備えている。この収容部100は、装置本体2に対して着脱可能であっても良く、例えば、図示されていないロック機構が解除された状態で、前面に設けられた取っ手101を引くことで、装置本体2から取り外すことが可能となっている。
【0028】
前記装置本体2は、図2に示すように、本体フレーム2Aと、本体フレーム2Aに対して一端部を回動中心として開閉されるように構成された開閉部材2Bとを有している。そして、これら本体フレーム2A及び開閉部材2Bは、図3に示すように、開閉部材2Bを本体フレーム2Aに対して閉じた際、両者の対向部分に紙幣が搬送される隙間(紙幣搬送路3)が形成されると共に、両者の前面露出側に、前記紙幣搬送路3に一致するようにして、紙幣挿入口5が形成されるよう構成されている。なお、前記紙幣挿入口5は、紙幣の短い辺側から装置本体2の内部に挿入できるようにスリット状の開口となっている。
【0029】
また、前記装置本体2内には、前記紙幣搬送路3に沿って、紙幣を搬送する紙幣搬送機構6と、紙幣挿入口5に挿入された紙幣を検知する挿入検知センサ7と、挿入検知センサ7の下流側に設置され、搬送状態にある紙幣の情報を読取る紙幣読取手段8と、この紙幣読取手段8に対して、紙幣を正確に位置決めして搬送するスキュー補正機構10とが設けられている。
【0030】
以下、上記した各構成部材について、詳細に説明する。
前記紙幣搬送路3は、紙幣挿入口5から奥側に向けて延出しており、その下流側には、紙幣収容部100に紙幣を排出する排出口3aが形成されている。
【0031】
前記紙幣搬送機構6は、紙幣挿入口5から挿入された紙幣を挿入方向に沿って搬送可能にすると共に、挿入状態にある紙幣を紙幣挿入口5に向けて差し戻し搬送可能とする機構である。この紙幣搬送機構6は、装置本体2内に設置された駆動源であるモータ13(図5参照)と、このモータ13によって回転駆動され、紙幣搬送路3に紙幣搬送方向に沿って所定間隔おいて配設される搬送ローラ対(14A,14B)、(15A,15B)、(16A,16B)、及び(17A,17B)を備えている。
【0032】
前記搬送ローラ対は、紙幣搬送路3に一部が露出するように設置されて、いずれも紙幣搬送路3の下側に設置される搬送ローラ14B,15B,16B及び17Bがモータ13によって駆動されるローラとなっており、上側に設置される搬送ローラ14A,15A,16A及び17Aが、これらのローラに対して従動するピンチローラとなっている。なお、紙幣挿入口5から挿入された紙幣を最初に挟持して奥側に搬送する搬送ローラ対(14A,14B)は、図2に示すように、紙幣搬送路3の中心位置に1箇所設置されており、その下流側に順次配置される搬送ローラ対(15A,15B)、(16A,16B)、及び(17A,17B)については、紙幣搬送路3の幅方向に沿って、所定間隔をおいて2箇所設置されている。
【0033】
また、上記した紙幣挿入口5の近傍に配置される搬送ローラ対(14A,14B)については、通常は、上側の搬送ローラ14Aが下側の搬送ローラ14Bから離間した状態となっており、紙幣の挿入が挿入検知センサ7によって検知されると、上側の搬送ローラ14Aが下側の搬送ローラ14Bに向けて駆動され、挿入された紙幣を挟持するようになっている。
【0034】
また、前記スキュー補正機構10は、スキューの補正を果たす左右一対の可動片10A(片側のみ図示)を備えており、スキュー補正機構用のモータ40を駆動することで、左右一対の可動片10Aを接近するように移動させ、これにより、紙幣に対するスキューの補正処理が成される。
【0035】
前記挿入検知センサ7は、紙幣挿入口5に挿入された紙幣を検知した際に検知信号を発生するものであり、この検知信号が発せられると、前記モータ13が正転駆動され、紙幣を挿入方向に向けて搬送する。本実施形態の挿入検知センサ7は、搬送ローラ対(14A,14B)と、スキュー補正機構10との間に設置されており、光学式のセンサ、例えば、回帰反射型フォトセンサによって構成されているが、それ以外にも、機械式のセンサによって構成されていても良い。
【0036】
前記紙幣読取手段8は、スキュー補正機構10によってスキューが補正された状態で搬送される紙幣について、その紙幣情報を読取り、その有効性(真贋)を識別する。本実施形態では、紙幣読取手段8は、搬送される紙幣の両面側から光を照射し、その透過光と反射光を受光素子で検知することで読取を行うラインセンサを備えた構成になっている。
【0037】
