説明

紙葉類識別装置

【課題】磁気センサの着磁体によって吸引付着した磁性体付着物を容易に取り除くことができる紙葉類識別装置を提供する。
【解決手段】搬送路Rに向く着磁体31の磁極面を覆う磁界透過性の検知側壁部332を設け、着磁体31の生じる磁界が検知側壁部332を透過して搬送路R内に及ぶ位置に検知側壁部332と着磁体31とを配置する一方で、着磁体31の生じる磁界が検知側壁部332を透過しない位置に検知側壁部332と着磁体31とを相対的に離反移動させる。このため、着磁体31の磁力が検知側壁部332における搬送路R側の壁面に及ばなくなるので、付着物Fが搬送路Rの壁部から外れることになる。この結果、付着物Fを容易に取り除くことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、着磁した紙葉類の残留磁気を検出して当該紙葉類の識別を行う紙葉類識別装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、紙幣や有価証券や商品券や磁気カードなどの紙葉類の真贋を判定する場合には、磁性体を含有してなる印刷インクによって紙葉類に印刷された文字や図形や記号などの磁気印刷部を磁気的に検出した信号と、本物の紙葉類から予め検出した信号とを比較して真贋判定を行っている。
【0003】
一般に、紙葉類の真贋判定を非接触で行う紙葉類識別装置の磁気センサは、紙葉類を搬送するための搬送路に設置してある。この磁気センサは、磁気検出素子として、外部磁界の変化によって抵抗値が変化する磁気抵抗素子、外部磁界の変化によってインピーダンスが変化する磁気インピーダンス素子、あるいは薄膜スラックスゲート素子などを有している。
【0004】
このうち、磁気抵抗素子を用いた紙葉類識別装置の磁気センサは、磁気抵抗素子が、セラミック基板の表面に形成してある。基板の裏側には、磁石(着磁体)が設けてある。この磁石は、磁気抵抗素子の垂直方向に補助磁界を加えている。そして、磁石によって磁気抵抗素子に磁界を印加することにより、紙葉類の磁気印刷部の微弱な磁気を検出する(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
また、磁気インピーダンス素子を用いた紙葉類識別装置の磁気センサは、E字形の着磁体が、その開放された側の3箇所の端部を紙葉類の相対移動方向に垂直に並ぶように、かつ紙葉類の面に対して垂直に接触または近接するように配置してある。また、磁気インピーダンス素子が、紙葉類の磁気印刷部の面に平行な面内で、上記相対移動方向に垂直な方向に感磁方向が一致するように配置してある。さらに、磁気インピーダンス素子の近傍には、当該磁気インピーダンス素子にバイアス磁界を加えて磁気インピーダンス素子を感度の良い動作点に設定するためのバイアス磁石が設置してある。そして、紙葉類の磁気印刷部の検知時に、紙葉類の移動に伴って着磁体によって磁気印刷部を着磁して、その着磁した部分の残留磁界を磁気インピーダンス素子によって検出する(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
また、薄膜フラックスゲート素子を用いた紙葉類識別装置の磁気センサは、磁気インピーダンス素子を用いた紙葉類識別装置の場合と同構成によって磁気センサを構成することで、紙葉類の磁気印刷部を検出する。
【0007】
【特許文献1】特開2003−35701号公報
【特許文献2】特開2000−105847号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、磁気センサは、いずれの磁気検出素子を用いた場合でも磁石と磁気検出素子とで構成される。そして、紙葉類に印刷した磁気印刷部の印刷インクに含まれる磁性体の磁気量は、非常に微量である。このため、この磁性体の磁気を感度良く検出するには、磁石の磁力を大きくする必要がある。よって磁石には、体積効率の良い磁石が用いられる。例えば、特許文献1に参照する磁気センサでの磁石は150ガウス〜300ガウス程度、特許文献2に参照する磁気センサでの磁石は1Kガウス程度の磁力を有する。
【0009】
しかし、上述したように磁石を用いた磁気センサは、実際の使用環境下では、磁石の強力な磁力によって、空中に浮遊する砂鉄や鉄粉などの磁性体付着物や、紙葉類の面に付着している砂鉄や鉄粉などの磁性体付着物を吸引してしまう。磁石の磁極面に大量の磁性体付着物が吸引されて付着した場合、磁石の発生磁界が乱れて磁気センサでの誤検出を生じたり、搬送路が塞がれて紙葉類の搬送を阻害することで詰まりが発生したりすることになる。
【0010】
