説明

紙製造中において不純物を結合するためのベントナイト

以下の加工ステップからなる製造における不純物結合方法が開示されており、そこでまず(a)ベントナイトの陽イオン交換容量(CEC)中の一価の陽イオンの比率が少なくとも約0.7(すなわち70%)、陽イオン交換容量(CEC)が85meq/100g超、特に90meq/100g超、さらに好適には95meq/100g超であるベントナイトを生成し;(b)(a)のベントナイトを紙パルプあるいは繊維質懸濁物に添加し;(c)パルプあるいは繊維質懸濁物中において不純物をベントナイトに結合する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
この発明は、紙製造において不純物を結合あるいは除去する際に高い陽イオン交換容量を有する特殊なベントナイトの使用に関する。
【0002】
紙製造に際して不純物除去あるいは結合が益々重要になっている。問題は、製紙に際して発生する水が循環して再利用され、その際次第に不純物が蓄積されることである。この不純物は、例えば製紙装置のローラ上における沈着物の形成、フィルタの目詰まり等の様々な生産障害をもたらす。その作用によって紙製造の中断がもたらされる。製造中断回数を最小化するために、既に材料供給に際してポリマーあるいは吸着剤を付加することによって循環水中に発生した不純物を結合する。ここで大半の重要な不純物は負に帯電している。これは例えば、繊維から製紙サイクル内に移転されたフミン酸、樹脂コロイド、リグニン派生物、リグニンスルホン酸塩である。さらに、砕片紙のリサイクルによって製紙装置内に付加される陰イオン不純物も存在する。この砕片紙は通常再度分散させて製紙装置内に給入される。それによってその中に含まれた含有物質および補助剤が全て循環系内に還流する。それによって例えば、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリラート、ポリホスホネートならびにケイ酸塩が追加的に付加される。その他の陰イオン帯電した不純物としては、紙コーティングに使用され通常疎水性であるが陰イオン帯電しているラテックスが挙げられる。これらは極めて凝集し易い傾向があり、その凝集物が粘着性で白色の残留物として製紙装置内に沈着する(いわゆる白色ピッチ)。
【0003】
従来の技術において、タルクの使用によって粘着性の物質(いわゆる“粘着物”)を除去することが広範に記載されている。P.ビザ、E.ガクシュ、およびP.カイザー氏等による“タルクの使用による改善された粘着物除去”(製紙週報2002年第11/12号第759頁以降)により、少なくとも前世紀初頭には粘着性の沈着物の低減のためのタルクの作用が開示されている。殆ど全ての既知の天然および人工的粘着性物質が疎水性である。この点に関してタルクは、天然的に疎水性表面を有していて容易に粘着物表面に吸着するとともにそれを被包してより粘着性の少ないものとするため、それらの粘着物の結合に最も適している。
【0004】
さらに、米国特許第5368692号明細書には、紙材中の不純物を制御するためのベントナイト等のモンモリロナイトの適用が記載されている。さらに、ベントナイトのアルカリ処理も1つの可能性として記述されている。
【0005】
米国特許第4964955号明細書にも、紙製造に際して不純物を低減する方法が記載されている。それにおいては、(a)水溶性の陽イオン性ポリマーが(b)実質的に水溶性の粒子状基質上に着合された、ものを含んでいる粒子状の化合物が不純物を結合するために使用される。そのポリマーは充分に電気的に正である必要があり、それによって粒子状化合物が少なくとも+30mVのゼータ電位を有するものとなる。このポリマーはポリー(ジアルキルジアリルアンモニウムハロゲン化物)とされる。基質は、例えばフィロケイ酸塩鉱物とすることができる。
【0006】
同様に、欧州特許出願公開第0760406号A2明細書は、不純物結合のためのポリー(DADMAC/アクリルアミド)とベントナイトの組み合わせに関するものである。
【0007】
