説明

紙葉類識別装置及び紙葉類識別方法

【課題】小型の紙葉類識別装置により紙葉類におけるモーションスレッドの有無を高速かつ正確に判定する。
【解決手段】紙葉類に向けて第1方向から光を照射する第1光源と、第1方向と異なる第2方向から紙葉類に向けて光を照射する第2光源と、第1方向又は第2方向から前記紙葉類へ光が照射されるように第1光源及び第2光源を制御する光源制御部と、紙葉類を搬送する搬送機構と、第1方向及び第2方向から照射されて搬送機構で搬送される紙葉類で反射された反射光を受光するラインセンサと、ラインセンサの出力信号から第1光源により撮像された第1画像と第2光源により撮像された第2画像とを生成する画像処理部と、第1画像に含まれるスレッド画像と第2画像に含まれるスレッド画像とが異なる場合に紙葉類がモーションスレッドを有すると判定する識別部とにより紙葉類識別装置を構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、観察する角度に応じて図柄が変化するモーションスレッドが埋め込まれた紙葉類を識別する紙葉類識別装置及び紙葉類識別方法に関し、特に、モーションスレッドを撮像した画像を利用してモーションスレッドの有無を判定することにより紙葉類を識別する紙葉類識別装置及び紙葉類識別方法に関する。
【背景技術】
【0002】
紙葉類の偽造防止のために、モーションスレッドを利用する技術が知られている。モーションスレッドは、紙葉類に利用されるスレッドの一種であり、単にモーションと呼ばれたり、紙葉類のセキュリティ性を向上させることからセキュリティリボンと呼ばれることもある。
【0003】
モーションスレッドは、アイコンと呼ばれる複数の微小画像の上に光学スペーサを介してレンチキュラーレンズ等のマイクロレンズを配置して形成されるもので、例えば、特許文献1に構造及び光学特性の詳細が開示されている。
【0004】
モーションスレッドは、例えば、紙葉類上で細い帯状領域を形成するように紙葉類に埋め込んで利用される。モーションスレッド部の図柄を観察しながら紙葉類を傾けるように動かすと、紙葉類の動きに応じて図柄が動いて見える。この特徴を利用すれば、紙葉類が偽造されたものであるか否かを可視光下で判定することができる。このため、紙幣識別装置に関して、紙葉類がモーションスレッドを有するか否かを高速かつ正確に判定する技術が望まれている。
【0005】
モーションスレッド部で観察される図柄は、アイコンやマイクロレンズの構造等によって異なるが、例えば、紙葉類を傾けると同じ図柄が移動する様子が観察される場合の他、紙葉類を傾けたときの角度によって異なる図柄が観察される場合がある。
【0006】
紙葉類におけるモーションスレッドの有無を判定するために、モーションスレッドとは原理が異なるが観察する角度によって図柄や色が変化するホログラムやカラーシフトインクに係る識別技術を利用する方法が考えられる。ホログラム等を識別する従来技術は、例えば、特許文献2に開示されている。具体的には、一つの投光器から紙葉類に向けて光を照射して、紙葉類表面で反射された光を複数の受光器によって受光して解析することにより紙葉類の真偽を判定する。例えば、ホログラムに向けて光を照射した際に生ずる複数の回折反射光を複数の受光器によって計測して紙葉類の真偽を判定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第7333268号明細書
【特許文献2】特開2007−213210号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来技術はホログラム等に係る識別技術であるため、識別装置の構成や識別方法をそのままモーションスレッドの識別方法として利用することはできない。具体的には、装置を構成する光源及びセンサの配置やデータの処理方法をモーションスレッドの特徴に応じて最適化する必要がある。
【0009】
また、上記従来技術では、複数の受光素子が必要となるので、装置が大型化するとともに製造コストが高くなるという問題がある。具体的には、計測対象とする反射光の数に応じて複数の受光素子が必要となる上に、各受光素子で計測した信号を処理するために回路規模も大きくなるので製造コストが高くなる。また、受光素子と紙葉類との間にSLA(Selfoc Lens Array)等の光学系が必要となる場合には、さらにコストがかかる。また、受光素子や光学系等の構成部品の増加及び回路規模の増大により装置が大型化するという問題もある。
【0010】
本発明は、上述した従来技術による問題点を解消するためになされたものであり、低コストで製造可能な小型の装置でありながら、紙葉類表面上のモーションスレッドの有無を高速かつ正確に判定することができる紙葉類識別装置及び紙葉類識別方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明は、観察する角度に応じてスレッド部の図柄が変化するモーションスレッドを有する紙葉類を識別する紙葉類識別装置であって、紙葉類に向けて第1方向から光を照射する第1光源と、第1方向と異なる第2方向から紙葉類に向けて光を照射する第2光源と、第1方向又は第2方向から紙葉類へ向けて光が照射されるように第1光源及び第2光源を制御する光源制御部と、紙葉類を搬送する搬送機構と、第1方向及び第2方向から搬送機構により搬送される紙幣に向けて照射されて紙葉類で反射された反射光を受光するラインセンサと、ラインセンサの出力信号から、第1光源により撮像された第1画像及び第2光源により撮像された第2画像を生成する画像処理部と、第1画像に含まれるスレッド部の画像である第1スレッド画像と第2画像に含まれるスレッド部の画像である第2スレッド画像とが異なる場合に、紙葉類がモーションスレッドを有すると判定する識別部とを備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記発明において、ラインセンサは、搬送機構により搬送される紙葉類がスレッドを有する表面側上方で、紙幣の搬送面に対して略垂直な面に対して、紙葉類に向けて光が照射される第1方向及び第2方向とは反対側に所定角度傾いた位置に配置されることを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記発明において、第1方向及び第2方向から紙葉類に向けて照射される光を個別に遮断可能なシャッタ機構をさらに備え、第1光源及び第2光源は、第1方向及び第2方向から紙葉類に向けて光を出射する単一の導光体を利用したものであるとともに、光源制御部は、第1方向又は第2方向からの光が紙葉類へ向けて照射されるようにシャッタ機構を制御することを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記発明において、紙葉類の搬送面に対してラインセンサとは異なる側から光を照射する第3光源をさらに備え、画像処理部は、第3光源により紙葉類の透過画像を生成し、識別部は、画像処理部により生成された透過画像によりスレッド部の位置を特定することを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、上記発明において、識別部は、紙葉類の種類を特定するとともに、紙葉類の種類に応じてスレッド部の位置を特定することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記発明において、識別部は、第1スレッド画像と第2スレッド画像との画素値の差分を算出して、算出した差分値が所定しきい値より大きい場合に、紙葉類がモーションスレッドを有すると判定することを特徴とする。
【0017】
また、本発明は、上記発明において、第1スレッド画像及び第2スレッド画像の各々に対応する基準画像を記憶する記憶部をさらに備え、識別部は、第1スレッド画像及び第2スレッド画像が、各々、対応する基準画像と一致する場合に、紙葉類がモーションスレッドを有すると判定することを特徴とする。
【0018】
また、本発明は、上記発明において、識別部は、第1スレッド画像を紙葉類に向けて光が照射される第1方向及び第2方向の関係に基づいて所定方向に所定距離ずらした画像と、第2スレッド画像とが一致する場合に、紙葉類がモーションスレッドを有すると判定することを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、観察する角度に応じてスレッド部の図柄が変化するモーションスレッドを有する紙葉類を識別する紙葉類識別方法であって、第1方向から紙葉類へ向けて光を照射して紙葉類を撮像する第1画像撮像ステップと、第1方向とは異なる第2方向から紙葉類に向けて光を照射して紙葉類を撮像する第2画像撮像ステップと、第1画像撮像ステップで撮像された第1画像に含まれるスレッド部の画像である第1スレッド画像と第2画像撮像ステップで撮像された第2画像に含まれるスレッド部の画像である第2スレッド画像とを比較する第1比較ステップと、第1比較ステップによる比較の結果両者が異なる場合に、紙葉類がモーションスレッドを有すると判定する判定ステップとを含んだことを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、上記発明において、第1画像撮像ステップ及び第2画像撮像ステップでは、紙葉類がスレッドを有する表面側上方で、紙葉類の搬送面に対して略垂直な面に対して、紙葉類に向けて光が照射される第1方向及び第2方向とは反対側に設けられ、所定角度傾いた位置から、紙葉類が撮像されることを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、上記発明において、紙葉類の透過画像を撮像する透過画像撮像ステップと、透過画像撮像ステップで撮像された透過画像からスレッド部の位置を特定する第1スレッド位置特定ステップをさらに含み、第1比較ステップでは、第1スレッド位置特定ステップで特定された位置情報に基づいてモーションスレッドの画像を抽出して比較することを特徴とする。