そこで、一定の期間ごとに紙葉類識別装置の保守点検を行い、磁石の磁極面に吸引され付着した磁性体付着物を除去する清掃作業が必要になる。一般での清掃作業は、磁気センサを設けた識別部のカバーを開き、水または中性洗剤などを染み込ませた綿棒などで清掃を行う。ところが、磁石の磁極面に吸引された磁性体付着物は、磁石の強力な磁力によって常に吸引されているため、当該付着物を完全に除去するには多くの労力と時間が必要になる。
【0011】
本発明は、上記実情に鑑みて、磁気センサの着磁体によって吸引付着した磁性体付着物を容易に取り除くことができる紙葉類識別装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を解決するために、本発明の請求項1に係る紙葉類識別装置は、磁性体を有した紙葉類を搬送する搬送路と、前記搬送路に設けてあって、紙葉類の磁性体に磁界を印加する着磁手段、および着磁手段の磁界の印加によって紙葉類の磁性体が帯びる残留磁気を検出する磁気検出手段からなる磁気センサとを有する紙葉類識別装置において、搬送路に向く着磁手段の磁極面を覆う磁界透過性の被覆部材を設け、着磁手段の生じる磁界が被覆部材を透過して搬送路内に及ぶ位置に被覆部材と着磁手段とを配置する一方で、着磁手段の生じる磁界が被覆部材を透過しない位置に被覆部材と着磁手段とを相対的に離反移動させることを特徴とする。
【0013】
また、本発明の請求項2に係る紙葉類識別装置は、上記請求項1において、前記被覆部材は、前記搬送路の壁面を構成することを特徴とする。
【0014】
また、本発明の請求項3に係る紙葉類識別装置は、上記請求項1または2において、前記被覆部材は、非磁性体材料からなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明の紙葉類識別装置によれば、磁気センサの着磁手段によって着磁手段の磁力が及ぶ搬送路の壁部に付着物が付着した場合には、着磁手段の生じる磁界が被覆部材を透過しない位置に被覆部材と着磁手段とを相対的に離反移動させる。このため、着磁手段の磁力が搬送路に及ばなくなるので、付着物が搬送路の壁部から外れることになる。この結果、付着物を容易に取り除くことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下に添付図面を参照して、本発明に係る紙葉類識別装置の好適な実施の形態について詳細に説明する。
【0017】
図1は本発明に係る紙葉類識別装置を模式的に示した概略図である。ここで例示する紙葉類識別装置1は、磁性体を含有してなる印刷インクによって紙葉類Wに印刷された文字や図形や記号(以下、適宜これらを単に「磁気印刷部」と称する)の磁気特性を検知し、かかる検知結果に基づいて紙葉類Wの真贋を判定するもので、紙葉類Wを搬送する搬送路Rの近傍に配設してある。この紙葉類識別装置1は、進入センサ2、紙葉類検知センサ(磁気センサ)3、進入検出部4、磁気検出部駆動部5、磁気検出回路6および信号処理回路7を備えている。
【0018】
進入センサ2は、搬送路Rの上流側であって搬送路Rの一側壁(図1中での上側壁)に配設してある。この進入センサ2は、例えば反射型フォトインタラブタのような光センサなどであり、進入する紙葉類Wを非接触で検知するものである。
【0019】
紙葉類検知センサ3は、搬送路Rにおける進入センサ2の下流側であって搬送路Rの一側壁(図1中での上側壁)に配設してある。この紙葉類検知センサ3は、着磁体(着磁手段)31及び磁気検出部(磁気検出手段)32を備えており、搬送路Rを搬送される紙葉類Wに印刷された磁気印刷部の磁気量を検知するものである。
【0020】
紙葉類検知センサ3は、着磁体31および磁気検出部32がケース33の内部に収納されて一体的に構成してある。着磁体31は、例えば3つの四角柱状の永久磁石を、紙葉類Wの搬送方向Sに対して直交する方向に沿って所定の間隔で並列させて立設させることにより構成したものである。ここに、永久磁石としては、例えばサマリウム・コバルト磁石やネオジム磁石などの磁気特性に優れた希土類磁石が用いられており、紙葉類Wの磁性体が有する保磁力以上の磁界強度を有するものである。着磁体31を構成する中央位置の永久磁石は、搬送路Rに向く検知側の磁極面がS極であり、その反対側がN極となる態様で立設してある。この中央位置の永久磁石の両側に配設された永久磁石は、ともに検知側の磁極面がN極であり、その反対側がS極となる態様で立設してある。これにより、着磁体31は、両側の永久磁石の検知側であるN極から中央位置の永久磁石の検知側であるS極に向かう磁界を搬送路Rに通過する紙葉類Wの磁気印刷部に印加させる。
【0021】