本実施形態における真贋識別処理は、その識別精度を高めるように、上記した紙幣読手段を利用して、搬送される紙幣の印刷部分に光を照射し、その透過光及び反射光を受光して、印刷部分における特徴点(識別の対象とされる特徴点の領域、及び、その抽出の仕方については任意である)が真正のものと一致するか否かを識別する構成となっている。
【0038】
そして、本発明では、このような真贋識別処理を実行するに際し、紙幣に形成された透かし部分についても、真贋判定における識別対象領域としており、後述するように、紙幣読取手段8で読取った透かし部分における紙幣情報を、二次元画像にして真贋判定を行うようにしている。すなわち、透かし部分については、紙幣の偽造を防止する一つの手段として、特徴付けされている部分であることから、このような透かし領域について二次元画像を取得し、これを真券の紙幣の透かし部分のデータと比較することで、その識別精度をより向上することが可能となる。
【0039】
また、真正の紙幣には、照射する光の波長(例えば、可視光や赤外光)によって、取得される画像データが異なる領域があることから、本実施形態では、この点に着目し、複数の光源によって異なる波長(本実施形態では、赤色光及び赤外光を照射する)の光を紙幣に照射し、その透過光と反射光を検出することで、真贋の識別精度をより高めるようにしている。すなわち、赤色光と赤外光では、波長が異なることから、波長の異なる複数の光による透過光データや反射光データを紙幣の真贋判定に用いると、真券と偽札との特定領域を通過する透過光や特定領域から反射する反射光では、透過率、反射率がそれぞれ異なるという性質がある。このため、複数の波長の光源を用いることで、紙幣の真贋の識別精度をより高めるようにしている。
【0040】
なお、具体的な紙幣の真贋識別方法については、紙幣に照射する光の波長や照射領域により、様々な受光データ(透過光データ、反射光データ)を取得できるため、詳細に説明しないが、例えば、紙幣の透かし領域では、異なる波長の光でその領域の画像を見た場合、画像が大きく異なって見えることから、この部分を特定領域とし、当該特定領域における透過光データや反射光データを取得して、予め記憶手段(ROM)に記憶してある真券の同じ特定領域における正規データと比較して、識別対象となる紙幣が真券であるか偽札であるかを識別することが考えられる。このとき、金種に応じて特定領域を定めておき、この特定領域における透過光データや反射光データに所定の重み付けを設定しておき、真贋識別精度のさらなる向上を図ることも可能である。
【0041】
そして、上記した紙幣読取手段8は、後述するように、発光部を所定の間隔で点灯制御し、紙幣が通過する際の透過光及び反射光をラインセンサによって検知するものであることから、ラインセンサによって、所定の大きさを1単位とした複数の画素情報に基づいた画像データを取得することが可能となる。
【0042】
この場合、ラインセンサによって取得される画像データは、後述する変換部によって、画素毎に、明るさを有する色情報を含んだデータに変換される。なお、変換部において変換される明るさを有する画素毎の色情報とは、濃淡値すなわち濃度値(輝度値)に対応するものであって、例えば、1バイト情報として、その濃度値に応じて、0から255の数値(0:黒〜255:白)が各画素に割り当てられている。
【0043】
このため、上述した真贋識別処理では、紙幣に形成される透かし部分に限定されることはなく、紙幣の様々な領域を抽出し、その領域に含まれる画素情報(濃度値)と、真券の同じ領域の画素情報とを用い、これらを適宜の相関式に代入して演算した相関係数により、真贋を識別することが可能である。或いは、上記した以外にも、透過光データや反射光データから、例えばアナログ波形を生成し、この波形の形状同士の比較で、真贋を識別することも可能である。
【0044】
ここで、上記した紙幣読取手段8の構成について、図2及び図3を参照して詳細に説明する。
【0045】
上記した紙幣読取手段8は、開閉部材2B側に配設され、搬送される紙幣の上側に赤外光及び赤色光を照射可能とした第1発光部80aを具備した発光ユニット80と、本体フレーム2A側に配設された受発光ユニット81とを有している。
【0046】
この受発光ユニット81は、紙幣を挟むようにして第1発光部80aと対向する受光センサを具備した受光部81aと、受光部81aの紙幣搬送方向両側に隣接して配設され、赤外光及び赤色光を照射可能とした第2発光部81bとを有している。
【0047】