【0022】
また、本発明は、上記発明において、紙葉類の種類を特定するとともに、紙葉類の種類に応じてスレッド部の位置を特定する第2スレッド位置特定ステップをさらに含み、第1比較ステップでは、第2スレッド位置特定ステップで特定された位置情報に基づいて第1スレッド画像及び第2スレッド画像を抽出して比較することを特徴とする。
【0023】
また、本発明は、上記発明において、第1比較ステップでは、第1スレッド画像と第2スレッド画像との画素値の差分を算出するとともに、判定ステップでは、第1比較ステップで算出された差分値が所定しきい値より大きい場合に、紙葉類がモーションスレッドを有すると判定することを特徴とする。
【0024】
また、本発明は、上記発明において、第1比較ステップでは、第1スレッド画像及びスレッド画像と各画像に対応する基準画像との比較を行うとともに、判定ステップでは、第1比較ステップによる比較の結果両者が一致する場合に、紙葉類がモーションスレッドを有すると判定することを特徴とする。
【0025】
また、本発明は、上記発明において、第1スレッド画像を所定範囲内でずらした画像と第2スレッド画像とを比較する第2比較ステップをさらに含み、判定ステップは、第1比較ステップによる比較の結果両者が異なりかつ第2比較ステップによる比較の結果両者が一致する場合に、紙葉類がモーションスレッドを有すると判定することを特徴とする。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、異なる2つの方向から紙葉類に向けて光を照射するように光源を配置して、光源の発光を制御することにより各光源によって2つの紙葉類を撮像し、得られた各画像に含まれるスレッド画像を比較して、両者が異なることに基づいてモーションスレッドの有無を判定することとしたので、紙葉類がモーションスレッドを有することを正確に判定することができる。また、紙葉類の撮像は1つのセンサを利用して行われるので、装置の小型化及び低コスト化を実現することができる。
【0027】
また、本発明によれば、モーションスレッドの特性を利用して、異なる2つの方向から照射した場合にモーションスレッドの画像を鮮明に撮像できる位置にセンサを配置して画像の撮像を行うこととしたので、紙葉類がモーションスレッドを有することを正確に判定することができる。
【0028】
また、本発明によれば、導光体を利用して1つの光源の光を異なる2つの方向から照射される光に分けるとともに、導光体と紙葉類との間に設けたシャッタを制御して各方向から照射された光により画像を撮像することとしたので、モーションスレッドの判定精度を維持しながら、さらに装置を小型化することができる。
【0029】
また、本発明によれば、異なる2つの方向から照射された光を利用して撮像されたスレッド画像が異なることを判定する際に、2つの画像の差分を算出してしきい値と比較することによりモーションスレッドの有無を判定することとしたので、簡単な演算処理によって、紙葉類がモーションスレッドを有することを高速かつ正確に判定することができる。また、しきい値を設定することにより、判定対象となる画像にノイズが含まれる場合でも、その影響を受けることなく正確な判定を行うことができる。
【0030】
また、本発明によれば、異なる方向から照射された光を利用して撮像された2つのスレッド画像が異なることに加えて、スレッドの各画像を予め準備された基準画像と比較することによって、各画像が各照射光下で撮像されるべきモーションスレッド画像となっていることを検証することとしたので、紙葉類がモーションスレッドを有することを正確に判定することができる。
【0031】
また、本発明によれば、異なる方向から照射された光を利用して撮像された2つのスレッド画像が異なることに加えて、一方のスレッド画像をずらした場合に他方のスレッド画像と一致することを検証することとしたので、同じ図柄の位置が変化するモーションスレッドが利用されている場合に、紙葉類がモーションスレッドを有することを正確に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】図1は、実施例1に係る紙葉類識別装置の構成概要を示す模式図である。
【図2】図2は、実施例1に係る紙葉類識別装置の構成概要を示すブロック図である。
【図3】図3は、実施例1に係る紙葉類識別装置を利用する紙葉類処理装置の概要を示す斜視図及び断面模式図である。
【図4】図4は、実施例1に係るモーションスレッドを有する紙葉類の例を説明する図である。
【図5】図5は、実施例1に係る紙葉類を動かした際にモーションスレッド部で観察される図柄の例を示す図である。
【図6】図6は、実施例1に係る紙葉類識別装置によって行われるモーションスレッドの判定処理を示すフローチャートである。
【図7】図7は、実施例1に係る複数光源の交番点灯制御を示すタイミングチャートである。
【図8】図8は、実施例1に係るモーションスレッドの有無を画像の差分演算により判定する方法を示すフローチャートである。
【図9】図9は、実施例1に係るモーションスレッド部の画像の差分演算方法を説明する図である。
【図10】図10は、実施例2に係るモーションスレッドの有無をモーションスレッド画像と基準画像とを比較して判定する方法を示すフローチャートである。
【図11】図11は、実施例2に係るモーションスレッド部の画像と基準画像との比較方法を説明する図である。
【図12】図12は、実施例3に係るモーションスレッドの有無をモーションスレッド画像の一方をずらして他方と比較して判定する方法を示すフローチャートである。
【図13】図13は、実施例3に係るモーションスレッド部の画像をずらして比較する方法を説明する図である。
【図14】図14は、実施例4に係る導光体を利用した紙葉類識別装置の構成概要を示す模式図である。
【図15】図15は、実施例4に係る紙葉類識別装置の構成概要を示すブロックズである。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る紙葉類識別装置及び紙葉類識別方法の好適な実施例を詳細に説明する。紙葉類識別装置は、紙葉類の識別を行うに際し、識別対象となる紙葉類におけるモーションスレッドの有無を判定する。モーションスレッドが埋め込まれた紙葉類であれば、紙葉類の種類に拘わらず適用可能な技術である。
【実施例1】
【0034】
まず、本実施例に係る紙葉類識別装置について説明する。本実施例では、観察する角度によって図柄が変化するというモーションスレッドの特徴から、モーションスレッドを撮像するセンサ位置を固定して光源を移動すると、センサの位置で観察されるモーションスレッド部の画像が変化することを利用する。すなわち、異なる2つの方向から紙葉類に向けて光を照射し、各方向からの光を利用して撮像された2つのスレッド部の画像を比較して、2つの画像が異なることに基づいて紙葉類がモーションスレッドを有すると判定するものである。以下に、本実施例について詳細を説明する。
【0035】
図1は、紙葉類識別装置1の概要を説明する模式図である。紙葉類識別装置1は、紙葉類100の到来を検知するタイミングセンサ2と、紙葉類100を搬送するローラ(搬送機構)3と、搬送される紙葉類100に向けて光を照射する第1光源11、第2光源12及び第3光源13と、紙葉類100の表面で反射された反射光及び紙葉類100を透過した透過光を受光するラインセンサ4と、紙葉類100からの反射光及び透過光をラインセンサ4に導くための光学系5とを備えている。
【0036】
タイミングセンサ2は、識別対象となる紙葉類100の到来を検知する機能を有し、この紙葉類100に関する処理を開始するタイミングを決定するために利用される。タイミングセンサ2は、例えば投光部及び受光部によって形成される。投光部から投光されて受光部によって受光される光が、投光部と受光部の間を搬送される紙葉類100によって遮られることを利用して、紙葉類100の到来が検知される。そして、処理対象となる紙葉類100の到来が検知されると、紙葉類100の画像を撮像するための処理等が開始される。これらの処理の詳細は後述する。
【0037】
ローラ3は、紙葉類識別装置1内で紙葉類100を搬送する搬送機構として機能する。図1に示すように、Z軸方向に対向して配置された2つのローラ3が時計回りに回転することにより、紙葉類100がX軸正方向へ搬送される。また、ローラ3が逆時計回りに回転すると紙葉類100はX軸負方向へ搬送される。紙葉類識別装置1に受け入れられた紙葉類100は、装置内に設けられた複数のローラ3によって搬送され、ラインセンサ4の下方を通過して、装置外へ排出される。
【0038】
ラインセンサ4は、搬送される紙葉類100の画像を撮像する機能を有する。具体的には、例えば、各光源11〜13から紙葉類100に向けて光を照射して、紙葉類100によって反射された反射光又は紙葉類100を透過した透過光をCCD等の撮像素子を利用して受光することにより、紙葉類100の画像を撮像する。このとき、紙葉類100からの反射光及び透過光は、SLA等から形成される光学系5によってラインセンサ4へ導かれるようになっている。また、ラインセンサ4は、モーションスレッドを有する紙葉類100を撮像した場合に、この紙葉類画像上でモーションスレッドの図柄を鮮明に撮像できる解像度を有している。
