説明

紙製品の製造方法

【課題】巻取軸の異常振動の発生を抑制し、高速操業を安定して継続させる紙製品の製造方法を提供する。
【解決手段】帯状の紙を巻出軸から巻き出す巻出工程および帯状の紙を巻取軸に巻き取る巻取工程を含む紙製品の製造方法であって、前記巻出軸に巻かれた帯状の紙の外周面がその軸方向において部分的に凹んでいるときに、前記帯状の紙の前記巻取軸への巻取り時に、前記巻取軸の上流において、当該凹んでいる部分に対応した前記帯状の紙の幅方向の一部に、液体を霧状に噴出して当該部分を膨潤させることにより、前記巻取軸に巻かれた帯状の紙の外周面をその軸方向に平滑化する紙製品の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紙製品の製造方法に関し、より詳しくは製紙工程中の巻取軸で発生する振動を防止し、安定して紙製品を製造する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製紙工程中における巻取工程は、各工程の節目となる工程であり重要な箇所である。巻取工程(ワインダー工程)において、特にツードラムワインダーを使用した工程において、巻き硬さを自動制御する装置およびその装置を使用する方法が提案されている(特許文献1)。
【0003】
また、近年、抄紙機の性能が向上し、2000〜2500m/min.の如き高速化に伴って、仕上工程に使用されるワインダーは処理能力の増強、特に高速化が求められている。しかしながら、ワインダーの高速化に伴い、ワインダーの異常振動の問題が看過できなくなりつつある。そこで、シャフトレスワインダーにおいて、異常振動を検知し、機械事故を未然に防止する方法が提案されている(特許文献2)。
【特許文献1】特開平10−194534号公報
【特許文献2】特開平6−80289号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、異常振動を事後的に発見し、ワインダーを減速してしまう方法では、作業の遅延を避けることはできない。
【0005】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、ワインダー等の巻取軸の異常振動そのものの発生を抑制し、高速操業を安定して継続させることができる紙製品の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を達成すべく鋭意検討した結果、巻取軸で巻き取られる帯状の紙には、極わずかの幅方向における厚さの違いが存在し、その極わずかの厚さの違いが巻取軸で累積され、巻取軸に巻き取られた帯状の紙の巻き厚さの不均一を招くことを見出した。そして、このことが、巻取軸の異常振動の一因として挙げられることを見出した。そこで、巻取軸に巻き取られるべき帯状の紙の厚さの幅方向の違いを減少させることによって、上記課題を達成することが可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明によれば、以下に示す紙製品の製造方法が提供される。
【0008】
[1] 帯状の紙を巻出軸から巻き出す巻出工程および帯状の紙を巻取軸に巻き取る巻取工程を含む紙製品の製造方法であって、前記巻出軸に巻かれた帯状の紙の外周面がその軸方向において部分的に凹んでいるときに、前記帯状の紙の前記巻取軸への巻取り時に、前記巻取軸の上流において、当該凹んでいる部分に対応した前記帯状の紙の幅方向の一部に、液体を霧状に噴出して当該部分を膨潤させることにより、前記巻取軸に巻かれた帯状の紙の外周面をその軸方向に平滑化する紙製品の製造方法。
【0009】
[2] 帯状の紙を巻き出す巻出軸に巻かれた帯状の紙の外周表面の凹凸を検出する検出手段と、帯状の紙を巻き取る巻取軸の上流に配設され、前記帯状の紙の幅方向の任意の部位に液体を霧状に噴出可能な噴霧手段と、前記検出手段の出力信号に基づいて前記噴霧手段を制御可能な制御手段とを備えた装置により紙製品を製造する方法であって、前記制御手段は、前記検出手段からの、前記巻出軸に巻かれた帯状の紙の外周面がその軸方向において凹んでいる部分の検出信号に基づいて、前記噴霧手段に、当該部分に対応した前記帯状の紙の幅方向一部に液体を霧状に噴霧させる紙製品の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、前記巻出軸に巻かれた帯状の紙の外周面がその軸方向において部分的に凹んでいるときに、前記帯状の紙の前記巻取軸への巻取り時に、前記巻取軸の上流において、当該凹んでいる部分に対応した前記帯状の紙の幅方向の一部に、液体を霧状に噴出して当該部分を膨潤させることにより、巻取軸に巻き取られる前の帯状の紙の幅方向における厚さのばらつきが減少され、巻取軸に巻き取られた帯状の紙の巻き厚さが均一化されて巻取軸の振動が防止される。