前記受光部81aと対向配置された第1発光部80aは透過用の光源として機能する。この第1発光部80aは、図2に示すように、一端に取り付けたLED素子80bからの光を、内部に設けた導光体80cを通して発光する合成樹脂製の矩形棒状体によって構成されている。このような構成の第1発光部は、受光部81a(受光センサ)と平行にライン状に配設されており、簡単な構成で、搬送される紙幣の搬送路幅方向全体の範囲に対して全体的に均一に照射することが可能となる。
【0048】
前記受発光ユニット81の受光部81aは、紙幣搬送路3に対して交差方向に伸延し、かつ受光部81aに設けた図示しない受光センサの感度に影響を与えない程度の幅を有する帯状に形成された薄肉の板状に形成されている。なお、前記受光センサは、受光部81aの厚み方向の中央に、複数のCCD(Charge Coupled Device)をライン状に設けるとともに、このCCDの上方位置に、透過光及び反射光を集光させるように、ライン状にグリンレンズアレイ81cを配置した所謂ラインセンサとして構成されている。このため、真贋識別対象となる紙幣に向けて照射された第1発光部80aや第2発光部81bからの赤外光や赤色光の透過光あるいは反射光を受光し、受光データとして、その輝度に応じた濃淡データ(明るさの情報を含んだ画素データ)や、この濃淡データから二次元画像を生成することが可能となっている。
【0049】
また、受発光ユニット81の第2発光部81bは反射用の光源として機能する。この第2発光部81bは、第1発光部80aと同様、一端に取り付けたLED素子81dからの光を、内部に設けた導光体81eを通して全体的に均一に照射可能とした合成樹脂製の矩形棒状体によって構成されている。この第2発光部81bについても、受光部81a(ラインセンサ)と平行にライン状に配設して構成されている。
【0050】
前記第2発光部81bは、例えば45度の仰角で光を紙幣に向けて照射可能としており、紙幣からの反射光を受光部81aで受光するように配設されている。この場合、第2発光部81bから照射された光が受光部81aへ45度で入射するようにしているが、入射角は45度に限定されるものではなく、紙幣の表面に対して濃淡なく均一に光が照射できれば、その設置状態については適宜設定することができる。このため、第2発光部81b、受光部81aの配置については、紙幣処理装置の構造に応じて、適宜設計変更が可能である。また、前記第2発光部81bについては、受光部81aを挟んで両サイドに設置して、両側からそれぞれ入射角45度で光を照射するようにしている。これは、紙幣表面に傷や折皺などがある場合、これら傷や折皺部分に生じた凹凸に光が片側からのみ照射された場合、どうしても凹凸の部分においては光が遮られて陰になってしまう箇所が生じることがある。このため、両側から光を照射することにより、凹凸の部分において陰ができることを防止して、片側からの照射よりも精度の高い画像データを得ることを可能としている。もちろん、第2発光部81bについては、片方のみに設置した構成であっても良い。
【0051】
なお、上記した発光ユニット80、受発光ユニット81の構成や配置などは、本実施形態に限定されるものではなく、適宜変形することが可能である。
【0052】
また、上記した発光ユニット80、及び受発光ユニット81における各第1発光部80a、及び第2発光部81bでは、紙幣の読取り時、図4のタイミングチャートに示すように赤外光と赤色光が、所定の間隔で点灯制御される。すなわち、第1発光部80a及び第2発光部81bにおける赤色光と赤外光の透過用の光源と、赤色光と赤外光の反射用の光源からなる4つの光源は、一定の間隔(所定の点灯間隔)で点灯、消灯を繰り返し、各光源の位相を重ねることなく、2つ以上の光源が同時に点灯することがないように点灯制御される。換言すれば、ある光源が点灯しているときには、他の3つの光源は消灯するように点灯制御される。これにより、本実施形態のように、1つの受光部81aであっても、各光源の光を一定間隔で検出し、赤色光の透過光及び反射光、赤外光の透過光及び反射光による紙幣の印刷領域の濃淡データからなる画像を読取ることができ、また、両面の印刷長を測定することが可能となる。この場合、点灯間隔が短くなるように制御することで、解像度を高めることも可能である。
【0053】
そして、上記したように構成される紙幣読取手段8において真性と識別された紙幣は、紙幣搬送機構6によって紙幣搬送路3の排出口3aを介して上述した紙幣収容部100に搬送され、紙幣収容部内に順次、積層、収容される。また、偽物と識別された紙幣は、紙幣搬送機構6が逆転駆動されることで紙幣挿入口5側に戻され、紙幣挿入口5から排出される。