【0039】
なお、紙葉類100を撮像可能であれば、ラインセンサ4に利用される撮像素子がフォトダイオードアレイやCMOS等であってもよい。また、センサの種類もラインセンサ4に限定されず、エリアセンサ等の他のセンサを利用してもよい。また、光学系5についても、センサによって鮮明な画像を撮像可能であれば、異なるレンズアレイを利用してもよいし、紙葉類識別装置1が光学系5を有さない構造であっても構わない。
【0040】
第1光源11及び第2光源12は、搬送される紙葉類100に向けて異なる方向から光を照射するように配置されている。第1光源11及び第2光源12として、例えば、LEDアレイや、導光体等を利用して線状に光を照射可能な線状光源が利用される。第1光源11及び第2光源12から照射された光は、紙葉類100の表面で反射されて、光学系5を経てラインセンサ4によって受光される。第1光源11及び第2光源12は、各光源下でラインセンサ4を利用して撮像された紙葉類100の反射画像を比較した際に、モーションスレッド部の画像が異なる画像となるように位置を調整して配置されている。
【0041】
具体的には、図1において、ラインセンサ4の位置から紙葉類100上のモーションスレッドを観察しながら、上方(Z軸正方向)から紙葉類100に向けて照射する光源の位置を移動させた場合に、モーションスレッドの種類に応じて同じ図柄が異なる位置に見える2つの位置又は異なる図柄が見える2つの位置に対応するように、位置を調整して2つの光源11及び12が配置されている。これにより、第1光源11から紙葉類100に光を照射した場合と、第2光源12から紙葉類100に光を照射した場合とでは、ラインセンサ4で撮像されるモーションスレッド部の画像が異なるものになる。本実施例は、これを利用して紙葉類100がモーションスレッドを有するか否かを判定するものであるが詳細については後述する。
【0042】
なお、ラインセンサ4、第1光源11及び第2光源12の位置関係は、処理対象となる紙葉類100に埋め込まれたモーションスレッドの光学特性に応じて適宜決定されるものであるが、例えば、図1に示したZ軸とラインセンサ4との成す角度αは15〜45度程度、Z軸と第1光源11の光軸の成す角度β1は0〜30度、第1光源11の光軸と第2光源12の光軸との成す角度β2は角度β1に応じて60〜30度程度であることが好ましい。また、第1光源11及び第2光源12として、例えば緑色の可視光が利用されるが、モーションスレッド部の図柄を画像として撮像することができれば、波長等を含め利用する光の種類は特に限定されない。
【0043】
第3光源13は、装置内を搬送される紙葉類100を挟んでラインセンサ4と対向する位置に配置されている。ラインセンサ4から見て紙葉類100の裏側から照射される第3光源13の光は、紙葉類100を透過してラインセンサ4により受光される。すなわち、第3光源13を利用して紙葉類100の透過画像が撮像される。第3光源13として、例えば赤外光が利用され、撮像された透過画像は紙葉類100上のモーションスレッドの位置を認識するために利用される。
【0044】
なお、第1光源11又は第2光源12による反射画像や、他の情報から、紙葉類100上のモーションスレッドの位置を特定できる場合には、紙葉類識別装置1が第3光源13を含まない構成であっても構わない。
【0045】
また、図1では、紙葉類100のZ軸正方向側の表面にモーションスレッドを有する場合の例を示しているが、本実施例がこれに限定されるものではない。例えば、紙葉類識別装置1内を搬送される紙葉類100が、Z軸負方向側の表面にモーションスレッドを有する可能性がある場合には、図1に図示した構成に加えて、紙葉類100に対して対称となる位置にもラインセンサと第1光源11及び第2光源12に対応する2つの光源を設けて、モーションスレッドを有する側の紙葉類100表面を撮像すればよい。紙幣識別装置の分野において紙幣の金種等を識別するために、光源やラインセンサを紙幣搬送路の両側に設けて、選択された紙幣の片面又は紙幣の両面を撮像する技術は、従来から利用されている技術であるため詳細な説明は省略する。なお、以下では図1に示すように、紙葉類100の片面を撮像する場合を例に説明を続ける。
【0046】
また、紙葉類100の搬送方向(X軸方向)が、紙葉類100の長辺又は短辺のいずれと平行な方向となるかは特に限定されない。例えば、モーションスレッドを形成するマイクロレンズ等の光学特性によって、紙葉類100を短辺と平行な方向に搬送することによりモーションスレッド部で観察される図柄が変化する場合には、紙葉類100を短辺と平行な方向に搬送すればよい。また、紙葉類100を長辺と平行な方向に搬送することによりモーションスレッド部で観察される図柄が変化する場合には、紙葉類100を長辺と平行な方向に搬送してもよい。搬送方向や搬送速度等を含む紙葉類100の搬送方法は、モーションスレッドの特性に応じて、後述する方法によってモーションスレッドの有無を検出できるように適宜決定される。
【0047】
図2は、紙葉類識別装置1の機能ブロック図である。紙葉類識別装置1は、図1に示した機能部の他に、通信インターフェイス6(以下「通信I/F」と記載する)、制御部20及び記憶部30を有している。また、制御部20は、紙葉類100の種類等の識別やモーションスレッドの有無を判定する紙葉類識別部21と、各光源11〜13を制御する光源制御部22と、紙葉類100の撮像及び撮像した画像の画像処理を行う画像処理部23と、紙葉類100を搬送するローラ3等の搬送機構を制御する搬送制御部24とを有する。また、記憶部30は、第1光源11から光を照射して紙葉類100を撮像した反射画像である第1画像31と、第2光源から光を照射して紙葉類100を撮像した反射画像である第2画像32と、第3光源から光を照射して紙葉類100を撮像した透過画像である第3画像と、紙葉類100を撮像した各画像31〜33の全体又は特徴部の判定処理等を行うために利用される各種の基準画像34と、これらに関連する情報とを記憶している。
【0048】
紙葉類識別部21は、紙葉類100を撮像した第3画像33と、予め処理対象となる紙葉類100に関して記憶部30に記憶されている基準画像34とを比較することにより、紙葉類100の種類等を特定する機能を有する。
【0049】
具体的には、例えば、処理対象が米国紙幣である場合には、記憶部30には予め1ドル、2ドル、5ドル、10ドル、20ドル、50ドル及び100ドルの各紙幣の基準画像34が記憶されている。そして、処理中の紙葉類100を撮像した画像の特徴部分が、各基準画像34と比較される。その結果、紙葉類100を撮像した画像が、100ドル紙幣の基準画像34と所定範囲内で一致するとともに他の金種の基準画像34と所定範囲を超えて異なる場合に、この紙葉類100を100ドル紙幣であると判定する。処理対象とする紙葉類100が紙幣である場合には、紙葉類識別部21は、このように金種識別を行う他、紙幣が本物であるか否かを判定する真偽識別や、紙幣が所定基準を満たし再利用可能な紙幣であるか否かを判定する正損識別等の処理を行うこともできる。このような紙葉類の識別処理は、紙幣識別装置の分野において従来から利用されている技術であるため、詳細な説明は省略する。
【0050】
また、紙葉類識別部21は、紙葉類100がモーションスレッドを有するか否かの判定を行う機能も有している。紙葉類100を撮像した第1画像31及び第2画像32を利用して、紙葉類100がモーションスレッドを有するか否かを判定するものであるが、これについての詳細は後述する。
【0051】
光源制御部22は、第1光源11、第2光源12及び第3光源13の点灯を制御する機能を有する。各光源11〜13による個別の紙葉類画像を撮像するために、各光源11〜13を順に点灯させる交番点灯制御を行うものであるが、これについての詳細は後述する。
【0052】
画像処理部23は、光源制御部22が制御する各光源11〜13の点灯のタイミングに合わせてラインセンサ4からの出力信号を処理して、第1画像31、第2画像32及び第3画像33を記憶部30に保存する機能を有する。また、紙葉類識別部21による処理に応じて各画像31〜33の画像処理を行う機能も有するが、これらについての詳細は後述する。
【0053】
記憶部30は、揮発性又は不揮発性のメモリやハードディスク等の記憶装置で構成され、紙葉類識別装置1で行われる処理に必要な各種のデータを記憶するために利用される。
【0054】
通信I/F6は、紙葉類識別装置1の外部からの信号を受信したり、紙葉類識別装置1から外部へ信号を送信する機能を有する。通信I/F6によって、例えば、外部からの信号を受信して、制御部20の動作設定を変更したり、記憶部30に記憶されているソフトウェアプログラムやデータの更新、追加及び削除の処理を行ったり、紙葉類識別装置1による紙葉類100の判定結果を外部へ出力することができる。
【0055】
なお、制御部20は、例えば、各種の処理を実現するためのソフトウェアプログラムと、当該ソフトウェアプログラムを実行するCPUと、当該CPUによって制御される各種ハードウェア等によって構成されている。各部の動作に必要なソフトウェアプログラムやデータの保存には、記憶部30や、別途専用に設けられたRAMやROM等のメモリやハードディスク等が利用される。