このことにより、高速で安定した紙製品の製造が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の最良の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0012】
衛生用紙等の紙製品は一般に抄紙工程、仕上工程および加工工程を経て製造される。図1〜図3は紙製品の製造過程を示す一連の概略図である。図1は抄紙工程を示し、図2は仕上工程を示し、図3は加工工程を示す。
【0013】
[1−1.抄紙工程]
まず、図1を参照して抄紙工程を説明する。供給された紙料はワイヤーパート3において、網の上で繊維がからみ合わされながら脱水され、紙層が形成される。次いで、プレスパート5において、形成された紙層がフェルトに乗せられて、2本の圧搾ロールの間を通過させられ、脱水される。脱水された紙層は、ドライヤーパート7において、高温の空気と蒸気で加熱した鉄製のシリンダーに押し付けられて乾燥される。以上のようにして抄紙された帯状の紙1はスプールロール9に巻き取られる。
【0014】
[1−2.仕上工程]
次に図2を参照して仕上工程を説明する。図2は原紙を2枚重ね合わせたプライを形成し、巻き取る仕上工程を示している。仕上工程においては、巻出軸としてのスプールロール9から帯状の紙1が巻き出される(巻出工程)。巻き出された帯状の紙1は、2枚重ね合わされ、巻取軸としての原紙コア11に巻き取られる(巻取工程)。帯状の紙1は、スプールロール9から巻き出されて原紙コア11に巻き取られるまでの間に、必要に応じてエンボス加工が施される場合もある。
【0015】
巻出軸としてのスプールロール9に巻かれた帯状の紙1の外周面近傍には、スプールロール9の軸方向に沿って検出手段15が配設されている。この検出手段15は、スプールロール9に巻かれた帯状の紙1の外周表面の凹凸を検出するための手段である。具体的には、検出手段15としては、物理的または光学的検出手段を採用することができる。特に光学的検出手段が好ましい。より具体的には、CCDラインセンサからなる光学的検出手段を例示することができる。検出手段15により検出されたスプールロール9に巻かれた帯状の紙1の外周表面の凹凸の情報は制御手段(図5参照)に送信される。
【0016】
帯状の紙の流れ方向における巻取軸としての原紙コア11の上流には、帯状の紙の幅方向に沿って噴霧手段17が配設されている。この噴霧手段17は、帯状の紙1の幅方向の一部に、液体を霧状に噴出するための手段である。噴霧手段17は、制御手段(図5参照)からの指令により帯状の紙1の幅方向の一部に、液体を霧状に噴出する。噴霧手段の詳細については後述する。
【0017】
[1−3.加工工程]
次に図3を参照して加工工程を説明する。巻出軸としての原紙コア11から帯状の紙1が巻き出される(巻出工程)。巻き出された帯状の紙1は必要により所定の加工(エンボス加工、ミシン目加工等)が施された後、ワインダーによりコア13に製品長さに巻き取られ(巻取工程)、巻取り(ログ)が形成される。巻取り(ログ)は、製品幅にカットされ、入り数に合わせて、包装され、段ボール詰めされ製品とされる。
【0018】
巻出軸としての原紙コア11に巻かれた帯状の紙1の外周面近傍には、原紙コア11の軸方向に沿って検出手段15が配設されている。この検出手段15は、原紙コア11に巻かれた帯状の紙1の外周表面の凹凸を検出するための手段である。具体的には、検出手段15としては、上述の[1−2.仕上工程]で説明した物理的または光学的検出手段を採用することができる。検出手段15により検出された原紙コア11に巻かれた帯状の紙1の外周表面の凹凸の情報は制御手段(図5参照)に送信される。
【0019】