【0054】
次に、上述した紙幣識別装置1の動作を制御する制御手段200について、図5のブロック図を参照して説明する。
【0055】
図5のブロック図に示す制御手段200は、上記した各駆動装置の動作を制御する制御基板210を備えており、この制御基板210上には、各駆動装置の駆動を制御すると共に、紙幣識別手段を構成するCPU(Central Processing Unit)220と、ROM(Read Only Memory)222と、RAM(Random
Access Memory)224と、真贋判定部230とが実装されている。
【0056】
前記ROM222には、紙幣搬送機構用のモータ13、スキュー補正機構用のモータ40等の各種駆動装置の作動プログラムや、真贋判定部230における真贋判定プログラム等の各種プログラム等、恒久的なデータが記憶されている。
【0057】
前記CPU220は、ROM222に記憶されている前記プログラムに従って作動して、I/Oポート240を介して上述した各種駆動装置との信号の入出力を行い、紙幣識別装置の全体的な動作制御を行う。すなわち、CPU220には、I/Oポート240を介して、紙幣搬送機構用のモータ13、スキュー補正機構用のモータ40等の駆動装置が接続されており、これらの駆動装置は、ROM222に格納された作動プログラムに従って、CPU220からの制御信号により動作が制御される。また、CPU220には、I/Oポート240を介して、挿入検知センサ7からの検知信号が入力されるようになっており、この検知信号に基づいて、上記した駆動装置の駆動制御が行われる。
【0058】
さらに、CPU220には、I/Oポート240を介して、上述した紙幣読取手段8における受光部81aから、紙幣に照射された光の透過光や反射光に基づく検知信号が入力されるようになっている。
【0059】
前記RAM224には、CPU220が作動する際に用いるデータやプログラムが一時的に記憶されると共に、紙幣の受光データ(複数の画素によって構成される画像データ)を取得して一時的に記憶する機能を備えている。
【0060】
前記真贋判定部230は、搬送される紙幣について真贋識別処理を実施し、その紙幣についての真贋を識別する機能を有する。この真贋判定部230は、前記RAM224に格納された紙幣の受光データに関し、画素毎に、明るさを有する色情報(濃度値)を含んだ画素情報に変換する変換部231と、真正な紙幣に関する基準データを格納した基準データ記憶部233と、真贋対象となる紙幣について、前記変換部231で変換された画像データ(比較データ)と、基準データ記憶部233に格納されている基準データとを比較し、真贋の識別処理を行う識別処理部235と、を備えている。
【0061】
この場合、前記基準データ記憶部233には、真贋識別処理を実施するに際して用いられる真正の紙幣に関し、透かし部分の画像データ(標準画像)が記憶されている。具体的に、この標準画像は、真正な紙幣の透かし画像領域に光を照射し、その透過光を受光した際に得られる多数の画素による画像データが該当しており、所定のパラメータ(xStart,yStart,xsize,ysize)に関連付けされて記憶されている。
【0062】
上記した基準データ(標準画像を含む)については、専用の基準データ記憶部233に記憶させているが、これを上記したROM222に記憶させておいても良い。また、真贋の識別処理時に参照される基準データ(標準データ)については、予め基準データ記憶部233に記憶させておいても良いが、例えば、所定枚数の真券を、紙幣搬送機構6を通して搬送させながら受光データを取得し、得られた多数の真券のデータから平均的な値を算出し、これを基準データとして記憶する構成であっても良い。
【0063】
さらに、CPU220には、I/Oポート240を介して、上述した紙幣読取手段8における第1発光部80aと、第2発光部81bが接続されている。これら第1発光部80a及び第2発光部81bは、上記したROM222に格納された動作プログラムに従い、CPU220からの制御信号によって、発光制御回路260を介して、点灯間隔、及び消灯が制御される。
【0064】
上記したように構成される紙幣読取手段(ラインセンサ)によれば、多数の画素情報から二次元的な画像情報を取得することができる。そして、例えば、上記した変換部232によって変換された各画素の明るさ情報を基にして、真贋の識別をするに際しての対象領域を抽出し、この抽出した画像情報を、基準データと比較することで真贋の識別を行う。この場合、真贋識別対象とされる領域については、紙幣の印刷領域の内、偽造が困難な部分にすることが好ましく、本発明では、紙幣の透かし部分の領域の二次元画像を抽出して、これを基準データと比較することで真贋識別処理を行うようにしている。