英国特許出願公開第2297334号明細書にも不純物制御のためのスメクタイト状粘度の適用が開示されており、そのスメクタイト状粘度は:一価交換可能な陽イオンが0.20ないし0.60の範囲の等価イオン比率で存在し;第1の種類の二価交換可能な陽イオンが0.40ないし0.80の範囲の等価イオン比率で存在し;第2の種類の二価交換可能な陽イオンが0.00ないし0.20の範囲の等価イオン比率で存在し、ここで第1の種類の二価交換可能な陽イオンがカルシウムを含み、第2の種類の二価交換可能な陽イオンはマグネシウムを含むものとすることによって改質される。
【0008】
従来の技術によって使用される不純物結合媒質の多くは極めて高価であるとともに、特定の不純物成分に対しては最適な効果が達成されない。従って、紙製造において不純物を結合するための材料が常に求められている。
【0009】
従って、本発明の目的は、簡便かつ低コストに製造可能な媒質を使用可能であるとともにそれによって高いレベルで疎水性成分を含めて不純物結合を可能にする、紙製造における改善された不純物結合方法を提供することである。
【0010】
本発明の1つの観点によれば前記の課題は請求項1によって解決される。
【0011】
本発明の枠内において意外なことに、陽イオン交換容量(CEC)中の一価の陽イオンの比率が少なくとも約0.7(すなわち70%)、CEC(総量)が少なくとも85meq/100gであるベントナイトを使用することによって、紙製造における不純物結合方法において極めて良好な不純物結合が達成されることが判明した。
【0012】
本発明の枠内において不純物とは、文献中において“粘着物”あるいは“ピッチ”すなわち主に樹脂成分として呼称されている粘着性の物質であると理解される。ここで実施例の説明に挙げられる最初の実施例が不純物を定義するものとすることができる。“ピッチ”および“粘着物”成分の詳しいリストは、例えば国際公開第01/71092号パンフレットの第1頁および第2頁に記載されており、その開示内容を本明細書中において参照に組み入れてある。
【0013】
前述したように、不純物は主に陰イオン性(負に帯電)あるいは疎水性である。その点に関して、本発明に従って使用される高いCECを備えた高活性ベントナイトが陰イオン性および疎水性の不純物の両方を極めて良好に結合してその有害な作用を中和し得ることが極めて好適である。本発明に従って使用されるベントナイトはそれ自体比較的高い負の層帯電を有し、この高い(負の)表面電荷を紙材が離層した状態で可能にする。そのため陰イオン性あるいは疎水性不純物に対してあまり良好な不純物結合が期待されない。また、カルシウムベントナイトがこの種の不純物をより良好に結合することが期待され、その理由はベントナイトの電荷の大半の部分がカルシウムイオンによって飽和し、これを例えば樹脂内の鹸化および脂肪酸によって不純物を固定化することができるためである。特に樹脂粒子等の粘着物はむしろ、多くの例えばトリグリセリド等の非極性(疎水性)成分を含んでいる。これは例えばタルクの表面等の非極性の表面上に極めて良好に結合するものである。タルクは表面電荷を有しておらず、従って従来の技術においても(疎水性)不純物の結合に最適なものとして記述されている。
【0014】
従って、多数の負電荷を有する大きな表面を備えたベントナイトを用いた方法である本発明の枠内における結果が、負極性および陰イオン性不純物の両方に対して効果的に適応することは意外であった。
【0015】
ここで記述されている特殊なベントナイトを使用する本発明に係る方法は、一般的に全ての紙あるいは厚紙製造方式に適用することができる。また、紙パルプおよび繊維懸濁物という表現も、紙製造において使用される不純物含有化合物あるいは液体を含むものである。“パルプ”および“繊維質懸濁物”という表現は当業者において一般的であり、それ以上の詳細な説明は省略する。
【0016】
本発明の好適な実施形態によれば、パルプあるいは繊維質懸濁物は(微細)砕木含有懸濁物とされる。砕木とは一般的に微細に分解された木材(微細に破砕され、殆どの場合それ以上の化学および熱処理を施されていない木材)である。この際砕木懸濁物は破砕後に直接使用するか、あるいは過酸化物漂白を行うことができ、それによっていわゆる過酸化物漂白された砕木が形成される。本発明に従って使用されるベントナイトが砕木あるいは漂白処理された砕木を含んだ紙の種類において特に良好な結果を示すことが示された。しかしながら、本発明に係る方法はその他の種類の紙においても好適に使用可能であることが理解される。すなわち、例えばパルプあるいは繊維質懸濁物が(砕木の他に)高度洗浄された繊維分を含むことができ、これは例えば新聞紙の場合に該当する。