帯状の紙の流れ方向における巻取軸としてのコア13の上流には、帯状の紙の幅方向に沿って噴霧手段17が配設されている。この噴霧手段17は、帯状の紙1の幅方向の一部に、液体を霧状に噴出するための手段である。噴霧手段17は、制御手段(図5参照)からの指令により帯状の紙1の幅方向の一部に、液体を霧状に噴出する。噴霧手段17の詳細については後述する。
【0020】
[2.噴霧手段]
図4は、本発明の一実施形態に使用する噴霧手段17の模式的斜視図である。図4に示す噴霧手段17は、ローターダンプニング装置19のシャッター21を部分的にコントロールして開閉可能とした装置である。このローターダンプニング装置19は粒径5〜200μmの水滴を秒速3〜35mの速さで5〜50ml/secの量噴出可能である。
【0021】
本発明において実際に使用する水滴の粒径は20〜150μmが好ましく、40〜100μmがより好ましい。150μmを超える場合には、膨潤過多の傾向にある。また、20μmより小さい場合には、効果が出にくい傾向にある。
【0022】
本発明において実際に使用する噴霧手段17の水滴射出速度は秒速3〜35mの速さが好ましく、秒速15〜25mの速さがより好ましい。秒速30mを超える場合には、水分がつきにくい傾向にある。また、秒速10mより遅い場合には水分過多となりウエブ(帯状の紙)破損の原因となる。
【0023】
本発明において実際に使用する噴霧手段17の水滴射出量は、帯状の紙1の巻取り速度により変化するが0.5〜4ml/m程度が好ましく、1〜2ml/mの量がより好ましい。4mlを超える場合には、膨潤過多の傾向にある。また、0.5ml/mより少ない場合には巻取り径に影響が出ない。
【0024】
本発明において噴霧手段17によって噴霧される液体は、帯状の紙1に吸収され、帯状の紙1を適宜膨潤させ得る液体であればいずれでも良い。好ましい液体として水を例示することができる。
【0025】
本発明において使用し得る噴霧手段17としては、上記の性能を有するものであればいずれでもよい。好ましい噴霧手段17の例として、ローターダンプニング装置19を挙げることができる。ローターダンプニング装置19としては、いずれのものも使用できるが、例えばWEKO社製ローターダンプニング等を好適に使用できる。
【0026】
しかしながら、本発明における噴霧手段17は、上述のローターダンプニング装置に限定されない。種々の噴霧可能な装置を採用することができる。例えば、シャワーノズルを幅方向に多数並べて必要な箇所のみ噴射する装置であっても良い。
【0027】
ローターダンプニング装置19のシャッター21は帯状の紙1の幅方向に50〜150mmピッチで設けるのが好ましく、80〜100mmピッチで設けるのがより好ましい。150mmピッチより大きい場合には、帯状の紙1の幅方向における厚さのばらつきを均一化するためには大雑把すぎて巻取軸の振動を十分に防止できない傾向にある。また、50mmピッチよりも小さい場合でも100mmピッチ程度の場合との効果の差が現れない。
【0028】
[3.制御方法]
次に図5を参照して噴霧の制御方法を説明する。図5に示されるとおり、この制御により、検出手段、制御手段および噴霧手段を備えた装置が制御される。検出手段および噴霧手段は制御手段と、公知の通信手段により通信可能に接続されている。検出手段および噴霧手段と制御手段との通信手段は有線でも無線でもよく、通信手順は公知の通信プロトコルを採用することができる。
【0029】
制御手段としては、演算機能および記憶機能を備えた公知の中央処理装置を採用することができる。具体的には汎用のコンピュータやワンチップマイコン等を採用することができる。
【0030】
検出手段15により検出された巻出軸に巻かれた帯状の紙1の外周表面の凹凸の情報は制御手段に送信される。制御手段は、検出手段15から送られた巻出軸に巻かれた帯状の紙1の外周表面の凹凸の情報から、帯状の紙1に対して液体を噴霧すべき噴霧箇所、噴霧量を算出する。その後制御手段は噴霧手段に対して液体を噴霧すべき噴霧箇所および噴霧量を指定して噴霧指令信号を送信する。噴霧指令信号を受信した噴霧手段は、噴霧指令に従って帯状の紙1の指定された噴霧箇所に指定された噴霧量で噴霧を行う。
【0031】
この際、帯状の紙1の幅方向において凹んだ部分へ噴射する霧21の量は、膨潤後の帯状の紙1の凹んでいた部分の厚さが他の部分と同じ厚さとなるに十分な量とする。具体的には、坪量22g/mの紙を、巻出軸に60m巻回した状態で0.5mm巻径が足りない場合には、帯状の紙1の当該部分1cm当り1〜1.5mlの霧21を噴射すればよい。