【0065】
ところで、上述したように、紙幣の透かし部分は、透過光で見たときと反射光で見たときに、明暗が反転するという現象が生じる。本発明は、このような現象に着目しており、搬送される紙幣の片側のみに設置される受光部81aによって、透かし部分の真贋を識別するようにしている。なお、そのような明暗の反転現象は、特に、使用される光源が近赤外光であるときに明確に確認できることから、本実施形態では、透かし部分を利用して真贋を識別する処理工程においては、複数の光源のうち、透過用の赤外光、反射用の赤外光を照射する光源を利用するようにしている。すなわち、これにより、真贋の識別精度を、より向上することが可能となる。
【0066】
具体的に、前記変換部232において透かし画像の反射光によって得られる画素毎の濃度値は、同じ位置で得られる透過光による画素毎の濃度値(この濃度値については、標準データとして基準データ記憶部233に予め記憶されている)とは相反する関係となっている。このため、両者の画素毎の濃度値から相関係数Rを算出すると、相関係数Rの取り得る範囲である−1≦R≦1の範囲内において、マイナス側にシフトした相関係数(負の相関係数)が得られるようになる。なお、理想値としては、−1の相関係数になると考えられるが、紙幣の汚損、皺、透かしのずれなどの影響により、実際には−1よりも大きい値となる。
【0067】
従って、両者の所定値以下の閾値を設定しておくことで、透過光と反射光との間で、そのような相反する濃度値になっている関係を導き出すことが可能となり、搬送される紙幣に対し、片方に設置される受光部81aでも、紙幣に形成される透かしの真贋を識別することが可能となる。
【0068】
以下、上記した透かし画像に基づく真贋識別処理の手法例について、図6のフローチャート、及び図7〜図9を参照して具体的に説明する。なお、このような透かし画像に基づく真贋識別処理については、それ以外にいくつか存在する紙幣真贋識別処理の中の一つの処理として実行される。
【0069】
まず、最初に、紙幣読取手段8において、搬送される紙幣の読取りを行い、その読取った画像から、変換部232によって、色情報を含む画素情報への変換処理を行う(ST01)。上記したように、紙幣読取手段8は、紙幣搬送機構6によって搬送された紙幣に対し、前記第1発光部80a、及び第2発光部81bから光(赤色光、赤外光)を照射し、その透過光や反射光を受光部(ラインセンサ)81aで受光して紙幣の読取りを実行する。この読取りに際しては、紙幣の搬送処理が行われている間、照射光毎に、所定の大きさを1単位とする多数の画素情報を取得することが可能であり、このようにして取得された多数の画素によって構成される画像データは、RAM224などの記憶手段に記憶される。そして、ここで記憶される多数の画素によって構成される画像データは、変換部232によって、画素毎に、明るさを有する色情報(濃度値に応じて0から255の数値(0:黒〜255:白)が割り当てられた色情報)を含んだ情報に変換される。
【0070】
次いで、このように変換された画素情報から透かし画像領域の抽出処理を行う(ST02)。これは、例えば、紙幣を搬送する際、印刷領域から透かし画像領域に移行した段階で、画素情報の濃度値が高くなる(白くなる)ことから、その変位する位置を閾値を設定して検出することで、透かし画像領域を抽出することが可能となる。もちろん、透かし画像領域については、得られた画像情報や変換された画像情報に基づいて様々な手法により抽出することが可能である。また、透かし画像を抽出するのに用いられる照射光については、複数の光源の内、透過光の赤色光、赤外光、及び反射光の赤色光、赤外光の内、いずれか(組み合わせでも良い)が用いられる。
【0071】
次いで、識別処理部235において、予め基準データ記憶部233に記憶されている標準データ(透かし画像に関する標準データ)を、上記したパラメータを用いて抽出し、これを、変換部で変換された反射光による画像データとの間で比較処理する(ST03)。この場合、抽出される標準データは、例えば、図7に示すように、紙幣Mに関する標準画像が基準データ記憶部233に記憶されていれば、上記したパラメータを用いて、透かし領域101や、漉き入れマーク形成領域105の二次元画像となる。