【0056】
また、本実施例では、紙葉類識別装置1の単体での機能及び動作を説明するが、紙葉類識別装置1は、例えば、図3に示すように紙葉類処理装置300に内蔵されて利用される。図3(A)は紙葉類処理装置300の外観図であり、同図(B)は紙葉類識別装置1を含む紙葉類処理装置300内部の構造概要を示す断面模式図である。
【0057】
紙葉類処理装置300は、複数の紙葉類100を載置可能なホッパ310と、ホッパ310に載置された紙幣を搬送する搬送路311と、紙葉類100の識別処理を行う紙葉類識別装置1と、紙葉類識別装置1で識別された紙葉類100を集積する集積部313と、識別不能な紙葉類100や所定条件をみたす紙葉類100を他の紙葉類100と分けて集積するリジェクト部314とを備える。紙葉類識別装置1をこのような紙葉類処理装置300に内蔵して利用することにより、ホッパ310に載置された複数の紙葉類100を、1枚ずつ、連続して処理することができる。
【0058】
なお、紙葉類識別装置1は、処理対象となる紙葉類100の識別処理に応じてラインセンサ4以外のセンサを備える場合もある。具体的には、例えば、紙葉類100の磁気特性を計測する磁気センサや、紙葉類100の厚みを計測するためのローラを備える場合もある。また、赤外光、紫外光、可視光等の複数種類の光を照射して紙葉類の光学特性を計測するために、複数の光源及び複数のラインセンサを備える場合もある。これらについては、紙幣処理装置の分野で従来から利用されている技術であるため詳細な説明は省略する。
【0059】
次に、紙葉類識別装置1によって紙葉類100上のモーションスレッドの有無を判定するための処理について説明する。
【0060】
まず、以下の説明に用いる紙葉類100と、この紙葉類100に埋め込まれたモーションスレッドについて説明する。図4は、紙葉類100の片面上の所定位置にモーションスレッド101が埋め込まれている場合の例を示す模式図である。紙葉類100に使用されるスレッドには様々な種類のものがあるが、モーションスレッド101とは、光源の位置により、図柄の位置が移動したり異なる図柄に変化したりする様子が観察される特殊な形態のスレッドのことを言う。
【0061】
紙葉類100に照射する光源の位置を動かしたときにモーションスレッド101の部分で観察される図柄の変化は、モーションスレッド101を形成するアイコンやマイクロレンズの光学特性等によって異なる。本実施例では、図5(A)に示すように、ベルの図柄と「100」という数字の2種類のアイコンが描かれたモーションスレッド101に、所定角度(第1方向)から光を照射したときには同図(B)のように「100」という数字のみが観察され、これとは異なる所定角度(第2方向)から光を照射したときには同図(C)のようにベルの図柄のみが観察されるものとして、以下の説明を続ける。
【0062】
なお、紙葉類識別装置1では、第1光源11から光を照射してラインセンサ4によって撮像されるモーションスレッド101の画像が、図5(B)に示すように「100」という数字のみを含むように、ラインセンサ4の位置と、ラインセンサ4に対する第1光源11の位置とが調整されている。また、第2光源12から光を照射してラインセンサ4によって撮像されるモーションスレッド101の画像が、図5(C)に示すようにベルの図柄のみを含むように、ラインセンサ4に対する第2光源2の位置が調整されている。すなわち、各光源11及び12によって異なるモーションスレッドの画像が撮像されるように、図1に示す角度α、β1及びβ2が調整されている。
【0063】
次に、紙葉類100がモーションスレッド101を含むものであるか否かを判定するための処理について説明する。図6は、モーションスレッド101に係る判定処理の概要を示すフローチャートである。
【0064】
まず、タイミングセンサ2により紙葉類識別装置1に紙葉類100が到来したことが検知されると(ステップS1;Yes)、制御部20では、光源制御部22による各光源11〜13の点灯制御が開始されるとともに、画像処理部23による紙葉類100の撮像及び撮像された画像の記憶部30への保存処理が開始される(ステップS2)。なお、紙葉類識別装置1は、紙葉類100を検知しない間は(ステップS1;No)、紙葉類100の到来を監視する状態にある。
【0065】
ステップS2では、紙葉類100がラインセンサ4の下方を通過する1回の搬送中に、第1光源11による反射画像、第2光源12による反射画像及び第3光源13による透過画像の3種類の画像が撮像される。
【0066】
ここでは、各光源11〜13による紙葉類100の画像を個別に撮像するために、光源制御部22によって行われる交番点灯制御と、画像処理部23によって行われる、ラインセンサ4から出力されるデータの処理について説明する。図7は、各光源11〜13の点灯と、ラインセンサ4のデータ処理との関係を示すタイミングチャートの一例である。図7は、ラインセンサ4による読取周期が50μS、紙葉類100の搬送速度が2,000mm/Sである場合の例を示している。図7に示すように、各光源11〜13は、異なるタイミングで発光するように制御される。
【0067】
具体的には、制御部20の動作に利用され、紙葉類100の搬送にも同期しているメカクロック信号(MCLK)の立ち上がり時に第3光源13が発光し、紙葉類100を透過した透過光がラインセンサ4によって計測される。ラインセンサ4によって計測された信号は、画像処理部23に入力される。そして、画像処理部23によって、A/D変換等の処理が施されたデータは、次のクロック信号の立ち上がり時に、第3画像33を形成するデータとして記憶部30に保存される。
【0068】
このとき、第3画像33を形成するデータが記憶部30に保存されるのと同じタイミングで第1光源11が発光し、紙葉類100で反射された反射光がラインセンサ4によって計測される。ラインセンサ4によって計測された信号は、同様に画像処理部23での処理を経て、次のクロック信号の立ち上がり時に、第1画像31を形成するデータとして記憶部30に保存される。このタイミングで、第3光源13が再び発光する。
【0069】
第2光源12は、第1光源11が発光した後、第3光源が発光するまでの所定タイミングで発光し、同様に、紙葉類100で反射された反射光がラインセンサ4によって計測される。例えば、図7に示すように、クロック信号の立ち上がりから50μS後のタイミングで第2光源12が発光する。第2光源12が発光してラインセンサ4によって計測された信号は、画像処理部23による処理を経て、第1画像31に係るデータ処理を終えた後に、第2画像32を形成するデータとして記憶部30に保存される。
【0070】
このように、各光源11〜13は異なるタイミングで発光するように制御され、各光源11〜13を利用してラインセンサ4によって計測された信号は順次記憶部30に保存される。この結果、紙葉類100がラインセンサ4の下方を1回通過する間に、記憶部30には、各光源11〜13の下で紙葉類100の全面が撮像された第1画像31、第2画像32及び第3画像33が記憶された状態となる。
【0071】
なお、図7に示した交番点灯制御は一例であって、第1光源11による紙葉類100の反射画像と、第2光源12による紙葉類100の反射画像とを別々に撮像することができれば、各光源11〜13の発光タイミングやデータ処理の順序は特に限定されない。例えば、紙葉類100を識別するために4つ以上の光源を利用して紙葉類100を撮像する場合には、光源の数やラインセンサ4の処理速度等に応じて、適宜、光源の発光タイミング及びデータの処理タイミングが決定される。例えば、紙葉類100を高速に処理することが求められない場合には、交番点灯を行わず、紙葉類100をX軸正方向へ搬送して第1光源11による反射画像を撮像した後、再度紙葉類をX軸負方向へ搬送して第2光源12による反射画像を撮像してもよい。また、各画像31〜33は、紙葉類画像を利用して行われる他の識別処理にも利用できるように紙葉類100の全面を撮像した画像であることが望ましいが、これに限定されるものではなく、モーションスレッド101が含まれる部分領域のみを撮像した画像であっても構わない。
【0072】
こうして、紙葉類100を撮像した各画像31〜33が記憶部30に保存されると、次に、第3画像33を利用してモーションスレッド101の位置が特定される(図6ステップS3)。
【0073】
具体的には、紙葉類識別部21が、第3画像33と、記憶部30に予め記憶されている基準画像34とを比較して、紙葉類100の種類を特定するとともに、紙葉類100の種類に応じて、第1画像31及び第2画像32上のモーションスレッド101の位置を特定する。例えば、処理対象が米国紙幣である場合に、紙葉類100の金種が100ドル紙幣であると特定されると、100ドル紙幣上のモーションスレッド101の位置情報に基づいて第1画像31及び第2画像32上の処理対象領域が特定される。モーションスレッド101の位置情報は、100ドル紙幣の基準画像34に関する情報として予め記憶部30に記憶されている。
【0074】
なお、モーションスレッド101の位置の特定方法は、紙葉類100の種類を特定して行う方法に限らず、紙葉類100の透過画像である第3画像33を利用する方法であってもよい。具体的には、例えば、紙葉類100に埋め込まれたモーションスレッド101の領域が、透過画像上で明るく又は暗く、他の領域と区別可能に現れる場合には、画素値に基づいてモーションスレッド101の部分領域を抽出する画像処理を行えばよい。
【0075】