【0032】
このようにして、巻取軸に巻き取られる前の帯状の紙1の幅方向における厚さのばらつきは均一化されるので、巻取軸に巻き取られた帯状の紙1の巻き厚さも均一化されている。このため、巻取軸への帯状の紙1の巻取りがスムーズに進行し、巻取軸の振動を防止でき、安定して紙製品を製造することができる。
【0033】
本発明の製造方法は、衛生用紙等の製紙において使用することができる。本発明の製造方法を適用できる衛生用紙等としては、トイレットペーパー、キッチンペーパーおよびティシュペーパーを例示することができる。
【0034】
以上、本発明を図1〜5を用いて具体的に説明したが、本発明はこれらの特定の実施の形態に限定されない。各種の変形・変更が可能である。上記実施の形態においては、仕上工程と加工工程の両方において本発明の方法を適用しているが、いずれか一方のみに適用しても良い。
【0035】
また、本発明の他の実施形態においては、作業者が帯状の紙1が巻出軸に巻回された状態で、帯状の紙1の幅方向において厚さの足りない部分を目視により確認する。そして、目視により確認された帯状の紙1の幅方向において厚さの足りない部分に霧23を噴射して、帯状の紙1の霧23が噴射された部分を膨潤させて他の部分と同等の厚さとする。
【0036】
または、作業者が巻出軸に巻回された帯状の紙1の厚さを確認しつつ、ローターダンプニング装置19のシャッター21の開閉を適宜制御してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、衛生用紙等を製造する際に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】抄紙工程を示す模式的斜視図である。
【図2】仕上工程を示す模式的斜視図である。
【図3】加工工程を示す模式的斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に使用する噴霧手段の模式的斜視図である。
【図5】本発明の方法を実施するための一実施形態に係る機能ブロック図である。
【符号の説明】
【0039】
1:帯状の紙、3:ワイヤーパート、5:プレスパート、7:ドライヤーパート、9:スプールロール、11:原紙コア、13:コア、15:検出手段、17:噴霧手段、19:ローターダンプニング装置、21:シャッター、23:霧。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状の紙を巻出軸から巻き出す巻出工程および帯状の紙を巻取軸に巻き取る巻取工程を含む紙製品の製造方法であって、
前記巻出軸に巻かれた帯状の紙の外周面がその軸方向において部分的に凹んでいるときに、前記帯状の紙の前記巻取軸への巻取り時に、前記巻取軸の上流において、当該凹んでいる部分に対応した前記帯状の紙の幅方向の一部に、液体を霧状に噴出して当該部分を膨潤させることにより、前記巻取軸に巻かれた帯状の紙の外周面をその軸方向に平滑化する紙製品の製造方法。
【請求項2】
帯状の紙を巻き出す巻出軸に巻かれた帯状の紙の外周表面の凹凸を検出する検出手段と、帯状の紙を巻き取る巻取軸の上流に配設され、前記帯状の紙の幅方向の任意の部位に液体を霧状に噴出可能な噴霧手段と、前記検出手段の出力信号に基づいて前記噴霧手段を制御可能な制御手段とを備えた装置により紙製品を製造する方法であって、
前記制御手段は、前記検出手段からの、前記巻出軸に巻かれた帯状の紙の外周面がその軸方向において凹んでいる部分の検出信号に基づいて、前記噴霧手段に、当該部分に対応した前記帯状の紙の幅方向一部に液体を霧状に噴霧させる紙製品の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−6539(P2010−6539A)
【公開日】平成22年1月14日(2010.1.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−167589(P2008−167589)
【出願日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【出願人】(390036799)王子ネピア株式会社 (387)
【出願人】(000122298)王子製紙株式会社 (2,055)
【Fターム(参考)】