【0072】
上記したST03における比較処理(第1の比較処理とする)は、透かしの有無を判定するための処理であり、搬送される紙幣から取得した透過光による透かし領域の画像情報と、標準画像の透かし領域の透過光による画像情報との間で、以下の式1で示す相関係数Rを導くことで、搬送される紙幣の真贋を識別するようにしている。
【0073】
【数1】

上記した式1において、[i,j]は、紙幣の透かし形成領域の座標に対応するものであり、この紙幣座標[i,j]における識別対象となる紙幣からの取得データの二次元画像の濃度値をf[i,j]、標準データにおける濃度値をs[i,j]、取得データにおける平均濃度をF、基準データの平均濃度値をSとしている。
【0074】
上記した式1によって導き出される相関係数Rは、公知のように、−1〜+1までの値をとり、+1に近い方(相関係数が高い)が、類似度が高いとされる。この場合、搬送された紙幣に透かしが形成されていなければ、両者の間で相関関係はないことから(相関係数は0に近づく)、導き出される相関係数Rについて所定の閾値を設定しておき、相関係数Rが閾値よりも低ければ、透かしが形成されていない偽札と判定する(ST04;No、ST08)。
【0075】
一方、上記ST04において、相関係数Rが所定の閾値以上であれば、引き続き、第2の比較処理を実行する(ST05)。この比較処理は、上述したように、透過光と反射光で得られる画像データ(近赤外光で顕著に認められることから、光源の内、赤外光を照射する反射光源による画像データが用いられる)は、明暗反転していることから、その関係を利用して真贋の識別を行う処理であり、搬送される紙幣から取得した反射光による透かし領域の画像情報と、標準画像の透かし領域の透過光による画像情報との間で、上記した式1で示す相関係数R´を導くことで、搬送される紙幣の真贋を識別するようにしている。
【0076】
この真贋の識別処理について、図8を参照して説明する。
図8(a)は、搬送される紙幣の漉き入れマーク形成領域105における反射光(近赤外光に基づく反射データ)による画像データであり、変換部232よって変換された色情報を含む画素情報を示している。なお、図8(a)では、説明を簡単にするために、漉き入れマーク形成領域105における一方向(縦方向)で12画素分が抽出され、搬送方向(横方向)で7画素分が抽出されたものとしてある。また、図8(b)は、予め基準データ記憶部233に記憶されている漉き入れマーク形成領域における標準データであり、図8(a)と同じ位置における透過光による画像データを示している。
【0077】
両者の画像データは、上述したように、明暗が反転した関係となっている。すなわち、変換部232において、透かし画像の反射光によって得られる画素毎の濃度値は、同じ位置で得られる透過光による画素毎の濃度値とは相反する関係となっているため、両者の画素毎の濃度値から、相関係数R´を算出すると、相関係数R´の取り得る範囲である−1≦R´≦1の範囲内において、マイナス側にシフトした相関係数(負の相関係数)が得られるようになる。
【0078】
なお、図8(a)と図8(b)で示す画像データの関係では、対応する画素位置における濃度値の全てが合計で255となり、理想として、−1の相関係数が得られるようになっているが、実際には、紙幣の汚損、皺、透かしのずれなどの影響により、−1よりも大きい値となる。このため、閾値を−1(−1に近い数値)に設定しておくと、本物の紙幣であるにも拘らず、偽として排除してしまう可能性があることから、閾値R´については、−1よりも大きい値(+側であっても良い)に設定しておき、相関係数R´が閾値よりも低ければ、真札と判定し(ST06;Yes、ST07)、相関係数R´が閾値以上にあれば、偽札と判定する(ST06;No、ST08)。
【0079】
以上のように、紙幣に照射される反射光と透過光との間で、そのような相反する濃度値になっている関係を導き出すことが可能となり、搬送される紙幣に対し、片方に設置される受光部81aでも、紙幣に形成される透かしの真贋を識別することが可能となる。
【0080】
なお、上述したST03,ST05において、識別処理部235での比較処理では、相関係数を算出する際に、基準となる紙幣の標準画像の画素位置に対応するように、取得した透かし画像の画素位置を移動させて位置補正(近傍検索と称する)を実行し、両者の間で相関係数の絶対値が最も高いところを抽出して真贋を識別することが好ましい。
【0081】