本発明はさらにいわゆる“脱インクパルプ”(DIP材料)においても極めて良好な結果をもたらす。これは古紙から製造される紙材料に関するものである。これにおいては特に雑誌あるいは新聞からの疎水性粘着物が沈着する。これも本発明に従って使用されるベントナイトによって最終製品内に良好に包合することができる。本発明に係るベントナイトを効果的に使用することができるその他の紙材料には、TMP材料(熱加工性パルプ)、硫酸塩パルプ、亜硫酸パルプ、ならびに異なったセルロースの混合物が含まれる。紙の種類および製紙工場の設置場所に応じてそれらのセルロースが異なった比率で混合され最終製品の要求性能に対応する。
【0017】
本発明の好適な実施形態によれば、紙パルプあるいは繊維質懸濁物内の好適な砕木含有率は、パルプあるいは懸濁物の総乾燥重量に対して少なくとも10重量%;特に少なくとも30重量%となる。
【0018】
本発明がその真偽に限定されるものではないが、本発明に係る方法においてベントナイトは、不純物を結合するかあるいはそれと共に交換作用が生じ、それによって例えばローラ等の製紙装置の部材上への凝固および沈着を防止するように作用すると想定される。
【0019】
本発明によれば、使用されるベントナイトが少なくとも85meq/100g、特に少なくとも90meq/100g、さらに好適には少なくとも95meq/100gの陽イオン交換容量(CEC)を有することが重要である。
【0020】
ここで“陽イオン交換容量”(CEC)とは全ての交換可能な陽イオンの合計と理解することができ、これはmVal(meq)/100gで示されるとともに後の例の前(陽イオン交換容量の判定)に記述されるようなCEC分析方法によって判定される。従って陽イオン交換容量は例えばカルシウム、マグネシウム、ナトリウム、リチウム、ならびにカリウムイオン等の全ての交換可能な二価あるいは一価の陽イオンの合計を含むものである。陽イオン交換容量を判定するために、ベントナイトを塩化アンモニウムによって処理する。ここでアンモニウムイオンのベントナイトに対する高い親和性のため、実質的に全ての交換可能な陽イオンがアンモニウムイオンによって交換される。分離および洗浄後にベントナイトの窒素含有率が判定され、それからアンモニウムイオンの含有率が算定される。
【0021】
前述したCEC中における一価陽イオンの含有率ならびにCECの最小値の要件を満たしている限り、天然ベントナイトおよび例えばカルシウムベントナイトの活性化によって得られたベントナイトのいずれをも適用することができる。ベントナイトの製造および活性化方法は当業者において既知であるためその詳細な説明は省略する。例えば、適宜なCECを有するカルシウムベントナイトを基にして、それを例えば炭酸ナトリウム等のアルカリ炭酸塩によって処理することができる。処理あるいは活性化に際して、接触の形成は当業者において知られている任意の一般的な方式で実施することができ、例えば固形物混合物の生成、層状ケイ酸塩および炭酸ナトリウムを有する懸濁物の生成、または層状ケイ酸塩への炭酸ナトリウム溶液の付加あるいは吹き付けによって実施することができる。
【0022】
例えば第1の変更例によれば、約25ないし40重量%の水分含有率を有する生ベントナイトを固形の炭酸ナトリウムと共に混錬、乾燥および破砕される。この生ベントナイトは約3cmの直径からなる塊に予め破壊される。生ベントナイトが上記の水分含有率を備えていない場合、水分を噴霧することによって調節する。
【0023】
活性化は例えば以下の手順で行われる:約30ないし35重量%の水分含有率を有する350gの生ベントナイトを混合装置(例えば、ウェルナー・フライデナー混合器(混錬器))に収容して1分間混錬する。その後混合装置を継続動作させながらベントナイトのCECとナトリウム含有量との間の差に相当する炭酸ナトリウム(ソーダ)を添加し、10分間さらに混錬する。ここで添加する分量は無水のベントナイトに対してのものである。混錬材料が良好に“剪断”されるように、必要に応じてさらに幾らかの蒸留水を添加する。その後混錬材料を小さな塊に破砕し、空気循環式乾燥庫内で約75℃の温度で2ないし4時間10±2%の水分含有率になるまで乾燥させる。次に乾燥物を回転打付け破砕機(例えば、レッチュ破砕機)内で0.12mmフィルタを使用して破砕する。ここでCECおよびナトリウムイオンの含有率は後述するように判定される。例えばソーダによるベントナイトの超過活性化も可能となり、その際ベントナイトの完全活性化のために理論上必要となるソーダよりも多くのソーダを使用することができる。