また、モーションスレッド101の位置の特定を、第3光源13を利用して撮像された透過画像を利用して行う例を示したが、本実施例がこれに限定されるものではない。具体的には、第1光源11又は第2光源112を利用して撮像された反射画像を利用して、紙葉類100の種類を特定した後にモーションスレッド101の位置を特定したり、反射画像に現れるモーションスレッド101と他の領域との画素値の差違に基づいてモーションスレッド101の位置を特定してもよい。
【0076】
こうして、第1画像31及び第2画像32上で、モーションスレッド101に対応する領域が特定されると、次に、画像処理部23によって、第1画像31からモーションスレッド101に対応する部分領域画像(以下「第1スレッド画像」と記載する)が切り出される(図6ステップS4)。また、同様に、第2画像32からも、モーションスレッド101に対応する部分領域画像(以下「第2スレッド画像」と記載する)が切り出される(ステップS5)。
【0077】
具体的には、図4に示すような紙葉類100の全体を撮像した画像から、位置が特定されたモーションスレッド101を含む部分領域画像が切り出され、モーションスレッド101を撮像した図5(B)に示す第1スレッド画像と、同じモーションスレッド101を撮像した同図(C)に示す第2スレッド画像とが得られる。こうして得られた第1スレッド画像及び第2スレッド画像を用いて、紙葉類100がモーションスレッド101を有するか否かを判定する処理が行われる(ステップS6)。
【0078】
次に、第1スレッド画像及び第2スレッド画像を利用してモーションスレッド101の有無を判定する方法について説明する。本実施例では、第1スレッド画像と第2スレッド画像に各々異なる図柄が含まれることを利用して、画像の差分を求めることによってモーションスレッド101の有無を判定する。図8は、この判定方法を示すフローチャートである。まず、紙葉類識別部21は、第1スレッド画像と、第2スレッド画像との差分を算出する(ステップS10)。すなわち、各画像の対応する画素位置で、画素値の差分を算出する。
【0079】
なお、ラインセンサ4で撮像された紙葉類画像は画像を形成する各画素が階調を有する濃度画像である。このため、紙葉類画像から切り出された第1スレッド画像及び第2スレッド画像も濃度画像となる。差分を算出する処理(ステップS10)を行う際には、第1スレッド画像及び第2スレッド画像を濃度画像のまま利用してもよいし、先に各画像を2値化する画像処理を行って、以降の処理では2値画像を利用してもよい。
【0080】
紙葉類100がモーションスレッド101を有する場合には、第1スレッド画像は図9(A)に示すように「100」という数字のみを含む画像201となり、第2スレッド画像は同図(B)に示すようにベルの図柄のみを含む画像202となる。よって、第1スレッド画像201と第2スレッド画像202との各画素位置での画素値の差分を求めてその絶対値をとると、演算結果として、図9(C)に示すような画像203が得られる。
【0081】
モーションスレッド101が埋め込まれた紙葉類100が偽造される場合でも、レンチキュラーレンズ等のマイクロレンズを利用するモーションスレッド101自体を偽造することは困難である。このため、偽造された紙葉類では、図4に示す紙葉類100上のモーションスレッド101の位置に、単純にモーションスレッド101部で観察される2種類の図柄のうちのいずれか一方又は両方を再現したものになると考えられる。この場合には、偽造された紙葉類を傾くように動かしても、常に、図5(A)〜(C)に示した図柄のいずれか一つが観察されることになる。すなわち、紙葉類100を傾くように動かしてもモーションスレッド101部の図柄は変化しない。この他、偽造された紙葉類ではモーションスレッド101部に全く図柄が含まれない可能性もある。
【0082】
いずれの場合でも、偽造された紙葉類では、第1光源11によって撮像された第1スレッド画像と第2光源12によって撮像された第2スレッド画像が同じ画像になる。よって、偽造された紙葉類では、第1スレッド画像と、第2スレッド画像との差分を算出した段階で各画素値は略0(ゼロ)となるので、演算結果として得られる画像は、図9(D)に示すような画像204となる。
【0083】
次に、紙葉類識別部21は、第1スレッド画像201と第2スレッド画像202との差分の絶対値の総和を算出する(図8ステップS11)。ここで算出される値は、モーションスレッド101を有する紙葉類100では、図9(C)に示す画像203の画素値の総和となるが、偽造された紙葉類では同図(D)に示す画像204の画素値の総和であるから略0(ゼロ)となる。
【0084】
ただし、実際には、偽造された紙葉類においても、撮像される際の条件によってノイズ等が含まれ、第1スレッド画像と第2スレッド画像との差分が生ずる可能性もある。このため、ステップS11でモーションスレッド101を有する紙葉類100について算出される総和値に基づいて、予め、所定のしきい値が設定されている。このしきい値を利用することにより、偽造された紙葉類の演算過程でノイズによる差分値が生じた場合でもその影響を受けることなく偽造された紙葉類とモーションスレッド101を有する紙葉類100とを明確に区別することができる。
【0085】
紙葉類識別部21は、しきい値と、算出された第1スレッド画像201と第2スレッド画像202との差分画像203の画素値の総和値とを比較して、この総和値がしきい値より大きいか否かを判定する(図8ステップS12)。そして、得られた総和値がしきい値より大きい場合には(ステップS12;Yes)、紙葉類100がモーションスレッド101を有すると判定する。一方、総和値がしきい値以下である場合には(ステップS12;No)、紙葉類100はモーションスレッド101を有さないと判定する。
【0086】
こうして得られたモーションスレッド101有無の判定結果は、紙葉類識別装置1の内部において紙葉類100の真偽識別の判定条件の一つとして利用されたり、通信I/F6によって外部へ出力されて外部装置での処理に利用される。
【0087】
このように、モーションスレッド101を撮像した際に、異なる画像が得られるように第1光源11及び第2光源12とラインセンサ4とを配置することにより、各光源11及び12によって得られたモーションスレッド101の画像の差分から、紙葉類100がモーションスレッド101を有するか否かを正しく判定することができる。
【0088】
また、このとき行われる演算は、紙葉類100全体ではなくモーションスレッド101の部分領域画像のみを処理対象として、2つの画像の各画素の画素値の差分を求めて、この差分の絶対値の総和をしきい値と比較する演算であるため、処理に係る負荷が小さく高速に処理を行うことができる。
【0089】
また、観察位置によってモーションスレッド101の画像が変化するという特性を利用しながら、1つのラインセンサ4を利用してモーションスレッド101の有無を判定できるので、複数のセンサを利用する場合に比べて紙葉類識別装置1の小型化と低コスト化を実現することができる。
【実施例2】
【0090】
実施例1では、第1スレッド画像と第2スレッド画像との差分演算によってモーションスレッドの有無を判定した。本実施例では、第1スレッド画像と第2スレッド画像の各々に所定の図柄が含まれることを利用してモーションスレッド101の有無を判定する点が実施例1と異なっている。
【0091】
本実施例では、第1スレッド画像及び第2スレッド画像を得るまでの処理は、実施例1と同様であるため、説明を省略する。以下では、実施例1とは異なるモーションスレッド101の判定処理(図6ステップS6)について説明する。
【0092】
図10は、本実施例に係るモーションスレッド101の有無の判定方法を示すフローチャートである。第1光源11によって撮像された第1スレッド画像と、第2光源12によって撮像された第2スレッド画像とが得られると、紙葉類識別部21は、記憶部30に基準画像34として記憶されている第1基準画像と第2基準画像とを読み出す。
【0093】
ここで、第1基準画像とは、モーションスレッド101を第1光源11によって撮像した場合に得られる第1スレッド画像に対応する基準画像である。第1スレッド画像と第1基準画像とを比較することによって、第1スレッド画像がモーションスレッド101を撮像した画像であるか否かを判定することができる。同様に、第2基準画像は、モーションスレッド101を第2光源12によって撮像した場合に得られる第2スレッド画像に対応する基準画像である。これと第2スレッド画像とを比較することによって、第2スレッド画像がモーションスレッド101を第2光源12によって撮像した画像であるか否かを判定することができる。
【0094】
続いて、紙葉類識別部21は、第1スレッド画像を第1基準画像と比較して両者が一致するか否かを判定する(ステップS21)。両者が一致する場合には、第1スレッド画像は、第1光源11によってモーションスレッド101を撮像した画像であると判定して次の処理へ移る(ステップS21;Yes)。
【0095】
一方、第1スレッド画像と第1基準画像とが一致しない場合には、第1スレッド画像は、第1光源11によってモーションスレッド101を撮像した画像ではないと判定する(ステップS21;No)。この結果、結論として、紙葉類100がモーションスレッド101を有していないと判定する(ステップS24)。
【0096】