すなわち、搬送される紙幣については、透かしが形成される位置に多少のばらつきがあったり、或いは、搬送状態によって、多少、斜向するようなケースが考えられる。このため、搬送される紙幣から、紙幣読取手段8によって読取られる透かし画像については、多少、ずれていることが考えられ、このままの状態で相関係数を取得しても、適切な識別ができない可能性もある。
【0082】
このため、図9に模式的に示すように、得られた透かし領域の画像データを、例えば、矢印で示すように、上下、及び左右に所定の画素数変位させて(図においては、画像データを全体として上方に3画素シフトさせた際に、特徴のある画像110の位置P1が、画像110´としてP2に移動した状態を示している)、夫々変位させた位置において、上記した式1によって相関係数を算出するようにしている。すなわち、このような位置補正を実行するに際し、例えば、上下、左右方向に±4画素シフトして検索を実行するのであれば、近傍探索として、全体で81通りの相関係数が導き出される。そして、導き出された夫々の相関係数については、RAM224に順次記憶して行き、最終的に全ての相関係数を算出した後、その相関係数の絶対値が最も高くなった位置を、真贋の識別対象として特定が成される。
【0083】
これにより、透かしが形成される位置に多少のばらつきのある真正の紙幣が搬送されても、取得した画像の画素位置が、その周囲に移動させるような位置補正が成されるため、真札の紙幣であっても偽物と識別する可能性が少なくなり、識別精度の向上を図ることが可能となる。なお、上記したST03の比較処理において、上述した近傍探索が実行されるのであれば、位置補正された情報を、上記ST05の処理でそのまま適用しても良い。
【0084】
以上、本実施形態では、紙幣における偽造防止用の透かし画像の情報(二次元の画像情報)を取得して、これを基準となる透かし画像情報(標準画像)と比較することで、真贋識別の精度を向上することができる。そして、上記したような構成では、搬送される紙幣の片側に設置した受光部81aのみで真贋識別を実施できるため、コストが高くなるようなこともない。
【0085】
なお、上記したような透かし部分の識別処理工程は、紙幣識別装置が、多種類の紙幣を処理できるように構成されているのであれば、紙幣金種(どの国のどの発行シリーズのどの額面か)の識別処理が終わった後に実施するよう構成される。このため、透かしが形成されている位置は金種毎に決まっているので、これに応じて、標準データを記憶しておけば良い。
【0086】
また、上記した構成では、透かし領域の透過光による標準データは、予め、基準データ記憶部233に記憶されているものを用いたが、このような透過光によるデータは、搬送される紙幣から取得しても良い。すなわち、搬送される紙幣の透かし領域から、反射光と透過光による画像データを取得し、上記した処理を行っても、透かし領域の真贋を識別することは可能である。
【0087】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記した実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することが可能である。
【0088】
上述したように、本発明では、識別対象となる紙幣の透かし部分の画像情報について、透過光と反射光では、明暗が反転することに着目して真贋を識別することに特徴があり、それ以外の構成については、上記した実施の形態に限定されることはない。このため、上述した第1の比較処理については、行わない構成であっても良い。また、上記したような真贋の識別方法は、様々な手法による真贋識別処理の一つの処理として、上述したような手法が用いられていれば良く、さらにそれ以外の真贋識別処理を備えた構成であっても良い。この場合、その他の真贋識別処理との間での実行される優先順位については、限定されることはない。
【0089】
また、上述した紙幣読取手段8の構成(ラインセンサ以外の構成であっても良い)、及び各種駆動部材を駆動するための機構については、適宜変形することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明は、上記した紙幣以外にも、商品券、クーポン券等、紙幣以外の紙葉類の真贋を識別する各種の装置に組み込むことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】紙葉類識別装置である紙幣識別装置の一例を示す図であり、全体構成を示す斜視図。