【0024】
本発明の好適な実施形態によれば、表記された一価の陽イオンの含有率はナトリウム、カリウム、およびリチウムイオン、中でも特にナトリウムイオンの含有率に対するものとなる。
【0025】
本発明の好適な実施形態によれば、使用されるベントナイトは少なくとも25ml/2g、特に少なくとも30ml/2g、さらに好適には少なくとも35ml/2gの膨潤能力を有する。そのような高い膨潤能力を有するベントナイトは極めて高い不純物結合を可能にすることが判明した。ここで膨潤容量は以下のように判定される:目盛付けされた100mlのメスシリンダに100mlの蒸留水を充填する。2.0gの計量する材料を0.1ないし0.2gずつの分量でゆっくりと水面上に付加する。材料が沈下した後次の分を付加する。付加を終えた後1時間待機し、膨潤した物質をml/2gの単位で計測する。
【0026】
さらに、CEC中の鉄イオンの含有率が約0.005(0.5%)未満であれば好適であることが判明した。この種のベントナイトが紙材の白色度の観点においてより良好な結果をもたらすことが判明した。
【0027】
別の好適な特徴によれば、ベントナイトのCEC中の一価陽イオンの比率が0.7超、さらに好適には0.8超、より好適には0.81超、特に好適には0.85超となる。また、ベントナイトのCEC中のカルシウムおよび/またはマグネシウムイオンの比率が0.2未満、特に0.18未満、さらに好適には0.15未満となる。
【0028】
本発明の別の好適な実施形態によれば、使用されるベントナイトのBET表面積(DIN第66131号に従って測定)は100m/g未満、特に90m/g未満となる。ここで意外なことに、比較的低いBET比表面積を有するベントナイトが、より高い比表面積を有するベントナイトに比べてより良好な不純物結合特性を不純物吸着に際して示すことが判明した。
【0029】
一般的に本発明に係る方法の実施に際して紙材料供給における陽イオン電荷の要求量が低下する。これが、電荷交換作用による陰イオン帯電した不純物の結合を確立する。
【0030】
紙製造に際しての不純物の濃度は通常、濾過水中における陽イオン要求量(陽イオン電荷要求量)、比濁分析、化学的酸素要求量の3工程方式によって判定される。陽イオン要求量に関して、不純物が全て負に帯電していて濾過水中において短鎖の陽イオン性高分子電解質がフィルタ除去されることを前提とする。使用量はいわゆる陽イオン要求量に換算される。比濁分析に関しては、不純物が一部コロイド状で存在し、その濃度は混濁に起因する吸光によって判定し得ることを前提とする。化学的酸素要求量は、有機化合物中において存在する酸化媒質の比率によって検査される。これらの方法は製紙業界において広く一般化しているが、新たな検査によって、濾過水中における全ての含有物質について平均が求められ、特に重要な不純物が極部分的にしか捕捉されないことが判明した。このことは例えば、部分的に疎水性化合物から合成されているいわゆる樹脂コロイドが極少ない表面電荷しか有しておらず、従って陽イオン要求量に対してわずかにしか寄与しないことからもたらされる。他方、リグニンは高い陽イオン要求量を有しており;濾過水中に存在する場合に紙製造に際して極めて少ない障害をもたらす。新たな検査によって、比濁分析とコロイド状不純物濃度との間の相関性は常に存在するものではないことが判明した。従来の不純物測定方法を使用したこの新規の事実のため、本発明に係る添加剤は、さらに新規の方法による効果の点で特徴付けられている。ここで例えば、F.オルサ氏およびB.ホルムボン氏等による“製紙工程における水および排水中の木材抽出物の簡便な判定方法”(パルプおよび紙科学ジャーナル1994年12月、第20巻、第12号、第361頁以降)に記載の方法に従った濾過水のガスクロマトグラフィ分析が使用される。砕木を含んだ紙の製造に際して、個々の樹脂成分がその濃度に関してガスクロマトグラフィ方法によって判定される。これは完全な定量分析であり、他方例えば比濁分析、陽イオン要求量および化学的酸素要求量等の一般的な測定方法は実質的に最良でも半定量分析であると評価されるものである。さらに、L.ヴェーサロ氏等(後に記載する“濾過水のフローサイトメトリ分析”)によって、製紙濾過水中のコロイド状不純物の数を判定するためにフローサイトメトリが極めて好適であることが示されている。従ってこの新規の方式が、本発明に係るベントナイトの不純物低減効果を示すためにも適用される。