続いて、紙葉類識別部21は、第2スレッド画像を第2基準画像と比較して両者が一致するか否かを判定する(ステップS22)。両者が一致する場合には、第2スレッド画像は、第2光源12によってモーションスレッド101を撮像した画像であると判定する(ステップS22;Yes)。この結果、結論として、紙葉類100がモーションスレッド101を有していると判定する(ステップS23)。
【0097】
一方、第2スレッド画像と第2基準画像とが一致しない場合には、第2スレッド画像は、第2光源12によってモーションスレッド101を撮像した画像ではないと判定する(ステップS22;No)。この結果、結論として、紙葉類100がモーションスレッド101を有していないと判定する(ステップS24)。
【0098】
図9に示したように、モーションスレッド101を撮像した第1スレッド画像201及び第2スレッド画像202は異なる画像となる。よって、第1スレッド画像201及び第2スレッド画像202に対応する基準画像も各々が異なる画像となる。これに対して、モーションスレッド101が偽造された場合には、第1スレッド画像及び第2スレッド画像が同じ画像になると考えられる。このため、図10に示すように、第1スレッド画像201及び第2スレッド画像202の両方を各々に対応する基準画像と比較することにより、紙葉類100がモーションスレッド101を有するか否かを正しく判定することができる。
【0099】
紙葉類識別部21は、スレッド画像を形成する図柄の位置がずれる可能性がある場合でも、モーションスレッド101の有無を正確に判定することができる。具体的には、例えば、紙葉類100によって、モーションスレッド101を形成するアイコンの位置やマイクロレンズの光学特性等にバラツキがある場合には、これを撮像した図9(A)に示した第1スレッド画像201の「100」という数字や、同図(B)に示すベルの図柄の位置がばらつくことになる。その結果、これらのスレッド画像が、実際にモーションスレッド101を撮像したものであるにも拘わらず、基準画像と一致しないと判定される可能性がある。そこで、紙葉類識別部21は、基準画像との比較を行う際に(図10ステップS21及びS22)、基準画像と一致しないと判定した後、基準画像又はスレッド画像の図柄の位置をずらした場合に両者が一致するか否かを判定する。そして、基準画像又はスレッド画像のいずれか一方をずらすことによって両者が一致した場合には、このスレッド画像はモーションスレッド101を撮像したものであると判定する(ステップS21;Yes又はステップS22;Yes)。基準画像又はスレッド画像をずらしても両者が一致しなかった場合には、このスレッド画像はモーションスレッド101を撮像したものではないと判定する(ステップS21;No又はステップS22;No)。このように、紙葉類100によって、埋め込まれるモーションスレッド101上のアイコンの位置がばらつく場合であっても、モーションスレッドがあることを正確に判定することができる。
【0100】
なお、基準画像又はスレッド画像をずらす量及び方向は実際のモーションスレッド101のバラツキに合わせて設定されており、紙葉類識別部21は、この設定値の範囲内で、基準画像又はスレッド画像をずらして判定を行う。判定に利用する設定値は、記憶部30に基準画像34に関する情報として記憶されている。
【0101】
また、2回目の判定処理(ステップS22)では、1回目の判定処理(ステップS21)で利用したずれの量及び方向を利用してもよい。具体的には、2種類のアイコンを含むモーションスレッド101では、アイコンの位置等にバラツキがあっても、2種類のアイコンの位置関係は常に一定である場合がある。すなわち、図9(A)に示す「100」という数字のずれの量及び方向と、同図(B)に示すベルの図柄のずれの量及び方向とが常に同一である場合である。この場合には、第1スレッド画像201の判定を行った際(図10ステップS21)に、第1スレッド画像201と第1基準画像とが一致すると判定した際のずれの量及び方向を、第2スレッド画像の判定(ステップS22)に利用する。これにより、ずれの量及び方向を決定する処理を繰り返す必要がないので処理時間を短縮することができる。
【0102】
また、スレッド画像又は基準画像をずらして判定処理を行うか否かを、処理対象となる紙葉類100に応じて、予め設定することが可能である。この設定情報は、記憶部30内に基準画像34に関する情報として記憶されている。紙葉類識別部21は、判定処理を行う際に、基準画像34に関する情報を参照し、画像をずらして判定処理を行うように設定されている場合には、この設定に従って判定処理を行う。画像をずらす判定処理が不要である場合には、画像をずらすことなく判定処理(ステップS21及びS22)を終了する。これにより、処理対象となる紙葉類100が、図柄のずれを考慮する必要のないものであれば、ずれを考慮する処理を省略して処理時間を短縮することができる。
【0103】
このように、モーションスレッド101を撮像した際に、異なる画像が得られるように第1光源11及び第2光源12を配置して、各光源11及び12によって得られたモーションスレッド101の画像と各々の画像に対応して予め記憶されている基準画像とを比較することによって、紙葉類100がモーションスレッド101を有するか否かを正しく判定することができる。このとき、モーションスレッド101上の実際のアイコンの位置等にバラツキがあるために、紙葉類100によって、得られるスレッド画像にバラツキがある場合でも、このバラツキを考慮して比較を行うこととしたので、モーションスレッド101を有するか否かを正しく判定することができる。
【0104】
また、実施例1と同様にモーションスレッド101部の画像が異なることを判定することに加えて、本実施例では、各画像が基準画像と一致することを判定することとしたので、紙葉類100がモーションスレッド101を有することをより正確に判定することができる。
【0105】
また、観察位置によってモーションスレッド101の画像が変化するという特性を利用しながら、1つのラインセンサ4を利用してモーションスレッド101の有無を判定できるので、複数のセンサを利用する場合に比べて紙葉類識別装置1の小型化と低コスト化を実現することができる。
【実施例3】
【0106】
実施例1及び実施例2では、図9に示すように、第1光源11によって撮像された第1スレッド画像201と、第2光源12によって撮像された第2スレッド画像202とが、異なる図柄を含む場合を例として説明した。しかし、上記実施例がこれに限定されるものではない。例えば、モーションスレッド101がベルの図柄のみを含み、紙葉類100を動かした場合に同じベルの図柄の位置が変化するような場合でも、紙葉類100がモーションスレッド101を有するか否かを正しく判定することができる。
【0107】
具体的には、例えば、図11に示すように、同図(A)に示す第1スレッド画像201及び同図(B)に示す第2スレッド画像202が、同じ図柄の位置が移動した画像となる場合でも、2つの画像201及び202は異なる画像となる。よって、2つの画像201及び202が異なることを判定する実施例1及び実施例2で説明した判定方法により紙葉類100がモーションスレッド101を有するか否かを正しく判定することができる。
【0108】
図11(A)に示す第1スレッド画像201と同図(B)に示す第2スレッド画像202が、同じ図柄の位置が変化した状態を撮像されたものである場合に、実施例1では差分演算を行って2つの画像が異なることを判定する。本実施例では、これに加えてさらに、実施例1及び実施例2とは異なる方法により2つの画像が異なることを検証する点が、他の実施例と異なる。
【0109】
本実施例においても、第1スレッド画像201及び第2スレッド画像202を得るまでの処理は、実施例1と同様であるため、以下では、実施例1とは異なるモーションスレッド101の判定処理(図6ステップS6)について説明する。
【0110】
図12は、第3の判定方法を示すフローチャートである。図6に示す処理によって、図11に示すような第1スレッド画像201と、第2スレッド画像202とが得られると、紙葉類識別部21は、これらの画像が一致するか否かを判定する(図12ステップS30)。
【0111】
ここで行われる2つの画像が異なることを判定する処理としては、例えば、実施例1を利用することができる。ただし、2つの画像が異なることの判定方法が、これに限定されるものではなく、相関係数を利用したパターンマッチング技術を利用する方法であってもよい。
【0112】
紙葉類識別装置1では、第1光源11によって撮像される第1スレッド画像201と第2光源12によって撮像される第2スレッド画像202とが、図11に示すように図柄がずれた位置の画像となるように、第1光源11及び第2光源12が調整して配置されている。このため、第1スレッド画像201と第2スレッド画像202とが一致する場合には(図12ステップS30;Yes)、第1スレッド画像及び第2スレッド画像は偽造された紙葉類100から得られた画像であり、紙葉類100はモーションスレッド101を有していないと判定する(ステップS35)。
【0113】
一方、第1スレッド画像201と第2スレッド画像202とが異なると判定された場合には(ステップS30;No)、モーションスレッド101を撮像した画像であると判定する。実施例1のように、この段階での結果のみに基づいて紙葉類100がモーションスレッド101を有するものと判定することもできる。
【0114】
しかし、本実施例では、さらに、第1スレッド画像201と第2スレッド画像202とが所定方向に所定距離だけずれていることを確認することによって、より正確に紙葉類100がモーションスレッド101を有することを判定する。