磁気検出部32は、搬送路Rにおける着磁体31の下流側に設けてある。この磁気検出部32は、例えば磁気インピーダンス素子や薄膜フラックスゲート型磁気検出素子により構成してある。このような磁気検出部32は、磁気検出部駆動部5から出力された指令信号に基づき通電状態となって駆動するものであり、着磁体31による印加により紙葉類Wの磁性印刷部が帯びる残留磁気によって生ずる磁界を検出するものである。また、磁気検出部32の周囲には、磁気シールド部材(図示せず)が設けてある。磁気シールド部材は、例えばパーマロイ、アモルファスなどから形成されるものであり、着磁体31からの磁界波及を抑制するためのものである。
【0022】
ケース33は、着磁体31および磁気検出部32などを収容する筐体である。ケース33は、磁界を透過し、かつ非磁性体である樹脂などの材料からなり、図2(a)に示すように着磁体31および磁気検出部32を収容保持する収容部331と、着磁体31および磁気検出部32の検知側の磁極面を覆う検知側壁部(被覆部材)332とを有して構成してある。このケース33は、検知側壁部332を搬送路Rの壁部の一部として配置してある。そして、ケース33は、通常の使用時では、図2(a)に示すように収容部331と検知側壁部332とが一体に接合してある。一方、ケース33は、メンテナンス時など必要に応じて、図2(b)に示すように収容部331と検知側壁部332とを分離可能に構成してある。収容部331と検知側壁部332とが分離した状態では、搬送路Rの壁部の一部として配置した検知側壁部332が搬送路R側に残り、収容部331側に収容保持された着磁体31および磁気検出部32が搬送路Rから遠ざかる。このように、搬送路Rにある検知側壁部332と、収容部331に収容保持された着磁体31および磁気検出部32とが相対的に離反することになる。
【0023】
このため、図2(a)に示すように収容部331と検知側壁部332とが一体に接合した形態では、図3に示すように着磁体31の生じる磁界が検知側壁部332を透過して搬送路Rに及ぶ位置に検知側壁部332と着磁体31とが配置される。一方、図2(b)に示すように収容部331と検知側壁部332とを分離した形態では、図3に示すように着磁体31の生じる磁界が検知側壁部332を透過しない位置に検知側壁部332と着磁体31とが相対的に離反移動される。
【0024】
なお、収容部331と検知側壁部332とを分離する場合には、収容部331側を移動させるか、検知側壁部332である搬送路R側を移動させるか、あるいは収容部331および検知側壁部332である搬送路Rの双方を移動させる。そして、収容部331や検知側壁部332を移動させる移動機構には、図には明示しないが直線移動によって検知側壁部332と着磁体31との間を離反させるスライド機構や、所定の軸を中心にした回転移動によって検知側壁部332と着磁体31との間を広角度に開放して離反させる回動機構などを用いればよい。
【0025】
進入検出部4は、進入センサ2に接続してあり、該進入センサ2が紙葉類Wの進入を検知して出力した信号に基づき、紙葉類Wの進入を検出するものである。
【0026】
磁気検出部駆動部5は、進入検出部4および磁気検出部32のそれぞれに接続してあり、進入検出部4が紙葉類Wの進入を検出して出力した信号に基づき、磁気検出部32に駆動する旨の指令信号を出力するものである。
【0027】
信号処理回路7は、磁気検出回路6を通じて磁気検出部32に接続してあり、磁気検出部32が磁界を検出して出力した検出信号に基づき、予め記憶してある基準値と比較して所定の許容範囲内にあるか否かを判定して紙葉類Wの真贋を判定するものである。
【0028】
上記紙葉類識別装置1は、次のようにして搬送される紙葉類Wの真贋を判定する。
【0029】
図には明示しない搬送ローラや搬送ベルトなどの搬送手段により搬送される紙葉類Wが搬送路Rに進入すると、進入センサ2が検知してその旨を信号として進入検出部4に出力され、進入したことが検出される。そして、進入検出部4から磁気検出部駆動部5に紙葉類Wが進入した旨の信号が出力されると、磁気検出部駆動部5から紙葉類検知センサ3の磁気検出部32に駆動指令が出力され、磁気検出部32が通電状態になって駆動する。
【0030】
搬送路Rに進入した紙葉類Wが着磁体31の磁界が及ぶ領域に到達すると、紙葉類検知センサ3は、着磁体31において両側の永久磁石のN極から中央位置の永久磁石のS極に向かう磁界をケース33の検知側壁部332を透過して印加して、紙葉類Wの磁気印刷部を磁化させる。磁気印刷部が磁化された紙葉類Wは、そのまま搬送路Rを搬送される。
【0031】