【0031】
本発明に従って使用されるベントナイトのパルプまたは繊維質懸濁物への添加は紙製造工程中において当業者が必要としている任意の場所において実施することができる。ここで推奨されるのは特に直接パルプへの添加であり、その理由はそれによって紙材料への長時間の接触が可能となり、高い不純物結合可能性が達成されるためである。別の添加位置はいわゆる高濃度領域全体である。さらに考えられるものは、水浄化のための“気泡分離”のための添加である。多くの場合、それぞれ使用される紙製造装置において既に例えば配量装置あるいは配量ポンプ等の添加剤付加位置が存在しており、それを本発明に従って使用されるベントナイトを添加するために使用することができる。そのベントナイトは粉末状ならびに懸濁物あるいはスラリの形状のいずれにおいても使用することができる。懸濁物あるいはスラリは多くの場合より良好な配量性を可能にし、大量生産において継続的に実施されるプロセスにおいて容易に自動化することができる。
【0032】
さらに、本発明に従って使用されるベントナイトの効果が特定の粒子大を有している場合に極めて有効であることが示された。本発明の極めて好適な実施形態によれば、ベントナイトの粒子大は、45μmのウェットスクリーニング残留物が2重量%未満、特に1重量%未満、さらに好適には0.5重量%未満となるように選択される。ウェットスクリーニング残留物の測定方法は例の手前により詳細に記述する。好適な粒子大は光散乱法(マルバーン)によって測定することもできる。本発明の特に好適な実施形態によれば、平均粒子大(D50)(試料容量に対して)は0.5ないし10μm、特に2ないし6μm、さらに好適には3ないし5μmとなる。
【0033】
意外なことに本発明の枠内において、タルクの使用を除外した場合に本発明に従って使用されるベントナイトが極めて良好な不純物結合をもたらすことが示された。従来の技術に従ったポリ(DADMAC)あるいはポリアクリルアミド等の陽イオン性ポリマーの使用も、本発明に従って使用されるベントナイトの補助作用によって低減するかあるいは全く除外することができる。
【0034】
本発明に係る方法におけるベントナイトの使用量は、当業者において経験的な実験によって機械的に判定することができる。殆どの場合、その使用量はいずれも無水パルプ/懸濁物(乾燥重量)に対して、0.5ないし12kg/t(紙パルプあるいは繊維質セルロースに対して)となり、特に1ないし8kg/t、さらに好適には1.5ないし7kg/tとすることが有効である。
【0035】
意外なことに本発明の枠内において、本発明に係る方法は脂肪酸等の陰イオン性不純物の極めて良好な結合を可能にするばかりでなく、ステロール、ステリルエステル、およびトリグリセリド等の疎水性不純物の卓越した結合または除去を可能にする。意外なことにこの達成される結果は、従来のベントナイトによって達成される結果およびタルクによって達成される結果のいずれをも上回るものとなる。
【0036】
本発明の別の特徴は、ここに記述されているような紙製造における不純物結合のようなベントナイトの適用に関するものである。前述したように、ベントナイトはその際砕木成分を含んだ紙パルプまたは繊維質懸濁物内に付加される。全ての紙あるいはパルプの種類が本発明の適用に含まれる。上述した砕木または過酸化物処理された砕木を含んだ紙の種類が好適であり、これは、例えば新聞紙が該当するように、(砕木の他に)高度洗浄された繊維成分を含んでおり、すなわちいわゆる“脱インクパルプ”(DIP材料)、TMP(熱加工性パルプ)、硫酸塩パルプ、亜硫酸パルプ、ならびに異なったセルロースの混合物からなる。
【0037】
方法: 別途に記載がない限り、以下に記述する分析方法が使用される:
1. 陽イオン交換容量(CEC分析)および陽イオン含有率の判定
原理: 粘土を大量の水性NH−Cl溶液で処理して洗浄し、粘土上に残留したNH−量をケルダール法によって判定する。
Me(粘土)+NH ――― NH(粘土)+Me
(Me=H,K,Na,1/2Ca2+,1/2Mg2+...)