【図2】開閉部材を装置本体の本体フレームに対して開いた状態を示す斜視図。
【図3】挿入口から挿入される紙幣の搬送経路を概略的に示した右側面図。
【図4】紙幣読取手段における発光部の点灯制御を示しており、紙幣を読取る際の発光部の点灯制御を示すタイミングチャート。
【図5】紙幣識別装置の動作を制御する制御手段の構成を示すブロック図。
【図6】紙幣の真贋判定処理動作を説明するフローチャート
【図7】透かしが形成された紙幣の標準画像データの概略を示す図。
【図8】(a)は、搬送される紙幣の反射光によって得られる色情報を含む画素の配列を示す図、(b)は、真正の紙幣の透過光によって得られる色情報を含む画素の配列を示す図。
【図9】近傍探索の概略について説明する図であり、色情報を含む画素の配列を示す図。
【符号の説明】
【0092】
1 紙幣処理装置
2 装置本体
3 紙幣搬送路
5 紙幣挿入口
6 紙幣搬送機構
8 紙幣読取手段
10 スキュー補正機構
80 発光ユニット
80a 第1発光部
81 受発光ユニット
81a 受光部
81b 第2発光部
200 制御手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送される紙葉類に形成された透かし画像の反射光を受光する受光手段と、
前記受光手段で受光した透かし画像の反射光を、明るさを有する色情報を含み、所定の大きさを1単位とする画素毎に変換する変換部と、
前記変換部で変換された画素毎の濃度値、及び、基準となる紙葉類の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値から相関係数を算出して、その相関係数に基づいて透かし画像の真贋を識別する識別処理部と、
を有することを特徴とする紙葉類識別装置。
【請求項2】
前記受光手段は、前記搬送される紙葉類の透かし画像の透過光を受光可能であり、
前記識別処理部は、受光手段で取得した透かし画像の透過光による画素毎の濃度値、及び、前記基準となる紙葉類の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値から相関係数を算出して、その相関係数に基づいて透かし画像の真贋を識別することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項3】
前記識別処理部は、相関係数を算出する際に、基準となる紙葉類の透かし画像の画素位置に対応するように、取得した透かし画像の画素位置を移動させて位置補正を実行し、相関係数の絶対値が最も高いところを抽出して真贋を識別することを特徴とする請求項1又は2に記載の紙葉類識別装置。
【請求項4】
前記紙葉類に照射される光は、近赤外光であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の紙葉類識別装置。
【請求項5】
明るさを有する色情報を含み、所定の大きさを1単位とする画素毎に、搬送される紙葉類に形成された透かし画像の反射光を取得する画像取得工程と、
前記透かし画像の反射光による画素毎の濃度値、及び、基準となる紙葉類の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値から相関係数を算出して、その相関係数に基づいて透かし画像の真贋を識別する反射光による真贋識別工程と、
を有することを特徴とする紙葉類識別方法。
【請求項6】
前記画像取得工程は、明るさを有する色情報を含み、所定の大きさを1単位とする画素毎に、搬送される紙葉類に形成された透かし画像の透過光を取得し、
前記画像取得工程で取得した透かし画像の透過光による画素毎の濃度値、及び、基準となる紙葉類の透かし画像の透過光による画素毎の濃度値から相関係数を算出して、その相関係数に基づいて透かし画像の真贋を識別する透過光による真贋識別工程をさらに有することを特徴とする請求項5に記載の紙葉類識別方法。
【請求項7】
前記反射光による真贋識別工程、及び透過光による真贋識別工程において、相関係数を算出する際に、基準となる紙葉類の透かし画像の画素位置に対応するように、取得した透かし画像の画素位置を移動させて位置補正を実行し、相関係数の絶対値が最も高いところを抽出して真贋を識別することを特徴とする請求項5又は6に記載の紙葉類識別方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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