【0115】
具体的には、第1光源11と第2光源12とが配置された位置関係から、第1スレッド画像201と第2スレッド画像202とで撮像される図柄が、所定方向へ所定距離だけずれて撮像されることが分かっているので、これを利用した判定を行う。すなわち、第1スレッド画像を2つの光源11及び12の位置関係に基づいて所定方向に所定距離移動させた画像と、第2スレッド画像とを比較する。なお、画像をずらす方向と距離は、基準画像34に関する情報として予め記憶部30に記憶されている。
【0116】
2つのスレッド画像201及び202が異なると判定された後(図12ステップS30;No)、続いて画像処理部23が、記憶部30に保存された情報に基づき、図13(A)に示すように、第1スレッド画像201を矢印500の方向に距離dずらした第1比較用画像211を生成する。(図12ステップS31)。このとき、第1スレッド画像201を距離dだけずらして得られた第1比較用画像211では、ずらした方向500と反対側の端部から距離dの範囲は図柄が含まれない空白領域となる。このため、画像処理部23は、図13(B)に示す第2スレッド画像202についても、第1比較用画像211の空白領域に対応する端部から距離dの領域を空白とした第2比較用画像212を生成する(図12ステップS31)。
【0117】
そして、第1比較用画像211と第2比較用画像212とを比較することによって、両者が所定の許容範囲内で一致するか否かを判定する(ステップS33)。そして、両者が一致する場合には(ステップS33;Yes)、紙葉類100がモーションスレッド101を有していると判定する(ステップS34)。一方、両者が一致しない場合には(ステップS33;No)、紙葉類100はモーションスレッド101を有していないと判定する(ステップS35)。
【0118】
なお、第1スレッド画像201と第2スレッド画像202とで撮像される図柄が所定方向へ所定距離だけずれて撮像される場合を例として示したが、本実施例がこれに限定されるものではない。例えば、モーションスレッド101を形成するアイコンの位置やマイクロレンズの光学特性等にバラツキがあるために、図柄のずれる方向及び距離にバラツキがある場合には、第1スレッド画像201から第1比較用画像211を生成する際に画像をずらす方向及び距離を所定範囲内で変化させて判定を行う。
【0119】
このとき、図柄をずらす方向及び距離の設定範囲は、例えば、紙葉類100の製造上のバラツキによってモーションスレッド101を有する紙葉類100がモーションスレッド101を有さないと誤判定されることがないように設定される。
【0120】
また、比較用画像を生成するために図柄をずらす方向及び距離は、偽造紙葉類で得られる画像が、モーションスレッド101を撮像したものであると誤判定されない範囲に設定される。具体的には、例えば、図13(A)に示す例では、第1比較用画像211を生成する際に矢印500の方向へ画像をずらす距離は、距離Dよりも小さくなるように設定される。
【0121】
ここで行われる判定処理(図12ステップS33)は、第1スレッド画像201と第2スレッド画像202とが一致しないと判定された(ステップS30;No)後に、第1スレッド画像201の図柄をずらすことで第2スレッド画像202と一致するか否かを判定する処理である。偽造紙葉類は、第1スレッド画像及び第2スレッド画像の両方が、例えば図13(A)に示す同一画像201となり、本来は最初の判定処理で偽造であると判定される(ステップS30;No)。ところが、画像に含まれたノイズ等のために、偽造紙葉類であるにも拘わらず、2つのスレッド画像が一致しないと誤判定される(ステップS30;No)可能性がある。この場合、図13(A)に示す画像201の図柄を、矢印500の方向へ距離Dずらすと隣接する図柄の位置と重なることになるため、ここでも再び、第1スレッド画像をずらすことで第2スレッド画像と一致すると誤判定されてしまう(図12ステップS33;Yes)。これを回避するため、基準画像34の情報と関連付けて、図柄をずらす方向及び距離の範囲が設定値により制限され、この設定範囲が記憶部300に記憶されている。予め設定された範囲内で図柄をずらすことにより、図柄のずれる方向及び距離が紙葉類100によってばらつく場合にも、モーションスレッド101の有無を正確に判定することができる。
【0122】
このように、モーションスレッド101を撮像した際に、異なる画像が得られるように第1光源11及び第2光源12を配置して、第1光源11によって得られたモーションスレッド101の画像と、第2光源12によって得られたモーションスレッド101の画像とが異なることを判定することによって、紙葉類100がモーションスレッド101を有するか否かを正しく判定することができる。
【0123】
さらに、第1光源11によって撮像される画像と第2光源12によって撮像される画像が、第1光源11及び第2光源12の位置に応じた所定関係を満たしていること、すなわち所定方向に所定距離ずれた画像となっていることを検証することによって、紙葉類100がモーションスレッド101を有していることをより正確に判定することができる。このとき、モーションスレッド101上の実際のアイコンの位置等にバラツキがあるために、紙葉類100によって、得られるスレッド画像にバラツキがある場合でも、このバラツキを考慮して比較を行うこととしたので、モーションスレッド101を有するか否かを正しく判定することができる。
【0124】
また、観察位置によってモーションスレッド101の画像が変化するという特性を利用しながら、1つのラインセンサ4を利用してモーションスレッド101の有無を判定できるので、複数のセンサを利用する場合に比べて紙葉類識別装置1の小型化と低コスト化を実現することができる。
【実施例4】
【0125】
実施例1から実施例3では、第1光源11及び第2光源12が異なる2つの光源によって構成される場合を示したが、異なる2つの方向から紙葉類100に光を照射することができれば、他の態様であっても構わない。
【0126】
具体的には、例えば、図14に示すように、導光体404の2つの面404a及び404bから出射する光によって、異なる方向から紙葉類100に光を照射することができれば、光源が1つであっても構わない。図14(A)は、導光体404の断面を示している。また、同図(B)は、同図(A)に示す導光体404を矢印501の方向から見た場合の図を示している。導光体404は、その一端からLED等の光源405によって入射された光を、内部で散乱及び回折させるとともに導光体404のカバー406によって反射させることにより、カバー406に覆われていない2つの面404a及び404bから異なる角度で光を出射させる機能を有する。
【0127】
導光体404では、異なる2つの方向から紙葉類100に向けて、同時に光が出射される。紙葉類100に照射される光は、図14(A)に示すように導光体404と紙葉類100との間に配置されたシャッタ機構403によって制御される。
【0128】
本実施例に係る紙葉類識別装置401は、図15に示す構成を有している。光源405が1つであることと、この光源405からの光を導光体404によって異なる2方向からの光に分けるとともに、シャッタ機構403を利用して紙葉類100に向けて照射される光が2方向のうちのいずれか一方となるように制御する点のみが実施例1と異なる。
【0129】
図7に示す第1光源11を導光体404の第1面404aから出射される光に対応させて、第2光源12を導光体404の第2面404bから出射される光に対応させる。そして、図7に示す各発光タイミングを、光源制御部22によるシャッタ機構403の制御と対応させれば、図7に示す交番点灯制御を本実施例においても実現することができる。こうして交番点灯を実現すれば、実施例1と同様の機能及び動作を実現し、同様の効果を得ることができる。
【0130】
なお、各実施例1〜4は、各々単独で実施する態様の他、任意の実施例を組み合わせて行っても構わない。特に、モーションスレッド101の判定処理に係る実施例1〜3については、例えば、実施例1を行った後に実施例2又は実施例3を行ってもよいし、実施例1〜3の全てを行ってもよい。この場合は、先に行われた判定処理でモーションスレッド101を有するとの判定結果が得られた場合にのみ、次の判定処理を行う。具体的には、実施例1による処理の結果、モーションスレッド101を有すると判定された場合に、さらに実施例2又は実施例3を適用して、実施例1による判定結果を検証する処理を行う。これにより、モーションスレッド101の有無に係る判定処理をより正確なものとすることができる。
【0131】
上述してきたように、本実施例では、搬送される紙葉類100に異なる2つの方向から光を照射して、各々の光による反射画像を撮像することにより、紙葉類100がモーションスレッド101を有するか否かを判定することができる。具体的には、紙葉類100に照射される光は、モーションスレッド101部を撮像した画像が異なる画像となる方向から照射されるので、モーションスレッド101が存在することを正確に判定することができる。
【0132】
また、受光側のセンサであるラインセンサ4を1つとして、複数の位置に配置された光源を利用したり、1つの光源を導光体によって2つの光に分けたりすることによって、モーションスレッド101を撮像するので、受光側に複数のセンサを利用する場合に比べて、装置を小型化することができる。また、複数の受光センサを利用する場合に比べて、装置の製造コストを低く抑えることもできる。