【0038】
装置: 63μmの篩;300mlのエレンマイヤーフラスコ;化学天秤;400mlの薄膜吸込フィルタ;0.15μmのセルロースナイトレートフィルタ(サートリウス社製);乾燥庫;還流冷却機;加熱板;蒸留ユニット、VAPODEST−5(ゲルハルト社製の6550番);250mlのメスフラスコ;バーナ−AAS
【0039】
化学材料:2NのNHCl溶液ネスラー試薬(メルク社製品番号9028);2%のホウ酸溶液;32%のソーダアルカリ液;0.1Nの塩酸;0.1%のNaCl溶液;0.1%のKCl溶液
【0040】
実行: 5gの粘土を63μmの篩によって篩い分けし、110℃で乾燥する。その後正確にエレンマイヤーフラスコ内において化学天秤上での差分計量によって正確に2gに秤量し、100mlの2N NHCl溶液と混合する。懸濁液を還流しながら1時間乾燥させる。強度にCaCoを含有するベントナイトにおいてはアンモニア形成が生じる。この場合NHClはアンモニア臭が確認されなくなるまで添加される。追加的なチェックは湿式の試験紙によって実施することができる。約16時間の持続時間後にNHベントナイトを薄膜吸込みフィルタによって濾過し、極めて無イオンになるまで完全な脱イオン水(約800ml)によって洗浄する。無イオンの状態の証明は、NHイオンに対して感応性のネスラー試薬によってこのNHに関して実施される。洗浄時間は粘土の種類に応じて30分ないし3日間の範囲で変化する。洗浄されたNHベントナイトをフィルタから取り出し、110℃で2時間乾燥させ、破砕し、篩い分けし(63μmの篩)、さらに再度110℃で2時間乾燥させる。その後ベントナイトのNH含有率をケルダール法に従って判定する。
【0041】
CECの算定: 粘土のCECはケルダール法によって判定されたNHベントナイトのNH含有率である(幾つかの鉱物粘土のCECについては添付資料参照)。その表記はmval/(粘土)100g(meq/100g)で行う。
例:窒素含有率=0.93%
分子重量:N=14.0067g/mol
【0042】
【数1】

【0043】
CEC=66.4meq/100g NHベントナイト
【0044】
交換された陽イオンおよびその比率:
交換によって自由化された陽イオンは洗浄水(濾過液)中に存在する。一価の陽イオン(“交換可能な陽イオン”)の比率および種類は濾過液内でDIN38406号第22部に従ってスペクトル分析によって判定された。例えば、AAS(原子吸光分光判定のために洗浄液(濾過液)が適しており、250mlのメスフラスコ内に移転して計測指標まで完全脱イオン水を充填する。FAASに適した測定要件は次の表に示されている。
【0045】
【表1】

【0046】
【表2】

【0047】
陽イオンの算定
【0048】
【数2】

【0049】
モル質量(g/mol):Ca=20.040;K=39.096;Li=6.94;Mg=12.156;Na=22.990;Al=8.994;Fe=18.616
【0050】
いわゆる過剰活性化されたベントナイト、すなわち理論数値よりも大きな量のソーダによって活性化されたベントナイトにおいて、判定された一価陽イオンの合計が前述した特定のCECを上回るものとなり得る。そのような場合一価陽イオン(Li,K,Na)の層含有量はCECの100%に相当すると見ることができる。
【0051】
次に、以下に記述する非限定的な例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0052】
2. BET表面積の判定:
この判定はDIN66131号に従って実施される(多点判定)。
【0053】
3. ウェットスクリーニング残留物の判定:
色素および充填材の使用に際して、検査される材料が存在するか、ならびに通常の粒子と粒子大が異なっている粗目成分がどれくらいの比率で含まれるかが重要である。この比率は、洗浄液として水を使用して水性の懸濁物を篩い分けることによって判定される。ウェットスクリーニング篩残留物としては、固定的な条件で判定された残留物が該当する。
【0054】
装置:化学天秤、プラスチック容器、ペンドラウリック社LD50;篩:200mm直径、メッシュ幅0.025(25μm)、0.045mm(45μm)、0.053mm(53μm)、または0.063(63μm);超音波槽
【0055】
まず、2000gの水中における5%のベントナイト懸濁物(釜乾燥、すなわち110℃での乾燥後)を生成した。そのためベントナイトを930UpMで約5分攪拌する。さらに1865UpMで15分間の攪拌した後懸濁物を清潔かつ乾燥した篩(45μmのメッシュ幅)に注入し、流れている水道水によって叩きながら洗浄水が透明になるまで洗浄する。篩残留物を水道水で洗浄した後篩を5分間超音波槽内に曝し、それによって微細成分を篩い分ける。ここで、篩を超音波槽内に曝す際に水面と篩底部の間に空気が滞留しないように留意すべきである。超音波処理の後にもう一度水道水で短時間後洗浄する。その後篩を取り出して超音波槽内の水を交換する。この超音波槽内における工程は、水中の汚濁が全く確認されなくなるまで繰り返す。篩を残留物と共に空気循環式乾燥庫内で重量が一定(釜乾燥)になるまで乾燥させる。冷却後に刷毛を用いて残留物をシャーレ内に移転する。
【0056】
評価:出力重量に対しての(%)であるウェットスクリーニング残留物(NSR)
【0057】
4. マルバーンに従った粒子大判定:
これは一般的な方法である。英国マルバーンインスツルーメント社のマスタサイザを製造者の指示に従って使用する。測定は所与の試料チャンバ(“乾燥粉末供給器”)を使用して空気中で実施し、試料容量に対しての値が求められた。