そして、通電状態となった磁気検出部32が、磁性印刷部が帯びる残留磁気によって生ずる磁界を検出し、その検出結果を検出信号として磁気検出回路6を通じて信号処理回路7に出力し、その後通電状態が解除されて待機状態になる。信号処理回路7では、磁気検出部32により出力された検出信号に基づき、予め記憶してある基準値と比較して所定の許容範囲内にあるか否かを判定して紙葉類Wの真贋を判定する。
【0032】
このような紙葉類識別装置1においては、着磁体31の磁力によって、搬送路R中に浮遊する砂鉄や鉄粉などの磁性体付着物(以下、適宜これらを単に「付着物」と称する)Fや、紙葉類Wに付着している付着物Fを吸引してしまう。着磁体31によって吸引された付着物Fは、図4(a)に示すようにケース33の検知側壁部332における搬送路R側の壁面に付着することになる。
【0033】
そのような場合、上述した紙葉類識別装置1では、図4(b)に示すように収容部331と検知側壁部332とを分離する。すると、着磁体31の生じる磁界が検知側壁部332を透過しない位置に検知側壁部332と着磁体31とが相対的に離反移動するため、着磁体31の磁力が検知側壁部332における搬送路R側の壁面に及ばなくなるので、付着物Fが搬送路Rの壁部の一部をなす検知側壁部332から外れることになる。この結果、付着物Fを容易に取り除くことが可能になる。よって、着磁体31により印加された紙葉類Wの磁界が大きく変動してしまうことがなく、紙葉類Wの残留磁気を良好に検知することができる。
【0034】
また、上述した紙葉類識別装置1では、ケース33の検知側壁部332を搬送路Rの壁部の一部として配置してある。すなわち、検知側壁部332を搬送路Rの壁面として構成してある。このように、搬送路Rおよび紙葉類検知センサ3の構成を一部併用することで、検知側壁部332と着磁体31とを相対的に離反移動させるようにしても、着磁体31と搬送路Rの壁部との間に新たな構成を用意する必要がない。この結果、通常の使用時に着磁体31の生じる磁界を検知側壁部332のみに透過させて搬送路Rに適宜及ばせることが可能である。
【0035】
また、上述した紙葉類識別装置1では、ケース33の検知側壁部332を非磁性体材料で構成してある。このため、着磁体31の磁力による検知側壁部332の磁化を防ぐことになる。この結果、通常の使用時に着磁体31の発生磁界に影響を与える事態を防ぎ、着磁体31を保護することが可能になる。さらに、検知側壁部332と着磁体31とを相対的に離反移動させた時に、付着物Fを検知側壁部332に残すことなく取り除くことが可能になる。
【0036】
なお、紙葉類検知センサ3を設けた搬送路Rは、紙葉類Wの搬送方向Sを上下方向に向けて構成してあることが好ましい。このように構成することによって、除去した付着物Fを適宜紙葉類検知センサ3から落下させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明に係る紙葉類識別装置を模式的に示した概略図である。
【図2】紙葉類検知センサの構成を示す概略図である。
【図3】紙葉類検知センサにおける着磁体の磁界を示す図である。
【図4】本発明に係る紙葉類識別装置の作用を示す概略図である。
【符号の説明】
【0038】
1 紙葉類識別装置
2 進入センサ
3 紙葉類検知センサ
31 着磁体
32 磁気検出部
33 ケース
331 収容部
332 検知側壁部
4 進入検出部
5 磁気検出部駆動部
6 磁気検出回路
7 信号処理回路
F 付着物
R 搬送路
S 搬送方向
W 紙葉類

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性体を有した紙葉類を搬送する搬送路と、
前記搬送路に設けてあって、紙葉類の磁性体に磁界を印加する着磁手段、および着磁手段の磁界の印加によって紙葉類の磁性体が帯びる残留磁気を検出する磁気検出手段からなる磁気センサと
を有する紙葉類識別装置において、
搬送路に向く着磁手段の磁極面を覆う磁界透過性の被覆部材を設け、着磁手段の生じる磁界が被覆部材を透過して搬送路内に及ぶ位置に被覆部材と着磁手段とを配置する一方で、着磁手段の生じる磁界が被覆部材を透過しない位置に被覆部材と着磁手段とを相対的に離反移動させることを特徴とする紙葉類識別装置。
【請求項2】
前記被覆部材は、前記搬送路の壁面を構成することを特徴とする請求項1に記載の紙葉類識別装置。
【請求項3】
前記被覆部材は、非磁性体材料からなることを特徴とする請求項1または2に記載の紙葉類識別装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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