【0133】
また、交番点灯制御によって、搬送される紙葉類100がラインセンサ4の下方を1回通過する間に、異なる方向から照射された光による複数の紙葉類画像を撮像することができるので、高速な処理を実現することができる。
【0134】
そして、このようにして、紙葉類100におけるモーションスレッド101の有無を正確に判定することによって、紙葉類100が偽造されたものであるか否かを、高速かつ正確に判定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0135】
以上のように、本発明は、偽造防止のためにモーションスレッドが採用された紙葉類の真偽を、小型かつ安価な紙葉類識別装置によって識別するために有用な技術である。
【符号の説明】
【0136】
1 紙葉類識別装置
2 タイミングセンサ
3 ローラ
4 ラインセンサ
5 光学系
6 通信インターフェイス
11 第1光源
12 第2光源
13 第3光源
20 制御部
21 紙葉類識別部
22 光源制御部
23 画像処理部
30 記憶部
100 紙葉類
101 モーションスレッド
201 第1スレッド画像
202 第2スレッド画像
300 紙葉類処理装置
310 ホッパ
311 搬送路
313 集積部
314 リジェクト部
403 シャッタ機構
404 導光体
405 光源
406 カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察する角度に応じてスレッド部の図柄が変化するモーションスレッドを有する紙葉類を識別する紙葉類識別装置であって、
前記紙葉類に向けて第1方向から光を照射する第1光源と、
前記第1方向と異なる第2方向から前記紙葉類に向けて光を照射する第2光源と、
前記第1方向又は前記第2方向から前記紙葉類へ向けて光が照射されるように前記第1光源及び前記第2光源を制御する光源制御部と、
前記紙葉類を搬送する搬送機構と、
前記第1方向及び前記第2方向から前記搬送機構により搬送される前記紙幣に向けて照射されて前記紙葉類で反射された反射光を受光するラインセンサと、
前記ラインセンサの出力信号から、前記第1光源により撮像された第1画像及び前記第2光源により撮像された第2画像を生成する画像処理部と、
前記第1画像に含まれる前記スレッド部の画像である第1スレッド画像と前記第2画像に含まれる前記スレッド部の画像である第2スレッド画像とが異なる場合に、前記紙葉類がモーションスレッドを有すると判定する識別部と
を備えることを特徴とする紙葉類識別装置。
【請求項2】
前記ラインセンサは、前記搬送機構により搬送される前記紙葉類が前記スレッドを有する表面側上方で、前記紙幣の搬送面に対して略垂直な面に対して、前記紙葉類に向けて光が照射される前記第1方向及び前記第2方向とは反対側に所定角度傾いた位置に配置されることを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項3】
前記第1方向及び前記第2方向から前記紙葉類に向けて照射される光を個別に遮断可能なシャッタ機構をさらに備え、
前記第1光源及び前記第2光源は、前記第1方向及び前記第2方向から前記紙葉類に向けて光を出射する単一の導光体を利用したものであるとともに、前記光源制御部は、前記第1方向又は前記第2方向からの光が前記紙葉類へ向けて照射されるように前記シャッタ機構を制御することを特徴とする請求項1又は2に記載の紙葉類識別装置。
【請求項4】
前記紙葉類の搬送面に対して前記ラインセンサとは異なる側から光を照射する第3光源をさらに備え、
前記画像処理部は、前記第3光源により前記紙葉類の透過画像を生成し、
前記識別部は、前記画像処理部により生成された前記透過画像により前記スレッド部の位置を特定することを特徴とする請求項1、2又は3に記載の紙葉類識別装置。
【請求項5】
前記識別部は、前記紙葉類の種類を特定するとともに、前記紙葉類の種類に応じて前記スレッド部の位置を特定することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の紙葉類識別装置。
【請求項6】
前記識別部は、前記第1スレッド画像と前記第2スレッド画像との画素値の差分を算出して、算出した差分値が所定しきい値より大きい場合に、前記紙葉類が前記モーションスレッドを有すると判定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の紙葉類識別装置。
【請求項7】
前記第1スレッド画像及び前記第2スレッド画像の各々に対応する基準画像を記憶する記憶部をさらに備え、
前記識別部は、前記第1スレッド画像及び前記第2スレッド画像が、各々、対応する前記基準画像と一致する場合に、前記紙葉類が前記モーションスレッドを有すると判定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の紙葉類識別装置。
【請求項8】
前記識別部は、前記第1スレッド画像を前記紙葉類に向けて光が照射される前記第1方向及び前記第2方向の関係に基づいて所定方向に所定距離ずらした画像と、前記第2スレッド画像とが一致する場合に、前記紙葉類が前記モーションスレッドを有すると判定することを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の紙葉類識別装置。
【請求項9】
観察する角度に応じてスレッド部の図柄が変化するモーションスレッドを有する紙葉類を識別する紙葉類識別方法であって、
第1方向から前記紙葉類へ向けて光を照射して前記紙葉類を撮像する第1画像撮像ステップと、
前記第1方向とは異なる第2方向から前記紙葉類に向けて光を照射して前記紙葉類を撮像する第2画像撮像ステップと、
前記第1画像撮像ステップで撮像された第1画像に含まれる前記スレッド部の画像である第1スレッド画像と前記第2画像撮像ステップで撮像された第2画像に含まれる前記スレッド部の画像である第2スレッド画像とを比較する第1比較ステップと、
前記第1比較ステップによる比較の結果両者が異なる場合に、前記紙葉類がモーションスレッドを有すると判定する判定ステップと
を含んだことを特徴とする紙葉類識別方法。
【請求項10】
前記第1画像撮像ステップ及び前記第2画像撮像ステップでは、前記紙葉類が前記スレッドを有する表面側上方で、前記紙葉類の搬送面に対して略垂直な面に対して、前記紙葉類に向けて光が照射される前記第1方向及び前記第2方向とは反対側に設けられ、所定角度傾いた位置から、前記紙葉類が撮像されることを特徴とする請求項9に記載の紙葉類識別方法。
【請求項11】
前記紙葉類の透過画像を撮像する透過画像撮像ステップと、
前記透過画像撮像ステップで撮像された前記透過画像から前記スレッド部の位置を特定する第1スレッド位置特定ステップをさらに含み、
前記第1比較ステップでは、前記第1スレッド位置特定ステップで特定された位置情報に基づいて前記モーションスレッドの画像を抽出して比較することを特徴とする請求項9又は10に記載の紙葉類識別方法。
【請求項12】
前記紙葉類の種類を特定するとともに、前記紙葉類の種類に応じて前記スレッド部の位置を特定する第2スレッド位置特定ステップをさらに含み、
前記第1比較ステップでは、前記第2スレッド位置特定ステップで特定された位置情報に基づいて前記第1スレッド画像及び前記第2スレッド画像を抽出して比較することを特徴とする請求項9、10又は11に記載の紙葉類識別方法。
【請求項13】
前記第1比較ステップでは、前記第1スレッド画像と前記第2スレッド画像との画素値の差分を算出するとともに、
前記判定ステップでは、前記第1比較ステップで算出された差分値が所定しきい値より大きい場合に、前記紙葉類が前記モーションスレッドを有すると判定することを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載の紙葉類識別方法。
【請求項14】
前記第1比較ステップでは、前記第1スレッド画像及び前記第2スレッド画像と各画像に対応する基準画像との比較を行うとともに、
前記判定ステップでは、前記第1比較ステップによる比較の結果両者が一致する場合に、前記紙葉類が前記モーションスレッドを有すると判定することを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載の紙葉類識別方法。
【請求項15】
前記第1スレッド画像を所定範囲内でずらした画像と前記第2スレッド画像とを比較する第2比較ステップをさらに含み、
前記判定ステップは、前記第1比較ステップによる比較の結果両者が異なりかつ前記第2比較ステップによる比較の結果両者が一致する場合に、前記紙葉類が前記モーションスレッドを有すると判定することを特徴とする請求項9〜12のいずれか1項に記載の紙葉類識別方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2013−20540(P2013−20540A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−154915(P2011−154915)
【出願日】平成23年7月13日(2011.7.13)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.SELFOC
【出願人】(000001432)グローリー株式会社 (1,344)
【Fターム(参考)】