【0058】
5. 不純物結合検査:
不純物結合の検査は以下のように実施される:
【0059】
a) 紙材料の製造および濾過:
選択された紙材料(例えば、45%のセルロースおよび55%の過酸化物漂白された砕木)は直接製紙工場から入手するか、あるいは使用前に冷蔵庫に貯蔵することができる。紙材料はよく振って完全乾燥状態で20gを2000mlのガラスシャーレ内で温かい脱イオン水によって2%に希釈した。400UpMで攪拌する一方、紙材試料を加熱板によって40℃に加熱した。その温度に到達したら、パスツールピペットを使用して検査する量の吸着剤を前記の紙材試料に添加する。続いて、試料内における吸着時間を40℃で30分に設定し、混合物を400UpMで攪拌する。その後紙材試料は、吸着剤と合わせて1%の固形分含有率となるように脱イオン水(40℃)によって希釈する。
【0060】
濾過水を生成するためにこの希釈された試料(1重量%の固形分)を脱水および固化装置内(ドイツ国ミューテック社製のミューテックDF3 03)で420秒間脱水する(170μmの篩、700UpMの攪拌速度)。この濾過水試料を分析検査する。
【0061】
b) 濾過水のフローサイトメトリ分析:
ここでは、L.ヴェーサロ氏等による2003年2月の製紙技術第44巻(1)第45頁の“濾過水のフローサイトメトリ分析”に記載され、また2002年8月26−29日のアボ/フィンランドにおける第7回欧州リグノセルロースおよびパルプワークショップの“過酸化物漂白された機械加工パルプ懸濁物におけるpHと塩化カルシウムの作用”によって補完されているように、いわゆるフローサイトメトリが使用される。簡単に言うとここで、蛍光マーキングされた粒子を数えるために光分散方法を伴う。
【0062】
c) 濾過水のガスクロマトグラフィ分析:
ここでF.オルサ氏およびB.ホルムボン氏等による“製紙工程における水および排水中の木材抽出物の簡便な判定方法”(パルプおよび紙科学ジャーナル1994年12月、第20巻、第12号、第361頁以降)の方法が使用される。
【0063】
次に、以下に記述する非限定的な例によって本発明をさらに詳細に説明する。
【0064】
例1:
以下の材料を不純物結合のために検査した。
1. カルシウムベントナイト(ベントナイト1)
使用されるカルシウムベントナイトの分析データは表1にまとめられている。含有率およびCECは表2に示されている。
【0065】
【表3】

【0066】
ウェットスクリーニング残留物(45μm)は0.5重量%未満であった。
【0067】
【表4】

【0068】
2. 陽イオン化されたタルク(タルク・ド・ルゼナック社製の製品マルシル75−7K)
【0069】
3. 本発明に係るベントナイト(ベントナイト2)
ベントナイト2は、この方法においてベントナイト1を無水のベントナイトに対して5重量%のソーダと共に混錬し、10重量%の水分含有率になるまで乾燥し、続いてベントナイト1(表2参照)と同様な粒子大に破砕することによって、ベントナイト1から得られた。この加工ステップにより鉱物組成データは変更されず、従ってモンモリロナイトおよび付随鉱物の含有率は変化しないで保持される。BET表面積は85±2m/gであった。
【0070】
ベントナイト2の分析データは図3に示されている。
【0071】
【表5】

【0072】
両方のベントナイト1および2の不純物結合を方法部分に記載したように検査した。濾過試験を実施するために、製紙装置から取り出され45%の長繊維セルロースならびに55%の過酸化物漂白された砕木からなる紙材料を使用した。
【0073】
比較のためにいずれの場合も“空試験”を実施し、すなわちこれは不純物結合のための吸着剤を全く使用しないものであった。
【0074】
濾過液を特徴付けるために、不純物削減の観点から前述したフローサイトメトリを使用した。その結果は図1に示されている。ここで使用される吸着剤(ベントナイトまたはタルク)の量が濾過液中の不純物濃度に対して示されている。それによって、本発明に係るベントナイト2が紙パルプ/懸濁物の乾燥材1tに対して3kgの僅かな使用量で既にベントナイト1あるいはタルクに比べて大幅に良好な不純物結合を達成することが示されている。
【0075】
ガスクロマトグラフィ分析(方法欄参照)によって、該当する試料に対して脂肪酸、リグニン、ステロール、ステリルエステル、ならびにトリグリセリドの含有率が判定された。ベントナイト1および2はいずれも6kg/(紙)t(乾燥重量)で使用され;陽イオン化されたタルクは11.25kg/(紙)tで使用されたが、これは6kg/tでは良好な結果を示さなかったためである。得られた数値は表4に示されている。
【0076】
【表6】

【0077】
図4に示されているように、本発明に係るベントナイト2によって処理された試料は陽イオン化されたタルクによって処理された試料および本発明に係るものではないカルシウムベントナイト(ベントナイト1)によって処理された試料のいずれに比べても大幅に良好な脂肪酸、リグニン、ステロール、ステリルエステル、ならびにトリグリセリドの結合/除去効果を示すものなる。
【0078】
別の例において本発明に係るベントナイトを、CECに対する一価の陽イオンの比率が少なくとも0.7(70%)であるもののCECは85meq/100gより小さいものとなる従来のベントナイトと比較した。
【0079】
ここでも再び本発明に係るベントナイトは従来のベントナイトに比べてより少ない使用量で著しく良好な不純物結合を示した。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】使用される吸着剤(ベントナイトあるいはタルク)の種類および量と濾過水中の不純物粒子濃度との間の相関性を示した説明図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)ベントナイトの陽イオン交換容量(CEC)中の一価の陽イオンの比率が少なくとも約0.7(すなわち70%)、陽イオン交換容量(CEC)が85meq/100g超、特に90meq/100g超、さらに好適には95meq/100g超であるベントナイトを生成し;
(b) (a)のベントナイトを紙パルプあるいは繊維質懸濁物に添加し;
(c)パルプあるいは繊維質懸濁物中において不純物をベントナイトに結合する、
各ステップからなる紙製造における不純物結合方法。
【請求項2】
ベントナイトのCEC中の一価陽イオンの比率が0.7超、さらに好適には0.8超、特に好適には0.85超となることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
ベントナイトのCEC中のカルシウムおよび/またはマグネシウムイオンの比率が0.2未満、特に0.18未満、さらに好適には0.15未満となることを特徴とする請求項1または2記載の方法。
【請求項4】
45μmのウェットスクリーニング残留物が2重量%未満、特に1重量%未満、さらに好適には0.5重量%未満となるようにベントナイトの粒子大を選択することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
一価の陽イオンがナトリウム、カリウム、および/またはリチウムであり、特にナトリウムであることを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ベントナイトが0.5ないし10μm、特に2ないし6μm、さらに好適には3ないし5μmの平均粒子大(D50、容量に関して)を有する粒子形状で存在することを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ベントナイトの添加はタルクの不在下で行うことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ベントナイトは少なくとも25ml/2g、特に少なくとも30ml/2g、さらに好適には少なくとも35ml/2gの膨潤能力を有することを特徴とする請求項1ないし7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
ベントナイトはCECに対して好適には約0.005未満の比率で鉄イオンを有することを特徴とする請求項1ないし8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
ベントナイトが100m/g未満、特に90m/g未満のBET表面積を有することを特徴とする請求項1ないし9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
パルプあるいは繊維質懸濁物のトン当たり(乾燥重量)で約0.5ないし10kgのベントナイト、特にパルプあるいは繊維質懸濁物のトン当たりで1ないし7kgのベントナイトを添加することを特徴とする請求項1ないし10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
パルプあるいは繊維質懸濁物が砕木を含有することを特徴とする請求項1ないし11のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
紙パルプあるいは繊維質懸濁物内の砕木含有率は、パルプあるいは懸濁物の総量(乾燥重量)に対して少なくとも10重量%;特に少なくとも30重量%となることを特徴とする請求項1ないし12のいずれかに記載の方法。
【請求項14】
紙パルプあるいは繊維質懸濁物に対して追加的なタルクの添加を実施しないことを特徴とする請求項1ないし13のいずれかに記載の方法。
【請求項15】
請求項1(a)によって定義されたベントナイトの紙製造への適用方法。
【請求項16】
砕木を含んだ紙パルプあるいは繊維質懸濁物内に適用することを特徴とする請求項1ないし15のいずれかに記載の適用方法。
【請求項17】
追加的なタルクの使用を伴わずに適用することを特徴とする請求項15または16記載の適用方法。
【請求項18】
高分子電解質あるいはタルク等の別の不純物除去媒質の部分代替あるいは完全代替とする請求項15ないし17のいずれかに記載の適用方法。

【図1】
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【公表番号】特表2008−524451(P2008−524451A)
【公表日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−545875(P2007−545875)
【出願日】平成17年11月30日(2005.11.30)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012775
【国際公開番号】WO2006/063682
【国際公開日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【出願人】(591056237)ジュート−ヒェミー アクチェンゲゼルシャフト (33)
【氏名又は名称原語表記】Sued−Chemie AG
【住所又は居所原語表記】Lenbachplatz 6, D−80333 Muenchen,Germany
【Fターム(参考)】